説明

着火温度測定装置及び着火温度測定方法

【課題】燃料の正確な着火温度を測定する。
【解決手段】内部流路11が常温における消炎径よりも小さな直径とされる管1を予混合ガスGの流れ方向に予混合ガスGの着火温度以上まで連続的に昇温されるように加熱すると共に、上記管1に上記予混合ガスGを上記管1の内部流路11に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が上記予混合ガスGの流速に影響されない条件を満たす流量にて供給し、上記管1の内部流路11に形成された火炎の位置を検出し、該検出結果及び予め記憶する上記予混合ガスGを流した場合における上記管1の長さ方向の温度プロファイルに基づいて上記予混合ガスGの着火温度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可燃性液体である燃料の着火温度の測定に用いることが可能な着火温度測定装置及び着火温度測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料として用いられる可燃性液体の着火温度を測定する際には、いわゆるASTM(American Standard of Testing Method)法が用いられる場合が多い。
このASTM法によれば、非特許文献1に記載されているように、容量が500mlの丸底フラスコを用い、当該丸底フラスコを周囲から加熱し、加熱された丸底フラスコ内に可燃性液体を滴下し、着火した場合の温度を確認することによって、可燃性液体の着火温度が測定される。
【非特許文献1】板垣晴彦,産業安全研究所研究報告 NIIS−RR−2002(2003) 「可燃性液体の発火温度の圧力依存性について」,Research Reports of the National Institute of Industrial Safety, NIIS-RR-2002(2003) UDC 614.841.41+543.87:662.612.1「The Dependence of Initial Pressure on the Autoignition Temperature of Flammable Liquid」(www.jniosh.go.jp/publication/RR/pdf/RR-2002-06.pdf)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ASTM法による測定方法では、大きな容積をもつ丸底フラスコに可燃性液体を滴下させて着火させるため、丸底フラスコ内の温度分布の不均一に起因して、実際の着火温度と測定温度とに差が生じる場合がある。つまり、丸底フラスコ内における着火位置と、温度測定位置が異なる場合には、測定誤差が生じる。
【0004】
さらに、丸底フラスコ内の温度分布は、丸底フラスコの容積の大きさによって差がある。
また、丸底フラスコ内に滴下された可燃性液体は、着火前に蒸発して混合気となる。そして、着火温度は混合気の濃度に依存して変化するが、ASTM法では、混合気の濃度が一定である保証はない。
また、非特許文献1に記載されているように、着火温度は、着火位置の圧力環境に依存して変化する。
【0005】
このように、ASTM法で測定される着火温度は、当該ASTM法を用いる測定装置の環境における可燃性液体の着火温度であり、可燃性液体自体の化学的及び物理的な着火温度とは異なるものである。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、燃料の正確な着火温度を測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の着火温度測定装置は、内部流路が常温における消炎径よりも小さな直径とされる管と、燃料と酸化剤とが混合された予混合ガスを、上記管の内部流路に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が上記予混合ガスの流速に影響されない条件を満たす流量にて上記管に供給可能な供給手段と、前記予混合ガスの流れ方向に前記予混合ガスの着火温度以上まで連続的に昇温されるように前記管を加熱する加熱手段と、上記管の内部流路に形成された火炎の位置を検出し、該検出結果及び予め記憶する上記予混合ガスを流した場合における上記管の長さ方向の温度プロファイルに基づいて上記予混合ガスの着火温度を算出する着火温度算出手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
このような特徴を有する本発明の着火温度測定装置によれば、内部流路が常温における消炎径よりも小さな直径とされる管が予混合ガスの流れ方向に予混合ガスの着火温度以上まで連続的に昇温されるように加熱される。
