説明

真空蒸着装置

【課題】搬送中に基板がホルダから外れることを防止することができる真空蒸着装置を提供する。
【解決手段】ホルダ103aは、基板20を保持する一方面S1と、一方面S1と反対の他方面S2とを有する。またホルダ103aには、平面視において基板20の一部と重複する領域において開口部OPが設けられている。蒸着源120はホルダ103aの一方面S1に対向している。ヒータはホルダの他方面S2に対向している。固定具60は、ホルダの一方面S1上に固定され、一方面S1との間で基板20を挟むことによって基板20を固定している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に蒸着法によって膜を形成する装置、すなわち真空蒸着装置において、通常、基板を保持するホルダが用いられる。場合によって、基板はホルダとともに自動的に搬送される。特開平4−365317号公報(特許文献1)によれば、処理すべき基板を落とし込む溝を有する支持台が用いられる。基板は支持台とともに搬送され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−365317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
支持台に形成された溝に基板が単に載置されただけでは、搬送中に基板が溝から外れてしまうことがある。本発明の一の目的は、搬送中に基板がホルダから外れることを防止することができる真空蒸着装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の真空蒸着装置は、基板への蒸着を行うための真空蒸着装置であって、ホルダと、蒸着源と、ヒータと、固定具とを有する。ホルダは、基板を保持する一方面と、一方面と反対の他方面とを有する。またホルダには、平面視において基板の一部と重複する領域において、一方面および他方面の間を貫通する開口部が設けられている。蒸着源はホルダの一方面に対向している。ヒータはホルダの他方面に対向している。固定具は、ホルダの一方面上に固定され、一方面との間で基板を挟むことによって基板を固定している。
【0006】
上記の真空蒸着装置によれば、基板の保持に用いられる固定具がホルダに固定されている。よって固定具がホルダからずれることがないので、より確実に基板を保持することができる。
【0007】
好ましくは、上記の固定具は、基板の最外周の一部のみを押さえるように構成されている。これにより基板の表面のうち固定具の存在によって蒸着されなくなる部分をより小さくすることができる。
【0008】
好ましくは、上記のホルダは、一方面上において、基板と接するように設けられた少なくとも1つの突出部を有する。これにより、ホルダと基板との接触面積が小さくなるので、ホルダと基板との間での熱の授受を抑制される。よって、ホルダ上への膜の堆積などに起因したホルダの状態の変動が基板温度に与える影響を抑制することができる。これにより、基板温度の変動に起因した蒸着工程のばらつきを抑制することができる。
【0009】
より好ましくは、上記の少なくとも1つの突出部は複数の突出部を含む。これにより基板をより安定に保持することができる。
【0010】
さらに好ましくは、上記の複数の突出部は、第1および第2の突出部と、第1および第2の突出部を通る直線上から外れて配置された第3の突出部とを含む。これにより基板をさらに安定に保持することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明の真空蒸着装置によれば、より確実に基板を保持することができる
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1における真空蒸着装置を概略的に示す断面図である。
【図2】図1の真空蒸着装置におけるホルダの近傍を概略的に示す平面図(A)、およびその線IIB−IIBに沿う概略断面図(B)である。
【図3】本発明の実施の形態2における真空蒸着装置におけるホルダの近傍を概略的に示す平面図(A)、およびその線IIIB−IIIBに沿う断面図(B)である。
【図4】図3におけるホルダを概略的に示す平面図(A)、およびその線IVB−IVBに沿う概略断面図(B)である。
【図5】本発明の実施の形態3における半導体装置を概略的に示す断面図である。
【図6】図5の半導体装置の製造方法の第1工程を概略的に示す断面図である。
【図7】図5の半導体装置の製造方法の第2工程を概略的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態1および2の各々における真空蒸着装置における温度測定の結果の例を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0014】
(実施の形態1)
図1および図2を参照して、本実施の形態の真空蒸着装置としての分子線エピタキシ(Molecular Beam Epitaxy(MBE))装置100は、ホルダ103aと、蒸着源120と、ヒータ105と、板ばね60(固定具)と、ねじ61と、搬送アーム203と、ゲートバルブ202と、プロセスチャンバ101と、搬送チャンバ201と、真空ポンプ107と、基板シャッタ111と、蒸着源シャッタ125〜128とを有する。
【0015】
ホルダ103aは、ウエハ20を保持する表面S1(一方面)と、表面S1と反対の裏面S2(他方面)とを有する。またホルダ103aには、平面視(図2(A))においてウエハ20の一部と重複する領域において、表面S1および裏面S2の間を貫通する開口部OPが設けられている。好ましくは、表面S1は下方を向いており、裏面S2は上方を向いている。ホルダ103aの材料は、たとえばモリブデンである。
【0016】
蒸着源120はホルダ103aの表面S1に対向している。蒸着源120は原料セル121〜124を有する。原料セル121〜124のそれぞれは、たとえば、Ga(ガリウム)、p型電極の材料であるAu(金)、ドーパントの材料であるMg(マグネシウム)、およびN2(窒素)ラジカル源を内部に収容している。
