眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物及び眼鏡レンズ
【課題】良好なハイコントラスト性と、優れた耐候性、耐久性を兼備し、更には紫外線吸収機能や色調コントロール機能にも優れた眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物の提供。
【解決手段】透明性樹脂、下記構造式のテトラアザポルフィリン化合物系染料とを含有する眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。好ましくは、更に特定の紫外線吸収剤(C)と特定の染料(D)を含む眼鏡レンズ用組成物。
【解決手段】透明性樹脂、下記構造式のテトラアザポルフィリン化合物系染料とを含有する眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。好ましくは、更に特定の紫外線吸収剤(C)と特定の染料(D)を含む眼鏡レンズ用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物及びこの眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズに関するものである。詳しくは、ハイコントラストで、赤色の識別性能に優れる眼鏡レンズを提供し得る眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物と、この眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、高屈折率を有し、透明性や耐衝撃性に優れた特性を有することから、レンズ用材料として使用されており、近年、眼鏡レンズ用材料として、視力補正用レンズ、サングラスや保護眼鏡等に用いられている。また、最近では、目を有害な紫外線から保護するために、眼鏡レンズに紫外線吸収能を付与するべく、眼鏡レンズ用材料として紫外線吸収剤を配合した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物も提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
眼鏡レンズにはまた、赤信号灯や赤色のブレーキランプをより明確に識別するために、赤色がより良く見えるハイコントラスト性もが求められており、このようなハイコントラスト性は、色弱者の矯正用眼鏡においても求められている。
更に、眼鏡レンズには、長期間に亘る耐候性、耐久性に優れることが要求される。
【0004】
従来、ガラス製眼鏡レンズや熱硬化性樹脂製の眼鏡レンズにあっては、ハイコントラスト性を得るためにネオジム化合物が配合されているが、ネオジム化合物は熱可塑性樹脂に対しては分散し難く、特にポリカーボネート樹脂に対する分散性が悪いことから、ポリカーボネート樹脂製眼鏡レンズに対してハイコントラスト性の改善のためにネオジム化合物を配合することは不適切である。
【0005】
ネオジム化合物を用いずにハイコントラスト性を改善した眼鏡レンズとして、芳香族ポリカーボネート樹脂にアンスラキノン系染料を配合した眼鏡レンズが提案されているが(特許文献2)、耐候性、耐久性についての検討はなされていない。
【0006】
なお、本発明で用いるテトラアザポルフィリン化合物系染料は、光記録用色素、光学フィルター用色素として公知であるが(特許文献3)、眼鏡レンズのハイコントラスト性改善のための配合成分として用いた例はなく、ましてその場合において、その他の類似の染料に比べて優れた耐候性、耐久性が得られることについては全く知られておらず、本発明者らの検討により初めて解明された特長である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−352828号公報
【特許文献2】特開2010−204383号公報
【特許文献3】特開2008−268331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、良好なハイコントラスト性と、優れた耐候性、耐久性を兼備し、更には紫外線吸収機能、色調コントロール機能にも優れた眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物と、この眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のテトラアザポルフィリン化合物系染料を配合することにより、ハイコントラスト性を改善することができ、しかも、このテトラアザポルフィリン化合物系染料を配合した場合には、他の染料を配合した場合に比べて、耐候性、耐久性にも優れたものとなることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] 透明性樹脂(A)100重量部と、下記構造式で表されるテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)0.0001〜0.01重量部とを含有することを特徴とする眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【0012】
【化1】
【0013】
[2] 前記透明性樹脂が、芳香族ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする[1]に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
[3] さらに、最大吸収波長を350〜400nmに持つ紫外線吸収剤(C)を、前記透明性樹脂(A)100重量部に対して0.1〜1.0重量部含有することを特徴とする[1]又は[2]に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
[4] 前記紫外線吸収剤が、クロロベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤であることを特徴とする[3]に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【0016】
[5] さらに、最大吸収波長を400〜550nmに持つ染料(D)を、透明性樹脂(A)100重量部に対して0.0001〜0.01重量部含有することを特徴とする[4]に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【0017】
[6] 前記熱可塑性樹脂組成物を成形してなる厚み2mmの試験片について測定した分光光線透過率の測定値が、以下の(i)〜(iii)(以下の(i)〜(iii)において、「平均透過率」とは、いずれも、各々の波長範囲において、10nmピッチで測定した測定値を平均することにより求めた値である。)を満たすことを特徴とする[5]に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
(i) 波長300〜400nmの平均透過率が1%未満
(ii) 波長400nm〜550nmの平均透過率が10〜30%
(iii) 波長600nm〜700nmの平均透過率と波長590nm〜600nmの平均透過率の差が5%以上
【0018】
[7] [1]ないし[6]のいずれかに記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズ。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特定のテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)を用いることにより、ハイコントラスト性を改善し、赤色を明確に識別することができる眼鏡レンズを提供することができる。しかも、このテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)は、耐候性に優れるため、樹脂組成物の耐候性、耐久性を高めることができ、その光学性能を長期に亘り持続させることができる。
【0020】
本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物において、透明性樹脂(A)としては、特に芳香族ポリカーボネート樹脂が、透明性、耐衝撃性等の面で好ましい(請求項2)。
【0021】
また、本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物は、さらに最大吸収波長を350〜400nmに持つ紫外線吸収剤(C)を含むことが、紫外線をカットして目を保護する上で好ましく(請求項3)、この紫外線吸収剤(C)としては、クロロベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が紫外線吸収性能の面で好ましい(請求項4)。
【0022】
また、本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物は、さらに最大吸収波長を400〜500nmに持つ染料(D)を含むことが好ましく、この染料(D)を配合することにより、低波長の青色波長の透過率を低下させて、目の日焼けを抑えることができる(請求項5)。
【0023】
本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物によれば、特定のテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)とクロロベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤(C)と上記染料(D)とを含むことにより、通常、眼鏡レンズに要求される以下の(i)〜(iii)の分光光線透過率特性を満たす眼鏡レンズを、偏光フィルム等を用いることなく、本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズのみで実現することができるため、生産工程の簡略化により製品の大幅なコストダウンを図ることができる(請求項6)。
(i) 波長300〜400nmの平均透過率が1%未満
(ii) 波長400nm〜550nmの平均透過率が10〜30%
(iii) 波長600nm〜700nmの平均透過率と波長590nm〜600nmの平均透過率の差が5%以上
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1〜3における分光光線透過率の測定チャートである。
【図2】実施例5における分光光線透過率の測定チャートである。
【図3】実施例6における分光光線透過率の測定チャートである。
【図4】実施例7における分光光線透過率の測定チャートである。
【図5】実施例8,9における分光光線透過率の測定チャートである。
【図6】実施例10における分光光線透過率の測定チャートである。
【図7】実施例11における分光光線透過率の測定チャートである。
【図8】実施例12における分光光線透過率の測定チャートである。
【図9】比較例1における分光光線透過率の測定チャートである。
【図10】比較例2における分光光線透過率の測定チャートである。
【図11】比較例3における分光光線透過率の測定チャートである。
【図12】参考例1における分光光線透過率の測定チャートである。
【図13】参考例2における分光光線透過率の測定チャートである。
【図14】本発明に係るテトラアザポルフィリン化合物系染料と比較例に係るテトラアザポルフィリン化合物系染料の分光光線透過率の測定チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0026】
[1] 眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物
本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物(以下、「本発明の樹脂組成物」と称す場合がある。)は、透明性樹脂(A)と特定のテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)を必須の成分として含有するものである。
【0027】
[透明性樹脂(A)]
本発明で用いる透明性樹脂(A)としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂、水添ポリスチレン樹脂、ポリアクリルスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、SMA樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂、ポリメタクリルメタクリレート樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、非晶性ポリアミド樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1、環状ポリオレフィン樹脂、非晶性ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォン、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマーが挙られる。これらの中では、透明性、耐衝撃性、耐熱性等の面から、ポリカーボネート樹脂、中でも、芳香族ポリカーボネート樹脂を主構成樹脂とするものが好ましい。ここで、主構成樹脂とするとは、透明性樹脂(A)中の芳香族ポリカーボネート樹脂の割合が通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上であることを意味する。
