説明

眼鏡レンズの製造方法

【課題】機能性層の密着性が良好な、優れた耐久性を有する眼鏡レンズを提供すること。
【解決手段】市販品またはプラスチックレンズストックから、プラスチックレンズ基材表面上にプライマー層とハードコート層とがこの順に積層されたプラスチックレンズを入手し、入手したプラスチックレンズ最表面にプライマー層を露出させるハードコート層除去工程を行い、ハードコート層除去工程によりプライマー層が露出したプラスチックレンズ最表面上に機能性層を形成することを含む眼鏡レンズの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの製造方法に関するものであり、詳しくは、高品質な眼鏡レンズを提供可能な眼鏡レンズの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズは、一般に、プラスチックレンズ基材により所望の屈折率を実現した上で、基材上に設けられる機能性層により各種性能(調光性能、反射防止能、耐久性向上等)が付与される(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−251413号公報
【特許文献2】特開2008−73981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように機能性層が積層された眼鏡レンズには、使用中や保管中に機能性層が剥離しない優れた耐久性を有することが求められる。しかし本発明者らが、市販品から入手したプラスチックレンズや保管していたプラスチックレンズ(プラスチックレンズストック)上に機能性層を形成して眼鏡レンズを製造したところ、製造直後ないし使用中に機能性層の密着性が低下し剥離が生じる場合があることが明らかとなった。
【0005】
そこで本発明の目的は、機能性層の密着性が良好な、優れた耐久性を有する眼鏡レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の新たな知見を得た。
プラスチックは、ガラスと比べて軽量で割れにくいという利点を有するが、一般にガラスと比べて柔らかいため、プラスチックレンズ基材の耐損傷性は必ずしも十分なものではない。そこで耐損傷性向上を目的として、プラスチックレンズ基材上にハードコート層を形成することが広く行われている(例えば上記特許文献1、2参照)。このようにハードコート層を形成することは、プラスチックレンズ基材が市場に流通される際や保管中に最表面に傷が発生することを防ぐ効果がある。そのため近年、プラスチックレンズ基材上にハードコート層を形成した、眼鏡レンズ製造用のプラスチックレンズが市場に供給されている。また、眼鏡レンズ製造業者において、プラスチックレンズ基材表面が保管中に損傷することを防ぐために、ハードコート層を形成した状態で保管することもある。
かかる状況下、本発明者らは、上記の機能性層の密着性低下が確認された眼鏡レンズは、プラスチックレンズ基材上に直接機能性層を形成したものではなく、プラスチックレンズの最表層に位置するハードコート層上に機能性層を積層して作製されたものであることに着目し、密着性低下の原因はハードコート層にあると推察するに至った。この点についてより詳しく説明すると、本発明者らは、ハードコート層に含まれる各種成分やハードコート層表面に強固に吸着した成分が機能性層の形成を阻害したり、機能性層を形成した後にそれら成分が機能性層に浸出することが、密着性低下の原因になると考えている。
【0007】
そこで本発明者が、ハードコート層を除去してプラスチックレンズ基材表面を露出させた後に、露出したプラスチックレンズ基材表面に機能性層を形成することを試みたところ、密着性向上は可能になったものの、得られた眼鏡レンズに曇りなどの外観不良が発生し高品質な眼鏡レンズを得ることはできなかった。この理由を本発明者らは、以下のように推察している。
眼鏡レンズの製造工程では、プラスチックレンズ基材とハードコート層との密着性を高めるために、プラスチックレンズ基材上にプライマー層を介してハードコート層を形成することが広く行われている。このプライマー層は、密着性向上のためにプラスチックレンズ基材表面との親和性の高い物質から形成されるため、ハードコート層とともにプライマー層まで剥がし取ると、プラスチックレンズ基材表面が変質ないし損傷してしまう。これが、上記のようにプラスチックレンズ基材表面を露出させた後に機能性層を積層して得られた眼鏡レンズの品質低下の原因と考えられる。
【0008】
本発明者らは、以上の知見に基づき更に検討を重ねた結果、市販品やプラスチックレンズストックから入手した、プラスチックレンズ基材上にプライマー層およびハードコート層をこの順に有するプラスチックレンズから、ハードコート層を選択的に除去した後に機能性層の形成を行うことで、外観不良を起こすことなく機能性層の密着性に優れた高品質な眼鏡レンズを得ることが可能となることを見出した。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0009】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]市販品またはプラスチックレンズストックから、プラスチックレンズ基材表面上にプライマー層とハードコート層とがこの順に積層されたプラスチックレンズを入手し、
入手したプラスチックレンズ最表面にプライマー層を露出させるハードコート層除去工程を行い、
