説明

眼鏡レンズ

【課題】レンズの色の濃度(濃淡)がグラディエントに変化するファッション性に富んだ
眼鏡レンズを提供する。
【解決手段】アイポイント(眼鏡を掛けたときの目の位置、瞳孔中心位置)11を含む高
透光性領域(レンズ中央部)12と、高透光性領域12の全周を囲むように設けられた低
透光性領域(レンズ周辺部)14であって、高透光性領域12よりも遮光率の高い低透光
性領域14とを有する眼鏡レンズ10を提供する。低透光性領域14は、周辺15に向か
って遮光率が変化する領域(グラディエント領域)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、眼鏡のレンズ中央部の光の透過率を高くし、その周辺部の光の透過率
を低くすることが記載されている。そのために、レンズ部の前面に半透鏡を形成するミラ
ーコートを設け、レンズ部の後面に、透孔を有するプレートを装着することが記載されて
いる。この眼鏡の場合、眼鏡のレンズ部分の中央は光の透過率が高いため、人はこのレン
ズ中央の透過率が高い部分を通して物を比較的はっきり見ることができ、一方、上記レン
ズ周辺部の低透過率部分によって眼に入る光量を減らすことができ、眼を光から保護する
ことに有効であるとともに、眼が白内障にかかっている場合には、水晶体周辺部での光の
乱反射を減らして物を見え易くすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−82975号公報(要約書、段落番号0009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、サングラスを含む眼鏡は、視力の矯正および眼球の保護という役割に加え、ある
いはそれとは別に、着用者の装身具あるいは装飾具の1つとしての価値が求められている
。すなわち、装身具としての価値、たとえば、ファッション性や、装飾性が認められなけ
れば、たとえ機能的に優れていたとしても、そのような眼鏡は身体機能をフォローするた
めの道具にすぎず、ユーザーが日常的に使いやすいものであるとはいえない。
【0005】
さらに、特定の機能障害をフォローするためだけに利用できる道具であって、そのよう
な機能障害を持たないユーザーにとって使いにくい道具であれば、市場性は少なく、高コ
ストとなり、そのような道具を必要としているユーザーにとって購入しがたい道具でしか
ない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、アイポイント(眼鏡を掛けたときの目の位置、瞳孔中心位置、フィ
ッティングポイント)を含む高透光性領域と、高透光性領域の全周を囲むように設けられ
た低透光性領域であって、高透光性領域よりも遮光率の高い低透光性領域とを有し、眼の
前方を覆うレンズである。さらに、このレンズの低透光性領域は、周辺に向かって遮光率
が変化する領域を含む。
【0007】
このレンズは、高透光性領域の全周を囲むように、周辺に向かって遮光率が変化する領
域(グラディエント領域)が設けられており、ドーナッツ状あるいは環状に遮光率が変化
する、新しいデザインの、ファッション性の高いレンズを提供できる。すなわち、遮光率
の変化をレンズの色の濃度(濃淡)の変化、反射率(透過率)の変化、微細模様などによ
り実現される開口率の変化などの外から目に見える変化としてレンズに付与でき、ドーナ
ッツ状あるいは環状の色などの変化を備えたレンズは新しい装飾性を持った、ファッショ
ン性に富んだレンズとして認識される。さらに、このレンズは、高透光性領域と、その高
透光性領域の全周を囲むように設けられた、グラディエント領域を含む低透光性領域を有
する。したがって、白内障などの障害があり、高透光性領域の全周を囲むように設けられ
た低透光性領域を有する眼鏡により機能を補助することが望ましいユーザーに限らず、一
般のユーザーが装飾具の1つとして、このレンズを備えた眼鏡を装着できる。
【0008】
また、このレンズは、高透光性領域の全周を囲むように設けられた低透光性領域を有し
、さらに、周辺に向かって遮光率が変化する領域を有する。したがって、高透光性領域に
限らず、低透光性領域の周辺に向かって遮光率が変化する領域を介して装着者は外部を見
ることができ、レンズの面積に対して視野角が極端に狭くなることを抑制できる。また、
周辺に向かって遮光率が変化する領域の広さ、遮光率の変化率を制御することにより、レ
ンズの面積に対して確保できる視野角を制御できる。このため、このレンズは、視力の矯
正および眼球の保護という機能が要望されるユーザーに有用であるとともに、一般のユー
ザーも単に装飾具の1つとして装着でき、自由度が高いとともに、安全性も高い。したが
って、高透光性領域の全周を囲むように設けられた低透光性領域を有し、眼に入る光量を
減らし、眼を保護するのに有効であるとともに、ユニバーサルデザイン化されたレンズを
提供できる。
【0009】
低透光性領域が含む周辺に向かって遮光率が変化する領域の典型的なものは、周辺に向
かって遮光率が増加する領域である。高透光性領域と低透光性領域との間に明確な境界が
生じることを抑制できるので、さらにファッション性に富んだレンズを提供できる。また
、高透光性領域と低透光性領域との間に明確な境界があることにより視野に違和感が生ず
ることを防止できる。したがって、一般のユーザーや障害を持つユーザーがさらに気軽に
使用できるレンズを提供できる。
【0010】
このレンズにおいては、高透光性領域は、視野角が少なくとも10度で、全遮光率が0
〜95%の領域を含むことが望ましい。弁別視のときに頭部の動きが伴わない領域(弁別
視の際の眼球の運動領域)は視野角が約10度の領域とされており、その範囲を低透光性
領域より明るい高透光性領域として確保することにより、ユーザーが使用する上で違和感
が少なく、使い方の相違も少ない、ユニバーサルデザイン化にさらに適したレンズを提供
できる。
【0011】
このレンズにおいては、高透光性領域は、視野角が20度よりも狭く、全遮光率が0〜
95%の領域を含むことが望ましい。視野角が20度よりも広いグレアはソフトなグレア
光(障害グレア光、減能グレア光)であり、視野角の小さな領域の不快なグレア光(不快
グレア光)と異なり、グレア光の侵入を避けなくても、そのグレア光を抑制することによ
り作業効率の低下を抑制できる。したがって、高透光性領域の範囲は視野角20度までと
し、視野角が20度よりも広い領域は低透光性領域として作業の障害となりやすいグレア
光が眼に入るのを抑制することが望ましい。
【0012】
さらに、このレンズにおいては、低透光性領域は、第1の低透光性領域と、第1の低透
光性領域の全周を囲むように設けられた第2の低透光性領域であって、第1の低透光性領
域よりも遮光率の高い第2の低透光性領域とを含むことが望ましい。障害グレア光の侵入
を抑制する低透光性領域を、指標(対象物)を大まかに認識するいわゆる自由視を優先し
た第1の領域と、グレア光の阻止を優先した第2の領域とを含む多段階に設定することに
より、グレア光の影響を抑制し、コントラスト感度(見え方の質、視覚の質)のさらなる
向上を図ることができる。第1の低透光性領域は、視野角が30度よりも狭く、全遮光率
が0〜95%の領域を含むことが望ましい。さらに、遮光率の異なる多段階の領域を設け
ることにより、低透光性領域でレンズの色を変化させたり、反射率を変化させることが可
能となり、より一層ファッション性を高めたり、装飾品として価値の高いレンズを提供で
きる。
【0013】
このレンズにおいては、低透光性領域は、近赤外光、すなわち、波長760〜1300
nmの光の遮光率が高い領域を含むことが望ましい。網膜疾患、脈絡膜疾患の症状のある
ユーザーには特にこの周波数帯のグレア光を抑制することにより弁別能力の向上を図り、
作業能率の低下を抑制できる。
【0014】
また、このレンズにおいては、低透光性領域は、近紫外光、すなわち、波長310〜4
00nmの光の遮光率が高い領域を含むことも有効である。角膜炎、白内障、緑内障など
の症状のあるユーザーには特にこの周波数帯のグレア光を抑制することにより弁別能力の
向上を図り、作業能率の低下を抑制できる。視野を確保しながら近赤外光および/または
近紫外光を抑制することは、これらの眼の障害の発生を予防するためにも有効であり、こ
れらの障害の症状のないユーザーにおいても本発明のレンズは有用である。
【0015】
本発明のレンズは、比較的遠くを見るための遠用領域と、比較的近くを見るための近用
領域と、遠用領域と近用領域との間にあって屈折力が連続的に変化する中間領域とをさら
に有する累進屈折力レンズであってもよい。累進屈折力レンズにおいては、高透光性領域
の中心であるアイポイントは、遠用領域の中心であることが望ましい。このため、障害グ
レア光の影響を遠用領域で削減することが弁別能力の向上につながりやすい。また、屈折
力が連続的に変化する累進屈折力レンズの遠用中心をアイポイントとするファッション性
に富んだレンズを提供できる。
【0016】
このレンズにおいては、低透光性領域は、当該レンズの少なくとも一部が染色された領
域を含むものであっても良い。染色は、低透光性領域の遮光率を高くするための方法の1
つであり、個々のレンズによって色を変えたり、遮光率により1つのレンズに多色を導入
することなどにより、さらにファッション性や装飾性の高いレンズを提供できる。
【0017】
本発明のレンズは、レンズの一方の面に調光層を形成し、他方の面に遮光層を形成した