【0028】
芳香族ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂を主構成樹脂とする場合に併用する樹脂は、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリメタクリルメタクリレート樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられ、その形態は、透明性を維持する形態であればアロイでも共重合体でもよい。
【0029】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂とは、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる分岐していてもよい熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体である。なお、本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法については、限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)あるいは、溶融法(エステル交換法)等いずれの方法でも製造することができる。
【0030】
該芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−2,5−ジエトキシジフェニルエーテルなどが挙げられ、これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は単独で、又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0031】
分岐したポリカーボネート樹脂を得るには、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどで示されるポリヒドロキシ化合物、あるいは3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチンビスフェノール、5,7−ジクロルイサチンビスフェノール、5−ブロムイサチンビスフェノールなどを前記芳香族ジヒドロキシ化合物の一部として用いればよく、その場合、これらの使用量は、通常0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0032】
本発明において、芳香族ポリカーボネート樹脂としては、好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される芳香族ポリカーボネート樹脂、又は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が挙げられる。
【0033】
エステル交換法により芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する場合の原料となる炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等ジアルキルカーボネートが挙げられる。
【0034】
また、分子量を調節するためには、芳香族ジヒドロキシ化合物の一部として一価芳香族ヒドロキシ化合物の1種又は2種以上を用いてもよい。一価芳香族ヒドロキシ化合物としては、例えば、m−及びp−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール及びp−長鎖アルキル置換フェノールなどが挙げられる。
【0035】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量(Mv)で、好ましくは20,000〜50,000である。粘度平均分子量が20,000より小さいと、レンズ成形品の耐衝撃性が低下し、割れが発生する虞があるので好ましくなく、50,000より大きいと、流動性が悪くなり、成形性に問題がある。芳香族ポリカーボネート樹脂のより好ましい粘度平均分子量は20,000〜40,000であり、さらに好ましくは21,000〜30,000である。なお、粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよい。
【0036】
なお、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10−4Mv0.83、から算出される値を意味する。また極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0037】
【数1】
【0038】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂単独(芳香族ポリカーボネート樹脂単独とは、芳香族ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、モノマー組成や分子量、物性等が互いに異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂を含む態様を含む意味で用いる。)で用いてもよく、芳香族ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とを組み合わせてアロイ(混合物)として用いてもよい。さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、芳香族ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマー又はポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマー又はポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマー又はポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマー又はポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマー又はポリマーとの共重合体;等の、芳香族ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
【0039】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、芳香族ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1500以上、好ましくは2000以上であり、また、通常9500以下、好ましくは9000以下である。この場合、本発明の樹脂組成物中に含有されるポリカーボネートオリゴマーは、芳香族ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30重量%以下とすることが好ましい。
【0040】
[テトラアザポルフィリン化合物系染料(B)]
本発明で用いるテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)は、下記構造式で表されるものである。
【0041】
【化2】
【0042】
本発明においては上記特定のテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)を用いることにより、優れたハイコントラスト性と耐候性、耐久性を実現する。
【0043】
本発明の樹脂組成物において、上記テトラアザポルフィリン化合物系染料(B)(以下「(B)成分」と称す場合がある。)の配合量が少な過ぎると、このテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)を配合したことによるハイコントラスト性の改善効果を十分に得ることができないが、テトラアザポルフィリン化合物系染料(B)が多過ぎると緑色の認識性が低下する可能性があるため、テトラアザポルフィリン化合物系染料(B)の配合量は、透明性樹脂(A)100重量部に対して0.0001〜0.01重量部、好ましくは0.0003〜0.01重量部、より好ましくは0.0005〜0.01重量%とする。
【0044】
[紫外線吸収剤(C)]
本発明の樹脂組成物は、紫外線をカットして目の保護効果を高める目的で、最大吸収波長を350〜400nmに持つ紫外線吸収剤(以下「(C)成分」と称す場合がある。)を含有することが好ましい。
【0045】
最大吸収波長を350〜400nmに持つ紫外線吸収剤(C)としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましく、特に、紫外線吸収性能の面でクロロベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。
【0046】
クロロベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール及び2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール)−2−イル)フェノール等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
また、上記の紫外線吸収剤に加えて、さらにその他の紫外線吸収剤を併用することができる。その他の紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、サリチル酸フェニル系、ヒンダードアミン系、トリアジン系、マロン酸エステル系、シアノアクリレート系、ベンゾオキサジン系等が挙げられる。
【0048】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,4−ジヒドロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシ−ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−ベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシ−ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0049】
サリチル酸フェニル系紫外線吸収剤としては、フェニルサルチレート、2−4−ジターシャリーブチルフェニル−3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。ヒンダードアミン系紫外線吸収剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート等が挙げられる。
【0050】
さらに、最大吸収波長が350nm未満のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を併用することもできる。
【0051】
本発明の樹脂組成物において、上記特定の最大吸収波長を持つ紫外線吸収剤(C)の配合量が少な過ぎると、この紫外線吸収剤(C)を配合したことによる紫外線カット性能を十分に得ることができないが、紫外線吸収剤(C)が多過ぎると成形時の発生ガスが多くなり、レンズ表面に曇りが発生する可能性があることから、紫外線吸収剤(C)の配合量は、透明性樹脂(A)100重量部に対して好ましくは0.1〜1.0重量部、より好ましくは0.1〜0.5重量部とする。
【0052】
[染料(D)]
本発明の樹脂組成物は、さらに低波長の青色波長の透過率を低下させて、目の日焼けを抑えるために、最大吸収波長を400〜550nm、好ましくは430〜500nmに持つ染料(D)を含むことが好ましい。
【0053】
このような染料(D)としては、最大吸収波長が上記範囲に入るものであればよく、特に制限はないが、ペリノン系赤色染料を用いることが熱安定性、耐候性の点で好ましく、特にSolvent Red 179のカラーインデックスで市販されている染料や、Solvent Orange 60のカラーインデックスで市販されている染料、Solvent Red 135のカラーインデックスで市販されている染料などが挙げられるが、特に、下記構造式(a)で表される化合物を主成分とするSolvent Red 179(最大吸収波長480nm)と下記構造式(b)で表される化合物を主成分とするSolvent Orange 60(最大吸収波長450nm)とを併用することが、青色の認知性を低下させずに目の日焼けを抑える点で好ましい。
