説明

眼および皮膚の疾患および症状の治療用のシクロスポリン誘導体

本発明は、眼または皮膚疾患および/または症状、例えば眼における、水分欠乏ドライアイ状態、ブドウ膜炎または水晶体過敏性眼内炎または皮膚の亀頭炎、乾癬またはアトピー性皮膚炎の治療方法であって、治療的に有効な量の式:


[式中、RはS−Alk−Rであり、ここに、Alkはアルキレンまたはアルキレニル連結であり、Rは−N=C(NR)(NR)または−NR[(NR)C=NR]、すなわちグアニジン、または−N=C(R)(NR10)、すなわちアミジンであり、ここに、R〜R10はH、Alk、Arまたは(CH)nArであり、ここに、Arはアリール基であり、nは1〜13の整数であるか、あるいはRおよびRまたはRおよびRまたはRおよびRまたはRおよびR、またはRおよびR10、またはRおよびRは、一緒になって−(CH−であってもよく、ここに、xは2〜5の整数であり、Rは、ヒドロキシル、低級アルキルおよびヒドロキシル−置換低級アルキルからなる群から選択される]
で示される化合物からなる群から選択される新規シクロスポリンA誘導体を、眼または皮膚に局所投与することを含む方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本願は、2008年7月10日に出願された米国仮特許出願第61/134,510の利益を請求する(出典明示により本明細書に組み入れる)。
【0002】
発明の背景
1.本発明の分野
本発明は、眼および/または皮膚の疾患および症状を、新規シクロスポリン誘導体で治療する方法に関する。具体的には、本発明は、新規シクロスポリン誘導体を用いる、水分欠乏ドライアイ状態、水晶体過敏性眼内炎およびブドウ膜炎の治療方法に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の記載
正常な眼の露出部は、薄い涙膜により覆われている。連続的な涙膜が存在することが、角膜上皮および結膜上皮の健全な状態には重要であり、それにより光学的に高品質な表面が角膜にもたらされる。さらに、涙膜の水性部分は、瞼がまばたきしているときに瞼に対する潤滑剤として作用する。その上、涙液に含有されるいくつかの酵素、例えば、免疫グロビンA、リゾチームおよびβ−リシンは、静菌性を有することが知られている。
【0004】
健全な涙器系は、適正に構成された連続的な涙膜が形成および維持されるように機能する。涙器は、分泌システム(供給源)、分配システムおよび排出システム(吸込み部)からなる。分泌システムにおいて、水性の涙が主涙腺および副涙腺により供給される。
【0005】
涙膜の大部分はそのような水性の涙から形成される。水性涙の連続的な産生および流出は、角膜および結膜の上皮を湿った状態で維持することにおいて、上皮の呼吸に必要な養分を供給することにおいて、静菌剤を供給することにおいて、そして涙の動きの洗い流し作用によって眼表面を清浄化することにおいて重要である。
【0006】
涙膜の異常には、水性涙産生の完全または部分的な不足(乾性角結膜炎、またはKCS)が含まれる。
【0007】
比較的軽度の場合、KCSの主症状は異物感または軽いかゆみである。これは、患者に苦痛を与え得る持続した激しい灼熱感または刺激感へと進行し得る。
【0008】
さらに重症な形態は、糸状角膜炎の発症に進行し得る。糸状角膜炎は、角膜表面に結合した多数の線維またはフィラメントの出現を特徴とする痛みのある状態である。証拠により、これらのフィラメントは正常な角膜上皮細胞の連続性における破壊を示していることが示唆されている。瞼の動きにより生じるずれは、これらのフィラメントを引っ張り、痛みを生じさせる。この段階のKCSの処置は非常に困難である。
【0009】
KCSの頻繁な合併症は二次感染である。眼の正常な防御機構におけるいくつかの崩壊が生じているようである。これは、おそらくは、KCS罹患患者の水性涙における抗菌性リゾチームの濃度が低下することに起因し得ると考えられる。
【0010】
KCSは、何らかの他の明かな系異常がなくても発症し得るが、KCSはしばしば全身性疾患に関連している。KCSは、シェーグレン症候群として知られている、より大きな全身性疾病の一部として生じ得る。これは古典的に、ドライアイ、口内乾燥症および関節炎からなる。
【0011】