ものであってもよい。調光層は高透光性領域および低透光性領域の遮光率を共に変える(
調整する)層であり、遮光層は高透光性領域に対して低透光性領域の遮光率を高くする層
である。レンズ全体の紫外線カットあるいは赤外線カットを含めた透光性能を調光層とし
て、高透光性領域および低透光性領域の遮光率を制御する遮光層と異なる面に設けること
により、変色、偏光などの機能を、高透光性領域の周囲に低透光性領域が形成されたレン
ズに付与でき、多機能のレンズを提供できる。
【0018】
本発明の異なる態様の1つは、上記レンズが眼鏡レンズであり、その眼鏡レンズと眼鏡
レンズが取り付けられた眼鏡フレームとを有する眼鏡である。障害グレア光を効率よくカ
ットできるとともに、ファッション性や装飾性が高く、ユーザーが日常的に使いやすい眼
鏡を提供できる。ファッション性が高いので、特定の機能障害をフォローするために使用
できるだけではなく、多種多様なユーザーが使用できることから、市場性が高く、機能障
害を持つユーザーに対しても低コストで供給可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】眼鏡レンズを有する眼鏡を物体側から見た斜視図。
【図2】眼鏡レンズを有する眼鏡を物体側から見た正面図。
【図3】眼鏡レンズを物体側から見た正面図。
【図4】図3に示す眼鏡レンズのIV−IV端面図。
【図5】図4に示す遮光層の遮光率の分布を示した図。
【図6】視野角に対応するグレアを示した図。
【図7】視野角と視効率の関係を示した図。
【図8】視野角の求め方を示した図。
【図9】視標探索時の頭位(眼位)運動を示した図。
【図10】眼鏡レンズの領域を示した図。
【図11】(a)は裸眼の状態で眼球から得られる像の感度を模式的に示した図で、(b)はグレアカット対応の眼鏡レンズを装着した状態で眼球から得られる像の感度を模式的に示した図。
【図12】グレアカット効果の実験に用いた眼鏡レンズサンプルの正面図。
【図13】図12に示す眼鏡レンズの明室におけるコントラスト感度を示した図。
【図14】図12に示す眼鏡レンズの明室における異なるコントラスト感度を示した図。
【図15】図12に示す眼鏡レンズの半暗室におけるコントラスト感度を示した図。
【図16】図12に示す眼鏡レンズの半暗室における異なるコントラスト感度を示した図。
【図17】染色の一例を示した図。
【図18】(a)は第2の実施形態に係る眼鏡レンズを物体側から見た正面図で、(b)は第2の実施形態に係る眼鏡レンズの遮光層の遮光率の分布を示した図。
【図19】第3の実施形態に係る眼鏡レンズの遮光層の遮光率の分布を示した図。
【図20】第4の実施形態に係る眼鏡レンズの遮光層の遮光率の分布を示した図。
【図21】第5の実施形態に係る眼鏡レンズの遮光層の遮光率の分布を示した図。
【図22】第6の実施形態に係る眼鏡レンズの遮光層の遮光率の分布を示した図。
【図23】第7の実施形態に係る眼鏡レンズの遮光層の遮光率の分布を示した図。
【図24】第8の実施形態に係る眼鏡レンズを物体側から見た正面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1. 第1の実施形態
1.1 眼鏡レンズの概要
図1に、本発明に係る眼鏡レンズ10を有する眼鏡1を、物体側から見た斜視図で示し
ている。図2に、本発明に係る眼鏡レンズ10を有する眼鏡1を、物体側から見た正面図
により示している。この眼鏡1は、左右一組の正面視楕円形の眼鏡レンズ10と、眼鏡レ
ンズ10が取り付けられた眼鏡フレーム9とを備えている。眼鏡レンズ10は、アイポイ
ント(眼鏡を掛けたときの目の位置、瞳孔中心位置、フィッティングポイント)11を含
む高透光性領域12と、高透光性領域12の全周を囲むように設けられた低透光性領域1
4とを含む。低透光性領域14は、高透光性領域12よりも遮光率が高く、周辺15に向
かって遮光率が増加する領域(グラディエント領域、グラデーション領域)16を含む。
この眼鏡レンズ10は、裏面(眼球側の面)10bの色の濃度(濃淡)を徐々に濃くする
ことにより、レンズ中央部(高透光性領域)12からレンズ周辺部(低透光性領域)14
にかけてグラディエント領域16を形成している。
【0021】
図3に、眼鏡レンズ10を抜き出して、物体側から見た正面図で示している。図4に、
眼鏡レンズ10の概略構成を、縦方向の端面図(図3のIV−IV端面)で示している。図3
においては、説明のため、眼鏡レンズ10におけるアイポイント11を含む高透光性領域
12と、その高透光性領域12の全周を囲むように設けられた低透光性領域14との境界
13を破線で示している。この例では、周辺15に向かって遮光率が増加するグラディエ
ント領域16は境界13に隣接するように設けられている。したがって、高透光性領域1
2と低透光性領域14との境界13において遮光率は滑らかに変化しており、破線で示さ
れた境界13は、眼鏡1を装着したときに外から眼鏡1を見た人にも、また、眼鏡1を装
着しているユーザーにもほとんど意識されない、あるいは目立たないようになっている。
【0022】
さらに、この眼鏡レンズ10は、高透光性領域12から低透光性領域14にかけてレン
ズの色の濃度(濃淡)を徐々に増加させたドーナッツ状あるいはリング状のグラディエン
ト領域16が設けられており、斬新なデザインの眼鏡レンズである。また、高透光性領域
12と低透光性領域14との間に明確な境界がないので、装着することにより、以下に説
明するグレアカット効果が得られるとともに、視野に違和感が生ずることを抑制でき、一
般のユーザーや障害を持つユーザーが日常生活において抵抗感を抱くことなく、さらに気
軽に使用できるファッション性に富んだ眼鏡レンズ10である。なお、眼鏡レンズ10は
、裏面(眼球側の面)10bの側から見た場合にも、表面(物体側の面)10aから見た
場合と同様に、図3に示したデザインとして認識される。
【0023】
眼鏡レンズ10は、レンズ基材41の裏面41b、すなわち眼球101の側に遮光率が
変化する遮光層20を含み、レンズ基材41の前面41a、すなわち物体側に調光層30
を含む構造を有する。眼鏡レンズ10の物体側の面(表面)10aに形成された調光層3
0は、紫外線を含む光の照射により変色する調光機能(フォトクロミック機能)を有する
層であり、調光機能を有する液体(コーティング液)を塗布することにより製造されてい
る。そのようなコーディング液としては、フォトクロミック化合物、ラジカル重合性単量
体及びアミン化合物を含み、ラジカル重合性単量体がシラノール基または加水分解により
シラノール基を生成する基を有するラジカル重合性単量体を含むものを挙げることができ
る。調光層30は、眼鏡レンズ10の高透光性領域12および低透光性領域14の遮光率
を共に変える(調整する)層である。調光層30の一例は、紫外線の強度により遮光率が
変わり、可視光(460〜600nm、好ましくは400〜760nm)を0%から50
%の範囲でカットし、近紫外光(310〜400nm)の範囲を0%から90%、さらに
好ましくは0%から100%の範囲でカットするものである。
【0024】
眼鏡レンズ10の裏面(眼球101の側の面)10bの遮光率が変化する遮光層20は
、染色可能なハードコート層43の染色濃度を変えることにより形成している。この遮光
層20により高透光性領域12と、高透光性領域12に対して遮光率の高いグラディエン
ト領域16を含む低透光性領域14が形成されている。
【0025】
図5に、眼鏡レンズ10のハードコート層43(遮光層20)を抜き出して、視野角θ
に対する染色状態を示している。具体的には、ハードコート層43の視野角θ(以下で説
明する)が0度〜10度の範囲は染色されておらず、ハードコート層43による遮光性の
制御は行われてない領域(遮光率が0%)となっている。ハードコート層43の視野角θ
が10度から15度の範囲は、視野角θにほぼ比例して遮光率が0%から10%に徐々に
変化し、ハードコート層43の視野角θが15度から20度の範囲は、視野角θにほぼ比
例して遮光率が10%から40%に徐々に変化するように染色されている。ハードコート
層43の視野角θが20度以上の範囲は、遮光率40%となるように染色されている。し
たがって、視野角θが10度以下の範囲を高透光性領域12、視野角θが10度を超える
範囲を低透光性領域14、視野角θが10度から20度の範囲をグラディエント領域16
とすることができる。一方、遮光率が10%以下程度であれば夜間でも視野を狭める要因
にほとんどならないので、視野角θが15度以下の範囲を高透光性領域12、視野角θが
15度を超える範囲を低透光性領域14、視野角θが15度から20度の範囲を低透光性
領域14におけるグラディエント領域16と定義してもよい。なお、本明細書において遮
光率が0%とは、染色などにより遮光率の増加が図られていないことを示しており、レン
ズ基材41およびその他の層42〜45などによる光の吸収は考慮していない。したがっ
て、レンズ基材41およびその他の層42〜45などによる光の吸収により、本明細書に
おいて遮光率が0%と記載しても、眼鏡レンズ10により光の吸収(減衰)が認められる
ことがある。
【0026】
すなわち、眼鏡レンズ10は、レンズ基材41の裏面41bには、レンズ基材41より
プライマー層42、ハードコート層43、反射防止層44および防汚層45が積層されて
おり、ハードコート層43が染色層(遮光層)20となり、眼鏡レンズ10の場所に依存
した遮光率を制御している。レンズ基材41の前面41aにはレンズ基材41よりプライ