ハードコート層除去工程によりプライマー層が露出したプラスチックレンズ最表面上に機能性層を形成することを特徴とする、眼鏡レンズの製造方法。
[2]前記ハードコート層除去工程を、アルカリ処理により行う[1]に記載の眼鏡レンズの製造方法。
[3]前記ハードコート層は、シロキサン系被覆層である[1]または[2]に記載の眼鏡レンズの製造方法。
[4]前記機能性層としてフォトクロミック層を形成することを含む[1]〜[3]のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法。
[5]前記プラスチックレンズ基材は、ポリカーボネート樹脂製である[1]〜[4]のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機能性層の密着性、外観ともに良好な高品質な眼鏡レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例および比較例で使用した市販のプラスチックレンズのハードコート層におけるシロキサン系化合物の存在の確認結果(TOF−SIMS分析結果)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、
市販品またはプラスチックレンズストックから、プラスチックレンズ基材表面上にプライマー層とハードコート層とがこの順に積層されたプラスチックレンズを入手し、
入手したプラスチックレンズ最表面にプライマー層を露出させるハードコート層除去工程を行い、
ハードコート層除去工程によりプライマー層表面が露出したプラスチックレンズ最表面上に機能性層を形成することを特徴とする、眼鏡レンズの製造方法
に関する。本発明によれば、プライマー層を除去せず維持した状態でハードコート層を選択的に除去した後に機能性層の形成を行うことで、外観不良を起こすことなく、機能性層の密着性に優れた高品質な眼鏡レンズを提供することができる。
以下、本発明の眼鏡レンズの製造方法について、更に詳細に説明する。
【0013】
プラスチックレンズ
本発明において、眼鏡レンズの製造に使用されるプラスチックレンズは、市販品またはプラスチックレンズストックから入手する。プラスチックレンズストックとは、公知の方法で製造したプラスチックレンズであって、眼鏡レンズの製造に使用されるまで保管されていたプラスチックレンズをいう。保管期間は特に限定されるものではなく、例えば1日程度であってもよく、半年、1年またはそれ以上であってもよい。上記プラスチックレンズとしては、目的に応じて所望の光学的特性を有するものを選択すればよい。
【0014】
本発明において市販品またはプラスチックレンズストックから入手されるプラスチックレンズは、プラスチックレンズ基材上に、プライマー層とハードコート層がこの順に積層されたものである。ここで「この順に積層」とは、両層が直接積層されていることをいうものとする。このようにプラスチックレンズ基材上にハードコート層が形成されていることで、市場流通時や保管中にプラスチックレンズ表面が傷付き、これを用いて製造される眼鏡レンズの品質が低下することを防ぐことができる。
【0015】
以下、本発明において使用可能なプラスチックレンズの具体的態様について説明するが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。なお市販品から入手したプラスチックレンズの層構成は、光干渉法(分光エリプソメトリーとも呼ばれる)などの公知の分析方法によって確認することができる。
【0016】
プラスチックレンズ基材を構成するプラスチックは特に限定されるものではなく、例えばメチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、エピチオ基を有する化合物を材料とする重合体、スルフィド結合を有するモノマーの単独重合体、スルフィドと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリスルフィドと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリジスルフィドと一種以上の他のモノマーとの共重合体等などが挙げられる。中でも、ポリカーボネート製のレンズ基材は、高強度であるものの柔らかく表面に傷が付き易いため、ハードコート層付きで市販または保管されることが多いため、ポリカーボネート製のレンズ基材を有するプラスチックレンズから眼鏡レンズを製造する際に、本発明は好適である。
【0017】
プラスチックレンズ基材とハードコート層との間に存在するプライマー層は通常、接着層として機能し得るポリウレタン等の公知の樹脂から形成され、一般に厚さは0.5〜10μm程度である。プライマー層は、プラスチックレンズ基材上に直接形成されていることが通常であるが、他の機能性層を介してプラスチックレンズ基材上に形成されていてもよい。
【0018】
プライマー層上に形成されるハードコート層は、通常、耐久性向上の観点から0.5〜10μmの厚さとされるが、特に限定されるものではない。
【0019】
