説明

眼鏡用複合金属材料

【課題】 曲げ・捩りの外力に対し剛わ過ぎず嫋やか過ぎず、眼鏡の金属材料として理想的な復元弾性と形態安定性を発揮し得る理想的な眼鏡用複合金属材料を安価に提供する。【解決手段】 芯層金属層の両面に皮層金属層を冶金的に層着して製される3層クラッド複合材であって、芯層を構成する金属としては所定の硬化温度で熱処理することにより所要の硬度に硬化する材料手段を採用する一方、皮層を構成する金属としては前記硬化温度の熱処理では硬化しない材料手段を採用することによって、熱処理を施したとき硬化した芯層金属と硬化しない皮層金属とが硬軟互いに補完的調和して眼鏡枠に適した復元弾性と形態安定性を呈するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡用金属材料の改良、詳しくは、硬化処理により目標の硬度に硬化させることができる金属と、その硬化温度では硬化しない金属とを巧みに組み合わせて“曲げ”や“捩り”の外力に対し剛わ過ぎず嫋やか過ぎず、眼鏡の金属材料として理想的な復元弾性と形態安定性を発揮し得る眼鏡用複合金属材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、眼鏡は視覚を正常に保つために不可欠の生活用品であるが、掛け外しの際や眼鏡の掛け位置の調節の際、あるいはスポーツ等の運動時に細く小さな部分に大きな外力を受け、変形したり破損したりする頻度が高い。このようなことから、特に眼鏡用の金属材料には外力が加わっても塑性変形せず、かつ、その際に眼鏡装用者に怪我や痛みを与えることなく靱やかに弾性変形して直ちに元の適合形態に復元する物性が求められる。
【0003】
最近、眼鏡用の金属材料にニッケル−チタン系超弾性合金や形状記憶合金を用いたり、純チタン、βチタン、あるいはチタン合金が頻用されるようになってきたのも、眼鏡用の金属材料に前述の物性が求められているからである。ところが、前者のニッケル−チタン系超弾性・形状記憶合金にしても後者のチタン系金属材料にしても、異種金属との接合に技術的困難性が伴うのに加え、メッキや塗装、部分的な形態調整などの後処理も頗る困難であって、簡単な設備では加工できないのが実情であった。
【0004】
また、前者のニッケル−チタン系超弾性・形状記憶合金や後者のチタン系金属を眼鏡用材料に用いた場合、なるほど、外力を受けて変形した際に元の形状に復する弾力性は非常に良好なのであるが、素材自体が嫋やか過ぎるため、例えば、大口径の大型レンズや度数が強くて重量の重いレンズを保持するのには剛性が足りなくて使用に耐えず、用途に制限がある。換言すると、眼鏡用の金属材料には、如何なるレンズでも安定に保持し得る適度の剛性と靱やかな弾性との調和が必要なのである。
【0005】
ところで、本件出願人は以前、少なくとも二種以上の金属を、冶金的に重層一体化して眼鏡材に成形した“積層クラッド構造のハイブリット眼鏡材”を開発し特許出願を行っている(特許文献1:段落[0001]、図1参照)。しかして、このものはメタルフレーム眼鏡の各部各部に必要とされる物性・機能を備え、しかも異種金属の積層模様を利用した独特のデザイン性に富んだ眼鏡材(眼鏡部品材料)を提供しようするものである。本発明は、特許文献1記載の発明とは異なって、眼鏡の金属材料に要求される物性を剛性と靱やかな弾性との調和に特化させようとするものであり、共に金属のクラッド技術を利用している点において共通性が認められる。
【特許文献1】特願2003−138795
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
即ち、本発明は、従来のニッケル−チタン系超弾性・形状記憶性合金材料やチタン系の金属のごとき単一素材から成る眼鏡用金属材料に前述のごとき難点があったことに鑑みて為されたものであり、“曲げ”や“捩り”の外力に対し剛わ過ぎず嫋やか過ぎず、眼鏡の金属材料として理想的な復元弾性と形態安定性を発揮し得る理想的な眼鏡用複合金属材料を安価に提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明の他の目的は、芯層および皮層を構成すべき金属材料を取捨選択することによって製作しようとする眼鏡に必要とされる物性を任意に設計して製造することができる合目的的な眼鏡用複合金属材料を提供するにある。
【0008】
さらに、本発明の他の目的は、復元弾性と形態安定性に優れるだけでなく、メッキ加工やロウ付加工などの後加工にも有利な眼鏡用複合金属材料を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者が上記の技術的課題を解決するために採用した手段を添附図面を参照して説明すれば、次のとおりである。
【0010】
即ち、本発明は、芯層用金属板の両面に皮層用金属板を冶金的に層着して構成された3層クラッド複合材Cであって、芯層Aを構成する金属としては所定の硬化温度で熱処理することにより所要の硬度に硬化する材料手段を採用する一方、皮層B・Bを構成する金属としては前記硬化温度の熱処理では硬化しない材料手段を採用することにより、熱処理を施したとき硬化した芯層金属と硬化しない皮層金属とが硬軟互いに補完的調和して眼鏡に適した復元弾性と形態安定性を呈するように構成した点に特徴がある。
【0011】
しかして、本発明においては、所定の硬化温度で熱処理することによって所要の硬度に硬化する金属材料としては、高炭素含有マルテンサイト系ステンレス鋼やチタン合金を採択することが可能であり、
前記高炭素含有マルテンサイト系ステンレス鋼の硬化温度では硬化しない金属材料としては、低炭素含有マルテンサイトステンレス鋼、又はフェライト系ステンレス鋼、若しくはオーステナイト系ステンレス鋼が採択可能であり、
