説明

真空蒸着装置

【課題】真空蒸着装置において、正確な蒸着レートを安定的に計測して、この蒸着レートに基づいて高精度な蒸着膜を形成する。
【課題手段】真空蒸着装置は真空チャンバ1内に蒸着材料2を収容する蒸発源3と被蒸着体4とが、蒸発源3と被蒸着体4との間には蒸着材料2が気化される温度に加熱された筒状体5が配置される。また、真空蒸着装置は蒸着膜厚を計測する膜厚計測部6と、筒状体5と膜厚計測部6との間を接続する誘導路7とを備え、誘導路7は屈曲部71を備えると共に蒸着材料2が気化される温度に加熱される。この構成によれば、蒸着材料2が誘導路7内に堆積せず、膜厚計測部6は筒状体5からの輻射熱を受け難くなり、突沸が生じても塊状の蒸着材料2が膜厚計測部6に付着しない。そのため、真空蒸着装置は正確な蒸着レートを安定的に計測でき、これに基づいて高精度な蒸着膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空雰囲気で蒸着材料を気化させると共に被蒸着体の表面に所定の蒸着レートで蒸着材料を蒸着させる真空蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空蒸着装置は、真空チャンバ内に蒸着材料を収容した蒸発源と被蒸着体とを対向させて配置し、真空チャンバ内を減圧させて真空雰囲気とした状態で蒸発源を加熱して蒸着材料を気化させ、気化させた蒸着材料を被蒸着体の表面に堆積させることによって蒸着を行うものである。一般的な蒸発源の加熱方法としては、蒸発源に加速させた電子を照射する電子ビーム法や、タングステンやモリブデン等の高融点金属から成る抵抗体に電流を流してこれを発熱させ、この抵抗体を用いて蒸発源を加熱する抵抗加熱法等がある。これらの加熱方法によって気化された蒸着材料の気化分子は、蒸発源から放射状に拡散するので、被蒸着体へ向かって進行しない蒸着材料が多い。このような被蒸着体へ向かって進行しない蒸着材料は、被蒸着体の表面に付着せず、形成に寄与しない無効材料となり、蒸着の歩留まりを低下させると共に、被蒸着体の表面への蒸着速度を低下させる原因となる。
【0003】
そこで、真空チャンバ内の蒸発源と被蒸着体とが対向する空間を囲むように筒状体を配置して、蒸発源から気化した蒸着材料を、筒状体内を通して被蒸着体の表面に蒸着させると共に、筒状体の内側面を蒸着材料が堆積しない温度に加熱した真空蒸着装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図4は、この種の真空蒸着装置の構成の一例を示す。真空蒸着装置は、真空チャンバ101内に、蒸着材料102を収容する蒸発源103と、この蒸発源103と対向するように被蒸着体104とが配置され、蒸発源103と被蒸着体104との間には筒状体105が配置される。蒸発源103は、蒸発源ヒータ103aを備え、蒸着材料102を気化させる。筒状体105は、その周囲に筒状体ヒータ105aが設けられ、その内側面に蒸着材料102が堆積されない温度に加熱される。蒸発源103から気化した蒸着材料102は、直接又は筒状体105の内側面で反射されながら被蒸着体104の方向へ進み、被蒸着体104の表面に堆積する。また、被蒸着体104の方向へ直接進行しない蒸着材料102は筒状体105内でも加熱されるので、筒状体105の内側面に蒸着材料102が堆積することがなく、歩留まりの低下等を防止することができる。
【0005】
また、この真空蒸着装置は、気化された蒸着材料102を、例えば水晶振動子等の検出素子161に付着させて時間当たりの蒸着膜厚(蒸着レート)を計測する膜厚計測部106と、筒状体105から膜厚計測部106へ蒸着材料102を誘導する誘導路107と、蒸発源103の温度を制御するコントローラ108とを備える。この真空蒸着装置は、膜厚計測部106で計測された蒸着レートに応じて蒸発源ヒータ103aの加熱温度を制御して蒸着材料102の蒸着速度を調整する、いわゆるフィードバック制御を行いながら被蒸着体104の表面に蒸着膜を形成する。
