説明

真贋判定機能を有するスレッド、及びそれを使用した偽造防止用紙

【課題】従来にない全く新規な真贋判定機能を有したスレッドとそれを使用した偽造防止用紙を得ることを課題とする。
【解決手段】可視光線領域と赤外線領域の一種のメタメリック現象と、多層真珠光沢フィルムとを組み合わせ従来にない真贋判定機能を有したスレッドを得る。例えば、可視光線及び赤外線のいずれも透過する性能を有した多層真珠光沢フィルム(1)の片方の面に、赤外線を吸収する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3a)、赤外線を透過する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3b)が設けられており、前記赤外線を吸収する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3a)と、赤外線を透過する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3b)とが通常光のもとで同色に見え、かつ赤外線領域での分光反射率が相違していることを特徴とする真贋判定機能を有するスレッドがその一例である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、真贋判定機能を有するスレッド、及びそれを使用した偽造防止用紙に関するものである。詳しくは、室内光や自然光などの、通常の光のもとでは真珠光沢感に優れたスレッドに見えるだけであるが、赤外線を照射してそれを可視化できる装置で観察すると隠されたマイクロ文字等の文字や画像が見えるという高度な真贋判定機能を有するスレッド、及びそれを使用した偽造防止用紙に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
紙幣、商品券、株券、債券、小切手、宝くじ等の金銭的価値を有する有価証券類には、容易に偽造又は変造されない様に多種多様の偽造防止対策を施してある。この偽造防止対策は大きく2つに分けることができる。1つ目は偽造防止対策を施した用紙、即ち偽造防止用紙を使用すること、2つ目は印刷で偽造防止対策を施すことである。
【0003】
近年、技術の進歩により、上記した有価証券類が多色印刷機による方法、カラーコピー機による方法、パソコンに連動したスキャナーで画像を取り込みカラープリンターでプリントする方法等で偽造されることが多くなっている。最近は、解像度や色相等が本物と見分けがつかないほど格段に精巧になり、比較的簡単に偽造品を作製できるようになってきた。
【0004】
このような背景から、上記したような機器を使用した偽造を防止する技術や、上記有価証券類が偽造されたものであるか否かを判定(真贋判定)するための方法も種々提案されてきた。例えば「メタメリズム(条件等色)」を利用した真贋判定の技術はその一例である。「メタメリズム(metamerism)」または「条件等色(metameric match)」とは、分光分布特性が異なっているにもかかわらず観察条件によって知覚的に同じ色に見えることを言う(「色彩ワンポイント」(財)日本色彩研究所編、(財)日本規格協会発行、1993年、第1巻67頁)。
【0005】
このメタメリズムを利用した真贋判定の技術としては、太陽光、蛍光灯、白熱電球等の通常光のもとで見える色と、所望のフィルターを通して見るかあるいは所望の分光エネルギー分布を有する光源のもとで見える色が異なった色相、明度、彩度に見えるメタメリックな性質を有する色材でなるメタメリックインキを用いた偽造防止技術が提案されている(特許文献1参照。)。このメタメリックインキと通常光のもとで同色の通常の印刷インキとで所望のパターン群を用紙表面に組み合わせパターンとして形成させたものを、例えばカラーコピー機で複写すると、通常光のもとで同色であったものが両者の色に差が生じ、偽造品であることが判明するものである。
【0006】
また別の例として、パルプ繊維でなる紙基材に、メタメリックな色材を含有するインキが塗布された紙小片もしくは繊維片が漉き込まれている偽造防止用紙およびそれを用いた有価証券類が提案されている(特許文献2参照。)。
【0007】
一方、金属光沢や真珠光沢や虹彩色は、カラーコピー機による方法、パソコンに連動したスキャナーで画像を取り込みカラープリンター等でプリントする方法等では再現することが出来ないことを利用した偽造防止技術も提案されている。例えば、本出願人は先に、基紙表面に真珠顔料と接着剤を主体とした部分的な被覆層を形成し偽造防止用紙を得ること、この用紙を使用して印刷を施し、偽造防止印刷物を得ることを提案した(特許文献3参照。)。
