眼鏡レンズの設計方法、眼鏡レンズの製造方法、及び眼鏡レンズの設計システム
【課題】透過度数分布の光学的な連続性を担保しつつ所望の処方度数及び収差特性を広い視野領域に亘って満足するのに好適な眼鏡レンズの設計方法を提供すること。
【解決手段】処方に基づいて目標透過度数分布を設定し、暫定透過度数分布を持つ眼鏡レンズを仮設計して残存誤差分布を算出し、補正対象面に制御線を設定し、各制御線上の各制御点における光学的な補正量を計算し、隣接して並ぶ制御線上の制御点同士を接続した閉曲線を定義し、各閉曲線上にて、補正量計算後の各制御点に基づいて第一の近似曲線を定義し、各制御点が第一の近似曲線上に位置するように各制御点の補正量を調節し、各制御線上にて、補正量調節後の各制御点に基づいて第二の近似曲線を定義し、各第二の近似曲線が表す光学的な補正量を非球面付加量に変換して補正対象面の各制御線上に付加したうえで、各制御線間の補正対象面の形状を所定の補間法を用いて補間する方法を提供する。
【解決手段】処方に基づいて目標透過度数分布を設定し、暫定透過度数分布を持つ眼鏡レンズを仮設計して残存誤差分布を算出し、補正対象面に制御線を設定し、各制御線上の各制御点における光学的な補正量を計算し、隣接して並ぶ制御線上の制御点同士を接続した閉曲線を定義し、各閉曲線上にて、補正量計算後の各制御点に基づいて第一の近似曲線を定義し、各制御点が第一の近似曲線上に位置するように各制御点の補正量を調節し、各制御線上にて、補正量調節後の各制御点に基づいて第二の近似曲線を定義し、各第二の近似曲線が表す光学的な補正量を非球面付加量に変換して補正対象面の各制御線上に付加したうえで、各制御線間の補正対象面の形状を所定の補間法を用いて補間する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの設計方法、製造方法、及び設計システムに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズの設計においては、例えば特許文献1に記載されているように、眼鏡レンズの外面単独又は内面単独の非点収差やパワーエラー等の分布(表面分布)よりも、外面と内面の両面を透過して装用者の眼に実際に到達する透過光の分布(透過度数分布)が重要視されている。なお、パワーエラーは、像面湾曲や平均度数誤差とも言い換えることができる。
【0003】
図1は、透過度数分布を考慮した累進屈折力レンズの設計例を説明するための図である。図1に示されるように、本設計例では、最初に、目標分布が設定される(図1中a参照)。目標分布は、処方度数が完全に満足されると共に非点収差等が完全に補正された理想的な透過度数分布であり、装用予定者の処方情報に基づいて設定される。次に、外面の表面分布と内面の表面分布の合成が目標分布と同一の分布になるように、外面の表面分布と内面の表面分布が仮設定される(図1中b参照)。次いで、仮設定された外面と、内面を透過した場合の暫定的な透過度数分布(暫定分布)が計算される(図1中c参照)。目標分布と暫定分布には差がある。以下、この差を「残存誤差分布」と記す。
【0004】
非点収差、パワーエラー等の複数の因子を同時に完全に補正するためには、例えば暫定分布を持つ眼鏡レンズの一面に残存誤差分布に相当する補正量を単純に付加する補正を行えばよいと思われる。しかし、この種の複数の因子を同時に完全に補正する形状は、数学的に解が存在しない。そのため、暫定分布を持つ面形状に対して残存誤差分布に相当する補正量を無理に付加すると、その結果得られる透過度数分布は、図2(図2(a):非点収差分布、図2(b):パワーエラー分布)に示されるように、光学的に乱れが大きいものになってしまう。別の表現によれば、かかる透過度数分布は、光学的に連続性の無いものになってしまう。
【0005】
そこで、実際には、処方度数や収差特性を満足しつつ透過度数分布の光学的な連続性も担保されるように、暫定分布を目標分布に近似させるための最適化計算が行われ、外面又は内面の形状が最適化設計される(図1中d参照)。
【0006】
また、特許文献2には、眼鏡レンズの中心から放射状に延びる複数の基準線を設定し、各基準線に沿う屈折力に対して非球面付加量を決定したうえで、各基準線間の屈折力に対してスプライン補間等による補間をかけて、各基準線間の非球面付加量を決定するという、累進屈折力レンズの設計方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3196880号公報
【特許文献2】特許第4192899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、例えば特許文献2に記載の眼鏡レンズの設計方法を用いて片面累進屈折力レンズを設計する場合、基準線間の補間を行うことによって面の形状的な連続性は保証されるが、光学的な連続性は必ずしも保証されない。また、特許文献2においては、眼鏡レンズの凸面と凹面に累進屈折作用を分割する両面累進屈折力レンズも設計可能とされているが、表面形状が複雑な両面累進屈折力レンズでは、尚のこと、光学的な連続性の保証は難しい。また、特許文献1や特許文献2をはじめとする既存の眼鏡レンズ設計では、処方度数及び収差特性について、局所的な視野領域では所望の値を達成することができても、広い視野領域に亘って所望の値を達成することは難しい。例えば累進屈折力レンズを設計する場合、遠用部、中間部、近用部については収差制御できても、側方部については実質的に収差制御できなかった。
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、透過度数分布の光学的な連続性を担保しつつ所望の処方度数及び収差特性を広い視野領域に亘って満足するのに好適な眼鏡レンズの設計方法、製造方法、及び設計システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決する本発明の一形態に係る眼鏡レンズの設計方法は、所定の処方情報に基づいて眼鏡レンズの目標透過度数分布を設定する目標設定工程と、目標透過度数分布に基づいて眼鏡レンズを仮設計する仮設計工程と、仮設計された眼鏡レンズにおける暫定的な暫定透過度数分布を計算する暫定分布計算工程と、目標透過度数分布と暫定透過度数分布との差分を残存誤差分布として算出する残存誤差分布算出工程と、仮設計された眼鏡レンズの補正対象面の幾何学中心又は該中心近傍の基準点から周縁に延び、該補正対象面の周方向に並ぶ複数の制御線を設定する制御線設定工程と、残存誤差分布に基づいて、各制御線上の複数の所定位置に配置された各制御点における光学的な補正量を計算する補正量計算工程と、隣接して並ぶ制御線上の制御点同士を接続した閉曲線を少なくとも1本定義する閉曲線定義工程と、各閉曲線上にて、補正量計算後の各制御点に基づいて第一の近似曲線を定義する第一の近似曲線定義工程と、各制御点が、対応する第一の近似曲線上に位置するように該各制御点の補正量を調節する補正量調節工程と、各制御線上にて、補正量調節後の各制御点に基づいて第二の近似曲線を定義する第二の近似曲線定義工程と、各第二の近似曲線が表す光学的な補正量を非球面付加量に変換して補正対象面の各制御線上に付加したうえで、該各制御線間の該補正対象面の形状を所定の補間法を用いて補間する形状補間工程とを含む方法である。
【0011】
ここで、閉曲線設定工程において、複数の閉曲線を定義する場合、各閉曲線が交差しないように、隣接して並ぶ制御線上の制御点同士を接続してもよい。また、閉曲線は、互いに相似形であってもよく、又は異なる形であってもよい。また、閉曲線は、例えば基準点を中心とした単純な円形状であってもよく、又はより複雑な形であってもよい。例えば、閉曲線は、玉型形状に合わせた形としてもよい。また、複数の閉曲線の各々の配置間隔は、等間隔であってもよく、又は異なる間隔であってもよい。例えば、透過度数分布についてより一層高い連続性を担保したい領域ほど、閉曲線を密な間隔で配置するとよい。
【0012】
第一又は第二の近似曲線は、例えば所定の関数に基づいて定義された平滑化曲線である。
【0013】
制御線は、直線でもよく又は曲線でもよい。眼鏡レンズが累進屈折力レンズである場合は、例えば複数の制御線のうち1本を主子午線上を沿う線としてもよい。
【0014】
また、各制御線の周方向の配置角度のピッチは、例えば等角度ピッチであるが、これに限らない。例えば収差補正等を重視したい領域では、制御線を密に配置し、収差補正等を重視しない領域では、制御線を疎に配置してもよい。
【0015】
本発明に係る眼鏡レンズの設計方法は、仮設計後の眼鏡レンズを所定の眼球モデルを含む仮想空間に眼鏡レンズと眼球モデルとの相対的な位置関係(距離、傾きなど)を考慮して配置するモデル構築工程と、仮想空間に配置された眼鏡レンズの後方頂点と、眼球モデルの回転中心点との距離に基づいて所定の参照球面を定義する参照球面定義工程とを含む方法としてもよい。この場合、暫定分布計算工程では、参照球面上での眼鏡レンズの透過度数分布が暫定透過度数分布として計算される。
【0016】
仮設計工程では、眼鏡レンズの一面を所定の処方情報に基づいて所定の面形状に仮設定し、眼鏡レンズの他面を目標透過度数分布に対応する面形状に仮設定してもよい。
【0017】
眼鏡レンズは、例えば、物体側表面である第一の屈折表面と、眼球側表面である第二の屈折表面とに分割配分されている累進屈折力作用を備えた両面非球面型累進屈折力レンズである。他には、片面累進屈折力レンズや多焦点レンズなど、種々の態様の眼鏡レンズが想定される。
【0018】
また、上記の課題を解決する本発明の一形態に係る眼鏡レンズの製造方法は、上記の眼鏡レンズの設計方法を用いて設計された眼鏡レンズを製造する眼鏡レンズ製造工程を含む方法である。
【0019】
また、上記の課題を解決する本発明の一形態に係る眼鏡レンズの設計システムは、所定の処方情報を発注データとして送信する発注側端末と、発注データを受信して処方に適した眼鏡レンズを設計する設計側端末とを有したシステムである。かかる設計側端末は、所定の処方情報に基づいて眼鏡レンズの目標透過度数分布を設定する目標設定手段と、目標透過度数分布に基づいて眼鏡レンズを仮設計する仮設計手段と、仮設計された眼鏡レンズにおける暫定的な暫定透過度数分布を計算する暫定分布計算手段と、目標透過度数分布と暫定透過度数分布との差分を残存誤差分布として算出する残存誤差分布算出手段と、仮設計された眼鏡レンズの補正対象面の幾何学中心又は該中心近傍の基準点から周縁に延び、該補正対象面の周方向に並ぶ複数の制御線を設定する制御線設定手段と、残存誤差分布に基づいて、各制御線上の複数の所定位置に配置された各制御点における光学的な補正量を計算する補正量計算手段と、隣接して並ぶ制御線上の制御点同士を接続した閉曲線を少なくとも1本定義する閉曲線定義手段と、各閉曲線上にて、補正量計算後の各制御点に基づいて第一の近似曲線を定義する第一の近似曲線定義手段と、各制御点が、対応する第一の近似曲線上に位置するように該各制御点の補正量を調節する補正量調節手段と、各制御線上にて、補正量調節後の各制御点に基づいて第二の近似曲線を定義する第二の近似曲線定義手段と、各第二の近似曲線が示す光学的な補正量を非球面付加量に変換して補正対象面の各制御線上に付加したうえで、該各制御線間の該補正対象面の形状を所定の補間法を用いて補間する形状補間手段とを有することを特徴としたシステムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、透過度数分布の光学的な連続性を担保しつつ所望の処方度数及び収差特性を広い視野領域に亘って満足するのに好適な眼鏡レンズの設計方法、製造方法、及び設計システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】透過度数分布を考慮した累進屈折力レンズの設計例を説明するための図である。