組織学的に、KCS(シェーグレン症候群の一部として、または独立して)において、涙腺に認められる初期変化は、腺組織の変性を伴う限局性のリンパ球浸潤およびプラズマ細胞浸潤の変化である。これらの変化は、他の組織における自己免疫疾患において認められる変化に似ている。これにより、KCSが自己免疫的基礎を有するということが推定される。
【0012】
シェーグレン症候群は、外分泌腺の機能不全として認識されている。特徴的には、涙腺は、最終的には腺構造の破壊に至る単核細胞浸潤を示す。
【0013】
KCSの従来的な処置は対症療法である。通常、水分不足のドライアイ状態は、人工涙代用物を用いて涙を補充することにより処置される。しかし、症状緩和は、投与された人工涙溶液の眼における保持時間によって制限される。典型的には、眼に投与された人工涙液の効果は約30分〜45分のうちに消失する。従って、そのような製剤の効果は、最初に症状を和らげるが、十分に長く持続しない。患者は、正常な涙を補充するために必要とされる、眼における人工涙液の反復的な投与が必要なことによって不自由な思いをしている。その上、そのような処置は、ドライアイ状態の症状を軽減させるために単に作用しているだけで、ドライアイ状態の何らかの根本的な異常または原因を治療していない。
【0014】
シェーグレン症候群に罹患した患者における涙腺の組織学的研究により、涙腺炎症のいくつかの証拠が明らかにされている。そのような炎症は、単に、患者の正常な老化のためであり得る。抗炎症剤の使用は、腺の炎症を低下させるために役立ち得ることが示唆されている。コルチコステロイド類の全身的な使用がこれらの状態において提案されている。しかし、ドライアイ状態における全身性コルチコステロイド類の効果は確立されていない。大部分のドライアイの場合、抗炎症剤を長期間使用することの有害性はその潜在的な効果よりも大きいようである。
【0015】
外科的な手法もまた、ドライアイ状態の処置において提案されている。著しい結膜破壊が存在する場合には、粘膜移植が提案されている。耳下腺(唾液)管の移植がドライアイの処置において有用であり得ることもまた示唆されている。しかし、ドライアイ状態を処置するための外科的手法は劇的な療法を構成しているが、これらの手法から得られる効果は疑わしい。
【0016】
自律神経系を刺激して、増大させた水性涙産生を達成するために、ピロカルピンの希釈溶液を経口投与することもまた示唆されている。この処置方法は、摂取されたピロカルピンの好ましくない副作用が多いために、一般的な支持を受けていない。
【0017】
シェーグレン症候群の動物モデルが基礎的な眼科研究において役立っている。シェーグレン様疾患が、全身性エリテマトーデスのイヌで見出されている。この疾患は、イヌKCSと呼ばれることがあるが、一般的な慢性で進行性の、失明に至り得る疾患である。連続した角膜損傷および結膜損傷がドライアイ状態の結果として生じる。イヌKCSの原因は、多くの場合には明らかにされていない。通常、イヌKCSは単独の眼病ではない。イヌKCSの大部分の原因は自己免疫機構によって生じていることが、Kaswan etal.,Am.J.Vet.Res.46,376−383(1985)において推定されている。
【0018】
眼の他の疾患は、水晶体過敏性眼内炎およびブドウ膜炎が含まれる。これらの疾患は、眼の全体に、眼の後眼房および前眼房の両方に、また硝子体に存在し得る。
【0019】
ブドウ膜の炎症であるブドウ膜炎は、米国における視力障害の約10%を占めている。水晶体過敏性眼内炎はヒトの自己免疫疾患である。
【0020】
汎ブドウ膜炎は、眼のブドウ膜(血管)層全体の炎症をいう。後部ブドウ膜炎は、一般には脈絡膜炎を示し、前部ブドウ膜炎は虹彩毛様体炎を示す。これらの炎症の炎症産物(すなわち、細胞、フィブリン、過剰なタンパク質)が眼(すなわち、前眼房、後眼房および硝子腔)の流体腔において一般に見られ、また、炎症応答に密接に関わる組織の浸潤が見られる。ブドウ膜炎は、眼に対する外科的または外傷的な傷害の後に;自己免疫疾患、すなわち、慢性関節リウマチ、ベーチェット病、強直性脊椎炎、サルコイドーシスの一部として;既知の病因と関連のない単独の免疫仲介眼異常として、すなわち、毛様体扁平部炎、虹彩毛様体炎などとして;また、抗体抗原複合体をブドウ膜組織に堆積させる特定の全身性疾患の後で生じることがある。まとめると、これらの異常は、非感染性のブドウ膜炎を表す。
【0021】
