説明

眼の調節機能障害に対する改善作用を有する飲食物

【課題】 眼の調節機能障害に対して改善作用を有する飲食物を提供する。
【解決手段】 アスタキサンチン及び/又はそのエステルを有効成分として含有してなる眼の調節機能障害改善用飲食物(但し、清肝明目作用を有する動物胆とアスタキサンチン及び/又はそのエステルを含有するものは除く)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスタキサンチン及び/又はそのエステルからなる眼の調節機能障害に対する改善作用を有する飲食物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの眼には、近くのものを見る時には水晶体を厚く、反対に遠くのものを見る時には水晶体を薄くして、いつも網膜上にピントが合うように自動調節する調節機能がある。この調節機能の障害には、加齢変化により調節力が減退し近方視が困難になる老視、また病的異常の調節衰弱、調節不全、調節遅鈍、調節麻痺、調節緊張、調節痙攣等がある。特に、後者の原因として眼の毛様体疲労、眼球を動かす眼筋の疲労、視神経の疲労、また全身病やその他の眼疾患が考えられる。これらの治療法に関しては、老視の治療法はないといわれており、対症的に減退した調節力を眼鏡又はコンタクトレンズで補うことになる。病的異常に対しては、原因疾患の治療や環境改善を行う。対症療法として、眼鏡やビタミンB服用が用いられている。
【0003】
従って、眼の調節機能障害に対する治療法は数少なく、特に予防的処置は余り無いのが現状である。アスタキサンチン及び/又はそのエステルは、網膜損傷又は網膜疾患の治療に用いる方法(米国特許第5,527,533号明細書)、アスタキサンチン及び/又はその食用に許容されるエステルを添加してなる、白内障を予防する作用又はその進行を抑制する作用を有する飲食物が白内障の発症又は進行を抑制し、白内障による視力障害とともに併発する単眼複視、眼精疲労(asthenopia)、ハレーションをも抑制し得る(特開平10−276721号公報)ことが報告されている。しかしながら、アスタキサンチン及び/又はそのエステルからなる眼の調節機能(accommodation)障害改善剤及びアスタキサンチン及び/又はそのエステルからなる眼の調節機能障害に対して改善作用を有する飲食物については報告が無い。

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、眼の調節機能障害に対して改善作用を有する飲食物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、眼の調節機能障害改善作用を有する化合物を探索した結果、アスタキサンチン及び/又はそのエステルが、眼の調節機能障害改善剤として有用であることを見出した。また、このアスタキサンチン及び/又はそのエステルを含有する飲食物が、眼の調節機能障害に対する改善作用を示すことを見出した。本発明は上記知見に基づいてなされたものである。
【0006】
すなわち、本発明は、アスタキサンチン及び/又はそのエステルからなる眼の調節機能障害に対する改善作用を有する飲食物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、アスタキサンチン及び/又はそのエステルからなる眼調節力障害改善剤、及びアスタキサンチン及び/又はそのエステルからなる眼調節力障害の改善作用を有する飲食物を提供することができた。アスタキサンチン及び/又はそのエステルはヒトの眼の調節力を向上させるので、眼の調節力に障害が起きる状況、すなわち加齢変化により調節力が減退し近方視が困難になる老視、VDT又は眼をよく使う作業に従事した際の疲れ眼、また病的異常の調節衰弱、調節不全、調節遅鈍、調節麻痺、調節緊張、調節痙攣等の患者における予防及び/又は治療剤として有用である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において有効成分として用いるアスタキサンチン及び/又はそのエステルは化学合成品でも天然物由来の抽出物又は粗抽出エキスでもよく、これらを単独でもしくは適宜混合して用いることができる。天然物由来のものとしては、例えば、エビ、オキアミ、カニ等の甲殻類の甲殻及び卵、臓器、種々の魚介類の皮、卵類、ヘマトコッカス等の藻類、赤色酵母ファフィア等の酵母類、海洋性細菌(Agrobacterium aurantiacum)、又は福寿草、金鳳花等の種子植物から得られるものを挙げることができる。天然からの抽出物、及び化学合成品は市販されていて入手は容易である。
