説明

真菌の培養装置及び培養方法

【課題】操作性に優れた真菌の培養装置及び培養方法を提供する。
【解決手段】湿度調節用の溶液が充填される容器と、前記容器に取り付けられて前記容器とともに実質的な密閉空間を形成する蓋部材と、前記蓋部材における前記実質的な密閉空間を構成する面に取り付けられ、真菌を培養することができる基材とを備える。容器に充填された溶液により、容器と蓋部材とで構成される実質的な密閉空間内を一定の湿度に維持することができる。一定の湿度に維持した実質的な密閉空間内において、基材に接種された真菌を培養する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便に所望の湿度環境下で真菌を培養することができる培養装置及び培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カビを始めとする真菌の培養、評価においては、数%の相対湿度の変化がカビ生育に大きな影響を与えるため、正確な実験、評価を行うためには厳密に湿度条件を管理しなければならない。すなわち、真菌の至適発育湿度範囲は非常に狭く、菌種によっても異なるため、閉鎖系において厳密に湿度をコントロールする必要が生じる。
【0003】
また、実際にカビが生育しているような環境下では経時的な湿度の変化があるため、より実環境に則したカビの評価を行う場合は培養途中で所望の湿度変化条件下に順次変更して培養することが非常に有効な手法となる。
【0004】
従来、相対湿度をコントロールして真菌を培養、評価する際には、真菌を接種した培地を含む容器を、密閉可能な容器内に配置するとともに、当該密閉可能な容器内の湿度を一定に保つために無機塩飽和溶液を注入した調節容器を当該密閉可能な容器内に配置していた。このように、密閉可能な容器の内部を密閉して、湿度を至適範囲に維持しながら真菌を培養していた。
【0005】
しかしこの培養、評価方法では真菌の培養に要する器具の数が多く、上述の培養の際には、全ての器具や培地、無機塩飽和水溶液などを予め滅菌し、さらに全ての操作を無菌的に行うことが必要であり、操作者にとって煩雑であり手間の掛かる作業である。また、様々な湿度環境下において、多数の真菌を培養するには前記密閉可能な容器が複数個必要になり、非常に広いスペースが必要となるといった問題も生じる。さらに、真菌の培養過程において湿度条件を変化させるような場合には、密閉可能な容器の開閉作業に続き各器具の入れ替え作業といった煩雑なすべての操作を無菌的に実行しなければならない。このように、従来の真菌の培養装置及び培養方法は、作業工程が多く煩雑であるため操作性が悪い、実験器具数も多くなるために経済性が悪いという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述したような真菌の培養における諸問題に鑑み、操作性に優れた真菌の培養装置及び培養方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成した本発明は以下を包含する。
(1)湿度調節用の溶液が充填される容器と、前記容器に取り付けられて前記容器とともに実質的な密閉空間を形成する蓋部材と、前記蓋部材における前記実質的な密閉空間を構成する面に取り付けられ、真菌を培養することができる基材とを備える真菌の培養装置。
【0008】
本発明に係る培養装置では、容器と蓋部材とで構成される実質的な密閉空間内を容器に充填された溶液により一定の湿度に維持することができる。そして、本発明に係る培養装置では、一定の湿度に維持したキャビティ内において、基材に接種された真菌を培養することとなる。
【0009】
本発明に係る培養装置において実質的な密閉空間とは前記基材に真菌を接種して培養する際に、蓋部と容器とで形成される空間の湿度が一定に保たれ、かつ外部からの菌の混入が無い程度に密閉されていることを意味する。
【0010】
本発明に係る培養装置において、内部の機密性を保つために前記容器と前記蓋部材との間に気密部材を配設することが好ましい。また、気密部材は、容器又は蓋部材に取り付けることができる。さらに、本発明に係る培養装置において、容器は複数のウェルを有するものであってもよい。この場合、蓋部材には複数のウェルに対応して複数の基材が取り付けられ、蓋部材により各ウェルごとに実質的な密閉空間が形成されることが好ましい。これにより、複数の培養系を同時に構成することができる。