また、本発明の着火温度測定装置によれば、燃料と酸化剤とが混合された予混合ガスが上記管に供給され、その流量は、管の内部流路に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が予混合ガスの流速に影響されない条件を満たす流量とされる。
また、本発明の着火温度測定装置によれば、管の内部流路に形成された火炎の位置が検出され、この検出結果と予め記憶される予混合ガスを流した場合における管の長さ方向の温度プロファイルに基づいて予混合ガスの着火温度が算出される。
【0009】
また、本発明の着火温度測定装置においては、上記着火温度算出手段は、上記火炎の位置を撮像する撮像装置を備え、該撮像装置にて撮像された撮像データに基づいて上記火炎の位置を検出するという構成を採用する。
【0010】
また、本発明の着火温度測定装置においては、上記着火温度算出手段は、CHラジカルに起因する発光あるいはOHラジカルに起因する発光を選択的に透過して上記撮像装置に伝達するフィルタを備えるという構成を採用する。
【0011】
また、本発明の着火温度測定装置においては、上記着火温度算出手段は、上記管の温度を検出する熱電対と、該熱電対にて検出された温度データを記憶する記憶部とを備え、上記管の長さ方向に移動される上記熱電対によって検出された温度データに基づいて上記温度プロファイルを取得するという構成を採用する。
【0012】
また、本発明の着火温度測定装置においては、上記着火温度算出手段は、熱容量の異なる複数の上記熱電対を備え、各熱電対によって検出された温度データに基づいて上記温度プロファイルを取得するという構成を採用する。
【0013】
また、本発明の着火温度測定装置においては、上記管は、少なくとも上記火炎の形成範囲が石英ガラスにて形成されているという構成を採用する。
【0014】
また、本発明の着火温度測定装置においては、上記加熱手段にて加熱される上記管の加熱領域は、求められる着火温度の測定精度に比例した長さを有するという構成を採用する。
【0015】
また、本発明の着火温度測定装置においては、上記供給手段は、上記予混合ガスの供給流量を連続的に減少させ、火炎が安定化された流量を上記管の内部流路に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が上記予混合ガスの流速に影響されない条件を満たす流量とするという構成を採用する。
【0016】
次に、本発明の着火温度測定方法は、内部流路が常温における消炎径よりも小さな直径とされる管を、燃料と酸化剤とが混合された予混合ガスの流れ方向に前記予混合ガスの着火温度以上まで連続的に昇温されるように加熱すると共に、上記管に上記予混合ガスを上記管の内部流路に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が上記予混合ガスの流速に影響されない条件を満たす流量にて供給し、上記管の内部流路に形成された火炎の位置を検出し、該検出結果及び予め記憶する上記予混合ガスを流した場合における上記管の長さ方向の温度プロファイルに基づいて上記予混合ガスの着火温度を算出することを特徴とする。
【0017】
このような特徴を有する本発明の着火温度測定方法によれば、内部流路が常温における消炎径よりも小さな直径とされる管が予混合ガスの流れ方向に予混合ガスの着火温度以上まで連続的に昇温されるように加熱される。
また、本発明の着火温度測定方法によれば、燃料と酸化剤とが混合された予混合ガスが上記管に供給され、その流量は、管の内部流路に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が予混合ガスの流速に影響されない条件を満たす流量とされる。
また、本発明の着火温度測定方法によれば、管の内部流路に形成された火炎の位置が検出され、この検出結果と予め記憶される予混合ガスを流した場合における管の長さ方向の温度プロファイルに基づいて予混合ガスの着火温度が算出される。
【0018】
また、本発明の着火温度測定方法においては、上記火炎の位置を撮像することによって検出するという構成を採用する。
【0019】
また、本発明の着火温度測定方法においては、CHラジカルに起因する発光あるいはOHラジカルに起因する発光を選択的に撮像するという構成を採用する。
【0020】
また、本発明の着火温度測定方法においては、上記管の長さ方向に移動される熱電対によって検出された温度データに基づいて上記温度プロファイルを取得するという構成を採用する。
【0021】
また、本発明の着火温度測定方法においては、熱容量の異なる複数の熱電対を各々上記管の長さ方向に移動させることによって検出された温度データに基づいて上記温度プロファイルを取得するという構成を採用する。
【0022】
