説明

真空蒸着装置および真空蒸着方法

【課題】繰返し膜を形成する場合であっても、膜質が高い膜を形成することができるとともに、フィルタに付着した異物を容易に除去できる真空蒸着装置および真空蒸着方法を提供する。
【解決手段】本発明の真空蒸着装置は、真空容器内で蒸着により基板の表面に膜を形成するものであって、真空容器内を排気する真空排気手段と、真空容器内の上部に設けられ、基板を保持する基板保持手段と、この基板保持手段に対向して真空容器内の下部に設けられ、膜の成膜材料を加熱し、蒸発させる蒸発源と、この蒸発源の上方に設けられたフィルタ板とを有する。フィルタ板は、平板に複数の開口部が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着により基板に膜を形成するに真空蒸着装置および真空蒸着方法に関し、特に、各基板への膜の形成を繰返し行う場合であっても、各基板に膜質が高い膜を形成することができる真空蒸着装置および真空蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療用の診断画像の撮影または工業用の非破壊検査などに、被写体を透過した放射線(X線、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等)を電気的な信号として取り出すことにより放射線画像を撮影する、放射線画像検出器が利用されている。
この放射線画像検出器としては、放射線を電気的な画像信号として取り出すパネル状の放射線画像検出器(いわゆる「Flat Panel Detector」 以下、FPDという)および放射線像を可視像として取り出すX線イメージ管などがある。
【0003】
また、FPDには、アモルファスセレン(a−Se)などの光導電膜(光電変換膜(層))とTFT(Thin Film Transistor)等を用い、放射線の入射によって光導電膜が発した電子−正孔対(e−hペア)を収集してTFTによって電化信号として読み出す、いわば放射線を直接的に電気信号に変換する直接方式と、放射線の入射によって発光(蛍光)する蛍光体で形成された蛍光体層(シンチレータ層)を有し、この蛍光体層によって放射線を可視光に変換し、この可視光を光電変換素子で読み出す、いわば放射線を可視光として電気信号に変換する間接方式との、2つの方式がある。
【0004】
直接方式のFPDにおいて、アモルファスセレンなどの光導電膜は、例えば、真空蒸着法によって形成される。ここで、FPDの光導電膜は、数百μm以上の膜厚を有するのが通常であり、厚い場合には、1000μm程度の厚さとなる。
また、間接方式のFPDでも、蛍光体層を真空蒸着法で形成することがあり、蛍光体層の厚さは、直接方式のFPDと同程度となる場合もある。
真空蒸着における成膜材料の加熱方法としては、蒸発源の周囲に配置した電熱線などのヒータを用いる方法、蒸発源自身を発熱させる抵抗加熱による方法、および電子線によって成膜材料を加熱(EB加熱)する方法が知られている。
真空蒸着法においては、成膜材料を蒸発させるに際して、成膜材料を安定して蒸発させるために種々の提案がされている(特許文献1〜3参照)。
【0005】
特許文献1には、真空中で蒸着物質を抵抗加熱して、その蒸気圧を上げ被着物に堆積させる際に用いられる蒸着ボートが開示されている。この特許文献1の蒸着ボートは、蒸発槽部と、この蒸発槽部の開口端部に設けられ蒸発口を有する外蓋と、この外蓋の内側に所定の間隔をもって取り付けられたメッシュ部とからなるものである。このメッシュ部は、蒸発槽部に配された蒸発物質の蒸発気体のみを選択的に通過させ、蒸発物質の突沸により発生する蒸発物質の粗大粒子の通過を規制するものである。
【0006】
特許文献2には、分子線蒸発源原料に固体原料を用いた分子線エピタキシャル成長装置の分子線蒸発源セルが開示されており、この分子線蒸発源セルの分子線の噴出口に粒子の飛散を防止のメッシュが設けられている。また、特許文献2においては、必要に応じて、メッシュの目詰まりを防止するため、メッシュを単独で加熱できる機構が設けられる。
【0007】
また、特許文献3には、原材料を仕込こんだ坩堝をヒータにより加熱し、またその坩堝とヒータとの間に金属メッシュからなるメッシュ部材を挿入しておき、このメッシュ部材により、原材料の分解等で生じた生成物を吸着・捕捉(トラップ)し、蒸発源外への放出を防止する蒸着装置が開示されている。この特許文献3においては、メッシュ部材もヒータにより加熱し、目的となる蒸発材料がメッシュ部材に捕捉・凝縮されることなく、メッシュを通り抜けて上方に到達できるようにされており、メッシュ部材の配置は、原材料の蒸発面側で良いが、できるだけ坩堝の開口部(蒸発物が放出する出口)を完全に覆う構造としている。
