説明

眼への受容体チロシンキナーゼ阻害(RTKI)化合物の送達のための医薬製剤

本発明は、リン脂質小胞中にカプセル化または可溶化された治療的有効量の活性化合物を含む眼新生血管形成を治療するための有効な眼科医薬組成物の開発に関する。本発明により、例えば、眼新生血管形成を治療するための眼科用組成物であって、0.01%〜8%の量の少なくとも1種の貧水溶性活性薬剤を含み、該活性薬剤は、リン脂質小胞中に可溶化されている、組成物が提供される。本発明により、眼新生血管形成の治療のための組成物であって、リン脂質小胞中にカプセル化された0.1〜3%の多標的受容体チロシンキナーゼ(RTK)阻害剤を含み、患者の眼中に硝子体内注射するために製剤化された、組成物もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本願は、2005年12月23日に出願した米国出願番号60/753,819号に対する優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は溶解度の低い化合物を含む独特の組成物およびAMD、DR、糖尿病性黄斑浮腫などの眼の炎症、血管新生および血管漏出により生ずるまたは悪化する病態を治療するために有用な方法、より具体的には眼障害治療に使用するための少なくとも1つの抗血管新生剤、抗炎症剤、または抗血管透過性剤を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
(関連技術の説明)
異常な新生血管形成すなわち血管新生および増大した透過性は、加齢関連黄斑変性症(AMD)、未熟児網膜症(ROP)、虚血性網膜静脈閉塞症および糖尿病性網膜症(DR)を含む多くの眼障害の主原因である。AMDおよびDRは重症の不可逆的視覚喪失の最も一般的な原因に含まれる。網膜静脈閉塞症などのこれらのおよび関連疾患において、中心部視覚喪失は、血管新生、既存血管網からの新血管発生および血管透過性の変化の続発症である。
【0004】
血管新生過程は、既存血管中の静止性内皮細胞の活性化により知られる。正常網膜循環は新生血管刺激に抵抗性であり、網膜血管における内皮細胞増殖は非常に少ししか起こらない。組織低酸素、炎症性細胞浸潤および透過障壁破壊を含む網膜新生血管形成に対する多くの刺激があるように思われるが、全て、サイトカイン類(VEGF、PDGF、FGF、TNF、IGFなど)、インテグリンおよびプロテイナーゼの局所濃度を増大させる結果、新血管の形成を生じさせ、続いてそれが神経網膜の組織化された構造を破壊するか、または内境界膜を通して硝子体中に貫通する。上昇したサイトカインレベルは、内皮細胞密着接合を破壊することもでき、血管漏出および網膜浮腫の増大、ならびに神経網膜の組織化された構造の破壊に至る。VEGFが炎症性細胞浸潤、内皮細胞増殖および血管漏出の主たる媒介物質であると考えられているが、PDGF、FGF、TNF、およびIGFなどの他の増殖因子がこれらの過程に関与している。したがって、増殖因子阻害剤は、眼内への局所送達によりまたは経口投与により、網膜損傷、およびそれに伴う視覚喪失を阻止することに重要な役割を果たすことができる。
【0005】
眼新生血管形成および増大した血管透過性により惹起された疾患に治癒はない。AMDの現在の治療方法は、レーザー光凝固および光線力学的療法(PDT)を含む。眼新生血管形成および増大した血管透過性に対する光凝固の効果は、網膜細胞の熱的破壊によってのみ達成される。PDTは、通常、色素の緩徐な注入とそれに続く非熱的レーザー光の適用を必要とする。治療は、通常、異常血管のその漏出を一時的に停止または減少させる。PDT治療は、最初の1年間に3カ月毎に3から4回繰り返さなければならない可能性がある。PDT治療に伴う可能性のある問題には、頭痛、視覚における不鮮明、鮮明さの減少および間隙、ならびに1〜4%の患者における実質的視力低下が含まれ、多くの患者で部分的回復がある。その上、PDT治療の直後、患者は日焼けを避けるために5日間直射日光を避けなければならない。最近、加齢関連黄斑変性症を有する患者の治療のために、米国において、組換えヒト化IgGモノクローナル抗体フラグメント(ラニビズマブ)が承認された。この薬品は、通常、月に1回硝子体内注射により投与される。
【0006】
眼新生血管形成および増大した血管透過性に関連する障害および他の障害の治療に可能性として有用であると考えられ得る多くの化合物は、水に貧溶性である。貧水溶性化合物は、薬学的に許容される水性媒体に治療的有効濃度で溶解性でない物質である。水溶解度は貧水溶性化合物の製剤開発に重要なパラメーターである。必要とされるものは、化合物の増大した溶解度を提供する一方で、その治療的可能性を維持するのに十分な化合物のバイオアベイラビリティを提供する製剤である。
