説明

着岸誘導システム及び着岸誘導装置

【課題】大きさや種類の異なる船舶毎に誘導設備を用意する必要がなく、入港する船舶の大きさや種類が増えても誘導設備を追加設置することなく対応することができる着岸誘導システム及び着岸誘導装置を提供する。
【解決手段】着岸誘導装置10が、横長方形の表示画面1aを有し、表示画面が海側に向けて配置され、表示画面にその横長の範囲で位置が変化される可変誘導柱11が表示される誘導表示盤1と、表示画面の前面中央に画面表面から所定距離離間されて配置される固定誘導柱2とを備える。表示画面に表示される可変誘導柱は、港湾岸壁の所定の場所に船舶の所定の位置が接岸された状態で、固定誘導柱と重なって当該船舶上の所定の位置から視認されない位置に表示される。管理装置20が備える柱表示情報生成手段が、表示画面に可変誘導柱を表示させるための柱表示情報を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は着岸誘導システム及び着岸誘導装置に係り、より詳細には、船舶の所定の位置を港湾岸壁の所定の場所に接岸すべく誘導する着岸誘導システム及び着岸誘導システムを構成する着岸誘導装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在港湾に入港した船舶の所定の位置を岸壁の所定の場所に接岸させるための誘導設備として、大きさや種類の異なる船舶毎に2〜3枚の三角形の導標を1組にして多数組の導標が岸壁に設置されている。一般に船橋(操舵室)である船舶上の所定位置からパイロット(水先案内人)が見て各組の導標の三角形の頂点が一致するように船舶が接岸されることにより、船舶の所定の位置が港湾岸壁の所定の場所に接岸されて、その後に続く荷揚げ作業を容易にしている。
【0003】
なお、三角形の導標について直接言及していないが、導標の原理について記述した文献が存在する(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】社団法人燈光会、昭和62年8月28日発行、坪鬱紀幸、尾原昭一郎編、航路標識基礎理論(光学編・音響学編)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、バラ積み貨物船のような船舶を岸壁に接岸する場合、岸壁に隣接して設けられた荷卸し・荷積み設備の場所に対応する所定の場所に、荷卸し・荷積みのためのハッチのある船舶の所定の位置を接岸する必要がある。このため、上述した従来の導標では、大きさや種類の異なる船舶毎にその船舶に適した位置に設置されることが必要になり、入港する船舶の大きさや種類が増えるに度に新規の導標を新たに追加設置する必要があった。また、将来の追加設置に備えて建物などが建っていない広大な敷地も必要であった。
【0006】
そして、導標の数が増えると、接岸しようとする船舶は、どの導標に合わせて操船したらよいか判定が困難になり、思わぬ事故の原因となる可能性が増大する。
【0007】
しかも、導標は、三角形の単なる板であるので、遠方から視認することが困難である他、夜間や霧の掛かっている場合などにも視認が困難である。なお、夜間でも視認できるように灯火によって構成された導灯と呼ばれるものもあるが、前者の問題については、導標と同様に有するものとなっている。
【0008】
よって本発明は、上述した現状に鑑み、大きさや種類の異なる船舶毎に誘導設備を用意する必要がなく、入港する船舶の大きさや種類が増えても誘導設備を追加設置することなく対応することができる着岸誘導システム及び着岸誘導装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた請求項1に係る着岸誘導システムは、港湾岸壁の所定の場所に船舶の所定の位置を接岸すべく誘導する着岸誘導システムであって、横長方形の表示画面を有し、前記表示画面が海側に向けて配置され、前記表示画面にその横長の