【0009】
アスタキサンチン及び/又はそのエステルは、例えば、赤色酵母ファフィア、緑藻ヘマトコッカス、海洋性細菌等を、常法に従って、或いは公知の方法に準拠して、適宜な培地で培養することにより得られる。
【0010】
上記培養物からアスタキサンチンを抽出する方法、又は前記甲殻類から抽出、精製する方法については種々の方法が知られている。例えば、ジエステル型アスタキサンチンが油溶性物質であることから、アスタキサンチンを含有する天然物からアセトン、アルコール、酢酸エチル、ベンゼン、クロロホルム等の油溶性有機溶媒でアスタキサンチン含有成分を抽出することができる。抽出後、常法に従って溶媒を除去してジエステル型のアスタキサンチン濃縮物を得ることができる。得られた濃縮物は、所望によりさらに精製しても良い。
【0011】
アスタキサンチンは、3,3'−ジヒドロキシ−β,β−カロテン−4,4'−ジオン又はその立体異性体がある。具体的には、(3R,3'R)−アスタキサンチン、(3R,3'S)−アスタキサンチン、及び(3S,3'S)−アスタキサンチンの3種の立体異性体が知られているが、本発明にはそのいずれも用いることができる。
【0012】
アスタキサンチン及び/又はそのエステルは突然変異原性が観察されず、安全性が高い化合物であることが知られている。
【0013】
本発明におけるアスタキサンチン成分は、アスタキサンチンの遊離体、モノエステル、ジエステルのいずれも用いることができる。ジエステルは2つの水酸基がエステル結合により保護されているため物理的に遊離体やモノエステルよりも安定性がよく製剤中で酸化分解されにくい。しかし生体中に取り込まれると生体内酵素により速やかにアスタキサンチンに加水分解され効果を示すものと考えられている。
【0014】
アスタキサンチンのモノエステル類としては低級又は高級飽和脂肪酸、あるいは低級又は高級不飽和脂肪酸とのエステル類を挙げることができる。具体的には酢酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、パルミトオレイン酸、ヘプタデカン酸、エライジン酸、リシノール酸、ペトロセリン酸、バクセン酸、エレオステアリン酸、プニシン酸、リカン酸、パリナリン酸、ガドール酸、5−エイコセン酸、5−ドコセン酸、セトール酸、エルシン酸、5,13−ドコサジエン酸、セラコール酸、デセン酸、ステリング酸、ドデセン酸、オレイン酸、ステアリン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等のモノエステルを挙げることができる。
【0015】
アスタキサンチンのジエステルとしては上記脂肪酸の群から選択される同一又は異種の脂肪酸より構成されるジエステル類を挙げることができる。
【0016】
さらに、アスタキサンチンのエステルとしては、例えば、グリシン、アラニン等のアミノ酸エステル類、クエン酸エステル等の一価又は多価カルボン酸エステル及びその塩類、又はリン酸エステル、硫酸エステル等の無機酸エステル類及びその塩類、グルコシド等の糖エステル類、糖脂肪酸エステル類、グリセロ糖脂肪酸エステル類、スフィンゴ糖脂肪酸エステル類、グリセロ脂肪酸エステル類、グリセロリン酸エステル類等のモノエステルを挙げることができる。あるいは上記アミノ酸、カルボン酸、リン酸、硫酸、糖、不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸、高度不飽和脂肪酸、脂肪酸エステル類、糖脂肪酸エステル類、グリセロ糖脂肪酸エステル類、スフィンゴ糖脂肪酸エステル類、グリセロ脂肪酸エステル類、グリセロリン酸エステル類等から選択される同一又は異種のジエステル等を挙げることができる。