【図2】暫定分布を持つ面形状に対して残存誤差分布に相当する補正量を単純に付加した場合の累進屈折力レンズの透過度数分布の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法を実現するための眼鏡レンズ製造システムの構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係る眼鏡レンズ設計用コンピュータによる眼鏡レンズの設計工程のフローチャートを示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る眼鏡レンズ設計用コンピュータによって構築される仮想モデル例を示す図である。
【図6】目標透過度数分布DT、透過度数分布DR、及び残存誤差分布DEを示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る眼鏡レンズの設計における制御線及び制御点を説明するための図である。
【図8】本発明の実施形態に係る眼鏡レンズの設計における閉曲線を説明するための図である。
【図9】各制御点における光学的な補正量の調節を説明するための図である。
【図10】比較例1と本発明の実施例1の各眼鏡レンズの非点収差を比較検討するための図である。
【図11】比較例1と本発明の実施例1の各眼鏡レンズのパワーエラーを比較検討するための図である。
【図12】角度αと角度βを説明するための図である。
【図13】比較例2と本発明の実施例2の各眼鏡レンズの非点収差を比較検討するための図である。
【図14】比較例2と本発明の実施例2の各眼鏡レンズのパワーエラーを比較検討するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る眼鏡レンズ設計方法を用いて眼鏡レンズを設計し製造する眼鏡レンズ製造システムについて説明する。
【0023】
<眼鏡レンズ製造システム1>
図3は、本実施形態の眼鏡レンズの製造方法を実現するための眼鏡レンズ製造システム1の構成を示すブロック図である。図3に示されるように、眼鏡レンズ製造システム1は、顧客(装用予定者)に対する処方に応じた眼鏡レンズを発注する眼鏡店10と、眼鏡店10からの発注を受けて眼鏡レンズを製造する眼鏡レンズ製造工場20を有している。眼鏡レンズ製造工場20への発注は、インターネット等の所定のネットワークやFAX等によるデータ送信を通じて行われる。発注者には眼科医や一般消費者を含めてもよい。
【0024】
<眼鏡店10>
眼鏡店10には、店頭コンピュータ100が設置されている。店頭コンピュータ100は、例えば一般的なPC(Personal Computer)であり、眼鏡レンズ製造工場20への眼鏡レンズの発注を行うためのソフトウェアがインストールされている。店頭コンピュータ100には、眼鏡店スタッフによるマウスやキーボード等の操作を通じてレンズデータ及びフレームデータが入力される。レンズデータには、例えば処方値(球面屈折力、乱視屈折力、乱視軸方向、プリズム屈折力、プリズム基底方向、加入度数、遠用PD(Pupillary Distance)、近用PD等)、眼鏡レンズの装用条件(角膜頂点間距離、前傾角、フレームあおり角)、眼鏡レンズの種類(単焦点球面、単焦点非球面、多焦点(二重焦点、累進)、コーティング(染色加工、ハードコート、反射防止膜、紫外線カット等))、顧客の要望に応じたレイアウトデータ等が含まれる。フレームデータには、顧客が選択したフレームの形状データが含まれる。フレームデータは、例えばバーコードタグで管理されており、バーコードリーダによるフレームに貼り付けられたバーコードタグの読み取りを通じて入手することができる。店頭コンピュータ100は、発注データ(レンズデータ及びフレームデータ)を例えばインターネット経由で眼鏡レンズ製造工場20に送信する。
【0025】
<眼鏡レンズ製造工場20>
眼鏡レンズ製造工場20には、ホストコンピュータ200を中心としたLAN(Local Area Network)が構築されており、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202や眼鏡レンズ加工用コンピュータ204をはじめ多数の端末装置が接続されている。眼鏡レンズ設計用コンピュータ202、眼鏡レンズ加工用コンピュータ204は一般的なPCであり、それぞれ、眼鏡レンズ設計用のプログラム、眼鏡レンズ加工用のプログラムがインストールされている。ホストコンピュータ200には、店頭コンピュータ100からインターネット経由で送信された発注データが入力する。ホストコンピュータ200は、入力した発注データを眼鏡レンズ設計用コンピュータ202に送信する。
【0026】
眼鏡レンズ製造工場20では、生産性を向上させるため、全製作範囲の度数を複数のグループに区分し、各グループの度数範囲に適合した外面(凸面)カーブ形状(球面形状又は非球面形状)とレンズ径を有するセミフィニッシュトブランクを眼鏡レンズの注文に備えて予め用意している。そのため、眼鏡レンズ製造工場20では、内面(凹面)加工(及び玉型加工)を行うだけで、装用予定者の処方に適した眼鏡レンズが製造される。
【0027】
なお、眼鏡レンズを設計・製造するにあたり、セミフィニッシュトブランクの利用は必須ではない。眼鏡レンズ製造工場20では、発注データを受けた後、未加工のブロックピースに対し、装用予定者の処方が満たされるように、外面と内面の両面の設計及び加工を行ってもよい。
【0028】
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、受注に応じた眼鏡レンズを設計するためのプログラムがインストールされており、セミフィニッシュトブランク群の中から、発注データ(レンズデータ)に含まれる処方値に適したセミフィニッシュトブランクを一つ選択する。眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、選択したセミフィニッシュトブランク及び発注データ(レンズデータ)に基づいてレンズ設計データを作成し、発注データ(フレームデータ)に基づいて玉型加工データを作成する。眼鏡レンズ設計用コンピュータ202による眼鏡レンズの設計は、後に詳細に説明する。眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、作成したレンズ設計データ及び玉型加工データを眼鏡レンズ加工用コンピュータ204に転送する。
【0029】
オペレータは、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202により選択されたセミフィニッシュトブランクをカーブジェネレータ等の加工機206にセットして、眼鏡レンズ加工用コンピュータ204に対して加工開始の指示入力を行う。眼鏡レンズ加工用コンピュータ204は、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202から転送されたレンズ設計データ及び玉型加工データを読み込み、加工機206を駆動制御する。加工機206は、セミフィニッシュトブランクの内面を(場合によっては外面も)レンズ設計データに従って研削・研磨して、眼鏡レンズの内面(及び外面)形状を創成する。また、加工機206は、内面(及び外面)形状創成後のアンカットレンズの外周面を玉型形状に対応した周縁形状に加工する。
【0030】
玉型加工後の眼鏡レンズには、発注データに従い、染色加工、ハードコート加工、反射防止膜、紫外線カット等の各種コーティングが施される。これにより、眼鏡レンズが完成して眼鏡店10に納品される。
【0031】
<眼鏡レンズ設計用コンピュータ202による眼鏡レンズの具体的設計方法>
図4は、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202による眼鏡レンズの設計工程を示すフローチャートである。以下、かかる設計工程について具体的に説明する。なお、以下においては、外面加工済みのセミフィニッシュトブランクをベースに、累進屈折要素を外面と内面に分割した両面非球面型累進屈折力レンズを設計する設計例を説明する。しかしながら、本発明は、別の種類の眼鏡レンズを設計する場合にも適用可能である。また、本実施形態では、眼鏡レンズの代表的な光学収差である非点収差とパワーエラーを補正することについて言及するが、本発明は、別の光学収差の補正をする場合にも適用可能である。
【0032】
<図4のS1(セミフィニッシュトブランクの選択)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、セミフィニッシュトブランク群の中から、発注データ(レンズデータ)に含まれる処方値に適したセミフィニッシュトブランクを一つ選択する。
【0033】
<図4のS2(仮想モデルの構築)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、装用予定者が眼鏡レンズを装用した状態を想定した、眼球及び眼鏡レンズからなる所定の仮想モデルを構築する。図5は、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202によって構築される仮想モデル例を示す。
【0034】
眼球の眼軸長は、遠視、近視で異なる。そこで、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、遠視、近視の度合いで眼軸長がどれだけ異なるかを予め記憶している。その中から、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、発注データに含まれる装用予定者の処方値(球面屈折力、乱視屈折力)に従って適切な眼球モデルEを選択し、図5に示されるように、選択した眼球モデルEを仮想モデル空間に配置する。
【0035】
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、眼鏡レンズモデルLを創成する。具体的には、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、発注データ(レンズデータ)に基づいて目標透過度数分布(説明の便宜上、符号「DT」を付す。)を計算し、図4のS1の工程で選択されたセミフィニッシュトブランクに対し、外面の表面分布と内面の表面分布の合成が目標透過度数分布DTと同一の分布になるように、外面と内面の表面分布を仮設定する。これにより、外面形状と内面形状との合成で目標透過度数分布DTを達成する形状に修正され、眼鏡レンズモデルLが完成する。なお、眼鏡レンズモデルLの中心肉厚CTは、処方値やセミフィニッシュトブランクの屈折率等に基づいて決定される。また、本実施形態では、処方値に基づいて仮設計された外面非球面形状を基準に、内面非球面形状を図4に示す設計工程に従って設計する。内面非球面形状の設計後、必要に応じて各面の累進屈折力作用成分を微調節して、面形状を確定する。なお、このような両面非球面型累進屈折力レンズの設計手順は一例であり、本発明を適用した両面非球面型累進屈折力レンズの設計手順はこれに限定されない。