【0008】
【特許文献1】実開平2−69961号公報
【特許文献2】特開平9−115834号公報
【特許文献3】特開2004−315911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜3に開示されているように、成膜材料が蒸発した蒸気が通過する開口部にメッシュを設けることにより、粗大粒の通過を規制し、突沸を抑制でき、安定した成膜をすることができる。
しかしながら、メッシュは、一般的に織物のように形成されており、織目がある。この織目で、成膜材料の蒸気が凝集し、冷えると成膜材料が蒸着カスとして、織目に生じる。このように、織目には蒸着カスが溜まりやすい。
蒸着カスは、次に、蒸着するときなどに加熱された場合、その後、予期しない時期に蒸着カスが成膜面に飛んでいき、成膜中に基板または成膜面に付着することがある。この場合には、付着した蒸着カスが起点となり異常成長などが生じ、成膜欠陥の原因となる。
【0010】
蒸着カスを取り除く方法としては、例えば、メッシュを加熱する方法があるものの、成膜材料を全て蒸発させた後でないと蒸着カスの除去ができない。しかも、蒸着カスの除去を加熱して取り除く場合には、時間がかかり、生産性が低下する。
成膜材料の融点が、メッシュの構成材料の融点と変わらない場合には、蒸着カスを取り除くために加熱した場合、メッシュが変形または損傷してしまい、十分な機能を果たせなくなる虞もある。
【0011】
さらには、織目にできた蒸着カスは、メッシュを加熱しただけでは完全に取り除くことができない場合には、例えば、加熱により蒸着カスを取り除く方法以外に、メッシュをブラシで擦るなどして物理的に除去するか、または有機溶媒、または酸もしくはアルカリ溶液を用いて取り除く。これらの方法では、メッシュを取り外す必要があり、蒸着カスの除去に時間がかかり、生産性が低下する。
【0012】
本発明の目的は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、各基板への膜の形成を繰返し行う場合であっても、各基板に膜質が高い膜を形成することができる真空蒸着装置および真空蒸着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、真空容器内で蒸着により基板の表面に膜を形成する真空蒸着装置であって、前記真空容器内を排気する真空排気手段と、前記真空容器内の上部に設けられ、前記基板を保持する基板保持手段と、前記基板保持手段に対向して前記真空容器内の下部に設けられ、前記膜となる成膜材料を加熱し、蒸発させる蒸発源と、前記蒸発源の上方に設けられたフィルタ板とを有し、前記フィルタ板は、平板に複数の開口部が形成されたものであることを特徴とする真空蒸着装置を提供するものである。
【0014】
本発明において、前記成膜材料は、セレンを主成分とするものであることが好ましい。
また、本発明において、前記膜が形成された前記基板は、放射線画像検出器に用いられることが好ましい。
【0015】
また、本発明の第2の態様は、真空容器内で蒸着により基板の表面に膜を形成する真空蒸着方法であって、前記蒸着により基板に膜を形成するに際して、前記膜となる成膜材料を加熱し、蒸発させる蒸発源の上方に、平板に複数の開口部が形成されてなるフィルタ板を配置することを特徴とする真空蒸着方法を提供するものである。
【0016】
本発明において、前記成膜材料は、セレンを主成分とするものであることが好ましい。
また、本発明において、前記膜が形成された前記基板は、放射線画像検出器に用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の真空蒸着装置および真空蒸着方法によれば、平板に複数の開口部が形成されたフィルタ板を、蒸発源の上方に設けることにより、通常のメッシュのように織目がないため、織目に蒸発源からの成膜材料の蒸気が凝集して、網目に蒸着カスが生じることがない。これにより、予期しない時期に蒸着カスが基板の表面または成膜中の成膜面に飛んでいき、付着することがなく、成膜欠陥が抑制されて品質の良い膜を形成することができる。 さらに、繰返し成膜を基板に行っても、予期しない時期に蒸着カスが基板の表面または成膜中の成膜面に付着することがないことから、各基板への膜の形成を繰返し行う場合であっても、各基板に膜質が高い膜を形成することができる。よって、最終的に得られる製品の歩留まりも高めることができる。