【0054】
【化3】
【0055】
本発明の樹脂組成物において、上記特定の最大吸収波長を持つ染料(D)(以下「(D)成分」と称す場合がある。)を用いる場合、その配合量が少な過ぎると、この染料(D)の配合効果を十分に得ることができないが、染料(D)が多過ぎると青色や緑色の認識性が低下するため、染料(D)の配合量は、透明性樹脂(A)100重量部に対して好ましくは0.001〜0.1重量部、より好ましくは0.005〜0.05重量部とする。特に、Solvent Red 179とSolvent Orange 60とを併用する場合、Solvent Red 179とSolvent Orange 60とを1:0.5〜2.0(重量比)の割合で用い、これらの合計が上記範囲となるように用いることが好ましい。
【0056】
[安定剤(E)]
本発明の樹脂組成物は、溶融加工時や、高温下での長期間使用時等に生ずる黄変抑制、更に機械的強度低下抑制等の目的で、熱安定剤や酸化防止剤といった安定剤(E)(以下「(E)成分」と称す場合がある。)を含有することが好ましい。
【0057】
熱安定剤や酸化防止剤は、従来公知の任意のものを使用でき、熱安定剤としてはリン系化合物が、酸化防止剤としてはフェノール化合物が好ましく、これらは併用してもよい。
【0058】
リン系化合物は一般的に、樹脂を溶融混練する際、高温下での滞留安定性や樹脂成形体使用時の耐熱安定性向上に有効であり、フェノール化合物は一般的に、耐熱老化性等の、成形体使用時の耐熱安定性に効果が高い。また、リン系化合物とフェノール化合物を併用することによって、着色性の改良効果が一段と向上する。
【0059】
本発明に用いるリン系化合物としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも3価のリンを含み、変色抑制効果を発現しやすい点で、ホスファイト、ホスホナイト、アシッドホスフェート等の亜リン酸エステルが好ましい。
【0060】
ホスファイトとしては、具体的には例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)テトラ(トリデシル)、4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0061】
また、ホスホナイトとしては、テトラキス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイトなどが挙げられる。
【0062】
また、アシッドホスフェートとしては、例えば、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0063】
亜リン酸エステルの中では、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、耐熱性が良好であることと加水分解しにくいという点で、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。
【0064】
酸化防止剤としては特定構造を分子内に有するフェノール化合物が好ましく、具体的には2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリエチレングリコールビス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオールビス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、オクタデシル[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。
【0065】
中でも、ポリカーボネート樹脂と混練される際の黄変抑制の面から、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが好ましく、特に、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが好ましい。
【0066】
これらの熱安定剤や酸化防止剤は、それぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
本発明の樹脂組成物中のこれら熱安定剤や酸化防止剤といった安定剤(E)の含有量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、熱安定剤は透明性樹脂(A)100重量部に対して0.005〜0.2重量部、特に0.01〜0.1重量部が好ましく、酸化防止剤は透明性樹脂(A)100重量部に対して0.01〜0.5重量部、特に0.05〜0.2重量部が好ましく、これらの合計量として透明性樹脂(A)100重量部に対して0.0001〜0.5重量部であり、0.0003〜0.3重量部が好ましく、0.001〜0.1重量部が特に好ましい。安定剤(E)の含有量が少なすぎると効果が不十分であり、逆に多すぎた場合、成形時のガス発生によりレンズの曇りが生ずる場合がある。
【0068】
[その他の染料(F)]
本発明の樹脂組成物には、色調のコントロールや、さらなる目の保護効果のための入射光カットを目的として、上述の染料(D)以外の他の染料(F)(以下「(F)成分」と称す場合がある。)を含有していてもよい。
【0069】
このような他の染料(F)としては、最大吸収波長を550〜650nmに持つアンスラキノン系染料が挙げられる。アンスラキノン系染料は、アンスラキノン骨格を有する染料であり、具体的には、アンスラキノンブルー系、アンスラキノンレッド系、アンスラキノンバイオレット系、アンスラキノングリーン系等が例示される。
好ましくは、Solvent Blue 97、Solvent Bule 87、Solvent Violet 36、Solvent Violet 13、Solvent Violet 14のカラーインデックスで市販されているアンスラキノン系染料が挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
アンスラキノン系染料等の他の染料(F)を用いる場合、本発明の樹脂組成物中のこれらの他の染料(F)の含有量については、多過ぎると透過率が低下して視認性が低下する可能性があることから、透明性樹脂(A)100重量部に対して0.02重量部以下、特に0.01重量部以下とすることが好ましい。
【0071】
[その他の添加剤]
本発明の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない限り、上記(B)〜(F)成分以外の他の添加剤を含有していてもよい。他の添加剤としては、通常樹脂組成物に一般的に用いられる樹脂用添加剤が挙げられ、例えば、難燃剤、離型剤、帯電防止剤、防曇剤、離型剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、摺動性改質剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、これらの樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0072】
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0073】
脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸は、脂環式カルボン酸も包含する。このうち好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36のモノ又はジカルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和モノカルボン酸がさらに好ましい。このような脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラトリアコンタン酸、モンタン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸等を挙げることができる。
【0074】
脂肪族カルボン酸エステルを構成する脂肪族カルボン酸成分としては、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、脂肪族カルボン酸エステルを構成するアルコール成分としては、飽和又は不飽和の1価アルコール、飽和又は不飽和の多価アルコール等を挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基等の置換基を有していてもよい。これらのアルコールのうち、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、さらに炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが好ましい。ここで脂肪族アルコールは、脂環式アルコールも包含する。
【0075】
これらのアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等を挙げることができる。これらの脂肪族カルボン酸エステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0076】
脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸オクチルドデシル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレートを挙げることができる。
【0077】
数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素は部分酸化されていてもよい。
【0078】
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
【0079】
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5,000以下である。
なお、脂肪族炭化水素は、単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
【0080】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。
【0081】
なお、上述した離型剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0082】
離型剤の含有量は、透明性樹脂(A)100重量部に対して、通常0.001重量部以上、好ましくは0.01重量部以上であり、また、通常2重量部以下、好ましくは1重量部以下である。離型剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0083】
難燃剤としては、組成物の難燃性を向上させるものであれば特に限定されないが、例えば、ハロゲン化ビスフェノールAのポリカーボネート、ブロム化ビスフェノール系エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、ブロム化ポリスチレンなどのハロゲン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、有機スルホン酸金属塩系難燃剤、シリコーン系難燃剤等が挙げられる。
これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0084】
難燃剤を用いる場合、難燃剤の配合量は、適宜選択して決定すればよいが、少なすぎると難燃効果が不十分となり、逆に多すぎても耐熱性や機械物性が低下する場合があるので、通常、本発明の樹脂組成物中の難燃剤の含有量は、例えば、リン酸エステル系難燃剤であれば透明性樹脂(A)100重量部に対して5〜20重量部、有機スルホン酸金属塩系難燃剤であれば0.02〜0.2重量部、シリコーン化合物系難燃剤であれば0.3〜3重量部である。
【0085】
また、これらの難燃剤に、無機化合物系難燃助剤を併用しても良く、無機化合物系難燃助剤としては、タルク、マイカ、カオリン、クレー、シリカ粉末、ヒュームドシリカ等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0086】
これらの難燃剤に無機化合物系難燃助剤を併用する場合、無機化合物系難燃助剤の配合量が少な過ぎると十分な配合効果が得られず、多過ぎると耐熱性や機械物性が低下することから、樹脂組成物中の無機化合物系難燃助剤の含有量は透明性樹脂(A)100重量部に対して1〜20重量部とすることが好ましく、更に好ましくは3〜10重量部である。
【0087】
[本発明の樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知の樹脂組成物の製造方法を広く採用することができる。
【0088】