正常な眼は、眼内への細胞またはタンパク質の自由な移動を許さない血液バリアによる免疫監視により保護されている。眼が傷つけられたとき、または脈管炎が生じたとき、内部の眼構造は、全身的な免疫システムに、そしてしばしば、自己免疫応答にさらされる。
【0022】
本発明の化合物はまた、皮膚疾患および症状の治療に有用である。本発明の化合物は、亀頭炎、例えば非特異性炎症再発性亀頭炎の治療に用いることができることが見出された。「Pimecrolimus 1% Cream in Non−Specific Inflammatory Recurrent Balanitis」S.Georgala,etal.,Dermatology 2007;215:209−212を参照のこと。本発明の化合物は、乾癬およびアトピー性皮膚炎の治療に用いることができる(それぞれ、「Cyclosporin Greatly Improves the Quality of Life of Adults with Severe Atopic Dermatitis.A Randomized,Double−Bind,Placebo Controlled Trial」MSSalek,et al.,Br J Drmatol 1993:129:422−430 およびPhysicians’Desk Reference:PDR−Gengraf Capsules(Abbot)を参照)
【0023】
水晶体アナフィラキシーは、水晶体が原因性抗原であるブドウ膜炎の重症な形態である。水晶体タンパク質は、正常な場合には、出生前から水晶体嚢によって隔離されている。これらのタンパク質が、傷害によって、または手術によって、またはときには白内障発症のときに眼内に放出された場合、これらのタンパク質は抗原性が激しくなり、自己免疫応答を誘発し得る。その応答が大きくない場合、それは、慢性ブドウ膜炎と理解される。応答が非常に早く進行する場合、眼は、すべての部分において重度の炎症になる。この後者の応答が、水晶体アナフィラキシーと呼ばれている。
【0024】
メチルチオ置換シクロスポリンAおよび他のアルキルチオ置換シクロスポリンA誘導体が、PCT出願第98−379455号、同第98−379456号および同第98−379457号に記載されており、そして経口投与、非経口投与、直腸投与、または吸入による投与が行われたときに、これの誘導体は、ある種のレトロウイルスに対して、特にAIDS(後天性免疫不全症候群)およびARC(AIDS関連症候群)に対して有効であることが見出されている。さらに、これらの誘導体は全般に、非常に弱い免疫抑制作用のみを有すること、および非細胞傷害的濃度および非細胞増殖抑制的濃度で抗レトロウイルス活性を示すことが見出されている。これらの化合物は、レトロウイルスに対して活性な他の薬剤(逆転写酵素、プロテアーゼ、インテグラーゼ、HIV複製およびヌクレオカプシドの阻害剤など)との相乗的な作用を有することが記載されている。
【0025】
これらの化合物はまた、米国特許第6,350,442号および第6,254,860号において、眼疾患および症状の治療における使用がクレームされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明の一の態様は、眼疾患および症状、例えばドライアイを治療するための新規シクロスポリンA誘導体を提供することである。
本発明のさらなる態様は、新規シクロスポリンA誘導体を提供することである。
【0027】
本発明の別の態様は、皮膚疾患および/または症状、例えば亀頭炎の治療することである。
本発明の別の態様は、皮膚症状、例えば乾癬およびアトピー性皮膚炎を治療することである。
本発明の他の態様は、本明細書から明らかになるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0028】
発明の概要
本発明は、眼障害または眼の症状、例えば水分欠乏ドライアイ状態、ブドウ膜炎、または水晶体過敏性眼内炎の治療方法であって、治療的に有効な量の下記式で示されるシクロスポリンA誘導体からなる群から選択される化合物を眼に投与する工程を含む方法を提供する。本発明は、皮膚障害または皮膚の症状、例えば亀頭炎または乾癬、またはアトピー性皮膚炎を治療する方法であって、治療的に有効な量のシクロスポリンA誘導体からなる群から選択される化合物を眼に投与する工程を含む方法を提供する。本発明の方法において有用なシクロスポリンA誘導体は、式:
