説明

真空蒸着装置および真空蒸着方法

【課題】生産性を高めることができるとともに均一な蒸着膜を形成することができる真空蒸着装置および真空蒸着方法を提供する。
【解決手段】フィルムFを外周に沿わせて連続的に送る冷却ドラム21を備え、このフィルムFの外周側に、有機材料を加熱して蒸発させるとともに放出させて当該フィルムFに負圧下で蒸着させる蒸発源31を4基配置した真空蒸着装置1であって、上記蒸発源31のうち、第1蒸発源31Aおよび第2蒸発源31Bは、同一の有機材料を蒸着させるものであり、上記第1蒸発源31Aは蒸発させた有機材料の放出量を調整し得るバルブ駆動部33を有せず、第2蒸発源31Bは当該バルブ駆動部33を有するものであり、上記第1蒸発源31Aおよび第2蒸発源31B以外の他の蒸発源31C,31Dは、上記バルブ駆動部33を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面に有機材料を蒸着させるための真空蒸着装置および真空蒸着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機ELは、自己発光による広視野角、高速応答性、低消費電力など優れた特長を有するため、近年では、有機ELがテレビや携帯電話のディスプレイに用いられている。有機ELの構造は、電極基板上に有機材料からなる数十nmの層を複数形成させて成膜したものである。また、当該電極間を通電することで上記有機材料からなる層が発光する。現在一般的な有機ELデバイスの製造方法は、低分子材料を用いた真空蒸着による成膜、すなわち、10−4Pa台以下の高真空中で、材料を加熱、蒸発させて蒸発源に対向させた基板に成膜していく方法である。また、有機ELの自己発光の特長を利用して、プラスチックなどのフィルム上に有機ELデバイスを形成することが行われている。フィルム上への成膜方法として、フィルムを連続的に送り出し、巻き取りを行いながら成膜していくロール方式(ロールトゥロール法とも言われる)を採用することで、高い生産性が得られる。
【0003】
このようなロールトゥロール法で真空蒸着によりフィルム上への成膜を行っていく場合、有機材料からなる層を複数形成するためにも、有機材料の蒸発源が多数必要になる。これら蒸発源は、発光特性にもよるが、通常、5〜15源程度が必要になる。
【0004】
ロールトゥロール法による成膜装置として、フィルム送りドラムであるキャンロール(フィルム体冷却ドラム)の周囲に複数の蒸発源を設け、フィルムを間欠的または連続的に送り、フィルム上に複数の材料を成膜する構成が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−350136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記ロールトゥロール法での真空蒸着による成膜装置において、有機EL等の有機物をフィルム上に成膜する場合には、以下のような課題がある。
生産性を上げるため、巻出し部分(巻出ロール)からキャンロール(フィルム体冷却ドラム)部分を経て巻取り部分(巻取ロール)までのいずれか任意の位置において、有機ELデバイスを構成する全ての有機材料をフィルム上に成膜できるだけの蒸発源数が必要となる。一方、フィルムが連続的に送られる場合、フィルム送り速度は一定であるので、フィルム上に成膜される膜厚は、蒸発源からの蒸着レートのみで制御される。このため、複数の蒸発源の全てで精密な蒸着レートの制御が必要であるが、通常要求される±3%程度の膜厚均一性を、上述のような多数の蒸発源による膜厚制御で得ることは困難であるという問題があった。
【0007】
また、熱劣化しやすい有機材料を用いる場合には、蒸発源の温度を上げることができないため、十分な蒸発レートを得られず、一方でフィルムの送り速度は一定であることから、この最も蒸発レートの低い有機材料に合わせてフィルムの送り速度が決定され、生産性が低くなるという問題もあった。
【0008】
そこで、本発明では、真空蒸着による有機ELの製造において、高い生産性を有するとともに、フィルム上に均一な蒸着膜の形成が可能な真空蒸着装置および真空蒸着方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る真空蒸着装置は、基板を外周に沿わせて連続的に送る回転体を備え、この基板の外周側に、有機材料を加熱して蒸発させるとともに放出させて当該基板に蒸着させる蒸発源を3以上配置した真空蒸着装置であって、