【0008】
また、同じく本出願人は先に、2層以上の抄合わせ紙よりなり、最外の紙層が20〜50g/mであり、かつ光輝性を有する細片が含まれていることを特徴とする偽造防止用紙を提案した(特許文献4参照。)。
【0009】
また、被印刷基材上に、真珠顔料を含まないインキを用いて形成された、前記被印刷基材の表面の平滑性を向上させるための下地印刷塗膜が少なくとも一層以上積層してあり、前記下地印刷塗膜上には、真珠顔料を含有するパールインキを用いて形成されたパール印刷塗膜が少なくとも一層以上積層されていることを特徴とするパール調印刷物も提案されている(特許文献5参照。)。この発明には、パール調印刷物を、オフセット印刷や活版印刷を利用して製造する際に、被印刷基材の表面が粗面であって、印刷塗膜中の真珠顔料の配向方向が一定しないことにより、得られる真珠光沢が不十分な点を解消することを課題としている。また、この発明には、上層のパール印刷塗膜の真珠光沢を見えやすくするために、下地印刷塗膜の色相を比較的明度の低い暗色とすることも提案されている。
【0010】
一方、高度な偽造防止効果を有した偽造防止用紙として、「窓開きスレッド入り紙」と呼ばれている用紙がある。この偽造防止用紙の製造方法は、ワイヤ上の紙料懸濁液に、凹凸部を有するガイドの凸部先端に糸状物を通した溝を有するベルト機構を埋没して製造する方法(特許文献6参照。)や、凹凸状に加工した網を円網抄紙機の上網に使用し、糸状物を網表面の凹凸部に接触させながら挿入して窓開き部分に糸状物を抄き込む方法(特許文献7参照。)や、長網抄紙機のワイヤ上の回転ドラム内に圧縮空気ノズルを内蔵させ、予め紙匹に挿入した糸状物上のスラリーを圧縮空気で間欠的に吹き飛ばして糸状物を露出させる方法(特許文献8参照。)等が提案されている。
【0011】
前記した真珠顔料の偽造防止効果と、窓開きスレッド入り紙の偽造防止効果を組み合わせた偽造防止用紙については、本出願人により提案されている(特許文献9参照。)。即ちこの出願は、2層以上の紙層で構成され、最外部に位置する紙層が窓開き部を有し、最外部に位置する紙層とその下に位置する紙層の間に真珠光沢を有するスレッドが挿入されており、該帯状物が窓開き部に露出していることを特徴とする偽造防止用紙に関するものである。
【0012】
また、これら偽造防止用紙に使用するスレッドについても本出願人により提案されており(特許文献10参照。)、同公報の段落0047に前記多層真珠光沢フィルムをスレッドの原反に使用することが述べられている。
【0013】
【特許文献1】
特公昭60−58711号公報
【特許文献2】
特開2001−159094号公報
【特許文献3】
特開平6−313298号公報
【特許文献4】
特許第3075454号公報
【特許文献5】
特開2001−260517号公報
【特許文献6】
特公平5−85680号公報
【特許文献7】
米国特許第4462866号公報
【特許文献8】
特開平6−272200号公報
【特許文献9】
特開平08−311800号公報
【特許文献10】
特許第3262008号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
前記した、特公昭60−58711号公報や特開2001−159094号公報で提案されているメタメリックを利用した偽造防止印刷技術は、この仕組みが判ってしまえば比較的容易に偽造されるおそれがあり、またメタメリック色材の一方は耐光性に優れた無機系の着色顔料であり、他方は耐光性に劣る有機染料の組み合わせである場合が多く、印刷面が光によって短時間に変色したり、長期保存中に変色することが問題であった。また、特開平6−313298号公報、特許第3075454号公報で提案された真珠顔料の色相は穏やかなパール調であり、用紙の色とのコントラストに欠けて視認性がやや劣ることが問題であった。また、前記した特開2001−260517号公報に提案されたパール調印刷物も、この仕組みが判ってしまえば比較的容易に偽造されるおそれがあった。また、特開平08−311800号公報や特許第3262008号公報で本出願人が提案した偽造防止用紙は、偽造防止技術を一層高めることが要求されている。本発明はこれら従来技術の問題点を解消し、より一層偽造防止効果を高めた全く新規な偽造防止技術(真贋判定機能)を提案することを課題とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明を図面に基づいて説明する。図1は本発明の真贋判定機能を有するスレッドの一部拡大断面図である。
