説明

真空遮断器用電極

【課題】電流遮断性能やコンデンサ開閉性能も向上できる真空遮断器用電極を提供する。
【解決手段】縦磁界形の電極10は、導電棒11の端部に固定するカップ形接触材12と、このカップ形接触材12の端面に固着されてアーク発生部となる接触板14とにより構成され、しかもカップ形接触材12の一端の外周面部分に、軸線に対して傾斜させた複数のスリット13を形成している。接触板14は、高電流遮断性能材料製の中央部材22と、この中央部材と相性が良くかつ高遮断性能である高耐電圧材料製であって、中央部材22の外側に配置して固着する外周部材21とを用いて一体に製作される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空遮断器用電極に係り、特に遮断性能やコンデンサ開閉特性を向上できる真空遮断器用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
変電設備や配電設備等には、小型な構造で高電圧大電流の遮断を行うことのできる真空遮断器が使用されている。この種の真空遮断器は、真空状態を維持可能なセラミック製の円筒状の絶縁容器内に、固定側及び可動側の両電極を、同軸上に対向させて配置することによりバルブ本体を構成し、バルブ本体の近傍に設ける操作器によって、可動側の電極を開方向に移動させ、電流を遮断している。
【0003】
近年の真空遮断器では、例えば特許文献1及び特許文献2等に記載されているように、固定側及び可動側の各電極はアーク発生時に縦磁界が生ずる構造である。そして、可動側の電極が移動する開極時に、両電極は離れて予め定めた間隙を維持し、開極した電極間に生ずるアークを、縦磁界により拡散させて大電流の遮断を可能にしている。
【0004】
通常、図7に示す如く固定側や可動側の縦磁界形の電極10は、導電棒11の端部にカップ形接触材12を固定し、カップ形接触材12の端面にアーク発生部となる接触板14を固着している。この縦磁界形の電極10のカップ形接触材12は、反導電棒11側となる一端の外周面部分に軸線に対して傾斜させた複数のスリット13を形成して電流の流れる複数の通路、所謂コイル部を有する構造としている。
【0005】
このスリット13を形成したカップ形接触材12の使用により、縦磁界形の電極10の可動側が開方向に移動したとき、コイル部に流れる電流で縦磁界を発生させ、この縦磁界を活用して接触板14部分に点弧したアークを拡散させて電流を遮断する。
【0006】
上記した縦磁界形の電極10では、遮断時に生ずるアークで接触板14の接触側面が高温になるため、接触板14には従来から高温で溶融し難い耐アーク性が良く、かつ固定側及び可動側の両電極の接触時に良好な通電性能を確保できる導電率が高い材料が使用されている。この接触板14の材料には、例えば銅(Cu)−クロム(Cr)焼結合金や、Cu−Crの主成分にモリブデン(Mo)やタングステン(W)やタンタル(Ta)等の耐熱元素の粉末を添加した焼結合金を用いている。
【0007】
ところが、電極10の接触板14にCu−Cr合金材を用いるときには、高融点材であるCr等の含有量を増加する必要があるが、Cu分の含有量の低下によって導電率が下がり、接触抵抗の増加や遮断性能の低下が懸念される。
【0008】
このため、本発明者等は特願2010−143243号で、Mo粉とテルミットCr粉を用いて焼結により微細なCrMo合金組織にし、この組織と濡れ性が非常に良いCuを隙間に溶浸させて形成する材料を提案している。この材料を使用した真空遮断器用電極は、遮断性能の低下がなく、しかも接触抵抗の上昇を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−92050号公報
【特許文献2】特開2010−113821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
真空遮断器の電流遮断時において、電極部分での衝撃電圧(以下、「IMP」と略称する。)特性をより詳しく検討してみると、次のような現象が判明している。即ち、電流遮断の際に可動側の電極が軸方向に移動して開離することで、固定側及び可動側の両電極間は離れて予め定めた間隙を維持する構造になっている。
【0011】