【0018】
また、本発明の真空蒸着装置および真空蒸着方法によれば、網目に蒸着カスが生じて詰まることがないため、フィルタ板のクリーニングが不要であり、メンテナンスが容易になる。このため、メンテナンス時間に要する時間を短くすることができるため、稼働率を高めることができ、最終的に得られる製品の生産効率を高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の真空蒸着装置および真空蒸着方法を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る真空蒸着装置を示す模式図である。
【0020】
図1に示すように、真空蒸着装置10は、基板Sの表面(被成膜面)Sfに真空蒸着法によって成膜するものである。
この真空蒸着装置10は、真空チャンバ(真空容器)12と、真空排気部(真空排気手段)14と、基板保持手段16と、蒸発源18と、制御部20とを有するものであり、基板回転型の真空蒸着装置である。
制御部20は、真空排気部14、基板保持手段16(モータ22)および蒸発源18(温度調節部34、温度センサ36a〜36d)に接続されており、これらを制御するものである。
【0021】
本発明において、使用する基板Sには、特に限定はなく、ガラス板、プラスチック(樹脂)製のフィルムや板、金属板等、製造する製品に応じたものを用いればよい。
また、基板Sに成膜(形成)する膜にも、特に限定はなく、真空蒸着法によって成膜可能なものが全て利用可能である。
【0022】
真空チャンバ12は、鉄、ステンレス、アルミニウム合金等で形成される気密性が高い容器である。この真空チャンバ12は、一般的に真空蒸着装置で利用される公知の真空チャンバ(ベルジャー、真空槽)である。
真空チャンバ12には、真空排気部14が配管14aを介して接続されている。
【0023】
真空排気部14は、特に限定はなく、必要な到達真空度を達成できるものであれば、真空蒸着装置で利用されている各種のものが利用可能である。例えば、油拡散ポンプ、クライオポンプ、またはターボモレキュラポンプ等を利用すればよい。また、補助として、クライオコイル等を併用してもよい。なお、本実施形態の真空蒸着装置10においては、真空チャンバ12内の到達真空度は、3×10−3Pa以下であることが好ましい。
また、真空チャンバ12には、真空度調整用のアルゴンガスの導入などを行うための、ガス導入手段が設けられてもよい。ガス導入手段は、ボンベ等との接続手段またはガス流量の調整手段等を有するか、またはこれらに接続されるものである。ガス導入手段は、真空蒸着装置で用いられる公知のものが用いられる。
【0024】
基板保持手段16は、基板Sを保持するとともに、回転させることができるものである。この基板保持手段16は、モータ22と、回転軸24と、基板装着部26と、基板ホルダ28とを有し、回転軸24および基板装着部26は、真空チャンバ12の内部12aの上部に設けられている。
モータ22は、真空チャンバ12の外部に設けられており、回転軸24を介して基板装着部26に接続されている。基板装着部26は、回転軸24に軸支され、この回転軸24は、モータ22により回転される。これによって、モータ22により基板装着部26が回転される。
【0025】
基板装着部26は、その表面26aに基板Sが載置され、基板ホルダ28により基板Sが保持されるものである。
基板ホルダ28は、基板Sにおける成膜領域、例えば、表面Sfを蒸発源18に向けて開放した状態で、基板Sを保持するものである。基板ホルダ28としては、基板Sの周縁を保持する枠体、成膜領域に対応する部分が開放する基板Sを収容する筐体等、および真空蒸着装置等の真空成膜装置で利用されている各種の基板ホルダが全て利用可能である。また、基板ホルダ28が、基板Sの成膜面における成膜領域を規制するマスクを兼ねてもよいし、また、基板Sの成膜面における成膜領域を規制するマスクを別途設けてもよい。
基板ホルダ28は、嵌合部材または係合部材を用いる方法等、公知の手段で、基板装着部26の所定の位置に、基板Sが着脱可能にされる。
【0026】
本実施形態の真空蒸着装置10において、基板装着部26には、基板ホルダ28により取り付けた基板Sを加熱するための加熱手段、および加熱手段による熱をムラなく均一に基板Sに伝えるための熱伝導性シート等が設けられていてもよい。
さらに、基板ホルダ28の内面にも、基板Sの裏面(成膜面の逆面)に密着して、基板装着部26が有する加熱手段による熱をムラなく均一に基板Sに伝えるための熱伝導性シート等が設けられていてもよい。
【0027】
