説明

眼科学的洗浄溶液および眼科学的洗浄方法

【課題】手術時に炎症を阻害し、疼痛を阻害し、散瞳(瞳孔の拡張)を生じさせ、および/または眼内圧を低下させるために、複数の異なる分子標的に作用する複数の活性薬剤の眼の局所的送達のための溶液を提供すること。
【解決手段】処置中に炎症を阻害し、疼痛を阻害し、散瞳を生じさせ、および/または眼内圧を減少させるために眼科処置中に使用するための、手術中の洗浄溶液であって、当該溶液が、液体の洗浄担体内に少なくとも第一の薬剤および第二の薬剤を含有し、当該第一の薬剤および当該第二の薬剤は、複数の異なる分子標的に作用するために選択され、各薬剤は、抗炎症剤、鎮痛剤、散瞳剤、および眼内圧を減少させるための薬剤(「IOP低下剤」)の生理機能クラスから選択され、当該第二の薬剤は、当該第一の薬剤によって提供される機能とは異なる、少なくとも1つの生理機能を提供し、各薬剤は、100,000nM以下の濃度で含有される、溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(I.発明の分野)
本発明は、外科手術洗浄溶液および外科手術方法に関し、特に眼科学的手順中の使用のための洗浄溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
(II.発明の背景)
眼科外科手術は、代表的には、眼内組織の生理的完全性を保護および維持するために、生理洗浄溶液の使用を必要とする。洗浄溶液を通常必要とする眼科外科手術手順の例は、白内障の手術、角膜移植手術、硝子体網膜の手術、および緑内障に対する線維柱切除手術である。
【0003】
眼科外科手術洗浄で使用されてきた溶液としては、正常生理食塩水、乳酸加リンガー溶液、およびハートマンの乳酸加リンガー液(Hartmann’s lactated Ringer’s solution)が挙げられるが、これらは、角膜および内皮への潜在的に好ましくない効果により、最適ではない。電解質、pH調整のための緩衝剤、グルタチオン、および/または、右旋性ブドウ糖といったエネルギー源のような薬剤を含むその他の水溶液は、よりよく眼組織を保護するが、外科手術と関連したその他の生理プロセスを扱わない。眼科洗浄のための、1つの通常使われる溶液は、Garabedianらへの米国特許第4,550,022号に開示された1つの二部分緩衝化電解質およびグルタチオン溶液(two part buffered electrolyte and glutathione solution)である。この特許の開示は、本明細書中に参照として明らかに援用される。この溶液の2つの部分は、安定性を保証するために、投与直前に混合される。これらの溶液は、外科手術中、眼組織の健康を維持することを目標として、処方される。
【0004】
従来の水性洗浄溶液の、治療剤の添加による改良が、提案されてきた。例えば、Ganらへの米国特許第5,523,316号は、眼内圧を制御するために洗浄溶液に対する1つ以上の薬剤の添加を開示する。Ganらの特許に開示される眼内圧を制御するための薬剤の特定の例(その開示の全体が本明細書中に参考として援用される)は、β遮断剤(すなわち、βアドレナリン作用性レセプターアンタゴニスト)およびα−2アドレナリン作用性レセプターアゴニストである。眼内圧を制御する薬物の分類としての、ムスカリンアゴニスト、カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤、アンギオスタチックステロイド(angiostatic steroid)およびプロスタグランジンも、参照される。眼内圧の制御が意図される薬剤のみが、構想される。
【0005】
改善溶液の別の例が、発明者Ganらの名前での国際PCT出願第WO 94/08602号に開示される。この出願は、本明細書で参考として援用される。この明細書は、眼洗浄溶液中のエピネフリンといった散瞳剤の含有を開示する。さらに別の例は、発明者Cagleらの名前での国際PCT出願第WO 95/16435号により提供され、眼科洗浄溶液中の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の含有を開示する。
【0006】
1つの局所的眼科溶液は、Thomasらへの米国特許第5,811,446号に開示され、この溶液にはヒスチジンが含有され、抗緑内障剤(例えば、チモロールまたはフェニレフリン)、ステロイドまたはNSAIDといった少なくとも1つの他の活性薬剤を含有し得る。この参照から、眼科手順に関連した炎症を制限するための組成物の適用を教示する。その溶液は、眼の盲管への点滴注入器によって投与される。
【0007】
Yanniへの米国特許第5,624,893号は、創傷治癒剤(例えば、ステロイドまたは増殖因子)、および/または疼痛伝達物質(pain mediator)(例えば、NSAID)、ブラジキニンアンタゴニスト、またはニューロキニン−1アンタゴニストを含む組成物を含む。組成物は、レーザー照射および光剥離に関連した角膜のかすみの処置および防止を意図する。
【0008】
多くの局所的に適用された薬剤は、眼の炎症を処置するか、(代表的には、多くのタイプの眼科外科手術を実施するために必要な)散瞳を生じさせるか、または眼内圧を制御するために利用可能であるかまたは提案されてきたが、処置全体にわたる眼組織への、複数の治療剤の一定の制御された送達を提供するように送達される手術時の眼洗浄溶液中での使用のために、これらの薬剤を組み合わせるための試みは、これまでなされてこなかった。これらの複数の治療剤は、複数の生理機能を取り扱うために複数の分子標的に作用する。
【0009】
眼の薬物送達の様々な方法が、従来使用され、そのそれぞれには、制限があった。これらの制限は、角膜および結膜(conjuctival)毒性、組織傷害、眼球穿孔(globe perforation)、視神経外傷、網膜中心動脈および/または網膜中心静脈の閉塞、直接の網膜薬物毒性、および全身性副作用を含み得る。例えば、点眼により適用される局所薬物は、標的となった眼の部位に達する場合に、眼の自然な保護表面によりしばしば妨害される。多くの状況では、眼の表面へ適用される薬物のかなり低いパーセンテージが、所望の治療作用部位に実際に到達する。
【0010】
外科手順時の眼の薬物送達における1つの困難は、適切な時間制御を用いて所望の治療濃度レベルを達成することである。最も望まれた薬物動態学的効果は、治療の濃度幅を迅速に達成し、続いて、薬物濃度を一定レベルにて維持することできることである。これは、眼への従来の薬物送達方法によって達成されない。類似の薬物動態学的プロファイルを達成する挑戦は、1つより多い薬物を同時に送達することが望まれる場合に、実質的に調合される。分子の大きさ、その化学構造、およびその溶解度の特性を含む、独特の群の要因が、薬物が角膜上皮を透過する能力に影響を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
眼の後部へ送達された薬物の十分な濃度を達成するため、薬物は頻繁に非常に高い用量で全身投与される。これらのレベルは、血流から来る選択された薬物分子から眼の後部を保護する血液−網膜関門を克服するために必要である。外科手順のために、注射可能な薬物溶液は、眼の後部へ直接注射されることがある。結膜下および眼球周囲の注入が、より高い局所濃度が必要とされる場合、および浸透特性の低い薬物が送達される必要がある場合に、使用される。前眼房への直接の前眼房内注入が、白内障の外科手術に使用される。眼房内注入は、濃度を達成する迅速な方法を提供するが、前眼房内注入は、角膜毒性と関連があり得る。しかし、この方法は、これらの薬物が、眼の自然の循環プロセスによって急速に取り除かれる事実から逃れられない。このように、注射可能な溶液は、急速にその治療利益を失い、毒性リスクを有し得る頻繁な多用量の注射をしばしば必要とする。持続放出処方(例えば、マイクロカプセルを含む粘弾性ゲル)が、より長い作用時間にわたって眼内に注入され得る。しかし、薬物の局所的治療濃度に達するには、多少の遅れが生じ得る。このため、眼科手順中の眼の送達の制御された方法が、必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(III.発明の要旨)
本発明は、手術時に炎症を阻害し、疼痛を阻害し、散瞳(瞳孔の拡張)を生じさせ、および/または眼内圧を低下させるために、複数の異なる分子標的に作用する複数の活性薬剤の眼の局所的送達のための溶液を提供する。本発明の溶液および方法は、抗炎症剤、鎮痛剤、散瞳剤および眼内圧を低下させるための薬剤(「IOP低下剤」)からなる生理機能分類から選択される少なくとも第一の治療剤および第二の治療剤を使用する。第二の薬剤は、第一の薬剤により提供される機能と異なる、少なくとも1つの生理機能を提供する。溶液は、好ましくは、手術手順の大半の時間中に、手術部位の眼組織の連続洗浄により適用される。
【0013】
本発明のこの局面の溶液は、以下を含み得る:(a)1つ以上の鎮痛剤と組み合わせた1つ以上の抗炎症剤、そして必要に応じて1つ以上のIOP低下剤および/または散瞳剤も含み得る;(b)1つ以上のIOP低下剤と組み合わせた1つ以上の抗炎症剤、を含み、必要に応じて1つ以上の鎮痛剤および/または散瞳剤;(c)1つ以上の散瞳剤と組み合わせた1つ以上の抗炎症剤、必要に応じて1つ以上の鎮痛剤および/またはIOP低下剤;(d)1つ以上のIOP低下剤と組み合わせた1つ以上の鎮痛剤、必要に応じて1つ以上の抗炎症剤および/または散瞳剤;(e)1つ以上の散瞳剤と組み合わせた1つ以上の鎮痛剤、必要に応じて1つ以上の抗炎症剤および/またはIOP低下剤;または(f)1つ以上のIOP低下剤と組み合わせた1つ以上の散瞳剤、および必要に応じて1つ以上の抗炎症剤および/または鎮痛剤。
【0014】
本発明は、生理電解質担体流体の中に、局所的に疼痛、炎症の伝達物質を局所的に阻害し、眼内圧を低下させ、そして/または散瞳を引き起こすことを目的とする、低濃度の複数の薬剤の混合物からなる溶液を提供する。本発明は、直接手術部位に指向する、これらの薬剤を含有する洗浄溶液の手術時の送達方法も提供する。ここで、洗浄溶液は、手術部位で、疼痛および炎症を予め制限し、眼内圧を低下させ、そして/または散瞳を引き起こすために、レセプターおよび酵素のレベルで局所的に作用する。本発明の、局所的な手術時の送達法により、所望の治療効果は、全身送達法を使用する場合(例えば、静脈内、筋内、皮下、および経口)または注射による場合に必要とされるよりも低い用量の薬剤で、ほぼ即座に達成され得る。本発明の好ましい局面に従って、手順の大部分の間に連続洗浄により適用された場合、利用される薬剤の濃度は、単一の適用内で、または眼内注入により薬剤が点眼で適用される場合よりも低くてもよい。
【0015】
本発明は、眼内外科手術中に活性薬剤の送達のための、その他のタイプの組成物および方法を超えるいくつかの利点がある。眼に対する薬剤の局所的点眼に対する液体組成物は、規定投与量を送達するための正確な方法を常に提供するわけではない。なぜなら、投与の間に、点眼滴の一部は、まばたきして払われるか、排出されてしまうからである。さらに、正常洗浄溶液のその後の使用は、外科手術手順開始前の眼内または局所眼科手順の間に、点眼により眼に送達される用量を有効に希釈して除去し、それにより薬剤の治療効力を減少させると考えられ得る。
【0016】
加えて、眼内手順または局所眼科手順の間に薬物が本発明に従って洗浄によって送達され得る時間が増加するため、より低濃度の薬物が洗浄溶液で使用され得、それにより、眼毒性のリスクを低下させ得る。薬物動態学的考慮により、手術前にのみ送達される薬剤の用量は、時間の関数として可変の濃度および効力を示し、最初の適用の後しばらくして効果のピークが到達し、その後、濃度が徐々に低下することにより次第に効力が低下する。薬物の局所的点眼後の特定の薬物動態学的パラメーターは、各薬物について、薬剤の溶解性特性、ビヒクルの組成、ならびに処方物のpH、重量オスモル濃度、張度および粘性に依存して可変である。本発明の1つの利点は、提供された洗浄溶液が、眼の外科手術部位における活性薬剤の一定濃度を維持し、それにより、一定の治療効果を維持することである。
【0017】
本発明は、眼の治療の効力を上げ、副作用を低下させる二重の目的で、眼に対する制御された部位特異的な薬物送達を提供する。治療剤の濃度幅は、急速に達成され、続いて、洗浄期間中に有効に一定レベルを維持する。
【0018】
本発明は、手術手順の間、手術部位または傷を連続して洗浄する際に使用するための希釈洗浄溶液として混ぜ合わせられる薬剤の製造法も提供する。この方法では、生理電解質担体流体に複数の鎮痛剤、抗炎症剤、散瞳剤、および/または眼内圧を低下させる薬剤(「IOP低下剤」)を溶解する必要があり、各薬剤は、局所麻酔薬を除き、好ましくは100,000nM以下、より好ましくは10,000nM以下の濃度で含まれ、これは、100,000,000nM以下、好ましくは10,000,000nM以下、より好ましくは1,000,000nM以下、さらにより好ましくは100,000nM以下の濃度で適用され得る。
【0019】
本発明の方法は、疼痛および炎症の阻害、眼内圧の減少または制御、および/または散瞳の促進のための手術、治療または診察処置の間、複数のレセプターアンタゴニストおよびアゴニストならびに酵素阻害剤または活性化剤の希釈した組み合わせの、眼の創傷または手術あるいは処置部位への直接の送達を提供する。溶液中の活性成分が、処置中に局所的に連続的な様式で眼組織へ直接適用されているため、薬物は、同一の薬物が全身に(例えば、経口で、筋肉内で、皮下で、または静脈で)送達される場合に、または点眼のような単一の適用で、あるいは眼内注入によって、治療効果のために必要とされる用量と比較して極端に低用量で効果的に使用され得る。
【0020】
本明細書中に使用されているように、用語「局所的」は、創傷またはその他の手術もしくは処置部位の中、またはその周囲の薬物の適用を包含し、経口、皮下、静脈、筋肉中投与を除外する。本明細書全体で使用されるように、用語「洗浄」とは、液体の流れを使用して創傷または解剖学的構造の流水洗浄を意味することが意図される。本明細書中で使用されているように用語「連続」は、絶え間ない適用、適用された薬剤の事前に決められた治療局部濃度を実質的に維持するために十分な頻度で頻繁な間隔で繰り返される適用、およびわずかな休止以外は、その他の薬物または処理装置の導入を可能にするように、あるいは手術技術によって、実質的に一定の、事前に決められた治療局所濃度が、創傷または手術部位で局所的に絶え間ない維持されるような、絶え間ない適用を包含する。
【0021】
本明細書中に使用されるように、用語「創傷」とは、別の状況で特定されない限りは、手術的創傷、手術/治療部位および外傷を包含することが意図される。
【0022】
本明細書中に使用されるように、用語「手術の」および用語「処置の」とは、別の状況で特定されない限りは、手術的、治療的および診察処置を包含することをそれぞれ意図される。
【0023】
選択された治療薬剤を含有する洗浄溶液は、手術時に局所的に手術部位の眼組織に適用される。例えば、眼内処置のためなら眼内に、表面処置のためなら眼の外部に適用される。本明細書中に使用されるように、用語「手術時」は、術中、術前および術中、術中および術後、ならびに術前、術中、および術後の適用を包含する。好ましくは、洗浄溶液は、術中同様、術前および/または術後に適用される。洗浄溶液は、最も好ましくは、処置の開始前、または実質的な組織外傷の前および処置の間にわたり連続して、疼痛および炎症を予防し、眼圧上昇を予防的に阻害し、そして/または散瞳を予防的に引き起こすために、創傷または手術部位に適用される。本発明の好ましい局面において、連続洗浄が、大半の手術外傷の前およびその間、ならびに/または散瞳が必要とされる可能性がある期間および/または眼内圧の制御が必要となる可能性がある期間、実質的な処置部分にわたって送達される。
【0024】
本発明の方法および溶液を使用した洗浄による、薬剤の低用量適用の利点は、3つある。これらの薬剤の有用性をしばしば制限する全身性副作用が、避けられる。加えて、本発明の溶液中に特定の適用のために選択される薬剤は、それらが作用する伝達物質に関しては、高度に特異的である。この特異性は、使用される低用量で維持される。最後に、これらの活性剤の対手術処置コストが、低いことである。
【0025】
より詳細には:(1)局所的投与が、代謝、血流などの術中における可変性に関わらず、標的部位での既知の濃度を保証する;(2)直接の送達方式により、治療濃度は、ほぼ即座に得られ、このように用量制御の改善が提供される;および(3)創傷や手術部位への直接の活性剤の局所的投与は、例えば、第一経路のおよび第二経路の代謝といった細胞外プロセスによる薬剤の分解も実際的に減少させる。代謝は、薬剤が全身に投与される場合(例えば、経口で、静脈で、皮下で、または筋内で)、別の方法で起こり得る。これは、これらの活性剤がペプチドである場合、特に正しい。なぜならペプチドは、急速に代謝されるからである。このように、局所投与は、その他の方法では治療的に使用できない化合物または薬剤の使用を可能にする。分解され得る一部薬剤の連続した置換を提供もするが、創傷または手術部位に対する、局所的な連続送達は、薬剤分解または代謝を最小化する。レセプター占拠を維持するのに十分な、局所的な治療濃度は、手術的処置の期間にわたり維持されることが保証される。
【0026】
