説明

真空蒸着装置およびその装置を用いた真空蒸着方法

【課題】 本発明の目的は、蒸着原料の突沸によるスプラッシュで蒸着流中に直径の大きな異常粒子が混入し、それが被処理基板に付着して成膜品質を低下させることを、スプラッシュの発生を定量的かつ早期に検出することで防止する機能を有する真空蒸着装置およびその真空蒸着装置を用いた真空蒸着方法を提供することである。
【解決手段】 本発明の真空蒸着装置101は、真空チャンバ2と、真空ポンプ3と、基板ホルダ5と、ルツボ7と、電子ビーム9を発射する電子銃10と集束コイル11および偏向コイル12と、シャッタ13と、シャッタ駆動部14と、成膜速度を測定する膜厚モニタ15と、パワー制御部16と、膜厚モニタ15で測定した成膜速度の変動量を予め設定した基準値と比較判定することで、ルツボ7内の蒸着原料6の突沸により生じる不所望なスプラッシュの有無を検出する本発明の特徴である比較判定部102とで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空中で蒸着原料を加熱溶融し蒸発させて、被処理基板に被着させて成膜する真空蒸着装置およびその装置を用いた真空蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の真空蒸着装置の一例の縦断面図を図8、図9に示す。尚、図8はシャッタを閉じて蒸着流を遮断した状態を示し、図9はシャッタを開けて蒸着流を放出した状態を示す。
【0003】
従来の真空蒸着装置1は、内部を真空状態に維持することのできる真空チャンバ2と、真空チャンバ2内を真空排気する真空ポンプ3と、真空チャンバ2内に配置され、被処理基板としての半導体基板4を保持する基板ホルダ5と、基板ホルダ5と対向して配置され、蒸着原料6を収容するルツボ7と、蒸着原料6を加熱溶融し蒸発させて蒸着流8(図中実線矢印)を放出させる電子ビーム9(図中破線矢印)を発射する電子銃10とその電子ビーム9を集束する磁力を与える集束コイル11および電子ビーム9を偏向するための磁力を与える偏向コイル12とで構成される加熱手段と、基板ホルダ5とルツボ7との間に配置され、開閉動作により蒸着流8を放出したり遮断したりするシャッタ13と、シャッタ13を開閉動作させるシャッタ駆動部14と、基板ホルダ5に保持された半導体基板4への成膜速度を測定する膜厚モニタ15と、膜厚モニタ15からの信号に基づき電子銃10のパワーを制御するパワー制御部16とで構成されている。
【0004】
ここで、膜厚モニタ15は水晶振動子式であり、基板ホルダ近傍位置に配置されたセンサ部としての水晶振動子15aは、オシレータ15bを介して、成膜速度の時間的変化を成膜速度曲線(縦軸;成膜速度、横軸;時間)として表示するとともにその信号をパワー制御部16に出力するモニタ部15cに接続されている。尚、水晶振動子式の膜厚モニタ15は、水晶振動子15aへの微量質量付着による発振周波数の変化を検出することで成膜速度を高精度(分解能;0.005Å程度)に測定することができる。
【0005】
また、パワー制御部16は膜厚モニタ15からの信号に基づき、電子銃10のパワーを制御して成膜速度を安定化させたり、成膜が完了したら電子銃10のパワーを低下させ停止させる役目をする。
【0006】
尚、上記では、蒸着原料6の加熱手段は、電子銃10と集束コイル11及び偏向コイル12で成る構成で説明したが、他の加熱手段として、抵抗加熱や高周波加熱などを利用した加熱手段であってもよい。
【0007】
次に、真空蒸着装置1の動作を説明する。先ず、基板ホルダ5に半導体基板4を保持し、真空ポンプ3を作動して真空チャンバ2内を減圧し所定の真空度にする。
【0008】
次に、電子銃10より電子ビーム9を発射し、その電子ビーム9を集束コイル11で集束させ、偏向コイル12で照射位置を制御して蒸着原料6表面に略垂直に照射させ蒸着原料6を加熱溶融して蒸発させる。
【0009】
ここで、半導体基板4への蒸着作業をする前に、蒸着原料6表面の不純物を蒸発させたり、表面状態を均一にしたりすることを目的に、所謂、ガス出し作業を行う。このガス出し作業は、図8に示すように、シャッタ13を閉じた状態で、電子ビーム照射を所定の電子銃パワーで所定時間だけ行う。
【0010】
その後、ガス出し作業が終了したら、図9に示すように、シャッタ13を開けて、半導体基板4に向けて蒸着流8を放出し、膜厚モニタ15で測定した成膜速度と時間とから成膜厚さを算出しながら、所定の膜厚が得られるまで蒸着作業を行う。
