説明

眼疾患を処置または診断する際に使用するための抗体の抗原結合フラグメント

本発明は、局所投与による眼疾患の処置または診断のための医薬の製造のための抗体の完全ヒト抗原結合フラグメントの使用に関する。本発明は、抗体の完全ヒト結合フラグメントを含んでなる、眼疾患の処置または診断のための眼局所投与のための医薬組成物にさらに関する。特に、前記抗体はHSV1およびHSV2を中和する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局所投与による眼疾患の処置または診断のための医薬の製造のための抗体の抗原結合フラグメントの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
技術水準
HSVは、一般にヒトに影響を及ぼすDNAウイルスである。感染は、ウイルスに感染した病巣または分泌物と皮膚または粘膜の直接接触によって起こる。HSV1型(HSV−1)が主に口腔顔面および眼の感染に関与するのに対して、一般に、HSV2型(HSV−2)は性行為によって伝播され、生殖器疾患を引き起こす。HSV−2は、生殖器外傷と口腔顔面との接触によって眼に感染する可能性もあり、新生児が生殖器HSV−2感染を患っている母親の産道を通過する際に、新生児に伝染することもある。
【0003】
一次HSV−1感染は、最も一般的には、三叉神経の粘膜皮膚の分布領域において起こる。それは、無症候性であることも多いが、非特異的上気道感染として現れることもある。一次感染後、ウイルスは感染した上皮細胞から近くの知覚神経末端に広がり、そして神経軸索に沿って三叉神経節内に位置する細胞体に輸送され得る。そこでは、ウイルスゲノムがニューロンの核に入り、そしてそこで潜伏状態でいつまでも存在し続ける。第V脳神経の3つ(すなわち、視、上顎、下顎)の枝のいずれかの一次感染は、三叉神経節の神経細胞の潜伏感染につながる可能性がある。神経球内におけるHSVのニューロン間での蔓延は、それまで一次眼HSV感染を患うことなしに、その後患者に眼疾患を発症させる。
【0004】
再発性眼HSV感染は、三叉神経節内のウイルスの再活性化として伝統的に考えられており、そしてそれは神経軸索を下り眼球組織における溶解感染を引き起こす。証拠は、ウイルスが角膜組織内に潜在的に存在することもあり、そしてそれが再発疾患の別の潜在源となり、さらに移植角膜においてドナー由来HSV疾患を引き起こすことを示唆している。
【0005】
HSV感染は、どこにでも存在し、そして世界中で人口の推定3分の1が再発性感染に罹患している。米国だけでも、約20,000の眼HSVの新規症例と、28,000を超える再活性化が毎年発生する。
【0006】
眼の単純ヘルペスウイルス感染は、先進国の感染性疾患による失明の主な原因である。
【0007】
眼の単純ヘルペスウイルス感染は、より具体的には、4つのカテゴリー:感染性上皮性角膜炎、神経栄養性角膜症、間質性角膜炎、および内皮炎、に分類することもできる。
【0008】
診断は、角膜病変の特徴的性質に基づく臨床的根拠により、及び排除(exclusion)によって通常おこなわれる。実験室研究は、典型的な知見を欠いている症例において臨床上の疑いを確認する助けとなることもあるが、それらはほとんどの臨床現場で容易に利用可能なものではない。ギムザ染色した上皮小片は、多核巨大細胞を示すことができ、そしてそれは感染角膜上皮細胞の融合と核内ウイルス封入の結果として生じる。しかしながら、陰性の細胞診の結果は、HSV感染を排除するわけではない。ウイルス培養は優れた感度を有するが、結果に至るまでに数日かかる。HSV抗原検出試験、例えば酵素結合ウイルス誘導システム(ELVIS)などは特異的であるが、その低い感度によって制限される。そのため、ELVIS試験結果が陰性である場合には、HSVの確認のための細胞培養がどのような場合でも推奨され、そしてそれは再び手間がかかる手順をもたらす。涙液サンプル、角膜上皮、前眼房穿刺、または角膜ボタンを使用したポリメラーゼ連鎖反応では、ヘルペス性角膜炎または角膜ブドウ膜炎の症例においてウイルスDNAを検出し得る。しかしながら、それでは潜在しているか活性なHSV感染であるかを見分けられない。ウイルス粒子が間質の生検材料中に見られないことも多く、そのため培養物を得ることができないので、円板状内皮炎または間質性疾患の症例において、診断は特に難しい。
【0009】
処置が懸念事項である限り、治療のための抗ウイルス剤が利用可能であるにもかかわらず、この疾患は重大な健康問題のままである。欧州では、(薬物耐性菌株の出現が心配されているが)「Zovirax」(アシクロビル)軟膏剤が眼感染を処置するために承認されている。しかしながら、角膜の損傷がアシクロビルによって予防されることはない。米国では、「Viroptic」(トリフルオロチミジンの1%水溶液)がこれらの感染用の唯一の承認薬である。アシクロビルとトリフルオロチミジンの両方ともが再発疾患に対して低い有効性しか有さず、その再発疾患が失明につながる角膜混濁の通常の原因である。両調製物の使用により重大な副作用が起こる可能性があり、そしてその製剤のために、患者コンプライアンスにかかわる問題がある。明らかに、改良された治療法上のまたは診断上の戦略がHSV眼疾患には必要である。
【0010】
抗体は、様々な疾患の診断薬や治療薬に次第に使用されるようになっている。抗体の使用は、代替処置が非常に不十分である疾患、例えば先に記載の疾患などの診断および処置に非常に有利であろう。
【0011】
抗体は、感染部位において治療濃度に達するとき、それらが重大な全身性副作用を引き起こす可能性があるにもかかわらず、全身投与され得る。
【0012】
角膜または前眼部の免疫病理学的状態を調節するための抗体の局所投与は、これらの副作用を避けるために有利であるだろうが、抗体全体では素早く角膜に入り込むには大きすぎるので、それでは効果がない(Allansmith M, de Ramus A, Maurice D. The dynamics of IgG in the cornea. Invest Ophthalmol Vis Sci 1979; 18:947-55)。
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、局所投与による眼疾患の処置または診断のための医薬の製造のための、配列番号3および/または配列番号4に対して少なくとも90%の相同性を有する配列を有する抗体の完全ヒト抗原結合フラグメントの使用を提供することである。
【0014】
本発明の更なる目的は、局所投与による眼疾患の処置または診断のための医薬の製造のための、配列番号1および配列番号2に対して少なくとも90%の相同性を有する配列を有する抗体の完全ヒト抗原結合フラグメントの使用を提供することである。
