説明

眼鏡レンズ

【課題】ファッション性の向上と、さらに効率のよいグレアカット機能を付与できる眼鏡レンズを提供する。
【解決手段】アイポイント(眼鏡を掛けたときの目の位置、瞳孔中心位置、フィッティングポイント)11を含む高透光性領域12と、高透光性領域12の上下左右の少なくとも3方を囲むように設けられた低透光性領域14であって、高透光性領域12よりも遮光率の高い低透光性領域14とを有し、ファッショナブルでグレアカットもできる眼鏡レンズ10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、左右でレンズのレイアウトが異なる場合であっても左右対称に縦染色することができる染色方法を提供することが記載されている。特許文献1では、そのため、眼鏡用レンズに対して、そのレンズ上に想定される加工後のレンズ形状における垂直中心線を算出する工程と、垂直中心線を基準に染色濃度変化終了位置を決定する工程と、染色開始位置を下に、染色濃度変化終了位置を上にして眼鏡用レンズを染料液中に浸漬し、前記染色開始位置から前記染色濃度変化終了位置に向かって染色濃度が連続的に低下するように染色する工程とを備えている染色方法が記載されている。
【0003】
特許文献1においては、たとえば、左目用の加工レンズは、染色が施されていない非染色部(明部)と染色が施されている部分を有し、この染色が施されている部分は、内側から外側に向けて(眼鏡フレーム中心から水平方向に遠ざかるにつれて)染色濃度が連続的に高くなるように染色される。つまり、左目用の加工レンズの染色が施されている部分の染色濃度勾配は眼鏡フレーム中心側から外側に向けて徐々に高くなるように染色される。これにより染色が施されている部分の内側に比較的染色濃度が低い(透過率が高い)薄染色部が形成され、外側に比較的染色濃度が高い(透過率が低い)暗部が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−9327号公報(要約および段落番号0043)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された技術は、左右対称に染色することができ、ファッション性の高い縦染色の眼鏡レンズを提供するものである。また、眼鏡レンズにおいて、染色により連続的な濃度変化を与えることはファッション性を高めることを主な目的としている。
【0006】
眼鏡レンズの主な目的は視力矯正であり、ファッション性を高めることも重要である。さらに、眼鏡レンズに遮光性を導入することにより眩しさ(グレア)を緩和することが可能である。そして、グレアを緩和することにより視効率を向上できる。本発明の目的の1つは、ファッション性の向上または選択範囲の増加のみならず、さらに効率のよいグレア緩和またはグレアカット機能を付与できるレンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、眼の前方を覆うレンズであって、アイポイント(眼鏡を掛けたときの目の位置、瞳孔中心位置、フィッティングポイント)を含む高透光性領域と、高透光性領域の上下左右の少なくとも3方を囲むように設けられた低透光性領域であって、高透光性領域よりも遮光率の高い低透光性領域とを有するレンズである。
【0008】
このレンズは、高透光性領域の上下左右の少なくとも3方を囲むように設けられた低透光性領域により、アイポイントを含む高透光性領域の周囲の少なくとも3方向から入射するグレア光を緩和または遮光(カット)でき、防眩効果が高い。その一方、アイポイントを含む高透光性領域により良好な視野を確保できる。さらに、高透光性領域の上下左右の少なくとも3方を囲むように設けられた低透光性領域は、レンズの色の濃度(濃淡)の変化、反射率(透過率)の変化、微細模様などにより実現される開口率の変化など、外から目に見える変化としてレンズに付与できる。このため、本発明により、C字型(逆C字型あるいは上下にC字が向いた形状を含む)、コ字型、O字型、ドーナッツ型といった、ユニークな模様(意匠)を備えたレンズを提供できる。
【0009】
したがって、防眩効果が高く、良好な視野が確保でき、さらに、新たなデザインを供給できる装飾効果の高いレンズを提供できる。多方向からのグレア光を緩和またはカットできるレンズは、一般ユーザーにおいて眼の保護と快適な視界を確保するために有効であり、白内障などの眼の障害を有するユーザーにおいてはさらに有効である。そして、このレンズは装飾性の高い眼鏡などとして一般のユーザーが装着可能なものとなるので、障害を有するユーザーも気軽に装着でき、ユニバーサルデザイン化されたレンズとして提供できる。
【0010】
このレンズの低透光性領域は、周辺に向かって遮光率が変化する領域を含むことが望ましい。遮光率の変化も、レンズの色の濃度(濃淡)の変化、反射率(透過率)の変化、微細模様などにより実現される開口率の変化などの外から目に見える変化としてレンズに付与できる。したがって、さらに新しいデザインの、ファッション性の高いレンズを提供できる。さらに、このレンズにおいては、高透光性領域に限らず、低透光性領域の周辺に向かって遮光率が変化する領域(グラディエント領域)を介して装着者は外部を見ることができ、レンズの面積に対して視野角が極端に狭くなることを抑制できる。また、周辺に向かって遮光率が変化する領域の広さ、遮光率の変化率を制御することにより、レンズの面積に対して確保できる視野角を制御できる。
【0011】
低透光性領域は、周辺に向かって遮光率が増加する領域を含むことが望ましい。高透光性領域と低透光性領域との間に明確な境界が生じることを抑制できる。したがって、さらにファッション性に富んだレンズを提供できる。また、高透光性領域と低透光性領域との間に明確な境界があることにより視野に違和感が生ずることを防止できる。したがって、一般のユーザーや障害を持つユーザーがさらに気軽に使用できるレンズを提供できる。
【0012】
このレンズにおいて、高透光性領域の上下および耳側を少なくとも含むように低透光性領域を設けることが望ましい。レンズの鼻側に対してグレア光が入射しやすい高透光性領域の上側、下側および耳側のグレア光を抑制または遮光(カット)でき、高い防眩効果とともに良好な視野を確保できる。レンズの鼻側を含めて低透光性領域を設けてもよい。
【0013】
低透光性領域の一形態はC字型(逆C字型を含む)である。C字型とは、大小の半径の異なる円または楕円が中心をずらして重なり合い、小径の周(円周)により大径の周(円周)の一部が欠けたような図形を含む。鼻側がカットされたC字型は、鼻側に広い視野を確保しやすいとともに鼻側の上下方向のグレア光を抑制できる。下側がカットされたC字型は、遠用領域と近用領域とを有する特に累進屈折レンズにおいて近用領域の明視野を確保しやすいとともに鼻側および耳側方向のグレア光を抑制できる。
【0014】
このレンズにおいては、高透光性領域は、視野角が少なくとも10度で、全遮光率が0〜95%の領域を含むことが望ましい。弁別視のときに頭部の動きが伴わない領域(弁別視の際の眼球の運動領域)は視野角が約10度の領域とされており、その範囲を低透光性領域より明るい高透光性領域として確保することにより、ユーザーが使用する上で違和感が少なく、使い方の相違も少ない、ユニバーサルデザイン化にさらに適したレンズを提供できる。
【0015】
このレンズにおいては、高透光性領域は、さらに、視野角が20度よりも狭く、全遮光率が0〜95%の領域を含むことが望ましい。視野角が20度よりも広いグレアはソフトなグレア光(障害グレア光、減能グレア光)であり、視野角の小さな領域の不快なグレア光(不快グレア光)と異なり、グレア光の侵入を避けなくても、そのグレア光を抑制することにより作業効率の低下を抑制できる。したがって、高透光性領域の範囲は視野角20度までとし、視野角が20度よりも広い領域は低透光性領域として作業の障害となりやすいグレア光が眼に入るのを抑制することが望ましい。
【0016】
さらに、このレンズにおいては、低透光性領域は、第1の低透光性領域と、第1の低透光性領域の全周を囲むように設けられた第2の低透光性領域であって、第1の低透光性領域よりも遮光率の高い第2の低透光性領域とを含むことが望ましい。障害グレア光の侵入を抑制する低透光性領域を、指標(対象物)を大まかに認識するいわゆる自由視を優先した第1の領域と、グレア光の阻止を優先した第2の領域とを含む多段階に設定することにより、グレア光の影響を抑制し、コントラスト感度(見え方の質、視覚の質)のさらなる向上を図ることができる。第1の低透光性領域は、視野角が30度よりも狭く、全遮光率が0〜95%の領域を含むことが望ましい。さらに、遮光率の異なる多段階の領域を設けることにより、低透光性領域でレンズの色を変化させたり、反射率を変化させることが可能となり、より一層ファッション性を高めたり、装飾品として価値の高いレンズを提供できる。
【0017】
このレンズにおいては、低透光性領域は、近赤外光、すなわち、波長760〜1300nmの光の遮光率が高い領域を含むことが望ましい。網膜疾患、脈絡膜疾患の症状のあるユーザーには特にこの周波数帯のグレア光を抑制することにより弁別能力の向上を図り、作業能率の低下を抑制できる。
【0018】
また、このレンズにおいては、低透光性領域は、近紫外光、すなわち、波長310〜400nmの光の遮光率が高い領域を含むことも有効である。角膜炎、白内障、緑内障などの症状のあるユーザーには特にこの周波数帯のグレア光を抑制することにより弁別能力の向上を図り、作業能率の低下を抑制できる。視野を確保しながら近赤外光および/または近紫外光を抑制することは、これらの眼の障害の発生を予防するためにも有効であり、これらの障害の症状のないユーザーにおいても本発明のレンズは有用である。
【0019】
本発明のレンズは、比較的遠くを見るための遠用領域と、比較的近くを見るための近用領域と、遠用領域と近用領域との間にあって屈折力が連続的に変化する中間領域とをさらに有する累進屈折力レンズであってもよい。累進屈折力レンズにおいては、高透光性領域の中心であるアイポイントは、遠用領域の中心であることが望ましい。障害グレア光の影響を遠用領域で削減することが弁別能力の向上につながりやすい。また、屈折力が連続的に変化する累進屈折力レンズの遠用中心をアイポイントとするファッション性に富んだレンズを提供できる。さらに、遠用領域の下側に形成される近用領域が、レンズの縁周辺にまで及んでいる場合であっても、遠用領域の中心をアイポイントとする高透光性領域の上側、鼻側および耳側から入射するグレア光を遮光(カット)し、防眩効果を高めるとともに良好な視野を確保できる。
【0020】
このレンズにおいては、低透光性領域は、当該レンズの少なくとも一部が染色された領域を含むものであっても良い。染色は、低透光性領域の遮光率を高くするための方法の1つであり、個々のレンズによって色を変えたり、遮光率により1つのレンズに多色を導入することなどにより、さらにファッション性や装飾性の高いレンズを提供できる。
【0021】
本発明のレンズは、レンズの一方の面に調光層を形成し、他方の面に遮光層を形成したものであってもよい。調光層は高透光性領域および低透光性領域の遮光率を共に変える(調整する)層であり、遮光層は高透光性領域に対して低透光性領域の遮光率を高くする層である。レンズ全体の紫外線カットあるいは赤外線カットを含めた透光性能を調光層として、高透光性領域および低透光性領域の遮光率を制御する遮光層と異なる面に設けることにより、変色、偏光などの機能を、高透光性領域の周囲に低透光性領域が形成されたレンズに付与でき、多機能のレンズを提供できる。