マー層42、ハードコート層43、反射防止層44、調光層30および防汚層45が積層
されており、調光層30は、眼鏡の使用時刻あるいは場所による遮光率を制御している。
染色層20を表面10aの側に設け、調光層30を裏面10bの側に設けることも可能で
ある。しかしながら、調光層30が紫外線により感度良く変色するためには、紫外線がレ
ンズ基材41あるいは他の層により吸収されやすい裏面10bの側よりも紫外線に晒され
やすい表面10aの側に調光層30を設けることが望ましい。なお、この眼鏡レンズ10
の製造方法については以下でさらに説明する。
【0027】
1.2 高透光性領域および低透光性領域を有する眼鏡レンズのグレアカット効果につい

図6に、視野角に対応するグレア(眩しさ)を示している。図7に、視野角と視効率(
見えやすさ)の関係を示している。図8に、視野角の求め方を示している。図8に示すよ
うに、眼球101の視軸105に対する視野角θは、眼鏡装用距離Lおよび視野幅Fwに
より、以下の式(1)で求められる。
θ=tan−1(Fw/L)・・・(1)
【0028】
視野幅Fwは眼鏡レンズ10のアイポイント11からの距離を示す。図1ないし図3に
示したような眼鏡レンズ10のデザインは、アイポイント11を中心として同心円状ある
いは楕円状(楕円の短軸および長軸の交点がアイポイント11またはその近傍)、あるい
はアイポイント11から周辺15に向かって放射状に変化する模様を中心としている。し
たがって、アイポイント11からの距離が主なファクターとしてデザインが決まる。しか
しながら、眼鏡装用距離Lは概ね25mm程度でほぼ一定している。このため、眼鏡レン
ズ10のデザインを視野角θで定義することが可能である。たとえば、視野幅Fwが4m
mは視野角θが約9度に相当する。したがって、以下においては、視野角θを用いて、上
記の眼鏡レンズ10に付されたデザインと、グレアカットとの関係について説明する。な
お、以下において視野角θは、特別に記載しない限り絶対値または円錐の半頂角を意味し
、立体角に対応するものである。したがって、視野角θは、視軸105に対して水平およ
び垂直方向に±θであることを示す。
【0029】
図6は、注視線(図面の0度の線、視軸)105に対してある角度(グレア角)φに強
い光(光源)103があるときに、対象物102の見え方が低下することを照度低下に換
算した値で示している。図7は、見え方の低下(照度低下)を視効率の低下として、グレ
ア角φに対して示している。図6に示すように、視標(対象物)102に対するグレア角
φにより視効率(見えやすさ)は変化するが、視野内に光源103があるとグレアとなり
視効率が低下することが分かる。全体的に眼球101に入射する光(グレア光)が視標(
対象物)102から離れるにつれて、徐々にグレア(眩しさ)が緩和され視効率(見えや
すさ)が向上する。
【0030】
このようなグレア(眩しさ、羞明)は、過剰な輝度または過剰な輝度対比のために不快
感または視機能低下につながり、不快グレアと障害グレア(減能グレア)に分類される。
【0031】
グレア角φが20度以下のグレアによる視効率の低下はほぼ50%を超えて著しく、対
象物102の判別が難しくなる。したがって、不快感を覚え、人間はほとんど無意識に眼
球101を動かしたり、頭を動かしたり、姿勢を変えたりするなどの動作を行い、少なく
ともその範囲(グレア角φが20度)にグレア光が入らないようにする。このようなグレ
ア光を不快グレア光51と呼ぶ。「不快グレア」は、視野内で隣接する部分の輝度差が著
しい場合や、眼に入射する光量が急激に増したときに不快を感じる状態をいう。
【0032】
一方、グレア角φが20度から40度の範囲のグレア光による視効率の低下はほぼ50
%以内である。したがって、この角度範囲のグレア光は極端な不快感をもたらさない緩や
かな、あるいはソフトなグレア光ではあるが視効率が低下する。このため、この角度範囲
のグレア光は障害グレア光(減能グレア光)52と呼ばれる。減能グレア光52について
は、眼組織内において生ずる散乱光による網膜像のコントラストの低下、露出不足、網膜
順応不能などが視力の低下につながると考えられている。また、印刷面における反射光に
より文字が読みにくくなるような反射グレアも減能グレア光52に含まれる。
【0033】
したがって、視効率の低下を抑制するためには、不快グレア光51に対しては、どのよ
うな方向からの光であっても素早く不快グレア光51を少なくとも減能グレア光52の範
囲に動かして視野を確保し、減能グレア光52に対してはその影響を定常的に、また、効
果的にカットして良好な視野を確保できるようにすることが望ましい。また、放置すれば
無意識に入射し続ける減能グレア光52をカットすることは視野を確保するだけではなく
、眼球、角膜などに障害が発生するのを未然に防止するためにも有効である。さらに、白
内障の患者にとっては、混濁した水晶体の中を光が散乱するのでグレア光によるコントラ
スト感度の低下が大きく、そのような眼の病気を持ったユーザーにおいては、減能グレア
光52をカットすることは視力を矯正するためにも有効である。
【0034】
図9は、視標探索時の頭位(眼位)運動を観察した一例を示している。図9に示した幾
つかのグラフは、注視点より水平方向にある角度だけ移動した視標(対象物)を認識する
ために、頭部がどの程度回転するかを示している。視標(対象物)を注目させる注視の状
態においては、グラフ181に示すように頭部は対象物とともに回転する。これに対して
、視標(対象物)を単に認識する程度の弁別視の状態においては、グラフ182に示すよ
うに、頭部の動きは対象物の角度(移動)に対して10度程度小さく(少なく)なる。こ
の観察結果により、眼球の動きにより対象物を認識できる範囲の限界を約10度程度に設
定できる。したがって、視野角θが10度程度以内を弁別視力領域(弁別視の際の眼球の
運動領域)と設定できる。さらに、指標(対象物)を大まかに認識する自由視の状態にお
いては、グラフ183に示すように、対象物の角度(移動)に対して15度程度小さく(
少なく)なる。したがって、視野角θが15度程度以内を自由視力領域(自由視の際の眼
球の運動領域)と設定できる。
【0035】
図10に、上記考察に基づき本願の発明者が眼鏡レンズ10において設定した幾つかの
領域を示している。眼鏡レンズ10の視軸105に対する視野角θが10度以内の範囲は
弁別視力領域91と定義できる。上述したように視野角θが10度以内の範囲は、弁別視
のために主に眼球が動く。したがって、この範囲はできる限りクリアーな視界が得られる
ことが望ましく、紫外線などが極端に強い場合を除き、グレア光をカットすることよりも
クリアーな視界を得ることが望ましいと考えられる。
【0036】
視軸105に対する視野角θが20度以内の範囲は眼球運動領域92と定義できる。こ
の眼球運動領域92には、弁別視力領域91および自由視力領域95が含まれる。グレア
角φが20度以下のグレア光は不快グレア光51であり、視野角θが20度以下の範囲に
グレア光があれば、この範囲のグレア光は眼球または頭の動きで避けると予想される。し
たがって、視野角θが20度以下の領域は、基本的には、グレア光をカットまたは抑制す
ることよりも、紫外線などが極端に強い場合を除き、クリアーな視界を得ることが望まし
いと考えられる。
【0037】
一方、視野角θが10度から20度の範囲は、弁別視力領域91を超えており、弁別視
力領域91ほど視覚に影響を与えない。さらに、自由視力領域95は視野角θが15度以
下程度までであり、視野角θが15度を超えると対象物を視野に捉えてもその対象物の明
確な把握に寄与する率(能力)は少ない領域であるといえる。したがって、視野角θが1
0度から20度の範囲は中間領域96であり、クリアーな視界を得ることと、グレア光を
カットまたは抑制することとをある程度のレベルで両立させたり、またはいずれか一方を
優先してもよい。すなわち、視野角θが10度から20度程度の中間領域96は、ユーザ
ーあるいは用途により眼鏡レンズ10の機能をフレキシブルに設定でき、また、この中間
領域96は眼鏡レンズ10のデザインのフレキシビリティが高い領域となる。
【0038】
視軸105に対する視野角θが20度から40度の範囲はグレアカット領域93である
。図6および図7に示したように、グレア角φが20度以上の領域のグレア光は障害グレ
ア光52であり、この範囲のグレア光は眼球や頭部の動きにより避けられない可能性があ
る。また、この範囲のグレア光は視効率の低下に繋がる。したがって、グレアカット領域
93においては、クリアーな視界を得ることよりもグレア光をカットすることを優先する
ことが望ましい。その一方、視野の感度分布や網膜上の視細胞の分布を考慮すると、視野
角θが40度の付近でも十分な感度があることが認められており、さらに、視野角θが3
0度の付近で感度および視細胞の分布は比較的急激に増加する。したがって、視野角θが
20度から40度の範囲で完全に眼球101に入る光を遮断すると、その範囲の視野感度
がなくなり、視細胞の機能が活かされない。このため、眼球101の弁別能力を活かすた
めには視野角θが40度程度までグレア光のカットを優先しながらある程度の視界が確保
できることが望ましい。
【0039】
さらに、視野角θが20度から30度の範囲は、視野感度も比較的高く、視細胞の分布
も高い。したがって、視野角θが20度から30度の領域97はグレアカット領域93で