【0011】
さらにまた、本発明に係る培養装置は、複数の培養装置を安定的に連結できる機構を有してもよい。当該機構としては、例えば、前記蓋部材及び前記容器のいずれか一方又は両方の外周面に形成された他の蓋部材又は他の容器に接続するための形状を挙げることができる。より具体的な当該機構としては、蓋部材における外部上面に形成された、容器における外部底面の形状に一致する凹部を挙げることができる。このように、蓋部材における外部上面に凹部が形成されていれば、複数の培養装置を縦方向に重ねて配置することができ、省スペース化を図ることができる。また、当該機構としては、前記容器における外部の一側面に形成された凸条部と、当該一側面の反対側の他側面に形成された当該凹条部とを挙げることができる。このように前記容器における外部一側面に凸条部、他側面に凹条部が形成されていれば、これら凸条部及び凹条部を介して複数の培養装置を横方向に安定して配置することができる。さらにまた、当該機構としては、前記容器の外部の一側面に形成された凸部と、当該一側面の反対側の他側面に形成された凹部とを挙げることができる。このように前記容器における外部一側面に凸部、他側面に凹部が形成されていれば、これら凸部及び凹部を介して複数の培養装置を横方向に安定して配置することができる。
【0012】
さらにまた、本発明に係る培養装置において、蓋部材としては粘着シートを使用することができる。本発明に係る培養装置において、容器及び蓋部材のうちいずれか一方又は両方が光線透過性の材料から形成されていることが好ましい。
【0013】
なお、本発明に係る培養装置は、キャビティ内の温度を制御する温度調節装置を更に備えるものであってもよい。
【0014】
また、上述した目的を達成した本発明は以下を包含する。
(2)湿度調節用の溶液が充填された容器と、前記容器に取り付けられて前記容器とともに実質的な密閉空間を形成する蓋部材と、前記蓋部材における前記実質的な密閉空間を構成する面に取り付けられ真菌を培養することができる基材とを備える培養装置における前記基材に真菌を接種する工程と、前記容器と前記蓋部材とを密閉して真菌を培養する工程とを有する真菌の培養方法。
【0015】
本発明に係る培養方法は、上述したいずれの培養装置も使用することができる。また、本発明に係る培養方法では、前記蓋部材を、異なる組成の湿度調節用溶液が充填された複数の容器に取り付けることによって、1個の装置で湿度の異なる環境で真菌を培養することができる。さらに、本発明に係る培養方法では、接種した真菌を備えた蓋部材を取り外し、別に用意した異なる組成の湿度調節用溶液が充填された複数の容器に順次取り付けることによって、培養途中で容易に湿度を変更しながら培養することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る培養装置では、容器と蓋部材とにより構成される実質的な密閉空間内において、基材に接種した真菌を培養することができる。すなわち、本発明に係る培養装置では、容器と蓋部材とを組み合わせるだけで真菌の培養系を構築することができる。したがって、本発明に係る培養装置は、操作者による真菌の接種作業及び培養系の構築作業が非常に簡便であり、操作性に優れたものとなる。
【0017】
また、本発明に係る培養方法では、基材に真菌を接種した後、容器と蓋部材とを密閉するのみで、実質的な密閉空間内を所定の湿度に維持して真菌を培養することができる。したがって、本発明に係る培養方法によれば、湿度条件を厳密に管理しながらも、非常に簡易に真菌を培養することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る培養装置及び培養方法を、図面を参照して詳細に説明する。
本発明に係る培養装置としては、例えば、図1に示すように、溶液等を充填することができる容器1と、容器1における上端部付近の外周面の形状と略同型の内周面の形状を有し、空間内を密閉可能な蓋部材2の内面に取り付けられた基材3とから構成される。本培養装置は、図2に示すように、容器1と蓋部材2とが組み付けられて構成されるキャビティ4内に、キャビティ4内を所定の湿度に維持するための溶液5(湿度調節用溶液5)を充填することができる。また、基材3は、培養対象の真菌を培養するための培地成分を含んでおり、培養対象の真菌6を接種させることができる。
