説明

眼科用剤

【課 題】 フルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を含有する、安定で澄明な眼科用剤、およびプラスチック容器中、室温かつ非遮光条件下で長期間保存可能な眼科用剤を提供する。
【解決手段】 下記A)〜E)
A)フルオレセインまたはその塩
B)オキシブプロカインまたはその塩
C)緩衝作用を有する化合物
D)ポビドンおよび/または非イオン界面活性剤
E)ソルビン酸およびその塩、並びにパラベンからなる群より選択される1種または2種以上の防腐剤
を含有し、
かつ、下記d1)、d2)またはd3)
d1)ポビドンの配合量が眼科用剤全体に対して15w/v%以上である
d2)ポビドンの配合量が眼科用剤全体に対して15w/v%未満であり、かつ、非イオン界面活性剤を含有する
d3)ポビドンを非配合であり、かつ、非イオン界面活性剤を含有する
のいずれかの条件を満たし、プラスチック容器保存用である眼科用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を含有する眼科用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオレセインまたはその塩は、眼科学における診断試薬として、角膜上皮欠損等の診断、眼圧測定等に広く使用されている。
フルオレセインまたはその塩の溶液は微生物に汚染されやすく、防腐剤としてクロロブタノールが使用されているが、クロロブタノールを含む溶液はガラス容器中、冷所で遮光保存する必要がある(例えば、非特許文献1)。これは、クロロブタノールが高温や光により分解するためと、プラスチック容器を透過するためである。さらに、クロロブタノールはpH4.5〜5.5で安定であるのに対し、このpH領域ではフルオレセインが不安定であるため保存中に分解しやすい。
【0003】
しかしながら、溶液(製剤)をガラス容器中で保存すると、例えば点眼する場合には使用時に溶液を点眼可能なプラスチック製の容器に移す必要があり、操作が煩雑となるという問題点があった。このため、フルオレセインまたはその塩を含む眼科用剤について、プラスチック製の容器中で保存可能な処方が求められていた。また、保存を容易に行えるように、非遮光および室温で長期間保存可能な処方が求められていた。
【0004】
また、フルオレセインまたはその塩を用いる眼科用剤には、眼圧測定用の麻酔薬として塩酸オキシブプロカイン等の局所麻酔剤を含むものもある。
例えば、フルオレセインおよび塩酸オキシブプロカインを含有する眼科用剤は、フルオレセインを含有する注射剤と、塩酸オキシブプロカインおよび塩化ベンザルコニウム(防腐剤)を含有する点眼液とを混合することにより調製できる。しかしながら、これらの溶液を混合した直後から製剤溶液中に塩化ベンザルコニウムの沈殿が析出するという問題点がある。また、調製した製剤は遮光及び冷所で保存する必要があり、さらに、長期間保存する場合にはフルオレセインおよび塩酸オキシブプロカインも徐々に沈殿するという問題点があった。
【0005】
沈殿の析出を抑える手段として、ポビドンを添加する方法が知られている。
特許文献1には、フルオレセインを用いる眼科学用組成物として、フルオレセインナトリウムと、ベノキシネート(オキシブプロカイン)等の局所麻酔剤と、防腐剤としてクロロブタノールとを含有する組成物が開示されており、溶液を長期間安定に保存するために錯化剤および可溶化剤としてポリビニルピロリドン(ポビドン)を5〜15%、好ましくは15%配合することが開示されている。
【0006】
しかしながら、日本では、厚生労働省通知による医薬品添加物の配合量制限があり、ポビドンの最大使用量は、眼科用剤の場合では、各種グレードの合計で5.05w/w%となっている。具体的には、ポビドンK25の最大使用量は30mg/gであり、ポビドンK30では20mg/gであり、ポビドンK90では0.5mg/gである。
このため、ポビドンの配合量を少なくしても沈殿が析出しない処方が求められていた。
【0007】
特許文献2には、ベノキシネート等の局所麻酔剤と、フルオレセインナトリウムとを可溶化させるために、可溶化剤としてエトキシ化ラノリンを含有し、さらにポリオキシエチレンソルビタンモノオレートを含有する眼科用製剤が開示されている。特許文献2には、防腐剤として塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール等が開示されている。
【0008】
特許文献3には、フルオレセイン等の色素、拡張剤、ベノキシネート等の局所麻酔薬、クロロブタノール等の防腐剤、湿潤剤等を含有する眼の診断に用いる組成物が開示されている。
【0009】
しかしながら、これらの技術による製剤、特にフルオレセインと塩酸オキシブプロカインを含有する点眼剤は、ガラス瓶中で冷蔵、遮光保存が義務づけられており、フルオレセインおよび塩酸オキシブプロカインを含有する溶液をプラスチック製の保存容器で、非遮光および室温で長期間保存できるものではなかった。沈殿の析出抑制に関しても、さらなる検討の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第3,306,820号明細書
【特許文献2】米国特許第3,374,144号明細書
【特許文献3】米国特許第6,218,428号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】American Journal of Ophthalmology 110: 199-202, 1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、フルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を含有する、安定で澄明な眼科用剤を提供することを目的とする。また、フルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を含有する、プラスチック容器中、室温かつ非遮光条件下で長期間保存可能な眼科用剤を提供することを目的とする。さらに、フルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を含有する溶液における沈殿の析出および/または懸濁の発生を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記現状に鑑み鋭意研究を重ねた結果、フルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を含有する眼科用剤において、(1)防腐剤としてソルビン酸およびその塩、並びにパラベンからなる群より選択される1種または2種以上を用いると共に、(2)緩衝作用を有する化合物を配合し、(3)ポビドンを眼科用剤(溶液)全体に対して15w/v%以上配合すると、安定で澄明な製剤とすることができ、眼科用剤をガラス容器中、冷所で遮光保存しなくても、長期間沈殿の析出や懸濁が発生しないことを見出した。つまり、プラスチック容器中で、室温かつ非遮光の条件で長期間保存可能な製剤とすることができることを見出した。