はあるが、視野角θが30度を超える領域に対して遮光率を低くし、グレアカットを若干
低くしてクリアーな視野が得られるようにすることも有効な領域である。したがって、こ
の領域97も中間領域96と同様に、ユーザーあるいは用途により眼鏡レンズ10の機能
をフレキシブルに設定でき、また、デザインのフレキシビリティが高い領域となる。
【0040】
視軸105に対する視野角θが40度から45度の範囲は、殆どの眼鏡レンズ10にお
いてフレームに入れるために加工される領域であり、眼鏡1のフレーム領域94である。
したがって、フレーム領域94のグレア光はカットされる。
【0041】
このように、グレアカットという機能の実現を考慮すると、アイポイント11を通る視
軸105を中心とする視野角θで幾つかの機能領域を設定できる。図8を参照して説明し
たように、眼鏡レンズ10の表面10aおよび裏面10bを含む視野領域は視野角θで定
義することが可能であり、視野角θで機能を定義できる領域は、眼鏡レンズ10の視野領
域ではアイポイント11を中心とする同心円で定義される。なお、以降においては、視野
領域を表面10aまたは裏面10bのみで説明することがある。したがって、図1ないし
図3において示した眼鏡レンズ10の表面10aに見えるドーナッツ状のデザインと、グ
レアカットという機能とを関連させることが可能であり、グレアカット機能と斬新なデザ
インとを合わせもった眼鏡レンズ10を提供できる。
【0042】
図11は、減能グレア光52をカットする効果を模式的に示す図である。図11(a)
は、裸眼の状態(グレアカットをしていない状態)で眼球101から得られる像の感度を
模式的に示している。眼球101には注視している物体からの光束107aとともに、グ
レア光(減能グレア光)107bが入射される。グレア光107bは網膜106で結像し
たり、水晶体109で乱反射する。
【0043】
図11(b)は、眼球101の前方にグレアカット対応の眼鏡レンズ10を装着した状
態で眼球101から得られる像の感度を模式的に示している。眼鏡レンズ10は、アイポ
イント11を中心とする高透光性領域12と、その周囲に形成された遮光性の高い低透光
性領域14とを含む。したがって、眼球101には注視している物体からの光束107a
は裸眼と同様に入射するが、グレア光(減能グレア光)107bは低透光性領域14によ
り強度が著しく低下する。このため、グレア光107bは網膜106でほとんど結像せず
、また、水晶体109で乱反射する可能性も小さい。このため、網膜106を介して認識
される像としてはコントラスト感度が向上すると考えられる。周囲の画像の輝度(刺激)
を抑制することにより、高感度部と隣り合う弱感度部はより弱く、弱感度部と隣り合う高
感度部はより強く刺激を受け、物体がシャープに見える現象を側(方)抑制効果と呼ぶこ
とがある。
【0044】
1.3 グレアカット効果の実験
図12に、グレアカット効果の実験に用いた眼鏡レンズサンプル110を示している。
この眼鏡レンズサンプル110は、レンズ中央部に、高透光性領域12に対応した透明領
域112と、その周辺部に、低透光性領域14に対応した不透明領域114とを含む。具
体的には、この眼鏡レンズサンプル110は全体として不透明な部材であり、レンズ中央
部にアイポイント(瞳孔中心位置)111を中心とした上下±5mm、左右±4mmの開
口からなる透明領域112を有する。透明領域112のサイズは、鉛直方向の視野角θが
±約11度および水平方向の視野角θが±約9度に対応する。
【0045】
図13から図16に、眼鏡レンズサンプル110と、全面無色透明の眼鏡レンズサンプ
ル(比較レンズサンプル)とを交換して装着し、2人の被験者に対して行ったコントラス
ト感度の比較実験結果を示している。上記の眼鏡レンズサンプル110を装着した結果は
グレアカットとして実線で示し、比較レンズサンプルを装着した結果は比較として破線で
示している。各図の横軸は、空間周波数(cpd、Cycle Per Degree)を示す。空間周波
数は、単位視野角当たりに明暗(白黒)の縞模様が何組あるかを表す値であり、cpdは
角度1度の範囲に白黒のペアがいくつあるかを示している。各図の縦軸は、コントラスト
感度を示しており、それぞれの縞(白黒ペア)でどの程度の明暗のコントラストを被験者
が感じたかを示している。
【0046】
被験者は55歳の男性Aおよび50歳の男性Bの2人であり、測定にはベクタービジョ
ン社製のグレア付きコントラスト感度測定器CSV−1000を使用し、測定距離を2m
に設定した。
【0047】
図13および図14は明室でグレア光がない状態での測定結果を示す。グレア光がない
状態であっても、低周波数(3cpdから6cpdの空間周波数帯域)において眼鏡レン
ズサンプル(グレアカットサンプル)110を用いることによりコントラスト感度が向上
するとの結果が得られた。
【0048】
図15および図16は、半暗室でグレア光がある状態での測定結果を示す。男性Aおよ
び男性Bで傾向の差はあるが、概ね3cpdから18cpdの広い空間周波数帯域でグレ
アカットサンプル110を用いることによりコントラスト感度が向上するとの結果が得ら
れた。したがって、グレアカットサンプル110を装着することによりグレア光がない状
態でもコントラスト感度が向上する可能性があり、グレア光がある場合はグレアカットサ
ンプル110を装着することによる幅広い周波数帯域でコントラスト感度が向上すること
が分かった。
【0049】
上記の実験結果においても確認されたように、アイポイント11を中心とする高透光性
領域12と、その周囲を囲う低透光性領域14とを設けた眼鏡レンズ10はグレア光をカ
ット(遮光)する機能を有し、コントラスト感度を向上させるのに有効である。したがっ
て、図1ないし図4に示すような、アイポイント11を中心として遮光率が変化するデザ
インの眼鏡レンズであって、中心の遮光率が周囲より低い、すなわち、中心の透光性の高
い眼鏡レンズ10はアイポイント11を中心とする高透光性領域12と、その周囲を囲う
低透光性領域14とを有するので、グレアカット機能を含みコントラスト感度を向上させ
るのに有効である。
【0050】
さらに、図1ないし図4に示した眼鏡レンズ10は、高透光性領域12から低透光性領
域14にかけてレンズの色の濃度(濃淡)を徐々に増加させたグラディエント領域16を
含むデザインが採用されており、高透光性領域12と低透光性領域14との間に明確な境
界が生じない。したがって、眼鏡レンズ10の全体にわたりレンズの色の濃度(濃淡)が
徐々に変化するので、視野に違和感が生ずることを防止できる。それとともに、気軽に使
用できるファッション性に富んだ眼鏡レンズ10となる。このため、眼鏡レンズ10を含
む眼鏡1は、一般のユーザーがファッションに機能を兼ね備えたアイテムとして装着でき
、また、障害を持つユーザーが日常生活において抵抗感を抱くことなく装着できるものと
なる。
【0051】
また、この眼鏡レンズ10においては、低透光性領域14の遮光率を眼鏡レンズ10の
周辺部で40%程度(紫外線の強い場合は調光層30の機能により90%程度)に止め、
特に夜間や室内においてある程度の透光率を確保している。したがって、低透光性領域1
4においてグレア光をある程度カットするが、低透光性領域14の視野を完全に隠すこと
なく、眼球101の視野感度や視細胞をできるだけ活用し、広い視野が得られるようにな
っている。
【0052】
さらに、グラディエント領域16はデザイン性を向上させるだけではなく、遮光率をア
イポイント11から周辺(外側)に向けて徐々に増加することにより、減能グレア光52
のカットと、クリアーな視界との両立を図ろうとしている。したがって、この点でも視野
が広く、かつ、グレア光の影響を抑制できる眼鏡レンズ10を提供できる。さらに、クリ
アーな視界とグレアカットとがトレードオフの関係になる場合は、グラディエント領域1
6および低透光性領域14は、アイポイント11に対して高透光性領域(明領域)12の
全周を囲い、アイポイント11の全周(360度)方向に設けられており、最小限の眼球
や頭部の動きによりユーザーが最も見やすい条件を容易に実現できるようにしている。
【0053】
グラディエント領域16および低透光性領域14は、基本的にグレア光をカットできる
ので、減能グレア光52のカットだけではなく、不快グレア光51に対しても有効である
。さらに、グラディエント領域16および低透光性領域14は、アイポイント11の全周
方向に設けられているので、どの方向に視軸105を動かしてもグレア光をカットできる
。したがって、不快グレア光51に対しても、視軸105の動きが最少となる方向に眼球
や頭部を動かすことにより不快グレア光51を減能グレア光52の範囲に移動させること
ができ、その影響を抑制できる。
【0054】
このように、眼鏡レンズ10は機能およびデザインの両面において優れており、多種多
様なユーザーが使用できる。したがって眼鏡レンズ10の市場性は高く、低コストで製造
できる可能性がある。このため、機能障害を持つユーザーに対しても低コストで供給可能
となり、誰もが容易に使用でき、使い方が簡単で使用する上での自由度が高く、気軽に使
用することができるユニバーサルデザイン化された眼鏡1を提供できる。
【0055】
さらに、この眼鏡レンズ10は、調光層30を含む。このため、昼間の屋外においては
、調光層30が光(紫外線)を感知して黒色などの暗い色に変色するので、低透光性領域
14に限らず高透光性領域12の遮光率を高くできる。したがって、高透光性領域12も