【0015】
本発明の更なる目的は、配列番号3および/または配列番号4に対して少なくとも90%の相同性を有する配列または配列番号1および配列番号2に対して少なくとも90%の相同性を有する配列を有することを特徴とする抗体の完全ヒト結合フラグメントを含んでなる眼疾患の処置および/または診断のための眼局所投与のための医薬組成物を提供することである。
【0016】
具体的には当該抗体は、HSV1およびHSV2を中和する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】AC−8の4日間の5回の点眼とその後最終日の単一点眼後1時間(a〜k)、またはPBSの4日間の5回の点眼とその後最終日の単一点眼後1時間(ビヒクル、l〜q)の角膜(a〜h、l〜n)および毛様体(i〜k、o〜q)の分析を示す一連の免疫組織化学像の例を示す。dおよびhは、それぞれ(d)alexa標識された樹状形態の上皮下細胞および(h)標識された角膜内皮を示している、関連した白い四角部分の高倍率像である。スケールバー=100μm。
【図2】経強膜経路を通ったFabの移行を実証するAC−8の5回の点眼後24時間の、角膜(cornea)の中央部(a〜d)および周辺部(e〜j)の免疫組織化学像を示す。図2a:白い四角部分は、過去の潰瘍の上皮再形成領域を示す。図2dおよび2iは、それぞれ図2cおよび2hの白い四角部分の高倍率像である:上皮下の間質細胞はAC−8について陽性に標識される。図2gおよび2jは、それぞれ図2fおよび2hの白い四角部分の高倍率像であり、陽性にAC−8標識された内皮を示している。図2k〜mは、対照のビヒクルで処置した角膜のIHC分析である。Epith=上皮、Endoth=内皮。Stroma=間質。Iris=虹彩。スケールバー=200μm。
【図3】マウスにおける眼ウイルス感染後に涙膜力価に対するAC−8の効果を示すダイヤグラムであり、その結果、時間の関数として生体内におけるAC−8によるHSVの中和を実証している。
【図4】5μgのAC−8の5回の点眼後1および6時間の、正常な角膜を有するマウスの房水および硝子体液中のAC−8濃度を示すヒストグラムである。
【図5】5μgのAC−8の5回の点眼後1および24時間の、上皮除去した角膜を有するマウスの房水および硝子体液中のAC−8濃度を示すヒストグラムである。
【図6】scFv AC−8の濃度上昇の関数としてのプラーク減少アッセイにおける、HSV−1の中和を示すダイヤグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
定義
別段の規定のない限り、本明細書中に使用されるすべての技術用語および学術用語は、本願発明が関係している技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中に記載のものと同様または同等な多くの方法および材料を本発明の実施または試験に使用し得るが、適した方法および材料を以下に記載する。別段の言及のない限り、本発明での使用のために本明細書中に記載した技術は当業者にとって周知の標準的な方法論である。
【0019】
「Fab」または「抗原結合フラグメント」という用語では、その抗原に結合する能力を維持しているあらゆる抗体フラグメントが意図され、そして軽鎖または重鎖のいずれかの少なくとも一方の可変ドメインを含んでいる。
【0020】
「眼疾患」という用語では、あらゆる(一次または二次)感染、例えば(上皮性および間質性)眼角膜炎(ocular keratitis)、眼瞼炎(blepharitis)、結膜炎(conjunctivitis)、眼瞼結膜炎(blepharoconjuntivitis)、潰瘍形成(ulceration)など、が意図される。
【0021】
「保持増強剤(retention enhancer)」という用語では、疾患によって影響を受ける眼部における製品の保持時間を長引かせるあらゆる物質または組成物、例えばヒアルロン酸ナトリウム、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ビニルポリアルコール、キサンタンガム、ジェランガム、キトサン、ポリ乳酸およびそれらの誘導体など、が意図される。
【0022】
「医薬組成物」という用語では、物質のあらゆる治療的の許容され得る混合物または組合せ(combination)を意図する。
【0023】
発明の詳細な説明
本発明によると、配列番号1および配列番号2の配列を有する抗体の完全ヒト抗原結合フラグメントは、局所投与による眼疾患の処置または診断のための医薬の製造のために使用される。
【0024】
最終的な分子が抗原に結合する能力を維持するように、それぞれ重鎖(配列番号1)および軽鎖(配列番号2)の定常領域がいずれかの適当なヒト免疫グロブリン定常領域により置き換えられ得ることは、理解されるべきである。
【0025】
よって、本発明による代替の実施形態では、配列番号3または配列番号4を有するscFvが、局所投与による眼疾患の処置または診断のための医薬の製造のために使用できる。
【0026】
特に、本発明の抗体は、HSV1およびHSV2を中和する。特に、ウイルス表面抗原は、gDである。
【0027】
本発明の医薬は、好ましくは、眼内への抗原結合フラグメントの保持増強剤と共に製剤化される。本発明において有用な保持増強剤は、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、ジェランガム、キトサン、ポリ乳酸およびその誘導体から成る群から選択され得る。
【0028】
本発明の医薬は、好ましくは、点眼剤、軟膏剤、ゲル剤、眼科用クリーム剤の形態で存在する。
【0029】
眼疾患は、有利なことには、眼角膜炎、眼瞼炎、結膜炎、眼瞼結膜炎、潰瘍形成である。
【0030】
本発明による完全ヒト抗原結合フラグメントは、眼の一部を、疾患を示唆する抗原結合フラグメントと接触させ、そして抗原結合フラグメントと抗原を含んでなる複合体の存在を検出することを含んでなる診断方法のために使用され得る。複合体の検出は、当該技術分野で知られているあらゆる技術、例えば試験管内および生体内における免疫学的アッセイで続いて検出され得る、そこに結合させた検出可能な標識を有する抗原結合フラグメントなどに従って実施され得る。試験管内における方法の例には、酵素結合免疫吸着アッセイ、すなわちELISA(間接、サンドイッチ、競合)および放射免疫アッセイ(RIA)である。
【0031】
標識は、直接的または間接的に抗原結合フラグメントに結合されるか、または抗原結合分子のその後の反応生成物に取り付けられ得る。標識は、色素体、触媒、酵素、蛍光色素、化学発光分子、放射性同位元素および色素を含む群から選択され得る。
【0032】
