説明

眼科用超音波診断装置

【課題】 IOL挿入眼における網膜反射エコーの誤検出の可能性を低減し、より正確な眼軸長の測定を可能にする眼科用超音波診断装置を提供する。
【解決手段】 超音波プローブから被検者の眼球に超音波を送信し、超音波プローブによって受信した眼球からの反射エコーに基づいて眼軸長を測定する眼科用超音波診断装置は、有水晶体眼測定モードと眼内レンズ挿入眼測定モードとを切換える測定モード切換手段と、眼内レンズ挿入眼測定モードに切換えられたときに、受信された反射エコーに基づいて角膜反射エコー及び眼内レンズ反射エコーを特定し、眼内レンズ反射エコーと網膜反射エコーとの間に発生する反射エコーであって、眼内レンズによって発生する多重反射エコーが示す所定の特性又は網膜反射エコーの信号が示す所定の特性に基づいて多重反射エコーと区別して網膜反射エコーを判定する判定手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者眼の眼軸長等を測定する眼科用超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波プローブ内のトランスデューサから超音波を送信し、眼球の各組織からの反射エコーを受信して処理することにより、眼球の各組織の位置を得て、眼軸長を測定する眼科用超音波診断装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。眼軸長は、白内障により白濁した水晶体が取り除かれた後に眼内に挿入される眼内レンズ(以下、本明細書ではIOLと記載する)を処方する際の基礎データとして使用される。
【0003】
例えば、有水晶体眼では、図4に示されるように、前眼部側から最初に検出レベル106aを越える反射エコーが角膜反射エコー102であると特定され、2番目に検出レベル106aを超える反射エコーが水晶体前面反射エコー103aであると特定され、3番目に検出レベル106aを超えた反射エコーが水晶体後面反射エコー103bであると特定される。そして、角膜位置から所定距離W(例えば、12mmであり、これよりも短い距離にある反射エコーと網膜反射エコーとを区別するために設けられた距離)だけ離れた位置P1から後ろ側で、検出レベル106bを最初に超えた反射エコーが網膜反射エコー104であると認識される。眼軸長は、角膜反射エコー102の立ち上がり位置107と網膜反射エコー104の立ち上がり位置109との距離に基づき、装置により自動的に得られる。
【0004】
また、前眼部の各組織や網膜反射エコーが自動的に判定しずらい場合には、検者がディスプレイに表示された反射エコーの波形(Aモード波形)を観察し、経験に基づいて各部位を特定するゲートを手動で設定するマニュアル測定が行われこともある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−187022号公報
【特許文献2】特開2008−29468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、既にIOLが挿入された被検者眼(以下、IOL挿入眼という)に新しいIOLを処方する場合、IOL挿入眼では、図4のような水晶体後面反射エコー103bは現れず、代わりに、IOLの反射エコーの後に、IOLと超音波プローブの先端(又は角膜)との間で超音波信号が繰返し反射されることで多重反射エコーが顕著に現れる場合がある。この多重反射エコーは、眼の組織とIOLとの物性とが大きく異なるために出現する。
【0007】
しかし、IOL挿入眼に対して前述したような網膜位置の判定基準が使用されると、多重反射エコーが網膜反射エコーであると誤検出され、誤った測定結果が出力されてしまう。検者が多重反射エコーの発生を認識していないと、正しく眼軸長が測定されていない事に気が付くことができず、被検者に正しいパワーのIOLが処方されなくなる。また、場合によっては、検者がゲートを手動で設定するマニュアル測定の機能が使用されることもあったが、多重反射エコーを区別することは難しかった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、IOL挿入眼における網膜反射エコーの誤検出の可能性を低減し、より正確な眼軸長の測定を可能にする眼科用超音波診断装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0010】
