説明

眠気防止用組成物

【課題】 安全性が高く、長時間効果が持続する眠気防止剤を提供する。
【解決手段】 レモングラスの精油などに含まれる芳香物質であるシトラールを有効成分として含有する眠気防止用組成物、及び眠気を感じる者又は眠気を生じやすい作業をしている者に対して、シトラールを投与することを特徴とする眠気防止方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眠気防止用組成物、眠気防止用具、及び眠気防止方法に関する。本発明の眠気防止用組成物は安全性が高いため手軽に使用することができる。また、眠気防止効果が長時間持続するので、実際に眠気を感じたときだけでなく、眠気予防の目的で使用することもできる。
【背景技術】
【0002】
現代人の多くは、不眠や不規則な生活によって、慢性的な睡眠不足の状態にある。慢性的な睡眠不足は、眠気による作業効率の低下や事故リスクの増大といった社会に重大な悪影響をもたらす。このような問題を解決するため、従来から様々なタイプの眠気防止用の薬剤が開発されてきた。
【0003】
アロマテラピーに用いられる植物の精油やその精油中の成分の中には、眠気防止効果や覚醒効果を持つものが知られている。例えば、メントール、メントン、リモネン及びピネンなどに覚醒効果があるという報告がある(特許文献1)。また、烏薬、独活、及び白朮といった植物の精油に覚醒効果があるという報告もある(特許文献2)。更に、シネオール及びメチルエピジャスモン酸に眠気抑制効果があるという報告もある(特許文献3)。
【0004】
このような精油及び精油中の成分は、副作用も少なく、安全性が高いと考えられており、手軽に使用できるという利点がある。
【0005】
【特許文献1】特開2002-205932号公報
【特許文献2】特開2004-284974号公報
【特許文献3】特開平6-40906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
植物の精油等を利用した眠気防止剤は、メントールに代表されるように、その香りの刺激によって効果を発揮するものが多い。このようなタイプの薬剤の場合、眠気防止効果は長時間持続しないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような技術的背景の下になされたものであり、安全性が高く、長時間効果が持続する眠気防止剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、レモングラスの精油などに含まれるシトラールの香りに、眠気防止効果があることを見出し、この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下の(1)〜(7)を提供するものである。
【0010】
(1)シトラールを有効成分として含有することを特徴とする眠気防止用組成物。
【0011】
(2)シトラールを唯一の芳香物質として含有することを特徴とする(1)記載の眠気防止用組成物。
【0012】
(3)シトラールを含有する部分を持つことを特徴とする眠気防止用具。
【0013】
(4)シトラールを唯一の芳香物質として含有することを特徴とする(3)記載の眠気防止用具。
【0014】
(5)眠気を感じる者又は眠気を生じやすい作業をしている者に対して、シトラールを投与することを特徴とする眠気防止方法。
【0015】
(6)シトラールを投与する手段が、シトラールによる刺激が嗅覚神経を介して脳に伝達される手段であることを特徴とする(5)記載の眠気防止方法。
【0016】
(7)シトラールによる刺激が嗅覚神経を介して脳に伝達される手段が、眠気を感じる者又は眠気を生じやすい作業をしている者に、シトラールを含む空気を鼻から吸入させる手段、又は眠気を感じる者又は眠気を生じやすい作業をしている者を、シトラールを含む空気中に曝露する手段であることを特徴とする(6)記載の眠気防止方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の眠気防止用組成物は、安全性が高いので手軽に使用することができる。また、眠気防止効果が長時間持続するので、実際に眠気を感じたときだけでなく、眠気予防の目的で使用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の眠気防止用組成物は、シトラールを有効成分として含有することを特徴とするものである。
【0020】
使用するシトラールは、天然物(例えば、レモングラスなど)から抽出されたものでもよく、人工的に合成されたものであってもよい。シトラールには、シトラールA(ゲラニアール)とシトラールB(ネラール)があるが、本発明においてはこれらのいずれを使ってもよく、また、両者の混合物を使用してもよい。
【0021】
本発明の眠気防止用組成物中には、シトラール以外の他の芳香物質が含まれていてもよいが、シトラールが唯一の芳香物質として含まれていることが好ましい。ここでいう「シトラール以外の他の芳香物質」とは、アロマセラピーに用いられるエッセンシャルオイル中に含まれるシトラール以外の芳香物質をいう。
【0022】
本発明の眠気防止用組成物はシトラールのみからなっていてもよく、また、シトラールを適当な溶媒で希釈して調製してもよい。溶媒としては、例えば、ジプロピレングリコール、ミネラルオイル、クエン酸トリエチル、エタノール、ベンジルベンゾエイトなどを使用することができ、希釈時のシトラール濃度は1〜10%程度とすることができる。
【0023】
本発明の眠気防止用組成物の使用方法は、眠気防止効果が発揮できるような方法であれば特に限定されず、例えば、本発明の眠気防止用組成物を少量染み込ませた布などを、鼻のあたりに近づけ、シトラールを含む空気を鼻から吸入する方法を示すことができる。このとき吸入させる時間は特に限定されないが、10分〜1時間程度が適当である。また、本発明の眠気防止用組成物中のシトラールをディフューザーなどによって空気中に揮発させ、この空気中に使用者が一定時間曝露されるような使用方法も例示できる。曝露時間は特に限定されないが、10分〜1時間程度が適当である。
【0024】
本発明の眠気防止用具は、シトラールを含有する部分を持つことを特徴とするものである。
【0025】