本発明によると、医薬組成物は、配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4を含む抗体の完全ヒト結合フラグメントを含んでなり、眼疾患の処置または診断のための眼局所投与向けに提供される。
【0033】
例えば、本発明による医薬組成物は、15%のH2O、15%の白色鉱油、70%のAquaphor(登録商標)(軟膏剤)および本発明のFabフラグメント1mg/mlから成ることもある。
【0034】
本発明の抗原結合フラグメントは、当該技術分野で知られている別の方法によっても、例えばパパインを用いた抽出IgGの酵素分解によっても、または(一過性のもしくは安定した)真核または原核生物発現系による遺伝子組み換え産生とその後のアフィニティー精製によっても得ることができる。
【0035】
本発明による組成物の主な利点は、完全にヒトのものである、すなわち、ヒト・ポリヌクレオチド配列によってコードされているFabに起因する。HSV疾患の診断または処置のための本発明のFabの生体内における使用は、異種間またはキメラ誘導のモノクローナル抗体が使用される場合に重大な問題となる、受動的に投与された抗体に対する宿主免疫反応による有害な影響を大いに低減する。
【0036】
さらに、Fabフラグメントは、IgG全体に対して有利である。というのも、Fabフラグメントが、細胞上のFc受容体による影響を受けず、また抗原を沈殿させないので、そのためそれらが低い免疫原性しか示さず、且つ、食作用に対してそれほど影響を受けないからである。そのうえ、Fabフラグメントは、IgG分子全体に比べてより急速に組織から除去される。
【0037】
Fabはさらに、それらがE.コリ(E.coli)発現系により製造されるので、工程、コストおよび時間の点でIgG抗体に対して製造がより容易である。
【0038】
Fabは、安定しており、且つ、可溶性である(不溶性は免疫原性を高める可能性がある性質である)。これらの性質は、原薬や医薬製品の高い発現レベルや最適な安定性を得ることを可能にする。Fabの安定性は、それらが長い半減期を示すことを可能にする。
【0039】
本発明の代替の実施形態によると、一本鎖Fv(scFv)もまた提供される。
【0040】
図6に示したように、scFv AC−8は、試験管内のプラーク減少アッセイによるHSV感染の中和において非常に効率的である。
【0041】
AC−8で処置したマウスからの涙膜サンプルで計測されるウイルス力価は、非特異的Fabとの比較においてHSV1の有効な中和を示した。
【0042】
局所点眼後、AC−8は、無傷の眼内に移行するので、房水および硝子体液中では点眼の1時間後の時点で、免疫組織化学試験とElisa試験の両方を使用して検出できた。角膜の上皮除去(de-epithelialisation)後、眼内移行は、房水および硝子体液において促進される。AC−8は、無傷の角膜の角膜細胞内で可視化でき、主に経強膜経路を通じて眼内に移行するようである。結膜下注射後、AC−8の眼内移行は、上皮除去した角膜に対して点眼後に得られたものと類似している。しかしながら、角膜の上皮除去後の眼に対する結膜下注射は、AC−8の眼内移行の5倍の増大をもたらす。免疫組織化学は、AC−8が樹状上皮下細胞内に蓄積するように思えることを明らかにし、そしてその角膜透過を実証した。局所点眼後に、AC−8は効果的な抗ウイルス濃度にて中間透光体中で計測された。
【実施例】
【0043】
実施例1
AC−8で処置したマウスからの涙膜サンプルにおいて測定されたウイルス力価は、非特異的Fabと比較して、HSV1の有効な中和を示した。
【0044】
それぞれ3μlの処置を、感染眼(右側)に点眼薬によって投与した。処置(1mg/mLのAC−8または非特異的Fabフラグメント)を、午前8:00、午前10:00、午後12:00、午後2:00、午後4:00、午後6:00、午後8:00、午後10:00に始めるが、それを感染の翌朝(2日目)から開始し、7日間続けた。群の処置は毎日、同じ順序で進められ、そして開始時刻から1時間以内に終了した。マウスを、各処置に関してイソフルオラン(3〜5%)または同等物で麻酔した。
【0045】
ウイルス株
ほとんどまたは全く死亡することのない中程度のレベルの角膜炎を引き起こす眼分離物であるCJ394を使用した。動物は、1X105PFUで右眼を感染された。
【0046】
感染プロトコール
感染のために、BALB/Cマウスを、ケタミン/キシラジンで麻酔した。右側の角膜を、輪部辺縁近くで剥離し、中央部の角膜を無傷なままにした。接種材料を含むDMEMの5μlの液滴を、右側の角膜上に乗せ、角膜を覆って眼瞼を2回閉じ、そして動物をそれらのケージに戻した。
【0047】
ウイルス力価
右眼のウイルス力価のために涙膜サンプルを、感染後1、3、5、7、9、11および13日目に採取した。サンプル採取のために、マウスを簡単に麻酔し、そしてそれらのケージに戻した。サンプルは、それぞれ数日の処置の開始の前に角膜上に10μlの細胞培養培地を乗せ、ピペットマンを用いて液体を2〜3回洗い流して、次にウイルス学検査室への輸送のために液体を190μlの培地に移すことによって採集した。次に、そのサンプルを、連続的に希釈し、そしてVero細胞単層上で滴定した。涙膜サンプルの採集のために、マウスをイソフルオランまたは同等物(3〜5%)で麻酔した。結果を図3に示す。
【0048】
実施例2
AC−8は、無傷の眼内に移行するので、点眼の1時間後に免疫組織化学によって、房水中および硝子体液中で検出され得る。
【0049】
この一連の実験を、局所的に投与したAC−8 Fabフラグメントの移行を評価するために実施した。特に、この実験を、ラットの正常な角膜上に局所的に投与したときのFabの生体分布を評価するために実施した。
【0050】
試験した物質は、PBS中、10μg/mlの濃度のFabフラグメントであった。投与経路は、両眼における点眼または結膜下注射によるものであった。投与容量は、以下のとおりであった:
−支給されたスポイト・バイアルを使用して、1点眼あたり50μL、
−インシュリン用シリンジを使用した結膜下注射のために50μL。
【0051】
動物は、アルビノLewisラット(6〜8週齢、120〜150g、Charles River)であった。動物を、パリ第V大学の倫理委員会および実験眼科学における動物の使用に関するARVO文書によって認証および認可された条件に維持した。ラットは、ペントバルビタールの致死注射によって生体内実験の最後に屠殺した。
【0052】
投与のために、ラットには麻酔しなかったが、角膜との接触時間を延ばすために数秒間、体を拘束した状態にそっと保った。1群あたり3匹のラット(6眼)を使用した。動物には、以下のとおり投与した:
【0053】
【表1】

