説明

眼鏡用レンズ

【課題】油性コート膜が設けられていても、従来の眼鏡用レンズと同様の保持方法により、玉摺加工を可能とする眼鏡用レンズを提供する。
【解決手段】本発明の眼鏡用レンズ10は、レンズ基材11と、レンズ基材11の両面に成膜された撥油性コート膜12,13と、一方の撥油性コート膜12上に形成された保護膜14と、を備え、保護膜14は、(a)有機化化合物からなる樹脂、(b)無機酸化物微粒子、および、(c)一般式:RSi(OR4−(a+b)で表される有機ケイ素化合物またはその加水分解物を有効成分として含有するコーティング液によって形成され、(a)と(b)の組成比は、85/15〜40/60(質量比)であり、(c)の含有量は、コーティング液に含まれる全固形分の1質量%〜40質量%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、眼鏡用レンズは、小売店において顧客が選んだ眼鏡枠の形状に合うように外形形状を加工し、眼鏡枠に嵌め込まれて顧客に渡される。このようなレンズの外形加工を行う加工機は、玉摺り加工機(エッジャー、外縁加工機など)と呼ばれている。一般的な玉摺り加工機では、加工軸で眼鏡レンズを挟持しながら、砥石で外縁を研削することによって外形形状を加工する。
【0003】
図5を参照して、一般的な眼鏡用レンズの玉摺り加工方法を説明する。
ここでは、玉摺り加工機100を用いて、被加工レンズ(眼鏡用レンズ)110を加工する場合について説明する。
玉摺り加工機100は、プラスチック製のレンズロックキャップ101と、上側レンズ加工軸102と、下側レンズ加工軸103と、砥石104とから概略構成されている。
【0004】
まず、レンズロックキャップ101に、両面接着テープ105により、被加工レンズ110を固定する。
より詳細には、レンズロックキャップ101の被着面(被加工レンズ110を接着、固定する面)101aに、予め両面接着テープ105を貼り付けておく。そして、両面接着テープ105における被着面101aに接着している面とは反対側の面105aに、被加工レンズ110を貼り付けることにより、レンズロックキャップ101に被加工レンズ110を固定する。
次いで、被加工レンズ110が固定されたレンズロックキャップ101を、上側レンズ加工軸102に固定する。
【0005】
次いで、レンズロックキャップ101と下側レンズ加工軸103の間に、被加工レンズ110を挟み込んで固定する。
この状態で、被加工レンズ110の外周に沿って、砥石104を回転させながら移動させて、砥石104により、所定の外形形状となるように、被加工レンズ110の外周を研削する。
なお、このような玉摺り加工は、小売店ではなく、メーカーの工場にて行われる場合もある。
【0006】
近年、レンズ基材の表面に、撥油性コート膜が成膜された眼鏡用レンズが販売されている。この眼鏡用レンズは、表面に汚れがつき難いことから、眼鏡の使用者には好評である。しかしながら、この眼鏡用レンズは表面の摩擦抵抗が少ないため、上述のような従来の加工方法によって玉摺り加工を行うと、加工中に加工軸と、被加工レンズの中心とがずれてしまうという不具合を生じる。このような軸ずれにより、眼鏡用レンズの外形加工を正確に行うことができないという問題があった。
【0007】
このような問題を解決する方法としては、例えば、(1)撥油性コート膜の表面に、金属酸化物微粒子およびフッ化物の微粒子の少なくとも一方を分散させた微粒子層を形成し、さらに、その微粒子層の上に有機化合物からなる樹脂層を形成する方法や、(2)撥油性コート膜の表面に、金属酸化物微粒子およびフッ化物の微粒子の少なくとも一方を分散させた有機化合物からなる樹脂層を形成する方法などが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2006/093113号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されている第一の方法、すなわち、撥油性コート膜の表面に、金属酸化物微粒子およびフッ化物の微粒子の少なくとも一方を分散させた微粒子層を形成し、さらに、その微粒子層の上に有機化合物からなる樹脂層を形成する方法では、保護膜の形成に二段階の工程を要する問題があった。
また、特許文献1に記載されている第二の方法、すなわち、撥油性コート膜の表面に、金属酸化物微粒子およびフッ化物の微粒子の少なくとも一方を分散させた有機化合物からなる樹脂層を形成する方法では、保護膜の形成工程は一段階であるものの、玉摺り加工後のレンズロックキャップの保持性が十分ではなかったり、保護膜コート液の安定性が十分でなかったりする問題があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、撥油性コート膜が設けられていても、従来の眼鏡用レンズと同様の保持方法により、玉摺り加工を可能とする眼鏡用レンズを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の眼鏡用レンズは、レンズ基材と、該レンズ基材の少なくとも一面側に成膜された撥油性コート膜と、該撥油性コート膜上に形成された保護膜と、を備えた眼鏡用レンズであって、前記保護膜は、(a)有機化化合物からなる樹脂、(b)無機酸化物微粒子、および、(c)一般式:RSi(OR4−(a+b)で表される有機ケイ素化合物またはその加水分解物を有効成分として含有するコーティング液によって形成されてなり、前記(a)有機化合物からなる樹脂と前記(b)無機酸化物微粒子の組成比は、85/15〜40/60(質量比)であり、前記(c)一般式:RSi(OR4−(a+b)で表される有機ケイ素化合物またはその加水分解物の含有量は、前記コーティング液に含まれる全固形分の1質量%〜40質量%であることを特徴とする。
(但し、上記の一般式中、Rは官能基または不飽和二重結合を有する炭素数4〜14の有機基であり、Rは炭素数1〜6の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシアルキル基またはアシル基であり、aおよびbはそれぞれ0または1であり、a+bは0、1または2である。)