【0019】
特に、本発明に係る培養装置においては、キャビティ4内は実質的に密閉されている(気密性が確保されている)。これにより、真菌6の培養環境における湿度を一定に維持することができ、湿度条件を厳密に管理することができる。図1及び2に示すような培養装置であってもキャビティ4の気密性を確保できるが、容器1と蓋部材2との間に気密性を高める機構(気密部材)を設けることが好ましい。例えば、図3に示すように、培養装置は、容器1と蓋部材2との間に配置されたパッキン7と、蓋部材2の側面に回動自在に取り付けられた係止部材8とを備えるものであっても良い。係止部材8は、その一方端面に、容器1の側面に形成された凸部9と係合する係合部10を有している。
【0020】
このように構成された図3に示す培養装置では、容器1と蓋部材2とがパッキン7を介して互いに押圧した状態で、係止部材8の係合部10と容器1の凸部9とを係合させる。これにより、図3に示す培養装置では、キャビティ4内部の気密性をより向上させることができる。
【0021】
また、図4に示すように、培養装置は、容器1に対して蓋部材2を嵌合するような構成であってもよい。この場合、蓋部材2の外周部には、容器1における上端部と対向する位置に、当該上端部の幅寸法よりもやや狭い凹溝11が形成されている。このように構成された図4に示す培養装置では、容器1の上端部と蓋部材2の凹溝11とを嵌合させる。これにより、図4に示す培養装置では、キャビティ4内部の気密性をより向上させることができる。
【0022】
さらに、培養装置においてキャビティ4内の気密性を向上させる手段としては、上述した例示に限定されず、例えば蓋部材2を容器1に対して螺合するようにしても良い。或いは、容器1と蓋部材2とを組み合わせた状態で、外周をバンドで固定するといった手段により、キャビティ4内の気密性を向上させることもできる。さらに、蓋部材そのものを通気性のない粘着シートを用いて容器に接着させて、容器内の気密性を保つ事もできる。
【0023】
また、本発明に係る培養装置は、複数の真菌を培養する際に省スペース化を図ることを可能とするような構成であることが好ましい。図1及び2に示した培養装置、図3に示した培養装置、並びに図4に示した培養装置において、複数の培養装置を重ね合わせることが可能な蓋部材2を使用することができる。例えば、図5に示すように、蓋部材2は、その外部上面に、容器1における外部底面の形状に一致する凹部12が形成されているものを使用することができる。凹部12を有する蓋部材2を使用することによって、図5に示すように、複数の培養装置を安定的に縦方向に重ね合わせることが可能となる。これにより、複数の培養装置を使用した場合であっても、省スペース化を図ることができる。
【0024】
また、図示はしないが、本発明に係る培養装置は、複数の真菌を培養する際に省スペース化及び安定化を図ることを可能とするような構成であることが好ましい。このような構成としては、例えば、培養装置を横方向に連結できる機構を挙げることができる。より具体的には、容器1における外部の一側面に凸条部を形成するとともに、当該一側面の反対側の他側面に当該凹条部を形成する構成を挙げることができる。このように容器1における外部一側面に凸条部、他側面に凹条部が形成されていれば、これら凸条部及び凹条部を介して複数の培養装置を横方向に安定して配置することができる。また、当該機構としては、容器1の外部の一側面に凸部を形成するとともに、当該一側面の反対側の他側面に凹部を形成する構成を挙げることができる。このように容器1における外部一側面に凸部、他側面に凹部が形成されていれば、これら凸部及び凹部を介して複数の培養装置を横方向に安定して配置することができる。
【0025】
また、本発明に係る培養装置において、容器1及び蓋部材2のうちいずれか一方又は両方が、光線透過性の材料から形成されていることが好ましい。これにより、本発明に係る培養装置を用いて、光照射しながらの培養や光照射条件を適宜変更しながらの培養を行うことができる。
【0026】