電極の接触板部分におけるIMP特性を検討してみると、アーク発生時の接触板の外周部付近は、電界強度が高くなって電界集中を引き起してIMP耐電圧絶縁破壊が発生し易くなる。このため、縦磁界形の電極を使用する真空遮断器では、電極の接触板部分におけるIMP耐電圧の向上、及びより一層の遮断性能やコンデンサ開閉性能を向上することが望まれている。
【0012】
CrMo合金組織中にCuを溶浸させた材料で接触板を形成し、Mo配合量を多くすると、電界による電子放出が増え、IMPによる放電が電界の高い部分でおこってしまい、IMPに対する耐電圧が低下する欠点が生じてくる。また、縦磁界形の電極の接触板を、高融点材のCr等の含有量を増加させたIMP特性の良好なCu−Cr合金材のみで形成すると、遮断性能が低下する。
【0013】
本発明の目的は、電流遮断性能やコンデンサ開閉性能も向上できる真空遮断器用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の真空遮断器用電極は、導電棒の端部に固定するカップ形接触材と、前記カップ形接触材の端面に固着されてアーク発生部となる接触板とにより構成され、かつ前記カップ形接触材の一端の外周面部分に、軸線に対して傾斜させた複数のスリットを設けた縦磁界形とする際に、前記接触板は、高電流遮断性能材料製の中央部材と、前記中央部材と相性が良くかつ高遮断性能である高耐電圧材料製であって前記中央部材の外側に配置して固着する外周部材とを用いて一体に構成したことを特徴としている。
【0015】
好ましくは、前記中央部材は混合量がMo>CrのCu−Cr−Mo材で形成し、前記外周部材はCu−Cr材で形成したことを特徴とし、また好ましくは、前記外周部材は焼結合金にて環状に形成し、前記中央部材は焼結合金にて円板状に形成したことを特徴としている。
【0016】
更に好ましくは、前記中央部材は前記カップ形接触材側に円形銅板を固着したことを特徴とし、また前記外周部材は高耐電圧材料にて凹円板形に形成し、前記外周部材の凹部に高電流遮断性能材料製の前記中央部材を配置したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の如く真空遮断器用電極を構成すれば、接触板は電極中央部に高電流遮断性能材料製の中央部材を用いて形成しているので、電流遮断性能やコンデンサ開閉性能も向上できるし、また接触板は電極外周部に高耐電圧材料製の外周部材を用いて形成しているので、IMPに対して従来のものよりも一層耐電圧を向上させることができる。更に、接触板を構成する外周部材及び中央部材の双方を、焼結合金を用いて形成すれば、容易に製作できて縦磁界形の電極を経済的に製作することがことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例である真空遮断器用電極を示す概略縦断面図である。
【図2】本発明の他の実施例である真空遮断器用電極を示す概略縦断面図である。
【図3】本発明の別の実施例である真空遮断器用電極を示す概略縦断面図である。
【図4】電極間の間隔が12mmのときのCu−Cr材及びCu−Cr−Mo材の衝撃電圧特性図である。
【図5】電極間の間隔が20mmのときのCu−Cr材及びCu−Cr−Mo材の衝撃電圧特性図である。
【図6】従来の真空遮断器用電極を示す側面図である。電極間の間隔を12mmのときのCu−Cr材及びCu−Cr−Mo材の衝撃電圧特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の真空遮断器用電極は、一端の外周面部分に軸線に対して傾斜させた複数のスリットを形成したカップ形接触材と、前記カップ形接触材の端面に固着されてアーク発生部となる接触板とからなる縦磁界形の構造である。そして、接触板は、外周部に配置する高耐電圧材料製の外周部材と、この外周部材の内側に配置して固着する高電流遮断性能材料製の中央部材とを用いて一体にしている。
以下、本発明の真空遮断器用電極の各実施例を、従来と同一部分を同符号で示した図1から図6を用いて順に説明する。
【実施例1】
【0020】
