説明

眼内血管新生性疾患の予防又は治療のための医薬

【課題】増殖網膜症、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、又は加齢性黄斑変性症などの眼内血管新生性疾患の予防又は治療のための医薬を提供する。
【解決手段】アンジオテンシンII受容体拮抗剤を有効成分として含む医薬。さらに好ましい態様によれば、4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボン酸などのアンジオテンシンII受容体拮抗剤を有効成分として含む医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンジオテンシンII受容体拮抗剤を有効成分として含む眼内血管新生性疾患の予防又は治療のための医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
アンジオテンシンII受容体拮抗剤は、高血圧症のほか、心肥大、心不全、又は心筋梗塞などの心臓病、あるいは脳卒中又は腎炎などの循環器系疾患治療剤として用いられており、その作用機序は、強い血管収縮作用を有するアンジオテンシンIIのアンジオテンシンII受容体への結合を阻害することによると考えられている。
【0003】
アンジオテンシンII受容体拮抗剤の眼内血管性疾患に対する作用としては、アンジオテンシンII受容体拮抗剤が糖尿病の動物モデルにおいて網膜電図の変化を改善し(例えば、Diabetologia,44,883−888,2001参照)、増殖網膜症の動物モデルにおいて網膜の血管新生を抑制することが知られている(例えば、InvestigativeOphthalmology & Visual Science,42,429−432,2001参照)。また、アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物が糖尿病性網膜症の初期及び中期の病態である単純網膜症及び前増殖網膜症の予防又は治療に有効であることが知られている(例えば、特開2001−10975号公報参照)。しかしながら、アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物が糖尿病性網膜症の後期病態である増殖網膜症又は網膜静脈閉塞症などの眼内血管新生性疾患の予防又は治療に有効であることは従来知られていない。なお、眼内血管新生性疾患における血管新生の調節因子としてはvascularendothelial growth factor(VEGF)が重要な役割を果たしていると考えられている(MolecularMedicine,35,1252−1260,1998;Journal of Cellular Physiology,184,301−310,2000)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−10975号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Diabetologia,44,883−888,2001
【非特許文献2】Investigative Ophthalmology & Visual Science,42,429−432,2001
【非特許文献3】Molecular Medicine,35,1252−1260,1998;Journal of Cellular Physiology,184,301−310,2000
【非特許文献4】糖尿病,第42巻,409−410頁(1999年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、網膜虚血性症の予防又は治療に有用な医薬を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、アンジオテンシンII受容体拮抗剤が増殖網膜症や網膜静脈閉塞症などの眼内血管新生性疾患の予防又は治療に高い有効性を有することを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、眼内血管新生性疾患の予防又は治療のための医薬であって、アンジオテンシンII受容体拮抗剤を有効成分として含む医薬を提供するものである。この発明の好ましい態様によれば、眼内血管新生性疾患が増殖網膜症、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、又は加齢性黄斑変性症である上記の医薬が提供される。
【0009】
本発明のさらに好ましい態様によれば、アンジオテンシンII受容体拮抗剤が4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボン酸及び薬理学的に許容されるそのエステル、並びに薬理学的に許容されるそれらの塩からなる群から選ばれる上記の医薬が提供され、特に好ましい態様によれば、アンジオテンシンII受容体拮抗剤が(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボキシレートである上記の医薬が提供される。
【0010】
別の観点からは、本発明により、上記の医薬の製造のためのアンジオテンシンII受容体拮抗剤、好ましくは4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボン酸及び薬理学的に許容されるそのエステル、並びに薬理学的に許容されるそれらの塩からなる群から選ばれるアンジオテンシンII受容体拮抗剤、さらに好ましくは(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボキシレートの使用が提供される。
【0011】