(1) 超音波プローブから被検者の眼球に超音波を送信し、超音波プローブによって受信した眼球からの反射エコーに基づいて眼軸長を測定する眼科用超音波診断装置において、有水晶体眼測定モードと眼内レンズ挿入眼測定モードとを切換える測定モード切換手段と、眼内レンズ挿入眼測定モードに切換えられたときに、受信された反射エコーに基づいて角膜反射エコー及び眼内レンズ反射エコーを特定すると共に、眼内レンズ反射エコーと網膜反射エコーの間に発生する反射エコーであって、眼内レンズによって発生する多重反射エコーが示す所定の特性又は網膜反射エコーの信号が示す所定の特性に基づいて多重反射エコーと区別して網膜反射エコーを判定する判定手段と、を備えることを特徴とする。
(2) (1)の眼科用超音波診断装置において、前記判定手段は、眼内レンズ反射エコーより網膜側に現れる反射エコーの周期性に基づいて多重反射エコーと区別して網膜反射エコーを判定する第1判定手段を持つか、網膜側から反射エコーを検索して網膜反射エコーの信号が示す所定の特性に基づいて多重反射エコーと区別して網膜反射エコーを判定する第2判定手段を持つか、又は反射エコーのゲインを変化させたときの反射エコーの減衰の違いに基づいて多重反射エコーと区別して網膜反射エコーを判定する第3判定手段の少なくとも一つを備えることを特徴とする。
(3) (1)の眼科用超音波診断装置において、前記第1判定手段は、特定した角膜反射エコーから眼内レンズ反射エコーまでの距離と眼内レンズ反射エコーより網膜側で隣り合う反射エコーの距離との周期性に基づいて多重反射エコーと区別して網膜反射エコーを判定する手段であることを特徴とする。
(4) (1)の眼科用超音波診断装置において、前記第2判定手段は、網膜反射エコーの所定の強度レベルでの反射エコー間の間隔と予め設定された距離との比較結果又は反射エコーの幅と眼内レンズ反射エコーの幅との比較結果の少なくとも一方に基づいて多重反射エコーと区別して網膜反射エコーを判定する手段であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、IOL挿入眼における網膜反射エコーの誤検出の可能性を低減し、より正確な眼軸長の測定が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本実施形態に係る眼科用超音波測定装置の外観略図である。図1において、装置本体1にはAモード法による超音波プローブ2が接続されており、カラー表示可能な大型の液晶表示パネル3が装置本体1の前面に設けられている。液晶表示パネル3はタッチパネル式であり、検者は表示パネル3に表示される設定項目を選択操作することで各種条件を設定することができる。装置本体1には、測定開始信号を送信するためのフットスイッチ9が接続されている。また、装置本体1にはゲイン調節スイッチ4aが配置されている。
【0013】
図2は眼科用超音波測定装置の制御系の要部構成図である。制御部10は装置本体1に内蔵され、各種回路等を制御する。制御部10はクロック発生回路11を駆動制御し、送信器17を介してプローブ2内に設けられたトランスデューサ12から超音波を発振させる。被検者眼の各組織からの反射エコーは、トランスデューサ12で受信され、増幅器18を介してA/D変換器13でデジタル信号に変換される。デジタル信号化された反射エコーは、サンプリングメモリ14に記憶される。制御部10は、サンプリングメモリ14に記憶された反射エコーに基づいて眼組織の各位置を特定し、角膜位置及び網膜位置までの長さを求めることにより眼軸長の測定値を得る。測定結果は、表示パネル3に表示される。メモリ16には、ゲイン調整が自動行われる時の基準値が記憶されている。
【0014】
図3は、表示パネル3の画面上に表示される測定画面の例である。測定画面の右側には、測定眼の種類を切換えるための測定眼スイッチ34が設けられている。スイッチ34により、有水晶体眼の眼軸長を測定する場合の水晶体眼測定モードと、IOL挿入眼の眼軸長を測定する場合のIOL挿入眼測定モードとが切換えられる。画面左下には測定眼の左右表示を切換えるための左右眼スイッチ38と眼軸長測定の開始/停止をするための測定スイッチ39が設けられている。
【0015】
