説明

眼調節機能低下予防又は改善剤

【課題】安全で有用な眼調節機能低下予防及び/又は改善剤の提供。
【解決手段】ブロッコリー、ダイズ、ネギ、ニラ、リンゴ、及びニンジンから選ばれる1種以上の植物又はその抽出物を有効成分とする水晶体蛋白変性抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶体変性抑制剤、眼調節機能低下予防又は改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコン、インターネット、携帯メール等の普及に伴い、画像表示端末(Visual displayterminal(VDT))作業を行う時間が増えるとともに、目の疲れやそれに伴う全身的な疲労(眼精疲労)が問題となっている。実際、約12,000の民営事業所を対象として厚生労働省が行った「平成15年技術革新と労働に関する実態調査」において、仕事でのVDT作業で身体的な疲労を自覚している労働者の91.6%が「目の疲れ・痛みがある」と回答したと報告されている(非特許文献1)。
【0003】
また、老視、白内障、緑内障、加齢性黄斑変性を始めとした加齢に伴う視機能低下や、糖尿病網膜症等の疾病に伴う視機能低下は、QOL(Quality of Life)を低下させる原因となることから、それらについても予防・改善が必要とされる。とりわけ、高齢化社会においては、加齢に伴う視機能低下は深刻な問題となるものと考えられる。
【0004】
これまでにも、疲れ目、加齢・疾病に伴う視機能低下を改善する試みがなされ、アントシアニン(特許文献1)、アスタキサンチン(特許文献2)、菊花(特許文献3)、クロセチン(特許文献4)等が視機能改善作用を有することが明らかとされてきた。しかしながら、これらの成分については、その作用メカニズムも詳細には明らかになってはおらず、視機能低下予防・改善作用についても十分満足できるものとは言い難い。
【0005】
また、疲れ目、及び加齢・疾病に伴う視機能低下の主な原因の一つとして眼調節機能低下が挙げられる。眼調節機能とは、毛様体筋の収縮、弛緩等により水晶体の厚みを変化させ網膜にピント調節する機能であるが、毛様体筋の過度の緊張は眼調節機能低下を引き起こす原因の一つで、ブルーベリーやカシスに含まれるアントシアニンについて知られている視機能低下予防・改善作用には、毛様体筋の緊張抑制が寄与していると考えられている(非特許文献2)。水晶体を構成する蛋白質の変性も、眼調節機能低下、とりわけ加齢に伴う眼調節機能低下の原因となると考えられており、水晶体蛋白質の変性を指標とした評価において、ジンジャーやシナモン等の食品素材が水晶体蛋白質の変性抑制作用を有することが示されている(非特許文献3)。
【0006】
水晶体は、透明な弾力のある組織で凸レンズとして外界からの光を集めることにより、外界からの視覚刺激を網膜に受取る役割を担っている。水晶体の弾力性及び透明性は、水晶体を構成する蛋白質の性質に依存しており、可視光の内波長の短い青色光や紫外線による活性酸素の発生を発端とする水晶体蛋白質の酸化変性は、加齢による弾力性や透明性の低下を引き起こすため、調節機能低下;老視、白内障を始めとする加齢に伴う視機能の低下;疲れ目;白内障、糖尿病網膜症等疾病に伴う視機能の低下の予防・改善の良い手段となると考えられる。
【0007】
この様に、水晶体蛋白質の変性抑制は、眼調節機能低下の予防・改善、延いては視機能低下の予防・改善に重要であると考えられるが、このような機能を有した視機能低下予防・改善のための食品素材はこれまでに全く知られていない。
【0008】
一方、ブロッコリー(Brassica oleracea var. italica, アブラナ科アブラナ属)は、地中海沿岸を原産とする食用植物で、主として蕾状態の花序や茎が食用とされる。また、ブロッコリーの発芽したての子葉と胚軸は、ブロッコリースプラウトとして利用される。ハムスターを用いた研究において、ブロッコリースプラウト抽出物の摂取は食餌依存性高コレステロール血症の抑制に有効であることが報告されている(非特許文献4)。
【0009】
ダイズ(Glycine max、マメ科ダイズ属)は、東アジアを原産とする一年草で、世界で広く食用として栽培される。ダイズ種子は蛋白質や脂肪、鉄分やカルシウムなどのミネラルを多く含む栄養価に富んだ食物として利用される。また、未成熟のダイズは一般にエダマメ(枝豆)として鞘ごと茹でて食用に用いるほか、ダイズ種子を暗所で発芽させモヤシ、煎って粉にしてキナコ、納豆菌で発酵させ納豆とするなど様々な形に加工されて用いられる。さらに大豆に含まれるゲニステインやダイゼインなどのイソフラボンは、女性ホルモン作用を有し、骨粗鬆症や更年期障害に対する有効性であることが報告されている(非特許文献5、6)。
