説明

眼科装置

【課題】 基台10の上部に取り付けられた案内管(水平動機構15)に対して案内軸14が傾くことがある。
【解決手段】 本発明に係る眼科装置は、基台10に設けられ且つ案内軸14を軸方向に案内する複数の軸案内部材40a、40bの間に設けられ且つ基台10に対する案内軸14の傾きを低減する傾き低減部44を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼底カメラや検眼鏡等の光学系ユニットを備えた摺動基体を水平面内で摺動させるための機構を含む眼科装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、眼科装置として、被検者用の顔受部が取り付けられた固定基台の上に、操作桿の操作により前後左右方向に摺動可能な摺動基体が載置され、この摺動基体の上には上下動機構を介して光学系本体ユニットが取り付けられているものが知られている。
【0003】
特許文献1に開示された眼科装置では、摺動基体と固定基台との間に案内管と案内軸とが配置され、案内軸が案内管内を摺動することにより、摺動基体が固定基台に対して左右方向に移動する。また、案内軸の両端部には、ピニオン歯車が取り付けられ、摺動基体の内部両側に配置されたラックと噛合している。案内軸を回転させ、同期してピニオン歯車が回動することで、ピニオン歯車に噛合するラックを配置した摺動基体が固定基台に対して前後方向に移動する。
【0004】
また、案内軸の両端部のピニオン歯車に近接させた位置には、玉軸受が取り付けられている。玉軸受は、摺動基体の重量を摺動基体の案内面を介して支えながらピニオン歯車とラックとの噛み合いに適当な間隔を保持させ、案内軸を円滑に回転させることができる。このとき、玉軸受は、案内軸に対するラック歯車板の浮き上がりを防止することで、固定基台に対する摺動基体の浮き上がりを防止する機構として作用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03−026228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、固定基台に対する摺動基体の浮き上がりは、固定基台の上部に取り付けられた案内管に対して案内軸が傾くことによっても生じる。例えば、被検眼と眼科装置とのアライメントを行う際に、摺動基体を固定基台に対して左右方向(案内軸の軸方向)に移動する場合を考える。このとき、案内管と案内軸の重心との距離が長くなると、案内軸の両端に働くモーメントの差が大きくなる。このため、案内管に対して案内軸が傾き易くなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の眼科装置は、
被検眼を測定する測定手段と、
案内軸を介して基台に対して前記測定手段を摺動させる摺動基体と、
前記基台に設けられ且つ前記案内軸を軸方向に案内する複数の軸案内部材と、
前記複数の軸案内部材の間に設けられ且つ前記基台に対する前記案内軸の傾きを低減する傾き低減手段と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基台に設けられ且つ案内軸を軸方向に案内する複数の軸案内部材の間に傾き低減部を設けることにより、軸案内部材に対する案内軸の傾きを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る眼科装置の全体の構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係る眼科装置の一部の筺体を取り除いた状態の側面図である。
【図3】本実施形態に係る眼科装置の一部の筺体を取り除いた状態の正面図である。
【図4】本実施形態に係る摺動機構の側面図である。
【図5】本実施形態に係る摺動機構の断面図である。
【図6】本実施形態に係る水平動機構及び傾き低減部の断面図である。
【図7】本実施形態に係る直動軸受及び転がり軸受の一例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本実施形態に係る眼科装置の概略構成について図1〜図3を参照して説明する。
【0011】
図1は、眼科装置の全体の構成を示す斜視図である。図2は、眼科装置の一部の筐体を取り除いた状態の側面図である。図3は、眼科装置の一部の筐体を取り除いた状態の正面図である。なお、各図では、必要に応じて、眼科装置の前側をFrで示し、後側をRrで示し、右側をRで示し、左側をLで示している。
【0012】
まず、図1に示すように、眼科装置1は、固定基台10(基台とも呼ぶ。)、摺動基体11、操作桿12、光学系ユニット13、顔受け部14を含んで構成されている。なお、固定基台10、摺動基体11および光学系ユニット13の筐体(被検眼を測定するための測定部とも呼ぶ。)は、樹脂成形品により形成され、眼科装置1の軽量化が図られている。
