説明

着色されたメタクリル系樹脂組成物およびメタクリル系樹脂フィルム

【課題】 透明性、耐折曲げ割れ性に優れ、着色性に優れ、かつ、ブリード性や蛍光持続性に優れたフィルムを作成するのに好適な樹脂組成物を提供する。
【解決手段】メタクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体混合物に対して、特定の反応性ベンゾピラン系化合物を共重合してなるメタクリル酸エステル系重合体(X)および/または、メタクリル酸エステル系重合体(Y−A)をアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)の存在下において重合する際に該反応性ベンゾピラン系化合物を共重合してなるメタクリル系樹脂組成物(Y)を含む樹脂組成物あるいは樹脂混合物をフィルム化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性着色剤を共重合したメタクリル系樹脂、それを成形してなるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、メタクリル系樹脂に染料等の着色剤を混合して着色されたメタクリル系樹脂を、フィルムとして使用する場合には、フィルムの厚みを薄くするほど、染料の分散性と発色性のために大量の着色剤を添加する必要があるために不経済である。
【0003】
このため、着色剤を大量に添加されたメタクリル系樹脂組成物から押出成形等の方法によりフィルムを成形した場合、押出機のベント詰まり、Tダイでの目やに付着、冷却ロールの着色等の問題を生じ、さらに多量の添加が必要な場合にはフィルム表面の粗面化、フィルム表面への溶出(ブリードアウト)等の問題を生じていた。
【0004】
喩え上記問題点を引き起こすことなく、メタクリル系樹脂組成物に多量の着色剤を添加できたとしても、一般の着色剤ではメタクリル系樹脂との相溶性が悪く、低分子量であるため、押出成形時にその一部が揮発して着色性能が発揮できないという問題を抱えている。蛍光着色剤添加の樹脂製品の多くでは、長時間の使用や屋外での使用、またはランプ類での使用において、紫外線や熱などの影響を受け、蛍光発色性の低下が生ずる、また、長期使用時にメタクリル系樹脂組成物から飛散するため、着色性能が経時的に低下する問題を抱えている。
【0005】
これらの問題点を解決するために、蛍光着色剤の分散を向上させる目的で、特定の着色剤を選定し添加する方法が一般的に知られている。しかし、特定の着色剤を単に添加する方法では、得られたフィルムは、温水浸漬時や屋外暴露時に添加している着色剤が溶出(ブリードアウト)するため、着色性能が低下する等の問題が解決できていなかった。
【0006】
これに対して、メタクリル系樹脂に対し、着色性を示す特定の化合物を反応させる方法(特許文献1〜4)が提案されている。特許文献1には、特定の蛍光染料とメタクリル酸メチルの混合物の重合が記載されているが、共重合体ではなく、溶出(ブリードアウト)する課題を解決できるものではない。これに対して、特許文献2には、ビニルスルホン型反応性染料またはジクロロトリアジン型反応性染料とポリマーとの反応が記載され、特許文献3および4には、反応性基を有するアントラキノン系染料または着色剤の共重合が記載されているが、反応性基を有するベンゾピラン系着色剤は提案されていない。
【0007】
また、特許文献5には、ベンゾピラン系着色剤が記載されているが、反応性基を持ったものは提案されていない。さらに、蛍光持続性を改善する方法として、特許文献6において、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリオレフィン樹脂等に蛍光着色剤を2種以上併用する方法が開示されているが、一般的に蛍光着色剤は融点が高く、ポリカーボネート樹脂のように成形温度が高い樹脂には適しているが、アクリル系樹脂や非晶性ポリオレフィン樹脂等のように成形温度の低い樹脂には、樹脂中で着色剤が十分に分散せず、蛍光持続性を維持できないばかりか、ブリードアウトの発生については、問題を抱えたままである。
【特許文献1】特開平8−48899号
【特許文献2】特開平9−20873号
【特許文献3】特開平9−272814号
【特許文献4】特表2004−506064号
【特許文献5】特開2002−30220号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、透明性、耐折曲げ割れ性に優れ、着色性に優れ、かつ、ブリード性や蛍光持続性に優れたフィルムを形成しうるメタクリル系樹脂組成物、およびメタクリル系樹脂フィルムが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、特定の化学構造式を有する着色性を示す反応性ベンゾピラン系化合物を共重合したメタクリル酸エステル系重合体を含むメタクリル系樹脂組成物または混合物から得られるフィルムが、透明性、耐候性、硬度および耐衝撃性に優れ、また、耐折曲げ割れ性および成形性においても優れ、かつ、ブリード性や蛍光持続性に優れることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
メタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、およびアクリル酸アルキルエステル0〜50重量%を含む単量体混合物を重合することにより得られるメタクリル酸エステル系重合体(X)であって、
メタクリル酸エステル系重合体(X)100重量部に対して、一般式(1)で表される反応性着色剤0.01〜50重量部を共重合してなることを特徴とする、メタクリル酸エステル系重合体
