説明

眼膜染色に用いる染色組成物

眼膜除去を行う際の眼膜染色のための染色組成物であって、染色組成物はブリリアントブルーG(BBG)誘導体を主要成分として構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権出願
本願は2004年12月6日に出願された米国仮出願番号60/633,592及び2005年1月27日に出願された米国仮出願番号60/647,504の優先権を主張する。これらの内容は参照することにより全体が本書に組み込まれる。
【0002】
本発明は眼膜染色に用いる染色組成物に関する。より詳細には、本発明は特に膜を除去するために眼膜を染色するアジュバントとして利用される染色組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
内境界膜(ILM)の染色は黄斑円孔及び網膜上膜(ERMS)のような硝子体網膜疾患の外科処置における重要な進歩の一つである(Indocyanine green−assisted peeling of the retinal internal limiting membrane. Burk SE et al. Ophthalmology. 2000;107:2010−2014.)。ILM及びERMSが見え難いため、現在では外科的なアジュバントを使用せずに膜を除去することは非常に困難であると広く認識されている。特に、インドシアニングリーン(ICG)及びトリパンブルー(TB)染色は様々な硝子体網膜疾患におけるILM及びERMS除去を非常に容易にし、結果としてこの技術は現在多数の外科医に広く受け入れられている。しかしながら、実験的及び臨床的利用の両方においてICG及びTBの硝子体内投与に起因する網膜損傷に関する報告が近年多数なされている。(Morphological and functional damage of the retina caused by intravitreous indocyanine green in rat eyes. Enaida H, et al. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2002; 240:209−213. ; Uemura A,et al. Visual field defects after uneventful vitrectomy for epiretinal membrane with indocyanine green−assisted internal limiting membrane peeling. Am J Ophthalmol. 2003;136:252−257. ; Veckeneer M, et al. Ocular toxicity study of trypan blue injected into the vitreous cavity of rabbit eyes. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2001;239:698−704.)
【0004】
更に、白色成熟白内障の眼の連続環状嚢切開(CCC)を行うことは前嚢と下層にある白質とを識別しづらいために困難であった。嚢が見えづらいためにCCCが不完全あるいは不適切となり、その結果嚢の裂傷、硝子体消失及び眼内レンズ(IOL)脱臼にいたる傾向がある。赤色反射がほとんどあるいは全く無い白内障の眼球においてCCCを施術する際の前嚢染色のために色素を眼内投与することがますます一般的になってきている。Dadaは嚢染色によってCCCが未成熟白内障においてさえ容易になること、及び外科研修医に対して有用な補助となりうることを示した。0.1%及び0.06%のトリパンブルーが嚢染色に用いられ、インビボで目立った毒性が無いことが示されている。しかしながら、トリパンブルーはインビトロの厳しい条件下では角膜内皮に対し毒性を持つと報告されている。インドシアニングリーン(ICG)もまた嚢染色に頻繁に用いられる色素である。McEnerney及びPeyman はICGのウサギ角膜内皮細胞の計数への利用を記述しており、色素が生体内の内皮を損傷しないと示唆している。しかしながら、発明者らはICGが網膜細胞に対し毒性を持つ可能性を2002年に報告しており、ICGの毒性は網膜色素上皮、ガングリオン細胞、光受容体において報告されている。(Indocyanine green induces apoptosis in human retinal pigment epithelial cells. Rezai KA, et al. Am J Ophthalmol. 2004;137:931−933. ; Trypan blue induces apoptosis in human retinal pigment epithelial cells. Rezai KA et al. Am J Ophthalmol. 2004;138:492−495.)
【0005】
前述の通り、眼膜、特に内境界膜及び前嚢の染色に用いられる色素(例えばICあるいはTB)は、その安全性に疑問が生じてきた。このような懸念は、網膜細胞に対する毒性、催奇形性などの可能性に関する報告によって高まった。更に、低濃度で充分な着色を得ることが困難であること及び煩雑な染色法といった技術的な問題があった。このため、このような問題が眼科手術をより困難なものにしていた。
【0006】
従って、眼科手術の改善を推進するために、特に眼膜を染め、低濃度で対象をよく染色できる安全性の高い色素の開発が非常に望まれていた。
【発明の開示】
【0007】
そのため、本発明の目的は従来眼膜の染色に使用されていた色素の代替となる染色組成物を提供することにある。更に詳細な目的は、特に内境界膜あるいは前嚢を染色し、それらの膜の除去手術のアジュバントとして利用可能な組成物を提供することにある。
【0008】
このような目的を達成する染色組成物を提供するため、現在、生物には用いられていない色素を含め、すべての色素を用い、候補となる色素をスクリーニングした。加えて、スクリーニング条件に関して、安全性と染色の親和性に特に注意した。その後、絞り込んだ候補となる色素の安全性の評価を、ラットを用いて行った。高い染色親和性及び安全性に基づき、ブリリアントブルーG(BBG)が最終候補として選ばれた。
【0009】
更に、BBGを含む染色組成物に眼膜染色のための最適な条件を検証するため、様々な実験を行い、本発明の染色組成物が決定された。BBGは未だ臨床的に、特に人間に関しては利用されたことがないことは注意すべき点である。しかしながら、本発明に最適な条件においては、臨床的な利用に安全で、かつ高い染色親和性をもつ色素を提供することができる。
【0010】
そのため、本発明の第一の主要な側面によれば、BBGを主要成分とした染色組成物が、眼膜除去の際の眼膜染色用に提供される。
【0011】
本発明の一つの側面は眼膜除去を行う際の眼膜染色のための染色組成物についてのものであり、染色組成物はブリリアントブルーG(BBG)誘導体、薬理学的に許容されるその塩あるいはその水和物を主要成分として構成される。
【0012】
好ましいBBG誘導体を構造式[I]に示す。
【化4】

式中、RはC1−10アルコキシ基、水素原子、−OH、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基、ヒドロキシC2−10アルキル基、ハロゲノC1−10アルコキシ基あるいはハロゲノC1−10アルキル基を表し、
nは1から5のいずれか一つを表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基、C1−10アルコキシ基、ヒドロキシC2−10アルキル基、あるいはハロゲノC1−10アルキル基を表し、
m及びm´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
、R´及びR´´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基、C1−10アルコキシ基、ヒドロキシC2−10アルキル基、あるいはハロゲノC1−10アルキル基を表し、
p、p´及びp´´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
、及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基、C1−10アルコキシ基、ヒドロキシC2−10アルキル基、あるいはハロゲノC1−10アルキル基を表し、
は水素原子、−OH、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基、C1−10アルコキシ基、ヒドロキシC2−10アルキル基、あるいはハロゲノC1−10アルキル基を表す。
【0013】
構造式[I]で表されるより好ましいBBG誘導体においては、
はC1−6アルコキシ基、水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−6アルキル基、ヒドロキシC2−6アルキル基、ハロゲノC1−6アルコキシ基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
nは1から5のいずれか一つを表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
m及びm´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
、R´及びR´´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
p、p´及びp´´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
、及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
は水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表す。
【0014】
好ましいBBG誘導体を構造式[II]に示す。
【化5】

式中、
は水素原子、−OH、C1−6アルキル基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
nは1から5のいずれか一つを表し、
Zは−O−、−S−、−N=、−OC(=O)−、あるいは−C(=O)O−を表す。
は水素原子、−OH、C1−6アルキル基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、ハロゲノC1−6アルキル基を表し、
m及びm´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つをし、
、R´及びR´´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
p、p´及びp´´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
及びRは、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、あるいはC1−6アルキル基を表し、
は水素原子、C1−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表す。
【0015】
構造式[II]において、
は水素原子、あるいはC1−6アルキル基を表し、
nは1から5のいずれか一つを表し、
Zは−O−を表し、
はC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、あるいはC1−6アルキル基を表し、
m及びm´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
p、p´及びp´´は4を表し、
及びRは、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基を表し、
は水素原子、C1−6アルキル基を表すことが好ましい。
【0016】
好ましいBBG誘導体を構造式[III]に示す。
【化6】