【0012】
本発明の眼鏡用レンズにおいて、前記レンズ基材の少なくとも一面に反射防止膜が成膜されていてもよい。
【0013】
本発明の眼鏡用レンズにおいて、前記有機化合物からなる樹脂は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース系重合体、ポリアルキレンオキシド重合体、ポリ酢酸ビニル重合体、スチレン/メタクリル酸エステル共重合体を主成分とした樹脂の1種以上からなることが好ましい。
【0014】
本発明の眼鏡用レンズにおいて、前記有機化合物からなる樹脂は、ポリビニルアセタール樹脂を主成分とした樹脂からなることが好ましい。
【0015】
本発明の眼鏡用レンズにおいて、前記無機酸化物微粒子の平均粒子径は100nm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の眼鏡用レンズにおいて、前記無機酸化物微粒子は、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In、Ti、Nbのうちのいずれかの酸化物、または、これらの酸化物の2種類以上から構成される複合酸化物であることが好ましい。
【0017】
本発明の眼鏡用レンズにおいて、前記無機酸化物微粒子は、SiO、または、SiOを含む2種類以上から構成される複合酸化物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、撥油性コート膜が設けられた眼鏡用レンズに対して、従来と同様の保持方法により、玉摺り加工を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る眼鏡用レンズの第一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る眼鏡用レンズの第一実施形態における玉摺り加工方法を示す概略図である。
【図3】本発明に係る眼鏡用レンズの第二実施形態を示す概略断面図である。
【図4】玉摺り加工後のレンズの軸ずれ量の測定方法を示す概略図である。
【図5】一般的な眼鏡用レンズの玉摺り加工方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明に係る眼鏡用レンズの実施形態について説明する。
なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をよりよく理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴を分かりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法などが実際と同じであるとは限らない。
【0021】
(1)第一実施形態
図1は、本発明に係る眼鏡用レンズの第一実施形態を示す概略断面図である。
眼鏡用レンズ10は、レンズ基材11と、レンズ基材11の両面(一方の面11aおよび他方の面11b)に成膜された撥油性コート膜12,13と、一方の撥油性コート膜12上に形成された保護膜14とから概略構成されている。
すなわち、保護膜14は、撥油性コート膜12のレンズ基材11と接する面とは反対側の面12aに設けられている。
【0022】
レンズ基材11は、眼鏡の使用者に応じて調整された所定の屈折率や度数を有し、眼鏡用レンズ10光学的特性を決定するものである。
レンズ基材11を構成する材料としては、特に限定されるものではなく、眼鏡用レンズに用いられる公知の材料が挙げられる。
【0023】
撥油性コート膜12,13を構成する材料としては、特に限定されるものではなく、眼鏡用レンズに用いられる公知の材料が挙げられる。
【0024】
保護膜14は、下記の成分(a)、(b)および(c)を有効成分として含有するコーティング液によって形成されている。
(a)有機化化合物からなる樹脂
(b)無機酸化物微粒子
(c)一般式:RSi(OR4−(a+b)で表される有機ケイ素化合物(以下、「有機ケイ素化合物」と略す。)またはその加水分解物
(一般式中、Rは官能基または不飽和二重結合を有する炭素数4〜14の有機基であり、Rは炭素数1〜6の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシアルキル基またはアシル基であり、aおよびbはそれぞれ0または1であり、a+bは0、1または2である。)
【0025】
有機化合物からなる樹脂としては、無機酸化物微粒子を分散させることができ、かつ、保護膜14の透明性を所定の範囲内に調整することができるものであれば、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が用いられる。
このような有機化合物からなる樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース系重合体、ポリアルキレンオキシド重合体、ポリ酢酸ビニル重合体、スチレン/メタクリル酸エステル共重合体を主成分とした樹脂の1種以上からなるものが挙げられる。
【0026】
これらの樹脂の中でも、レンズ基材11上(撥油性コート膜12上)に上記のコーティング液を塗布した後、コーティング液を硬化させるために反応させる必要がないことから、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。また、熱可塑性樹脂の中でも、安価で、かつ、比較的乾燥速度の速いアルコール系溶剤に可溶なポリビニルアセタール樹脂、セルロース系重合体、ポリアルキレンオキシド重合体などを主成分とした樹脂が特に好ましい。これらの樹脂は1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上の樹脂を混合して使用しても良い。
【0027】
無機酸化物微粒子としては、平均粒子径が100nm以下のものを用いることが好ましい。