具体例を挙げると、前述の透明性樹脂(A)と(B)成分、並びに、必要に応じて配合される(C)〜(F)成分、その他の添加剤を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0089】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、又は、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、本発明の樹脂組成物を製造することもできる。
【0090】
また、例えば、一部の成分を予め混合して押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
【0091】
特に、少量配合成分である(B)成分、(D)成分、(F)成分については、これをマスターバッチ化して混合することが好ましい。
【0092】
[本発明の樹脂組成物の分光光線透過率]
本発明の樹脂組成物を成形してなる厚み2mmの試験片について測定した分光光線透過率の測定値は、以下の(i)〜(iii)(以下の(i)〜(iii)において、「平均透過率」とは、いずれも、各々の波長範囲において、10nmピッチで測定した測定値を平均することにより求めた値である。)を満たすことが好ましい。
(i) 波長300〜400nmの平均透過率が1%未満
(ii) 波長400nm〜550nmの平均透過率が10〜30%
(iii) 波長600nm〜700nmの平均透過率と波長590nm〜600nmの平均透過率の差が5%以上
【0093】
本発明の樹脂組成物が上記(i)〜(iii)の特性を満たすことにより、偏光フィルム等を用いることなく、本発明の樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズのみで眼鏡レンズに要求される特性を満たすことができ、この場合には、眼鏡レンズの生産工程の簡略化により大幅なコストダウンを図ることができる。
【0094】
[2] 眼鏡レンズ
本発明の眼鏡レンズは、本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる。
本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形して本発明の眼鏡レンズを製造するための成形方法には特に制限はないが、金型を用いた射出成形法が好ましい。その他、射出圧縮成形、押出圧縮成形、シート成形により成形することもできる。
【0095】
本発明の眼鏡レンズは、通常の凹レンズ、凸レンズのみならず、サングラス、保護メガネ等のレンズ、或いは、レンズと枠を一体成形したゴーグル型メガネ等、様々な眼鏡レンズに適用することができる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0097】
[使用樹脂及び添加剤]
<透明性樹脂(A)>
a−1:芳香族ポリカーボネート樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロンE−2000F」(粘度平均分子量[Mv]=28000)
a−2:芳香族ポリカーボネート樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロンS−3000F」(粘度平均分子量[Mv]=23000)
a−3:芳香族ポリカーボネート樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロンH−4000F」(粘度平均分子量[Mv]=16000)
a−4:アクリル樹脂 三菱レイヨン社製「アクリペット VH−001」
【0098】
<テトラアザポルフィリン化合物系染料(B)>
b−1:三井化学社製「DP−319」(本発明例)
b−2:山田化学社製「TAP−18」(比較例)
【0099】
【化4】
【0100】
<紫外線吸収剤(C)>
c−1:Ciba社製「チヌビン326」(2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−tert−ブチルフェノール、最大吸収波長=353nm)
c−2:シプロ化成社製「シーソーブ709」(2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、最大吸収波長=343nm)
【0101】
<染料(D)>
d−1:有本化学社製「プラストオレンジ8150(Solvent Orange 60)」(ペリノン系、最大吸収波長=450nm)
d−2:有本化学社製「プラストレッド8370(Solvent Red 179)」(ペリノン系、最大吸収波長=480nm)
【0102】
<安定剤(E)>
e−1:ADEKA社製「アデカスタブ2112」(トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト)
e−2:Ciba社製「イルガノックス1010」(ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
【0103】
<その他染料(F)>
f−1:ランクセス社製「マクロレックス BlueRR(Solvent Blue 97)」(アンスラキノン系、最大吸収波長=630nm)
f−2:ランクセス社製「マクロレックス Violet3R(Solvent Violet 36)」(アンスラキノン系、最大吸収波長=560nm)
【0104】
[実施方法]
(1)樹脂組成物の製法
各材料を表1,2に示す重量比で配合し、タンブラーを用いてよく混合した。なお、混合に際し、(B)成分、(D)成分及び(F)成分については、予め粉体の透明性樹脂で100重量倍に薄めてマスターバッチを作成した後に混合した。
得られた混合物を、田辺プラスチックス機械工業社製「VS40」を用いて280℃で溶融混練し、水中にストランド状に押し出し、切断してペレットとした。
【0105】
(2)試験片の成形
<プレートの成形>
(1)で得られたペレットを120℃で4時間乾燥した後、日本製鋼所社製「J55」を用い、シリンダー温度290℃、金型温度80℃、成形サイクル1分で射出成形した。金型は80mm×40mm×(厚み2mmと1mm)の2段プレートを用いた。
この試験片を用いて、分光光線透過率の測定と、耐候性試験、及び色相測定、赤色の鮮明度の評価を行った。
<ISO試験片の成形>
(1)で得られたペレットを120℃で4時間乾燥した後、住友重機械工業社製「SG75」を用い、シリンダー温度290℃、金型温度80℃、成形サイクル1分で射出成形した。金型はISOのタイプAのダンベル片2個取り金型を用いた。試験片の厚みは3mmである。
この試験片を用いて、衝撃強度の評価を行った。
【0106】
(3)分光光線透過率の測定
島津以作所社製UV3100を用いて、2段プレートの2mm厚み部分について、波長250nmから1000nmの範囲の透過率を10nmピッチで測定した。
・波長300nm〜400nmの平均透過率は、この波長範囲の10nmピッチの測定値を平均することにより求めた。
・波長400nm〜550nmの平均透過率は、この波長範囲の10nmピッチの測定値を平均することにより求めた。
・波長590nm〜600nmの平均透過率は、この波長範囲の10nmピッチの測定値を平均することにより求めた。
・波長600nm〜700nmの平均透過率は、この波長範囲の10nmピッチの測定値を平均することにより求めた。
【0107】
(4)衝撃強度の評価
ISOのダンベル片を東洋精機製作所社製「ノッチングチール」を用いて、シャルピー衝撃試験片に加工した。
衝撃試験片はノッチ付き、ノッチ無しのものを加工して、それぞれ衝撃試験(ISO179)を行った。
【0108】
(5)色相(初期色相)の測定
日本電色社製「SE−2000」を用いてL,a,bとYI値(初期YI値)の測定を行った。測定は2段プレートの2mm厚み部分を透過で測定した。
【0109】
(6)耐光性試験
スガ試験機社製「サンシャインウエザオメーター」を用いて、63℃雨有り(18分雨/60分)、83℃雨無しの条件(60分間のうち、18分間が63℃雨有りで、残りの42分間が83℃雨無し)にて、400時間処理したときの色相変化(ΔE)を測定した。
ΔEは、200時間処理後と400時間処理後のYI値をそれぞれ上記(5)と同様に測定し、初期YI値に対する変化として求めた。
【0110】
(7)赤色の鮮明度の評価
視力検査のレッド・グリーンテストに使用される赤地に黒環を描いたプレートと緑地に黒環を描いたプレートを用い、2段プレートの2mm厚みの部分を通してみたときに赤色が鮮明に見えるかどうかを評価した。
通常の状態で両方とも同じように鮮明に見えるモニター10人で試験を行い、以下の点数で評価を行い、10人の評価点の合計が24点以上である場合に赤色の鮮明度非常に良好(○)とし、18〜23点を赤色の鮮明度良好(△)とし、17点以下を赤色の鮮明度不良(×)とした。
3・・・赤が鮮明に見える
2・・・赤が若干鮮明に見える
1・・・変わらない
【0111】
[実施例1〜12、比較例1〜3、参考例1,2]
実施例1〜12、比較例1〜3、及び参考例1,2の樹脂組成物配合と、評価結果を表1,2に示す。
また、実施例1〜3,5〜12、比較例1〜3、及び参考例1,2における分光光線透過率の測定チャートを図1〜13に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
[考察]
実施例1〜12、比較例1〜3、及び参考例1,2の結果より次のことが分かる。
実施例1〜12では、いずれも目に有害な紫外線を遮断し、且つ、ハイコントラスト性に優れ、赤色をはっきり見せることが出来る。このため、L錐体細胞の弱い1型色覚者の赤色の認識を助けることが出来る。
特に、実施例8〜11では、短波長の青色の透過率を低下させることにより、目の日焼けを抑えることができる。
【0115】
比較例1では、テトラアザポルフィリン化合物系染料を配合していないため、赤色を鮮明に認識できない。
比較例2では、テトラアザポルフィリン化合物系染料を配合しているが、本発明で用いる特定のテトラアザポルフィリン化合物系染料ではないため、耐候性が悪く、ハイコントラスト性の効果を持続できない。
比較例3では、本発明に係るテトラアザポルフィリン化合物系染料を配合しているが、その配合量が少ないため、赤色の認識改善効果が低い。
【0116】
参考例1では、紫外線吸収剤を配合していないので、紫外線のカット特性が不十分であり、テトラアザポルフィリン化合物系染料の効果の持続性が低いと考えられる。
参考例2では、紫外線吸収剤を用いているが、本発明で好ましいとする紫外線吸収剤ではないため、紫外線のカット特性が不十分である。
【0117】
なお、実施例1〜12で用いたテトラアザポルフィリン化合物系染料(DP−319)と比較例2で用いたテトラアザポルフィリン化合物系染料(TAP−18)を、それぞれ、芳香族ポリカーボネート樹脂(ユーピロンS−3000F)に10ppm濃度で混合した樹脂組成物について、上記(3)と同様にして測定した分光光線透過率の測定チャートを図14(a),(b)に示す。
これらから、DP−319の方がTAP−18よりも波長590nm付近の吸収が大きく、ハイコントラスト性改善に有効であることが分かる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物及びこの眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズに関するものである。詳しくは、ハイコントラストで、赤色の識別性能に優れる眼鏡レンズを提供し得る眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物と、この眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、高屈折率を有し、透明性や耐衝撃性に優れた特性を有することから、レンズ用材料として使用されており、近年、眼鏡レンズ用材料として、視力補正用レンズ、サングラスや保護眼鏡等に用いられている。また、最近では、目を有害な紫外線から保護するために、眼鏡レンズに紫外線吸収能を付与するべく、眼鏡レンズ用材料として紫外線吸収剤を配合した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物も提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
眼鏡レンズにはまた、赤信号灯や赤色のブレーキランプをより明確に識別するために、赤色がより良く見えるハイコントラスト性もが求められており、このようなハイコントラスト性は、色弱者の矯正用眼鏡においても求められている。
更に、眼鏡レンズには、長期間に亘る耐候性、耐久性に優れることが要求される。
【0004】
従来、ガラス製眼鏡レンズや熱硬化性樹脂製の眼鏡レンズにあっては、ハイコントラスト性を得るためにネオジム化合物が配合されているが、ネオジム化合物は熱可塑性樹脂に対しては分散し難く、特にポリカーボネート樹脂に対する分散性が悪いことから、ポリカーボネート樹脂製眼鏡レンズに対してハイコントラスト性の改善のためにネオジム化合物を配合することは不適切である。
【0005】
