説明

真空蒸着装置における蒸着材料の蒸発、昇華方法および真空蒸着用るつぼ装置

【課題】蒸着材料の劣化を防止しつつ、長期間にわたる連続運転を可能とする。
【解決手段】るつぼホルダ13内に、赤外線を主な波長とする加熱波を放射する放射加熱器21を、赤外線を透過可能な材質からなる加熱波透過管22に内装して配置し、放射加熱器21からの加熱波をるつぼ本体12内の蒸着材料Mの表面に照射して加熱し、蒸着材料Mの表面のみを蒸発または昇華させる。蒸発または昇華された蒸着材料Mが、加熱波透過管22の表面やるつぼ本体12、るつぼホルダ13の内面に付着しても、加熱波により加熱されて再蒸発または再昇華される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置において、蒸着材料あるいは有機蒸着材料を、劣化させることなく長期間にわたって加熱し蒸発、昇華させて真空蒸着させる蒸着材料の蒸発、昇華方法およびるつぼ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空蒸着を行う基板などの量産工程では、蒸着材料を長期間、たとえば一週間程度、加熱して蒸発、昇華させ、基板などに真空蒸着を行う連続運転を実施するが、長時間の加熱による蒸着材料の劣化を防止することが必要となる。
【0003】
従来では、たとえばA)蒸着材料が劣化する前に消費する程度の少量の材料が入ったるつぼを多数用意しておき、るつぼを順次入れ替えながら連続運転を行ったり、B)るつぼに材料の減少に従って材料を補充しつつ蒸着作業を行ったり、C)ペレット状に形成した蒸発材料を、加熱部材に押し付けて局所的に加熱することにより、材料の局所のみを加熱し蒸発または昇華させ、他の部位の材料の劣化を防止して連続運転が行われている。
【0004】
ところで、特許文献1では、るつぼ内に加熱コイルを配置した電気抵抗式の加熱装置を使用し、加熱コイルと蒸着材料が接近された状態で、蒸発材料を加熱し、蒸発、昇華を行っている。またレーザビームにより蒸発材料を加熱し、蒸発、昇華させるものも、数多く提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−208452号公報(第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、A)では、真空雰囲気の蒸着室内において、るつぼの入替装置が必要で、蒸着装置全体が大型になる。B)では、蒸発材料の補充装置が必要で、補充制御を考慮すると、装置が複雑になる。C)では、蒸着材料をペレット状に形成するための設備と、ペレット状蒸着材料を加熱源に押し付ける加圧装置が必要となり、設備コストが嵩むという問題がある。また特許文献1では、蒸発、昇華された蒸着材料が、高温に加熱された加熱装置に接触すると、熱分解されて、蒸着材料の質を低下させ、成膜に悪影響を与えるという問題があった。さらにレーザビームにより蒸着材料を加熱して蒸発、昇華させる従来例では、蒸着材料がるつぼの内面に付着して堆積しやすいという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決して、蒸着材料の劣化を防止しつつ長期間にわたる連続運転が可能な真空蒸着装置における蒸着材料の蒸発、昇華方法および真空蒸着用るつぼ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、
真空雰囲気中で、るつぼ内に収容された蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させ、被蒸着材の表面に蒸着させる真空蒸着装置における蒸着材料の蒸発、昇華方法であって、
るつぼ内に配置された放射加熱器から、赤外線を主な波長とする加熱波を、赤外線を透過可能な材質からなる加熱波透過容器を介して放射し、
当該加熱波により蒸着材料の表面のみを加熱して蒸発または昇華させ、