【0014】
また、フルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を含有する眼科用剤において、(1)防腐剤としてソルビン酸およびその塩、並びにパラベンからなる群より選択される1種または2種以上を用いると共に、(2)緩衝作用を有する化合物を配合すると、(4)ポビドンを十分量配合しない場合(眼科用剤全体に対して15w/v%未満とする場合)であっても、ポビドンと共に非イオン界面活性剤を用いることにより、安定で澄明であり、プラスチック容器中で、室温かつ非遮光の条件で長期間保存可能な製剤とすることができることを見出した。
【0015】
さらに、フルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を含有する眼科用剤において、(1)防腐剤としてソルビン酸およびその塩、並びにパラベンからなる群より選択される1種または2種以上を用いると共に、(2)緩衝作用を有する化合物を配合すると、(5)ポビドンを非配合としても、非イオン界面活性剤を配合することにより、安定で澄明であり、プラスチック容器中で、室温かつ非遮光の条件で長期間保存可能な製剤とすることができることを見出した。
【0016】
また、(6)眼科用剤(溶液)のpHを6〜9にすると、その保存安定性を一層向上させることができること、(7)緩衝作用を有する化合物として、酢酸、リン酸、クエン酸、ホウ酸、酒石酸、トロメタモールおよびこれらの塩からなる群より選択される1種または2種以上が好適であること、さらに(8)非イオン界面活性剤として、ポリソルベート80が好適であること等も見出した。
本発明者らは、上記知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、
(1)下記A)〜E)
A)フルオレセインまたはその塩
B)オキシブプロカインまたはその塩
C)緩衝作用を有する化合物
D)ポビドンおよび/または非イオン界面活性剤
E)ソルビン酸およびその塩、並びにパラベンからなる群より選択される1種または2種以上の防腐剤
を含有し、
かつ、下記d1)、d2)またはd3)
d1)ポビドンの配合量が眼科用剤全体に対して15w/v%以上である
d2)ポビドンの配合量が眼科用剤全体に対して15w/v%未満であり、かつ、非イオン界面活性剤を含有する
d3)ポビドンを非配合であり、かつ、非イオン界面活性剤を含有する
のいずれかの条件を満たし、プラスチック容器保存用であることを特徴とする眼科用剤、
(2)pHが6〜9であることを特徴とする前記(1)に記載の眼科用剤、
(3)C)緩衝作用を有する化合物が、酢酸、リン酸、クエン酸、ホウ酸、酒石酸、トロメタモールおよびこれらの塩からなる群より選択される1種または2種以上である前記(1)または(2)に記載の眼科用剤、
(4)非イオン界面活性剤が、ポリソルベート80である前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の眼科用剤、および、
(5)前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の眼科用剤をプラスチック容器内に収めた眼科用薬、
に関する。
【0018】
本発明はまた、
(6)A)フルオレセインまたはその塩、およびB)オキシブプロカインまたはその塩を含有する溶液に、C)緩衝作用を有する化合物、D)ポビドンおよび/または非イオン界面活性剤、およびE)ソルビン酸およびその塩、並びにパラベンからなる群より選択される1種または2種以上の防腐剤を配合することを特徴とするフルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を含有する溶液における沈殿の析出および/または懸濁の発生を抑制する方法、および、
(7)A)フルオレセインまたはその塩、およびB)オキシブプロカインまたはその塩を含有する溶液に、C)緩衝作用を有する化合物、D)ポビドンおよび/または非イオン界面活性剤、およびE)ソルビン酸およびその塩、並びにパラベンからなる群より選択される1種または2種以上の防腐剤を配合し、得られた該A)〜E)を含有する溶液をプラスチック容器内に収める前記(6)に記載の方法、
に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、フルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を含有する、沈殿の析出や懸濁の発生が抑制された安定で澄明な眼科用剤を提供することができる。具体的には、プラスチック容器中で、室温および非遮光の条件で保存した場合に、少なくとも1ヶ月間眼科用剤が沈殿や懸濁を生じない澄明な状態を維持し、かつその活性成分であるフルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を保持している眼科用剤を提供することができる。また、フルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を含有する眼科用剤等の溶液をプラスチック容器中で、室温および非遮光の条件で長期間保存することが可能となるため、眼科用剤等の溶液の保存が容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明について、詳細に説明する。
A)フルオレセインまたはその塩
本発明の眼科用剤に用いられるA)フルオレセインまたはその塩としては、眼科用剤に用いることができるものであれば特に限定されない。フルオレセインの塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。好ましくは、フルオレセインのナトリウム塩(フルオレセインナトリウム)である。
【0021】