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、R1、R2は互いに独立な炭素数1以上12以下のアルキル基を、R3は水素またはメチル基を、nは1以上8以下の整数を、示す。) (請求項1)、
メタクリル酸エステル系重合体(Y−A)をアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)の存在下において重合することにより得られるメタクリル系樹脂組成物(Y)であって、
メタクリル酸エステル系重合体(Y−A)が、メタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、およびアクリル酸アルキルエステル0〜50重量%を含む単量体混合物を重合することにより得られ、
アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)が、アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%およびメタクリル酸アルキルエステル50〜0重量%を含む単量体混合物(b)および、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体を共重合することにより得られ、
かつ、
メタクリル系樹脂組成物(Y)100重量部に対して、一般式(1)で表される反応性ベンゾピラン系化合物0.01〜30重量部を共重合してなることを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物
【0013】
【化4】

【0014】
(式中、R1、R2は互いに独立な炭素数1以上12以下のアルキル基を、R3は水素またはメチル基を、nは1以上8以下の整数を、示す。) (請求項2)、
メタクリル酸エステル系重合体(C−A)をアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(C−B)の存在下において重合することにより得られるメタクリル系樹脂組成物(C)100重量部および、と請求項1記載のメタクリル酸エステル系重合体および/または請求項2記載のメタクリル系樹脂組成物0.1〜100重量部からなるメタクリル系樹脂混合物(Z)であって、
メタクリル酸エステル系重合体(C−A)が、メタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、およびアクリル酸アルキルエステル0〜50重量%を含む単量体混合物を重合することにより得られ、
アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(C−B)が、アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%およびメタクリル酸アルキルエステル50〜0重量%を含む単量体混合物(b)および、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体を共重合することにより得られることを特徴とする、メタクリル系樹脂混合物(請求項3)、
請求項2に記載のメタクリル系樹脂組成物(Y)を成形してなることを特徴とする、フィルム(請求項4)、
請求項3に記載のメタクリル系樹脂混合物(Z)を成形してなることを特徴とする、フィルム(請求項5)および
請求項4または5記載のフィルムを積層してなることを特徴とする、積層品(請求項6)
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により得られる着色されたメタクリル系樹脂組成物を成形してなるフィルムは、着色性を示す単量体を共重合することによって着色剤の添加に伴う問題点を解決しつつ、フィルムの必要特性である透明性および耐折曲げ割れ性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明におけるメタクリル酸エステル系重合体(X)は、メタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%およびアクリル酸アルキルエステル0〜50重量%を含む単量体混合物を、少なくとも1段以上で重合させてなるものである。より好ましくは、メタクリル酸アルキルエステル60〜100重量%、およびアクリル酸アルキルエステル0〜40重量%である。アクリル酸アルキルエステルが50重量%を超えると、得られるメタクリル系樹脂組成物から形成しうるフィルムの耐熱性および硬度が低下する傾向がある。
【0017】
本発明におけるメタクリル酸エステル系重合体(X)を構成するメタクリル酸アルキルエステルは、重合反応性やコストの点からアルキル基の炭素数が1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル等があげられ、これらの単量体は1種または2種以上が併用されてもよい。
【0018】
本発明におけるメタクリル酸エステル系重合体(X)を構成するアクリル酸アルキルエステルは、重合反応性やコストの点から、アルキル基の炭素数が1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等があげられ、これらの単量体は1種または2種以上が併用されてもよい。
【0019】