本発明に従った、手術処置の全体にわたる手術中における洗浄溶液の局所的投与は、(散瞳剤が使用された場合)散瞳を維持しつつ、予防的鎮痛、抗炎症、および/または(IOP低下剤が使用される場合)眼内圧の制御を生じさせる。抗炎症、(ある種の適用の場合は)鎮痛、(ある種の適用の場合は)IOP減圧および(ある種の適用の場合は)散瞳の予防効果を最大化するために、本発明の洗浄溶液は、最も好ましくは、術前、術中、および術後に適用される。標的レセプターを占拠することにより、または重要な手術外傷の開始前に局所的に標的酵素を不活化あるいは活性化することにより、本発明の洗浄溶液の薬剤は、標的とされた病理プロセスを予防として阻害するために特定経路を調節する。炎症伝達物質および炎症プロセスが、本発明に従って組織損傷が起こり得る前に阻害され、眼内圧上昇の伝達が同様に阻害される場合は、それらのプロセスが開始してしまった後に投与されるよりも、より実質的に利点がである。
【0027】
本発明の洗浄溶液は、薬物の組み合わせを包含し、各溶液は、複数のレセプターまたは酵素に作用する。薬剤は、このように、疼痛および炎症を包含する病理プロセス、および/または眼内圧の上昇を調節するプロセスに対して効果的である。これらの薬剤の作用は、本発明の複数のレセプターアンタゴニストおよび阻害アゴニストが個々の薬剤の効力と比較して、組み合わせによる相当な増加された効力を提供するという点において、相乗的であることが期待される。
【0028】
手術時に使用される場合、洗浄溶液は、現在使用されている洗浄液体と比較して、手術部位の疼痛および炎症の臨床上重要な減少を引き起こすこととなり、それにより患者の術後の鎮痛薬の必要が減少し、適切な場合は、患者の早期回復が可能となる。予防的に眼内圧を制御することが、術後における上昇した眼内処置の必要性を減少させることとなることも、期待できる。
・本発明はさらに以下を提供し得る:
・(項目1)
眼科的処置中に、手術時に炎症を阻害し、疼痛を阻害し、散瞳を生じさせ、および/または眼科的処置中に眼内圧を減少させるための方法であって、当該方法が、液体の洗浄担体内に少なくとも第一および第二の薬剤を含む溶液によって眼組織を連続して洗浄する工程を包含し、当該第一および第二の薬剤は、複数の異なる分子標的に対し作用するために選択され、各薬剤は、抗炎症剤、鎮痛剤、散瞳剤および眼内圧を減少させるための薬剤(「IOP低下剤」)から選択され、第二の薬剤は、第一の薬剤により提供される機能とは異なる少なくとも1つの生理機能を提供する、方法。
・(項目2)
上記溶液が、ステロイド、非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)、抗ヒスタミン剤、肥満細胞阻害剤、および誘導性一酸化窒素シンターゼ(iNOS)阻害剤からなる群から選択される抗炎症剤を含む、項目1に記載の方法。
・(項目3)
上記ステロイドが選択される場合は、デキサメタゾン、フルオロメトロンおよびプレドニゾロンからなる群から選択され;上記NSAIDが選択される場合は、フルルビプロフェン、スプロフェン、ジクロフェナク、ケトプロフェンおよびケトロラクからなる群から選択され;上記抗ヒスタミン剤が選択される場合は、レボカバスチン、エメダスチン、オロパタジン、ケトチフェン、およびアゼラスチンからなる群から選択され;上記肥満細胞阻害剤が選択された場合は、クロモリンナトリウム、ロドキサミド、ネドクロミル、ケトチフェンおよびアゼラスチンからなる群から選択され;ならびに上記iNOSの阻害剤が選択された場合は、N−モノメチル−L−アルギニン、1400 W、ジフェニレンヨージウム、S−メチルイソチオウレア、S−(アミノエチル)イソチオウレア、L−N−(1−イミノエチル)リジン、1,3−PBITU、および2−エチル−2−チオシュードウレアからなる群から選択される、項目2に記載の方法。
・(項目4)
上記溶液が、局所麻酔薬およびオピオイドからなる群から選択される鎮痛剤を含む、項目1に記載の方法。
・(項目5)
上記局所麻酔薬が選択される場合には、リドカイン、テトラカイン、ブピバカイン、およびプロパラカインからなる群から選択され;オピオイドが選択される場合には、モルヒネ、フェンタニール、ヒドロモルホンからなる群から選択される、項目4に記載の方法。
・(項目6)
上記溶液が、α−1アドレナリン作用性レセプターアゴニストおよび抗コリン作用剤(anticholinergic agent)からなる群から選択された散瞳剤を含む、項目1に記載の方法。
・(項目7)
上記α−1アドレナリン作用性レセプターアゴニストが選択された場合には、フェニレフリン、エピネフリン、およびオキシメタゾリンからなる群から選択され;上記抗コリン作用剤が選択される場合には、トロピカミド、シクロペントレート、アトロピン、およびホマトロピンからなる群から選択される、項目6に記載の方法。
・(項目8)
上記溶液が、βアドレナリン作用性レセプターアンタゴニスト、カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤、α−2アドレナリン作用性レセプターアゴニスト、およびプロスタグランジンアゴニストからなる群から選択されたIOP低下剤を含む、項目1に記載の方法。
・(項目9)
上記βアドレナリン作用性レセプターアンタゴニストが選択された場合には、チモロール、メチプラノロール(metipranolol)およびレボブノロールからなる群から選択され;上記カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤が選択された場合には、ブリンゾラミド(brinzolamide)、およびドルゾラミドからなる群から選択され;上記α−2アドレナリン作用性レセプターアゴニストが選択される場合には、アプラクロニジン、ブリモニジンおよびオキシメタゾリンからなる群から選択され;ならびに、上記プロスタグランジンアゴニストが選択される場合には、ラタノプロスト、トラボプロスト、およびビマトプロストからなる群から選択される、項目8に記載の方法。
・(項目10)
上記溶液中の上記第一のおよび上記第二の薬剤のそれぞれが、100,000nM以下の濃度で含有される、項目1に記載の方法。
・(項目11)
上記溶液中の上記第一の薬剤および上記第二の薬剤のそれぞれが、10,000nM以下の濃度で含有される、項目1に記載の方法。
・(項目12)
上記液体の洗浄担体が、さらに、生理平衡塩溶液を提供するために十分な電解質、細胞エネルギー源、緩衝剤、フリーラジカル除去剤、およびその混合剤から選択される補助剤を含む、項目1に記載の方法。
・(項目13)
上記液体の洗浄担体が、さらに生理平衡塩溶液を提供するために十分な電解質、細胞エネルギー源、緩衝剤、フリーラジカル除去剤を含む、項目1に記載の方法。
・(項目14)
上記電解質が選択される場合には、50〜500mMのナトリウムイオン、0.1〜50mMのカリウムイオン、0.1〜5mMのカルシウムイオン、0.1〜5mMのマグネシウムイオン、50〜500mMの塩化物イオンおよび0.1〜10mMのリン酸塩イオンを含有し;上記緩衝剤が選択される場合には、濃度が10〜50mMの重炭酸イオンを含有し;細胞エネルギー源が選択される場合には、右旋性ブドウ糖およびブドウ糖から選択され、濃度が1〜25mMで存在し;上記フリーラジカル除去剤が選択される場合には、濃度が0.05〜5mMでグルタチオンを含む、項目12または13に記載の方法。
・(項目15)
上記第一のおよび上記第二の薬剤が、(a)1つ以上の鎮痛剤と組み合わせた1つ以上の抗炎症剤を含み、必要に応じて1つ以上のIOP低下剤および/または散瞳剤も含有してもよく;(b)1つ以上のIOP低下剤と組み合わせた1つ以上の抗炎症剤を含み、必要に応じて1つ以上の鎮痛剤および/または散瞳剤も含有してよく;(c)1つ以上の散瞳剤と組み合わせた1つ以上の抗炎症剤を含み、必要に応じて1つ以上の鎮痛剤および/またはIOP低下剤も含有してよく;(d)1つ以上のIOP低下剤と組み合わせた1つ以上の鎮痛剤を含み、必要に応じて1つ以上の抗炎症剤および/または散瞳剤も含有してよく;(e)1つ以上の散瞳剤と組み合わせた1つ以上の鎮痛剤を含み、必要に応じて1つ以上の抗炎症剤および/またはIOP低下剤も含有してよく;あるいは(f)1つ以上のIOP低下剤と組み合わせた1つ以上の散瞳剤を含み、必要に応じて1つ以上の抗炎症剤および/または鎮痛剤を含有してよい、項目1に記載の方法。
・(項目16)
上記溶液が、NSAID、チモロールおよびフェニレフリンを含有する、項目1に記載の溶液。
・(項目17)
上記溶液が、NSAID、チモロールおよびトロピカミドを含有する、項目1に記載の溶液。
・(項目18)
上記溶液が、オキシメタゾリンおよびNSAIDを含有する、項目1に記載の溶液。
・(項目19)
上記溶液が、ステロイド、NSAID、チモロールおよびフェニレフリンを含有する、項目1に記載の溶液。
・(項目20)
上記溶液が、チモロール、NSAID、トロピカミドおよび局所麻酔剤を含有する、項目1に記載の溶液。
・(項目21)
処置中に炎症を阻害し、疼痛を阻害し、散瞳を生じさせ、および/または眼内圧を減少させるために眼科処置中に使用するための、手術中の洗浄溶液であって、当該溶液が、液体の洗浄担体内に少なくとも第一の薬剤および第二の薬剤を含有し、当該第一の薬剤および当該第二の薬剤は、複数の異なる分子標的に作用するために選択され、各薬剤は、抗炎症剤、鎮痛剤、散瞳剤、および眼内圧を減少させるための薬剤(「IOP低下剤」)の生理機能クラスから選択され、当該第二の薬剤は、当該第一の薬剤によって提供される機能とは異なる、少なくとも1つの生理機能を提供し、各薬剤は、100,000nM以下の濃度で含有される、溶液。
・(項目22)
上記溶液が、ステロイド、非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)、抗ヒスタミン剤、肥満細胞阻害剤、および誘導性一酸化窒素シンターゼ(iNOS)阻害剤からなる群から選択された抗炎症剤を含有する、項目21に記載の溶液。
・(項目23)
上記ステロイドが選択される場合は、デキサメタゾン、フルオロメトロンおよびプレドニゾロンからなる群から選択され;上記NSAIDが選択される場合は、フルルビプロフェン、スプロフェン、ジクロフェナク、ケトプロフェンおよびケトロラクからなる群から選択され;上記抗ヒスタミン剤が選択される場合は、レボカバスチン、エメダスチン、オロパタジン、ケトチフェン、およびアゼラスチンからなる群から選択され;上記肥満細胞阻害剤が選択された場合は、クロモリンナトリウム、ロドキサミド、ネドクロミル、ケトチフェンおよびアゼラスチンからなる群から選択され;ならびに上記iNOS阻害剤が選択された場合は、N−モノメチル−L−アルギニン、1400 W、ジフェニレイヨージウム、S−メチルイソチオウレア、S−(アミノエチル)イソチオウレア、L−N−(1−イミノエチル)リジン、1,3−PBITU、および2−エチル−2−チオシュードウレアからなる群から選択される、項目22に記載の溶液。
・(項目24)
上記溶液が、局所麻酔薬およびオピオイドからなる群から選択される鎮痛剤を含む、項目21に記載の溶液。
・(項目25)
上記局所麻酔薬が選択される場合には、リドカイン、テトラカイン、ブピバカイン、およびプロパラカインからなる群から選択され;オピオイドが選択される場合には、モルヒネ、フェンタニール、ヒドロモルホンからなる群から選択される、項目24に記載の溶液。
・(項目26)
上記溶液が、α−1アドレナリン作用性レセプターアゴニストおよび抗コリン作用剤からなる群より選択される散瞳剤を含む、項目21に記載の溶液。
・(項目27)
上記α−1アドレナリン作用性レセプターアゴニストが選択された場合には、フェニレフリン、エピネフリン、およびオキシメタゾリンからなる群から選択され;上記抗コリン作用剤が選択される場合には、トロピカミド、シクロペントレート、アトロピン、およびホマトロピンからなる群から選択される、項目26に記載の溶液。
・(項目28)
上記溶液が、βアドレナリン作用性レセプターアンタゴニスト、カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤、α−2アドレナリン作用性レセプターアゴニスト、およびプロスタグランジンアゴニストからなる群から選択されたIOP低下剤を含む、項目21に記載の溶液。
・(項目29)
上記βアドレナリン作用性レセプターアンタゴニストが選択された場合には、チモロール、メチプラノロールおよびレボブノロールからなる群から選択され;上記カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤が選択された場合には、ブリンゾラミド、ドルゾラミドからなる群から選択され;上記α−2アドレナリン作用性レセプターアゴニストが選択される場合には、アプラクロニジン、ブリモニジンおよびオキシメタゾリンからなる群から選択され;ならびに、上記プロスタグランジンアゴニストが選択される場合には、ラタノプロスト、トラボプロスト、およびビマトプロストからなる群から選択される、項目28に記載の溶液。
・(項目30)
上記溶液中の上記第一の薬剤および上記第二の薬剤のそれぞれが、10,000nM以下の濃度で含有される、項目21に記載の溶液。
・(項目31)
上記液体の洗浄担体が、さらに、生理平衡塩溶液を提供するために十分な電解質、細胞エネルギー源、緩衝剤、フリーラジカル除去剤、およびその混合剤から選択される補助剤を含む、項目21に記載の溶液。
・(項目32)
上記液体の洗浄担体が、さらに生理平衡塩溶液を提供するために十分な電解質、細胞エネルギー源、緩衝剤、フリーラジカル除去剤を含む、項目21に記載の溶液。
・(項目33)
上記電解質が選択される場合には、50〜500mMのナトリウムイオン、0.1〜50mMのカリウムイオン、0.1〜5mMのカルシウムイオン、0.1〜5mMのマグネシウムイオン、50〜500mMの塩化物イオンおよび0.1〜10mMのリン酸塩イオンを含有し;上記緩衝剤が選択される場合には、濃度が10〜50mMの重炭酸イオンを含有し;細胞エネルギー源が選択される場合には、右旋性ブドウ糖およびブドウ糖から選択され、濃度が1〜25mMで存在し;上記フリーラジカル除去剤が選択される場合には、濃度が0.05〜5mMでグルタチオンを含む、項目31または32に記載の溶液。
・(項目34)
上記第一の薬剤および上記第二の薬剤が、(a)1つ以上の鎮痛剤と組み合わせた1つ以上の抗炎症剤を含み、必要に応じて1つ以上のIOP低下剤および/または散瞳剤も含有してもよく;(b)1つ以上のIOP低下剤と組み合わせた1つ以上の抗炎症剤を含み、必要に応じて1つ以上の鎮痛剤および/または散瞳剤も含有してよく;(c)1つ以上の散瞳剤と組み合わせた1つ以上の抗炎症剤を含み、必要に応じて1つ以上の鎮痛剤および/またはIOP低下剤も含有してよく;(d)1つ以上のIOP低下剤と組み合わせた1つ以上の鎮痛剤を含み、必要に応じて1つ以上の抗炎症剤および/または散瞳剤も含有してよく;(e)1つ以上の散瞳剤と組み合わせた1つ以上の鎮痛剤を含み、必要に応じて1つ以上の抗炎症剤および/またはIOP低下剤も含有してよく;あるいは、(f)1つ以上のIOP低下剤と組み合わせた1つ以上の散瞳剤を含み、必要に応じて1つ以上の抗炎症剤および/または鎮痛剤を含有してよい、項目21に記載の溶液。
・(項目35)
上記溶液が、NSAID、チモロールおよびフェニレフリンを含有する、項目21に記載の溶液。
・(項目36)
上記溶液が、NSAID、チモロールおよびトロピカミドを含有する、項目21に記載の溶液。
・(項目37)
上記溶液が、オキシメタゾリンおよびNSAIDを含有する、項目21に記載の溶液。
・(項目38)
上記溶液が、ステロイド、NSAID、チモロールおよびフェニレフリンを含有する、項目21に記載の溶液。
・(項目39)
上記溶液が、チモロール、NSAID、トロピカミドおよび局所麻酔剤を含有する、項目21に記載の溶液。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(IV.好ましい実施形態の詳細な説明)
本発明は、眼内および局所的適用を含む、手術時の眼組織への局所的適用に対する洗浄溶液を提供する。この溶液は、炎症、疼痛を阻害し、散瞳(瞳孔の拡張)を生じさせ、および/または眼内圧の減少させ、あるいは制御を行うために作用する複数の薬剤を包含する。本明細書中では、複数の薬剤は、複数の異なる生理機能を達成するため、複数の異なる分子標的に作用するために選択されている。本発明の洗浄溶液は、生理液体洗浄担体中の複数の疼痛/炎症阻害剤、IOP低下剤、および/または散瞳剤の希釈溶液である。担体は、標準食塩水や乳酸加リンガー液といった生理電解質を包含し得る水溶液が好ましい。より好ましくは、担体は、生理等張塩溶液、液細胞エネルギー源、緩衝剤およびフリーラジカル除去剤を提供するために十分な電解質を含有する。
【0030】
本発明に従う溶液としては、(a)1つ以上の鎮痛剤と組み合わせた1つ以上の抗炎症剤、を含み、必要に応じて眼内圧を減少させるために作用する1つ以上の薬剤(IOP低下剤)および/または散瞳剤も含有してもよく;(b)1つ以上のIOP低下剤と組み合わせた1つ以上の抗炎症剤、を含み、必要に応じて1つ以上の鎮痛剤および/または散瞳剤も含有してよく;(c)1つ以上の散瞳剤と組み合わせた1つ以上の抗炎症剤を含み、必要に応じて1つ以上の鎮痛剤および/またはIOP低下剤も含有してよく;(d)1つ以上のIOP低下剤と組み合わせた1つ以上の鎮痛剤、を含み、必要に応じて1つ以上の抗炎症剤および/または散瞳剤も含有してよく;(e)1つ以上の散瞳剤と組み合わせた1つ以上の鎮痛剤、含み、必要に応じて1つ以上の抗炎症剤および/またはIOP低下剤も含有してよく;または(f)1つ以上のIOP低下剤と組み合わせた1つ以上の散瞳剤を含み、必要に応じて1つ以上の抗炎症剤および/または鎮痛剤を含有してよい。