さらに別の観点からは、眼内血管新生性疾患、好ましくは増殖網膜症、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、又は加齢性黄斑変性症の予防又は治療方法であって、アンジオテンシンII受容体拮抗剤、好ましくは4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボン酸及び薬理学的に許容されるそのエステル、並びに薬理学的に許容されるそれらの塩からなる群から選ばれるアンジオテンシンII受容体拮抗剤、さらに好ましくは(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボキシレートの予防又は治療有効量を、ヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法が本発明により提供される。
【発明の効果】
【0012】
アンジオテンシンII受容体拮抗剤を有効成分として含む本発明の医薬は、増殖網膜症、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、又は加齢性黄斑変性症などの眼内血管新生性疾患の予防又は治療に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、アンジオテンシンII受容体拮抗剤とは、アンジオテンシンII受容体へのアンジオテンシンIIの結合を競合的または非競合的に阻害できる物質を意味している。アンジオテンシンII受容体拮抗剤は低分子有機化合物、ペプチド化合物、サッカライド化合物のほか、蛋白質、糖蛋白質、ポリサッカライド化合物などの高分子化合物であってもよい。ある物質がアンジオテンシンII受容体拮抗作用を有するか否かは、例えば米国特許第5,616,599号明細書に記載された方法に従って当業者が容易に確認することができる。本明細書において用いられる「アンジオテンシンII受容体拮抗剤」の用語はいかなる意味においても限定的に解釈してはならず、最も広義に解釈する必要がある。
【0014】
本発明の医薬に好適に使用可能なアンジオテンシンII受容体拮抗剤の一例として、例えば、4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボン酸、薬理学的に許容されるそのエステル、又は薬理学的に許容されるそれらの塩を挙げることができる。4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボン酸は公知であり、例えば、特開平5−78328号公報(米国特許第5,616,599号明細書)等に記載された方法により容易に入手可能である。
【0015】
4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボン酸の薬理学的に許容される塩の種類は特に限定されず、当業者が適宜選択可能であり、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩等の金属塩;又はアンモニウム塩、t−オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン塩、N−メチルグルカミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩、クロロプロカイン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、N−ベンジル−フェネチルアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩のようなアミン塩などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。好適には、アルカリ金属塩を用いることができ、特に好適には、ナトリウム塩を用いることができる。
【0016】
4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボン酸の薬理学的に許容されるエステルは、当該化合物の分子内のカルボン酸部分がエステル化された化合物を意味している。薬理学的に許容されるエステルの種類は特に限定されず、当業者が適宜選択可能である。該エステルは生体内で加水分解のような生物学的方法により開裂し得るものであることが好ましい。該エステルを構成する基(該エステルを−COORで表した場合にRで表される基)としては、例えば、メトキシメチル、1−エトキシエチル、1−メチル−1−メトキシエチル、1−(イソプロポキシ)エチル、2−メトキシエチル、2−エトキシエチル、1,1−ジメチル−1−メトキシメチル、エトキシメチル、プロポキシメチル、イソプロポキシメチル、ブトキシメチル又はt−ブトキシメチルのようなC−CアルコキシC−Cアルキル基;2−メトキシエトキシメチルのようなC−Cアルコキシ化C−CアルコキシC−Cアルキル基;フェノキシメチルのようなC−C10アリールオキシC−Cアルキル基;2,2,2−トリクロロエトキシメチル又はビス(2−クロロエトキシ)メチルのようなハロゲン化C−CアルコキシC−Cアルキル基;メトキシカルボニルメチルのようなC−CアルコキシカルボニルC−Cアルキル基;シアノメチル又は2−シアノエチルのようなシアノC−Cアルキル基;メチルチオメチル又はエチルチオメチルのようなC−Cアルキルチオメチル基;フェニルチオメチル又はナフチルチオメチルのようなC−C10アリールチオメチル基;2−メタンスルホニルエチル又は2−トリフルオロメタンスルホニルエチルのようなハロゲンで置換されてもよいC−CアルキルスルホニルC−C低級アルキル基;2−ベンゼンスルホニルエチル又は2−トルエンスルホニルエチルのようなC−C10アリールスルホニルC−Cアルキル基;ホルミルオキシメチル、アセトキシメチル、プロピオニルオキシメチル、ブチリルオキシメチル、ピバロイルオキシメチル、バレリルオキシメチル、イソバレリルオキシメチル、ヘキサノイルオキシメチル、1−ホルミルオキシエチル、1−アセトキシエチル、1−プロピオニルオキシエチル、1−ブチリルオキシエチル、1−ピバロイルオキシエチル、1−バレリルオキシエチル、1−イソバレリルオキシエチル、1−ヘキサノイルオキシエチル、2−ホルミルオキシエチル、2−アセトキシエチル、2−プロピオニルオキシエチル、2−ブチリルオキシエチル、2−ピバロイルオキシエチル、2−バレリルオキシエチル、2−イソバレリルオキシエチル、2−ヘキサノイルオキシエチル、1−ホルミルオキシプロピル、1−アセトキシプロピル、1−プロピオニルオキシプロピル、1−ブチリルオキシプロピル、1−ピバロイルオキシプロピル、1−バレリルオキシプロピル、1−イソバレリルオキシプロピル、1−ヘキサノイルオキシプロピル、1−アセトキシブチル、1−プロピオニルオキシブチル、1−ブチリルオキシブチル、1−ピバロイルオキシブチル、1−アセトキシペンチル、1−プロピオニルオキシペンチル、1−ブチリルオキシペンチル、1−ピバロイルオキシペンチル又は1−ピバロイルオキシヘキシルのようなC−C脂肪族アシルオキシC−Cアルキル基;シクロペンチルカルボニルオキシメチル、シクロヘキシルカルボニルオキシメチル、1−シクロペンチルカルボニルオキシエチル、1−シクロヘキシルカルボニルオキシエチル、1−シクロペンチルカルボニルオキシプロピル、1−シクロヘキシルカルボニルオキシプロピル、1−シクロペンチルカルボニルオキシブチル又は1−シクロヘキシルカルボニルオキシブチルのようなC−CシクロアルキルカルボニルオキシC−Cアルキル基;ベンゾイルオキシメチルのようなC−C10アリールカルボニルオキシC−Cアルキル基、メトキシカルボニルオキシメチル、1−(メトキシカルボニルオキシ)エチル、1−(メトキシカルボニルオキシ)プロピル、1−(メトキシカルボニルオキシ)ブチル、1−(メトキシカルボニルオキシ)ペンチル、1−(メトキシカルボニルオキシ)ヘキシル、エトキシカルボニルオキシメチル、1−(エトキシカルボニルオキシ)エチル、1−(エトキシカルボニルオキシ)プロピル、1−(エトキシカルボニルオキシ)ブチル、1−(エトキシカルボニルオキシ)ペンチル、1−(エトキシカルボニルオキシ)ヘキシル、プロポキシカルボニルオキシメチル、1−(プロポキシカルボニルオキシ)エチル、1−(プロポキシカルボニルオキシ)プロピル、1−(プロポキシカルボニルオキシ)ブチル、イソプロポキシカルボニルオキシメチル、1−(イソプロポキシカルボニルオキシ)エチル、1−(イソプロポキシカルボニルオキシ)ブチル、ブトキシカルボニルオキシメチル、1−(ブトキシカルボニルオキシ)エチル、1−(ブトキシカルボニルオキシ)プロピル、1−(ブトキシカルボニルオキシ)ブチル、イソブトキシカルボニルオキシメチル、1−(イソブトキシカルボニルオキシ)エチル、1−(イソブトキシカルボニルオキシ)プロピル、1−(イソブトキシカルボニルオキシ)ブチル、t−ブトキシカルボニルオキシメチル、1−(t−ブトキシカルボニルオキシ)エチル、ペンチルオキシカルボニルオキシメチル、1−(ペンチルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(ペンチルオキシカルボニルオキシ)プロピル、ヘキシルオキシカルボニルオキシメチル、1−(ヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル又は1−(ヘキシルオキシカルボニルオキシ)プロピルのようなC−CアルコキシカルボニルオキシC−Cアルキル基;シクロペンチルオキシカルボニルオキシメチル、1−(シクロペンチルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(シクロペンチルオキシカルボニルオキシ)プロピル、1−(シクロペンチルオキシカルボニルオキシ)ブチル、シクロヘキシルオキシカルボニルオキシメチル、1−(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)プロピル又は1−(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)ブチルのようなC−CシクロアルキルオキシカルボニルオキシC−Cアルキル基;(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル、(5−エチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル、(5−プロピル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル、(5−イソプロピル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル又は(5−ブチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチルのような[5−(C−Cアルキル)−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル]メチル基;(5−フェニル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル、[5−(4−メチルフェニル)−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル]メチル、[5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル]メチル、[5−(4−フルオロフェニル)−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル]メチル又は[5−(4−クロロフェニル)−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル]メチルのような[5−(C−Cアルキル、C−Cアルコキシ若しくはハロゲンで置換されてもよいフェニル)−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル]メチル基、或いはフタリジル、ジメチルフタリジル又はジメトキシフタリジルのようなC−Cアルキル若しくはC−Cアルコキシで置換されてもよいフタリジル基などを挙げることができる。