【0010】
ネギ(Allium fistulosum、ネギ科ネギ属)は、中国西部・ 中央アジアを原産地とする植物で、日本では広く食用として栽培される。古くから鍋物や薬味に欠かせない食材のひとつとして利用されるほか、薬効成分が含まれている植物としても用いられる。また、ネギに含まれるtypheramideやalfrutamideにはシクロオキシゲナーゼやリポキシゲナーゼといった炎症関連酵素活性を抑制する作用が報告されているほか(非特許文献7)、マウスを用いた研究においてネギ抽出物が食餌依存性肥満を抑制することが報告されている(非特許文献8)。
【0011】
ニラ(Allium tuberosum、ネギ科ネギ属)は、中国西部を原産地とする植物で、日本では高知県や栃木県を始め広く食用として栽培される。和食において薬味やおひたし等に用いる他、中華料理において炒め物や餃子等に用いられる。また、ニラに含まれる独特の刺激臭や辛味の成分diallyl sulfide(allicinとも呼ばれる)には、ビタミンB1の吸収促進作用、免疫機能、疲労回復作用などがあるとされる。さらにヒト前立腺がん細胞を用いた研究において、ニラに含まれるThiosulfinatesが、がん細胞のアポトーシスを誘導することが報告されていることから抗癌作用が示唆される(非特許文献9)。
【0012】
リンゴ(Malus pumila、バラ科リンゴ属)は、カザフスタン南部、キルギスタン、タジキスタン、中国の新疆ウイグル自治区など中央アジアの山岳地帯、カフカスから西アジアにかけての寒冷地を原産とする落葉高木である。植物学ではセイヨウリンゴと呼ばれ、その果実は食用とされる。リンゴは食物繊維やビタミンC、ミネラル、カリウムが豊富であることから、栄養価が高い果実として食されてきた。また、ラットを用いた研究において、リンゴに含まれるリンゴポリフェノールには脂肪の蓄積を抑制する効果が報告されている(非特許文献10)。
【0013】
ニンジン(Daucus carota L., セリ科ニンジン属)は、中央アジアのアフガニスタンを原産地とする一年草である。肥大する橙色の根を、野菜として食用にされる。マウスを用いた研究において、ニンジン摂取は血中トリグリセリドやコレステロール低減作用、抗酸化作用が報告されている(非特許文献11)。
【0014】
しかしながら、これまでブロッコリー、ダイズ、ネギ、ニラ、リンゴ、及びニンジンの水晶体蛋白質変性抑制作用については全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第01/001798号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2002/094253号パンフレット
【特許文献3】特開平11−246455号公報
【特許文献4】特開2007−31426号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】厚生労働省大臣官房統計情報部: 2003年技術革新と労働に関する実態調査. 厚生労働省. 2004
【非特許文献2】Matsumoto,H., et al. Exp. Eye Res. 80, 313-322,2005
【非特許文献3】Saraswat, M., et al. Br. J. Nutr. 101, 1714-1721,2008
【非特許文献4】Rodriguez-Cantu, L. N., et al. , J. Agric. Food Chem 59, 1095-1103, 2011
【非特許文献5】Nagata, C., et al., Am. J. Epidemiol., 153, 790-793, 2001
【非特許文献6】Kronenberg, F., and Fugh-Berman, A., Ann. Intern. Med., 137, 805-813, 2002
【非特許文献7】Park, J. B., J. Med. Food, 14, 226-231, 2011
【非特許文献8】Sung, Y. Y., et al., Mol. Med. Report, 4, 431-435, 2011
【非特許文献9】Kim SY, et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 18, 199-204, 2008
【非特許文献10】Nakazato, K. et al. Exp. Anim,55, 383-389, 2006