範囲で位置が変化される可変誘導柱が表示される誘導表示盤と、該誘導表示盤の前記表示画面の前面中央に画面表面から所定距離離間されて配置される固定誘導柱とを備え、前記誘導表示盤の前記表示画面に表示される前記可変誘導柱は、港湾岸壁の所定の場所に船舶の所定の位置が接岸された状態で、当該船舶上の所定の位置から視認したとき前記固定誘導柱と重なって視認されない位置に表示される着岸誘導装置と、港湾岸壁の所定の場所に接岸すべく誘導しようとする船舶の前記所定の位置と、前記表示画面に表示される前記可変誘導柱を視認する当該船舶上の前記所定の位置とに基づいて、前記表示画面に前記可変誘導柱を表示させるための表示情報を生成する表示情報生成手段を備える管理装置ととを具備することを特徴とする。
【0010】
請求項1記載の発明によれば、着岸誘導装置が誘導表示盤と固定誘導柱を備える。誘導表示盤は、横長方形の表示画面を有し、表示画面が海側に向けて配置され、表示画面にその横長の範囲で位置が変化される可変誘導柱が表示される。固定誘導柱は、誘導表示盤の表示画面の前面中央に画面表面から所定距離離間されて配置される。誘導表示盤の表示画面に表示される可変誘導柱は、港湾岸壁の所定の場所に船舶の所定の位置が接岸された状態で、当該船舶上の所定の位置から視認したとき固定誘導柱と重なって視認されない位置に表示される。管理装置が備える表示情報を生成する表示情報生成手段が、港湾岸壁の所定の場所に接岸すべく誘導しようとする船舶の所定の位置と、表示画面に表示される可変誘導柱を視認する当該船舶上の所定の位置とに基づいて、表示画面に可変誘導柱を表示させるための表示情報を生成する。
【0011】
したがって、港湾岸壁の所定の場所に接岸すべく誘導しようとする船舶の所定の位置と、表示画面に表示される可変誘導柱を視認する当該船舶上の所定の位置とが船舶の大きさや種類によって異なる場合であっても、港湾岸壁の所定の場所に接岸すべく誘導しようとする船舶の所定の位置と、表示画面に表示される可変誘導柱を視認する当該船舶上の所定の位置とに基づいて生成された可変誘導柱が誘導表示盤の表示画面に表示されることによって、当該表示された可変誘導柱が船舶上の所定の位置から視認したとき固定誘導柱と重なって視認されないように船舶が誘導されることにより、港湾岸壁の所定の場所に船舶の所定の位置が接岸されるようになる。
【0012】
請求項2に係る着岸誘導システムは、請求項1記載の着岸誘導システムにおいて、前記表示画面は、自発光式の表示素子がドットマトリックス状に配列されて形成され、前記固定誘導柱は、柱に沿って発光素子が埋め込まれて形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、表示画面が自発光式の表示素子がドットマトリックス状に配列されて形成され、固定誘導柱が柱に沿って発光素子が埋め込まれて形成されているので、表示画面に表示された可変誘導柱と固定誘導柱がともに自発光することになり、視認性が高まり、周囲が暗くても視認可能である。
【0014】
請求項3に係る着岸誘導システムは、請求項1又は2記載の着岸誘導システムにおいて、前記誘導表示盤の前記表示画面は、誘導しようとする船舶上の前記所定の位置から視認したとき前記固定誘導柱が少なくとも前記表示画面と重なって視認されるまで、当該船舶の操船方向を指示する操船指示を表示し、前記管理装置は、前記表示画面に前記操船指示を表示させるための操船指示表示情報を生成することを特徴とする。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、誘導表示盤の表示画面には、誘導しようとする船舶上の所定の位置から視認したとき固定誘導柱が少なくとも表示画面と重なって視認されるまで、管理装置が生成する操船指示表示情報により、当該船舶の操船方向を指示する操船指示が表示されるので、港湾岸壁の所定の場所に接岸すべく誘導しようとする船舶を可変誘導柱と固定誘導柱とによる誘導範囲内に効率よく導くことができる。