図1に示す本発明の真空遮断器用電極は、固定側や可動側に縦磁界形の電極10を用いている。電極10は、導電棒11の端部にカップ形接触材12を固定しており、カップ形接触材12の反導電棒11側となる外周面部分に軸線に対して傾斜させた複数のスリット13を形成して電流通路のコイル部を設けた従来と同様の構造である。
【0021】
カップ形接触材12のスリット13を形成した端面部分に、接触板14を固着しており、接触板14面は他方側の電極の接触板と接触して電流を流すると共に、両電極が開極する電流遮断時にアーク発生部ともなる。
【0022】
この接触板14は、本発明により外周部分に配置される環状の外周部材21と、中央部分に配置される円板形の中央部材22の二つを組み合わせて一体に構成している。しかも、外周部材21と中央部材22の双方は、異なる特性を有する材料で作製している。即ち、外周部材21はIMPに対して耐電圧特性の良好な高耐電圧材料を用いて作製し、また中央部材22は高電流遮断性能材料を用いて作製する。
【0023】
外周部材21を作製する高耐電圧材料としては、Crを40重量%以上で60重量%以下の範囲を含み、しかもCr粒子を微細分散組織にした耐熱材であるCu−Cr材等が用いられる。その上、接触板14でIMPによる放電は、電界の高い外周部で発生するし、また電界の集中部分は接触板14の直径寸法の80%以上が目安となるから、これを考慮して外周部材21を作製する。
【0024】
また、中央部材22を作製する高電流遮断性能材料には、例えば特願2010−143243号で提案した微細なCrMo焼結合金組織にCuを溶浸させたCu−Cr−Mo材等を使用する。このCu−Cr−Mo材は、粉の混合比率Mo:Cr=1:1から9:1で、混合量をMo≧Crにして混合して諸製造工程により製造した焼結合金組織であって、粒径20から100μmのCu30〜50wt%と、粒径1〜5μmのCrMo微細組織が50〜70wt%(Mo>Cr)であり、高電流遮断性能を有している。縦磁界形の電極10は、通常接触板14の直径寸法の80%程度の範囲で、アークを分散させて消弧させるようにしているため、中央部材22は接触板14の直径寸法の70〜80%にして作製する。
【0025】
なお、高電流遮断性能材料のCu−Cr−Mo材には、これと相性が良くて耐電圧特性も良いステンレス鋼材(SUS)や、Cu−Cr−低含有量Moを用いることができ、これらの材料で中央部材22と外周部材21をそれぞれ作製して組み合わせ、接触板14を一体に構成すれば、望ましい特性にすることができる。また、中央部材22と外周部材21にそれぞれ用いるCu−Cr−Mo材とCu−Cr材の各性能でみると、遮断性能及びコンデンサ開閉性能でCu−Cr−Mo材>Cu−Cr材、IMP耐電圧性能でCu−Cr−Mo材<Cu−Cr材である。
【0026】
上記した外周部材21を作製する高耐電圧材料のCu−Cr材及び中央部材22を作製する高電流遮断性能材料のCu−Cr−Mo材の使用は、図5及び図6に示すIMP試験した結果に基づいて、各材料を用いている。
【0027】
つまり、図5のギャップ12mmでIMP試験及び図6のギャップ20mmでIMP試験のいずれでも、白丸で示すCu−Cr材は、ギャップ寸法が異なっても、著しく試験電圧を上げて印加回数を増加させるまでは閃絡せず、十分な耐電圧性能を有している。これに対して、黒丸で示すCu−Cr−Mo材は、Cu−Cr材よりも遥かに低い試験電圧で印加回数も少ない段階で閃絡して耐電圧は低くなる。このことから、接触板14の耐電圧を上げる必要のある部分に高耐電圧のCu−Cr材を使用したものである。
【0028】
接触板14を製作する場合には、例えば焼結合金により環状に形成した外周部材21と、同様に焼結合金により円板形に形成した中央部材22の双方を組み合わせ、銀蝋付けにより一体に構成、或いは金型を用いてこの外円周部にCu−Cr粉を入れ、中央部にCu−Cr−Mo粉を入れ、プレス成形後に焼結して一体にすることで作製する。
【0029】
縦磁界形の電極10の場合、アーク発生時の接触板14の外周面付近、特に接触板外径寸法の80%以上の箇所で、上述したように電界強度が高くなって電界集中を引き起し、放電でアークの再点弧が生じ易くなるから、図1では外周部材21の外側面を大きく面取りするように斜めに切り落とし、この部分での電界集中を緩和している。
【0030】