【0022】
本発明の異なる態様の1つは、上記レンズが眼鏡レンズであり、その眼鏡レンズと眼鏡レンズが取り付けられた眼鏡フレームとを有する眼鏡である。障害グレア光を効率よくカットできるとともに、ファッション性や装飾性が高く、ユーザーが日常的に使いやすい眼鏡を提供できる。ファッション性が高いので、一般のユーザーが使用するのみならず、特定の機能障害をフォローするためにも使用でき、多種多様なユーザーが使用できることから、市場性が高く、機能障害を持つユーザーに対しても低コストで供給可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】眼鏡レンズを有する眼鏡を物体側から見た斜視図。
【図2】眼鏡レンズを有する眼鏡を物体側から見た正面図。
【図3】眼鏡レンズを物体側から見た正面図。
【図4】図3に示す眼鏡レンズのIV−IV端面図。
【図5】(a)は図4に示す遮光層の鉛直方向の遮光率の分布を示した図で、(b)は図4に示す遮光層の水平方向の遮光率の分布を示した図。
【図6】視野角に対応するグレアを示した図。
【図7】視野角と視効率の関係を示した図。
【図8】視野角の求め方を示した図。
【図9】視標探索時の頭位(眼位)運動を示した図。
【図10】眼鏡レンズの領域を示した図。
【図11】(a)は裸眼の状態で眼球から得られる像の感度を模式的に示した図で、(b)はグレアカット対応の眼鏡レンズを装着した状態で眼球から得られる像の感度を模式的に示した図。
【図12】グレアカット効果の実験に用いた眼鏡レンズサンプルの正面図。
【図13】図12に示す眼鏡レンズの明室におけるコントラスト感度を示した図。
【図14】図12に示す眼鏡レンズの明室における異なるコントラスト感度を示した図。
【図15】図12に示す眼鏡レンズの半暗室におけるコントラスト感度を示した図。
【図16】図12に示す眼鏡レンズの半暗室における異なるコントラスト感度を示した図。
【図17】染色の一例を示した図。
【図18】(a)は第2の実施形態に係る眼鏡レンズを物体側から見た正面図で、(b)は第2の実施形態に係る眼鏡レンズの遮光層の、鉛直方向の遮光率の分布を示した図。
【図19】第3の実施形態に係る眼鏡レンズを物体側から見た正面図。
【図20】(a)は第4の実施形態に係る眼鏡レンズの遮光層の、鉛直方向の遮光率の分布を示した図で、(b)は第4の実施形態に係る眼鏡レンズの遮光層の、水平方向の遮光率の分布を示した図。
【図21】(a)は第5の実施形態に係る眼鏡レンズの遮光層の、鉛直方向の遮光率の分布を示した図で、(b)は第5の実施形態に係る眼鏡レンズの遮光層の、水平方向の遮光率の分布を示した図。
【図22】(a)は第6の実施形態に係る眼鏡レンズの遮光層の、鉛直方向の遮光率の分布を示した図で、(b)は第6の実施形態に係る眼鏡レンズの遮光層の、水平方向の遮光率の分布を示した図。
【図23】(a)は第7の実施形態に係る眼鏡レンズの遮光層の、鉛直方向の遮光率の分布を示した図で、(b)は第7の実施形態に係る眼鏡レンズの遮光層の、水平方向の遮光率の分布を示した図。
【図24】(a)は第8の実施形態に係る眼鏡レンズの遮光層の、鉛直方向の遮光率の分布を示した図で、(b)は第8の実施形態に係る眼鏡レンズの遮光層の、水平方向の遮光率の分布を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1. 第1の実施形態
1.1 眼鏡レンズの概要
図1に、本発明に係る眼鏡レンズ10を有する眼鏡1を、物体側から見た斜視図で示している。図2に、本発明に係る眼鏡レンズ10を有する眼鏡1を、物体側から見た正面図により示している。この眼鏡1は、左右一組の正面視楕円形の眼鏡レンズ10と、眼鏡レンズ10が取り付けられた眼鏡フレーム9とを備えている。眼鏡レンズ10は、アイポイント(眼鏡を掛けたときの目の位置、瞳孔中心位置、フィッティングポイント)11を含む高透光性領域12と、高透光性領域12の上下および耳側の3方を囲むように設けられた低透光性領域14とを含む。低透光性領域14は、高透光性領域12よりも遮光率が高く、周辺15に向かって遮光率が増加する領域(グラディエント領域、グラデーション領域)16を含む。この眼鏡レンズ10は、裏面(眼球側の面)10bの色の濃度(濃淡)を徐々に濃くすることにより、高透光性領域12から低透光性領域14にかけてグラディエント領域16を形成している。
【0025】
図3に、ユーザーの左目用(以降においても、特に記載しない限り左右は眼鏡をかけるユーザー側から見た方向を示す)の眼鏡レンズ10を抜き出して、物体側から見た正面図で示している。図4に、左目用の眼鏡レンズ10の概略構成を、縦方向の端面図(図3のIV−IV端面)で示している。図3においては、説明のため、眼鏡レンズ10におけるアイポイント11を含む高透光性領域12と、その高透光性領域12の上側18c、下側18dおよび耳側18bの3方を囲むように設けられた低透光性領域14との境界13を破線で示している。この例では、周辺15に向かって遮光率が増加するグラディエント領域16は境界13に隣接するように設けられている。したがって、高透光性領域12と低透光性領域14との境界13において遮光率は滑らかに変化しており、破線で示された境界13は、眼鏡1を装着したときに外から眼鏡1を見た人にも、また、眼鏡1を装着しているユーザーにもほとんど意識されない、あるいは目立たないようになっている。
【0026】
さらに、この眼鏡レンズ10は、高透光性領域12から低透光性領域14にかけてレンズの色の濃度(濃淡)を徐々に増加させた、物体側から見て逆C字型状のグラディエント領域16が設けられており、斬新なデザインの眼鏡レンズである。すなわち、この眼鏡レンズ10においては、高透光性領域12の中心となるアイポイント11が眼鏡レンズ10の幾何学的な中心19に対して鼻側18aにシフトしている。低透光性領域14はレンズの幾何学的な中心(長軸と短軸との交点)19を中心とした径の大きな楕円または円として認識され、高透光性領域12はアイポイント11を中心とした径の小さな楕円または円として認識され、低透光性領域14の周囲であるレンズの周囲10eが高透光性領域12と低透光性領域14との境界13と交わり、または接し、低透光性領域14の鼻側18aの一部が途切れた状態となり、低透光性領域14が全体として鼻側18aが切れたC字型(逆C字型)をなしているようなデザインとなる。なお、本明細書においては、特に記載しない限り、C字型は鼻側18aがカットされた逆C字型、耳側18bがカットされたC字型、上側18cがカットされたC字型、下側18dがカットされたC字型を含む。
【0027】
さらに、この眼鏡レンズ10においては、高透光性領域12と低透光性領域14との間に明確な境界がない。したがって、眼鏡レンズ10を装着することにより、以下に説明するグレアカット効果が得られるとともに、視野に違和感が生ずることを抑制できる。このため、一般のユーザーや障害を持つユーザーが日常生活において抵抗感を抱くことなく、さらに気軽に使用できるファッション性に富んだ眼鏡レンズ10である。なお、眼鏡レンズ10は、裏面(眼球側の面)10bの側から見た場合にも、表面(物体側の面)10aから見た場合と同様に(左右対称になる場合もあるが)、図3に示したデザインとして認識される。
【0028】
眼鏡レンズ10は、レンズ基材41の裏面41b、すなわち眼球101の側に遮光率が変化する遮光層20を含み、レンズ基材41の前面41a、すなわち物体側に調光層30を含む構造を有する。眼鏡レンズ10の物体側の面(表面)10aに形成された調光層30は、紫外線を含む光の照射により変色する調光機能(フォトクロミック機能)を有する層であり、調光機能を有する液体(コーティング液)を塗布することにより製造されている。そのようなコーディング液としては、フォトクロミック化合物、ラジカル重合性単量体及びアミン化合物を含み、ラジカル重合性単量体がシラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有するラジカル重合性単量体を含むものを挙げることができる。調光層30は、眼鏡レンズ10の高透光性領域12および低透光性領域14の遮光率を共に変える(調整する)層である。調光層30の一例は、紫外線の強度により遮光率が変わり、可視光(460〜600nm、好ましくは400〜760nm)を0%から50%の範囲でカットし、近紫外光(310〜400nm)の範囲を0%から90%、さらに好ましくは0%から100%の範囲でカットするものである。
【0029】
眼鏡レンズ10の裏面(眼球101の側の面)10bの遮光率が変化する遮光層20は、染色可能なハードコート層43の染色濃度を変えることにより形成している。この遮光層20により高透光性領域12と、高透光性領域12に対して遮光率の高いグラディエント領域16を含む低透光性領域14が形成されている。
【0030】
図5(a)に、左目用の眼鏡レンズ10のハードコート層43(遮光層20)を抜き出して、アイポイント11を含む鉛直方向の視野角(鉛直視野角)θyに対する染色状態を示している。図5(b)に、左目用の眼鏡レンズ10のハードコート層43(遮光層20)を抜き出して、アイポイント11を含む水平方向の視野角(水平視野角)θxに対する染色状態を示している。
【0031】
具体的には、図5(a)に示すように、ハードコート層43の鉛直視野角θy(以下で説明する)がアイポイント11に対し0度から15度の範囲は染色されておらず、ハードコート層43による遮光率の増加は図られておらず、基本的には遮光率は0%となっている。ハードコート層43の鉛直視野角θyが15度から30度の範囲は、鉛直視野角θyにほぼ比例して遮光率が0%から30%に徐々に変化するように染色されている。なお、視野角θ、鉛直視野角θyおよび水平視野角θxは、特に記載しないかぎりアイポイント11を中心とするプラス方向およびマイナス方向の視野角を含む。また、視野角θという記載は、特に記載しないかぎり鉛直視野角θyおよび水平視野角θxに共通する特徴を示す。さらに、本明細書において遮光率が0%とは、染色などにより遮光率の増加が図られていないことを示しており、レンズ基材41およびその他の層42〜45などによる光の吸収は考慮していない。したがって、レンズ基材41およびその他の層42〜45などによる光の吸収により、本明細書において遮光率が0%と記載しても、眼鏡レンズ10により光の吸収(減衰)が認められることがある。
【0032】
一方、図5(b)に示すように、ハードコート層43の水平視野角θx(以下で説明する)がアイポイント11を中心として鼻側18aおよび耳側18bに0度〜20度の範囲は染色されておらず、ハードコート層43による遮光率は0%となっている。ハードコート層43の水平視野角θxが耳側18bの方向に20度から40度の範囲は、水平視野角θxにほぼ比例して遮光率が0%から40%に徐々に変化するように染色されている。ハードコート層43の水平視野角θxが耳側18bの方向に40度以上の範囲は、遮光率40%となるように染色されている。なお、眼鏡レンズ10の鼻側18aは、水平視野角θxが0度〜20度の範囲のみであり、この眼鏡レンズ10の鼻側18aは全体が高透光性領域12である。
【0033】