【0017】
本発明の(アスタキサンチン及び/又はそのエステルからなる眼の調節機能障害改善剤である)薬剤は、常法に従って、適宜なラクトース、サッカロース等の糖、グリシン等のアミノ酸、セルロース等の賦形剤、デンプン、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤、又はデンプン、寒天等の崩壊剤、或いは二酸化珪素、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール等の滑剤、フレーバ剤、甘味料を配合し、各種製剤の形態にすることができる。例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、腸溶剤、カプセル剤、トローチ剤等のような固形投薬形態、エリキシル、シロップ等のような内用液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、外用液剤、湿布剤、点鼻剤、点耳剤、点眼剤等のような液体投薬形態、又はソフトカプセル等のような油脂充填カプセル、吸入剤、ローション剤、坐剤、経腸栄養剤等の形態で投与される。
【0018】
アスタキサンチン及び/又はそのエステルは、空気中の酸素による酸化分解を受けやすく、温度、光等に対する安定性が悪く、製剤とした場合に保存期間中に経時的に分解する傾向を示す。この分解を抑えるため、必要ならば上記組成物には安定剤として抗酸化能を持つ物質を添加することができる。例えば、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンE(トコフェロール、トコトリエノール)又はこれらのビタミン類の誘導体、システイン、グルタチオン、フィチン酸、カテキン類、フラボノイド類、β−カロチン、グルタチオンペルオキシターゼ、クエン酸類、リン酸類、ポリフェノール類、核酸類、漢方薬類、海草類、無機物等の既存の抗酸化剤から選ばれる一種又は二種以上の混合物を添加することもできる。アスタキサンチンの単体やモノエステル体の吸収を良くするためには微粉状態又は無晶形粉末にして投与することが好ましい。
【0019】
薬剤として用いるアスタキサンチン及び/又はそのエステルの量は、投与される患者の年齢、体重、症状の程度、投与形態によって異なるが、アスタキサンチンの遊離体に換算した量で、成人では、経口投与の場合1日あたり0.1mg〜10g、好ましくは0.1mg〜1g、予防効果としては0.1mg〜100mgで、また非経口投与の場合、1日あたり0.01mg〜1g、好ましくは0.01mg〜100mg、予防効果としては0.01mg〜10mgの範囲で投与することができる。投与方法は、特に制限はないが、好ましくは、空腹時又は食前(30分前)に投与した方が効率がよい。
【0020】
本発明の薬剤はヒト眼の調節力を向上させるので、眼の調節力に障害が起きる状況、すなわち加齢変化により調節力が減退し近方視が困難になる老視、視覚表示器(VDT)又は眼をよく使う作業に従事した際の疲れ眼、また病的異常の調節衰弱、調節不全、調節遅鈍、調節麻痺、調節緊張、調節痙攣等の患者における予防及び/又は治療剤として有用である。
【0021】
尚、米国特許第5,527,533号明細書に記載されているのは、「眼」といっても網膜およびそれにつながる神経に限定されている。また特開平10−276721号公報には白内障、それによる眼精疲労が記載されているにすぎない。これに対し、本発明に係る眼の調節機能障害改善剤は、病的調節異常を毛様体への血流改善、毛様体筋損傷抑制、支配神経(副交感神経)により改善されると考えられる。
【0022】
本発明には、アスタキサンチン及び/又はそのエステルからなる眼の調節機能障害に対する改善作用を有する飲食物も含まれる。
【0023】