【非特許文献11】Nicolle, C.. et al. Eur. J. Nutr. 43, 237-245, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、安全で有用な眼調節機能低下予防及び/又は改善剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、天然物素材を探索した結果、ブロッコリー、ダイズ、ネギ、ニラ、リンゴ、及びニンジンに優れた水晶体蛋白質変性抑制作用があることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
すなわち本発明は、下記1)〜3)に係るものである。
1)ブロッコリー、ダイズ、ネギ、ニラ、リンゴ、及びニンジンから選ばれる1種以上の植物又はその抽出物を有効成分とする水晶体蛋白変性抑制剤。
2)ブロッコリー、ダイズ、ネギ、ニラ、リンゴ、及びニンジンから選ばれる1種以上の植物又はその抽出物を有効成分とする眼調節機能低下予防及び/又は改善剤。
3)ブロッコリー、ダイズ、ネギ、ニラ、リンゴ、及びニンジンから選ばれる1種以上の植物又はその抽出物を有効成分とする視機能低下予防及び/又は改善剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明の水晶体変性抑制剤、眼調節機能低下予防及び/又は改善剤は、優れた水晶体変性抑制作用を有し、かつ食経験のある安全性も高いものであるため、視機能低下を予防及び/又は改善するための食品、医薬品等として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ブロッコリースプラウトエキス粉末又はエダマメパウダーを配合した餌を与えて飼育したSAMマウスにおける水晶体蛋白質変性率を示す図である。
【図2】ネギパウダー又はニラパウダーを配合した餌を与えて飼育したBalb/cマウスにおける水晶体蛋白質変性率を示す図である。
【図3】アップルパウダー又はニンジンパウダーを配合した餌を与えて飼育したBalb/cマウスにおける水晶体蛋白質変性率を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明において、「ブロッコリー」とは、アブラナ科のBrassica oleracea var. italica(ミドリハナヤサイ)を意味し、「ダイズ」とは、マメ科のGlycine max(大豆)を意味し、未成熟の大豆であるエダマメを使用することできる。「ネギ」とは、ネギ科のAllium fistulosumを、ニラとは、ネギ科のAllium tuberosumを、リンゴとは、バラ科のMalus pumilaを、「ニンジン」とは、セリ科のDaucus carota Lを其々意味する。これらは何れも食用植物として知られている。
【0023】
ブロッコリー、ダイズ、ネギ、ニラ、リンゴ、及びニンジンの使用部位としては、その植物の全草、地上部、心材、辺材、葉、樹皮、枝、根茎、根、花、果実、実又は種子等が挙げられる。
上記使用部位のうち、野菜や果物として使用されている部位を用いることが好ましく、具体的には、ブロッコリーであれば発芽したての子葉と胚軸(スプラウト)、ダイズであればエダマメの種子を用いることがより好ましく、ネギおよびニラであれば葉を用いることがより好ましく、リンゴであれば果実を用いることがより好ましく、ニンジンであれば根を用いることがより好ましい。
上記使用部位は、単独で或いはこれらを混合してそのまま又は粉砕して用いることができる。また、粉砕加工された市販品を用いることもできる。
【0024】
ブロッコリー、ダイズ、ネギ、ニラ、リンゴ、及びニンジンの抽出物としては、前記の使用部位をそのまま或いは乾燥した後に適用な大きさに切断したり、粉砕加工したりしたものを抽出して得られる抽出エキスの他、さらに分離精製して得られる活性の高い画分(成分)が包含される。
【0025】
上記植物の抽出手段としては、上記植物を低温(0〜4℃)、室温(5〜40℃)又は加温(40〜105℃)した状態で溶剤に含浸させるか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて行われる溶剤抽出法の他に、水蒸気蒸留等の蒸留法を用いて抽出する方法、炭酸ガスを超臨界状態にして行う超臨界抽出法、或いは圧搾して抽出物を得る圧搾法等が挙げられる。
【0026】
溶剤抽出に用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができ、これらを混合して用いることもできる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ピリジン類;超臨界二酸化炭素;油脂、ワックス、その他オイル等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用でき、溶剤を変えて繰り返し行うことも可能である。このうち、水、低級(炭素数1〜6)アルコール類又は水・低級(炭素数1〜6)アルコール類混液を用いるのが好ましく、当該低級アルコール類としては特にメタノール、エタノールが好ましい。