【特許文献1】特開2004−59982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した真空蒸着装置は、筒状体105から誘導路107へ進んだ蒸着材料102の一部が誘導路107の内側面に付着して、膜厚計測部106へ流れる気化された蒸着材料102のコンダクタンスを経時的に変化させ、膜厚計測部106が蒸着レートを安定的に計測できないことがあった。また、加熱された筒状体105からの輻射熱によって膜厚計測部106が安定動作せず、正確な蒸着レートを計測できないことがあった。更に、誘導路107が蒸発源103の近傍に設けられると、蒸着材料102が突沸したときに、検出素子161の表面に液滴等の塊状の蒸着材料102が直接入射してしまい、膜厚計測部106が計測した蒸着レートが変動することがあった。そのため、この真空蒸着装置では、正確な蒸着レートに基づいたフィードバック制御を行うことができず、被蒸着体104に対して高精度な蒸着膜を形成することが困難であった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、正確な蒸着レートを安定的に計測することができ、この蒸着レートに基づいたフィードバック制御を行うことにより、被蒸着体に対して高精度な蒸着膜を形成することができる真空蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、真空チャンバ内に蒸着材料を収容する蒸発源と被蒸着体とを配置すると共に、前記蒸発源と被蒸着体との間を前記蒸着材料が気化される温度に加熱された筒状体で囲み、前記蒸発源から気化した蒸着材料を前記筒状体内を通して前記被蒸着体の表面に蒸着させる真空蒸着装置において、前記筒状体外に設けられ、前記蒸発源から気化した蒸着材料を付着させてその蒸着膜厚を計測する膜厚計測部と、前記筒状体の内部空間と前記膜厚計測部との間を接続して設けられ、前記蒸発源から気化した蒸着材料を前記膜厚計測部に誘導する誘導路と、を備え、前記誘導路は、屈曲部を備えると共に、前記蒸着材料が気化される温度に加熱されるものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の真空蒸着装置において、前記誘導路は、前記筒状体の側部の前記蒸発源の近傍に接続されるものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の真空蒸着装置において、前記誘導路を開閉して前記膜厚計測部へ流れる気化した蒸着材料の流量を調整可能に形成されると共に、前記蒸着材料が気化される温度に加熱される誘導路開閉手段を更に備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、蒸着材料が誘導路の内側面に堆積することがないので、筒状体から膜厚計測部へ流れる気化された蒸着材料のコンダクタンスを安定化させることができる。また、筒状体と膜厚計測部との距離を、膜厚計測部が筒状体からの輻射熱の影響を受け難くなるよう設定することができ、膜厚計測部を安定動作させることができる。更に、誘導路に備えられた屈曲部により、突沸した蒸着材料が膜厚計測部に直接入射することがないので、突沸によって蒸着レートが変動することもない。そのため、膜厚計測部は正確な蒸着レートを安定的に計測することができ、この蒸着レートに基づいて蒸発源の加熱温度を制御するフィードバック制御を行うことにより、被蒸着体に対して高精度な蒸着膜を形成することができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、膜厚計測部に備えられた検出素子に付着する蒸着材料の相対量が多くなるので、膜厚計測部における検出感度が向上し、より正確に蒸着レートを計測することができると共に、この蒸着レートに基づいてフィードバック制御を行うことにより、被蒸着体に対してより高精度な蒸着膜を形成することができる。
【0013】
請求項3の発明によれば、被蒸着体に蒸着膜を形成しない待機時間において誘導路を閉鎖して、膜厚計測部への蒸着材料の流入を遮断することにより、膜厚計測部に備えられた検出素子に対する蒸着材料の付着が低減され、検出素子の交換頻度を少なくすることができ、メンテナンスの頻度も少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の第1の実施形態に係る真空蒸着装置について、図1を参照して説明する。本実施形態の真空蒸着装置は、真空チャンバ1内に蒸着材料2を収容する蒸発源3と、蒸発源3から気化した蒸着材料2を蒸着させる被蒸着体4と、蒸発源3と被蒸着体4との間に配置される筒状体5とを備える。蒸発源3は、蒸着材料2を加熱する蒸発源ヒータ3aと、蒸着材料2の加熱温度を検知する適宜の温度センサ(図示せず)とを備える。真空チャンバ1は、蒸着材料2及び被蒸着体4を容易に交換できるよう構成されており、その側面には真空ポンプ(図示せず)が接続される。被蒸着体4は、蒸着作業を行うときに真空チャンバ1内に配置される。
