説明

眼科組成物

【課題】本発明の目的は、角膜へのアカントアメーバの接着を抑制できる眼科組成物を提供することである。
【解決手段】(A)グルタチオンと、(B)ビグアニド系殺菌剤とを併用することによって、角膜へのアカントアメーバの接着を抑制できる眼科組成物が調製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角膜へのアカントアメーバの接着を抑制できる眼科組成物に関する。また、本発明は、角膜へのアカントアメーバの接着を抑制する方法に関する。更に、本発明は、グルタチオンの安定性を向上させる方法、及びコンタクトレンズへの脂質吸着を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アカントアメーバ角膜感染症(アメーバ角膜炎)は、アカントアメーバ(例えばAcanthamoeba castellaniiAcanthamoeba polyphaga等)が角膜に感染して起こる角膜感染症であり、角膜に強い混濁を残す難治性の角膜疾患である。アカントアメーバ角膜感染症の罹患者の殆どは、コンタクトレンズ装用経験者であり、アカントアメーバが付着したコンタクトレンズの使用が、主な感染原因になっていることが分かっている。
【0003】
従来、アカントアメーバ角膜感染症に対する治療には、特効薬はなく、抗真菌薬が使用されているが、場合によってはさらに感染した角膜表面を削り取る治療も必要とされている。また、アカントアメーバ角膜感染症の根治には、数ヶ月間という長期間を要することもあり、そして根治しない場合には角膜移植を余儀なくされる場合もある。このようにアカントアメーバ角膜感染症に一旦罹患すると、その根治が困難であることから、アカントアメーバ角膜感染症の予防が重要であると考えられている。
【0004】
これまでに、蛋白質分解酵素、陰イオン界面活性剤、非還元性多価アルコール、ホウ酸系緩衝剤、及び水溶性高分子化合物を各々所定量含むコンタクトレンズ用液剤組成物がアカントアメーバに対する消毒効果を奏することが報告されている(例えば、特許文献1参照)。また、ポリリジンが、高含水・イオン性の含水性ソフトコンタクトレンズ(グループ4レンズ)以外のコンタクトレンズに対してアカントアメーバの消毒に有効であることも報告されている(特許文献2参照)。しかし、特許文献1及び2に記載の技術では、あくまでアカントアメーバの消毒を目的として行われるものであり、アカントアメーバの角膜への接着を抑制するものではない。アカントアメーバの付着したコンタクトレンズに対して消毒を行っても、例えば不十分な消毒作業により、その消毒効果が十分得られなければ、コンタクトレンズに付着したアカントアメーバが角膜と接触し、アメーバ角膜炎を引き起こすおそれがある。特に、コンタクトレンズ用マルチパーパスソリューションは、コンタクトレンズを介して角膜に直接接触する製剤であることから、配合される殺菌剤の種類や濃度は角膜に悪影響を与えない範囲に限定される。そのため、アカントアメーバ角膜感染症をより効果的に予防するためには、アカントアメーバの消毒以外にも、アカントアメーバが角膜に接着するのを抑制することが重要である。
【0005】
このような従来技術の背景の下、角膜へのアカントアメーバの接着を抑制できる眼科組成物の開発が切望されている。
【0006】
一方、グルタチオンは、N末端側からグルタミン酸、システイン及びグリシンがペプチド結合によって結合しているオリゴペプチドから構成され、電子供与体としてチオール基を有している還元型グルタチオン(GSH)と、還元型グルタチオン2分子がジスルフィド結合で連結している酸化型グルタチオンの形態が知られている。グルタチオンは、生体内では、主に還元型として存在している。従来、グルタチオンは、種々の眼科用途に使用されている。例えば、還元型グルタチオンは、初期老人性白内障、角膜潰瘍、角膜上皮剥離、角膜炎等の予防や治療に使用されており、また酸化型グルタチオンは、白内障、硝子体、緑内障等の眼科手術時に眼内・眼外の洗浄や眼灌流に使用されている。
【0007】
また、ビグアニド系殺菌剤、例えばポリヘキサニド及びその塩には、消毒作用が知られており、眼科組成物に使用されている(特許文献3参照)。
【0008】
しかしながら、グルタチオンについては、角膜へのアカントアメーバの接着に及ぼす影響については一切明らかにはされていない。ましてや、グルタチオンと、ビグアニド系殺菌剤とを併用した場合に、角膜へのアメーバの接着に及ぼす影響については、推認すらできないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−57610号公報
【特許文献2】特開2002−143277号公報
【特許文献3】特表2001−501605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、角膜へのアカントアメーバの接着を抑制できる眼科組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、驚くべきことに、グルタチオンと共に、ビグアニド系殺菌剤、例えばポリヘキサニド及び/又はその塩を併用した眼科組成物は、角膜へのアカントアメーバの接着を効果的に抑制できることを見出した。更に、本発明者等は検討を進めたところ、意外にも、少なくとも1つのビグアニド残基を有するモノマー、該モノマーから構成されるポリマー、及び/又はこれらの塩形態であるビグアニド系殺菌剤と、グルタチオンとを併用することによって、グルタチオンの安定性を向上させ得ることを見出した。更に、本発明者等は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(以下、非イオン性SHCLと表記することもある)には脂質を吸着させ易いという特有の問題があるが、グルタチオンと、ビグアニド系殺菌剤とを併用することによって、非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制できることをも見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0012】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の眼科組成物を提供する。
項1-1. (A)グルタチオンと、(B)ビグアニド系殺菌剤とを含有する、眼科組成物。
項1-2. (A)成分として、酸化型グルタチオンを含む、項1-1に記載の眼科組成物。
項1-3. (A)成分の含有割合が0.0001〜2w/v%である、項1-1又は1-2に記載の眼科組成物。
項1-4. (B)成分として、ポリヘキサニド及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1乃至1-3のいずれかに記載の眼科組成物。
項1-5. (B)成分として、下記一般式(1)で示される化合物及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1乃至1-4のいずれかに記載の眼科組成物。
【0013】
【化1】

