説明

眼血管血流障害改善剤

【課題】 眼血管血流障害を改善するために有効な手段、並びに眼血管血流障害に関連する疾患又は障害を治療又は予防するための組成物の提供。
【解決手段】 アントシアニン、特にカシスアントシアニンを有効成分として含有することを特徴とする眼血管血流障害改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼血管血流障害改善剤、及び眼血管血流障害の改善方法に関する。また本発明は、眼血管血流障害に関連する疾患又は障害の治療剤又は予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
緑内障とは、進行性の視覚障害の一群の疾患であり、失明の原因となりうる。緑内障のうち、眼圧の上昇に起因しない正常眼圧(低眼圧)緑内障がある。現在、正常眼圧緑内障には、眼血管血流の循環不全、特に視神経乳頭の循環不全が関わっていると考えられている(例えば特許文献1参照)。このような眼血管血流の障害に起因する疾患としては、毛様動脈系の循環障害として、緑内障、特に正常眼圧緑内障や、網膜色素変性症、黄斑変性症、虚血性視神経症、虹彩毛様体炎などが挙げられ、網膜中心動脈系の循環障害として、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、糖尿病性網膜症、虚血性視神経症、網膜病変に続発する脈絡膜疾患、全身疾患を伴う網膜脈絡膜疾患などの疾患が挙げられる(例えば特許文献2参照)。
【0003】
以上のように、様々な疾患の原因となる眼血管血流の障害を改善し、その疾患を治療又は予防するための方法及び医薬組成物の開発が望まれている。
【0004】
一方、アントシアニン類は、果実類(カシス、ブルーベリー、モモ、オリーブなど)、穀類(オオムギ、コメなど)、豆類(インゲンマメ、エンドウなど)、イモ類(サツマイモなど)、野菜類(アスパラガス、ダイコンなど)などの多くの植物に存在することが報告されている(例えば非特許文献1参照)。そして最近、アントシアニンが抗酸化作用、脂質改善作用、抗変異原・抗腫瘍作用、抗潰瘍、血小板凝集抑制及び視覚機能改善作用を有することが報告されている(非特許文献1)。例えば、ブルーベリー由来アントシアニンの視覚改善効果が広く知られているが、その詳細な解析はなされていなかった。本発明者らは、カシス由来のアントシアニン(以下、カシスアントシアニンともいう)のロドプシン再生促進効果(非特許文献3)、エンドセリンBレセプターを介した毛様体筋弛緩効果を見出してきた(非特許文献4)。このような毛様体の機能回復により間接的に白内障や緑内障などの疾患の予防になりうる可能性が示唆されているが、カシスアントシアニンが眼血管血流を正常化し、直接的に緑内障の治療に用い得ることは予想されず、また報告もされていない。
【0005】
さらに、アントシアニンは、その構造・起源が異なれば、含まれる成分の種類及び割合が異なり、当然その機能性が異なってくることが当技術分野では知られている(非特許文献2)。例えば、同じインゲンマメ由来のアントシアニンの抗酸化性であっても、種皮の色や部位によりその活性に大きな差がある(非特許文献1)。また、アントシアニンの作用は、in vitroとin vivoで異なることも多く、容易に予測することができない(非特許文献1)。
【0006】
従って、由来などによってアントシアニンの薬理効果には差異があり、多種多様なアントシアニンのヒトに対する効果は容易に推測することができるものではない。
【0007】
【特許文献1】特開平10−72347号公報
【特許文献2】国際公開WO98/29135号パンフレット
【非特許文献1】「アントシアニン−食品の色と健康−」,大庭理一郎ら編著,建帛社,平成12(2000)年,第14〜17頁,第103〜105頁,第130〜131頁,第136〜139頁など
【非特許文献2】カシスアントシアニンと視覚改善機能,第一部 アントシアニン類の特性と視覚機能2,平山匡男及び松本均,食品工業,2001-8.30,第53〜61頁
【非特許文献3】Matsumoto, H. et al., J. Agric. Food Chem. 第51巻, 第3560-3563頁, 2003年
【非特許文献4】Matsumoto, H. et al., Exp. Eye Res. 第80巻, 第313-322頁, 2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上述した実状に鑑み、眼血管血流障害を改善するために有効な手段を提供し、かつ眼血管血流障害に関連する疾患又は障害、特に緑内障を治療又は予防するための組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、アントシアニン、特にカシスアントシアニンが、網膜脈絡膜(視神経乳頭)における優れた血流量増加作用、並びにエンドセリン(ET−1)による血管収縮及び血流量低下を適正化する作用を有し、眼血管血流を改善する効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、アントシアニンを有効成分として含有することを特徴とする眼血管血流障害改善剤である。