【0015】
筒状体5は、一方が閉口し、他方が開口した筒状部材であり、蒸発源3が配置される底部51と、被蒸着体4に向けて気化された蒸着材料2が放出される開口部52と、底部51と開口部52とを連接し、気化された蒸着材料2を被蒸着体4へ導く側部53とを備える。底部51及び側部53は、それらの外部に筒状体ヒータ5aが設けられ、蒸着材料2が気化される温度に加熱される。気化された蒸着材料2は筒状体5内を通って開口部52から放出され、被蒸着体4の表面に堆積する。なお、図1は、気化した蒸着材料2が上方向に進んで被蒸着体4に堆積するよう構成された例を示すが、本実施形態の真空蒸着装置は必ずしもこの構成に限られない。例えば、筒状体5が横方向に配置され、気化した蒸着材料2が横方向に進んで被蒸着体4に堆積するよう構成されていてもよい。また、筒状体5は、図示したような直管型に限られず、例えば屈曲型であってもよい。
【0016】
また、真空蒸着装置は、筒状体5の外部に設けられて蒸着材料2を付着させて時間当たりの蒸着膜厚(蒸着レート)を計測する膜厚計測部6と、筒状体5の内部空間と膜厚計測部6との間を接続するように設けられ、蒸発源3から気化された蒸着材料2を膜厚計測部6へ誘導する誘導路7と、膜厚計測部6が計測した蒸着レートに応じて蒸発源3の温度を制御するコントローラ8とを備える。膜厚計測部6は、例えば、検出素子61として水晶振動子を備えた水晶振動子膜厚計等が用いられ、蒸着材料2の付着に伴う水晶振動子の振動周波数の変化から蒸着膜厚を検出して蒸着レートを計測すると共に、蒸着レートに関する情報を含む制御信号をコントローラ8へ出力する。コントローラ8は、CPU及びメモリ等から成り、膜厚計測部6から受信した制御信号に応じて蒸発源ヒータ3aの加熱温度を制御して蒸着材料2の蒸着速度を調整する。
【0017】
筒状体5の側部53には、開口部(以下、側部開口部という)54が形成され、この側部開口部54に誘導路7が接続される。誘導路7は屈曲部71を備え、この屈曲部71は蒸発源3と膜厚計測部6とが直面しない屈曲角を有するように形成される。また、誘導路7は、その外周に誘導路ヒータ7aが設けられ、蒸着材料2が気化される温度に加熱される。
【0018】
次に、本実施形態の真空蒸着装置の動作を説明する。被蒸着体4に蒸着材料2を蒸着させるとき、まず、真空ポンプを用いて真空チャンバ1内を真空状態に減圧すると共に、筒状体ヒータ5a及び誘導路ヒータ7aを作動させて筒状体5及び誘導路7を加熱する。筒状体5及び誘導路7の温度は、蒸着材料2が気化される温度に設定される。続いて、蒸発源ヒータ3aを作動させて蒸発源3に収容された蒸着材料2を加熱してこれを気化させる。気化された蒸着材料2は、直接又は側部53の内側面で反射しながら被蒸着体4の方向へ進み、蒸着材料2と対向するよう配置された被蒸着体4の表面に堆積する。このとき、被蒸着体4の方向へ直接進行しない蒸着材料2は、筒状体5内でも加熱されるので気体状態のまま被蒸着体4へ飛翔する。そのため、側部53の内側面に蒸着材料2が堆積されず、歩留まりの低下等を防止することができる。
【0019】
また、気化された蒸着材料2の一部は、側部開口部54から誘導路7を通って膜厚計測部6の検出素子61に付着し、膜厚計測部6は時間当りの蒸着膜厚(蒸着レート)を計測する。計測された蒸着レートに関する情報は制御信号に変換されてコントローラ8に入力される。コントローラ8はこの制御信号に応じて蒸発源ヒータ3aに供給される電力を制御して、蒸着材料2に対する加熱温度を調節することにより、蒸着材料2の蒸着速度を調整する。
【0020】