プラスチックレンズ基材上に形成されるハードコート層としては、シロキサン系化合物、即ちシロキサン結合(Si−O−Si)を有する化合物を含むシロキサン系被覆層が広く用いられている。かかるシロキサン系被覆層は、レンズ基材上にコーティング組成物を塗布し必要に応じて硬化処理を施すことにより形成することができる。コーティング組成物としては、耐久性向上の観点からは、シロキサン系化合物とともに金属酸化物粒子を含むものが好ましい。そのようなコーティング組成物の一例としては、特開昭63−10640号公報に記載されているものを挙げることができる。または、特表2001−520699号公報に記載されている組成物を用いることもできる。
【0020】
また、上記シロキサン系被覆層に含まれる成分としては、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物またはその加水分解物を挙げることもできる。
(R1a(R3bSi(OR24-(a+b) ・・・(I)
【0021】
一般式(I)中、R1は、グリシドキシ基、エポキシ基、ビニル基、メタアクリルオキシ基、アクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、フェニル基等を有する有機基を表し、R2は炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアシル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、R3は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、aおよびbはそれぞれ0または1を示す。
【0022】
2で表される炭素数1〜4のアルキル基は、直鎖または分岐のアルキル基であって、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
2で表される炭素数1〜4のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、オレイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
2で表される炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
3で表される炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖または分岐のアルキル基であって、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
3で表される炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
上記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、特開2007−077327号公報段落[0073]に記載されているものを挙げることができる。一般式(I)で表される有機ケイ素化合物は硬化性基を有するため、塗布後に硬化処理を施すことにより、硬化膜としてハードコート層を形成することができる。
【0023】
前記コーティング組成物に含まれる金属酸化物粒子は、ハードコート層の屈折率の調整および硬度向上に寄与し得る。具体例としては、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化チタニウム(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化アンチモン(Sb25)等の粒子が挙げられ、単独または2種以上の金属酸化物粒子を併用することができる。金属酸化物粒子の粒径は、耐擦傷性と光学特性とを両立する観点から、5〜30nmの範囲であることが好ましい。同様の理由から、シロキサン系被覆層における金属酸化物粒子の含有量は、屈折率および硬度を考慮して適宜設定可能であるが、通常、コーティング組成物の固形分あたり5〜80質量%程度である。また、上記金属酸化物粒子は、被覆層中での分散性の点から、コロイド粒子であることが好ましい。
【0024】
ハードコート層は、具体的には、上記成分および必要に応じて有機溶媒、界面活性剤(レベリング剤)等の任意成分を混合して調製したコーティング組成物をプライマー層表面上に塗布し、硬化性基に応じた硬化処理(熱硬化、光硬化等)を施すことにより形成することができる。塗布手段としては、ディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法等の通常行われる方法を適用することができる。
【0025】
ハードコート層除去工程
本発明では、以上説明したプラスチックレンズに対してハードコート層除去工程を施す。ハードコート層とともにプライマー層までも除去すると、先に説明したように露出した表面の変質や損傷が発生し眼鏡レンズの外観不良の原因となる。これに対しハードコート層を選択的に除去しプライマー層は残留させプラスチックレンズ最表面にプライマー層を露出させれば、上記外観不良の発生を防ぐことが可能となる。更に先に説明したように、ハードコート層に起因する機能性層の密着性低下を回避することができる。
【0026】
上記ハードコート層除去工程は、化学的処理、物理的処理等の、入手したプラスチックレンズからハードコート層を選択的に除去することができる方法により行うことができる。工程の簡便性の観点からは、酸、アルカリ、各種有機溶媒等による化学的処理が好ましく、中でも、水酸化ナトリウム水溶液等を使用するアルカリ処理が好適である。処理条件は、ハードコート層の膜厚等を考慮し決定することが好ましく、必要に応じて予備実験を行い最適化することも好ましい。