上記蒸発源のうち、第1の蒸発源および第2の蒸発源は、同一の有機材料を蒸着させるものであり、
上記第1の蒸発源は蒸発させた有機材料の放出量を調整し得る制御機構を有せず、第2の蒸発源は当該制御機構を有するものである。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る真空蒸着装置は、請求項1に記載の真空蒸着装置において、上記蒸発源が、蒸発した有機材料を放出させて基板に蒸着させる放出部材と、一端側が上記放出部材に接続されるとともに他端側が鉛直下方に向けたL型連結部材とを有し、
上記L型連結部材の他端側に、内部に充填された有機材料を加熱して蒸発させる蒸発部が接続されたものである。
【0011】
さらに、本発明の請求項3に係る真空蒸着方法は、請求項1または2に記載の真空蒸着装置を用いた真空蒸着方法であって、
蒸着に用いる有機材料のうち、有機材料を蒸着させて基板に形成する層厚を、当該有機材料が加熱により劣化しない最大の蒸発レートで割った値が最大となるものを選定し、
この選定された有機材料を第1の蒸発源および第2の蒸発源に充填し、
第1の蒸発源で上記有機材料を基板に蒸着させるとともに、第2の蒸発源で上記有機材料の放出量を調整して上記層厚まで当該有機材料を基板に蒸着させるものである。
【0012】
また、本発明の請求項4に係る真空蒸着方法は、請求項3に記載の真空蒸着方法であって、第1の蒸発源および第2の蒸発源に充填された有機材料を蒸着させて、所定の層厚を得ることができるための基板の送り速度を決定し、
この決定された基板の送り速度および他の蒸発源で形成する層厚に基づいて、当該他の蒸発源の加熱温度および/または当該他の蒸発源で蒸発させた有機材料の放出量を決定するものである。
【発明の効果】
【0013】
上記真空蒸着装置および真空蒸着方法によると、同一の有機材料を、制御機構を有しない蒸発源と当該制御機構を有する蒸発源とに充填して、蒸着を行うものであるから、制御機構を有しない蒸発源により生産性を高めることができるとともに、制御機構を有する蒸発源により均一な蒸着膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1に係る真空蒸着装置の断面図である。
【図2】同蒸着部の一部拡大断面図である。
【図3】同蒸発源の拡大斜視図である。
【図4】同蒸発源の拡大断面図であり、(a)はバルブ駆動部における拡大断面図、(b)は蒸発部における拡大断面図である。
【図5】同制御装置のブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る蒸発源のバルブ駆動部における拡大断面図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係る蒸発源のバルブ駆動部における拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態1]
以下、本発明の実施の形態1に係る真空蒸着装置および真空蒸着方法を図1〜図5に基づいて説明する。
【0016】
まず、図1および図2に基づいて、上記真空蒸着装置の基本構成について説明する。
この真空蒸着装置は、連続的に送られる帯状の基板(予め透明電極としてITOが成膜されたフィルムであり、以下では単にフィルムという)に複数の有機材料を真空(10−4Pa台以下の負圧)下で蒸着させるものである。言い換えれば、上記真空蒸着装置は、ロールに巻き付けられたフィルムを引き出しながら連続的に真空蒸着を行い、複数の有機材料の層からなる蒸着膜が形成されたフィルムを他のロールで巻き取るものである。すなわち、図1に示すように、真空蒸着装置1は、巻き付けられたフィルムFを引き出す巻出部3と、この巻出部3の下前方に配置されて引き出されたフィルムFに連続的に蒸着を行う蒸着部2と、この蒸着部2の下後方で且つ巻出部3の下方に配置されて蒸着膜が形成されたフィルムFを巻き取る巻取部4と、上記蒸着部2に巻出部3および巻取部4を接続する接続部5と、フィルムFへの蒸着を制御する制御装置(図1では省略)とから構成される。
【0017】
上記巻出部3は、内部を真空下に維持し得るとともに接続部5への連通口である巻出用連通口42が形成された巻出室41と、この巻出室41内に配置された巻出ロール群とから構成される。また、この巻出ロール群は、フィルムFが巻き付けられた巻出ロール43と、この巻出ロール43から引き出されたフィルムFを上記巻出用連通口42側へ転向させる巻出補助ロール44とからなる。
【0018】
上記巻取部4は、巻出部3と同様に、内部を真空下に維持し得るとともに接続部5への連通口である巻取用連通口46が形成された巻取室45と、この巻取室45内に配置された巻取ロール群とから構成される。また、この巻取ロール群は、蒸着膜が形成されたフィルムFを巻き取る巻取ロール47と、上記巻取用連通口46から巻取室45内に導かれたフィルムFをこの巻取ロール47側へ転向させる巻取補助ロール48とからなる。
【0019】
上記蒸着部2は、図1および図2に示すように、内部を負圧下に維持し得るとともに各接続部5への連通口である蒸着用連通口13がそれぞれ形成された蒸着室11と、この蒸着室11内に軸心が左右方向に配置されて巻出室41からのフィルムFを冷却しつつ巻取室45へ送る円筒形状の冷却ドラム(キャンロールともいう)21と、上記蒸着室11の外側に4基配置された蒸発源31と、これら蒸発源31よりも冷却ドラム21の近くに配置されて当該蒸発源31による蒸着を遮蔽し得る防着板(図2参照)23と、この防着板23と上記冷却ドラム21の間に配置されて上記フィルムFに形成された蒸着膜の膜厚を計測し得る4つの膜厚計19とから構成される。なお、以下では、冷却ドラム21の軸心側を内方側、その反対側を外方側という。
【0020】
上記蒸着室11の壁面は、D字形の左右側面(図示しない)と、矩形状の後面12および上下面14と、左右側面のD字形の湾曲縁に垂設した半円筒形状の前面15とから構成される。また、上記後面12の上部と下部には、それぞれ蒸着用連通口13が形成されている。さらに、上記前面15の半円筒形状は、蒸着室11内に配置された冷却ドラム21と同心状に形成されている。また、この冷却ドラム21の鉛直上方を0°として右回りの角度で位置を表すと、蒸発源31は、上記蒸着室11の外方側の0°,60°,120°および180°の位置に4基配置されており、以下では、それぞれ第1蒸発源31A、第2蒸発源31B、第3蒸発源31Cおよび第4蒸発源31Dという。さらに上記蒸着室11の壁面における、少なくとも蒸発源31の配置位置(0°,60°,120°および180°の位置)には、各蒸発源31で蒸発させた有機材料(以下、蒸発材料という)を導入するための開口部16がそれぞれ形成されている。なお、図1および図2には、一例として、0°から180°まで15°ごとに13の開口部16が形成された場合を示している。また、これら開口部16の内方側における周囲には、各蒸発源31から放出させた蒸発材料の混合を防止する案内板17が、それぞれ設けられている。さらに、上記開口部16の外方側における周囲には、各蒸発源31と接続するための短筒体18がそれぞれ取り付けられており、これら短筒体18の外方側には、それぞれフランジ部7が設けられている。なお、図1および図2には、蒸発源31が接続されない短筒体18の外方側のフランジ部7に、蒸着室11内への空気の流入を防ぐための蓋を取り付けた場合を示している。
【0021】
上記冷却ドラム21は、図1に示すように、フィルムFを外周に沿わせて連続的に送るための回転体22と、この回転体22の左右側面に取り付けられて当該回転体22を回転自在に支持する回転軸(図示しない)と、上記フィルムFを冷却するために上記回転体22の内部に設けられて冷却水を循環させ得る冷却配管(図示しない)とを具備する。
【0022】
上記防着板23は、図2に示すように、冷却ドラム21と同心状に形成された半円筒形状のマスク板24と、このマスク板24を上記冷却ドラム21と同一軸心周りに回転させる回転機構(図示しない)とから構成される。上記マスク板24は、例えば、冷却ドラム21に沿わせたフィルムFの表面(外方側の面)に面して配置された第1マスク24Aと、この第1マスク24Aの外方側に配置された第2マスク24Bと、この第2マスク24Bの外方側に配置された第3マスク24Cとから構成される。これら第1マスク24A、第2マスク24Bおよび第3マスク24Cは、それぞれ所定の開口が形成されており、各回転角度を調整することで、下記の(i)〜(iv)をなし得るように構成されている。これら(i)〜(iv)とは、(i)蒸着の初期段階において蒸着レートが安定するまで蒸発源31を遮蔽する、(ii)一時的に蒸着を停止する場合などフィルムFを停止させた際に蒸発源31を遮蔽する、(iii)必要な有機材料のみで蒸着を行うため他の有機材料が充填された蒸発源31を遮蔽する、(iv)フィルムFにパターニングを形成する場合などフィルムFを停止させた際に特定の蒸発源31を遮蔽する、である。