本発明のメタクリル酸エステル系重合体(X)においては、必要に応じて、メタクリル酸アルキルエステルおよびアクリル酸アルキルエステルに対し共重合可能なエチレン系不飽和単量体を共重合してもかまわない。これらの共重合可能なエチレン系不飽和単量体としては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル誘導体、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等のアクリル酸およびその塩、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル、アクリルアミド、N−メチロ−ルアクリルアミド等のアクリル酸アルキルエステル誘導体、メタクリル酸、メアクリル酸ナトリウム、メタアクリル酸カルシウム等のメタクリル酸およびその塩、メタクリルアミド、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸アルキルエステル誘導体等があげられ、これらの単量体は2種以上が併用されてもよい。
【0020】
本発明において用いられるメタクリル酸エステル系重合体(X)は、一般式(1)で表される反応性ベンゾピラン系化合物を共重合してなる着色されたメタクリル酸エステル系重合体である。
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、R1、R2は互いに独立な炭素数1以上12以下のアルキル基を、R3は水素またはメチル基を、nは1以上8以下の整数を、示す。)
【0023】
本発明のメタクリル酸エステル系重合体(X)に一般式(1)で表される反応性着色剤を共重合することにより、着色剤の溶出(ブリードアウト)を防止することができる。
【0024】
本発明における一般式(1)で表される反応性ベンゾピラン系化合物における置換(メタ)アクリル酸アルキルエステルの炭素数であるn数は、1以上8以下が好ましく、1以上4以下がより好ましい。反応性ベンゾピラン系化合物としては、具体的には、例えば、メタクリル酸メチル置換ベンゾピラン、アクリル酸メチル置換ベンゾピラン、メタクリル酸エチル置換ベンゾピラン、アクリル酸エチル置換ベンゾピラン、メタクリル酸プロピル置換ベンゾピラン、アクリル酸プロピル置換ベンゾピラン、メタクリル酸ブチル置換ベンゾピラン、アクリル酸ブチル置換ベンゾピラン、メタクリル酸ヘキシル置換ベンゾピラン、アクリル酸ヘキシル置換ベンゾピラン、メタクリル酸オクチル置換ベンゾピラン、アクリル酸オクチル置換ベンゾピラン等があげられる。これらのうちでも、コストおよび取り扱い性から、メタクリル酸メチル置換ベンゾピランが好ましい。
【0025】
本発明における一般式(1)で表される反応性ベンゾピラン系化合物におけるR1、R2は、それぞれ独立した炭素数1以上12以下のアルキル基であることが好ましく、炭素数1以上8以下のアルキル基であることがより好ましい。R1、R2の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−オクチル基,2−エチルヘキシル基等が挙げられる。これらのうちでも、工業的観点から、エチル基が好ましい。
【0026】
本発明のメタクリル酸エステル系重合体(X)における一般式(1)で表される反応性ベンゾピラン系化合物の共重合比率は、メタクリル酸エステル系重合体(X)100重量部に対して、0.01〜50重量部が好ましく、0.01〜40重量部がより好ましく、0.01〜30重量部がさらに好ましく、0.1〜30重量部が特に好ましい。一般式(1)で表される反応性ベンゾピラン系化合物の共重合比率が0.01重量部未満では、得られるメタクリル系樹脂混合物から形成しうるフィルムの着色性が低下する傾向にあり、50重量部を超えると、フィルムの耐衝撃性および耐折曲げ割れ性が低下する傾向にある。
【0027】
本発明における一般式(1)で表される反応性着色剤の共重合方法も特に限定されず、メタクリル酸エステル系重合体(X)への共重合方法としては、公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法または溶液重合法が適用可能であるが、工業的観点から、懸濁重合法が特に好ましい。
【0028】
本発明のメタクリル酸エステル系重合体(X)の重合における開始剤としては、公知の有機系過酸化物、無機系過酸化物、アゾ化合物などの開始剤を使用することができる。具体的には、例えば、t−ブチルハイドロパ−オキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパ−オキサイド、スクシン酸パ−オキサイド、パ−オキシマレイン酸t−ブチルエステル、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパ−オキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、イソプロピル−t−ブチルパーオキシカーボネート、過安息香酸ブチル、1,1−ビス(アルキルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(アルキルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物や、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物、さらにアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物も使用される。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
前記有機系過酸化物は、重合系にそのまま添加する方法、単量体に混合して添加する方法、乳化剤水溶液に分散させて添加する方法など、公知の添加法で添加することができるが、透明性の点から、単量体に混合して添加する方法が好ましい。
【0030】