眠気防止用具は、シトラールの眠気防止効果を発揮できる形態のものであればどのようなものでもよく、例えば、車両用シート、車両用アクセサリー、文房具、置物などを挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。これらの眠気防止用具は、通常の用具(車両用シート等)にシトラールを含有する部分を設けることにより製造できる。
【0026】
使用するシトラールは、眠気防止用組成物に使用するものと同様のものでよい。また、眠気防止用組成物と同様に、シトラールが唯一の芳香物質として含まれていることが好ましい。
【0027】
本発明の眠気防止方法は、眠気を感じる者又は眠気を生じやすい作業をしている者に対して、シトラールを投与することを特徴とするものである。「眠気を生じやすい作業をしている者」とは、例えば、単調な作業に従事している者、デスクワークに従事している者、勉強をしている者、乗り物の運転をしている者などをいう。
【0028】
シトラールの投与方法は特に限定されず、通常の医薬等と同様に経口的、経静脈的、経皮的に投与してもよいが、好ましくは、シトラールによる刺激が嗅覚神経を介して脳に伝達されるような手段で投与する。このような投与方法としては、例えば、シトラールを少量染み込ませた布などを、眠気を感じる者又は眠気を生じやすい作業をしている者の鼻のあたりに近づけ、シトラールを含む空気を鼻から吸入させる方法などが考えられる。このとき吸入させる時間は特に限定されないが、10分〜1時間程度が適当である。また、ディフューザー等によってシトラールを空気中に揮発させ、この空気中に眠気を感じる者又は眠気を生じやすい作業を一定時間曝露することによってシトラールを投与してもよい。曝露する時間は特に限定されないが、10分〜1時間程度が適当である。
【実施例】
【0029】
20代、30代及び40代の健常男性を被験者として、4種類の香り物質の覚醒効果について調べた。覚醒効果は、催眠や鎮静のレベルを表すバイスペクトラル・インデックス(bispectral index、BIS)を指標として評価した。
【0030】
被検者には、試験中眠くなりやすい状態になるように、試験前日の睡眠時間を3時間以内にしてもらった。また、食事は試験開始1時間前に済ませてもらい、試験開始2時間前以降はカフェイン及びアルコール類の摂取を控えてもらった。
【0031】
試験は以下の手順で行った。まず、被検者にBISモニタ(A-2000、アスペクト社製)、心電計、指尖体温センサーを装着し、安楽椅子に座ってもらった。部屋を暗くし、被検者に目を閉じてもらい、BIS値のモニタリングを開始した。BIS値が10秒間継続して90以下になったら、ディフューザーを作動させ、香り物質を被検者に吸入させた。10分後にディフューザーを停止させ、換気を行った。換気完了後に次の香り物質の試験を開始しした。
【0032】
香り物質としては、シトラール(製造元:株式会社クラレ)、エピジャスモン酸(製造元:日本ゼオン株式会社)、酢酸リナリル(販売元:ショウエイ化学株式会社)、及び酢酸ベンジル(販売元:純正化学株式会社)を使用し、これらの物質をジエチレングリコールで希釈して1Mになるようにした。この溶液5mlをディフューザーを用いて噴霧した。
【0033】
香り物質噴霧から5〜10分後の被験者のBIS値の平均値を表1に示す。また、7名の被験者それぞれのBIS値の経時的変化を図1〜図7に示す。なお、図中の◆はシトラール、▲はエピジャスモン酸、■は酢酸リナリル、×は酢酸ベンジルをそれそれ吸入させた場合のBIS値を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示すように、いずれの被験者においても、シトラールを吸入させた場合に最もBIS値が高かった。
【0036】
また、シトラールを吸入させた場合には、吸入直後よりもむしろ吸入から暫くした後の方がBIS値が高くなる傾向がみられた。このような傾向は被験者B及びFにおいて顕著に現れていた(図2及び図6)。一般に、香り物質による覚醒効果は香りの刺激によって生じるので、覚醒効果は香り物質の吸入直後に発揮されるが、シトラールによる覚醒効果は、このような一般的な香り物質による覚醒効果とは全く異なる傾向を示した。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】香り物質吸入開始後の被験者AのBIS値の経時的変化を示す図。
【図2】香り物質吸入開始後の被験者BのBIS値の経時的変化を示す図。
【図3】香り物質吸入開始後の被験者CのBIS値の経時的変化を示す図。
【図4】香り物質吸入開始後の被験者DのBIS値の経時的変化を示す図。
【図5】香り物質吸入開始後の被験者EのBIS値の経時的変化を示す図。
【図6】香り物質吸入開始後の被験者FのBIS値の経時的変化を示す図。
【図7】香り物質吸入開始後の被験者GのBIS値の経時的変化を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトラールを有効成分として含有することを特徴とする眠気防止用組成物。
【請求項2】
シトラールを唯一の芳香物質として含有することを特徴とする請求項1記載の眠気防止用組成物。
【請求項3】
シトラールを含有する部分を持つことを特徴とする眠気防止用具。
【請求項4】
シトラールを唯一の芳香物質として含有することを特徴とする請求項3記載の眠気防止用具。
【請求項5】
眠気を感じる者又は眠気を生じやすい作業をしている者に対して、シトラールを投与することを特徴とする眠気防止方法。
【請求項6】
シトラールを投与する手段が、シトラールによる刺激が嗅覚神経を介して脳に伝達される手段であることを特徴とする請求項5記載の眠気防止方法。
【請求項7】
シトラールによる刺激が嗅覚神経を介して脳に伝達される手段が、眠気を感じる者又は眠気を生じやすい作業をしている者に、シトラールを含む空気を鼻から吸入させる手段、又は眠気を感じる者又は眠気を生じやすい作業をしている者を、シトラールを含む空気中に曝露する手段であることを特徴とする請求項6記載の眠気防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−298829(P2006−298829A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−123596(P2005−123596)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】