説明

真空蒸着装置、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法及び有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】搬送される基板に対して、ホスト材料とゲスト材料とを同時蒸着させる蒸着装置において、微量のゲスト材料を蒸着させる場合であっても精度良く成膜を行う。
【解決手段】搬送される基板100に対して薄膜を形成する真空蒸着装置200であって、基板100に対向して搬送方向Aに直交する幅方向に延在し、第1蒸着材料を放出する第1蒸着源203と、基板100に対向して搬送方向Aに直交する幅方向に延在し、第1蒸着源203に対して搬送方向Aにずれて配置され、第1蒸着材料に重なり合うように第2蒸着材料を放出する第2蒸着源204と、搬送方向Aに沿って配列された複数の羽板部材207aと、を備え、複数の羽板部材207aは、放出された第2蒸着材料の進行方向に対して傾斜し、且つ、放出された第1蒸着材料の進行方向に対して平行となるように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法及び有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
発光型の電子ディスプレイデバイスとして、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(以下、ELDと略記する)がある。ELDの構成要素としては、無機エレクトロルミネッセンス素子(以下、無機EL素子という)や有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)が挙げられる。
【0003】
有機EL素子は、発光する化合物を含有する発光層を、陰極と陽極で挟んだ構成を有し、発光層に電子及び正孔を注入して、再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・燐光)を利用して発光する素子である。有機EL素子は、数V〜数十V程度の電圧で発光が可能であり、更に自己発光型であるために視野角に富み、視認性が高く、薄膜型の完全固体素子であるために省スペース、携帯性等の観点から注目されている。
【0004】
また、有機EL素子は、従来実用に供されてきた主要な光源、例えば、発光ダイオードや冷陰極管と異なり、面光源であることも大きな特徴である。この特性を有効に活用できる用途として、照明用光源や様々なディスプレイのバックライトがある。特に近年、需要の増加が著しい液晶フルカラーディスプレイのバックライトとして用いることも好適である。
【0005】
有機EL素子をこのような照明用光源、あるいはディスプレイのバックライトとして実用する為の課題として発光効率の向上が挙げられる。発光効率の向上の為には、有機EL素子を構成する有機機能層の一部においてそれぞれ別個の機能を有する材料を複数混合して構成する所謂ホスト/ゲスト構造を組み入れることが一般的となりつつある。例えば、発光層におけるホスト材料/発光ドーパント(赤色ドーパント、緑色ドーパント、青色ドーパント)の組み合わせ、電子輸送層における電子輸送材料/アルカリ金属材料の組み合わせ等が挙げられる。
【0006】
発光層内に、赤色ドーパント、緑色ドーパント及び青色ドーパントが共存する場合、赤色ドーパント、緑色ドーパント、青色ドーパントの順で発光する。つまり、始めに赤色ドーパントや緑色ドーパントのみが発光し、青色ドーパントが共存していても青色ドーパントは赤色ドーパントや緑色ドーパントと同時には発光しない。そこで、赤色ドーパントや緑色ドーパントを青色ドーパントよりも低濃度にして、赤色ドーパントと緑色ドーパントを青色ドーパントと同時に発光させることが知られている。
しかしながら、赤色ドーパント、緑色ドーパントを低濃度とすると、小さな濃度バラツキも色度バラツキ(色ムラ)に繋がるという問題がある。そこで、色ムラを少なくするために、低濃度ドーパントの濃度均一性が重要となる。これに対して、青色ドーパントは、赤色ドーパントや緑色ドーパントに比べて濃度が数十%であるため、濃度バラツキの影響を受けにくくなっている。
【0007】
ところで、基板に対してホスト材料とゲスト材料とを同時蒸着させる蒸着装置において、ゲスト材料のドープ量を制御する場合には、蒸着材料の蒸着速度をコントロールすることにより行うのが一般的である。具体的には、蒸着源の温度制御を行うことにより、蒸着材料が蒸発する量を制御し、これにより蒸着速度をコントロールする。
しかし、ドープするゲスト材料が微量である場合、蒸着材料を測定する測定手段に測定限界があること、温度制御により蒸着材料の放出量を微量に保つことは困難であること、等の問題から、蒸着源から放出される蒸着材料の放出量を微量にすることは困難である。一方、搬送される基板に対して成膜を行う場合、基板の搬送速度を大きくすればゲスト材料の蒸着量を低減させることができるが、ホスト材料の耐熱温度の上限の問題からホスト材料の蒸着速度を向上させることはできず、搬送される基板に対して必要量のホスト材料を蒸着させることができない。
【0008】
これに対し、ゲスト材料のドープ量を低減させる方法として、ゲスト材料を収容した坩堝を蒸着源とし、その蒸着源と基板との間に取り付けられた回転式遮蔽板を回転させて、蒸着源から放出されたゲスト材料が基板に到達するまでの経路を所定のタイミングで遮ることにより、ゲスト材料の基板への蒸着量を低減することが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−193217号公報
【特許文献2】特開2009−127074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来の技術では、搬送される基板に対して搬送中に成膜を行うこととすると、基板の搬送方向に直行する幅方向におけるゲスト材料の蒸着量を制御することができず、基板の搬送方向に直行する幅方向において基板の品質にバラツキが生じる。
【0011】