飲食物への添加例としては、マーガリン、バター、バターソース、チーズ、生クリーム、ショートニング、ラード、アイスクリーム、ヨーグルト、乳製品、ソース肉製品、魚製品、フライドポテト、ポテトチップス、ポップコーン、ふりかけ、チューインガム、チョコレート、プリン、ゼリー、グミキャンディー、キャンディー、ドロップ、キャラメル、カステラ、ケーキ、ドーナッツ、ビスケット、クッキー、クラッカー等、マカロニ、パスタ、サラダ油、インスタントスープ、ドレッシング、卵、マヨネーズ、みそ等、又は果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料等の炭酸系飲料又は非炭酸系飲料等、茶、コーヒー、ココア等の非アルコール、又はリキュール、薬用酒等アルコール飲料等の一般食品への添加例を挙げることができる。
【0024】
本発明の飲食物は、アスタキサンチン及び/又はそのエステルを一般食品の原料と共に配合し、常法に従って加工製造することができる。アスタキサンチン及び/又はそのエステルの配合量は食品の形態等により異なるが、一般にはアスタキサンチンとして0.1mg〜10g、好ましくは0.1mg〜1g、予防効果としては0.1mg〜100mgの範囲が好ましい。飲食物、機能性食品、栄養補助剤には、眼の調節機能改善作用を発揮するに必要な量だけ含まれるように調製する。使用量は当業者が飲食物の種類に応じて適宜選択できる。
【0025】
本発明の飲食物を栄養補助食品あるいは機能性食品として用いる場合、その形態は、上記医薬用製剤と同様の形態であってもよい。乳蛋白質、大豆蛋白質、卵アルブミン蛋白質等、又は、これらの分解物である卵白オリゴペプチド、大豆加水分解物、アミノ酸単体の混合物を用いることもできる。また、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類、乳化剤、香料等を配合した自然流動食、半消化態栄養食及び栄養食、ドリンク剤、カプセル剤、経腸栄養剤等の形態の加工物を挙げることができる。ドリンク形態で提供する場合は、栄養バランス、摂取時の風味を良くするためにアミノ酸、ビタミン類、ミネラル類等の栄養的添加物、甘味料、香辛料、香料及び色素等を配合してもよい。さらには、眼に良いと言われているアントシアニンを多く含む天然由来の抽出物であるブルーベリーエキス等を加えることにより相乗的な効果を発揮させることもできる。本発明の食品等の形態は、これらに限定されるものではない。
【0026】
本発明を以下の実施例及び製剤例にて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
【0027】
アスタキサンチンの眼の調節力改善作用
(試験方法) 下記選択基準を満たす人を被験者とした。
(1)眼が疲れる自覚症状のある人、又はVDT作業に従事している人。(2) 矯正視力両目で1.0以上。(3) 年齢35〜59歳。(4) 常時、医薬品や健康食品を服用していない人。(5)遵守事項を守り、試験方法に定められた診察を受けることができる人。
【0028】
眼の網膜に障害のある人と白内障の人は被験者から除いた。
【0029】
アスタキサンチン5mg/カプセルの試験食及びアスタキサンチン0mg/カプセルの対照食を準備した。二重盲検法により試験を実施した。
I.摂取前
試験担当者は被験者のアコモドグラム〔アコモドメーターで、固視標移動時の屈折値の変化(調節反応)を他覚的に連続測定することができる。VDT症候群をはじめとする調節異常の鮮明な検出が可能である。〕による調節力試験終了後、性別及び試験成績により被験者を層別して名簿を作成しコントローラに渡した。コントローラはこの名簿を基に被験者を試験食群及び対照食群に分け、割付表を作成した。さらに割付表に従い、試験食又は対照食に各被験者の氏名が記されたラベルを貼付した。割付表はコントローラが封印した。
II.摂取中
被験者は4週間連続1日1カプセルを夕食後に摂取した。
III.摂取終了後
被験者はアコモドグラムによる調節力の試験を受けた。
【0030】
その結果を表1に示す。表には、試験食群のヒト眼調節力と対照群のヒト眼調節力を示す。
【0031】
なお、表中の調節力(度)の値は平均値±標準偏差で表され、「*」は、有意差p<0.01 摂取前vs.摂取後(t-test)であることを示す。
【0032】
【表1】

【0033】
