説明

眼球の結膜強膜撮像装置

【課題】眼球の固視微動等の運動を補償して結膜及び/又は強膜の血管、血流及び/又は血球を撮像可能な結膜強膜撮像装置を提供する。
【解決手段】眼球の結膜強膜撮像装置は、被測定者が注視するための視標10と、撮像装置3と光源4と調節機構5と画像処理部6と固視微動補償部7とモニタ8とからなる。撮像装置は、眼球の結膜及び/又は強膜の血管、血流及び/又は血球を解析可能な解像度であり固視微動の影響を補償可能なように、撮像エリアを分解能2μm以下で200フレーム/秒以上で撮像可能に構成される。画像処理部は、眼球の結膜及び/又は強膜の血管模様を認識及び追跡可能なように撮像手段により撮像される画像を画像処理する。固視微動補償部は、画像処理手段により画像処理される画像の振動を止めるように画像を処理する。モニタは、これらの各画像を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼球の結膜及び/又は強膜を撮像する結膜強膜撮像装置に関し、特に、眼球の固視微動等の運動を補償して結膜及び/又は強膜の血管、血流及び/又は血球を撮像可能な結膜強膜撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の毛細血管や血流、血球の測定を行う手法として、指の爪下の血管を観察して血流等を測定するもの、又は眼底の網膜を観察してドップラ法により血流速度を測定するもの等が知られている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−276986
【特許文献2】特開2000−83916
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、爪下の血管と血流の計測装置では、十分な解像度を得られないため、血球を確認することまではできなかった。また、眼底網膜の観察では、視覚細胞が敏感且つ損傷しやすいので、強い光を発する光源を用いることができないため、十分な解像度での高速撮像は難しかった。また、これらの手法では、血流の速度を計測するのにドップラ法を用いており、撮像される画像から血流速度を求めることはできなかった。ドップラ法では、測定部位の血管が細いので血管1本ずつの血流の計測はできず、また血管と血流速度との位置の同定をすることが難しかった。このため測定精度は高いものではなかった。
【0005】
結膜及び/又は強膜に存在する血管は最も体表に近く、被膜である結膜は透明性が高いため、生体の血液や血管状態を無侵襲で計測するのには最も理想的な場所である。しかしながら、眼球には視標を固視している間にも常に高周波数(最高90Hz)で振動する固視微動が存在するため、毛細血管や血球を撮像しようとしても激しくぶれてしまうこと等により、撮像することはできなかった。
【0006】
本発明は、斯かる実情に鑑み、眼球の固視微動等の運動を補償して結膜及び/又は強膜の血管、血流及び/又は血球を撮像可能な結膜強膜撮像装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による眼球の結膜強膜撮像装置は、被測定者が注視するための視標と、眼球の結膜及び/又は強膜の血管、血流及び/又は血球を解析可能な解像度であり固視微動の影響を補償可能なように、撮像エリアを分解能2μm以下で200フレーム/秒以上で撮像可能な撮像手段と、撮像手段の撮像エリアを照明する光源と、撮像手段の撮像エリアの位置を調節する調節手段と、眼球の結膜及び/又は強膜の血管模様を認識及び追跡可能なように撮像手段により撮像される画像を画像処理する画像処理手段と、画像処理手段により画像処理される画像の振動を止める固視微動補償手段と、撮像手段により撮像される画像又は画像処理手段により画像処理される画像又は固視微動補償手段により補償される画像を表示する表示手段と、を具備するものである。
【0008】
ここで、撮像手段の撮像エリアは、少なくとも100μm〜2000μm四方であれば良い。
【0009】
また、調節手段は、固視微動補償手段による信号を用いて固視微動に追従するように撮像エリアの位置を調節するようにしても良い。
【0010】
さらに、撮像手段の視線位置に連動する高解像度撮像装置を有するようにしても良い。
【0011】
またさらに、高解像度撮像装置を有し、調節手段は、固視微動補償手段による信号を用いて固視微動に追従するように高解像度撮像装置の撮像位置を調節するようにしても良い。
【0012】
さらにまた、視標と眼球との間に配置されるレンズ手段を有しても良い。
【0013】
また、眼球の結膜及び/又は強膜の各部位を順次撮像可能なように視標を順次移動させ、画像処理手段は順次撮像される画像をつなぎ合わせても良い。
【0014】