含め、紫外線カットやグレアカット機能を付与できる。さらに、調光層30による色変化
がハードコート層43の染色に対して主体となる眼鏡レンズ10においては、昼間の屋外
においては、眼鏡レンズ10の全体が暗くほぼ一色のレンズに見え、夜間および屋内にお
いては、ハードコート層43の染色により施されたドーナッツ状あるいはリング状の模様
が見えるという、時と場所によりデザインが変化する眼鏡レンズ10として提供すること
も可能である。したがって、眼鏡レンズ10の全体の変色、偏光などの機能と、視野角に
よるグレアカットの機能とを有し、さらに装飾性の高いデザインを備えた眼鏡1として、
様々な時や場所において使用することができる眼鏡レンズ10および眼鏡1を提供できる

【0056】
この眼鏡レンズ10においては、弁別視力領域91をカバーできるように、視野角θが
少なくとも10度の範囲(たとえば、眼鏡装着用距離Lが25mmのとき(以下において
も同様)にアイポイント11からの半径が4〜5mmの範囲)が高透光性領域12である
ことが好ましい。高透光性領域12は、自由視力領域95を考慮すると視野角θが少なく
とも15度の範囲(アイポイント11からの半径が6.5〜7.5mmの範囲)であって
もよく、さらに、中間領域96を含み、視野角θが少なくとも20度の範囲(アイポイン
ト11からの半径が8.5〜9.5mmの範囲)であってもよい。高透光性領域12では
、可視光領域および近紫外光領域または近赤外光領域を含む全遮光率が95%以下である
ことが好ましい。全遮光率はハードコート層43の染色で実現されてもよく、調光層30
との組み合わせで実現されてもよい。クリアーな視界を確保するという点では、全遮光率
が90%以下であることが望ましく、全遮光率が80%以下であることがさらに好ましく
、全遮光率が70%以下であることがいっそう好ましい。また、高透光性領域12の全遮
光率は0%以上であることが好ましく、デザイン性や、常時光をカットすることが望まし
いユーザーに対しては、全遮光率が5%以上であってもよく、全遮光率が10%以上であ
ってもよい。
【0057】
低透光性領域14は、グレアカット領域93を考慮すると視野角θが20度を超える範
囲(アイポイント11からの半径が8.5〜9.5mmを超える範囲)であることが好ま
しく、自由視力領域95を考慮すると視野角θが15度を超える範囲(アイポイント11
からの半径が6.5〜7.5mmを超える範囲)であってもよく、さらに、弁別視力領域
91を含まない視野角θが10度を超える範囲(アイポイント11からの半径が4〜5m
mを超える範囲)であってもよい。低透光性領域14では、グラディエント領域16の外
側、たとえば視野角θが40度を超える範囲(アイポイント11からの半径が20.5〜
21.5mmを超える範囲)または30度を超える範囲(アイポイント11からの半径が
14〜15mmを超える範囲)においてグレアカットを優先すると可視光領域および近紫
外光領域または近赤外光領域を含む全遮光率が100%であってもよいが、視界の確保を
考慮すると全遮光率が95%以下であることが好ましい。低透光性領域14の全遮光率は
高透光性領域12と同様にハードコート層43の染色で実現されてもよく、調光層30と
の組み合わせで実現されてもよい。クリアーな視界を確保するという点では、全遮光率が
90%以下であることが望ましく、全遮光率が80%以下であることがさらに好ましく、
全遮光率が70%以下であることがいっそう好ましい。また、低透光性領域14の全遮光
率は、少なくともグラディエント領域16の外側においてはグレアカットするために10
%以上であることが好ましく、20%以上であることがさらに好ましく、30%以上であ
ることがいっそう好ましい。
【0058】
1.4 製造方法
1.4.1 レンズ本体の製造
上述した眼鏡レンズ10の製造方法の一例を説明する。この例では、反射防止層44お
よび防汚層(撥水層)45まで積層したのちにハードコート層43を染色できる眼鏡レン
ズ10を製造し、その後、ドーナッツ状の染色を施す例を説明する。反射防止層44およ
び防汚層(撥水層)45まで積層したのちにハードコート層43を染色できる眼鏡レンズ
10については、本願出願人の出願である特開2006−139247号公報に詳しく記
載されている。
【0059】
本眼鏡レンズ10は図4に示したような構成を備えている。まず、所望の光学的な性能
を備えたレンズ基材41を、例えば、セイコーエプソン(株)製、セイコースーパーソブ
リン用レンズ生地(SSV)を用いて形成する。
【0060】
次に、プラスチック製のレンズ基材41の両面に、レンズ基材41およびハードコート
層43の密着性を向上させるプライマー層(下地層)42を浸漬法により形成する。プラ
イマー層42を形成するための塗布液P1は、例えば、市販のポリエステル樹脂「ペスレ
ジンA−160P」(高松樹脂(株)製、水分散エマルジョン、固形分濃度27%)10
0部に、ルチル型酸化チタン複合ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク11
20Z)84部、希釈溶剤としてメチルアルコ−ル640部、レベリング剤としてシリコ
ーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名「SILWET L−77」)1部を
混合し、均一な状態になるまで撹拌して調製する。この塗布液P1を、レンズ基材41の
両面に、ディッピング方式(引き上げ速度15cm毎分)により塗布し、塗布後のレンズ
基材41を80℃で20分間風乾することにより、プライマー層42を形成する。塗布液
P1により形成されたプライマー層42の焼成後の固形分は、62重量%のポリエステル
樹脂と、38重量%のルチル型酸化チタン複合ゾルとを含んでいる。
【0061】
プライマー層42が積層されたレンズ基材41の表面に、ガラス製に比べて傷つきやす
いプラスチック製のレンズ基材41の表面硬度を向上させるハードコート層であって染色
性を有するハードコート層43を形成する。ハードコート層43を形成するための塗布液
H1は、例えば、プロピレングリコールメチルエーテル138部、ルチル型酸化チタン複
合ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z)688部を混合した後
、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン106部、グリセロールポリグリシジル
エーテル(ナガセ化成工業(株)製、商品名デナコールEX313)38部を混合して得
た混合液に、0.1N塩酸水溶液30部を撹拌しながら滴下し、さらに4時間撹拌後、一
昼夜熟成させる。その後、この混合液に、Fe(III)アセチルアセトネート1.8部、
シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L−7001)0.3部を添加
して調製する。この塗布液H1を、プライマー層42の表面に、ディッピング方式(引き
上げ速度35cm毎分)により塗布し、塗布後のレンズ基材41を80℃で30分間風乾
し、さらに、120℃で120分焼成を行うことにより、2.3μm厚のハードコート層
43を形成する。形成されたハードコート層43は、多官能エポキシ化合物であるグリセ
ロールポリグリシジルエーテルを十分に含んでおり、染色可能なハードコート層である。
塗布液H1により形成されたハードコート層43の焼成後の固形分は、55重量%の金属
酸化物微粒子(ルチル型酸化チタン複合ゾル)と、30重量%の有機ケイ素(γ―グリシ
ドキシプロピルトリメトキシシラン)と、15重量%の多官能エポキシ化合物(グリセロ
ールポリグリシジルエーテル)とを含んでいる。
【0062】
ハードコート層43が積層されたレンズ基材41の表面に、光の表面反射を防止する反
射防止層44を形成する。反射防止層44を形成するための塗布液(低屈液)AR1は、
例えば、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン14部、テトラメトキシシラン1
5部を混合したものに0.1N塩酸水溶液13部を撹拌しながら滴下し、さらに4時間撹
拌後、一昼夜熟成させて得た混合液に、プロピレングリコールメチルエーテル878部、
中空シリカゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オスカル特殊品)80部、過塩素酸マグ
ネシウム0.04部、シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L−70
01)0.3部を添加して調製する。レンズ基材41の表面(ハードコート層43の表面
)をプラズマ処理で親水化させた後、この塗布液AR1を、ハードコート層43の表面に
、湿式(ディッピング方式(引き上げ速度15cm毎分))により塗布し、塗布後のレン
ズ基材41を80℃で30分間風乾し、さらに、120℃で60分焼成を行うことにより
、約100nm厚の多孔性の反射防止層(低屈膜)44を形成する。塗布液AR1により
形成された反射防止層44の焼成後の固形分は、25重量%のγ―グリシドキシプロピル
トリメトキシシランと、15重量%のテトラメトキシシランと、60重量%の中空シリカ
ゾルとを含んでいる。本液は、多官能エポキシ化合物(グリセロールポリグリシジルエー
テル)を含んでいない。
【0063】
