説明

眼球運動計測装置

【課題】眼球の結膜及び/又は強膜の血管模様を撮像することで眼球の運動を計測可能な眼球運動計測装置を提供する。
【解決手段】眼球の運動を計測する眼球運動計測装置は、撮像装置3と調節機構4と画像処理部5と計測部6とモニタ7とからなる。撮像装置は、眼球の固視微動を撮像可能なように、少なくとも200μm〜5000μm四方の撮像エリアを分解能1μm〜10μmで、0.01秒又はこれより速いシャッタ速度及び/又は100フレーム/秒以上で撮像可能なものである。画像処理部は、眼球の結膜及び/又は強膜の血管模様を認識及び追跡可能なように撮像手段により撮像される画像を画像処理するものである。そして、計測部で画像処理された画像を用いて眼球の運動を計測する。計測結果はモニタに表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼球の運動を計測するための眼球運動計測装置に関し、特に、眼球の結膜及び/又は強膜の血管模様を撮像することで眼球の運動を計測可能な眼球運動計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の眼球の運動を計測する手法としては、眼筋筋電測定法、角膜反射測定法、瞳孔中心位置測定法、虹彩位置測定法等があった。眼筋筋電計測法は、眼球の回転速度、相対回転位置等の測定を中心とするものであり、眼球の絶対位置の測定には累積誤差が生じてしまうため、測定精度は低かった。角膜反射測定法は、角膜の表面状態による個人差等の影響を受けやすく、これも測定精度は低かった。瞳孔中心位置測定法では、精度の問題だけでなく、測定時に視線の一部を妨げる問題もあった。また、虹彩位置測定法を除く従来の眼球運動計測装置は、眼球の視軸周りの回転角度を測定することができなかった。さらに、虹彩位置測定法では、光の強弱や精神状態により瞳孔の大きさが異なるため、これが測定精度に影響を及ぼす問題があった。さらに、現在の市販装置における測定誤差は、最も良い状態でも約0.5°程ある。したがって、例えば視線の位置を測定するのに用いられる場合には、遠くの視標になるほど誤差が大きいものとなっていた。
【0003】
また、眼底像を撮像し、眼球に提示されたパターンを眼底像から抽出して眼球回転角を演算して眼球運動を測定しているものも存在する(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開平4−156818
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の眼球運動測定装置は、上述のように測定精度が低いものであり、また、3自由度回転運動を計測することも難しかった。
【0006】
また、眼球は固視微動という肉眼では見えないほど微小な運動をしていることが知られている。固視微動は、眼球が視標を固視している間にも常に高周波数(最高90Hz)で振動するものである。このように眼球の固視微動の運動速度が速いため、上述の種々の測定法や特許文献1に開示の技術を用いても、固視微動の計測まで行えるものは存在しなかった。そのため、より正確な眼球の位置を計測することは不可能であった。カメラを用いる従来の眼球運動測定装置は、30フレーム/秒から60フレーム/秒で撮像するカメラを用いるものが殆どであるため、運動速度の速い固視微動は捉えることができなかった。したがって、固視微動のような高速且つ運動距離が極めて短い眼球運動を正確に測定可能な装置は存在しなかった。
【0007】
さらに、このように眼球では固視微動が常に存在するため、眼球の結膜や強膜の血管を認識することもできなかった。
【0008】
また、特許文献1の技術については、眼底像を撮影するとき、視線の一部を妨げる問題や、リアルタイム計測の問題、任意視標注視時の眼球位置測定の問題等があり、実用化するのは難しいものであった。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、眼球の結膜及び/又は強膜の血管模様を撮像することで眼球の運動を計測可能な眼球運動計測装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による眼球運動計測装置は、眼球の固視微動を撮像可能なように、少なくとも200μm〜5000μm四方の撮像エリアを分解能1μm〜10μmで、0.01秒又はこれより速いシャッタ速度及び/又は100フレーム/秒以上で撮像可能な撮像手段と、撮像手段の撮像エリアの位置を調節する調節手段と、眼球の結膜及び/又は強膜の血管模様を認識及び追跡可能なように撮像手段により撮像される画像を画像処理する画像処理手段と、画像処理手段により画像処理される画像を用いて眼球の運動を計測する計測手段と、撮像手段により撮像される画像又は画像処理手段により画像処理される画像又は計測手段による計測結果を表示する表示手段とを具備するものである。