また、本発明の着火温度測定方法においては、上記管の少なくとも火炎の形成範囲が石英ガラスにて形成されているという構成を採用する。
【0023】
また、本発明の着火温度測定方法においては、上記管の加熱領域が、求められる着火温度の測定精度に比例した長さを有するという構成を採用する。
【0024】
また、本発明の着火温度測定方法においては、上記予混合ガスの供給流量を連続的に減少させ、火炎が安定化された流量を上記管の内部流路に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が上記予混合ガスの流速に影響されない条件を満たす流量とするという構成を採用する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、内部流路が常温における消炎径よりも小さな直径とされる管が予混合ガスの流れ方向に予混合ガスの着火温度以上まで連続的に昇温されるように加熱される。このような本発明によれば、内部流路を常温における消炎径よりも小さな直径とされた極めて断面積が小さな管を用いるため、管内部である内部流路(すなわち予混合ガスが着火される空間)の温度を均一にすることができる。
また、本発明によれば、燃料と酸化剤とが混合された予混合ガスが上記管に供給され、その流量は、管の内部流路に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が予混合ガスの流速に影響されない条件を満たす流量とされる。このような本発明によれば、予め燃料と酸化剤とが混合されるため、管の内部流路における燃料の濃度を均一にすることができる。さらに、本発明によれば、管に供給される予混合ガスの流量が、管の内部流路に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が予混合ガスの流速に影響されない条件を満たすような低流量とされるため、火炎が予混合ガスの流速に依存せずに安定して形成される。このため、管の内部流路における火炎が形成される位置を、予混合ガスの流量に依存しない安定した位置とすることができる。
そして、本発明によれば、管の内部流路に形成された火炎の位置が検出され、この検出結果と予め記憶される予混合ガスを流した場合における管の長さ方向の温度プロファイルに基づいて予混合ガスの着火温度が算出される。
このような本発明によれば、管内部である内部流路(すなわち予混合ガスが着火される空間)の温度が均一化され、管の内部流路における燃料の濃度が均一化され、さらに管の内部流路における火炎が形成される位置を、予混合ガスの流量に依存しない安定した位置とすることができる。したがって、ASTM法と比較して、燃料の正確な着火温度を測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明に係る着火温度測定装置及び着火温度測定方法の一実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0027】
図1は、本実施形態の着火温度測定装置の概略構成を示す模式図である。
この図に示すように、本実施形態の着火温度測定装置S1は、管1と、供給装置2(供給手段)と、ヒータ3(加熱手段)と、熱電対4と、撮像装置5と、フィルタ6と、測定処理部7とを備えている。
【0028】
管1は、石英ガラスによって形成された円筒形状の直管である。そして、管1の内部流路11の直径は、内部流路11に形成される火炎が伝播できずに消炎する限界値である常温における消炎径よりも小さく設定されている。
【0029】
供給装置2は、燃料と酸化剤(例えば、酸素や外気)との混合気である予混合ガスGを管1に供給するものであり、管1の一端から管1の内部流路11に予混合ガスGを流入させることによって管1に予混合ガスGを供給する。
この供給装置2は、管1に供給する予混合ガスGの流量を調節可能であり、管1に供給する予混合ガスGの流量を連続的に減少させて、その流量が管1の内部流路11に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が予混合ガスGの流速に影響されない条件を満たす流量となるように設定する。なお、管1の内部流路11に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が予混合ガスGの流速に影響されない条件を満たす流量については、後に詳説する。
また、供給装置2は、測定処理部7と電気的に接続されており、測定処理部7からの指令に基づいて、予混合ガスGにおける燃料と酸化剤との割合を調節可能とされている。
【0030】
なお、供給装置2は、予混合ガスGの他に、予混合ガスGと同じ伝熱性を有する不燃ガスを管1に供給可能とされている。このようなガスとしては、例えば窒素と酸素の混合ガス等を用いることができる。