【0023】
次に、図3および図4に基づいて、蒸発源31を詳細に説明する。
上記蒸発源31は、図3に示すように、内方側の端部で短筒体18に接続されて蒸発材料を蒸着室11内に放出する放出部材32と、この放出部材32の右側または左側に一端側が接続されて他端側を鉛直下方へ向けることができるL型連結部材34とを有する。また、第2蒸発源31B、第3蒸発源31Cおよび第4蒸発源31Dは、上記放出部材32の外方側の端部に接続されて当該放出部材32から放出する蒸発材料の量(以下、放出量という)を調整するバルブ駆動部(制御機構の一例である)33を有するが、第1蒸発源31Aは当該バルブ駆動部33を有しない(図1参照)。ここで、上記放出部材32は、内方側の端部から外方側の端部まで連通するとともに、右側または左側に分岐して連通したT字管形状の部材である。また、上記放出部材32は、図3および図4に示すように、内方側および外方側の両端部並びに分岐した端部に設けられたフランジ部7と、外方側の端部の内側に設けられてバルブ駆動部33の弁体33V(後述する)の外周を覆う伸縮ベローズ32Bと、上記弁体33Vにより開度が制御されて蒸発材料の放出量を制御できる弁座32Vとを具備する。一方、上記バルブ駆動部33は、図4(a)に示すように、外方側に設けられたモータ33Mと、このモータ33Mの内方側に設けられて当該モータ33Mにより弁体33Vを弁座32Vに対して出退させるシリンダ32Sとを具備する。以下では、上記バルブ駆動部33の弁体33Vと、上記放出部材32の弁座32Vとを、まとめてバルブ部という。
【0024】
上記L型連結部材34は、中央で略直角に折り曲げられたパイプの両端側に、フランジ部7が設けられたものである。このL型連結部材34の一端側と放出部材32の分岐した端部とは、互いにフランジ部7でボルト接合(図示しない)される構造であるので、L型連結部材34は、他端側を鉛直下方に向けて上記放出部材32に接続されている。また、上記L型連結部材34の他端側には、蒸発部35が接続されている。この蒸発部35は、図3および図4(b)に示すように、内部に有機材料が充填される蒸発容器36と、この蒸発容器36の外周側に設けられて当該蒸発容器36内の有機材料を加熱して蒸発させる蒸発用電熱ヒータ39とを有する。また、蒸発容器36の上部には、上記L型連結部材34の他端側に接続するためのフランジ部7が設けられている。なお、蒸発源31および短筒体18を通過する蒸発材料の温度低下を防止するため、すなわち、蒸発材料が蒸発源31および短筒体18に冷却されて付着することを防止するため、フランジ部7、L型連結部材34、放出部材32および短筒体18の各外周側には、図4に示すように、付着防止用電熱ヒータ38が設けられている。
【0025】
ところで、上記接続部5は、内部にフィルムFを通過させるものであって、両端が上記蒸着室11の蒸着用連通口13と、巻出用連通口42または巻取用連通口46とに、それぞれ接続されている。
【0026】
次に、図5に基づいて、制御装置50を詳細に説明する。
この制御装置50は、図5に示すように、冷却ドラム21、巻出ロール43および巻取ロール47を所定の速度で回転させてフィルムFを送るフィルム速度制御部63と、各蒸発源31に設けられたバルブ部の開度を制御して各蒸発源31からの蒸発材料の放出量を調整し得る放出量制御部64と、付着防止用電熱ヒータ38および蒸発用電熱ヒータ39による加熱温度を制御し得る加熱温度制御部65と、防着板23の第1マスク24A〜第3マスク24Cの回転角度をそれぞれ制御し得る防着板制御部66とを有する。これら4つの制御部(以下、蒸着用制御部63〜66という)、すなわちフィルム速度制御部63、放出量制御部64、加熱温度制御部65および防着板制御部66は、上記制御装置50が有する以下の構成により、後述する入力データに基づいて自動的に蒸着を行い得るものである。ところで、上記入力データは、3種類の有機材料の各名称(以下、有機材料名という)と、各有機材料により形成する所望の層厚(以下、必要層厚という)と、各有機材料が劣化しない最大の加熱温度(以下、最大加熱温度という)と、各有機材料がそれぞれの最大加熱温度で加熱された際の蒸発レート(以下、最大蒸発レートという)とである。