なお、本実施形態の真空蒸着装置10は、基板Sを回転しつつ成膜を行う装置に限定はされず、例えば、基板Sを固定した状態で成膜を行うもの、または基板Sを直線状に往復搬送しつつ成膜を行するものであってもよい。
【0028】
蒸発源18は、膜となる成膜材料Mを加熱し、蒸発させるものであり、基板保持手段16に対向して真空チャンバ12内の下部に設けられている。
この蒸発源18は、加熱容器30と、ヒータ32a〜32cと、温度調節部34と、温度センサ36a〜36dと、フィルタ板38と、シャッタ部40とを有する。
【0029】
加熱容器30は、上面が開放する中空の容器であり、例えば、矩形状の筐体の中央部に円筒状の凸部31が設けられている。
加熱容器30は、内部30aにおいて、この凸部31と壁面30bとによるできる隙間に、成膜材料Mがペレットまたはショット等の形態で充填される。
本実施形態において、成膜材料Mとしては、例えば、Se、またはSeを主成分とするものが用いられる。このSeを主成分とするものとしては、例えば、NaドープSeである。このNaの量は、Seに対して0.2〜300モルppmである。
本実施形態においては、上記Se、またはSeを主成分とするもの以外にも、金属または合金をペレットの形態で加熱容器30の内部30aに充填し、溶融させて成膜することもできる。さらには、複数種類の金属または合金を、それぞれ単体で加熱容器30の内部30aにペレットの形態で充填し、溶融させて成膜することもできる。
【0030】
加熱容器30は、電熱線等の外部からの加熱手段を用いる真空蒸着用のルツボと同様に、成膜材料Mと反応せず、かつ十分な耐熱性を有し、かつ熱伝導性の良好な材料で形成すればよく、例えば、各種の金属もしくは合金または各種のセラミックスで形成される。なお、加熱容器30は、成膜材料Mの融点などに応じて適宜材質が選択されるものであり、例えば、融点が220℃のセレンでは、SUS304などのステンレス鋼を用いることができる。
また、加熱容器30の形状に、特に限定はなく、各種の形状の容器が利用可能である。
加熱容器30は、円筒状、四角筒状などの角筒状のように、筒の上下方向と直交する方向の断面の変動が無い形状であることが好ましい。加熱容器30を、このような筒状とすることにより、充填する成膜材料が蒸発して液面(蒸発面)が下降しても、蒸発面の面積が変化しないので、成膜材料の蒸発量すなわち成膜レートの安定化、および成膜材料蒸気の指向性の安定化等の点で好ましい。
【0031】
ヒータ32a〜32cは、加熱容器30の内部30aの成膜材料Mを溶融させるものである。加熱容器30の開口部30dを除いて周囲を囲むようにしてヒータ32a〜32cが設けられている。
本実施形態においては、例えば、加熱容器30の高さ方向に領域を、上部、中部および下部に3分割し、各領域に対して、それぞれヒータ32a〜32cが設けられている。
また、各ヒータ32a〜32cは、温度調節部34に接続されている。
温度調節部34は、加熱する温度、すなわち、設定温度に応じて、各ヒータ32a〜32cに印加する電圧、電流または電力などを調節するものである。この温度調節部34は、制御部20に接続されている。
【0032】
加熱容器30の内部30aには、各ヒータ32a〜32cが設けられる領域に対応して、温度センサ36a〜36cが設けられている。また、加熱容器30の底部30cにも温度センサ36dが設けられている。
各温度センサ36a〜36dは、制御部20に接続されており、各温度センサ36a〜36dは、例えば、熱電対である。
制御部20は、設定温度と、温度センサ36a〜36dによる測定温度とに応じて、例えば、フィードバック制御により加熱容器30内の温度を設定温度となるように、各ヒータ32a〜32cに供給する電圧、電流または電力を制御する。
【0033】
ヒータ32a〜32cは、その構成は、特に限定されるものではない。電熱線、導体などの抵抗体ヒータ、シースヒータなど各種のものが利用可能であり、成膜材料Mの融点などに応じて適宜選択されるものである。
【0034】
フィルタ板38は、成膜時に発生する成膜材料Mの蒸気を通過させるとともに、外部から加熱容器30の内部30aに異物が進入することを防ぐものである。フィルタ板38を通過した成膜材料Mの蒸気は基板装着部26(基板S)に到達する。
このフィルタ板38は、加熱容器30の開口部30dに設けられている。フィルタ板38は、図2に示すように、平板に複数の開口部38aが形成されたものである。図2に示すフィルタ板38は、板厚が50μm、開口部38aの形状が六角形であり、その大きさが200μm、隣接する開口部38の間の隙間38bにおいて最も狭いところが50μmであり、開口率が60%である。