【0017】
板ばね60は、ホルダ103aの表面S1上にねじ61によって固定され、表面S1との間でウエハ20を挟むことによってウエハ20を固定している。板ばね60の材料は、たとえば、モリブデン、タングステン、ステンレス鋼、またはニッケル合金である。ねじ61の材料は、たとえば、モリブデン、タングステン、ステンレス鋼またはニッケル合金である。ニッケル合金としては、たとえばインコネル(登録商標)がある。
【0018】
ヒータ105はホルダ103aの裏面S2に対向している。ヒータ105は、ホルダ103aの開口部OPを介した熱輻射によってウエハ20を加熱するものである。温度制御のためにヒータ105は熱電対含んでいてもよい。
【0019】
搬送アーム203は、図1の破線矢印に示すように搬送チャンバ201からプロセスチャンバ101中へと挿入可能なものである。搬送アーム203によって、ウエハ20が取り付けられたホルダ103aをプロセスチャンバ101および搬送チャンバ201の間で出し入れすることができる。
【0020】
本実施の形態のMBE装置100(図1)によれば、図2(B)に示すように、ウエハ20の保持に用いられる板ばね60がホルダ103aに固定されている。よって板ばね60がホルダ103aからずれることがないので、より確実にウエハ20を保持することができる。
【0021】
また板ばね60は、平面視(図2(A))において、ウエハ20の最外周の一部のみを押さえるように構成されている。これによりウエハ20の表面S1のうち板ばね60の存在によって蒸着されなくなる部分をより小さくすることができる。
【0022】
(実施の形態2)
図3および図4を参照して、本実施の形態のMBE装置は、上述したホルダ103aの代わりにホルダ103bを有する。ホルダ103bは、表面S1上において、ウエハ20と接するように設けられた突出部51を有する。これにより、ホルダ103bとウエハ20との接触面積が小さくなるので、ホルダ103bとウエハ20との間での熱の授受を抑制される。よって、ホルダ103b上への膜の堆積などに起因したホルダ103bの状態の変動がウエハ20温度に与える影響を抑制することができる。これにより、ウエハ20温度の変動に起因した蒸着工程のばらつきを抑制することができる。
【0023】
またホルダ103bは、図4(A)に示すように、ウエハ20と接するように設けられた複数の突出部51a〜51dを含む。これにより、単数の突出部のみが設けられる場合に比して、ウエハ20をより安定に保持することができる。また突出部51は、突出部51aおよび51bと、両者を通る直線上から外れて配置された突出部51cとを含む。これによりウエハ20をさらに安定に保持することができる。
【0024】
好ましくは、各突出部51の高さは0.1mm以上とされ、より好ましくは0.5mm以上とされる。これによりホルダ103bとウエハ20との間の断熱作用をより高めることができる。また蒸着の際にホルダ103bに付着する物質によって突出部51が完全に埋もれてしまうことを、実用的に十分に避けることができる。
【0025】
好ましくは、各突出部の高さは1mm以下とされる。これにより突出部51の強度をより十分に確保することができる。
【0026】
好ましくは、各突出部51の平面視(図4(A))における最小寸法(たとえば最小直径)は2mm以下とされる。これによりホルダ103bとウエハ20との間の断熱作用をより高めることができる。
【0027】
好ましくは、各突出部51の平面視(図4(A))における最小寸法(たとえば最小直径)は0.3mm以上とされる。これにより突出部51の強度をより十分に確保することができる。
【0028】
好ましくは、各突出部51は、図4(B)に示すように、先端ほど幅が小さくなるテーパ形状を有する。これにより、突出部51がウエハ20に接する面積を小さくすると同時に、突出部51の強度をより確保することができる。ただし突出部51の形状はテーパ形状に限定されるものではなく、たとえば、直径0.5mm程度の円筒形状を有してもよい。
【0029】
好ましくは、突出部51を有するホルダ103bは、1つの塊(たとえばモリブデン塊)を加工することによって形成される。この場合、ホルダ103bの本体部分と突出部51との間には界面が形成されないので、突出部61がホルダ103bから取れにくくなる。
【0030】
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0031】
(実施の形態3)
図5を参照して、上述したMBE装置によって製造し得る半導体装置について説明する。本実施の形態では、半導体装置としてpnダイオード10を例に挙げて説明する。pnダイオード10は、GaN(窒化ガリウム)基板11と、n-GaN層12と、p-GaN層13と、p+GaN層14と、p+GaN層15と、p型電極16と、n型電極17とを備えている。n-GaN層12は、GaN基板11上に形成されている。p-GaN層13は、n-GaN層12上に形成されている。p+GaN層14は、p-GaN層13上に形成されている。p+GaN層15は、p+GaN層14上に形成されている。p型電極16は、p+GaN層15上に形成され、たとえばAu(金)からなる。n型電極17は、GaN基板においてn-GaN層12が形成された面と反対側の面に形成され、たとえばTi(チタン)/Al(アルミニウム)からなる。
【0032】
図6を参照して、GaN基板11を準備し、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属化学気相堆積)装置(図示せず)を用いて、n-GaN層12と、p-GaN層13と、p+GaN層14とをこの順でエピタキシャル成長させる。これによりエピタキシャルウエハであるウエハ20が準備される。
【0033】