また、固視微動補償手段は、撮像される画像のうちの1フレームから血管模様のパターンを抽出し、続くフレームにおいて対応するパターンを検索することにより、血管模様のパターンの移動量を検出し、各画像の血管模様を同じ位置に配置するようにしても良い。
【0015】
さらにまた、撮像手段は、結膜血管か強膜血管かを区別して撮像するために焦点深度を用いるようにしても良い。
【0016】
さらに、画像処理手段は、血管内の血球を追跡可能なように撮像手段により撮像される画像を画像処理するようにしても良い。
【0017】
ここで、光源は特定の波長分布の光を照明し、表示手段は血管又は血液の反射率又は透過率を用いて血管又は血液の組織を判別可能な画像を表示するようにしても良い。
【0018】
また、光源は特定の波長の光を照明し、結膜強膜撮像装置は、さらに、眼球からの反射光を分析する分光手段を具備するように構成しても良い。
【0019】
また、光源はレーザ光源からなるものであっても良い。
【0020】
さらに、眼球からの反射光の波長、位相及び/又は強度を検出するレーザ分析センサを有するようにしても良い。
【0021】
また、光源は、眼球に対する光源の入射角と撮像手段の視線の角度が光源の入射位置の眼球の法線に対して対称となるように配置されるようにしても良い。
【0022】
また、光源は点光源又は線光源からなり撮像エリアを走査し、画像処理手段は、撮像手段により順次撮像される各画像から強膜反射光による画像を抽出し、これを合成して強膜反射光画像を生成するようにしても良い。
【0023】
さらに、眼球に薬品を提供するためのノズルを有するようにしても良い。
【発明の効果】
【0024】
本発明の眼球の結膜強膜撮像装置には、無侵襲で結膜及び/又は強膜の血管、血流及び/又は血球を撮像可能であるという利点がある。これにより無侵襲で血液検査等が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明の結膜強膜撮像装置の第1実施例を説明するための側面概略図である。図1に示されるように、本発明の結膜強膜撮像装置は、被測定者が注視するための視標10と、カメラ1とレンズ2からなる撮像装置3、光源4、調節機構5、画像処理部6、固視微動補償部7及びモニタ8から主に構成されている。
【0026】
カメラ1は、高速撮影可能なカメラであり、好ましくは高速撮影可能なデジタルカメラである。また、レンズ2は高倍率なレンズである。そして、撮像装置3は、眼球の結膜及び/又は強膜の血管、血流及び/又は血球を解析可能な解像度であり、固視微動の影響を補償可能なように構成されている。撮像エリアや分解能、フレーム速度等が適宜設定される。具体的には、少なくとも100μm〜2000μm四方の撮像エリアを分解能2μm以下で200フレーム/秒以上で撮像可能となるように、カメラ1とレンズ2が選択される。このような条件で撮像エリアを高速撮像することで、フリック(flick)やドリフト(drift)の運動範囲以上となる撮像エリアを高解像度で測定するのに十分な空間分解能を有することとなる。より具体的には、カメラ1は、例えば株式会社フォトロンのFASTCAM(登録商標)を用いることが可能である。例えば1000フレーム/秒で撮像可能な100万画素のFASTCAM(登録商標)を用いた場合、画素サイズは7μmである。また、レンズ2は高倍率レンズ単体でも良いが、必要により眼球全体を撮像可能な画角を有するような広角レンズを別途設けても良いし、ズームレンズとしても良い。なお、撮影の前提としては、撮像装置3は眼球の中心に向いていることが好ましい。すなわち、理論的にはカメラの光軸(視軸)は撮像エリアの中心点の法線と重なるときが最も好ましく、ずれるほどピントが合わなくなる領域が出てきてしまう。高倍率レンズの被写界深度は非常に浅いため、カメラの視線が撮像エリア中心の眼球の法線とずれてしまうと、眼球表面からカメラの結像面までの距離が離れてしまい被写界深度内に納まらずにぼけてしまうためである。したがって、これを避ける意味でも、眼球へ入射する前記撮像手段の視線と撮像エリア中心点の眼球の法線とのなす角が約3°以内程度であることが好ましい。
【0027】
光源4は、眼球の撮像エリアを照明可能に構成されるものである。具体的には、ハロゲンランプと光ファイバとレンズ等から構成されるものであり、撮像エリア全体を照らすように、例えば半径約3mm程度の光を照射可能なものであれば良い。なお、波長が一定な分布を有する光で照射できるように構成しておけば、血管や血液の反射率又は透過率を用いて、血管や血液の組織を判別又は計測可能な画像を表示することも可能である。さらに、眼球からの反射光の分析に分光計を用いることで、血液等の成分や組織の構成を分析することが可能となる。
【0028】