【0031】
本発明の任意の洗浄溶液は、1つ以上の抗生物質も含有し得る。本発明における使用目的の適切な抗生物質としては、シプロフロキサシン、ゲンタマイシン、トブラマイシンおよびオフロキサシン(ofloxacin)が挙げられる。手術時における眼内使用のために適切な、その他の抗生物質も、本発明によって包含される。本発明の洗浄溶液中に適切に含有される1つの抗生物質であるシプロフロキサシンの適切な濃度は、0.01mM〜10mM、好ましくは0.05mM〜3mM、最も好ましくは0.1mM〜1mMである。異なる抗生物質が、容易に規定され得るように、異なる濃度で適用され得る。
【0032】
本発明の各手術溶液には、所望の治療効果を達成するため、薬剤は、低濃度で含有され、従来の薬物投与法で必要とされる濃度および用量と比較して低用量で局所的に送達される。全身に投与される薬物が第一の経路および第二の経路の代謝に曝されるため、全身的な薬物処理経路で(例えば、静脈経路で、皮下経路で、筋肉内経路で、経口で)類似の用量の薬剤を送達することにより、同等の治療効果を得ることは不可能である。
【0033】
各薬剤の濃度は、部分的にはその解離定数Kに基いて決定され得る。本明細書中に使用されるように、用語「解離定数」は、そのそれぞれのアゴニスト−レセプター間またはアンタゴニスト−レセプター間相互作用に対する平衡解離定数、およびそのそれぞれの活性剤−酵素間または阻害剤−酵素間相互作用に対する平衡阻害定数の両方を包含することが意図される。各薬剤は、シクロオキシゲナーゼ阻害剤以外は、Kの0.1〜10,000倍の低濃度で好ましくは含有される。シクロオキシゲナーゼ阻害剤は、選択された特定の阻害剤に依存して、より高濃度を必要とされ得る。好ましくは、各薬剤は、Kの1.0〜1,000倍の濃度で含有され、最も好ましくはKの約100倍で含有される。これらの濃度は、局所的送達部位における代謝変質を起こさずに希釈を引き起こすために必要とされるように、調節される。使用目的で選択される溶液中の薬剤自体およびその薬剤の濃度は、特定の適用に従って変わる。
【0034】
手術溶液は、別個のレセプターおよび酵素分子標的で作用する複数の薬理学的薬剤を組み合わせることにより、新奇の治療法を構成する。これまでに、薬理学的ストラテジーは、個々の神経伝達物質およびホルモンに対する反応を媒介する、個々のレセプターのサブタイプおよび酵素のアイソフォームに対して選択的である高度に特異的な薬物の発達に集中してきた。この標準的薬理学的ストラテジーは、広く受け入れられているが、多くのその他の薬剤が同時に生理的効果を開始し維持する原因となりえることから、最適ではない。さらに、単一のレセプターサブタイプまたは酵素の不活化に関わらず、その他のレセプターサブタイプまたは酵素の活性化およびその結果として生じるシグナル伝達は、カスケード効果をしばしば引き起こし得る。このことは、複数の伝達物質が機能する病理学的プロセスを阻害するために単一のレセプター特異的薬物を使用することにおける重大な困難さを説明する。それ故、特定の個々のレセプターサブタイプのみを標的にすることは、効果的でないように思われる。
【0035】
薬理学的治療の標準方法と異なり、本発明の手術溶液の治療法は、同時に別個の分子標的に作用する薬物の組み合わせが、病理的状態の発達の原因となるあらゆる範囲の事象を阻害するために必要とされる原理的説明に基く。さらに、特異的なレセプターサブタイプ単独を標的とするかわりに、手術溶液は、疼痛および炎症の発症、眼内圧の減少、ならびに散瞳の促進に関与される異なる細胞生理プロセスにおいて機能する一般の分子機構を標的とする薬物からなる。このように、侵害受容、炎症、眼内圧上昇経路における付加的なレセプターおよび酵素のカスケードは、手術溶液によって最小化される。これらの病態生理学的経路では、手術溶液はカスケードの「上流」および「下流」の両方への(すなわち、病態生理学的経路の分岐点および収束点の両方においての)効果を阻害し得る。
【0036】
眼科手術手順中の使用目的の、本発明の好ましい溶液は、1つ以上の散瞳剤と組み合わせた1つ以上の抗炎症剤を含有する。このような好ましい溶液は、所定の手順またはそれにより処置される状態がそれぞれ高頻度の疼痛、または増加した眼内手順に関連しているかに依存して、1つ以上の鎮痛剤および/または1つ以上のIOP低下剤を含有する。
【0037】
これらの薬剤は、上述の任意の担体(例えば、等張塩溶液)といった生理学的水溶性担体中に希釈濃度で含有され得る。溶液は、より長い眼内保持のため、粘性増強剤(例えば、生体適合性および生分解性ポリマー)も含み得る。薬剤の濃度は、手術手順中における眼組織に対する直接的な、局所的適用のために本発明の教示に従って、規定される。溶液の適用は、手術時、すなわち術中;術前および術中;術中および術後;または術前、術中および術後に実行される。薬剤は、安定した1つの要素または2つの要素の溶液の状態で提供され得るか、使用前に1つの要素または2つの要素の担体液体が加えられる凍結乾燥された形態で提供され得る。
【0038】
本発明の手術時の眼科洗浄溶液における使用に有利な眼科薬剤の機能分類は、本明細書でさらに記載される。
【0039】
A.抗炎症剤
本発明の眼科溶液中に使用するための好ましい抗炎症剤としては、局所的ステロイド、局所的非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)、および適切には眼内で使用される特定の分類の抗炎症剤(局所抗ヒスタミン剤、肥満細胞阻害剤および誘導性一酸化窒素シンターゼ(iNOS)阻害剤が挙げられる。疼痛/炎症阻害剤として以下に記載されたその他の抗炎症剤、および眼科用途のために適切な、本明細書中には開示されないその他の抗炎症剤は、本発明によっても包含されていることが意図される。
【0040】
本発明で使用するために適切だと考えられるステロイドの例としては、デキサメタゾン、フルオロメトロンおよびプレドニゾロンが挙げられる。適切であると考えられるNSAIDSの例としては、フルルビプロフェン、スプロフェン、ジクロフェナク、ケトプロフェンおよびケトロラクが挙げられる。NSAIDの選択は、過剰な出血を起こさないという決定に部分的に依存する。適切だと考えられる抗ヒスタミン剤の例としては、レボカバスチン、エメダスチン、オロパタジンが挙げられる。適切だと考えられている肥満細胞阻害剤の例としては、クロモリンナトリウム、ロドキサミドおよびネドクロミルが挙げられる。抗ヒスタミン剤および肥満細胞阻害剤の両方として作用し、本発明中で使用するために適切な薬剤の例としては、ケトチフェン、アゼラスチンが挙げられる。適切であると考えられているiNOS阻害剤としては、N−モノメチル−L−アルギニン、1400 W、ジフェニルエネイオジウム(diphenyleneiodium)、S−メチルイソチオウレア、S−(アミノエチル)イソチオウレア、L−N−(1−イミノエチル)リジン、1,3−PBITU、および2−エチル−2−チオプソイドが挙げられる。
【0041】
B.鎮痛剤
本明細書で記載されるように、眼科的溶液および方法を参照して用語「鎮痛剤」は、鎮痛剤を提供する薬剤および局所鎮痛剤を提供する薬剤の両方を含むことが意図される。本発明の眼科的溶液における使用に対する好ましい鎮痛剤としては、局所麻酔剤および局所オピオイドが挙げられる。疼痛/炎症阻害剤として下記に記載されるその他の鎮痛剤、眼科的用途のために適切であるが本明細書中では開示されないその他の鎮痛剤は、本発明によっても包含されることを意図される。
【0042】
本発明における使用のために適切だと考えられる局所麻酔剤の例としては、リドカイン、テトラカイン、ブピバカイン、およびプロパラカインが挙げられる。本発明の使用のために適切であると考えられているオピオイドの例としては、モルヒネ、フェンタニルおよびヒドロモルホンが挙げられる。
【0043】
C.散瞳剤
本発明の眼科的溶液での使用のための、手術の間、瞳孔を拡張するための好ましい散瞳剤としては、交感神経興奮剤(α−1アドレナリン作用性レセプターアゴニストを含む)、抗ムスカリン剤を含む抗コリン作用剤が挙げられる。抗コリン作用剤は、毛様体筋麻痺(毛様体筋の麻痺)および散瞳の両方を提供するため(例えば、トロピカミドは、半減期が約4〜6時間を示す。)、より長い作用が望まれる場合に選択され得る。しかし、多くの手順について、散瞳を提供するが毛様体筋麻痺は提供しないため、α−1アドレナリン作動剤が、好まれる。α−1アドレナリン作動剤は、このようにより短い作用性があり、手術手順の間に散瞳を引き起こし、手順の終了後、瞳孔がまもなく通常の状態に戻ることを可能にする。α−1レセプターに作用する適切なアドレナリン作用性レセプターアゴニストの例としては、フェニレフリン、エピネフリン、オキシメタゾリンが挙げられる。適切な抗コリン作用剤の例としては、トロピカミド、シクロペントレート、アトロピン、ホマトロピンが挙げられる。散瞳を引き起こすその他の薬剤、特に短時間作用性の散瞳剤は、本発明により包含し得ることが意図される。
【0044】
D.眼内圧を減少させる薬剤
本発明の眼科溶液中における使用のための眼内圧を低下させる好ましい薬剤としては、βアドレナリン作用性レセプターアンタゴニスト、カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤、α−2アドレナリン作用性レセプターアゴニスト、およびプロスタグランジンアゴニストが挙げられる。適切なβアドレナリン作用性レセプターアンタゴニストの例としては、チモロール、メチプラノロール(metipranolol)およびレボブノロールが挙げられると考えられる。適切なカルボニックアンヒドラーゼ阻害剤の例としては、ブリンゾラミド(brinzolamide)、ドルゾラミドが挙げられると考えられる。適切なα−2アドレナリン作用性アゴニストの例としては、アプラクロニジン、ブリモニジンおよびオキシメタゾリンが挙げられると考えられる。眼科用途に適切で、炎症/疼痛阻害剤として以下に記載された、その他のα−2アドレナリン作用性レセプターは、本発明の溶液内でIOP低下剤としても適切に機能し得る。適切なプロスタグランジンアゴニストとしては、ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロストが挙げられると考えられている。炎症阻害が溶液の主な所望の効果であり、IOPの制御が必要とされる場合に、プロスタグランジンが手術後炎症を増加させ得る可能性があることを避けるため、プロスタグランジンアゴニスト以外のIOP低下剤が、適切に選択され得る。その他の眼内圧を低下させる薬剤も、本発明によって包含することが意図される。
【0045】
E.疼痛/炎症阻害剤
本明細書中に疼痛/炎症阻害剤として参照される以下の薬剤は、鎮痛および/または抗炎症剤として、本発明の眼科溶液中における使用ならび方法のために適切である。特定の眼科適用のために使用されるための特定の分類の薬剤、および分類内の個々の薬剤は、本発明に従って当業者によって容易に決定され得る。
【0046】
例えば、ウサギにおける眼の炎症モデルが、いくつかの刺激剤(irritating agent)、特に、カラゲナン、フロイントアジュバント、アルカリおよびハス油の局所的適用によって誘導される炎症反応の比較により研究されてきた。その方法は、メスのニュージーランドホワイトウサギの眼に対する各刺激原の適用後に決定され得る以下のパラメーターの測定が伴う:角膜水腫、ティンダル効果(細隙灯生体顕微鏡)、角膜厚(バイオメータ厚度計(biometer−pachometer))、プロスタグランジンE2の房水レベル(R.I.A.)、全タンパク質(ヴァイクセルバウム技術(Weichselbaum technique))、アルブミン、アルブミン/グロブリン(ドゥマス技術(Doumas technique))、白血球(コールターカウンター)。
【0047】
ハス油1〜4%(40μl)が水腫およびティンダル効果を生じさせるという確認研究が見出されてきており、水腫およびティンダル効果は、ハス油濃度の増加に比例することが示されている。角膜の厚さの変化の超音波厚度計での計測(3〜168h)は、8時間目から168時間目において用量依存的反応を示した(p<0.01)。ブドウ膜炎、ならびにプロスタグランジンE2(4.50±0.40pg/0.1ml対260.03±2.03pg/0.1ml)、全タンパク質(0.25±0.05g/l対2.10±0.08g/l)、アルブミン、アルブミン/グロブリン、および白血球のレベルのかなりの上昇は、ハス油3%(40μl)の局所的適用24時間後、房水中で観察された。得られる全ての値は、統計的に有意であった(p<0.01)。
【0048】
3%ハス油(40μl)の局所的適用は、前眼房内の炎症プロセスの評価および眼内浸透の効果の決定のために、最も適切である。このモデルにおける炎症機構は、高分子量タンパク質が房水に侵入することになる血液房水関門の破壊に伴うアラキドン酸経路の活性化が包含されると考えられる。
【0049】
上述のモデルは、炎症プロセスを阻害し、その他の眼の機能をもたらす際に、局所的に適用される(例えば、洗浄による)薬物の効力を試験するために使われ得る。評価されるべき所定の薬剤または薬剤の組み合わせは、眼への各刺激原の適用後、ウサギの眼に適用される。
【0050】
その溶液としては、適切には、レセプターアンタゴニストおよびアゴニスト、ならびに酵素活性剤および阻害剤の以下の分類から選択される薬剤が挙げられ得る。各分類は、疼痛および炎症阻害剤に対する異なる作用分子機構を通じて作用する:(1)セロトニンレセプターアンタゴニスト;(2)セロトニンレセプターアゴニスト;(3)ヒスタミンレセプターアンタゴニスト;(4)ブラジキニンレセプターアンタゴニスト;(5)カリクレイン阻害剤;(6)ニューロキニンレセプターサブタイプアンタゴニストおよびニューロキニンレセプターサブタイプアンタゴニストを包含するタキキニンレセプターアンタゴニスト;(7)カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)レセプターアンタゴニスト;(8)インターロイキンレセプターアンタゴニスト;(9)アラキドン酸代謝産物のための合成経路で活性な酵素の阻害剤(この阻害剤としては、(a)ホスホリパーゼ阻害剤(PLAアイソフォーム阻害剤およびPLCγアイソフォーム阻害剤を包含する)、(b)シクロオキシゲナーゼ阻害剤、および(c)リポキシゲナーゼ阻害剤が挙げられる);(10)プロスタノイドレセプターアンタゴニスト(エイコサノイドのEP−1レセプターサブタイプアンタゴニストおよびEP−4レセプターサブタイプアンタゴニストならびにトロンボキサンレセプターサブタイプアンタゴニストを包含する);(11)ロイコトリエンレセプターアンタゴニスト(ロイコトリエンBレセプターサブタイプアンタゴニストおよびロイコトリエンDレセプターサブタイプアンタゴニストを包含する);(12)オピオイドレセプターアゴニスト(μ−オピオイドレセプターサブタイプアゴニスト、δ−オピオイドレセプターサブタイプアゴニスト、およびκ−オピオイドレセプターサブタイプアゴニスト);(13)プリンレセプター(purinoceptor)アゴニストおよびアンタゴニスト(P2XレセプターアンタゴニストおよびP2Yレセプターアゴニストを包含する);アデノシン3リン酸(ATP)感受性カリウムイオンチャンネル開口剤;(15)局所麻酔薬;ならびに(16)α−2アドレナリン作用性レセプターアゴニスト。上記の各薬剤は、抗炎症剤としておよび/または鎮痛剤すなわち抗疼痛剤としてのいずれか、あるいは両方として機能する。化合物のこれらの分類からの薬剤の選択は、特定の適用のために調整される。
【0051】
1.セロトニンレセプターアンタゴニスト
セロトニン(5−HT)は、末梢の侵害受容ニューロンにおけるセロトニン(5−HT)レセプターおよび/またはセロトニン(5−HT)レセプターを刺激することにより、疼痛を引き起こすと考えられる。大半の研究者は、末梢侵害受容器における5−HTレセプターが、5−HTにより引き起こされる即時の疼痛感覚を仲介すると一致している。5−HTにより誘導される疼痛を阻害することに加え、5−HTレセプターアンタゴニストは、侵害受容器の活性化を阻害することによっても、神経性炎症を阻害し得る。5−HTレセプターの活性化も、末梢疼痛および神経性炎症において役割を果たし得る。本発明の洗浄溶液の目的は、疼痛および複数の炎症プロセスを阻害することである。このように、5−HTレセプターアンタゴニストおよび5−HTレセプターアンタゴニストは、個々にまたは一緒に、本発明の溶液中にどちらも適切に使用され得る。アミトリプチリン(ElavilTM)は、本発明における使用目的で潜在的に適切な5−HTレセプターアンタゴニストであると考えられる。メトクロプラミド(ReglanTM)は、制吐薬として臨床的に使用されるが、5−HTレセプターに対する適度の親和性を示し、このレセプターにおいて5−HTの作用を阻害し得、おそらくは血小板からの5−HT放出により疼痛を阻害する。このように、メトクロプラミドも本発明における使用に適切である。
【0052】
その他の潜在的に適切な5−HTレセプターアンタゴニストとしては、イミプラミン、トラゾドン、デシプラミン、ケタンセリンが挙げられる。その他の適切な5−HTアンタゴニストとしては、シサプリドおよびオンダンセトロンが挙げられる。本発明の溶液中におけるこれらの薬剤の使用のための、治療に役立ち、好ましい濃度は、表1に示される。
【0053】
(表1 治療濃度および好ましい濃度の疼痛/炎症阻害剤)
【0054】
【表1】