【0011】
ここで、計測手段は、画像処理される画像から結膜及び/又は強膜の血管模様のパターンを抽出し、結膜及び/又は強膜の血管模様のパターンの移動位置から眼球の回転角度を算出するものであれば良い。
【0012】
また、眼球運動計測装置を同期を取って少なくとも2台用い、片方の眼球に対して異なる領域を撮像して眼球の運動を計測することで、眼球の3自由度回転位置を算出するものであっても良い。
【0013】
さらに、眼球全体を撮像可能な広角撮像手段を有し、画像処理手段は眼球の結膜及び/又は強膜の位置を探索可能なように広角撮像手段により撮像される広角画像を画像処理し、調節手段は画像処理手段により画像処理される広角画像を用いて結膜及び/又は強膜の位置に合わせて撮像エリアの位置を手動で又は自動的に調整するものであっても良い。
【0014】
また、表示手段は、広角撮像手段により撮像される広角画像に、撮像手段の撮像エリアを示すマーク手段を表示するようにしても良い。
【0015】
また、調節手段は眼球の結膜及び/又は強膜の各部位を順次撮像可能なように撮像手段の撮像エリアの位置を順次移動させ、画像処理手段は順次撮像される画像をつなぎ合わせるように構成しても良い。
【0016】
また、画像処理手段は順次撮像される画像の特徴領域抽出を行い続く画像内の同じ特徴領域を探索し、同じ特徴領域が無い場合には他の新たな特徴領域抽出を行い続く画像内の同じ特徴領域を探索し、計測手段は探索された特徴領域に基づき眼球の回転を計測するように構成しても良い。
【0017】
さらに、過去の画像と現在の画像を比較して認証する認証手段を有するようにしても良い。
【0018】
また、眼球運動計測装置を同期を取って少なくとも2台用いて両方の眼球を計測し、計測手段は、既知の位置の視標を注視するときの両方の眼球の回転角度を基準角度として算出し、未知の位置を注視するときの両方の眼球の回転角度と基準角度との差異から視線の位置を計測するように構成しても良い。
【0019】
さらに、撮像手段と眼球との間に配置されるミラーを有するようにしても良い。
【0020】
またさらに、撮像手段と眼球との間に配置される光ファイバを有するようにしても良い。
【0021】
また、眼球へ入射する撮像手段の視線と撮像エリア中心点の眼球の法線とのなす角が10°以内となるように構成すれば良い。
【0022】
さらに、歯及び前頭部を固定する固定具を有するようにしても良い。
【発明の効果】
【0023】
本発明の眼球運動計測装置には、眼球の結膜及び/又は強膜の血管模様を撮像することで眼球の運動を正確に計測できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明の眼球運動計測装置を説明するための概略図である。図1に示されるように、本発明の眼球運動計測装置は、カメラ1とレンズ2からなる撮像装置3、調節機構4、画像処理部5、計測部6及びモニタ7から主に構成されている。また、必要により眼球を照らす光源8を設けても良い。
【0025】
カメラ1は、高速撮影可能なカメラであり、好ましくは高速撮影可能なデジタルカメラである。また、レンズ2は高倍率なレンズである。そして、撮像装置3は、眼球の固視微動を撮像可能なように、撮像エリアや分解能、シャッタ速度、フレーム速度等が適宜設定される。具体的には、少なくとも200μm〜5000μm四方の撮像エリアを分解能1μm〜10μmで、0.01秒又はこれより速いシャッタ速度及び/又は100フレーム/秒以上で撮像可能となるように、カメラ1とレンズ2が選択される。より具体的には、カメラ1は、例えば株式会社フォトロンのFASTCAM(登録商標)を用いることが可能である。例えば1000フレーム/秒で撮像可能な100万画素のFASTCAM(登録商標)を用いた場合、レンズ2が10倍の光学倍率を有するものであれば、約2μm/ピクセルの解像度が実現可能となる。なお、この条件では、固視微動のうちトレモア(tremor)を精密に測定するには不十分であるが、他のフリック(flick)やドリフト(drift)を測定するには十分な空間分解能を有している。