そこで、本発明は、搬送される基板に対して、微量のゲスト材料を蒸着させる場合であっても精度良く成膜を行うことができる真空蒸着装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上の課題を解決するため、本発明の一態様によれば、
真空処理室内において、搬送される基板に対して蒸着材料を蒸着させて薄膜を形成する真空蒸着装置であって、
前記基板に対向して前記基板の搬送方向に直交する幅方向に延在し、前記基板に向けて第1蒸着材料を放出する第1蒸着源と、
前記基板に対向して前記搬送方向に直交する幅方向に延在し、前記第1蒸着源に対して前記搬送方向にずれて配置され、前記第1蒸着源から放出された前記第1蒸着材料に重なり合うように前記基板に向けて第2蒸着材料を放出する第2蒸着源と、
前記基板と前記第1及び前記第2蒸着源との間に設けられ、前記搬送方向に沿って配列された複数の羽板部材と、を備え、
前記複数の羽板部材は、前記第2蒸着源から放出された前記第2蒸着材料の進行方向に対して傾斜し、且つ、前記第1蒸着源から放出された前記第1蒸着材料の進行方向に対して平行となるように設けられていることを特徴とする真空蒸着装置が提供される。
【0013】
本発明の他の態様によれば、
上記真空蒸着装置を用いて、
前記基板上に薄膜を形成することにより有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の更に他の態様によれば、
上記有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法により製造されたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、搬送される基板に対して、微量のゲスト材料を精度良く蒸着させて成膜を行うことができる。したがって、基板の搬送方向において、基板に蒸着されるゲスト材料の蒸着量を均一にすることができ、品質のバラツキの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る真空蒸着装置の概略図である。
【図2】図1に示す真空蒸着装置における羽板部材を説明する図である。
【図3】図1に示されたIII-III線に沿った面の矢視断面図であって、真空蒸着装置に設けられた脱着装置を模式的に示した図である。
【図4】脱着装置の一部を示した概略斜視図である。
【図5】図1に示す真空蒸着装置における羽板部材の他の例を説明する図である。
【図6】変形例の真空蒸着装置の概略図である。
【図7】図6に示す変形例の真空蒸着装置における羽板部材を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0018】
本発明に係る真空蒸着装置200は、有機EL素子の各層を形成する際に用いられる装置であり、特に、有機EL素子の発光層を形成する場合に好適に用いられる。この真空蒸着装置200について、図1〜図5を参照して以下説明する。
【0019】
図1は、本発明を適用した一実施形態の真空蒸着装置200の概略構成図である。
真空蒸着装置200は、搬送される基板100に対して二以上の蒸着材料(例えば、ホスト化合物とゲスト化合物)を同時に蒸着させて薄膜(例えば、有機EL素子の発光層)を形成することができる真空蒸着装置である。
真空蒸着装置200は、内部に真空処理室201が形成された真空容器202と、基板100に対してホスト化合物(第1蒸着材料)を放出する第1蒸着源203と、基板100に対してゲスト化合物(第2蒸着材料)を放出する第2蒸着源204と、真空処理室201内に放出された蒸着材料が拡散する領域を制限し、それらの蒸着材料が重なり合う領域を調整する仕切板(制限部)205と、基板100上に堆積される蒸着材料の堆積量(膜厚)及びその蒸着速度を測定する膜厚計206と、蒸着材料の堆積量を調整するための蒸気分離ユニット207と、蒸気分離ユニット207を脱着する脱着装置230と、基板100を水平方向に搬送する基板搬送手段(図示略)と、を備えている。
【0020】
基板100は、搬送手段(図示略)によって搬送方向A(図1参照)に搬送されながら、真空蒸着装置200により成膜処理が施される被処理基板である。基板100は、図1に示すように、枚葉基板であって、基板搬送手段により間欠的に真空処理室201内に搬入される。
なお、基板100は、長尺ロールから搬送方向Aに向けて連続的に巻き出される基板であって、基板搬送手段により連続的に真空処理室201内に搬入されるものであっても良い。
【0021】
真空容器202は、内部に形成された真空処理室201を所定の真空状態に保持する。真空処理室201には、第1蒸着源203、第2蒸着源204、膜厚計206、仕切板205及び蒸気分離ユニット207等の各部材が設けられている。また、真空容器202の側壁210には、基板100を搬入する搬入部224が設けられ、真空容器202の側壁211には、基板100を搬出する搬出部225及び真空処理室201内を真空排気する排気口226が設けられている。排気口226は、真空容器202の外部に設けられた真空ポンプ(図示略)等の所定の真空排気手段に接続されている。
【0022】
第1蒸着源203は、搬送される基板100の下面に対向して、搬送方向Aに直交する幅方向(図1の奥行き方向)に延在する直線状の蒸着源(ラインソース)である。第1蒸着源203の基板100に対向する面には、第1蒸着源203の延在方向に配列された複数の放出口203aが設けられている。また、第1蒸着源203は、ホスト化合物が収容された加熱ボートを具備し、放出口203aから基板100に向けてホスト化合物の蒸気(第1蒸着材料)を放出する。放出口203aから放出されるホスト化合物の蒸気は所定の広がりをもって真空処理室201内に拡散する。
【0023】