【0016】
請求項4に係る着岸誘導装置は、港湾岸壁の所定の場所に船舶の所定の位置を接岸すべく誘導する着岸誘導システムを柱表示情報生成手段を備える管理装置とともに構成する着岸誘導装置であって、横長方形の表示画面を有し、前記表示画面が海側に向けて配置され、前記表示画面にその横長の範囲で位置が変化される可変誘導柱が表示される誘導表示盤と、該誘導表示盤の前記表示画面の前面中央に画面表面から所定距離離間されて配置される誘導柱とを備え、前記誘導表示盤の前記表示画面に表示される前記可変誘導柱は、港湾岸壁の所定の場所に船舶の所定の位置が接岸された状態で、当該船舶上の所定の位置から視認したとき前記固定誘導柱と重なって視認されない位置に表示され、前記表示画面に前記可変誘導柱を表示させるための柱表示情報は、前記管理装置が備える前記柱表示情報生成手段が、港湾岸壁の所定の場所に接岸すべく誘導しようとする船舶の所定の位置と、前記表示画面に表示される前記可変誘導柱を視認する当該船舶上の前記所定の位置とに基づいて生成することを特徴とする。
【0017】
請求項4記載の発明によれば、着岸誘導装置が誘導表示盤と固定誘導柱を備える。誘導表示盤は、横長方形の表示画面を有し、表示画面が海側に向けて配置され、表示画面にその横長の範囲で位置が変化される可変誘導柱が表示される。固定誘導柱は、誘導表示盤の表示画面の前面中央に画面表面から所定距離離間されて配置される。誘導表示盤の表示画面に表示される可変誘導柱は、港湾岸壁の所定の場所に船舶の所定の位置が接岸された状態で、当該船舶上の所定の位置から視認したとき固定誘導柱と重なって視認されない位置に表示される。しかも、表示画面に可変誘導柱を表示させるための柱表示情報は、管理装置が備える柱表示情報生成手段が、港湾岸壁の所定の場所に接岸すべく誘導しようとする船舶の所定の位置と、前記表示画面に表示される前記可変誘導柱を視認する当該船舶上の前記所定の位置とに基づいて生成されるものである。
【0018】
したがって、港湾岸壁の所定の場所に接岸すべく誘導しようとする船舶の所定の位置と、表示画面に表示される可変誘導柱を視認する当該船舶上の所定の位置とが船舶の大きさや種類によって異なる場合であっても、港湾岸壁の所定の場所に接岸すべく誘導しようとする船舶の所定の位置と、表示画面に表示される可変誘導柱を視認する当該船舶上の所定の位置とに基づいて生成された可変誘導柱が誘導表示盤の表示画面に表示されることによって、当該表示された可変誘導柱が船舶上の所定の位置から視認したとき固定誘導柱と重なって視認されないように船舶が誘導されることにより、港湾岸壁の所定の場所に船舶の所定の位置が接岸されるようになる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1又は4記載の発明によれば、港湾岸壁の所定の場所に接岸すべく誘導しようとする船舶の所定の位置と、表示画面に表示される可変誘導柱を視認する当該船舶上の所定の位置とが船舶の大きさや種類によって異なる場合であっても、港湾岸壁の所定の場所に接岸すべく誘導しようとする船舶の所定の位置と、表示画面に表示される可変誘導柱を視認する当該船舶上の所定の位置とに基づいて生成された可変誘導柱が誘導表示盤の表示画面に表示されることによって、当該表示された可変誘導柱が船舶上の所定の位置から視認したとき固定誘導柱と重なって視認されないように船舶が誘導されることにより、港湾岸壁の所定の場所に船舶の所定の位置が接岸されるようになるので、大きさや種類の異なる船舶毎に誘導設備を用意する必要がなく、入港する船舶の大きさや種類が増えても誘導設備を追加設置することなく対応することができる着岸誘導システム及び着岸誘導装置を提供することができる。
【0020】
請求項2記載の発明によれば、表示画面に表示された可変誘導柱と固定誘導柱がともに自発光することになり、視認性が高まり、周囲が暗くても視認可能であるので、遠方から視認することも容易であるとともに、夜間や霧の掛かっている場合などにも視認できなくなることがない。
