説明

眼の疾患の治療

β-アミノアルコールは、眼の病態の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼の炎症、ドライアイ障害、眼内圧上昇、病的な眼の血管形成および/または網膜もしくは網膜下の水腫を特徴とする眼の疾患の治療のためのβ-アミノアルコールおよび異性体の使用に関する。
【0002】
(背景技術)
視神経および網膜の疾患および変性病態は、世界中で失明の主な原因である。網膜の重大な変性病態は、加齢性黄斑変性症(ARMD)である。ARMDは米国の50歳以上の人々の失明の最も一般的な原因であり、その有病率は年齢に伴い増加する。ARMDは、湿性(血管新生型)または乾性(非血管新生型)に分類され、乾性形態の疾患がより一般的である。黄斑部変性は、通常年齢と関連して、中心網膜が歪んで薄くなる場合に起こるが、眼内の炎症および血管形成(湿性のARMDのみ)ならびに/または眼内の感染も特徴とする。
【0003】
糖尿病と関連する網膜症は、I型糖尿病の失明の主な原因であり、II型糖尿病でも一般的である。網膜症の程度は糖尿病の期間によって決まり、一般に、糖尿病の発病から10年以上後に起こり始める。糖尿病性網膜症は、網膜症が毛細血管透過性の増加、浮腫、および浸出物を特徴とする非増殖性と分類されるか、または、網膜症が網膜から硝子体へと拡張する血管新生、瘢痕化、繊維組織の蓄積、および網膜剥離の可能性を特徴とする増殖性と分類され得る。糖尿病性網膜症は、高い血中グルコースによるグリコシル化タンパク質の増加に起因すると考えられている。続いて起こるフリーラジカルの生成は、酸化的組織損傷、局所炎症、ならびに成長因子(例えばVEGFおよびFGF)および炎症媒介物質の生成につながるものであるが、湿性形態のARMDに共通する不適当な血管新生へ至る。他のいくつかのより一般的でない網膜症には、脈絡膜の新生血管膜(CNVM)、嚢胞様黄斑浮腫(CME)、網膜上膜(ERM)、および黄斑孔が含まれる。
【0004】
現在では、糖尿病性網膜症および黄斑浮腫の治療のための承認薬はない。現在の標準療法はレーザー光凝固術であるが、それは、局部組織を破壊することによってサイトカインおよび成長因子の生成を減少させるが、残念なことに細胞破壊的であり視覚の恒久的障害を引き起こす。これらの血管新生疾患は、抗炎症薬と組み合わせた血管静止剤で治療される可能性を有する。
【0005】
ドライアイ、すなわち角結膜炎は、毎年何百万ものアメリカ人に発生する、一般的な眼科疾患である。この病態は、生殖能力の停止に起因するホルモンの変化のために、閉経後の女性に特に一般的である。ドライアイは、眼前部の涙液膜の破壊に主に起因し、露出した外表面の脱水をもたらす。炎症誘発性サイトカインおよび成長因子の結果としての眼の炎症がドライアイの根本的な原因において主要な役割を果たしているという、強力な理論的根拠がある。このように、局所投与される抗サイトカイン剤または一般の抗炎症薬は、ドライアイの治療でしばしば用いられる。
【0006】
目の内部の他の疾患は、ブドウ膜炎、すなわちブドウ膜路の炎症である。ブドウ膜路(ブドウ膜)は、虹彩、毛様体、および脈絡膜から構成される。ブドウ膜炎は外傷、感染症、または手術により起こり得るもので、あらゆる年齢層に発生する可能性がある。本疾患は、解剖学的に、前部、中間部、後部、またはび漫性として分類される。前部ブドウ膜炎は、虹彩を含む目の前部分を侵す。周辺性ブドウ膜炎とも呼ばれる中間部ブドウ膜炎は、毛様体領域の虹彩および水晶体の真後ろの領域に集中する。後部ブドウ膜炎はまた網膜炎の形態をも構成するか、または、脈絡膜および視神経を侵し得る。び漫性のブドウ膜炎は、目の全ての部分に関係する。ブドウ膜炎で最も一般的な療法は、局所投与の副腎皮質ステロイドを用いるものであり、しばしば他の抗炎症薬と併用される。これらの薬剤は多くの形態の眼の炎症の治療で有効であるが、それらは、眼内炎、白内障、および眼内圧上昇(IOP)を含むいくつかの副作用を有する。眼の炎症および浮腫の治療のために、副作用プロフィールの改善された強力な抗炎症薬、いわゆる非ステロイドステロイドの必要性がある。
【0007】
緑内障は、視神経の損傷による視力喪失を引き起こす一連の眼疾患からなる。不十分な眼房水排出のために上昇する眼内圧(IOP)が、緑内障の主因である。緑内障は、しばしば目の加齢に伴って起こるか、あるいは、眼の損傷、炎症、腫瘍の結果として、または白内障もしくは糖尿病の進行症例で起こることもある。上記のように、緑内障は、ステロイドによる治療に起因するIOPの上昇に起因することもある。緑内障に有効であることが証明される薬物療法は、硝子体液の生成を減少させることによって、または、眼房水排出を促進することによってIOPを低下させる。このような薬剤はしばしば血管拡張薬であって、それ自体が交感神経系に作用するものであり、その例としてアドレナリン拮抗薬が含まれる。全身性の副作用が最小限であり、目に局所送達することが可能な薬剤の必要性がある。
【0008】
β-アミノアルコールには、一般式(1)
【化1】