【0035】
フィルタ板38においては、開口部38aの形状は、特に限定されるものではなく、例えば、円形、楕円形、六角形以外の多角形などである。
また、開口部38aの大きさは、特に限定されるものではなく、例えば、直径(円の場合)または相当直径(楕円または多角形等の場合)は、25〜500μmであることが好ましく、60〜400μmがより好ましい。
なお、相当直径とは「4×面積/総辺長(または全周長)」で表わされる長さのことである。
【0036】
また、フィルタ板38においては、フィルタ板38において、開口部38aの開口率は、25〜80%であることが好ましく、40〜60%がより好ましい。
【0037】
また、フィルタ板38において、開口部38aは、例えば、レーザ加工、フォトリソグラフィ法とエッチングとを組み合せた加工、またはプレスなどの機械加工により形成される。このフィルタ板38の組成は、成膜時に発生する成膜材料Mの蒸気を通過させるとともに、外部から加熱容器30の内部30aに異物が進入することを防ぐことができ、成膜時の熱に対して、変形などが生じなければ、特に限定されるものではない。フィルタ板38としては、例えば、ステンレスなどが用いられる。
【0038】
本実施形態のフィルタ板38により、成膜材料Mの蒸気を通過させるとともに、外部から加熱容器30の内部30aに異物が進入することを防ぐことができる。さらには、このフィルタ板38は、平板により構成されており、通常のメッシュのように織目がないため、蒸発源18からの成膜材料Mの蒸気が凝集して、蒸着カスが生じることがなく、この蒸着カスが詰まることもない。これにより、予期しない時期に蒸着カスが基板Sの表面Sfまたは成膜中の成膜面に飛んでいき、付着することを抑制することができるため、成膜欠陥の発生を抑制することができる。
【0039】
本実施形態の真空蒸着装置10においては、蒸発源18のフィルタ板38を通過する成膜材料Mの蒸気を遮るシャッタ部40(シャッタ板42)が設けられている。
シャッタ部40は、回転支持軸44と、シャッタ板42と、駆動部46とを有する。
シャッタ板42はフィルタ板38を通過する成膜材料Mの蒸気を遮る板状部材である。
回転支持軸44は、シャッタ板42をフィルタ板38の上方に保持するとともに、シャッタ板42を水平面において回転可能に回転支持するものであり、軸方向を真空チャンバ12の底部に対して垂直にして配置されている。
【0040】
駆動部46は、回転支持軸44を回転させるものであり、この駆動部46により、シャッタ板42が回転されて、フィルタ板38の上方に配置されて、フィルタ板38を通過する成膜材料Mの蒸気を遮ることができる。この状態を、シャッタ板42を閉めるという。
駆動部46は、制御部20に接続されており、このシャッタ板42による成膜材料Mの蒸気の遮断、すなわち、シャッタ板42の移動は、制御部20により制御される。
駆動部46は、回転支持軸44を回転させることができれば、その構成は特に限定されるものではなく、例えば、モータが用いられる。
【0041】
本実施形態の真空蒸着装置10は、蒸発源18(加熱容器30)を1つ有するものであるが、本発明は、これに限定はされず、複数の蒸発源18(加熱容器30)を有するものであってもよい。この場合には、各蒸発源18は、1箇所に集中して配置してもよく、分散して配置してもよい。さらには、各蒸発源18に異なる成膜材料を充填する、多元の真空蒸着を行ってもよい。
本発明において、加熱容器30の数は、1回の成膜で使用する成膜材料の量、基板Sの大きさ、要求される成膜材料溶融の均一性または溶融速度、使用する電源等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0042】
また、蒸発源18においては、加熱容器30内の成膜材料Mの量を測定する手段を有してもよい。
なお、本発明の蒸発源18において、成膜材料Mの加熱手段は、ヒータ32a〜32cを利用するものに限定はされるものではなく、カーボンなどの誘導加熱体からなる加熱容器と誘導加熱用コイルと高周波電源等を用いる誘導加熱を利用するものでもよい。
また、加熱容器30として、通電によって自身が発熱する抵抗加熱体を用いる、いわゆる抵抗加熱によるものであってもよい。
【0043】
本実施形態の真空蒸着装置10は、厚膜の成膜に好適であり、100〜1100μm程度の膜厚が必要な、アモルファスセレンによる光導電層(光電変換膜)など、直接方式の放射線画像検出器(フラットパネル検出器(FPD(Flat Panel Detector))の光導電層の形成(成膜)に用いることができる。