【0007】
液体を基剤とする薬剤担体小胞であるリポソームは、生物活性化合物を送達、可溶化、および安定化する新規な手段として出現した。1980年代の最も初期の市販リポソーム製剤は、獣医学用途(Novasome、IGI、ニュージャージー州バインランド)、または改善された水和のために奨励された店頭での化粧品クリーム(L’Oreal、パリおよびDior、パリ)のために開発された。より最近に、アンホテリシンB、ドキソルビシンおよびダウノルビンシンの非経口リポソーム製剤が承認されて上市された(ABELCET(登録商標)、The Liposome Co.,Inc、ニュージャージー州プリンストン;AmBisome(登録商標)、Gilead Sciences、カリフォルニア州フォスター市;DaunoSome(商標)、Nexstar/Fujisawa、イリノイ州ディアフィールドパーク;Amphotec(登録商標)、InterMune,Inc.、カリフォルニア州ブリズベン;およびDoxil(登録商標)、Sequus/Alza、カリフォルニア州メンロパーク)。リポソーム製剤の大多数はリン脂質から構築されるが、リン脂質以外の材料も単独でまたは混合物で使用されて二重層配列を形成することができる。そのような一例はAmphotec(登録商標)であり、それは主要な脂質としてコレステリル硫酸ナトリウムを利用する。他のリポソーム形成材料は、脂肪酸組成物、イオン化脂肪酸、または脂肪族アシルアミノ酸、界面活性剤を足した長鎖脂肪アルコール、イオン化リゾリン脂質または組合せ、非イオン性またはイオン性界面活性剤および両親媒性物質、アルキルマルトシド、α−トコフェロールエステル、コレステロールエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタンアルキルエステルならびに重合リン脂質組成物を含むが、それらに限定されない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、内皮細胞増殖、血管漏出、炎症および血管新生により惹起された眼疾患の治療のための貧溶性化合物の眼投与のための安全で効果的な製剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、血管新生、増大した内皮細胞増殖、炎症、または増大した血管透過性に基づく眼障害を治療するための組成物を提供することにより、先行技術のこれらのおよび他の欠点を克服する。本発明の一態様において、低い水溶解度を有する化合物が、眼への送達のためのリン脂質小胞中に可溶化されている組成物が提供される。製剤中のリン脂質の好ましい濃度は0.05%から27%である。
【0010】
他の実施形態において、(a)活性薬剤、(b)DMPCなどのリン脂質の適当量、(c)適当な緩衝剤、および(d)等張化剤を含有する後強膜近傍(PJ)および眼窩周囲用リポソーム製剤が記載される。広範囲の分子、特に非常に低い溶解度を有するこれらの分子が、本発明の範囲内で利用され得る。本明細書で使用される用語「貧溶性」は、10マイクログラム/mL未満の水中溶解度を有する化合物を指して使用される。本発明の組成物中で使用するための活性薬剤は、抗血管新生剤、抗炎症剤もしくは抗血管透過性剤、または眼障害の治療に有用な任意の他の貧水溶性活性薬剤であってよい。
【0011】
組成物中のリン脂質の量は、小胞の形態および活性化合物の溶解度に非常に重要な役割を果たす。良好な多層小胞(MLV)および大きい単層の小胞(LUV)を生じる、脂質および薬剤の最適濃度は、5/1(マイクロモル)である。
【0012】
本発明の組成物は、好ましくは、新生血管形成、炎症、血管新生、または血管透過性により特徴づけられる障害に罹患している患者の眼に、後強膜近傍投与、硝子体内注射、または眼局所投与により投与される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図面は本明細書の一部を形成し、本発明の特定の態様をさらに示すために含まれる。本発明は、本明細書に提示した具体的な実施形態の詳細な説明と組み合わせてこの図面を参照することにより、よりよく理解することができる。
【0014】
(好適な実施形態の詳細な説明)
上記のように、本発明は、内皮細胞増殖、増大した血管透過性、炎症、または血管新生により惹起された眼障害の治療に使用するための、貧水溶性の活性薬剤を含有する組成物を提供する。本発明の組成物は、微小血管病変、増大した血管透過性、および眼内新生血管形成を伴う、糖尿病性網膜症(DR)、加齢関連黄斑変性症(AMD)および網膜浮腫を含む障害の治療に有用である。
【0015】