調節機構5は、撮像装置3と光源4の光軸の交点に、眼球の結膜及び/又は強膜の撮像エリアの中心が配置されるように、撮像エリアの位置を調整するものである。これは、最低前後左右の2自由度を有する調節台であれば足りるが、上下前後左右の3自由度を有する調節台であることが好ましい。また、必要により、より高度な調整が可能なように、6自由度有するように調節機構を構成しても良い。なお、調節機構は物理的なものではなく、ソフトウェア的に調節するものであっても良い。すなわち、広い撮像エリア内から所望の枠内を選択し、この枠の位置をソフトウェア的に調節するようなものであっても良い。また、固視微動を補償するためには、頭部自体の動きを止めなければならないため、必要により被測定者の頭部を固定する固定具を用いても良い。具体的な固定具としては、歯で噛み締める棒状の部材や額の部分を押し付ける板状の部材等を組み合わせたものが挙げられる。固定具により頭部をしっかり固定することで、頭部の回転を無くすることが可能となり、眼球運動の補償範囲(移動量)を小さくすることが可能となる。
【0029】
また、調節機構はアクチュエータ等を用いて撮像装置の位置を自由に自動的に設定するように構成することも可能である。なお、眼角等も同時に撮像しておき、この位置を基準に、頭部の動きを補償することも可能である。
【0030】
画像処理部6は、パーソナルコンピュータ等の電子計算機から構成されるものであり、種々の画像処理を行うものである。すなわち、画像処理部6は、眼球の結膜や強膜の血管模様を認識して追跡できるように、撮像装置3により撮像された画像を画像処理する。具体的には、画像処理部6は、撮像された画像に対して前処理としてノイズ除去処理をまず行う。通常の高速度カメラの撮影では、露光時間が非常に短くなるため適正露出とするためには十分な光量での照明が必要になる。しかしながら、眼球に対しては強い光を当てて撮像することが困難であるため、弱い光量での撮像となるので、高感度ノイズ等のランダムノイズが画像に乗ってしまう。したがって、このようなノイズを除去するために、ノイズ除去処理、例えばメディアンフィルタ処理を行う。また、レンズ2の特性等により、撮像された画像に、ケラレやビネッティングと呼ばれる周辺光量の低下が現れる場合等もある。また、眼球を照らす光源4の照射斑による明度の偏りが起こる場合もある。したがって、このような偏りを補正するように、必要によりビネッティング補正や照射斑補正を行っても良い。なお、このような補正は、例えば眼球を撮像した画像に対して、事前に白紙を撮影した画像で除算することで可能となる。
【0031】
また、画像処理部6では、必要により瞬きの瞬間の画像は利用しないようにすることも可能である。具体的には、順次撮像される画像が前後で大きく異なる場合には、その間の画像は省くように処理しても良い。さらに、必要により睫や瞼等の影響、影の影響等を画像から除去する処理を行っても良い。
【0032】
また、視標10を移動させて眼球を故意に回転運動させ、結膜及び/又は強膜の各部位を順次撮像するようにし、これらの画像を画像処理部6でつなぎ合わせて大きなエリアの画像を生成するようにしても良い。
【0033】
このようにして画像処理部6にて所定の処理が加えられた画像に対して、次に、固視微動補償部7で眼球の固視微動を補償する。すなわち、固視微動の振動を止めた画像を生成し、結膜及び/又は強膜の血管等を静止した状態で観察できるようにする。固視微動補償部7は、パーソナルコンピュータ等の電子計算機から構成されれば良く、また、画像処理部の電子計算機と共通のものであっても構わない。
【0034】
まず、固視微動補償部7では、順次撮像される画像に対して、連続する2つのフレーム間でのマッチングを行う。すなわち、先のフレームの中から所定のパターンを選択し、後のフレームからこれと同じパターンを抽出する。所定のパターンとしては、眼球の結膜及び/又は強膜の血管模様を用いることが可能である。本発明の結膜強膜撮像装置では、眼球の固視微動の影響を補償可能な条件で撮像しているため、結膜及び/又は強膜の血管模様まで撮像可能である。したがって、例えば血管が綿密に分布している部位等をマッチングを行うときの所定のパターンとすれば良い。この所定のパターンを囲う領域を探索窓として取り出し、続くフレームとのマッチングを行う。
【0035】