【化1】


[式中、RはS−Alk−Rであり、ここに、Alkはアルキレン連結であり、好ましくは、メチレンまたはポリメチレン連結、例えばC〜Cポリメチレン連結、またはポリアルケニレン連結、例えばC〜Cアルケニレニル連結であり、Rは−N=C(NR)(NR)である、または
−NR[(NR)C=NR]、すなわちグアニジン、または−N=C(R)(NR10)、すなわちアミジンであり、ここに、R〜R10はH、Alk、Arまたは(CH)nArであり、ここに、Arはアリール基であり、nは1〜13の整数であるか、あるいはRおよびRまたはRおよびRまたはRおよびRまたはRおよびR、またはRおよびR10、またはRおよびRは、一緒になって−(CH−であってもよく、ここに、xは2〜5の整数であり、例えば−CH−CH−または−CH−CH−CH−であり、Rは、ヒドロキシル、低級アルキルおよびヒドロキシル−置換低級アルキルからなる群から選択される]
で示される化合物である。例えば、Rは、−S(CHN=C(NHであり、Rは、−CHCH(CH、−CHC(OH)(CH、−CH(CHまたは−CH(CH)CHCHであってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な記載
本発明は、ブドウ膜炎および水晶体過敏性眼内炎、ならびに水分欠乏ドライアイ状態に罹患している患者におけるこれらの治療方法であって、下記式:
【化2】


[式中、RはS−Alk−Rであり、ここに、Alkはアルキレン連結であり、好ましくは、メチレンまたはポリメチレン連結、例えばC〜Cポリメチレン連結、またはポリアルケニレン連結、例えばC〜Cアルケニレニル連結であり、Rは−N=C(NR)(NR)である、または
−NR[(NR)C=NR]、すなわちグアニジン、または−N=C(R)(NR10)、すなわちアミジンであり、ここに、R〜R10はH、Alk、Arまたは(CH)nArであり、ここに、Arはアリール基であり、nは1〜13の整数であるか、あるいはRおよびRまたはRおよびRまたはRおよびRまたはRおよびR、またはRおよびR10は、一緒になって−CH−CH−または−CH−CH−CH−であり、Rは、ヒドロキシル、低級アルキルおよびヒドロキシル−置換低級アルキルからなる群から選択される]
で示されるで示されるシクロスポリン誘導体の罹患した眼への局所投与による方法を提供する。Rは、−N=C(NR)(NR)または−NRC(NR)(C=NR)であり、ここに、R−RはH、Alk、Arまたは(CH)nArであり、ここに、Arがアリール基、例えばカルボサイクリックアリールまたはヘテロサイクリックアリールであり、nは1〜13の整数、例えば1〜4の整数であり、またはRおよびR、またはRおよびR、またはRおよびR、またはRおよびR、またはRおよびR10、またはRおよびRは、一緒になって、−(CH−(ここにxは2〜5の整数である)、例えば−CH−CH−または−CH−CH−CH−であり、Rは、ヒドロキシおよび低級アルキルからなる群から選択される。
【0030】
本発明の記載および請求する目的のために、下記の用語は以下の意味を有する:
【0031】
「アルキル」は、直鎖、分枝鎖または環状飽和脂肪族炭化水素基を意味する。好ましくは、アルキル基は、1〜12個の炭素原子を有する。より好ましくは、1〜7個の炭素原子、最も好ましくは、1〜4個の炭素原子の低級アルキルである。典型的には、アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル等である。アルキル基は、所望により、ヒドロキシル、シアノ、アルコキシ、=O、=S、NO、ハロゲン、ジメチルアミノおよびSHから選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0032】
「アルケニル」は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含む、直鎖、分枝鎖または環状不飽和炭化水素基を意味する。好ましくは、アルケニル基は、2〜12個の炭素原子を有する。より好ましくは、2〜7個の炭素原子、最も好ましくは、2〜4個の炭素原子の低級アルケニルである。アルケニル基は、所望により、ヒドロキシル、シアノ、アルコキシ、O、S、NO、ハロゲン、ジメチルアミノおよびSHからなる群から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0033】