簡単にいえば、本発明の文脈では、活性薬剤は、血管増殖を抑制し、血管透過性を低下させ、および/または炎症を軽減するように作用する、合成または天然の任意の分子であると理解されるべきである。特に、本発明は、眼科用途のために、リン脂質系小胞、すなわちリポソーム中に入れたもしくは可溶化した治療的有効量の不溶性または貧溶性の活性薬剤を含む組成物を提供する。
【0016】
リポソームは、水または緩衝液成分により分離された脂質二重層の1つまたは複数の同心性球の構造と定義される。80nmから100μmの範囲の直径を有するこれらの微小球状小胞は、水和したリン脂質が一貫した頭尾配向で環状シートに配列したときに形成される。これらのシートは互いに連結して、いくらかの水および水溶性材料をリン脂質球の中で取り囲む二重層膜を形成する。リポソームは、無毒性の生分解性脂質、特にリン脂質で構成される。脂質二重層を形成する可能性を有する非リン脂質化合物からリポソームを調製する努力が払われた。リポソーム調製方法およびそれらの応用は当技術分野で周知である。(例えば、Weiner、1987年;Weinerら、1989年;Martin、1990年;Shek、1995年;Ostro、1987年;Janoff 1998年;Lasicら、1998年;Barenholtzら、1993年;および; Weiner、1994年を参照されたい)。
【0017】
貧水溶性の任意の活性薬剤が本発明の組成物に含まれ得ると考えられる。例えば、抗血管新生剤、抗炎症剤、または抗血管透過性剤が、本発明の組成物において有用である。
【0018】
好ましい抗血管新生剤には、受容体チロシンキナーゼ阻害剤(RTKi)、特に本明細書でさらに詳細に記載するような多標的受容体プロファイルを有するもの;血管新生抑制コルチゾン(cortisenes);MMP阻害剤;インテグリン阻害剤;PDGFアンタゴニスト;抗増殖性剤;HIF−1阻害剤;線維芽細胞増殖因子阻害剤;上皮細胞増殖因子阻害剤;TIMP阻害剤;インスリン様増殖因子阻害剤;TNF阻害剤;アンチセンスオリゴヌクレオチドなどおよび上述の薬剤の任意のもののプロドラッグが含まれるが、それらに限定されない。本発明における使用のために好ましい抗血管新生剤は、受容体チロシンキナーゼ阻害剤(RTKi)である。最も好ましいのは、表1に列挙したものに実質的に類似する結合プロファイルを有するN−[4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル]−N’−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素などの多標的結合プロファイルを有するRTKi類である。本発明の組成物中に使用を企図されるさらなる多標的受容体チロシンキナーゼ阻害剤が、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第2004/0235892号に記載されている。本明細書で使用する用語「多標的受容体チロシンキナーゼ阻害剤」は、表1に示した、および参照により本明細書に組み込まれる同時係属の米国特許出願第2006/0189608号に記載されているプロファイルのような、血管新生および増大した血管透過性に関連する障害の制御に重要であることが示されている、複数の受容体に選択性を示す受容体結合プロファイルを有する化合物を指す。本発明の製剤中に使用する化合物は、表1中のものと類似の受容体結合プロファイルを有することが最も好ましい。
【0019】
【表1】

本発明の組成物および方法において有用となる他の薬剤は、抗VEGF抗体(すなわちベバシズマブまたはラニビズマブ);VEGFトラップ;表1中の200nM未満のIC50値を有する少なくとも2つのチロシンキナーゼ受容体を標的とするsiRNA分子またはそれらの混合物;グルココルチコイド(すなわち、デキサメタゾン、フルオロメタロン、メドリゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、プレドニゾン、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、リメキソロン、および薬学的に許容されるそれらの塩;プレドニカルベート、デフラザコルト、ハロメタゾン、チキソコルトール、プレドニリデン(21−ジエチルアミノアセテート)、プレドニバル、パラメタゾン、メチルプレドニゾロン、メプレドニゾン、マジプレドン、イソフルプレドン、ハロプレドンアセテート、ハルシノニド、ホルモコルタール、フランドレノリド、フルプレドニゾロン、フルプレドニジンアセテート、フルペロロンアセテート、フルオコルトロン、フルオコルチンブチル、フルオシノニド、フルオシノロンアセトニド、フルニソリド、フルメタゾン、フルドロコルチゾン、フルクロリニド、エノキソロン、ジフルプレドネート、ジフルコルトロン、ジフロラゾンジアセテート、デソキシメタゾン(desoximetasoneまたはdesoxymethasone)、デソニド、デスシノロン、コルチバゾール、コルチコステロン、コルチゾン、クロプレドノール、クロコルトロン、クロベタゾン、クロベタゾール、クロロプレドニゾン、カフェストール、ブデソニド、ベクロメタゾン、アムシノニド、アロプレグナンアセトニド、アルクロメタゾン、21−アセトキシプレグネノロン、トラロニド、ジフロラゾンアセテート、デアシルコルチバゾール、RU−26988、ブデソニド、およびデアシルコルチバゾールオキセタノン);ナフトヒドロキノン抗生物質(すなわちリファマイシン);およびNSAID類(すなわちネパフェナク、アムフェナク)を含む。
【0020】
本発明の製剤に使用する不溶性または貧溶性の活性薬剤は、水性層間間隙中に「捕捉される」のとは反対に、通常、製剤中のリポソームの親油性の膜部分中に可溶化する。
【0021】
本発明の製剤での使用に適したリポソームは、通常、脂質成分が安定なリン脂質を含むものを含む。好ましいリン脂質には、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)、1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DLPC)、1,2−ジパルモチル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPPC)、1,2−ジオレイオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DOPC)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)、1,2−ジオクタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DOPC)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルエタノールアミン(DLPE)、1,2−ジドデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルエタノールアミン(DDPE)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホグリセロール(DMPG)、1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスホグリセロール(DLPG)、エッグホスファチジルコリン(EPC)、ソイ−ホスファチジルコリン(SPC)が含まれる。より好ましいものは、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、エッグホスファチジルコリン(EPC)、ソイ−ホスファチジルコリン(SPC)および1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホグリセロール(DMPG)である。より好ましいものは、1,2−ジパルモチル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPPC)、1,2−ジオレイオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DOPC)および1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)である。最も好ましいものは1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)である。
【0022】
1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)は合成リン脂質であり、99%を超える純度で市販されている。それは、エチルアルコール、クロロホルムおよびジクロロメタン中に容易に溶解する白色粉末である。この化合物中に不飽和官能基が存在しないことがその優れた安定性に寄与した。
【0023】
本発明のリポソーム製剤は、従来の製剤に優る多くの利点を提供する。本発明の1つの利点は、リポソーム中にカプセル化された、または可溶化された活性薬剤を含む製剤は、貧水溶性または不溶性化合物を首尾よく可溶化することができて、眼科的に許容される、局所的眼送達に効果的な製剤の調製を可能にすることである。例えば、受容体チロシンキナーゼ(RTK)阻害剤、N−[4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル]−N’−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素のリポソーム製剤は、ラットOIRモデルにおける前網膜新生血管形成の100%抑制を示した。