【0013】
また、眼科装置1は、検者の操作桿12を用いた操作に応じて摺動基体11が固定基台10に対して前後左右に移動することが可能である。なお、摺動基体11の移動が電気的に制御される場合、不図示の制御部により、操作桿12の操作に連動して制御されることが好ましい。図2および図3に示すように、摺動基体11は、固定基台10上に水平動機構15を介して設けられている。水平動機構15は、摺動基体11の下側で左右方向に沿って架設された案内軸16を軸方向に摺動自在に、かつ円周方向には回動自在に支持する。水平動機構15が案内軸16を摺動させることで、摺動基体11が固定基台10に対して左右方向(X方向)に摺動する。なお、水平動機構15の具体的な構成については後述する。
【0014】
また、案内軸16の両側にはラックアンドピニオン機構(摺動基体を固定基台に対して前後方向に移動する移動部とも呼ぶ。)が配設されている。具体的には、案内軸16の両端にピニオン歯車17(ピニオン機構とも呼ぶ。)が固定され、ピニオン歯車17が摺動基体11に固定されたラック歯車板18(ラック機構とも呼ぶ。)に形成されたラック18aに噛合している。水平動機構15が案内軸16を一方方向に回転させることで、案内軸16とラック18aとの間で噛合する位置が変わり、摺動基体11が固定基台10に対して前後方向(Z方向、案内軸16の軸方向に交差する方向)に摺動する。なお、摺動基体11が固定基台10に対して摺動する具体的な構成については後述する。
【0015】
一方、摺動基体11上の後側に配置された操作桿12は、下端に不図示の硬球が取り付けられている。硬球は、摺動基体11の重量の一部を受けながら、固定基台10上に固定された不図示の摩擦板を圧接している。
【0016】
このように構成された眼科装置1では、検者が操作桿12を左右方向に傾けることで、水平動機構15により支持された案内軸16が回転を伴わずに軸方向に沿って、水平に移動して、摺動基体11が固定基台10に対して左右方向(X方向)に移動する。
【0017】
また、検者が操作桿12を前後方向に傾けることで、水平動機構15により支持された案内軸16が回転し、同期してピニオン歯車17が回転することで、摺動基体11が固定基台10に対して前後方向(Z方向)に移動する。
【0018】
また、摺動基体11上には、上下動機構20が配設されている。上下動機構20は、固定基台10および摺動基体11に対して、光学系ユニット13を上下(Y方向)に移動する。
【0019】
(ラックアンドピニオン機構)
次に、摺動基体11が固定基台10に対して摺動する摺動機構について図4および図5を参照して、説明する。図4は、摺動機構の拡大側面図である。図5は、図4に示すI−I線を矢印方向から見た断面図である。なお、図4および図5では、案内軸の左側のみを示しているが、右側も同様な構成である。
【0020】
図5の断面図に示すように、案内軸16の端部には、ピニオン歯車17が案内軸16の端面に向かって螺合される固定ボルト21によって固定されている。したがって、案内軸16とピニオン歯車17とは常に同期して回転する。また、ピニオン歯車17には、軸方向のうち内側にピニオン部17aが形成され、外側に被案内部材としてのローラ部17bが形成されている。ピニオン部17aは、ラック歯車板18のラック18aに噛合する。また、ローラ部17bは、円柱状であって、その外周面が摺動基体11に配設される後述するローラ案内面18bと接する。
【0021】
案内軸16の端部であって、ピニオン歯車17の外端には、浮き上がり防止ワッシャ22が案内軸16に対して回転自在に嵌合されている。具体的には、浮き上がり防止ワッシャ22は固定ボルト21の頭部の外周面と、ピニオン歯車17の内周面との間に挟まれて位置している。浮き上がり防止ワッシャ22は、摺動基体11の重心移動により摺動基体11に浮き上がりが生じた場合、ラック歯車板18のローラ案内面18bに平行して形成された後述するワッシャ案内面18cに当接することで、摺動基体11の浮き上がりを規制する。
【0022】
一方、摺動基体11の左右両端の下面には、摺動基体11の摺動方向(前後方向)に沿ってラック歯車板18が固定されている。ラック歯車板18には、ピニオン部17aと噛合するラック18aと、ローラ部17bと接触する被案内部材としてのローラ案内面18bが形成されている。ローラ案内面18bは、ラック18aの外側で、ラック18aと平行に形成されている。ローラ部17bがローラ案内面18bによって摺動方向に案内されることで、摺動基体11と固定基台10との相対移動が安定する。また、ローラ部17bとローラ案内面18bとが接触することで、ローラ部17bが摺動基体11の重量の一部を支えるので、ピニオン歯車17のピニオン部17aとラック18aとの噛合いが適当な間隔に保持させる。
【0023】