ここに誘導路7は、誘導路ヒータ7aによって蒸着材料2が気化される温度に加熱される。そのため、誘導路7に進入した蒸着材料2が誘導路7の内側面に堆積することはなく、筒状体5から膜厚計測部6へ流れる気化された蒸着材料2のコンダクタンスが安定化する。また、誘導路ヒータ7aを設けたことにより、誘導路7が長く設計されても蒸着材料2が誘導路7の内側面に堆積しないので、筒状体5と膜厚計測部6との距離を、膜厚計測部6が筒状体5や蒸発源3からの輻射熱の影響を受け難くなるよう設定することができ、膜厚計測部6を安定動作させることができる。そのため、膜厚計測部6は正確な蒸着レートを安定的に計測することができ、コントローラ8はこの蒸着レートに基づいて蒸発源ヒータ3aの加熱温度を制御して蒸着材料2の蒸着速度を調整することができる。なお、誘導路7は筒状体5に比べて遥かに小さな部材から成るので、誘導路7を蒸着材料2が気化される温度に加熱するために誘導路ヒータ7aから生じる輻射熱は、筒状体ヒータ5aからの輻射熱に比べると僅かであり、膜厚計測部6の動作に及ぼす影響は少ない。
【0021】
また、誘導路7は屈曲部71を備えるので、蒸発源3で蒸着材料2が突沸しても、膜厚計測部6に液滴等の塊状の蒸着材料2が直接入射することがなく、突沸による蒸着レートの変動を生じることもない。これらの構成を備えたことにより、本実施形態の真空蒸着装置は、正確な蒸着レートを安定的に計測することができ、この蒸着レートに基づくフィードバック制御を行うことにより、被蒸着体4に対して高精度な蒸着膜を形成することができる。
【0022】
好ましくは、図中に示したように、蒸発源3と筒状体5の開口部52との間には、気化された蒸着材料2が開口部52側へ飛翔しながら移動するときの飛翔経路を制御する制御部材55が設けられる。制御部材55は、筒状体5の内周の同形状の板材に所定個数の貫通孔を設けて形成されたものである。この制御部材55を設けることにより、開口部52を通過する蒸着材料2の濃度を均一にすることができ、被蒸着体4に蒸着される蒸着膜の膜厚の内面分布を均一化することができる。
【0023】
次に、本発明の第2の実施形態に係る真空蒸着装置について、図2を参照して説明する。本実施形態の真空蒸着装置は、誘導路7が、筒状体5の側部53のうち、蒸発源3の近傍に接続されているものである。その他の構成は上記第1の実施形態と同様である。蒸発源3の近傍は、筒状体5内の他の部分と比べて、気化された蒸着材料2の濃度が高くなる。そのため、蒸発源3の近傍に誘導路7を接続することにより、膜厚計測部6に備えられた検出素子(例えば水晶振動子)の表面に付着する蒸着材料2の相対量が多くなり、膜厚計測部6における検出感度が向上する。これにより、本実施形態の真空蒸着装置は、より正確に蒸着レートを計測することができ、この蒸着レートに基づいてフィードバック制御を行うことにより、被蒸着体4に対して更に高精度な蒸着膜を形成することができる。
【0024】
次に、本発明の第3の実施形態に係る真空蒸着装置について、図3を参照して説明する。本実施形態の真空蒸着装置は、誘導路7を開閉して膜厚計測部6へ流れる気化した蒸着材料2の流量を調整可能に形成されると共に、蒸着材料2が気化される温度に加熱される誘導路開閉部9(誘導路開閉手段)を更に備えたものである。この誘導路開閉部9は、側部開口部54の近傍に配置され、誘導路7の開口径に適合するように形成された板状部材を回転又はスライドさせて、誘導路7の開口度合いを任意に調整するものである。なお、誘導路開閉部9の開閉動作は、真空蒸着装置の作動状況に応じて自動的に行われるよう構成されていることが望ましいが、手動で行われてもよい。その他の構成は上記第1又は第2の実施形態と同様である。
【0025】
通常、真空蒸着装置を用いた蒸着作業においては、被蒸着体4を交換等するために、被蒸着体4に蒸着膜を形成しない待機時間がある。本実施形態においては、この待機時間中に、誘導路開閉部9を作動させて誘導路7を閉鎖して、膜厚計測部6への蒸着材料2の流入を遮断する。そして、フィードバック制御による蒸着を行うときのみ誘導路7を開くようにする。こうすれば、検出素子61に対する蒸着材料2の付着が低減され、検出素子61の交換頻度を少なくすることができ、メンテナンスの頻度も少なくなる。本実施形態は、上述した第2の実施形態のように、検出素子61に蒸着材料2が付着し易い構成において好適に用いられる。
【0026】