第2蒸着源204は、搬送される基板100の下面に対向して、搬送方向Aに直交する幅方向(図1の奥行き方向)に延在する直線状の蒸着源(ラインソース)であって、第1蒸着源203に対して搬送方向Aの下流側にずれて配置されている。第2蒸着源204の基板100に対向する面には、第2蒸着源204の延在方向に配列された複数の放出口204aが設けられている。第2蒸着源204の放出口204aは、第1蒸着源203の放出口203aが向いた方向に対して、基板100の表面近傍で交差する方向を向いて配置されている。第2蒸着源204は、ゲスト化合物が収容された加熱ボートを具備し、放出口204aからゲスト化合物の蒸気(第2蒸着材料)を放出する。放出口204aから放出されるゲスト化合物の蒸気は所定の広がりをもって真空処理室201内に拡散する。このゲスト化合物の蒸気は、基板100の表面近傍において、第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気に重なり合う。
【0024】
なお、第1蒸着源203及び第2蒸着源204は、基板100に対向して搬送方向Aに直交する幅方向に延在する直線状の単一の蒸着源(ラインソース)としたが、当該方向に複数配列された点蒸着源(ポイントソース)からなるものであっても良い。また、第1蒸着源203の複数の放出口203a及び第2蒸着源204の複数の放出口204aは、第1蒸着源203又は第2蒸着源204の延在方向に配列された複数の放出口としたが、当該方向に沿って一直線に延びる単一の放出口であってもよい。
また、第1蒸着源203に収容されるホスト化合物及び第2蒸着源204に収容されるゲスト化合物としては、有機EL素子の発光層の材料として用いられる公知のホスト化合物及びゲスト化合物(発光ドーパント)を用いることができる。
【0025】
また、第1蒸着源203及び第2蒸着源204は、蒸着材料が収容された加熱ボートを具備するものとして説明したが、一例であってこれに限られるものではなく、蒸着材料を加熱する加熱手段と、蒸着材料の蒸気を放出する蒸気放出チャンバーとが別体として設けられる構成であっても良い。具体的には、加熱手段と蒸気放出チャンバーとが導入配管を介して連結されており、加熱手段による加熱によって発生した蒸着材料の蒸気が導入配管を介して蒸気放出チャンバーに流入し、蒸気放出チャンバーから蒸着材料の蒸気が放出されるよう構成されている。この場合、本実施形態の第1蒸着源203及び第2蒸着源204が蒸気放出チャンバーに相当し、加熱手段が別体として設けられていることとなる。
【0026】
仕切板205は、第1蒸着源203又は第2蒸着源204から所定の広がりをもって放出されるホスト化合物又はゲスト化合物の蒸気を所定領域に制限するために設けられる平板状の仕切部材である。
仕切板205aは、真空容器202の側壁210から真空処理室201側に延出して設けられ、その先端部分が第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気の広がりを制限している。また、仕切板205bは、真空容器202の下面212から上方に延出して設けられ、その先端部分が第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気の広がりを制限している。これら仕切板205a,205bにより、第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気の広がりが拡散領域L1(図1参照)に制限されている。
仕切板205cは、真空容器202の側壁211から真空処理室201側に延出して設けられ、その先端部分が第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気の広がりを制限している。また、仕切板205dは、真空容器202の下面212から上方に延出して設けられ、その先端部分が第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気の広がりを制限している。したがって、仕切板205c,205dにより、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気の広がりが拡散領域L2(図1参照)に制限されている。この拡散領域L1と拡散領域L2が基板100の近傍で重なり合っている。
また、仕切板205e,205fは、それぞれ真空容器202の側壁210,211から真空処理室201側に延出して設けられ、基板100と蒸気分離ユニット207との間に配置されている。これら仕切板205e,205fは、第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気の拡散領域L1と第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気の拡散領域L2が混合する領域を制限している。
【0027】
なお、仕切板205a〜205fは、可動式に構成されていても良く、その場合には、拡散領域L1,L2が調整可能となる。
また、仕切板205a〜205fは、板状の部材として説明したが、これに限られるものではなく、蒸着材料の拡散領域を制限することができる形状であれば如何なる形状であっても良い。
【0028】
膜厚計206は、第1蒸着源203及び第2蒸着源204の近傍にそれぞれ設けられ、各蒸着源により形成された薄膜の膜厚及び蒸着速度をそれぞれ独立して測定する。第1膜厚計206aは、第1蒸着源203の近傍であって、拡散領域L1に重ならない位置に設けられている。また、第2膜厚計206bは、第2蒸着源204の近傍であって、拡散領域L2に重ならない位置に設けられている。これらの膜厚計206a,206bとして、例えば、水晶振動子方式の膜厚計が好適に用いられる。
【0029】
ここで、図2を参照して蒸気分離ユニット207について説明する。図2(a)は、所定の進行方向で進行する蒸着材料に対する蒸気分離ユニット207の構成を模式的に示した図であり、図2(b)は、蒸気分離ユニット207の一部を拡大した図であって、蒸着材料の通過の可否を説明する図である。図2(b)において、蒸気分離ユニット207が蒸着材料を通過させる場合には「○」、蒸気分離ユニット207が蒸着材料を通過させない場合には「×」を示している。
【0030】
蒸気分離ユニット207は、基板100と第1蒸着源203及び第2蒸着源204との間に脱着可能に設けられ、放出されるホスト化合物の拡散領域L1及びゲスト化合物の拡散領域L2に重なる位置に配置されている。この蒸気分離ユニット207は、第1蒸着源203や第2蒸着源204の延在方向(搬送方向Aに直交する方向)と略同一方向に延在する複数の羽板部材207aから構成され、これら複数の羽板部材207aは搬送方向Aに沿って配列されている。