本発明の眼科用剤において、フルオレセインまたはその塩の配合量は、使用目的等により適宜選択すればよいが、眼科用剤全体に対して0.01〜0.5w/v%とすることが好ましい。この範囲であると、眼科用剤として好適である。また、眼科用剤中での沈殿の析出が抑えられるため好ましい。より好ましくは、眼科用剤全体に対して0.1〜0.3w/v%とする。
【0022】
B)オキシブプロカインまたはその塩
本発明におけるB)オキシブプロカインまたはその塩としては、眼科用剤に用いることができるものであれば特に限定されない。オキシブプロカインの塩としては、塩酸塩、硫酸塩が挙げられる。好ましくは、オキシブプロカインの塩酸塩(塩酸オキシブプロカイン)である。
【0023】
本発明の眼科用剤において、オキシブプロカインまたはその塩の配合量は、眼科用剤全体に対して0.01〜1.0w/v%とすることが好ましい。この範囲であると、眼科用剤として好適である。また、眼科用剤中での沈殿の析出が抑えられるため好ましい。より好ましくは、眼科用剤全体に対して0.2〜0.6w/v%とする。
【0024】
E)防腐剤
本発明における防腐剤には、ソルビン酸およびその塩、並びにパラベンからなる群より選択される1種または2種以上が用いられる。本発明におけるソルビン酸またはその塩としては、眼科用剤に用いることができるものであれば特に限定されない。ソルビン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩が挙げられる。好ましくは、ナトリウム塩(ソルビン酸ナトリウム)、カリウム塩(ソルビン酸カリウム)である。
【0025】
パラベン(パラオキシ安息香酸エステル)は、眼科用剤に用いることができるものであれば特に限定されないが、パラオキシ安息香酸メチルエステル、パラオキシ安息香酸エチルエステル、パラオキシ安息香酸プロピルエステル、パラオキシ安息香酸ブチルエステルが好ましく、パラオキシ安息香酸メチルエステルがより好ましい。
本発明における防腐剤は、好ましくは、ソルビン酸またはその塩であり、より好ましくはソルビン酸、ソルビン酸カリウム、およびソルビン酸ナトリウムからなる群より選択される1種または2種以上を防腐剤として用いることである。
【0026】
本発明の眼科用剤において、ソルビン酸またはその塩を用いる場合、その配合量は、眼科用剤全体に対して0.01〜0.2w/v%とすることが好ましい。この範囲であると、眼科用剤がプラスチック容器中で、室温および非遮光の条件で長期間保存可能なものとなるため好ましい。より好ましくは、眼科用剤全体に対して0.05〜0.15w/v%とする。パラベンを用いる場合、その配合量は、眼科用剤全体に対して0.01〜0.5w/v%とすることが好ましく、0.02〜0.2w/v%とすることがより好ましく、0.05〜0.1w/v%とすることがさらに好ましい。ソルビン酸およびその塩、並びにパラベンからなる群より選択される2種以上を防腐剤として用いる場合、これらの防腐剤の合計量を眼科用剤全体に対して0.01〜0.5w/v%とすることが好ましく、0.05〜0.15w/v%とすることがより好ましい。
【0027】
D)ポビドンおよび非イオン界面活性剤
ポビドンおよび非イオン界面活性剤は、安定化剤として使用される。
本発明におけるポビドン(ポリビニルピロリドン、「PVP」ともいう)は、眼科用剤に用いることができるものであれば特に限定されない。例えば、ポビドンK25、ポビドンK30、ポビドンK90が挙げられる。好ましくはK30である。
【0028】
本発明における非イオン界面活性剤は、眼科用剤に用いることができるものであれば特に限定されない。例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート(ポリソルベート80)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(ポリソルベート60)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート(ポリソルベート40)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート(ポリソルベート65)などのポリオキシエチレン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレン(10)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(50)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油などのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール(プルロニックF68)、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール(プルロニックP123)、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール(プルロニックP85)、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール(プルロニックF127)、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール(プルロニックL−44)などのポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール;ステアリン酸ポリオキシル40などのステアリン酸ポリオキシル;マクロゴール400、4000、6000などのポリエチレングリコール;ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。中でも、ポリソルベート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、およびステアリン酸ポリオキシルからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、さらに、中でもポリソルベート80がより好ましい。
【0029】
本発明の眼科用剤において、d1)ポビドンの配合量が眼科用剤全体に対して15w/v%以上であると、眼科用剤における沈殿の析出や懸濁の発生が抑制されるため、眼科用剤を安定で澄明なものとすることができる。