「アリール」は、少なくとも1つの環が共役パイ電子系を有し、カルボサイクリックアリール、ヘテロサイクリックアリールおよびビアリール基を含む芳香族基を意味する。アリール基は、所望により、ハロゲン、トリハロメチル、ヒドロキシル、SH、OH、NO、アミン、チオエーテル、シアノ、アルコキシ、アルキル、およびアミノからなる群から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0034】
「Alkアリール」は、アリール基に共有結合したアルキルを意味する。好ましくは、、アルキルは低級アルキルである。
「アルコキシ」は、「O−アルキル」基を意味する。
【0035】
「tBoc」は、t−ブチルオキシカルボニル保護基を意味する。
「カルボサイクリックアリール」は、環原子が炭素であるアリール基を意味する。
【0036】
「ヘテロサイクリックアリール」は、1〜3個のヘテロ原子を環原子として有し、環原子の残りが炭素原子であるアリール基を意味する。ヘテロ原子は、酸素、硫黄、および窒素を含む。
【0037】
本発明の方法に用いられるシクロスポリンA誘導体は、以下のように調製される:
、RおよびRが水素であり、Rが水素、アルキル、置換アルキルまたはアリールである化合物は、Xが脱離基であり、Pが保護基である式(I)で示される化合物を、式(II)で示される化合物と、適当な溶媒、例えばメタノール中で反応させて、式(III)で示される化合物を得ることにより調製することができる。式Iで示される化合物に関して、保護基の典型的な例としては、Xが塩素である場合、MeS、MeSO、1−イミダゾリル、特に1−ピラゾリルである。保護基Pは、好ましくは、tert−ブチルオキシカルボニル基(tBoc)基である。
【0038】
【化3】

【0039】
式(III)で示される化合物を、種々の条件下で脱保護して、式(IV)で示される化合物を得る。例えば、Pがtert−ブチルオキシカルボニル基(tBoc)である場合、これは、メタンスルホン酸のような酸を用いる酸性条件下で除去することができる。
【0040】
が水素、アルキル、置換アルキルまたはアリールであり;Rがアルキル、置換アルキルまたはアリールである式(V)で示される化合物は、Xが脱離基であり、Pが保護基である式(VI)で示される化合物を、式(II)で示される化合物と、適当な溶媒、例えばメタノール中で反応させて、式(VII)で示される化合物を得ることにより調製することができる。
【0041】
式(VI)で示される化合物に関して、保護基の典型的な例は、Xが塩素である場合、MeS、MeSO2、1−イミダゾリル、特に1−ピラゾリルである。保護基Pは、好ましくは、tert−ブチルオキシカルボニル基(tBoc)基である。
【0042】
【化4】

【0043】
例えば、WO/2003/051797において、N,N’−ジ−tBoc−N−メチル−1H−ピラゾール−1−カルボキシアミジンが、関係のない化合物ファミリーにおけるN−メチルグアニジンの調製に用いられている。
本発明の他の化合物は、要すれば、合成手法に適合する適当な保護基を用いる関連する合成方法を用いる同様の方法で製造することができる。
【0044】
Rが−N=C(R)−NR10(アミジン)であり、Rが水素、アルキル、置換アルキルまたはアリールであり、RおよびR10がアルキル、置換アルキルまたはアリールであってもよく、またはRおよびR10が環を形成していてもよい式(X)で示される化合物は、式(VIII)で示される化合物を、式(IX)で示される化合物と反応させて、式(X)で示される化合物を得ることにより調製することができる。
11は、好ましくは、低級アルキルであり、化合物(VIII)の典型的な例としては、ジメチルホルムアミドジメチルアセタール(DMF.DMA)およびジメチルアセトアミドジメチルアセタール(DMA.DMA)が挙げられる。
【0045】
【化5】

【0046】
下記は、上記一般プロシージャによるある種の本発明の化合物の具体的な製造例である。
【実施例】
【0047】
3−[(2−アミノエチルチオ]−シクロスポリンAのグアニジンおよびアミジンアナログ
実施例1.