【0027】
先に説明したように、ハードコート層が密着性低下の原因となるため、ハードコート層を一部でも除去することで密着性低下を抑制することが可能となる。したがって、本工程においてハードコート層をプラスチックレンズ上から完全に除去することは必須ではなく、本工程後のプラスチックレンズ最表面にハードコート層が一部残留していてもよい。ただし機能性層の密着性をより一層向上する観点からは、ハードコート層が完全に除去されプラスチックレンズ最表面全域にわたりプライマー層が露出していることが好ましい。なお本工程では、プライマー層の下層に位置する表面がプラスチックレンズ最表面に露出しない範囲であれば、ハードコート層とともにプライマー層表層部の一部が除去されることも許容されるものとする。
【0028】
機能性層の形成
上記ハードコート層除去工程後、プライマー層が露出したプラスチックレンズ最表面上に、必要に応じて洗浄処理や乾燥処理を施した後に機能性層を形成する。ハードコート層除去工程後のプラスチックレンズの最表面はプライマー層によって保護されているため、ハードコート層除去工程から機能性層形成までの間にプラスチックレンズ基材表面が傷付くことがない点でも、本発明は有利である。形成する機能性層としては、眼鏡レンズに通常設けられる各種機能性層を挙げることができる。具体的には、フォトクロミック層、偏光層、反射防止層、撥水層等を挙げることができ、これら機能性層の密着性を高めるために機能性層同士の間にプライマー層を形成することもできる。
なお本発明者らの検討によれば、プラスチックレンズのハードコート層上に形成すると密着性低下が生じやすい機能性層はフォトクロミック層であった。フォトクロミック層は通常、紫外線照射による硬化処理を経て形成されるため、硬化処理中にハードコート層においてシロキサン系化合物などの構成成分の低分子量化が起こりやすい。本発明者らは、低分子量化した成分は上層に浸出しやすくなり、浸出した低分子量成分がフォトクロミック層の密着性低下を引き起こしていると推察している。また、フォトクロミック層とハードコート層との間に、両層の密着性を高めるためにプライマー層を形成することが行われる場合があるが、本発明者らにより、ハードコート層上にプライマー層とフォトクロミック層を有する眼鏡レンズでは、プライマー層とフォトクロミック層との密着性が低下する現象が確認された。この現象も、フォトクロミック層の硬化処理によりハードコート層から浸出する成分が引き起こしていると考えられる。
以上の現象は、プライマー層やフォトクロミック層を形成する前にハードコート層を除去することで抑制することができる。したがって本発明は、機能性層としてフォトクロミック層を有する眼鏡レンズの製造方法として好適である。
【0029】
本発明においてフォトクロミック層は、例えば特開2009−285978号公報段落[0040]〜[0095]に記載の組成物を塗布および紫外線照射により硬化することによって形成することができる。フォトクロミック層の厚さは通常、フォトクロミック特性を良好に発現させる観点から、10μm以上であることが好ましく、20〜60μmであることが更に好ましい。フォトクロミック層形成用の組成物の塗布は、スピンコート法、ディップ法等の公知の塗布方法により行うことができる。また、紫外線照射条件は、組成物の組成および形成するフォトクロミック層の厚さに応じて決定すればよい。また、プライマー層については、先に説明した通りである。
【0030】
以上説明した本発明の製造方法によれば、外観不良を起こすことなく、機能性層の密着性が良好な高品質な眼鏡レンズを得ることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0032】
1.ハードコート層におけるシロキサン系化合物存在の確認
市販のメニスカス形状のプラスチックレンズ(厚さ約3μmのハードコート付きポリカーボネート基材、屈折率1.59、S0.00、直径70mm)の凸面側に、ハードコート層の上面からUV照射+加熱処理を行った。UV照射条件は、UVランプで波長405nmの紫外線を20J/cm2の強度で少なくとも50秒とし、加熱処理は、100℃のオーブンに投入し、十分に加熱することで行った。その後、ポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエマルジョンをスピンコート法により塗布した。その後、こうして形成したコーティング層の表面についてTOF−SIMS分析を行った。TOF−SIMS分析により得られた分子量分布および帰属を、図1に示す。
上記のコーティング層成分にはシロキサン系化合物が含まれないため、図1に示すようにUV照射+加熱処理後に形成したコーティング層にシロキサン系化合物が存在することは、ハードコート層にシロキサン系化合物が存在し、これがUV照射+加熱処理によりハードコート層から染み出して、コーティング層を透過してその表面に浸出したことを示す結果である。UV照射により低分子量化した成分が加熱処理によりハードコート層表面に染み出したため、コーティング層表面においてシロキサン系化合物が検出されたと推察される。
【0033】
2.プラスチックレンズの層構成の確認
上記1.と同様の市販のプラスチックレンズを、光干渉法による膜厚測定に付したところ、最表層のハードコート層の膜厚は2.0μmであり、その下層に膜厚0.5μmのプライマー層が存在することが確認された。
【0034】
3.フォトクロミックレンズ作製の実施例・比較例