【0024】
本発明のカプセル化製剤のもう1つの利点は、それらが不活性デポからの薬剤徐放の便利な手段を提供することである。それに関して、本発明のリポソーム製剤は、完全に生分解性でかつ無毒性である。さらに、脂質カプセル化は、代謝による分解から薬剤を保護することができ、製剤を27〜30ゲージ針を使用して液体剤形として注射することができる。製剤は、当技術分野で周知の標準的押出し法を使用して滅菌することができる。
【0025】
本発明者らは、脂質を基剤とする小胞製剤が、高度に不溶性の活性化合物を首尾よく可溶化できることを見出した。例えば、DMPC中種々の濃度で調製したRTKi化合物N−[4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル]−N’−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素のリポソーム製剤(RTKi/DMPC:1/5〜1/10マイクロモル比)の顕微鏡観察は、薬剤結晶が存在しないことを示し、薬剤が脂質層に可溶性であることを示す。本発明者らはさらに、本発明の製剤に使用されたリン脂質の量は、小胞の構造およびミセルの可溶化能に非常に大きい影響を有することを観察した。高いリン脂質濃度で(RTKi/DMPC:1/7〜1/10マイクロモル比)、RTKiの完全な溶解が観察されたが、その一方で形成された小胞は伸長して融合していた(表2)。低いリン脂質濃度では(RTKi/DMPC:1/2〜1/4マイクロモル比)、製剤中の結晶の観察から明らかなように、不完全な溶解が示された。薬剤溶解と形成された小胞の構造との優れた組合せは、大部分MLVおよびLUVの小胞を生ずるRTKi/DMPC:1/5マイクロモル比を使用して達成された。
【0026】
【表2】

本発明の組成物で使用する好ましいリン脂質はDMPCであるが、他のリン脂質を単独でまたは組み合わせて使用し得ることが考えられる。例えば、1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DLPC)、1,2−ジパルモチル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPPC)、1,2−ジオレイオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DOPC)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)、1,2−ジオクタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DOPC)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルエタノールアミン(DLPE)、1,2−ジドデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルエタノールアミン(DDPE)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホグリセロール(DMPG)、1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスホグリセロール(DLPG)、エッグホスファチジルコリン(EPC)、ソイ−ホスファチジルコリン(SPC)などのリン脂質。より好ましいものは、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、エッグホスファチジルコリン(EPC)、ソイ−ホスファチジルコリン(SoyPC)および1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホグリセロール(DMPG)である。最も好ましいものは1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホグリセロール(DMPG)であり、この目的に使用することができる。
【0027】