【0054】
注意事項1:第2群は、一回分の用量を実現するために実施した。1時間あたり1滴は治療計画に準拠していない。
注意事項2:第3群は、起きている間に1日あたり5回の点眼により実施したが、これは治療計画に準拠している。
【0055】
サンプリングについて、以下の表中にまとめる:
【0056】
【表2】

【0057】
各群(1〜7)のうちの2匹のラット(4眼)を、対物スライド上に平面封入するための角膜を解剖するために使用した。眼を氷上で解剖した。合計28枚の角膜を解剖し、そして24ウェルプレート内で平面封入したものを−80℃にて保存した。
【0058】
各群の3番目のラットの両眼(1〜7、合計14個のサンプル)を、−80℃にてOCT(Optimum Cutting Temperature compound、Tissue-Tek)中に入れた。すべての右眼を、凍結切片法に使用し、そして必要であれば、すべての左眼を更なる使用のために−80℃にて保存した。
【0059】
凍結切片を、角膜層および眼球内のAC−8 Fabの分布を測定するための標識抗体を用いた免疫組織化学的(IHC)分析に使用した。
【0060】
凍っている凍結切片(10μm)を、以下のとおり処理した:
−RTにてパラホルム4%中で15分間、固定し、
−RTにてPBS 1X中、10分間で2度すすぎ、
−RTにてPBS−Triton X−100、0.1%中で2×10分間すすぎ、
−対照をPBS1Xのみの中でインキュベートしたことを除いて、ヤギ抗ヒトIgG(Pierce#31132、PBS−Triton X−100、0.1%中に1/50)と一緒に+4℃にて一晩インキュベートし、
−RTにてPBS−Triton X100、0.1%中で3×10分間すすぎ、
【0061】
−分子プローブであるロバ抗ヤギIgG(H+L)−Alexafluor594(赤色)1/50と一緒に、暗所内で+20℃にて1時間インキュベートし、
−RTにてPBS 1X中、10分間で2度すすぎ、
−核標識のために、PBS 1X中のDAPI(4’、6’−ジアミジノ−2−フェニルインドール)(青色)1/5000中、暗所内でRTにて5分間インキュベートし、
−RTにてPBS 1X中で5×5分間すすぎ、
−RTにて蒸留水中で10分間で1度すすぎ、そして乾燥させ、
−蛍光顕微鏡(Olympus)を使用したレクチャー(lecture)のために顕微鏡用スライド上に乗せた。
【0062】
角膜上のAC−8の共焦点局在を得るために、IHCも平面封入した角膜に対して実施した。IHCプロトコールの最適化を角膜の1/4で実施した。この技術の感度は、入手可能な材料では明確な共焦点像を得るのに十分には最適化できなかった。これらの結果は正しく解釈されないかもしれない。これが、AC−8の移行を測定するために全眼切片を選択した理由である。
【0063】
核を、DAPIを用いて青色に染色し、そしてAC−8を示すのに使用した抗ヒトIgG抗体は赤色に見える(二次抗体はAlexa fluor594標識されている)。
【0064】
第1群「H1」(0日目:1回のAC−8 10μg/mlの点眼、1時間後に屠殺)。
【0065】
AC−8処置眼(第1群)とPBS対照眼(第6群)との間で、蛍光に差がないことが示され、AC−8 10μg/mlの単回点眼の1時間後に、AC−8移行が眼組織内において観察されないことが実証された。
【0066】
第2群「H6」(0日目:5回のAC−8、10μg/mlの点眼、1時間後に屠殺)。
【0067】
AC−8を5時間にわたって毎時間ごとに点眼したとき、および屠殺を最後の点眼の1時間後に実施したとき、上皮下間質中に位置している樹状細胞によるAC−8の貪食に相当する可能性もあるドットとして、AC−8が角膜の周辺部において検出される。角膜の中央部では、染色はまた、広範なシグナルならびにまばらなシグナルとして間質中でも観察される。毛様体および網膜では、PBS処置ラット(第6群)と比較すると、広範囲であるが、薄い染色が検出できる。
【0068】
第3群「D4」(0日目〜3日目:1日あたり5回のAC−8 10μg/mlの点眼、4日目:1回の点眼、1時間後に屠殺)。
【0069】
角膜に対する免疫組織化学が、4日間にわたる1日5回の、および5日目の1回のAC−8による処置に続いた。結果を第6ビヒクル群と比較した。AC−8が、10μg/mlの濃度にて4日間にわたり1日に5回点眼されるとき(図1、a〜k)、AC−8の強い移行が、角膜の周辺部(図1e〜h)、ならびに角膜中央部の前部間質(図1a〜d)において観察される。AC−8の移行は、角膜の中央部より角膜の周辺部、輪部、および毛様体においてはるかに高く、AC−8が経強膜経路を通して眼内に移行し、その後角膜中に拡散することを示唆している。ここで再び、樹状細胞はAC−8を貪食したように思われる、というのも、AC−8で陽性に染色された樹状細胞が上皮下間質に位置しているからである(図1d)。網膜では、AC−8は、内側の網膜の境界の星状細胞内に位置している。