この場合、ポビドンの配合量は、眼科用剤全体に対して30w/v%以下であることが好ましい。より好ましくは、眼科用剤全体に対して15〜20w/v%であり、特に好ましくは15〜18w/v%である。また、ポビドンの配合量が眼科用剤全体に対して15w/v%以上である場合、ポビドン以外の安定化剤は特に必要ないが、本発明の効果を奏する限り、非イオン界面活性剤または眼科用剤に使用可能な他の安定化剤を適宜使用してもよい。
【0030】
本発明の眼科用剤において、d2)ポビドンの配合量が眼科用剤全体に対して15w/v%未満である場合、またはd3)ポビドンを非配合である場合には、眼科用剤はさらに非イオン界面活性剤を含有する。ポビドンの配合量を眼科用剤全体の15w/v%未満またはポビドンを非配合としても、非イオン界面活性剤を用いることにより、眼科用剤における沈殿の析出や懸濁の発生が抑制されるため、眼科用剤を安定で澄明なものとすることができる。さらに、d2)およびd3)の態様においては、非イオン界面活性剤と、ヒプロメロース、ポリビニルアルコールおよびエタノールからなる群より選択される1種または2種以上の安定化剤とを組み合わせて用いることもできる。好ましくは、ポリソルベート80およびヒプロメロースの組み合わせ、ポリソルベート80およびポリビニルアルコールの組み合わせ、または、ポリソルベート80およびエタノールの組み合わせ、を用いる。ポリビニルアルコールは、部分けん化物であってもよい。
【0031】
本発明におけるヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、ポリビニルアルコール、およびエタノールは、眼科用剤に用いることができるものであれば特に限定されない。ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2208、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2906、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910が溶解性の面から好適である。
【0032】
上記d2)の場合のポビドンの配合量としては、眼科用剤全体に対して通例、1〜12w/v%であり、より好ましくは2〜9w/v%であり、特に好ましくは3〜5.05w/v%である。
【0033】
d2)およびd3)の場合における非イオン界面活性剤の配合量、並びにヒプロメロース、ポリビニルアルコール、およびエタノールからなる群より選択される1種または2種以上の安定化剤の配合量としては、例えば、非イオン界面活性剤としてポリソルベート80を使用する場合は、ポリソルベート80が、眼科用剤全体に対して通例0.05〜2w/v%、好ましくは0.1〜1w/v%、より好ましくは0.2〜0.8w/v%である。ポリビニルアルコールについては眼科用剤全体に対して通例0.1〜3w/v%、好ましくは0.2〜1.5w/v%、より好ましくは0.5〜1.5w/v%であり、さらにエタノールについては、眼科用剤全体に対して通例0.1〜15v/v%、好ましくは3〜12v/v%、より好ましくは5〜10v/v%である。ヒプロメロースは、眼科用剤全体に対して通例0.001〜10w/v%、好ましくは0.01〜5w/v%、より好ましくは0.1〜0.5w/v%である。上記範囲であると、眼科用剤における沈殿の析出や懸濁の発生が効果的に抑制されるため、眼科用剤をより安定で澄明なものとすることができる。この範囲を逸脱すると、低濃度域では有効成分の安定性が不十分となり、また高濃度域では眼刺激が発生する場合があるために好ましくない。また、d2)およびd3)の場合においては、ヒプロメロース、ポリビニルアルコール、およびエタノールからなる群より選択される1種または2種以上の安定化剤を含む場合には、ヒプロメロース、ポリビニルアルコール、およびエタノールの合計量が、眼科用剤全体に対して0.01〜20w/v%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10w/v%である。
【0034】
C)緩衝作用を有する化合物
本発明の眼科用剤は、さらにC)緩衝作用を有する化合物を含有する。これにより、眼科用剤がより安定なものとなる。この緩衝作用を有する化合物は、眼科用剤に添加した場合に、その緩衝能によって、眼科用剤のpHを5〜10の範囲で、安定に維持できる化合物であることが好ましい。ここで溶液のpHとは、25℃におけるpHである。好ましくは、その緩衝能によって、眼科用剤のpHを6〜9の範囲で、安定に維持できる化合物である。また、溶液調製後、通例1ヶ月以上、好ましくは3ヶ月以上、より好ましくは6ヶ月以上、その緩衝能によって、該溶液のpHを5〜10の範囲で、安定に維持することができる化合物が好ましい。このような化合物は1種又は2種以上用いることができる。
【0035】
本発明における緩衝作用を有する化合物としては、酢酸、リン酸、クエン酸、ホウ酸、酒石酸、トロメタモールおよびこれらの塩からなる群より選択される1種または2種以上が挙げられる。C)緩衝作用を有する化合物としては、トロメタモール、リン酸およびこれらの塩からなる群より選択される1種または2種以上がより好ましく、トロメタモール、リン酸一水素ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムからなる群より選択される1種または2種以上が特に好ましい。
【0036】
C)緩衝作用を有する化合物の配合量としては、化合物の種類や所望する眼科用剤のpHに応じて適宜選択すればよいが、眼科用剤全体に対して0.1〜5w/v%とすることが好ましい。特にリン酸一水素ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムからなる緩衝液を用いる場合には、その濃度は通例0.01〜0.2mol/L、好ましくは0.03〜0.07mol/Lである。トロメタモールを含有するトリス緩衝液を用いる場合には、トロメタモール濃度は通例0.01〜20w/v%、好ましくは0.1〜2w/v%である。この範囲であると、眼科用剤がより安定となるため好ましい。
【0037】