【0021】
請求項3記載の発明によれば、港湾岸壁の所定の場所に接岸すべく誘導しようとする船舶を可変誘導柱と固定誘導柱とによる誘導範囲内に効率よく導くことができるので、船舶の所定の位置を港湾岸壁の所定の場所に接岸するための時間を短縮でき、用船の効率アップに寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る着岸誘導システムの全体構成を示す概略構成図である。
【図2】本発明の着岸誘導システムに使用される誘導表示盤と誘導柱と具体的構造を示す斜視図である。
【図3】本発明の着岸誘導システムに使用される管理装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】図2中の誘導表示盤に表示されるマークの一表示例を示する斜視図である。
【図5】図2中の誘導表示盤に表示されるマークの他の表示例を示する斜視図である。
【図6】図2中の誘導表示盤に表示されるマークの別の表示例を示する斜視図である。
【図7】本発明の着岸誘導システムによる誘導手順の概要を説明するための説明図である。
【図8】図7に示す手順で誘導したときの固定誘導柱と誘導表示盤の可変誘導柱との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明に係る着岸誘導システムの全体構成の概略を示す。
【0024】
同図において、着岸誘導システムは、誘導表示盤1と固定誘導柱2とを有する着岸誘導装置10と管理装置20とを備える。着岸誘導装置は、船舶3が接岸される岸壁4から適当な距離離れた地上に配置される。管理装置20は港湾管理センタ5内に設置され、着岸誘導装置10と例えば通信ケーブル30にて接続されて、着岸誘導装置10を制御・管理する。着岸誘導装置10の誘導表示盤1には、着岸誘導装置10が受け持つ誘導海域6に入った船舶7の船橋(操舵室)7aから見たとき、船舶の所定の位置7bを誘導海域内の岸壁、すなわち、誘導岸壁4aの所定の場所4bに接岸できるように誘導するための表示が管理装置20の管理のものとで行われる。
【0025】
なお、船舶の所定の位置7b及び岸壁の所定の場所4bは、例えば、バラ積み貨物船の場合には、船舶の所定の位置7bは荷卸し・荷積みのためのハッチ7cに隣接した船腹位置、及び、ハッチ7cを介して荷卸し・荷積みするための地上側のアンローダーのような設備が設けられた場所であり、船舶の所定の位置7bと船橋(操舵室)7aの関係、すなわち、接岸すべき船舶の所定の位置7bと誘導表示盤1を見る船舶7の船橋7aの位置との関係は、船舶7の大きさや種類によって異なる。
【0026】
船舶から見て奥にある誘導表示盤1は、図2に示されるように、横長方形の表示画面1aを有し、表示画面1aが海側に向けられてその長辺が水平になるように枠体1bに支持されて配置されている。表示画面1aは、例えば多数の高輝度LED(発光ダイオード)のような自発光素子をドットマトリックス状に配列して構成されている。そして、ドットマトリックス状に配列されたLEDが選択的に点灯されることにより、表示画面1aには、固定誘導柱2の直径と同じ幅を有し、表示画面1aの上下縁間に上下方向に延びる帯状にLEDが点灯されることにより可変誘導柱11が表示される。表示画面1aにおける可変誘導柱11の表示位置は、岸壁の接岸場所と、船舶の接岸位置及び船舶からの可変誘導柱11の視認位置である船橋位置との関係とにより定められており、管理装置20に船舶毎に予め登録されている。その詳細は後述する。
【0027】
船舶から見て誘導表示盤1の手前にある固定誘導柱2は、見る位置によって太さが変化しない円柱状に形成されており、誘導表示盤1の表示画面1aの前面中央に、表示画面1aの表面から一定距離離間された位置に、その一端が地面に固定されて垂直に配置されている。固定誘導柱2は、海側から見たとき誘導表示盤1の表示画面1aの上下辺と交差する長さを有する。