また、画面には、被検眼に対するAモード計測が複数回(例えば、10回)行われた際の各測定結果からなる測定結果リスト(左から、ID番号、眼軸長、前房深度、水晶体厚、硝子体長さ)30が表示される。測定結果リスト30の左側には、カーソル31によって選択された測定結果に対応するAモード波形32が表示される。Aモード波形32上には、前眼部側の組織位置を検出するための検出レベル106aと、網膜位置を検出するための検出レベル106bとが表示されている。Aモード波形32の反射エコーが各検出レベル106a、106bを超えた位置で、各組織からの反射エコーが特定される。また、検出レベル106a、106bのレベルは、測定画面の左側に設けられた検出レベル変更スイッチ35により切換えられる。
【0016】
図4は、有水晶体眼のAモード波形100aの例である。Aモード波形100a上には、角膜反射エコー102、水晶体からの反射エコー103(水晶体前面反射エコー103a、水晶体後面側反射エコー103b)、網膜反射エコー104が確認される。
【0017】
水晶体眼測定モードでの測定を簡単に説明する。スイッチ34により水晶体眼測定モードが設定されると、制御部10はサンプリングメモリ14に記憶されたサンプリングデータを角膜側からスキャンして、最初に検出レベル106aを越える反射エコーを角膜反射エコー102であると認識し、その立ち上がり位置107を角膜の位置として特定する。また、2番目に検出レベル106aを超える反射エコーを水晶体前面反射エコー103aであると認識し、立ち上がり位置108aを水晶体前面位置であると特定する。同様に、3番目に検出レベル106aを超えた反射エコーを水晶体後面反射エコー103bであると認識し、立ち上がり位置108bを角膜側後面位置であると特定する。また、網膜反射エコー104は、角膜位置107から所定距離W(例えば、W=12mm)だけ離れた位置P1からスキャンが開始される。位置P1から、検出レベル106bを最初に超えた反射エコー104が網膜反射エコー104であると認識され、その立ち上がり位置109が網膜の位置として特定される。
【0018】
次に、スイッチ34でIOL挿入眼測定モードが設定された場合を説明する。図5はIOL挿入眼のAモード波形100bの例である。この例のAモード波形100b上には、角膜反射エコー102の次にIOL反射エコー110が現れ、さらに、IOLによる多重反射エコー120として3つの反射エコー120a,120b及び120cが現れ、反射エコー120cの次に現れた反射エコー104が網膜反射エコーである。IOLの厚みは水晶体厚(4mm程)に対して、例えば、0.8mm程度であるため、水晶体眼のように前面側の反射エコーと後面側の反射エコーとが分離していなく、一つの群の反射エコーとして出現する。
【0019】
図5の波形を例にして、多重反射エコー120と区別して網膜反射エコー104を判定する第1の判定方法を説明する。第1の判定方法は、多重反射エコー120の信号が示す特有の特性として、反射エコーの周期性を利用する方法である。多重反射エコー120は、IOLと超音波プローブ2の先端(又は角膜)との間で超音波信号が繰返し反射されることで生じるため、ほぼ等間隔で出現する。また、反射エコー120a,120b及び120cの波形は、IOL内での前面及び後面での反射であるので、IOL反射エコー110の波形の幅とほぼ同じ幅(距離、時間)で出現する傾向がある。
【0020】
制御部10は、サンプリングメモリ14に記憶されたサンプリングデータから、前眼部側から反射エコーの検出を開始し、検出レベル106aを越える反射エコーの立ち上がり位置を検出する。最初に検出レベル106aを超えた反射エコー102の立ち上がり位置107が角膜の位置、2番目に検出レベル106aを超えた反射エコー110の立ち上がり位置111がIOLの位置であると特定される。
【0021】
IOL位置111が特定されると、IOLの位置111よりも網膜側で多重反射が発生しているかのスキャンが行われる。制御部10は、角膜位置107(角膜前面位置)とIOL位置111(IOL前面位置)との差の距離Dを求める。そして、IOLの位置111と次に検出された反射エコー120aの立ち上がり位置121aとの距離D1を求める。同様に、隣り合う反射エコー120aと反射エコー120bの距離D2、反射エコー120bと反射エコー120cの距離D3、反射エコー120cと反射エコー104の距離D4を順次求めていく。
【0022】