したがって、この眼鏡レンズ10においては、鉛直視野角θyが15度以下であって水平視野角θxが20度以下の範囲を高透光性領域12、鉛直視野角θyが15度を超え水平視野角θxが耳側18bの方向に20度を超える範囲を低透光性領域14、鉛直視野角θyが15度を超え水平視野角θxが耳側18bの方向に20度から40度の範囲をグラディエント領域16とすることができる。
【0034】
図4に示すように、眼鏡レンズ10は、レンズ基材41の裏面41bには、レンズ基材41よりプライマー層42、ハードコート層43、反射防止層44および防汚層45が積層されており、ハードコート層43が染色層(遮光層)20となり、眼鏡レンズ10の場所(視野角)に依存した遮光率を制御している。レンズ基材41の前面41aにはレンズ基材41よりプライマー層42、ハードコート層43、反射防止層44、調光層30および防汚層45が積層されており、調光層30は、眼鏡の使用時刻あるいは場所などによる遮光率を制御している。染色層20を表面10aの側に設け、調光層30を裏面10bの側に設けることも可能である。しかしながら、調光層30が紫外線により感度良く変色するためには、紫外線がレンズ基材41あるいは他の層により吸収されやすい裏面10bの側よりも紫外線に晒されやすい表面10aの側に調光層30を設けることが望ましい。なお、この眼鏡レンズ10の製造方法については以下でさらに説明する。
【0035】
1.2 高透光性領域および低透光性領域を有する眼鏡レンズのグレアカット効果について
図6に、視野角に対応するグレア(眩しさ)を示している。図7に、視野角と視効率(見えやすさ)の関係を示している。図8に、視野角の求め方を示している。図8に示すように、眼球101の視軸(アイポイント11を通る線)105に対する視野角θ(鉛直視野角θy、水平視野角θx)は、眼鏡装用距離Lおよび視野幅Fwにより、以下の式(1)で求められる。
θ=tan−1(Fw/L)・・・(1)
【0036】
視野幅Fwは眼鏡レンズ10のアイポイント11からの距離を示す。図1ないし図3に示したような眼鏡レンズ10のデザインは、アイポイント11を1つの中心として変化する模様が主なものである。したがって、アイポイント11からの距離が主なファクターとしてデザインが決まる。また、眼鏡装用距離Lは概ね25mm程度でほぼ一定している。このため、眼鏡レンズ10のデザインを視野角θ(鉛直視野角θy、水平視野角θx)で定義することが可能である。たとえば、視野幅Fwが4mmは視野角θが約9度に相当する。したがって、以下においては、視野角θを用いて、上記の眼鏡レンズ10に付されたデザインと、グレアカットとの関係について説明する。なお、以下において視野角θ(鉛直視野角θy、水平視野角θx)は、特別に記載しない限り絶対値または円錐の半頂角を意味し、立体角に対応するものである。したがって、視野角θは、視軸105に対して水平または鉛直(垂直)方向に±θであることを示す。
【0037】
図6は、注視線(図面の0度の線、視軸)105に対してある角度(グレア角)φに強い光(光源)103があるときに、対象物102の見え方が低下することを照度低下に換算した値で示している。図7は、見え方の低下(照度低下)を視効率の低下として、グレア角φに対して示している。図6に示すように、視標(対象物)102に対するグレア角φにより視効率(見えやすさ)は変化するが、視野内に光源103があるとグレアとなり視効率が低下することが分かる。全体的に眼球101に入射する光(グレア光)が視標(対象物)102から離れるにつれて、徐々にグレア(眩しさ)が緩和され視効率(見えやすさ)が向上する。
【0038】
このようなグレア(眩しさ、羞明)は、過剰な輝度または過剰な輝度対比のために不快感または視機能低下につながり、不快グレアと障害グレア(減能グレア)に分類される。グレア角φが20度以下のグレアによる視効率の低下はほぼ50%を超えて著しく、対象物102の判別が難しくなる。したがって、不快感を覚え、人間はほとんど無意識に眼球101を動かしたり、頭を動かしたり、姿勢を変えたりするなどの動作を行い、少なくともその範囲(グレア角φが20度)にグレア光が入らないようにする。このようなグレア光を不快グレア光51と呼ぶ。「不快グレア」は、視野内で隣接する部分の輝度差が著しい場合や、眼に入射する光量が急激に増したときに不快を感じる状態をいう。
【0039】
一方、グレア角φが20度から40度の範囲のグレア光による視効率の低下はほぼ50%以内である。したがって、この角度範囲のグレア光は極端な不快感をもたらさない緩やかな、あるいはソフトなグレア光である。しかしながら視効率は低下する。このため、この角度範囲のグレア光は障害グレア光(減能グレア光)52と呼ばれる。減能グレア光52については、眼組織内において生ずる散乱光による網膜像のコントラストの低下、露出不足、網膜順応不能などが視力の低下につながると考えられている。また、印刷面における反射光により文字が読みにくくなるような反射グレアも減能グレア光52に含まれる。
【0040】
したがって、視効率の低下を抑制するためには、不快グレア光51に対しては、どのような方向からの光であっても素早く不快グレア光51を少なくとも減能グレア光52の範囲に動かして視野を確保することが望ましい。また、減能グレア光52に対してはその影響を定常的に、また、効果的にカットして良好な視野を確保できるようにすることが望ましい。放置すれば無意識に入射し続ける減能グレア光52をカットすることは視野を確保するだけではなく、眼球、角膜などに障害が発生するのを未然に防止するためにも有効である。さらに、白内障の患者にとっては、混濁した水晶体の中を光が散乱するのでグレア光によるコントラスト感度の低下が大きく、そのような眼の病気を持ったユーザーにおいては、減能グレア光52をカットすることは視力を矯正するためにも有効である。
【0041】
図9は、視標探索時の頭位(眼位)運動を観察した一例を示している。図9に示した幾つかのグラフは、注視点より水平方向にある角度だけ移動した視標(対象物)を認識するために、頭部がどの程度回転するかを示している。視標(対象物)を注目させる注視の状態においては、グラフ181に示すように頭部は対象物とともに回転する。これに対して、視標(対象物)を単に認識する程度の弁別視の状態においては、グラフ182に示すように、頭部の動きは対象物の角度(移動)に対して10度程度小さく(少なく)なる。この観察結果により、眼球の動きにより対象物を認識できる範囲の限界を約10度程度に設定できる。したがって、視野角θが10度程度以内を弁別視力領域(弁別視の際の眼球の運動領域)と設定できる。さらに、指標(対象物)を大まかに認識する自由視の状態においては、グラフ183に示すように、対象物の角度(移動)に対して15度程度小さく(少なく)なる。したがって、視野角θが15度程度以内を自由視力領域(自由視の際の眼球の運動領域)と設定できる。
【0042】
図10に、上記考察に基づき本願の発明者が眼鏡レンズ10において設定した幾つかの領域を示している。眼鏡レンズ10の視軸105に対する視野角θが10度以内の範囲は弁別視力領域91と定義できる。上述したように視野角θが10度以内の範囲は、弁別視のために主に眼球が動く。したがって、この範囲はできる限りクリアーな視界が得られることが望ましく、紫外線などが極端に強い場合を除き、グレア光をカットすることよりもクリアーな視界を得ることが望ましいと考えられる。
【0043】
視軸105に対する視野角θが20度以内の範囲は眼球運動領域92と定義できる。この眼球運動領域92には、弁別視力領域91および自由視力領域95が含まれる。グレア角φが20度以下のグレア光は不快グレア光51であり、視野角θが20度以下の範囲にグレア光があれば、この範囲のグレア光は眼球または頭の動きで避けると予想される。したがって、視野角θが20度以下の領域は、基本的には、グレア光をカットまたは抑制することよりも、紫外線などが極端に強い場合を除き、クリアーな視界を得ることが望ましいと考えられる。
【0044】
一方、視野角θが10度から20度の範囲は、弁別視力領域91を超えており、弁別視力領域91ほど視覚に影響を与えない。さらに、自由視力領域95は視野角θが15度以下程度までであり、視野角θが15度を超えると対象物を視野に捉えてもその対象物の明確な把握に寄与する率(能力)は少ない領域であるといえる。したがって、視野角θが10度から20度の範囲は中間領域96であり、クリアーな視界を得ることと、グレア光をカットまたは抑制することとをある程度のレベルで両立させたり、またはいずれか一方を優先してもよい。すなわち、視野角θが10度から20度程度の中間領域96は、ユーザーあるいは用途により眼鏡レンズ10の機能をフレキシブルに設定でき、また、この中間領域96は眼鏡レンズ10のデザインのフレキシビリティが高い領域となる。
【0045】
視軸105に対する視野角θが20度から40度の範囲はグレアカット領域93である。図6および図7に示したように、グレア角φが20度以上の領域のグレア光は障害グレア光52であり、この範囲のグレア光は眼球や頭部の動きにより避けられない可能性がある。また、この範囲のグレア光は視効率の低下に繋がる。したがって、グレアカット領域93においては、クリアーな視界を得ることよりもグレア光をカットすることを優先することが望ましい。その一方、視野の感度分布や網膜上の視細胞の分布を考慮すると、視野角θが40度の付近でも十分な感度があることが認められており、さらに、視野角θが30度の付近で感度および視細胞の分布は比較的急激に増加する。したがって、視野角θが20度から40度の範囲で完全に眼球101に入る光を遮断すると、その範囲の視野感度がなくなり、視細胞の機能が活かされない。このため、眼球101の弁別能力を活かすためには視野角θが40度程度までグレア光のカットを優先しながらある程度の視界が確保できることが望ましい。
【0046】
さらに、視野角θが20度から30度の範囲は、視野感度も比較的高く、視細胞の分布も高い。したがって、視野角θが20度から30度の領域97はグレアカット領域93ではあるが、視野角θが30度を超える領域に対して遮光率を低くし、グレアカットを若干低くしてクリアーな視野が得られるようにすることも有効な領域である。したがって、この領域97も中間領域96と同様に、ユーザーあるいは用途により眼鏡レンズ10の機能をフレキシブルに設定でき、また、デザインのフレキシビリティが高い領域となる。
【0047】
視軸105に対する視野角θが40度から45度の範囲は、殆どの眼鏡レンズ10においてフレームに入れるために加工される領域であり、眼鏡1のフレーム領域94である。したがって、フレーム領域94のグレア光はカットされる。図3に示した眼鏡レンズ10のように、アイポイント11が鼻側(眼鏡フレーム中心側)18aに寄っている(ずれている、シフトしている)場合には、眼鏡レンズ10の耳側18bの視野角θ(水平視野角θx)が40度以上、たとえば、50度または55度程度までの範囲をカバーすることがある。このような場合は、水平視野角θxが40度を超える領域もグレアカット領域93として処理することが視野を確保するために望ましい。水平視野角θxが40度を超える領域を、グレアカット領域93に対してさらに遮光率の高い領域にすることも可能である。
【0048】