【0031】
ヒータ3は、管1の内部流路11における少なくとも火炎の形成領域を囲うように管1の周囲に配置されている。
なお、ヒータ3は、管1を完全に覆うように配置されているのではなく、火炎の形成領域を外部から目視可能なように配置されている。もしくは、ヒータ3は、通常時は管1を完全に覆い、観察時のみヒータ3の全部もしくは一部が移動することで火炎の形成領域を外部から目視可能なように構成されている。
そして、ヒータ3は、測定処理部7と電気的に接続されており、測定処理部7の指令に基づいて、管1が予混合ガスGの流れ方向に予混合ガスGの着火温度以上まで連続的に昇温されるように加熱する。
なお、ヒータ3による管1の加熱領域の長さは、本実施形態の着火温度測定装置S1にて求められる測定精度に比例して設定されている。
【0032】
熱電対4は、管1の内部流路11に対して出し入れ可能とされており、先端部41にて管1の内部流路11の温度を検出し、その検出結果を温度データとして測定処理部7に入力するものである。
なお、本実施形態の着火温度測定装置S1は、熱容量の異なる(すなわち直径の異なる)複数の熱電対4を備えている。そして、各熱電対4は、各々管1の内部流路11に対して出し入れ可能とされている。
【0033】
撮像装置5は、管1の内部流路11に形成される火炎を管1の外部から撮像するものであり、管1の火炎形成領域の近傍に配置されている。そして、撮像装置5は、撮像結果を撮像データとして測定処理部7に入力する。
なお、撮像装置5は、測定処理部7に電気的に接続されており、測定処理部7の指令に基づいて、露光時間等が制御される。
【0034】
フィルタ6は、撮像装置5と管1との間に配置されており、CHラジカルに起因する発光あるいはOHラジカルに起因する発光(すなわち火炎特有の発光)のみを選択的に透過させるものである。
このようなフィルタ6を設置することによって、撮像装置5においてCHラジカルに起因する発光あるいはOHラジカルに起因する発光のみが選択的に撮像される。
【0035】
測定処理部7は、熱電対4にて検出された温度データを記憶して該温度データに基づいて管1の長さ方向の温度プロファイルを取得すると共に、撮像装置5にて撮像された撮像データから管1の内部流路11に形成された火炎の位置を検出し、該検出結果及び予混合ガスを流した場合における管1の長さ方向の温度プロファイルに基づいて予混合ガスGの着火温度を算出するものである。
この測定処理部7は、上記温度データ、上記撮像データ、温度プロファイル、また温度プロファイルの取得や着火温度を算出に用いられる各種プログラム等を記憶する記憶部71と、該記憶部71に記憶されるデータやプログラムに基づいて温度プロファイルや着火温度を算出する演算処理部72と、該演算処理部72にて算出された着火温度に基づく情報を出力する出力部73とを備えている。
【0036】
そして、このような本実施形態の着火温度測定装置S1においては、熱電対4、撮像装置5、フィルタ6及び測定処理部7にて本発明の着火温度算出手段が構成されている。また、供給装置2及び測定処理部7にて本発明の供給手段が構成されている。
【0037】
次に、上述のように構成された本実施形態の着火温度測定装置S1を用いた着火温度測定方法について説明する。
【0038】
図2は、本実施形態における着火温度測定方法のフローチャートである。この図に示すように、本実施形態における着火温度測定方法は、温度プロファイル取得工程(ステップS1)と、火炎安定工程(ステップS2)と、着火温度算出工程(ステップS3)とを有している。なお、これらの工程全てにおいて、ヒータ3は、管1が予混合ガスGの流れ方向に予混合ガスGの想定着火温度以上まで連続的に昇温されるように加熱する。
【0039】
温度プロファイル取得工程(ステップS1)は、予混合ガスGを流した場合における管1の内部流路11の長さ方向における温度プロファイルを取得する工程である。
本温度プロファイル取得工程では、熱電対4を管1の内部流路11を移動させ、この熱電対4から得られた温度データが、測定処理部7の記憶部71に一旦記憶される。その後、測定処理部7の演算処理部72が、記憶部71に記憶されたデータ及び温度プロファイルの取得プログラムに基づいて温度プロファイルを算出して取得し、この温度プロファイルが記憶部71に記憶される。
【0040】
本工程にて取得する温度プロファイルは、予供給ガスGが管1の全長に亘って着火されなかった場合における、管1の特定の位置での温度を示すものである。