【0027】
抽出は、例えば上記植物1重量部に対して1〜50重量部の溶剤を用い、室温(5〜40℃)〜溶媒の沸点の範囲で1〜3時間から1〜30日間浸漬又は加熱還流するのが好ましい。
【0028】
これらの抽出物としては、一例として、エダマメ(ダイズ)の種子、ネギの葉、又はリンゴの果実を20〜80容量%エタノール水溶液(エタノール:水=20〜100:80〜0(V/V))に室温(5〜40℃)、1〜10日間浸漬し、当該エタノール水溶液可溶成分を抽出して得られる抽出物が挙げられる。抽出温度としては、20〜40℃が好ましく、抽出期間としては5〜9日間が好ましく、抽出溶剤としては40〜60容量%エタノール水溶液が好ましい。
【0029】
抽出物の分離精製手段としては、例えば、活性炭処理、液液分配、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ゲル濾過、精密蒸留等を挙げることができる。
【0030】
本発明の抽出物は、斯くして得られる抽出液や画分をそのまま用いてもよく、適宜な溶媒で希釈した希釈液として用いてもよく、或いは濃縮エキスや乾燥粉末としたり、ペースト状に調製したものでもよい。
また、上記抽出物を凍結乾燥し、用時に、通常抽出に用いられる溶剤、例えば水、エタノール、水・エタノール混液等の溶剤で希釈して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
【0031】
本発明の上記植物又はその抽出物は、後記実施例で示すとおり、水晶体変性抑制作用を有する。従って、前述したとおり、当該植物又はその抽出物は、眼調節機能低下;老視、老人性白内障を始めとする加齢に伴う視力の低下;疲れ目;白内障、糖尿病網膜症等疾病に伴う視力の低下等の全般な視機能低下の予防及び/又は改善効果を有すると言える(非特許文献3等)。
従って、上記植物又はその抽出物は、ヒトを含む動物に摂取又は投与して、水晶体変性抑制、眼調節機能低下予防及び/又は改善、並びに視機能低下予防及び/又は改善のために使用することができる。すなわち、上記植物又はその抽出物は水晶体変性抑制剤、眼調節機能低下予防及び/又は改善剤、並びに視機能低下予防及び/又は改善剤(以下、「視機能低下予防及び/又は改善剤等」ともいう)として、或いは視機能低下予防及び/又は改善剤等を製造するために使用することができる。
ここで、「眼調節機能低下」とは、毛様体筋の収縮、弛緩等により水晶体の厚みを変化させ網膜にピント調節する機能が衰えることをいう。「視機能低下」とは、文字や画像等の視覚情報、すなわち対象の形態、色、明暗、運動等の視覚情報を知覚する能力が衰えることをいい、前記眼調節機能低下の他老視、老人性白内障を始めとする加齢に伴う視力の低下、疲れ目、白内障、糖尿病網膜症等疾病に伴う視力の低下を含む概念であり、視機能の低下の予防及び/又は改善とは、斯かる視機能の低下の抑制又は予防を意味し、視機能の維持を包含するものである。
【0032】
当該視機能低下予防及び/又は改善剤等は、それ自体、視機能低下を予防及び/又は改善するための食品、医薬部外品、医薬品等であってもよく、又は当該食品、医薬部外品、医薬品等に配合して使用される素材又は製剤であってもよい。また、当該食品には、水晶体変性抑制、眼調節機能低下予防及び/又は改善、並びに視機能低下予防及び/又は改善等をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した美容食品、病者用食品若しくは特定保健用食品等の機能性食品が包含される。
【0033】
本発明の植物又はその抽出物を含有する上記医薬品の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、点眼薬、外用剤等による非経口投与が挙げられる。又、このような種々の剤型の医薬製剤を調製するには、本発明の植物又はその抽出物を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与であり、経口投与用製剤として用いる場合の該製剤中の本発明の上記植物又はその抽出物の含有量は、一般的に0.0001〜80質量%とするのが好ましく、0.005〜50質量%とするのがより好ましい。
【0034】