さらに、本発明に係る培養装置は、複数種類の真菌を同時に培養できるような構成であってもよい。培養装置としては、例えば、図6に示すように、複数のウェル13を有する容器1を備えるような構成であってもよい。この場合、蓋部材2は、図7及びに8に示すように、各ウェル13の位置に対応して複数の基材3が取り付けられることとなる。なお、図7には、蓋部材2を粘着シートで構成した例を示している。粘着シートを使用する場合、基材3の取り付けと、容器1への取り付けとを容易に行うことができ、各ウェル13内に形成されるキャビティ4内部の気密性を維持することができる。また、図8には、蓋部材2を、容器1の外形と略同形の内形を有する蓋で構成した例を示している。図8に示した蓋部材2を使用する場合、図3及び4に示したような構成と同様にして、キャビティ4内の気密性を高く維持することができる。
【0027】
複数のウェル13を有する容器1としては、例えば、動物細胞の培養に使用されるマイクロタイタープレートや、複数(例えば、4〜384個)のウェルを有するプレートを使用することができる。これらプレートは、ポリスチレン等の樹脂を用いて成型することで作製することができる。また、市販のプレートとして、例えば細胞培養用プレート、浮遊細胞用プレート、クリアボトムプレート(ファルコン社)等を使用することができる。
【0028】
また、容器1としてプレートを使用する場合には、図9に示すように、蓋部材2との間にOリング14を配することが望ましい。Oリング14を配することで、容器1と蓋部材2との間に構成されるキャビティ4の気密性を向上させることができる。なお、Oリング14は、容器1に取り付けられていても良いし、蓋部材2に取り付けられていても良い。
【0029】
さらに、本発明に係る培養装置において、複数のウェル13を有する容器1としては、上述したプレート状のものに限定されず、例えば図10に示すように、円周上に各ウェル13を配置したようなものであっても良い。また、図示しないが、複数のウェル13を有する容器1としては、複数のウェルがそれぞれ略直方体状を呈し、マトリックス状に配置されたものを使用することもできる。いずれの場合でも、ウェル13の開口部を覆うに足る形状の蓋部材2を取り付けることによって、ウェル13内にキャビティ4を形成することができる。
【0030】
本発明に係る複数のウェル13を有する培養装置においても、省スペース化及び安定化を図ることを可能とするような構成であることが好ましい。
【0031】
例えば、蓋部材は、その外部上面に、容器における外部底面の形状に一致する凹部が形成されているものを使用することができる。凹部を有する蓋部材を使用することによって、複数の培養装置を安定的に縦方向に重ね合わせることが可能となる。これにより、複数の培養装置を使用した場合であっても、省スペース化を図ることができる。
【0032】
また、培養装置を横方向に連結できる機構を挙げることができる。より具体的には、容器1における外部の一側面に凸条部を形成するとともに、当該一側面の反対側の他側面に当該凹条部を形成する構成を挙げることができる。このように容器1における外部一側面に凸条部、他側面に凹条部が形成されていれば、これら凸条部及び凹条部を介して複数の培養装置を横方向に安定して配置することができる。また、当該機構としては、容器1の外部の一側面に凸部を形成するとともに、当該一側面の反対側の他側面に凹部を形成する構成を挙げることができる。このように容器1における外部一側面に凸部、他側面に凹部が形成されていれば、これら凸部及び凹部を介して複数の培養装置を横方向に安定して配置することができる。
【0033】
一方、基材3は、真菌の培地を含浸させたり、培地を塗布することができる素材であれば、特に限定されず、例えば、濾紙、布及び不織布を使用することができる。また、本発明において基材3としては、真菌の生育に必要な成分またはそれを配合した固形物(例えば寒天培地など)自体を使用しても良い。さらに、基材3としては、タイル、布、皮革、木片、金属、壁紙、皮膚(人・動物)、爪、毛髪、ビニール等の素材をそのまま、或いは加工して使用しても良い。基材3の形状にも特に限定されず、例えば、円形、楕円形及び矩形等の如何なる形状であってもよい。
【0034】