【0014】
[式(1)中、R1及びR2は、同一又は異なって、下記一般式(2)に示される基又はアミノ基であり、nは1〜500の整数を示す。]
【0015】
【化2】

【0016】
項1-6. 式(1)中、R1はアミノ基であり、且つR2は一般式(2)に示される基である、項1-5に記載の眼科組成物。
項1-7. (B)成分として、ポリヘキサニドの塩酸塩を含む、項1-1乃至1-6のいずれかに記載の眼科組成物。
項1-8. (B)成分の含有割合が0.000005〜0.002w/v%である、項1-1乃至1-7のいずれかに記載の眼科組成物。
項1-9. pHが4.0〜9.5である、項1-1乃至1-8のいずれかに記載の眼科組成物。
項1-10. コンタクトレンズ用眼科組成物である、項1-1乃至1-9のいずれかに記載の眼科組成物。
項1-11. コンタクトレンズケア用剤である、項1-1乃至1-10のいずれかに記載の眼科組成物。
項1-12. ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物である、項1-1乃至1-11のいずれかに記載の眼科組成物。
項1-13. ソフトコンタクトレンズケア用剤である、項1-1乃至1-12のいずれかに記載の眼科組成物。
項1-14. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物である、項1-1乃至1-13のいずれかに記載の眼科組成物。
項1-15. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズケア用剤である、項1-1乃至1-14のいずれかに記載の眼科組成物。
【0017】
また、本発明は、下記に掲げる角膜へのアカントアメーバの接着を抑制する方法を提供する。
項2. (A)グルタチオンと(B)ビグアニド系殺菌剤とを併用することを特徴とする、角膜へのアカントアメーバの接着を抑制する方法。
【0018】
また、本発明は、下記に掲げる角膜へのアカントアメーバの接着を抑制する作用を眼科組成物に付与する方法を提供する。
項3. 眼科組成物に、(A)グルタチオンと(B)ビグアニド系殺菌剤とを配合することを特徴とする、角膜へのアカントアメーバの接着を抑制する作用を該眼科組成物に付与する方法。
【0019】
また、本発明は、下記に掲げるグルタチオンの安定性を向上させる方法を提供する。
項4. (A)グルタチオンと(B)ビグアニド系殺菌剤とを併用することを特徴とする、グルタチオンの安定性を向上させる方法。
【0020】
また、本発明は、下記に掲げるグルタチオンの安定性を向上させる作用を眼科組成物に付与する方法を提供する。
項5. (A)グルタチオンを含有する組成物に、(B)ビグアニド系殺菌剤を配合することを特徴とする、グルタチオンの安定性を向上させる作用を該組成物に付与する方法。
【0021】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性SHCLへの脂質吸着の抑制方法を提供する。
項6. (A)グルタチオンと(B)ビグアニド系殺菌剤とを含有する眼科組成物と、非イオン性SHCLとを接触させることを特徴とする、非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制する方法。
【0022】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性SHCLへの脂質吸着を抑制する作用を眼科組成物に付与する方法を提供する。
項7. 眼科組成物に、(A)グルタチオンと(B)ビグアニド系殺菌剤とを配合することを特徴とする、非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制する作用を該眼科組成物に付与する方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の眼科組成物によれば、角膜へのアカントアメーバの接着を抑制できるので、アカントアメーバ角膜感染症を予防することができる。また、コンタクトレンズは、アカントアメーバ角膜感染症の感染源にもなっているとも言われている。本発明の眼科組成物によれば、たとえ消毒が不十分になってアカントアメーバが付着したままのコンタクトレンズを装用することになっても、角膜へのアカントアメーバの接着を抑制できるので、コンタクトレンズの使用によるアカントアメーバ角膜感染症のリスクを低減できる。
【0024】
更に、本発明の眼科組成物によれば、グルタチオンを安定に維持させることができるので、長期間保存しても、グルタチオンの所望の活性を損なうことなく、本願発明の他の効果を有効に発揮させることができる。また、本発明の眼科組成物によれば、また酸化型又は還元型の別を問わず、グルタチオンを安定化できるので、多様な製剤設計が可能になる点でも利点がある。
【0025】
また、非イオン性SHCLには脂質が吸着し易いという特有の課題があることが本発明者等の研究により明らかとなっている。脂質の吸着は、くもり、視力矯正力の低下などの問題を引き起こす恐れがある。然るに、本発明の眼科組成物によれば、かかる非イオン性SHCLへの脂質吸着を顕著に抑制することができる。従って、本発明の眼科組成物によれば、非イオン性SHCLの脂質汚れを防止して、非イオン性SHCLのくもり等を防止し、また非イオン性SHCL本来の視力矯正力を維持することができ、更に非イオン性SHCLへの脂質吸着により引き起こされる角膜ステイニング等の角膜上皮障害を効果的に防止して、快適且つ安全に非イオン性SHCLを使用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】試験例3において、試験液(実施例3−7、比較例4−5)に含まれる還元型グルタチオンの安定性を評価した結果を示す図である。
【図2】参考試験例1において、各種ソフトコンタクトレンズにおける脂質の吸着特性を評価した結果を示す図である。
【図3】試験例4において、試験液(実施例8−9及び比較例6−9)について、非イオン性SHCLへの脂質の吸着に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.眼科組成物
本発明の眼科組成物は、グルタチオン(以下、単に(A)成分と表記することもある)を含有する。
【0028】
グルタチオンは、グルタミン酸、システイン及びグリシンがペプチド結合によって結合しているオリゴペプチドから構成される公知の化合物である。本発明に使用されるグルタチオンは、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0029】
グルタチオンには、電子供与体としてチオール基を有している還元型グルタチオン(GSH)と、還元型グルタチオン2分子がジスルフィド結合で連結している酸化型グルタチオン(GSSG)の2つの形態が存在する。本願明細書で単に「グルタチオン」と記載した場合は、還元型グルタチオンと酸化型グルタチオンの両方を意味する。本発明では、酸化型グルタチオン及び還元型グルタチオンのいずれか一方を単独で使用してもよく、またこれらを組み合わせて使用してもよい。角膜へのアカントアメーバの接着抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくは酸化型グルタチオンが挙げられる。
【0030】
本発明の眼科組成物において、(A)成分の含有割合は、(A)成分の種類、併用する(B)成分の種類、該眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、眼科組成物の総量に対して、(A)成分が総量で0.0001〜2w/v%、好ましくは0.0005〜1w/v%、更に好ましくは0.001〜0.2w/v%、特に好ましくは0.001〜0.02w/v%が例示される。
【0031】
上記(A)成分の含有割合は、角膜へのアカントアメーバの接着抑制作用を一層高めるという観点から好適であり、またグルタチオンの安定性を一層高める、又は非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高めるという観点からも好適である。
【0032】
本発明の眼科組成物は、上記(A)成分に加えて、ビグアニド系殺菌剤を含有する。ビグアニド系殺菌剤とは、少なくとも1つのビグアニド基[−NHC(=NH)NHC(=NH)NH−]を有するモノマー、及び該モノマーから構成されるポリマー、並びにこれらの塩形態として公知の殺菌剤であり、公知の方法により製造してもよく市販品として入手することもできる。
【0033】
本発明に用いられるビグアニド系殺菌剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば特に制限されないが、例えばポリヘキサニド及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、(B)成分と表記することもある)が挙げられる。ポリヘキサニドは、ポリヘキサメチレンビグアニド又はPHMBと称されることもある。このように(A)及び(B)成分を併用することによって、角膜へのアカントアメーバの接着を顕著に抑制することが可能になる。また、このような(A)及び(B)成分の併用によって、該(A)成分の安定性を向上させ、また非イオン性SHCLに対する脂質の吸着を有効に抑制させることが可能になる。
【0034】
本発明で使用されるポリヘキサニドについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではないが、具体的には、下記一般式(1)に示される化合物が例示される。
【0035】
【化3】