制御部10は、距離Dに許容誤差(例えば、距離Dの±10%等のように設定されている)を見込んだ許容距離をD0とし、D0に距離D1,D2,D3,D4が入っているかを判定する。図5の例のように、距離D1が距離D0内に入っており、且つ距離D2も距離D0に入っていれば、反射エコー120aは多重反射エコー120であると判定される。次の距離D3も距離D0内に入っていれば、反射エコー120bは多重反射エコー120であると判定される。そして、さらに次の距離D4が距離D0から外れている場合、反射エコー120cまでが多重反射エコー120であると判定され、その次に現れた反射エコー104が網膜反射エコーであると判定される。このように、網膜反射エコー104がそれより前に現れた多重反射エコーと区別され、その立ち上がり位置109と角膜位置107とに基づいて眼軸長が制御部10により演算される。
【0023】
また、上記のように隣り合う反射エコーの距離の周期性に加え、各反射エコーの波形の幅が略等しいかを判定に加えると、多重反射エコーと網膜反射エコーの区別の精度が上がる。制御部10は、IOL反射エコー110の波形の幅Eと、各反射エコー120a,120b,120c,104の幅E1,E2,E3,E4・・・・・・を順次求める。なお、波形の幅Eを求めるレベルは、ゲインが調整された0(ゼロ)レベルから検出レベル106aまでの間で予め設定されている。
【0024】
制御部10は、幅Eに許容誤差(距離Dの場合と同じ考え方で設定されている)を見込んだ許容幅をE0とする。反射エコーの幅Eを判定に加えた判定は次のように利用できる。例えば、網膜反射エコー104に反射エコー120cが近接し、距離D4が非常に短い場合は、反射エコー120cが網膜反射エコー104の一部か否か不明確になる。この場合であっても、網膜反射エコー104の幅E4はIOLの幅Eよりも大きく現れるため、反射エコー120cの幅E3が幅E0(他の多重反射エコーと略等しい)と等しければ、反射エコー120cが多重反射エコーであると、より精度良く判定される。
【0025】
多重反射エコー120と区別して網膜反射エコー104を判定する第2の判定方法を説明する。第2の判定方法は、前眼部側からの反射エコーのスキャンに加えて網膜側からも反射エコーのスキャンを行い、網膜反射エコーの信号が示す特定の特性を利用して多重反射エコー120と区別する方法である。前眼部側(角膜側)からのスキャンを行うと、前述と同様に、検出レベル106aで最初に検出される反射エコーは角膜反射エコー102であり、2番目に検出される反射エコーがIOL反射エコー110である。検出レベル106aで一番目に検出された反射エコー102の立ち上がり位置107が角膜位置、二番目に検出された反射エコーの立ち上がり位置111がIOL位置であると特定される。
【0026】
IOL位置までが特定されれば、制御部10は網膜側からのスキャンを行う。網膜側からスキャンを行うと、最初に網膜反射エコーが検出レベル106bにより検出される。網膜反射エコーは、強度信号(波形)の立ち上がりと立下りとが複雑に混ざった形で現れる特性を持っている。そして、通常は、網膜組織内の強度信号は後方へ行くほど減衰するが、検出レベル106bを上回るようにゲインが高められている状態では網膜前面付近はIOL反射エコー110よりも広い幅を持った強度の波形として現れ、また、ゼロレベル強度での網膜反射エコーの間隔は多重反射エコー間の間隔よりも遥かに狭く現れる特性を持っている。
【0027】
そこで、多重反射エコーと網膜反射エコーを区別するために、反射エコーがゼロラインLと交差する場合に、どこまでを網膜反射エコーの範囲とするかの判定基準である微小距離Δdが予めメモリ16に入力されている。微小距離Δdは実験又は経験によって予め設定される値であり、例えば、0.1mmである。
【0028】
制御部10は、網膜反射エコー104が検出レベル106bで検出されると、網膜反射エコーの範囲を求めるために、波形がゼロラインLと交差(ゼロクロス)する位置104(104b、104c)、109を求める。そして、制御部10は、ゼロクロスの距離ΔWと微小距離Δdとを比較し、ゼロクロスの距離ΔWが微小距離Δdよりも狭い場合は、その次の立ち上がりを含む波形成分(角膜側の波形成分)を網膜反射エコーの一部であると判定する。一方、ゼロクロスの距離ΔWが微小距離Δdよりも広い場合は、次の立ち上がりを含む波形成分は網膜反射エコー104ではないと判定する。図5の例では、網膜反射エコー104と反射エコー120cとの間の距離ΔWが微小距離Δdよりも広いため、反射エコー120cは多重反射エコーであると判定され、その後方の反射エコーが網膜反射エコーであると判定される。また、網膜反射エコーの判定条件として、反射エコーの強度信号(波形)の幅を使用することもできる。制御部10は、IOL反射エコー110の幅Eと連続的な組織であるとみなされる反射エコー104の幅E4とを比較し、幅E4が幅E(一定値を加えた値としても良い)よりも広ければ、反射エコー104が網膜反射エコーであると判定する。そして、網膜反射エコー104での立ち上がり位置109が網膜位置であると特定される。