【0027】
また、上記制御装置50は、上記入力データが入力される入力部51と、入力部51の入力データに基づいて各有機材料の必要層厚を最大蒸発レートで割った値(すなわち、[必要層厚]/[最大蒸発レート])を算出するとともに当該算出値から最大のものを選定する選定部52と、必要層厚を形成できる最大のフィルム送り速度(以下、フィルム送り最大速度という)を上記入力データに基づいて算出する最大速度演算部53と、フィルム送り速度を手動により設定するフィルム速度調整ダイヤル74と、このフィルム速度調整ダイヤル74で設定されたフィルム送り速度(以下、フィルム送り設定速度という)で各有機材料の必要層厚を形成できるかを判断する判断部54と、上記選定部52、最大速度演算部53および判断部54による結果を表示する表示部55とを有する。ここで、上記最大速度演算部53は、選定された有機材料については、最大蒸発レートを2倍して必要層厚で割った値(すなわち、[最大蒸発レート]×2/[必要層厚])、その他の有機材料については、最大蒸発レートを必要層厚で割った値(すなわち、[最大蒸発レート]/[必要層厚])を算出するとともに、これら3つの算出値から最小のものを選定してフィルム送り最大速度とするものである。なお、選定された有機材料については、2つの蒸発源31A,31Bで蒸着を行うので、蒸着レートを最大蒸発レートの2倍までにすることができ、上記算出値でも最大蒸発レートを2倍してから必要層厚で割ったものとしている。また、判断部54は、フィルム送り設定速度がフィルム送り最大速度より大きければ、エラー信号を表示部55および蒸着レート演算部56(後述する)に発信するものである。さらに、表示部55は、選定部52で選定された有機材料名を表示するとともに、最大速度演算部53で算出されたフィルム送り最大速度を表示し、また判断部54からエラー信号を受信すればエラーメッセージを表示するものである。
【0028】
さらに、上記制御装置50は、上記判断部54からエラー信号を受信しない場合に有機材料の必要蒸着レートをそれぞれ算出する蒸着レート演算部56と、蒸着レートを上記必要蒸着レートとするためのバルブ部の開度(以下、バルブ必要開度といい、単位は%である)を算出するバルブ開度演算部57と、蒸着を開始するためのボタンである蒸着開始ボタン78と、この蒸着開始ボタン78が押されて且つ上記バルブ開度演算部57でバルブ必要開度が算出された場合に蒸着開始信号を調整部59および指示部61(いずれも後述する)に発信する蒸着開始部58と、蒸着が開始された後に当該蒸着を停止するためのボタンである蒸着停止ボタン71とを有する。ここで、上記蒸着レート演算部56は、上記判断部54からエラー信号を受信しない場合に、各有機材料の必要蒸着レートを、フィルム送り設定速度にそれぞれの必要層厚を掛けた値(すなわち、[必要蒸着レート]=[フィルム送り設定速度]×[必要層厚])として算出するものである。また、バルブ開度演算部57は、バルブ必要開度を、当該必要蒸着レートを最大蒸発レートで割って100を掛けた値(すなわち、[バルブ必要開度]=[必要蒸着レート]/[最大蒸発レート]×100)として算出するものである。なお、選定された有機材料では、バルブ必要開度が100%を超える場合もあるが(最大でバルブ必要開度が200%となる)、蒸発源31を2つ用いるため問題はない。
【0029】
また、上記制御装置50は、上記膜厚計19で計測された蒸着膜の膜厚に基づいて各蒸発源31による蒸着レートを調整する調整部59と、上記入力データおよび算出値に基づいて蒸着用制御部63〜66を自動的に制御する指示部61とを有する。ここで、上記調整部59は、上記膜厚計19でそれぞれ計測された蒸着膜の膜厚から各有機材料の層厚を算出し、当該層厚と必要層厚とを比較して、当該層厚が必要層厚より小さければ蒸着レートを上げる信号(以下、蒸着レート増信号という)を、当該計測された層厚が必要層厚より大きければ蒸着レートを下げる信号(以下、蒸着レート減信号という)を、上記指示部61に発信するものである。上記指示部61は、蒸着開始部58から蒸着開始信号を受信すると、各蒸発源31による蒸着レートがそれぞれの必要蒸着レートとなるように、上記蒸着用制御部63〜66により蒸着を開始するものである。また、上記指示部61は、蒸着を行っている場合に、上記調整部59から蒸着レート増信号を受信すると、上記放出量制御部64によりバルブ部の開度を上げて蒸着レートを上げるものであり、上記調整部59から蒸着レート減信号を受信すると、上記放出量制御部64によりバルブ部の開度を下げて蒸着レートを下げるものである。さらに、上記指示部61は、蒸着を行っている場合に蒸着停止ボタン71が押されると、蒸着用制御部63〜66により蒸着を停止するものである。