【0011】
上記眼血管血流障害改善剤において、アントシアニンは、好ましくはカシスアントシアニンである。また、上記眼血管血流障害改善剤は、例えば経口投与製剤の形態である。
【0012】
上記眼血管血流障害改善剤において、眼血管としては、限定されるものではないが、視神経乳頭の血管が含まれる。
上記眼血管血流障害改善剤は、医薬品又は食品に用いることができる。
【0013】
また本発明は、アントシアニンを有効成分として含有することを特徴とする眼血管血流障害に関連する疾患又は障害の治療剤又は予防剤である。
【0014】
上記治療剤又は予防剤において、アントシアニンは、好ましくはカシスアントシアニンである。また、上記治療剤又は予防剤は、例えば経口投与製剤の形態である。
【0015】
上記治療剤又は予防剤において、眼血管血流障害に関連する疾患又は障害としては、限定されるものではないが、緑内障、網膜色素変性症、黄斑変性症、虚血性視神経症、虹彩毛様体炎、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、糖尿病性網膜症、網膜病変に続発する脈絡膜疾患及び全身疾患を伴う網膜脈絡膜疾患が挙げられる。眼血管血流障害に関連する疾患又は障害は、特に正常眼圧緑内障である。
【0016】
さらに本発明は、上記眼血管血流障害改善剤の有効量を被験体に投与する又は被験体に摂取させることを含む、眼血管血流障害の改善方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、眼血管血流障害改善剤が提供される。本眼血管血流障害改善剤は、対象の動物に副作用を及ぼすことなく眼血管血流を正常化することができる。従って、本発明により、眼血管血流障害に関連する疾患、特に緑内障を有効に予防又は治療することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、アントシアニンの用途に係るものであり、アントシアニン、特にカシスアントシアニンが眼血管血流を正常化することを利用するものである。従って、アントシアニンは、眼血管血流障害改善剤において使用することができる。また、上記性質のため、アントシアニンは、眼血管血流障害に関連する疾患又は障害、特に緑内障の予防又は治療に有用である。
【0019】
アントシアニンとは、主に下記の構造式(I)に示されるような骨格を含む化合物の総称をいう。一般にアグリコン(配糖体のうちの非糖質部分)のみのものをアントシアニジン、配糖体として糖が結合したものをアントシアニンと呼ぶが、本明細書において、アントシアニンとは、アントシアニジンとアントシアニンの両者を含むものとする。
【0020】
【化1】

〔式中、R及びRは、同一又は異なって水素原子、水酸基又はメトキシ基を表し、Glyは、グルコース、ルチノース、ソフォロース、アラビノース、ガラクトースなどの糖類基を表す〕。
【0021】
アントシアニンは、種々の生物に含まれるが、その起源や部位が異なれば、含まれる成分の種類及び割合(組成)が異なる。例えば、本発明において好ましく用いられるカシスアントシアニンは、シアニジン−3−O−グルコシド(以下、C3Gと略記する)、シアニジン−3−O−ルチノシド(以下C3Rと略記する)、デルフィニジン−3−O−グルコシド(以下、D3Gと略記する)及びデルフィニジン−3−O−ルチノシド(以下D3Rと略記する)の4成分がアントシアニン類として含まれている。
【0022】
アントシアニンは、当技術分野で公知の方法を用いて製造することができる。例えば、アントシアニンは、紫サツマイモ、赤キャベツ、赤ゴメ、エルダーベリー、ブドウ果汁、ブドウ果皮、紫トウモロコシ、赤ダイコン、シソ、カシス、カウベリー、グースベリー、クランベリー、サーモンベリー、スィムブルーベリー、ストロベリー、ダークスィートチェリー、チェリー、ハイビスカス、ハクルベリー、ブラックベリー、ブルーベリー、プラム、ホワートルベリー、ボイセンベリー、マルベリー、紫イモ、紫ヤマイモ、ラズベリー、レッドカーラント、ローガンベリーなどのアントシアニンを多く含む植物の生果実、乾燥果実、果実破砕物、ピューレ、生果汁、濃縮果汁などから、膜分離、各種クロマトグラフィー分離、溶媒抽出などによりアントシアニンを抽出することによって製造することができる。抽出方法及び抽出条件は個々の植物に応じて異なるが、これらも全て当技術分野で公知である。例えば、国際公開WO02/22847号パンフレットに記載の方法を用いて、デルフィニジン−3−グルコシド、デルフィニジン−3−ルチノシド及びシアニジン−3−グルコシドのような結晶化したアントシアニンを製造することができる。
【0023】