(2.セロトニンレセプターアゴニスト)
5−HT1Aレセプター、5−HT1Bレセプター、および5−HT1Dレセプターが、アデニル酸シクラーゼを阻害することが公知である。このように、溶液中に低用量のこれらのセロトニン1Aレセプターアゴニスト、セロトニン1Bレセプターアゴニスト、およびセロトニン1Dレセプターアゴニストを含むことが、疼痛および炎症を仲介するニューロンを阻害することが好ましい。これらのレセプターがアデニル酸シクラーゼも阻害するので、同一の作用が、セロトニン1Eレセプターアゴニストおよびセロトニン1Fレセプターアゴニストから期待される。
【0055】
ブスピロンは、本発明の使用のための潜在的に適切な1Aレセプターアゴニストである。スマトリプタンは、潜在的に適切な1A、1B、1Dおよび1Fレセプターアゴニストである。潜在的に適切な1Bレセプターアゴニストおよび1Dレセプターアゴニストは、ジヒドロエルゴタミンである。適切な1Eレセプターアゴニストは、エルゴノビンである。これらのレセプターアゴニストとっての、治療濃度および好ましい濃度は、表2に示される。
【0056】
(表2.治療濃度および好ましい濃度の疼痛/炎症阻害剤)
【0057】
【表2】


(3.ヒスタミンレセプターアンタゴニスト)
ヒスタミンレセプターアンタゴニストは、洗浄溶液中に潜在的に含まれ得る。プロメタジン(フェネルガン(PhenerganTM))は、一般に強力にHレセプターを抑制する抗嘔吐剤として一般に使用され、本発明中における使用に潜在的に適切である。その他の潜在的に適切なHレセプターアンタゴニストとしては、テルフェナジン、ジフェンヒドラミン、アミトリプチリン、メピラミンおよびトリポリジン(tripolidine)が挙げられる。アミトリプチリンが、セロトニンレセプターアンタゴニストとしても有効であることから、アミトリプチリンは本発明中で使用されるように、二重の機能を有する。これらの各Hレセプターアンタゴニストについての、適切な治療濃度および好ましい濃度は、表3に示される。
【0058】
(表3.治療濃度および好ましい濃度の疼痛/炎症阻害剤)
【0059】
【表3】


(4.ブラジキニンレセプターアンタゴニスト)
ブラジキニンレセプターは、ブラジキニン(B)サブタイプおよびブラジキニン(B)サブタイプに一般に分類される。これらの薬剤は、ペプチド(低分子量タンパク質)であり、このため、消化されることから、経口投与できない。Bレセプターに対するアンタゴニストは、ブラジキニンに誘導される急性の疼痛および炎症を阻害する。Bレセプターアンタゴニストは、慢性炎症状態における疼痛を阻害する。その適用法に応じて、本発明の溶液は、好ましくはブラジキニンBレセプターアンタゴニストおよびブラジキニンBレセプターアンタゴニストのいずれかあるいは両方を包含し得る。本発明における使用のための潜在的に適切なブラジキニンレセプターアンタゴニストとしては、D−Arg−(Hyp−Thi−D−Tic−Oic)−BKの[des−Arg10]誘導体(Hoechst Pharmaceuticalsより入手可能な「HOE140の[des−Arg10]誘導体」);および[Leu]des−Arg−BKが挙げられる。潜在的に適切なブラジキニンレセプターアンタゴニストとしては、[D−Phe]−BK;D−Arg−(Hyp−Thi5,8−D−Phe)−BK(「NPC 349」);D−Arg−(Hyp−−D−Phe)−BK(「NPC 567」);およびD−Arg−(Hyp−Thi−D−Tic−Oic)−BK(「HOE 140」)が挙げられる。適切な治療に役立ち、好ましい濃度は、表4で示される。
【0060】
(表4.治療濃度および好ましい濃度の疼痛/炎症阻害剤)
【0061】
【表4】