無機酸化物微粒子の平均粒子径が100nmを超えると、保護膜14の透明性が低下する。
【0028】
無機酸化物微粒子としては、例えば、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In、Ti、Nbのうちのいずれかの酸化物、または、これらの酸化物の2種類以上から構成される複合酸化物が挙げられる。
これらの無機酸化物微粒子の中でも、安価で、かつ、水分散ゾルあるいは種々の有機溶剤分散ゾルとして市販されていることから、SiO、または、SiOを含む2種類以上から構成される複合酸化物が好ましい。これらの無機酸化物微粒子は1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上の無機酸化物部粒子を混合して使用しても良い。
【0029】
また、有機化合物からなる樹脂と無機酸化物微粒子の組成比(有機化合物からなる樹脂/無機酸化物微粒子)は、85/15〜40/60(質量比)であり、70/30〜40/60(質量比)であることが好ましい。
無機酸化物微粒子の組成比(質量比)が15未満では、玉摺り加工機を用いた眼鏡用レンズ10の玉摺り加工時において、軸ずれ量が大きくなる上に、撥油性コート膜12と、保護膜14との間に切削水が入り込んで、玉摺り加工機のレンズロックキャップが外れ易くなり、二次加工が必要となった場合に対応できなくなる。一方、無機酸化物微粒子の組成比(質量比)が60を超えると、保護膜14が脆くなり、撥油性コート膜12上に保護膜14を形成した後、保護膜14が自然剥離することがある。
【0030】
有機ケイ素化合物またはその加水分解物は、眼鏡用レンズ10の玉摺り加工時の軸ずれを防止するという点では必ずしも必須のものではないが、有機化合物からなる樹脂と無機酸化物微粒子だけを組み合わせた場合、保護膜形成用のコーティング液の安定性に問題が生じる場合がある。特に、無機酸化物微粒子の比率が高くなった場合、コーティング液の粘度は時間経過とともに上昇しやすくなり、使用可能期間が短くなる。そこで、有機化合物からなる樹脂と無機酸化物微粒子の混合物に、有機ケイ素化合物、特にその加水分解物を添加することによって、コーティング液の粘度を安定化させ、コーティング液の使用可能期間を長期化することができる。
【0031】
有機ケイ素化合物としては、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどのアルコキシシラン化合物、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシランなどのアルキルアルコキシシラン化合物、あるいは、エポキシ基、メタクリル基などの官能基を持つシランカップリング剤などが挙げられる。これらの有機ケイ素化合物は1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上の有機ケイ素化合物を混合して使用しても良い。
【0032】
有機ケイ素化合物またはその加水分解物の含有量は、保護膜形成用のコーティング液に含まれる全固形分の1質量%〜40質量%であり、3質量%〜20質量%であることが好ましい。
有機ケイ素化合物またはその加水分解物の含有量が1質量%未満では、コーティング液の粘度の安定化が不十分である。一方、有機ケイ素化合物またはその加水分解物の含有量が40質量%を超えると、相対的に有機化合物からなる樹脂の含有量が減少し、コーティング液の粘度が下がりすぎて、撥油性コート膜12上に、コーティング液を塗布し難くなる。
【0033】
保護膜形成用のコーティング液に用いられる溶媒としては、有機化合物からなる樹脂を溶解するとともに、無機酸化物微粒子を安定して分散させることのできるものが用いられる。
このような溶媒としては、例えば、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類などが挙げられる。これらの溶媒の中でも、比較的安価で、かつ、撥油性コート膜12上に、コーティング液を塗布した後の乾燥速度が比較的速いことから、メタノール、エタノールなどの低級アルコール類が好ましい。
ただし、これらの低級アルコールのみでは、湿度の影響により、コーティング液によって形成された保護膜14に曇りが生じ易くなるため、高沸点の溶媒を併用することがさらに好ましい。高沸点の溶媒としては、例えば、プロパノール、ブタノールなど炭素数3以上のアルコール類、エチレングリコールモノアルキルエーテル(セロソルブ類)、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類などが挙げられる。
【0034】
また、保護膜形成用のコーティング液は、少量の界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤としては、市販のシリコン系界面活性剤あるいはフッ素系界面活性剤が用いられる。コーティング液が界面活性剤を含むことにより、コーティング液によって、撥油性コート膜12上に形成される塗膜のレベリング性能が向上する。
【0035】
また、保護膜形成用のコーティング液は、少量の水を含むことが好ましい。水を含むことにより、コーティング液の粘度が低下するとともに、界面活性剤によるレベリング効果を十分に発揮することができる。
【0036】
また、保護膜14を着色するために、保護膜形成用のコーティング液は、染料や顔料を含んでいてもよい。
さらに、玉摺り加工時に発生する異臭を軽減するために、保護膜形成用のコーティング液は、消臭剤や香料、あるいは、それらをマイクロカプセル化したものを含んでいてもよい。
【0037】
保護膜形成用のコーティング液の粘度は、40cps〜200cpsが好ましく、50cps〜100cpsがより好ましい。なお、本実施形態におけるコーティング液の粘度は、E型粘度計を用いて、25℃で測定した値である。