上記表1の結果から、アスタキサンチン摂取開始前と4週間連続摂取後のヒト眼調節力を比較すると、試験食群では統計的有意差をもって向上が認められた。一方、対照群ではそのような差は認められなかった。このことより、アスタキサンチンは眼の調節力を向上させることがわかる。
実施例2
【0034】
アスタキサンチンの眼の調節力、ちらつき〔critical flicker fusion(CFF)〕、及びパターン視覚誘発電位(pattern visual evoked potentials、PVEP)に対する作用をさらに詳細に検討した。
【0035】
対照として、アスタキサンチンの投与を受けず、かつVDTに従事していない者13名をA群とした。26名のVDT従事者を無作為に2群に分けた。B群(13名)は経口でアスタキサンチン5mg/dayを4週間投与した。C群(13名)は経口でプラセボを4週間投与した。3群の間に年齢の有意差は認められなかった。
【0036】
B群とC群で二重盲検法を行った。
【0037】
A群の眼の調節力は3.7±1.5ジオプトリーであった。投与前のB群とC群の眼の調節力は各々2.3±1.4ジオプトリー及び2.2±1.0ジオプトリーであり、有意(P<0.05)にA群よりも低かった。
【0038】
アスタキサンチン投与後のB群において眼の調節力2.8±1.6ジオプトリーは有意(p<0.01)に投与前よりも大きくなった。一方、プラセボ投与後のC群では眼の調節力(2.3±1.1ジオプトリー)は変化しなかった。
【0039】
眼の調節力については、正常者の年齢による調節力については以下の値が知られている。8歳−13.8ジオプトリー、16歳−12.0ジオプトリー、24歳−10.2ジオプトリー、32歳−8.2ジオプトリー、40歳−5.8ジオプトリー、48歳−2.5ジオプトリー、56歳−1.25ジオプトリー、64歳−1.1ジオプオトリー(ステッドマン医学大辞典、第4版、p.615)。
【0040】
A群の、ちらつき及び調節域(amplitude)並びに「パターン視覚誘発電位におけるP100潜時(latency of P100)」は、各々、45±4.2Hz、6.5±1.8μV、及び101.3±6.5msecであった。
【0041】
投与開始前のB群とC群のちらつきは、A群よりも有意(p<0.05)に低かった。
【0042】
B群とC群のちらつきは投与後には変化しなかった。投与前のB群とC群の調節域とパターン視覚誘発電位のP100潜時はA群と同様であった。投与後に変化はなかった。
【0043】
この研究の知見から、VDT従事者の眼の調節力がアスタキサンチンの投与後に改善されることが示唆される。
【0044】
VDTの作業が、眼の疲労(eye strain)、ぼやけ(blurring)、複視(単一の物体が2個の物体に見える状態)等の様々な視覚障害を誘発し、また視覚系に副作用を有することが報告されている。
【0045】
眼の視力調節力、ちらつきの減少、調節域及びパターン視覚誘発電位の潜時延長(prolonged latency)が眼のつかれの度合いを決めるために用いられる。
被験者と方法
【0046】
VDTの作業に従事しない13名を健康な対照群(A群)とした。多くは屋外で働いている。
【0047】
また、VDTによる作業が、1日当たり4時間、週当たり5日間(毎週月曜日から金曜日まで)、1年以上の作業者26名を選んだ。かれらの視力は20/20よりも良かった。VDT作業の間は調節のためメガネを着用した。
【0048】
ここではコンタクトレンズを着用しているヒト、6ヵ月以内に目薬を用いたヒト、糖尿病(diabetes mellitus)を含む、重度の接眼(ocular)、全身の病気(systemic disease)のヒトは除いた。
【0049】
VDT作業者については二重盲検試験を行った。無作為にアスタキサンチン投与群(n=13、B群)とプラセボ群(n=13、C群)に分けた。3群の間に年齢による相違はなかった。
【0050】
【表2】

【0051】
B群にはアスタキサンンチンカプセル(5mg/カプセル)を1日1回、夕食の30分前に経口投与した。
【0052】
アスタキサンンチンはヘマトコッカスプルビアリスの抽出物から調製した(富士化学工業(株)製)。
【0053】