【0036】
一般式(1)中、R1及びR2は、同一又は異なって、下記一般式(2)で示される基又はアミノ基を示す。好ましくはR1がアミノ基であり、且つR2が一般式(2)で示される基又はアミノ基であり、更に好ましくはR1がアミノ基であり、R2が一般式(2)で示される基である。
【0037】
【化4】

【0038】
また、一般式(1)中、nは、1〜500の整数を示す。好ましくは、2〜200の整数、更に好ましくは4〜100の整数、特に好ましくは8〜20の整数を示す。
【0039】
ポリヘキサニドの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものである限り、特に制限されない。ポリヘキサニドの塩として、具体的には、塩酸、臭化水素、硫酸、ホウ酸等の無機酸塩;酢酸、グルコン酸、マレイン酸、アスコルビン酸、ステアリン酸、酒石酸、クエン酸等の有機酸塩が例示される。これらのポリヘキサニドの塩の中でも、好ましくは無機酸塩であり、更に好ましくは塩酸塩である。これらのポリヘキサニドの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0040】
本発明の眼科組成物において、(B)成分は、ビグアニド系殺菌剤の中から1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。(B)成分の中でも、アカントアメーバの角膜への接着抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくはポリヘキサニド及び/またはその塩、更に好ましくは一般式(1)で示されるポリヘキサニド又はその無機酸塩、特に好ましくは一般式(1)で示されるポリヘキサニド又はその塩酸塩、更に特に好ましくは一般式(1)で示されるポリヘキサニドの塩酸塩が挙げられる。ここで例示する(B)成分は、グルタチオンの安定性を一層高める、又は非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高めるという観点からも好適である。
【0041】
本発明の眼科組成物において、(B)成分の含有割合は、(B)成分の種類、併用する(A)成分の種類、該眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、眼科組成物の総量に対して、(B)成分が総量で0.000005〜0.002w/v%、好ましくは0.00001〜0.001w/v%、更に好ましくは0.00005〜0.001w/v%が例示される。
【0042】
上記(B)成分の含有割合は、角膜へのアカントアメーバの接着抑制作用を一層高めるという観点から好適であり、またグルタチオンの安定性を一層高める、又は非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高めるという観点からも好適である。
【0043】
また、本発明の眼科組成物において、(A)成分に対する(B)成分の比率については、特に制限されるものではないが、角膜へのアカントアメーバの接着抑制作用を一層高めるという観点から、(A)成分の総量1重量部当たり、上記(B)成分の総量が0.00001〜1重量部、好ましくは0.0001〜0.2重量部、更に好ましくは0.0005〜0.1重量部、特に好ましくは0.001〜0.06重量部となる範囲が例示される。ここで例示する比率は、グルタチオンの安定性を一層高める、又は非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高めるという観点からも好適である。
【0044】
本発明の眼科組成物は、更に緩衝剤を含有することが好ましい。本発明の眼科組成物に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、及びクエン酸緩衝剤であり、より好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、及びリン酸緩衝剤であり、特に好ましい緩衝剤はホウ酸緩衝剤である。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸、又はホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸、又はリン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸、又は炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸、又はクエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤として、ホウ酸塩又はリン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの緩衝剤の中でも、ホウ酸緩衝剤は、より確実に本発明の効果を奏させることが期待されるため、本発明の眼科組成物に好適に使用される。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0045】
本発明の眼科組成物に緩衝剤を配合する場合、該緩衝剤の含有割合については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や含有割合、該眼科組成物の製剤形態等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該眼科組成物の総量に対して、該緩衝剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.1〜5w/v%、更に好ましくは0.2〜2w/v%となる割合が例示される。
【0046】
本発明の眼科組成物は、更に界面活性剤を含有していてもよい。本発明の眼科組成物に配合可能な界面活性剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0047】
本発明の眼科組成物に配合可能な非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類; POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油類;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。また、本発明の眼科組成物に配合可能な両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン又はその塩(例えば、塩酸塩等)等が例示される。また、本発明の眼科組成物に配合可能な陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。また、本発明の眼科組成物に配合可能な陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α−スルホメチルエステル、α−オレフィンスルホン酸等が例示される。
【0048】