蒸発、昇華した材料がるつぼの内面に付着した時に、前記加熱波により加熱して再蒸発または再昇華させるものである。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の構成において、
るつぼを、蒸着材料の蒸発温度または昇華温度未満に制御し、
加熱波透過容器内に冷媒流体を供給して、その表面温度を蒸着材料の分解温度未満に制御するものである。
【0010】
請求項3記載の発明は、
真空雰囲気中で、るつぼ内に収容された蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させ、被蒸着材の表面に蒸着させる真空蒸着用るつぼ装置であって、
前記るつぼ内に、赤外線を主な波長とする加熱波を放射する放射熱源と、少なくとも一部が赤外線を透過可能な材質からなり前記放射熱源を覆う加熱波透過容器とを有する放射加熱器を配置し、
前記放射熱源からの加熱波により蒸着材料の表面を加熱して蒸発または昇華させ、さらに蒸発または昇華後にるつぼの内面に付着した蒸着材料を、前記加熱波により加熱して再蒸発または再昇華させるように構成したものである。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の構成において、
るつぼを、蒸発温度または昇華温度未満に制御するるつぼ温度制御部と、
加熱波透過容器内に冷媒流体を供給して、加熱波透過容器の表面温度、蒸着材料の分解温度未満に制御する加熱器温度制御部とを具備したものである。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項3または4記載の構成において、
るつぼ内に複数の放射加熱器を配置し、
真空蒸着室に、蒸発または昇華された蒸着材料の濃度を検出する材料濃度検出器を設け、
前記材料濃度検出器の検出値が一定となるように、各放射加熱器をそれぞれ制御する膜厚制御部を設けたものである。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項3乃至5のいずれかに記載の構成において、
真空蒸着室に、蒸発または昇華された蒸着材料の濃度を検出する材料濃度検出器を設け、
加熱波透過容器内で、放射加熱源を蒸着材料の表面に接近離間する方向に移動可能な熱源位置調整装置を設け、
前記材料濃度検出器の検出値が一定となるように、前記熱源位置調整装置により放射加熱器を移動させる膜厚制御部を設けたものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1または3記載の発明によれば、るつぼ内に配置された放射加熱器から加熱波を放射して蒸着材料の表面のみを加熱し、蒸着材料を蒸発または昇華させるので、表面以外の蒸着材料が高温に晒されることがなく、長期間にわたって連続蒸着を行っても、るつぼ内の蒸着材料が劣化されることがない。これにより、簡単な構造で長時間の連続蒸着作業が可能となる。また一旦蒸発または昇華した蒸着材料が、るつぼの内面に接触して付着することがあっても、放射加熱器からの加熱波を受けて再蒸発または再昇華させることができる。さらに一旦蒸発または昇華した蒸着材料が、加熱波透過容器の表面に接触され、付着されることがあっても、放射加熱器からの加熱波を受けて短時間で再蒸発または再昇華させることができ、加熱波透過容器の透過率が低下されることもない。
【0015】
請求項2または4記載の発明によれば、るつぼを、蒸着材料の蒸発、昇華温度未満にすることで、るつぼ内の蒸着材料の劣化を防止することができる。さらに加熱波透過容器内に冷媒流体を供給して放射加熱器の昇温を防止するので、放射加熱器を安定して作動させることができる。また加熱波透過容器の表面温度を、蒸着材料の分解温度未満とすることにより、蒸発または昇華した蒸着材料が加熱波透過容器の表面に接触することがあっても、分解されることが無く、成膜に悪影響を与えることがない。