基材3に含浸させる培地は、培養対象とする真菌の種類に応じて適宜調製したり、市販の培地を購入して使用することができる。例えば、Potato Dextrose Broth(DFCO)、Sabouraud Dextrose Broth(DFCO)、Special Yeast and Mold Medium(DFCO)、Malt Extract Broth(DFCO)、Yeast Extract Glucose Chloramphenicol Ager(DFCO)、Glucose Pepton Broth、などを使用することができる。また、必要に応じてこれらの培地に抗菌剤のクロラムフェニコールを添加して用いてもよい。
【0035】
また、容器1に充填する溶液は、キャビティ4内の湿度を調製するための溶液であり、例えば、水又は無機塩飽和溶液を使用することができる。無機塩飽和溶液を使用する場合、いわゆる飽和塩法によってキャビティ4内部の湿度を一定に保つことができる。飽和塩法とは、無機塩の飽和水溶液と共存する空気の湿度が、塩の種類や濃度により定まるという原理を応用した湿度管理方法である。無機塩としては、例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム及び塩化リチウムなどを使用することができる。
【0036】
ところで、本発明に係る培養装置は、上述したような構成に限定されず、真菌の培養温度を制御する温度調節装置を備えるものであっても良い。温度調節装置とは、キャビティ4内を加熱及び/又は冷却することができる機構を意味する。このような温度調節装置は小型で本発明に係る培養装置に取り付けることができるものであれば制限は無い。例えば、図1及至10のいずれかに示した培養装置においては、一定の温度に加温又は冷却できる温度制御装置を取り付け、さらに容器及び蓋部の外壁を断熱性の素材にすることにより達成できる。断熱性の外壁としては、外壁を2重構造にして、スポンジや発泡スチロールといった断熱素材をその中に入れる等の機構を有する外壁を使用できる。
【0037】
本発明に係る培養装置に温度制御装置が備わることによって、真菌の培養を恒温槽を使用せずに実施することができる。すなわち、温度制御装置によって所望の温度条件に維持しながら、所定の湿度条件下のキャビティ4内で真菌を培養することができる。これにより、本発明に係る培養装置を用いた真菌の培養を省スペースで実施することができる。
【0038】
以上のように構成された本発明に係る培養装置を使用することによって、一定の湿度条件のもと、培養対象とした真菌を培養することができる。特に、上述した培養装置においては、蓋部材2に基材3を取り付けることによって、一定の湿度に維持したキャビティ4内における真菌の培養を可能としている。このように、本発明に係る培養装置は、従来の手法と比較して非常に簡易な構成で、一定の湿度条件下における真菌の培養を可能としている。
【0039】
また、本発明に係る培養装置によれば、真菌を接種した基材を取り付けた蓋部材2を、異なる容器1に容易に移動させることができる。よって、本発明に係る培養装置によれば、特に、経時的に湿度条件を変化させながら真菌を培養する場合に、操作性に優れたものとなる。実際の環境下では湿度の経時的な変化があるため、より実環境に則したカビの評価において、非常に簡便に所望の湿度変化条件下で培養することができるため非常に有効である。
【0040】
さらに上述した本発明に係る培養装置を使用することで、カビや酵母等の真菌に関して一般住環境等での生育の評価を行うことができる。この場合、例えば、石鹸カスや皮脂、泥汚れ等を基材3に付着させる。ここで、基材3としては、タイル、布、皮革、木片、金属及び壁紙等の住居用素材を使用する。これにより、住居用素材に対する、石鹸カスや皮脂、泥汚れ等に由来する真菌の生育を経時的に湿度コントロールして評価することができる。なお、基材3に対して抗菌剤を塗布すれば、当該抗菌剤の抗菌性能の評価を行うこともできる。
【0041】
その上、この手法は培地以外の素材、たとえば住居用素材、家具に用いられる素材、人体や動物由来の素材などをも評価対象とする事ができるため、湿度変化と合わせ、より実際の環境を反映させた条件下でカビの生育を簡便に評価することが可能であり、非常に有用な評価手段となりうる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