コーティング液の粘度が40cps未満では、スピンコートを行う際、コーティング液がレンズ基材11に設けられた撥油性コート膜12の表面で弾かれてしまい、塗膜を形成できないか、あるいは、撥油性コート膜12の表面に塗膜を形成するために多量のコーティング液が必要となる。一方、コーティング液の粘度が200cpsを超えると、得られた保護膜14の外観が悪くなる。
【0038】
保護膜形成用のコーティング液を、レンズ基材11に設けられた撥油性コート膜12上に塗布する方法としては、ディッピング法またはスピンコート法が用いられる。
スピンコート法では、スピンコーターなど比較的小型の装置を用いて、レンズ基材11に設けられた撥油コート膜12上に保護膜14を形成する。一般的に、レンズ基材11の凸面(レンズロックキャップが貼り付けられる面)に保護膜14が形成される。
【0039】
なお、本実施形態では、レンズ基材11の両面(一方の面11aおよび他方の面11b)に撥油性コート膜12,13が成膜され、その一方の撥油性コート膜12上に保護膜14が形成された眼鏡用レンズ10を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明にあっては、レンズ基材の両面の撥油性コート膜上にそれぞれ保護膜が形成されていてもよい。
【0040】
次に、図2を参照して、本実施形態の眼鏡用レンズ10の玉摺り加工方法を説明する。
本実施形態では、従来と同様の玉摺り加工機20が用いられる。
まず、レンズロックキャップ21に、両面接着テープ25により、被加工レンズである眼鏡用レンズ10を固定する。
より詳細には、レンズロックキャップ21の被着面(眼鏡用レンズ10を接着、固定する面)21aに、予め両面接着テープ25を貼り付けておく。そして、両面接着テープ25における被着面21aに接着している面とは反対側の面25aに、眼鏡用レンズ10の凸面を貼り付けることにより、レンズロックキャップ21に眼鏡用レンズ10を固定する。
次いで、眼鏡用レンズ10が固定されたレンズロックキャップ21を、上側レンズ加工軸22に固定する。
【0041】
次いで、レンズロックキャップ21と下側レンズ加工軸23の間に、眼鏡用レンズ10を挟み込んで固定する。
この状態で、眼鏡用レンズ10の外周に沿って、砥石24を回転させながら移動させて、砥石24により、所定の外形形状となるように、眼鏡用レンズ10の外周を研削する。
【0042】
眼鏡用レンズ10によれば、玉摺り加工機20による玉摺り加工後も、撥油性コート膜12上に保護膜14がほとんど密着した状態であり、レンズロックキャップ21の保持状態も良好となる。すなわち、眼鏡用レンズ10は、玉摺り加工機20による玉摺り加工後の軸ずれ量を抑制し、外形加工を正確に行うことができる。
【0043】
(2)第二実施形態
図3は、本発明に係る眼鏡用レンズの第二実施形態を示す概略断面図である。
眼鏡用レンズ30は、レンズ基材31と、レンズ基材31の両面(一方の面31aおよび他方の面31b)に成膜された反射防止膜32,33と、反射防止膜32,33上に成膜された撥油性コート膜34,35と、その一方の撥油性コート膜34上に形成された保護膜36とから概略構成されている。
すなわち、反射防止膜32は、レンズ基材31の一方の面31aに設けられており、反射防止膜33は、レンズ基材31の他方の面31bに設けられている。また、撥油性コート膜34は、反射防止膜32のレンズ基材31と接する面とは反対側の面32aに設けられており、撥油性コート膜35は、反射防止膜33のレンズ基材31と接する面とは反対側の面33aに設けられている。さらに、保護膜36は、撥油性コート膜34の反射防止膜32と接する面とは反対側の面34aに設けられている。
【0044】
レンズ基材31としては、上述の第一実施形態のレンズ基材11と同様のものが用いられる。
反射防止膜32,33を構成する材料としては、特に限定されるものではなく、眼鏡用レンズに用いられる公知の材料が挙げられる。
【0045】
撥油性コート膜34,35を構成する材料としては、上述の第一実施形態の撥油性コート膜12,13を構成する材料と同様のものが用いられる。
保護膜36を構成する材料としては、上述の第一実施形態の保護膜14を構成する材料と同様のものが用いられる。
【0046】
なお、本実施形態では、レンズ基材31の両面(一方の面31aおよび他方の面31b)に反射防止膜32,33が成膜された眼鏡用レンズ30を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明にあっては、レンズ基材の一方の面に反射防止膜が成膜されていてもよい。また、本実施形態では、レンズ基材31の両面(一方の面31aおよび他方の面31b)側に撥油性コート膜34,35が成膜され、その一方の撥油性コート膜34上に保護膜36が形成された眼鏡用レンズ30を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明にあっては、レンズ基材の両面の撥油性コート膜上にそれぞれ保護膜が形成されていてもよい。
【0047】
眼鏡用レンズ30は、上述の第一実施形態と同様にして、玉摺り加工を施すことができる。
【0048】
眼鏡用レンズ30によれば、玉摺り加工機による玉摺り加工後も、撥油性コート膜34上に保護膜36がほとんど密着した状態であり、レンズロックキャップの保持状態も良好となる。すなわち、眼鏡用レンズ30は、玉摺り加工機による玉摺り加工後の軸ずれ量を抑制し、外形加工を正確に行うことができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
[コーティング液Aの調製]
メチルトリメトキシシラン(商品名:KBM−13、信越化学工業社製)1.6質量部に、0.0002N塩酸水溶液5.0質量部を加えて1時間攪拌し、加水分解を行った。
次いで、その加水分解物に、メタノールシリカゾル(商品名、固形分30質量%、SiO粒子径:10nm〜20nm、日産化学工業社製)21.3質量部を加えて、さらに1時間攪拌した。