【0016】
請求項5記載の発明によれば、材料濃度検出器の検出値に基づき、複数の放射加熱器を選択的に作動させて、蒸着材料の表面に照射される加熱波の照射量を容易に制御することができ、被蒸着材の表面に形成される膜厚を精度良く制御することができる。
【0017】
請求項6記載の発明によれば、熱源位置調整装置により、加熱波透過容器内で放射熱源を移動させて、放射熱源と蒸着材料の表面との距離を調整することにより、放射加熱器からの加熱波の照射量を容易に制御することができ、被蒸着材の表面に形成される膜厚を精度良く制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る真空蒸着装置の実施例1を示し、アップデポジションタイプの構成図である。
【図2】るつぼ装置の拡大縦断面図である。
【図3】蒸着材料の劣化の判別例を示すグラフである。
【図4】るつぼ装置を真空蒸着室内に設置した変形例Aを示す真空蒸着装置の縦断面図である。
【図5】アップデポジションタイプの真空蒸着装置の変形例Bを示す縦断面図である。
【図6】放射加熱器の変形例Cを示し、端部閉鎖形の加熱波透過管を設けた縦断面図である。
【図7】(a)および(b)は、端部閉鎖形の加熱波透過管がるつぼの底部を貫通して配置された変形例D1,D2を示す縦断面図で、(a)は変形例D1の放射熱源固定タイプ、(b)は変形例D2の放射熱源移動タイプである。
【図8】変形例D2の一例を示す全体構成図である。
【図9】(a)〜(d)は、複数の放射加熱器を水平方向に貫通配設した変形例Eを示し、(a)は幅方向に所定ピッチで配設したもの、(b)は高さ方向に所定ピッチで配設したもの、(c)は幅および高さ方向にそれぞれ所定ピッチで配設したもの、(d)は、蒸着材料内を含む高さ方向に所定ピッチで配設したものである。
【図10】変形例Eの一例を示す構成図である。
【図11】(a)〜(c)は、複数の放射加熱器を垂直方向に貫通した変形例Fを示し、(a)(b)は、2個の放射加熱器を配置した縦断面図および横断面図、(c)は、3個の放射加熱器を配置した横断面図である。
【図12】(a)(b)は、貫通形の加熱波透過管の冷却構造を示し、二重管構造とした変形例Gを示す縦断面図および横断面図である。
【図13】(a)〜(d)は、端部閉鎖形の加熱波透過管の冷却構造を示し、(a)(b)は、加熱波透過管内に仕切り板を設けた変形例Hを示す縦断面図および横断面図、(c)(d)は、加熱波透過管内に通路形成管を設けた二重管構造の変形例Iを示す縦断面図および横断面図である。
【図14】(a)(b)は、それぞれるつぼ温度制御機構の冷却構造を示し、(a)は強制冷却構造を採用した変形例Jの構成図、(b)は自然冷却構造を採用した変形例Kの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
[実施例1]
図1に示すように、この真空蒸着装置はアップデポジションタイプで、真空容器1により形成された真空蒸着室2内の上部に、保持具(図示せず)を介して被蒸着材である基板3が配置され、底部に形成された材料放出口4に連通して蒸着材料Mを加熱して蒸発、昇華させる材料蒸発装置11が、真空蒸着容器1の外側に設置されている。前記真空容器1には、図示しないが、基板3を出し入れする開閉扉付きの開口部が形成されている。
【0020】
図2に示すように、この材料蒸発装置11に設けられるるつぼは、上面が開放されて蒸着材料Mを収容するるつぼ本体12と、上面に放出口が形成されてるつぼ本体12を収容するるつぼホルダ13とで構成されている。もちろん、るつぼ本体12単体、るつぼホルダ13単体で構成することもできる。
【0021】
また、材料蒸発装置11には、赤外線を主な波長とする加熱波を放射する放射加熱器14を有し、放射加熱器14の表面温度を制御する加熱器温度制御部15と、るつぼホルダ13およびるつぼ本体12を介して蒸着材料Mの温度を制御するるつぼ温度制御部16と、基板3の膜厚を制御する膜厚制御部17とを有する蒸着制御装置18が設けられている。