ここで、FPDにおいては、アモルファスセレン等の光導電膜とTFT(Thin Film Transistor)等を用い、放射線の入射によって光導電膜が発した電子−正孔対(e−hペア)を収集して、TFTのスイッチングを行った個所から電流として感知することで放射線画像を得ている。このことから、本実施形態の真空蒸着装置10をFPDの製造に利用する場合には、電気読取方式のFPDの製造工程における、光導電膜の形成に利用することができる。
【0044】
また、上記以外にも、記録用光導電層および読取用光導電層と、両導電層の間に形成されるAs2Se3等から形成される電荷蓄積層とを有し、放射線の照射によって潜像電荷を蓄積し、読取光の照射によって潜像電荷を流して電流として感知することで放射線画像を得る光読取方式のFPDの製造に本実施形態の真空蒸着装置10を利用することができる。
この場合、光読取方式のFPDの製造において、記録用光導電層および/または読取用光導電層の形成にも、好適に利用可能である。記録用光導電層は、電磁波を吸収して電荷を発生する光導電性物質で形成されるものである。読取用光導電層は、電磁波、特に可視光を吸収して電荷を発生する光導電性物質で形成されるものである。記録用光導電層および読取用光導電層は、いずれもアモルファスセレンやアモルファスセレン化合物等で形成される。
上述の電気読取方式のFPDの製造工程または光読取方式のFPDの製造工程においては、光導電膜を形成するもの(光導電膜が形成される基材)が基板Sとなる。
【0045】
次に、本実施形態の真空蒸着装置10による真空蒸着方法について説明する。
本実施形態の真空蒸着装置10によって、基板Sの表面Sfに膜を形成する際には、先ず、真空チャンバ12を開放して、蒸発源18の加熱容器30に所定量の成膜材料M、例えば、NaドープSeを充填する。なお、Naの量は、例えば、Seに対して0.2〜300モルppmである。
そして、基板Sを基板ホルダ28により基板装着部26の所定の位置に基板Sを固定し、真空チャンバ12を閉塞する。
その後、真空排気部14を駆動して真空チャンバ12の減圧を開始し、さらに、蒸発源18のヒータ32a〜32cに温度調節部34により電力を供給して成膜材料Mの加熱を開始する。
【0046】
真空チャンバ12内が所定の真空度となった時点で、必要に応じてモータ22によって基板Sを回転させる。成膜材料M(加熱容器30)の温度が所定の設定温度になった時点で、駆動部46により回転支持軸44を回転させてシャッタ板42を回転させて、フィルタ板38の上方を開放する。これにより、成膜材料Mの蒸気は、フィルタ板38を通過し、基板装着部26に取り付けられた基板Sに到達し、基板Sヘの成膜が開始される。
【0047】
基板Sの表面Sfに所定の膜厚の膜が成膜されると、温度調節部34からのヒータ32a〜32cへの電力供給を停止して成膜材料Mの加熱を停止し、シャッタ板42を回転させてシャッタ板42を閉めて、モータ22による基板Sの回転も停止する。このようにして、例えば、基板Sの表面Sfにアモルファスセレン膜を形成する。
その後、真空チャンバ12を大気開放し、成膜を終了した基板Sの基板ホルダ28による固定を解除し、基板装着部26から基板Sを取り外し、次の工程に供給する。
【0048】
なお、成膜した基板Sを取り出した後、成膜材料Mが加熱容器30内にない状態で、真空チャンバ12を閉塞して、内部12aを所定の真空度(圧力)にした後、ヒータ32a〜32cにより、成膜材料Mに応じた所定の温度に加熱し、所定の時間保持した後、温度を下げる。このようにして、フィルタ板38を加熱してもよく、成膜材料Mがセレンであれば、例えば、410℃の温度に30分間保持する。これにより、フィルタ板38に、NaドープSeの蒸気が凝集して付着したものについて確実に除去される。これにより、更に一層成膜欠陥の原因を抑制することができ、品質の良い膜を形成することができる。
【0049】
また、真空蒸着方法において、成膜時に突沸が発生すると、成膜した膜の品質劣化、成膜材料の利用効率の低下、または装置内部の汚染が生じることがある。このため、フィルタ板38を設けて突沸を抑制しているが、これ以外の方法でも突沸を抑制することが好ましい。
突沸の原因は、溶融した成膜材料Mの中(中心部または下部)において優先的に蒸発が生じて気泡が発生し、それが溶融液内または溶融液表面で弾けることによる場合が多い。
このことから、加熱容器30の上部の温度が下部(底部)の温度よりも高温になるような加熱条件とすることにより、溶融液面における蒸発が、溶融液内部における蒸発よりも優先する状態を好適に生成できる。このように、加熱容器30の上部の温度を下部(底部)の温度より高くすることにより突沸を防止できる。