好適には、ピバロイルオキシメチル基、フタリジル基、又は(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル基を用いることができ、さらに好適には(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル基を用いることができる。
【0017】
4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボン酸のエステルが薬理学的に許容される塩を形成する場合、薬理学的に許容される塩の種類は当業者に適宜選択可能であり、特に限定されることはない。例えば、弗化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩又は沃化水素酸塩のようなハロゲン化水素酸塩;硝酸塩;過塩素酸塩;硫酸塩;燐酸塩;メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩又はエタンスルホン酸塩のようなハロゲンで置換されてもよいC−Cアルカンスルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩のようなC−Cアルキルで置換されてもよいC−C10アリールスルホン酸塩;酢酸、りんご酸、フマール酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、蓚酸塩又はマレイン酸塩のようなC−C脂肪酸塩;或いはグリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩又はアスパラギン酸塩のようなアミノ酸塩などを挙げることができる。好適には、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、又は燐酸塩を用いることができ、特に好適には、塩酸塩を用いることができる。
【0018】
アンジオテンシンII受容体拮抗剤として、好適には、4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボン酸又は薬理学的に許容されるそのエステルを用いることができ、より好ましくは、4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボン酸の薬理学的に許容されるそのエステルを用いることができ、さらにより好適には、4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボン酸のピバロイルオキシメチルエステル、フタリジルエステル、又は(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチルエステルを用いることができる。最も好ましくは、(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボキシレートを用いることできる。
【0019】
4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボン酸及び薬理学的に許容されるそのエステル、並びに薬理学的に許容されるそれらの塩からなる群から選ばれる物質としては、水和物又は溶媒和物を用いることもできる。
【0020】
4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボン酸の薬理学的に許容されるそのエステルを用いる場合には、該エステル化合物が1又は2以上の不斉炭素を有することがあるが、該不斉炭素に基づく純粋な形態の光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体、あるいは立体異性体の任意の混合物又はラセミ体などを用いることもできる。
【0021】
また、本発明に利用可能なアンジオテンシンII受容体拮抗剤としては、例えば、イミダゾール誘導体(特開昭56−71073号公報、特開昭56−71074号公報、特開昭57−98270号公報、特開昭58−157768号公報、USP4,355,040、USP4,340,598等、EP−253310、EP−291969、EP−324377、EP−403158、WO−9100277、特開昭63−23868号公報、及び特開平1−117876号公報等)、ピロール、ピラゾール、及びトリアゾール誘導体(USP5,183,899、EP−323841、EP−409332、及び特開平1−287071号公報等)、ベンズイミダゾール誘導体(USP4,880,804、EP−0392317、EP−0399732、EP−0400835、EP−425921、EP−459136、特開2001−10975号公報、及び特開平3−63264号公報等)、アザインデン誘導体(EP−399731等)、ピリミドン誘導体(EP−407342等)、キナゾリン誘導体(EP−411766等)、キサンチン誘導体(EP−430300等)、縮合イミダゾール誘導体(EP−434038等)、ピリミジンジオン誘導体(EP−442473等)、チエノピリドン誘導体(EP−443568等)、複素環化合物(EP−445811、EP−483683、EP−518033、EP−520423、EP−588299、EP−603712等)等が挙げられ、好適には、ロサルタン(Losartan)、エプロサルタン(Eprosartan)、カンデサルタン・シレキセチル(Candesartancilexetil)、バルサルタン(Valsartan)、テルミサルタン(Telmisartan)、イルベサルタン(Irbesartan)、タソサルタン(Tasosartan)又はこれらの代謝活性物質等が挙げられる。