【0070】
第4群「SCJ1」(0日目:1回のAC−8、10μg/mlの結膜下注射、1時間後に屠殺)。
【0071】
AC−8の単回の結膜下注射は、前眼部と後眼部の両方におけるAC−8の非常に強い染色という結果をもたらす。結果を第7ビヒクル群と比較した。角膜では、AC−8は、広範囲の染色として上皮内および間質内で濃縮され、ならびに角膜細胞内に位置する。
【0072】
毛様体では、AC−8は移行したと思われ、そして上皮細胞内に蓄積される。網膜では、AC−8は明らかに膠細胞(星状細胞ならびにMuller膠細胞の延長部分)内に位置している。網膜の色素上皮細胞(RPE細胞)では、同様に強いシグナルが観察される。
【0073】
第5群「SCJ6」(0日目:1回のAC−8、10μg/mlの結膜下注射、6時間後に屠殺)。
【0074】
角膜では、AC−8は、原則的に間質内に一部残っているように見える。毛様体では、第4群と比較して、蛍光シグナルが減少しているが、この時点では輪部はまだ染色されている。網膜では、AC−8シグナルは、もはや膠細胞および星状細胞内には存在していない。網膜の色素上皮細胞(RPE細胞)では、同様にシグナルが減少している。結果を第7ビヒクル群と比較した。
【0075】
これらの実験において、最初の抗体を入れない内部対照は陰性であり、そして多少の非特異的バックグラウンドを示したPBS処置眼とは対照的に、ごくわずかな非特異的バックグラウンドしか示さなかった。
【0076】
IHC検出によるサンプルの分析は、AC−8を特異的な免疫組織化学プロトコールを使用して検出できることを示唆している。正常な角膜に対するAC−8 10μg/mlの点眼後に、抗体は:
−単回点眼の1時間後の角膜または眼組織のいずれでも検出されず;
−5回の点眼後に角膜では検出され、弱いシグナルが毛様体で観察されたが、網膜ではシグナルを検出できず;
−4日間にわたって1日5回点眼すると、角膜、毛様体および網膜において強く位置している。
【0077】
角膜移行が観察されるとき、2つのタイプの染色:一方が間質に位置している広範囲の染色、そしてもう一方が上皮下角膜細胞(角化嚢胞または樹状細胞)内の濃厚な染色、が検出される。AC−8は正常な角膜中の上皮下間質内の細胞および上皮除去した角膜における全間質厚の中の細胞において観察されるので(次の実施例を参照のこと)、AC−8が樹状細胞により貪食されることは可能である。
【0078】
AC−8 10μg/mlの単回結膜下注射の1時間後、抗体は角膜だけに位置するのではなく、毛様体、および網膜の星状細胞や膠細胞内でも観察される。この投与経路を使用して、網膜の深外層(網膜色素上皮細胞)もまた染色される。染色は、点眼後に観察されるように、中央部に比べて角膜の周辺部でより強い。AC−8 10μg/mlの単回結膜下注射の6時間後、抗体は眼からほとんど排除されている:それは角膜や輪部にわずかに残っているが、もはや毛様体や網膜では検出できない。
【0079】
結論として、これらの観察は、AC−8が無傷の角膜を通って、またはその隣接輪部を通って眼の眼組織の内側に移行できること、そしてこの移行が10μg/mlの濃度にて観察し得ることを示唆している。
【0080】
AC−8は、輪部の経強膜経路を通って移行しているように見え、そしてそれが網膜移行および角膜周辺部における強い染色を説明している。AC−8は、樹状細胞または角化嚢胞に相当し得る角膜細胞内に貪食される。AC−8が樹状細胞の活性化を引き起こすかどうか、依然として明らかにされていない。
【0081】
実施例3
AC−8は、無傷の眼内へ移行するので、点眼の1時間後にELISA試験を使用することによって、房水中および硝子体液中で検出できる。
【0082】
ブラウン・ノルウェー系統からの60(60)匹の有色ラットを、6(6)匹の動物から成る10(10)個の群に無作為に割り付ける。
【0083】
局所投与(第1〜8群)のために、動物に1日に5回、両眼に10μlの試験物またはビヒクルを与えた。
【0084】
結膜下投与(第9および10群)のために、動物に、両眼への50μlの試験物1の単回注射を与えた。
【0085】
以下の表には、処置群の動物の割り当てをまとめてある:
【0086】
【表3】