【0031】
複数の羽板部材207aは、図2(a)に示すように、それぞれ第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気の進行方向に対して平行となる向きに配置されている。ここで、第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気は、拡散領域L1で広がりをもって進行するため、蒸気分離ユニット207に進入する位置によってその進行方向が異なる。複数の羽板部材207aは、その各進行方向に応じてそれぞれ平行となる向きに配置されている。ここで、本発明における「平行」とは、ホスト化合物の蒸気の進行方向に対して厳密に平行である場合のみならず、ホスト化合物の進行方向に対し多少の角度のずれが存在する場合をも含むものとである。
【0032】
図2(b)に示すように、第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気は、例えば、所定の経路Ra1〜Ra4から蒸気分離ユニット207に進入する。蒸気分離ユニット207を構成する羽板部材207aは、第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の進行方向に対して平行となる向きで配置されているため、その進行方向から見て、隣り合う羽板部材207a同士の間には隙間W1が形成されている(図2(b)参照)。所定の進行方向で経路Ra1〜Ra4から蒸気分離ユニット207に進入するホスト化合物の蒸気は、何れも隙間W1を通って蒸気分離ユニット207を通過し、基板100に到達する。
【0033】
また、複数の羽板部材207aは、図2(a)に示すように、それぞれ第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気の進行方向に対して傾斜する向きに配置されている。ここで、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気は、広がりをもって進行するため、蒸気分離ユニット207に進入する位置によってその進行方向が異なる。複数の羽板部材207aは、その各進行方向に応じてそれぞれ傾斜する向きに配置されている。
【0034】
更に、複数の羽板部材207aは、ゲスト化合物の蒸気の進行方向から見て、互いに重なり合わないように配置されている。言い換えると、複数の羽板部材207aは、ゲスト化合物の蒸気の進行方向から見て、隣り合う羽板部材207a同士の間に隙間W2が形成されるように配置されている(図2(b)参照)。隙間W2は、隙間W1に比べて小さくなっている。
図2(b)に示すように、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気は、例えば、所定の経路Rb1〜Rb6から蒸気分離ユニット207に進入する。この場合、経路Rb3,Rb4から進入するゲスト化合物の蒸気は、隙間W2を通って蒸気分離ユニット207を通過するが、経路Rb1,Rb2,Rb5,Rb6から進入するゲスト化合物の蒸気は、羽板部材207aに遮られて蒸気分離ユニット207を通過しない。つまり、蒸気分離ユニット207は、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物のうちの一部を遮蔽し、一部を通過させて、基板100にゲスト化合物を微量に蒸着させることができる。
【0035】
したがって、蒸気分離ユニット207は、第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の大部分を基板100に蒸着させ、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の一部を基板100に蒸着させることができる。
なお、蒸気分離ユニット207は、基板の搬送方向Aにおいて、羽板部材207aの大きさや羽板部材207a同士の間の距離が異なるものとなるようにして構成されるものであっても良い。蒸気分離ユニット207がこのように構成されている場合、真空蒸着装置200は、基板100の搬送方向Aに濃度勾配を持たせた薄膜を形成することが可能となる。
【0036】
ここで、脱着装置230について、図1、図3及び図4を参照して説明する。図3は、図1におけるIII-III線に沿った面の矢視断面図であり、図4は、脱着装置230の一部及び蒸気分離ユニット207を示した概略斜視図である。なお、図3においては、脱着装置230及び蒸気分離ユニット207以外の装置構成を省略して示している。
脱着装置230は、蒸気分離ユニット207を脱着する装置である。脱着装置230は、定期的に、真空処理室201内に取り付けられた蒸気分離ユニット207を、未使用の蒸気分離ユニット207に交換する作業を行う。
【0037】
図3に示すように、脱着装置230は、シリンダ231、ステージ232、押し上げピン235及び搬送ロボット236等から構成されている。
シリンダ231は、真空容器202の外壁に設けられ、シリンダ231の一部は真空容器202の外壁を貫通して真空処理室201内に設けられている。シリンダ231の先端には枠状のステージ232が設けられ、ステージ232は、基板100の搬送方向Aに直行する方向Eに延在する2本のステージユニット233,234に支持されている。このステージ232には蒸気分離ユニット207を載置可能であり、ステージ232の上面には、載置された蒸気分離ユニット207を固定するための突起部232a(図4参照)が設けられている。また、図4に示すように、ステージ232は枠状に形成されているため、上下方向に貫通する開口部232bが形成されている。ステージ232は、シリンダ231の動作によって方向Eにスライドして移動可能であり、基板100に対向する位置(運用位置)と、退避位置Fとを相互に移動可能となっている(図3及び図4参照)。なお、図3及び図4では、ステージ232が運用位置に配置されている状態を示している。