本発明の第1の発明は、可視光線及び赤外線のいずれも透過する性能を有した多層真珠光沢フィルム(1)の片方の面に、赤外線を吸収する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3a)、赤外線を透過する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3b)、接着剤層(4)が設けられており、前記赤外線を吸収する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3a)と、赤外線を透過する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3b)とが通常光のもとで同色に見え、かつ赤外線領域での分光反射率が相違していることを特徴とする真贋判定機能を有するスレッドである。
【0016】
また、図2は本発明の偽造防止用紙の一部拡大上面図である。
本発明の第2の発明は、用紙の表面に形成した窓開き部(W)に前記したスレッド(T)が露出していることを特徴とする偽造防止用紙である。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の第1の発明である、「可視光線及び赤外線のいずれも透過する性能を有した多層真珠光沢フィルム(1)の片方の面に、赤外線を吸収する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3a)、赤外線を透過する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3b)、接着剤層(4)が設けられており、前記赤外線を吸収する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3a)と、赤外線を透過する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3b)とが通常光のもとで同色に見え、かつ赤外線領域での分光反射率が相違していることを特徴とする真贋判定機能を有するスレッド」について先ず説明する。なお本発明に於いて用いる「透過」や「吸収」の意味は、「完全に透過(透過率100%)」または「完全に吸収(吸収率100%)」する必要はなく、本発明の目的を阻害しない範囲で多少数値が低くても差し支えない。
【0018】
多層真珠光沢フィルムは正反射光で見ると玉虫色の虹彩色に輝いて見えることが特徴で、例えば『商品名「AURORA FILM」、エンゲルハード・コーポレーション販売(マール・コーポレーションが販売していた商品名「MEARL FILM」と同じ)』が市販されている。
【0019】
この多層真珠光沢フィルムの製造方法は、米国特許3,565,985号公報、同3,773,882号公報、特表2002−529288号公報等に提案されている。このフィルムは透明な熱可塑性樹脂状材料が平行になった多数の層(通常数十〜数百層)からなり、隣接した層は屈折率に差がある種々の樹脂状材料から作られている。このフィルムの個々の層は非常に薄く、その厚さは数十〜数百nmの範囲にあり、それによって多くの干渉を起こし虹彩色を発現する。多層フィルムは、それぞれ2個またはそれ以上の押出し機から出る熔融物を集めた後これを所望の層のパターンになるように配置する供給ブロックを、通常の単一の多岐管平面フィルム用ダイス型と組み合わせて使用することにより低温ロール注型法によって製造すること等で得られる。
【0020】
この多層真珠光沢フィルムは、印刷を施した板紙の表面に貼り合わせることで、その真珠光沢が強調されることはよく知られており、この効果を利用してパッケージの分野で広く使用されている。この効果は印刷層の明度が低いほど大きくなることもよく知られている。
【0021】
また、この多層真珠光沢フィルムの真珠光沢はカラーコピー機で再現できないことを利用して偽造防止用紙に使用することは既に行われている。具体的な例としては、この多層真珠光沢フィルムからグリッターと呼ばれる細かな細片を製造し、それを用紙表面に抄き込んだ偽造防止用紙がオランダの1000ギルダー札等に採用されていたことは広く知られている。