ここで、マッチングについて説明する。マッチング法は、パターン認識において理想的なパターンと観測されたパターンとを重ね合わせることにより、観測されたパターンが何であるか判断する手法として良く知られている。本発明では、連続する2つのフレーム間におけるマッチングを行い、同一パターンの移動量をピクセル単位で補償する。ここで、マッチング法には、主にテンプレートマッチング法と構造マッチング法が存在する。テンプレートマッチング法では、パターンをそのまま次のフレームに重ね合わせ、各要素(各画素)を比較することで類似度を決定している。構造マッチング法では、先のフレーム(基準フレーム)と次のフレーム(注目フレーム)のパターンから特徴点を抽出し、その各特徴点の位置関係を比較することで類似度を決定している。本発明の結膜強膜撮像装置では、何れのマッチング法を用いても良いが、撮像される画像に輪郭等が少なく明確な特徴量の抽出が難しい場合には、テンプレートマッチング法を採用するのが好ましい。テンプレートマッチング法としては、相関係数を用いる方法、SSDA(Sequential Similarity Detection Algorism)法、最小2乗マッチング法等が知られている。眼球は略平行・回転運動しかなく、また、実際に試した結果から、この中でもSSDA法が最も好ましい。
【0036】

が与えられたとする。すなわち、探索画像が例えば注目フレームであり、参照画像が基準フレーム内の選択された一部領域とする。このとき、注目フレーム内の探索窓と基準フレ

【数1】


【数2】

上式で与えられる探索窓の位置が、参照画像と最も類似していることになる。すなわち、

【0037】
なお、SSDA法によるマッチング法では、参照画像が注目フレーム内で平行移動した場合のみ検出が可能であり、注目フレーム内の領域が幾何学変形した場合には対応できず、眼球の回転運動については基本的に2自由度しか算出することができない。これでも問題はないが、SSDA法に替わって最小2乗マッチング法を用いれば、眼球の3自由度回転も算出可能となり、幾何学変形にも対応可能となる。
【0038】
このようにして、連続する各画像の中の探索窓の対応位置を検出し、血管模様のパターンの移動量を検出して探索窓の位置が重なるように各画像の位置を移動させる。こうすることで、眼球の固視微動が補償され、血管模様は静止したように見える。この固視微動が補償された連続画像を用いて、眼球の結膜及び/又は強膜の血管等について種々の解析を行うことが可能となる。
【0039】
そして、モニタ8は、このようにして補償された画像を表示するものである。なお、モニタ8は必要によりカメラ1や画像処理部6に接続され、撮像される画像や画像処理される画像の目視によるチェックにも用いることが可能である。
【0040】
以下、上述のように構成された結膜強膜撮像装置を用いて、眼球の撮影を行う手法を具体的に説明する。撮影の前提としては、撮像装置3は眼球の中心に向いていることが好ましいので、この条件に合致するように調節機構5により撮像エリアを調節する。また、撮像装置3の位置を調節するために、撮像装置3からの画像をモニタ8にリアルタイムで表示しても良い。なお、リアルタイム表示は高速レートではなく、通常のレート(30フレーム/秒)で表示すれば良い。
【0041】
本発明の結膜強膜撮像装置に用いられるカメラ1は、1000フレーム/秒で撮像可能であり画素サイズは7μmである。そして、レンズ2の拡大率は5倍〜60倍である。撮像装置3により撮像された画像は、パーソナルコンピュータ等の電子計算機に随時取り込まれる。なお、必要により撮像装置3に記憶装置を設けて一旦これに記憶し、撮像後にその画像を電子計算機に取り込むようにしても良い。
【0042】
被測定者は頭部を固定するために前頭部固定具に額を押し付け、棒状固定具を歯で噛み締める。そして、眼球の回転を抑制するために、被測定者が注視するための視標10を提示する。そして、高倍率高速度カメラである撮像装置3をまず通常のフレームレート(例えば30フレーム/秒以下)に設定し、光源4の照度を下げて眼球の強膜及び/又は結膜に光を照射する。必要により広角レンズで眼球を撮像し、その画像をモニタ8に表示してこれを確認しながら撮像装置3の位置を調節機構5で調節する。そして、高倍率レンズに切り替えた画像を確認しながら焦点位置を調節する。なお、焦点深度を用いることで、結膜血管か強膜血管かを区別して撮像することも可能である。すなわち、被写界深度が非常に浅いため、結膜血管にピントを合わせるか強膜血管にピントを合わせるかを、焦点位置を調節することで選択することが可能である。次に、高速度での撮像でも良好な画像を得られるように、光源の照度を上げる。但し、光源の照度は眼球に損傷を与えない程度とする。この状態で高速度撮像を開始し、パーソナルコンピュータに撮像した画像を順次取り込む。
【0043】
次に、画像処理部6では、取り込んだ画像の中から所定の1フレームを取り出しこれを基準フレームとする。そしてこの画像に対して、前処理としてノイズ除去処理やビネッティング補正、照射斑補正を行う。固視微動補償部7では、前処理が終わった画像に対して、特徴点抽出を行う。特徴点抽出は、眼球の結膜及び/又は強膜の血管が綿密に分布している部位を切り出し、この部位を囲う領域を参照画像として抽出される。
【0044】