【0038】
退避位置Fには、ステージ232上に載置された蒸気分離ユニット207を下方から押し上げる4つの押し上げピン235が設けられている。押し上げピン235は、退避位置Fにおいて、上下移動可能に構成され、ステージ232の開口部232bを介して蒸気分離ユニット207を上方へ押し上げる。
また、搬送ロボット236は、基板搬送室238に設置されている。図3に示すように、基板搬送室238は、ゲート237を介して真空処理室201に連通している。
更に、図3に示すように、基板搬送室238には、格納室241がゲート240を介して連通し、格納室241内にはストッカ239が設けられている。ストッカ239には、蒸気分離ユニット207が上下方向に多段に収容されている。
【0039】
このような脱着装置230を用いて、蒸気分離ユニット207の交換作業を行う際には、まず、シリンダ231により蒸気分離ユニット207を載せたステージ232を退避位置Fに移動させ、押し上げピン235を上方に移動させる。押し上げピン235は、枠状に形成されたステージ232の開口部232bを通過して蒸気分離ユニット207を上方に押し上げる。この押し上げピン235を更に上方に移動させることで、蒸気分離ユニット207は押し上げピン235に支持された状態となる。搬送ロボット236は、押し上げピン235に支持された蒸気分離ユニット207を格納室241に搬送し、ストッカ239内に収容する。続けて、搬送ロボット236は、ストッカ239内に収容された未使用の蒸気分離ユニット207を、当該格納室241から真空処理室201内に搬送し、押し上げピン235の上に載置する。そして、押し上げピン235が下方に移動し、ステージ232よりも下方まで移動すると、押し上げピン235に支持された蒸気分離ユニット207がステージ232上に載置され、突起部232bにより固定される。シリンダ231は、蒸気分離ユニット207を載せたステージ232を運用位置に移動させて、固定する。これにより、蒸気分離ユニット207の交換作業が終了する。
なお、上記した脱着装置230の構成は、一例であってこれに限られるものではなく、蒸気分離ユニット207を交換可能に構成された装置であれば何れの構成であっても良い。
【0040】
以上のように構成された真空蒸着装置200は、蒸気分離ユニット207の代わりに、以下のように構成される蒸気分離ユニット208を備えていても良い。この蒸気分離ユニット208について、図5を参照して説明する。図5(a)は、所定の進行方向で進行する蒸着材料に対する蒸気分離ユニット208の構成を模式的に示した図であり、図5(b)は、蒸気分離ユニット208の一部を拡大した図であって、蒸着材料の通過の可否を説明する図である。図5(b)において、蒸気分離ユニット208が蒸着材料を通過させる場合には「○」、蒸気分離ユニット208が蒸着材料を通過させない場合には「×」を示している。
【0041】
蒸気分離ユニット208は、蒸気分離ユニット207と同様、基板100と第1蒸着源203及び第2蒸着源204との間に脱着可能に設けられ、放出されるホスト化合物の拡散領域L1及びゲスト化合物の拡散領域L2に重なる位置に配置されている。
この蒸気分離ユニット208は、第1蒸着源203や第2蒸着源204の延在方向(方向E)と略同一方向に延在する複数の羽板部材208aから構成され、これら複数の羽板部材208aは搬送方向Aに沿って配列されている。複数の羽板部材208aは、それぞれ、第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気の進行方向に対して平行となる向きに配置され、且つ、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気の進行方向に対して傾斜する向きに配置されている。
【0042】
図5(b)に示すように、第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気は、例えば、経路Rc1〜Rc4から蒸気分離ユニット208に進入する。複数の羽板部材208aは、第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気の進行方向に対して平行となる向きで配置されているため、その進行方向から見て、隣り合う羽板部材208aの間には隙間W3が形成されている。所定の進行方向で経路Rc1〜Rc4から蒸気分離ユニット208に進入するホスト化合物の蒸気は、何れも隙間W3を通って蒸気分離ユニット208を通過し、基板100に到達する。
【0043】
また、図5(b)に示すように、複数の羽板部材208aには、それぞれ厚さ方向に貫通する貫通孔208bが形成されている。この貫通孔208bは、一つの羽板部材208aに対して複数設けられていても良いし、一つの羽板部材208aに対して一つずつ設けられていても良い。また、貫通孔208bの形状は、例えば、円形状に形成されていても良いし、羽板部材208aの延在方向に延びるスリット状に形成されていても良い。更に、貫通孔208bの大きさは、ゲスト化合物の蒸着量や真空蒸着装置の構成等に応じて適宜変更可能である。
そして、複数の羽板部材208aは、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の進行方向から見て、互いに重なり合うように配置されており、隣り合う羽板部材208a同士の間には隙間は形成されていない。また、各貫通孔208bは、当該ゲスト化合物の進行方向から見て、隣り合う羽板部材208aに重なり合わないように配置されており、当該方向から見て貫通孔208b部分に隙間W4が形成されている。
【0044】
図5(b)に示すように、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気は、例えば、所定の経路Rd1〜Rd8から蒸気分離ユニット208に進入する。この場合、経路Rd1,Rd3,Rd5,Rd7から進入するゲスト化合物の蒸気は、貫通孔208bの隙間W4を通って蒸気分離ユニット208を通過し、経路Rd2,Rd4,Rd6,Rd8から進入するゲスト化合物の蒸気は、羽板部材208aに遮られて蒸気分離ユニット208を通過しない。つまり、蒸気分離ユニット208は、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物のうちの一部を遮蔽し、一部を通過させて、基板100にゲスト化合物を微量に蒸着させることができる。