【0036】
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、眼球モデルEに対して所定の角膜頂点間距離CVDを空けた位置に、眼鏡レンズの傾きTLT(前傾角、フレームあおり角)を考慮して眼鏡レンズモデルLを配置する。ここで、角膜頂点間距離CVDは、眼鏡レンズモデルLの後方頂点PAと眼球モデルEの角膜頂点PBとの距離である。
【0037】
<図4のS3(仮想モデルの透過度数分布の評価)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、眼鏡レンズモデルLの透過度数分布の評価を行う。具体的には、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、累進屈折力レンズのような焦点が複数存在する眼鏡レンズの全方向の光線(透過度数分布)を等価に評価するための評価面として、参照球面SRを定義する。参照球面SRは、眼球モデルEの眼球回転中心EOを中心とし、眼球回転中心EOから後方頂点PAまでの距離Srを半径とした球面である。
【0038】
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、仮設計された眼鏡レンズの外面の各点に入射して内面を射出した各光線の、参照球面SR上での分布を、周知の光線追跡により計算する。眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、参照球面SR上での分布を眼鏡レンズモデルLの透過度数分布(説明の便宜上、「透過度数分布DR」と記す。)として評価する。
【0039】
<図4のS4(残存誤差分布の計算)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、目標透過度数分布DTと透過度数分布DRとの差の分布(説明の便宜上、「残存誤差分布DE」と記す。)を計算する。図6に、目標透過度数分布DT、透過度数分布DR、及び残存誤差分布DEを示す。図6(a)は、透過度数分布DRの非点収差分布とパワーエラー分布を示し、図6(b)は、目標透過度数分布DTの非点収差分布とパワーエラー分布を示し、図6(c)は、残存誤差分布DEの非点収差分布とパワーエラー分布を示す。
【0040】
図6(c)に示されるように、残存誤差分布DEは、一見すると滑らかな分布を有しているが、実際にはこの残存誤差を完全に補正する光学面は存在しない。そのため、例えば目標透過度数分布DTに近づけるために、内面形状対して残存誤差分布DEに相当する補正量を付加した場合の透過度数分布DRは、図2に示されるように、光学的に連続性が無く、眼鏡レンズとして破綻した光学特性となってしまう。そこで、本実施形態では、以下の更なる設計工程を経て、透過度数分布の光学的な連続性を担保しつつ処方度数及び収差特性を広い視野領域に亘って満足する眼鏡レンズを設計する。図7〜図9に、以下の更なる設計工程を説明するための図を示す。
【0041】
<図4のS5(制御線の設定)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、眼鏡レンズモデルLの外面の幾何学中心又は幾何学中心近傍の特定点(例えば隠しマークの中心)を基準点に設定する。眼鏡レンズモデルLの内面の基準点は、外面の基準点に対応する点として設定する。眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、設定された基準点から眼鏡レンズモデルLの内面の周縁に延びる複数の制御線Ai(i=1〜n)を設定する。各制御線Aiは、所定のピッチ角で眼鏡レンズモデルLの内面の全周に亘って並べられ、それぞれの位置に対応する残存誤差が与えられる(図7(a)参照)。
【0042】
なお、制御線Aiの周方向の配置角度のピッチは、等角度ピッチに限らない。例えば、非点収差とパワーエラーの補正を重視したい領域(遠用部や近用部等)では、制御線を密に配置し、非点収差とパワーエラーの補正を重視しない領域(例えば側方部等)では、制御線を疎に配置してもよい。また、制御線Aiは、直線に限らない。例えば図7(a)中、基準点から上方向又は下方向に延びる各制御線を、遠方視から近方視した際の輻輳を考慮した主子午線上を沿う線に設定してもよい。
【0043】
<図4のS6(各制御点における補正量の計算)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、残存誤差分布DEに基づいて、制御線Ai上の所定位置に配置された各サンプル点における、眼鏡レンズモデルLの内面の分布(目標透過度数分布DT)に対応する光学的な補正量を計算し、図7(b)〜(d)に示されるように、各サンプル点を所定の座標系(縦軸:光学的な補正量P(単位:D)、横軸:基準点からの距離R(単位:mm))に配置する。眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、各制御線Aiについて、各サンプル点を用いて最小二乗法を解き、所定の曲線近似関数(例えばBスプライン曲線やベジェ曲線等)を定義する複数の制御点(Pij、Rij)を設定する。
【0044】
図7(b)〜図7(d)の例では、図7(a)中、A1〜A3の各方向に延びる制御線に対応するサンプル点及び制御点を示している。本実施形態では、所定の曲線近似関数を定義する各制御点は、所定の距離Rに配置される。例えば図7(b)〜図7(d)の各制御線においては、制御線間で等しい距離Rに各制御点が配置される。説明を加えると、制御線Ai間で座標値の付帯文字jの数値が同一の制御点は、距離Rが等しい。例えば制御点(P13、R13)、制御点(P23、R23)、制御点(P33、R33))は、距離Rが等しい。このように、本実施形態では、残存誤差分布DEに基づいて、各制御線Ai上の複数の所定位置に配置される各制御点における補正量Pを計算している。
【0045】
<図4のS7(閉曲線の定義)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、隣接して並ぶ制御線上に配置された、付帯文字jの数値が同一の制御点同士を、眼鏡レンズモデルLの内面の周方向(例えば反時計回り方向)に沿って順次接続することにより、互いに交差しない複数の閉曲線Rj(j=1〜m)を定義する。図8(a)中、符号R2〜R4はそれぞれ、付帯文字jの数値が「2」〜「4」の制御点同士を接続した閉曲線を示す。各閉曲線Rjは、例えば各接続点においてk次の連続性(s−1(k=1、2、・・・s)階微分までの連続性)があるという束縛条件のもとで、各制御点に基づいて周期スプラインにより平滑化される。なお、閉曲線Rjは複数に限らず、最低限1本定義されればよい。
【0046】
各閉曲線Rjは、基準点からの距離Rが等しい制御点同士を接続したものであるため、基準点を中心とした略同心円となっている。但し、閉曲線Rjの形状は、互いに相似である必要はなく、円である必要もない。また、各閉曲線Rjの配置間隔は、等間隔に限らない。各閉曲線Rjは、残存誤差分布DEに基づいて、非点収差とパワーエラーの補正、及び光学的な連続性の担保を考慮した最適な形に定義され、又、最適な配置間隔で配置されてもよい。また、各閉曲線Rjは、例えば玉型形状に合わせた形としてもよい。
【0047】
図8(b)〜図8(d)は、各制御点に基づいて周期スプラインにより平滑化された閉曲線R2〜R4を示す。図8(b)〜図8(d)中、縦軸は、光学的な補正量P(単位:D)を示し、横軸は、制御点が位置する角度(より正確には、制御点に対応する制御線と制御線A1との角度、単位:°)を示す。
【0048】
<図4のS8(制御点の調節)>
図9(a)は、平滑化された閉曲線R2を示す、図8(b)と同一の図である。図9(a)に示されるように、各制御点は、閉曲線R2から外れて位置する。そこで、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、図9(b)に示されるように、各制御点が閉曲線R2上に乗るように、各制御点の補正量Pを調節する。眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、全ての閉曲線Rjについて、同様に、各制御点の補正量Pの調節を行う。
【0049】
<図4のS9(制御線上における曲線近似)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、各制御線Ai上にて、各閉曲線Rj上に位置調節された制御点に基づく曲線近似(例えばBスプラインによる平滑化)を行う。
【0050】
<図4のS10(制御線上の形状の補正)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、図4のS9までの工程で計算した光学的な補正量Pを幾何学量(非球面量)に変換する。具体的には、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、各制御線Aiの近似曲線が示す光学的な補正量Pを眼鏡レンズモデルLの内面の分布(目標透過度数分布DT)に付加したうえで、次式に示される曲率K(r)に変換する。
【数1】
K1(r)は、眼鏡レンズモデルLの内面の分布(外面との合成で目標透過度数分布DTを実現でするように与えられた分布)に対応する曲率を示し、K2(r)は、制御線Aiの近似曲線が示す光学的な補正量Pに対応する曲率を示す。
【0051】
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、次式に示されるように、曲率K(r)を傾きT(r)に変換する。中心(r=0)での傾きはゼロとする。
【数2】
【0052】
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、次式に示されるように、傾きT(r)を高さZ(r)に変換する。ここで、基準点における高さはゼロとする。なお、高さZ(r)は、凹面である内面の基準点を通る光軸OXからの距離がrとなる非球面上の座標点の、該非球面の内面頂点での接平面TP2からの距離(サグ量)である。
【数3】
【0053】
すなわち、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、各制御線Aiの近似曲線が示す光学的な補正量Pを非球面付加量に変換して、眼鏡レンズモデルLの内面の分布(外面との合成で目標透過度数分布DTを実現するように与えられた分布)に対応する面形状の各制御線Ai上に付加する。これにより、各制御線Ai上の非球面形状が確定する。
【0054】