【0011】
尚、半導体基板4への蒸着作業で得られる成膜速度曲線は、図10に示すように、シャッタ13が開いた直後から膜厚モニタ15の測定が安定するまでの間は、若干の初期変動が見られるが、その後は、膜厚モニタ15の測定結果をパワー制御部16にフィードバック制御するため所定の設定値に安定して維持される。
【0012】
次に、半導体基板4への蒸着作業が完了したら、図8に示すように、再度、シャッタ13を閉じて蒸着流8を遮断するとともに電子銃10のパワーを徐々に低下させ停止させて蒸着作業を完了する。
【0013】
しかしながら、上記の一連の蒸着作業の中で、蒸着原料6の突沸によるスプラッシュ(はね)が発生することがあった。そして、突沸によるスプラッシュが発生すると蒸着流8中に直径の大きな異常粒子(図示せず)が混入し、それが半導体基板4に付着して成膜品質の低下を招くという問題があった。
【0014】
このため、従来より突沸を抑制するための様々な工夫がなされてきた。例えば、その一つとして、ルツボ7と蒸着原料6との間にライナー部材(図示せず)を介在させ、蒸発に必要な熱の逃げを抑えながら、低い成膜速度で蒸着を行う方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−81549号公報 図1,図3
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、上記のような工夫された真空蒸着方法においても、突沸を完全に防止することは難しかった。なぜならば、突沸の原因は、ルツボ7と蒸着原料6との界面温度差に起因するものだけでなく多岐にわたり、例えば、蒸着原料6の溶融領域への非溶融領域の溶け落ち,ルツボ7内での蒸着原料6の対流状態,ルツボ7や蒸着原料6からのCOなどのガスの発生,あるいは、蒸着原料6が合金であった場合、合金を構成する金属の融点や沸点の相違などの原因があり、その発生を完全に防止したり、その発生時期を予測したりすることは極めて困難であった。
【0016】
本発明の目的は、一連の蒸着作業の中で、いつ発生するか分からない蒸着原料の突沸によるスプラッシュで蒸着流中に直径の大きな異常粒子が混入し、それが被処理基板に付着して成膜品質を低下させることを、スプラッシュの発生を定量的かつ早期に検出することで防止する機能を有する真空蒸着装置およびその真空蒸着装置を用いた真空蒸着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の問題を解決するために、発明者は、成膜速度曲線をその変動量に着目し慎重に観察して次のような知見と結論を得た。
【0018】
その知見とは、突沸によるスプラッシュにより蒸着流中に直径の大きな異常粒子が混入し、それが膜厚モニタの水晶振動子に付着した場合、異常粒子はその質量が大きいため、その分、発振周波数に与える影響が大きく、その結果として、図11に示すように、成膜速度曲線上に凹凸状の変動(以降、スプラッシュ変動と呼ぶ)が現れ、その変動量は、水晶振動子式の膜厚モニタの分解能において十分検出可能なレベルであると言う知見である。
【0019】
即ち、膜厚モニタで測定した成膜速度の変動量を予め設定した基準値と比較判定することで、蒸着原料の突沸によるスプラッシュの有無を定量的かつ早期に検出できると言う結論に達した。
【0020】
このような知見に基づく本発明は次のように構成されている。
【0021】
本発明の真空蒸着装置は、
少なくとも、
内部を真空状態に維持することのできる真空チャンバと、
真空チャンバ内を真空排気する真空ポンプと、
真空チャンバ内に配置され、被処理基板を保持する基板ホルダと、
基板ホルダと対向して配置され、蒸着原料を収容するルツボと、
ルツボ内の蒸着原料を加熱溶融し蒸発させて蒸着流を放出させる加熱手段と、
基板ホルダとルツボとの間に配置され、開閉動作により蒸着流を放出したり遮断したりするシャッタと、
シャッタを開閉動作させるシャッタ駆動部と、
センサ部が基板ホルダ近傍位置に配置され、基板ホルダに保持された被処理基板への成膜速度を測定する膜厚モニタとを備え、蒸着流を基板ホルダに保持された被処理基板に被着させて成膜する真空蒸着装置において、膜厚モニタで測定した成膜速度の変動量を予め設定した基準値と比較判定することで、ルツボ内の蒸着原料の突沸により生じる不所望なスプラッシュの有無を検出する比較判定部を備えたことを特徴とする真空蒸着装置である。