式中、
Zは−O−、−S−、−N=、−OC(=O)−、あるいは−C(=O)O−を表し、
は水素原子、−OH、C1−6アルキル基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
及びRは、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、あるいはC1−6アルキル基を表す。
【0017】
構造式[III]においては、
Zは−O−を表し、
はC1−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
及びRは、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基を表すことが好ましい。
【0018】
構造式[III]においては、
Zは−O−を表し、
はC1−3アルキル基を表し、
及びRは、同一または異なり、それぞれC1−3アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれC1−3アルキル基を表すことが好ましい。
【0019】
さらに好ましいBBG誘導体、薬理学的に許容されるその塩あるいはその水和物は、BBG色素である。
【0020】
1−10アルキル基とは、1から10個の炭素原子を持つ直鎖アルキル基、3から10個の炭素原子を持つ分鎖アルキル基、あるいは3から10個の炭素原子を持つ環状アルキル基を意味する。直鎖アルキル基の例はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基を含む。分鎖アルキル基の例はイソプロピル基、イソブチル基、1−メチルプロピル基、t−ブチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、5−メチルヘキシル基、3−エチルペンチル基、1−プロピルブチル基、1,4−ジメチルペンチル基、3,4−ジメチルペンチル基、1,2,3−トリメチルブチル基、1−イソプロピルブチル基、4,4−ジメチルペンチル基、5−メチルペンチル基、6−メチルヘプチル基、4−エチルヘキシル基、2−プロピルペンチル基、2,5−ジメチルヘキシル基、4,5−ジメチルヘキシル基、2−エチル−3−メチルペンチル基、1,2,4−トリメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルブチル基、3−メチルオクチル基、2,5−ジメチルヘプチル基、1−(1−メチルプロピル)−2−メチルブチル基、1,4,5−トリメチルヘキシル基、1,2,3,4−テトラメチルペンチル基、7−メチルオクチル基、6−メチルノニル基、8−メチルノニル基、5−エチル−2−メチルヘプチル基、2,3−ジメチル−1−(1−メチルプロピル)ブチル基、シクロプロピルメチル基、2−(シクロプロピル)エチル基、3,7−ジメチルオクチル基、3−(シクロブチル)ペンチル基、シクロペンチルメチル基及びシクロヘキシルメチル基を含む。環状アルキル基の例はシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基及びシクロオクチル基を含む。C1−10アルキル基においては、C1−6アルキル基が好ましく、C1−13アルキル基がより好ましい。
【0021】
2−10アルケニル基は2から10個の炭素原子を有し、少なくとも1つの二重結合を有する直鎖アルケニル基、3から10個の炭素原子を有する分鎖アルケニル基あるいは5から10個の炭素原子を有する環状アルケニル基を意味する。この例としては、ビニル基、アリール基、3−ブテニル基、4−ペンテニル基、5−ヘキセニル基、6−ヘプテニル基、7−オクテニル基、8−ノネニル(noneyl)基、9−デセニル基、1−メチル−2−ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基、2−ペンテニル基、2−メチル−2−ヘキセニル基、及び2−シクロペンテニル基を含む。C2−10アルケニル基においては、C2−6アルケニル基が好ましく、C2−3アルケニル基がより好ましい。
【0022】
2−10アルキニル基とは2から10個の炭素原子を有し少なくとも1つの三重結合を有する直鎖アルキニル基あるいは4から10個の炭素原子を有する分鎖アルキニル基を意味する。この例としては、2−プロピニル基、3−ブチニル基、4−ペンチニル基、5−ヘキシニル基、6−へプチニル基、7−オクチニル基、8−ノニニル基、9−デシニル基、3−ペンチニル基及び4−メチル−2−ペンチニル基を含む。C2−10アルキニル基においては、C2−6アルキニル基が好ましく、C2−3アルキニル基がより好ましい。
【0023】
1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基とは、例としてベンジル基、ジフェニルメチル基、2−フェニルエチル(phenyethyl)基、2−フェニルプロピル基、1−メチル−1−フェニルエチル(phenyethyl)基、1−メチル−2−フェニルペンチル基、2−ニトロベンジル基、3−ニトロベンジル基、4−ニトロベンジル基、2,4−ジニトロベンジル基、2,4,6−トリニトロベンジル基、2−フェニルベンジル基、3−フェニルベンジル基、4−フェニルベンジル基、2−ヒドロキシベンジル基、3−ヒドロキシベンジル基、4−ヒドロキシベンジル基、2−クロロベンジル基、3−クロロベンジル基、4−クロロベンジル基、2−フルオロベンジル基、3−フルオロベンジル基、4−フルオロベンジル基、2−ブロモベンジル基、3−ブロモベンジル基、4−ブロモベンジル基、2−ヨ−ドベンジル基、2,3−ジクロロベンジル基、2,4−ジクロロベンジル基、2,5−ジクロロベンジル基、2,6−ジクロロベンジル基、3,4−ジクロロベンジル基、3,5−ジクロロベンジル基、2−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、4−メチルベンジル基、2−エチルベンジル基、3−エチルベンジル基、4−エチルベンジル基、2−イソプロピルベンジル基、3−イソプロピルベンジル基、4−イソプロピルベンジル基、2−メトキシベンジル基、3−メトキシベンジル基、4−メトキシベンジル基、2,3−ジメトキシベンジル基、2,4−ジメトキシベンジル基、2,5−ジメトキシベンジル基、2,6−ジメトキシベンジル基、3,4−ジメトキシベンジル基、3,5−ジメトキシベンジル基、2−エトキシベンジル基、3−エトキシベンジル基、4−エトキシベンジル基、2−イソプロポキシベンジル基、3−イソプロポキシベンジル基、4−イソプロポキシベンジル基、2−メトキシメチルベンジル基、3−メトキシメチルベンジル基、4−メトキシメチルベンジル基、2−イソプロポキシメチルベンジル基、3−イソプロポキシメチルベンジル基、4−イソプロポキシメチルベンジル基、2−トリフルオロメチル基、3−トリフルオロメチル基、4−トリフルオロメチル基、2−ヒドロキカルボニルベンジル基、3−ヒドロキカルボニルベンジル基、4−ヒドロキカルボニルベンジル基、2−アミノベンジル基、3−アミノベンジル基、4−アミノベンジル基、2−アミノメチルベンジル基、3−アミノメチルベンジル基、4−アミノメチルベンジル基、2−シアノベンジル基、3−シアノベンジル基、4−シアノベンジル基、2−ヒドロキシメチルベンジル基、3−ヒドロキシメチルベンジル基、4−ヒドロキシメチルベンジル基、2−フェノキシベンジル基、3−フェノキシベンジル基、及び4−フェノキシベンジル基を含む。1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基におけるC1−10アルキル基として、C1−6アルキル基が好ましく、C1−3アルキル基がさらに好ましい。
【0024】
アリール基とは、フェニル基、置換されたフェニル基または1−ナフチル基あるいは2−ナフチル基のような多環芳香族を意味する。
【0025】
ヒドロキシC2−10アルキル基は少なくとも1つのヒドロキシ基で置換されたC2−10アルキル基を意味する。この例としては、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、5−ヒドロキシペンチル基、6−ヒドロキシヘキシル基、7−ヒドロキシヘプチル基、8−ヒドロキシオクチル基、9−ヒドロキシノニル基、10−ヒドロキシデシル基、2−ヒドロキシプロピル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基、及び2−ヒドロキシ−3−メチルブチル基を含む。ヒドロキシC2−10アルキル基においては、ヒドロキシC2−6アルキル基が好ましく、ヒドロキシC2−3アルキル基がさらに好ましい。
【0026】
ハロゲノC1−10アルキル基とはフッ素原子、塩素原子、臭素原子あるいはヨウ素原子の少なくとも1つで置換されたC1−10アルキル基を意味する。この例としては、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、2−ヨ−ドエチル基、3−クロロプロピル基、3−ブロモプロピル基、3−ヨ−ドプロピル基、4−クロロブチル基、4−ブロモブチル基、4−ヨ−ドブチル基、5−クロロペンチル基、6−クロロヘキシル基、7−クロロヘプチル基、8−クロロオクチル基、9−クロロノニル基、10−クロロデシル基、2−クロロプロピル基、2−クロロブチル基、2,4−ジクロロブチル基及び2−クロロ−3−メチルブチル基を含む。ハロゲノC1−10アルキル基においては、ハロゲノC1−6アルキル基が好ましく、ハロゲノC1−10アルキル基がさらに好ましい。
【0027】
1−10アルコキシC1−10アルキル基とは1から10個の炭素原子を有し1から10個の炭素原子を有する直鎖アルコキシ基、3から10個の炭素原子を有する分鎖アルコキシ基あるいは3から10個の炭素原子を有する環状アルコキシ基で置換されたアルキル基を意味する。この例としては、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−プロポキシエチル基、2−イソプロポキシエチル基、2−ブトキシエチル基、2−イソブトキシエチル基、2−t−ブトキシエチル基、2−ペンチルオキシエチル基、2−ヘキセニルオキシブチル基、3−エトキシプロピル基。4−エトキシブチル基、4−エトキシ−3−メトキシブチル基及び4−エトキシ−3−メチルペンチル基を含む。C1−10アルコキシC1−10アルキル基においては、C1−6アルコキシC1−6アルキル基が好ましく、 C1−3アルコキシC1−3アルキル基がさらに好ましい。
【0028】
ハロゲノC1−10アルコキシ基とは少なくとも1つのフッ素原子、塩素原子、臭素原子あるいはヨウ素原子で置換されたC1−10アルコキシ基を指す。ハロゲノC1−10アルコキシ基においては、ハロゲノC1−6アルコキシ基が好ましく、ハロゲノC1−3アルコキシ基がさらに好ましい。
【0029】
本発明のBBG誘導体の好ましい立体構造は絶対構造を有する光学活性体であるが、本発明のBBG誘導体はエナンチオマ−あるいはラセミ体のようなエナンチオマ−混合物として存在しうる。そのため、本発明のBBG誘導体は、構造式Iに示したBBG誘導体の光学活性体、ラセミ体のようなエナンチオマ−混合物、ジアステレオマ−混合物のすべてを含む。
【0030】
薬理学的に許容される塩の例は、無機塩基、アンモニア、有機塩基、無機酸、有機酸、塩基性アミノ酸、ハロゲンイオン等から成る塩、及び分子内塩を含む。無機塩基の例はアルカリ金属(Na,K等)及びアルカリ土類金属(Ca,Mg等)を含む。有機塩基の例はトリメチルアミン、トリエチルアミン、コリン、プロカイン、エタノールアミン等を含む。無機酸の例は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、及びリン酸等を含む。有機酸の例はp−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸及びマレイン酸等を含む。塩基性アミノ酸の例にはリジン、アルギニン、オルニチン、ヒスチジン等を含む。化合物は薬理学的に許容される水和物であってもよい。
【0031】
本発明の好ましい態様の一つによれば、前記染色組成物は黄斑円孔、高度近視性(hymyopic)黄斑円孔による網膜剥離、網膜上膜、増殖性糖尿病網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、増殖性硝子体網膜症、及び過熟白内障、及び先天性白内障等の特異的白内障、及び分層角膜移植等の硝子体網膜疾患等の眼疾患における外科手術の外科的アジュバントとして用いることができる。本発明の染色組成物により、識別しがたい眼膜をより明確に確認することが可能となり、外科手術における安全性を向上させることができる。
【0032】
本発明のより好ましい態様においては、前記染色組成物は眼膜及び、より好ましくは、内境界膜及び/あるいは前嚢の染色に利用される。
【0033】
本発明の好ましい態様の一つにおいては、本発明の染色組成物はBBG誘導体を0.1−10mg/ml、好ましくは0.1−1.0mg/mlの濃度、最も好ましくは0.1−0.25mg/mlの濃度で含有することが望ましい。この態様においては、低濃度及び少量で高い染色親和性を持つ染色組成物を提供する。
【0034】
さらに、本発明の染色組成物の態様の一つによれば、浸透圧が298mOsm近傍であることが好ましい。この態様によれば、本発明の染色組成物は生理食塩水に等しい浸透圧である。このように、浸透圧の違いにより起こる問題は解消される。
【0035】
本発明の好ましい態様の一つにおいては、本発明の染色組成物は中性のpH、すなわち、pH=7.4近傍のpHを示すことが望ましい。
【0036】
本発明の第二の主要な側面によれば、眼膜を染色及び除去する方法が提供される。この方法はBBG誘導体を主要成分とする染色組成物を調整するステップと予め規定された濃度の先述の染色組成物を用いて眼膜を染色するステップ及び染色された眼膜を除去するステップから構成される。
【0037】
本発明の好ましい態様の一つにおいて、眼膜とは内境界膜及び/あるいは前嚢であるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0038】
本発明の第三の主要な側面によれば、眼膜疾患の治療のための染色組成物の製造におけるBBG誘導体の利用法が提供される。
【0039】
更に、本発明の第四の主要な側面によれば、眼科手術のための外科的なアジュバントとしてBBG誘導体の利用法が提供される。
【0040】
ここに提供された材料、方法及び実施例は例示にすぎず、限定することを意図していない。発明のその他の特徴及び利点は後述の詳細な叙述及び請求項から明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
先述の通り、評価は従来用いられてきたICGあるいはTBといった色素の代替品となる眼膜染色のための色素を提供することに重点を置いた。従って、以下に記述するように、多くの特性を兼備し、高い染色親和性と高い安全性を持った染色組成物が達成された。
【0042】
本発明の一つの側面は眼膜除去を行う際の眼膜染色のための染色組成物についてのものであり、染色組成物はブリリアントブルーG(BBG)誘導体、薬理学的に許容されるその塩あるいは水和物を主要成分として構成される。
【0043】
好ましいBBG誘導体を構造式[I]に示す。
【化7】