(5.カリクレイン阻害剤)
ペプチドブラジキニンは、疼痛および炎症の重要な伝達物質である。ブラジキニンは、血漿における高分子量キニノーゲンにおけるカリクレインの作用による切断産物として産生される。それ故、カリクレイン阻害剤は、ブラジキニン産生およびその結果生じる疼痛および炎症を阻害する上で、治療に役立つと考えられる。本発明における使用のための潜在的に適切なカリクレイン阻害剤は、アプロチニンである。本発明の溶液中に使用するための潜在的に適切な濃度は、以下の表5に示される。
【0062】
(表5.治療濃度および好ましい濃度の疼痛/炎症阻害剤)
【0063】
【表5】


(6.タキキニンレセプターアンタゴニスト)
タキキニン(TK)は、P物質、ニューロキニンA(NKA)、およびニューロキニンB(NKB)を包含する構造的に類似のペプチドファミリーである。ニューロンは、末梢においてTKの主な供給源である。TKの主要な一般効果は、神経刺激であるが、その他の効果としては、内皮依存性血管拡張(endothelium−dependent vasodilation)、血漿タンパク質溢出(plasma protein extravasation)、肥満細胞の漸増および脱顆粒、ならびに炎症性細胞の刺激が挙げられる。TKレセプターの活性化によって仲介される上記生理作用の組み合わせにより、TKレセプターを標的に定めることは、痛覚脱失の促進および神経性炎症の治療のための妥当なアプローチである。
【0064】
a.ニューロキニンレセプターサブタイプアンタゴニスト
P物質は、NKと呼ばれるニューロキニンレセプターサブタイプを活性化する。潜在的なP物質アンタゴニストは、([D−Pro[スピロ−ガンマ−ラクタム]Leu10,Trp11]フィサラエミン−(1−11))(「GR 82334」)である。NKレセプターにおいて作用する、本発明の使用のためのその他の潜在的な適切なアンタゴニストは、1−イミノ−2−(2−メトキシ−フェニル)−エチル)−7,7−ジフェニル−4−ペルヒドロイソインドロン(3aR,7aR)(「RP 67580」);および2S,3S−cis−3−(2−メトキシベンジルアミノ)−2−ベンズヒドリルクイニクリジン(「CP 96,345」)である。これらの薬剤の適切な濃度は、表6に示される。
【0065】
(表6.治療濃度および好ましい濃度の疼痛/炎症の阻害剤)
【0066】
【表6】


(b.ニューロキニン2レセプターサブタイプアンタゴニスト)
ニューロキニンAは、物質Pとともに感覚ニューロンに共局在し、炎症および疼痛も促進するペプチドである。ニューロキニンAは、NKと呼ばれる特定のニューロキニンレセプターを活性化する。潜在的に適切なNKアンタゴニストの例としては、((S)−メチル−N−[4−(4−アセチルアミノ−4−フェニルピペリジノ)−2−(3,4−ジクロロフェニル)ブチル]ベンザミド(「(±)−SR 48968」);Met−Asp−Trp−Phe−Dap−Leu(「MEN 10,627」);およびシク(Gln−Trp−Phe−Gly−Leu−Met)(「L 659,877」)が挙げられる。これらの薬剤の適切な濃度は、表7に提供される。
【0067】
(表7.治療濃度および好ましい濃度の疼痛/炎症の阻害剤)
【0068】
【表7】


(7.CGRPレセプターアンタゴニスト)
カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)も、物質Pとともに感覚ニューロンに共局在し、血管拡張剤として作用し、物質Pの作用を増強するペプチドである。潜在的に適切なCGRPレセプターアンタゴニストの例は、I−CGRP−(8−37)というCGRPの切断型である。このポリペプチドは、CGRPレセプターの活性化を阻害する。この薬剤の適切な濃度は、表8に提供される。
【0069】
(表8.治療濃度および好ましい濃度の疼痛/炎症の阻害剤)
【0070】
【表8】


(8.インターロイキンレセプターアンタゴニスト)
インターロイキンは、サイトカインとして分類され、炎症伝達物質に応答して白血球およびその他の細胞によって産生される、ペプチドファミリーである。インターロイキン(IL)は、末梢で強力な痛覚過敏剤であり得る。潜在的に適切なIL−1βレセプターアンタゴニストの例は、Lys−D−Pro−Thrであり、これは、IL−1βの切断型である。このトリペプチドは、IL−1βの活性化を阻害する。この薬剤の適切な濃度は、表9に提供される。
【0071】
(表9.治療濃度および好ましい濃度の疼痛/炎症の阻害剤)
【0072】
【表9】


(9.アラキドン酸代謝物質の合成経路で活性のある酵素の阻害剤)
(a.ホスホリパーゼ阻害剤)
ホスホリパーゼA(PLA)によるアラキドン酸産生により、エイコサノイドとして公知の複数の炎症伝達物質を産生する反応カスケードが生じる。この経路の至る所に阻害され得る多くの段階があり、それにより、これらの炎症伝達物質の産生を減少させる。これらの様々な段階における阻害の例は、以下に与えられる。
【0073】
酵素PLAアイソフォームの阻害により、細胞膜からのアラキドン酸の放出が阻害され、その結果、プロスタグランジンおよびロイコトリエンの産生が阻害され、炎症および疼痛が減少する。潜在的に適切なPLAアイソフォーム阻害剤の例は、マノアリド(manoalide)である。この薬剤の適切な濃度は、表10に含まれる。ホスホリパーゼC(PLC)アイソフォームの阻害も、プロスタノイドおよびロイコトリエンの産生の減少につながり、その結果、疼痛および炎症の減少につながる。PLCアイソフォーム阻害剤の例は、1−[6−((17β−3−メトキシエストラ−1,3,5(10)−トリエン−17−イル)アミノ)ヘキシル]−1H−ピロール−2,5−ジオンである。
【0074】
(表10.治療濃度および好ましい濃度の疼痛/阻害剤)
【0075】
【表10】


(b.シクロオキシゲナーゼ阻害剤)
非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)は、抗炎症剤および鎮痛剤として広く使用される。これらの薬物の分子標的は、I型シクロオキシゲナーゼ(COX−1)およびII型シクロオキシゲナーゼ(COX−2)である。COX−1の構成的活性およびCOX−2の誘導された活性の両方が、疼痛および炎症の原因となるプロスタグランジン合成を引き起こす。
【0076】
現在市場に出ているNSAID(ジクロフェナク、ナプロキセン、インドメタシン、イブプロフェンなど)は、一般にはCOXの両アイソフォームの非選択的阻害剤であるが、COX−2よりもCOX−1に対してより強い選択性を示し得る。ただし、この比は異なる化合物に対して変化する。プロスタグランジンの形成を阻害するためのCOX−1阻害剤およびCOX−2阻害剤の使用は、天然のリガンドの以下の7つのサブタイプのプロスタノイドレセプターとの相互作用を阻害しようと試みるよりもより治療効果のある戦略を意味する。
【0077】
本発明における使用のための潜在的に適切なシクロオキシゲナーゼ阻害剤は、ケトプロフェン、ケトロラクおよびインドメタシンである。洗浄溶液中における使用のためのこの薬剤の、治療効果のあり好ましい濃度は、表11に提供される。いくつかの適用のため、抗炎症剤/鎮痛剤としてCOX−2特異的阻害剤(すなわち、COX−1に比較してCOX−2に選択的である)を使用することも、適切である。潜在的に適切なCOX−2阻害剤としては、ロフェコキシブ(MK 966)、SC−58451、セレコキシブ(SC−58125)、メロキシカム、ニメスリド、ジクロフェナク、NS−398、L−745,337、RS57067、SC−57666およびフロスリド(flosulide)が挙げられる。
【0078】
(表11.治療濃度および好ましい濃度の疼痛/炎症の阻害剤)
【0079】
【表11】


(c.リポキシゲナーゼ阻害剤)
酵素リポキシゲナーゼ阻害剤の阻害により、炎症および疼痛の重要な伝達物質であることが公知である、ロイコトリエンBといったロイコトリエンの産生が阻害される。潜在的に適切な5−リポキシゲナーゼアンタゴニストは、2,3,5−トリメチル−6−(12−ヒドロキシ−5,10−ドデカジインニル)−1,4−ベンゾキノン(「AA 861」)であり、その適切な濃度は、表12に列挙される。
【0080】
(表12.疼痛/炎症の阻害剤の治療濃度および好ましい濃度)
【0081】
【表12】


(10.プロスタノイドレセプターアンタゴニスト)
アラキドン酸代謝産物として産生される特異的なプロスタノイドは、プロスタノイドレセプターの活性化を通して炎症効果を仲介する。特異的なプロスタノイドアンタゴニストの分類の例は、エイコサノイドEP−1レセプターサブタイプアンタゴニストおよびエイコサノイドEP−4レセプターサブタイプアンタゴニストならびにトロンボキサンレセプターサブタイプアンタゴニストである。潜在的に適切なプロスタグランジンE2レセプターアンタゴニストは、8−クロロジベンズ[b,f][1,4]オキサゼピン−10(11H)−カルボン酸、2−アセチルヒドラジド(「SC 19220」)である。潜在的に適切なトロボキサンレセプターサブタイプアンタゴニストは、[15−[1α,2β(5Z),3β,4α]−7−[3−[2−(フェニルアミノ)−カルボニル]ヒドラジノ]メチル]−7−オキソバイシクロ−[2,2,1]−ヘプト−イル]−5−ヘプタン酸(「SQ 29548」)である。これらの薬剤の適切な濃度は、表13に示す。
【0082】
(表13.治療濃度および好ましい濃度の疼痛/炎症の阻害剤)
【0083】
【表13】


(11.ロイコトリエンレセプターアンタゴニスト)
ロイコトリエン(LTB、LTCおよびLTD)は、酵素によって生成され、重要な生物特性を有する、アラキドン酸代謝産物の5−リポキシゲナーゼ経路の産物である。ロイコトリエンは、炎症を包含する多くの病理的状況で関連する。潜在的に適切なロイコトリエンBレセプターアンタゴニストの例は、SC(+)−(S)−7−(3−(2−(シクロプロピルメチル)−3−メトキシ−4−[(メチルアミノ)−カルボニル]フェノキシ(プロポキシ)−3,4−ジヒドロ−8−プロピル−2H−1−ベンゾピラン−2−プロパン酸(「SC 53228」)である。この薬剤の、本発明の実施に潜在的に適切である濃度は、表14に提供される。その他の潜在的に適切なロイコトリエンBレセプターアンタゴニストとしては、[3−[−2(7−クロロ−2−キノリニル)エテニル]フェニル][[3−(ジメチルアミノ−3−オキソプロピル)チオール]メチル]チオプロパン酸(MK 0571」)ならびに薬物LY 66,071および薬物ICI 20,3219が挙げられる。MK 0571は、LTDレセプターサブタイプアンタゴニストとしても作用する。
【0084】
【表14】


12.オピオイドレセプターアゴニスト
オピオイドレセプターの活性化により、抗侵害受容効果が現れ、そのため、これらのレセプターに対するアゴニストが、望ましい。オピオイドレセプターとしては、μ−オピオイドレセプターサブタイプ、δ−オピオイドレセプターサブタイプ、およびκ−オピオイドレセプターサブタイプが挙げられる。潜在的に適切なμ−オピオイドレセプターアゴニストの例は、フェンタニールおよびTry−D−Ala−Gly−[N−MePhe]−NH(CH)−OH(「DAMGO」)である。潜在的に適切なδ−オピオイドレセプターアゴニストの例は、[D−Pen,D−Pen]エンケファリン(「DPDPE」)である。潜在的に適切なκ−オピオイドレセプターアゴニストの例は、(trans)−3,4−ジクロロ−N−メチル−N−[2−(1−ピロリジニル)シクロヘキシル]−ベンゼンアセトアミド(「U50,488」)である。これらの薬剤のそれぞれの適切な濃度は、表15で示される。
【0085】
【表15】