【0022】
本発明の真空蒸着装置を用いた真空蒸着方法は、
少なくとも、
内部を真空状態に維持することのできる真空チャンバと、
真空チャンバ内を真空排気する真空ポンプと、
真空チャンバ内に配置され、被処理基板を保持する基板ホルダと、
基板ホルダと対向して配置され、蒸着原料を収容するルツボと、
ルツボ内の蒸着原料を加熱溶融し蒸発させて蒸着流を放出させる加熱手段と、
基板ホルダとルツボとの間に配置され、開閉動作により蒸着流を放出したり遮断したりするシャッタと、
シャッタを開閉動作させるシャッタ駆動部と、
センサ部が基板ホルダ近傍位置に配置され、基板ホルダに保持された被処理基板への成膜速度を測定する膜厚モニタとを備え、蒸着流を基板ホルダに保持された被処理基板に被着させて成膜する真空蒸着装置を用いた真空蒸着方法において、膜厚モニタで測定した成膜速度の変動量を予め設定した基準値と比較判定することで、ルツボ内の蒸着原料の突沸により生じる不所望なスプラッシュの有無を検出することを特徴とする真空蒸着方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の真空蒸着装置およびその真空蒸着装置を用いた真空蒸着方法によれば、膜厚モニタで測定した成膜速度の変動量を予め設定した基準値と比較判定することで、蒸着原料の突沸により生じる不所望なスプラッシュの有無を定量的かつ早期に検出するようにしたので、成膜品質の低下を最小限に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、蒸着原料の突沸により生じるスプラッシュで成膜品質が低下することを防止する機能を有する真空蒸着装置およびその真空蒸着装置を用いた真空蒸着方法を提供するという目的を、膜厚モニタで測定した成膜速度の変動量を予め設定した基準値と比較判定することで定量的かつ早期に検出可能とすることで実現した。
【実施例】
【0025】
本発明の真空蒸着装置の一例の縦断面図を図1、図2に示す。尚、図1はシャッタを閉じて蒸着流を遮断した状態を示し、図2はシャッタを開けて蒸着流を放出した状態を示す。また、図8,図9と同一部分には同一符号を付す。
【0026】
本発明の真空蒸着装置101は、内部を真空状態に維持することのできる真空チャンバ2と、真空チャンバ2内を真空排気する真空ポンプ3と、真空チャンバ2内に配置され、被処理基板としての半導体基板4を保持する基板ホルダ5と、基板ホルダ5と対向して配置され、蒸着原料6を収容するルツボ7と、蒸着原料6を加熱溶融し蒸発させて蒸着流8(図中実線矢印)を放出させる電子ビーム9(図中破線矢印)を発射する電子銃10とその電子ビーム8を集束する磁力を与える集束コイル11および電子ビーム9を偏向するための磁力を与える偏向コイル12とで構成される加熱手段と、基板ホルダ5とルツボ7との間に配置され、開閉動作により蒸着流8を放出したり遮断したりするシャッタ13と、シャッタ13を開閉動作させるシャッタ駆動部14と、基板ホルダ5に保持された半導体基板4への成膜速度を測定する膜厚モニタ15と、膜厚モニタ15からの信号に基づき電子銃10のパワーを制御するパワー制御部16と、膜厚モニタ15で測定した成膜速度の変動量を予め設定した基準値と比較判定することで、ルツボ7内の蒸着原料6の突沸により生じる不所望なスプラッシュの有無を検出する本発明の特徴である比較判定部102とで構成されている。
【0027】
ここで、膜厚モニタ15は水晶振動子式であり、基板ホルダ5近傍位置に配置されたセンサ部としての水晶振動子15aは、オシレータ15bを介して、成膜速度の時間的変化を成膜速度曲線(縦軸;成膜速度、横軸;時間)として表示するとともにその信号をそれぞれパワー制御部16と比較判定部102とに出力するモニタ部15cに接続されている。尚、水晶振動子式の膜厚モニタ15は、水晶振動子15aへの微量質量付着による発振周波数の変化を検出することで成膜速度を高精度(分解能;0.005Å程度)に測定することができる。
【0028】