次いで、メタノール34.0質量部、1−ブタノール20.0質量部、および、1−メトキシ−2−プロパノール10.0質量部からなる混合溶液に、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBM−5、積水化学工業社製)8.0質量部を溶解した。
次いで、その混合溶液に、加水分解を行ったメチルトリメトキシシランとメタノールシリカゾルの溶液を全量加えて攪拌し、さらに、シリコン系界面活性剤(商品名:L−7001、東レ・ダウコーニング社製)0.1質量部を加えて一晩攪拌して、コーティング液Aを調製した。
得られたコーティング液Aの粘度を、E型粘度計(商品名:VISCONIC ELD粘度計、東機産業社製)で測定したところ、92cps(25℃)であった。
界面活性剤を除いたコーティング液Aに含まれる全固形分の含有量は、16.0質量%であった。また、有機化化合物からなる樹脂の含有量はコーティング液Aに含まれる全固形分の50質量%、無機酸化物微粒子の含有量はコーティング液Aに含まれる全固形分の40質量%、シラン化合物の含有量はコーティング液Aに含まれる全固形分の10質量%であった。さらに、有機化合物からなる樹脂と無機酸化物微粒子の組成比(有機化合物からなる樹脂/無機酸化物微粒子)は、約56/44であった。
【0051】
[コーティング液Bの調製]
メチルトリメトキシシラン(商品名:KBM−13、信越化学工業社製)1.7質量部に、0.0002N塩酸水溶液5.0質量部を加えて1時間攪拌し、加水分解を行った。
次いで、その加水分解物に、メタノールシリカゾル(商品名、固形分30質量%、SiO粒子径10nm〜20nm、日産化学工業社製)25.3質量部を加えて、さらに1時間攪拌した。
次いで、メタノール30.2質量部、1−ブタノール20.0質量部、および、1−メトキシ−2−プロパノール10.0質量部からなる混合溶液に、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBM−5、積水化学工業社製)7.6質量部を溶解した。
次いで、その混合溶液に、加水分解を行ったメチルトリメトキシシランとメタノールシリカゾルの溶液を全量加えて攪拌し、さらに、フッ素系界面活性剤(商品名:FC−4432、住友スリーエム社製)0.2質量部を加えて一晩攪拌して、コーティング液Bを調製した。
得られたコーティング液Bの粘度を、E型粘度計(商品名:VISCONIC ELD粘度計、東機産業社製)で測定したところ、75cps(25℃)であった。
界面活性剤を除いたコーティング液Bに含まれる全固形分の含有量は、17.0質量%であった。また、有機化化合物からなる樹脂の含有量はコーティング液Bに含まれる全固形分の45質量%、無機酸化物微粒子の含有量はコーティング液Bに含まれる全固形分の45質量%、シラン化合物の含有量はコーティング液Bに含まれる全固形分の10質量%であった。さらに、有機化合物からなる樹脂と無機酸化物微粒子の組成比(有機化合物からなる樹脂/無機酸化物微粒子)は、50/50であった。
【0052】
[コーティング液Cの調製]
メチルトリメトキシシラン(商品名:KBM−13、信越化学工業社製)1.85質量部に、0.0002N塩酸水溶液5.0質量部を加えて1時間攪拌し、加水分解を行った。
次いで、その加水分解物に、MA−ST−L(商品名、日産化学工業製、固形分40質量%、SiO粒子径:40nm〜50nm)23.0質量部を加えて、さらに1時間攪拌した。
次いで、メタノール33.5質量部、1−ブタノール19.0質量部、および、1−メトキシ−2−プロパノール10.0質量部からなる混合溶液に、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBM−5、積水化学工業社製)7.4質量部を溶解した。
次いで、その混合溶液に、加水分解を行ったメチルトリメトキシシランとMA−ST−Lの溶液を全量加えて攪拌し、さらに、シリコン系界面活性剤(商品名:L−7001、東レ・ダウコーニング社製)0.2質量部を加えて一晩攪拌して、コーティング液Cを調製した。
得られたコーティング液Cの粘度を、E型粘度計(商品名:VISCONIC ELD粘度計、東機産業社製)で測定したところ、70cps(25℃)であった。
界面活性剤を除いたコーティング液Cに含まれる全固形分の含有量は、18.5質量%であった。また、有機化化合物からなる樹脂の含有量はコーティング液Cに含まれる全固形分の40質量%、無機酸化物微粒子の含有量はコーティング液Cに含まれる全固形分の50質量%、シラン化合物の含有量はコーティング液Cに含まれる全固形分の10質量%であった。さらに、有機化合物からなる樹脂と無機酸化物微粒子の組成比(有機化合物からなる樹脂/無機酸化物微粒子)は、約44/56であった。
【0053】
[コーティング液Dの調製]
メタノール57.4質量部および1−ブタノール30質量部からなる混合溶液に、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBM−5、積水化学工業社製)10質量部を溶解した。
さらに、その混合溶液に、純水2.5質量部と、シリコン系界面活性剤(商品名:L−7001、東レ・ダウコーニング社製)0.1質量部とを加えて一晩攪拌して、コーティング液Dを調製した。
得られたコーティング液Dの粘度を、E型粘度計(商品名:VISCONIC ELD粘度計、東機産業社製)で測定したところ、185cps(25℃)であった。
界面活性剤を除いたコーティング液Dに含まれる全固形分の含有量は、10.0質量%であった。また、コーティング液Dに含まれる全固形分は、全て有機化化合物からなる樹脂であった。
【0054】
[コーティング液Eの調製]
メタノール30.1質量部および1−ブタノール30.0質量部からなる混合溶液に、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBM−5、積水化学工業社製)8.0質量部を溶解した。
次いで、その混合溶液に、メタノールシリカゾル(商品名、固形分30質量%、SiO粒子径10nm〜20nm、日産化学工業社製)26.7質量部を加えて攪拌した。