このように、グレアカットという機能の実現を考慮すると、アイポイント11を通る視軸105を中心とする視野角θで幾つかの機能領域を設定できる。図8を参照して説明したように、眼鏡レンズ10の表面10aおよび裏面10bを含む視野領域は視野角θ(鉛直視野角θy、水平視野角θx)で定義することが可能であり、視野角θで機能を定義できる領域は、眼鏡レンズ10の視野領域ではアイポイント11を中心とするC字型状、同心円状、同心の楕円状さらにはドーナッツ状などの形状で定義される。なお、以降においては、視野領域を表面10aまたは裏面10bのみで説明することがある。したがって、図1ないし図3において示した眼鏡レンズ10の表面10aに見えるC字型状、ドーナッツ状のデザインと、グレアカットという機能とを関連させることが可能であり、グレアカット機能と斬新なデザインとを合わせもった眼鏡レンズ10を提供できる。
【0049】
図11は、減能グレア光52をカットする効果を模式的に示す図である。図11(a)は、裸眼の状態(グレアカットをしていない状態)で眼球101から得られる像の感度を模式的に示している。眼球101には注視している物体からの光束107aとともに、グレア光(減能グレア光)107bが入射される。グレア光107bは網膜106で結像したり、水晶体109で乱反射する。
【0050】
図11(b)は、眼球101の前方にグレアカット対応の眼鏡レンズ10を装着した状態で眼球101から得られる像の感度を模式的に示している。眼鏡レンズ10は、アイポイント11を中心とする高透光性領域12と、その周囲に形成された遮光性の高い低透光性領域14とを含む。したがって、眼球101には注視している物体からの光束107aは裸眼と同様に入射するが、グレア光(減能グレア光)107bは低透光性領域14により強度が著しく低下する。このため、グレア光107bは網膜106でほとんど結像せず、また、水晶体109で乱反射する可能性も小さい。このため、網膜106を介して認識される像としてはコントラスト感度が向上すると考えられる。周囲の画像の輝度(刺激)を抑制することにより、高感度部と隣り合う弱感度部はより弱く、弱感度部と隣り合う高感度部はより強く刺激を受け、物体がシャープに見える現象を側(方)抑制効果と呼ぶことがある。
【0051】
1.3 グレアカット効果の実験
図12に、グレアカット効果の実験に用いた眼鏡レンズサンプル110を示している。この眼鏡レンズサンプル110は、レンズ中央部に、高透光性領域12に対応した透明領域112と、その上下左右を囲む周辺部に、低透光性領域14に対応した不透明領域114とを含む。具体的には、この眼鏡レンズサンプル110は全体として不透明な部材であり、レンズ中央部にアイポイント(瞳孔中心位置)111を中心とした上下±5mm、左右±4mmの開口からなる透明領域112を有する。透明領域112のサイズは、鉛直視野角θyが±約11度および水平視野角θxが±約9度に対応する。
【0052】
図13から図16に、眼鏡レンズサンプル110と、全面無色透明の眼鏡レンズサンプル(比較レンズサンプル)とを交換して装着し、2人の被験者に対して行ったコントラスト感度の比較実験結果を示している。上記の眼鏡レンズサンプル110を装着した結果はグレアカットとして実線で示し、比較レンズサンプルを装着した結果は比較として破線で示している。各図の横軸は、空間周波数(cpd、Cycle Per Degree)を示す。空間周波数は、単位視野角当たりに明暗(白黒)の縞模様が何組あるかを表す値であり、cpdは角度1度の範囲に白黒のペアがいくつあるかを示している。各図の縦軸は、コントラスト感度を示しており、それぞれの縞(白黒ペア)でどの程度の明暗のコントラストを被験者が感じたかを示している。
【0053】
被験者は55歳の男性Aおよび50歳の男性Bの2人であり、測定にはベクタービジョン社製のグレア付きコントラスト感度測定器CSV−1000を使用し、測定距離を2mに設定した。
【0054】
図13および図14は明室でグレア光がない状態での測定結果を示す。グレア光がない状態であっても、低周波数(3cpdから6cpdの空間周波数帯域)において眼鏡レンズサンプル(グレアカットサンプル)110を用いることによりコントラスト感度が向上するとの結果が得られた。
【0055】
図15および図16は、半暗室でグレア光がある状態での測定結果を示す。男性Aおよび男性Bで傾向の差はあるが、概ね3cpdから18cpdの広い空間周波数帯域でグレアカットサンプル110を用いることによりコントラスト感度が向上するとの結果が得られた。したがって、グレアカットサンプル110を装着することによりグレア光がない状態でもコントラスト感度が向上する可能性があり、グレア光がある場合はグレアカットサンプル110を装着することにより幅広い周波数帯域でコントラスト感度が向上することが分かった。
【0056】
図1ないし図4に示す眼鏡レンズ10は、アイポイント11を中心として遮光率が変化するデザインの眼鏡レンズであって、アイポイント11を中心とする高透光性領域12と、その上側18c、下側18dおよび耳側18bの3方を囲う低透光性領域14とを有する。この眼鏡レンズ10は、上記のグレアカットサンプル110に対して鼻側18aの低透光性領域14がカットされる、または面積が小さいので、鼻側18aのグレアカット機能は一部低下する可能性がある。しかしながら、少なくとも3方のグレア光をカットすることにより、上記とほぼ同等またはそれに近いコントラスト感度の向上が得られると考えられる。さらに、鼻側18aは、鼻自体が障壁となりグレアに対する感度が弱いケースが多く、眼鏡レンズ10は十分なグレアカット機能を備え、コントラスト感度の向上に効果があると考えられる。
【0057】
さらに、図1ないし図4に示した眼鏡レンズ10は、高透光性領域12から低透光性領域14にかけてレンズの色の濃度(濃淡)を徐々に増加させたグラディエント領域16を含むデザインが採用されており、高透光性領域12と低透光性領域14との間に明確な境界が生じない。したがって、眼鏡レンズ10の全体にわたりレンズの色の濃度(濃淡)が徐々に変化するので、視野に違和感が生ずることを防止できる。それとともに、気軽に使用できるファッション性に富んだ眼鏡レンズ10となる。このため、眼鏡レンズ10を含む眼鏡1は、一般のユーザーがファッションに機能を兼ね備えたアイテムとして装着でき、また、障害を持つユーザーが日常生活において抵抗感を抱くことなく装着できるものとなる。
【0058】
また、この眼鏡レンズ10においては、低透光性領域14の遮光率を眼鏡レンズ10の周辺部で40%程度(紫外線の強い場合は調光層30の機能により90%程度)に止め、特に夜間や室内においてある程度の透光率を確保している。したがって、低透光性領域14においてグレア光をある程度カットするが、低透光性領域14の視野を完全に隠すことなく、眼球101の視野感度や視細胞をできるだけ活用し、広い視野が得られるようになっている。
【0059】
さらに、グラディエント領域16はデザイン性を向上させるだけではなく、遮光率をアイポイント11から周辺(外側)に向けて徐々に増加することにより、減能グレア光52のカットと、クリアーな視界との両立を図ろうとしている。したがって、この点でも視野が広く、かつ、グレア光の影響を抑制できる眼鏡レンズ10を提供できる。さらに、クリアーな視界とグレアカットとがトレードオフの関係になる場合は、グラディエント領域16および低透光性領域14は、アイポイント11に対して高透光性領域(明領域)12の上側18c、下側18dおよび耳側18bの3方を囲うように設けられており、最小限の眼球や頭部の動きによりユーザーが最も見やすい条件を容易に実現できるようにしている。
【0060】
グラディエント領域16および低透光性領域14は、基本的にグレア光をカットできるので、減能グレア光52のカットだけではなく、不快グレア光51に対しても有効である。さらに、グラディエント領域16および低透光性領域14は、アイポイント11の上側18c、下側18dおよび耳側18bの3方向に設けられているので、鼻側18aを除いてどの方向に視軸105を動かしてもグレア光をカットできる。したがって、不快グレア光51に対しても、視軸105の動きが最少となる方向に眼球や頭部を動かすことにより不快グレア光51を減能グレア光52の範囲に移動させることができ、その影響を抑制できる。
【0061】
このように、眼鏡レンズ10は機能およびデザインの両面において優れており、多種多様なユーザーが使用できる。したがって、この眼鏡レンズ10の市場性は高く、低コストで製造できる可能性がある。このため、機能障害を持つユーザーに対しても低コストで供給可能となり、誰もが容易に使用でき、使い方が簡単で使用する上での自由度が高く、気軽に使用することができるユニバーサルデザイン化された眼鏡1を提供できる。
【0062】
さらに、この眼鏡レンズ10は、調光層30を含む。このため、昼間の屋外においては、調光層30が光(紫外線)を感知して黒色などの暗い色に変色するので、低透光性領域14に限らず高透光性領域12の遮光率を高くできる。したがって、高透光性領域12も含め、紫外線カットやグレアカット機能を付与できる。さらに、調光層30による色変化がハードコート層43の染色に対して主体となる眼鏡レンズ10においては、昼間の屋外においては、眼鏡レンズ10の全体が暗くほぼ一色のレンズに見え、夜間および屋内においては、ハードコート層43の染色により施されたC字型状の模様が見えるという、時と場所によりデザインが変化する眼鏡レンズ10として提供することも可能である。したがって、眼鏡レンズ10の全体の変色、偏光などの機能と、視野角によるグレアカットの機能とを有し、さらに装飾性の高いデザインを備えた眼鏡1として、様々な時や場所において使用することができる眼鏡レンズ10および眼鏡1を提供できる。
【0063】
この眼鏡レンズ10においては、弁別視力領域91をカバーできるように、視野角θが少なくとも10度の範囲(たとえば、眼鏡装着用距離Lが25mmのとき(以下においても同様)にアイポイント11からの半径が4〜5mmの範囲)が高透光性領域12であることが好ましい。高透光性領域12は、自由視力領域95を考慮すると視野角θが少なくとも15度の範囲(アイポイント11からの半径が6.5〜7.5mmの範囲)であってもよく、さらに、中間領域96を含み、視野角θが少なくとも20度の範囲(アイポイント11からの半径が8.5〜9.5mmの範囲)であってもよい。高透光性領域12では、可視光領域および近紫外光領域または近赤外光領域を含む全遮光率が95%以下であることが好ましい。全遮光率はハードコート層43の染色で実現されてもよく、調光層30との組み合わせで実現されてもよい。クリアーな視界を確保するという点では、全遮光率が90%以下であることが望ましく、全遮光率が80%以下であることがさらに好ましく、全遮光率が70%以下であることがいっそう好ましい。また、高透光性領域12の全遮光率は0%以上であることが好ましく、デザイン性や、常時光をカットすることが望ましいユーザーに対しては、全遮光率が5%以上であってもよく、全遮光率が10%以上であってもよい。
【0064】
低透光性領域14は、グレアカット領域93を考慮すると視野角θが20度を超える範囲(アイポイント11からの半径が8.5〜9.5mmを超える範囲)であることが好ましく、自由視力領域95を考慮すると視野角θが15度を超える範囲(アイポイント11からの半径が6.5〜7.5mmを超える範囲)であってもよく、さらに、弁別視力領域91を含まない視野角θが10度を超える範囲(アイポイント11からの半径が4〜5mmを超える範囲)であってもよい。低透光性領域14では、グラディエント領域16の外側、たとえば視野角θが40度を超える範囲(アイポイント11からの半径が20.5〜21.5mmを超える範囲)または30度を超える範囲(アイポイント11からの半径が14〜15mmを超える範囲)においてグレアカットを優先すると可視光領域および近紫外光領域または近赤外光領域を含む全遮光率が100%であってもよいが、視界の確保を考慮すると全遮光率が95%以下であることが好ましい。低透光性領域14の全遮光率は高透光性領域12と同様にハードコート層43の染色で実現されてもよく、調光層30との組み合わせで実現されてもよい。クリアーな視界を確保するという点では、全遮光率が90%以下であることが望ましく、全遮光率が80%以下であることがさらに好ましく、全遮光率が70%以下であることがいっそう好ましい。また、低透光性領域14の全遮光率は、少なくともグラディエント領域16の外側においてはグレアカットするために10%以上であることが好ましく、20%以上であることがさらに好ましく、30%以上であることがいっそう好ましい。
【0065】
1.4 製造方法
1.4.1 レンズ本体の製造
上述した眼鏡レンズ10の製造方法の一例を説明する。この例では、反射防止層44および防汚層(撥水層)45まで積層したのちにハードコート層43を染色できる眼鏡レンズ10を製造し、その後、ドーナッツ状の染色を施す例を説明する。反射防止層44および防汚層(撥水層)45まで積層したのちにハードコート層43を染色できる眼鏡レンズ10については、本願出願人の出願である特開2006−139247号公報に詳しく記載されている。
【0066】
本発明に係る眼鏡レンズ10は図4に示したような構成を備えている。まず、所望の光学的な性能を備えたレンズ基材41を、例えば、セイコーエプソン(株)製、セイコースーパーソブリン用レンズ生地(SSV)を用いて形成する。
【0067】
次に、プラスチック製のレンズ基材41の両面に、レンズ基材41およびハードコート層43の密着性を向上させるプライマー層(下地層)42を浸漬法により形成する。プライマー層42を形成するための塗布液P1は、例えば、市販のポリエステル樹脂「ペスレジンA−160P」(高松樹脂(株)製、水分散エマルジョン、固形分濃度27%)100部に、ルチル型酸化チタン複合ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z)84部、希釈溶剤としてメチルアルコ−ル640部、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名「SILWET L−77」)1部を混合し、均一な状態になるまで撹拌して調製する。この塗布液P1を、レンズ基材41の両面に、ディッピング方式(引き上げ速度15cm毎分)により塗布し、塗布後のレンズ基材41を80℃で20分間風乾することにより、プライマー層42を形成する。塗布液P1により形成されたプライマー層42の焼成後の固形分は、62重量%のポリエステル樹脂と、38重量%のルチル型酸化チタン複合ゾルとを含んでいる。
【0068】
プライマー層42が積層されたレンズ基材41の表面に、ガラス製に比べて傷つきやすいプラスチック製のレンズ基材41の表面硬度を向上させるハードコート層であって染色性を有するハードコート層43を形成する。ハードコート層43を形成するための塗布液H1は、例えば、プロピレングリコールメチルエーテル138部、ルチル型酸化チタン複合ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z)688部を混合した後、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン106部、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセ化成工業(株)製、商品名デナコールEX313)38部を混合して得た混合液に、0.1N塩酸水溶液30部を撹拌しながら滴下し、さらに4時間撹拌後、一昼夜熟成させる。その後、この混合液に、Fe(III)アセチルアセトネート1.8部、シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L−7001)0.3部を添加して調製する。この塗布液H1を、プライマー層42の表面に、ディッピング方式(引き上げ速度35cm毎分)により塗布し、塗布後のレンズ基材41を80℃で30分間風乾し、さらに、120℃で120分焼成を行うことにより、2.3μm厚のハードコート層43を形成する。形成されたハードコート層43は、多官能エポキシ化合物であるグリセロールポリグリシジルエーテルを十分に含んでおり、染色可能なハードコート層である。塗布液H1により形成されたハードコート層43の焼成後の固形分は、55重量%の金属酸化物微粒子(ルチル型酸化チタン複合ゾル)と、30重量%の有機ケイ素(γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)と、15重量%の多官能エポキシ化合物(グリセロールポリグリシジルエーテル)とを含んでいる。
【0069】
ハードコート層43が積層されたレンズ基材41の表面に、光の表面反射を防止する反射防止層44を形成する。反射防止層44を形成するための塗布液(低屈液)AR1は、例えば、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン14部、テトラメトキシシラン15部を混合したものに0.1N塩酸水溶液13部を撹拌しながら滴下し、さらに4時間撹拌後、一昼夜熟成させて得た混合液に、プロピレングリコールメチルエーテル878部、中空シリカゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オスカル特殊品)80部、過塩素酸マグネシウム0.04部、シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L−7001)0.3部を添加して調製する。レンズ基材41の表面(ハードコート層43の表面)をプラズマ処理で親水化させた後、この塗布液AR1を、ハードコート層43の表面に、湿式(ディッピング方式(引き上げ速度15cm毎分))により塗布し、塗布後のレンズ基材41を80℃で30分間風乾し、さらに、120℃で60分焼成を行うことにより、約100nm厚の多孔性の反射防止層(低屈膜)44を形成する。塗布液AR1により形成された反射防止層44の焼成後の固形分は、25重量%のγ―グリシドキシプロピルトリメトキシシランと、15重量%のテトラメトキシシランと、60重量%の中空シリカゾルとを含んでいる。本液は、多官能エポキシ化合物(グリセロールポリグリシジルエーテル)を含んでいない。
【0070】
反射防止層44が積層されたレンズ基材41の表面をフッ素系シラン化合物で撥水処理し、撥水膜(防汚層)45が設けられた眼鏡レンズ10を形成する。なお、眼鏡レンズ10の表面10aの側においては、撥水処理する前に、調光機能を有する液体(コーティング液)を塗布することにより調光層30を成膜する。調光機能を有するコーディング液としては、フォトクロミック化合物、ラジカル重合性単量体及びアミン化合物を含み、ラジカル重合性単量体がシラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有するラジカル重合性単量体を含むものを挙げることができる。
【0071】
1.4.2 染色
本例では、このように製造された撥水膜付きの眼鏡レンズ10を、94℃の分散染料浴中に浸漬し、所望の模様を有する眼鏡レンズ10を製造した。分散染料は、例えば、セイコープラックスダイヤコート用染色剤アンバーDを用いることができる。染色剤を変えることにより色、模様を変えることができる。
【0072】
図17に示すように、眼鏡レンズ10の表面(物体側の面)10aの全部に撥染色膜160aを形成し、裏面(眼球101の側の面)10bには鉛直視野角θyが25度から30度の範囲をカバーする、染色剤の透過性に距離または角度依存性がある撥染色膜160b1と、鉛直視野角θyが0度から25度の範囲をカバーする、透過性に依存性のない撥染色膜160b2との組み合わせを形成する。撥染色膜としては、染色防止効果を備えた素材、たとえば、各種ののりや非透水性の素材からなるマスクまたはマスキング用のシートを用いることができる。94℃の分散染料浴中に10分間浸漬することにより、ハードコート層43の鉛直視野角θyが25度から30度までの領域に角度依存性のある染色を行う。
【0073】
最初の染色を行った後、次に、眼鏡レンズ10の裏面10bを覆う撥染色膜160b1を、鉛直視野角θyが20度から25度の範囲をカバーする、染色剤の透過性に距離または角度依存性がある撥染色膜160b2と、鉛直視野角θが0度から20度の範囲をカバーする、透過性に依存性のない撥染色膜160b3との組み合わせに変更し、94℃の分散染料浴中に10分間浸漬する。これによりハードコート層43の鉛直視野角θが25度以上の領域をさらに染色し、鉛直視野角θが20度から25度までの領域に角度依存性のある染色を行う。
【0074】
同様に、眼鏡レンズ10の裏面10bを覆う撥染色膜160b2および160b3を、鉛直視野角θが15度から20度の範囲をカバーする、染色剤の透過性に距離または角度依存性がある撥染色膜160b3と、鉛直視野角θが0度から15度の範囲をカバーする、透過性に依存性のない撥染色膜160b4との組み合わせに変更し、94℃の分散染料浴中に10分間浸漬する。これによりハードコート層43の鉛直視野角θが20度以上の領域をさらに染色し、鉛直視野角θが15度から20度までの領域に角度依存性のある染色を行う。水平方向についても鉛直方向と同様に、水平視野角θxに応じて染色剤の透過性に距離または角度依存性がある撥染色膜と透過性に依存性のない撥染色膜とを組み合わせて染色を行う。このようにして高透光性領域12から低透光性領域14にかけてレンズの色の濃度(濃淡)が徐々に濃くなるグラディエント領域16を有する眼鏡レンズ10を製造し、提供できる。
【0075】
なお、ハードコート層43はさらに細かいステップで染色することによりグラディエント領域16を多段に色が変化する領域で実現することも可能である。また、眼鏡レンズの染色または色づけは上記の方法に限らず、レンズ基材41を染色してもよく、さらに、インクジェット方式やスプレー方式により処理液を塗布することによりドーナッツ状の模様を形成してもよい。インクジェット方式を用いてレンズの表面に処理液を塗布する方法は、たとえば、本願出願人の出願である特開2001−327908号公報などに記載されている。
【0076】
1.5 グラディエント領域を有する眼鏡レンズのファッション性
以上に説明したように、眼鏡レンズ10には、高透光性領域12の上側18c、下側18dおよび耳側18bの3方を囲むように、周辺に向かって遮光率が変化する領域(グラディエント領域)16が設けられており、C字型状に遮光率が変化する、新しいデザインの、ファッション性の高い眼鏡レンズ10および眼鏡1を提供できる。すなわち、遮光率の変化をレンズの色の濃度(濃淡)の変化としてレンズに付与でき、C字型状の色などの変化を備えた眼鏡レンズ10は新しい装飾性を持った、ファッション性に富んだ眼鏡レンズ10として認識される。上記に示した染色による遮光率の制御(調整)は一例であり、反射防止層44の性能を調整して反射率(透過率)の変化により遮光率を制御したり、微細模様などにより実現される開口率の変化により遮光率を制御してもよく、いずれの場合も遮光率の変化は外から目に見える変化として眼鏡レンズ10に反映される。