このような温度プロファイルを正確に取得するために、本実施形態の着火温度測定方法では、予供給ガスGが管1の全長に亘って着火されない状況を擬似的に作り出すために、熱電対4にて管1の内部流路11の温度を検出する場合に、供給装置2から、予混合ガスと同じ伝熱性を有する不燃性ガスを供給する。これによって、予供給ガスGが管1の全長に亘って着火されない状況が擬似的に作り出され、予供給ガスGが管1の全長に亘って着火されなかった場合における、管1の特定の位置の温度を取得することが可能となる。
なお、供給装置2から、予混合ガスと同じ伝熱性を有する不燃性ガスを供給する場合において、不燃性ガスの流量は、管1の内部流路11における熱移動が、不燃性ガスの流速に依存されないような低流量とされる。
【0041】
そして、管1の内部流路11には一端部から着火温度以下の流体(予混合ガスGあるいは不燃性ガス)が供給され、この流体がヒータ3にて加熱されることから、温度プロファイルは、図3に示すように、管1の一端部から他端部に向けて上昇する形状となる。
【0042】
また、本温度プロファイル取得工程においては、熱容量の異なる複数の熱電対4を各々管1の内部流路11を移動させ、これらの熱電対4の温度データから、熱電対4が管1の内部流路11に存在しない場合の温度プロファイルを取得することが好ましい。
より詳細には、複数の熱電対4にて検出される温度データを比較することによって、熱電対4の容量と温度データとの関係を導き出す。そして、この熱電対4の容量と温度データとの関係から、熱電対4の容量が0の場合(すなわち熱電対4が内部流路11に存在しない場合の)温度データを算出し、この温度データに基づいて温度プロファイルを取得する。
後の着火温度算出工程(ステップS3)においては、熱電対4が内部流路11に存在しない状態となるため、熱電対4が管1の内部流路11に存在しない場合の温度プロファイルを取得することによって、着火温度算出工程(ステップS3)における算出結果をより正確なものとすることができる。
【0043】
次に、火炎安定工程(ステップS2)は、温度プロファイル取得工程(ステップS1)の後に行われる工程であり、管1の内部流路11に火炎を形成すると共に、当該火炎を安定させる工程である。
【0044】
本工程では、上記温度プロファイル取得工程(ステップS1)にて用いた熱電対4を管1から引き出した状態で行われ、供給装置2から燃料と酸化剤とが所定の割合(測定処理部7から指令に基づく割合)で混合された予混合ガスGが、管1の内部流路11に供給される。
これによって、管1の内部流路11に供給された予混合ガスGは、管1の内部流路11を一端部から他端部に向かうに連れて加熱され、着火温度以上に加熱された時点で着火する。
【0045】
予混合ガスGが着火されることによって形成された火炎は、管1の内部流路11における予混合ガスGの流速が早い場合には振動する。これは、予混合ガスGの着火と消火が短時間で繰り返されることに起因する。
一方、管1の内部流路11における予混合ガスGの流速が遅い場合には、連続的に燃焼状態が維持され、火炎が安定する。
そこで、本実施形態における着火温度測定方法では、まず先に管1の内部流路11における流速が十分に早くなるような流量の予混合ガスGを管1に供給し、その後予混合ガスGの流量を徐々に減少させ、火炎が安定されるまで予混合ガスGの流量を低減させる。
具体的には、撮像装置5にて火炎を撮像することで火炎の状態を確認しながら供給装置2から供給する予混合ガスGの流量を徐々に減少させ、火炎が安定されるまで予混合ガスGの流量を低減させる。
【0046】
なお、火炎が安定される予混合ガスGの流量とは、管1の内部流路11に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が予混合ガスGの流速に影響されない条件を満たす流量である。つまり、本実施形態における着火温度測定方法では、火炎安定工程(ステップS2)において、予混合ガスGの流量を、管1の内部流路11に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が予混合ガスGの流速に影響されない条件を満たす流量まで低減させる。
【0047】
ここで、図4を参照して、管1の内部流路11における予混合ガスGの流速に応じて、火炎の状態が変化することについて説明する。
図4は、管1の内部流路11における予混合ガスGの流速と、安定火炎位置、着火位置及び消火位置との関係を示したグラフである。なお、図4に示すグラフは、直径が2mmの管1に対して、メタンと空気の量論比の予混合ガスGを供給することによって得られたデータに基づくものである。
この図に示すように、予混合ガスGの流速が速い場合(40〜100cm/s)には、火炎は安定するが、火炎の形成位置が流速に影響されることが分かる。また、これよりも予混合ガスGの流速が遅い場合(5〜40cm/s)には、火炎が振動することが分かる。そして、さらに予混合ガスGの流速が遅い場合(0.2〜5cm/s)には、火炎が安定すると共に火炎の形成位置が流速に影響されないことが分かる。このように、管1の内部流路11における予混合ガスGの流速に応じて、火炎の状態が変化する。