【0030】
ところで、上記指示部61は、上記選定された有機材料のバルブ必要開度が100%未満の場合、防着板制御部66により第1蒸発源31Aによる蒸着を遮蔽するとともに、放出量制御部64により第2蒸発源31Bのバルブ部の開度を、当該バルブ必要開度にするものである。また、上記指示部61は、上記選定された有機材料のバルブ必要開度が100%以上の場合、放出量制御部64により、第1蒸発源31Aを遮蔽しない状態で、第2蒸発源31Bのバルブ部の開度を、当該バルブ必要開度から100を引いた値にするものである。
【0031】
また、上記制御装置50は、任意の蒸発源31による蒸着を遮蔽するための遮蔽ボタン群72と、遮蔽ボタン群72が押されることで蒸着を遮蔽する遮蔽部62とを有する。ここで、遮蔽ボタン群72は、各蒸発源31に対応する4つのボタンから構成される。上記遮蔽部62は、押されたボタンに対応する蒸発源31の蒸着を遮蔽するために、当該蒸発源31において、防着板制御部66により蒸発材料を防着板23で遮蔽するとともに、加熱温度制御部65により付着防止用電熱ヒータ38および蒸発用電熱ヒータ39の加熱を停止し、放出量制御部64により当該バルブ部の開度をゼロにするものである。
【0032】
以下では、上記真空蒸着装置1により、複数の有機材料の層からなる蒸着膜を、フィルムFに形成する方法について説明する。
まず、制御装置50の入力部51に入力データを入力すると、選定された有機材料名および算出されたフィルム送り最大速度が、表示部55に表示される。表示された有機材料を第1蒸発源31Aおよび第2蒸発源31Bに充填するとともに、表示されたフィルム送り最大速度以下の任意の速度を、所望のフィルム送り速度としてフィルム速度調整ダイヤル74で設定する。一方で、他の2種類の有機材料を、それぞれ第3蒸発源31Cと第4蒸発源31Dに充填する。
【0033】
次に、蒸着開始ボタン78を押すと、蒸着開始部58からの蒸着開始信号を受信した指示部61が、蒸着用制御部63〜66により蒸着を開始する。具体的には、加熱温度制御部65により各有機材料がそれぞれの最大加熱温度となるように蒸発用電熱ヒータ39で加熱され、蒸発材料がフィルムFへ到達する前に温度低下しないように付着防止用電熱ヒータ38で加熱される。そして、放出量制御部64により各バルブ部の開度が調整されるとともに、防着板制御部66により蒸発源31の遮蔽を解除する。次に、フィルム速度制御部63により、フィルム送り速度がフィルム送り設定速度になるよう、冷却ドラム21、巻取ロール47および巻出ロール43を回転させる。
【0034】
蒸着が開始されると、膜厚計19で計測された蒸着膜の膜厚に基づいて、各有機材料の層厚が必要層厚になるよう、バルブ部の開度が制御される。
必要とする長さの蒸着膜が得られた後は、蒸着停止ボタン71を押すことで、付着防止用電熱ヒータ38および蒸発用電熱ヒータ39による加熱が停止されるとともに防着板23による遮蔽が行われ、バルブ部の開度がゼロにされる。
【0035】
ところで、任意の蒸発源31による蒸着を遮蔽するには、その蒸発源31に対応する遮蔽ボタン群72のボタンを押す。これにより、当該蒸発源31による遮蔽が防着板23で行われる。
【0036】
以下では、上記実施の形態1における実施例について説明する。
【実施例1】
【0037】
HIL層(バッファ層)の有機材料としてCuPc(銅フタロシアニン)、HTM層(正孔輸送層)の有機材料としてα−NPD、EML層(発光層)の有機材料としてAlq3を用いた。なお、入力データとしては表1の通りである。
【0038】
【表1】

表1のデータを入力部51に入力すると、表示部55において、選定された有機材料としてCuPcが、フィルム送り最大速度として33.33mm/sが表示された。
【0039】
そして、CuPcを第1蒸発源31Aおよび第2蒸発源31Bに充填し、α−NPDを第3蒸発源31Cに充填し、Alq3を第4蒸発源31Dに充填した。