式中、RはC1−10アルコキル基、水素原子、−OH、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基、ヒドロキシC2−10アルキル基、ハロゲノC1−10アルコキシ基あるいはハロゲノC1−10アルキル基を表し、
nは1から5のいずれか一つを表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基、C1−10アルコキシ基、ヒドロキシC2−10アルキル基、あるいはハロゲノC1−10アルキル基を表し、
m及びmは、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
、R´及びR´´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基、C1−10アルコキシ基、ヒドロキシC2−10アルキル基、あるいはハロゲノC1−10アルキル基を表し、
p、p´及びp´´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
、及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基、C1−10アルコキシ基、ヒドロキシC2−10アルキル基、あるいはハロゲノC1−10アルキル基を表し、
は水素原子、−OH、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基、C1−10アルコキシ基、ヒドロキシC2−10アルキル基、あるいはハロゲノC1−10アルキル基を表す。
【0044】
構造式[I]で表されるより好ましいBBG誘導体においては、
はC1−6アルコキシ基、水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−6アルキル基、ヒドロキシC2−6アルキル基、ハロゲノC1−6アルコキシ基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
nは1から5のいずれか一つを表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基をし、
m及びm´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
、R´及びR´´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
p、p´及びp´´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
、及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
は水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表す。
【0045】
好ましいBBG誘導体を構造式[II]に示す。
【化8】

式中、
は水素原子、−OH、C1−6アルキル基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
nは1から5のいずれか一つを表し、
Zは−O−、−S−、−N=、−OC(=O)−、あるいは−C(=O)O−を表す。
は水素原子、−OH、C1−6アルキル基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
m及びm´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
、R´及びR´´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
p、p´及びp´´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表す。
及びRは、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、あるいはC1−6アルキル基を表し、
は水素原子、C1−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表す。
【0046】
構造式[II]において、
は水素原子、あるいはC1−6アルキル基を表し、
nは1から5のいずれか一つを表し、
Zは−O−を表し、
はC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、あるいはC1−6アルキル基を表し、
m及びm´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
p、p´及びp´´は4を表し、
及びRは、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基を表し、
は水素原子、C1−6アルキル基を表すことが好ましい。
【0047】
好ましいBBG誘導体を構造式[III]に示す。
【化9】