また、これらの化合物の生理学的に許容される塩や遊離形態又は塩の形態の化合物の水和物又は溶媒和物、あるいはプロドラッグなどの誘導体を用いることもできる。
【0022】
本発明の医薬は眼内血管新生性疾患の予防又は治療に用いることができる。本明細書において「予防又は治療」の用語には、疾患の改善又は治癒のほか、疾患の進行の抑制、発症の阻止、及び再発の予防などが包含される。「予防又は治療」の用語をいかなる意味においても限定的に解釈してはならず、この用語をもっとも広義に解釈する必要がある。
眼内血管新生性疾患は眼内における血管新生を主な病態とする疾患であり、例えば、増殖網膜症、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、又は加齢性黄斑変性症などを含む。増殖網膜症は糖尿病性網膜症の一病態であり、初期の病態である単純網膜症、中期の病態である前増殖網膜症に引き続いておきる病態として定義されており[糖尿病,第42巻,409−410頁(1999年)]、熟練した医師によれば明確に分類可能な病態である。なお、「増殖網膜症」の用語は、一般的には、網膜内で新生血管が派生して網膜剥離に至る一連の病態をすべて含む。
【0023】
上記のアンジオテンシンII受容体拮抗剤は、一般的には経口的に投与される薬剤であるところから、本発明の医薬は経口的に投与することが望ましい。もっとも、本発明の医薬の投与形態は経口投与に限定されることはなく、例えば静脈内投与、直腸内投与、経皮投与、経粘膜投与などの非経口的に投与することもできる。経口投与に適する単位投与形態としては、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。単位投与形態の調製にあたっては、1又は2種以上の製剤用添加物を用いることができる。
【0024】
製剤用添加物としては、例えば、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、葡萄糖、マンニトール若しくはソルビトールのような糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α澱粉若しくはデキストリンのような澱粉誘導体;結晶セルロースのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;又はプルランのような有機系賦形剤;或いは、軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、若しくはメタ珪酸アルミン酸マグネシウムのような珪酸塩誘導体;燐酸水素カルシウムのような燐酸塩;炭酸カルシウムのような炭酸塩;硫酸カルシウムのような硫酸塩等の無機系賦形剤を挙げることができる)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム若しくはステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;タルク;ビーズワックス若しくはゲイ蝋のようなワックス類;硼酸;アジピン酸;硫酸ナトリウムのような硫酸塩;グリコール;フマル酸;安息香酸ナトリウム;DLロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム若しくはラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;又は無水珪酸若しくは珪酸水和物のような珪酸類;或いは、上記澱粉誘導体を挙げることができる)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、又は前記賦形剤と同様の化合物を挙げることができる)、崩壊剤(例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム若しくは内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム若しくは架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾された澱粉・セルロース類;又は上記澱粉誘導体を挙げることができる)、乳化剤(例えば、ベントナイト若しくはビーガムのようなコロイド性粘土;水酸化マグネシウム若しくは水酸化アルミニウムのような金属水酸化物;ラウリル硫酸ナトリウム若しくはステアリン酸カルシウムのような陰イオン界面活性剤;塩化ベンザルコニウムのような陽イオン界面活性剤;又は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル若しくはショ糖脂肪酸エステルのような非イオン界面活性剤を挙げることができる)、安定剤(例えば、メチルパラベン若しくはプロピルパラベンのようなパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール若しくはフェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール若しくはクレゾールのようなフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;又は、ソルビン酸を挙げることができる)、矯味矯臭剤(例えば、通常使用される、甘味料、酸味料又は香料等を挙げることができる)、又は希釈剤などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0025】