【0022】
(放射加熱器)
放射加熱器14は、赤外線を主な波長とする加熱波を放射する放射熱源21と、この放射熱源21を覆い、少なくとも一部が赤外線が透過可能な材質で形成された貫通形の加熱波透過管(加熱波透過容器)22とを具備し、加熱器温度制御部15により、加熱波透過管22内に冷媒を供給してその表面温度を、蒸着材料Mの分解温度未満に制御する加熱器温度制御機構20が設けられている。
【0023】
前記放射熱源21には、線状光源や点状光源からなる赤外線ヒータ(ランプ)やカーボンヒータ(ランプ)、ハロゲンヒータ(ランプ)などが使用される。この放射熱源21に、加熱電源29から熱源コントローラ28を介して加熱用電力が供給される。
【0024】
加熱波透過管22は、両端が端部材22Cにより閉塞された円筒容器に形成され、るつぼホルダ13および後述の冷媒ジャケット34の中心軸に直交交差して両側壁を水平方向に貫通する貫通穴に挿入配置されている。そして、この加熱波透過管22は、長さ方向の両側に配置されて貫通穴に嵌合される支持部22Aと、これら支持部22A間でるつぼホルダ13内に臨んで配置され赤外線の透過率が高い材料、たとえば石英管やガラスセラミックス管などからなる透過部22Bとを有している。もちろん、加熱波透過管22の全体を赤外線の透過率が高い材料で一体に形成してもよい。そして加熱波透過管22内でるつぼホルダ13の中央部に、透過部22Bに対応して放射熱源21が配置される。
【0025】
ここで、たとえば石英管は、赤外線の吸収率は極めて低く、加熱波により加熱波透過管22が加熱されないと考えられるが、長時間の使用や透過度の低下、放射熱源21からの伝熱や蓄熱などにより、加熱波透過管22が昇温されるおそれがあるため、加熱器温度制御機構20が設けられている。
【0026】
加熱器温度制御機構20は、加熱波透過管22を温度制御するためのもので、熱交換機24Aおよび冷媒タンク24Bならびに冷媒流体の温度検出器24Cを具備した循環式冷却機(チラーという)24と、冷媒流体(気体または液体)を加熱波透過管22内に供給する冷媒ポンプ25と、これら冷却機24と冷媒ポンプ25とを制御する加熱器温度制御部15とを具備している。そして、加熱波透過管22内から冷媒タンク24Bに送り出され冷媒流体の温度を温度検出器24Cにより検出し、この検出温度に基づいて、加熱器温度制御部15により、冷却機24Aを制御して加熱波透過管22内に供給する冷媒流体が所定温度となるように制御し、加熱波透過管22の表面温度が蒸着材料Mの分解温度未満になるように制御している。これにより、一旦蒸発/昇華した蒸着材料Mが、加熱波透過管22の表面に接触することがあっても、分解されて成膜に悪影響を与えることがない。また蒸着材料Mが加熱波透過管22の表面に付着固化しても、加熱波により再蒸発/再昇華させることができ、透過度の低下を防止することができる。
【0027】
この実施例1では、加熱波透過管22内に直接放射熱源21を配置して、冷媒流体と放射熱源21とが直接接触するように構成したが、放射熱源21の発熱体の温度が高いハロゲンヒータなどの場合、直接冷媒流体が接触するのを避けるために、後述する図12の変形例Gに示すように、加熱波透過管22内に、同一材質、同一構造で小径の保護内管46を同一軸心上に空間部をあけて配置した二重管構造とし、保護内管46内に放射熱源21を内装し、加熱波透過管22と保護内管46の間の空間部を冷媒流体通路とすればよい。これにより、放射熱源21が高温となっても、直接冷媒が接触することがないので、より安全に加熱および温度制御することができる。
(るつぼ)
るつぼ本体12の内面およびるつぼホルダ13の内面は、それぞれ鏡面仕上げされており、加熱波の反射率を向上させることにより、それぞれの表面温度が昇温されるのを防止している。