式中、
Zは−O−、−S−、−N=、−OC(=O)−、あるいは−C(=O)O−を表し、
は水素原子、−OH、C1−6アルキル基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
及びRは、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、あるいはC1−6アルキル基を表す。
【0048】
構造式[III]においては、
Zは−O−を表し、
はC1−6アルキル基を表し、
及びRは、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基を表すことが好ましい。
【0049】
構造式[III]においては、
Zは−O−を表し、
はC1−3アルキル基を表し、
及びRは、同一または異なり、それぞれC1−3アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれC1−3アルキル基を表すことが好ましい。
【0050】
さらに好ましいBBG誘導体、薬理学的に許容されるその塩あるいはその水和物は、BBG色素である。
【0051】
1−10アルキル基とは、1から10個の炭素原子を持つ直鎖アルキル基、3から10個の炭素原子を持つ分鎖アルキル基、あるいは3から10個の炭素原子を持つ環状アルキル基を意味する。直鎖アルキル基の例はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基を含む。分鎖アルキル基の例はイソプロピル基、イソブチル基、1−メチルプロピル基、t−ブチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、5−メチルヘキシル基、3−エチルペンチル基、1−プロピルブチル基、1,4−ジメチルペンチル基、3,4−ジメチルペンチル基、1,2,3−トリメチルブチル基、1−イソプロピルブチル基、4,4−ジメチルペンチル基、5−メチルペンチル基、6−メチルヘプチル基、4−エチルヘキシル基、2−プロピルペンチル基、2,5−ジメチルヘキシル基、4,5−ジメチルヘキシル基、2−エチル−3−メチルペンチル基、1,2,4−トリメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルブチル基、3−メチルオクチル基、2,5−ジメチルヘプチル基、1−(1−メチルプロピル)−2−メチルブチル基、1,4,5−トリメチルヘキシル基、1,2,3,4−テトラメチルペンチル基、7−メチルオクチル基、6−メチルノニル基、8−メチルノニル基、5−エチル−2−メチルヘプチル基、2,3−ジメチル−1−(1−メチルプロピル)ブチル基、シクロプロピルメチル基、2−(シクロプロピル)エチル基、3,7−ジメチルオクチル基、3−(シクロブチル)ペンチル基、シクロペンチルメチル基及びシクロヘキシルメチル基を含む。環状アルキル基の例はシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基及びシクロオクチル基を含む。C1−0アルキル基においては、C1−6アルキル基が好ましく、C1−13アルキル基がより好ましい。
【0052】
2−10アルケニル基は2から10個の炭素原子を有し、少なくとも1つの二重結合を有する直鎖アルケニル基、3から10個の炭素原子を有する分鎖アルケニル基あるいは5から10個の炭素原子を有する環状アルケニル基を意味する。この例としては、ビニル基、アリール基、3−ブテニル基、4−ペンテニル基、5−ヘキセニル基、6−ヘプテニル基、7−オクテニル基、8−ノネニル(noneyl)基、9−デセニル基、1−メチル−2−ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基、2−ペンテニル基、2−メチル−2−ヘキセニル基、及び2−シクロペンテニル基を含む。C2−10アルケニル基においては、C2−6アルケニル基が好ましく、C2−3アルケニル基がより好ましい。
【0053】
2−10アルキニル基とは2から10個の炭素原子を有し少なくとも1つの三重結合を有する直鎖アルキニル基あるいは4から10個の炭素原子を有する分鎖アルキニル基を意味する。この例としては、2−プロピニル基、3−ブチニル基、4−ペンチニル基、5−ヘキシニル基、6−へプチニル基、7−オクチニル基、8−ノニニル基、9−デシニル基、3−ペンチニル基及び4−メチル−2−ペンチニル基を含む。C2−10アルキニル基においては、C2−6アルキニル基が好ましく、C2−3アルキニル基がより好ましい。
【0054】
1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基とは、例としてベンジル基、ジフェニルメチル基、2−フェニルエチル(phenyethyl)基、2−フェニルプロピル基、1−メチル−1−フェニルエチル(phenyethyl)基、1−メチル−2−フェニルペンチル基、2−ニトロベンジル基、3−ニトロベンジル基、4−ニトロベンジル基、2,4−ジニトロベンジル基、2,4,6−トリニトロベンジル基、2−フェニルベンジル基、3−フェニルベンジル基、4−フェニルベンジル基、2−ヒドロキシベンジル基、3−ヒドロキシベンジル基、4−ヒドロキシベンジル基、2−クロロベンジル基、3−クロロベンジル基、4−クロロベンジル基、2−フルオロベンジル基、3−フルオロベンジル基、4−フルオロベンジル基、2−ブロモベンジル基、3−ブロモベンジル基、4−ブロモベンジル基、2−ヨ−ドベンジル基、2,3−ジクロロベンジル基、2,4−ジクロロベンジル基、2,5−ジクロロベンジル基、2,6−ジクロロベンジル基、3,4−ジクロロベンジル基、3,5−ジクロロベンジル基、2−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、4−メチルベンジル基、2−エチルベンジル基、3−エチルベンジル基、4−エチルベンジル基、2−イソプロピルベンジル基、3−イソプロピルベンジル基、4−イソプロピルベンジル基、2−メトキシベンジル基、3−メトキシベンジル基、4−メトキシベンジル基、2,3−ジメトキシベンジル基、2,4−ジメトキシベンジル基、2,5−ジメトキシベンジル基、2,6−ジメトキシベンジル基、3,4−ジメトキシベンジル基、3,5−ジメトキシベンジル基、2−エトキシベンジル基、3−エトキシベンジル基、4−エトキシベンジル基、2−イソプロポキシベンジル基、3−イソプロポキシベンジル基、4−イソプロポキシベンジル基、2−メトキシメチルベンジル基、3−メトキシメチルベンジル基、4−メトキシメチルベンジル基、2−イソプロポキシメチルベンジル基、3−イソプロポキシメチルベンジル基、4−イソプロポキシメチルベンジル基、2−トリフルオロメチル基、3−トリフルオロメチル基、4−トリフルオロメチル基、2−ヒドロキカルボニルベンジル基、3−ヒドロキカルボニルベンジル基、4−ヒドロキカルボニルベンジル基、2−アミノベンジル基、3−アミノベンジル基、4−アミノベンジル基、2−アミノメチルベンジル基、3−アミノメチルベンジル基、4−アミノメチルベンジル基、2−シアノベンジル基、3−シアノベンジル基、4−シアノベンジル基、2−ヒドロキシメチルベンジル基、3−ヒドロキシメチルベンジル基、4−ヒドロキシメチルベンジル基、2−フェノキシベンジル基、3−フェノキシベンジル基、及び4−フェノキシベンジル基を含む。1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基におけるC1−10アルキル基として、C1−6アルキル基が好ましく、C1−3アルキル基がさらに好ましい。
【0055】
アリール基とは、フェニル基、置換されたフェニル基または1−ナフチル基あるいは2−ナフチル基のような多環芳香族を意味する。
【0056】
ヒドロキシC2−10アルキル基は少なくとも1つのヒドロキシ基で置換されたC2−10アルキル基を意味する。この例としては、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、5−ヒドロキシペンチル基、6−ヒドロキシヘキシル基、7−ヒドロキシヘプチル基、8−ヒドロキシオクチル基、9−ヒドロキシノニル基、10−ヒドロキシデシル基、2−ヒドロキシプロピル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基、及び2−ヒドロキシ−3−メチルブチル基を含む。ヒドロキシC2−10アルキル基においては、ヒドロキシC2−6アルキル基が好ましく、ヒドロキシC2−3アルキル基がさらに好ましい。
【0057】
ハロゲノC1−10アルキル基とはフッ素原子、塩素原子、臭素原子あるいはヨウ素原子の少なくとも1つで置換されたC1−10アルキル基を意味する。この例としては、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、2−ヨ−ドエチル基、3−クロロプロピル基、3−ブロモプロピル基、3−ヨ−ドプロピル基、4−クロロブチル基、4−ブロモブチル基、4−ヨ−ドブチル基、5−クロロペンチル基、6−クロロヘキシル基、7−クロロヘプチル基、8−クロロオクチル基、9−クロロノニル基、10−クロロデシル基、2−クロロプロピル基、2−クロロブチル基、2,4−ジクロロブチル基及び2−クロロ−3−メチルブチル基を含む。ハロゲノC1−10アルキル基においては、ハロゲノC1−6アルキル基が好ましく、ハロゲノC1−10アルキル基がさらに好ましい。
【0058】
1−10アルコキシC1−10アルキル基とは1から10個の炭素原子を有し1から10個の炭素原子を有する直鎖アルコキシ基、3から10個の炭素原子を有する分鎖アルコキシ基あるいは3から10個の炭素原子を有する環状アルコキシ基で置換されたアルキル基を意味する。この例としては、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−プロポキシエチル基、2−イソプロポキシエチル基、2−ブトキシエチル基、2−イソブトキシエチル基、2−t−ブトキシエチル基、2−ペンチルオキシエチル基、2−ヘキセニルオキシブチル基、3−エトキシプロピル基。4−エトキシブチル基、4−エトキシ−3−メトキシブチル基及び4−エトキシ−3−メチルペンチル基を含む。C1−10アルコキシC1−10アルキル基においては、C1−6アルコキシC1−6アルキル基が好ましく、C1−3アルコキシC1−3アルキル基がさらに好ましい。
【0059】
ハロゲノC1−10アルコキシ基とは少なくとも1つのフッ素原子、塩素原子、臭素原子あるいはヨウ素原子で置換されたC1−0アルコキシ基を指す。ハロゲノC1−10アルコキシ基においては、ハロゲノC1−6アルコキシ基が好ましく、ハロゲノC1−3アルコキシ基がさらに好ましい。
【0060】
本発明の好ましいBBG誘導体の立体構造は絶対構造をもつ光学活性体であるが、本発明のBBG誘導体はエナンチオマ−あるいはラセミ体のようなエナンチオマ−混合物として存在する。それゆえ、本発明のBBG誘導体は先述の構造式[I]で表されるBBG誘導体のすべての光学活性体、ラセミ体のようなエナンチオマ−混合物及びジアステレオマ−混合物を含む。
【0061】
薬理学的に許容される塩の例は、無機塩基、アンモニア、有機塩基、無機酸、有機酸、塩基性有機酸、ハロゲンイオン等から成る塩、及び分子内塩を含む。無機塩基の例はアルカリ金属(Na、K等)及びアルカリ土類金属(Ca、Mg等)を含む。有機塩基の例はトリメチルアミン、トリエチルアミン、コリン、プロカイン、エタノールアミン等を含む。無機酸の例は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、及びリン酸等を含む。有機酸の例はp−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、蟻酸、トリフルオロ酢酸及びマレイン酸等を含む。塩基性アミノ酸の例はリジン、アルギニン、オルニチン、ヒスチジン等を含む。化合物は薬学的に許容される水和物であってもよい。
【0062】
本発明のBBG誘導体、薬理学的に許容されるその塩あるいはその水和物、特にBBGは購入及び有機化学の一般的知識に基づき製造することができる。更に、これらは米国特許第6,057,160号の明細に開示される方法によって製造することができ、この文献は参照することにより本書の一部に含まれる。
【0063】
本発明の一つの態様を、実施例及び図面を用いて以下に説明する。
【0064】
始めに、現在生物に用いられていない色素も含め、すべての色素を用い、候補色素のスクリーニングを行った。スクリーニングされた色素はエバンスブルー、アシッドブルー9、ファストグリーン、ブリリアントブルーFCF、インディゴ−カーミン、メチルブルー、メチレンブルー、ブリリアントブルーG(BBG)である。スクリーニング条件は特に染色親和性及び安全性に重点を置いた。有力候補のうち、安全性に優位性を示すが標的物を染色できないもの、逆に、よく染色できるが網膜に毒性を示すものは候補から除外した。絞り込まれた候補に対する安全性の評価はラットを用いて行い、より良い染色親和性及び安全性に基づき、BBGが最終候補として選ばれた。以下にBBGが本発明の最終候補となった理由を詳細に記述する。
【0065】
始めに、BBG染色の質はICGと比較して非常に類似しており、さらに標的物を非常に低濃度で染色することが可能である(1/10−1/20)。眼球内に残留する非常に高濃度の溶液の検査においても、眼球に対する明らかな毒性に関する見解は立証できなかった。加えて、BBGは(ICGと異なり)蛍光色素ではないため、強い光源による眼球内照明によって起こると考えられている網膜に対する光毒性もほとんど無いと考えられる。更に、洗浄後に組織表面に残る色素もICGと比較して非常に少なかった。また、BBGは寒色系の色素であり、眼球内組織は暖色系であるため、色素のコントラストが強調できる。
【0066】
次に、様々な実験を行い、眼膜染色のためのBBGを含む染色組成物の最適な条件を評価した。更に、BBGは今まで臨床的に、特にヒトに関しては用いられたことがない。しかしながら、本発明に最適な条件においては、臨床目的の利用に安全かつ高い染色親和性を持った組成物を提供することができる。
【0067】
それゆえ、本発明の第一の主要な側面によれば、BBG誘導体を主要成分として含む染色組成物が、眼膜除去の際の眼膜染色用に提供される。
【0068】
本発明の好ましい態様の一つによれば、前記染色組成物は例として、黄斑円孔、高度近視性(hymyopic)黄斑円孔による網膜剥離、網膜上膜、増殖性の糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、増殖性硝子体網膜症、過熟白内障及び先天性白内障のように特異的な白内障といった硝子体網膜疾患、及び分層角膜移植等、眼球の疾患の眼科手術において外科的アジュバントとして利用できる。本発明の染色組成物に従えば、識別し難い眼膜をより明確に確認し、外科手術中の安全性を向上させることが可能となる。
【0069】
本発明のより好ましい態様においては、前記染色組成物は眼膜及び、より好ましくは、内境界膜及び/あるいは前嚢の染色に用いることができる。
【0070】
また、本発明の態様の一つによれば、本発明の染色組成物は薬理学的に許容される担体と組み合わせて用いることができる。溶解液及び薬品粉末との一式として、あるいは注射器中に満たされた溶液の形として、及びヒアルロン酸と組み合わせてゲル状溶液として調合できる。最も好ましくは、溶液として調合されるが、必ずしもこれに限定されない。
【0071】
本発明の態様の一つによれば、前記染色組成物は薬学的に許容される溶液として調合されるが、必ずしもこれに限定されない。これはBBGの直接かつ容易に眼内洗浄液に溶解され、またシリンジフィルターによって滅菌できるという特性による。
【0072】
更に、本発明の態様の一つによれば、前記染色組成物は眼内灌流液、平衡塩類溶液(BSS)、生理食塩水、あるいは最も好ましくは、眼内灌流液(眼内洗浄液)であるOPEGUARD−MA(千寿製薬株式会社、大阪府、日本)に溶解した溶液として調合できる。しかしながら、必ずしもこの形式に限定されない。
【0073】
本発明の態様の一つにおいては、染色組成物はBBG誘導体を0.1−10mg/ml、好ましくは0.1−1.0mg/mlの濃度、最も好ましくは0.1−0.25mg/mlの濃度で含有することが望ましい。本発明の実施例の一つにおいては、前記染色組成物では、霊長類のILMを染色するために必要とされるBBG濃度はICGと比較して1/10である。さらに、前嚢を染色するためには、ICGでは5mg/ml、TBでは1mg/mlの濃度が必要であるのに対し、前記染色組成物中のBBGは0.25mg/mlの低濃度で充分な染色が可能である。言い換えれば、この態様により、低濃度かつ低容量で高い染色親和性を持つ染色組成物が提供される。
【0074】
更に、本発明の染色組成物の態様の一つによれば、浸透圧が298mOsm近傍であることが好ましい。この態様によれば、本発明の染色組成物は生理食塩水に等しい浸透圧である。以前ICGによる網膜色素上皮の障害はその溶液の低浸透圧性に由来する可能性があることが報告されていた。これに関連して、本発明の一つの態様における染色組成物は、網膜色素上皮において浸透圧の差により起こる障害といった、細胞膨張あるいは脱水症状に関する組織障害(細胞脱落あるいは細胞死等)を引き起こさないという点において、優れた効果を有する。
【0075】
本発明の好ましい態様の一つにおいては、本発明の染色組成物は中性のpH、すなわち、pH=7.4近傍のpHを示すことが望ましい。
【0076】
本発明の第二の主要な側面によれば、眼膜を染色及び除去する方法が提供される。この方法はBBG誘導体を主要成分とする染色組成物を調整するステップと予め規定された濃度の先述の染色組成物を用いて眼膜を染色するステップ及び染色された眼膜を除去するステップから構成される。
【0077】
本発明の態様の一つに対し、前記眼膜染色法は、当該技術、例として、注射、輸液、洗浄、確認、除去といった技術に熟達した者容易に理解される方法を用いることができる。本発明の実施例の一つとして、前記眼膜染色法に前記染色組成物が含まれることが好ましい。この実施例では、TBを眼膜に投与する際必要とされる液−ガス置換等の付加的なステップを必要としない。例として、眼科手術中に利用する際に容易に染色することが可能である。
【0078】
本発明の第三の主要な側面によれば、眼科疾患の治療のための染色組成物の製造におけるBBG誘導体の利用法が提供される。
【0079】
加えて、本発明の第四の主要な側面によれば、眼科手術のための外科的アジュバントとしてBBG誘導体の利用法が提供される。
【0080】
更に、本発明の態様の一つにおいて、前記染色組成物及び/あるいはそれを利用する染色法は眼科手術の一部として適切に用いられる。本発明の好ましい態様により、先述の眼科疾患手術は黄斑円孔、近視性黄斑円孔による網膜剥離、網膜上膜、増殖性糖尿病網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、増殖性硝子体網膜症、成熟白内障及び先天性白内障等の特異的白内障、及び分層角膜移植等の治療に行われる外科手術であり、最も好ましくは、硝子体−網膜疾患(特に黄斑円孔及び網膜上膜(ERMS))及び白内障に対して行われるものである。
【0081】
更に、本発明の好ましい態様の一つとして、前記眼科手術は哺乳類の眼球に対して施行され、より好ましくは、ヒトの眼球に対して施行される。
【0082】
後述の実施例は本発明をより詳細に記述するために提供される。これらは本発明を例証することを意図するものであって、制限するものではない。
【実施例1】
【0083】
安全性と膜染色能に重点をおいた様々な候補色素のスクリーニング
目的を達成する染色組成物を提供するため、現在生物に使用されていない色素も含め、すべての色素を使用し、候補色素を選別した。選別された色素はエバンスブルー、アシッドブルー9、ファストグリーン、ブリリアントブルーFCF、インディゴカーミン、メチルブルー、メチレンブルー、ブリリアントブルーG(BBG)である。加えて、スクリーニングの条件として、安全性及び染色親和性に特に注目した。
【0084】
いくつかの有力な候補のうち、安全面では優れているが標的物を染色できないもの、あるいは反対によい染色親和性を示すが網膜に対し有毒なものは候補から除外した。
【0085】
次に、絞り込まれた候補の安全性評価をラットを用いて行った。より高い染色親和性と安全性に基づき、BBGが最終候補となった。
【0086】
次に、BBGを含有する染色組成物の最適条件を検討する目的で、様々な実験を行った。このようにして本発明の染色組成物が得られた。
【実施例2】
【0087】
2. 網膜に対する硝子体内のBBGの効果
すべての手順は眼科と視覚に関する研究会議(ARVO)の眼科と視覚研究における動物の使用に関する声明に準拠し、日本、福岡、九州大学の動物保護ガイドラインに従った。
【0088】
2.1 BBG溶液の特性
BBGは、アシッドブルー90あるいはクーマシーブリリアントブルーGとしても知られている。我々の以前の報告を除いては、BBGの眼科利用に対する毒性を検証する報告は存在しない。表1は異なる濃度におけるBBG溶液の浸透性及びpHを示す。BBG溶液の浸透性及びpHは眼内灌流液と同様であることが判明した。
【0089】
【表1】