また、パワー制御部16が膜厚モニタ15からの信号に基づき、電子銃10のパワーを制御して成膜速度を安定化させたり、成膜が完了したら電子銃10のパワーを低下させ停止させる役目をするのに対して、比較判定部102は、図3に示すように、膜厚モニタ15で測定した成膜速度の変動量を予め設定した基準値S,Sと比較判定することで、成膜速度曲線にスプラッシュ変動が現れているかどうか、すなわち、蒸着流中に異常粒子が混入しているかどうかを検出する。
【0029】
また、比較判定部102は、スプラッシュ変動の発生をオペレータに知らせるための警報あるいは警告表示などの手段を備えている。
【0030】
尚、上記では、蒸着原料6の加熱手段は、電子銃10と集束コイル11及び偏向コイル12で成る構成で説明したが、他の加熱手段として、抵抗加熱や高周波加熱などを利用した加熱手段であってもよい。
【0031】
次に、真空蒸着装置101の動作を説明する。先ず、基板ホルダ5に半導体基板4を保持し、真空ポンプ3を作動して真空チャンバ2内を減圧し所定の真空度にする。
【0032】
次に、電子銃10より電子ビーム9を発射し、その電子ビーム9を集束コイル11で集束させ、偏向コイル12で照射位置を制御して蒸着原料6表面に略垂直に照射させ蒸着原料6を加熱溶融して蒸発させる。
【0033】
ここで、半導体基板4への蒸着作業をする前に、蒸着原料6表面の不純物を蒸発させたり、表面状態を均一にしたりすることを目的に、所謂、ガス出し作業を行う。このガス出し作業は、図1に示すように、シャッタ13を閉じた状態で、電子ビーム照射を所定の電子銃パワーで所定時間だけ行う。
【0034】
その後、ガス出し作業が終了したら、図2に示すように、シャッタ13を開けて、半導体基板4に向けて蒸着流8を放出し、膜厚モニタ15で測定した成膜速度と時間とから成膜厚さを算出しながら、所定の膜厚が得られるまで蒸着作業を行う。
【0035】
尚、半導体基板4への蒸着作業で得られる成膜速度曲線は、図10に示すように、シャッタ13が開いた直後から膜厚モニタ15の測定が安定するまでの間は、若干の初期変動が見られるが、その後は、膜厚モニタ15の測定結果をパワー制御部16にフィードバック制御するため所定の設定値に安定して維持される。
【0036】
次に、半導体基板4への蒸着作業が完了したら、図1に示すように、再度、シャッタ13を閉じて蒸着流8を遮断するとともに電子銃10のパワーを徐々に低下させ停止させて蒸着作業を完了する。
【0037】
ここで、半導体基板4への蒸着作業中にルツボ7内の蒸着原料6が突沸し、不所望なスプラッシュが発生することがあり、その場合、図3に示すように、成膜速度曲線上に凹凸状の変動としてスプラッシュ変動が現れる。そして、このスプラッシュ変動は、比較判定部において予め設定した基準値S,Sと比較判定されることで検出される。そして、比較判定部102は警報あるいは警告表示によりオペレータにその発生を知らせ、オペレータは、電子銃パワーを低下させるなど諸条件を調節してスプラッシュの抑制に努める操作を行う。
【0038】
上記のような真空蒸着装置101およびその真空蒸着装置を用いた真空蒸着方法によると、成膜速度の変動量を、常に、予め設定した基準値と比較判定することでスプラッシュの有無を検出可能であるため、突然、蒸着作業中にスプラッシュが発生し始めても定量的かつ早期に発見することができる。
【0039】
尚、上記では、スプラッシュの発生を検出した場合、オペレータが電子銃パワーを低下させるなど諸条件を調節してスプラッシュの抑制に努める構成で説明したが、発明者は、加熱手段が電子ビームを利用した加熱手段である場合には、スプラッシュは、電子ビームの照射位置をズラすことで抑制できる場合が多いことを経験的に知っており、その経験に基づく構成として、図4に示すように、比較判定部102の判定結果に基づいて、偏向コイル12を制御して電子ビーム9の照射位置を変化させる電子ビーム照射位置制御部103を備え、比較判定部102でスプラッシュ変動を検出した場合、図5に示すように、電子ビーム9の照射位置を所定量だけズラすように制御するようにしてもよい。
【0040】
このようにすると、オペレータによるスプラッシュの回避操作の頻度が低減され、迅速な対応が可能となる。
【0041】