本発明において、加熱容器30の上部の温度を下部(底部)の温度より高する方法としては、例えば、ヒータ32aに供給する電流、電圧、電力などをヒータ32cよりも多くすることが挙げられる。
【0050】
本実施形態の真空蒸着装置10およびこの装置を用いた真空蒸着方法においては、平板に複数の開口部38aが形成されたフィルタ板38を、蒸発源18の上方に設けることにより、通常のメッシュのように織目がないため、蒸発源18からの成膜材料Mの蒸気が凝集して、網目に蒸着カスが生じることがない。これにより、予期しない時期に蒸着カスが基板Sの表面Sfまたは成膜中の成膜面に飛んでいき、付着することがなく、成膜欠陥が抑制されて品質の良い膜を形成することができる。
さらには、フィルタ板38に予期しない時期に蒸着カスが基板Sの表面Sfまたは成膜中の成膜面に付着することがないことから、各基板Sへの膜の形成を繰返し行う場合であっても、各基板Sに膜質が高い膜を形成することができる。よって、最終的に得られる製品の歩留まりも高めることができる。
【0051】
また、本実施形態の真空蒸着装置10およびこの装置を用いた真空蒸着方法によれば、フィルタ板38を用いているため、網目に蒸着カスが生じて詰まることがない。このため、フィルタ板38を取り外して擦って蒸着カスを取り除くこと、有機溶媒または酸もしくはアルカリ溶液を用いて蒸着カスを取り除くことが不要であり、すなわち、クリーニングが不要であり、メンテナンスが容易になる。このことから、メンテナンス時間に要する時間を短くすることができ、真空蒸着装置10の稼働率を高めることができ、最終的に得られる製品の生産効率を高くすることができる。
【0052】
以上、本発明の真空蒸着装置および真空蒸着方法について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明について、より詳細に説明する。
【0054】
[実施例1]
図1に示す真空蒸着装置10を用いて、2枚のガラス基板について、各基板の表面にアモルファスセレン膜を形成し、合計2回の成膜を行った。各回毎に、形成されたアモルファスセレン膜をデジタルマイクロスコープにて、欠陥サイズが100μm以上の欠陥の個数を測定し、アモルファスセレン膜の単位面積当りの欠陥数を求めた。
【0055】
真空蒸着装置10において、蒸発源18の加熱容器30には、開口部30dを1辺が120mmの正方形とし、高さが110mmのステンレス製の容器を用いた。
基板Sは、400mm×400mmのガラス基板を用い、加熱容器30の開口部30dから400mm上方の位置に配置した。
【0056】
フィルタ板38には、厚さが50μmのSUS304の平板を用いた。この平板に、フォトリソグラフィ法とエッチングにより、六角形の開口部38aを、開口径200μm、隙間38bを50μm、開口率60%で形成したフィルタ板38を用いた。
成膜材料MにはNaドープSeを用いた。これらのNaドープSeの質量は600gである。なお、Naの量は、セレンに対して10モルppmとした。
【0057】
成膜条件は、真空チャンバ12内を3×10−3Paとした。また、蒸発源18において、加熱容器30内の底部(温度センサ36dの位置)の温度を265℃に設定し、加熱容器30内の上部(温度センサ36aの位置)の温度を270℃に設定した。各設定温度になるようにフィードバック制御により各ヒータ32a〜32cを制御した。
なお、温度センサ36a〜36dには、K型熱電対を用いた。
【0058】
成膜に際しては、基板Sを回転させることなく、停止した状態で成膜した以外は、上述の図1に示す真空蒸着装置10による真空蒸着方法と同様の方法によりガラス基板の表面にアモルファスセレン膜を形成した。
1枚目のガラス基板の成膜が終了した後、ガラス基板を取り出す。そして、ガラス基板を設置することなく、成膜材料Mが加熱容器30内にない状態で真空チャンバ12を閉塞し、その内部12aを3×10−3Paとした後、加熱容器30の設定温度を410℃とし、410℃の温度に達した後、30分間保持した。このように、フィルタ板38を加熱処理した。そして、真空チャンバ12の内部12aが室温に戻った後、真空チャンバ12を開放して、2枚目のガラス基板を真空チャンバ12内に設置し、1枚目のガラス基板と同様にアモルファスセレン膜の成膜を行った。
【0059】
[比較例1]
比較例1は、上記実施例1に比して、フィルタ板の構成が異なるだけで、それ以外については、上記実施例1と全く同様にして基板Sにアモルファスセレン膜を形成し、欠陥数を求めた。