ネオジム化合物を用いずにハイコントラスト性を改善した眼鏡レンズとして、芳香族ポリカーボネート樹脂にアンスラキノン系染料を配合した眼鏡レンズが提案されているが(特許文献2)、耐候性、耐久性についての検討はなされていない。
【0006】
なお、本発明で用いるテトラアザポルフィリン化合物系染料は、光記録用色素、光学フィルター用色素として公知であるが(特許文献3)、眼鏡レンズのハイコントラスト性改善のための配合成分として用いた例はなく、ましてその場合において、その他の類似の染料に比べて優れた耐候性、耐久性が得られることについては全く知られておらず、本発明者らの検討により初めて解明された特長である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−352828号公報
【特許文献2】特開2010−204383号公報
【特許文献3】特開2008−268331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、良好なハイコントラスト性と、優れた耐候性、耐久性を兼備し、更には紫外線吸収機能、色調コントロール機能にも優れた眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物と、この眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のテトラアザポルフィリン化合物系染料を配合することにより、ハイコントラスト性を改善することができ、しかも、このテトラアザポルフィリン化合物系染料を配合した場合には、他の染料を配合した場合に比べて、耐候性、耐久性にも優れたものとなることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] 透明性樹脂(A)100重量部と、下記構造式で表されるテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)0.0001〜0.01重量部とを含有することを特徴とする眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【0012】
【化1】
【0013】
[2] 前記透明性樹脂が、芳香族ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする[1]に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
[3] さらに、最大吸収波長を350〜400nmに持つ紫外線吸収剤(C)を、前記透明性樹脂(A)100重量部に対して0.1〜1.0重量部含有することを特徴とする[1]又は[2]に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
[4] 前記紫外線吸収剤が、クロロベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤であることを特徴とする[3]に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【0016】
[5] さらに、最大吸収波長を400〜550nmに持つ染料(D)を、透明性樹脂(A)100重量部に対して0.0001〜0.01重量部含有することを特徴とする[4]に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【0017】
[6] 前記熱可塑性樹脂組成物を成形してなる厚み2mmの試験片について測定した分光光線透過率の測定値が、以下の(i)〜(iii)(以下の(i)〜(iii)において、「平均透過率」とは、いずれも、各々の波長範囲において、10nmピッチで測定した測定値を平均することにより求めた値である。)を満たすことを特徴とする[5]に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
(i) 波長300〜400nmの平均透過率が1%未満
(ii) 波長400nm〜550nmの平均透過率が10〜30%
(iii) 波長600nm〜700nmの平均透過率と波長590nm〜600nmの平均透過率の差が5%以上
【0018】
[7] [1]ないし[6]のいずれかに記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズ。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特定のテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)を用いることにより、ハイコントラスト性を改善し、赤色を明確に識別することができる眼鏡レンズを提供することができる。しかも、このテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)は、耐候性に優れるため、樹脂組成物の耐候性、耐久性を高めることができ、その光学性能を長期に亘り持続させることができる。
【0020】
本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物において、透明性樹脂(A)としては、特に芳香族ポリカーボネート樹脂が、透明性、耐衝撃性等の面で好ましい(請求項2)。
【0021】
また、本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物は、さらに最大吸収波長を350〜400nmに持つ紫外線吸収剤(C)を含むことが、紫外線をカットして目を保護する上で好ましく(請求項3)、この紫外線吸収剤(C)としては、クロロベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が紫外線吸収性能の面で好ましい(請求項4)。
【0022】
また、本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物は、さらに最大吸収波長を400〜500nmに持つ染料(D)を含むことが好ましく、この染料(D)を配合することにより、低波長の青色波長の透過率を低下させて、目の日焼けを抑えることができる(請求項5)。
【0023】
本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物によれば、特定のテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)とクロロベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤(C)と上記染料(D)とを含むことにより、通常、眼鏡レンズに要求される以下の(i)〜(iii)の分光光線透過率特性を満たす眼鏡レンズを、偏光フィルム等を用いることなく、本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズのみで実現することができるため、生産工程の簡略化により製品の大幅なコストダウンを図ることができる(請求項6)。
(i) 波長300〜400nmの平均透過率が1%未満
(ii) 波長400nm〜550nmの平均透過率が10〜30%
(iii) 波長600nm〜700nmの平均透過率と波長590nm〜600nmの平均透過率の差が5%以上
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1〜3における分光光線透過率の測定チャートである。
【図2】実施例5における分光光線透過率の測定チャートである。
【図3】実施例6における分光光線透過率の測定チャートである。
【図4】実施例7における分光光線透過率の測定チャートである。
【図5】実施例8,9における分光光線透過率の測定チャートである。
【図6】実施例10における分光光線透過率の測定チャートである。
【図7】実施例11における分光光線透過率の測定チャートである。
【図8】実施例12における分光光線透過率の測定チャートである。
【図9】比較例1における分光光線透過率の測定チャートである。
【図10】比較例2における分光光線透過率の測定チャートである。
【図11】比較例3における分光光線透過率の測定チャートである。
【図12】参考例1における分光光線透過率の測定チャートである。
【図13】参考例2における分光光線透過率の測定チャートである。
【図14】本発明に係るテトラアザポルフィリン化合物系染料と比較例に係るテトラアザポルフィリン化合物系染料の分光光線透過率の測定チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0026】
[1] 眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物
本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物(以下、「本発明の樹脂組成物」と称す場合がある。)は、透明性樹脂(A)と特定のテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)を必須の成分として含有するものである。
【0027】
[透明性樹脂(A)]
本発明で用いる透明性樹脂(A)としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂、水添ポリスチレン樹脂、ポリアクリルスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、SMA樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂、ポリメタクリルメタクリレート樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、非晶性ポリアミド樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1、環状ポリオレフィン樹脂、非晶性ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォン、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマーが挙られる。これらの中では、透明性、耐衝撃性、耐熱性等の面から、ポリカーボネート樹脂、中でも、芳香族ポリカーボネート樹脂を主構成樹脂とするものが好ましい。ここで、主構成樹脂とするとは、透明性樹脂(A)中の芳香族ポリカーボネート樹脂の割合が通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上であることを意味する。
【0028】
芳香族ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂を主構成樹脂とする場合に併用する樹脂は、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリメタクリルメタクリレート樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられ、その形態は、透明性を維持する形態であればアロイでも共重合体でもよい。
【0029】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂とは、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる分岐していてもよい熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体である。なお、本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法については、限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)あるいは、溶融法(エステル交換法)等いずれの方法でも製造することができる。
【0030】
該芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−2,5−ジエトキシジフェニルエーテルなどが挙げられ、これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は単独で、又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0031】
分岐したポリカーボネート樹脂を得るには、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどで示されるポリヒドロキシ化合物、あるいは3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチンビスフェノール、5,7−ジクロルイサチンビスフェノール、5−ブロムイサチンビスフェノールなどを前記芳香族ジヒドロキシ化合物の一部として用いればよく、その場合、これらの使用量は、通常0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0032】