また、カシスアントシアニンに多く含まれるデルフィニジン−3−ルチノシド(D3R)、シアニジン−3−ルチノシド(C3R)は体内での滞留時間が長いため、本発明において有効成分として使用することが特に望ましい。そのため、本発明においては、国際公開WO01/01798号パンフレットに開示されている、カシスアントシアニン含有食品用組成物を用いることが好適である。すなわち、固形分当たり1重量%以上25重量%以下のアントシアニンを含む組成物を本発明において用いることが望ましい。
【0024】
さらに、アントシアニンは、単離・精製されたものに限定されず、例えば、植物の果実破砕物、ピューレ、濃縮果汁などを使用してもよい。
【0025】
アントシアニンの成分により、眼血管血流障害が改善される。ここで「眼血管血流」とは、眼に存在する血管、例えば視神経乳頭の血管の血流を意味する。眼血管血流は、例えばハイデルベルグレチナフローメーター(HRF)、水素クリアランス法に基づく電解式組織血流計(バイオメディカルサイエンス社など)により測定することができ、血流量として表すことができる。また、血管収縮作用を有するエンドセリン(ET−1)が眼の血流量に影響を及ぼし、血中ET−1量の上昇が眼血管血流量の減少を示すことが報告されている(日本眼科紀要(Folia Ophthalmol. Jpn.)43:554-559, 1992;日眼会誌(J. Jpn. Ophthalmol. Soc.)97;678-682, 1993参照)。そのため、血中のエンドセリン量又は活性を測定することにより、眼血管血流を測定することができる。エンドセリン量又は活性の測定は、当技術分野で公知の方法に従って行うことができ、例えばエンドセリンに対する抗体を用いた測定方法を利用することができる。眼血管血流障害とは、上記のようにして測定される眼血管血流が正常ではないことを意味する。
【0026】
本発明において、眼血管血流障害が改善されるとは、眼血管血流を正常化する、すなわち正常値に保つ又は異常である場合には正常値(近似値も含む)に補正することを指す。本発明者らは、アントシアニンが、眼血管における血流量を増加する作用、並びに血中エンドセリン(ET−1)を適正化し、血管収縮及び血流量低下を抑制する作用を有し、眼血管血流障害を改善することを見出した。そして、眼血管血流を正常化することによって、眼血管血流障害に関連する疾患又は障害を治療又は予防することができる。従って、アントシアニンを有効成分として含有する組成物は、眼血管血流障害に関連する疾患又は障害の治療剤又は予防剤としても使用することができる。本明細書中、アントシアニンを含むこれらの剤を「本組成物」という。
【0027】
本組成物は、有効成分として、1種のアントシアニンを含有するものであってもよいし、又は2種以上のアントシアニンを組み合わせて含有するものであってもよい。本組成物は、アントシアニンを有効成分として含有する限り、上述した眼血管血流障害の改善作用を発揮する。
【0028】
眼血管血流障害は種々の疾患又は障害と関連しており、そのような眼血管血流障害が関連する疾患又は障害としては、例えば限定されるものではないが、緑内障(特に正常眼圧緑内障)、網膜色素変性症、黄斑変性症、虚血性視神経症、虹彩毛様体炎、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、糖尿病性網膜症、網膜病変に続発する脈絡膜疾患、全身疾患を伴う網膜脈絡膜疾患などが挙げられる。本組成物により治療又は予防の対象となる疾患又は障害は、単独であっても、併発したものであっても、上記以外の他の疾病を併発したものであってもよい。
【0029】
本組成物は、有効成分であるアントシアニンの他、薬学的に許容される担体又は添加物を共に含むものであってもよい。このような担体及び添加物の例として、水、薬学的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。使用される添加物は、剤形に応じて上記の中から適宜又は組み合わせて選択される。
【0030】
本組成物を経口投与する場合は、錠剤、カプセル剤(硬カプセル剤、軟カプセル剤、マイクロカプセルなど)、顆粒剤、散剤、丸剤、トローチ剤、内用水剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤などのいずれのものであってもよく、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。特にアントシアニン抽出液をカプセル剤として単位投与剤形とすることが好ましい。また、本組成物を非経口投与する場合は、例えば静脈内注射(点滴を含む)、筋肉内注射、腹腔内注射及び皮下注射用の注射剤(例えば溶液、乳剤、懸濁剤)、軟膏剤(特に眼軟膏剤)、クリーム剤、座剤、パップ剤、点眼剤、点鼻剤、吸入剤、リニメント剤、エアゾル剤などの外用剤などの製剤形態を選択することができ、注射剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0031】