反射防止層44が積層されたレンズ基材41の表面をフッ素系シラン化合物で撥水処理
し、撥水膜(防汚層)45が設けられた眼鏡レンズ10を形成する。なお、眼鏡レンズ1
0の表面10aの側においては、撥水処理する前に、調光機能を有する液体(コーティン
グ液)を塗布することにより調光層30を成膜する。調光機能を有するコーディング液と
しては、フォトクロミック化合物、ラジカル重合性単量体及びアミン化合物を含み、ラジ
カル重合性単量体がシラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有す
るラジカル重合性単量体を含むものを挙げることができる。
【0064】
1.4.2 染色
本例では、このように製造された撥水膜付きの眼鏡レンズ10を、94℃の分散染料浴
中に浸漬し、所望の模様を有する眼鏡レンズ10を製造した。分散染料は、例えば、セイ
コープラックスダイヤコート用染色剤アンバーDを用いることができる。染色剤を変える
ことにより色、模様を変えることができる。
【0065】
図17に示すように、眼鏡レンズ10の表面(物体側の面)10aの全部に撥染色膜1
60aを形成し、裏面(眼球101の側の面)10bには視野角θが20度以内の領域を
覆い、視野角θが20度以上の領域は除かれるように撥染色膜160b1を形成する。撥
染色膜としては、染色防止効果を備えた素材、たとえば、各種ののりや非透水性の素材か
らなるマスクまたはマスキング用のシートを用いることができる。94℃の分散染料浴中
に10分間浸漬することにより、ハードコート層43の視野角θが20度以上の領域を染
色する。
【0066】
最初の染色を行った後、次に、眼鏡レンズ10の裏面10bを覆う撥染色膜160b1
を、視野角θが15度から20度の範囲をカバーする、染色剤の透過性に距離または角度
依存性がある撥染色膜160b2と、視野角θが0度から15度の範囲をカバーする、透
過性に依存性のない撥染色膜160b3との組み合わせに変更し、94℃の分散染料浴中
に10分間浸漬する。これによりハードコート層43の視野角θが20度以上の領域をさ
らに染色し、視野角θが15度から20度までの領域に角度依存性のある染色を行う。
【0067】
同様に、眼鏡レンズ10の裏面10bを覆う撥染色膜160b2および160b3を、
視野角θが10度から15度の範囲をカバーする、染色剤の透過性に距離または角度依存
性がある撥染色膜160b3と、視野角θが0度から10度の範囲をカバーする、透過性
に依存性のない撥染色膜160b4との組み合わせに変更し、94℃の分散染料浴中に1
0分間浸漬する。これによりハードコート層43の視野角θが15度以上の領域をさらに
染色し、視野角θが10度から15度までの領域に角度依存性のある染色を行う。このよ
うにして高透光性領域12から低透光性領域14にかけてレンズの色の濃度(濃淡)が徐
々に濃くなるグラディエント領域16を有する眼鏡レンズ10を製造し、提供できる。
【0068】
なお、ハードコート層43はさらに細かいステップで染色することによりグラディエン
ト領域16を多段に色が変化する領域で実現することも可能である。また、眼鏡レンズの
染色または色づけは上記の方法に限らず、レンズ基材41を染色してもよく、さらに、イ
ンクジェット方式やスプレー方式により処理液を塗布することによりドーナッツ状の模様
を形成してもよい。インクジェット方式を用いてレンズの表面に処理液を塗布する方法は
、たとえば、本願出願人の出願である特開2001−327908号公報などに記載され
ている。
【0069】
1.5 グラディエント領域を有する眼鏡レンズのファッション性
以上に説明したように、眼鏡レンズ10には、高透光性領域12の全周を囲むように、
周辺に向かって遮光率が変化する領域(グラディエント領域)16が設けられており、ド
ーナッツ状あるいは環状に遮光率が変化する、新しいデザインの、ファッション性の高い
眼鏡レンズ10および眼鏡1を提供できる。すなわち、遮光率の変化をレンズの色の濃度
(濃淡)の変化としてレンズに付与でき、ドーナッツ状あるいは環状の色などの変化を備
えた眼鏡レンズ10は新しい装飾性を持った、ファッション性に富んだ眼鏡レンズ10と
して認識される。上記に示した染色による遮光率の制御(調整)は一例であり、反射防止
層44の性能を調整して反射率(透過率)の変化により遮光率を制御したり、微細模様な
どにより実現される開口率の変化により遮光率を制御してもよく、いずれの場合も遮光率
の変化は外から目に見える変化として眼鏡レンズ10に反映される。
【0070】
さらに、この眼鏡レンズ10は、高透光性領域12と、その高透光性領域12の全周を
囲むように設けられた、グラディエント領域16を含む低透光性領域14を有する。この
ため、上述したように高透光性領域12で視野(視界)を確保し、低透光性領域14でグ
レア光をカット(遮光)することができる。したがって、白内障などの障害があり、低透
光性領域14を有する眼鏡により機能を補助することが望ましいユーザーに限らず、一般
のユーザーがグレア光の影響を抑制してコントラストの高い画像を得たり、強い可視光、
近紫外または近赤外光による眼の疲労や眼に障害が発生するのを抑制するアイテムとして
眼鏡レンズ10を備えた眼鏡1を装着できる。
【0071】
したがって、眼鏡レンズ10は、一枚のレンズに美的効果(ファッション性)および防
眩効果を備え、一般のユーザーや障害を持つユーザーがさらに気軽に使用できる眼鏡レン
ズ10となっている。
【0072】
2. 第2の実施形態
図18(a)に、第2の実施形態に係る眼鏡レンズ100aを、物体側から見た正面図
で示している。また、図18(b)に遮光層20により実現される遮光率の分布を示して
いる。この眼鏡レンズ100aも、アイポイント11を含む高透光性領域12と、高透光
性領域12の全周を囲むように設けられた低透光性領域14とを含み、低透光性領域14
は、高透光性領域12よりも遮光率が高く、周辺15に向かって遮光率が増加する領域(
グラディエント領域)16を含む。高透光性領域12と、低透光性領域14との境界13
を示す波線は仮想的な線であり、実際は現れない。この眼鏡レンズ100aも、図1およ
び2に示したように眼鏡フレーム9に装着することができ、ファッション性と、グレアカ
ット機能とを合わせもった眼鏡1を提供できる。なお、本実施形態および以下の実施形態
において第1の実施形態と共通する部分については共通の符号を付して説明を省略する。
【0073】
この眼鏡レンズ100aにおいては、遮光率がほとんどない(たとえば遮光率が0%)
透光性の高い高透光性領域12が、視野角θが20度の範囲まで広がっている。また、周
辺15に向かって遮光率が増加するグラディエント領域16では、視野角θが20度から
40度の範囲で遮光率が0%から40%程度まで高くなっている。したがって、第1の実
施形態の眼鏡レンズ10に対して、視野角θが10度から20度の中間領域96において
、グレアカットよりもクリアーな像が得られることを優先した設計(デザイン)となって
いる。したがって、この眼鏡レンズ100aは、高透光性領域12の範囲を、特に、遮光
率が変化せずに全体として透明な範囲を、弁別視および自由視を含めた眼球運動領域92
である視野角θが20度まで確保し、より広い視野が確保しやすい設計となっている。
【0074】
なお、この眼鏡レンズ100aにおいても、第1の実施形態と同様に、調光層30を物
体側の面に設けることが可能であり、調光層30の色の変化により眼鏡レンズ100aの
全体(全面積)の遮光率を制御することが可能である。また、調光層30は眼鏡レンズ1
00aの一部に設けたり、変色率が異なる領域を設けたりすることも可能であり、調光層
30とハードコート層43を染色した遮光層20との組み合わせにより様々なデザインの
眼鏡レンズ100aを提供できる。また、以下に説明する他の眼鏡レンズの実施形態にお
いても上記と同様に調光層30を組み合わせることが可能である。
【0075】
3. 第3の実施形態
図19に、第3の実施形態に係る眼鏡レンズ100bの遮光層20の遮光率の分布(変
化)を示している。この眼鏡レンズ100bも、アイポイント11を含む高透光性領域1
2と、高透光性領域12の全周を囲むように設けられた低透光性領域14とを含み、低透
光性領域14は、高透光性領域12よりも遮光率が高く、周辺15に向かって遮光率が変
化する領域(グラディエント領域)16を含む。ただし、この眼鏡レンズ100bにおい
ては、低透光性領域14のグラディエント領域16は、高透光性領域12との境界(全周
)13の近傍17で周辺15に向かって徐々に、しかしながら比較的に急激に色が濃くな
る領域16aと、その領域16aの外側で周辺15に向かって徐々に色が薄くなる領域1
6bとを含む。このため、この眼鏡レンズ100bの低透光性領域14は、周辺15に向
かって一端遮光率が増加するグラディエント領域16aと、その外側で遮光率が周辺15
に向かって減少するグラディエント領域16bとを含む。たとえば、グラディエント領域
16aでは、視野角θが10度から20度の範囲で遮光率が0%から40%程度まで高く
なり、グラディエント領域16bでは、視野角θが20度から40度の範囲で遮光率が4
0%から10%まで減少する。
【0076】
この眼鏡レンズ100bにおいては、内側に設けられた、周辺に向かって一端遮光率が
増加するグラディエント領域16aにより、高透光性領域12と低透光性領域14との間
の境界13をぼかして、高透光性領域12と低透光性領域14との間に明確な境界が生じ