【0028】
したがって、パイロットが船舶の船橋から固定誘導柱2と誘導表示盤1の表示画面1aの可変誘導柱11をともに見たとき、固定誘導柱2に隠れて可変誘導柱11が見えなくなるように操船することによって、船舶が指示された所定位置に接岸される。
【0029】
また、表示画面1aに表示される可変誘導柱11の発光光度は周囲環境に見合った明るさに自動又は手動で調整できる。また、表示画面1aには、可変誘導柱11の絵やマークの他、文字も表示可能である。表示画面1aに表示されたマークや文字によって、管理装置20を操作する港湾管理者から船舶への操船指示を行うこともできるようになっている。そして、固定誘導柱2には、周囲が暗い夜間でも視認できるように、点灯によって高輝度発光するLED(図示せず)が埋め込まれている。したがって、夜間に発光させることにより、夜間の船舶誘導も可能である。
【0030】
管理装置20は、図3に示すように、岸壁を含む監視海域内に存在する船舶と、操船指示領域及び誘導領域とを表示する大画面のモニタ21と、モニタの表示を制御するモニタ表示制御手段の他、誘導表示盤1の表示画面1aの所定位置に可変誘導柱11を表示させるための柱表示情報を生成する柱表示情報生成手段として機能するとともに、生成した柱表示情報などを誘導表示盤1に通信ケーブル30を介して伝送する伝送手段として機能するパソコンなどからなる制御部22と、誘導する船舶との通話を行う無線装置23と、モニタ表示制御及び柱表示情報生成のために、海図情報及び船舶情報を格納したデータ格納部24とを備え、制御部22にはAIS海域監視システム25にリンクされている。
【0031】
AIS海域監視システム25は、2008年7月1日より全世界で義務化されているAIS(Automatic Identification System:船舶自動識別装置)を搭載した海上航行船舶の地上での自動識別を可能とし、地上から海上船舶に情報提供を可能とする中央監視センタに設置されたものである。
【0032】
詳細には、AIS海域監視システム25は、船舶のAIS局からのAIS情報に基づいて、船舶固有番号、船名、船種、船体長等の船舶の静的情報,目的地,到着予定時刻や使用バース等の船舶の入出域情報などの航行関連情報、位置情報,針路,速力などの動的情報を入手しており、また、データ格納部24に格納されていない船舶情報を入手するために利用可能な例えばロイド社などが提供している既存の船舶データベースを備えている。
【0033】
したがって、制御部22は、AIS海域監視システム25から必要な情報を入手し、入手した情報に基づいて監視海域内の海図に重ねて船舶の現在位置とその進行方向をモニタ21の画面上にシンボル表示することができる。また、制御部22は、監視領域内の船舶の船舶固有番号に基づいてデータ格納部24を検索することによって、誘導しようとしている各船舶の大きさ(全長)、操舵室の位置や接岸(ハッチ)位置などの船舶に関する詳細情報を入手し、この情報に基づいて誘導表示盤1の表示画面1aに可変誘導柱11を表示するための柱表示情報や、船舶の操船方向を指示する操船指示を表示する操船指示情報を生成し、生成した柱表示情報を誘導表示盤1に通信ケーブル30を介して送信することができる。
【0034】
なお、誘導表示盤1は、その表示画面11aの横幅Wが例えば2.5m、縦高さHが例えば1mの横長方形の面に、高輝度LEDが1cmピッチでドットマトリックス状に配列されて形成され、岸壁4から例えば90m程度の距離D離れた場所の船舶7から視認可能な高さ位置に設置される。誘導海域6は、例えば50mの誘導岸壁4aの長さLと、表示画面1aに表示された可変誘導柱11を固定誘導柱2と重ねて視認する例えば±20度の最大重畳視野角(Viewing angle)を示す直線とによって囲まれる海域である。誘導海域6は監視海域の一部であり、誘導海域6の外側には、最大重畳視野角度より広い例えば±40度の最大視認視野角を示す直線で囲まれた、誘導表示盤1の表示画面1aに行われた表示の視認可能な操船指示海域8が存在する。固定誘導柱2は最大視野角を示す直線の交点に設置される。