次に、続くフレームの画像に対しても上記の前処理を行い、SSDA法によるマッチングを行う。これにより、各画像内において基準フレームの参照画像に対応する探索窓の位置を検出する。そして、対応する探索窓の位置が重なるように各画像の位置を移動させ、眼球の移動を補償した画像を生成する。このように生成された画像の一例を図2に示す。
【0045】
上記のようにして生成された結膜及び/又は強膜の血管の画像は、眼球の固視微動が補償された非常に鮮明な画像であるため、これらの画像を用いれば血管や血流、血球等の種々の解析が可能となる。例えば、画像内から血管を指定し、その血管の直径を測定したり、血管壁の厚さを測定したりすることが可能である。測定結果はモニタ8に表示することも勿論可能である。また、赤血球の1粒1粒までも解像可能であるため、各フレーム間での移動量も算出可能であり、これから赤血球を追跡でき移動速度も検出可能である。また、毛細血管の赤血球の数を数え、その血管の流量から赤血球の単位血液体積の量を求めることも可能である。赤血球は1粒ずつ認識可能であるため、分光画像により酸素飽和率を計測することも可能である。また、白血球も検出できることから、白血球と赤血球の球数比を求めることも可能である。さらにまた、血小板も認識可能である。また、血漿部分も撮像できるため、血漿の成分を分析することも可能である。
【0046】
そして、必要により眼球に薬品を提供するためにノズルを用意し、眼球表面に薬品を噴射した前後での血液等の変化を観察することも可能である。また、必要により蛍光物質又は染色物質を静脈注射により血管内に導入し、血液や血管をより鮮明に撮像できるようにしても良い。
【0047】
さらに、焦点深度を用いて深さ方向の情報を得ることも可能であるため、これらを合成することで結膜及び/又は強膜の3次元画像を生成することも可能である。
【0048】
ここで、上述の図示例では、撮像対象である眼球に直接撮像装置を向けるものを示していたが、本発明はこれに限定されず、以下に説明するように、撮像装置の位置を任意の場所に設置して、間接的に眼球を撮像するように構成しても良い。すなわち、撮像装置と眼球との間にミラーを配置し、ミラーにより撮像装置の視線を屈折させて、撮像装置を例えば眼球の視線を遮らない位置に設置するように構成することが可能となる。直接撮像装置を眼球に向ける場合には、撮像装置自体の大きさ等のために、眼球の視線を遮ったり視野を狭めたりする場合がある。しかしながら、上述のようにミラーを間に設置することにより、撮像装置自体による視野の遮りという問題を回避することが可能となる。
【0049】
また、ミラーの代わりに、例えば光ファイバを眼球と撮像装置との間に配置して任意の位置から撮像装置の視線を眼球まで導くように構成しても良い。光ファイバを用いた場合には、撮像装置から眼球までの距離も調整可能である。ミラーの場合、撮像装置の設置位置は眼球の位置とレンズの焦点距離によって決まるため、ミラーを間に設置したとしても眼球から撮像装置までのトータルの距離はミラーを設けない場合と同じである。しかしながら、光ファイバの場合には、トータルの距離も任意に設定可能であるため、撮像装置を任意のところに設置することが可能となる。
【0050】
また、視標の置かれた位置までの距離と眼球が感じる距離とを変化させるために、視標と眼球との間にレンズを配置するようにしても良い。さらに、両眼に異なる視標を見せるように、視標と眼球との間にレンズを配置するようにしても良い。結膜強膜撮像装置を小さくしたい場合には、視標を遠くに置くことができない。視標が眼球から数センチ先に置かれた場合には、視標が近すぎて被測定者は非常に疲れることになる。このような場合に視標と眼球との間にレンズを配置することで、近距離の視標も楽に注視することが可能となる。また、遠くの視標を見るような錯覚を与えるために両眼に2つの視標をそれぞれ見せる場合に、眼球の水晶体の焦点距離の矛盾を無くすためにレンズを用いても良い。このように構成することで、視標の位置を任意に調整し、眼球を任意の方向に向かせることが可能となる。
【0051】
さらに、固視微動補償部7では、眼球の移動量を測定可能であるため、この情報を利用して調節機構5により撮像エリアの位置をコントロールして、眼球運動に追従するように調節することも可能である。例えば、圧電素子や超磁歪素子等を用いた調節機構5により、レンズ2やカメラ1の撮像素子の位置を眼球の移動に合わせて移動させることが可能となる。これにより撮像エリアも小さい範囲で固視微動に追従可能となるため、眼球運動に追従させない場合の最小撮像エリアである100μmよりも小さい撮像エリアとすることが可能となる。また、眼球運動追従用に低解像度の高速度撮像装置とこの撮像装置と視線位置が連動する通常速度の高解像度撮像装置とを併用すれば、高速度撮像装置を用いて固視微動に追従させつつ、高解像度撮像装置により高解像度で彩度やコントラストも高い良好な画像を得ることも可能となる。また、高速度撮像装置と高解像度撮像装置は連動させず、固視微動補償部からの信号を用いて固視微動に追従するように高解像度撮像装置の撮像位置を調節機構により調節するように構成しても良い。