前記懸濁重合に使用される分散剤としては、一般的に懸濁重合に用いられる分散剤、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等の高分子分散剤、例えば、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ピロリン酸マグネシウム等の難水溶性無機塩があげられる。そして、難水溶性無機塩を用いる場合には、α−オレフィンスルフォン酸ソーダ、ドデシルベンゼンスルフォン酸ソーダ等のアニオン性界面活性剤を併用すると分散安定性が増すので効果的である。また、これらの分散剤は得られる樹脂粒子の粒子径を調整するために、重合中に1回以上追加することもある。
【0031】
得られたメタクリル酸エステル系重合体(X)のスラリーは、通常の脱水、洗浄および乾燥の操作により、樹脂組成物が分離、回収される。
【0032】
本発明において用いられるメタクリル系樹脂組成物(Y)は、メタクリル酸エステル系重合体(Y−A)を、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)の存在下において重合することにより得られる多層構造重合体である。
【0033】
それらのうちでも、本発明において用いられるメタクリル系樹脂組成物(Y)としては、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)、次いでメタクリル酸エステル系重合体(Y−A)である2層構造重合体が、耐折曲げ割れ性および成形性(フィルムの薄膜化)の点から好ましい。ただしが、例えば、メタクリル酸エステル系重合体(Y−A)、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)さらに、メタクリル酸エステル系重合体(Y−A)と順次段階的に重合するような3層構造重合体であっても構わない。
【0034】
本発明におけるメタクリル酸エステル系重合体(Y−A)は、メタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%およびアクリル酸アルキルエステル0〜50重量%を含む単量体混合物を少なくとも1段以上で重合させてなるものである。より好ましくは、メタクリル酸アルキルエステル60〜100重量%、およびアクリル酸アルキルエステル0〜40重量%である。アクリル酸アルキルエステルが50重量%を超えると、得られるメタクリル系樹脂組成物から形成しうるフィルムの耐熱性および硬度が低下する傾向がある。
【0035】
本発明におけるメタクリル酸エステル系重合体(Y−A)を構成するメタクリル酸アルキルエステルは、重合反応性やコストの点からアルキル基の炭素数が1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル等があげられ、これらの単量体は1種または2種以上が併用されてもよい。
【0036】
本発明におけるメタクリル酸エステル系重合体(Y−A)を構成するアクリル酸アルキルエステルは、重合反応性やコストの点からアルキル基の炭素数が1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等があげられ、これらの単量体は1種または2種以上が併用されてもよい。
【0037】
また、本発明のメタクリル酸エステル系重合体(Y−A)においては、必要に応じて、メタクリル酸アルキルエステルおよびアクリル酸アルキルエステルに対し共重合可能なエチレン系不飽和単量体を共重合してもかまわない。これらの共重合可能なエチレン系不飽和単量体としては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル誘導体、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等のアクリル酸およびその塩、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル、アクリルアミド、N−メチロ−ルアクリルアミド等のアクリル酸アルキルエステル誘導体、メタクリル酸、メアクリル酸ナトリウム、メタアクリル酸カルシウム等のメタクリル酸およびその塩、メタクリルアミド、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸アルキルエステル誘導体等があげられ、これらの単量体は2種以上が併用されてもよい。
【0038】
本発明において用いられるアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)は、アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%およびメタクリル酸アルキルエステル50〜0重量%を含む単量体混合物(y−b)および、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体からなる混合物を少なくとも1段以上で共重合させてなるものである。単量体混合物(y−b)は、より好ましくは、アクリル酸アルキルエステル60〜100重量%およびメタクリル酸アルキルエステル40〜0重量%である。メタクリル酸アルキルエステルが50重量%を超えると、得られるメタクリル系樹脂組成物から形成しうるフィルムの耐折曲げ割れ性が低下する傾向がある。
【0039】
また、本発明のアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)においては、必要に応じて、メタクリル酸アルキルエステルおよびアクリル酸アルキルエステルと共重合可能なエチレン系不飽和単量体を共重合してもかまわない。
【0040】