【0035】
続いて、管理装置20に船舶毎に予め登録される表示画面1aにおける可変誘導柱11の表示位置について、具体的に説明する。上述したように、岸壁の接岸場所と、船舶の接岸位置及び船舶からの可変誘導柱11の視認位置である船橋位置との関係とにより定められるが、接岸すべき船舶の所定の位置7bと誘導表示盤1を見る船舶7の船橋7aの位置との関係は、船舶7の大きさや種類によって異なるので、図1に示すように、岸壁4の所定の場所4bと船舶7の所定の位置7cを一致させた状態で、両位置の差LD分移動した位置で見たとき表示画面1aの可変誘導柱11が固定誘導柱2に隠れる表示画面1aの位置に可変誘導柱11を表示すればよい。そして、管理装置20の制御部22は、誘導すべき船舶7の情報をリンクされたAIS海域監視システム25から入手し、この入手した船舶情報に基づいてデータ格納部24を検索して、データ格納部24に格納された表示位置情報を得て、柱表示情報を生成して誘導表示盤1に伝送する。また、制御部22はデータ格納部24にデータが格納されていない船舶を誘導する必要が生じたときには、AIS海域監視システム25が有するデータベースから当該船舶の船舶情報を入手して、上記差LDを求めて、当該船舶に付いての柱表示位置情報を生成するとともに、当該生成した柱表示情報をデータ格納部24に新たな情報として登録することで更新される。
【0036】
さらに、AIS海域監視システム25のデータベースに情報がない場合や十分でない場合には、船舶運航会社などから入手した船舶情報を制御部22に付随しているキーボード(図示せず)を用いて管理装置20のデータ格納部24に新たな情報として登録することで更新される。同様に、船舶の改修により船舶情報に変更が生じた場合には、管理装置20のデータ格納部24に登録されている情報はキーボードを用いて修正登録することができる。
【0037】
以上の構成によって、誘導岸壁4aに対する船舶7の誘導は、表示場面1aに表示される可変誘導柱11の表示位置をLED1ピッチ移動することによって、例えば50mの誘導岸壁4aに対して例えば30cmの精度で行うことができる。このとき、可変誘導柱11は、表示画面1aの中心から左右に100ピッチの範囲まで1ピッチずつ移動して表示されるので、可変誘導柱11が5ピッチ分のLEDで表示されるとすると、可変誘導柱11の表示に使用されない195ピッチ分のLEDが表示画面に存在することになり、これらを使用して可変誘導柱11以外の例えば図4〜図6に示すような表示が行える。
【0038】
なお、図4及び図5の表示は可変誘導柱11の他に三角マーク12を重畳表示したもので、この表示によって、舵を右側に切るように指示し、誘導海域6外にある船舶を誘導海域6に入るように指示することができる。また、図5の表示は可変誘導柱11の他に横一線13を重畳表示したもので、この表示によって、舵を中央に戻すことを指示することができる。
【0039】
上述した着岸誘導システムの誘導表示盤1を利用することによって、監視海域の操船指示海域8内の船舶に対して操船指示表示を行って誘導海域6内に導き、誘導海域6に入った船舶を岸壁の所定の位置に誘導する手順を図7及び図8を参照して以下説明する。
【0040】
例えば図7に示すように、誘導海域6外の操船指示海域8のイ位置に船舶7があるときには、固定誘導柱2は誘導表示盤1の表示画面1aに表示される可変誘導柱11とが重なる、誘導表示盤1と固定誘導柱2とを組とした有効範囲内にないことになる。したがって、誘導表示盤1単体による船舶操船指示装置として働くように、図4に示したように、可変誘導柱11に三角マークを重畳表示したり、図5に示すように、可変誘導柱11と三角マークを同時表示して舵を右側に切るように指示する。この指示に従って操船した船舶が操船指示海域8のロ位置に至ると、舵を戻さないと船舶がその海域で回転してしまうので、図6に示したように、可変誘導柱11に横一線を重畳表示して舵を中央に戻すことを指示する。