本発明の眼科組成物において、上記界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
上記の界面活性剤の中でも、好ましくは非イオン性界面活性剤;より好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油類、又はPOE・POPブロックコポリマー類;更に好ましくはポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポロクサマー407が用いられる。
【0050】
本発明の眼科組成物に界面活性剤を配合する場合、該界面活性剤の含有割合については、該界面活性剤の種類、他の配合成分の種類や含有割合、該眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定できる。界面活性剤の含有割合の一例として、眼科組成物の総量に対して、該界面活性剤が総量で、0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.005〜0.7w/v%、更に好ましくは0.01〜0.5w/v%が例示される。
【0051】
また、本発明の眼科組成物は、更に等張化剤を含有していてもよい。本発明の眼科組成物に配合できる等張化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる等張化剤の具体例として、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。これらの等張化剤の中でも、好ましくは、グリセリン、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、及び塩化マグネシウムが挙げられ、更に好ましくは塩化ナトリウム又はグリセリンが挙げられ、特に好ましくは塩化ナトリウムが挙げられる。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0052】
本発明の眼科組成物に等張化剤を配合する場合、該等張化剤の含有割合については、使用する等張化剤の種類等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該等張化剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜3w/v%となる割合が例示される。
【0053】
本発明の眼科組成物のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明の眼科組成物のpHの一例として、4.0〜9.5、好ましくは5.0〜9.0、更に好ましくは6.2〜8.5、特に好ましくは6.5〜8となる範囲が挙げられる。
【0054】
また、本発明の眼科組成物の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明の眼科組成物の浸透圧比の一例として、好ましくは0.3〜5.0、更に好ましくは0.4〜3.0、特に好ましくは0.5〜1.5となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧)に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0055】
本発明の眼科組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された眼科用薬における有効成分が例示できる。具体的には、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、イプロヘプチン、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、フマル酸ケトチフェン、ペミロラストカリウム等。
充血除去剤:例えば、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硫酸ナファゾリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン等。
殺菌剤:例えば、セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン等。
ビタミン類:例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、酢酸トコフェロール等。
アミノ酸類:例えば、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム等。
消炎剤:例えば、グリチルリチン酸二カリウム、プラノプロフェン、アラントイン、アズレン、アズレンスルホン酸ナトリウム、グアイアズレン、ε−アミノカプロン酸、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、塩化リゾチーム、甘草等。
その他:例えば、クロモグリク酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム等。
【0056】
また、本発明の眼科組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や製剤形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性担体。
糖類:例えば、シクロデキストリン等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、グローキル(ローディア社製 商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
安定化剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
【0057】
本発明の眼科組成物は、所望量の上記(A)及び(B)成分、及び必要に応じて他の配合成分を所望の含有割合となるように添加することにより調製される。
【0058】
本発明の眼科組成物は、その剤型については、眼科分野で使用可能である限り特に制限されないが、例えば、液状、軟膏状等が挙げられる。これらの中でも、液状が好ましい。また液状の中でも水性液状が好ましい。本発明の眼科組成物を水性液状にする場合、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される水を水性担体として使用すればよく、このような水として、具体的には、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等が例示される。これらの定義は第十五改正日本薬局方に基づく。ここで、水性液状とは、水を含有する液状の形態を意味し、通常は、眼科組成物中に水を1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは50重量%以上を含有するものを意味する。
【0059】