13.プリンレセプターアンタゴニストおよびアゴニスト
細胞外ATPは、Pプリンレセプターとの相互作用を通して、シグナル伝達分子として作用する。プリンレセプターの主要な分類は、P2Xプリンレセプターであり、これは、Na、KおよびCa2+に対して透過可能な内在性イオンチャンネルを有するリガンド制御型イオンチャンネルである。P2X/ATPプリンレセプターの、本発明における使用のための潜在的に適切なアンタゴニストとしては、例として、スラミンおよびピリドキシルリン酸−6−アゾフェニル−2,4−ジスルホン酸(「PPADS」)が挙げられる。これらの薬剤の適切な濃度は、表16に提供される。P2Yレセプター、Gタンパク質共役型レセプターのアゴニストは、細胞内カルシウムの引き続く上昇を伴うイノシトール三リン酸(IP)レベルの上昇を通して、平滑筋の弛緩に影響があることが公知である。P2Yレセプターアゴニストの例は、2−me−S−ATPである。
【0086】
【表16】


14.アデノシン三リン酸(ATP)感受性カリウムチャンネル開口剤
本発明の実施のために潜在的に適切なATP感受性Kチャンネル開口剤としては、(−)ピナシジル;クロマカリム;ニコランジル;ミノキシジル;N−シアノ−N’−[1,1−ジメチル−[2,2,3,3−H]プロピル]−N”−(3−ピリジニル)グアニジン(「P 1075」);およびN−シアノ−N’−(2−ニトロキシエチル)−3−ピリジンカルボキシイミドアミドモノメタンスルホネート(「KRN 2391」)が挙げられる。これらの薬剤の濃度は、表17に示される。
【0087】
【表17】


15.局所麻酔剤
本発明の洗浄溶液は、好ましくは、疼痛および炎症の予防的阻害を提供するために、手術手法の間中、連続注入のために使用される。局所麻酔剤(例えば、リドカイン、ブピバカインなど)は、鎮痛薬として臨床的に使用され、ニューロンの軸索の膜にあるナトリウムチャンネルに可逆的に結合し、それにより軸索の伝導、および末梢から脊髄まで痛覚シグナルの伝達が阻害されることが公知である。極低濃度または準臨床的濃度の局所麻酔剤リドカインの局所的送達は、神経傷害放出(nerve injury discharge)を阻害することが示されている(Bisla KおよびTanalian DL、Concentration−dependent Effects of Lidocaine on Corneal Epithelial Wound Healing、Invest Ophthalmol Vis Sci 33(11)、pp.3029−3033、1992)。そのため、疼痛シグナルを減少させることに加え、局所麻酔剤は、極度に低濃度で送達される場合、抗炎症特性も有する。
【0088】
洗浄溶液の極度に低濃度または「準麻酔」濃度の局所麻酔剤の含有は、患者を局所麻酔剤の現在の臨床における使用用量と関連した全身毒性に曝さずに、有益な抗炎症効果を提供する。このように、極度に低濃度では、局所麻酔剤は、本発明における使用に適切である。本発明の実施における使用に有用である典型的な局所麻酔剤の例としては、ベンゾカイン、ブピバカイン、クロロプロカイン、コカイン、エチドカイン、リドカイン、メピバカイン、プラモキシン、プリロカイン、プロカイン、プロパラカイン、ロピバカイン、テトラカイン、ジブカイン、QX−222、ZX−314、RAC−109、HS−37およびそれらの薬理学的活性がある鏡像異性体が挙げられるが、これらに限定されない。任意の特定の理論により縛られることを願わないが、いくつかの局所麻酔剤は、電位依存性ナトリウムチャネルを阻害することにより、作用すると考えられている。(Guo,X.ら、「Comparative inhibition of voltage−gated cation channels by local anesthetics」、Ann. N.Y. Acad. Sci. 625:181−199(1991)を参照のこと)。局所麻酔剤の特に有用な薬理学的活性のある鏡像異性体としては、例えば、ブピバカインのR−エナンチオマーが挙げられる。本発明の目的のため、局所的に送達される麻酔剤の有用な濃度は、一般に約125nM〜約100,000,000nMの範囲をとり、より好ましくは、約1,000nM〜約10,000,000nMの範囲をとり、最も好ましくは、約225,000nM〜約1,000,000nMの範囲をとる。1つの実施形態では、本発明の溶液は、750,000nM以下の濃度で局所で送達される、少なくとも1つの麻酔剤を包含する。その他の実施形態では、本発明の溶液は、500,000nM未満の濃度で局所的に送達される、少なくとも1つの局所麻酔剤を包含する。典型的な特異的な局所麻酔剤の有用な濃度は、下に示す。
【0089】
【表18】


16.α−2アドレナリン作用性レセプターアゴニスト
アドレナリン性アミンレセプターファミリーを包含する個々の9つのレセプターの全ては、レセプターのGタンパク質関連スーパーファミリーに属する。アドレナリン作用性ファミリーの3つの別々のサブファミリー(すなわち、α(アルファ−1)、α(アルファ−2)、およびβ(ベータ))への分類は、豊富な結合研究、機能研究およびセカンドメッセンジャー研究に基いている。各アドレナリン作用性レセプターサブファミリーは、それ自体は、組換えレセプターのクローニングおよび薬理学的特徴づけにより規定されている3つの相同性レセプターサブタイプから構成される。異なるサブファミリー(アルファ−1対アルファ−2対ベータ)におけるアドレナリン作用性レセプターの間で、膜貫通ドメイン(membrane spanning domain)におけるアミノ酸同一性は、36%〜73%に及ぶ。しかし、同一のサブファミリー(α1A対α1B)のメンバーの間で、膜貫通ドメイン間の同一性は、通常、70%〜80%である。これらの異なるレセプターサブタイプは、ともに、2つの生理アゴニスト、エピネフリン、およびノルエピネフリンの効果を仲介する。
【0090】
異なるアドレナリンレセプター型は、独自のセットのGタンパク質に共役し、それにより異なるシグナル伝達エフェクターを活性化することが出来る。アルファ−1サブファミリー、アルファ−2サブファミリーおよびベータサブファミリーの分類は、シグナル伝達機構に関してレセプターを規定するだけでなく、様々な天然および合成アドレナリン性アミンを区別して認識するシグナル伝達機構の能力の元となる。この点に関して、多くの選択的リガンドが、これらのレセプター型のそれぞれの薬理学的特性を特徴付けるために、開発され、使用されてきた。アルファ−1レセプターの機能的応答は、ホスファチジルイノシトールの代謝回転を刺激し、細胞内カルシウムの(Gを通しての)放出を促進するために特定の系で示されている一方、アルファ−2レセプターの刺激は、(Gを通しての)アデニリルシクラーゼを阻害する。対照的に、ベータレセプターの機能的応答は、アデニリルシクラーゼ活性の上昇および(Gによる)細胞内カルシウムの上昇に共役する。
【0091】
3つの異なるアルファ−1レセプターサブタイプがあることが、現在では受容され、それらの全てはアンタゴニストのプラゾシンに対する(サブナノモ−ラー(subnanomolar)の)高親和性を示す。アルファ−1アドレナリンレセプターを(α1A、α1Bおよびα1Dと呼ばれる)3つの異なるサブタイプに下位区分することは、内因性レセプターおよびクローニングされたレセプターの広範囲なリガンド結合研究に基本的に基いてきた。クローニングされたレセプターの薬理学的特徴づけにより、元々α1Cサブタイプと呼ばれるクローンが、薬理学的に規定されるα1Aレセプターに対応するように、元の分類の見直すこととなった。α1A〜α1Dレセプターサブタイプのアゴニストの占有により、ホスホリパーゼCの活性化、PI切断の刺激、セカンドメッセンジャーとしてのIPの産生、および細胞内カルシウムの増加を引き起こす。
【0092】
α2A(α−C10)、α2B(α−C2)、α2C(α−C4)と呼ばれる、3つの異なるα−レセプターサブタイプが、クローニングされ、配列決定され、および哺乳類細胞において発現されてきた。これらのサブタイプは、そのアミノ酸比較において異なるだけでなく、その薬理学的プロファイルおよび分布においても異なる。さらに、α−レセプターサブタイプであるα2D(rg20遺伝子)は、元々、齧歯目の組織の放射リガンド結合研究に基いて提出されたが、現在ではヒトα2Aレセプターの種ホモログを表すことが考えられている。
【0093】
機能的に、そのシグナル伝達経路は、3つのα2Aレセプターサブタイプの全てに類似しており;各サブタイプは、Gi/oを通してアデニル酸シクラーゼに負に共役される。加えて、α2Aレセプターおよびα2Bレセプターは、Gタンパク質共役型カリウムチャネル(レセプター作動)活性化、およびGタンパク質関連カルシウムチャンネルの阻害を仲介することも報告されている。
【0094】
薬理学的に、α−2アドレナリン作用性レセプターは、アンタゴニストのヨヒンビン(K=0.5〜25μM)、アチパメゾール(K=0.5〜2.5μM)およびイダゾキサン(K=21〜35μM)に対する高い感受性、ならびにα−1レセプターアンタゴニストのプラゾシンに対する低い感受性により規定される。α−1アドレナリン作用性レセプターに比較して、α−2アドレナリン作用性レセプター分類に対して選択性のあるアゴニストは、UK14,304、BHT920およびBHT933である。オキシメタゾリンは、α2A−レセプターサブタイプ(K=3μM)に対する高親和性および選択性をもって結合するが、加えて、α−1アドレナリン作用性レセプターおよび5HT1レセプターに高親和性をもって結合する。さらに複雑化させる要素は、イミダゾリン(クロニジン、イダゾリン)ならびにその他の物(オキシメタゾリンおよびUK14304)であるα−2アドレナリン作用性レセプターリガンドが、非アドレナリンレセプターイミダゾリン結合部位に対しても(ナノモーラー(nanomolar)の)高親和性をもって結合する。さらに、α2A−アドレナリンレセプターの薬理学における種変異が存在する。今日までに、サブタイプ選択的α−2アドレナリン作用性レセプターリガンドは、最小の感受性のみを示すか、その他の特異的レセプターに関して非選択的であるため、サブタイプ選択的薬物の治療特性は今なお開発中である。
【0095】
α−2レセプターアゴニストが潜在的使用を有すると考えられ得る治療可能な分野は、疼痛の制御および神経性炎症の阻害のための麻酔剤に対する補助剤としてである。交感神経系の刺激は、組織傷害の後にノルエピネフリンを放出し、そのように、侵害受容器活性に影響を与える。α−2レセプターアゴニスト(例えば、クロニジン)は、終神経線維末端においてノルエピネフリン放出を阻害し得、(CNSに作用せず)末梢部位において直接痛覚脱失を誘導し得る。一次性求心性ニューロンの、中心神経終末および末端神経終末の両方から神経伝達物質を放出する能力により、神経伝達物質が二元的な、感覚および「遠心」または「局所的エフェクター」機能が実行できる。用語「神経性炎症」は、感覚神経の遠心性機能を記載するために使用される。この機能としては、「フィードフォワード」的に、炎症プロセスに関与する感覚神経ペプチドの放出が挙げられる。カプサイシンといった、感覚神経の末梢終末から感覚神経ペプチドの放出を誘導する薬剤は、疼痛、炎症および結果として血漿溢出となる増加された血管透過性を引き起こす。感覚末端からの神経ペプチド(サブスタンスP、CGRP)の放出を阻害する薬物は、鎮痛活性および抗炎症活性を持つことが予想される。この作用機構は、末梢における鎮痛作用および抗炎症作用を示すその他の薬剤(例えば、スマトリプタンおよびモルヒネ)に対して確立されてきた。スマトリプタンおよびモルヒネは、5HT1レセプターおよびμ−オピオイドレセプターにそれぞれ作用する。これらの薬物の両方は、α−2レセプターを用いたシグナル伝達の共通機構を共有するレセプターを活性化するアゴニストである。UK14304は、スマトリプタン同様、α−2レセプターにおける接合部前作用を通じて硬膜内の血漿溢出を阻害することが示されてきた。
【0096】
クロニジン末梢鎮痛効果を支持する証拠は、関節鏡によるひざ手術の終わりにおける薬剤の関節内注射の影響の研究において得られた(Gentili,Mら(1996)Pain 64:593−596)。クロニジンは、非アヘンの抗侵害受容特性を示すと考えられ、この特性により、その使用が術後の痛覚脱失に対する選択肢となる。術後期間の間、静脈に患者に投与されるクロニジンの痛覚脱失効果を評価するために行われる研究において、クロニジンは疼痛の発生を遅らせ、疼痛評点(pain score)を下げることが発見された。このように、多くの研究により、α−2アドレナリン作用レセプターのいずれかに作用する薬物由来の術中および術後の鎮痛効果が示され、そのことからこれらのレセプターが、疼痛を取り扱うための新規薬物のためのよい治療標的である。
【0097】
α−2レセプターアゴニスト(例えば、UK14304)に対して規定された作用の分子機構および細胞機構から、これらの化合物は、組織に直接、術中に洗浄溶液中に適用された場合に、一次性求心神経の末梢末端において抗侵害受容作用を示すことが期待されている。
【0098】
α−2レセプターアゴニストは、本発明における使用に対して適切であり、疼痛および炎症を阻害するために、単一の薬剤としてまたはその他の抗疼痛薬物および/または抗炎症薬物と合わせて送達される。本発明の実施に対する典型的なα−2レセプターアゴニストとしては、例えば、クロニジン;デクスメデトミジン;オキシメタゾリン;((R)−(−)−3’−(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)−4’−フルオロ−メタンスルホアニリド(NS−49);2−[(5−メチルベンズ−1−オクス−4−アジン−6−イル)イミノ]イミダゾリン(AGN−193080);Munk,S.ら、J.Med.Chem.39:3533−3538(1996)に記載される、AGN 191103およびAGN 192172;5−ブロモ−N−(4,5−ジヒドロ−1H−イミダゾール−2−イル)−6−キノキサリンアミン(UK14304);5,6,7,8−テトラヒドロ−6−(2−プロペニル)−4H−チアゾロ[4,5−d]アゼピン−2−アミン(BHT920);6−エチル−5,6,7,8−テトラヒドロ―4H−オキサアゾロ[4,5−d]アゼピン−2−アミン(BHT933)、5,6−ジヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフィル−イミダゾリン(A−54741)が挙げられる。
【0099】
【表19】