本発明の眼科用剤は、本発明の効果を奏する限り、上記A)〜E)以外の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、等張化剤、粘稠剤、キレート剤、pH調整剤、清涼化剤、保存剤等が挙げられる。ここで、等張化剤の例としては、マンニトール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン等が挙げられ、粘稠剤としてはメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー等が、キレート剤としてはエチレンジアミン四酢酸またはその塩が、pH調整剤としては塩酸、および水酸化ナトリウム等が、清涼化剤としてはメントール、カンフル、ボルネオール等が、保存剤としては亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等がそれぞれ挙げられる。
【0038】
本発明の眼科用剤は、pHを6〜9とすることが好ましい。つまり、上記成分を含有する溶液のpHを6〜9とすることが好ましい。眼科用剤のpHがこの範囲であると、フルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩が安定であるため沈殿の析出または懸濁の発生が起こりにくく、眼科用剤をより安定なものとすることができる。pHが6未満であると、フルオレセインまたはその塩が分解しやすく、pHが9を超えると、オキシブプロカインまたはその塩が分解しやすい。このため、沈殿の析出が起こりやすくなり、眼科用剤を長期間保存することができなくなるおそれがある。より好ましくは、眼科用剤のpHを6.5〜7.5とする。
【0039】
本発明の眼科用剤は、上述したA)〜E)の所定量を水に溶解させることにより調製される。各成分を水に溶解後に、塩酸または水酸化ナトリウム等を用いて溶液のpHを6〜9に調製することが好ましい。
また、C)緩衝作用を有する化合物を水に溶解させて緩衝液を調製し、該緩衝液に上述したA)、B)、D)およびE)を溶解させてもよい。この場合には、C)の化合物を水に溶解させた緩衝液のpHを6〜9としておくことが好ましい。
A)〜E)を溶解させる水は、眼科用剤に使用可能な水であれば特に限定されず、例えば、精製水等を用いることができる。
A)〜E)の混合順序、混合方法等は特に限定されず、公知の調製法により各成分を水または緩衝液に溶解させればよい。
【0040】
本発明の眼科用剤は、プラスチック容器中で保存される製剤(プラスチック容器保存用の製剤)である。プラスチック容器の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等が好ましい。プラスチック容器は、遮光である必要はないが、遮光容器であってもよい。容器の形状としては特に限定されず、例えば、容器本体側面を圧搾して滴下する容器や、スポイト状の滴下部材を有する容器等が挙げられる。好ましくは、点眼容器であり、眼科用剤を保存後そのまま使用することができる。
【0041】
本発明の眼科用は、上記のようなプラスチック容器内に収めた形態とすることが好ましい。上記眼科用剤をプラスチック容器内に収めた眼科用薬も、本発明の1つである。
【0042】
本発明の眼科用剤は、室温かつ遮光条件で長期間保存後も沈殿や懸濁が生じない安定な製剤である。室温とは、1〜30℃である。本発明の眼科用剤は、プラスチック容器中、室温かつ遮光条件で少なくとも1ヶ月間沈殿や懸濁を生じない澄明な状態を維持し、かつその活性成分であるフルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を保持していることが好ましい。眼科用剤は、プラスチック容器中、室温かつ遮光条件で少なくとも1ヶ月間(より好ましくは3ヶ月間、さらに好ましくは6ヶ月間)、沈殿や懸濁を生じない澄明な状態を維持し、かつその活性成分であるフルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を保持していることがより好ましい。
【0043】
本発明の眼科用剤は、点眼液等として、眼の診断薬として用いられる。診断薬として用いる場合、本発明の眼科用剤の使用方法および使用量は従来の方法に従えばよく、特に限定されない。例えば、点眼する場合には、プラスチック容器内に収めた眼科用薬とし、眼科用剤を診断時に1滴〜数滴、眼に滴下することができる。本発明の眼科用剤は、例えば、高眼圧症、緑内障、および角膜上皮障害等の診断に好適に用いられる。
【0044】
下記A)〜E)
A)フルオレセインまたはその塩
B)オキシブプロカインまたはその塩
C)緩衝作用を有する化合物
D)ポビドンおよび/または非イオン界面活性剤
E)ソルビン酸およびその塩、並びにパラベンからなる群より選択される1種または2種以上の防腐剤
を含有し、
調製後にプラスチック容器中、室温かつ非遮光条件で保存した場合に1ヶ月以上溶液中に懸濁や沈殿が生じない眼科用剤も、本発明の1つである。好ましくは、調製後にプラスチック容器中、室温かつ非遮光条件で保存した場合に6ヶ月以上溶液中に懸濁や沈殿が生じないものであることである。
このような眼科用剤としては、上述した眼科用剤が好ましい。すなわち、眼科用剤は、下記d1)、d2)またはd3)
d1)ポビドンの配合量が溶液全体に対して15w/v%以上である
d2)ポビドンの配合量が溶液全体に対して15w/v%未満であり、かつ、非イオン界面活性剤を含有する
d3)ポビドンを非配合であり、かつ、非イオン界面活性剤を含有する
のいずれかの条件を満たすことが好ましい。A)〜E)及びその好ましい態様は、上述した眼科用剤におけるA)〜E)と同様である。A)〜E)の配合量、眼科用剤の調製方法等も、上述した眼科用剤におけるA)〜E)の配合量等と同じである。
【0045】
a)フルオレセインまたはその塩
b)オキシブプロカインまたはその塩
c)ポビドン
d)ソルビン酸またはその塩
を含有し、
かつ、下記c1)またはc2)
c1)ポビドンの配合量が眼科用剤全体に対して15w/v%以上である
c2)ポビドンの配合量が眼科用剤全体に対して15w/v%未満であり、さらにe)ポリソルベート80、ポリビニルアルコール、およびエタノールからなる群より選択される1種または2種以上の安定化剤を含有する
のいずれかの条件を満たし、
調製後にプラスチック容器中、室温かつ非遮光条件で保存した場合に1ヶ月以上溶液中に懸濁や沈殿が生じない眼科用剤も、本発明の1つである。好ましくは、調製後にプラスチック容器中、室温かつ非遮光条件で保存した場合に6ヶ月以上溶液中に懸濁や沈殿が生じないものであることである。
このような眼科用剤としては、上述した眼科用剤が挙げられる。
【0046】