本発明の眼科組成物は、眼科分野で使用されるものであれば、その製剤形態については制限されない。例えば、点眼剤(コンタクトレンズ用点眼剤を含む)、洗眼剤(コンタクトレンズ用洗眼剤を含む)、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用剤(コンタクトレンズ消毒液、コンタクトレンズ保存液、コンタクトレンズ洗浄液、コンタクトレンズ洗浄・保存液、及びコンタクトレンズ消毒・洗浄・保存液(マルチパーパスソルーション)等)等を挙げることができる。特に、アカントアメーバ角膜感染症はコンタクトレンズ装用者において最も罹患者が多く、コンタクトレンズ装用者に対して角膜へのアカントアメーバの接着抑制作用が強く要求されている。そのため、本発明の眼科組成物の好適な製剤形態として、コンタクトレンズ用点眼剤(コンタクトレンズを装着したまま使用可能な点眼剤)、コンタクトレンズ用洗眼剤(コンタクトレンズを装着したまま使用可能な洗眼剤)、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用剤等のコンタクトレンズ用眼科組成物が挙げられる。中でも、コンタクトレンズケア用剤は、コンタクトレンズの表裏に製剤が付着した状態で角膜と接触すること等から、本発明の効果をより顕著に発揮できるため、本発明の眼科組成物の製剤形態として特に好適である。また特にコンタクトレンズ消毒・洗浄・保存液(マルチパーパスソリューション)は、コンタクトレンズの消毒・洗浄・保存を一液で行うため、コンタクトレンズを介して角膜に直接接触する製剤である。従って、配合される殺菌剤の種類や濃度は安全性を損なわない範囲に限定せざるを得ず、十分な消毒力を得るには、消毒時間やこすり洗いなどの使用方法の順守が重要となっている。しかし、現実には使用方法が順守されない場合もあり、その結果、十分な消毒力が得られないこともある。そのため、コンタクトレンズ消毒・洗浄・保存液は、アカントアメーバの接着抑制によりアカントアメーバ角膜炎を予防する事が非常に重要であり、本発明の眼科組成物の製剤形態として特に好適である。
【0060】
なお、本発明において、コンタクトレンズとは、ソフトコンタクトレンズ、ハードコンタクトレンズ、及び酸素透過性ハードコンタクトレンズのいずれをも包含する。また、ソフトコンタクトレンズとは、イオン性及び非イオン性の双方を包含し、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ及び非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(シリコーンハイドロゲルレンズでは無いソフトコンタクトレンズ)の双方を包含する。アカントアメーバ角膜感染症は、コンタクトレンズ装用者の中でも、ソフトコンタクトレンズ装用者が罹患することが多く、ソフトコンタクトレンズ装用者に対して角膜へのアカントアメーバの接着抑制作用が強く要求されている。そのため、本発明の眼科組成物の製剤形態として、ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物(即ち、適用対象レンズがソフトコンタクトレンズであるコンタクトレンズ用眼科組成物)が好適である。
【0061】
また、本発明の眼科組成物をソフトコンタクトレンズ用眼科組成物の製剤形態にする場合、適用対象となるソフトコンタクトレンズの含水率についても特に制限されず、例えば、90%以下、好ましくは60%以下、更に好ましくは50%以下が挙げられる。ここで例示する含水率は、脂質吸着抑制作用の観点からも好適である。なお、ソフトコンタクトレンズは、少なくとも0%より多い水分を含む。
【0062】
ここでソフトコンタクトレンズの含水率とは、ソフトコンタクトレンズ中の水の割合を示し、具体的には以下の計算式により求められる。
【0063】
含水率(%)=(含水した水の重量/含水状態のソフトコンタクトレンズの重量)×100
かかる含水率はISO18369-4:2006の記載に従って、重量測定方法により測定され得る。
【0064】
また、本発明の眼科組成物をソフトコンタクトレンズ用眼科組成物の製剤形態にする場合、適用対象ソフトコンタクトレンズを非イオン性SHCLにすると、非イオン性SHCLに対する脂質の吸着を抑制する効果を奏させることも可能になる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明の眼科組成物の好適な一形態として、非イオン性SHCL用眼科組成物(即ち、適用対象レンズが非イオン性SHCLであるソフトコンタクトレンズ用眼科組成物)が例示される。なお、ここで非イオン性SHCLとは、米国FDA(米国食品医薬品局)基準に則り、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ素材中のイオン性成分含有率が1mol%未満であることをいう。
【0065】
また、ソフトコンタクトレンズの中でも、材質が硬いシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、異物の吸着によるレンズの変形や濡れ性低下により、使用感の悪化を感じさせ易く、眼粘膜障害を引き起こし易い傾向にある。本発明の眼科組成物によれば、このように使用感悪化や眼粘膜障害を引き起こし易い硬い材質の非イオン性SHCLへの脂質の蓄積を有効に抑制することができ、それによりレンズの変形や変質を防いで、使用感の悪化や眼粘膜障害を効果的に防止することもできる。かかる本発明の効果を鑑みても、本発明の眼科組成物の好適な一形態として、非イオン性SHCL用眼科組成物が挙げられる。好ましくは、適用対象となる非イオン性SHCLの硬度は、下記のテクスチャーアナライザーによる測定方法により測定した場合の硬度が、3g以上である。また、適用対象となるSHCLの硬度の上限値については、特に制限されないが、好ましくは15g以下、更に好ましくは12g以下である。
【0066】
非イオン性SHCLの硬度は、テクスチャーアナライザー(製品名:TA.XT.plus TEXTURE ANALYSER(Stable Micro Systems Limited製))を用いて、具体的に以下のようにして測定され得る。
【0067】
まず、測定対象となる非イオン性SHCLをパッケージから取り出し、余分な水分をふき取って、生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム水溶液)で濯いだ後、生理食塩水を満たしたプラスチックシャーレの底に凸面が上方になるように配置する。次いで、測定器のプローブの真下に該非イオン性SHCLがくるように調節し、以下の測定条件下で測定を行う。
【0068】
[測定条件]
測定器の設定:
テストモード 圧縮測定
プローブタイプ φ10mmシリンダープローブ
Target Mode Distance
Distance 2.5mm
Triger Type Auto
Triger Force 0.1g
Test Speed 1.0mm/sec
プローブがレンズ頂点を押し下げ始めてから2.5mm(2.5秒)レンズを押しつぶす際の応力を測定し、その最大値を硬度として記録する。
【0069】