さらに、その混合溶液に、純水5.0質量部と、シリコン系界面活性剤(商品名:L−7001、東レ・ダウコーニング社製)0.2質量部とを加えて一晩攪拌して、コーティング液Eを調製した。
得られたコーティング液Eの粘度を、E型粘度計(商品名:VISCONIC ELD粘度計、東機産業社製)で測定したところ、82cps(25℃)であった。
界面活性剤を除いたコーティング液Eに含まれる全固形分の含有量は、16.0質量%であった。また、有機化化合物からなる樹脂の含有量はコーティング液Eに含まれる全固形分の50質量%、無機酸化物微粒子の含有量はコーティング液Eに含まれる全固形分の50質量%であった。
【0055】
[コーティング液Fの調製]
メタノール27.1質量部と1−ブタノール15.0質量部からなる混合溶液に、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBM−5、積水化学工業社製)6.0質量部を溶解した。
次いで、その溶液に、メタノールシリカゾル(商品名、固形分30質量%、SiO粒子径10nm〜20nm、日産化学工業社製)46.7質量部を加えてよく攪拌した。
次いで、純水5.0質量部、および、シリコン系界面活性剤(商品名:L−7001、東レ・ダウコーニング社製)0.2質量部を加えて一晩攪拌して、コーティング液Fを調製した。
得られたコーティング液Fの粘度を、E型粘度計(商品名:VISCONIC ELD粘度計、東機産業社製)で測定したところ、44cps(25℃)であった。
界面活性剤を除いたコーティング液Fに含まれる全固形分の含有量は、20.0質量%であった。また、有機化化合物からなる樹脂の含有量はコーティング液Fに含まれる全固形分の30質量%、無機酸化物微粒子の含有量はコーティング液Fに含まれる全固形分の70質量%であった。
【0056】
[コーティング液の評価]
上記のコーティング液A〜Fを用いて、後述するサンプルレンズを作製し、コーティング液A〜Fを室温で2ヶ月間保管した後、再びE型粘度計(商品名:VISCONIC ELD粘度計、東機産業社製)でコーティング液A〜Fの粘度を測定した。コーティング液A〜Fを調製した直後の粘度(初期粘度)と、コーティング液A〜Fを2ヶ月間保管した後の粘度とから、コーティング液A〜Fを2ヶ月間保管した後の粘度の上昇率を算出した。
コーティング液A〜Fに関する、全固形分の含有量、有機化合物からなる樹脂と無機酸化物微粒子の組成比、全固形分におけるシラン化合物の含有量、初期粘度、2ヶ月間保管後の粘度の上昇率について、表1に示した。
【0057】
【表1】

【0058】
「実施例1」
[膜厚測定用サンプルレンズおよび視感度透過率測定用サンプルレンズの作製]
屈折率が1.60、度数が−2.00ディオプター、外径が75mmである眼鏡用プラスチックレンズ(表面処理なし)を、凸面が上向きになるようにしてスピンコーターに配置した。
次いで、スピンコーターにより、眼鏡用プラスチックレンズを500RPMで回転させながら、凸面の中央部に、約3mLのコーティング液Aを塗布し、5秒間そのまま回転させた。
次いで、眼鏡用プラスチックレンズを1500RPMで10秒間、回転させて、眼鏡用プラスチックレンズの凸面に、コーティング液Aからなる塗膜を形成した。
その後、塗膜を1日間乾燥させて、凸面に保護膜が形成された眼鏡用プラスチックレンズを得た。
【0059】
[玉摺り加工用サンプルレンズの作製]
玉摺り加工用サンプルレンズとして、屈折率の異なる2種類のレンズを用意した。
(1)屈折率が1.74、S度−6.00ディオプター/C度−2.00ディオプター、外径が80mmである撥油性コート膜付きレンズ(商品名:VIDA5 AS ECC、ニコン・エシロール社製)をそのまま用いた(以下、「サンプルレンズ1」と言う)。
(2)屈折率が1.59、S度−5.50ディオプター、外径が70mmであり、最外層にSiOからなる反射防止膜が設けられたポリカーボネート製レンズ(撥油性コート膜未処理レンズ)を用意した。このポリカーボネート製レンズを、撥油剤(商品名:KY−130、信越化学社製)を0.1質量%含有するフッ素系液体(商品名:ノベックHFE−7200、住友スリーエム社製)溶液に10秒間浸漬した。その後、8mm/秒の速度で、フッ素系液体からポリカーボネート製レンズを引き上げ、塗膜が形成されたポリカーボネート製レンズを得た。その後、ポリカーボネート製レンズを50℃で1時間加熱し、塗膜を安定化させ、撥油性コート膜付ポリカーボネート製レンズを得た(以下、「サンプルレンズ2」と言う)。
【0060】
上記の2種類のレンズ(サンプルレンズ1、サンプルレンズ2)をそれぞれ、凸面が上向きになるようにしてスピンコーターに配置した。
次いで、スピンコーターにより、レンズを500RPMで回転させながら、凸面の中央部に、約3mLのコーティング液Aを塗布し、5秒間そのまま回転させた。
次いで、レンズを1500RPMで10秒間、回転させて、眼鏡用プラスチックレンズの凸面に、コーティング液Aからなる塗膜を形成した。
その後、塗膜を1日間乾燥させて、凸面に保護膜が形成されたレンズ(サンプルレンズ1、サンプルレンズ2)を得た。
【0061】
[保護膜の膜厚測定]
上記の膜厚測定用サンプルレンズの保護膜の膜厚を、レンズ反射測定器(商品名:USPM−RU、オリンパス社製)で測定した。
【0062】
[視感度透過率測定]
上記の視感度透過率測定用サンプルレンズの視感度透過率を、視感度透過率計(商品名:STS−3、富士光電工業社製)で測定した。
【0063】
[玉摺り加工性の評価]
保護膜が形成されたレンズ(サンプルレンズ1、サンプルレンズ2)の凸面に、レンズメーターにより、光学中心を通る点を含む直線α上の3点を印点した。
次いで、これらのレンズの凹面に、凹面側から見て凸面に印点した3点を通る直線αと、さらに光学中心を通り、この直線αに直交する直線βとを、カッターナイフで描いた。