本発明におけるアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)は、1分子あたり2個以上の非共役な反応性二重結合を有する多官能性単量体が共重合されているため、得られる重合体が架橋弾性を示す。また、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)の重合時に反応せずに残った一方の反応性官能基(二重結合)がグラフト交叉点となって、一定割合のメタクリル酸エステル系共重合体(Y−A)が、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)にグラフト化される。このことにより、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)が、メタクリル酸エステル系共重合体(Y−A)中に不連続かつ均一に分散される。
【0041】
本発明において用いられる多官能性単量体としては、アリルメタクリレ−ト、アリルアクリレ−ト、トリアリルシアヌレ−ト、トリアリルイソシアヌレ−ト、ジアリルフタレ−ト、ジアリルマレ−ト、ジビニルアジペ−ト、ジビニルベンゼンエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、ジビニルベンゼンエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、ジエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、ジエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリアクリレ−ト、テトラメチロ−ルメタンテトラメタクリレ−ト、テトラメチロ−ルメタンテトラアクリレ−ト、ジプロピレングリコ−ルジメタクリレ−ト、ジプロピレングリコ−ルジアクリレ−ト等があげられる。これらは、単独で使用してもよく、また、2種以上を併用してもよい。
【0042】
本発明のアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)における多官能性単量体の添加量は、前記単量体混合物(y−b)100重量部に対して、0.05〜20重量部が好ましく、0.1〜10重量部がより好ましい。多官能性単量体の添加量が0.05重量部未満では、メタクリル系樹脂組成物から形成しうるフィルムの耐衝撃性および耐折曲げ割れ性が低下する傾向があり、20重量部を超えると、耐衝撃性および耐折曲げ割れ性が低下する傾向がある。
【0043】
本発明のアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)で用いられるアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルおよび、これらと共重合可能なエチレン系不飽和単量体の具体例は、前記メタクリル酸エステル系重合体(Y−A)に使用したものがあげられる。
【0044】
本発明において用いられるメタクリル系樹脂組成物(Y)は、一般式(1)で表される反応性着色剤を共重合してなるメタクリル系樹脂組成物である。
【0045】
【化6】

【0046】
(式中、R1、R2は互いに独立な炭素数1以上12以下のアルキル基を、R3は水素またはメチル基を、nは1以上8以下の整数を、示す。)
【0047】
本発明のメタクリル系樹脂組成物(Y)に一般式(1)で表される反応性ベンゾピラン系化合物を共重合することにより、着色剤の溶出(ブリードアウト)を防止することができる。
【0048】
本発明のメタクリル系樹脂組成物(Y)における一般式(1)で表される反応性ベンゾピラン系化合物の共重合比率は、メタクリル系樹脂組成物(Y)100重量部に対して、0.01〜30重量部が好ましく、0.01〜25重量部がより好ましく、0.01〜20重量部がさらに好ましく、0.05〜20重量部が特に好ましい。一般式(1)で表される反応性ベンゾピラン系化合物の共重合比率が0.01重量部未満では、得られるメタクリル系樹脂組成物から形成しうるフィルムの着色性が低下する傾向にあり、30重量部を超えると、フィルムの耐衝撃性および耐折曲げ割れ性が低下する傾向にある。
【0049】
本発明における一般式(1)で表される反応性ベンゾピラン系化合物の共重合は、メタクリル系樹脂組成物(Y)のいずれの層において共重合されていても構わないが、メタクリル酸エステル系共重合体(Y−A)ばかりではなく、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)にも共重合されていることがフィルムの着色性の点から好ましく、反応性着色剤はメタクリル系樹脂組成物(Y)全体に均一に共重合されることが、フィルムの着色性の点からより好ましい。
【0050】
本発明における一般式(1)で表される反応性ベンゾピラン系化合物の共重合方法も特に限定されず、メタクリル系樹脂組成物(Y)の製造中に共重合することが好ましい。メタクリル系樹脂組成物(Y)における共重合方法としては、公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法または溶液重合法が適用可能であるが、工業的観点から、乳化重合法が特に好ましい。
【0051】