本発明の眼科組成物は、アカントアメーバの角膜への接着抑制作用を発揮できるので、アカントアメーバ角膜感染症の予防の用途に使用することができる。
【0070】
また、本発明の眼科組成物は、上記(A)成分の作用に基づいて、初期老人性白内障、角膜潰瘍、角膜上皮剥離、角膜炎等の予防や治療に使用できる。
【0071】
また、本発明の眼科組成物を非イオン性SHCL用組成物の製剤形態にする場合には、非イオン性SHCLへの脂質吸着が一因となって引き起こされる角膜ステイニング等の角膜上皮障害を効果的に防止できるので、角膜上皮障害の予防剤として用いることもできる。
【0072】
2.角膜へのアカントアメーバの接着を抑制する方法、及び角膜へのアカントアメーバの接着を抑制する作用を眼科組成物に付与する方法
前述するように、上記(A)及び(B)成分を併用することによって、角膜へのアカントアメーバの接着を抑制することができる。
【0073】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)グルタチオンと(B)ビグアニド系殺菌剤とを併用することを特徴とする、角膜へのアカントアメーバの接着を抑制する方法を提供する。また、本発明は、眼科組成物に、(A)グルタチオンと(B)ビグアニド系殺菌剤とを配合することを特徴とする、角膜へのアカントアメーバの接着を抑制する作用を該眼科組成物に付与する方法をも提供する。
【0074】
これらの方法において、使用する(A)及び(B)成分の種類や含有割合、その他に配合される成分の種類や含有割合、眼科組成物の製剤形態等については、前記「1.眼科組成物」と同様である。
【0075】
3.グルタチオンの安定性を向上させる方法、及びグルタチオンの安定性を向上させる作用を組成物に付与する方法
前述するように、上記(A)及び(B)成分を併用することによって、眼科組成物において、グルタチオンの安定性を向上させることができる。
【0076】
従って、本発明は、更に別の観点から、 (A)グルタチオンと(B)ビグアニド系殺菌剤とを併用することを特徴とする、グルタチオンの安定性を向上させる方法を提供する。また、本発明は、(A)グルタチオンを含有する組成物に、(B)ビグアニド系殺菌剤を配合することを特徴とする、グルタチオンの安定性を向上させる作用を該組成物に付与する方法をも提供する。
【0077】
これらの方法において、使用する(A)及び(B)成分の種類や含有割合、その他に配合される成分の種類や含有割合、組成物の製剤形態等については、前記「1.眼科組成物」と同様である。
【0078】
4.非イオン性SHCLへの脂質吸着の抑制方法、及び非イオン性SHCLへの脂質吸着を抑制する作用を眼科組成物に付与する方法
前述するように、上記(A)及び(B)成分を併用することによって、非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制することができる。
【0079】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)グルタチオンと(B)ビグアニド系殺菌剤とを含有する眼科組成物と、非イオン性SHCLとを接触させることを特徴とする、非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制する方法を提供する。更には、眼科組成物に、(A)グルタチオンと(B)ビグアニド系殺菌剤とを配合することを特徴とする、非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制する作用を該眼科組成物に付与する方法を提供する。
【0080】
これらの方法において、(A)及び(B)成分の種類や配合割合、配合される他の成分の種類や含有割合、眼科組成物の製剤形態、適用対象となる非イオン性SHCLの種類等については、前記「1.眼科組成物」と同様である。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0082】
試験例1 角膜へのアカントアメーバの接着抑制試験
角膜へのアカントアメーバの接着抑制効果の評価を行った。なお、アカントアメーバは、角膜に接着するとプロテアーゼを分泌することが知られており(Claude Anger et al., Eye & Contact Lens, 34(5): 247-253, 2008)、本試験では、角膜へのアカントアメーバの接着量の指標として、アカントアメーバから分泌されたプロテアーゼ量を測定した。
【0083】
具体的な試験方法は以下の通りである。ヒト角膜上皮細胞であるHCE-T細胞(Riken Cell Bank, RCB1384)を24穴細胞培養プレート(Corning)に6×104cells / wellの細胞数で播種し、5容量%FCS(牛胎児血清)を含むDMEM/F-12培地(GIBCO)中にて72時間培養(37℃、5%CO2、相対湿度90%)した。試験当日、HCE-T細胞がコンフルエントであることを確認した後、前処理として、上記培養上清を、0.4%BSA(牛血清アルブミン)(Sigma Aldrich)を含む無血清のDMEM/F-12培地に置換し、1時間インキュベート(37℃、5%CO2、相対湿度90%)した。
【0084】
別途、DMEM/F-12培地中で、1.25×105 cells /mlのアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii: ATCC30868)と、終濃度が表1に示す濃度となるようにポリヘキサニド塩酸塩及び/又は酸化型グルタチオンとを混合し、30分間室温でインキュベートして、被験液(pH7.4〜7.6)を調製した。上記で準備したHCE-T細胞を含む24穴細胞培養プレートの各穴の培地を、上記被験液0.5mlと置換し、37℃、5%CO2、相対湿度90%の条件で24時間培養した。培養後、被験液中において、アカントアメーバから分泌されたプロテアーゼを定量した。プロテアーゼの測定は、Fluorescent Protease Assay Kit (Thermo Scientific)を用いた。測定方法は、サンプル(培養後の被験培地)と基質であるFITC-カゼイン(上記キット付属品)を50 μlずつ混合し、室温、遮光条件で60分間インキュベートした後、基質分解産物の蛍光量を測定した。蛍光測定は、蛍光分光光度計(Fluoroskan Ascent CF)を用いて、励起485nm/蛍光538 nmの測定波長にて測定した。被験サンプル中のアカントアメーバから分泌されたプロテアーゼの活性は、プロテアーゼの標準品であるTPCK-Trypsin(上記キット付属品)の各濃度における基質分解産物の蛍光量を参考に、TPCK-Trypsin換算プロテアーゼ濃度(ng/ml)として算出した。なお、コントロールとして、ポリヘキサニド塩酸塩も酸化型グルタチオンも混合しないDMEM/F-12培地を用いること以外は、上記と同条件で試験を行って、TPCK-Trypsin換算プロテアーゼ濃度を算出した。
【0085】
下記式に従って、アカントアメーバの接着抑制率を算出した。
【0086】
【数1】