ある好ましい実施形態において、本発明の製剤は、必要とあれば分散剤として、HPMC、HEC、NaCMCなどの適当な増粘剤をさらに含む。リン酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩、トリスなどの適当な緩衝系も、本発明の製剤に使用することができる。必要ならば、張度を調節するために塩化ナトリウムまたは他の等張化剤を使用することもできる。製剤の組成を表3に提示する。破裂しない「安定な」リポソーム構造を得るために重要な特徴は、膜の両側の浸透圧のバランスを保つことであり、すなわち内側水相の重量オスモル濃度が外側の重量オスモル濃度と合致しなければならない。膜の両側の浸透圧バランスを得る任意の調製方法を使用することができる。これは、若干の名を挙げれば、安定多層小胞法、逆相蒸発法リポソーム、単層小胞、凍結融解小胞、膜押出しリポソームなどの方法を含む。そのような方法は当業者に周知である。
【0028】
【表3】

任意の特定のヒトまたは動物のための活性薬剤の具体的な投与量レベルは、使用される活性化合物の活性、年齢、体重、全般的健康状態、投与の時期および経路ならびに治療を受けている病状の重症度を含む種々の要因に依存する。
【0029】
本明細書に記載した製剤は、硝子体内注射により、または後強膜近傍、前方強膜近傍、および眼窩周囲経路により局所的に送達することができる。硝子体内注射または局所適用のための本発明の好ましい実施形態において、活性薬剤または貧水溶性薬剤の量は、約0.01%から3%、より好ましくは0.1%から2%および最も好ましくは0.3%から1%である。
【0030】
意図した投与経路(IVTまたはPJ)が理由で、製剤の粒子サイズが、良好な注射可能性ならびに快適性を達成するほど小さくなければならないということは、非常に重要である。しかし、リポソーム製剤は典型的な固体粒子懸濁物とは似ていない。粒子は流体状態にあるので、著しく大きくてもなお容易に注射可能である。現在使用可能な最大のリポソームサイズは約40〜50ミクロンであり(例えば、SkyPharmaのDepoFoam(Howell、2001年))、それは依然として注射に非常に適している。定義により、サイズ100nm以下のリポソーム懸濁物は一般に「小単層膜小胞(SUV)」と称せられる。1μm〜3μmの粒子サイズを有する懸濁物は、この配合手順により調製される。調製された製剤(IVTまたはPJ用)は、2μL〜10μLの製剤のみが動物の眼に注射されたときでさえ優れた注入可能性を示す。
【0031】
次の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれる。以下の実施例で開示した技法は、本発明の実施においてよく機能する本発明者らにより見出された技法を示し、したがって、その実施の好ましい様式を構成すると見なされ得るということは、当業者により理解されるべきである。しかし、本発明の趣旨および範囲を逸脱せずに、開示された特定の実施形態において多くの変更をなすことができ、さらに類似のまたは同様な結果を得ることができるということを、当業者は、本開示を考慮して理解すべきである。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
この実施例は硝子体内適用のためのDMPCを基剤とするリポソーム媒体の調製を例示する。
【0033】
【表4】

9gのDMPCを約20mLのエタノールに溶解した。それに約1gの0.36%二塩基性リン酸ナトリウム溶液を加えた。均一溶液を作製するためによく振り混ぜる。40℃でロータリーエバポレーターを使用して液体を除去して乾燥した薄いフィルムにした。それを4時間真空で放置した。0.36%の二塩基性リン酸ナトリウムおよび0.8%の塩化ナトリウムを含む80gの滅菌緩衝溶液(pH7.2)の添加によりフィルムを水和させた。最後に適量の同じ緩衝溶液で100gにした。その溶液を室温で2時間撹拌した。この媒体をラットOIRモデルに注射した結果を図1に示す。
【0034】
(実施例2)
この実施例はRTKi(N−[4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル]−N’−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素)を含む、硝子体内および局所投与のための代表的医薬リポソーム製剤の調製を例示する。
【0035】
【表5】

250mLの丸底フラスコに1gの滅菌RTKi原料を入れた。この化合物を20mLのテトラヒドロフラン/エタノール溶媒系(1/5)に溶解した。それに9gのDMPCを加え、さらに5mLのエタノールを加えた。上記の溶液に1.5mLの滅菌0.36%二塩基性リン酸ナトリウム十二水和物溶液を加えた。よく振り混ぜて無色透明な溶液を得る。40℃でロータリーエバポレーターを使用して液体を除去し、4時間真空で放置した。0.36%の二塩基性リン酸ナトリウムおよび0.8%の塩化ナトリウムを含む(pH7.2)適量の緩衝溶液の添加により100gにした。その溶液を室温で2時間撹拌した。上記製剤をラットOIRモデルに硝子体内投与した結果を図1に示す。