ることを防止できる。また、グラディエント領域16aにより、高透光性領域12に近い
部分に一端レンズの色の濃度(濃淡)が濃くなる部分をデザインできるので、目元にイン
パクトを持たせたオリジナリティ溢れるデザインの眼鏡レンズ100bを提供できる。
【0077】
さらに、グラディエント領域16bは、上記の実施形態とは逆に周辺15に向かって遮
光率が徐々に低くなる。図7に示すように、減能グレア光(障害グレア光)52であって
も、グレア角φが小さい方が視効率(見えやすさ)は低下し、グレア角φが大きい方がグ
レア光の影響は小さくなる。したがって、減能グレア光52をカットするという点では視
野角θが小さい方が遮光率は大きく、視野角θが大きくなるにつれて遮光率は低くなって
もよい。図7に示すように、減能グレア光52の範囲では、視効率はグレア角φに比例し
て向上する。したがって、グラディエント領域16bにおいては、グレアカットのための
遮光率は視野角θに比例して減少するものであってもよい。このため、図19に示す眼鏡
レンズ100bのように、低透光性領域14は周辺15に向かってレンズの色の濃度(濃
淡)が薄くなる領域16bを含んでいてもよく、装用者のコントラスト感度を確保するこ
とができる。また、上記の実施形態と異なる方向の色の変化は同じドーナッツ状の色の変
化であっても新たなデザインとして認識されうるので好ましい。
【0078】
4. 第4の実施形態
図20に、第4の実施形態に係る眼鏡レンズ100cの遮光層20の遮光率の分布(変
化)を示している。この眼鏡レンズ100cも、アイポイント11を含む高透光性領域1
2と、高透光性領域12の全周を囲むように設けられた低透光性領域14とを含み、低透
光性領域14は、高透光性領域12よりも遮光率が高く、周辺15に向かって遮光率が変
化する領域(グラディエント領域)16を含む。本例のグラディエント領域16は、遮光
層20の色の濃度(濃淡)が多段階に変わる領域を含む。具体的には、グラディエント領
域16は、3段階に変化しており、視野角θが10度から20度の範囲で遮光率が10%
の領域16cと、視野角θが20度から30度の範囲で遮光率が20%の領域16dと、
視野角θが30度から40度の範囲で遮光率が30%の領域16eとを含む。
【0079】
多段階に遮光率が変化するグラディエント領域16の各領域16c〜16eの境界部分
は、遮光率が階段状に変わって濃度の変化がエッジとして眼鏡レンズ100cのデザイン
に現れるものであってもよい。また、グラディエント領域16の各領域16c〜16eの
境界部分の遮光率が徐々に変わって、眼鏡レンズ100cのデザインにエッジが見えない
ものであってもよい。本例の眼鏡レンズ100cは、多段階に遮光率が変化する各領域1
6c〜16eの境界部分は遮光率が徐々に増加するようにデザインしている。
【0080】
この眼鏡レンズ100cにおいては、内側の遮光率が低い領域16cが自由視を優先し
た中間領域92に対応し、その外側の領域16dが障害グレア光52の阻止を優先しなが
ら眼球101の視野感度を有効に生かそうとする領域97に対応し、さらにその外側の領
域16eは障害グレア光52のカットを優先したグレアカット領域93に対応する。
【0081】
これらの多段に遮光率が変化するグラディエント領域16は、染色によりレンズの色の
濃淡を変化させるだけでなく、色そのものを変えたり、反射率を変化させることにより製
造可能である。したがって、多段の領域ごとに色合いの変化を設けたりすることが可能で
あり、さらにデザインの選択範囲が広がり、よりファッション性を高めたり、装飾品とし
て価値の高い眼鏡レンズ100cを提供できる。
【0082】
5. 第5の実施形態
図21に、第5の実施形態に係る眼鏡レンズ100dの遮光層20の遮光率の分布(変
化)を示している。この眼鏡レンズ100dも、アイポイント11を含む高透光性領域1
2と、高透光性領域12の全周を囲むように設けられた低透光性領域14とを含み、低透
光性領域14は、高透光性領域12よりも遮光率が高く、周辺15に向かって遮光率が変
化する領域(グラディエント領域)16を含む。本例のグラディエント領域16も多段階
に遮光率が変化する領域16f〜16hを含む。ただし、本例の多段階に遮光率が変化す
る領域16f〜16hは周辺15に向かって多段階に薄くなっている。すなわち、内側の
領域16fは、視野角θが10度から20度の範囲で遮光率が30%であり、その外側の
領域16gは視野角θが20度から30度の範囲で遮光率が20%であり、さらのその外
側の領域16hは視野角θが30度から40度の範囲で遮光率が10%である。これらの
領域16f〜16hの境界は遮光率が急激に変化してもよく、徐々に変化してもよい。最
も内側の領域16fと高透光性領域12との境界部分は、遮光率の差が大きくなるので、
周辺15に向けて急激ではあっても徐々に遮光率が増加するようにデザインすることが好
ましい。
【0083】
この眼鏡レンズ100dは、第3の実施形態の眼鏡レンズ100bと同様に、目元にイ
ンパクトを持たせることができる。それとともに、減能グレア光52による視効率が最も
低下しやすい視野角θの小さい領域のグレア光を効果的にカットでき、コントラスト感度
を上げることができる。さらに、色合いの変化も楽しめる色鮮やかな眼鏡レンズ100d
を提供できる。
【0084】
6. 第6の実施形態
図22に、第6の実施形態に係る眼鏡レンズ100eの遮光層20の遮光率の分布(変
化)、すなわち、裏面10bのハードコート層43の染色濃度の分布と、表面10aの反
射防止層44の近赤外光(波長760〜1300nm)の波長選択性とを示している。こ
の眼鏡レンズ100eの遮光層20は、アイポイント11を含む高透光性領域12と、低
透光性領域14とを含み、さらに低透光性領域14は、周辺15に向かって染色濃度(濃
淡)を徐々に増加させたグラディエント領域16を含む。また、反射防止層44の低透光
性領域14に相当する部分は、近赤外光を選択的に透過しない設計となっており、低透光
性領域14の近赤外光の遮光率はほぼ100%になっている。
【0085】
網膜疾患、脈絡膜疾患などのある装用者は光刺激に敏感であり痛みを感じ、炎症性疾患
を併発していることも多い。したがって、血管拡張に繋がるような刺激は避けることが望
ましく、近赤外光が眼球101に入ることを抑制することが望ましい。一方、近赤外光を
眼鏡レンズの全面で遮蔽することは、反射防止層44の設計によっては可視光の長波長側
の感度を低下させる可能性があり、日常生活に支障をきたす恐れがある。この眼鏡レンズ
100eにおいては、低透光性領域14において選択的に近赤外光を遮蔽することにより
、減能グレア光52のように定常的に眼球101に入る可能性がある光源103からの近
赤外光を遮蔽できるとともに、視軸105の色感度が低下することを抑制できる。さらに
、減能グレア光52をカットすることにより弁別能力の向上を図り、作業能率の低下を抑
制できる。
【0086】
反射防止層44の波長選択性は、反射防止層44が無機多層膜であれば、近赤外光の透
過率が他の可視光よりも低くなるように各層の厚みを設定することにより実現できる。ま
た、反射防止層44により長波長側の波長選択性が可視光にほとんど影響なく設定できる
場合は、眼鏡レンズ100eの全面にわたり近赤外光の遮光率を高くすることは有効であ
る。さらに、反射防止層44としてではなく、近赤外光を反射するための層を新たに成膜
してもよい。
【0087】
さらに、網膜疾患、脈絡膜疾患などのある装用者においては可視光も光刺激となる場合
がある。したがって、可視光(たとえば460〜600nm)の強度も半減できることが
望ましい。このため、ハードコート層43の染色濃度を比較的高くし、遮光率がグレアカ
ット領域93で50%程度に達するようにすることが有効である。たとえば、低透光性領
域14のグラディエント領域16は、視野角θが10度から20度程度の中間領域96に
おいては、周辺15に向かって徐々に、しかしながら比較的急激に色が濃くなる領域16
iと、その領域16iの外側、すなわち視野角θが20度から40度のグレアカット領域
93においては、周辺15に向かって徐々に色が濃くなる領域16jとを含む。本例にお
いては、グラディエント領域16iでは、視野角θが10度から20度の範囲で遮光率が
0%から50%程度まで高くなり、グラディエント領域16jでは、視野角θが20度か
ら40度の範囲で遮光率が50%から60%程度まで高くなっている。さらに、調光層3
0との組み合わせにより、アイポイント11の周辺の高透光性領域12においても、屋外
などの光刺激の強い環境では遮光率が50%以上になるように設計することが望ましい。
【0088】
近赤外光が眼球101に入ることを抑制することは、健常者においても眼球101の障
害の発生を避けるために有効である。したがって、この眼鏡レンズ100eは上記のよう
な障害を有するユーザーのみならず一般のユーザーにとっても装着することは有効である
。さらに、この眼鏡レンズ100eはグラディエント領域16を備え、ファッション性に
富んだ眼鏡レンズとして提供できる。すなわち、この眼鏡レンズ100eはユニバーサル
デザイン化された眼鏡レンズであり、治療用のみならず、ファッションの一つのアイテム
として装着することができる。このため、上記障害を抱える装用者に対しても、他者に明
らかに治療用であるとの認識を抱かせることなく、また、一般のユーザーも抵抗感を抱く
ことなく気軽に使用することができる。
【0089】