コントロールはOPEGUARD(登録商標)−MAである。
【0090】
2.2. ラット眼球におけるBBG硝子体内投与の外科的手順
ブラウンノルウェイラット(標本数=78オス、8週齢、九動株式会社、福岡県、日本)を投与量75mg/kg体重の塩酸ケタミン腹腔内投与によって麻酔した。各個体(各投与量群につき合計標本数=6)から1つの眼球に対し、先述の通り0.05mlの純粋SFガスを用いて硝子体切除を行った。ガス投与に続き、0.05mlのBBG溶液を外科手術中拡大するために顕微鏡を用いて硝子体を切除した各眼球の硝子体腔に投与した。BBG溶液(ブリリアントブルーG、クーマシー(登録商標)、ブリリアントブルーG250;Signa−Aldrich,セントルイス、アメリカ合衆国)は眼内灌流液(OPEGUARD(登録商標)−MA、千寿製薬株式会社、大阪府、日本)中に希釈し、0.01、0.1、1.0、及び10mg/mlの濃度で調整し、0.22μmシリンジフィルターで滅菌した。平均の浸透性は浸透圧計(OSMO STATION、アークレイ株式会社、京都府、日本)を用いて測定し各溶液のpHは調整したすべての濃度について測定した(表1)。ラットに対し安全でさらによく染色されるBBGの投与量を提供するため、最終濃度は人間の硝子体切除手術に用いられるICG溶液(2.5−5.0mg/ml)に従って決定した。擬似手術を施した24個の眼球(SF投与後0.05ml眼内灌流液を投与)をコントロ−ルとして用いた。
【0091】
2.3.光学顕微鏡法
眼球を摘出し、10%パラホルムアルデヒド中で固定する操作を手術後14日目(標本数30;投与群及びコントロ−ル群について6)及び2ヶ月目において(標本数:30;投与群及びコントロ−ル群について6)行った。眼球全体を大体垂直子午線に沿って切断した。パラフィンに包埋した切片はヘマトキシン−エオジン(HE)にて染色し、各切片を、光学顕微鏡を用いて観察した。
【0092】
BBGを硝子体中に投与した後、角膜浮腫、深刻な網膜浮腫、あるいは眼内炎等BBGによる毒性は外科的な顕微鏡検査では2ヶ月以上の期間にわたって観察されなかった。眼球は手術後14日目及び2ヶ月目に摘出された。最も高い量のBBG(10mg/ml)が投与された眼球を術後14日目及び2ヶ月目に観察したところ、通常の網膜構造が維持されていた。加えて、炎症細胞の浸潤は観察されなかった(図1、14日目)。網膜の正常な構造はよりBBG投与量の低い群においても維持されており、術後14日目あるいは2ヵ月後の切片において細胞変性は観察されなかった。
【0093】
2.4.透過型電子顕微鏡法(TEM)
眼球を手術後14日目及び2ヶ月目に摘出し、リン酸緩衝食塩水中1%グルタルアルデヒド及び1%パラホルムアルデヒドにて固定した。試料はベロナ−ル酢酸緩衝溶液四酸化オスミウム(2%)にて後固定後、エタノール及び水で脱水処理し、エポン包埋した。超薄切片をブロックから切り出し、銅格子上に乗せた。試料をJEM 100CX電子顕微鏡(JEOL、Tokyo)にて観察した。
【0094】
最もBBGの投与量が高かった(10mg/ml)試料では、14日目においても(図2A、14日目)2ヶ月目においてもガングリオン細胞及びミューラー細胞の神経線維の突起に空胞化が見られた。同様の変化は1mg/mlのBBGを投与した群においても認められたが、空胞化の度合いは10mg/mlを投与した群と比較して低かった(図2B)。空胞化はよりBBG投与量がより低い群あるいはコントロ−ルにおいては観察されなかった。すべての群において、内顆粒層、外核層及び網膜色素上皮細胞層を含め網膜に顕著な変化は認められなかった。
【0095】
2.5. TdT−dUTP末端ニック−エンド標識(TUNEL)
アポトーシスによる細胞死を、先述のとおりTdT−dUTPタ−ミナルニックエンド標識(TUNEL)法を用いて検出した。4%パラホルムアルデヒドにて固定し、パラフィン中に包埋した試料からクライオスタットを用いて4μmの切片を作製した。TUNEL染色はApopTag(登録商標)蛍光ダイレクト in situ アポトーシス検出キット(Intergen Company,ニューヨーク、アメリカ合衆国)を用いて製造業者のプロトコルに従って行った。切片をヨウ化プロピジウム(Molecular Probes, ユージーン、オレゴン州、アメリカ合衆国)と共染色し、蛍光顕微鏡(オリンパス株式会社、東京都)による細胞核の観察ができるようにした。各眼球より無作為に10枚の切片を選択し、顕微鏡観察した。
【0096】
もっともBBG投与量の高かった群(10mg/ml)においては、10枚の切片のうちアポトーシスによる細胞死が一例観察された。しかしながら、アポトーシスによる細胞死の比率はコントロ−ル切片で観察されたものと比較して優位な差はなかった(図3、14日目)。よりBBG投与量の低い群においては、14日目の網膜中TUNEL染色で染まったものは観察されなかった。さらに、あらゆるBBG投与量の群において2ヶ月後の段階でアポトーシスによる細胞死をしている網膜細胞はなかった。
【0097】
2−6. 電子網膜写真
ガス投与に続き、0.05mlのBBG溶液(1mg/ml及び10mg/ml)あるいは眼内灌流液を硝子体腔に投与した。各投与群及び6つのコントロールには6匹のラットを用いた。測定を行う前にすべてのラットについて、白内障が存在しないことを確認した。14日後の時点、及び2ヵ月後の時点において、ラットを一晩赤色の弱い照明のみの暗室下に置き、ケタミン(1mg/ml)、キシラジン(0.4mg/ml)、及び(40mg/ml)を含有する生理食塩水を体重1gにつき15μl腹膜内投与して麻酔した。その後網膜写真(ERG)を先述のとおり行った。瞳孔を2.5%フェニルエフリンHCl及び1%トロピカミド滴下によって拡張し、ERG記録の前に最大に拡張させた。角膜は1%塩酸プロパラカイン滴下によって麻酔し、実験期間中ラットを加温パッド上に置いた。1%メチルセルロースでコートされたワイヤー電極を角膜上に配置し、ERGを記録した。同様のワイヤー電極を比較電極として口の中に配置し、一方で尾部に挿入した電極針を接地した。応答は差動的に増幅され(0.8から1,200Hz)、平均化され、コンピュ−タ−によって記録された。ホワイト(キセノン)ストロボフラッシュを、Granzfeld刺激装置(VPA−10;Cadwell,Kennewick,ワシントン、アメリカ合衆国)から無彩色の順応領域に向かって照射した。初めに両方の強度における応答の安定性を確認する目的で暗順応した(桿体細胞を介して)ERGを記録した。各ラットを、安定したレベルの応答を達成するのに充分な期間である20分間、暗い背景輝度に順応させた。その後、暗順応したa(桿体細胞を介して)及び暗順応したb(両極細胞及びミュ−ラ−細胞を介して)のERGをフラッシュ輝度1.30log cd sec/mにて反応させた。刺激間隔を1分間として5回連続したストロボフラッシュに対する応答を平均化し暗順応反応を測定した。その後ラットを白色光の明順応条件下(1.50log cd/m)に少なくとも25分間置き、明順応したb(錐体細胞を介した)ERGをフラッシュ輝度1.30log cd sec/m(ラットにおける桿体細胞の脱感作条件)の条件で反応させた。2Hzで50回連続したフラッシュに対する応答を平均化した。ERGの大きさはスチュ−デントのt検定によって評価し、p値0.05未満のものを統計的に有意とした。
【0098】
図4Aは、術後14日目においてコントロ−ル群及び高濃度投与群の暗及び明順応した応答ERG波形を示す。実験の初めにおいて得られた暗順応の大きさは、グル−プ間でばらつきが少なかった。14日目に平均の暗順応したa波の最大振幅が投与量に依存性を示す形で高濃度投与群でわずかに減少することが観察された(図4B、14日目)が、コントロ−ル群(10mg/ml:p=0.054及び1.0mg/ml:p=0.063;t検定)に比較して最大振幅に有意な差はなかった。また、暗順応したb波(10mg/ml:p=0.553及び1.0mg/ml:p=0.508;t検定)及び明順応したb波ERG(10mg/ml:p=0.451及び1.0mg/ml:p=0.550;t検定)も顕著な減少は示さず、振幅に統計的有意な差は見られなかった(図4B、14日目)。2ヵ月後同じBBG投与量(1.0mg/ml及び10mg/ml)の群のERGを記録し暗順応したa波の振幅の減少はコントロ−ル群と同様に回復するのが認められた。
【0099】
2.7. 霊長類の眼球におけるBBGによるILM染色
ILMの除去はラット眼球においては不可能であるため、発明者らはBBGによるILM染色を霊長類の眼球で検討した。2匹の3歳のカニクイザルの眼球2つを本研究で使用した。カニクイザルを追い込みケ−ジに拘束し、太腿における塩酸ケタミン(三共エール薬品株式会社、日本)筋肉注射にて全身麻酔した。続いてサルを手術室に搬送した。外科手術は3カ所の標準的経毛様体扁平部硝子体切除手術から構成され,これに伴い硝子体を可視化するため、トリアムシノロンアセトニド投与を行い、硝子体カッターでの吸引による後部硝子体剥離の誘導を行った。
【0100】
10ミリグラムのBBGを20mlの眼内灌流液に溶解しシリンジフィルターにて滅菌した。BBGの最終濃度は0.5mg/mlであった。調整したBBG溶液(0.5ml)は硝子体腔に穏やかに注入し、速やかに平衡塩類溶液(BSS plus(登録商標)、参天製薬株式会社、大阪府、日本)で洗い流した。ILMの除去はILM鉗子を用いて行った。器具を取り除き、7−0ポリガラチン縫合糸を用いて強膜切開口を閉じた。術後の検査は1、3、14日後のスリットランプ顕微鏡検査および検眼鏡検査を含んだ。蛍光血管造影法は14日目に行った。
【0101】
硝子体腔洗浄の後、ILMを淡青色で染色した。ILMの端及び皮弁はILM除去の間明瞭に可視化された(図5A)。ILMの下に存在する環状の領域はILM除去の後明確に見られた(図5B)。
【0102】
術後、角膜浮腫、深刻な網膜浮腫及び眼内炎等、BBGの有毒作用は14日目のスリットランプ顕微鏡検査及び検眼鏡検査においては観察されなかった。蛍光血管造影法もまた14日目にはBBGによる明確な網膜障害はないことを示した(図5C)。さらなる眼球顕微鏡検査は6ヶ月の追跡調査においても網膜にこれ以上の変化がないことを示した。
【実施例3】
【0103】
3. 膜除去のための染色溶液となりうるBBGの介入臨床例
インドシアニングリーン(ICG)及びトリパンブルー(TB)染色法は様々な硝子体−網膜疾患におけるILM除去を大いに容易なものにした。しかしながら、多数の報告が最近ICG及びTBの実験的及び臨床的使用における網膜障害性を伝えている。
【0104】
[0117]臨床の前段階の研究として、BBGはILM染色のための候補として選別された。これは明らかにヒト眼球におけるBBGの最初の臨床検査である。
【0105】
3.1. ILM染色におけるBBGの利用及びヒト眼球での効果及び安全性(初めての試み)
黄斑円孔(MH)及び網膜上膜(ERMS)を患う16人の被験者の16個の眼球が2004年8月から9月の間に九州大学病院(福岡県、日本)の外来部門から採用された。緑内障、ブドウ膜炎、及び角膜異常等眼球の疾患を伴う患者は除外された。患者の特性を表1に示す。本研究は適切な倫理委員会機構の承認及び1989年のヘルシンキ宣言において設けられた倫理基準に従って実施された。本治療により生じうる利益及び危険性は外科手術の前に患者に説明され、すべての患者から同意書を得た。外科手術はトリアムシノロンアセトアニド投与を行い、硝子体カッターでの吸引による後部硝子体剥離の導入を伴う3カ所の経毛様体扁平部硝子体切除手術から構成された。20ミリグラムのBBG(ブリリアントブルーG 250;Sigma−Aldrich,セントルイス、アメリカ合衆国)を10mlの眼内灌流液(OPEGUARD(登録商標)−MA、千寿製薬株式会社、大阪府、日本)に溶解し、シリンジフィルター(Minisart(登録商標)ザルトリウス AG, ゲッティンゲン、ドイツ)を用いて滅菌した。BBGの最終濃度は0.25mg/mlである。調整された0.5mlBBG溶液(289mOsm、pH=7.44)を硝子体腔に穏やかに注入し、速やかに平衡塩類溶液(BBS plus(登録商標),参天製薬株式会社、大阪府、日本)で洗い流した。ILMは淡青色に染色された。ILMの除去はILM鉗子(D.O.R.C.;Dutch Ophthalmic Research Center International b.v.、オランダ)を用いて行った。しかしながら、ERMSの染色はこの濃度においては確認できなかった。
【0106】
術後の検査はスリットランプ顕微鏡検査、検眼鏡検査、最良矯正視力検査(BCVA)及び眼圧検査を含んだ。視野の評価はHumphrey Field Analyzer II(Humphrey Systems、ダブリン、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を用いて2ヵ月後に行った。
【0107】
外科手術の手順は成功に終わった。視力はすべての事例において回復した。眼圧の上昇した患者は見られなかった。明確な視野の強度の減少及び障害は観察されなかった。BBGによるその他いかなる副作用も観察期間には観察されなかった(表2)。
【0108】
【表2】