このように、蒸気分離ユニット208を設けられている場合であっても、上記した蒸気分離ユニット207が設けられている場合と同様の効果を奏する。
【0045】
以上、本実施形態によれば、複数の羽板部材207aが、基板100と第1及び第2蒸着源203,204との間に設けられ、第2蒸着源から放出される第2蒸着材料の進行方向に対して傾斜し、第1蒸着源から放出される第1蒸着材料の進行方向に対して平行に配置されているので、第2蒸着材料の蒸着量を第1蒸着材料の蒸着量よりも低く抑えることができる。つまり、二以上の蒸着材料を同時蒸着させる場合において、一方の蒸着材料の蒸着量を選択的に微量にすることができる。
また、基板の搬送方向Aに直交する方向に延在する直線状の蒸着源を用いており、これと略同一方向に延在する羽板部材207aを設けているので、搬送される基板に対して搬送方向において二以上の蒸着材料を選択的に蒸着させた均一な薄膜を形成することができる。
また、直線状の蒸着源203,204を用いていることにより、被処理基板が大型であっても容易に成膜処理を行うことができる。
また、例えば、坩堝等のような点蒸着源(ポイントソース)で基板全体を成膜する場合、基板に均一な成膜を行うためには点蒸着源から基板までの距離を長く取る必要があるが、本発明では、直線状の蒸着源203,204を用いているので、蒸着源から基板までの距離を短くしても均一な成膜を行うことができ、蒸着材料のロスを抑えることができる。
【0046】
また、複数の羽板部材207aは、放出される第2蒸着材料の進行方向から見て、互いに重なり合わないように設けられているので、第2蒸着材料の一部が複数の羽板部材207aの間を通過して基板100に到達することができる。したがって、基板に対して、微量の第2蒸着材料を均一に蒸着させることができる。
【0047】
また、複数の羽板部材208aは、厚さ方向に貫通する貫通孔208bを有しており、この貫通孔208bは、放出された第2蒸着材料の進行方向から見て、隣り合う羽板部材208aに重なり合わないように設けられているので、第2蒸着材料の一部が貫通孔208bを通過して基板100に到達することができる。これにより、基板に対して、微量の第2蒸着材料を均一に蒸着させることができる。
【0048】
また、複数の羽板部材207aは、脱着自在に構成され、所定の脱着装置により自動交換されるので、羽板部材207a同士の間の隙間や貫通孔208bへの目詰まりを防止し、均一な薄膜形成を継続して行うことができる。
【0049】
<変形例1>
以下に、真空蒸着装置200の変形例について図6及び図7を参照して説明する。なお、変形例に係る真空蒸着装置300にあっては、以下に説明する以外の構成は上記実施形態の真空蒸着装置200と略同様であり、その詳細な説明は省略する。
【0050】
図6は、変形例1の真空蒸着装置300の概略構成図である。
真空蒸着装置300は、ホスト化合物の蒸気を放出する第1蒸着源303と、ゲスト化合物の蒸気を放出する第2蒸着源304との他に、第2蒸着源304とは別のゲスト化合物の蒸気を放出する第3蒸着源320を更に備えている。第3蒸着源320は、第1蒸着源303や第2蒸着源304と同様に構成された直線状の蒸着源(ラインソース)である。
各蒸着源303,304,320は、搬送方向Aに沿って第1蒸着源303、第2蒸着源304、第3蒸着源320の順番に配置されている。
【0051】
搬送方向Aにおいて、第1蒸着源303と第2蒸着源304との間には、仕切板305bが設けられている。また、搬送方向Aにおいて、第2蒸着源304と第3蒸着源320との間には、仕切板305cが設けられている。仕切板305a,305bにより第1蒸着源303から放出されるホスト化合物の蒸気の広がりが拡散領域L1に制限され、仕切板305b,305cにより第2蒸着源304空放出されるゲスト化合物の蒸気の広がりが拡散領域L2に制限され、仕切板305c,305dにより第3蒸着源320から放出されるゲスト化合物の蒸気の広がりが拡散領域L3に制限されている。第1蒸着源303、第2蒸着源304及び第3蒸着源320は、各放出口303a,304a,320aを拡散領域L1,L2,L3が基板100の近傍で重なり合うような方向を向けて配置されている。
そして、第3蒸着源320の近傍であって、拡散領域L3に重ならない領域に第3膜厚計306cが設けられている。
【0052】
ここで、図7に示すように、第1蒸着源303から放出されるホスト化合物の蒸気の進行方向を進行方向Bとし、第2蒸着源304から放出されるゲスト化合物の蒸気の進行方向を進行方向Cとし、第3蒸着源320から放出されるゲスト化合物の蒸気の進行方向を進行方向Dとして以下説明する。
図7に示すように、蒸気分離ユニット307を構成する複数の羽板部材307aは、第1蒸着源303から放出されるホスト化合物の蒸気の進行方向Bに対して平行となる向きに配置されている。したがって、複数の羽板部材307aは、進行方向Bから見て、隣り合う羽板部材307a同士の間には隙間W5が形成されるように配置されている。
【0053】
また、複数の羽板部材307aは、第2蒸着源304から放出されるゲスト化合物の蒸気の進行方向Cに対して傾斜し、且つ、第3蒸着源320から放出されるゲスト化合物の蒸気の進行方向Dに対して傾斜する向きに配置されている。更に、複数の羽板部材307aは、第3蒸着源320から放出されるゲスト化合物の進行方向Dから見て、互いに重なり合わないように配置されて、隣り合う羽板部材307a同士の間に隙間W7が形成されるように配置されている。ここで、第2蒸着源304は、図6に示すように、搬送方向Aにおいて、第1蒸着源303と第3蒸着源320との間に配置されている。そうすると、複数の羽板部材307aを、第2蒸着源304から放出されるゲスト化合物の蒸気の進行方向Cから見た場合、隣り合う羽板部材307a同士の間に形成される隙間W6は、隙間W7よりも大きく形成されている。