【0022】
本発明者らはこの多層真珠光沢フィルムの特異な性能に注目し、新しい偽造防止の技術を開発することを目的に種々の検討を行い、本発明を完成させたものである。即ち、本発明者らは前記した多層真珠光沢フィルムが、可視光線(即ち、波長380nm〜770nmの光)と赤外線(即ち、770nm〜25μmの光)のいずれも透過する性能を有することを見出し、これを前記したメタメリック現象と組み合わせることで全く新規な偽造防止用フィルムを製造できることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0023】
本発明では、前記した多層真珠光沢フィルム(1)の上に、「赤外線を吸収する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3a)」と、「赤外線を透過する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3b)」を設ける(本発明では、印刷層(3a)と印刷層(3b)を併せて単に印刷層(3)と呼ぶ)。この際、前記赤外線を吸収する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3a)と、赤外線を透過する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3b)が、白色電球、蛍光灯、太陽光等の通常光のもとで同色に見え、赤外線領域での分光反射率が相違しているようにすることが必要である。
【0024】
印刷層(3)は印刷インキや塗料を使用して形成する。通常、印刷インキは、色材、ビヒクル、補助剤を主成分としている。色材は有機や無機の顔料、染料よりなり、ビヒクルは、油、樹脂、ピッチ、溶剤、可塑剤等からなり、補助剤は、ワックス、グリース、ドライヤー、酸化防止剤、濡和剤、等からなっている。塗料は色材と前記真珠光沢層の説明中で述べたようなバインダーを主剤とし、これに上記したような補助剤を適宜添加して調製する。この際、樹脂やバインダーの耐有機溶剤性を向上させるためにイソシアネート系等の架橋剤を適宜併用することで、耐有機溶剤性を高めることができる。
【0025】
本発明ではこの色材として特異な性能を有したものを使用する。即ち、通常光のもとでは同じ色(本発明では有彩色に限らず無彩色も含むものとする)に見えるが、赤外線領域での分光反射率が互いに異なる色材の組み合わせで特異な効果を発現させる。
【0026】
色材としては、無機顔料、有機顔料、有機染料等を使用する。有機顔料としては、リゾールレッド、レーキレッドC、カーミン6B、キナクリンレッド、イソインドリンイエロー、キノフタロンイエロー、ジスアゾイエロー、フタロシアニンブルー、アルカリブルー、等の周知の顔料が、無機顔料としては、カーボン、黒色酸化鉄(Fe)、黒色酸化チタン(チタンブラック)、銅・クロムブラック(CuCr)、赤色酸化鉄(α−Fe)、TiO−BaO−NiO、チタンイエロー(TiO−Sb−NiO)、チタンバフ(TiO−Sb−Cr)、黄鉛、黄色酸化鉄(α−FeO(OH))、ZnO−Fe 、ZnO−Fe−Cr、酸化クロム(3価)(Cr、クロミウムオキサイトグリーン)、クロムグリーン(黄鉛+紺青)、ビリジアン(ギネグリーン)、TiO−CoO−NiO−ZnO、コバルトブルー(CoO/nAl)、セルリアンブルー(CoO・nSnO)、群青(NaAlSi24:ウルトラマリンブルー)、紺青(MFe3+[Fe2+(CN)](M=K,Na,NH)等の周知の色材が使用できる。
【0027】
本発明では上記した色材に、通常光のもとでは白色か若しくは淡く着色している白色顔料を添加して、赤外線領域の分光反射率を変化させることもできる。特に通常光の反射率が高く、赤外線領域の反射率が低い顔料、例えば、リン酸塩系の白色結晶及びガラス系粉末やITO(酸化インジウム−スズ)粉末等の周知の顔料を好適に利用できる。
【0028】
通常カラー印刷物を作製する場合に使用されるプロセスインキは、藍(シアン)インキ、黄(イエロー)インキ、紅(マゼンタ)インキの三原色を使用してあらゆる色を再現させようとしている。インキの混合はいわゆる「減法混色」を示し、三原色を混ぜ合わせると「黒色」となる。実際は理論通りに真っ黒とならないので、「墨インキ」と称する色材にカーボンブラックを使用したインキで印刷することが行われている。通常藍インキには色材としてフタロシアニンブルーを、黄インキには色材としてジスアゾイエローを、紅インキには色材としてカーミン6Bを使用している。