フィルム速度調整ダイヤル74で、フィルム送り設定速度を20mm/sとした。
【0040】
その後、蒸着開始ボタン78を押すことにより、CuPcは第1蒸発源31A(バルブ部なし)および第2蒸発源31B(バルブ部の開度10%)で蒸着され、α−NPDは第3蒸発源31C(バルブ部の開度40%)で蒸着され、Alq3は第4蒸発源31D(バルブ部の開度50%)で蒸着された。すなわち、この蒸着膜は、フィルム送り設定速度と同速度(20mm/s)で形成された。
【0041】
その後、上記の蒸着膜の表面に、別工程で10ÅのLiFおよび1000ÅのAlを抵抗加熱蒸着にて成膜させた。
【実施例2】
【0042】
実施例2は、実施例1と比較してフィルム送り設定速度だけ異なるものである。具体的には、実施例2ではフィルム送り設定速度を30mm/sとした。
この場合、CuPcは第1蒸発源31A(バルブ部なし)および第2蒸発源31B(バルブ部の開度50%)で蒸着され、α−NPDは第3蒸発源31C(バルブ部の開度60%)で蒸着され、Alq3は第4蒸発源31D(バルブ部の開度90%)で蒸着された。すなわち、この蒸着膜は、フィルム送り設定速度と同速度(30mm/s)で形成された。
【0043】
このように、上記真空蒸着装置1においては、蒸着を行う3種類の有機材料のうち、必要層厚を最大蒸発レートで割った値が最大のものを選定し、この選定された有機材料を、バルブ部を有しない(すなわちコンダクタンスが大きい)第1蒸発源31Aとバルブ部を有する第2蒸発源31Bとに充填して蒸発させることで、有機材料の劣化がなく高い生産性が得られるとともに、バルブ部による放出量の調整により均一な膜厚の蒸着膜を得ることができる。
【0044】
また、放出部材32に接続されたL型連結部材34は、有機材料が充填される蒸発部35を常に鉛直下方へ向けているので、放出部材32の姿勢に関係なく安定して蒸着を行うことができる。
【0045】
さらに、必要層厚を形成できる最大のフィルム送り速度を算出して表示した後に、実際のフィルム送り速度を設定するので、フィルム送り速度を高く設定でき、一層生産性を高めることができる。
【0046】
また、防着板23が、蒸発源31よりも冷却ドラム21の近くに配置されているため、防着板23に付着した有機材料が蒸発源31に落下混入することを防ぐことができる。さらに、防着板23は、フィルムFと蒸発源31との間に配置されているので、蒸発源31からフィルムFに対する熱輻射を抑制し、フィルムFの温度上昇による損傷を防ぐこともできる。
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2に係る真空蒸着装置について図6に基づき説明する。
【0047】
なお、本実施の形態2において、実施の形態1と同一部分については同一の符号を付して説明を省略する。
上記真空蒸着装置は、実施の形態1と比べて、図6に示すように、放出部材32のみが異なる。具体的には、蒸発材料が蒸着室11内に冷却されて付着することを防止するため、放出部材32の内方側の端部の内側にノズル部82が設けられるとともに、このノズル部82の外周側にも付着防止用電熱ヒータ38が設けられている。上記ノズル部82は、放出部材32の内方側の端部の内周面に取り付けられた円環鍔部と、この円環鍔部の内周面に一端部(外方側)が取り付けられるとともに開口部16に他端部(内方側)が突出した円筒部と、この円筒部の他端部の内周面に取り付けられて中心に噴出口86が形成された円板形状の噴出部とから構成される。
【0048】
このように、上記真空蒸着装置では、上記ノズル部82および付着防止用電熱ヒータ38により、実施の形態1での真空蒸着装置1に比べて、蒸発材料がフィルムFに近い位置でも加熱されるので、蒸発材料が蒸着室11内に冷却されて付着することを防止し、一層安定して蒸着を行うことができる。
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3に係る真空蒸着装置について図7に基づき説明する。
【0049】
なお、本実施の形態3において、実施の形態1および実施の形態2と同一部分については同一の符号を付して説明を省略する。
上記真空蒸着装置は、実施の形態2と比べて、図7に示すように、ノズル部92の形状のみが異なる。具体的には、ノズル部92における円筒部が、開口部16から内方側で拡径するとともに他端部が内方側へさらに突出した形状であり、膜厚計19に対向する位置で膜厚計測用噴出口97が形成されたものである。