そして、本実施形態における着火温度測定方法の火炎安定工程(ステップS2)では、予混合ガスGの流速が、火炎が安定すると共に火炎の形成位置が流速に影響されない流速となるように、予混合ガスGの流量が設定される。
【0048】
次に、着火温度算出工程(ステップS3)は、管1の内部流路11に形成された火炎の位置を検出し、該検出結果及び予め記憶する(ステップS1で取得した)管1の長さ方向の温度プロファイルに基づいて予混合ガスGの着火温度を算出する。
具体的には、火炎から発光されたCH光あるいはOH光が選択的にフィルタ6を透過して撮像装置5に到達することによって火炎の位置が撮像装置5によって撮像される。そして、測定処理部7がその撮像データから火炎の位置を検出し、温度プロファイルに照らし合わせることによって、管1の火炎が形成された位置の温度(すなわち予混合ガスGの着火温度)を算出する。
【0049】
以上のような本実施形態の着火温度測定装置及び着火温度測定方法によれば、内部流路11が常温における消炎径よりも小さな直径とされる管1が予混合ガスGの流れ方向に予混合ガスGの着火温度以上まで連続的に昇温されるように加熱される。つまり、内部流路11を常温における消炎径よりも小さな直径とされた極めて断面積が小さな管1を用いるため、管1内部である内部流路11(すなわち予混合ガスが着火される空間)を均一に加熱することができる。
また、本実施形態の着火温度測定装置及び着火温度測定方法によれば、燃料と酸化剤とが混合された予混合ガスGが管1に供給され、その流量は、管1の内部流路11に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が予混合ガスGの流速に影響されない条件を満たす流量とされる。つまり、予め燃料と酸化剤とが混合されるため、管1の内部流路11における燃料の濃度を均一にすることができる。さらに、管1に供給される予混合ガスの流量が、管1の内部流路11に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が予混合ガスGの流速に影響されない条件を満たすような低流量とされるため、火炎が予混合ガスGの流速(伝達速度)に依存せずに安定して形成される。このため、管1の内部流路11における火炎が形成される位置を、予混合ガスGの流速に依存しない安定した位置とすることができる。
そして、本実施形態の着火温度測定装置及び着火温度測定方法によれば、管1の内部流路11に形成された火炎の位置が検出され、この検出結果と予め記憶される予混合ガスGを流した場合における管1の長さ方向の温度プロファイルに基づいて予混合ガスGの着火温度が算出される。
このような本実施形態の着火温度測定装置及び着火温度測定方法によれば、管1内部である内部流路11(すなわち予混合ガスが着火される空間)が均一に加熱され、管1の内部流路11における燃料の濃度が均一化され、さらに管1の内部流路11における火炎が形成される位置を、予混合ガスの流速に依存しない安定した位置とすることができる。したがって、予混合ガスの着火温度を正確に測定することができ、さらにはASTM法と比較して、燃料の正確な着火温度を測定することが可能となる。
【0050】
また、本実施形態の着火温度測定装置を、減圧環境あるいは高圧環境に配置することによって、減圧環境あるいは高圧環境における燃料の正確な着火温度を測定することも可能である。
【0051】
また、本実施形態の着火温度測定装置及び着火温度測定方法においては、火炎の位置を直接撮像することによって検出する。
このため、火炎の存在を直接確認することが可能となり、より正確に火炎の位置を検出することが可能となる。
【0052】
また、本実施形態の着火温度測定装置及び着火温度測定方法においては、CHラジカルに起因する発光あるいはOHラジカルに起因する発光を選択的に撮像する。
このため、散乱光等の外乱に影響されることなく、確実に火炎を撮像することができ、より正確に火炎の位置を検出することが可能となる。
【0053】
また、本実施形態の着火温度測定装置及び着火温度測定方法においては、管1の長さ方向に移動される熱電対4によって検出された温度データに基づいて温度プロファイルを取得する。
このため、管1の内部流路11の温度を直接検出することができ、正確な温度プロファイルを取得することが可能となる。
【0054】
また、本実施形態の着火温度測定装置及び着火温度測定方法においては、さらに、熱容量の異なる複数の熱電対4を各々管1の長さ方向に移動させることによって検出された温度データに基づいて温度プロファイルを取得する。