A)フルオレセインまたはその塩、およびB)オキシブプロカインまたはその塩を含有する溶液に、C)緩衝作用を有する化合物、D)ポビドンおよび/または非イオン界面活性剤、およびE)ソルビン酸およびその塩、並びにパラベンからなる群より選択される1種または2種以上の防腐剤を配合するフルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を含有する溶液における沈殿の析出および/または懸濁の発生を抑制する方法も、本発明の1つである。
【0047】
本発明の方法において、A)〜E)及びその好ましい態様は、上述した眼科用剤におけるA)〜E)と同様である。また、A)〜E)を配合した溶液の好ましい態様は、上述した眼科用剤と同様である。すなわち、A)〜E)を配合した溶液は、下記d1)、d2)またはd3)
d1)ポビドンの配合量が溶液全体に対して15w/v%以上である
d2)ポビドンの配合量が溶液全体に対して15w/v%未満であり、かつ、非イオン界面活性剤を含有する
d3)ポビドンを非配合であり、かつ、非イオン界面活性剤を含有する
のいずれかの条件を満たすことが好ましい。A)〜E)の配合量、溶液の調製方法等も、上述した眼科用剤におけるA)〜E)の配合量等と同じである。
【0048】
本発明の方法においては、A)フルオレセインまたはその塩、およびB)オキシブプロカインまたはその塩を含有する溶液に、C)緩衝作用を有する化合物、D)ポビドンおよび/または非イオン界面活性剤、およびE)ソルビン酸およびその塩、並びにパラベンからなる群より選択される1種または2種以上の防腐剤を配合し、得られた該A)〜E)を含有する溶液をプラスチック容器内に収めることが好ましく、該溶液をプラスチック容器内で保存してもよい。本発明の方法によれば、A)フルオレセインまたはその塩、およびB)オキシブプロカインまたはその塩を含有する溶液に、上記C)〜E)を配合することにより、得られた該A)〜E)を含有する溶液をプラスチック容器内に収め、該プラスチック容器内で室温かつ遮光条件で該溶液を保存しても、1ヶ月以上(好ましくは、3ヶ月以上、より好ましくは6ヶ月以上)該溶液における沈殿の析出および/または懸濁の発生を抑制することができ、安定で澄明な状態を維持することができる。プラスチック容器は、上述したものと同様のものを使用できる。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例および試験例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
試験例1
オキシブプロカイン塩酸塩0.04gおよびポリビニルピロリドンK30 1.5gを混合し、これに精製水を加えて溶解させた後、フルオレセインナトリウム0.025gを溶解させ、さらにソルビン酸カリウム0.01gを溶解させた。その後、精製水を加えて全量を10mLとした。調製した溶液を製剤1とした。
【0051】
試験例2
オキシブプロカイン塩酸塩0.04gおよびポリビニルピロリドンK30 1.5gを混合し、これに精製水を加えて溶解させた後、フルオレセインナトリウム0.025gを溶解させ、さらにクロロブタノール0.1gを溶解させた。その後、精製水を加えて全量を10mLとした。調製した溶液を製剤2とした。
【0052】
試験例3
オキシブプロカイン塩酸塩0.04gおよびポリビニルピロリドンK30 1.5gを混合し、これに0.05Mリン酸バッファー(pH7.0)を加えて溶解させた後、フルオレセインナトリウム0.025gを溶解させ、さらにソルビン酸カリウム0.01gを溶解させた。その後、0.05Mリン酸バッファー(pH7.0)を加えて全量を10mLとした。調製した溶液を製剤3とした。
【0053】
試験例4
オキシブプロカイン塩酸塩0.04g、ポリビニルピロリドンK30 0.5g、ポリソルベート80 0.1gおよび無水エタノール0.8mLを混合し、これに0.05Mリン酸バッファー(pH7.0)を加えて溶解させた後、フルオレセインナトリウム0.025gを溶解させ、さらにソルビン酸カリウム0.01gを溶解させた。その後、0.05Mリン酸バッファー(pH7.0)を加えて全量を10mLとした。調製した溶液を製剤4とした。
【0054】
試験例5
オキシブプロカイン塩酸塩0.04g、ポリビニルピロリドンK30 0.5g、ポリソルベート80 0.1gおよび無水エタノール0.8mLを混合し、これに0.05Mリン酸バッファー(pH8.5)を加えて溶解させた後、フルオレセインナトリウム0.025gを溶解させ、さらにソルビン酸カリウム0.01gを溶解させた。その後、0.05Mリン酸バッファー(pH8.5)を加えて全量を10mLとした。調製した溶液を製剤5とした。
【0055】
試験例6
オキシブプロカイン塩酸塩0.04g、ポリビニルピロリドンK30 0.5g、ポリソルベート80 0.1gおよびポリビニルアルコール(部分けん化物)0.1gを混合し、これに0.05Mリン酸バッファー(pH7.0)を加えて溶解した後、フルオレセインナトリウム0.025gを溶解させ、さらにソルビン酸カリウム0.01gを溶解させた。その後、0.05Mリン酸バッファー(pH7.0)を加えて全量を10mLとした。調製した溶液を製剤6とした。
【0056】
試験例7
オキシブプロカイン塩酸塩0.04gおよびポリビニルピロリドンK30 0.5gを混合し、これに0.05Mリン酸バッファー(pH7.0)を加えて溶解させた後、フルオレセインナトリウム0.025gを溶解させ、さらにソルビン酸カリウム0.01gを溶解させた。その後、0.05Mリン酸バッファー(pH7.0)を加えて全量を10mLとした。調製した溶液を製剤7とした。
【0057】
試験例8
オキシブプロカイン塩酸塩0.04g、ポリビニルピロリドンK30 0.5g、ポリソルベート80 0.1gおよび無水エタノール0.8mLを混合し、これに0.05Mリン酸バッファー(pH5.5)を加えて溶解させた後、フルオレセインナトリウム0.025gを溶解させ、さらにソルビン酸カリウム0.01gを溶解させた。その後、0.05Mリン酸バッファー(pH5.5)を加えて全量を10mLとした。調製した溶液を製剤8とした。
【0058】
試験例1〜8で調製した製剤1〜8の組成および調製後の製剤の性状を表1に示す。特に断りのない限り表中の数値は「(質量/容量)%(w/v%)」を意味する。
また、製剤および比較製剤は、いずれもプラスチック容器(ポリプロピレン製、無色半透明)中、15〜25℃で非遮光で保存した。
調製後の製剤の性状は、製剤を目視することによって評価を行った。評価基準は以下のとおりである。
良: 製剤調製後、少なくとも30日間澄明であった。
可: 製剤調製後、5日目までに、ごくわずかに懸濁が認められたが、沈殿は認められなかった。