【0028】
るつぼ温度制御機構30は、るつぼ本体12の蒸着材料Mの温度を、蒸発/昇華温度未満に保持するためのものである。この時の下限温度については、放射加熱器14の能力やランニングコストを考慮すると、蒸発/昇華温度にある程度接近させたほうが望ましいが、たとえば有機EL材料の場合、常温に保持した蒸着材料Mを、加熱波のみで好適に蒸発/昇華できる蒸発材料もあり、蒸着材料Mの種類が極めて幅広く、下限温度を一概に特定することはできないため、ここでは常温としている。
【0029】
るつぼ温度制御機構30は、るつぼ本体12に収容された蒸着材料Mを加熱するるつぼ加熱機構31と、蒸着材料Mを冷却するるつぼ冷却機構32と、これらるつぼ加熱機構31およびるつぼ冷却機構32をそれぞれ制御するるつぼ温度制御部16とを具備している。
【0030】
るつぼ加熱機構31は、るつぼホルダ13の外周面および底面にそれぞれ配置された加熱コイル33と、加熱電源29から各加熱コイル33にそれぞれ加熱用電力を供給する電源コントローラ35とを具備し、るつぼ本体12に収容された蒸着材料Mを加熱する。
【0031】
またるつぼ冷却機構32は冷媒循環式で、加熱コイル33の外周部および底部でるつぼホルダ13を覆う冷媒ジャケット34が設けられており、これら冷媒ジャケット34には、上下に3段に区画された冷却室36a〜36cが形成されている。また熱交換器37Aおよび冷媒タンク37Bならびに冷媒流体の温度検出器37Cを具備した蒸発制御用の循環式冷却機(チラー)37と、この冷却機37から冷却室36a〜36cにそれぞれ冷媒流体を供給する冷媒ポンプ38と、冷却機37および冷媒ポンプ38を操作するるつぼ温度制御部16とで構成されている。
【0032】
上記構成において、冷却室36a〜36cから冷却機37の冷媒タンク37Aに排出された冷媒流体の温度を温度検出器37Cで検出し、るつぼ温度制御部16によりこの検出温度に基づいて冷却機37の熱交換器37Aおよび冷媒ポンプ38を操作し、所定温度に制御された冷媒流体を各冷却室36a〜36cにそれぞれ供給して、るつぼ本体12に収容された蒸着材料Mを冷却する。またるつぼ加熱機構31では、電源コントローラ35から加熱電力を各加熱コイル33に供給してるつぼホルダ13を加熱する。そしてるつぼ本体12に設置されたたとえば熱電対からなる温度検出器39の検出値に基づいて、るつぼ温度制御部16によりるつぼ本体12に収容された蒸着材料Mを、蒸発温度または昇華温度未満で、常温以上の範囲に制御する。ここで、蒸着材料Mを蒸発温度または昇華温度以上となると、蒸着材料Mが蒸発または昇華して蒸発量の制御が困難になり、さらに蒸着材料Mの劣化が促進されやすくなるためである。
【0033】
(蒸着材料と分解温度)
蒸発材料として、有機EL材料では、たとえばAlq3の場合、蒸発温度が270℃で、分解温度が430℃といわれ、蒸発温度と分解温度とが十分に離れている。しかし、他の有機EL材料の場合には、蒸発温度が200度でも、分解温度が数10℃高い程度で、蒸発温度と分解温度とが接近しているものもある。
【0034】
ところで、ここでいう蒸発/昇華温度は、加熱時の圧力条件により大きく変動され、さらにるつぼから放出された蒸着材料の流路条件や蒸発量でも大きく変動されるため、その変動幅を考慮する必要がある。また分解温度の場合、所定の温度で急に分解が始まることということはなく、温度が低くても材料の一部で分解が生じている。ここでは、温度が上がって材料の分解速度が増大し許容できなくなる温度を分解温度と規定している。
【0035】
図3は、液晶パネルの蒸着材料Mについての劣化を、PL測定によりα−NDPの計測した結果を示すグラフで、PL測定により蒸着材料Mの劣化を計測することができる。
(実施例1の効果)