このため、熱電対4が管1の内部流路11に存在しない場合の温度プロファイルを取得することが可能となり、より正確な着火温度を測定することが可能となる。
【0055】
また、本実施形態の着火温度測定装置及び着火温度測定方法においては、管1が石英ガラスにて形成されている。
このため、外部から火炎を撮像可能となると共に、火炎が管壁に衝突することによって失活することを防止することができる。
【0056】
なお、上述のように、管1の加熱領域が求められる着火温度の測定精度に比例した長さを有することが好ましい。
これは、管1の加熱領域が長くなることによって、図3にて示した温度プロファイルの傾斜が緩やかとなり、より正確な着火温度を測定できるためである。
【0057】
また、本実施形態の着火温度測定装置及び着火温度測定方法においては、予混合ガスGの供給流量を連続的に減少させ、火炎が安定化された流量を管1の内部流路11に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が予混合ガスGの流速に影響されない条件を満たす流量とする。
このため、予め、火炎が安定化する流量を記憶することなく、流量調節を行うことが可能となる。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る着火温度測定装置及び着火温度測定方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0059】
例えば、上記実施形態においては、火炎の位置を撮像することによって検出する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、イオンプローブ等の他の構成にて火炎の位置を検出するようにしても良い。
【0060】
また、上記実施形態においては、フィルタを用いてCHラジカルに起因する発光あるいはOHラジカルに起因する発光を選択的に撮像装置5に到達させる構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、フィルタを設置しない構成も可能である。
【0061】
また、上記実施形態においては、熱電対4によって検出した温度データに基づいて温度プロファイルを取得する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばイメージインテンシファイア等の他の構成によって火炎画像を撮影しても良い。また、例えば赤外線スコープ等の他の構成によって温度プロファイルを取得しても良い。
【0062】
また、上記実施形態においては、予混合ガスの供給流量を連続的に低減させて、火炎が安定化される流量とする構成について説明した。
しかしながら、本発明によれば、予め火炎が安定化される流量を記憶しておき、この記憶した流量の予混合ガスGを供給するようにしても良い。
【0063】
また、上記実施形態において、例えば管1の内部流路11におけるガスをサンプリングする、あるいはレーザ計測による測定を行うことによって燃焼反応の途中で生成される中間生成物の濃度を取得することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態における着火温度測定装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態における着火温度測定装置を用いた着火温度測定方法のフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態における着火温度測定装置が備える管の温度プロファイルを示すグラフである。
【図4】管の内部流路における予混合ガスの流速と、安定火炎位置、着火位置及び消火位置との関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0065】
S1……着火温度測定装置、1……管、11……内部流路、2……供給装置、3……ヒータ(加熱手段)、4……熱電対、5……撮像装置、6……フィルタ、7……測定処理部、G……予混合ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部流路が常温における消炎径よりも小さな直径とされる管と、
燃料と酸化剤とが混合された予混合ガスを、前記管の内部流路に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が前記予混合ガスの流速に影響されない条件を満たす流量にて前記管に供給可能な供給手段と、
前記予混合ガスの流れ方向に前記予混合ガスの着火温度以上まで連続的に昇温されるように前記管を加熱する加熱手段と、
前記管の内部流路に形成された火炎の位置を検出し、該検出結果及び予め記憶する前記予混合ガスを流した場合における前記管の長さ方向の温度プロファイルに基づいて前記予混合ガスの着火温度を算出する着火温度算出手段と