【0026】
調節機構4は、撮像装置3の撮像エリアの位置を調整することで、撮像装置の撮像エリアの位置を任意に調節できるものである。具体的には、前後左右2自由度を有する調節台であれば良い。なお、調節機構は物理的なものではなく、ソフトウェア的に調節するものであっても良い。すなわち、広い撮像エリア内から所望の枠内を選択し、この枠の位置をソフトウェア的に調節するようなものであっても良い。調節機構4により、撮像エリアの位置を例えば眼球の中心と同じ高さの強膜表面となるように調整する。また、調節をより正確に行い頭部の動きを止めるために、必要により被測定者の頭部を固定する固定具を用いても良い。これは、より正確に眼球運動を計測しようとした場合、頭部を固定していないと眼球の回転なのか頭部の回転なのかが不明確となってしまうためである。具体的な固定具としては、歯で噛み締める棒状の部材や額の部分を押し付ける板状の部材等を組み合わせたものが挙げられる。固定具により頭部をしっかり固定することで、頭部の回転を無くすることが可能となり、正確な眼球運動の計測が可能となる。
【0027】
また、調節機構はアクチュエータ等を用いて撮像装置の位置を自由に自動的に設定するように構成することも可能である。なお、眼角等も同時に撮像しておき、この位置を基準に、頭部の動きを補償することも可能である。
【0028】
画像処理部5は、パーソナルコンピュータ等の電子計算機から構成されるものであり、種々の画像処理を行うものである。すなわち、画像処理部5は、眼球の結膜や強膜の血管模様を認識して追跡できるように、撮像装置3により撮像された画像を画像処理する。具体的には、画像処理部5は、撮像された画像に対して前処理としてノイズ除去処理をまず行う。通常の高速度カメラの撮影では、露光時間が非常に短くなるため適正露出とするためには十分な光量での照明が必要になる。しかしながら、眼球に対しては強い光を当てて撮像することが困難であるため、弱い光量での撮像となるので、高感度ノイズ等のランダムノイズが画像に乗ってしまう。したがって、このようなノイズを除去するために、ノイズ除去処理、例えばメディアンフィルタ処理を行う。また、レンズ2の特性等により、撮像された画像に、ケラレやビネッティングと呼ばれる周辺光量の低下が現れる場合等もある。また、眼球を照らす光源8の照射斑による明度の偏りが起こる場合もある。したがって、このような偏りを補正するように、必要によりビネッティング補正や照射斑補正を行っても良い。なお、このような補正は、例えば眼球を撮像した画像に対して、事前に白紙を撮影した画像で除算することで可能となる。
【0029】
また、画像処理部5では、必要により瞬きの瞬間の画像は利用しないようにすることも可能である。具体的には、順次撮像される画像が前後で大きく異なる場合には、その間の画像は省くように処理しても良い。さらに、必要により睫や瞼等の影響、影の影響等を画像から除去する処理を行っても良い。
【0030】
このようにして画像処理部5にて所定の処理が加えられた画像に対して、次に、計測部6で眼球の移動量を算出する。計測部6は、パーソナルコンピュータ等の電子計算機から構成されれば良く、また、画像処理部の電子計算機と共通のものであっても構わない。まず、計測部6では、基準フレームの設定を行う。基準フレームとは、撮像された画像内の所定のパターンとのマッチングを行うベースとなる予め指定された1つのフレーム画像をいう。マッチングにおいては、対応付けは連続する2つのフレーム間で行うのではなく、予め選択された基準フレームとのマッチングを行う。これは、眼球の移動量が画像上ではサブピクセル(1ピクセル以下)となる場合があるため、連続フレーム間で移動量を計算していくと累積誤差が生じてしまうからである。したがって、基準フレームを例えば視認により予め決定しておき、これを用いて各フレームとのマッチングを行い、移動量を算出する。
【0031】
所定のパターンとしては、眼球の結膜及び/又は強膜の血管模様を用いることが可能である。従来の眼球運動測定装置では、眼球の結膜及び/又は強膜の血管模様を撮像することは不可能であったが、本発明の眼球運動測定装置では、眼球の固視微動を撮像可能な条件で撮像しているため、結膜及び/又は強膜の血管模様まで撮像可能である。したがって、これをマッチングを行うときの所定のパターンとすれば良い。