上記実施例1によれば、るつぼホルダ13内に配置された放射加熱器14から加熱波透過管22を介して加熱波を放射して、蒸着材料Mの表面のみを加熱し蒸発/昇華させるので、表面以外の蒸着材料Mが高温に晒されることがなく、長時間にわたって加熱して蒸発/昇華を行っても、蒸着材料Mが劣化されることがない。これにより、簡単な構造で長期間の連続蒸着作業が可能となる。
【0036】
また、一旦蒸発/昇華した蒸着材料Mが、るつぼ本体12やるつぼホルダ13の内面に付着することがあっても、るつぼ温度制御機構30により、るつぼ本体12およびるつぼホルダ13がその蒸着材料Mの蒸発温度または昇華温度未満に制御されているので、蒸着材料Mの劣化が防止されるとともに、放射加熱器14からの加熱波を受けて再蒸発または再昇華させることができる。
【0037】
さらに、蒸発/昇華した蒸着材料Mが、放射加熱器14の表面に接触することがあっても、加熱器温度制御機構20により、加熱波透過管22内に冷媒流体が供給されてその表面が分解温度未満に温度制御されるので、蒸着材料Mが分解されて成膜に悪影響を及ぼすことがなく、またこの温度制御により放射熱源21を安定して動作させることができる。また蒸発/昇華した蒸着材料Mが加熱波透過管22に付着することがないが、もし付着することがあっても、放射熱源21からの加熱波により短時間に再蒸発/再昇華されるので、加熱波透過管22の透過率が低下して加熱波の照射を妨げることがない。
【0038】
また、るつぼ本体12およびるつぼホルダ13の内面を鏡面仕上げして、加熱波の反射率を向上させることにより、加熱波によるるつぼ本体12およびるつぼホルダ13の加熱が抑制され、蒸着材料Mの劣化を防止することができる。
【0039】
[実施例1の変形例]
上記実施例1の変形例A〜Kを図4〜図14を参照して説明する。なお、実施例1と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0040】
変形例A,B(るつぼの配置)
上記実施例1では、材料蒸発装置11を真空蒸着室2の外部に設置したが、図4に示す変形例Aのように、真空蒸着室2の内部に設置してもよい。
【0041】
また上記実施例1では、水平姿勢で配置した基板3の下面に下方から蒸着材料Mを付着させるアップデポジションタイプとしたが、図5に示す変形例Bのように、鉛直姿勢で配置した基板3の側面に側方から蒸着材料Mを付着させるサイドデポジションタイプであってもよい。もちろん、材料蒸発装置11を真空蒸着室2の内部に設置することもできる。変形例A,Bとも実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0042】
変形例C,D1,D2(放射加熱器の加熱波透過管と放射熱源)
上記実施例1では、筒状の加熱波透過管22をるつぼホルダ13の両側壁をそれぞれ貫通して水平姿勢で配置する横両貫通タイプとしたが、図6(a)に示す変形例Cのように、先端部が閉鎖された筒状の加熱波透過管41を、るつぼホルダ13の一方の側壁に形成された貫通穴から嵌入させて配置し、加熱波透過管41の先端部に放射熱源21を配置した水平姿勢の横単貫通タイプとしてもよい。
【0043】
また図7(a)に示す変形例D1のように、先端部が閉鎖された加熱波透過管42を、るつぼ本体12(および/またはるつぼホルダ)の底部に形成された貫通穴から嵌入させた垂直姿勢の縦単貫通タイプとし、上端部に放射熱源21を固定して配置したものである。変形例C,D1によれば、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。この冷却構造は、後述の変形例Hを参照のこと。
【0044】