3−[(2−グアニジル)−エチルチオ]−シクロスポリンA(III)
【化6】

【0048】
3−[(2−アミノエチルチオ]−シクロスポリンA*−(I))(200mg、0.16mmol)のメタノール(20mL)中溶液に、ジ−tBoc−ピラゾールカルボキシアミジン(250mg、0.8mmol)を加え、試薬を一緒に18時間撹拌した。この後、さらなるジ−Tt−ピラゾールカルボキシアミジン(100mg、0.32mmol)を加え、反応物をさらに3時間撹拌した。ついで、反応物を減圧下で還元し、ジクロロメタン中に溶解し、0.5Mクエン酸で洗浄し、有機層をMgSOで乾燥し、減圧下で減少させた。ついで、生成物を、10g SPEカートリッジのクロマトグラフィーカラム(ジエチルエーテルで溶出)により精製して、90mg(40%)の所望の生成物(II)を得た。
【0049】
最初のグアニジンおよびアミジンの合成実施例であり、最終生成物(III)を特徴付けることが困難であると予期されるので、この段階でジ−tBoc保護グアニジン(II)を完全かつ広く特徴付け、ついで、この物質を酸加水分解により遊離グアニジン(III)に変換することを決定した。ついで、3−[(2−アミノエチルチオ]−シクロスポリンAから製造されたこのグアニジンおよびアミジンサブクラスのアナログを、主にMSにより特徴付けた。
【0050】
化合物(II)を、H、13C、DEPT NMRで分析し、ついで、一連の2−D NMR実験、HMQC、HMBCおよびDEPT−HMQCにより分析した。
【0051】
3−[(2−グアニジル)−エチルチオ]側鎖の存在は、1Dおよび2D NMRにより確認した。分析は、CDCl溶液中、300Kで、BrukerDRX500分光計を用いて行った。
【0052】
【化7】

【0053】
HNMRの主な共鳴:
δ=1.50、1.51ppm(2シングレット、2×Boc、18H、6×CH3)
δ=5.89ppm、(シングレット、サルコシン、1H)
2Dスペクトル
H検出異核多量子コヒーレンス(HMQC)、異核多重結合相関(HMBC)および改変異核単一量子コヒーレンス(DEPT−HSQC)実験を用いて、結合性および配置を決定し、3−[(2−グアニジル)−エチルチオ]側鎖の存在を確認した。
H(3)−2’(マルチプレット、H2.84ppm、2H)
2’−3’(mマルチプレット、H3.67ppm、2H)
3’−NH4’(トリプレット JHH5.8Hz、H8.67ppm、1H)
【0054】
ジ−tBoc保護3−[(2−グアニジル)−エチルチオ]−シクロスポリンA(II)(21mg、0.0138mmol)のジクロロメタン(0.3mL)中溶液に、トリフルオロ酢酸(0.3mL)および溶液を加え、室温にて1時間撹拌した。溶液を濃縮して、生成物(III)を白色固体として得た(20mg;100%)。
MS(E)による分析は、1320.2(M+H)の質量を示し、これは提示した構造に一致した。
【0055】
実施例2
3−[(2−N,N−ジメチルホルムアミジニル)−1−チオエチル]−シクロスポリンA(III)
【化8】

【0056】
3−(1−チオエチルアミン)シクロスポリンA(0.64g、0.5mmol)およびN,N−ジメチルホルムアミドジメチルアセタールの20mLのTHF中混合溶液を、2時間還流した。減圧下で溶媒を除去した後、残渣を、メチレン/メタノール(10:1)を溶出液として用いるシリカゲルカラムに付して、300mgの純粋な生成物を得た(収率:45.0%)。
【0057】
MS(E+)は、1332.82(M+H)の質量を示し、これは提示した構造と一致した。
【0058】
他の方法は、出発物質および中間体等の製造方法と同様に、当業者には明らかだろう。
【0059】
本発明によれば、シクロスポリンA誘導体は、罹患した眼に、医薬上許容される賦形剤中、いずれの有効な濃度、例えば、0.01〜飽和(例えば、20を超える重量パーセント)で適用してもよい。医薬上許容される賦形剤中0.01〜50重量パーセント、好ましくは0.1〜20重量パーセントのシクロスポリンA誘導体を用いてもよい。かかる医薬上許容される賦形剤は、例えば動物油、植物油、適当な有機または水性溶媒、人口涙液、天然または合成ポリマーまたはシクロスポリンA誘導体を封入するのに適当な膜である。
【0060】
医薬上許容される賦形剤の具体的な例は、オリーブ油、ラッカセイ油、ヒマシ油、鉱油、ワセリン、ジメチルスルホキシド、クレモフォア(chremophor)、ミグリオール(Miglyol)182(Dynamit Nobel Kay−Fries Chemical Company,Mont Vale,N.J.から市販されている)、アルコール(例えば、エタノール、n−プロピルアルコール、またはイソプロピルアルコール)、リポソームまたはリポソーム様生成物またはシリコーン溶液である。好ましい賦形剤は、ジメチルスルホキシドおよびオリーブ油である。少なくとも2つの適当な賦形剤の混合物を用いてもよい。