誘導路開閉部9は、図示したように、側部開口部54の近傍に設けられると、筒状体ヒータ3aによって筒状体3と共に加熱されるが、必ずしも側部開口部54の近傍に限らず、誘導路7のいずれの位置に設けられてもよい。また、誘導路開閉部9は、誘導路ヒータ7aによって誘導路7と共に加熱されるよう構成されてもよく、個別に開閉部ヒータ(図示せず)が設けられてもよい。このように、誘導路開閉部9が、蒸着材料2が気化される温度に加熱されることにより、その表面に蒸着材料2が堆積することはなく、その開閉動作に支障を生じることもない。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明の実施例について、比較例と対比することにより、より具体的に説明する。
【0028】
(実施例1)
実施例1は、図1に示した第1の実施形態に対応するものである。筒状体5として、内壁の一辺が100mm、高さ230mmの直方体状の角筒が用いられ、筒状体5の加熱温度は200℃に設定された。誘導路7が接続される側部開口部54は、蒸発源3から80mmの高さに、開口直径が10mmになるよう形成された。誘導路7は、その内径が側部開口部54の口径と同じ10mmに、側部開口部54との接続部から屈曲部71までの長さが30mm、屈曲部71から膜厚計測部6までの長さが30mmになるよう形成された。また、誘導路7は、側部53との成す角が40°となるよう接続され、屈曲部71の角度は130°となるよう形成された。膜厚計測部6には、水晶振動子膜厚計が用いられた。
【0029】
(実施例2)
実施例2は、図2に示した第2の実施形態に対応するものである。誘導路7が接続される側部開口部54は、蒸発源3から40mmの高さに形成された。その他の構成は実施例1と同様である。
【0030】
(実施例3)
実施例3は、図3に示した第3の実施形態に対応するものである。誘導路7が接続される側部開口部54の近傍に誘導路開閉部9が設けられ、被蒸着体4に蒸着膜を形成するときに誘導路7を開き、蒸着膜を形成しない待機時間に誘導路7を閉鎖した。その他の構成は実施例2と同様である。
【0031】
(比較例)
比較例は、図4に示した従来の真空蒸着装置に対応するものである。誘導路107は、筒状体105の側部の、蒸発源103から80mmの高さに接続され、その口径が10mm、長さが30mmとなるよう形成された。また、誘導路107は、屈曲部を有しておらず、ヒータ等も設けられていない。その他の構成は実施例1と同様である。
【0032】
実施例1乃至実施例3及び比較例について、夫々蒸着材料2及び被蒸着体4を配置して蒸着実験を行った。蒸着材料2にはトリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体((株)同仁化学研究所製「Alq3」)を用いた。被蒸着体4にはガラス基板(100mm×100mm×厚み0.7mm)を用い、このガラス基板を蒸発源3から250mmの距離に水平に配置した。ガラス基板を配置した後、蒸着レートを4Å/s、形成膜厚を100nmに設定して、夫々20回の蒸着実験を繰り返し行った。また、各蒸着実験間には、ガラス基板の交換作業のため、約7分間のガラス基板に蒸着膜を形成しない時間(待機時間)があり、待機時間における蒸着レートを2Å/sとした。各蒸着実験で形成された蒸着膜の膜厚は、触針式段差計を用いて計測した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示すように、実施例1乃至実施例3では、比較例と比べて、形成された蒸着膜の膜厚の差異が少ない。この結果は、実施例1乃至実施例3において形成された蒸着膜の再現性が高いことを示す。すなわち、実施例1乃至実施例3は、誘導路7が加熱され、しかも膜厚計測部6に対する筒状体5からの輻射熱の影響が少なくなるよう構成されているので、膜厚計測部6は正確な蒸着レートを安定的に計測することができ、この蒸着レートに基づくフィードバック制御を行うことにより、ガラス基板に対して高精度な蒸着膜を形成することができる。また、実施例2及び実施例3は、実施例1と比べて、形成された蒸着膜の再現性が更に高い。これは、誘導路7を蒸発源3の近傍に接続したことにより、膜厚計測部6における検出感度が向上し、より正確に蒸着レートを計測することができ、この蒸着レートに基づくフィードバック制御により、ガラス基板に対して更に高精度な蒸着膜を形成することができることを示す。更に、比較例では、蒸着材料2の突沸による蒸着レートの変動があったのに対して、実施例1乃至実施例3では、誘導路7に屈曲部71を備えたことにより、突沸による蒸着レートの変動はなかった。