表2の略記
MH:黄斑円孔、ERM:網膜上膜、BCVA:最良矯正視力、preop.:手術前、postop.:手術後、IOL:眼内レンズ、IOP:眼圧、VF:視野
【0109】
3.2. ILM染色におけるBBGの使用及びヒト眼球での効果と安全性(二度目の試み)
本発明者らは臨床利用例の詳細な調査を続け、後述の結果を得た。
【0110】
2004年8月から11月にかけて、黄斑円孔(MH:5人の男性及び5人の女性からなる10人の患者からの10個の眼球)あるいは網膜上膜(ERM:5人の男性及び5人の女性からなる10人の患者からの10個の眼球)を患う20人の連続した患者の20個の眼球について、BBG染色を用いて膜除去を伴う硝子体切除を行った。緑内障、糖尿病性網膜症、ブドウ膜炎、及び角膜疾患等の眼球疾患を持つ患者は除外した。患者年齢の平均標本デ−タは67±11.9歳で、33歳から85歳の範囲にあった。追跡調査の期間は平均7.3±1.0ヶ月であった。患者の詳細を表3及び4に示した。術前及び術後の眼科検査は、スリットランプ顕微鏡検査、検眼鏡検査、最良矯正視力検査(BCVA)及び眼圧検査(IOP)を含んだ。MHの閉鎖及び中心窩の厚さ(ERMの場合)は光コヒーレンストモグラフィー(OCT3:Humphrey Instruments,サン・リーンドロ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)によって測定した。平均の中心窩の厚さは全部で4つのスキャン画像から算出した。
【0111】
ILMの存在を確認するため、4つの眼球(MH患者から2つ、ERM患者から2つの眼球)から切除した試料を透過型電子顕微鏡にて検査した。試料をベロナ−ル酢酸緩衝液四酸化オスミウム(2%)にて固定し、エタノール及び水にて脱水処理し、エポン包埋した。超薄切片をブロックより切り出し銅格子上に乗せた。試料をJEM 100CX電子顕微鏡(JEOL、東京都)で観察した。
【0112】
本研究は施設内倫理委員会の承認を得て1989年のヘルシンキ宣言における倫理基準に従って行われた。本治療により生じうる利益及び危険性については外科手術前にすべての患者に説明し、同意書を得た。
【0113】
必要とされる場合には標準的水晶体超音波乳化吸引術を行った。外科手術は必要とされる場合はトリアムシノロンアセトアニド(Kenakolt−A(登録商標)Bristol Pharmaceuticals KK、東京都、日本)投与を行い、硝子体カッターでの吸引による後部硝子体剥離(PVD)の導入を伴う3カ所の経毛様体扁平部硝子体切除手術から構成された。BBG(ブリリアントブルーG 250; Sigma−Aldrich、セントルイス、アメリカ合衆国)を眼内灌流液(OPEGUARD(登録商標)−MA、千寿製薬株式会社、大阪府、日本)に溶解した。その後溶液は0.22μmシリンジフィルターを用いて滅菌した。BBGの最終濃度を0.25mg/ml(289mOsm,pH=7.44)とした。調整したBBG溶液(0.5ml)をその後硝子体腔に穏やかに投与し(図6A)、速やかに平衡塩類溶液(BBS plus(登録商標)、参天製薬株式会社、大阪府、日本)にて洗浄した。MHの症例においては、ILMは即時に明るい青色に染色された。ILMの除去はILM鉗子を用いて行われた(図6B、C)。ILM除去の後、ILMが除去された領域及び周辺領域における網膜表面の色の差異が明瞭に見られた(図6D)。しかしながらERMの症例においては、ERMの染色はこの濃度においては確認できなかった(図7A)。ERM除去の後(図7B)、BBG溶液を再度投与し、速やかに硝子体腔を洗浄した。ERMが除去された領域のILMはBBGでよく染色された(図7C)。しかしながら、残留したERM及び後部硝子体の領域は染色されなかった。よく染色されたILMは染色されない残りのERM及び後部硝子体と共に容易に除去することが出来た(図7D)。
【0114】
最後に、すべての場合において眼球内レンズを挿入した。MHの場合、液体−ガス交換を行い15%六フッ化硫黄に置換した。患者は一週間うつぶせ姿勢をとるよう勧告された。
【0115】
ERMを含むILMは20個外科手術の過程ですべての眼球から順調に切除された。透過型電子顕微鏡検査により、切除された試料すべてにおいてILMの存在が確認された(標本数=4)(図8)。術後、角膜浮腫、深刻な網膜浮腫及び眼内炎等の深刻な眼球内の炎症等のいかなるBBG投与により起こる深刻な毒性も14日後でのスリットランプ顕微鏡検査及び検眼鏡検査においては認められなかった。
【0116】
すべてのMH症例は検眼鏡検査及びOCT検査において解剖学的には完全に閉鎖された。術前のBCVA中央値は20/100(範囲;20/200−20/50)であった。術後のBCVA中央値は20/32(範囲;20/200−20/20)であった。視力は9個(90%)の眼球においてスネレン線で2あるいはそれ以上改善し、1個の眼球では変化がなかった。2つの例において、医原性周辺部網膜裂孔を含む合併症が見られたが、これは手術中の眼内レ−ザ−により光凝固処置した。MHの1つの症例についてのみIOPの上昇(26mmHg)が6ヵ月後の時点で認められ、これについてはラタノプロストで治療した(表3)。
【0117】
ERMの外科治療例においては、OCTで測定した網膜中心窩の厚さの平均は454.7±141.3μm(術前)から249.4±71.3μm(術後)に減少した。ERMの例においては、術後のBCVA(20/100−20/12.5;中央値:20/32)は術前のBCVA(20/100−20/40;中央値:20/50)より改善した(表4)。8人の患者(80%)についてはスネレン視力表で2ラインあるいはそれ以上改善したが、他の2患者においてはBCVAは同様あるいは1ラインの改善に留まった。唯一の合併症は硝子体出血の延長の一例であり、これは発見後吸収した。その他網膜色素上皮(RPE)の萎縮等のいかなる副作用もすべての例の追跡調査期間において認められなかった。
【0118】
【表3】