【0061】
本発明の実施に有利に用いることができる人口涙液賦形剤の例としては、等張性塩化ナトリウム、セルロースエーテル、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコールおよび入手可能な人口涙液が挙げられる。
【0062】
有用な賦形剤の例は、ポリオキシエチル化ヒマシ油である。
【0063】
本発明の実施に有利に用いることができる医薬上許容される膜の例としては、ミクロドン、人工油脂膜、ポリビニルアルコールまたはメチルセルロースが挙げられる。
【0064】
シクロスポリンA誘導体は、有利には、有効量の誘導体を含有する眼用滴剤(溶液または懸濁液)または眼用軟膏として、局所投与される。0.01〜50重量パーセント、好ましくは0.1〜20重量パーセントの濃度のシクロスポリンA誘導体は、本発明の実施に用いられる。
【0065】
本発明の方法によれば、少なくとも1つのシクロスポリンA誘導体を、必要とされる程度の治療を提供するのに要求される量で局所投与する。例えば、有効量のシクロスポリンA誘導体を含有する、5マイクロリットル〜1ミリリットルの溶液、懸濁液または軟膏、例えば0.01〜50重量パーセント、好ましくは0.1〜20重量パーセントのシクロスポリンA誘導体が有利に用いられる。
【0066】
本発明の実施には多くの利点がある。本発明の方法は、プレシステミック反応の活性化を局所的に防止するのに有用である。シクロスポリンA誘導体の患者の涙液が欠乏した眼への局所投与は、眼での涙液産生を増大させる。かくして、かかる治療は、涙液欠乏およびKCS、例えば、角膜瘢痕、角膜潰瘍、角膜または結膜の炎症、糸状角膜炎、粘液膿性排出物および角膜の血管新生により悪化した角膜および結膜障害を治療するのに役立つ。さらに、シクロスポリンA誘導体は、直接、免疫応答および顆粒形成および新血管形成を減少させる。
【0067】
本発明のさらなる態様は、それに寄与するさらなる特徴およびそれから生じる利点と一緒に、本発明の実施例から明らかであるだろう。
【0068】
上の記載は、本発明を実施するために適用することができる具体的な方法および組成物を記述し、意図するベストモードを意味する。かくして、しかしながら、上に見られる記載は、全ての範囲を限定するものと解釈すべきではなく;むしろ、本発明の範囲は、特許請求の範囲の法的構成によってのみ影響を受けるものである。特に、本発明の方法は、上記式で示される特定のシクロスポリンA誘導体の使用により記載されているが、本発明の方法で用いることができる新規シクロスポリン誘導体は、3−置換イミノアルキルチオシクロスポリンA誘導体、好ましくは、3−置換ジアミノイミノアルキルチオシクロスポリンA誘導体、例えば、((R)−(ジアミノ)イミノアルキルチオ−Sar)−(4’−ヒドロキシ−MeLeu)シクロスポリンA、((R)−(アルキル)(ジアルキルアミノ)イミノアルキルチオ−Sar)−(4’−ヒドロキシ−MeLeu)−シクロスポリンA、((R)−(アルキル)(ジアルキルアミノ)イミノアルキルチオ−Sar)−シクロスポリンA誘導体および((R)−(ジアミノ)イミノアルキルチオ−Sar)−シクロスポリンA誘導体を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼における、水分欠乏ドライアイ状態、ブドウ膜炎または水晶体過敏性眼内炎、または皮膚の亀頭炎、乾癬、またはアトピー性皮膚炎の治療方法であって、治療的に有効な量の式:
【化1】

[式中、RはS−Alk−Rであり、ここに、Alkはアルキレンまたはアルキレニル連結であり、Rは−N=C(NR)(NR)または−NR[(NR)C=NR]、すなわちグアニジン、または−N=C(R)(NR10)、すなわちアミジンであり、ここに、R〜R10はH、Alk、Arまたは(CH)nArであり、ここに、Arはアリール基であり、nは1〜13の整数であるか、あるいはRおよびRまたはRおよびRまたはRおよびRまたはRおよびR、またはRおよびR10、またはRおよびRは、一緒になって−(CH−であってもよく、ここに、xは2〜5の整数であり、Rは、ヒドロキシル、低級アルキルおよびヒドロキシル−置換低級アルキルからなる群から選択される]
で示される化合物からなる群から選択されるシクロスポリンA誘導体を、眼または皮膚に局所投与することを含む方法。
【請求項2】
がメチレンまたはC〜Cポリメチレン連結である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
がC〜Cアルケニレニル連結である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