【0087】
得られた結果を表1に示す。この結果から、酸化型グルタチオンとポリヘキサニド塩酸塩を併用した場合には、酸化型グルタチオン単独又はポリヘキサニド塩酸塩単独で使用した場合に比して、相乗的に角膜へのアカントアメーバの接着を抑制する効果が増強されており、格段優れた角膜へのアカントアメーバの接着抑制効果が奏されることが明らかとなった。
【0088】
【表1】

【0089】
試験例2 酸化型グルタチオンの安定性評価試験
酸化型グルタチオンの安定性を評価するために、表2に示す試験液(実施例2、比較例3)を用いて、以下の試験を行った。
【0090】
表2に示す試験液を調製し、各試験液を10mL容量のヘッドスペースバイアルに5mLずつ充填し、70℃、7日間遮光条件下で保存した。
【0091】
保存前及び保存後に、試験液に含まれる酸化型グルタチオンの濃度をHPLCにより測定し、下記式に従って、酸化型グルタチオンの安定性改善率を算出した。
【0092】
【数2】

【0093】
得られた結果を表2に併せて示す。酸化型グルタチオンとポリヘキサニド塩酸塩を併用した試験液(実施例2)では、酸化型グルタチオンを単独で含む場合(比較例3)に比して、酸化型グルタチオンの分解が抑制されており、酸化型グルタチオンが安定に保持されることが確認された。
【0094】
【表2】

【0095】
試験例3 還元型グルタチオンの安定性評価試験
還元型グルタチオンの安定性を評価するために、表3に示す試験液(実施例3−7、比較例4−5)を用いて、以下の試験を行った。
【0096】
表3に示す試験液を調製し、各試験液を10mL容量のヘッドスペースバイアルに5mLずつ充填し、70℃24時間遮光条件下で保存した。
【0097】
保存前及び保存後に、試験液に含まれる還元型グルタチオンの濃度をHPLCにより測定し、下記式に従って、還元型グルタチオンの残存率を算出した。
【0098】
【数3】

【0099】
【表3】

【0100】
得られた結果を図1に示す。還元型グルタチオンを単独で含む試験液(比較例4−5)では、還元型グルタチオンが著しく分解されていることが観察された。これに対して、還元型グルタチオンとポリヘキサニド塩酸塩を併用した試験液(実施例3−7)では、還元型グルタチオンの分解が抑制されており、還元型グルタチオンが安定に保持されることが確認された。以上の結果から、還元型グルタチオンとポリヘキサニドを併用することによって、pHに左右されることなく、還元型グルタチオンの安定性を向上できることが明らかとなった。
【0101】
参考試験例1:各種SCLの脂質吸着性の評価
表4に示す各種ソフトコンタクトレンズを用いて以下の実験を実施し、ソフトコンタクトレンズの脂質吸着性を評価した。なお、本試験に使用したソフトコンタクトレンズは、いずれも市販品である。
【0102】
【表4】