【0009】
の化合物が含まれ、
式中、RはHまたはMeであり、RはHまたはアルキルであってRと共に環の一部であってよく、RはH、Me、またはCH(Rと共に環の一部を形成する場合)であり、n=0〜2、XはCHまたはOであり、2つのフェニル基は、OH、OMe、ハロゲン、NHCHO、NHSOMe、CONH、またはSOMeで任意に置換され得る。
【0010】
WO2005/089741は、一般的な炎症性病態および疼痛の治療のための、一般式(1)の化合物の使用を開示する。
【0011】
(発明の概要)
本発明は、上記のいずれかを含む眼の病態の治療のための、一般式(1)の化合物の使用である。
【0012】
多くの式(1)の化合物は多大な初回通過代謝を受けるが、そのことは、これらの化合物を、全身の副作用を最小にすることができる局所送達にとって理想的にする。これらのβ-アミノアルコールおよびそれらの異性体の予想外のプロフィールは、非ステロイドステロイドと一致し、炎症誘発性サイトカイン(例えばTNFαおよびIL−1β)および血管新生に関与する成長因子(例えばFGFおよびVEGF)の下方制御ならびに抗炎症性サイトカイン(例えばIL−10)の上方制御を伴うサイトカイン調節を、血管拡張をもたらすアドレナリン受容体遮断活性と時々共に、提供する。
【0013】
(本発明の説明)
本明細書において、「治療」への言及は、治療および予防を含むあらゆる形態の療法を含む。式(1)の化合物への言及は、その遊離塩基形態、塩、例えば塩酸塩、代謝産物、およびプロドラッグ、ならびにあらゆるジアステレオマーおよびエナンチオマー、およびラセミまたは非ラセミの混合物を含む。アルキル基または環は、一般的に最大6個の原子を含む。
【0014】
β-アミノアルコール(1)、またはその異性体もしくは代謝産物の局所投与は、全身性の副作用を最小にしつつ、ARMD、網膜症(糖尿病性網膜症を含む)、ドライアイ、ブドウ膜炎、および緑内障さえも含む、様々な眼の疾患の治療を可能にする。
【0015】
式(1)の一部の異性体は、アドレナリン受容体での拮抗作用による、血管拡張特性を有する。これらの薬剤は緑内障の治療において特に興味深いであろうが、眼の炎症性疾患の治療のためには、それほど好ましくない。
【0016】
例えば、ARMD、網膜症(糖尿病性網膜症を含む)、ドライアイ、およびブドウ膜炎の治療のための好ましいジアステレオマーまたはエナンチオマーまたは非ラセミ混合物は、サイトカイン/成長因子調節活性を有するが、アドレナリン受容体においては殆どまたは全く活性がない。この活性は、適切なin vitroおよびin vivoアッセイの使用で判定することができる。
【0017】
式(1)の化合物は、アンギオスタチンなどの血管静止性ペプチド、酢酸アネコルタブなどの血管静止性ステロイド、ザクチマなどのVEGFまたはFGFの調節因子、フルルビプロフェン、ジクロフェナク、およびケトロラクなどの眼科用に製剤化された非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)、メチルプレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイド、ジルエトンなどのロイコトリエンモジュレーター、セチリジン、ロラチジン、およびケトチフェンなどの抗ヒスタミン薬、ならびに、シクロスポリンA、ジアセレイン、テトラサイクリン、フルオロキノロン系抗生物質、キノリン系抗マラリア薬、スタチン、およびホスホジエステラーゼ阻害剤などの一般的なサイトカイン/成長因子調節薬から選択される他の治療剤を患者が投与されているかまたは併用投与される場合にも、本発明に従い用いることができる。式(1)の化合物は、レーザー光凝固術療法の前、間、または後に投与することができる。
【0018】
好ましい投与経路は、眼への局所投与である。他の投与経路は、眼内注射である。
【0019】
目への局所投与または眼内注射に適した化合物(1)の製剤は、当技術分野の技術者に知られている。活性な薬剤の用量は、病態の性質および程度、患者の年齢および病態、ならびに当技術分野の技術者に知られている他の要素によって決まる。一般的な投与量は、0.01〜100mgを1日1〜3回である。
【0020】
以下の実験的研究は、本発明を例示する。これは、Staphylococcus epidermidisで刺激するin vitro全血アッセイを含み、IFNγを測定したものである。IFNγは、眼の炎症性疾患、すなわち、加齢性黄斑変性症(Penfoldら,2002)および増殖性硝子体網膜症(El−Ghrablyら,2001)の病理学的過程において重要な媒介物質である。
【0021】
1:100希釈の熱殺菌Staphylococcus epidermidisを様々な濃度の試験化合物(DMSO保存溶液中)と共に、100倍体積の全血に加えた。24時間後に、全血を1:4に希釈し、IFNγを酵素結合免疫吸着アッセイで測定した。
【0022】
リトドリンのラセミ化合物およびイフェンプロジルのエリスロラセミ化合物は両方とも、Staphylococcus epidermidisによる刺激から生じるIFNγ分泌の強い阻害活性を有することが判明した。両化合物は、それらの最も低い濃度62.5 nMolで強い阻害作用を有し、IFNγ濃度は4500 pg/mlから1500 pg/mlへと、66%阻害された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼の病態の治療のための化合物の使用であって、前記化合物が、式1を有するかまたはその塩である使用
【化1】