上記したように構成した縦磁界形の電極10を使用すれば、接触板14の中央部分を高電流遮断性能材料製の中央部材を用いたので、遮断性能及びコンデンサ開閉性能が向上できるし、また電界強度が高くなる外周部分に中央部材と相性が良く、かつ高遮断性能である高耐電圧材料製の外周部材を用いたので、より一層耐電圧を向上させることができる。
【実施例2】
【0031】
次に、本発明の他の例である真空遮断器用電極の実施例について、図2を用いて説明する。この縦磁界形の電極10は、図1の例と同様に環状の外周部材21と中央部材22により接触板14を一体に構成するものであるが、高電流遮断性能材料焼結合金を用いて作製する中央部材22の厚さを変えている。
【0032】
この図2では、Cu−Cr−Mo材の如き焼結合金で高電流遮断性能材料製の中央部材22の厚さを薄くし、その厚さ分の円形の銅板23を用いている。中央部材22に用いるCu−Cr−Mo材は、導電抵抗が高いため薄く形成することが望ましく、電極の消耗を考慮すると厚さ1〜2mm程度にして使用することが実用的である。円形の銅板23上に、焼結合金にて環状に形成した中央部材22を配置して固着し、銅板23側の面をカップ形接触材と固着したものであり、他の点は図1の構造と同様にしている。
【0033】
このように構成すれば、上記した例と同様な効果を達成できるし、高価な焼結合金にて形成した中央部材22を薄くできるため、経済的に電極10を製作することができる利点がある。しかも、円形の銅板23を組み合わせて用いているので、電極10の通電性能が良好となる。
【実施例3】
【0034】
本発明の別の例である真空遮断器用電極の実施例を、図3を用いて説明する。この例では、縦磁界形の電極10の接触板14は、外周部材21を高耐電圧材料にて凹円板形に形成し、この外周部材21の円形の凹部に、高電流遮断性能材料の焼結合金を用いて作製する中央部材22を配置し、一体に構成したものである。
【0035】
焼結合金で外周部材21と中央部材22を形成して接触板14を構成する場合、この双方を別々に作製して組み合わせて固着して製作することができる。また、金型内に高耐電圧材料の焼結合金粉を入れて凹円板形にプレス成形後、形成された凹部に高電流遮断性能材料の焼結合金分を配置して再度プレス成形した後、焼結を行って一体に製作することもできる。
【0036】
この図3のように構成した電極10であっても、上記した例と同様な効果を達成できる上、中央部材22と中央部材21の双方とも、焼結合金を用いて作製すれば、容易に接触板14を製作することができる利点がある。
【符号の説明】
【0037】
10…電極、11…導電棒、12…カップ形接触材、13…スリット、14…接触板、21…外周部材、22…中央部材、23…銅板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電棒の端部に固定するカップ形接触材と、前記カップ形接触材の端面に固着されてアーク発生部となる接触板とにより構成され、かつ前記カップ形接触材の一端の外周面部分に、軸線に対して傾斜させた複数のスリットを設けた縦磁界形の真空遮断器用電極において、前記接触板は、高電流遮断性能材料製の中央部材と、前記中央部材と相性が良くかつ高遮断性能である高耐電圧材料製であって前記中央部材の外側に配置して固着する外周部材とを用いて一体に構成したことを特徴とする真空遮断器用電極。
【請求項2】
請求項1において、前記中央部材は混合量がMo>CrのCu−Cr−Mo材で形成し、前記外周部材はCu−Cr材で形成したことを特徴とする真空遮断器用電極。
【請求項3】
請求項1において、前記外周部材は焼結合金にて環状に形成し、前記中央部材は焼結合金にて円板状に形成したことを特徴とする真空遮断器用電極。
【請求項4】
請求項3において、前記中央部材は前記カップ形接触材側に円形銅板を固着したことを特徴とする真空遮断器用電極。
【請求項5】
請求項1において、前記外周部材は高耐電圧材料にて凹円板形に形成し、前記外周部材の凹部に良好な通電性能で高電流遮断性能材料製の前記中央部材を配置したことを特徴とする真空遮断器用電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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