本発明において、芳香族ポリカーボネート樹脂としては、好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される芳香族ポリカーボネート樹脂、又は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が挙げられる。
【0033】
エステル交換法により芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する場合の原料となる炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等ジアルキルカーボネートが挙げられる。
【0034】
また、分子量を調節するためには、芳香族ジヒドロキシ化合物の一部として一価芳香族ヒドロキシ化合物の1種又は2種以上を用いてもよい。一価芳香族ヒドロキシ化合物としては、例えば、m−及びp−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール及びp−長鎖アルキル置換フェノールなどが挙げられる。
【0035】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量(Mv)で、好ましくは20,000〜50,000である。粘度平均分子量が20,000より小さいと、レンズ成形品の耐衝撃性が低下し、割れが発生する虞があるので好ましくなく、50,000より大きいと、流動性が悪くなり、成形性に問題がある。芳香族ポリカーボネート樹脂のより好ましい粘度平均分子量は20,000〜40,000であり、さらに好ましくは21,000〜30,000である。なお、粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよい。
【0036】
なお、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10−4Mv0.83、から算出される値を意味する。また極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0037】
【数1】
【0038】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂単独(芳香族ポリカーボネート樹脂単独とは、芳香族ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、モノマー組成や分子量、物性等が互いに異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂を含む態様を含む意味で用いる。)で用いてもよく、芳香族ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とを組み合わせてアロイ(混合物)として用いてもよい。さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、芳香族ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマー又はポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマー又はポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマー又はポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマー又はポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマー又はポリマーとの共重合体;等の、芳香族ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
【0039】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、芳香族ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1500以上、好ましくは2000以上であり、また、通常9500以下、好ましくは9000以下である。この場合、本発明の樹脂組成物中に含有されるポリカーボネートオリゴマーは、芳香族ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30重量%以下とすることが好ましい。
【0040】
[テトラアザポルフィリン化合物系染料(B)]
本発明で用いるテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)は、下記構造式で表されるものである。
【0041】
【化2】
【0042】
本発明においては上記特定のテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)を用いることにより、優れたハイコントラスト性と耐候性、耐久性を実現する。
【0043】
本発明の樹脂組成物において、上記テトラアザポルフィリン化合物系染料(B)(以下「(B)成分」と称す場合がある。)の配合量が少な過ぎると、このテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)を配合したことによるハイコントラスト性の改善効果を十分に得ることができないが、テトラアザポルフィリン化合物系染料(B)が多過ぎると緑色の認識性が低下する可能性があるため、テトラアザポルフィリン化合物系染料(B)の配合量は、透明性樹脂(A)100重量部に対して0.0001〜0.01重量部、好ましくは0.0003〜0.01重量部、より好ましくは0.0005〜0.01重量%とする。
【0044】
[紫外線吸収剤(C)]
本発明の樹脂組成物は、紫外線をカットして目の保護効果を高める目的で、最大吸収波長を350〜400nmに持つ紫外線吸収剤(以下「(C)成分」と称す場合がある。)を含有することが好ましい。
【0045】
最大吸収波長を350〜400nmに持つ紫外線吸収剤(C)としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましく、特に、紫外線吸収性能の面でクロロベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。
【0046】
クロロベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール及び2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール)−2−イル)フェノール等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
また、上記の紫外線吸収剤に加えて、さらにその他の紫外線吸収剤を併用することができる。その他の紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、サリチル酸フェニル系、ヒンダードアミン系、トリアジン系、マロン酸エステル系、シアノアクリレート系、ベンゾオキサジン系等が挙げられる。
【0048】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,4−ジヒドロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシ−ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−ベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシ−ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0049】
サリチル酸フェニル系紫外線吸収剤としては、フェニルサルチレート、2−4−ジターシャリーブチルフェニル−3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。ヒンダードアミン系紫外線吸収剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート等が挙げられる。
【0050】
さらに、最大吸収波長が350nm未満のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を併用することもできる。
【0051】
本発明の樹脂組成物において、上記特定の最大吸収波長を持つ紫外線吸収剤(C)の配合量が少な過ぎると、この紫外線吸収剤(C)を配合したことによる紫外線カット性能を十分に得ることができないが、紫外線吸収剤(C)が多過ぎると成形時の発生ガスが多くなり、レンズ表面に曇りが発生する可能性があることから、紫外線吸収剤(C)の配合量は、透明性樹脂(A)100重量部に対して好ましくは0.1〜1.0重量部、より好ましくは0.1〜0.5重量部とする。
【0052】
[染料(D)]
本発明の樹脂組成物は、さらに低波長の青色波長の透過率を低下させて、目の日焼けを抑えるために、最大吸収波長を400〜550nm、好ましくは430〜500nmに持つ染料(D)を含むことが好ましい。
【0053】
このような染料(D)としては、最大吸収波長が上記範囲に入るものであればよく、特に制限はないが、ペリノン系赤色染料を用いることが熱安定性、耐候性の点で好ましく、特にSolvent Red 179のカラーインデックスで市販されている染料や、Solvent Orange 60のカラーインデックスで市販されている染料、Solvent Red 135のカラーインデックスで市販されている染料などが挙げられるが、特に、下記構造式(a)で表される化合物を主成分とするSolvent Red 179(最大吸収波長480nm)と下記構造式(b)で表される化合物を主成分とするSolvent Orange 60(最大吸収波長450nm)とを併用することが、青色の認知性を低下させずに目の日焼けを抑える点で好ましい。
【0054】
【化3】
【0055】
本発明の樹脂組成物において、上記特定の最大吸収波長を持つ染料(D)(以下「(D)成分」と称す場合がある。)を用いる場合、その配合量が少な過ぎると、この染料(D)の配合効果を十分に得ることができないが、染料(D)が多過ぎると青色や緑色の認識性が低下するため、染料(D)の配合量は、透明性樹脂(A)100重量部に対して好ましくは0.001〜0.1重量部、より好ましくは0.005〜0.05重量部とする。特に、Solvent Red 179とSolvent Orange 60とを併用する場合、Solvent Red 179とSolvent Orange 60とを1:0.5〜2.0(重量比)の割合で用い、これらの合計が上記範囲となるように用いることが好ましい。
【0056】
[安定剤(E)]
本発明の樹脂組成物は、溶融加工時や、高温下での長期間使用時等に生ずる黄変抑制、更に機械的強度低下抑制等の目的で、熱安定剤や酸化防止剤といった安定剤(E)(以下「(E)成分」と称す場合がある。)を含有することが好ましい。
【0057】
熱安定剤や酸化防止剤は、従来公知の任意のものを使用でき、熱安定剤としてはリン系化合物が、酸化防止剤としてはフェノール化合物が好ましく、これらは併用してもよい。
【0058】
リン系化合物は一般的に、樹脂を溶融混練する際、高温下での滞留安定性や樹脂成形体使用時の耐熱安定性向上に有効であり、フェノール化合物は一般的に、耐熱老化性等の、成形体使用時の耐熱安定性に効果が高い。また、リン系化合物とフェノール化合物を併用することによって、着色性の改良効果が一段と向上する。
【0059】
本発明に用いるリン系化合物としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも3価のリンを含み、変色抑制効果を発現しやすい点で、ホスファイト、ホスホナイト、アシッドホスフェート等の亜リン酸エステルが好ましい。
【0060】
ホスファイトとしては、具体的には例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)テトラ(トリデシル)、4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0061】
また、ホスホナイトとしては、テトラキス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイトなどが挙げられる。
【0062】
また、アシッドホスフェートとしては、例えば、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0063】
亜リン酸エステルの中では、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、耐熱性が良好であることと加水分解しにくいという点で、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。
【0064】