[式中、RはHまたはMeであり、
はHもしくはアルキルであり、またはRと共に環の一部であり、
はH、Me、またはCH(Rと共に環の一部を形成する場合)であり、
n=0〜2、
XはCHまたはOであり、
2つのフェニル基のいずれかまたはそれぞれは、OH、OMe、ハロゲン、NHCHO、NHSOMe、CONH、またはSOMeで任意に置換されている]。
【請求項2】
前記眼の病態が加齢性黄斑変性症である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記眼の病態が糖尿病性網膜症である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記眼の病態が脈絡膜血管新生膜、嚢胞様黄斑浮腫、網膜上膜、または黄斑孔である、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記眼の病態がドライアイである、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記眼の病態がブドウ膜炎である、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記化合物が、アドレナリン受容体で活性を比較的殆どまたは全く有さないエナンチオマーまたはジアステレオマーの形態である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記眼の病態が緑内障である、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記化合物が、アドレナリン受容体拮抗活性も有するエナンチオマーまたはジアステレオマーの形態である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記化合物が非ラセミ混合物として投与され、前記混合物の大部分がアドレナリン受容体で活性を比較的殆どまたは全く有さないエナンチオマーまたはジアステレオマーである、請求項8に記載の使用。
【請求項11】
前記化合物が、レーザー光凝固術療法の前、間、または後に投与され得る、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記化合物が、眼への局所投与または眼内注射のために製剤化される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
治療する患者が、血管静止性ペプチド、血管静止性ステロイド、VEGFまたはFGFの調節因子、眼用に製剤化した非ステロイド系抗炎症薬、副腎皮質ステロイド、ロイコトリエンモジュレーター、抗ヒスタミン薬、および一般的なサイトカイン/成長因子調節薬から選択される他の治療剤も投与される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
化合物(1)および前記他の治療剤が組み合わされて提供される、請求項13に記載の使用。

【公表番号】特表2009−517375(P2009−517375A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541827(P2008−541827)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際出願番号】PCT/GB2006/004410
【国際公開番号】WO2007/060458
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(507303376)ソーセイ アールアンドディ リミテッド (16)
【Fターム(参考)】