<材料及び方法>
湿度調節用溶液を充填する容器としては、ポリスチレン細胞培養用マルチウェルプレート(平底低蒸発タイプ12WELL(ファルコン社))を使用した。このプレートにおける各ウェルに、湿度調節用無機塩(塩化バリウム二水和物(WAKO社製)、臭化カリウム(WAKO社製)、塩化ナトリウム(WAKO社製))の飽和水溶液、および水をそれぞれ1.0mlづつ注いだ。
【0043】
密閉する蓋部材としては、プレート密着フィルム(無毒性圧着フィルム)(ファルコン社製)を使用した。
【0044】
蓋部材に取り付ける基材としては、滅菌済み円形ろ紙(Grade 1、サイズ2cm、Whatmann社製)を使用した。この基材に滅菌済みポテトデキストロースブロス培地を0.1mL浸漬させた後に2hr風乾させ、その後、プレートのウェルの位置に合致する様に密着フィルムに接着させた。
【0045】
以上のように培養装置を構成することによって表1に示すように、各ウェル内の湿度をコントロールできた。
【0046】
【表1】

【0047】
このように湿度を管理した培養装置を用いて、供試カビの生育試験を行った。また、比較のため、従来法による供試カビの生育試験も行った。
【0048】
本実施例において、供試カビとしては、Cladosporium cladosporioidesNBRC 6348とAspergills niger NBRC 6341を使用した。また、これら供試カビを前培養する際の培地としては、ポテトデキストロースアガー(Difco社製)を使用した。培養した供試カビから胞子を回収する際の溶液は、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート0.05g、塩化ナトリウム0.85g及びイオン交換水1000mLからなる胞子回収溶液を使用した。
【0049】
本実施例において、胞子液は以下のように調節した。先ず、供試カビを前培養培地にて25℃で7〜10日間培養し、十分に胞子を形成させた後、胞子回収溶液にて回収した。また、本例では、胞子数を106cfu/mL程度になるように調節した。
【0050】
本実施例では、上述のように調節した胞子液0.1mLを基材に接種し自然乾燥させた。上述したフィルムを細胞培養用マルチウェルプレートに密着させることによって、調湿用飽和無機塩水溶液が入った各ウェルと、供試カビを接種した基材とを位置合わせした。さらに、フィルムの上から付属の蓋を閉めることによって、培養環境を構築した。このようにして、表1に示した湿度環境下で基材に接種した供試カビを25℃で14日間静置培養した。カビの増殖は目視で判定し、増殖の程度によって3段階(+:増殖、±:わずかに増殖、−:増殖なし)に分けた。
【0051】
なお、比較のために行った従来法は、次の通りである。アルコールおよびUV照射により滅菌処理をした気密性を保持する事が可能なフレキシブルシールウエア(ラストロウエア 岩崎工業 19x25x13cm)を合計10個用意した。また、滅菌済み円形ろ紙(Grade 1、サイズ4.25cm、Whatmann社製)に滅菌済みポテトデキストロースブロス培地を0.1mL浸漬させた後に2hr風乾させた後、滅菌プラスチックシャーレ(Φ9cm)上に置いた。各ろ紙に上述の方法で準備した供試カビを接種した後、このシャーレと、調湿用飽和無機塩水溶液60mlを注入した滅菌済ガラス製ビーカー(100ml容)をそれぞれ設置し各容器の蓋を閉めた。尚、これらの操作はすべて無菌的に行った。その後空間内の気密性を保持したまま25℃、14日間静置培養を行った。
【0052】
<結果>
結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
以上の結果から明らかなように、本実施例で示した培養装置では、従来法と同様に、供試カビを培養できることが明らかとなった。以上の結果から、従来法と比較して非常に簡便な操作によって供試カビを培養することができる、新規な培養装置及び培養方法を確立できたことが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明を適用した培養装置の一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示した培養装置の断面図である。