さらに、図7(b)、図8に示す変形列D2では、放射熱源21を、熱源位置調整装置43により出退可能な可動ロッド44を介して支持させ、真空蒸着室2内に設けられた蒸発レート検出器(材料濃度検出器)5の検出値に基づいて、膜厚制御部17により熱源位置調整装置43を操作する。これにより、蒸着材料Mの蒸発量が減少した場合には、可動ロッド44を後退させて放射熱源21を下降させることにより、放射熱源21と蒸着材料Mの表面とを接近させ、蒸着材料Mの蒸発量を増加させることができる。これにより蒸着材料Mを均一に蒸発、昇華させることができる。もちろん、電源コントローラ28により放射熱源21への供給電力を制御して放射熱源21からの加熱波の照射量を制御する操作を併用することができる。
【0045】
変形例E(複数の放射熱源)
上記実施例1では、放射加熱器14を蒸着材料Mの上方位置に1個だけ配置したが、図9(a)〜(e)に示す変形例Eのように、横両貫通タイプおよび横単貫通タイプにおいて、複数の放射加熱器14を、所定間隔をあけて設置することもできる。これら複数の放射加熱器14により蒸着材料Mの蒸発量を増大させることができる。図9(e)では、下部の放射加熱器14が蒸着材料M中を貫通して配置されているが、これらは上部の蒸着材料Mが蒸発/昇華された後に使用されるものである。
【0046】
図10は、変形例Eで下部の放射加熱器14を蒸着材料M中に配置した構成図で、蒸発レート検出器5の検出値に基づいて、膜厚制御部17により電源コントローラ28と冷媒制御弁45を操作して、3つの放射加熱器14をそれぞれ選択的にオン−オフ操作することにより、蒸着材料Mの蒸発量/昇華量を効果的に制御することができる。もちろん、電源コントローラ28により放射熱源21への供給電力を制御して放射熱源21からの加熱波の照射量を制御する操作を併用することができる。
【0047】
変形例F(複数の放射加熱器)
縦単貫通タイプも、図11(a),(b)および(c)に示す変形例Fのように、複数の放射加熱器14を、所定間隔をあけて互いに平行に2本、または3本を設置することもできる。これら複数の放射加熱器14により蒸着材料Mの蒸発量を増大させることができる。もちろん、電源コントローラ28により放射熱源21への供給電力を制御して放射熱源21からの加熱波の照射量を制御する操作を併用することができる。
【0048】
変形例G(放射加熱器の冷却構造)
図12(a)および(b)は、横両貫通タイプの放射加熱器14の冷却構造を示す変形例Gで、加熱波透過管22内に冷媒流体の流路をあけて、少なくとも対応する一部が赤外線を効率よく透過可能な材質、たとえば石英で形成された保護内管46を同一軸心上に配置し、この保護内管46内に放射熱源21を内装した二重管構造で、放射熱源21が高温で直接冷媒が接触させると、損傷する危険があるものに適している。
【0049】
変形例H(放射加熱器の冷却構造)
図13(a)〜(c)は、横単貫通タイプの放射加熱器14の冷却構造を示すもので、図13(a)(b)は、加熱波透過管41内を仕切板47で区画して、冷媒流体の供給路48Aと排出路48Bを形成した変形例Hである。図13(c)(d)は、加熱波透過管41内に通路形成管49を配置して、通路形成管49内の空間と、加熱波透過管41と通路形成管49の間の空間の一方を、冷媒流体の供給路48Aとし、他方を排出路48Bとした変形例Iである。上記各冷却構造により、横単貫通タイプの加熱波透過管41の表面温度を精度良く制御することができる。
【0050】
なお、縦単貫通タイプの加熱波透過管42の冷却構造も、変形例H,Iと同様に構成される。
変形例J,K(放射加熱器の冷却構造)
図14(a)(b)は、加熱器温度制御機構20の構造の変形例で、冷媒流体として水道水や空気を使用する場合に、循環しない構造を示しており、(a)は冷媒ポンプ25を使用した強制循環式の冷却構造を採用した変形例J、(b)は冷媒ポンプを使用しない自然循環式の冷却構造を採用した変形例Kである。
【符号の説明】
【0051】
M 蒸着材料
1 真空容器
2 真空蒸着室
3 基板(被蒸着材)
5 蒸発レート検出器(材料濃度検出器)
11 材料蒸発装置
12 るつぼ本体
13 るつぼホルダ
14 放射加熱器
15 加熱器温度制御部
16 るつぼ温度制御部
17 膜厚制御部