本発明の植物又はその抽出物を含有する上記食品の形態としては、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、飲料などの各種食品の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が挙げられる。
種々の形態の食品を調製するには、本発明の植物又はその抽出物を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。当該食品中の本発明の上記植物又はその抽出物の含有量は、0.0001〜80質量%でありが好ましく、0.003〜50質量%とするのがより好ましく、0.005〜5%がさらに好ましい。
【0035】
上記医薬品、医薬部外品又は食品の成人1人当たりの1日の投与又は摂取量は、年齢、体重、性別、投与方法などの種々の要因によって異なるが、経口投与の場合は上記植物又はその抽出物(固形分換算)として、0.01〜5000mg、特に10〜2000mg、より好ましくは50〜1000mgの範囲を1日1回〜数回に分けて投与することが好ましい。また、上記医薬品、医薬部外品又は食品の摂取又は投与対象者としては、それを必要としていれば特に限定されないが、水晶体変性抑制、眼調節機能低下予防及び/又は改善、並びに視機能低下予防及び/又は改善等を目的とするヒトやヒト以外の哺乳動物が好ましい。尚、当該対象者には、視機能低下等の症状が認められる者及びそのおそれがある者やその疾患・症状の予防を期待する者も含まれる。
【実施例】
【0036】
以下の実施例においては、ブロッコリー、ダイズ、ネギ、ニラ、リンゴ及びニンジンの各サンプルとして、下記の市販品を使用した。
1)ブロッコリー:「ブロッコリースプラウトエキス粉末」(オリザ油化)
2)ダイズ:「エダマメパウダー」(こだま食品)
3)ネギ:「ネギパウダー」(こだま食品)、
4)ニラ:「ニラパウダー」(こだま食品)
5)リンゴ:「アップルパウダー」(焼津水産化学工業)
6)ニンジン:「ニンジンパウダー」(こだま食品)
ここで、「エダマメパウダー」、「ネギパウダー」、「ニラパウダー」及び「ニンジンパウダー」は、各野菜を乾燥、殺菌、粉砕することに調製されたものであり、「ブロッコリースプラウトエキス粉末」は、発芽状態のブロッコリーより抽出方法を用いて抽出調製された水溶性の粉末であり、「リンゴパウダー」は、リンゴの搾汁粉末である。
【0037】
実施例1:ブロッコリー、エダマメの水晶体変性抑制作用
老化促進モデルマウス(senescence accelerated mouse(SAM)、6週齢、雄性)を日本クレア株式会社より購入し、普通固形食(CE-2、オリエンタル)を与え、自由摂取下で馴化飼育を行った。1週間後より、コントロール食、或いは、ブロッコリースプラウトエキス粉末(オリザ油化)、エダマメパウダー(こだま食品)、を配合した試験食(表1)を与えて飼育した。34週間飼育した後、水晶体を採取し、水晶体1個当たり250μlの25mM imidazole,5mM EDTAを添加して、ヒスコトロン (マイクロテック・ニチオン; シャフトサイズ:NS−4)を用い、氷上にてホモジナイズを行った。得られた水晶体ホモジネートは、4℃にて15,000rpm,30分間遠心し、上清を回収した。一部をBCAプロテインアッセイキット(ピアス社)用いて蛋白定量した。長期飼育によるカルボニル化蛋白質の増加の程度を調べるため、7週齢マウスの水晶体についても同様にホモジネートを調製、蛋白定量した。
【0038】
水晶体蛋白質の変性は、水晶体ホモジネート(20μg蛋白)を用いてカルボニル化蛋白量を測定することにより調べた。測定はカルボニル化蛋白測定キット(日研ザイル株式会社日本老化制御研究所)を使用し、メーカーの使用説明書に従って測定した。マウスを長期飼育することにより、水晶体蛋白質のカルボニル化蛋白量は3.8倍に増加した。長期飼育によるカルボニル化蛋白質の増加の程度(水晶体蛋白質変性率)を次式により計算し、食品素材の水晶体蛋白質変性抑制作用を判定した。
【0039】
(数1)
水晶体蛋白質変性率(%)= [(試験食を摂取したマウス水晶体のカルボニル化蛋白濃度)−(7週齢マウス水晶体のカルボニル化蛋白濃度)]÷[(コントロール食を摂取したマウス水晶体のカルボニル化蛋白濃度)−(7週齢マウス水晶体のカルボニル化蛋白濃度)]×100
【0040】
【表1】

【0041】
図1に示す様に、ブロッコリースプラウトエキス粉末、及びエダマメパウダーのいずれかを含有する餌を摂取したマウスにおいて、水晶体蛋白質変性の指標である、水晶体カルボニル化蛋白質の加齢に伴う増加が抑制された。このことから、ブロッコリー、及びエダマメは、水晶体蛋白質変性を抑制し、視機能低下予防及び/又は改善剤として有効であることが分かる。
【0042】
実施例2:ネギ、ニラの水晶体変性抑制作用