C群には、プラセボカプセルを、1日1回、夕食の30分前に経口投与した。
【0054】
B群とC群は投与期間中、通常のVDT作業を継続した。A群は投与を受けなかった。
【0055】
眼の調節力、ちらつき及びパターン視覚誘発電位の測定
全ての測定は被験者の右目で、土曜日のAM9:00〜12:00に行った。
【0056】
視力は、ランドルトリング(Landolt ring)を用いて5mと35cmで測定した。
【0057】
眼の調節力は、近点と遠点を測定して求めた。近点は、ウオザト等の方法(Uozato H, Nagakawa A, Hirai H, Saishin M:A new near-point ruler using constant dioptric stimulus. Folia Ophthalmol Jpn 1988;39:1247−1248))に従って、D'Acomo装置〔両眼開放定点屈折近点計,(株)ワック製〕を用いて測定した。遠点は、被験者の最も良い矯正屈折力(corrected refraction)で測定した。
【0058】
眼の調節力(ジオプトリー)は、遠点(ジオプトリー)を近点(ジオプトリー)から引き算して計算した。
【0059】
ちらつきは、C.F.F.試験装置〔ヤガミ(株)製〕を一定速度でシグナルの振動数を減少させることにより試験した。各々の眼での3回の測定値の平均値を用いた。
【0060】
パターン視覚誘発電位は、国際視覚臨床電気生理学学会により設定された方法に従って、Primus〔Mayo(株)製〕を用いて記録し、一つの正のピーク(P100)強度と、潜時(N75ピークとP100ピーク間のμVの差)を測定した。
【0061】
統計学的解析
投与前後のデータを、paired t-テストを用いて統計学的に解析し、また、A群とB群及びA群とC群のデータに対してはunpaired testで測定した。確率値は0.05以下であり有意と考えられる。
【0062】
以上の結果から、投与後に、全身的な副作用はB群とC群では認められなかった。
【0063】
投与の前後でB群とC群の被験者の5m及び35cmの視力は変化しなかった。眼の調節力、ちらつき、及びパターン視覚誘発電位の数値は下記表に示す。
【0064】
なお、表中の平均値±標準偏差において#(p<0.01)は投与前の値と比較した。*(p<0.05)はA群の値と比較した。
【0065】
【表3】



A群の眼の調節力は3.7±1.5ジオプトリーであった。
B群とC群の投与前の眼の調節力は、2.3±1.4及び2.2±1.0ジオプトリーであり、A群より有意(p<0.05)低かった。アスタキサンチン投与後、B群の眼の調節力は、2.8±1.6ジオプトリーであり投与前よりも有意(p<0.01)に大きくなった。
プラセボ投与後のC群の眼の調節力は、2.3±1.1ジオプトリーであり、変化はなかった。
A群のPVEPのP100強度は6.5±1.8μVであった。投与前のB群とC群の強度は5.8±1.7及び5.7±2.3μVであり、A群と同様であった。
B群とC群の間には有意差はなかった。投与後のB群とC群の強度5.6±1.6及び5.5±1.3μVは投与前と同様であった。
A群のパターン視覚誘発電位のP100潜時は、101.3±6.5msecであった。投与前のB群とC群の潜時(Latencies)は、102±6.9及び104.4±5.7msecであり、A群と同様であった。
B群とC群に有意差はなかった。投与後のB群とC群の潜時、104±7.4及び105.2±5.7msecは投与前と同じであった。
眼の調節力は年齢により変化する。こここでは3群の年齢を釣り合わせた。また、糖尿病は眼の調整力を減少させる危険因子である。それで、糖尿病患者はこの試験から除いた。
本試験の結果はVDT作業者の眼の調節力がアスタキサンチン投与により改善することを示している。
VDT作業者の近点における増加と眼の調節力の減少が村田らにより報告されている(Murata K; Araki S; Kawakami N;Saito Y, Hino E:Central nervous system effects and visual fatigue in VDT workers.