【0029】
図3に色材にフタロシアニンブルーを使った藍インキを、RIテスターを使用して四六<90>のコート紙にベタ印刷し、分光光度計で測定した結果(分光反射率曲線)を示す。
【0030】
また、図4に色材にジスアゾイエローを使った黄インキを、RIテスターを使用して四六<90>のコート紙にベタ印刷し、分光光度計で測定した結果(分光反射率曲線)を示す。
【0031】
また、図5に色材にカーミン6Bを使った紅インキを、RIテスターを使用して四六<90>のコート紙にベタ印刷し、分光光度計で測定した結果(分光反射率曲線)を示す。
【0032】
また、図6に前記藍インキ、黄インキ、紅インキを混合した墨インキを使ってRIテスターを使用して四六<90>のコート紙にベタ印刷したものを分光光度計で測定した結果と、色材としてカーボンブラックを使用した墨インキを使用して四六<90>のコート紙にベタ印刷したものを分光光度計で測定した結果を示す。
【0033】
図6中の、両者の分光反射率曲線の対比で判るように、「藍+黄+紅インキ」を混合したインキを使用した印刷面の分光反射率曲線では波長400〜700nmの反射率は極端に低く、700nmを過ぎると急激に反射率は大きくなっており、このことはわずかに赤みがかかった黒色に見えることを示している。一方、「カーボン墨インキ」を使用した印刷面の分光反射率曲線も、可視光線領域の反射率は前記「藍+黄+紅インキ」を混合したインキの反射率とほぼ同一で、黒色に見えることを示している。この両者の差は非常に少ないので、図1に示したように可視光線及び赤外線のいずれも透過する性能を有した多層真珠光沢フィルム(1)に赤外線を吸収する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3a)と赤外線を透過する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3b)を形成しても、実質的に両者の差を確認できず黒色に見えるだけである。
【0034】
しかし、赤外線領域では両者は大幅に異なっており、「藍+黄+紅インキ」を混合したインキの反射率は「カーボン墨インキ」の反射率よりはるかに大きくなっている。このことは、仮に人間の目が赤外線を感知できるような構造になっていた場合両者は異なった色に見えることを示している。本発明ではこの現象を積極的に利用したものであって、赤外線を照射しその画像を可視化できるような装置で観察したり、信号を検知することで両者を識別し、真贋の判定機能に利用するものである。
【0035】
図7と図8はこのことを具体的に図示したものである。図7は、四六<90>のコート紙に印刷層を細紋状の図柄で形成した例を示し、細紋印刷層(3a)はカーボンブラックを使用した墨インキで、細紋印刷層(3b)は藍インキ、黄インキ、紅インキを混合した墨インキを使用して形成されている。この印刷物は通常光のもとでは(3a)及び(3b)は同色(黒色)に見える(図7)が、赤外線の反射率が異なっており、その画像を可視化できるような装置、例えばピーク波長が830nmや900nmの赤外線を発するLEDや、波長1060nmの赤外線を発するガラスレーザを使用して赤外線を照射し、その画像を赤外線フィルターを取り外したCCDカメラ等で撮影し、CRTに画像として映し出す装置を使用して観察すると、図8に示したように印刷層(3a)のみが黒く写って見え、印刷層(3b)は写らないで見える。
【0036】
印刷層(3)は、印刷層(3a)を先ず印刷し、その上に印刷層(3b)を重ね刷りする方法(例えば図1)、印刷層(3b)を先ず印刷し、その上に印刷層(3a)を重ね刷りする方法、印刷層(3a)と印刷層(3b)を接して印刷する方法、印刷層(3a)と印刷層(3b)を離して印刷する方法、印刷層(3a)の一部に印刷層(3b)が重なる方法等の単独或いは複数の組み合わせの、いずれの方法によってもよい。また、印刷層(3)は文字や図柄(本発明では全面ベタ印刷も図柄の範疇に含むものとする)で印刷されるが、この場合文字や図柄はベタ印刷や網点印刷のいずれの方法で表現してもよい。本発明においては、偽造防止効果を高める効果が大きいので、(3a)の印刷層をマイクロ文字や細紋で形成することが好ましい。またバーコード印刷や、OCR読み取りが可能な文字で形成することで、機械読み取り処理することが出来る。またMICR読み取りが可能な黒色酸化鉄とカーボンを混合したインクで(3a)の印刷層を形成することにより、MICR読み取りも可能となる。