【0036】
(実施例3)
この実施例は、RTKi(N−[4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル]−N’−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素)を含むPJおよび眼窩周囲投与のための代表的医薬リポソーム製剤の調製を例示する。
【0037】
【表6】

250mLの丸底フラスコに3gの滅菌RTKi原料を入れた。この化合物を60mLのテトラヒドロフラン/エタノール溶媒系(1/5)に溶解した。それに27gのDMPCを加え、さらに5mLのエタノールを加えた。上記の溶液に3.0mLの滅菌0.36%二塩基性リン酸ナトリウム十二水和物溶液を加えた。よく振り混ぜて無色透明な溶液を得る。40℃でロータリーエバポレーターを使用して液体を除去し、4時間真空で放置した。0.36%の二塩基性リン酸ナトリウムおよび0.7%の塩化ナトリウムを含む適量の減菌緩衝溶液(pH7.2)の添加により100gにした。その溶液を室温で2時間撹拌した。
【0038】
(実施例4)
ラットOIR試験:妊娠スプラーグドーリーラットを妊娠期間14日で入手し、その後妊娠期間22±1日で出産させた。分娩後ただちに仔ラットをプールし、同腹仔を分離してランダムに割り付け、酸素送達チェンバー中の別々のシューボックスケージに入れて、産後0〜14日にDouble50酸素曝露プロファイルにかけた。次に第14/0日から第14/6日まで(産後14〜20日)室内空気中に置いた。さらに第14/0日には、各仔ラットをランダムに処置群に割り付け、それから処置を開始した。
【0039】
第14/6日(産後20日)に、全ての動物を安楽死させた。安楽死後ただちに全ての仔ラットから網膜を収集し、10%中性緩衝ホルマリン中で24時間固定して、ADPアーゼ染色処理し、全封入としてスライド上に固定した。網膜が処理されたとき、血管染色の首尾は解剖鏡による観察により確認した。適切に調製された各網膜フラット封入から像を得るために、Nikon Eclipse E800(登録商標)顕微鏡およびPhotometrics CoolSNAP fxディジタルカメラを使用した。読み取れる各試料からNVクロックアワースコアを得るためにMetamorph(登録商標)ソフトウェアを使用するコンピューター処理画像解析を使用した。網膜当たり合計12の各クロックアワーを前網膜NVが存在するかしないかについて評価した。各処置群のNVクロックアワーに対するメジアンスコアを使用する統計的比較を、ノンパラメトリック分析で使用した。仔ラットはランダムに割り付けられ、全ての同腹仔からの対照の仔ラットのNVスコア間に相違が認められなかったので、NVスコアを全処置群について1つにまとめた。P≦0.05を統計的有意と見なした。
【0040】
RTKi(1%N−[4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル]−N’−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素)のリポソーム製剤は、上記のラットOIRモデルにおいて、前網膜新生血管形成の完全な(100%)抑制を示した(図1)。0.3%RTKiリポソーム製剤を使用したラットOIRモデルでは、約70%の抑制が観察された(図2)。媒体を注射された眼または偽薬を注射された眼は何らの抑制も示さなかった。解剖されたラット網膜において、薬剤を含まないリポソーム媒体で処置したラットの眼では顕著な新生血管形成が生じ(図3)、それに対してRTKi(1%)を含むリポソーム製剤で処置したラットの眼では完全な抑制が観察される(図4)ことが明確に示された。
【0041】
本明細書において開示され請求された全て組成物および/または方法は、本開示を考慮して、不当な実験をせずに行いかつ実施することができる。本発明の組成物および方法を好ましい実施形態によって説明したが、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱せずに本明細書に記載した組成物および/または方法に対して、ならびに方法のステップもしくは一連のステップにおいて、変形を適用できることは当業者に明らかであろう。より具体的に、化学的および構造的に関係する特定の薬剤を、同様の結果を得るために本明細書に記載した薬剤と置換することができることは明らかであろう。当業者に明らかなそのような全ての置換および改変は、付記した特許請求の範囲により定義された本発明の趣旨、範囲および概念内にあると見なされる。
【0042】
(参考文献)
以下の参考文献は、本明細書中に記載される手順または他の詳細を補う例示的な手順または他の詳細を提供する程度まで、本明細書中に具体的に参考として援用される。