<図4のS11(制御線間の形状の補間)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、各制御線Ai上の非球面形状の確定後、各制御線間の内面形状を周知の補間法(例えばスプライン補間等)を用いて補間する。これにより、眼鏡レンズモデルLの内面形状が確定し、眼鏡レンズの形状設計が完了する。
【0055】
眼鏡レンズモデルLの確定形状データ(レンズ設計データ)は、眼鏡レンズ加工用コンピュータ204に転送される。眼鏡レンズ加工用コンピュータ204は、上述したように、レンズ設計データに従って加工機206を駆動制御して、セミフィニッシュトブランクの外面及び内面の各面の加工を行い、両面非球面型累進屈折力レンズを製作する。
【0056】
本実施形態に係る眼鏡レンズの設計方法では、図4のS8の工程において、眼鏡レンズモデルLの内面の周方向に並ぶ各制御点(光学的な補正量P)を、周方向に滑らかに分布する閉曲線Rj上に調節したうえで、各制御線上の平滑化(及び各制御線間の補間)を行っている。その結果、残存誤差分布DEに応じた補正量Pが、内面全域という広い視野領域に亘って滑らかに分布することになる。そのため、非点収差とパワーエラーを補正しつつも補正対象面(眼鏡レンズモデルLの内面)の光学的な連続性が担保された眼鏡レンズが得られる。
【0057】
次に、これまで説明した設計方法を用いて設計された眼鏡レンズの透過度数分布を、比較例との対比を交えて2例説明する。
【実施例1】
【0058】
実施例1の眼鏡レンズは、本発明に係る設計方法を用いて設計されている。実施例1の眼鏡レンズについては、既存の設計方法を用いて設計された比較例1との対比を交えて説明する。なお、既存の設計方法は、例えば各サンプル点に基づいて各制御線を平滑化したうえで、各制御線間を補間するという方法である。実施例1と比較例1の眼鏡レンズの仕様は共通であり、次に示される通りである。
球面度数S :5.00
加入度ADD :2.50
ベースカーブBC :6.25
レンズ中心肉厚CT :5.0
角膜頂点間距離CVD:14.5
前傾角TLT :0
なお、ここでの前傾角は、装用時に傾きが発生した際の眼鏡レンズの外面頂点での接平面TP1と、図5の状態の接平面TP1とがなす角度をいう。
【0059】
図10(a)、図10(b)はそれぞれ、比較例1、実施例1の眼鏡レンズの非点収差分布(透過度数分布)を示す。また、図11(a)、図11(b)はそれぞれ、比較例1、実施例1の眼鏡レンズのパワーエラー分布(透過度数分布)を示す。図10(a)、図10(b)、図11(a)、図11(b)の各図は、角度β(単位:°)を縦軸にとり、角度α(単位:°)を横軸にとる。角度α及びβは、図12に示されるように、正面視線に対する視線方向がなす角度の各成分である。
【0060】
図10(c)は、視線方向がβ=−15°でかつα=15°〜35°であるときの非点収差分布(透過度数分布)を示す図である。図10(c)は、非点収差(単位:D)を縦軸にとり、角度αを横軸にとる。図10(c)中、実線が実施例1の非点収差分布を示し、破線が比較例1の非点収差分布を示す。また、図11(c)は、視線方向がβ=10°でかつα=15°〜35°であるときのパワーエラー分布(透過度数分布)を示す図である。図11(c)は、パワーエラー(単位:D)を縦軸にとり、角度αを横軸にとる。図11(c)中、実線が実施例1のパワーエラー分布を示し、破線が比較例1のパワーエラー分布を示す。なお、実施例1の各図面についての説明は、実施例2で提示される各図面においても適用する。
【0061】
実施例1の眼鏡レンズは、図10(a)と図10(b)(又は図11(a)と図11(b))との比較から分かるように、比較例1の眼鏡レンズよりも明視域が広い。また、図10(c)及び図11(c)に示されるように、実施例1の眼鏡レンズは、側方部において、非点収差及びパワーエラーが比較例1よりも抑えられている。
【実施例2】
【0062】
実施例2の眼鏡レンズは、本発明に係る設計方法を用いて設計されている。実施例2の眼鏡レンズについては、比較例1と同じ設計方法を用いて設計された比較例2との対比を交えて説明する。実施例2と比較例2の眼鏡レンズの仕様は共通であり、次に示される通りである。
球面度数S :5.00
乱視度数C :−1.50
乱視軸AX :45
加入度ADD :2.50
ベースカーブBC :6.25
レンズ中心肉厚CT :5.0
角膜頂点間距離CVD:14.5
前傾角TLT :0
【0063】
図13(a)、図13(b)はそれぞれ、比較例2、実施例2の眼鏡レンズの非点収差分布(透過度数分布)を示す。図13(c)は、視線方向がβ=−15°でかつα=15°〜35°であるときの非点収差分布(透過度数分布)を示す図である。また、図14(a)、図14(b)はそれぞれ、比較例2、実施例2の眼鏡レンズのパワーエラー分布(透過度数分布)を示す。図14(c)は、視線方向がβ=10°でかつα=15°〜35°であるときのパワーエラー分布(透過度数分布)を示す図である。
【0064】
実施例2の眼鏡レンズは、図13(a)と図13(b)(又は図14(a)と図14(b))との比較から分かるように、比較例2の眼鏡レンズよりも明視域が広い。また、図13(c)及び図14(c)に示されるように、実施例2の眼鏡レンズは、側方部において、非点収差及びパワーエラーが比較例2よりも抑えられている。
【0065】
以上が本発明の実施形態の説明である。本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば、本発明に係る眼鏡レンズの設計・製造方法は、両面非球面型累進屈折力レンズに限らず、内面累進屈折力レンズや外面累進屈折力レンズなど、他の態様の累進屈折力レンズに対しても適用することができる。内面(又は外面)累進屈折力レンズの場合、例えば外面(又は内面)加工済みのセミフィニッシュトブランクをベースに、内面(又は外面)の累進形状を図4に示す設計工程に従って設計する。
【0066】
また、本発明に係る眼鏡レンズの設計・製造方法は、累進屈折力レンズ以外の、焦点が複数存在する多焦点眼鏡レンズや回転非対称な眼鏡レンズ(例えば単焦点であってもプリズム処方された眼鏡レンズ)など、他の種類の眼鏡レンズに対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 眼鏡レンズ製造システム
10 眼鏡店
20 眼鏡レンズ製造工場
100 店頭コンピュータ
200 ホストコンピュータ
202 眼鏡レンズ設計用コンピュータ
204 眼鏡レンズ加工用コンピュータ
206 加工機
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの設計方法、製造方法、及び設計システムに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズの設計においては、例えば特許文献1に記載されているように、眼鏡レンズの外面単独又は内面単独の非点収差やパワーエラー等の分布(表面分布)よりも、外面と内面の両面を透過して装用者の眼に実際に到達する透過光の分布(透過度数分布)が重要視されている。なお、パワーエラーは、像面湾曲や平均度数誤差とも言い換えることができる。
【0003】
図1は、透過度数分布を考慮した累進屈折力レンズの設計例を説明するための図である。図1に示されるように、本設計例では、最初に、目標分布が設定される(図1中a参照)。目標分布は、処方度数が完全に満足されると共に非点収差等が完全に補正された理想的な透過度数分布であり、装用予定者の処方情報に基づいて設定される。次に、外面の表面分布と内面の表面分布の合成が目標分布と同一の分布になるように、外面の表面分布と内面の表面分布が仮設定される(図1中b参照)。次いで、仮設定された外面と、内面を透過した場合の暫定的な透過度数分布(暫定分布)が計算される(図1中c参照)。目標分布と暫定分布には差がある。以下、この差を「残存誤差分布」と記す。
【0004】
非点収差、パワーエラー等の複数の因子を同時に完全に補正するためには、例えば暫定分布を持つ眼鏡レンズの一面に残存誤差分布に相当する補正量を単純に付加する補正を行えばよいと思われる。しかし、この種の複数の因子を同時に完全に補正する形状は、数学的に解が存在しない。そのため、暫定分布を持つ面形状に対して残存誤差分布に相当する補正量を無理に付加すると、その結果得られる透過度数分布は、図2(図2(a):非点収差分布、図2(b):パワーエラー分布)に示されるように、光学的に乱れが大きいものになってしまう。別の表現によれば、かかる透過度数分布は、光学的に連続性の無いものになってしまう。
【0005】
そこで、実際には、処方度数や収差特性を満足しつつ透過度数分布の光学的な連続性も担保されるように、暫定分布を目標分布に近似させるための最適化計算が行われ、外面又は内面の形状が最適化設計される(図1中d参照)。
【0006】
また、特許文献2には、眼鏡レンズの中心から放射状に延びる複数の基準線を設定し、各基準線に沿う屈折力に対して非球面付加量を決定したうえで、各基準線間の屈折力に対してスプライン補間等による補間をかけて、各基準線間の非球面付加量を決定するという、累進屈折力レンズの設計方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3196880号公報
【特許文献2】特許第4192899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、例えば特許文献2に記載の眼鏡レンズの設計方法を用いて片面累進屈折力レンズを設計する場合、基準線間の補間を行うことによって面の形状的な連続性は保証されるが、光学的な連続性は必ずしも保証されない。また、特許文献2においては、眼鏡レンズの凸面と凹面に累進屈折作用を分割する両面累進屈折力レンズも設計可能とされているが、表面形状が複雑な両面累進屈折力レンズでは、尚のこと、光学的な連続性の保証は難しい。また、特許文献1や特許文献2をはじめとする既存の眼鏡レンズ設計では、処方度数及び収差特性について、局所的な視野領域では所望の値を達成することができても、広い視野領域に亘って所望の値を達成することは難しい。例えば累進屈折力レンズを設計する場合、遠用部、中間部、近用部については収差制御できても、側方部については実質的に収差制御できなかった。
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、透過度数分布の光学的な連続性を担保しつつ所望の処方度数及び収差特性を広い視野領域に亘って満足するのに好適な眼鏡レンズの設計方法、製造方法、及び設計システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決する本発明の一形態に係る眼鏡レンズの設計方法は、所定の処方情報に基づいて眼鏡レンズの目標透過度数分布を設定する目標設定工程と、目標透過度数分布に基づいて眼鏡レンズを仮設計する仮設計工程と、仮設計された眼鏡レンズにおける暫定的な暫定透過度数分布を計算する暫定分布計算工程と、目標透過度数分布と暫定透過度数分布との差分を残存誤差分布として算出する残存誤差分布算出工程と、仮設計された眼鏡レンズの補正対象面の幾何学中心又は該中心近傍の基準点から周縁に延び、該補正対象面の周方向に並ぶ複数の制御線を設定する制御線設定工程と、残存誤差分布に基づいて、各制御線上の複数の所定位置に配置された各制御点における光学的な補正量を計算する補正量計算工程と、隣接して並ぶ制御線上の制御点同士を接続した閉曲線を少なくとも1本定義する閉曲線定義工程と、各閉曲線上にて、補正量計算後の各制御点に基づいて第一の近似曲線を定義する第一の近似曲線定義工程と、各制御点が、対応する第一の近似曲線上に位置するように該各制御点の補正量を調節する補正量調節工程と、各制御線上にて、補正量調節後の各制御点に基づいて第二の近似曲線を定義する第二の近似曲線定義工程と、各第二の近似曲線が表す光学的な補正量を非球面付加量に変換して補正対象面の各制御線上に付加したうえで、該各制御線間の該補正対象面の形状を所定の補間法を用いて補間する形状補間工程とを含む方法である。