表3の略記
MH:黄斑円孔、BCVA:最良矯正視力、preop.:手術前、postop.:手術後、IOL:眼内レンズ、IOP:眼圧
【0119】
【表4】

表4の略記
ERM:網膜上膜、MH:黄斑円孔、BCVA:最良矯正視力、preop.:手術前、postop.:手術後、IOL:眼内レンズ、IOP:眼圧
【実施例4】
【0120】
4. BBGの生体適合性:莢膜染色のための補助剤としてのBBGの臨床前研究
4.1. BBGの莢膜染色能
BBGの莢膜染色能はブタ眼球で勾配をつけた色素を用いて評価した。
【0121】
ブタ眼球は地域の食肉処理場から入手し、氷上で研究室に搬入された。外眼筋及び結合組織を注意深く切断し作業用チャンバーに置いた。BBG溶液は先述の方法を用いて調整した。20ミリグラムのBBG(クーマシー、ブリリアントブルーG 250;Sigma−Aldrich、セントルイス、アメリカ合衆国)を10mlの眼内灌流液(OPEGUARD−MA,千寿製薬株式会社、大阪府、日本)で溶解し、シリンジフィルター(Minisart,Sartorious AG,ゲッティンゲン、ドイツ)にて滅菌した。手術用顕微鏡下で、BBGによる莢膜染色は以下のとおり調べられた。シリンジに装着した26ゲ−ジ針にて透明角膜を通し前眼房に挿入した。BBGは前嚢に同じ入り口を通して挿入された26ゲ−ジ針から投与された(10、1、0.5、0.25、0.1及び0.01mg/ml)。前眼房を速やかに強化平衡塩類溶液(BBS Plus(登録商標)、,参天製薬株式会社、大阪府、日本)にて洗浄し、過剰の色素は容易に洗い流すことが出来た。
【0122】
前眼房を深くするため、1%ヒアルロン酸ナトリウム(Healon(登録商標)、Pharmacia、Uppsala、スウェーデン)を投与した。CCCは粘弾性シリンジに装着した、折り曲げた26ゲ−ジの使い捨て針を用いて三角形の前嚢皮弁を調整することによって開始された。CCCは水晶体切開刀あるいは嚢切開鉗子を用いて達成された。
【0123】
色素は前嚢を均一に染色し、CCCの末端は明確に手術用顕微鏡下で認識できた。染色は色素濃度が上昇するに従って濃くなり(0.25mg/mlから1mg/ml、図9)明確に可視化でき良質な染色をするために必要な最小濃度は0.25mg/mlと判明した(図9、上右)。0.1mg/ml及び0.01mg/mlでは、前嚢染色は不明瞭であり、色素を使用する利点が全く見られなかった。(図9、中央左及び下左)。前眼房投与によって開口部も同様に染色された。
【0124】
4.2. BBGの生体適合性
生後8ヶ月のブラウンノルウェイラット(九動株式会社、福岡県、日本)が以下の通り研究された。ラットはペントバルビタ−ルの腹腔内投与による麻酔及びトピカル1%トロピカミド、2.5%塩酸フェニレフリンによる瞳孔の拡張を受けた。シリンジに装着した30−ゲ−ジ針を用い透明角膜を通して眼前房に侵入した。その後BBG(10、1、0.5、0.25、0.1及び0.01mg/ml)、ICG(5mg/ml)、トリパンブルー(1mg/ml)、及びコントロ−ルOPEGUARD.溶液(各色素につき標本数=6、合計54個の眼球)のそれぞれの色素について前眼房への投与を一回実施した。各溶液の平均浸透性及びpHは表1に示す。
【0125】
色素は前眼房に残留し続いて2ヶ月に及んで生体顕微鏡検査が実施された。術後2週間及び2ヶ月の時点で眼球を摘出した。眼球を光学顕微鏡、透過型及び走査型電子顕微鏡にて解析した。
【0126】
4.3. 光学顕微鏡法
眼球を4%パラホルムアルデヒドにて固定し半分に切断し、パラフィンに包埋、キシレンで脱パラフィン後、エタノールで脱水し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。4μm厚の切片をヘマトキシリン及びエオジン染色し、光学顕微鏡で観察した。
【0127】
ヘマトキシリン及びエオジン染色した角膜切片は各グル−プ(BBG、ICG、TB;図10)においていかなる顕著な違いも示さなかった。光学顕微鏡検査では内皮細胞消失又は角膜浮腫の兆候は全く見られなかった。層状コラ−ゲン層、間質細胞及び上皮細胞層はよく保全されていた。すべての角膜層において炎症性細胞浸潤は観察されなかった。
4.4.TdT−dUTP終末ニック−エンド標識法(TUNEL)
【0128】
アポトーシスによる細胞死はTdT−dUTP終末ニック−エンド標識法(TUNEL)によって検出された。試料から作った4μm厚の切片を4%パラホルムアルデヒド中で固定しパラフィン中に包埋したサンプルより作製した。TUNEL染色はApopTag(登録商標)蛍光ダイレクトin situアポトーシス検出キット(Intergen Company、ニューヨーク、アメリカ合衆国)にて製造業者のプロトコルに従い行った。
【0129】
切片はヨウ化プロピジウム(Moleculer Probes,ユージーン、オレゴン州)にて共染色し、蛍光顕微鏡(オリンパス株式会社、東京都)によって細胞核の観察ができるようにした。各眼球試料から10切片を無作為に選択し観察した(標本数=3)。結果を平均値±標準偏差として示した。
【0130】
すべての群において、生理学的な代謝回転による角膜上皮のアポトーシス細胞死が時折観察された(図11、矢頭)。BBGの群においては、角膜間質細胞、内皮細胞、毛様体、及びレンズ細胞においてTUNEL染色は認められなかった(図11)。ICGの群においては、5mg/ml濃度において明瞭な細胞死は認められなかった。TBの群においては、角膜内皮細胞のアポトーシス細胞死がすべての内皮細胞のうち2%について検出された。TB群のそのほかの細胞は細胞死を起こしていなかった。
【0131】
4.5. 透過型電子顕微鏡法(TEM)
眼球を摘出し前部をPBS中1%グルタルアルデヒド及び1%パラホルムアルデヒド中で後固定した。試料をベロナ−ル酢酸緩衝液四酸化オスミウム(2%)中で固定し、エタノール及び水で脱水処理し、エポン包埋した。超薄切片をブロックより切り出し銅格子上に乗せた。試料はJEM 100CX電子顕微鏡(JEOL、Tokyo)を用いて観察した。
【0132】
BBG群においては、最も濃度が高い10mg/ml(図12、左)において角膜細胞及びコラ−ゲン細胞マトリクスの超微細構造がよく保存されていた。角膜内皮、細胞膜、明確に区別される核、細胞小器官にはいかなる退行性変化も見られなかった(図12、下左)。ICG群ではよく保存された内皮細胞構造が見られたが、一部の内皮細胞はミトコンドリア膨張の兆候を示していた(図12、中、矢印)。TB投与群では細胞間が分離したことにより内皮細胞層に嚢胞形成が見られ(図12、右)、ところどころ角膜内皮の退行が斑点状に見られた(図12、下右)。
【0133】
4.6. 走査型電子顕微鏡法(SEM)
眼球を摘出し前部をPBS中1%グルタルアルデヒド及び1%パラホルムアルデヒド中で固定した。試料をベロナ−ル酢酸緩衝液四酸化オスミウム(2%)中で固定し、エタノール及び水で脱水処理した。試料をt−ブチルアルコ−ル中で飽和し、臨界点乾燥法(Eiko、Tokyo)を行った。試料をその後スタブ上に粘着性炭素タブによって載せ、アルゴンプラズマ塗付装置(Eiko)を用いて厚さ20nmのAuでスパッタした。次に、角膜内皮表面をJEM 840走査型電子顕微鏡(JEOL)にて観察した。
【0134】
BBGに露出された角膜について、SEMではコントロ−ル中のものと同様の正常細胞が見られた。SEM画像によって、内皮細胞は正常な六角形で境界も損なわれておらず、内皮細胞の膨張がないことが明らかになった(図13、上)。ICG投与群ではまた角膜内皮細胞層で一部細胞膨張が認められた。時折、変性した内皮細胞が本来の位置から離れた場所に観察された。TB投与群においては、内皮細胞の収縮が角膜中央部に認められた。細胞収縮により散発的な内皮細胞損失に至った。
【実施例5】
【0135】
5. ブリリアントブルーを補助剤とした連続環状嚢切開
先述の通り、発明者らは低濃度かつ最小限の毒性で前嚢を染色できる新規色素、ブリリアントブルーG(BBG)を含む臨床前研究の結果を報告した。本例はヒト眼球嚢染色におけるBBGの効果を示す。
【0136】
2004年8月、白色成熟白内障をもつ70歳女性にBBGを補助としたCCC、及び眼内レンズ(IOL)移植を伴う水晶体超音波乳化吸引術を施術した。患者には緑内障、ブドウ膜炎あるいは角膜疾患等その他の眼疾患はなかった。クーマシー(登録商標)BBG 250(Sigma−Aldrich、セントルイス、アメリカ合衆国)を眼内灌流液(OPEGUARD(登録商標)−MA;千寿製薬株式会社、大阪府、日本)に0.25mg/mlの濃度で溶解し、シリンジフィルターで滅菌した。BBG溶液を穏やかに前房に注入し平衡塩類溶液(BBS)にて速やかに洗浄した。
【0137】
図14に見られるように、連続環状嚢切開の外科的処置間において、明るい青色に染色された前嚢は明瞭に識別できた。BBG溶液(0.25mg/ml)を眼前房に投与し速やかに洗浄した。(A)矢印は白内障を持つ眼に形成されたCCCを示す。(B)矢頭はCCC終了後の周辺部を示す。(C)水晶体超音波乳化および吸引の後、IOLを挿入した。翌日、深刻な副作用(角膜浮腫、深刻な炎症あるいは眼圧の上昇等)は観察されなかった。患者の視力は光覚(LP)から20/20に改善し、2ヵ月後の検査では0.8%の最小限の角膜内皮細胞の損失が観察された。
【0138】
本研究は施設内倫理委員会の承認を得、1989年のヘルシンキ宣言における倫理基準に従って行われた。本治療により生じうる利益及び危険性については外科手術前に患者に説明し、同意書を得た。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明のその他の特性及び利点は先述の詳細な記述から、当業者には明確であろう。ここで用いられた専門語及び表現は解説する用語として使用されたものであり、制限するものではない。しかしながら、本発明の特許請求の範囲において様々な修正が可能であると認識される。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】図1はBBG(10mg/ml、眼球につき0.05ml)を硝子体内注射したラット眼球を14日目に視覚化した光学顕微鏡写真を示す。(原倍率A:×200,B:×400)
【図2】図2はBBG(10mg/ml及び1mg/ml、眼球につき0.05ml)を硝子体内注射したラット眼球を14日目に視覚化した透過電子顕微鏡写真を示す。(原倍率×2000)
【図3】図3はTUNEL法により検出されたアポトーシスによる細胞死を表す写真を示す。(原倍率×400)
【図4】図4はラット眼球におけるERGの波形と最大振幅を表すグラフを示す。
【図5】図5は霊長類眼球のBBGによるILM染色写真を示す。
【図6】図6はMHにおけるBBGを用いたILM除去の写真を示す。
【図7】図7はERMにおけるBBGを用いた膜除去の写真を示す。
【図8】図8はILMの透過電子顕微鏡写真を示す。
【図9】図9はBBGによる前嚢染色の代表的な生体顕微鏡像を示す。(原倍率×4)
【図10】図10は前房への色素投与後ヘマトキシリン及びエオシン染色した角膜切片を示す。(原倍率×400)
【図11】図11はTUNEL法により検出されたアポトーシスによる細胞死を表す写真を示す。
【図12】図12は透過型電子顕微鏡による角膜細胞及びコラ−ゲン細胞間マトリクスの超微細構造写真を示す。
【図13】図13は走査型電子顕微鏡による角膜内皮細胞の超微細構造写真を示す。
【図14】図14はBBGを用いたCCCの写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼膜除去を行う際の眼膜染色のための染色組成物であって、前記染色組成物はブリリアントブルーG(BBG)誘導体、薬理学的に許容されるその塩あるいはその水和物を主要成分として構成され、
前記BBG誘導体が構造式[I]で表される、眼膜除去を行う際の眼膜染色のための染色組成物。
【化1】