【0052】
次に、本発明の結膜強膜撮像装置の第2実施例について説明する。図3は、本発明の結膜強膜撮像装置の第2実施例を説明するための側面概略図である。また、図4は、第2実施例の上面概略図である。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表わしているため、重複説明は省略する。図3に示されるように、本発明の結膜強膜撮像装置は、第1実施例と同様、被測定者が注視するための視標10と、カメラ1とレンズ2からなる撮像装置3、光源4’、調節機構5、画像処理部6、固視微動補償部7及びモニタ8から主に構成されている。
【0053】
第2実施例が第1実施例と異なる部分は、光源4’がレーザ光源からなるところである。レーザ光源は、点光源又は線光源であり、照射パターンが点又は線になるもので、撮像部位を走査可能に構成されている。線光源の場合には、その照射パターンの長さは撮像エリアを越える長さが好ましい。また、点光源や線光源の照射パターンの幅は狭い方が好ましいが、撮像装置の撮像素子に受光される幅が2画素分以上となる程度の幅であることが好ましい。さらに、光源4’は、図4に示されるように、眼球に対する光源の入射角と撮像装置3の視線の角度が、光源の入射位置の眼球の法線に対して対称となるように配置されている。すなわち、眼球の法線に対して、鏡面反射を用いて光源からの入射光の入射角に等しい角度から撮像装置で撮像するように構成されている。
【0054】
図5を用いて鏡面反射を用いた撮像原理について説明する。図5は、眼球と光源と撮像装置との関係を説明するための図である。撮像装置3を眼球の法線に対して反対側に置き、撮像装置3の視線の角度が光源4’の入射角と同じになるように構成する。こうすると鏡面反射の原理により、最も強い反射光を撮像することが可能となる。一例としては、撮像装置3と光源4’を、撮像装置の視線とレーザ光源の光軸(線光源の場合には照射パターンの中心)が同じ水平面上にあるように高さを揃えて置かれ、且つ鏡面反射を撮像可能なように対称に置かれる。そして、撮像装置3の視野が眼球の中心に向くように調整される。このように構成し、例えば光源4’に線光源のレーザ光源を用いた場合、これを眼球の結膜及び/又は強膜表面に照射すると、線の光の像が現れる。
【0055】
図6を用いて、結膜と強膜と血管との関係、及び撮像される画像について説明する。図示の通り、レーザ光線が結膜表面と強膜表面でそれぞれ反射し、2本の線が撮像される。ここで、結膜血管が存在する場合には、血管でもレーザ光線は反射することになる。すなわち、レーザ光線の一部は血管表面でも反射し、他の一部は血管に吸収された後、透過して強膜表面で反射する。血管は円柱状であるため、その反射光の極一部は鏡面反射光として撮像されるが、大半は散乱光として撮像されるため、鏡面反射ではない部分の反射光は弱いものとなる。そして、強膜表面の反射光は、血管がない部分では鏡面反射光に変化は見られないが、血管を透過した光は一部が血管に吸収されているため、その反射光は弱まる。図6に示した画像にあるように、画像内の2本の直線のうち左側の線は結膜表面における反射光であり、右側の直線は強膜表面における反射光であり、それらの間にある線は血管表面における反射光である。結膜表面の反射光は均一な明るさで撮像されているが、強膜表面の反射光は血管を透過した部分の反射光が弱まっているため一部が暗くなっている。また、血管表面の反射光は血管が円柱状であるため弱い反射光となっている。このように、血管の有無で強膜表面の反射光が変わるため、撮像エリアをレーザ光線で走査しながら高速撮像して固視微動を補償した画像を合成することで、血管や血球の状態を表示することが可能となる。なお、レーザ光線による撮像エリア全体の走査速度が、例えば10ms以下であれば、固視微動を補償することが可能となる。レーザ光線を複数本用いて同時に走査すれば(インタレース走査等)、走査速度をより早くすることが可能である。さらに、レーザ光線以外に第1実施例のようなハロゲンランプ等の光源も同時に用いて、これにより撮像された画像を用いて第1実施例と同様に固視微動の補償を行っても良い。
【0056】