【0054】
したがって、複数の羽板部材307aは、隣り合う羽板部材307a同士の間の隙間が、W5>W6>W7となるように配置されているから、第1蒸着源303から放出されるホスト化合物、第2蒸着源304から放出されるゲスト化合物、第3蒸着源320から放出されるゲスト化合物の順番に蒸気分離ユニット307の通過量を大きくすることができる。したがって、基板100に対する各蒸着材料の蒸着量を、第1蒸着源から放出されるホスト化合物>第2蒸着源から放出されるゲスト化合物>第3蒸着源から放出されるゲスト化合物、とすることができる。
【0055】
このように、変形例1の真空蒸着装置300によれば、搬送される基板に対して3種の蒸着材料を同時蒸着させる場合であっても、基板に対する各蒸着材料の蒸着量を調整して成膜を行うことができる。したがって、羽板部材307aの向きを調整することで、3種以上の蒸着材料を同時蒸着させる場合にあっても精度良く成膜処理を行うことができる。
【0056】
なお、上記実施形態では、枚葉基板に対して成膜処理を行うものとして説明したが、これに限られるものではなく、帯状連続フレキシブル基板に対して所謂ロールツーロール方式により成膜処理を行うものであっても良い。
【0057】
また、上記実施形態では、有機EL素子の発光層を形成する真空蒸着装置として説明したが、これに限られるものではなく、二以上の蒸着材料を同時蒸着させて薄膜を形成する場合であれば適用可能である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例では、本発明に係る上記真空蒸着装置300(図6参照)を使用して有機EL素子を製造する方法について説明する。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
また、ここでは、有機EL素子の一例として、ガラス基板上に、透明電極(陽極)/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/反射電極(陰極)を積層して構成される白色発光有機EL素子の製造に関して説明を行う。
【0059】
まず、所定の基板上に透明電極(陽極)を形成する工程を行う。300mm×400mm×0.7mm(厚み)のガラス基板上にITO(Indium tin oxide)を100nm成膜した基板に対して、フォトリソグラフィー法によりITO膜をパターニングする。即ち、非導電性領域以外の部分をレジストでマスクした後、25%塩酸水溶液に浸漬し非導電性領域部分(露出部分)のITO膜を除去する。この後、1.5%水酸化ナトリウム水溶液に浸してレジストを除去し、更に水洗と乾燥を行い、透明電極(陽極)パターン基板を作製する。
この基板を、iso−プロピルアルコールによる超音波洗浄、乾燥窒素ガスによる乾燥及びUVオゾン洗浄を一貫して行う一貫洗浄ラインにより洗浄した後、表面をマスクで覆って基板ホルダーに固定する。
【0060】
次に、この基板に対して次の各機能層を順次形成する。
正孔注入層(CuPc:10nm)/正孔輸送層(α−NPD:30nm)/発光層(H−A、D−A、D−B:40nm)/電子輸送層(E−A:45nm)/電子注入層(CeF:4nm)/反射電極(陰極)(Al:100nm)。
【0061】
【化1】

【化2】

【0062】
上記各層の形成は、所定の真空成膜装置(図示略)を用いて行う。この真空成膜装置は、6槽の真空容器を直列に連結して構成され、各真空容器内を搬送される基板に対し、各種の機能層の形成を行う装置である。また、この真空成膜装置を構成する6槽の真空容器のうちの3番目の真空容器が、上記した本発明に係る真空蒸着装置300である。なお、基板の搬送速度は、0.12m/minとして行う。
【0063】
真空成膜装置の各真空容器内を4×10−4Pa以下に減圧し、減圧した真空成膜装置内に上記した洗浄後の基板を搬送する。まず、この基板を1番目の真空容器内に搬入し、当該基板上にCuPcを蒸着させて膜厚10nmの正孔注入層を形成する。次いで、この基板を2番目の真空容器内に搬入し、当該基板上にα−NPDを蒸着させて膜厚30nmの正孔輸送層を形成する。
【0064】
正孔輸送層が形成された基板は、3番目の真空容器として真空蒸着装置300に搬入される。この真空蒸着装置300において、第1蒸着源303にはホスト化合物としてはH−Aが収容され、第2蒸着源304にはゲスト化合物としてD−Aが収容され、第3蒸着源320にはゲスト化合物としてD−Bが収容されている。
また、蒸気分離ユニット307は、羽板部材307a間の隙間W5を通過したホスト化合物H−Aが基板100に蒸着する面積W5a(図7参照)を100%として、隙間W6を通過したゲスト化合物D−Aが基板100に蒸着する面積W6a(図7参照)が60%、隙間W7を通過したゲスト化合物D−Bが基板100に蒸着する面積W7a(図7参照)が20%となるように、複数の羽板部材307a間の距離及び羽板部材307aの角度が設定されている。
【0065】
真空蒸着装置300は、搬入された基板に対して、第1蒸着源303、第2蒸着源304及び第3蒸着源320からそれぞれ蒸着材料を同時に放出して各蒸着材料を同時に蒸着させ、所望の発光層を形成する。本実施例では、各蒸着材料の蒸着速度の比率が、H−A:D−A:D−B=100:10:0.2になるように各蒸着源の温度調整等を行う。具体的には、ホスト化合物H−Aの蒸着速度が0.30nm/秒、ゲスト化合物D−Aの蒸着速度が0.030nm/秒、ゲスト化合物D−Bの蒸着速度が0.0006nm/秒となるように設定する。これにより、膜厚40nmの発光層を形成する。
【0066】
発光層が形成された基板を4番目の真空容器内に搬入し、当該基板上にE−Aを蒸着させて膜厚45nmの電子輸送層を形成する。そして、この基板を5番目の真空容器内に搬入し、当該基板上にCeFを蒸着させて膜厚4nmの電子注入層を形成する。電子注入層の形成後、基板に取り付けられたマスクを取り外して、陰極用のマスクに交換する。この基板を6番目の真空容器に搬入し、当該基板上にAlを蒸着させて膜厚100nmの反射電極(陰極)を形成する。