また、前記チタン合金の硬化温度では硬化しない金属材料としては、純チタンを採用することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明においては、3層クラッド複合材における芯層部と皮層部を構成する金属材料として、所定の硬化温度で熱処理することにより所要の硬度に硬化する金属材料と、その硬化温度による熱処理によっては硬化しない金属材料とを組み合わせ、硬化した金属と硬化しない金属とを硬軟互いに補完的に巧みに調和させることによって眼鏡に適した理想的物性を発揮させることができるので、“曲げ”や“捩り”の外力に対し剛わ過ぎず嫋やか過ぎず、眼鏡の金属材料として理想的な復元弾性と形態安定性を発揮し得る理想的な眼鏡用複合金属材料を安価に提供することが可能である。
【0013】
また、本発明においては、芯層および皮層を構成すべき金属材料を自由に取捨選択することができるので、製作目的の眼鏡に求められる物性を任意に設計して提供することが可能である。
【0014】
そしてまた、本発明によれば、復元弾性と形態安定性に優れるだけでなく、皮層を構成する金属の選択範囲も広いので、メッキ加工やロウ付加工などの後加工を施す場合にも、非常に有利な眼鏡用複合金属材料を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態を例示して、本発明の具体的内容を更に詳しく説明してゆくものとする。
【実施例】
【0016】
熱処理することによって硬化する高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼(商品名=武生特殊鋼材製・V金2号/組成:C 06〜0.7wt%, Cr13〜15wt%, Mo 0.1 〜0.2 wt%,残部 Fe および不可避的不純物) を芯層A用の金属板材とし、この芯層A用の金属板材の両面に、前記硬化温度によっては硬化しない低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS 410)を皮層B・B用の金属板材B・Bを積層し、これらを圧延加工によって冶金的に層着一体化して厚さ 1.8mm(芯層金属の厚さ:0.5mm)の3層クラッド複合材Cを作製し、この3層クラッド複合材を打抜き加工することによって眼鏡のフロントフレーム素型Fとテンプル素型Tとを得た。
【0017】
こうして得られた前記フロントフレーム素型Fをプレス成形後、温度 1100 ℃、焼戻温度 250℃を施したところ、当該フロントフレームFの芯層Aは硬度がHv 540〜550,皮層B・Bは硬度がHv 240〜250 が測定された。しかる後、プレス加工を施すことによって当該フロントフレームFに目部の顔面形状に相応する弯曲カーブを付与し、さらに左右両側部にブラケット智1・1、中央部の顔面側にはパッド足2・2をロウ付し、さらに前記ブラケット智1・1にはテンプルTをヒンジ連結させることによって眼鏡枠Gができ上った。そこで、この眼鏡枠Gと従来の同等品とを比較するために双方に“曲げ""捩り”に外力を付加してみたところ、前者の眼鏡枠Gが優れた剛性を呈した。
【産業上の利用可能性】
【0018】
以上説明したところから明らかなとおり、本発明を適用して得られる眼鏡用複合金属材料は、“曲げ”や“捩り”の外力に対し剛わ過ぎず嫋やか過ぎず、眼鏡の金属材料として理想的な復元弾性と形態安定性とを確実に発揮しできるので、金属製眼鏡フレームの品質向上に大いに寄与しすることができ、その産業上の利用価値は頗る大きい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を適用して得られる眼鏡用金属材料の構成例を表わす断面図である。
【図2】本発明を適用して得られる眼鏡枠の製造工程を略示した説明図である。
【図3】本発明の実施例で得たフロントフレーム素型の斜視図である。
【図4】本発明の実施例で得たテンプル素型の斜視図である。
【符号の説明】
【0020】
1 ブラケット智
2 パッド足
A 芯層
B 皮層
C 3層クラッド複合材
G 眼鏡枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯層用金属板の両面に皮層用金属板を冶金的に層着して構成された3層クラッド複合材であって、芯層を構成する金属は所定の硬化温度で熱処理することにより所要の硬度に硬化する一方、皮層を構成する金属は前記硬化温度の熱処理では硬化せず、硬化した芯層金属と硬化しない皮層金属とが硬軟互いに補完調和して眼鏡に適した復元弾性と形態安定性を呈することを特徴とする眼鏡用複合材料。
【請求項2】
3層クラッド複合材の芯層は高炭素含有マルテンサイト系ステンレス鋼により構成されている一方、この高炭素含有マルテンサイト系ステンレス鋼の硬化温度では硬化しない金属材としては低炭素含有マルテンサイトステンレス鋼、又はフェライト系ステンレス鋼、若しくはオーステナイト系ステンレス鋼が当該3層クラッド複合材の皮層又は芯層を構成して冶金的に層着一体化されており、前記高炭素含有マルテンサイト系ステンレス鋼の硬化温度により熱処理することにより当該芯層の硬度はHv 550以上、皮層の硬度はHv 250以下を呈することを特徴とする請求項1記載の、眼鏡用複合金属材料。
【請求項3】
3層クラッド複合材の芯層はチタン合金によって構成されている一方、このチタン合金の硬化温度では硬化しない金属材としては純チタンが当該3層クラッド複合材の皮層を構成して冶金的に接合一体化されており、前記チタン合金の硬化温度で熱処理することにより前記芯層の硬度はHv 500以上、皮層の硬度はHv 250以下を呈することを特徴とする請求項1記載の眼鏡用複合金属材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−84980(P2006−84980A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271619(P2004−271619)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000238348)武生特殊鋼材株式会社 (5)
【Fターム(参考)】