図7を用いて、撮像エリアをレーザ光線で走査しながら高速撮像して固視微動を補償した画像を合成する原理を説明する。図7(a)〜図7(d)の順番で撮像エリアを図面上右から左に走査したとする。このとき撮像される画像は、それぞれ図7(a’)〜図7(d’)で示され、各反射画像をそれぞれ合成したものが図7(e)に示されている。図7(e)から分かるように、結膜の反射光は基本的に一様なものであるため、合成すると均一な明るさで撮像されている。また、血管の反射光は散乱光がほとんどのため、合成した画像は暗く不安定な状態で撮像されている。そして、強膜の反射光については、同一の血管に対して、血管を透過してから強膜に入射して反射した光と、強膜に入射して反射した光が血管を透過した光が存在する。このため、血管の反射光画像と透過光画像の2つが強膜の反射光の画像から得られることになる。すなわち、撮像エリアを光源で走査し、撮像装置で順次撮像された各画像から強膜反射光による画像を抽出し、これを合成して強膜反射光画像を生成すれば、反射光と透過光による血管の画像が得られることになる。なお、画像処理により反射光と透過光による血管の画像のどちらかのみを取り出しても良い。ここで、血管と強膜の距離及びレーザ光の入射角の位置関係によっては、同一の血管の反射光画像と透過光画像が重なってしまう場合もある。この場合には、画像の濃淡値等を用いた画像処理により両者を区別することも可能であるが、他の血管の部位を測定に用いることも勿論可能である。
【0057】
このようにして得られた血管画像を用いて、第1実施例と同様に血管や血流、血球等の種々の解析が可能となる。なお、上述の例では線光源を用いたものを説明したが、点光源の場合でも撮像エリア全体を走査可能に構成されていれば良い。また、線光源についても、結膜反射光と強膜反射光による2本の画像を越える距離で複数の線光源を用いて走査すれば、1フレームで複数の照射位置が撮像できるので、効率良く撮像することも可能である。
【0058】
なお、レーザ光源で眼球を照射し、眼球からの反射光の波長や位相、強度等を検出するレーザ分析センサをさらに設けることで、各組織等の分析を行うことも可能である。すなわち、例えば複数の波長の光を一様な強度で発することが可能な光源を用いて眼球を照射し、分光計を用いて反射光を計測することで、各波長に対応する反射強度から種々の分析が可能となる。
【0059】
なお、本発明の眼球の結膜強膜撮像装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、本発明の結膜強膜撮像装置を、眼底網膜を撮像して各種計測に用いる眼底網膜撮像装置に適用したり爪下の血管と血流の計測装置に適用したりすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、本発明の結膜強膜撮像装置の第1実施例を説明するための側面概略図である。
【図2】図2は、眼球の移動を補償した画像の一例である。
【図3】図3は、本発明の結膜強膜撮像装置の第2実施例を説明するための側面概略図である。
【図4】図4は、本発明の結膜強膜撮像装置の第2実施例を説明するための上面概略図である。
【図5】図5は、眼球と光源と撮像装置との関係を説明するための図である。
【図6】図6は、結膜と強膜と血管との関係、及び撮像される画像について説明するための図である。
【図7】図7は、撮像エリアをレーザ光線で走査しながら高速撮像して固視微動を補償した画像を合成する原理を説明するための図である。
【符号の説明】
【0061】
1 カメラ
2 レンズ
3 撮像装置
4 光源
5 調節機構
6 画像処理部
7 固視微動補償部
8 モニタ
10 視標

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼球の結膜及び/又は強膜を撮像する結膜強膜撮像装置であって、該装置は、
被測定者が注視するための視標と、
眼球の結膜及び/又は強膜の血管、血流及び/又は血球を解析可能な解像度であり固視微動の影響を補償可能なように、撮像エリアを分解能2μm以下で200フレーム/秒以上で撮像可能な撮像手段と、
前記撮像手段の撮像エリアを照明する光源と、
前記撮像手段の撮像エリアの位置を調節する調節手段と、
眼球の結膜及び/又は強膜の血管模様を認識及び追跡可能なように前記撮像手段により撮像される画像を画像処理する画像処理手段と、
画像処理手段により画像処理される画像の振動を止める固視微動補償手段と、
前記撮像手段により撮像される画像又は画像処理手段により画像処理される画像又は固視微動補償手段により補償される画像を表示する表示手段と、
を具備することを特徴とする眼球の結膜強膜撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の眼球の結膜強膜撮像装置において、前記撮像手段の撮像エリアは、少なくとも100μm〜2000μm四方であることを特徴とする眼球の結膜強膜撮像装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の眼球の結膜強膜撮像装置において、前記調節手段は、前記固視微動補償手段による信号を用いて固視微動に追従するように撮像エリアの位置を調節することを特徴とする眼球の結膜強膜撮像装置。