比較例1においては、フィルタ板として、印刷用メッシュを用いた。この印刷用メッシュは、平織りのメッシュであり、開口率が42%、開口径が54μm、線径は30μm、メッシュの厚さが67μmであった。
【0060】
上記実施例1および比較例1の欠陥数の結果を下記表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
上記表1に示すように、実施例1においては、1枚目のガラス基板にアモルファスセレン膜を形成したものには欠陥がなく、2枚目のガラス基板にアモルファスセレン膜を形成したものにも欠陥がなかった。
一方、比較例1においては、1枚目のガラス基板にアモルファスセレン膜を形成したものには欠陥がないものの、2枚目のガラス基板にアモルファスセレン膜を形成したものには欠陥があった。
【0063】
この比較例1の平織りのメッシュについて、図3(a)に示す蒸着に使用していない新品の平織りのメッシュ100を用いて、実施例1と同様に1回成膜を行った。次に、成膜後、実施例1のフィルタ板38を加熱処理と同じ条件で、平織りのメッシュ100に加熱処理を施した。この結果、図3(b)に示す平織りのメッシュ100の領域αにあるように、蒸着カスが織目に固着していた。加熱処理によって織目から取り除けていない蒸着カスが、次のガラス基板の成膜時に、ガラス基板に飛んでいき、比較例1においては、成膜欠陥を引き起こしたといえる。
このように、上記表1に示されるように、本発明によれば、基板への成膜を繰返し行っても、欠陥を生じさせることがなく、欠陥数を大幅に低減できた。以上の結果より、本発明の効果は、明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施形態に係る真空蒸着装置を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る真空蒸着装置に用いられるフィルタ板を示す模式図である。
【図3】(a)は、蒸着に使用していない新品の平織りのメッシュを示す模式図であり、(b)は、蒸着後、加熱により蒸着カスの除去を施した平織りメッシュを示す模式図である。
【符号の説明】
【0065】
10 真空蒸着装置
12 真空チャンバ
14 真空排気部
16 基板保持手段
18 蒸発源
20 制御部
30 加熱容器
32a〜32c ヒータ
34 温度調節部
36a〜36d 温度センサ
38 フィルタ板
38a 開口部
40 シャッタ部
42 シャッタ板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内で蒸着により基板の表面に膜を形成する真空蒸着装置であって、
前記真空容器内を排気する真空排気手段と、
前記真空容器内の上部に設けられ、前記基板を保持する基板保持手段と、
前記基板保持手段に対向して前記真空容器内の下部に設けられ、前記膜となる成膜材料を加熱し、蒸発させる蒸発源と、
前記蒸発源の上方に設けられたフィルタ板とを有し、
前記フィルタ板は、平板に複数の開口部が形成されたものであることを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記成膜材料は、セレンを主成分とするものである請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記膜が形成された前記基板は、放射線画像検出器に用いられる請求項1または2に記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
真空容器内で蒸着により基板の表面に膜を形成する真空蒸着方法であって、
前記蒸着により基板に膜を形成するに際して、前記膜となる成膜材料を加熱し、蒸発させる蒸発源の上方に、平板に複数の開口部が形成されてなるフィルタ板を配置することを特徴とする真空蒸着方法。
【請求項5】
前記成膜材料は、セレンを主成分とするものである請求項4に記載の真空蒸着方法。
【請求項6】
前記膜が形成された前記基板は、放射線画像検出器に用いられる請求項4または5に記載の真空蒸着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−203515(P2009−203515A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46279(P2008−46279)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】