酸化防止剤としては特定構造を分子内に有するフェノール化合物が好ましく、具体的には2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリエチレングリコールビス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオールビス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、オクタデシル[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。
【0065】
中でも、ポリカーボネート樹脂と混練される際の黄変抑制の面から、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが好ましく、特に、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが好ましい。
【0066】
これらの熱安定剤や酸化防止剤は、それぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
本発明の樹脂組成物中のこれら熱安定剤や酸化防止剤といった安定剤(E)の含有量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、熱安定剤は透明性樹脂(A)100重量部に対して0.005〜0.2重量部、特に0.01〜0.1重量部が好ましく、酸化防止剤は透明性樹脂(A)100重量部に対して0.01〜0.5重量部、特に0.05〜0.2重量部が好ましく、これらの合計量として透明性樹脂(A)100重量部に対して0.0001〜0.5重量部であり、0.0003〜0.3重量部が好ましく、0.001〜0.1重量部が特に好ましい。安定剤(E)の含有量が少なすぎると効果が不十分であり、逆に多すぎた場合、成形時のガス発生によりレンズの曇りが生ずる場合がある。
【0068】
[その他の染料(F)]
本発明の樹脂組成物には、色調のコントロールや、さらなる目の保護効果のための入射光カットを目的として、上述の染料(D)以外の他の染料(F)(以下「(F)成分」と称す場合がある。)を含有していてもよい。
【0069】
このような他の染料(F)としては、最大吸収波長を550〜650nmに持つアンスラキノン系染料が挙げられる。アンスラキノン系染料は、アンスラキノン骨格を有する染料であり、具体的には、アンスラキノンブルー系、アンスラキノンレッド系、アンスラキノンバイオレット系、アンスラキノングリーン系等が例示される。
好ましくは、Solvent Blue 97、Solvent Bule 87、Solvent Violet 36、Solvent Violet 13、Solvent Violet 14のカラーインデックスで市販されているアンスラキノン系染料が挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
アンスラキノン系染料等の他の染料(F)を用いる場合、本発明の樹脂組成物中のこれらの他の染料(F)の含有量については、多過ぎると透過率が低下して視認性が低下する可能性があることから、透明性樹脂(A)100重量部に対して0.02重量部以下、特に0.01重量部以下とすることが好ましい。
【0071】
[その他の添加剤]
本発明の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない限り、上記(B)〜(F)成分以外の他の添加剤を含有していてもよい。他の添加剤としては、通常樹脂組成物に一般的に用いられる樹脂用添加剤が挙げられ、例えば、難燃剤、離型剤、帯電防止剤、防曇剤、離型剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、摺動性改質剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、これらの樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0072】
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0073】
脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸は、脂環式カルボン酸も包含する。このうち好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36のモノ又はジカルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和モノカルボン酸がさらに好ましい。このような脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラトリアコンタン酸、モンタン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸等を挙げることができる。
【0074】
脂肪族カルボン酸エステルを構成する脂肪族カルボン酸成分としては、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、脂肪族カルボン酸エステルを構成するアルコール成分としては、飽和又は不飽和の1価アルコール、飽和又は不飽和の多価アルコール等を挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基等の置換基を有していてもよい。これらのアルコールのうち、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、さらに炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが好ましい。ここで脂肪族アルコールは、脂環式アルコールも包含する。
【0075】
これらのアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等を挙げることができる。これらの脂肪族カルボン酸エステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0076】
脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸オクチルドデシル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレートを挙げることができる。
【0077】
数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素は部分酸化されていてもよい。
【0078】
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
【0079】
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5,000以下である。
なお、脂肪族炭化水素は、単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
【0080】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。
【0081】
なお、上述した離型剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0082】
離型剤の含有量は、透明性樹脂(A)100重量部に対して、通常0.001重量部以上、好ましくは0.01重量部以上であり、また、通常2重量部以下、好ましくは1重量部以下である。離型剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0083】
難燃剤としては、組成物の難燃性を向上させるものであれば特に限定されないが、例えば、ハロゲン化ビスフェノールAのポリカーボネート、ブロム化ビスフェノール系エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、ブロム化ポリスチレンなどのハロゲン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、有機スルホン酸金属塩系難燃剤、シリコーン系難燃剤等が挙げられる。
これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0084】
難燃剤を用いる場合、難燃剤の配合量は、適宜選択して決定すればよいが、少なすぎると難燃効果が不十分となり、逆に多すぎても耐熱性や機械物性が低下する場合があるので、通常、本発明の樹脂組成物中の難燃剤の含有量は、例えば、リン酸エステル系難燃剤であれば透明性樹脂(A)100重量部に対して5〜20重量部、有機スルホン酸金属塩系難燃剤であれば0.02〜0.2重量部、シリコーン化合物系難燃剤であれば0.3〜3重量部である。
【0085】
また、これらの難燃剤に、無機化合物系難燃助剤を併用しても良く、無機化合物系難燃助剤としては、タルク、マイカ、カオリン、クレー、シリカ粉末、ヒュームドシリカ等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0086】
これらの難燃剤に無機化合物系難燃助剤を併用する場合、無機化合物系難燃助剤の配合量が少な過ぎると十分な配合効果が得られず、多過ぎると耐熱性や機械物性が低下することから、樹脂組成物中の無機化合物系難燃助剤の含有量は透明性樹脂(A)100重量部に対して1〜20重量部とすることが好ましく、更に好ましくは3〜10重量部である。
【0087】
[本発明の樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知の樹脂組成物の製造方法を広く採用することができる。
【0088】
具体例を挙げると、前述の透明性樹脂(A)と(B)成分、並びに、必要に応じて配合される(C)〜(F)成分、その他の添加剤を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0089】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、又は、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、本発明の樹脂組成物を製造することもできる。
【0090】
また、例えば、一部の成分を予め混合して押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
【0091】
特に、少量配合成分である(B)成分、(D)成分、(F)成分については、これをマスターバッチ化して混合することが好ましい。
【0092】
[本発明の樹脂組成物の分光光線透過率]
本発明の樹脂組成物を成形してなる厚み2mmの試験片について測定した分光光線透過率の測定値は、以下の(i)〜(iii)(以下の(i)〜(iii)において、「平均透過率」とは、いずれも、各々の波長範囲において、10nmピッチで測定した測定値を平均することにより求めた値である。)を満たすことが好ましい。
(i) 波長300〜400nmの平均透過率が1%未満
(ii) 波長400nm〜550nmの平均透過率が10〜30%
(iii) 波長600nm〜700nmの平均透過率と波長590nm〜600nmの平均透過率の差が5%以上
【0093】
本発明の樹脂組成物が上記(i)〜(iii)の特性を満たすことにより、偏光フィルム等を用いることなく、本発明の樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズのみで眼鏡レンズに要求される特性を満たすことができ、この場合には、眼鏡レンズの生産工程の簡略化により大幅なコストダウンを図ることができる。
【0094】
[2] 眼鏡レンズ
本発明の眼鏡レンズは、本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる。
本発明の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形して本発明の眼鏡レンズを製造するための成形方法には特に制限はないが、金型を用いた射出成形法が好ましい。その他、射出圧縮成形、押出圧縮成形、シート成形により成形することもできる。
【0095】
本発明の眼鏡レンズは、通常の凹レンズ、凸レンズのみならず、サングラス、保護メガネ等のレンズ、或いは、レンズと枠を一体成形したゴーグル型メガネ等、様々な眼鏡レンズに適用することができる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0097】
[使用樹脂及び添加剤]
<透明性樹脂(A)>
a−1:芳香族ポリカーボネート樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロンE−2000F」(粘度平均分子量[Mv]=28000)
a−2:芳香族ポリカーボネート樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロンS−3000F」(粘度平均分子量[Mv]=23000)