【0087】
相当する時点において、動物を麻酔した。血清の調製のために、全血をサンプリングした。安楽死後、房水(AH)、角膜上皮(Cepi)、角膜間質+内皮(Cstr+end)、硝子体液(V)および網膜(R)を、両眼からサンプリングし、Elisa分析のために各動物について保存した。
【0088】
投与の経路と方法
第1〜8群について、試験物またはビヒクルを、適当なマイクロピペットを使用して、日中(午前8〜午後4:00)、両眼に5×10μlを点眼した。
【0089】
第9〜10群について、動物に、麻酔下(キシラジン5mg/kg;ケタミン25mg/kgの筋肉内注射)、両眼に単回結膜下注射(50μl)を与えた。
【0090】
先の表中に列挙した時点において、動物を、Rompun(登録商標)(キシラジン5mg/kg)とImalgene(登録商標)1000(ケタミン25mg/kg)の混合溶液の筋肉内注射によって麻酔した。
【0091】
約2mlの血液を、屠殺直前に心臓穿刺によって採取した。各動物について600μlの血清を、Elisaアッセイまで−80℃にて保存した。
【0092】
過量のペントバルビタールの心臓注射によって、動物を安楽死させた。
【0093】
屠殺直後に、房水(AH)、角膜上皮(Cepi)、角膜間質+内皮(Cstr+end)、硝子体液(V)および網膜(R)を、2匹のラットの両眼から素早く、且つ、慎重に解剖した。両眼からの眼球構造物を、各群からの各動物について保存した。
【0094】
房水および硝子体液中のAC−8濃度の結果を、図4に示す。
【0095】
実施例4
角膜の上皮除去後、眼内移行は、房水および硝子体液において促進される。
【0096】
ラットの上皮除去した角膜上に局所投与したとき、および角膜の上皮再形成相の間のFabの生体分布を評価するために、この一連の実験を実施した。この実験は、局所投与したAC−8 Fabフラグメントの移行、および角膜−潰瘍の瘢痕形成の間の角膜内へのFabの移行の評価を可能にした。
【0097】
試験する物質は、先に記載したとおりのものであったが、濃度は100μg/mlであった。動物は先に記載したとおりのものであった。点眼または結膜下注射は、両眼ではなく片眼で実施した。
【0098】
0日目には、一般的な麻酔(キシラジン+ケタミン)および局所麻酔下、調整された生検パンチと外科用メスを使用して、それぞれの動物の片方の眼を調整した角膜の領域において上皮除去した。倫理的理由から、角膜潰瘍モデルとそれに続く処置は、動物1匹あたり1眼に対してのみ実施した。反対側の眼は、手付かずのままにしておかなくてはならない。1群あたり5匹のラット(5眼、右眼のみ)を使用した。動物に、以下のとおり投与した:
【0099】
【表4】