【0041】
図7に示すように、船舶が誘導海域6内のハ位置に至ると、図4の矢印を消すことにより図8(a)に示す表示を行う。図7中のハ位置では、船舶7と岸壁4の所定の場所4bとは大きく離れているので、図8(a)に示されるように表示画面1aの可変誘導柱11と固定誘導柱2とは重ならず大きく離れて見える。この場合、船舶は左側から浸入するので可変誘導柱11は固定誘導柱2に対して左側に見える。船舶7が所定の位置4bに近づきニ位置に至ると、図8(b)に示すように、表示画面1aの可変誘導柱11の一部が固定誘導柱2に隠れて見えるようになる。行きすぎると、図8(c)に示すように固定誘導柱2の反対側に可変誘導柱11の一部が出現するようになる。ここで、船舶を後退させて、固定誘導柱2に可変誘導柱11が隠れるように操船することになる。船舶所定の位置が岸壁の所定の場所に接岸するホ位置に接岸すると、図8(d)に示すように、表示画面1aの可変誘導柱(図示せず)が全て固定誘導柱2により隠されるので、船舶が正し位置に接岸したことが分かる。
【0042】
上述したように、着岸誘導システムの誘導表示盤1の表示画面1aが高輝度LEDを用いて構成されているので、LEDの点灯によって、船舶が誘導海域6に入る以前の遠方から船舶を向ける方向が容易に認識できる。誘導海域6に入った後は、誘導表示盤1の表示画面1aに表示されるマークなどに従って操船すれば安全に岸壁の所定の接岸場所に船舶を近づけることができる。接岸後は、従来の導標と同じように誘導表示盤1の表示画面1aに表示された可変誘導柱11と固定誘導柱2を見ながら船舶位置を前後に調整することにより船舶を岸壁4の所定の場所に停泊させることができる。誘導表示盤1の表示画面1a上に表示する可変誘導柱の位置を船舶の種類や大きさに合わせて変えることにより、所定の誘導範囲に1組の誘導表示盤1と固定誘導柱2を設置するだけで、全ての船舶の誘導に利用することができる。
【0043】
また、AIS(船舶自動識別装置)などにより得た当該船舶情報を利用することにより、適宜誘導情報を船舶に伝えることができるので、安全かつ効率的な操船や接岸が可能となる。
【0044】
さらに、誘導表示盤1の表示画面1aに表示する可変誘導柱11の色を変えることにより、可変誘導柱11と固定誘導柱2の重なり具合がはっきり分かるようにできる。岸壁4の所定の場所に船舶が停止したときには、船舶からは可変誘導柱11が見えず、誘導表示盤の表示画面11と固定誘導柱2が見えるだけになる。
【0045】
さらにまた、管理装置20は、データ格納部24を有し、誘導する船舶の情報が登録することができる。また、データは必要に応じて部分的な修正や削除が可能である。
【0046】
誘導すべき船舶が入港する場合、その船舶をデータ格納部24で検索し、船舶に必要な情報を取得する。この情報に基づいて誘導表示盤1に柱表示情報を通信ケーブル30を介して伝送して表示画面1aに可変誘導柱11を表示する位置を指示する。
【0047】
なお、比較的遠方に船舶がある場合には、誘導表示盤を全面点灯や点滅などにより誘目性を高め、船舶の入港した後の目標を船舶に知らせることができる。
【0048】
また、AIS情報やレーダによる監視、或いは、船舶からの無線により、高度な船舶管制が必要になったことが判明した後は、船舶位置に合わせて可変誘導柱の表示位置含む柱表示情報などの表示情報を誘導表示盤1に伝送して船舶のスムーズな操船を行わせる操船指示の表示も行わせることも可能になる。
【0049】
また、可変誘導柱11の部分は、固定誘導柱2と同じ幅であるので、誘導表示盤1のごく一部を可変誘導柱の表示領域として使用するだけである。可変誘導柱1aから離れた部分に、船舶に必要な補助情報を絵又は文字にて表示させることによって、情報を船舶に伝えることが可能となり、より安全な操船を行うことができるようになる。