【0011】
ここで、閉曲線設定工程において、複数の閉曲線を定義する場合、各閉曲線が交差しないように、隣接して並ぶ制御線上の制御点同士を接続してもよい。また、閉曲線は、互いに相似形であってもよく、又は異なる形であってもよい。また、閉曲線は、例えば基準点を中心とした単純な円形状であってもよく、又はより複雑な形であってもよい。例えば、閉曲線は、玉型形状に合わせた形としてもよい。また、複数の閉曲線の各々の配置間隔は、等間隔であってもよく、又は異なる間隔であってもよい。例えば、透過度数分布についてより一層高い連続性を担保したい領域ほど、閉曲線を密な間隔で配置するとよい。
【0012】
第一又は第二の近似曲線は、例えば所定の関数に基づいて定義された平滑化曲線である。
【0013】
制御線は、直線でもよく又は曲線でもよい。眼鏡レンズが累進屈折力レンズである場合は、例えば複数の制御線のうち1本を主子午線上を沿う線としてもよい。
【0014】
また、各制御線の周方向の配置角度のピッチは、例えば等角度ピッチであるが、これに限らない。例えば収差補正等を重視したい領域では、制御線を密に配置し、収差補正等を重視しない領域では、制御線を疎に配置してもよい。
【0015】
本発明に係る眼鏡レンズの設計方法は、仮設計後の眼鏡レンズを所定の眼球モデルを含む仮想空間に眼鏡レンズと眼球モデルとの相対的な位置関係(距離、傾きなど)を考慮して配置するモデル構築工程と、仮想空間に配置された眼鏡レンズの後方頂点と、眼球モデルの回転中心点との距離に基づいて所定の参照球面を定義する参照球面定義工程とを含む方法としてもよい。この場合、暫定分布計算工程では、参照球面上での眼鏡レンズの透過度数分布が暫定透過度数分布として計算される。
【0016】
仮設計工程では、眼鏡レンズの一面を所定の処方情報に基づいて所定の面形状に仮設定し、眼鏡レンズの他面を目標透過度数分布に対応する面形状に仮設定してもよい。
【0017】
眼鏡レンズは、例えば、物体側表面である第一の屈折表面と、眼球側表面である第二の屈折表面とに分割配分されている累進屈折力作用を備えた両面非球面型累進屈折力レンズである。他には、片面累進屈折力レンズや多焦点レンズなど、種々の態様の眼鏡レンズが想定される。
【0018】
また、上記の課題を解決する本発明の一形態に係る眼鏡レンズの製造方法は、上記の眼鏡レンズの設計方法を用いて設計された眼鏡レンズを製造する眼鏡レンズ製造工程を含む方法である。
【0019】
また、上記の課題を解決する本発明の一形態に係る眼鏡レンズの設計システムは、所定の処方情報を発注データとして送信する発注側端末と、発注データを受信して処方に適した眼鏡レンズを設計する設計側端末とを有したシステムである。かかる設計側端末は、所定の処方情報に基づいて眼鏡レンズの目標透過度数分布を設定する目標設定手段と、目標透過度数分布に基づいて眼鏡レンズを仮設計する仮設計手段と、仮設計された眼鏡レンズにおける暫定的な暫定透過度数分布を計算する暫定分布計算手段と、目標透過度数分布と暫定透過度数分布との差分を残存誤差分布として算出する残存誤差分布算出手段と、仮設計された眼鏡レンズの補正対象面の幾何学中心又は該中心近傍の基準点から周縁に延び、該補正対象面の周方向に並ぶ複数の制御線を設定する制御線設定手段と、残存誤差分布に基づいて、各制御線上の複数の所定位置に配置された各制御点における光学的な補正量を計算する補正量計算手段と、隣接して並ぶ制御線上の制御点同士を接続した閉曲線を少なくとも1本定義する閉曲線定義手段と、各閉曲線上にて、補正量計算後の各制御点に基づいて第一の近似曲線を定義する第一の近似曲線定義手段と、各制御点が、対応する第一の近似曲線上に位置するように該各制御点の補正量を調節する補正量調節手段と、各制御線上にて、補正量調節後の各制御点に基づいて第二の近似曲線を定義する第二の近似曲線定義手段と、各第二の近似曲線が示す光学的な補正量を非球面付加量に変換して補正対象面の各制御線上に付加したうえで、該各制御線間の該補正対象面の形状を所定の補間法を用いて補間する形状補間手段とを有することを特徴としたシステムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、透過度数分布の光学的な連続性を担保しつつ所望の処方度数及び収差特性を広い視野領域に亘って満足するのに好適な眼鏡レンズの設計方法、製造方法、及び設計システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】透過度数分布を考慮した累進屈折力レンズの設計例を説明するための図である。
【図2】暫定分布を持つ面形状に対して残存誤差分布に相当する補正量を単純に付加した場合の累進屈折力レンズの透過度数分布の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法を実現するための眼鏡レンズ製造システムの構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係る眼鏡レンズ設計用コンピュータによる眼鏡レンズの設計工程のフローチャートを示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る眼鏡レンズ設計用コンピュータによって構築される仮想モデル例を示す図である。
【図6】目標透過度数分布DT、透過度数分布DR、及び残存誤差分布DEを示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る眼鏡レンズの設計における制御線及び制御点を説明するための図である。
【図8】本発明の実施形態に係る眼鏡レンズの設計における閉曲線を説明するための図である。
【図9】各制御点における光学的な補正量の調節を説明するための図である。
【図10】比較例1と本発明の実施例1の各眼鏡レンズの非点収差を比較検討するための図である。
【図11】比較例1と本発明の実施例1の各眼鏡レンズのパワーエラーを比較検討するための図である。
【図12】角度αと角度βを説明するための図である。
【図13】比較例2と本発明の実施例2の各眼鏡レンズの非点収差を比較検討するための図である。
【図14】比較例2と本発明の実施例2の各眼鏡レンズのパワーエラーを比較検討するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る眼鏡レンズ設計方法を用いて眼鏡レンズを設計し製造する眼鏡レンズ製造システムについて説明する。
【0023】
<眼鏡レンズ製造システム1>
図3は、本実施形態の眼鏡レンズの製造方法を実現するための眼鏡レンズ製造システム1の構成を示すブロック図である。図3に示されるように、眼鏡レンズ製造システム1は、顧客(装用予定者)に対する処方に応じた眼鏡レンズを発注する眼鏡店10と、眼鏡店10からの発注を受けて眼鏡レンズを製造する眼鏡レンズ製造工場20を有している。眼鏡レンズ製造工場20への発注は、インターネット等の所定のネットワークやFAX等によるデータ送信を通じて行われる。発注者には眼科医や一般消費者を含めてもよい。
【0024】
<眼鏡店10>
眼鏡店10には、店頭コンピュータ100が設置されている。店頭コンピュータ100は、例えば一般的なPC(Personal Computer)であり、眼鏡レンズ製造工場20への眼鏡レンズの発注を行うためのソフトウェアがインストールされている。店頭コンピュータ100には、眼鏡店スタッフによるマウスやキーボード等の操作を通じてレンズデータ及びフレームデータが入力される。レンズデータには、例えば処方値(球面屈折力、乱視屈折力、乱視軸方向、プリズム屈折力、プリズム基底方向、加入度数、遠用PD(Pupillary Distance)、近用PD等)、眼鏡レンズの装用条件(角膜頂点間距離、前傾角、フレームあおり角)、眼鏡レンズの種類(単焦点球面、単焦点非球面、多焦点(二重焦点、累進)、コーティング(染色加工、ハードコート、反射防止膜、紫外線カット等))、顧客の要望に応じたレイアウトデータ等が含まれる。フレームデータには、顧客が選択したフレームの形状データが含まれる。フレームデータは、例えばバーコードタグで管理されており、バーコードリーダによるフレームに貼り付けられたバーコードタグの読み取りを通じて入手することができる。店頭コンピュータ100は、発注データ(レンズデータ及びフレームデータ)を例えばインターネット経由で眼鏡レンズ製造工場20に送信する。
【0025】
<眼鏡レンズ製造工場20>
眼鏡レンズ製造工場20には、ホストコンピュータ200を中心としたLAN(Local Area Network)が構築されており、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202や眼鏡レンズ加工用コンピュータ204をはじめ多数の端末装置が接続されている。眼鏡レンズ設計用コンピュータ202、眼鏡レンズ加工用コンピュータ204は一般的なPCであり、それぞれ、眼鏡レンズ設計用のプログラム、眼鏡レンズ加工用のプログラムがインストールされている。ホストコンピュータ200には、店頭コンピュータ100からインターネット経由で送信された発注データが入力する。ホストコンピュータ200は、入力した発注データを眼鏡レンズ設計用コンピュータ202に送信する。
【0026】
眼鏡レンズ製造工場20では、生産性を向上させるため、全製作範囲の度数を複数のグループに区分し、各グループの度数範囲に適合した外面(凸面)カーブ形状(球面形状又は非球面形状)とレンズ径を有するセミフィニッシュトブランクを眼鏡レンズの注文に備えて予め用意している。そのため、眼鏡レンズ製造工場20では、内面(凹面)加工(及び玉型加工)を行うだけで、装用予定者の処方に適した眼鏡レンズが製造される。
【0027】
なお、眼鏡レンズを設計・製造するにあたり、セミフィニッシュトブランクの利用は必須ではない。眼鏡レンズ製造工場20では、発注データを受けた後、未加工のブロックピースに対し、装用予定者の処方が満たされるように、外面と内面の両面の設計及び加工を行ってもよい。
【0028】