Int. Arch Occup Environ Health 1991, 63(2), p109−113)、Murata K; Araki S;Yokoyama K; Yamashita K; Okamatsu T; Sakou S:Accumulation of VDT work-related visual fatigue assessed by visual evoked potential, near point distance and
critical flicker fusion.Ind. Health 1996, 34(2), 61−69)。この著者らはVDT使用による慢性的なストレスが毛様体(cilialy body)の機能低下(hypofunction)を誘発し、眼の調節力を減少させることを示唆している。
VDT作業者が、ちらつきの低下、及び調節域の減少、及びPVEPのP100潜時延長(Prolonged latency)することが報告されている。
この試験では、VDT作業者に軽度のちらつきが見られた。しかしながら、前後で有意に異なっていた。さらにVDT作業者にPVEPのP100強度の減少は見られなかった。
本試験において、アスタキサンチン投与が神経系に由来する、ちらつき、パターン視覚誘発電位に対し、投与前後で効果に差がなく、一方、アスタキサンチンの投与により眼の調節力が有意に改善されたのはアスタキサンチンが眼の毛様体に作用していることを示唆している。毛様体は水晶体の厚みを変え、ピントを合わせるという重要な働きをする。近くのものを見るときには水晶体を厚くするために緊張し、逆に遠くのものを見るときは弛緩してその機能を発揮する。
【0066】
製剤例1(錠剤)
下記成分を下記組成比(重量%)で均一に混合し、1粒180mgの錠剤とした。
アスタキサンチン 5%
乳糖 75%
重質酸化マグネシウム 20%
【0067】
製剤例2(カプセル剤)
下記成分からなるソフトカプセル剤皮の中にヘマトコッカス抽出オイル(アスタキサンチンを10重量%含有)を常法により充填し、1粒100mgのソフトカプセルを得た。
ゼラチン 70%
グリセリン 23%
パラオキシ安息香酸プロピル 0.5%
水 適量
計 100%
【0068】
製剤例3(カプセル剤)
上記ソフトカプセル剤皮の中に上記ヘマトコッカス抽出オイルとブルーベリーエキスの重量比が1:1となるように、常法により充填し、1粒100mgのソフトカプセルを得た。
【0069】
製剤例4(ドリンク剤)
下記成分を配合し、常法に従って、水を加えてドリンク剤を調製した。
アスタキサンチン 5g
液糖 4kg
DL−酒石酸ナトリウム 1g
クエン酸 50g
ビタミンC 50g
ビタミンE 150g
シクロデキストリン 25g
塩化カリウム 5g
硫酸マグネシウム 2g
【0070】
製剤例5(滋養強壮強精剤)下記成分を配合し、常法に従って、水を加えて液剤を調製した。
アスタキサンチンエチルエステル 5g
液糖 4kg
DL−酒石酸ナトリウム 1g
クエン酸 50g
ビタミンB1 10g
ビタミンB2 10g
ビタミンB6 10g
ビタミンB12 10g
ビタミンC 50g
ビタミンE 150g
葉酸 5g
ニコチン酸 10g
シクロデキストリン 25g
塩化カリウム 5g
硫酸マグネシウム 2g

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスタキサンチン及び/又はそのエステルを有効成分として含有してなる眼の調節機能障害改善用飲食物(但し、清肝明目作用を有する動物胆とアスタキサンチン及び/又はそのエステルを含有するものは除く)。
【請求項2】
アスタキサンチン及び/又はそのエステルを有効成分として含有してなる眼の調節機能障害改善用の機能性食品である請求項1記載の飲食物。
【請求項3】
眼の調節機能障害が眼の調節力に障害が起きる状態である請求項1又は2記載の飲食物。
【請求項4】
眼の調節機能障害が、視覚表示器(VDT)又は眼をよく使う作業に従事した際の疲れ目である請求項1又は2記載の飲食物。
【請求項5】
1日あたりのアスタキサンチン及び/又はそのエステルの投与量が0.1〜10gである請求項1及至4のうちのいずれか記載の飲食物。

【公開番号】特開2006−141410(P2006−141410A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40850(P2006−40850)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【分割の表示】特願2002−590971(P2002−590971)の分割
【原出願日】平成14年5月23日(2002.5.23)
【出願人】(390011877)富士化学工業株式会社 (53)
【Fターム(参考)】