【図3】本発明を適用した培養装置の他の例を示す断面図である。
【図4】本発明を適用した培養装置の他の例を示す断面図である。
【図5】複数の培養装置を重ねて使用した場合の構成を示す断面図である。
【図6】複数のウェルを有する容器の一例を示す斜視図である。
【図7】図6に示した容器に取り付けられる蓋部材の一例を示す斜視図である。
【図8】図6に示した容器に取り付けられる蓋部材の他の例を示す斜視図である。
【図9】容器上にOリングを配した状態を示す要部断面図である。
【図10】複数のウェルを有する容器の他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
1…容器、2…蓋部材、3…基材、4…キャビティ、5…溶液(湿度調節用溶液)、6…培養対象の真菌

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿度調節用の溶液が充填される容器と、
前記容器に取り付けられて前記容器とともに実質的な密閉空間を形成する蓋部材と、
前記蓋部材における前記実質的な密閉空間を構成する面に取り付けられ、真菌を培養することができる基材とを備える、
真菌の培養装置。
【請求項2】
前記容器と前記蓋部材との間に気密部材を配設することを特徴とする請求項1記載の培養装置。
【請求項3】
前記気密部材は、前記容器又は前記蓋部材に取り付けられていることを特徴とする請求項2記載の培養装置。
【請求項4】
前記容器は複数のウェルを有し、前記蓋部材には前記複数のウェルに対応して前記基材が取り付けられており、前記蓋部材により前記複数のウェルごとに実質的な密閉空間を形成していることを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項記載の培養装置。
【請求項5】
複数の培養装置を連結できる機構を有することを特徴とする請求項1乃至4いずれか一項記載の培養装置。
【請求項6】
前記蓋部材における外部上面には、前記容器における外部底面の形状に一致する凹部が形成されていることを特徴とする請求項5記載の培養装置。
【請求項7】
前記容器における外部の一側面には凸条部が形成されるとともに、当該一側面の反対側の他側面に当該凹条部が形成されていることを特徴とする請求項5記載の培養装置。
【請求項8】
前記容器における外部の一側面には凸部が形成されるとともに、当該一側面の反対側の他側面に当該凹部が形成されていることを特徴とする請求項5記載の培養装置。
【請求項9】
前記蓋部材は、粘着シートであることを特徴とする請求項1乃至4いずれか一項記載の培養装置。
【請求項10】
前記キャビティ内の温度を制御する温度調節装置を更に備えることを特徴とする請求項1乃至9いずれか一項記載の培養装置。
【請求項11】
前記容器及び前記蓋部材のうちいずれか一方又は両方が、光線透過性の材料から形成されていることを特徴とする請求項1乃至10いずれか一項記載の培養装置。
【請求項12】
請求項1乃至11いずれか一項記載の培養装置における基材に真菌を接種する工程と、
前記容器と前記蓋部材とを密閉して真菌を培養する工程とを有する、
真菌の培養方法。
【請求項13】
前記蓋部材を、真菌の培養中に異なる組成の湿度調節用溶液が充填された複数の容器に順次取り付けることによって、培養中の湿度を変化させて真菌を培養することを特徴とする請求項12記載の培養方法。
【請求項14】
請求項4乃至11いずれか一項記載の複数のウェルを有する培養装置における基材に真菌を接種する工程と、前記容器の前記複数のウェルに異なる組成の湿度調節用溶液を入れる工程と、前記容器と前記蓋材を密閉して真菌を培養する工程とを有する真菌の培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−202463(P2007−202463A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24683(P2006−24683)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】