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、受注に応じた眼鏡レンズを設計するためのプログラムがインストールされており、セミフィニッシュトブランク群の中から、発注データ(レンズデータ)に含まれる処方値に適したセミフィニッシュトブランクを一つ選択する。眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、選択したセミフィニッシュトブランク及び発注データ(レンズデータ)に基づいてレンズ設計データを作成し、発注データ(フレームデータ)に基づいて玉型加工データを作成する。眼鏡レンズ設計用コンピュータ202による眼鏡レンズの設計は、後に詳細に説明する。眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、作成したレンズ設計データ及び玉型加工データを眼鏡レンズ加工用コンピュータ204に転送する。
【0029】
オペレータは、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202により選択されたセミフィニッシュトブランクをカーブジェネレータ等の加工機206にセットして、眼鏡レンズ加工用コンピュータ204に対して加工開始の指示入力を行う。眼鏡レンズ加工用コンピュータ204は、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202から転送されたレンズ設計データ及び玉型加工データを読み込み、加工機206を駆動制御する。加工機206は、セミフィニッシュトブランクの内面を(場合によっては外面も)レンズ設計データに従って研削・研磨して、眼鏡レンズの内面(及び外面)形状を創成する。また、加工機206は、内面(及び外面)形状創成後のアンカットレンズの外周面を玉型形状に対応した周縁形状に加工する。
【0030】
玉型加工後の眼鏡レンズには、発注データに従い、染色加工、ハードコート加工、反射防止膜、紫外線カット等の各種コーティングが施される。これにより、眼鏡レンズが完成して眼鏡店10に納品される。
【0031】
<眼鏡レンズ設計用コンピュータ202による眼鏡レンズの具体的設計方法>
図4は、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202による眼鏡レンズの設計工程を示すフローチャートである。以下、かかる設計工程について具体的に説明する。なお、以下においては、外面加工済みのセミフィニッシュトブランクをベースに、累進屈折要素を外面と内面に分割した両面非球面型累進屈折力レンズを設計する設計例を説明する。しかしながら、本発明は、別の種類の眼鏡レンズを設計する場合にも適用可能である。また、本実施形態では、眼鏡レンズの代表的な光学収差である非点収差とパワーエラーを補正することについて言及するが、本発明は、別の光学収差の補正をする場合にも適用可能である。
【0032】
<図4のS1(セミフィニッシュトブランクの選択)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、セミフィニッシュトブランク群の中から、発注データ(レンズデータ)に含まれる処方値に適したセミフィニッシュトブランクを一つ選択する。
【0033】
<図4のS2(仮想モデルの構築)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、装用予定者が眼鏡レンズを装用した状態を想定した、眼球及び眼鏡レンズからなる所定の仮想モデルを構築する。図5は、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202によって構築される仮想モデル例を示す。
【0034】
眼球の眼軸長は、遠視、近視で異なる。そこで、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、遠視、近視の度合いで眼軸長がどれだけ異なるかを予め記憶している。その中から、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、発注データに含まれる装用予定者の処方値(球面屈折力、乱視屈折力)に従って適切な眼球モデルEを選択し、図5に示されるように、選択した眼球モデルEを仮想モデル空間に配置する。
【0035】
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、眼鏡レンズモデルLを創成する。具体的には、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、発注データ(レンズデータ)に基づいて目標透過度数分布(説明の便宜上、符号「DT」を付す。)を計算し、図4のS1の工程で選択されたセミフィニッシュトブランクに対し、外面の表面分布と内面の表面分布の合成が目標透過度数分布DTと同一の分布になるように、外面と内面の表面分布を仮設定する。これにより、外面形状と内面形状との合成で目標透過度数分布DTを達成する形状に修正され、眼鏡レンズモデルLが完成する。なお、眼鏡レンズモデルLの中心肉厚CTは、処方値やセミフィニッシュトブランクの屈折率等に基づいて決定される。また、本実施形態では、処方値に基づいて仮設計された外面非球面形状を基準に、内面非球面形状を図4に示す設計工程に従って設計する。内面非球面形状の設計後、必要に応じて各面の累進屈折力作用成分を微調節して、面形状を確定する。なお、このような両面非球面型累進屈折力レンズの設計手順は一例であり、本発明を適用した両面非球面型累進屈折力レンズの設計手順はこれに限定されない。
【0036】
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、眼球モデルEに対して所定の角膜頂点間距離CVDを空けた位置に、眼鏡レンズの傾きTLT(前傾角、フレームあおり角)を考慮して眼鏡レンズモデルLを配置する。ここで、角膜頂点間距離CVDは、眼鏡レンズモデルLの後方頂点PAと眼球モデルEの角膜頂点PBとの距離である。
【0037】
<図4のS3(仮想モデルの透過度数分布の評価)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、眼鏡レンズモデルLの透過度数分布の評価を行う。具体的には、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、累進屈折力レンズのような焦点が複数存在する眼鏡レンズの全方向の光線(透過度数分布)を等価に評価するための評価面として、参照球面SRを定義する。参照球面SRは、眼球モデルEの眼球回転中心EOを中心とし、眼球回転中心EOから後方頂点PAまでの距離Srを半径とした球面である。
【0038】
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、仮設計された眼鏡レンズの外面の各点に入射して内面を射出した各光線の、参照球面SR上での分布を、周知の光線追跡により計算する。眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、参照球面SR上での分布を眼鏡レンズモデルLの透過度数分布(説明の便宜上、「透過度数分布DR」と記す。)として評価する。
【0039】
<図4のS4(残存誤差分布の計算)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、目標透過度数分布DTと透過度数分布DRとの差の分布(説明の便宜上、「残存誤差分布DE」と記す。)を計算する。図6に、目標透過度数分布DT、透過度数分布DR、及び残存誤差分布DEを示す。図6(a)は、透過度数分布DRの非点収差分布とパワーエラー分布を示し、図6(b)は、目標透過度数分布DTの非点収差分布とパワーエラー分布を示し、図6(c)は、残存誤差分布DEの非点収差分布とパワーエラー分布を示す。
【0040】
図6(c)に示されるように、残存誤差分布DEは、一見すると滑らかな分布を有しているが、実際にはこの残存誤差を完全に補正する光学面は存在しない。そのため、例えば目標透過度数分布DTに近づけるために、内面形状対して残存誤差分布DEに相当する補正量を付加した場合の透過度数分布DRは、図2に示されるように、光学的に連続性が無く、眼鏡レンズとして破綻した光学特性となってしまう。そこで、本実施形態では、以下の更なる設計工程を経て、透過度数分布の光学的な連続性を担保しつつ処方度数及び収差特性を広い視野領域に亘って満足する眼鏡レンズを設計する。図7〜図9に、以下の更なる設計工程を説明するための図を示す。
【0041】
<図4のS5(制御線の設定)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、眼鏡レンズモデルLの外面の幾何学中心又は幾何学中心近傍の特定点(例えば隠しマークの中心)を基準点に設定する。眼鏡レンズモデルLの内面の基準点は、外面の基準点に対応する点として設定する。眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、設定された基準点から眼鏡レンズモデルLの内面の周縁に延びる複数の制御線Ai(i=1〜n)を設定する。各制御線Aiは、所定のピッチ角で眼鏡レンズモデルLの内面の全周に亘って並べられ、それぞれの位置に対応する残存誤差が与えられる(図7(a)参照)。
【0042】
なお、制御線Aiの周方向の配置角度のピッチは、等角度ピッチに限らない。例えば、非点収差とパワーエラーの補正を重視したい領域(遠用部や近用部等)では、制御線を密に配置し、非点収差とパワーエラーの補正を重視しない領域(例えば側方部等)では、制御線を疎に配置してもよい。また、制御線Aiは、直線に限らない。例えば図7(a)中、基準点から上方向又は下方向に延びる各制御線を、遠方視から近方視した際の輻輳を考慮した主子午線上を沿う線に設定してもよい。
【0043】
<図4のS6(各制御点における補正量の計算)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、残存誤差分布DEに基づいて、制御線Ai上の所定位置に配置された各サンプル点における、眼鏡レンズモデルLの内面の分布(目標透過度数分布DT)に対応する光学的な補正量を計算し、図7(b)〜(d)に示されるように、各サンプル点を所定の座標系(縦軸:光学的な補正量P(単位:D)、横軸:基準点からの距離R(単位:mm))に配置する。眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、各制御線Aiについて、各サンプル点を用いて最小二乗法を解き、所定の曲線近似関数(例えばBスプライン曲線やベジェ曲線等)を定義する複数の制御点(Pij、Rij)を設定する。
【0044】
図7(b)〜図7(d)の例では、図7(a)中、A1〜A3の各方向に延びる制御線に対応するサンプル点及び制御点を示している。本実施形態では、所定の曲線近似関数を定義する各制御点は、所定の距離Rに配置される。例えば図7(b)〜図7(d)の各制御線においては、制御線間で等しい距離Rに各制御点が配置される。説明を加えると、制御線Ai間で座標値の付帯文字jの数値が同一の制御点は、距離Rが等しい。例えば制御点(P13、R13)、制御点(P23、R23)、制御点(P33、R33))は、距離Rが等しい。このように、本実施形態では、残存誤差分布DEに基づいて、各制御線Ai上の複数の所定位置に配置される各制御点における補正量Pを計算している。
【0045】