F.多機能剤
本発明のさらなる局面では、眼科的洗浄溶液に含有されるべき好ましい薬剤の選択は、1つより多い上記の機能分類において効力を示す特定の薬剤を考慮に入れる。IOP低下剤、ならびに炎症および疼痛を阻害する薬剤として機能し得ることから、前述のα−2アドレナリン作用レセプターアゴニストは、この例を提供する。例えば、オキシメタゾリンは、感覚神経伝達物質の放出を阻害することにより、眼の炎症を阻害する(Fuder H.、J.Ocul.Pharmacol.、10:109−123(1994))。オキシメタゾリンは、α−1アドレナリン作用レセプターにおけるアゴニスト活性を介して散瞳剤としても機能し、α−2アドレナリン作用レセプターにおけるアゴニスト活性を介してIOPも減少させる(Chu T.ら、Pharmacology、53:259−270(1996))。NSAIDは、抗炎症効果に加え、術中の縮瞳を阻害し、それにより散瞳特性を有することが示される。そのような多機能剤は、まだ多機能剤によって提供されていない少なくとも1つの追加の眼科機能を提供する追加の薬剤と組み合わせられる場合、本発明の眼科溶液中に適切に使用され得る。
【0100】
多機能剤を選択することに加え、これらの局所適用剤の毒性の副作用を避けることも、重要である。局所的送達の利点は、全身性の副作用の有意な減少である。しかし、これらの薬剤の局所効果(例えば、高濃度の局所麻酔剤またはステロイドにより治癒した減少した創傷)は、考慮されなければならない。そのため、神経分泌を効果的に阻害するが創傷治癒問題を回避しない低濃度の局所麻酔剤は、本発明における使用のために好ましい(Bisla Kら、Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.、33:3029−3033(1992))。NSAIDSが、眼の手術の結果生じる炎症を制御するためステロイドと同様効果的であることが示されているので(Dadeya S.ら、J.Pediatr.Ophthalmol.Strabismus.、39:166−168(2002))、NSAIDSは、ステロイドの潜在的な非特異的有害な影響を避けるために好ましい。
【0101】
様々な眼科手術手法の特定の必要性に応じて、2つ以上の薬剤を含有する、様々な本発明の適切な洗浄溶液が、本発明に従って調剤され得るが、各溶液は、上記の機能カテゴリー(すなわち、鎮痛剤、抗炎症剤、散瞳剤、およびIOP低下剤)の全てから得られる薬剤を含有しなくてよい。例えば、白内障手術中の使用のために本明細書中の開示に従って調剤される洗浄溶液は、この手順は硝子体切除ほどは痛くないので、鎮痛薬を必要とし得ない。
【0102】
G.洗浄担体
本発明の活性剤は、生理液体洗浄担体内に可溶化される。担体は、生理電解質を含有し得る水溶液(例えば、標準食塩水または乳酸加リンガー液)であることが適切である。より好ましくは、担体は、1つ以上の補助剤を含有し、好ましくは以下の補助剤の全てを含有する:生理平衡塩溶液を提供するために十分な電解質;細胞エネルギー源;緩衝剤;およびフリーラジカル除去剤。(以下の例の中に「好ましい平衡塩濃度」として参照される)1つの適切な溶液としては、50mM〜500mMのナトリウムイオン、0.1mM〜50mMのカリウムイオン、0.1mM〜5mMのカルシウムイオン、0.1mM〜5mMのマグネシウムイオン、50mM〜500mMの塩化物イオン、および0.1mM〜10mMのリン酸塩;緩衝液としての10mM〜50mMの濃度の重炭酸イオン;1mM〜25mMの濃度のデキストロースおよびグルコースから選択される細胞エネルギー源;0.05mM〜5mMの濃度のフリーラジカル除去剤(すなわち、抗酸化剤)としてのグルタチオンが含有される。洗浄溶液のpHは、5.5および8.0の間で、好ましくはpH7.4で制御される場合が、適切である。
【0103】
V.適用の方法
本発明の溶液は、手術技術、診断技術、および治療技術を含む、様々な手術/介入処置のための適用を有する。洗浄溶液は、眼科手術中に手術時に適用される。上記のように、用語「手術時」は、術中、術前および術中、術中および術後、ならびに術前、術中および術後において、適用することを包含する。好ましくは、溶液は、術前および/または術後ならびに術中に適用される。洗浄溶液は、疼痛および炎症を予防的に阻害し、眼内圧の上昇を阻害し、および/または散瞳を引き起こすために、処置開始前に、好ましくは実際の組織外傷前に、ならびに主要部位全体に渡って連続してまたは処置の間、主要部分全体に渡り創傷部位または手術部位に、最も好ましくは、適用される。上述のように、本発明の洗浄流体の連続適用は、絶え間ない適用として、あるいは適用薬剤の前もって規定された治療効果のある局所濃度を維持するために十分な頻度で、創傷または手術部位の反復され、および頻繁な洗浄として、または手術技術により必要とされる洗浄液体流の断続する中断があり得る適用として実行され得る。処置の結末において、治療薬剤の追加量が、例えば同一またはそれより高濃度の活性剤を含有する追加量の洗浄液体の眼内注射により、または、粘弾性ゲルで薬剤の眼内注射または局所適用により、導入され得る。
【0104】
本発明の溶液内の各薬剤に対して挙げられる濃度は、代謝の変質を起こさずに、手術部位における前もって規定されるレベルの効果を達成するため、局所的に送達される薬剤の濃度である。この溶液は、処置中に手術部位への薬剤の直接的局所適用により、極度に低用量のこれらの疼痛阻害剤および炎症阻害剤を使用する。
【0105】
本発明の各手術溶液では、その薬剤は、処置部位における所望の治療効果を達成するため、薬物の全身投与法で必要とされる濃度および用量に比較して、低用量で局所的に送達される。
【実施例】
【0106】
(VI.実施例)
以下は、眼科処置のために適切な本発明に従る、典型的な処方である。
【0107】
(実施例1)
白内障除去手術中の使用のための、本発明の典型的な眼科溶液は、表20、表21および表22に記載される。この溶液、および表23〜表25の以下の溶液は、例示としてのみ提供され、本発明を制限することを意図しない。抗炎症剤は、類嚢胞黄斑水腫(CME)の術後における発生を潜在的に減少させ、またはその消散を促進するために、本発明の白内障溶液で特に有用であると考えられている。これらの典型的な溶液および本明細書中の以下に記載されるその他の典型的眼科洗浄溶液は、前述の好ましい平衡塩溶液中に含有される各溶液の濃度に関して、提供される。その溶液は、500mlバッグで適切に供給され得、これは、非制限の例示として処置中に代表的に適用される洗浄液の量である。
【0108】
【表20】

【0109】
【表21】

【0110】
【表22】


(実施例2)
炎症の効果的な減少のため、および侵襲性の眼科手術(例えば、トラベクレクトミー)
のための散瞳を供給するための複数の薬剤を含む、類似の洗浄溶液を、表23に提供する。
【0111】
【表23】


(実施例3)
広大な眼科手術または後眼房処置(例えば、硝子体切除)のために適切に使用される洗浄溶液は、局所麻酔に加え、増加される痛覚脱失を提供する。局所麻酔剤を含有する本発明のそのような溶液は、表24および表25に提供される。
【0112】
【表24】

【0113】
【表25】


本発明の好ましい実施形態が、図示され、記載されてきたが、開示された溶液および方法に対する様々な改変が、本発明の精神および範囲から逸脱せずにそこで成され得る。例えば、代理の疼痛阻害剤、炎症阻害剤、IOP低下剤、および散瞳剤は、本明細書中に包含される開示に従い、開示された薬剤を増加または置換し得ることが発見され得る。従って、本明細書中で認められた特許文書の範囲は、添付の特許請求の範囲の規定によってのみ制限され得ることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。

【公開番号】特開2010−132696(P2010−132696A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43527(P2010−43527)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【分割の表示】特願2004−524225(P2004−524225)の分割
【原出願日】平成15年7月30日(2003.7.30)
【出願人】(502022025)オメロス コーポレイション (10)
【Fターム(参考)】