【符号の説明】
【0050】
1 誘導表示盤
1a 表示画面
2 固定誘導柱
10 着岸誘導装置
11 可変誘導柱
20 管理装置
22 制御部(柱表示情報生成手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
港湾岸壁の所定の場所に船舶の所定の位置を接岸すべく誘導する着岸誘導システムであって、
横長方形の自発光式の表示画面を有し、前記表示画面が海側に向けて配置され、前記表示画面にその横長の範囲で位置が変化される可変誘導柱が表示される誘導表示盤と、該誘導表示盤の前記表示画面の前面中央に画面表面から所定距離離間されて配置される固定誘導柱とを備え、前記誘導表示盤の前記表示画面に表示される前記可変誘導柱は、港湾岸壁の所定の場所に船舶の所定の位置が接岸された状態で、当該船舶上の所定の位置から視認したとき前記固定誘導柱と重なって視認されない位置に表示される着岸誘導装置と、
港湾岸壁の所定の場所に接岸すべく誘導しようとする船舶の前記所定の位置と、前記表示画面に表示される前記可変誘導柱を視認する当該船舶上の前記所定の位置とに基づいて、前記表示画面に前記可変誘導柱を表示させるための柱表示情報を生成する柱表示情報生成手段を備える管理装置と
を具備することを特徴とする着岸誘導システム。
【請求項2】
前記表示画面は、自発光式の表示素子がドットマトリックス状に配列されて形成され、
前記固定誘導柱は、柱に沿って発光素子が埋め込まれて形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の着岸誘導システム。
【請求項3】
前記誘導表示盤の前記表示画面は、誘導しようとする船舶上の前記所定の位置から視認したとき前記固定誘導柱が少なくとも前記表示画面と重なって視認されるまで、当該船舶の操船方向を指示する操船指示を表示し、
前記管理装置は、前記表示画面に前記操船指示を表示させるための操船指示表示情報を生成する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の着岸誘導システム。
【請求項4】
港湾岸壁の所定の場所に船舶の所定の位置を接岸すべく誘導する着岸誘導システムを柱表示情報生成手段を備える管理装置とともに構成する着岸誘導装置であって、
横長方形の自発光式の表示画面を有し、前記表示画面が海側に向けて配置され、前記表示画面にその横長の範囲で位置が変化される可変誘導柱が表示される誘導表示盤と、
該誘導表示盤の前記表示画面の前面中央に画面表面から所定距離離間されて配置される誘導柱とを備え、
前記誘導表示盤の前記表示画面に表示される前記可変誘導柱は、港湾岸壁の所定の場所に船舶の所定の位置が接岸された状態で、当該船舶上の所定の位置から視認したとき前記固定誘導柱と重なって視認されない位置に表示され、
前記表示画面に前記可変誘導柱を表示させるための柱表示情報は、前記管理装置が備える前記柱表示情報生成手段が、港湾岸壁の所定の場所に接岸すべく誘導しようとする船舶の所定の位置と、前記表示画面に表示される前記可変誘導柱を視認する当該船舶上の前記所定の位置とに基づいて生成する
ことを特徴とする着岸誘導装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−44075(P2011−44075A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193032(P2009−193032)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(597030338)セナーアンドバーンズ株式会社 (3)
【出願人】(598166696)北九州エル・エヌ・ジー株式会社 (5)
【Fターム(参考)】