【0043】
米国特許
【0044】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、リン脂質小胞中の可溶化した受容体チロシンキナーゼ阻害剤(RTKi)(1%)の単回硝子体内注射の、ラットの酸素誘発網膜症(OIR)モデルにおける前網膜新生血管形成に対する効果を示す。RTKiのリポソーム製剤は前網膜新生血管形成を完全に抑制している。
【図2】図2は、リン脂質小胞中の可溶化した受容体チロシンキナーゼ阻害剤(RTKi)(0.3%、および0.1%)の単回硝子体内注射の、ラットの酸素誘発網膜症(OIR)モデルにおける前網膜新生血管形成に対する効果を示す。リポソーム製剤は両方とも、媒体に比較して統計的に有意な前網膜新生血管形成の抑制を示した。
【図3】図3は、プラセボのリポソーム媒体で処置された解剖ラット網膜を示す。RTKiの存在なしでは顕著な新生血管形成が観察される。
【図4】図4は、RTKi(1%)リポソーム製剤で処置された解剖ラット網膜を示す。1回の硝子体内注射後、前網膜新生血管形成の完全な抑制が観察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼新生血管形成を治療するための眼科用組成物であって、0.01%〜8%の量の少なくとも1種の貧水溶性活性薬剤を含み、該活性薬剤は、リン脂質小胞中に可溶化されている、組成物。
【請求項2】
前記活性薬剤が、抗血管新生剤、抗炎症剤、および抗血管透過性剤からなる群から選択される、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項3】
前記活性薬剤が抗血管新生剤である、請求項2に記載の眼科用組成物。
【請求項4】
前記抗血管新生剤が多標的受容体チロシンキナーゼ(RTK)阻害剤である、請求項3に記載の眼科用組成物。
【請求項5】
前記RTK阻害剤がN−[4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル]−N’−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素である、請求項4に記載の眼科用組成物。
【請求項6】
前記活性薬剤の濃度が1%〜3%である、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項7】
前記リン脂質が1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)である、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項8】
製剤中のリン脂質濃度が2%〜30%である、請求項7に記載の眼科用組成物。
【請求項9】
眼新生血管形成の治療のための組成物であって、リン脂質小胞中にカプセル化された0.1〜3%の多標的受容体チロシンキナーゼ(RTK)阻害剤を含み、患者の眼中に硝子体内注射するために製剤化された、組成物。
【請求項10】
前記RTK阻害剤がN−[4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル]−N’−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
眼新生血管形成の治療のための組成物であって、リン脂質小胞中にカプセル化された0.5〜5%の多標的受容体チロシンキナーゼ(RTK)阻害剤を含み、患者の眼中に後強膜近傍投与および眼窩周囲投与するために製剤化された、組成物。
【請求項12】
前記RTK阻害剤がN−[4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル]−N’−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素である、請求項11に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−521510(P2009−521510A)
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547778(P2008−547778)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/062518
【国際公開番号】WO2007/076454
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(399054697)アルコン,インコーポレイテッド (102)
【Fターム(参考)】