式中、RはC1−10アルコキシ基、水素原子、−OH、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基、ヒドロキシC2−10アルキル基、ハロゲノC1−10アルコキシ基あるいはハロゲノC1−10アルキル基を表し、
nは1から5のいずれか一つを表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基、C1−10アルコキシ基、ヒドロキシC2−10アルキル基、あるいはハロゲノC1−10アルキル基を表し、
m及びm´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
、R´及びR´´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基、C1−10アルコキシ基、ヒドロキシC2−10アルキル基、あるいはハロゲノC1−10アルキル基を表し、
p、p´及びp´´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
、及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基、C1−10アルコキシ基、ヒドロキシC2−10アルキル基、あるいはハロゲノC1−10アルキル基を表し、
は水素原子、−OH、C1−10アルキル基、C2−10アルケニル基、C2−10アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−10アルキル基、C1−10アルコキシ基、ヒドロキシC2−10アルキル基、あるいはハロゲノC1−10アルキル基を表す。
【請求項2】
前記BBG誘導体が前記構造式[I]で表され、前記構造式[I]中、
はC1−6アルコキシ基、水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−6アルキル基、ヒドロキシC2−6アルキル基、ハロゲノC1−6アルコキシ基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
nは1から5のいずれか一つを表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
m及びm´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
、R´及びR´´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
p、p´及びp´´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
、及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
は水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、1つあるいは2つのアリール基で置換されたC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表す、
請求項1に記載の染色組成物。
【請求項3】
前記BBG誘導体が構造式[II]で表され、
【化2】

式中、
は水素原子、−OH、C1−6アルキル基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
nは1から5のいずれか一つを表し、
Zは−O−、−S−、−N=、−OC(=O)−、あるいは−C(=O)O−を表す。
は水素原子、−OH、C1−6アルキル基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、ハロゲノC1−6アルキル基を表し、
m及びm´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つをし、
、R´及びR´´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、−OH、C1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
p、p´及びp´´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
及びRは、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、あるいはC1−6アルキル基を表し、
は水素原子、C1−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表す、
請求項1に記載の染色組成物。
【請求項4】
前記BBG誘導体が前記構造式[II]で表され、前記構造式[II]中、
は水素原子、あるいはC1−6アルキル基を表し、
nは1から5のいずれか一つを表し、
Zは−O−を表し、
はC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、あるいはC1−6アルキル基を表し、
m及びm´は、同一または異なり、それぞれ1から4のいずれか一つを表し、
p、p´及びp´´は4を表し、
及びRは、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基を表し、
は水素原子、C1−6アルキル基を表す、
請求項1に記載の染色組成物。
【請求項5】
前記BBG誘導体が構造式[III]で表され、
【化3】

式中、
Zは−O−、−S−、−N=、−OC(=O)−、あるいは−C(=O)O−を表し、
は水素原子、−OH、C1−6アルキル基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
及びRは、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ヒドロキシC2−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれ水素原子、あるいはC1−6アルキル基を表す、
請求項1に記載の染色組成物。
【請求項6】
前記BBG誘導体が前記構造式[III]で表され、前記構造式[III]中、
Zは−O−を表し、
はC1−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
及びRは、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基、あるいはハロゲノC1−6アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれC1−6アルキル基を表す、
請求項1に記載の染色組成物。
【請求項7】
前記BBG誘導体が前記構造式[III]で表され、前記構造式[III]中、
Zは−O−を表し、
はC1−3アルキル基を表し、
及びRは、同一または異なり、それぞれC1−3アルキル基を表し、
及びR´は、同一または異なり、それぞれC1−3アルキル基を表す、
請求項1に記載の染色組成物。
【請求項8】
前記BBG誘導体、薬理学的に許容されるその塩あるいはその水和物が、BBG色素である、
請求項1に記載の染色組成物。
【請求項9】
前記眼膜が、内境界膜(ILM)である、請求項1に記載の染色組成物。
【請求項10】
前記眼膜が、前嚢である、請求項1に記載の染色組成物。
【請求項11】
前記染色組成物が、前記眼膜を染色するために効果的な濃度のBBGを有する、請求項1に記載の染色組成物。
【請求項12】
前記染色組成物が、0.1mg/mlから10mg/mlの範囲の前記BBG濃度を有する、請求項1に記載の染色組成物。
【請求項13】
前記染色組成物が、0.1mg/mlから1.0mg/mlの範囲の前記BBG濃度を有する、請求項1に記載の染色組成物。
【請求項14】
前記染色組成物が、前記BBGを0.1mg/mlから0.25mg/mlの範囲の濃度で含有する、請求項1に記載の染色組成物。
【請求項15】
前記染色組成物が、298mOsmの浸透圧を有する、請求項1に記載の染色組成物。
【請求項16】
請求項1の前記染色組成物を調製し、
前記染色組成物の所定の濃度を用いて前記眼膜を染色し、
前記染色された膜を剥がす、
眼膜染色及び除去する方法。
【請求項17】
前記染色組成物の所定の濃度が、前記BBGの0.1mg/mlから10mg/mlの範囲である、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記染色組成物の所定の濃度が、前記BBGの0.1mg/mlから1.0mg/mlの範囲である、
請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記染色組成物の所定の濃度が、前記BBGの0.1mg/mlから0.25mg/mlの範囲である、
請求項16に記載の方法。
【請求項20】
眼疾患の治療用染色組成物を製造するためのブリリアントブルーG誘導体の使用。
【請求項21】
前記治療が内境界膜(ILM)の染色及び除去を含む、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記治療が前嚢の染色及び除去を含む、請求項20に記載の使用。
【請求項23】
前記治療中の前記染色組成物が、0.1mg/mlから10mg/mlの範囲の前記BBG濃度を有する、請求項20に記載の使用。
【請求項24】
前記治療中の前記染色組成物が、0.1mg/mlから1.0mg/mlの範囲の前記BBG濃度を有する、請求項20に記載の使用。
【請求項25】
前記治療中の前記染色組成物が、0.1mg/mlから0.25mg/mlの範囲の前記BBG濃度を有する、請求項20に記載の使用。
【請求項26】
前記治療中の前記染色組成物が、298mOsmの浸透圧を有する、請請求項20に記載の使用。
【請求項27】
眼科手術用のアジュバントとしてのブリリアントブルーGの使用。
【請求項28】
網膜除去を行う際の網膜染色のための染色組成物であって、前記染色組成物はブリリアントブルーG色素で構成される、網膜除去を行う際の網膜染色のための染色組成物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2008−522953(P2008−522953A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525890(P2007−525890)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【国際出願番号】PCT/JP2005/022738
【国際公開番号】WO2006/062233
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】