18 蒸着制御装置
20 加熱器温度制御機構
21 放射熱源
22 加熱波透過管(加熱波透過容器)
22B 透過部
24 冷却機
25 冷媒ポンプ
28 熱源コントローラ
30 るつぼ温度制御機構
31 るつぼ加熱機構
32 るつぼ冷却機構
33 加熱コイル
34 冷媒ジャケット
37 冷却機
38 冷媒ポンプ
41 加熱波透過管
42 加熱波透過管
43 熱源位置調整装置
44 可動ロッド
45 冷媒制御弁
46 保護内管
47 仕切板
49 通路形成管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気中で、るつぼ内に収容された蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させ、被蒸着材の表面に蒸着させる真空蒸着装置における蒸着材料の蒸発、昇華方法であって、
るつぼ内に配置された放射加熱器から、赤外線を主な波長とする加熱波を、赤外線を透過可能な材質からなる加熱波透過容器を介して放射し、
当該加熱波により蒸着材料の表面のみを加熱して蒸発または昇華させ、
蒸発、昇華した材料がるつぼの内面に付着した時に、前記加熱波により加熱して再蒸発または再昇華させる
ことを特徴とする真空蒸着装置における蒸着材料の蒸発、昇華方法。
【請求項2】
るつぼを、蒸着材料の蒸発温度または昇華温度未満に制御し、
加熱波透過容器内に冷媒流体を供給して、その表面温度を蒸着材料の分解温度未満に制御する
ことを特徴とする請求項1記載の真空蒸着装置における蒸着材料の蒸発、昇華方法。
【請求項3】
真空雰囲気中で、るつぼ内に収容された蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させ、被蒸着材の表面に蒸着させる真空蒸着用るつぼ装置であって、
前記るつぼ内に、赤外線を主な波長とする加熱波を放射する放射熱源と、少なくとも一部が赤外線を透過可能な材質からなり前記放射熱源を覆う加熱波透過容器とを有する放射加熱器を配置し、
前記放射熱源からの加熱波により蒸着材料の表面を加熱して蒸発または昇華させ、さらに蒸発または昇華後にるつぼの内面に付着した蒸着材料を、前記加熱波により加熱して再蒸発または再昇華させるように構成した
ことを特徴とする真空蒸着用るつぼ装置。
【請求項4】
るつぼを、蒸発温度または昇華温度未満に制御するるつぼ温度制御部と、
加熱波透過容器内に冷媒流体を供給して、加熱波透過容器の表面温度、蒸着材料の分解温度未満に制御する加熱器温度制御部とを具備した
ことを特徴とする請求項3記載の真空蒸着用るつぼ装置。
【請求項5】
るつぼ内に複数の放射加熱器を配置し、
真空蒸着室に、蒸発または昇華された蒸着材料の濃度を検出する材料濃度検出器を設け、
前記材料濃度検出器の検出値が一定となるように、各放射加熱器をそれぞれ制御する膜厚制御部を設けた
ことを特徴とする請求項3または4記載の真空蒸着用るつぼ装置。
【請求項6】
真空蒸着室に、蒸発または昇華された蒸着材料の濃度を検出する材料濃度検出器を設け、
加熱波透過容器内で、放射加熱源を蒸着材料の表面に接近離間する方向に移動可能な熱源位置調整装置を設け、
前記材料濃度検出器の検出値が一定となるように、前記熱源位置調整装置により放射加熱器を移動させる膜厚制御部を設けた
ことを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載の真空蒸着用るつぼ装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−256427(P2011−256427A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131556(P2010−131556)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】