否: 製剤調製後、5日目までに沈殿が発生した。
【0059】
【表1】

【0060】
製剤2では、調製後3日目に沈殿が発生した。製剤7では、調製後5日目にわずかに懸濁したが、沈殿は認められなかった。製剤8では、調製翌日に沈殿が発生した。
【0061】
製剤1〜3の比較により、ポビドンが十分な量配合されている場合(ポビドンが15w/v%以上配合されている場合)、ソルビン酸カリウムを配合することにより室温かつ非遮光条件で長期間保存が可能となることが分かる。また、リン酸緩衝液を配合してもよいことが分かる。
【0062】
製剤4〜7と、製剤8との比較により、ポビドンが十分な量配合されない場合(ポビドンの配合量が15w/v%未満の場合)においては、ポリソルベート80、ポリビニルアルコール、およびエタノールから選択される1種または2種以上の安定化剤を含有することにより室温かつ非遮光条件での長期保存が可能となることが分かる。
【0063】
さらに、製剤4〜6と、比較製剤7との比較より、製剤のpHを6〜9とすると、安定性が向上することが分かる。
【0064】
試験例9
約40mL程度の精製水に、ポリソルベート80 0.25g、トロメタモール0.303g、クエン酸水和物0.05g、ポリビニルピロリドンK30 1.5g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 0.15g、エデト酸ナトリウム0.005g、およびソルビン酸カリウム0.05gを溶解させ、さらにオキシブプロカイン塩酸塩0.2g、およびフルオレセインナトリウム0.125gを溶解させた。その後、塩酸で溶液のpHを7.4に調整し、精製水を加えて全量を50mLとした。調製した溶液を製剤9とした。
【0065】
試験例10
約40mL程度の精製水に、ポリソルベート80 0.25g、塩化ナトリウム0.25g、トロメタモール0.303g、クエン酸水和物0.05g、ポリビニルピロリドンK30 1.5g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 0.15g、エデト酸ナトリウム0.005g、およびソルビン酸カリウム0.05gを溶解させ、さらにオキシブプロカイン塩酸塩0.2g、およびフルオレセインナトリウム0.125gを溶解させた。その後、塩酸で溶液のpHを7.4に調整し、精製水を加えて全量を50mLとした。調製した溶液を製剤10とした。
【0066】
試験例11
約40mL程度の精製水に、ポリソルベート80 0.25g、グリセリン0.85g、トロメタモール0.303g、クエン酸水和物0.05g、ポリビニルピロリドンK30 1.5g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 0.15g、エデト酸ナトリウム0.005g、およびソルビン酸カリウム0.05gを溶解させ、さらにオキシブプロカイン塩酸塩0.2g、およびフルオレセインナトリウム0.125gを溶解させた。その後、塩酸で溶液のpHを7.4に調整し、精製水を加えて全量を50mLとした。調製した溶液を製剤11とした。
【0067】
試験例12
約40mL程度の精製水に、ポリソルベート80 0.25g、塩化ナトリウム0.25g、トロメタモール0.303g、クエン酸水和物0.05g、ポリビニルピロリドンK30 1.5g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 0.15g、エデト酸ナトリウム0.005g、およびパラオキシ安息香酸メチル0.01gを溶解させ、さらにオキシブプロカイン塩酸塩0.2g、およびフルオレセインナトリウム0.125gを溶解させた。その後、塩酸で溶液のpHを7.4に調整し、精製水を加えて全量を50mLとした。調製した溶液を製剤12とした。
【0068】
試験例13
約40mL程度の精製水に、ポリソルベート80 0.25g、塩化ナトリウム0.25g、リン酸二水素カリウム0.34g、クエン酸水和物0.05g、ポリビニルピロリドンK30 1.5g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 0.15g、エデト酸ナトリウム0.005g、およびソルビン酸カリウム0.05gを溶解させ、さらにオキシブプロカイン塩酸塩0.2g、およびフルオレセインナトリウム0.125gを溶解させた。その後、水酸化ナトリウムで溶液のpHを7.4に調整し、精製水を加えて全量を50mLとした。調製した溶液を製剤13とした。
【0069】
試験例14
約40mL程度の精製水に、ポリソルベート80 0.25g、塩化ナトリウム0.25g、トロメタモール0.303g、クエン酸水和物0.05g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 0.15g、エデト酸ナトリウム0.005g、およびソルビン酸カリウム0.05gを溶解させ、さらにオキシブプロカイン塩酸塩0.2g、およびフルオレセインナトリウム0.125gを溶解させた。その後、塩酸で溶液のpHを7.4に調整し、精製水を加えて全量を50mLとした。調製した溶液を製剤14とした。
【0070】
試験例15
約40mL程度の精製水に、ポリソルベート80 0.25g、塩化ナトリウム0.25g、トロメタモール0.303g、クエン酸水和物0.05g、ポリビニルピロリドンK30 1.5g、エデト酸ナトリウム0.005g、およびソルビン酸カリウム0.05gを溶解させ、さらにオキシブプロカイン塩酸塩0.2g、およびフルオレセインナトリウム0.125gを溶解させた。その後、塩酸で溶液のpHを7.4に調整し、精製水を加えて全量を50mLとした。調製した溶液を製剤15とした。
【0071】
試験例16
約40mL程度の精製水に、ポリソルベート80 0.25g、塩化ナトリウム0.25g、トロメタモール0.303g、クエン酸水和物0.05g、ポリビニルピロリドンK30 1.5g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 0.15g、およびソルビン酸カリウム0.05gを溶解させ、さらにオキシブプロカイン塩酸塩0.2g、およびフルオレセインナトリウム0.125gを溶解させた。その後、塩酸で溶液のpHを7.4に調整し、精製水を加えて全量を50mLとした。調製した溶液を製剤16とした。
【0072】
試験例17