を備えることを特徴とする着火温度測定装置。
【請求項2】
前記着火温度算出手段は、前記火炎の位置を撮像する撮像装置を備え、該撮像装置にて撮像された撮像データに基づいて前記火炎の位置を検出することを特徴とする請求項1記載の着火温度測定装置。
【請求項3】
前記着火温度算出手段は、CHラジカルに起因する発光あるいはOHラジカルに起因する発光を選択的に透過して前記撮像装置に伝達するフィルタを備えることを特徴とする請求項2記載の着火温度測定装置。
【請求項4】
前記着火温度算出手段は、前記管の温度を検出する熱電対と、該熱電対にて検出された温度データを記憶する記憶部とを備え、前記管の長さ方向に移動される前記熱電対によって検出された温度データに基づいて前記温度プロファイルを取得することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の着火温度測定装置。
【請求項5】
前記着火温度算出手段は、熱容量の異なる複数の前記熱電対を備え、各熱電対によって検出された温度データに基づいて前記温度プロファイルを取得することを特徴とする請求項4記載の着火温度測定装置。
【請求項6】
前記管は、少なくとも前記火炎の形成範囲が石英ガラスにて形成されていることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の着火温度測定装置。
【請求項7】
前記加熱手段にて加熱される前記管の加熱領域は、求められる着火温度の測定精度に比例した長さを有することを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の着火温度測定装置。
【請求項8】
前記供給手段は、前記予混合ガスの供給流量を連続的に減少させ、火炎が安定化された流量を前記管の内部流路に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が前記予混合ガスの流速に影響されない条件を満たす流量とすることを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載の着火温度測定装置。
【請求項9】
内部流路が常温における消炎径よりも小さな直径とされる管を、燃料と酸化剤とが混合された予混合ガスの流れ方向に前記予混合ガスの着火温度以上まで連続的に昇温されるように加熱すると共に、前記管に前記予混合ガスを前記管の内部流路に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が前記予混合ガスの流速に影響されない条件を満たす流量にて供給し、
前記管の内部流路に形成された火炎の位置を検出し、該検出結果及び予め記憶する前記予混合ガスを流した場合における前記管の長さ方向の温度プロファイルに基づいて前記予混合ガスの着火温度を算出する
ことを特徴とする着火温度測定方法。
【請求項10】
前記火炎の位置を撮像することによって検出することを特徴とする請求項9記載の着火温度測定方法。
【請求項11】
CHラジカルに起因する発光あるいはOHラジカルに起因する発光を選択的に撮像することを特徴とする請求項10記載の着火温度測定方法。
【請求項12】
前記管の長さ方向に移動される熱電対によって検出された温度データに基づいて前記温度プロファイルを取得することを特徴とする請求項9〜11いずれかに記載の着火温度測定方法。
【請求項13】
熱容量の異なる複数の熱電対を各々前記管の長さ方向に移動させることによって検出された温度データに基づいて前記温度プロファイルを取得することを特徴とする請求項12記載の着火温度測定方法。
【請求項14】
前記管の少なくとも火炎の形成範囲が石英ガラスにて形成されていることを特徴とする請求項9〜13いずれかに記載の着火温度測定方法。
【請求項15】
前記管の加熱領域が、求められる着火温度の測定精度に比例した長さを有することを特徴とする請求項9〜14いずれかに記載の着火温度測定方法。
【請求項16】
前記予混合ガスの供給流量を連続的に減少させ、火炎が安定化された流量を前記管の内部流路に形成された火炎が安定しかつ火炎の形成位置が前記予混合ガスの流速に影響されない条件を満たす流量とすることを特徴とする請求項9〜15いずれかに記載の着火温度測定方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−112892(P2010−112892A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287098(P2008−287098)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】