【0037】
以上の説明では、印刷層(3)は、印刷層(3a)と印刷層(3b)の2つの例で述べたが、印刷層(3a)自身を赤外線領域での分光反射率が互いに異なる2種類以上のインキで、印刷層(3b)を通常光のもとで同色に見える、異なった2種類以上のインキで形成することは一向にかまわない。
【0038】
以上は黒色のインキの例を説明したが、本発明は黒色以外の色相でも実現できる。例えば、フタロシアニングリーン、ジスアゾイエロー、カーボンブラックの組み合わせで製造した黄緑色のインキと、ブルーレーキ、ジスアゾイエローの組み合わせで製造した黄緑色のインキは通常光のもとでは同じ色相に見えるが赤外線領域での分光反射率は前者が大きく、後者は小さいので本発明に好適に利用できる。
【0039】
本発明においては印刷層(3)の可視光領域の分光反射率を40%以下とすることが好ましい。多層真珠光沢フィルムの真珠光沢感は、反射率の高い印刷層に接するより反射率の低い印刷層に接した方が真珠光沢感を高めることができ、周囲とのコントラストを際だたせて視認性を向上できるからである。
【0040】
以上述べた方法等で製造した多層真珠光沢フィルムを観察すると優れた真珠光沢感が視認でき、赤外線画像を可視化できる装置で観察すると隠し文字や図柄を検知できる。また、印刷層(3a)をバーコードパターンで形成することで、ステルス型(目で見えない)のバーコード読み取りができるようになる。
【0041】
本発明では、さらに図柄や文字等の印刷層(3)の上に接着剤層4を設ける。接着剤層(4)の接着剤は、抄紙機の乾燥ゾーンで活性化して、用紙と強固に接着する性能を有した周知の接着剤を使用する。これらの接着剤に関しては、特開平10−001898号公報や、特開平10−226996号公報等に詳しく述べられている。接着剤層は表裏に設けても、窓開き部Wに露出する面と反対の面に設けてもよい。その厚みは通常1〜10μm程度である。
【0042】
次いで、マイクロスリッター等の周知の装置を使用して所定の幅にスリットしてボビンに巻き取ることで本発明のスレッドはできあがる。スリット幅は通常0.5〜5mm幅である。
【0043】
以上で本発明の第1の発明である真贋判定機能を有するスレッドが出来上がる。このスレッドを観察すると優れた真珠光沢感が視認でき、赤外線画像を可視化できる装置で観察すると隠し文字や図柄を検知できる。また、印刷層(3a)をバーコードパターンで形成することで、ステルス型(目で見えない)のバーコード読み取りができるようにもなる。
【0044】
本発明の第2の発明は、用紙の表面に形成した窓開き部Wに、前記したいずれかのスレッド(T)が露出していることを特徴とする偽造防止用紙である。この窓開きスレッド入りタイプの偽造防止用紙の製造には従来提案されている方法を何れも使用できる。窓開き部(W)ではスレッドが露出しているので、暗室内で赤外線を照射し、赤外線も感知できるCCDビデオカメラで撮影して画像をCRTに出力できるような装置で観察すると、赤外線を吸収する性能を有した図柄や文字などの印刷層(3b)を明確に読み取ることができる。窓開き部と窓開き部の間ではスレッドは紙層間に潜り込んでいるのでこの部分(トンネル部分)の印刷層(3b)は明瞭に見えない。このことは赤外線がある程度は紙層内部にも入ることを示している。
【0045】
【実施例】
実施例1  真贋判定機能を有するスレッドの製造例
多層真珠光沢フィルム(商品名「マールフィルム IF−8181R/G」、マール・コーポレーション製造)を準備した。このフィルムはPET/PMMA/PET/PMMA・・・・・の113層からなる厚み17μm、巾520mmのロール状フィルムであった。
【0046】
赤外線を吸収するマイクロ文字の印刷
先ずグラビア印刷機のグラビアロール(幅500mm)に、文字の大きさ5ポイント、線数175L、深さ30μm、で「SECURITY」という単語をくり返した文字列(列と列の間隔は5mmとした)をロールの周長方向全面に連続して形成した(図9参照)。次いで、前記フィルムの上に、色材としてカーボンブラックを使用したグラビア印刷用墨インキ(商品名「HRカラー墨」、大日精化工業(株)製造)を用いて、常法に従い印刷を施した。
【0047】
赤外線を反射するベタ印刷層の形成