【0100】
サンプリングについて、以下の表中にまとめる:
【0101】
【表5】

【0102】
各群(1〜8)の4匹のラット(4つの処置眼)を、ELISA試験のための房水と硝子体液、血清および神経網膜を採取するのに使用した。血清サンプル(約1〜2mL)を、屠殺直前に第1〜8群の各群の5匹のラットから採取した。合計32個の房水(約10〜20μL)および硝子体液(約20〜30μL)のサンプル、32個の角膜および網膜のサンプル、ならびに40個の血清サンプルを、ねじ蓋の付いたエッペンドルフ・コンテナ内に採取し、そして−80℃にて保存した。
【0103】
各群の5匹のラットの両眼(合計16個のサンプル)を固定し、そして凍結切片法の準備をした。
【0104】
凍結切片を、角膜層および眼球内のAC−8 Fabの分布を測定するための標識抗体を用いた免疫組織化学的(IHC)分析に使用した。
【0105】
凍っている凍結切片(10μm)を、以下のとおり処理した:
−室温(RT)にてパラホルム4%中で15分間、固定し、
−RTにてPBS 1X中、10分間で2度すすぎ、
−RTにてPBS−Triton X−100、0.1%中で2×10分間すすぎ、
−対照をPBS1Xのみの中でインキュベートしたことを除いて、ヤギ抗ヒトIgG(Pierce#31132、PBS−Triton X−100、0.1%中に1/50)と一緒に+4℃にて一晩インキュベートし、
−RTにてPBS−Triton X100、0.1%中で3×10分間すすぎ、
【0106】
−分子プローブであるロバ抗ヤギIgG(H+L)−Alexafluor594(赤色)1/50と一緒に、暗所内で+20℃にて1時間インキュベートし、
−RTにてPBS 1X中、10分間で2度すすぎ、
−核標識のために、PBS 1X中のDAPI(4’、6’−ジアミジノ−2−フェニルインドール)(青色)1/5000中、暗所内でRTにて5分間インキュベートし、
−RTにてPBS 1X中で5×5分間すすぎ、
−RTにて蒸留水中において10分間、1度すすぎ、そして乾燥させ、
−蛍光顕微鏡(Olympus)を使用したレクチャー(lecture)のために顕微鏡用スライド上に乗せた。
【0107】
核を、DAPIを用いて青色に染色した。AC−8を示すのに使用した抗ヒトIgG抗体は赤色に見える(二次抗体はAlexa fluor594標識されている)。
【0108】
第1群「H5」(0日目:5回のAC−8 100μg/mLの点眼、最後の点眼の1時間後に屠殺)。
【0109】
AC−8は、角膜の中央部(特に、上皮形成−上皮除去領域の間の接合点)、および周辺部においてはっきりと検出される:AC−8は潰瘍形成の境界における上皮下の空間で濃縮される。興味深いことに、AC−8移行はまた、上皮下の空間において角膜の周辺部でも観察される。角膜内皮では、AC−8は中央部の領域において検出されないが、周辺部領域でわずかに検出できる。対照であるPBS処置角膜の免疫組織化学は、非常にわずかなバックグラウンドしか示さない。
【0110】
輪部では、AC−8は毛様体と虹彩にも位置している。ここで留意すべきは、AC−8がさらに輪部の血管内皮細胞内でも同定されることである。
【0111】
上皮除去した角膜上のこのAC−8分布は、Fabの移行が、直接角膜を透過した移行というよりむしろ、主に輪部および経強膜経路を通して起こっていることを示している。
【0112】
第1群では、AC−8の非常に弱い標識付けが網膜で観察される。
【0113】
第2群「H29」(0日目:5個のAC−8 100μg/mLの点眼、24時間後に屠殺)。
【0114】
第2群では、角膜中央部の角膜上皮は、再構成された上皮の表面に多少不規則なものがあるが(図2aの白い四角部分)、実験した切片のすべてほとんど完全に再形成されている(図2a〜j)。AC−8は、上皮下の空間の細胞内に位置したままである。角膜の周辺部(図2e〜j)では、AC−8が、上皮、上皮下の空間(図2i矢印)において濃縮され、そして内皮に蓄積される(図2gおよび2j、矢印)。
【0115】
5回の点眼の24時間後に、AC−8は、角膜表面から角膜の深層内そして内皮まで移行した。それはまた、この時点で虹彩においてもはっきりと観察される(図2fおよび2hの矢印)。AC−8を含む浸潤細胞が、角膜の上皮下の空間に位置している(図2fおよび2h、矢印、図2c、高倍率、図2i、矢印)。これらの細胞は、多形核細胞、マクロファージまたは樹状細胞に該当するはずである。
【0116】
輪部および毛様体では、AC−8は、上皮を通って移行し、そして上皮下の領域および毛様体に位置している。
【0117】
第2群では、AC−8は、網膜後部の中央で検出されるのではなく、周辺網膜で検出される。第7対照群と比較すると、AC−8は、周辺網膜の顆粒層に位置しているように見える。
【0118】
第3群「D2」(0日目〜1日目:AC−8 100μg/mLの1日あたり5回の点眼、2日目:1回の点眼、1時間後に屠殺)。
【0119】
第3群では、上皮は完全に再形成され、そして点眼を瘢痕形成期間中続けた。AC−8は、ビヒクル対照群と比較すると、角膜上皮細胞、間質細胞では非常に強く、そして内皮ではわずかに検出される。
【0120】
第3群の輪部および網膜前部の実験は、AC−8が、ビヒクル対照群と比較すると、毛様体において深く移行したことを示している。AC−8は毛様体上皮内で同定される。
【0121】
第3群では、AC−8の顕著な染色は、網膜後部(中央部)ではなく、周辺網膜で認められる。興味深いことに、AC−8は、すべての網膜層、ならびにRPE細胞層の中に拡散したように見える。
【0122】
無傷の角膜上のAC−8の移行(上記を参照のこと)と比較すると、上皮の潰瘍形成がAC−8の網膜移行を促進したように見える。
【0123】
第4群「SCJ1」(0日目:1回のAC−8溶液、100μg/ml、の注射、1時間後に屠殺)、第5群「SCJ6」(0日目:1回のAC−8溶液、100μg/ml、の注射、6時間後に屠殺)、第6群「SCJ24」(0日目:1回のAC−8溶液、100μg/ml、の注射、24時間後に屠殺)。
【0124】
結膜下の空間へのAC−8の単一投与は、1時間、6時間および24時間の時点でAC−8が角膜周辺部に移行できるようにするのに効果的である。
【0125】
結膜下注射後のAC−8の移行は、周辺角膜において角膜の中央部よりも強く、そしてそこでは、潰瘍角膜(第4群および第5群)でさえ全時点において移行が弱いままであった。上皮の完全性の再形成は、24時間の時点ですべての角膜層および虹彩におけるAC−8分布に影響を及ぼさない(第6群)。
【0126】
輪部および毛様体では、AC−8は、第6群における輪部の上皮下領域でのAC−8の更なる濃縮と併せて、第4および5群で観察されたように均一に分配される。結膜下注射もまた、1時間(第4群)、6時間(第5群)および24時間(第6群)の時点で、周辺網膜の網膜層においてだけではなく、よりわずかではあるが、網膜後部においても、角膜潰瘍形成のある眼においてAC−8の移行を可能にするのに効果的である。24時間の時点で、AC−8は、周辺網膜で大部分が濃縮されている(第6群)。
【0127】
網膜では、AC−8は、網膜細胞におけるまばらな濃度の染色として検出されるが、AC−8は網膜全体に均一に分配されていない。
【0128】
ICH観察を、以下の表中にまとめる:
【0129】
【表6】