ラック18aの前後の終端部(前後端部)付近には、それぞれストッパ18cが形成されている。ピニオン歯車17のローラ部17bがストッパ18cに当接することで、摺動基体11の前後方向への移動量が規制される。
【0024】
また、ラック歯車板18は、前後のストッパ18cから、それぞれ下方に延出した後、その間を架け渡す態様で懸架部18dが形成されている。懸架部18dの上面には、浮き上がり防止ワッシャ22と当接するワッシャ案内面18eが形成されている。
【0025】
(水平動機構の構成)
また、本実施形態に係る水平動機構15の具体的な構成について、図6(a)を用いて説明する。ここで、図6(a)は、本実施形態に係る水平動機構15を理解するための断面図である。
【0026】
本実施形態に係る水平動機構15は、収納部材45内に配置された直動軸受41(例えば、スライドベアリング、リニアブッシュ)の外周に転がり軸受42(例えば、深溝球軸受あるいはボールベアリング、針状軸ころ軸受あるいはニードルベアリング)を嵌め合わせた複数の軸案内部材40a、40b(第1の軸案内部材とも呼ぶ。)によって案内軸14を支持する機構である。このとき、案内軸14は、直動軸受41を介して軸方向に摺動自在に構成されている。また、案内軸14は、転がり軸受42を介して回転自在に構成されている。なお、水平動機構15を固定基台10に固定させるために、ネジ47を用いるのが好ましい。このとき、収納部材45の上部に穴48を開けておくことが好ましい。穴48を介してドライバー等によりネジ47を回転させることができるため、簡単に水平動機構15を固定基台10に固定させることができる。
【0027】
ここで、本実施形態に係る直動軸受41の一例について、図7(a)を用いて説明する。直動軸受とは、案内軸の軸方向に直線運動するベアリングのことである。外筒71の複数の溝に設けられた複数のボール72が、荷重を受けながら直線にころがり運動(整列循環運動)する。これにより、案内軸14を軸方向に直動(スライド)させることができる。
【0028】
また、本実施形態に係る転がり軸受42の一例について、図7(b)を用いて説明する。転がり軸受とは、案内軸の軸方向に対して交差する方向に回転運動するベアリングのことである。複数のボール76が、軌動輪と呼ばれる外輪73と内輪74との間に配置される。そして、複数のボール76が、互いに接触しないように保持器75によって一定の間隔を保ちながら円滑な転がり運動されるように構成されている。
【0029】
(基台に対する案内軸の傾きについて)
ここで、図6(a)のように、案内軸16と直動軸受41との間に隙間があいていることが考えられる。このとき、例えば、被検眼と眼科装置とのアライメントを行う際に、摺動基体11を固定基台10に対して左右方向(案内軸14の軸方向)に移動する場合、水平動機構15(案内管)と案内軸14の重心との距離が長くなると、案内軸14の両端に働くモーメントの差が大きくなる。このため、水平動機構15に対して案内軸14が傾き易くなるため、結果的に、固定基台10に対しての摺動基体11の浮き上がりが生じ易くなる。
【0030】
また、摺動基体11の案内軸14の中心近傍に位置する操作桿を操作するために検者が摺動基体11に腕を載せた場合、検者の腕の重量に関するモーメント差も発生する。このため、水平動機構15に対して案内軸14はさらに傾き易くなると考えられる。
【0031】
ところで、従来の眼科装置は、摺動基体11や、摺動基体11上に載置された被検眼を測定する測定部(筺体)は、一般的に、金属材料により構成されていた。この場合、案内軸14の両端にモーメント差が発生しても、自重によりモーメントを打ち消す事が可能であった。しかしながら、本実施形態に係る測定部(筺体)は、上述したように、樹脂成形品により形成され、眼科装置1の軽量化が図られている。このため、水平動機構15に対して案内軸14は傾き易くなっている。
【0032】
(傾き低減部の構成)
また、本実施形態に係る傾き低減部の具体的な構成について、図6(b)と図6(c)を用いて説明する。ここで、図6(b)と図6(c)は、本実施形態に係る傾き低減部を理解するための断面図である。
【0033】
複数の軸案内部材40a、40bの間(中間位置が好ましい)に設けられ、固定基台10に対する案内軸14の傾き(浮き上がり)を抑制する抑制機構44(傾きを低減する傾き低減部の一例)が設けられている。
【0034】