(1)アルカリ処理
上記1.と同様の市販のプラスチックレンズを5枚用意し、それぞれ5質量%水酸化ナトリウム水溶液(液温60℃)に表1に示す時間浸漬した。
【0035】
【表1】

【0036】
上記アルカリ処理後のプラスチックレンズ1を目視観察したところ、最表面の50%程度の領域にハードコート層が残留していることが確認された。
上記アルカリ処理後のプラスチックレンズ2、3について、それぞれ光干渉法による膜厚測定に付したところ、測定結果から、プラスチックレンズ2、3ではハードコート層は完全に除去されプラスチックレンズ最表面の全域にわたりプライマー層が露出していることが確認された。
また、上記アルカリ処理後のプラスチックレンズ5については、目視によりハードコート層およびプライマー層が完全に除去されレンズ基材表面が露出していることを確認した。
【0037】
(2)フォトクロミック層の形成
表1に示した各プラスチックレンズの最表面上にフォトクロミック色素を含む硬化性組成物をスピンコート法でコーティングした。その後、このレンズを窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)にて、UVランプで波長405nmの紫外線照射し、さらに、100℃で硬化処理を行い、厚さ40μmのフォトクロミック層を形成した。
【0038】
以上の工程により、実施例1〜3、比較例1、2の眼鏡レンズ(フォトクロミックレンズ)を得た。
【0039】
(3)密着性の評価
実施例および比較例の眼鏡レンズのフォトクロミック層表面を1.5mm間隔で100目クロスカットし、このクロスカットしたところに粘着テープ(セロファンテープ ニチバン株式会社製)を強く貼り付けた後、粘着テープを急速に剥がした後100目中剥離せず残留していたマス目数を調べた。
【0040】
(4)外観観察
実施例および比較例のフォトクロミック層を形成した眼鏡レンズを、暗室内蛍光灯下にて目視判定を行った。くもりやゆず肌等、外観上の不良の無いものを良好(○)、外観不良が確認されたものを不良(×)と判定した。
【0041】
以上の結果を、表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2に示すように、実施例1〜3の眼鏡レンズは、フォトクロミック層の密着性、外観ともに良好であった。特にハードコート層が完全に除去されたプラスチックレンズ上にフォトクロミック層を形成した実施例2、3の眼鏡レンズでは、フォトクロミック層の剥がれはなく、密着性はきわめて良好であった。
これに対し、比較例1において使用したプラスチックレンズ4は、アルカリ処理を行っていないためハードコート層が最表面に存在するものであった。したがって比較例1の眼鏡レンズでは、ハードコート層上にフォトクロミック層が形成されている。表2に示すように、比較例1の眼鏡レンズは、外観は良好であったが、実施例1〜3の眼鏡レンズと比べて密着性が著しく低いものであった。実施例1〜3との密着性の評価結果の対比から、ハードコート層が密着性低下の原因であり、実施例1〜3ではプラスチックレンズからハードコート層を除去したことにより、フォトクロミック層の密着性の向上が可能となったことが確認できる。
一方、比較例2の眼鏡レンズは、密着性の評価結果は良好であったが、外観不良が確認された。この結果から、ハードコート層とともにプライマー層も除去すると外観不良が発生することが確認できる。
以上の結果から、本発明によれば、外観不良を起こすことなく、機能性層の密着性に優れた高品質な眼鏡レンズが提供されることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、フォトクロミックレンズ等の各種眼鏡レンズの製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
市販品またはプラスチックレンズストックから、プラスチックレンズ基材表面上にプライマー層とハードコート層とがこの順に積層されたプラスチックレンズを入手し、
入手したプラスチックレンズ最表面にプライマー層を露出させるハードコート層除去工程を行い、
ハードコート層除去工程によりプライマー層が露出したプラスチックレンズ最表面上に機能性層を形成することを特徴とする、眼鏡レンズの製造方法。
【請求項2】
前記ハードコート層除去工程を、アルカリ処理により行う請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項3】
前記ハードコート層は、シロキサン系被覆層である請求項1または2に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項4】
前記機能性層としてフォトクロミック層を形成することを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項5】
前記プラスチックレンズ基材は、ポリカーボネート樹脂製である請求項1〜4のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−173480(P2012−173480A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34789(P2011−34789)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】