【0130】
上皮再形成過程の間、AC−8の点眼は、対照と比較すると角膜の瘢痕形成を遅らせず、且つ、いずれかの臨床的または組織学的な炎症反応を顕著に促進することもない。
【0131】
角膜(上皮、間質および内皮)のAC−8の移行は、主に角膜輪部および輪部において観察される。AC−8は角膜細胞(上皮および内皮細胞、ならびに間質細胞)内で検出され、そしてまた、AC−8注射に対する局所的な免疫学的反応の結果として生じ得た上皮下の浸潤細胞内でも観察される(AC−8は外来−ヒト−タンパク質として認識される)。
【0132】
AC−8は、もっと遅い時点で、虹彩、毛様体および周辺網膜にも移行し、そして外側から内側の眼組織への拡散を示唆した。興味深いことには、AC−8がさらに内皮細胞から成る血管内皮においても観察され、それがAC−8の全身的拡散が起こる可能性があり得ることを暗示することである。
【0133】
角膜の異なった領域でのAC−8の局在化は、潰瘍が上皮の中央部に存在しているときでさえ、AC−8移行がほとんど経強膜経路を通して起きていることをはっきりと示している。
【0134】
AC−8の点眼は、すべての病期のヘルペス性角膜炎において、角膜上皮が再形成しているときでさえ、角膜に移行できるはずである。
【0135】
結膜下注射は、角膜を標的とするAC−8の反復点眼と同じくらい効果的である。
【0136】
角膜におけるAC−8の移行は、点眼または結膜下注射のいずれかを使用した同じ経強膜経路をたどるように見える。
【0137】
結膜下注射は、毛様体および網膜を標的とする反復点眼より効果的である。
【0138】
上皮除去した角膜の房水および硝子体液に対して得られたELISAの結果を、図5にまとめる。図から分かるように、房水および硝子体液の両方でのAC−8定量化は、眼内への効果的な移行を実証している。
【0139】
結論として、潰瘍角膜に対して実施したこの分布研究から、1日あたりの5回の点眼が上皮除去した角膜に対して無毒であると考えられる。
【0140】
1日あたりの5回の点眼後、AC−8は、24時間、角膜細胞内に位置したままであり、そして角膜深層、ならびに虹彩および毛様体内に移行する。
【0141】
AC−8の移行は、輪部および経強膜経路を通してほとんど観察され、そしてそれは、AC−8がすべての病期のヘルペス性角膜炎において、上皮が再形成されるときでさえ、角膜に移行できることを示唆している。
【図1a】

【図1b】

【図1c−1d】

【図1e】

【図1f】

【図1g−1h】

【図1i】

【図1j】

【図1k】

【図1l】

【図1m】

【図1n】

【図1o】

【図1p】

【図1q】

【図2a】

【図2b】

【図2c−2d】

【図2e】

【図2f−2g】

【図2h−2j】

【図2k】

【図2l】

【図2m】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所投与による眼疾患の処置または診断のための医薬の製造のための、配列番号3または配列番号4に対して90%の相同性を有する配列を含む抗体の完全ヒト抗原結合フラグメントの使用。
【請求項2】
局所投与による眼疾患の処置または診断のための医薬の製造のための、配列番号3または配列番号4を有する抗体の完全ヒト抗原結合フラグメントの使用。
【請求項3】
局所投与による眼疾患の処置または診断のための医薬の製造のための、配列番号3および配列番号4に対して90%の相同性を有する配列を含む抗体の完全ヒト抗原結合フラグメントの使用。
【請求項4】
局所投与による眼疾患の処置または診断のための医薬の製造のための、配列番号3および配列番号4を有する抗体の完全ヒト抗原結合フラグメントの使用。
【請求項5】
局所投与による眼疾患の処置または診断のための医薬の製造のための、配列番号1および配列番号2に対して90%の相同性を有する配列を含む抗体の完全ヒト抗原結合フラグメントの使用。
【請求項6】
局所投与による眼疾患の処置または診断のための医薬の製造のための、配列番号1および配列番号2を有する抗体の完全ヒト抗原結合フラグメントの使用。
【請求項7】
前記抗体が、HSV1およびHSV2を中和することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
ウイルス表面抗原がgDであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記医薬が、眼内への抗原結合フラグメントの保持増強剤と共に製剤化されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記保持増強剤が、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ビニルポリアルコール、キサンタンガム、ジェランガム、キトサン、ポリ乳酸およびそれらの誘導体から成る群の中から選択されることを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記医薬が、点眼剤、軟膏剤、ゲル剤、眼科用クリーム剤の形態で存在することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記眼疾患が、眼角膜炎、眼瞼炎、結膜炎、眼瞼結膜炎、潰瘍形成であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記完全ヒト結合フラグメントが、そこに結合させた検出可能な標識を有することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の抗体の完全ヒト結合フラグメントを含んでなる、眼疾患の処置または診断のための眼局所投与のための医薬組成物。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−526075(P2012−526075A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−509016(P2012−509016)
【出願日】平成22年5月4日(2010.5.4)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056047
【国際公開番号】WO2010/128053
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(508178478)リボバックス バイオテクノロジーズ ソシエテ アノニム (6)
【Fターム(参考)】