次に、サンプルレンズ1を、レンズブロッカー(ニデック社製)に配置し、ケガキ線の位置を調整した後、サンプルレンズ1の凸面側において、その光学中心に、両面テープ(商品名:LEAPIII、住友スリーエム社製)により、玉摺り加工機のレンズロックキャップ(最小サイズ)を貼り付けた。次いで、サンプルレンズ1が貼り付けられたレンズロックキャップを、玉摺り加工機の一方のレンズ加工軸に嵌め込んだ後、レンズロックキャップと他方の加工軸の間に、サンプルレンズ1を挟み込んで固定し、玉摺り加工機側で偏芯量の設定を行ってから、玉摺り加工を行った。
また、サンプルレンズ2を、レンズブロッカー(ニデック社製)に配置し、ケガキ線の位置を調整した後、サンプルレンズ2の凸面側において、その枠中心(光学中心から偏心量だけずれた位置)に、両面テープ(商品名:LEAPIII、住友スリーエム社製)により、玉摺り加工機のレンズロックキャップ(ワイドサイズ)を貼り付けた。次いで、サンプルレンズ2が貼り付けられたレンズロックキャップを、玉摺り加工機の一方のレンズ加工軸に嵌め込んだ後、レンズロックキャップと他方の加工軸の間に、サンプルレンズ2を挟み込んで固定し、玉摺り加工機側で偏芯量をゼロとして、玉摺り加工を行った。
【0064】
なお、玉摺り加工機としては、以下のものを用いた。
(1)玉摺り加工機
ニデック社製LE9000 SX(商品名、砥石が1つ内蔵されている通常負荷機)、チャック圧値:60kg
(2)玉型
ニコンクラシオ、製品番号9018(横48mm、天地30mmの8角形近似形状)、加工偏芯量:水平方向5mm、垂直方向2mm
(3)レンズロックキャップ
ニデック社製最小サイズキャップ、ニデック社製ワイドサイズキャップ
【0065】
玉摺り加工後の軸ずれ量を、図4に示すように、型板51に、玉摺り加工されたレンズ(サンプルレンズ1、サンプルレンズ2)40を嵌め込み、プロファイルプロジェクター(ニコン社製)により、予めレンズ40の凹面に描いておいた直線(レンズ40の凹面側から見て、レンズ40の凸面に印点され、光学中心41を通る点を含む直線上の3点を通る直線)αと、型板51に設けられた軸ずれ測定基準線52とのずれ量を測定することによって検査した。
玉摺り加工後の保護膜の状態を目視により評価した。また、玉摺り加工後のレンズロックキャップ保持性を、レンズロックキャップを剥がすのにどの程度の力が必要であるかを簡易的に評価した。
【0066】
以上の評価を行った結果、実施例1のサンプルレンズは、保護膜の膜厚、視感度透過率および玉摺り加工性について、実用上、全く問題ないことを確認できた。
また、サンプルレンズ1およびサンプルレンズ2の玉摺り加工後の軸ずれ量は、ともに1度以下であった。
また、サンプルレンズ1およびサンプルレンズ2の玉摺り加工後も、保護膜はレンズの表面にほとんど密着した状態であり、レンズロックキャップの保持状態も良好であった。
さらに、コーティング液Aの2ヶ月保管後の粘度上昇率は10%以下であり、コーティング液Aの安定性も良好であった。
保護膜の膜厚、視感度透過率、玉摺り加工性、玉摺り加工後の保護膜の状態、および、玉摺り加工後のレンズロックキャップ保持性の評価結果を表2に示した。
【0067】
「実施例2」
コーティング液Bを用いた以外は実施例1と同様にして、膜厚測定用サンプルレンズ、視感度透過率測定用サンプルレンズおよび玉摺り加工用サンプルレンズを作製した。
これらのサンプルレンズについて、実施例1と同様にして、保護膜の膜厚、視感度透過率、玉摺り加工性、玉摺り加工後の保護膜の状態、および、玉摺り加工後のレンズロックキャップ保持性を評価した。
その結果、実施例2のサンプルレンズは、保護膜の膜厚、視感度透過率および玉摺り加工性について、実用上、全く問題ないことを確認できた。
また、サンプルレンズ1およびサンプルレンズ2の玉摺り加工後の軸ずれ量は、ともに1度以下であった。
また、サンプルレンズ1およびサンプルレンズ2の玉摺り加工後も、保護膜はレンズの表面にほとんど密着した状態であり、レンズロックキャップの保持状態も良好であった。
さらに、コーティング液Bの2ヶ月保管後の粘度上昇率は10%以下であり、コーティング液Bの安定性も良好であった。
保護膜の膜厚、視感度透過率、玉摺り加工性、玉摺り加工後の保護膜の状態、および、玉摺り加工後のレンズロックキャップ保持性の評価結果を表2に示した。
【0068】
「実施例3」
コーティング液Cを用いた以外は実施例1と同様にして、膜厚測定用サンプルレンズ、視感度透過率測定用サンプルレンズおよび玉摺り加工用サンプルレンズを作製した。
これらのサンプルレンズについて、実施例1と同様にして、保護膜の膜厚、視感度透過率、玉摺り加工性、玉摺り加工後の保護膜の状態、および、玉摺り加工後のレンズロックキャップ保持性を評価した。
その結果、実施例3のサンプルレンズは、保護膜の膜厚、視感度透過率および玉摺り加工性について、実用上、全く問題ないことを確認できた。
また、サンプルレンズ1およびサンプルレンズ2の玉摺り加工後の軸ずれ量は、ともに1度以下であった。
また、サンプルレンズ1およびサンプルレンズ2の玉摺り加工後も、保護膜はレンズの表面にほとんど密着した状態であり、レンズロックキャップの保持状態も良好であった。
さらに、コーティング液Cの2ヶ月保管後の粘度上昇率は10%以下であり、コーティング液Cの安定性も良好であった。
保護膜の膜厚、視感度透過率、玉摺り加工性、玉摺り加工後の保護膜の状態、および、玉摺り加工後のレンズロックキャップ保持性の評価結果を表2に示した。
【0069】
「比較例1」
コーティング液Dを用いた以外は実施例1と同様にして、膜厚測定用サンプルレンズ、視感度透過率測定用サンプルレンズおよび玉摺り加工用サンプルレンズを作製した。
これらのサンプルレンズについて、実施例1と同様にして、保護膜の膜厚、視感度透過率、玉摺り加工性、玉摺り加工後の保護膜の状態、および、玉摺り加工後のレンズロックキャップ保持性を評価した。
その結果、比較例1のサンプルレンズは、保護膜の膜厚および視感度透過率については、問題ないことを確認できた。