<図4のS7(閉曲線の定義)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、隣接して並ぶ制御線上に配置された、付帯文字jの数値が同一の制御点同士を、眼鏡レンズモデルLの内面の周方向(例えば反時計回り方向)に沿って順次接続することにより、互いに交差しない複数の閉曲線Rj(j=1〜m)を定義する。図8(a)中、符号R2〜R4はそれぞれ、付帯文字jの数値が「2」〜「4」の制御点同士を接続した閉曲線を示す。各閉曲線Rjは、例えば各接続点においてk次の連続性(s−1(k=1、2、・・・s)階微分までの連続性)があるという束縛条件のもとで、各制御点に基づいて周期スプラインにより平滑化される。なお、閉曲線Rjは複数に限らず、最低限1本定義されればよい。
【0046】
各閉曲線Rjは、基準点からの距離Rが等しい制御点同士を接続したものであるため、基準点を中心とした略同心円となっている。但し、閉曲線Rjの形状は、互いに相似である必要はなく、円である必要もない。また、各閉曲線Rjの配置間隔は、等間隔に限らない。各閉曲線Rjは、残存誤差分布DEに基づいて、非点収差とパワーエラーの補正、及び光学的な連続性の担保を考慮した最適な形に定義され、又、最適な配置間隔で配置されてもよい。また、各閉曲線Rjは、例えば玉型形状に合わせた形としてもよい。
【0047】
図8(b)〜図8(d)は、各制御点に基づいて周期スプラインにより平滑化された閉曲線R2〜R4を示す。図8(b)〜図8(d)中、縦軸は、光学的な補正量P(単位:D)を示し、横軸は、制御点が位置する角度(より正確には、制御点に対応する制御線と制御線A1との角度、単位:°)を示す。
【0048】
<図4のS8(制御点の調節)>
図9(a)は、平滑化された閉曲線R2を示す、図8(b)と同一の図である。図9(a)に示されるように、各制御点は、閉曲線R2から外れて位置する。そこで、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、図9(b)に示されるように、各制御点が閉曲線R2上に乗るように、各制御点の補正量Pを調節する。眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、全ての閉曲線Rjについて、同様に、各制御点の補正量Pの調節を行う。
【0049】
<図4のS9(制御線上における曲線近似)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、各制御線Ai上にて、各閉曲線Rj上に位置調節された制御点に基づく曲線近似(例えばBスプラインによる平滑化)を行う。
【0050】
<図4のS10(制御線上の形状の補正)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、図4のS9までの工程で計算した光学的な補正量Pを幾何学量(非球面量)に変換する。具体的には、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、各制御線Aiの近似曲線が示す光学的な補正量Pを眼鏡レンズモデルLの内面の分布(目標透過度数分布DT)に付加したうえで、次式に示される曲率K(r)に変換する。
【数1】
K1(r)は、眼鏡レンズモデルLの内面の分布(外面との合成で目標透過度数分布DTを実現でするように与えられた分布)に対応する曲率を示し、K2(r)は、制御線Aiの近似曲線が示す光学的な補正量Pに対応する曲率を示す。
【0051】
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、次式に示されるように、曲率K(r)を傾きT(r)に変換する。中心(r=0)での傾きはゼロとする。
【数2】
【0052】
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、次式に示されるように、傾きT(r)を高さZ(r)に変換する。ここで、基準点における高さはゼロとする。なお、高さZ(r)は、凹面である内面の基準点を通る光軸OXからの距離がrとなる非球面上の座標点の、該非球面の内面頂点での接平面TP2からの距離(サグ量)である。
【数3】
【0053】
すなわち、眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、各制御線Aiの近似曲線が示す光学的な補正量Pを非球面付加量に変換して、眼鏡レンズモデルLの内面の分布(外面との合成で目標透過度数分布DTを実現するように与えられた分布)に対応する面形状の各制御線Ai上に付加する。これにより、各制御線Ai上の非球面形状が確定する。
【0054】
<図4のS11(制御線間の形状の補間)>
眼鏡レンズ設計用コンピュータ202は、各制御線Ai上の非球面形状の確定後、各制御線間の内面形状を周知の補間法(例えばスプライン補間等)を用いて補間する。これにより、眼鏡レンズモデルLの内面形状が確定し、眼鏡レンズの形状設計が完了する。
【0055】
眼鏡レンズモデルLの確定形状データ(レンズ設計データ)は、眼鏡レンズ加工用コンピュータ204に転送される。眼鏡レンズ加工用コンピュータ204は、上述したように、レンズ設計データに従って加工機206を駆動制御して、セミフィニッシュトブランクの外面及び内面の各面の加工を行い、両面非球面型累進屈折力レンズを製作する。
【0056】
本実施形態に係る眼鏡レンズの設計方法では、図4のS8の工程において、眼鏡レンズモデルLの内面の周方向に並ぶ各制御点(光学的な補正量P)を、周方向に滑らかに分布する閉曲線Rj上に調節したうえで、各制御線上の平滑化(及び各制御線間の補間)を行っている。その結果、残存誤差分布DEに応じた補正量Pが、内面全域という広い視野領域に亘って滑らかに分布することになる。そのため、非点収差とパワーエラーを補正しつつも補正対象面(眼鏡レンズモデルLの内面)の光学的な連続性が担保された眼鏡レンズが得られる。
【0057】
次に、これまで説明した設計方法を用いて設計された眼鏡レンズの透過度数分布を、比較例との対比を交えて2例説明する。
【実施例1】
【0058】
実施例1の眼鏡レンズは、本発明に係る設計方法を用いて設計されている。実施例1の眼鏡レンズについては、既存の設計方法を用いて設計された比較例1との対比を交えて説明する。なお、既存の設計方法は、例えば各サンプル点に基づいて各制御線を平滑化したうえで、各制御線間を補間するという方法である。実施例1と比較例1の眼鏡レンズの仕様は共通であり、次に示される通りである。
球面度数S :5.00
加入度ADD :2.50
ベースカーブBC :6.25
レンズ中心肉厚CT :5.0
角膜頂点間距離CVD:14.5
前傾角TLT :0
なお、ここでの前傾角は、装用時に傾きが発生した際の眼鏡レンズの外面頂点での接平面TP1と、図5の状態の接平面TP1とがなす角度をいう。
【0059】
図10(a)、図10(b)はそれぞれ、比較例1、実施例1の眼鏡レンズの非点収差分布(透過度数分布)を示す。また、図11(a)、図11(b)はそれぞれ、比較例1、実施例1の眼鏡レンズのパワーエラー分布(透過度数分布)を示す。図10(a)、図10(b)、図11(a)、図11(b)の各図は、角度β(単位:°)を縦軸にとり、角度α(単位:°)を横軸にとる。角度α及びβは、図12に示されるように、正面視線に対する視線方向がなす角度の各成分である。
【0060】
図10(c)は、視線方向がβ=−15°でかつα=15°〜35°であるときの非点収差分布(透過度数分布)を示す図である。図10(c)は、非点収差(単位:D)を縦軸にとり、角度αを横軸にとる。図10(c)中、実線が実施例1の非点収差分布を示し、破線が比較例1の非点収差分布を示す。また、図11(c)は、視線方向がβ=10°でかつα=15°〜35°であるときのパワーエラー分布(透過度数分布)を示す図である。図11(c)は、パワーエラー(単位:D)を縦軸にとり、角度αを横軸にとる。図11(c)中、実線が実施例1のパワーエラー分布を示し、破線が比較例1のパワーエラー分布を示す。なお、実施例1の各図面についての説明は、実施例2で提示される各図面においても適用する。
【0061】
実施例1の眼鏡レンズは、図10(a)と図10(b)(又は図11(a)と図11(b))との比較から分かるように、比較例1の眼鏡レンズよりも明視域が広い。また、図10(c)及び図11(c)に示されるように、実施例1の眼鏡レンズは、側方部において、非点収差及びパワーエラーが比較例1よりも抑えられている。
【実施例2】
【0062】
実施例2の眼鏡レンズは、本発明に係る設計方法を用いて設計されている。実施例2の眼鏡レンズについては、比較例1と同じ設計方法を用いて設計された比較例2との対比を交えて説明する。実施例2と比較例2の眼鏡レンズの仕様は共通であり、次に示される通りである。
球面度数S :5.00
乱視度数C :−1.50
乱視軸AX :45
加入度ADD :2.50
ベースカーブBC :6.25
レンズ中心肉厚CT :5.0
角膜頂点間距離CVD:14.5
前傾角TLT :0
【0063】
図13(a)、図13(b)はそれぞれ、比較例2、実施例2の眼鏡レンズの非点収差分布(透過度数分布)を示す。図13(c)は、視線方向がβ=−15°でかつα=15°〜35°であるときの非点収差分布(透過度数分布)を示す図である。また、図14(a)、図14(b)はそれぞれ、比較例2、実施例2の眼鏡レンズのパワーエラー分布(透過度数分布)を示す。図14(c)は、視線方向がβ=10°でかつα=15°〜35°であるときのパワーエラー分布(透過度数分布)を示す図である。
【0064】
実施例2の眼鏡レンズは、図13(a)と図13(b)(又は図14(a)と図14(b))との比較から分かるように、比較例2の眼鏡レンズよりも明視域が広い。また、図13(c)及び図14(c)に示されるように、実施例2の眼鏡レンズは、側方部において、非点収差及びパワーエラーが比較例2よりも抑えられている。
【0065】
以上が本発明の実施形態の説明である。本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば、本発明に係る眼鏡レンズの設計・製造方法は、両面非球面型累進屈折力レンズに限らず、内面累進屈折力レンズや外面累進屈折力レンズなど、他の態様の累進屈折力レンズに対しても適用することができる。内面(又は外面)累進屈折力レンズの場合、例えば外面(又は内面)加工済みのセミフィニッシュトブランクをベースに、内面(又は外面)の累進形状を図4に示す設計工程に従って設計する。
【0066】
また、本発明に係る眼鏡レンズの設計・製造方法は、累進屈折力レンズ以外の、焦点が複数存在する多焦点眼鏡レンズや回転非対称な眼鏡レンズ(例えば単焦点であってもプリズム処方された眼鏡レンズ)など、他の種類の眼鏡レンズに対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 眼鏡レンズ製造システム
10 眼鏡店
20 眼鏡レンズ製造工場
100 店頭コンピュータ
200 ホストコンピュータ
202 眼鏡レンズ設計用コンピュータ
204 眼鏡レンズ加工用コンピュータ
206 加工機
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の処方情報に基づいて眼鏡レンズの目標透過度数分布を設定する目標設定工程と、