【0103】
まず、蛍光標識された脂質(N-(fluorescein-5-thiocarbamoyl)-1,2-dihexadecanoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine, triethylammonium salt;invitrogen製)を1mg/mlの濃度で含むクロロホルム溶液とメタノールとを1:4の容量比で混合した混合液500μLに、生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を加え、全量20mlにしたものを蛍光脂質溶液として用意した。各ソフトコンタクトレンズは一晩以上生理食塩水中に浸漬させて試験前処理を実施した。サンプル群として、24ウェルマイクロプレートにおいて蛍光脂質溶液1ml中に各ソフトコンタクトレンズを一枚ずつ浸漬させ、34℃で24時間振とう処理を行った。また、ブランク群として生理食塩水1ml中に各ソフトコンタクトレンズを一枚ずつ浸漬させ、サンプル群と同様の振とう処理を行った。24時間後、各ソフトコンタクトレンズを新しい生理食塩水1mlが入ったプレートに移し、蛍光プレートリーダー(Thermo Fisher Scientific Inc.製)を用いて、各ウェルの蛍光強度を測定した(励起波長:485nm、蛍光波長:538nm)。サンプル群の蛍光強度からブランク群の蛍光強度を減算した値を、吸着脂質量の指標として算出した。
【0104】
結果を図2に示す。図2より明らかなように、非イオン性SHCL(レンズA及びB)の脂質吸着量は、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(レンズC)及び、従来のハイドロゲルレンズ(レンズD〜F)と比較して著しく多く、脂質汚れの問題が深刻であることが確認された。
【0105】
試験例4:非イオン性SHCL脂質吸着抑制評価
上記参考試験例1で顕著な脂質吸着が認められた非イオン性SHCL(レンズA)を用い、下記表5に示す各試験液(実施例8−9及び比較例6−9)を使用して、非イオン性SHCLの脂質吸着に及ぼす影響について検討を行った。
【0106】
【表5】

【0107】
まず、蛍光標識された脂質(N-(fluorescein-5-thiocarbamoyl)-1,2-dihexadecanoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine, triethylammonium salt;invitrogen製)の1mg/mlクロロホルム溶液とメタノールとを1:4の容量比で混合した混合液500μLに、生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を加え、全量20mlにしたものを蛍光脂質溶液として用意した。レンズAは一晩以上生理食塩水中に浸漬させて試験前処理を実施した。次いで、24ウェルマイクロプレートの各ウェルに200μLの各試験液(実施例8−9及び比較例6−9)及び1000μLの蛍光脂質溶液を入れたウェルを作成し、その中に試験前処理を終えたレンズAを一枚ずつ浸漬して34℃で24時間振とう処理を行った(サンプル群)。また、ブランク群として200μLの各試験液(実施例8−9及び比較例6−9)及び1000μLの生理食塩水を入れたウェルを作成し、その中に試験前処理を終えたレンズAを一枚ずつ浸漬して同様に振とう処理を行った(ブランク群)。24時間後、振とう処理を終えた各レンズAを新しい生理食塩水1mlが入ったプレートに移し、蛍光プレートリーダー(Thermo Fisher Scientific Inc.製)を用いて、各ウェルの蛍光強度を測定した(励起波長:485nm、蛍光波長:538nm)。各サンプル群の蛍光強度からブランク群の蛍光強度を減算した値を吸着脂質量の指標として求め、比較例6の試験液の吸着脂質量を100%とした場合の各試験液の吸着脂質量の相対値(%)を算出した。
【0108】
得られた結果を図3に示す。この結果から、酸化型又は還元型グルタチオンとポリヘキサニド塩酸塩とを併用することによって、優れた脂質吸着抑制効果が奏されることが明らかとなった。
【0109】
製剤例
表6に記載の処方で、コンタクトレンズ消毒・洗浄・保存液(マルチパーパスソリューション)(実施例10−15)が調製される。
【0110】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)グルタチオンと、(B)ビグアニド系殺菌剤とを含有する、眼科組成物。
【請求項2】
(A)成分として、酸化型グルタチオンを含む、請求項1に記載の眼科組成物。
【請求項3】
(B)成分として、ポリヘキサニド及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の眼科組成物。
【請求項4】
(B)成分として、下記一般式(1)で示される化合物及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の眼科組成物。
【化1】

[式(1)中、R1及びR2は、同一又は異なって、下記一般式(2)に示される基又はアミノ基であり、nは1〜500の整数を示す。]
【化2】

【請求項5】
式(1)中、R1はアミノ基であり、且つR2は一般式(2)に示される基である、請求項4に記載の眼科組成物。
【請求項6】
(A)成分の含有割合が0.0001〜2w/v%である、請求項1乃至5のいずれかに記載の眼科組成物。
【請求項7】
(B)成分の含有割合が0.000005〜0.002w/v%である、請求項1乃至6のいずれかに記載の眼科組成物。
【請求項8】
コンタクトレンズ用眼科組成物である、請求項1乃至7のいずれかに記載の眼科組成物。
【請求項9】
コンタクトレンズケア用剤である、請求項1乃至8のいずれかに記載の眼科組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−219445(P2011−219445A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93464(P2010−93464)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】