【0029】
以上のように、前眼部側からの反射エコーのスキャンにより得えられた角膜位置107と、網膜側からの反射エコーのスキャンにより得られた網膜位置109と、が特定されることにより、眼軸長が演算される。
【0030】
多重反射エコー120と区別して網膜反射エコー104を判定する第3の判定方法を説明する。第3の判定方法は、多重反射エコーに特有の特性として、反射エコーの強度信号のゲインを減少させた場合に、網膜反射エコーに比べて多重反射エコーの減衰率が大きい(ゲインの調節により多重反射エコーの波高値が影響を受けやすい)という特徴を利用する方法である。制御部10は、超音波プローブ2により所定数の反射エコーの信号を受信した後、自動的にゲインを減少させる。反射エコーの減衰率が網膜反射エコー104の減衰率に比べて大きい部分は、多重反射エコー120であると判定される。一方、反射エコーの減衰率が網膜反射エコー104の減衰率と同程度の場合には、反射エコーは網膜反射エコー104の一部であると判定される。
【0031】
この第3の判定方法は、検者がゲインを調整する場合も含まれる。検者は、ゲイン調節スイッチ4aのゲインを減少させ、前眼部側の1番目と2番目の反射エコー102、110は検出レベル106aを超えるようにし、且つ反射エコー110の後方で現れる反射エコーの中で最も高いピークを示す反射エコーが検出レベル106bに到達するようにゲイン調整する。このとき、多重反射エコーの波形高さ(強度信号のピーク)は網膜反射エコーより大きく減衰するので、検出レベル106bに到達している反射エコーの前側にある反射エコーの信号は多重反射エコーであると判定される。検出レベル106a、106bは、検出レベル変更スイッチ35によって調整しても良い。
【0032】
なお、上記の第1判定方法、第2判定方法及び第3判定方法を複合させて用いると、多重反射エコーと網膜反射エコーとの区別の精度がより向上する。
【0033】
上記では、水晶体眼測定モードとIOL挿入眼水晶体眼測定モードとをスイッチ34によって切換えるものとしたが、この切換え自体も自動で行われるようにすると、より効率的に正確な測定が行える。測定モードの自動切換えを以下説明する。
【0034】
制御部10は、サンプリングメモリ14に記憶された反射エコーについて、網膜側からのスキャンを行う。この時、制御部10は第2の判定方法と同様に、どこまでを網膜反射エコーの範囲とするかの判定基準である微小距離Δdに基づき網膜反射エコーを特定する。次に、制御部10は角膜側からのスキャンを行う。この時、水晶体眼の場合は、角膜反射エコー102、水晶体前面反射エコー103a、水晶体後面反射エコー103b、網膜反射エコー104の4つの反射エコーの立ち上がり(位置107、108a、108b、109)が検出される。一方、IOL挿入眼では、角膜反射エコー102、IOL反射エコー110、網膜反射エコー104の立ち上がり(位置107、111、109)に加えて、多重反射エコー120による複数の反射エコーの立ち上がり(位置121a、121b、121c)が検出される。そして、制御部10は、反射エコーの立ち上がりが4箇所である場合は水晶体眼であると判定し、立ち上がりが5箇所以上の場合はIOL挿入眼であると判定する。この判定によって、水晶体眼測定モードとIOL挿入眼水晶体眼測定モードが自動的に設定され、その結果は表示パネル3の画面上に表示される。なお、反射エコーの立ち上がり箇所の数によって制御部10が水晶体眼と判定するか、IOL眼と判定するかの判定基準は予めメモリ16に入力されている。
【0035】
以上のように、装置が自動的に測定眼の種類を判定するので、測定眼が水晶体眼であるかIOL眼であるかを検者が判断する必要がない。そのため、検査に不慣れな検者であっても簡単に測定を行えるようになる。
【0036】
次に、実際の測定時の動作を説明する。被検者眼がIOL挿入眼の場合には、検者はスイッチ34によりIOL眼測定モードを選択する(又は、反射エコーがサンプリングされたときに、自動的に切換えられる)。測定条件の設定が完了したら、検者はフットスイッチ9(又は、測定開始スイッチ39)を押して、測定データの取り込みを開始させる。この状態で、プローブ2が被検者眼の角膜に接触されると、トランスデューサ12から送信された超音波が被検者眼内部の各組織で反射され、その反射エコーがトランスデューサ12で受信される。