メチルエチルケトン500重量部に、ロイコ染料(商品名「BK−202」、山田化学(株)製造)100重量部、顕色剤としてビスフェノール(商品名「BPS−N」、日華化学(株)製造)を200重量部加えて黒色の色材とした。これとは別にポリエステル系樹脂(商品名「バイロン」、東洋紡(株)製造)150重量部、イソシアネート系硬化剤を適量、トルエン320重量部、メチルエチルケトン170重量部よりなる溶液を準備し、前記黒色の色材と混合した。次いで前述のマイクロ文字印刷面にグラビア印刷機を用いて常法に基づいて全面ベタ印刷し、厚み4μmの黒色の印刷層を形成した。
【0048】
接着剤層の形成
ついで、ポリエステル系感熱接着剤(商品名「バイロン」、東洋紡(株)製造)にチオフェン系の蛍光染料を0.5重量%添加した塗料を5g/m(乾燥換算)塗工して感熱接着剤塗工層を形成した。次いでマイクロスリッターを使用して、文字がスレッドの中央に位置するようにスリットし、巾2.4mmのスレッドを製造した。
【0049】
得られた真贋判定機能を有するスレッドをフィルム側から観察すると全面が金色に見え、マイクロ文字印刷(SECURITYの単語の繰り返し)は視認できなかった。この真贋判定機能を有するスレッドに暗室内で波長880nmの赤外線(LEDを使用)を照射し、赤外線も感知できるCCDビデオカメラで撮影して画像をCRTに出力したところ、「SECURITY」のマイクロ文字を明確に読み取ることができた(図10参照)。
【0050】
実施例2  偽造防止用紙の製造例
紙料の調製
NBKP20重量部,LBKP80重量部をフリーネス350mlC.S.F.に叩解し、これに白土10重量部、紙力増強剤(商品名「ポリストロン191」、荒川化学工業(株)製)0.3重量部、サイズ剤(商品名「サイズパインE」、荒川化学工業(株)製)1.0重量部、硫酸バンドを適量加え、紙料を調製した。
【0051】
抄紙網の製造
円網抄紙機の円網シリンダーの上網(幅1300mm)に、短辺10mm、長辺25mm、厚み0.3mmの長方形の樹脂板からなる多数の型を、接着剤を使用して紙層の流れ方向に5mm間隔で連続的に貼りつけた。この列を上網の幅方向に等間隔に6列取り付けた。
【0052】
用紙の抄造
2槽式円網抄紙機の1槽目の円網シリンダーには何等細工を施さない上網を装着し、2槽目の円網シリンダーには上記型を取り付けた上網を装着した。1槽目で形成した第1層目の紙層の上に2槽目形成した第2層目の紙層が重なるようにして、前記紙料を用い抄紙速度50m/分で2層抄合わせ紙を製造した。この際、第1層目(乾燥重量に換算して50g/m )と第2層目(同50g/m )の間に上記で製造したスレッドを本出願人が特公平5−40080号公報で提案した方法を用いて、型の中央に相当する位置に挿入した。クーチロールの位置にブラックライト(紫外線発生ライト)を設置して湿紙に紫外線を照射した。用紙の窓開き部に露出するスレッドが紫外線の照射で青白色に発色して見える場合は、スレッド裏面の蛍光染料を含有した感熱接着剤塗工層が露出していることを意味するのでスレッドを切断し、スレッドの表裏面を反転させたのち再び挿入する動作を行った。この動作を紫外線の照射でスレッドが発色しなくなるまで行うことにより、正常なスレッド挿入状態とすることができる。次いで常法に従い湿紙を脱水後、シリンダードライヤーで乾燥し、2層抄合わせ紙からなる本発明の偽造防止用紙を製造した。
【0053】
この偽造防止用紙に暗室内で波長880nmの赤外線(LEDを使用)を照射し、赤外線も感知できるCCDビデオカメラで撮影して画像をCRTに出力したところ、窓開き部に露出しているスレッド部分で「SECURITY」のマイクロ文字を明確に読み取ることができた。トンネル部分に潜り込んでいるスレッドの部分でもマイクロ文字は明瞭ではないが確認できた。
【0054】
【発明の効果】
以上述べたように本発明の真贋判定機能を有するスレッド、及びそれを使用した偽造防止用紙は製造され、下記に述べるような効果を有する。
1)従来の、多層真珠光沢フィルム、真珠光沢顔料を使用した偽造防止用紙や偽造防止印刷物、または、メタメリック現象を利用した偽造防止印刷物の真贋判定機能を一段と高めることができる。即ち、本発明の真贋判定機能を有するスレッド、及びそれを使用した偽造防止用紙は、外観は鮮やかな真珠光沢を有するのでカラーコピー機やパソコンと連動したスキャナーとカラープリンターを使用して偽造を試みても、その真珠光沢感を再現できないという効果とともに、赤外線を照射しそれを可視化した時に通常の光の照射では視認できなかった文字や画像を視認できるという従来にない顕著な効果を発揮する。
【0055】