前記目標透過度数分布に基づいて前記眼鏡レンズを仮設計する仮設計工程と、
前記仮設計された眼鏡レンズにおける暫定的な暫定透過度数分布を計算する暫定分布計算工程と、
前記目標透過度数分布と前記暫定透過度数分布との差分を残存誤差分布として算出する残存誤差分布算出工程と、
前記仮設計された眼鏡レンズの補正対象面の幾何学中心又は該中心近傍の基準点から周縁に延び、該補正対象面の周方向に並ぶ複数の制御線を設定する制御線設定工程と、
前記残存誤差分布に基づいて、各前記制御線上の複数の所定位置に配置された各制御点における光学的な補正量を計算する補正量計算工程と、
隣接して並ぶ制御線上の制御点同士を接続した閉曲線を少なくとも1本定義する閉曲線定義工程と、
各前記閉曲線上にて、前記補正量計算後の各制御点に基づいて第一の近似曲線を定義する第一の近似曲線定義工程と、
前記各制御点が、対応する前記第一の近似曲線上に位置するように該各制御点の前記補正量を調節する補正量調節工程と、
前記各制御線上にて、前記補正量調節後の各制御点に基づいて第二の近似曲線を定義する第二の近似曲線定義工程と、
各前記第二の近似曲線が表す光学的な補正量を非球面付加量に変換して前記補正対象面の前記各制御線上に付加したうえで、該各制御線間の該補正対象面の形状を所定の補間法を用いて補間する形状補間工程と、
を含む、眼鏡レンズの設計方法。
【請求項2】
前記閉曲線設定工程において、複数の前記閉曲線を定義する場合、各閉曲線が交差しないように、前記隣接して並ぶ前記制御線上の前記制御点同士を接続する、請求項1に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項3】
前記第一又は前記第二の近似曲線は、所定の関数に基づいて定義された平滑化曲線である、請求項1又は請求項2に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項4】
前記眼鏡レンズが累進屈折力レンズである場合、前記複数の制御線のうち1本は、主子午線上を沿う線である、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項5】
前記仮設計後の眼鏡レンズを所定の眼球モデルを含む仮想空間に、該眼鏡レンズと該眼球モデルとの相対的な位置関係を考慮して配置するモデル構築工程と、
前記仮想空間に配置された眼鏡レンズの後方頂点と、前記眼球モデルの回転中心点との距離に基づいて所定の参照球面を定義する参照球面定義工程と、
を含み、
前記暫定分布計算工程では、前記参照球面上での前記眼鏡レンズの透過度数分布を前記暫定透過度数分布として計算する、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項6】
前記仮設計工程では、前記眼鏡レンズの一面を前記所定の処方情報に基づいて所定の面形状に仮設定し、該眼鏡レンズの他面を前記目標透過度数分布に対応する面形状に仮設定する、請求項1から請求項5の何れか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項7】
前記眼鏡レンズは、物体側表面である第一の屈折表面と、眼球側表面である第二の屈折表面とに分割配分されている累進屈折力作用を備えた両面非球面型累進屈折力レンズであることを特徴とする、請求項1から請求項6の何れか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法を用いて設計された眼鏡レンズを製造する眼鏡レンズ製造工程
を含む、眼鏡レンズの製造方法。
【請求項9】
所定の処方情報を発注データとして送信する発注側端末と、
前記発注データを受信して前記処方に適した眼鏡レンズを設計する設計側端末と、
を有し、
前記設計側端末は、
前記所定の処方情報に基づいて前記眼鏡レンズの目標透過度数分布を設定する目標設定手段と、
前記目標透過度数分布に基づいて前記眼鏡レンズを仮設計する仮設計手段と、
前記仮設計された眼鏡レンズにおける暫定的な暫定透過度数分布を計算する暫定分布計算手段と、
前記目標透過度数分布と前記暫定透過度数分布との差分を残存誤差分布として算出する残存誤差分布算出手段と、
前記仮設計された眼鏡レンズの補正対象面の幾何学中心又は該中心近傍の基準点から周縁に延び、該補正対象面の周方向に並ぶ複数の制御線を設定する制御線設定手段と、
前記残存誤差分布に基づいて、各前記制御線上の複数の所定位置に配置された各制御点における光学的な補正量を計算する補正量計算手段と、
隣接して並ぶ制御線上の制御点同士を接続した閉曲線を少なくとも1本定義する閉曲線定義手段と、
各前記閉曲線上にて、前記補正量計算後の各制御点に基づいて第一の近似曲線を定義する第一の近似曲線定義手段と、
前記各制御点が、対応する前記第一の近似曲線上に位置するように該各制御点の前記補正量を調節する補正量調節手段と、
前記各制御線上にて、前記補正量調節後の各制御点に基づいて第二の近似曲線を定義する第二の近似曲線定義手段と、
各前記第二の近似曲線が示す光学的な補正量を非球面付加量に変換して前記補正対象面の前記各制御線上に付加したうえで、該各制御線間の該補正対象面の形状を所定の補間法を用いて補間する形状補間手段と、
を有することを特徴とする、眼鏡レンズの設計システム。
【請求項1】
所定の処方情報に基づいて眼鏡レンズの目標透過度数分布を設定する目標設定工程と、
前記目標透過度数分布に基づいて前記眼鏡レンズを仮設計する仮設計工程と、
前記仮設計された眼鏡レンズにおける暫定的な暫定透過度数分布を計算する暫定分布計算工程と、
前記目標透過度数分布と前記暫定透過度数分布との差分を残存誤差分布として算出する残存誤差分布算出工程と、
前記仮設計された眼鏡レンズの補正対象面の幾何学中心又は該中心近傍の基準点から周縁に延び、該補正対象面の周方向に並ぶ複数の制御線を設定する制御線設定工程と、
前記残存誤差分布に基づいて、各前記制御線上の複数の所定位置に配置された各制御点における光学的な補正量を計算する補正量計算工程と、
隣接して並ぶ制御線上の制御点同士を接続した閉曲線を少なくとも1本定義する閉曲線定義工程と、
各前記閉曲線上にて、前記補正量計算後の各制御点に基づいて第一の近似曲線を定義する第一の近似曲線定義工程と、
前記各制御点が、対応する前記第一の近似曲線上に位置するように該各制御点の前記補正量を調節する補正量調節工程と、
前記各制御線上にて、前記補正量調節後の各制御点に基づいて第二の近似曲線を定義する第二の近似曲線定義工程と、
各前記第二の近似曲線が表す光学的な補正量を非球面付加量に変換して前記補正対象面の前記各制御線上に付加したうえで、該各制御線間の該補正対象面の形状を所定の補間法を用いて補間する形状補間工程と、
を含む、眼鏡レンズの設計方法。
【請求項2】
前記閉曲線設定工程において、複数の前記閉曲線を定義する場合、各閉曲線が交差しないように、前記隣接して並ぶ前記制御線上の前記制御点同士を接続する、請求項1に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項3】
前記第一又は前記第二の近似曲線は、所定の関数に基づいて定義された平滑化曲線である、請求項1又は請求項2に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項4】
前記眼鏡レンズが累進屈折力レンズである場合、前記複数の制御線のうち1本は、主子午線上を沿う線である、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項5】
前記仮設計後の眼鏡レンズを所定の眼球モデルを含む仮想空間に、該眼鏡レンズと該眼球モデルとの相対的な位置関係を考慮して配置するモデル構築工程と、
前記仮想空間に配置された眼鏡レンズの後方頂点と、前記眼球モデルの回転中心点との距離に基づいて所定の参照球面を定義する参照球面定義工程と、
を含み、
前記暫定分布計算工程では、前記参照球面上での前記眼鏡レンズの透過度数分布を前記暫定透過度数分布として計算する、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項6】
前記仮設計工程では、前記眼鏡レンズの一面を前記所定の処方情報に基づいて所定の面形状に仮設定し、該眼鏡レンズの他面を前記目標透過度数分布に対応する面形状に仮設定する、請求項1から請求項5の何れか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項7】
前記眼鏡レンズは、物体側表面である第一の屈折表面と、眼球側表面である第二の屈折表面とに分割配分されている累進屈折力作用を備えた両面非球面型累進屈折力レンズであることを特徴とする、請求項1から請求項6の何れか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法を用いて設計された眼鏡レンズを製造する眼鏡レンズ製造工程
を含む、眼鏡レンズの製造方法。
【請求項9】
所定の処方情報を発注データとして送信する発注側端末と、
前記発注データを受信して前記処方に適した眼鏡レンズを設計する設計側端末と、
を有し、
前記設計側端末は、
前記所定の処方情報に基づいて前記眼鏡レンズの目標透過度数分布を設定する目標設定手段と、
前記目標透過度数分布に基づいて前記眼鏡レンズを仮設計する仮設計手段と、
前記仮設計された眼鏡レンズにおける暫定的な暫定透過度数分布を計算する暫定分布計算手段と、
前記目標透過度数分布と前記暫定透過度数分布との差分を残存誤差分布として算出する残存誤差分布算出手段と、
前記仮設計された眼鏡レンズの補正対象面の幾何学中心又は該中心近傍の基準点から周縁に延び、該補正対象面の周方向に並ぶ複数の制御線を設定する制御線設定手段と、
前記残存誤差分布に基づいて、各前記制御線上の複数の所定位置に配置された各制御点における光学的な補正量を計算する補正量計算手段と、
隣接して並ぶ制御線上の制御点同士を接続した閉曲線を少なくとも1本定義する閉曲線定義手段と、
各前記閉曲線上にて、前記補正量計算後の各制御点に基づいて第一の近似曲線を定義する第一の近似曲線定義手段と、
前記各制御点が、対応する前記第一の近似曲線上に位置するように該各制御点の前記補正量を調節する補正量調節手段と、
前記各制御線上にて、前記補正量調節後の各制御点に基づいて第二の近似曲線を定義する第二の近似曲線定義手段と、
各前記第二の近似曲線が示す光学的な補正量を非球面付加量に変換して前記補正対象面の前記各制御線上に付加したうえで、該各制御線間の該補正対象面の形状を所定の補間法を用いて補間する形状補間手段と、
を有することを特徴とする、眼鏡レンズの設計システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−50556(P2013−50556A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187938(P2011−187938)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】
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