【0032】
ここで、基準フレームと任意の注目フレームとの間のマッチングについて説明する。マッチング法は、パターン認識において理想的なパターンと観測されたパターンとを重ね合わせることにより、観測されたパターンが何であるか判断する手法として良く知られている。本発明では、基準フレームの画像内の所定のパターンと注目フレームとのマッチングを行い、同一パターンの移動量をピクセル単位で算出する。ここで、マッチング法には、主にテンプレートマッチング法と構造マッチング法が存在する。テンプレートマッチング法では、パターンをそのまま注目フレームに重ね合わせ、各要素(各画素)を比較することで類似度を決定している。構造マッチング法では、基準フレームと注目フレームのパターンから特徴点を抽出し、その各特徴点の位置関係を比較することで類似度を決定している。本発明の眼球運動計測装置では、何れのマッチング法を用いても良いが、撮像される画像に輪郭等が少なく明確な特徴量の抽出が難しい場合には、テンプレートマッチング法を採用するのが好ましい。テンプレートマッチング法としては、相関係数を用いる方法、SSDA(Sequential Similarity Detection Algorism)法、最小2乗マッチング法等が知られている。眼球は略平行・回転運動しかなく、また、実際に試した結果から、この中でもSSDA法が最も好ましい。
【0033】

が与えられたとする。すなわち、探索画像が例えば注目フレームであり、参照画像が基準フレーム内の選択された一部領域とする。このとき、注目フレーム内の探索窓と基準フレ

【数1】


【数2】

上式で与えられる探索窓の位置が、参照画像と最も類似していることになる。すなわち、

【0034】
なお、上述のSSDA法によるマッチング法では、参照画像が注目フレーム内で平行移動した場合のみ検出が可能であり、注目フレーム内の領域が幾何学変形した場合には対応できず、眼球の回転運動については基本的に2自由度しか算出することができない。これでも問題はないが、SSDA法に替わって最小2乗マッチング法を用いれば、眼球の3自由度回転も算出可能となり、幾何学変形にも対応可能となる。
【0035】
フレームごとの処理の最後に、基準フレームと注目フレームを用いて眼球の相対回転角を計算する。図2を用いて、回転角と撮像部位の関係を説明する。図2は、眼球の回転角と撮像部位の関係を説明するための図である。なお、撮影の前提としては、撮像装置3は眼球の中心に向いていることが好ましい。すなわち、理論的にはカメラの光軸(視軸)は撮像エリアの中心点の法線と重なるときが最も好ましく、ずれるほどピントが合わなくなる領域が出てきてしまう。高倍率レンズの被写界深度は非常に浅いため、カメラの視線が撮像エリア中心の眼球の法線とずれてしまうと、眼球表面からカメラの結像面までの距離が離れてしまい被写界深度内に納まらずにぼけてしまうためである。したがって、これを避ける意味でも、眼球へ入射する前記撮像手段の視線と撮像エリア中心点の眼球の法線とのなす角が約10°以内程度であることが好ましい。
【0036】
さて、フレーム間の移動量から眼球回転角を算出するに当たり、mピクセルだけ画像上で注目フレームが移動したとき、眼球の相対回転角を図2に示されるようにθとすれば、その近似値θ’は、以下の式で示される。
【数3】

但し、rは眼球の半径(眼球を真球と仮定)、λは1画素の一辺に対応する焦点面(ピント面)の長さ、lは見かけ上の眼球表面の移動距離であり、l=m×λである。なお、θ’は、撮像された画像における眼球表面を球面ではなく平面として捉えて近似した値である。眼球の大きさに対して撮像エリアが微小なのでこのような近似が可能となる。
【0037】
ここで、基準フレームにおける中心点は、他のすべてのフレームにおいても存在する点を選択する必要がある。これによって、θ’は所定値以下に抑えられる。このときの誤差を具体的に説明する。焦点面における正方撮影範囲の一辺の長さを2s、撮像装置の撮像面から焦点面までの距離をwdとする。また、図2において、Oは眼球の中心、Lは撮像

の限界点である。このとき、ΔLBCとΔLDEの相似性に着目すると、以下の式が導ける。
【数4】