【0035】
実施例2及び実施例3は、誘導路7が蒸発源3の近傍に接続され、検出素子61(水晶振動子)に蒸着材料2が付着し易い構成となっているが、実施例3では、誘導路開閉部9を設けたことにより、実施例2よりも水晶振動子の交換回数が少なくなった。なお、実施例3は、実施例2の構成に誘導路開閉部9を付加したものであるが、実施例3における水晶振動子の交換回数が実施例1よりも少ないことから明らかなように、誘導路開閉部9が実施例1の構成に付加されたときも水晶振動子の交換回数を少なくすることができる。
【0036】
本発明は、突沸を生じ易い有機材料を蒸着材料として蒸着膜を形成するための蒸着装置、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)素子の発光層を成膜するため蒸着装置に好適に用いられる。有機EL素子の発光層を成膜するための蒸着装置は、ゲスト蒸着材料及びホスト蒸着材料等を気化させるため、少なくとも2つの蒸発源3が備えられ、コントローラ8は、これらの蒸発源3の加熱温度を個別に制御できるように構成される。すなわち、本発明の真空蒸着装置において、蒸発源3の個数及びこの蒸発源3に収容される蒸着材料の種類等は特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る真空蒸着装置の一部断面構成図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る真空蒸着装置の一部断面構成図。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る真空蒸着装置の一部断面構成図。
【図4】従来の真空蒸着装置の一部断面構成図。
【符号の説明】
【0038】
1 真空チャンバ
2 蒸着材料
3 蒸発源
3a 蒸発源ヒータ
4 被蒸着体
5 筒状体
5a 筒状体ヒータ
53 側部
6 膜厚計測部
7 誘導路
7a 誘導路ヒータ
71 屈曲部
9 誘導路開閉部(誘導路開閉手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に蒸着材料を収容する蒸発源と被蒸着体とを配置すると共に、前記蒸発源と被蒸着体との間を前記蒸着材料が気化される温度に加熱された筒状体で囲み、前記蒸発源から気化した蒸着材料を前記筒状体内を通して前記被蒸着体の表面に蒸着させる真空蒸着装置において、
前記筒状体外に設けられ、前記蒸発源から気化した蒸着材料を付着させてその蒸着膜厚を計測する膜厚計測部と、
前記筒状体の内部空間と前記膜厚計測部との間を接続して設けられ、前記蒸発源から気化した蒸着材料を前記膜厚計測部に誘導する誘導路と、を備え、
前記誘導路は、屈曲部を備えると共に、前記蒸着材料が気化される温度に加熱されることを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記誘導路は、前記筒状体の側部の前記蒸発源の近傍に接続されることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記誘導路を開閉して前記膜厚計測部へ流れる気化した蒸着材料の流量を調整可能に形成されると共に、前記蒸着材料が気化される温度に加熱される誘導路開閉手段を更に備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の真空蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−174027(P2009−174027A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15733(P2008−15733)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「有機発光機構を用いた高効率照明技術の発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】