更に、この後、マスク取り外し工程、封止工程、ガラス分断工程、電極取り出し工程を経ることで有機EL素子が完成する。
【0067】
<比較例>
比較例として、所定の真空成膜装置(図示略)を用いて有機EL素子を製造した。比較例で用いた真空成膜装置は、上記実施例で用いた真空成膜装置とほぼ同じ構成であるが、真空蒸着装置300において蒸気分離ユニット307が設けられていない点のみが異なる。また、比較例において、有機EL素子の製造方法及び各成膜材料は、上記実施例と同様である。
【0068】
<有機EL素子の評価>
有機EL素子においては、色度のバラツキがドーパント(ゲスト化合物)の濃度のバラツキを表すため、色度の変動幅を求めることにより有機EL素子の評価を行った。
【0069】
まず、実施例及び比較例で製造した有機EL素子に対して、基板の幅方向中央部において搬送方向に沿って5cmおきに7点で色度測定を行った。そして、正面輝度300cd/m〜1500cd/mにおけるCIE1931色度座標において、色度測定により得られた色度のx値、y値から、次式(1)により変動最大距離ΔEを求めた。
ΔE=(Δx+Δy1/2・・・(1)
実施例で製造した有機EL素子の変動最大距離ΔEは0.01未満であり、良好な結果であったが、比較例で製造した有機EL素子の変動最大距離ΔEは0.01以上であり、色度変動が大きいことが確認された。
【0070】
有機EL素子の評価の結果から、比較例で製造した有機EL素子よりも、本実施例で製造した有機EL素子の方がドーパント(ゲスト化合物)の濃度のバラツキが小さいことが分かる。したがって、本発明によれば微量のゲスト化合物を均一に蒸着させることができることが分かる。
【符号の説明】
【0071】
100 基板
200 真空蒸着装置
201 真空処理室
203 第1蒸着源
204 第2蒸着源
205 仕切板(制限部)
207a 羽板部材
208b 貫通孔
230 脱着装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空処理室内において、搬送される基板に対して蒸着材料を蒸着させて薄膜を形成する真空蒸着装置であって、
前記基板に対向して前記基板の搬送方向に直交する幅方向に延在し、前記基板に向けて第1蒸着材料を放出する第1蒸着源と、
前記基板に対向して前記搬送方向に直交する幅方向に延在し、前記第1蒸着源に対して前記搬送方向にずれて配置され、前記第1蒸着源から放出された前記第1蒸着材料に重なり合うように前記基板に向けて第2蒸着材料を放出する第2蒸着源と、
前記基板と前記第1及び前記第2蒸着源との間に設けられ、前記搬送方向に沿って配列された複数の羽板部材と、を備え、
前記複数の羽板部材は、前記第2蒸着源から放出された前記第2蒸着材料の進行方向に対して傾斜し、且つ、前記第1蒸着源から放出された前記第1蒸着材料の進行方向に対して平行となるように設けられていることを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記複数の羽板部材は、前記第2蒸着源から放出された前記第2蒸着材料の進行方向から見て、互いに重なり合わないように設けられたことを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記複数の羽板部材は、厚さ方向に貫通する貫通孔を有し、
前記貫通孔は、前記第2蒸着源から放出された前記第2蒸着材料の進行方向から見て、隣り合う前記羽板部材に重なり合わないように設けられたことを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
前記真空処理室内において、前記第1蒸着源から放出された前記第1蒸着材料と前記第2蒸着源から放出された前記第2蒸着材料とが重なり合う領域を制限する制限部を更に備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
前記複数の羽板部材は、前記搬送方向において、前記羽板部材の大きさ又は隣り合う前記羽板部材同士の間の距離が異なるように構成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の真空蒸着装置。
【請求項6】
前記複数の羽板部材は、脱着自在に構成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の真空蒸着装置。
【請求項7】
前記複数の羽板部材は、所定の脱着装置により自動交換されることを特徴とする請求項6に記載の真空蒸着装置。
【請求項8】
前記基板に対向して前記搬送方向に直行する幅方向に延在し、前記第1蒸着源に対して前記搬送方向にずれて配置され、前記第1蒸着源から放出された前記第1蒸着材料に重なり合うように前記基板に向けて第3蒸着材料を放出する第3蒸着源を更に備えることを特徴とする請求項1から7の何れか一項に記載の真空蒸着装置。
【請求項9】
前記基板上に薄膜を形成することにより有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することを特徴とする請求項1から8の何れか一項に記載の真空蒸着装置。
【請求項10】
請求項1から9の何れか一項に記載の真空蒸着装置を用いて、
前記基板上に薄膜を形成することにより有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法により製造されたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−156072(P2012−156072A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15858(P2011−15858)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代高効率・高品質照明の基盤技術開発/有機EL照明の高効率・高品質化に係る基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】