Balb/cマウス(6週齢、雄性)をオリエンタルバイオサービス(チャールスリバー)より購入し、普通固形食(CE-2、オリエンタル)を与え、自由摂取下で馴化飼育を行った。1週間後より、コントロール食、或いは、ネギパウダー(こだま食品)、ニラパウダー(こだま食品)を配合した試験食(表2)を与えて飼育した。34週間飼育した後、水晶体を採取した。長期飼育によるカルボニル化蛋白質の増加の程度を調べるため、7週齢マウスの水晶体も採取した。実施例1に示したと同様に、水晶体ホモジネートを調整しカルボニル化蛋白量を測定した。マウスを長期飼育することにより、水晶体蛋白質のカルボニル化蛋白量は2.6倍に増加した。長期飼育によるカルボニル化蛋白質の増加の程度(水晶体蛋白質変性率)を次式により計算し、食品素材の水晶体蛋白質変性抑制作用を判定した。
【0043】
(数2)
水晶体蛋白質変性率(%)= [(試験食を摂取したマウス水晶体のカルボニル化蛋白濃度)−(7週齢マウス水晶体のカルボニル化蛋白濃度)]÷[(コントロール食を摂取したマウス水晶体のカルボニル化蛋白濃度)−(7週齢マウス水晶体のカルボニル化蛋白濃度)]×100
【0044】
【表2】

【0045】
図2に示す様に、ネギ、及びニラのいずれかを含有する餌を摂取したマウスにおいて、水晶体蛋白質変性の指標である、水晶体カルボニル化蛋白質の加齢に伴う増加が抑制された。このことから、ネギ、及びニラは、水晶体蛋白質変性を抑制し、視機能低下予防及び/又は改善剤として有効であることが分かる。
【0046】
実施例3:アップルパウダー、ニンジンパウダーの水晶体変性抑制作用
Balb/cマウス(6週齢、雄性)をオリエンタルバイオサービス(チャールスリバー)より購入し、普通固形食(CE-2、オリエンタル)を与え、自由摂取下で馴化飼育を行った。1週間後より、コントロール食、或いは、アップルパウダー(焼津水産化学工業)、ニンジンパウダー(こだま食品)を配合した試験食(表3)を与えて飼育した。39週間飼育した後、水晶体を採取した。長期飼育によるカルボニル化蛋白質の増加の程度を調べるため、7週齢マウスの水晶体も採取した。実施例1に示したと同様に、水晶体ホモジネートを調整しカルボニル化蛋白量を測定した。マウスを長期飼育(33週間飼育)することにより、水晶体蛋白質のカルボニル化蛋白量は1.4倍に増加した。長期飼育によるカルボニル化蛋白質の増加の程度(水晶体蛋白質変性率)を次式により計算し、食品素材の水晶体蛋白質変性抑制作用を判定した。
【0047】
(数3)
水晶体蛋白質変性率(%)= [(試験食を摂取したマウス水晶体のカルボニル化蛋白濃度)−(7週齢マウス水晶体のカルボニル化蛋白濃度)]÷[(コントロール食を摂取したマウス水晶体のカルボニル化蛋白濃度)−(7週齢マウス水晶体のカルボニル化蛋白濃度)]×100
【0048】
【表3】

【0049】
図3に示す様に、アップルパウダー、及びニンジンパウダーのいずれかを含有する餌を摂取したマウスにおいて、水晶体蛋白質変性の指標である、水晶体カルボニル化蛋白質の加齢に伴う増加が抑制された。このことから、リンゴ、及びニンジンは、水晶体蛋白質変性を抑制し、視機能低下予防及び/又は改善剤として有効であることが分かる。
【0050】
実施例4
下記成分を用い、常法に従って1錠200mgの錠剤を製造した。
【0051】
【表4】

【0052】
実施例5
下記成分を用い、常法に従って1錠200mgの錠剤を製造した。
【0053】
【表5】

【0054】
実施例6
下記の成分を混合後ゼラチンカプセルに充填し、1錠250mgの軟カプセル剤を得た。
【0055】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロッコリー、ダイズ、ネギ、ニラ、リンゴ、及びニンジンから選ばれる1種以上の植物又はその抽出物を有効成分とする水晶体蛋白変性抑制剤。
【請求項2】
ブロッコリー、ダイズ、ネギ、ニラ、リンゴ、及びニンジンから選ばれる1種以上の植物又はその抽出物を有効成分とする眼調節機能低下予防及び/又は改善剤。
【請求項3】
ブロッコリー、ダイズ、ネギ、ニラ、リンゴ、及びニンジンから選ばれる1種以上の植物又はその抽出物を有効成分とする視機能低下予防及び/又は改善剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−43873(P2013−43873A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184006(P2011−184006)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】