しかしながら、サンプルレンズ1の玉摺り加工後の軸ずれ量は3.4度、サンプルレンズ2の玉摺り加工後の軸ずれ量は17.2度と大きかった。
また、サンプルレンズ1およびサンプルレンズ2の玉摺り加工後、保護膜は捲かれて剥がれた状態であり、レンズロックキャップが外れ易い状態であった。
保護膜の膜厚、視感度透過率、玉摺り加工性、玉摺り加工後の保護膜の状態、および、玉摺り加工後のレンズロックキャップ保持性の評価結果を表2に示した。
【0070】
「比較例2」
コーティング液Eを用いた以外は実施例1と同様にして、膜厚測定用サンプルレンズ、視感度透過率測定用サンプルレンズおよび玉摺り加工用サンプルレンズを作製した。
これらのサンプルレンズについて、実施例1と同様にして、保護膜の膜厚、視感度透過率、玉摺り加工性、玉摺り加工後の保護膜の状態、および、玉摺り加工後のレンズロックキャップ保持性を評価した。
その結果、比較例2のサンプルレンズは、保護膜の膜厚、視感度透過率および玉摺り加工性については、問題ないことを確認できた。
また、サンプルレンズ1およびサンプルレンズ2の玉摺り加工後の軸ずれ量は、ともに1度以下であった。
また、サンプルレンズ1およびサンプルレンズ2の玉摺り加工後も、保護膜はレンズの表面にほとんど密着した状態であり、レンズロックキャップの保持状態も良好であった。
しかしながら、コーティング液Eの2ヶ月保管後の粘度上昇率は100%以上であり、コーティング液Eの安定性に問題があった。
保護膜の膜厚、視感度透過率、玉摺り加工性、玉摺り加工後の保護膜の状態、および、玉摺り加工後のレンズロックキャップ保持性の評価結果を表2に示した。
【0071】
「比較例3」
コーティング液Fを用いた以外は実施例1と同様にして、膜厚測定用サンプルレンズ、視感度透過率測定用サンプルレンズおよび玉摺り加工用サンプルレンズを作製した。
これらのサンプルレンズについて、実施例1と同様にして、保護膜の膜厚、視感度透過率、玉摺り加工性、玉摺り加工後の保護膜の状態、および、玉摺り加工後のレンズロックキャップ保持性を評価した。
その結果、比較例3のサンプルレンズは、保護膜の膜厚および視感度透過率については、問題ないことを確認できた。
しかしながら、玉摺り加工用サンプルレンズを作製するために、サンプルレンズ1およびサンプルレンズ2の表面に、コーティング液Fを塗布したところ、塗膜が乾燥するにつれて剥がれ始め、数分後には塗膜が全面剥離した。
また、コーティング液Fの2ヶ月保管後の粘度上昇率は200%以上であり、コーティング液Fの安定性に問題があった。
【0072】
【表2】

【符号の説明】
【0073】
10・・・眼鏡用レンズ、11・・・レンズ基材、12,13・・・撥油性コート膜、14・・・保護膜、30・・・眼鏡用レンズ、31・・・レンズ基材、32,33・・・反射防止膜、34,35・・・撥油性コート膜、36・・・保護膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材と、該レンズ基材の少なくとも一面側に成膜された撥油性コート膜と、該撥油性コート膜上に形成された保護膜と、を備えた眼鏡用レンズであって、
前記保護膜は、(a)有機化化合物からなる樹脂、(b)無機酸化物微粒子、および、(c)一般式:RSi(OR4−(a+b)で表される有機ケイ素化合物またはその加水分解物を有効成分として含有するコーティング液によって形成されてなり、
前記(a)有機化合物からなる樹脂と前記(b)無機酸化物微粒子の組成比は、85/15〜40/60(質量比)であり、
前記(c)一般式:RSi(OR4−(a+b)で表される有機ケイ素化合物またはその加水分解物の含有量は、前記コーティング液に含まれる全固形分の1質量%〜40質量%であることを特徴とする眼鏡用レンズ。
(但し、上記の一般式中、Rは官能基または不飽和二重結合を有する炭素数4〜14の有機基であり、Rは炭素数1〜6の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシアルキル基またはアシル基であり、aおよびbはそれぞれ0または1であり、a+bは0、1または2である。)
【請求項2】
前記レンズ基材の少なくとも一面に反射防止膜が成膜されたことを特徴とする請求項1に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項3】
前記有機化合物からなる樹脂は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース系重合体、ポリアルキレンオキシド重合体、ポリ酢酸ビニル重合体、スチレン/メタクリル酸エステル共重合体を主成分とした樹脂の1種以上からなることを特徴とする請求項1に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項4】
前記有機化合物からなる樹脂は、ポリビニルアセタール樹脂を主成分とした樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項5】
前記無機酸化物微粒子の平均粒子径は100nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項6】
前記無機酸化物微粒子は、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In、Ti、Nbのうちのいずれかの酸化物、または、これらの酸化物の2種類以上から構成される複合酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項7】
前記無機酸化物微粒子は、SiO、または、SiOを含む2種類以上から構成される複合酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の眼鏡用レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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