ここで、光学倍率が5倍の対物レンズを用いたときのr、s、wd、λの実測値(r=11.5mm、s=0.98mm、wd=64mm、λ=3.8μm/ピクセル)を上記の式に代入すると、誤差θ’―θは図3のグラフに示されるようになる。最も誤差が発生する撮影範囲の端でも誤差は0.000159ラジアンである。例えばカメラの撮像素子の一辺の分解能が512ピクセルの場合、この誤差の影響は画像上で1/3ピクセルずれる程度であり、無視できると考えられる。
【0038】
このように、フレームごとに基準フレームからの相対眼球回転角を算出し、必要により連続するフレーム間の眼球回転角を求めて、一連の眼球回転運動を計測することが可能となる。そして、計測された回転運動は、モニタ7にて表示される。図4に、表示される眼球の固視微動の様子の一例を示す。このように高解像度で正確な眼球の固視微動の軌跡をトレースすることが可能となる。なお、モニタ7は必要によりカメラ1や画像処理部5に接続され、撮像される画像や画像処理される画像の目視によるチェックにも用いることが可能である。
【0039】
ここで、上述の図示例では、撮像対象である眼球に直接撮像装置を向けて眼球運動を計測するものを示していたが、本発明はこれに限定されず、以下に説明するように、撮像装置の位置を任意の場所に設置して、間接的に眼球運動を計測するように構成しても良い。すなわち、撮像装置と眼球との間にミラーを配置し、ミラーにより撮像装置の視線を屈折させて、撮像装置を例えば眼球の視線を遮らない位置に設置するように構成することが可能となる。直接撮像装置を眼球に向ける場合には、撮像装置自体の大きさ等のために、眼球の視線を遮ったり視野を狭めたりする場合がある。しかしながら、上述のようにミラーを間に設置することにより、撮像装置自体による視野の遮りという問題を回避することが可能となる。
【0040】
また、ミラーの代わりに、例えば光ファイバを眼球と撮像装置との間に配置して任意の位置から撮像装置の視線を眼球まで導くように構成しても良い。光ファイバを用いた場合には、撮像装置から眼球までの距離も調整可能である。ミラーの場合、撮像装置の設置位置は眼球の位置とレンズの焦点距離によって決まるため、ミラーを間に設置したとしても眼球から撮像装置までのトータルの距離はミラーを設けない場合と同じである。しかしながら、光ファイバの場合には、トータルの距離も任意に設定可能であるため、撮像装置を任意のところに設置することが可能となる。
【0041】
なお、上述の説明では片方の眼球に対して1つの眼球運動計測装置を用いる例を説明したが、本発明はこれに限定されず、眼球運動計測装置を同期を取って少なくとも2つ用い、片方の眼球に対して異なる領域を撮像して眼球の運動を計測することで、眼球の3自由度回転位置を高精度に算出するように構成しても良い。1つの眼球運動計測装置であっても3自由度の回転位置を計測可能ではあるが、撮像エリアが非常に小さいため、回転角の精度を高めるために、例えば眼球の両側の領域を同時に撮像して計測することで、眼球の3自由度の回転位置を高精度に計測可能となる。なお、眼球運動計測装置を複数用いる場合には、撮像装置は複数でも、以降の画像処理や計測部、モニタ等は1つのものを共通で用いるように構成しても勿論構わない。
【0042】
さらに、眼球運動計測装置を少なくとも2つ用いて両方の眼球を計測するように構成しても構わない。この場合、例えば、予め既知の位置の視標を注視するときの両方の眼球の回転角度を基準角度として計測部で算出しておき、この基準角度と未知の位置を注視するときの両方の眼球の回転角度との差異から、被測定者の視線の位置を計測することも可能となる。なお、この場合にも、撮像装置は複数でも、以降の画像処理や計測部、モニタ等は1つのものを共通で用いるように構成しても勿論構わない。従来の装置では、誤差が約0.5°あったが、本願発明の装置の場合には、誤差は0.0002°程度以上に抑えることが可能であるため、非常に高精度に視線位置の計測が可能となる。
【0043】
また、眼球の結膜及び/又は強膜の位置をすばやく検出可能となるように、眼球全体を撮像可能な広角レンズを有するカメラをさらに設けても良い。なお、カメラは共通で高倍率レンズと広角レンズを切り替えて撮像可能なように構成された撮像装置を用いても良い。この場合、画像処理部5では、最初に広角レンズにより撮像された広角画像を画像処理して結膜及び/又は強膜の位置を探索可能とする。そして、調節機構4を用いて結膜及び/又は強膜の位置に合わせて撮像エリアの位置を手動又は自動的に調整し、その後高倍率レンズに切り替えて結膜及び/又は強膜の血管模様を撮像する。手動で位置の調整を行う場合には、モニタ7に撮像されている画像を表示させ、これを参照しながら調節機構4で調節すれば良い。自動的に位置を調節する場合には、例えば広角画像の中から虹彩や眼角等の特徴パターンを探索し、それらの位置を基準に予め決定される結膜及び/又は強膜の位置に、高倍率レンズの視線を合わせるように調節機構4を自動で調節しても良いし、ズームレンズでズームイン動作するようにしても良い。モニタには、必要により広角画像に高倍率レンズによる撮像エリアを示すマークを表示しても良い。マークは撮像エリアを囲む枠でも良いし、四角い撮像エリアの角の位置を示すマークでも良い。