【0050】
このように、上記真空蒸着装置では、実施の形態2での真空蒸着装置に比べて、上記ノズル部82の他端部が内方側にさらに突出しており、蒸発材料がフィルムFにさらに近い位置でも加熱されるので、蒸発材料が蒸着室11内に冷却されて付着することを十分に防止し、極めて安定して蒸着を行うことができる。
【0051】
ところで、上記各実施の形態では、蒸発源31を4基配置したとして説明したが、この数に限定されるものではなく、3基以上であるとともに1基がバルブ駆動部33を有しない構成であればよい。
【0052】
また、上記各実施の形態では、防着板23のマスク板24は、第1マスク24A〜第3マスク24Cからなるとして説明したが、これは一例に過ぎず、必要に応じてマスクを増減させてもよい。なお、防着板23は真空蒸着装置1の必須の構成ではなく、真空蒸着装置1は防着板23を有しない構成であってもよい。
【0053】
さらに、上記各実施の形態では防着板23を配置するとして説明したが、防着板23を配置する代わりに、蒸発源31からの蒸着レートが安定するまでフィルムFではなくダミーの基板(ステンレス箔など)を送り、当該蒸着レートが安定すればフィルムFを送る構成であってもよい。
【0054】
また、上記各実施の形態では、膜厚計19で計測された蒸着膜の膜厚の基づき、バルブ部の開度を制御するものとして説明したが、蒸発用電熱ヒータ39の加熱温度を制御するものであってもよく、バルブ部の開度および蒸発用電熱ヒータ39の加熱温度を制御するものであってもよい。
【符号の説明】
【0055】
F フィルム
1 真空蒸着装置
2 蒸着部
21 冷却ドラム
23 防着板
31 蒸発源
33 バルブ駆動部
34 L型連結部材
35 蒸発部
50 制御装置
52 選定部
56 蒸着レート演算部
57 バルブ開度演算部
64 放出量制御部
65 加熱温度制御部
74 フィルム速度調整ダイヤル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を外周に沿わせて連続的に送る回転体を備え、この基板の外周側に、有機材料を加熱して蒸発させるとともに放出させて当該基板に蒸着させる蒸発源を3以上配置した真空蒸着装置であって、
上記蒸発源のうち、第1の蒸発源および第2の蒸発源は、同一の有機材料を蒸着させるものであり、
上記第1の蒸発源は蒸発させた有機材料の放出量を調整し得る制御機構を有せず、第2の蒸発源は当該制御機構を有するものであることを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
上記蒸発源が、蒸発した有機材料を放出させて基板に蒸着させる放出部材と、一端側が上記放出部材に接続されるとともに他端側が鉛直下方に向けたL型連結部材とを有し、
上記L型連結部材の他端側に、内部に充填された有機材料を加熱して蒸発させる蒸発部が接続されたことを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の真空蒸着装置を用いた真空蒸着方法であって、
蒸着に用いる有機材料のうち、有機材料を蒸着させて基板に形成する層厚を、当該有機材料が加熱により劣化しない最大の蒸発レートで割った値が最大となるものを選定し、
この選定された有機材料を第1の蒸発源および第2の蒸発源に充填し、
第1の蒸発源で上記有機材料を基板に蒸着させるとともに、第2の蒸発源で上記有機材料の放出量を調整して上記層厚まで当該有機材料を基板に蒸着させることを特徴とする真空蒸着方法。
【請求項4】
第1の蒸発源および第2の蒸発源に充填された有機材料を蒸着させて、所定の層厚を得ることができるための基板の送り速度を決定し、
この決定された基板の送り速度および他の蒸発源で形成する層厚に基づいて、当該他の蒸発源の加熱温度および/または当該他の蒸発源で蒸発させた有機材料の放出量を決定することを特徴とする請求項3に記載の真空蒸着方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−248486(P2012−248486A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121141(P2011−121141)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】