【0077】
さらに、この眼鏡レンズ10は、高透光性領域12と、その高透光性領域12の上側18c、下側18dおよび耳側18bの3方を囲むように設けられた、グラディエント領域16を含む低透光性領域14を有する。このため、上述したように高透光性領域12で視野(視界)を確保し、低透光性領域14でグレア光をカット(遮光)することができる。したがって、白内障などの障害があり、低透光性領域14を有する眼鏡により機能を補助することが望ましいユーザーに限らず、一般のユーザーがグレア光の影響を抑制してコントラストの高い画像を得たり、強い可視光、近紫外または近赤外光による眼の疲労や眼に障害が発生するのを抑制するアイテムとして眼鏡レンズ10を備えた眼鏡1を装着できる。
【0078】
また、この眼鏡レンズ10は、アイポイント11を含む高透光性領域12の上側18c、下側18dおよび耳側18bの3方を囲むように、周辺15に向かって遮光率が変化する領域(グラディエント領域)16が設けられている。アイポイント11の位置はユーザーごとに個人差があるものの、一般的に耳側(眼鏡フレーム外側)18bよりも鼻側(眼鏡フレーム中心側)18aに寄ったユーザーも存在する。このため、アイポイント11が鼻側(眼鏡フレーム中心側)18aに寄ったユーザーに対しても、アイポイント11を含む高透光性領域12の上側18c、下側18dおよび耳側18bの方向から入射するグレア光を遮光(カット)し、防眩効果を高めるとともに良好な視野を確保できる。さらに、この眼鏡レンズ10は、高透光性領域12と、その高透光性領域12の上側18c、下側18dおよび耳側18bの3方を囲むように設けられた、グラディエント領域16を含む低透光性領域14を有する。このため、眼鏡フレームの中心から水平方向に遠ざかる方向(1方向)にのみ遮光率が変化するレンズよりも、眼鏡フレームの中心側(鼻側18a)における眩しさ(グレア)を抑制でき、左右の眼鏡レンズ10では対称な形状で遮光率が変化する、斬新なデザインの、ファッション性の高い眼鏡レンズ10を提供できる。
【0079】
さらに、アイポイント11が鼻側18aに寄った多くのユーザーの場合、水平視野角θxが鼻側18aの方向(眼鏡フレーム9の中心側)に20度を超える範囲から入射する障害グレア光52はユーザー自身の鼻などの障害物により遮光(カット)できる可能性が高い。また、低透光性領域14はC字型に鼻側18aの一部は途切れているが、C字型になっているので鼻側18aの上側18cおよび下側18dには低透光性領域14が存在し、鼻側18aの斜め上および斜め下からのグレア光は効率よくカットできるデザインとなっている。
【0080】
水平視野角θxが耳側18bの方向(眼鏡フレーム9の外側)に20度を超える範囲から入射する障害グレア光52については、放置すれば無意識に入射し続けて作業効率を著しく低下させるおそれがある。このため、鼻側18aよりも耳側18bから入射する障害グレア光52を遮光(カット)することは作業効率の低下を抑制する上で重要である。この眼鏡レンズ10においては、高透光性領域12と、その高透光性領域12の上側18c、下側18dおよび耳側18bの3方を囲むように設けられた、グラディエント領域16を含む低透光性領域14を有するため、耳側18bから入射し続ける障害グレア光52を効果的に遮光(カット)することができる。
【0081】
したがって、眼鏡レンズ10は、一枚のレンズに美的効果(ファッション性)および防眩効果を備え、一般のユーザーや障害を持つユーザーがさらに気軽に使用できる眼鏡レンズ10となっている。
【0082】
2. 第2の実施形態
図18(a)に、第2の実施形態に係る眼鏡レンズ100aを、物体側から見た正面図で示している。また、図18(b)に遮光層20(ハードコート層43)により実現されるアイポイント11を含む鉛直方向の遮光率の分布を示している。この眼鏡レンズ100aは、アイポイント11を含む高透光性領域12と、高透光性領域12の上側18c、下側18dおよび耳側18bの3方に鼻側18aを加えた4方(全周)を囲むように設けられた低透光性領域14とを含み、低透光性領域14は、高透光性領域12よりも遮光率が高く、周辺15に向かって遮光率が増加する領域(グラディエント領域)16を含む。高透光性領域12と、低透光性領域14との境界13を示す破線は仮想的な線であり、実際は現れない。たとえば、少なくとも弁別視力領域91をカバーするために視野角θが10度の範囲を高透光性領域12に設定した場合には、高透光性領域12の面積がレンズの面積に対して相対的に狭まる。このため、高透光性領域12の鼻側18aの領域を低透光性領域14で囲むことができる可能性があり、高透光性領域12の上側18c、下側18dおよび耳側18bの3方に鼻側18aを加えた4方(全周)を囲むように低透光性領域14を設けることができる。
【0083】
したがって、眼鏡レンズ100aには、高透光性領域12の上側18c、下側18d、耳側18bおよび鼻側18aの4方(全周)を囲むように、周辺15に向かって遮光率が変化する領域(グラディエント領域)16が設けられている。このため、アイポイント11が鼻側(眼鏡フレーム中心側)18aから耳側(眼鏡フレーム外側)18bに若干移動したユーザーに対しても、アイポイント11を含む高透光性領域12の上側18c、下側18d、耳側18bおよび鼻側18aの方向から入射するグレア光を遮光(カット)し、防眩効果を高めるとともに良好な視野を確保できる。さらに、この眼鏡レンズ100aは、高透光性領域12と、その高透光性領域12の4方(全周)を囲むように設けられた、グラディエント領域16を含む低透光性領域14を有するため、ドーナッツ状あるいは環状に遮光率が変化する、新しいデザインの、ファッション性の高い眼鏡レンズ100aを提供できる。この眼鏡レンズ100aも、図1および図2に示したように眼鏡フレーム9に装着することができ、ファッション性と、グレアカット機能とを合わせもった眼鏡1を提供できる。なお、本実施形態および以下の実施形態において第1の実施形態と共通する部分については共通の符号を付して説明を省略する。
【0084】
この眼鏡レンズ100aにおいては、遮光率がほとんどない(たとえば遮光率が0%)透光性の高い高透光性領域12が、視野角θが10度の範囲まで広がっている。視野角θが10度から20度の範囲は、視野角θにほぼ比例して遮光率が0%から10%に徐々に変化し、ハードコート層43の視野角θが20度から30度の範囲は、視野角θにほぼ比例して遮光率が10%から40%に徐々に変化するように染色されている。視野角θが30度以上の範囲は、遮光率40%となるように染色されている。したがって、視野角θが10度以下の範囲を高透光性領域12、視野角θが10度を超える範囲を低透光性領域14、視野角θが10度から30度の範囲をグラディエント領域16とすることができる。
【0085】
なお、この眼鏡レンズ100aにおいても、第1の実施形態と同様に、調光層30を物体側の面に設けることが可能であり、調光層30の色の変化により眼鏡レンズ100aの全体(全面積)の遮光率を制御することが可能である。また、調光層30は眼鏡レンズ100aの一部に設けたり、変色率が異なる領域を設けたりすることも可能であり、調光層30とハードコート層43を染色した遮光層20との組み合わせにより様々なデザインの眼鏡レンズ100aを提供できる。また、以下に説明する他の眼鏡レンズの実施形態においても上記と同様に調光層30を組み合わせることが可能である。
【0086】
3. 第3の実施形態
図19に、第3の実施形態に係る眼鏡レンズ100bを、物体側から見た正面図で示している。この眼鏡レンズ100bは、累進屈折力レンズであり、比較的遠くを見るための遠用領域192fと、比較的近くを見るための近用領域192nと、遠用領域192fと近用領域192nとの間にあって屈折力が連続的に変化する領域192mとを有する。そして、眼鏡レンズ100bは、遠用領域192fの中心をアイポイント11として高透光性領域12が設けられており、高透光性領域12の下側18dが領域192mを介して近用領域192nの中心11aを含む範囲まで広がっている。このため、遠用領域192fの下側18dに形成される近用領域192nが、レンズの縁周辺にまで及んでいるが、この眼鏡レンズ100bは、アイポイント11を含む高透光性領域12の上側18c、鼻側18aおよび耳側18bの3方を囲むように、周辺15に向かって遮光率が変化する領域(グラディエント領域)16を含む低透光性領域14が設けられている。
【0087】
したがって、眼鏡レンズ100bは、下側18dが途切れたC字型状の低透光性領域14を有する。このため、低透光性領域14により、遠用領域192fの中心をアイポイント11とする高透光性領域12の上側18c、鼻側18aおよび耳側18bの方向から入射するグレア光を遮光(カット)し、防眩効果が得られる。また、眼鏡レンズ100bの下側18dの近用領域192nは高透光性領域12が広く、広い視野が確保できている。また、低透光性領域14はC字型に下側18dの一部は途切れているが、C字型になっているので下側18dの鼻側18aおよび耳側18bには低透光性領域14が存在し、下側18dの斜め鼻側18aおよび斜め耳側18bからのグレア光は効率よくカットできるデザインとなっている。このように、眼鏡レンズ100bはグレアカット機能が高く、それとともに良好な視野を確保できる。
【0088】
高透光性領域12の形状は本例に限定されることなく、遠用領域192fの中心であるアイポイント11を中心とする同心状、たとえば同心円状あるいは楕円状であってもよく、累進屈折力レンズであることが目立ちにくい、ドーナッツ状の模様を含むデザインの眼鏡レンズとすることも可能である。
【0089】
このように、本発明は累進屈折力レンズにも適用できる。特に、遠用領域192fを使用する際は、太陽光や夜間照明などが障害グレア光52となりやすいので、この眼鏡レンズ100bにおいてはそのような障害グレア光52の影響を抑制でき、昼夜の弁別能力を向上できる。また、累進屈折力レンズの遠用中心(アイポイント)11を中心として周囲に向かってレンズの色や反射率が変化する眼鏡レンズは新しいデザインであり、ファッション性に富んだ眼鏡レンズ100bを提供できる。
【0090】
4. 第4の実施形態
図20(a)に、第4の実施形態に係る左目用の眼鏡レンズ100cの遮光層20の、アイポイント11を含む鉛直方向の視野角(鉛直視野角)θyに対する遮光率の分布(変化)を示している。図20(b)に、第4の実施形態に係る左目用の眼鏡レンズ100cの遮光層の、アイポイント11を含む水平方向の視野角(水平視野角)θxに対する遮光率の分布(変化)を示している。この眼鏡レンズ100cも、アイポイント11を含む高透光性領域12と、高透光性領域12の上側18c、下側18dおよび耳側18bの3方を囲むように設けられた低透光性領域14とを含み、低透光性領域14は、高透光性領域12よりも遮光率が高く、周辺15に向かって遮光率が変化する領域(グラディエント領域)16を含む。
【0091】