【0044】
さらに、基準フレームの設定は、連続撮像しながら設定することも可能である。例えば、眼球運動により現在の撮像領域が基準フレームの撮像範囲を超えてしまう場合、これまで取り込んだ画像から、所定の画像を基準フレームとし、新しい基準フレームを基準として設定した眼球の移動量を計測することができる。新旧両基準フレーム画像が表す眼球回転角度を追加することによって、眼球の任意回転角度を計測することができる。
【0045】
また、調節機構4を用いて、眼球の結膜及び/又は強膜の各部位を順次撮像可能なように撮像装置の撮像エリアの位置を順次移動していき、画像処理部5で順次撮像された画像をつなぎ合わせるように構成しても良い。これにより、より広いエリアの結膜及び/又は強膜の血管模様の撮像が可能となる。
【0046】
なお、計測部6において、順次撮像された画像を用いて上記のようにパターン認識でマッチングを行い、調節機構4と連動させて眼球の回転に追従するようにすることも可能である。具体的には、まず画像処理部5にて撮像される画像の1つから特徴部分の特徴領域抽出を行い、順次撮像される続く画像内で、この特徴部分と同じ領域を探索し、計測部6にて眼球の回転角度を計測する。そしてその角度に合わせて調節機構4により撮像装置3の撮像エリアの位置を調節する。このように構成することで、眼球の回転に追従して広い範囲での眼球運動の計測が可能となる。なお、必要により上記のように順次撮像された画像をつなぎ合わせるように構成しても良い。
【0047】
なお、本発明の眼球運動計測装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0048】
例えば、本発明の眼球運動計測装置では、眼球の結膜及び/又は強膜の血管模様を測定することが可能となるため、予め撮像された過去の画像のうちの結膜及び/又は強膜血管模様と、現在の画像とを比較して、動物や人間等の認証に用いることも可能である。結膜及び/又は強膜の血管模様は一人一人異なる固有の模様であるため、個人認証等の認証に用いることが可能となる。また、血流も見て取れるため、工学的に模型等を用いて模倣することは容易でないので信頼性も高い。さらに、毛細血管は年齢により変化していくものであるため、一定期間のみ有効な生体認証方式として利用することも可能である。さらに、眼底や虹彩等を用いた認証方式を組み合わせたり、他の認証方式、例えば指紋や声紋、音声、静脈等を用いた認証方式を別途組み合わせることも勿論可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、本発明の眼球運動計測装置を説明するための概略図である。
【図2】図2は、眼球の回転角と撮像部位の関係を説明するための図である。
【図3】図3は、誤差θ’―θを表わすグラフである。
【図4】図4は、表示される眼球の固視微動の様子の一例である。
【符号の説明】
【0050】
1 カメラ
2 レンズ
3 撮像装置
4 調節機構
5 画像処理部
6 計測部
7 モニタ
8 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼球の運動を計測する眼球運動計測装置であって、該装置は、
眼球の固視微動を撮像可能なように、少なくとも200μm〜5000μm四方の撮像エリアを分解能1μm〜10μmで、0.01秒又はこれより速いシャッタ速度及び/又は100フレーム/秒以上で撮像可能な撮像手段と、
前記撮像手段の撮像エリアの位置を調節する調節手段と、
眼球の結膜及び/又は強膜の血管模様を認識及び追跡可能なように前記撮像手段により撮像される画像を画像処理する画像処理手段と、
前記画像処理手段により画像処理される画像を用いて眼球の運動を計測する計測手段と、
前記撮像手段により撮像される画像又は画像処理手段により画像処理される画像又は計測手段による計測結果を表示する表示手段と、