【0037】
トランスデューサ12で受信された各反射エコーは所定の微小時間間隔毎にサンプリングされて、サンプリングメモリ14に記憶される。制御部10はサンプリングメモリ14に記憶された反射エコーに基づき、表示パネル3の画面上を順次プロットさせて、横軸を距離とした反射エコーの画像として表示させる。そして、サンプリングメモリ14に記録された波形データから、前述の第1の判定方法、第2の判定方法又は第3の判定方法(あるいは、これらを組み合わせた判定方法)により、角膜、IOLおよび網膜の位置が特定される。そして、角膜位置と網膜位置とにより眼軸長が演算され、測定結果が表示パネル3に表示される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】眼科用超音波測定装置の外観略図である。
【図2】眼科用超音波測定装置の制御系の要部構成図である。
【図3】表示パネルの画面上に表示される測定画面の例である。
【図4】有水晶体眼のAモード波形の例である。
【図5】IOL挿入眼のAモード波形の例である。
【符号の説明】
【0039】
2 超音波プローブ
3 液晶表示パネル
4a ゲイン調節スイッチ
35 検出レベル変更スイッチ
10 制御部
34 測定眼スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブから被検者の眼球に超音波を送信し、超音波プローブによって受信した眼球からの反射エコーに基づいて眼軸長を測定する眼科用超音波診断装置において、
有水晶体眼測定モードと眼内レンズ挿入眼測定モードとを切換える測定モード切換手段と、
眼内レンズ挿入眼測定モードに切換えられたときに、受信された反射エコーに基づいて角膜反射エコー及び眼内レンズ反射エコーを特定すると共に、眼内レンズ反射エコーと網膜反射エコーの間に発生する反射エコーであって、眼内レンズによって発生する多重反射エコーが示す所定の特性又は網膜反射エコーの信号が示す所定の特性に基づいて多重反射エコーと区別して網膜反射エコーを判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする眼科用超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1の眼科用超音波診断装置において、前記判定手段は、眼内レンズ反射エコーより網膜側に現れる反射エコーの周期性に基づいて多重反射エコーと区別して網膜反射エコーを判定する第1判定手段を持つか、網膜側から反射エコーを検索して網膜反射エコーの信号が示す所定の特性に基づいて多重反射エコーと区別して網膜反射エコーを判定する第2判定手段を持つか、又は反射エコーのゲインを変化させたときの反射エコーの減衰の違いに基づいて多重反射エコーと区別して網膜反射エコーを判定する第3判定手段の少なくとも一つを備えることを特徴とする眼科用超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1の眼科用超音波診断装置において、前記第1判定手段は、特定した角膜反射エコーから眼内レンズ反射エコーまでの距離と眼内レンズ反射エコーより網膜側で隣り合う反射エコーの距離との周期性に基づいて多重反射エコーと区別して網膜反射エコーを判定する手段であることを特徴とする眼科用超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1の眼科用超音波診断装置において、前記第2判定手段は、網膜反射エコーの所定の強度レベルでの反射エコー間の間隔と予め設定された距離との比較結果又は反射エコーの幅と眼内レンズ反射エコーの幅との比較結果の少なくとも一方に基づいて多重反射エコーと区別して網膜反射エコーを判定する手段であることを特徴とする眼科用超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−172538(P2010−172538A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19571(P2009−19571)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】