図6(b)において、抑制機構44は、直動軸受41と、直動軸受41の外周に設けられた転がり軸受46(転がり軸受42より小さい)とを含む軸案内部材40c(第2の軸案内部材とも呼ぶ。)を有する。また、抑制機構44は、収納部材45に螺合されたネジ部材43(第2の軸案内部材を案内軸に押圧する押圧部材の一例)を有する。ネジ部材43の回転量を調節してネジ部材43を軸受軸案部材40cに当接させる。具体的には、ネジ部材43を軸案内部材40cに確実に当接させるために、微少なトルクでネジ部材43を回転させて軸案内部材40cに圧力をかけている。このとき、軸案内部材40cは、複数の軸案内部材40a、40bの中心軸に対して偏心配置する。これは、複数の軸案内部材40a、40bに対して軸案内部材40cを上下何れか一方に寄せるように配置できれば良い。これにより、固定基台10に対する案内軸14の傾きを抑制することができる。なお、図6(c)のように、転がり軸受46に替えて転がり軸受42を適用しても良い。このとき、収納部材45の抑制機構44に対応する箇所を一部削ることが好ましい。これにより、転がり軸受42が収納部材45に接触することなく、確実に上記偏心配置することができる。
【0035】
なお、軸案内部材40a、40b、40cは、不図示の位置決め部材により、収納部材45内の所定の位置に位置決めされている。また、抑制機構44には、ネジ部材の替わりにバネ部材を適用しても良い。また、バネ部材には、ボールプランジャを適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼を測定する測定手段と、
案内軸を介して基台に対して前記測定手段を摺動させる摺動基体と、
前記基台に設けられ且つ前記案内軸を軸方向に案内する複数の軸案内部材と、
前記複数の軸案内部材の間に設けられ且つ前記基台に対する前記案内軸の傾きを低減する傾き低減手段と、
を有することを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
前記案内軸の傾きは、前記案内軸が前記複数の軸案内部材に対して該案内軸の軸方向に移動した場合に生じることを特徴とする請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記摺動基体に設けられた操作桿を有し、
前記操作桿の操作に応じて前記基台に対して前記案内軸が移動することを特徴とする請求項1あるいは2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記操作桿のX方向への操作に応じて前記複数の軸案内部材に対して前記案内軸が軸方向に移動することを特徴とする請求項3に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記操作桿のZ方向への操作に応じて前記摺動基体を前記基台に対して前記案内軸の軸方向に対して交差する方向に移動することを特徴とする請求項3あるいは4に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記摺動基体に設けられたラック機構と、
前記案内軸の両端に設けられ且つ前記ラック機構に噛み合うように構成されたピニオン機構と、を有し、
前記摺動基体を前記基台に対して前記ラック機構に沿った方向に移動することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項7】
前記複数の軸案内部材が第1の軸案内部材であり、
前記傾き低減手段は、
前記第1の軸案内部材の間に設けられた第2の軸案内部材と、
前記第2の軸案内部材を前記案内軸に押圧する押圧部材と、
を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項8】
前記第2の軸案内部材は、前記押圧部材により前記案内軸に押圧されることで、前記第1の軸案内部材の中心軸に対して偏心配置されることを特徴とする請求項7に記載の眼科装置。
【請求項9】
前記複数の軸案内部材を収納する収納部材を有し、
前記複数の軸案内部材及び前記傾き低減手段は、前記収納部材を介して前記基台に設けられ、
前記押圧部材は、前記収納部材を介して前記第2の軸案内部材を前記案内軸に押圧することを特徴とする請求項7あるいは8に記載の眼科装置。
【請求項10】
前記押圧部材は、ネジ部材であり、
前記ネジ部材の回転量を調節して前記第2の軸案内部材に当接することを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項11】
前記複数の軸案内部材は、前記案内軸を軸方向に案内する複数の直動軸受であり、
前記複数の直動軸受それぞれの外周に設けられた複数の転がり軸受を有することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の眼科装置

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−27621(P2013−27621A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167056(P2011−167056)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)