を具備することを特徴とする眼球運動計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の眼球運動計測装置において、前記計測手段は、前記画像処理される画像から結膜及び/又は強膜の血管模様のパターンを抽出し、結膜及び/又は強膜の血管模様のパターンの移動位置から眼球の回転角度を算出することを特徴とする眼球運動計測装置。
【請求項3】
請求項2に記載の眼球運動計測装置において、前記眼球運動計測装置を同期を取って少なくとも2台用い、片方の眼球に対して異なる領域を撮像して眼球の運動を計測することで、眼球の3自由度回転位置を算出することを特徴とする眼球運動計測装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の眼球運動計測装置であって、さらに、眼球全体を撮像可能な広角撮像手段を有し、前記画像処理手段は眼球の結膜及び/又は強膜の位置を探索可能なように前記広角撮像手段により撮像される広角画像を画像処理し、前記調節手段は前記画像処理手段により画像処理される広角画像を用いて結膜及び/又は強膜の位置に合わせて前記撮像エリアの位置を手動で又は自動的に調整することを特徴とする眼球運動計測装置。
【請求項5】
請求項4に記載の眼球運動計測装置において、前記表示手段は、前記広角撮像手段により撮像される広角画像に、前記撮像手段の撮像エリアを示すマーク手段を表示することを特徴とする眼球運動計測装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の眼球運動計測装置において、前記調節手段は眼球の結膜及び/又は強膜の各部位を順次撮像可能なように前記撮像手段の撮像エリアの位置を順次移動させ、前記画像処理手段は順次撮像される画像をつなぎ合わせることを特徴とする眼球運動計測装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の眼球運動計測装置において、前記画像処理手段は順次撮像される画像の特徴領域抽出を行い続く画像内の同じ特徴領域を探索し、同じ特徴領域が無い場合には他の新たな特徴領域抽出を行い続く画像内の同じ特徴領域を探索し、前記計測手段は探索された前記特徴領域に基づき眼球の回転を計測することを特徴とする眼球運動計測装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れかに記載の眼球運動計測装置であって、さらに、過去の画像と現在の画像を比較して認証する認証手段を有することを特徴とする眼球運動計測装置。
【請求項9】
請求項2に記載の眼球運動計測装置において、前記眼球運動計測装置を同期を取って少なくとも2台用いて両方の眼球を計測し、前記計測手段は、既知の位置の視標を注視するときの両方の眼球の回転角度を基準角度として算出し、未知の位置を注視するときの両方の眼球の回転角度と基準角度との差異から視線の位置を計測することを特徴とする眼球運動計測装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9の何れかに記載の眼球運動計測装置であって、さらに、前記撮像手段と眼球との間に配置されるミラーを有することを特徴とする眼球運動計測装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10の何れかに記載の眼球運動計測装置であって、さらに、前記撮像手段と眼球との間に配置される光ファイバを有することを特徴とする眼球運動計測装置。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11の何れかに記載の眼球運動計測装置において、眼球へ入射する前記撮像手段の視線と撮像エリア中心点の眼球の法線とのなす角が10°以内であることを特徴とする眼球運動計測装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12の何れかに記載の眼球運動計測装置であって、さらに、歯及び前頭部を固定する固定具を有することを特徴とする眼球運動計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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