次に、このウエハ20をMBE装置100(図1)のホルダ103a(図2)または103b(図3)に取り付ける。真空ポンプ107で、プロセスチャンバ101の内部を真空にする。真空とは、たとえばプロセスチャンバ101内の圧力が1×10-10Pa以上1.0×10-3Pa以下である。
【0034】
次に、ヒータ105でウエハ20を加熱する。また、Ga、Mgを収容した原料セル121、123、およびN2ラジカル源を収容した原料セル124の蒸着源シャッタ125、127、128と、基板シャッタ111とを開けて、原料であるGa、MgおよびN2ラジカルの分子流を、ウエハ20上に到達させる。原料がウエハ20の表面に衝突および付着することにより、ウエハ20のp+GaN層14上に、p+GaN層15を成膜することができる。
【0035】
次に、蒸着源シャッタ125、127、128で原料セル121、123、124を覆うことで、Ga、MgおよびNの供給を停止する。これにより、p+GaN層15の成膜を終了する。
【0036】
図7を参照して、蒸着源シャッタ128を開けることで、Auの分子流をホルダ103aまたはホルダ103bに載置されたp+GaN層15上に到達させる。原料がp+GaN層15の表面に衝突および付着することにより、p+GaN層15上にp型電極16としてのAu膜を形成することができる。これにより、p型電極16がさらに形成されたpnダイオード用のウエハを形成することができる。このようにp型電極16を形成することで、p+GaN層15とp型電極16との清浄な界面を形成することができる。
【0037】
次に、p+GaN層15およびp型電極16が形成されたウエハ20をMBE装置100から取り出す。その後、GaN基板11においてn-GaN層12を形成した面と反対側にn型電極17を形成する。n型電極17の形成方法は特に限定されないが、たとえばMBE装置100(図1)により形成してもよい。
【0038】
以上により、pnダイオード10(図5)を製造することができる。
なお上記各実施の形態においては真空蒸着装置としてMBE装置100について説明したが、真空蒸着装置は、より真空度の低い雰囲気中での蒸着を行うものであってもよい。
【実施例】
【0039】
図8を参照して、ホルダ103aおよび103bの各々を用いてMBE装置100(図1)により蒸着を行いながら、ヒータ105の温度(設定温度)と、ウエハ20の温度(基板温度)との関係を調べた。
【0040】
まず蒸着を行う前に、ホルダ103aおよび103bのそれぞれを用いる場合の設定温度FSおよびPSを、パイロメータによって測定される基板温度が720℃となるように設定した。この結果、設定温度PSの方が設定温度FSよりも高くなった。この理由は、ホルダ103bの場合、突出部51の存在によってホルダ103bからウエハ20への熱伝導が小さかったためと考えられる。
【0041】
次に、ホルダ103aおよび103bの各々を用いた蒸着を行った。具体的には、ドープなしのGaNの3時間に渡る成長工程を5回繰り返し、その間、基板温度FWおよびPWを測定した。蒸着条件は、Gaのフラックス量を1.9×10-4Paとし、N2ラジカルの電力を250W、ガス流量を1.3sccmとした。その結果、成長レートは0.25μm/hであった。
【0042】
成長工程を繰り返すにつれて、ホルダ103aを用いた場合の基板温度FWは徐々に低下していったが、ホルダ103bを用いた場合の基板温度PWはほぼ一定であった。この理由は、ホルダ103bの場合、突出部51(図3)の存在によって、ホルダ103bとウエハ20との間での熱の授受が抑制されたためと考えられる。
【0043】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0044】
10 pnダイオード(半導体装置)、20 ウエハ(基板)、60 板ばね(固定具)、61 ねじ、100 真空蒸着装置、103a,103b ホルダ、105 ヒータ、107 真空ポンプ、120 蒸着源、OP 開口部、S1 表面(一方面)、S2 裏面(他方面)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板への蒸着を行うための真空蒸着装置であって、
前記基板を保持する一方面と、前記一方面と反対の他方面とを有し、平面視において前記基板の一部と重複する領域において前記一方面および前記他方面の間を貫通する開口部が設けられたホルダと、
前記ホルダの前記一方面に対向する蒸着源と、
前記ホルダの前記他方面に対向するヒータと、
前記ホルダの前記一方面上に固定され、前記一方面との間で前記基板を挟むことによって前記基板を固定する固定具とを備える、真空蒸着装置。
【請求項2】
前記一方面は下方を向いている、請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記固定具は、前記基板の最外周の一部のみを押さえるように構成されている、請求項1または2に記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
前記ホルダーは、前記一方面上において、前記基板と接するように設けられた少なくとも1つの突出部を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つの突出部は複数の突出部を含む、請求項4に記載の真空蒸着装置。
【請求項6】
前記複数の突出部は、第1および第2の突出部と、前記第1および第2の突出部を通る直線上から外れて配置された第3の突出部とを含む、請求項5に記載の真空蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−184489(P2012−184489A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50005(P2011−50005)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】