ただし、この眼鏡レンズ100cにおいては、低透光性領域14のグラディエント領域16は、高透光性領域12との境界13の近傍17で周辺15に向かって徐々に、しかしながら比較的に急激に色が濃くなる領域16aと、その領域16aの外側で周辺15に向かって徐々に色が薄くなる領域16bとを含む。このため、この眼鏡レンズ100cの低透光性領域14は、周辺15に向かって一端遮光率が増加するグラディエント領域16aと、その外側で遮光率が周辺15に向かって減少するグラディエント領域16bとを含む。
【0092】
たとえば、図20(a)に示すように、鉛直視野角θyが0度から15度の範囲は染色されておらず、遮光率は0%となっている。鉛直視野角θyが15度から20度の範囲は、遮光率が0%から30%程度まで高くなりグラディエント領域16aを形成している。鉛直視野角θyが20度から30度の範囲は、遮光率が30%から10%まで減少しグラディエント領域16bを形成している。一方、図20(b)に示すように、水平視野角θxが0度から20度の範囲は染色されておらず、遮光率は0%となっている。水平視野角θxが耳側18bの方向に20度から30度の範囲は、遮光率が0%から30%程度まで高くなりグラディエント領域16aを形成している。水平視野角θxが耳側18bの方向に30度から50度の範囲は、遮光率が30%から10%まで減少しグラディエント領域16bを形成している。
【0093】
この眼鏡レンズ100cにおいては、内側に設けられた、周辺に向かっていったん遮光率が増加するグラディエント領域16aにより、高透光性領域12と低透光性領域14との間の境界13をぼかして、高透光性領域12と低透光性領域14との間に明確な境界が生じることを防止できる。また、グラディエント領域16aにより、高透光性領域12に近い部分に一端レンズの色の濃度(濃淡)が濃くなる部分をデザインできるので、目元にインパクトを持たせたオリジナリティ溢れるデザインの眼鏡レンズ100cを提供できる。
【0094】
さらに、グラディエント領域16bは、上記の実施形態とは逆に周辺15に向かって遮光率が徐々に低くなる。図7に示すように、減能グレア光(障害グレア光)52であっても、グレア角φが小さい方が視効率(見えやすさ)は低下し、グレア角φが大きい方がグレア光の影響は小さくなる。したがって、減能グレア光52をカットするという点では視野角θ(鉛直視野角θy、水平視野角θx)が小さい方が遮光率は大きく、視野角θ(鉛直視野角θy、水平視野角θx)が大きくなるにつれて遮光率は低くなってもよい。
【0095】
図7に示すように、減能グレア光52の範囲では、視効率はグレア角φに比例して向上する。したがって、グラディエント領域16bにおいては、グレアカットのための遮光率は視野角θ(鉛直視野角θy、水平視野角θx)に比例して減少するものであってもよい。このため、図20(a)および(b)に示す眼鏡レンズ100cのように、低透光性領域14は周辺15に向かってレンズの色の濃度(濃淡)が薄くなる領域16bを含んでいてもよく、装用者のコントラスト感度を確保することができる。また、上記の実施形態と異なる方向の色の変化は同じC字型状の色の変化であっても新たなデザインとして認識されうるので好ましい。
【0096】
5. 第5の実施形態
図21(a)に、第5の実施形態に係る左目用の眼鏡レンズ100dの遮光層20の、アイポイント11を含む鉛直方向の視野角(鉛直視野角)θyに対する遮光率の分布(変化)を示している。図21(b)に、第5の実施形態に係る左目用の眼鏡レンズ100dの遮光層の、アイポイント11を含む水平方向の視野角(水平視野角)θxに対する遮光率の分布(変化)を示している。この眼鏡レンズ100dも、アイポイント11を含む高透光性領域12と、高透光性領域12の上側18c、下側18dおよび耳側18bの3方を囲むように設けられた低透光性領域14とを含み、低透光性領域14は、高透光性領域12よりも遮光率が高く、周辺15に向かって遮光率が変化する領域(グラディエント領域)16を含む。本例のグラディエント領域16は、遮光層20の色の濃度(濃淡)が多段階に変わる領域を含む。
【0097】
具体的には、図21(a)に示すように、アイポイント11を含む鉛直方向のグラディエント領域16は、2段階に変化しており、鉛直視野角θyが15度から25度の範囲で遮光率が10%の領域16cと、鉛直視野角θyが25度から30度の範囲で遮光率が20%の領域16dとを含む。一方、図21(b)に示すように、アイポイント11を含む水平方向のグラディエント領域16は、3段階に変化しており、水平視野角θxが耳側18bの方向に20度から30度の範囲で遮光率が10%の領域16cと、水平視野角θxが耳側18bの方向に30度から40度の範囲で遮光率が20%の領域16dと、水平視野角θxが耳側18bの方向に40度から50度の範囲で遮光率が30%の領域16eとを含む。
【0098】
多段階に遮光率が変化するグラディエント領域16の各領域16c〜16eの境界部分は、遮光率が階段状に変わって濃度の変化がエッジとして眼鏡レンズ100dのデザインに現れるものであってもよい。また、グラディエント領域16の各領域16c〜16eの境界部分の遮光率が徐々に変わって、眼鏡レンズ100dのデザインにエッジが見えないものであってもよい。本例の眼鏡レンズ100dは、多段階に遮光率が変化する各領域16c〜16eの境界部分は遮光率が徐々に増加するようにデザインしている。
【0099】
この眼鏡レンズ100dにおいては、鉛直方向における内側の遮光率が低い領域16cが自由視を優先した中間領域96にほぼ対応し、その外側の領域16dが障害グレア光52の阻止を優先しながら眼球101の視野感度を有効に生かそうとする領域97にほぼ対応する。一方、水平方向における内側の遮光率が低い領域16cが障害グレア光52の阻止を優先しながら眼球101の視野感度を有効に生かそうとする領域97に対応し、その外側の領域16dおよびさらにその外側の領域16eは障害グレア光52のカットを優先したグレアカット領域93に対応する。
【0100】
これらの多段に遮光率が変化するグラディエント領域16は、染色によりレンズの色の濃淡を変化させるだけでなく、色そのものを変えたり、反射率を変化させることにより製造可能である。したがって、多段の領域ごとに色合いの変化を設けたりすることが可能であり、さらにデザインの選択範囲が広がり、よりファッション性を高めたり、装飾品として価値の高い眼鏡レンズ100dを提供できる。
【0101】
6. 第6の実施形態
図22(a)に、第6の実施形態に係る左目用の眼鏡レンズ100eの遮光層20の、アイポイント11を含む鉛直方向の視野角(鉛直視野角)θyに対する遮光率の分布(変化)を示している。図22(b)に、第6の実施形態に係る左目用の眼鏡レンズ100eの遮光層の、アイポイント11を含む水平方向の視野角(水平視野角)θxに対する遮光率の分布(変化)を示している。この眼鏡レンズ100eも、アイポイント11を含む高透光性領域12と、高透光性領域12の上側18c、下側18dおよび耳側18bの3方を囲むように設けられた低透光性領域14とを含み、低透光性領域14は、高透光性領域12よりも遮光率が高く、周辺15に向かって遮光率が変化する領域(グラディエント領域)16を含む。本例のグラディエント領域16も多段階に遮光率が変化する領域16f〜16hを含む。ただし、本例の多段階に遮光率が変化する領域16f〜16hは周辺15に向かって多段階に薄くなっている。
【0102】
すなわち、図22(a)に示すように、鉛直方向における内側の領域16fは、鉛直視野角θyが15度から25度の範囲で遮光率が30%であり、その外側の領域16gは鉛直視野角θyが25度から30度の範囲で遮光率が20%である。一方、図22(b)に示すように、水平方向における内側の領域16fは、水平視野角θxが耳側18bの方向に20度から30度の範囲で遮光率が30%であり、その外側の領域16gは水平視野角θxが30度から40度の範囲で遮光率が20%であり、さらのその外側の領域16hは水平視野角θxが40度から50度の範囲で遮光率が10%である。これらの領域16f〜16hの境界は遮光率が急激に変化してもよく、徐々に変化してもよい。最も内側の領域16fと高透光性領域12との境界部分は、遮光率の差が大きくなるので、周辺15に向けて急激ではあっても徐々に遮光率が増加するようにデザインすることが好ましい。
【0103】
この眼鏡レンズ100eは、第4の実施形態の眼鏡レンズ100cと同様に、目元にインパクトを持たせることができる。それとともに、減能グレア光52による視効率が最も低下しやすい視野角θ(鉛直視野角θy、水平視野角θx)の小さい領域のグレア光を効果的にカットでき、コントラスト感度を上げることができる。さらに、色合いの変化も楽しめる色鮮やかな眼鏡レンズ100eを提供できる。
【0104】
7. 第7の実施形態
図23(a)に、第7の実施形態に係る左目用の眼鏡レンズ100fの遮光層20の、アイポイント11を含む鉛直方向の視野角(鉛直視野角)θyに対する遮光率の分布(変化)を示している。図23(b)に、第7の実施形態に係る左目用の眼鏡レンズ100fの遮光層の、アイポイント11を含む水平方向の視野角(水平視野角)θxに対する遮光率の分布(変化)を示している。
【0105】
図23(a)および(b)は、裏面10bのハードコート層43の染色濃度の分布と、表面10aの反射防止層44の近赤外光(波長760〜1300nm)の波長選択性とを示している。この眼鏡レンズ100fの遮光層20は、アイポイント11を含む高透光性領域12と、高透光性領域12の上側18c、下側18dおよび耳側18bの3方を囲むように設けられた低透光性領域14とを含み、さらに低透光性領域14は、周辺15に向かって染色濃度(濃淡)を徐々に増加させたグラディエント領域16を含む。また、反射防止層44の低透光性領域14に相当する部分は、近赤外光を選択的に透過しない設計となっており、低透光性領域14の近赤外光の遮光率はほぼ100%になっている。
【0106】
網膜疾患、脈絡膜疾患などのある装用者は光刺激に敏感であり痛みを感じ、炎症性疾患を併発していることも多い。したがって、血管拡張に繋がるような刺激は避けることが望ましく、近赤外光が眼球101に入ることを抑制することが望ましい。一方、近赤外光を眼鏡レンズの全面で遮蔽することは、反射防止層44の設計によっては可視光の長波長側の感度を低下させる可能性があり、日常生活に支障をきたすおそれがある。この眼鏡レンズ100fにおいては、低透光性領域14において選択的に近赤外光を遮蔽することにより、減能グレア光52のように定常的に眼球101に入る可能性がある光源103からの近赤外光を遮蔽できるとともに、視軸105の色感度が低下することを抑制できる。さらに、減能グレア光52をカットすることにより弁別能力の向上を図り、作業能率の低下を抑制できる。
【0107】
反射防止層44の波長選択性は、反射防止層44が無機多層膜であれば、近赤外光の透過率が他の可視光よりも低くなるように各層の厚みを設定することにより実現できる。また、反射防止層44により長波長側の波長選択性が可視光にほとんど影響なく設定できる場合は、眼鏡レンズ100fの全面にわたり近赤外光の遮光率を高くすることは有効である。さらに、反射防止層44としてではなく、近赤外光を反射するための層を新たに成膜してもよい。
【0108】
さらに、網膜疾患、脈絡膜疾患などのある装用者においては可視光も光刺激となる場合がある。したがって、可視光(たとえば460〜600nm)の強度も半減できることが望ましい。このため、ハードコート層43の染色濃度を比較的高くし、遮光率がグレアカット領域93で50%程度に達するようにすることが有効である。