また、スプラッシュは、半導体基板4への蒸着作業中だけでなく、むしろ、ガス出し作業の際にも多く発生するため、図6,図7に示すように、膜厚モニタ15のセンサ部である水晶振動子15aの部分を、基板ホルダ近傍位置と、シャッタ13が閉状態であっても成膜速度を測定可能なシャッタ近傍位置との間で移動させるセンサ部移動機構104を備え、シャッタ13を閉状態で行うガス出し作業のときには、水晶振動子15aをシャッタ近傍位置に移動させてシャッタ閉状態におけるスプラッシュの有無を検出し、シャッタ開状態で行う半導体基板4への蒸着作業のときには、水晶振動子15aを基板ホルダ近傍位置に移動させて半導体基板4への蒸着作業中のスプラッシュの有無を検出する構成としてもよい。また、このとき、比較判定部102の判定結果に基づいて、センサ部移動機構104とシャッタ駆動部14とを連係動作させる連動制御部105をさらに備え、ガス出し作業においてスプラッシュの発生がないことが確認でき、水晶振動子15aがシャッタ近傍位置から基板ホルダ近傍位置に戻った後、シャッタ13が開くようにするとよい。
【0042】
このようにすると、従来、所定の電子銃パワーで所定時間だけ行っていたガス出し作業においても、スプラッシュの発生の有無を確認できるようになり好適である。
【0043】
尚、上記では、膜厚モニタ15のセンサ部である水晶振動子15aを、シャッタ13の開閉動作に伴い、シャッタ近傍位置と基板ホルダ近傍位置との間で移動可能とする構成で説明したが、膜厚モニタ15を2個準備し、それぞれの測定位置に1個ずつ配置する構成としてもよいことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、蒸着原料の突沸によるスプラッシュの発生の有無を定量的かつ早期に検出できる機能を備えた真空蒸着装置およびその真空蒸着装置を用いた真空蒸着方法に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の真空蒸着装置の一例の縦断面図(蒸着流遮断状態)
【図2】本発明の真空蒸着装置の一例の縦断面図(蒸着流放出状態)
【図3】成膜速度曲線上のスプラッシュ変動検出の説明図
【図4】本発明の真空蒸着装置の変形例の縦断面図(蒸着流放出状態)
【図5】図4の部分拡大図
【図6】本発明の真空蒸着装置の他の変形例の縦断面図(蒸着流遮断状態)
【図7】本発明の真空蒸着装置の他の変形例の縦断面図(蒸着流放出状態)
【図8】従来の真空蒸着装置の一例の縦断面図(蒸着流遮断状態)
【図9】従来の真空蒸着装置の一例の縦断面図(蒸着流放出状態)
【図10】成膜速度曲線の説明図
【図11】成膜速度曲線上に現れるスプラッシュ変動の説明図
【符号の説明】
【0046】
1 従来の真空蒸着装置
2 真空チャンバ
3 真空ポンプ
4 半導体基板
5 基板ホルダ
6 蒸着原料
7 ルツボ
8 蒸着流
9 電子ビーム
10 電子銃
11 集束コイル
12 偏向コイル
13 シャッタ
14 シャッタ駆動部
15 膜厚モニタ
15a 水晶振動子
15b オシレータ
15c モニタ部
16 パワー制御部
101 本発明の真空蒸着装置
102 比較判定部
103 電子ビーム照射位置制御部
104 センサ部移動機構
105 連動制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
内部を真空状態に維持することのできる真空チャンバと、
前記真空チャンバ内を真空排気する真空ポンプと、
前記真空チャンバ内に配置され、被処理基板を保持する基板ホルダと、
前記基板ホルダと対向して配置され、蒸着原料を収容するルツボと、
前記ルツボ内の蒸着原料を加熱溶融し蒸発させて蒸着流を放出させる加熱手段と、
前記基板ホルダと前記ルツボとの間に配置され、開閉動作により蒸着流を放出したり遮断したりするシャッタと、
前記シャッタを開閉動作させるシャッタ駆動部と、
センサ部が前記基板ホルダ近傍位置に配置され、前記基板ホルダに保持された被処理基板への成膜速度を測定する膜厚モニタとを備え、蒸着流を前記基板ホルダに保持された被処理基板に被着させて成膜する真空蒸着装置において、前記膜厚モニタで測定した成膜速度の変動量を予め設定した基準値と比較判定することで、前記ルツボ内の蒸着原料の突沸により生じる不所望なスプラッシュの有無を検出する比較判定部を備えたことを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記膜厚モニタは、水晶振動子式の膜厚モニタであることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記加熱手段は、前記ルツボ内の蒸着原料に照射して前記蒸着原料を加熱溶融し蒸発させる電子ビームを発射する電子銃と、前記電子ビームを集束させる磁力を発生する集束コイルと、前記電子ビームの照射位置を制御する磁力を発生する偏向コイルとを備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