2)本発明のスレッドを抄き込んだ窓開きスレッド入りタイプの偽造防止用紙に赤外線を照射し、赤外線も感知できるCCDビデオカメラで撮影して画像をCRTに出力できるような装置で観察すると、窓開き部では文字や画像を明確に読み取ることができるだけでなく、窓開き部と窓開き部の間のトンネル部分に潜り込んだスレッドに形成されている文字や画像も明瞭ではないが観察できる。スレッド入り紙を製造するだけでも高度な技術が必要であるが、これに本発明のような高度な真贋判定機能を有したスレッドを組み合わせることで、従来にない極めて高度な真贋判定機能を有した偽造防止用紙を製造できる。
【0056】
3)これらの特徴を生かして、本発明の真贋判定機能を有するスレッドは偽造防止用紙の用途に好適に使用できる。またそれを使用した偽造防止用紙は、紙幣、小切手、株券、債券、商品券、カード、機密文書、パスポート、身分証明書、セキュリティタグ、ラベル等の用途に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の真贋判定機能を有するスレッドの一部拡大断面図である。
【図2】本発明の真贋判定機能を有するスレッドを抄き込んだ窓開きスレッド入りタイプの偽造防止用紙の一部拡大上面図である。
【図3】藍インキを、RIテスターを使用して四六<90>のコート紙にベタ印刷し、分光光度計で測定した結果(分光反射率曲線)を示している。
【図4】黄インキを、RIテスターを使用して四六<90>のコート紙にベタ印刷し、分光光度計で測定した結果(分光反射率曲線)を示している。
【図5】紅インキを、RIテスターを使用して四六<90>のコート紙にベタ印刷し、分光光度計で測定した結果(分光反射率曲線)を示している。
【図6】藍インキ、黄インキ、紅インキを混合した墨インキを、RIテスターを使用して四六<90>のコート紙にベタ印刷したものを分光光度計で測定した結果と、色材としてカーボンブラックを使用した墨インキを使用して四六<90>のコート紙にベタ印刷したものを分光光度計で測定した結果を示している。
【図7】四六<90>のコート紙に印刷層を細紋状の図柄で形成した例である。
【図8】図7の印刷物に赤外線を照射してそれを可視化した像である。
【図9】赤外線を吸収するマイクロ文字を印刷した例である。
【図10】本発明のスレッドに赤外線を照射して可視化した画像である。
【符号の説明】
1 可視光線及び赤外線のいずれも透過する性能を有した、多層真珠光沢フィルムである。
3a 赤外線を吸収する性能を有した図柄や文字等の印刷層である。
3b 赤外線を透過する性能を有した図柄や文字等の印刷層である。
4 接着剤層である。
T スレッドである。
W 窓開き部である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光線及び赤外線のいずれも透過する性能を有した多層真珠光沢フィルム(1)の片方の面に、赤外線を吸収する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3a)、赤外線を透過する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3b)、接着剤層(4)が設けられており、前記赤外線を吸収する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3a)と、赤外線を透過する性能を有した図柄や文字等の印刷層(3b)とが通常光のもとで同色に見えかつ赤外線領域での分光反射率が相違していることを特徴とする真贋判定機能を有するスレッド。
【請求項2】
前記図柄や文字等の印刷層(3a,3b)の可視光領域の分光反射率が40%以下であることを特徴とする請求項1に記載の真贋判定機能を有するスレッド。
【請求項3】
用紙の表面に形成した窓開き部(W)に、請求項1または請求項2に記載のスレッド(T)が露出していることを特徴とする偽造防止用紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2004−142175(P2004−142175A)
【公開日】平成16年5月20日(2004.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−307879(P2002−307879)
【出願日】平成14年10月23日(2002.10.23)
【出願人】(000225049)特種製紙株式会社 (45)
【Fターム(参考)】