【0109】
たとえば、図23(a)に示すように、鉛直方向における低透光性領域14のグラディエント領域16は、鉛直視野角θyが15度から20度程度の中間領域96においては、周辺15に向かって徐々に、しかしながら比較的急激に色が濃くなる領域16iと、その領域16iの外側、すなわち鉛直視野角θyが20度から30度のグレアカット領域93においては、周辺15に向かって徐々に色が濃くなる領域16jとを含む。本例においては、グラディエント領域16iでは、鉛直視野角θyが15度から20度の範囲で遮光率が0%から50%程度まで高くなり、グラディエント領域16jでは、鉛直視野角θyが20度から30度の範囲で遮光率が50%から60%程度まで高くなっている。
【0110】
一方、図23(b)に示すように、水平方向における低透光性領域14のグラディエント領域16は、水平視野角θxが耳側18bの方向に20度から30度程度のグレアカット領域93においては、周辺15に向かって徐々に、しかしながら比較的急激に色が濃くなる領域16iと、その領域16iの外側、すなわち水平視野角θxが耳側18bの方向に30度から50度のグレアカット領域93においては、周辺15に向かって徐々に色が濃くなる領域16jとを含む。本例においては、グラディエント領域16iでは、水平視野角θxが耳側18bの方向に20度から30度の範囲で遮光率が0%から50%程度まで高くなり、グラディエント領域16jでは、水平視野角θxが耳側18bの方向に30度から50度の範囲で遮光率が50%から60%程度まで高くなっている。
【0111】
さらに、調光層30との組み合わせにより、アイポイント11の周辺の高透光性領域12においても、屋外などの光刺激の強い環境では遮光率が50%以上になるように設計することが望ましい。
【0112】
近赤外光が眼球101に入ることを抑制することは、健常者においても眼球101の障害の発生を避けるために有効である。したがって、この眼鏡レンズ100fは上記のような障害を有するユーザーのみならず一般のユーザーにとっても装着することは有効である。さらに、この眼鏡レンズ100fはグラディエント領域16を備え、ファッション性に富んだ眼鏡レンズとして提供できる。すなわち、この眼鏡レンズ100fはユニバーサルデザイン化された眼鏡レンズであり、治療用のみならず、ファッションの一つのアイテムとして装着することができる。このため、上記障害を抱える装用者に対しても、他者に明らかに治療用であるとの認識を抱かせることなく、また、一般のユーザーも抵抗感を抱くことなく気軽に使用することができる。
【0113】
8. 第8の実施形態
図24(a)に、第8の実施形態に係る左目用の眼鏡レンズ100gの遮光層20の、アイポイント11を含む鉛直方向の視野角(鉛直視野角)θyに対する遮光率の分布(変化)を示している。図24(b)に、第8の実施形態に係る左目用の眼鏡レンズ100gの遮光層の、アイポイント11を含む水平方向の視野角(水平視野角)θxに対する遮光率の分布(変化)を示している。
【0114】
図24(a)および(b)は、裏面10bのハードコート層43の染色濃度の分布と、表面10aの反射防止層44の近紫外光(波長310〜400nm)の波長選択性とを示している。この眼鏡レンズ100gの遮光層20は、アイポイント11を含む高透光性領域12と、高透光性領域12の上側18c、下側18dおよび耳側18bの3方を囲むように設けられた低透光性領域14とを含み、さらに低透光性領域14は、周辺15に向かって染色濃度(濃淡)を徐々に増加させたグラディエント領域16を含む。また、反射防止層44の低透光性領域14に相当する部分は、近紫外光を選択的に透過しない設計となっており、低透光性領域14の近紫外光の遮光率はほぼ100%になっている。
【0115】
角膜障害、白内障、緑内障などの疾患のある装用者は眼球(水晶体)などの眼組織において生ずる散乱光により網膜像のコントラスト低下が著しい。したがって、散乱光になり易い短波長側の近紫外光が眼球101に入ることを抑制することが望ましい。一方、近紫外光を眼鏡レンズの全面で遮蔽することは、反射防止層44の設計によっては可視光の短波長側の感度を低下させる可能性があり、日常生活に支障をきたすおそれがある。この眼鏡レンズ100gにおいては、低透光性領域14において選択的に近紫外光を遮蔽することにより、減能グレア光52のように定常的に眼球101に入る可能性がある光源103からの近紫外光を遮蔽できるとともに、視軸105の色感度が低下することを抑制できる。さらに、減能グレア光52をカットすることにより弁別能力の向上を図り、作業能率の低下を抑制できる。
【0116】
反射防止層44の波長選択性は、上記の例と同様に反射防止層44が無機多層膜であれば、近紫外光の透過率が他の可視光よりも低くなるように各層の厚みを設定することにより実現できる。また、反射防止層44により短波長側の波長選択性が可視光にほとんど影響なく設定できる場合は、眼鏡レンズ100gの全面にわたり近紫外光の遮光率を高くすることは有効である。さらに、反射防止層44としてではなく、近紫外光を反射するための層を新たに成膜してもよい。
【0117】
さらに、角膜障害、白内障、緑内障などの疾患のある装用者においては可視光も散乱光となりコントラスト低下につながる。したがって、上記の例と同様に可視光(たとえば460〜600nm)の強度も半減できることが望ましい。近紫外光が眼球101に入ることを抑制することは、近赤外光と同様に健常者においても眼球101の障害の発生を避けるために有効である。したがって、この眼鏡レンズ100gも上記のような障害を有するユーザーのみならず一般のユーザーにとっても装着することは有効である。さらに、近紫外光を遮断でき、可視光も光強度が強い状況では減光できる眼鏡レンズ100gは多種多様なユーザーにおいて有効である。そのような眼鏡レンズを、本発明においてはグラディエント領域16を備え、ファッション性に富んだ眼鏡レンズ100gとして提供できる。したがって、治療用のみならず、ファッションの一つのアイテムとして様々なユーザーが、抵抗感を抱くことなく気軽に使用できる。なお、上記ファッション性を備え、かつ、近紫外光および近赤外光の両方を遮断できる眼鏡レンズも有効である。
【0118】
なお、上記においては1対の眼鏡レンズを備えた眼鏡に基づき本発明を説明しているが、本発明は左右一組の二眼形の眼鏡レンズだけに限定されず、視野が広い一眼形や、密閉性の高いゴーグル形などの様々なタイプのレンズにも適用できる。また、視力矯正能力を有しないサングラスやゴーグルにも適用可能であり、これらは本願の請求の範囲に含まれる。さらに、眼鏡レンズ10を装着する眼鏡フレーム9は、縁無しのフレームだけでなく縁有りのフレームであってもよい。
【符号の説明】
【0119】
1 眼鏡、 9 眼鏡フレーム、 10 眼鏡レンズ、 11 アイポイント
12 高透光性領域、 14 低透光性領域、 16 グラディエント領域
20 遮光層、 30 調光層
192f 遠用領域、 192n 近用領域、 192m 中間領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼の前方を覆うレンズであって、
アイポイントを含む高透光性領域と、
前記高透光性領域の上下左右の少なくとも3方を囲むように設けられた低透光性領域であって、前記高透光性領域よりも遮光率の高い低透光性領域とを有するレンズ。
【請求項2】
請求項1において、前記低透光性領域は、周辺に向かって遮光率が変化する領域を含む、レンズ。
【請求項3】
請求項2において、前記低透光性領域は、周辺に向かって遮光率が増加する領域を含む、レンズ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記少なくとも3方は、前記高透光性領域の上下および耳側を含む、レンズ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、前記低透光性領域は、ほぼC字型の領域を含む、レンズ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、前記高透光性領域は、視野角が少なくとも10度で、全遮光率が0〜95%の領域を含む、レンズ。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、前記高透光性領域は、視野角が20度よりも狭く、全遮光率が0〜95%の領域を含む、レンズ。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、前記低透光性領域は、第1の低透光性領域と、前記第1の低透光性領域の全周を囲むように設けられた第2の低透光性領域であって、前記第1の低透光性領域よりも遮光率の高い第2の低透光性領域とを含む、レンズ。
【請求項9】
請求項8において、前記第1の低透光性領域は、水平視野角が30度よりも狭く、全遮光率が0〜95%の領域を含む、レンズ。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、前記低透光性領域は、波長760〜1300nmの光の遮光率が高い領域を含む、レンズ。
【請求項11】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、前記低透光性領域は、波長310〜400nmの光の遮光率が高い領域を含む、レンズ。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかにおいて、比較的遠くを見るための遠用領域と、比較的近くを見るための近用領域と、前記遠用領域と前記近用領域との間にあって屈折力が連続的に変化する領域とをさらに有し、前記アイポイントは、前記遠用領域の中心である、レンズ。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかにおいて、前記低透光性領域は、当該レンズの少なくとも一部が染色された領域を含む、レンズ。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかにおいて、当該レンズの一方の面に形成された調光層であって、前記高透光性領域および前記低透光性領域の遮光率を共に変える調光層と、
前記レンズの他方の面に形成された遮光層であって、前記高透光性領域に対して前記低透光性領域の遮光率を高くする遮光層とを有する、レンズ。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかに記載のレンズは眼鏡レンズであり、
前記眼鏡レンズと、前記眼鏡レンズが取り付けられた眼鏡フレームとを有する眼鏡。

【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図18】
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【図19】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−81232(P2011−81232A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234086(P2009−234086)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】