Rが、−N=C(NR)(NR)または−NRC(NR)(C=NR)であり、ここに、R−Rが、H、Alk、Arまたは(CH)nArであり、Arがアリール基であり、nが1〜13の整数であるか、あるいはRおよびRまたはRおよびRまたはRおよびRまたはRおよびRが、一緒になって−CH−CH−または−CH−CH−CH−であってもよい、請求項1記載の方法。
【請求項5】
シクロスポリンA誘導体が、3−置換ジアミノイミノアルキルチオシクロスポリンA誘導体である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
シクロスポリンA誘導体が、((R)−(ジアミノ)イミノアルキルチオ−Sar)−(4’−ヒドロキシ−MeLeu)シクロスポリンA誘導体、((R)−(アルキル)(ジアルキルアミノ)イミノアルキルチオ−Sar)−(4’−ヒドロキシ−MeLeu)−シクロスポリンA、((R)−(アルキル)(ジアルキルアミノ)イミノアルキルチオ−Sar)−シクロスポリンA誘導体および((R)−(ジアミノ)イミノアルキルチオ−Sar)−シクロスポリンA誘導体からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
シクロスポリンA誘導体が、Rが−S(CHN=C(NHであり、Rが−CHCH(CH、−CHC(OH)(CH、−CH(CHまたは−CH(CH)CHCHである、請求項1記載の化合物の群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
0.1〜20wt%の医薬上許容される賦形剤中の化合物を用いる、請求項4記載の方法。
【請求項9】
医薬上許容される賦形剤が、動物油および植物油からなる群から選択される、請求項4記載の方法。
【請求項10】
医薬上許容される賦形剤が、オリーブ油、ラッカセイ油、ヒマシ油、鉱油、ワセリン、ジメチルスルホキシド、アルコール、シリコーン溶液およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項4記載の方法。
【請求項11】
式:
【化2】

[式中、RはS−Alk−Rであり、ここに、Alkはアルキレンまたはアルキレニル連結であり、Rは−N=C(NR)(NR)または−NR[(NR)C=NR]または−N=C(R)(NR10)であり、ここに、R〜R10はH、Alk、Arまたは(CH)nArであり、ここに、Arはアリール基であり、nは1〜13の整数であるか、あるいはRおよびRまたはRおよびRまたはRおよびRまたはRおよびR、またはRおよびR10、またはRおよびRは、一緒になって−(CH−であってもよく、ここに、xは2〜5の整数であり、Rは、ヒドロキシル、低級アルキルおよびヒドロキシル−置換低級アルキルからなる群から選択される]
で示される化合物からなる群から選択される化合物。
【請求項12】
がメチレンまたはC〜Cポリメチレン連結である、請求項11記載の化合物。
【請求項13】
がC〜Cアルケニレニル連結である、請求項11記載の化合物。
【請求項14】
Rが−N=C(NR)(NR)または−NRC(NR)(C=NR)であり、ここに、R−RがH、Alk、Arまたは(CH)nArであり、ここに、Arがアリール基であり、nが1〜13の整数であり、またはRおよびRまたはRおよびRまたはRおよびRまたはRおよびRは、一緒になって−CH−CH−または−CH−CH−CH−であってもよい、請求項11記載の化合物。
【請求項15】
シクロスポリンA誘導体が、3−置換ジアミノイミノアルキルチオシクロスポリンA誘導体である、請求項11記載の化合物。
【請求項16】
シクロスポリンA誘導体が、((R)−(ジアミノ)イミノアルキルチオ−Sar)−(4’−ヒドロキシ−MeLeu)シクロスポリンA誘導体、((R)−(アルキル)(ジアルキルアミノ)イミノアルキルチオ−Sar)−(4’−ヒドロキシ−MeLeu)−シクロスポリンA、((R)−(アルキル)(ジアルキルアミノ)イミノアルキルチオ−Sar)−シクロスポリンA誘導体および((R)−(ジアミノ)イミノアルキルチオ−Sar)−シクロスポリンA誘導体からなる群から選択される、請求項11記載の化合物。
【請求項17】
シクロスポリンA誘導体が、Rが−S(CHN=C(NHであり、Rが−CHCH(CH、−CHC(OH)(CH、−CH(CHまたは−CH(CH)CHCHである請求項1記載の化合物の群から選択される、請求項11記載の化合物。

【公表番号】特表2011−527694(P2011−527694A)
【公表日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517599(P2011−517599)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/050038
【国際公開番号】WO2010/006117
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】