【請求項4】
請求項3に記載の眼球の結膜強膜撮像装置であって、さらに、前記撮像手段の視線位置に連動する高解像度撮像装置を有することを特徴とする眼球の結膜強膜撮像装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の眼球の結膜強膜撮像装置であって、さらに、高解像度撮像装置を有し、前記調節手段は、前記固視微動補償手段による信号を用いて固視微動に追従するように前記高解像度撮像装置の撮像位置を調節することを特徴とする眼球の結膜強膜撮像装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の眼球の結膜強膜撮像装置であって、さらに、前記視標と眼球との間に配置されるレンズ手段を有することを特徴とする眼球の結膜強膜撮像装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の眼球の結膜強膜撮像装置において、眼球の結膜及び/又は強膜の各部位を順次撮像可能なように前記視標を順次移動させ、前記画像処理手段は順次撮像される画像をつなぎ合わせることを特徴とする眼球の結膜強膜撮像装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れかに記載の眼球の結膜強膜撮像装置において、前記固視微動補償手段は、撮像される画像のうちの1フレームから血管模様のパターンを抽出し、続くフレームにおいて対応するパターンを検索することにより、血管模様のパターンの移動量を検出し、各画像の血管模様を同じ位置に配置することを特徴とする眼球の結膜強膜撮像装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れかに記載の眼球の結膜強膜撮像装置において、前記撮像手段は、結膜血管か強膜血管かを区別して撮像するために焦点深度を用いることを特徴とする眼球の結膜強膜撮像装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9の何れかに記載の眼球の結膜強膜撮像装置において、前記画像処理手段は、血管内の血球を追跡可能なように前記撮像手段により撮像される画像を画像処理することを特徴とする眼球の結膜強膜撮像装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10の何れかに記載の眼球の結膜強膜撮像装置において、前記光源は特定の波長の光を照明し、前記表示手段は血管又は血液の反射率又は透過率を用いて血管又は血液の組織を判別可能な画像を表示することを特徴とする眼球の結膜強膜撮像装置。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11の何れかに記載の眼球の結膜強膜撮像装置において、前記光源は特定の波長分布の光を照明し、前記結膜強膜撮像装置は、さらに、眼球からの反射光を分析する分光手段を具備することを特徴とする眼球の結膜強膜撮像装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12の何れかに記載の眼球の結膜強膜撮像装置において、前記光源はレーザ光源からなることを特徴とする眼球の結膜強膜撮像装置。
【請求項14】
請求項13に記載の眼球の結膜強膜撮像装置であって、さらに、眼球からの反射光の波長、位相及び/又は強度を検出するレーザ分析センサを有することを特徴とする眼球の結膜強膜撮像装置。
【請求項15】
請求項13又は請求項14に記載の眼球の結膜強膜撮像装置において、前記光源は、眼球に対する前記光源の入射角と前記撮像手段の視線の角度が前記光源の入射位置の眼球の法線に対して対称となるように配置されることを特徴とする眼球の結膜強膜撮像装置。
【請求項16】
請求項15に記載の眼球の結膜強膜撮像装置において、前記光源は点光源又は線光源からなり前記撮像エリアを走査し、前記画像処理手段は、前記撮像手段により順次撮像される各画像から強膜反射光による画像を抽出し、これを合成して強膜反射光画像を生成することを特徴とする眼球の結膜強膜撮像装置。
【請求項17】
請求項1乃至請求項16の何れかに記載の眼球の結膜強膜撮像装置であって、さらに、眼球に薬品を提供するためのノズルを有することを特徴とする眼球の結膜強膜撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−104628(P2008−104628A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289922(P2006−289922)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)