これらの各種製剤は、医薬において通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、滑沢剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、pH調整剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、吸収促進剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤などを適宜選択し、常法により製造することができる。本組成物は、吸収性及び眼組織への移行性を勘案すると経口投与形態が望ましい。
【0032】
本組成物に配合するアントシアニンは、その用途、剤形、投与経路などにより異なるが、例えば総重量を基準として1〜80重量%、好ましくは5〜50重量%である。
【0033】
また、本組成物の有効量(投与量又は摂取量)は、該組成物に含まれるアントシアニンの種類、被験体の年齢及び体重、投与経路、投与回数により異なり、広範囲に変更することができる。例えば、通常成人1日当たりアントシアニン1〜1000mg、好ましくは10〜200mgを、1日1回又は数回に分けて、約1週間〜約1年間、好ましくは約1ヶ月〜約10ヶ月にわたり投与することができる。
【0034】
本組成物は、使用する対象(被験体)を特に限定するものではない。例えば、ヒト、家畜(ウシなど)、愛玩動物(イヌ、ネコなど)、実験動物(サルなど)などの被験体に投与する又は摂取させることができる。
【0035】
本眼血管血流障害改善剤は、医薬組成物としての用途に限定されず、その他、例えば食品又は飼料などに配合されてもよい。「食品」及び「飼料」とは、栄養素を1種以上含む天然物及びその加工品をいい、あらゆる飲食物を含む。本眼血管血流障害改善剤(アントシアニン)が配合された食品又は飼料は、眼血管血流障害を改善するための健康補助製品として有用である。
【0036】
本眼血管血流障害改善剤を食品に配合する場合、固体状食品、ゼリー状食品、液状食品、カプセル状食品など様々な形態の食品に添加することができる。ここで、固体状食品としては、パン生地;せんべい、ビスケット、クッキーなどの焼き菓子用生地;そば、うどんなどの麺類;かまぼこ、ちくわなどの魚肉製品;ハム、ソーセージなどの畜肉製品;粉ミルクなどが挙げられる。また、ゼリー状食品としては、フルーツゼリー;コーヒーゼリーなどが挙げられる。さらに、液状食品としては、清涼飲料・果実飲料などの飲料類(茶、コーヒー、紅茶、発酵乳、乳酸菌飲料など)、調味料など(マヨネーズ、ドレッシング、味付け調味液など)が挙げられる。カプセル状食品としては、ハードカプセル、ソフトカプセルなどがあげられる。
【0037】
本眼血管血流障害改善剤を食品に添加する場合、添加量としては、食品全体に対してアントシアニンの含有量が0.01〜10重量%となるように配合することができる。効果が期待できる摂取量は年齢、体重、性別、症状の程度などを考慮して、個々の場合に応じて適宜決定されるが、通常成人1日当りアントシアンが1〜1000mg、好ましくは10〜200mgであり、これを1日1回又は数回に分けて摂取する。アントシアニンを多く含む果実又は濃縮果汁よりアントシアニン類を抽出又は濃縮したエキス、あるいはエキスを乾燥させた粉末、ペースト状、ゲル状などの形態とすることも可能である。摂取量としては一回で効能を発揮させたい場合は、少なくともアントシアニンとして10mg以上が望ましいが、特に限定されるものではなく、多めに摂取することがより望ましい。摂取回数は一日に何回かに分けて摂取できるが、その場合は、回数に応じて量を分割することも可能である。また、長期にわたり連続して摂取することが可能である。
【0038】
アントシアニンは、本発明者らの以前の研究において、非毒性であること、経口摂取で血中及び皮膚中に存在することが明らかとなっており、特に眼球中の網膜、脈絡膜、強膜、角膜、毛様体、虹彩、前房水中に存在することを確認している。従って、アントシアニンを経口的又は非経口的に摂取又は投与することにより、投与対象の動物に副作用を及ぼすことなく眼血管血流障害を有効に改善することができる。
【0039】
以下、実施例を用いて本方法をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
[参考例1]
下記の処方に従い、アントシアニン含有ソフトカプセルを調製した。アントシアニンは、明治カシスポリフェノール20(明治製菓社製、カシスアントシアニン含量20.5%(うちD3G 2.05%,D3R 9.72%,C3G 0.86%,C3R 7.87%))を用い、ソフトカプセル一粒あたりの内容液が、明治カシスポリフェノール20を120mg(アントシアニンとして25mg)、乳化剤36mg、小麦胚芽油144mgとなるように混合し、ゼラチン皮膜のソフトカプセルを調製した。
【実施例1】
【0041】