前記比較判定部の判定結果に基づいて、前記偏向コイルを制御して電子ビームの照射位置を変化させる電子ビーム照射位置制御部を、さらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
前記センサ部を、基板ホルダ近傍位置と、シャッタが閉状態であっても成膜速度を測定可能なシャッタ近傍位置との間で移動させるセンサ部移動機構を、さらに備え、シャッタが閉状態のときには、前記センサ部をシャッタ近傍位置に移動させてシャッタが閉状態におけるスプラッシュの有無を検出可能としたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の真空蒸着装置。
【請求項6】
シャッタ閉状態におけるスプラッシュの発生のないことを確認後、前記センサ部を前記基板ホルダ近傍位置に移動させた後、前記シャッタを開くように、前記センサ部移動機構と前記シャッタ駆動部とを連係動作させる連動制御部を、さらに備えたことを特徴とする請求項5に記載の真空蒸着装置。
【請求項7】
少なくとも、
内部を真空状態に維持することのできる真空チャンバと、
前記真空チャンバ内を真空排気する真空ポンプと、
前記真空チャンバ内に配置され、被処理基板を保持する基板ホルダと、
前記基板ホルダと対向して配置され、蒸着原料を収容するルツボと、
前記ルツボ内の蒸着原料を加熱溶融し蒸発させて蒸着流を放出させる加熱手段と、
前記基板ホルダと前記ルツボとの間に配置され、開閉動作により蒸着流を放出したり遮断したりするシャッタと、
前記シャッタを開閉動作させるシャッタ駆動部と、
センサ部が前記基板ホルダ近傍位置に配置され、前記基板ホルダに保持された被処理基板への成膜速度を測定する膜厚モニタとを備え、蒸着流を前記基板ホルダに保持された被処理基板に被着させて成膜する真空蒸着装置を用いた真空蒸着方法において、前記膜厚モニタで測定した成膜速度の変動量を予め設定した基準値と比較判定することで、前記ルツボ内の蒸着原料の突沸により生じる不所望なスプラッシュの有無を検出することを特徴とする真空蒸着方法。
【請求項8】
前記膜厚モニタは、水晶振動子式の膜厚モニタであることを特徴とする請求項7に記載の真空蒸着方法。
【請求項9】
前記加熱手段は、前記ルツボ内の蒸着原料に照射して前記蒸着原料を加熱溶融し蒸発させる電子ビームを発射する電子銃と、前記電子ビームを集束させる磁力を発生する集束コイルと、前記電子ビームの照射位置を制御する磁力を発生する偏向コイルとを備えたことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の真空蒸着方法。
【請求項10】
前記比較判定結果に基づいて、前記偏向コイルを制御して電子ビームの照射位置を変化させることを特徴とする請求項9に記載の真空蒸着方法。
【請求項11】
前記センサ部を、基板ホルダ近傍位置と、シャッタが閉状態であっても成膜速度を測定可能なシャッタ近傍位置との間で移動可能とし、シャッタが閉状態のときには、前記センサ部をシャッタ近傍位置に移動させてシャッタが閉状態におけるスプラッシュの有無を検出することを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載の真空蒸着方法。
【請求項12】
シャッタ閉状態におけるスプラッシュの発生のないことを確認後、前記センサ部を前記基板ホルダ近傍位置に移動させた後、前記シャッタを開くように、前記センサ部の移動動作と前記シャッタの開閉動作とを連係動作させることを特徴とする請求項11に記載の真空蒸着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−45581(P2006−45581A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223682(P2004−223682)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000156950)関西日本電気株式会社 (26)
【Fターム(参考)】