約40mL程度の精製水に、ポリソルベート80 0.25g、塩化ナトリウム0.25g、トロメタモール0.303g、ポリビニルピロリドンK30 1.5g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 0.15g、エデト酸ナトリウム0.005g、およびソルビン酸カリウム0.05gを溶解させ、さらにオキシブプロカイン塩酸塩0.2g、およびフルオレセインナトリウム0.125gを溶解させた。その後、塩酸で溶液のpHを7.4に調整し、精製水を加えて全量を50mLとした。調製した溶液を製剤17とした。
【0073】
試験例18
約40mL程度の精製水に、塩化ナトリウム0.25g、トロメタモール0.303g、クエン酸水和物0.05g、ポリビニルピロリドンK30 1.5g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 0.15g、エデト酸ナトリウム0.005g、およびソルビン酸カリウム0.05gを溶解させ、さらにオキシブプロカイン塩酸塩0.2g、およびフルオレセインナトリウム0.125gを溶解させた。その後、塩酸で溶液のpHを7.4に調整し、精製水を加えて全量を50mLとした。調製した溶液を比較製剤1とした。
【0074】
試験例19
約40mL程度の精製水に、ポリソルベート80 0.25g、塩化ナトリウム0.25g、ポリビニルピロリドンK30 1.5g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 0.15g、エデト酸ナトリウム0.005g、およびソルビン酸カリウム0.05gを溶解させ、さらにオキシブプロカイン塩酸塩0.2g、およびフルオレセインナトリウム0.125gを溶解させた。その後、精製水を加えて全量を50mLとした。調製した溶液を比較製剤2とした。
【0075】
試験例9〜19で調製した製剤9〜17および比較製剤1〜2の組成および調製後の製剤の性状を表2および表3に示す。表2および表3中、「バランス」とは、調製量まで該成分にてメスアップすることを意味する。特に断りのない限り、各成分に関する表2および表3中の数値は「(質量/容量)%(w/v%)」を意味する。
また、製剤および比較製剤は、いずれもプラスチック容器(ポリプロピレン製、無色半透明)中、15〜25℃で非遮光で保存した。調製後の製剤の性状は、製剤を目視することによって評価を行った。評価基準は、上述した製剤1〜8の評価基準と同じである。
【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
製剤9〜17および比較製剤1から、ポビドンの配合量が15w/v%未満、およびポビドンを非配合の場合、非イオン界面活性剤であるポリソルベート80を含有することにより、フルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を含有する溶液の、室温かつ非遮光条件での長期保存が可能となることが分かる。製剤9〜17と比較製剤2との比較から、緩衝作用を有する化合物を含有することにより、フルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を含有する溶液の、室温かつ非遮光条件で長期間保存が可能となることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の眼科用剤は、保存が容易で、かつ沈殿の析出が起こりにくい安定で澄明な眼科用剤として使用できる。本発明の方法は、フルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を含有する溶液における沈殿の析出および/または懸濁の発生を抑制することができるため、眼科用剤等の保存等において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A)〜E)
A)フルオレセインまたはその塩
B)オキシブプロカインまたはその塩
C)緩衝作用を有する化合物
D)ポビドンおよび/または非イオン界面活性剤
E)ソルビン酸およびその塩、並びにパラベンからなる群より選択される1種または2種以上の防腐剤
を含有し、
かつ、下記d1)、d2)またはd3)
d1)ポビドンの配合量が眼科用剤全体に対して15w/v%以上である
d2)ポビドンの配合量が眼科用剤全体に対して15w/v%未満であり、かつ、非イオン界面活性剤を含有する
d3)ポビドンを非配合であり、かつ、非イオン界面活性剤を含有する
のいずれかの条件を満たし、プラスチック容器保存用であることを特徴とする眼科用剤。
【請求項2】
pHが6〜9であることを特徴とする請求項1に記載の眼科用剤。
【請求項3】
C)緩衝作用を有する化合物が、酢酸、リン酸、クエン酸、ホウ酸、酒石酸、トロメタモールおよびこれらの塩からなる群より選択される1種または2種以上である請求項1または2に記載の眼科用剤。
【請求項4】
非イオン界面活性剤が、ポリソルベート80である請求項1〜3のいずれか一項に記載の眼科用剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の眼科用剤をプラスチック容器内に収めた眼科用薬。
【請求項6】
A)フルオレセインまたはその塩、およびB)オキシブプロカインまたはその塩を含有する溶液に、C)緩衝作用を有する化合物、D)ポビドンおよび/または非イオン界面活性剤、およびE)ソルビン酸およびその塩、並びにパラベンからなる群より選択される1種または2種以上の防腐剤を配合することを特徴とするフルオレセインまたはその塩、およびオキシブプロカインまたはその塩を含有する溶液における沈殿の析出および/または懸濁の発生を抑制する方法。
【請求項7】
A)フルオレセインまたはその塩、およびB)オキシブプロカインまたはその塩を含有する溶液に、C)緩衝作用を有する化合物、D)ポビドンおよび/または非イオン界面活性剤、およびE)ソルビン酸およびその塩、並びにパラベンからなる群より選択される1種または2種以上の防腐剤を配合し、得られた該A)〜E)を含有する溶液をプラスチック容器内に収める請求項6に記載の方法。

【公開番号】特開2009−196988(P2009−196988A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13505(P2009−13505)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(390031093)テイカ製薬株式会社 (38)
【Fターム(参考)】