同意が得られた正常眼圧緑内障患者30名(男性9名女性21名)平均年齢66歳に対して6ヶ月間、上記ソフトカプセルを一日2粒(カシスアントシアニン50mg)内服させた。摂取前後の血中エンドセリン濃度と視神経乳頭耳側上部及び下部の血流量をハイデルベルグレチナフローメーター(HRF)で測定した。
【0042】
血中エンドセリン濃度は以下のように測定した。アントシアニン投与前後で緑内障患者より午前10−12時の間に10分間の安静後採血した。採血後直ちに血漿分離を行い血漿を−80度に保存した。血中エンドセリン濃度はhuman endothelin-1 immunoassay kit (R&D systems, Minneapolis, MN)を使用し、各サンプルとも2回の測定を行った。
【0043】
HRF測定は、アントシアニン投与前後で緑内障患者より午前10−12時の間に10分間の安静後に行った。画角10度で各領域とも6回測定し、最も条件の良い画像の解析を行った。視神経乳頭辺縁部上部又は下部において血管及び萎縮領域をのぞいた部位において1x1ピクセル10点のポイントについて測定した。アントシアニン投与前後で測定部位が一致するように眼底写真に印をつけた。なお血中エンドセリン及び血流測定において血圧がアントシアニン投与前後で5%以上変動した場合には再受診させ、5%以内の条件ですべての測定を行った。
【0044】
測定の結果、内服前の血中エンドセリン濃度は、2.0pg/ml以下の低濃度の患者5例全例で平均3.4pg/mlに上昇した。反対に内服前6.0pg/ml以上の高値を示した2例では2例とも4.0pg/ml前後に低下し、残りの症例では大きな変化は見られなかった。従って、アントシアニンがエンドセリン及びエンドセリン受容体の均衡を正常化させる可能性が示唆された。
【0045】
また、HRFを用いた検討では、視神経乳頭耳側片縁部の血流を内服前後比較したところ、左目上視神経乳頭耳側片縁部(前428.1±224、後611.9±238)、左目下視神経乳頭耳側片縁部(前441±159、後543±154)と有意に視神経乳頭血流を増加させた。
【0046】
以上の結果から、正常眼圧緑内障患者が、アントシアニンを長期服用することにより、視神経乳頭血流量を増加させ、ET−1による循環障害眼の網膜血管の収縮及び視神経乳頭血流量の減少を抑制することが確認された。従って、アントシアニンは眼血管血流障害の改善に有効であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上、詳細に説明したように、本発明に係る眼血管血流障害改善剤は、対象の動物に副作用を及ぼすことなく眼血管血流を正常化することができる。従って、本発明により、眼血管血流障害に関連する疾患又は障害、特に緑内障を有効に予防又は治療することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントシアニンを有効成分として含有することを特徴とする眼血管血流障害改善剤。
【請求項2】
アントシアニンがカシスアントシアニンである、請求項1記載の眼血管血流障害改善剤。
【請求項3】
経口投与製剤の形態である、請求項1又は2記載の眼血管血流障害改善剤。
【請求項4】
眼血管が視神経乳頭の血管である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼血管血流障害改善剤。
【請求項5】
医薬品又は食品に用いられる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の眼血管血流障害改善剤。
【請求項6】
アントシアニンを有効成分として含有することを特徴とする眼血管血流障害に関連する疾患又は障害の治療剤又は予防剤。
【請求項7】
アントシアニンがカシスアントシアニンである、請求項6記載の治療剤又は予防剤。
【請求項8】
経口投与製剤の形態である、請求項6又は7記載の治療剤又は予防剤。
【請求項9】
眼血管血流障害に関連する疾患又は障害が、緑内障、網膜色素変性症、黄斑変性症、虚血性視神経症、虹彩毛様体炎、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、糖尿病性網膜症、網膜病変に続発する脈絡膜疾患及び全身疾患を伴う網膜脈絡膜疾患からなる群より選択される、請求項6〜8のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項10】
眼血管血流障害に関連する疾患又は障害が正常眼圧緑内障である、請求項6〜9のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の眼血管血流障害改善剤の有効量を被験体に投与する又は被験体に摂取させることを含む、眼血管血流障害の改善方法。

【公開番号】特開2007−55903(P2007−55903A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239841(P2005−239841)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】