7. 第7の実施形態
図23に、第7の実施形態に係る眼鏡レンズ100fの遮光層20の遮光率の分布(変
化)、すなわち、裏面10bのハードコート層43の染色濃度の分布と、表面10aの反
射防止層44の近紫外光(波長310〜400nm)の波長選択性とを示している。この
眼鏡レンズ100fの遮光層20は、アイポイント11を含む高透光性領域12と、高透
光性領域12の周囲に設けられた低透光性領域14とを含み、さらに低透光性領域14は
、周辺15に向かって染色濃度(濃淡)を徐々に増加させたグラディエント領域16を含
む。また、反射防止層44の低透光性領域14に相当する部分は、近紫外光を選択的に透
過しない設計となっており、低透光性領域14の近紫外光の遮光率はほぼ100%になっ
ている。
【0090】
角膜障害、白内障、緑内障などの疾患のある装用者は眼球(水晶体)などの眼組織にお
いて生ずる散乱光により網膜像のコントラスト低下が著しい。したがって、散乱光になり
易い短波長側の近紫外光が眼球101に入ることを抑制することが望ましい。一方、近紫
外光を眼鏡レンズの全面で遮蔽することは、反射防止層44の設計によっては可視光の短
波長側の感度を低下させる可能性があり、日常生活に支障をきたす恐れがある。この眼鏡
レンズ100fにおいては、低透光性領域14において選択的に近紫外光を遮蔽すること
により、減能グレア光52のように定常的に眼球101に入る可能性がある光源103か
らの近紫外光を遮蔽できとともに、視軸105の色感度が低下することを抑制できる。さ
らに、減能グレア光52をカットすることにより弁別能力の向上を図り、作業能率の低下
を抑制できる。
【0091】
反射防止層44の波長選択性は、上記の例と同様に反射防止層44が無機多層膜であれ
ば、近紫外光の透過率が他の可視光よりも低くなるように各層の厚みを設定することによ
り実現できる。また、反射防止層44により短波長側の波長選択性が可視光にほとんど影
響なく設定できる場合は、眼鏡レンズ100fの全面にわたり近紫外光の遮光率を高くす
ることは有効である。さらに、反射防止層44としてではなく、近紫外光を反射するため
の層を新たに成膜してもよい。
【0092】
さらに、角膜障害、白内障、緑内障などの疾患のある装用者においては可視光も散乱光
となりコントラスト低下につながる。したがって、上記の例と同様に可視光(たとえば4
60〜600nm)の強度も半減できることが望ましい。近紫外光が眼球101に入るこ
とを抑制することは、近赤外光と同様に健常者においても眼球101の障害の発生を避け
るために有効である。したがって、この眼鏡レンズ100fも上記のような障害を有する
ユーザーのみならず一般のユーザーにとっても装着することは有効である。さらに、近紫
外光を遮断でき、可視光も光強度が強い状況では減光できる眼鏡レンズ100fは多種多
様なユーザーにおいて有効である。そのような眼鏡レンズを、本発明においてはグラディ
エント領域16を備え、ファッション性に富んだ眼鏡レンズ100fとして提供できる。
したがって、治療用のみならず、ファッションの一つのアイテムとして様々なユーザーが
、抵抗感を抱くことなく気軽に使用できる。なお、上記ファッション性を備え、かつ、近
紫外光および近赤外光の両方を遮断できる眼鏡レンズも有効である。
【0093】
8. 第8の実施形態
図24に、第8の実施形態に係る眼鏡レンズ100gを、物体側から見た正面図で示し
ている。この眼鏡レンズ100gは、累進屈折力レンズであり、比較的遠くを見るための
遠用領域242fと、比較的近くを見るための近用領域242nと、遠用領域242fと
近用領域242nとの間にあって屈折力が連続的に変化する領域242mとを有する。そ
して、眼鏡レンズ100gは、遠用領域242fの中心をアイポイント11として高透光
性領域12が設けられており、高透光性領域12の下側が領域242mを介して近用領域
242nの中心11aを含む範囲まで広がっている。さらに、眼鏡レンズ100gは、高
透光性領域12の周囲を囲うように設けられた低透光性領域14を含み、低透光性領域1
4は、眼鏡レンズ100gの周辺15に向かって染色濃度(濃淡)を徐々に増加させたグ
ラディエント領域16を含む。高透光性領域12の形状は本例に限定されることなく、遠
用領域242fの中心であるアイポイント11を中心とする同心状、たとえば同心円状あ
るいは楕円状であってもよく、累進屈折力レンズであることが目立ちにくい、ドーナッツ
状の模様を含むデザインの眼鏡レンズとすることも可能である。
【0094】
このように、本発明は累進屈折力レンズにも適用できる。特に、遠用領域242fを使
用する際は、太陽光や夜間照明などが障害グレア光52となりやすいので、この眼鏡レン
ズ100gにおいてはそのような障害グレア光52の影響を抑制でき、昼夜の弁別能力を
向上できる。また、累進屈折力レンズの遠用中心(アイポイント)11を中心として周囲
に向かってレンズの色や反射率が変化する眼鏡レンズは新しいデザインであり、ファッシ
ョン性に富んだ眼鏡レンズ100gを提供できる。
【0095】
なお、上記においては1対の眼鏡レンズを備えた眼鏡に基づき本発明を説明しているが
、本発明は左右一組の二眼形の眼鏡レンズだけに限定されず、視野が広い一眼形や、密閉
性の高いゴーグル形などの様々なタイプのレンズにも適用できる。また、視力矯正能力を
有しないサングラスやゴーグルにも適用可能であり、これらは本願の請求の範囲に含まれ
る。さらに、眼鏡レンズ10を装着する眼鏡フレーム9は、縁無しのフレームだけでなく
縁有りのフレームであってもよい。
【符号の説明】
【0096】
1 眼鏡、 9 眼鏡フレーム、 10 眼鏡レンズ、 11 アイポイント
12 高透光性領域、 14 低透光性領域、 16 グラディエント領域
20 遮光層、 30 調光層
242f 遠用領域、 242n 近用領域、 242m 中間領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイポイントを含む高透光性領域と、
前記高透光性領域の全周を囲むように設けられた低透光性領域であって、前記高透光性
領域よりも遮光率の高い低透光性領域とを有する、眼の前方を覆うレンズであって、
前記低透光性領域は、周辺に向かって遮光率が変化する領域を含む、レンズ。
【請求項2】
請求項1において、前記低透光性領域は、周辺に向かって遮光率が増加する領域を含む
、レンズ。
【請求項3】
請求項1または2において、前記高透光性領域は、視野角が少なくとも10度で、全遮
光率が0〜95%の領域を含む、レンズ。
【請求項4】
請求項1または2において、前記高透光性領域は、視野角が20度よりも狭く、全遮光
率が0〜95%の領域を含む、レンズ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、前記低透光性領域は、第1の低透光性領域と、
前記第1の低透光性領域の全周を囲むように設けられた第2の低透光性領域であって、前
記第1の低透光性領域よりも遮光率の高い第2の低透光性領域とを含む、レンズ。
【請求項6】
請求項5において、前記第1の低透光性領域は、視野角が30度よりも狭く、全遮光率
が0〜95%の領域を含む、レンズ。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、前記低透光性領域は、波長760〜1300n
mの光の遮光率が高い領域を含む、レンズ。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、前記低透光性領域は、波長310〜400nm
の光の遮光率が高い領域を含む、レンズ。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかにおいて、比較的遠くを見るための遠用領域と、比較的近
くを見るための近用領域と、前記遠用領域と前記近用領域との間にあって屈折力が連続的
に変化する領域とをさらに有し、前記アイポイントは、前記遠用領域の中心である、レン
ズ。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、前記低透光性領域は、当該レンズの少なくとも
一部が染色された領域を含む、レンズ。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかにおいて、当該レンズの一方の面に形成された調光層で
あって、前記高透光性領域および前記低透光性領域の遮光率を共に変える調光層と、
前記レンズの他方の面に形成された遮光層であって、前記高透光性領域に対して前記低
透光性領域の遮光率を高くする遮光層とを有する、レンズ。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載のレンズは眼鏡レンズであり、
前記眼鏡レンズと、前記眼鏡レンズが取り付けられた眼鏡フレームとを有する眼鏡。

【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図18】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−81228(P2011−81228A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234079(P2009−234079)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】