本発明の医薬の投与量は、投与経路、有効成分の種類、患者の年齢、体重、若しくは症状、予防若しくは治療の目的など、種々の要因に応じて適宜選択することができるが、一般的には、成人一日あたりアンジオテンシンII受容体拮抗剤の重量として約0.001〜1,000mg、好ましくは0.1〜500mg程度の範囲で投与することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例及び製剤例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例により限定されることはない。
例1
生後7日齢のC57BL/6マウスを母マウスと共に約75%の酸素下で5日間飼育した。その後、大気下に戻し、さらに5日間飼育した。大気下の飼育中、被験物質を1日1回投与した。投与終了後、頚椎脱臼により動物を安楽死させ、眼球を摘出した。眼球は中性ホルマリン中で固定した。網膜の平面標本を作製後、ADPase染色法により(Luttyら、ArchOphthalmol 1992;100:267)血管内皮の染色を行なった。染色後、盲検下にて網膜症スコアリングを行ない、視神経乳頭部を中心として網膜全周を12等分したときの12の各網膜切片について、網膜症の判定を行なった。判定は網膜症あり(スコア1)ないし網膜症なし(スコア0)の2つとし、全12切片のスコア合計をもってその標本の網膜症スコアとした。溶媒投与のスコアを100%として各被験物質のスコアの百分率を算出した。本発明の医薬として(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボキシレート(以下、「化合物A」と表示する)、カンデサルタン・シレキセチル及びロサルタンを用いた。
【0027】
(表1)

【0028】
例2
雄性ニュージーランドホワイト種ウサギを使用した。動物用ケタラール登録商標50とセラクタール登録商標を適量投与し動物を麻酔した。さらに、ベノキシール登録商標0.4%液を両眼に点眼することにより眼局所麻酔を行った。基本的にZicheらの方法(J.Clin.Invest.199799:2625−2634)に従い、かみそりを用いて角膜中央部にポケットを作製し、事前に作製したVEGFを含むhydronペレットをポケットに挿入した。被験物質溶液の投与は、1日1回、1週間行った。被験物質最終投与日の翌日、角膜の新生血管を撮影した。血管新生の評価は、血管新生の密度と長さで評価を行った。すなわち、血管新生密度は各スコアに対応する標準写真を参考に0〜5までスコアリングを行った。新生血管の長さは、角膜輪部からペレットに向かって一様に伸びた血管の長さ(mm)を写真上のスケールバーを基に算出した。そして、血管新生密度のスコアに新生血管の長さ(mm)を乗じた値をAngiogenicActivity(AA)として表示した。
【0029】
(表2)

【0030】
製剤例1:カプセル剤
化合物A 20.0mg
乳糖 158.7mg
トウモロコシデンプン 70.0mg
ステアリン酸マグネシウム 1.3mg
合計 250mg

上記処方の粉末を混合し、60メッシュのふるいを通した後、この粉末を250mgの3号ゼラチンカプセルに入れ、カプセル剤とする。
【0031】
製剤例2:錠剤
化合物A 20.0mg
乳糖 154.0mg
トウモロコシデンプン 25.0mg
ステアリン酸マグネシウム 1.0mg
合計 200mg

上記処方の粉末を混合し、打錠機により打錠して、1錠200mgの錠剤とする。この錠剤は必要に応じて糖衣を施すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
アンジオテンシンII受容体拮抗剤を有効成分として含む本発明の医薬は、増殖網膜症、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、又は加齢性黄斑変性症などの眼内血管新生性疾患の予防又は治療に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼内血管新生性疾患の予防又は治療のための医薬であって、4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボン酸及び薬理学的に許容されるそのエステル、並びに薬理学的に許容されるそれらの塩からなる群から選ばれるアンジオテンシンII受容体拮抗剤を有効成分として含む医薬。
【請求項2】
眼内血管新生性疾患が増殖網膜症、網膜静脈閉塞症又は加齢性黄斑変性症である請求の範囲第1項に記載の医薬。


【公開番号】特開2010−143933(P2010−143933A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3247(P2010−3247)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【分割の表示】特願2005−505338(P2005−505338)の分割
【原出願日】平成16年2月18日(2004.2.18)
【出願人】(307010166)第一三共株式会社 (196)
【Fターム(参考)】