a−3:芳香族ポリカーボネート樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロンH−4000F」(粘度平均分子量[Mv]=16000)
a−4:アクリル樹脂 三菱レイヨン社製「アクリペット VH−001」
【0098】
<テトラアザポルフィリン化合物系染料(B)>
b−1:三井化学社製「DP−319」(本発明例)
b−2:山田化学社製「TAP−18」(比較例)
【0099】
【化4】
【0100】
<紫外線吸収剤(C)>
c−1:Ciba社製「チヌビン326」(2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−tert−ブチルフェノール、最大吸収波長=353nm)
c−2:シプロ化成社製「シーソーブ709」(2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、最大吸収波長=343nm)
【0101】
<染料(D)>
d−1:有本化学社製「プラストオレンジ8150(Solvent Orange 60)」(ペリノン系、最大吸収波長=450nm)
d−2:有本化学社製「プラストレッド8370(Solvent Red 179)」(ペリノン系、最大吸収波長=480nm)
【0102】
<安定剤(E)>
e−1:ADEKA社製「アデカスタブ2112」(トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト)
e−2:Ciba社製「イルガノックス1010」(ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
【0103】
<その他染料(F)>
f−1:ランクセス社製「マクロレックス BlueRR(Solvent Blue 97)」(アンスラキノン系、最大吸収波長=630nm)
f−2:ランクセス社製「マクロレックス Violet3R(Solvent Violet 36)」(アンスラキノン系、最大吸収波長=560nm)
【0104】
[実施方法]
(1)樹脂組成物の製法
各材料を表1,2に示す重量比で配合し、タンブラーを用いてよく混合した。なお、混合に際し、(B)成分、(D)成分及び(F)成分については、予め粉体の透明性樹脂で100重量倍に薄めてマスターバッチを作成した後に混合した。
得られた混合物を、田辺プラスチックス機械工業社製「VS40」を用いて280℃で溶融混練し、水中にストランド状に押し出し、切断してペレットとした。
【0105】
(2)試験片の成形
<プレートの成形>
(1)で得られたペレットを120℃で4時間乾燥した後、日本製鋼所社製「J55」を用い、シリンダー温度290℃、金型温度80℃、成形サイクル1分で射出成形した。金型は80mm×40mm×(厚み2mmと1mm)の2段プレートを用いた。
この試験片を用いて、分光光線透過率の測定と、耐候性試験、及び色相測定、赤色の鮮明度の評価を行った。
<ISO試験片の成形>
(1)で得られたペレットを120℃で4時間乾燥した後、住友重機械工業社製「SG75」を用い、シリンダー温度290℃、金型温度80℃、成形サイクル1分で射出成形した。金型はISOのタイプAのダンベル片2個取り金型を用いた。試験片の厚みは3mmである。
この試験片を用いて、衝撃強度の評価を行った。
【0106】
(3)分光光線透過率の測定
島津以作所社製UV3100を用いて、2段プレートの2mm厚み部分について、波長250nmから1000nmの範囲の透過率を10nmピッチで測定した。
・波長300nm〜400nmの平均透過率は、この波長範囲の10nmピッチの測定値を平均することにより求めた。
・波長400nm〜550nmの平均透過率は、この波長範囲の10nmピッチの測定値を平均することにより求めた。
・波長590nm〜600nmの平均透過率は、この波長範囲の10nmピッチの測定値を平均することにより求めた。
・波長600nm〜700nmの平均透過率は、この波長範囲の10nmピッチの測定値を平均することにより求めた。
【0107】
(4)衝撃強度の評価
ISOのダンベル片を東洋精機製作所社製「ノッチングチール」を用いて、シャルピー衝撃試験片に加工した。
衝撃試験片はノッチ付き、ノッチ無しのものを加工して、それぞれ衝撃試験(ISO179)を行った。
【0108】
(5)色相(初期色相)の測定
日本電色社製「SE−2000」を用いてL,a,bとYI値(初期YI値)の測定を行った。測定は2段プレートの2mm厚み部分を透過で測定した。
【0109】
(6)耐光性試験
スガ試験機社製「サンシャインウエザオメーター」を用いて、63℃雨有り(18分雨/60分)、83℃雨無しの条件(60分間のうち、18分間が63℃雨有りで、残りの42分間が83℃雨無し)にて、400時間処理したときの色相変化(ΔE)を測定した。
ΔEは、200時間処理後と400時間処理後のYI値をそれぞれ上記(5)と同様に測定し、初期YI値に対する変化として求めた。
【0110】
(7)赤色の鮮明度の評価
視力検査のレッド・グリーンテストに使用される赤地に黒環を描いたプレートと緑地に黒環を描いたプレートを用い、2段プレートの2mm厚みの部分を通してみたときに赤色が鮮明に見えるかどうかを評価した。
通常の状態で両方とも同じように鮮明に見えるモニター10人で試験を行い、以下の点数で評価を行い、10人の評価点の合計が24点以上である場合に赤色の鮮明度非常に良好(○)とし、18〜23点を赤色の鮮明度良好(△)とし、17点以下を赤色の鮮明度不良(×)とした。
3・・・赤が鮮明に見える
2・・・赤が若干鮮明に見える
1・・・変わらない
【0111】
[実施例1〜12、比較例1〜3、参考例1,2]
実施例1〜12、比較例1〜3、及び参考例1,2の樹脂組成物配合と、評価結果を表1,2に示す。
また、実施例1〜3,5〜12、比較例1〜3、及び参考例1,2における分光光線透過率の測定チャートを図1〜13に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
[考察]
実施例1〜12、比較例1〜3、及び参考例1,2の結果より次のことが分かる。
実施例1〜12では、いずれも目に有害な紫外線を遮断し、且つ、ハイコントラスト性に優れ、赤色をはっきり見せることが出来る。このため、L錐体細胞の弱い1型色覚者の赤色の認識を助けることが出来る。
特に、実施例8〜11では、短波長の青色の透過率を低下させることにより、目の日焼けを抑えることができる。
【0115】
比較例1では、テトラアザポルフィリン化合物系染料を配合していないため、赤色を鮮明に認識できない。
比較例2では、テトラアザポルフィリン化合物系染料を配合しているが、本発明で用いる特定のテトラアザポルフィリン化合物系染料ではないため、耐候性が悪く、ハイコントラスト性の効果を持続できない。
比較例3では、本発明に係るテトラアザポルフィリン化合物系染料を配合しているが、その配合量が少ないため、赤色の認識改善効果が低い。
【0116】
参考例1では、紫外線吸収剤を配合していないので、紫外線のカット特性が不十分であり、テトラアザポルフィリン化合物系染料の効果の持続性が低いと考えられる。
参考例2では、紫外線吸収剤を用いているが、本発明で好ましいとする紫外線吸収剤ではないため、紫外線のカット特性が不十分である。
【0117】
なお、実施例1〜12で用いたテトラアザポルフィリン化合物系染料(DP−319)と比較例2で用いたテトラアザポルフィリン化合物系染料(TAP−18)を、それぞれ、芳香族ポリカーボネート樹脂(ユーピロンS−3000F)に10ppm濃度で混合した樹脂組成物について、上記(3)と同様にして測定した分光光線透過率の測定チャートを図14(a),(b)に示す。
これらから、DP−319の方がTAP−18よりも波長590nm付近の吸収が大きく、ハイコントラスト性改善に有効であることが分かる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明性樹脂(A)100重量部と、下記構造式で表されるテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)0.0001〜0.01重量部とを含有することを特徴とする眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【化1】
【請求項2】
前記透明性樹脂が、芳香族ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、最大吸収波長を350〜400nmに持つ紫外線吸収剤(C)を、前記透明性樹脂(A)100重量部に対して0.1〜1.0重量部含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記紫外線吸収剤が、クロロベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤であることを特徴とする請求項3に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、最大吸収波長を400〜550nmに持つ染料(D)を、透明性樹脂(A)100重量部に対して0.0001〜0.01重量部含有することを特徴とする請求項4に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂組成物を成形してなる厚み2mmの試験片について測定した分光光線透過率の測定値が、以下の(i)〜(iii)(以下の(i)〜(iii)において、「平均透過率」とは、いずれも、各々の波長範囲において、10nmピッチで測定した測定値を平均することにより求めた値である。)を満たすことを特徴とする請求項5に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
(i) 波長300〜400nmの平均透過率が1%未満
(ii) 波長400nm〜550nmの平均透過率が10〜30%
(iii) 波長600nm〜700nmの平均透過率と波長590nm〜600nmの平均透過率の差が5%以上
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズ。
【請求項1】
透明性樹脂(A)100重量部と、下記構造式で表されるテトラアザポルフィリン化合物系染料(B)0.0001〜0.01重量部とを含有することを特徴とする眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【化1】
【請求項2】
前記透明性樹脂が、芳香族ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、最大吸収波長を350〜400nmに持つ紫外線吸収剤(C)を、前記透明性樹脂(A)100重量部に対して0.1〜1.0重量部含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記紫外線吸収剤が、クロロベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤であることを特徴とする請求項3に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、最大吸収波長を400〜550nmに持つ染料(D)を、透明性樹脂(A)100重量部に対して0.0001〜0.01重量部含有することを特徴とする請求項4に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂組成物を成形してなる厚み2mmの試験片について測定した分光光線透過率の測定値が、以下の(i)〜(iii)(以下の(i)〜(iii)において、「平均透過率」とは、いずれも、各々の波長範囲において、10nmピッチで測定した測定値を平均することにより求めた値である。)を満たすことを特徴とする請求項5に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物。
(i) 波長300〜400nmの平均透過率が1%未満
(ii) 波長400nm〜550nmの平均透過率が10〜30%
(iii) 波長600nm〜700nmの平均透過率と波長590nm〜600nmの平均透過率の差が5%以上
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ用熱可塑性樹脂組成物を成形してなる眼鏡レンズ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−219169(P2012−219169A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85512(P2011−85512)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】
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