本発明のメタクリル酸エステル系重合体(Y−A)、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)の重合における開始剤としては、公知の有機系過酸化物、無機系過酸化物、アゾ化合物などの開始剤を使用することができる。具体的には、例えば、t−ブチルハイドロパ−オキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパ−オキサイド、スクシン酸パ−オキサイド、パ−オキシマレイン酸t−ブチルエステル、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物や、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物、さらにアゾビスイソブチロニトリル等の油溶性開始剤も使用される。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらの開始剤は、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、アスコルビン酸、ヒドロキシアセトン酸、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウムの錯体なとの還元剤と組み合わせた通常のレドックス型開始剤として使用してもよい。
【0052】
前記有機系過酸化物は、重合系にそのまま添加する方法、単量体に混合して添加する方法、乳化剤水溶液に分散させて添加する方法など、公知の添加法で添加することができるが、透明性の点から、単量体に混合して添加する方法あるいは乳化剤水溶液に分散させて添加する方法が好ましい。
【0053】
また、前記有機系過酸化物は、重合安定性、粒子径制御の点から、2価の鉄塩等の無機系還元剤および/またはホルムアルデヒドスルホキシル酸ソ−ダ、還元糖、アスコルビン酸等の有機系還元剤と組み合わせたレドックス系開始剤として使用するのが好ましい。
【0054】
前記乳化重合に使用される界面活性剤にも特に限定はなく、通常の乳化重合用の界面活性剤であれば使用することができる。具体的には、例えばアルキルスルフォン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノ−ル類、脂肪族アルコ−ル類とプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとの反応生成物等の非イオン性界面活性剤等が示される。これらの界面活性剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。更に要すれば、アルキルアミン塩等の陽イオン性界面活性剤を使用してもよい。
【0055】
得られたメタクリル系樹脂組成物(Y)のラテックスは、通常の凝固、洗浄および乾燥の操作により、または、スプレ−乾燥、凍結乾燥などによる処理により、樹脂組成物が分離、回収される。
【0056】
本発明において用いられるメタクリル系樹脂組成物(C)は、メタクリル酸エステル系重合体(C−A)をアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(C−B)の存在下において重合することにより得られる多層構造重合体である。
【0057】
それらのうちでも、本発明において用いられるメタクリル系樹脂組成物(C)としては、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(C−B)、次いでメタクリル酸エステル系重合体である2層構造重合体が、耐折曲げ割れ性および成形性(フィルムの薄膜化)の点から好ましいが、例えば、メタクリル酸エステル系重合体(C−A)、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(C−B)さらに、メタクリル酸エステル系重合体(C−A)と順次段階的に重合するような3層構造重合体であっても構わない。
【0058】
本発明のメタクリル系樹脂組成物(C)における、メタクリル酸エステル系重合体(C−A)およびアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(C−B)の構成および重合方法は、基本的に、メタクリル系樹脂組成物(Y)において説明した、メタクリル酸エステル系重合体(Y−A)およびアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)の構成および重合方法と同様である。
【0059】
メタクリル系樹脂組成物(C)のラテックスは、通常の凝固、洗浄および乾燥の操作により、または、スプレ−乾燥、凍結乾燥などによる処理により、樹脂組成物が分離、回収される。
【0060】
本発明において用いられるメタクリル系樹脂混合物(Z)は、メタクリル系樹脂組成物(C)100重量部および、メタクリル酸エステル系重合体(X)および/またはメタクリル系樹脂組成物(Y)0.1〜200重量部からなるメタクリル系樹脂混合物である。
【0061】
本発明におけるメタクリル酸エステル系重合体(X)および/またはメタクリル系樹脂組成物(Y)の混合比率は、メタクリル系樹脂組成物(C)100重量部に対して、0.1〜200重量部が好ましく、0.1〜150重量部がより好ましく、0.1〜100重量部がさらに好ましく、1〜100重量部が特に好ましい。メタクリル酸エステル系重合体(X)および/またはメタクリル系樹脂組成物(Y)の混合比率が0.1重量部未満では、得られるメタクリル系樹脂組成物から形成しうるフィルムの着色性が低下する傾向にあり、200重量部を超えると、フィルムの耐衝撃性および耐折曲げ割れ性が低下する傾向にある。
【0062】
本発明で得られるメタクリル系樹脂組成物(Y)およびメタクリル系樹脂混合物(Z)は、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形などの各種プラスチック加工法によって様々な成形品に加工できる。
【0063】
本発明のメタクリル系樹脂組成物(Y)およびメタクリル系樹脂混合物(Z)は、特にフィルムとして有用であり、例えば、通常の溶融押出法であるインフレーション法やTダイ押出法、あるいはカレンダー法、更には溶剤キャスト法等により良好に加工される。また、必要に応じて、フィルムを成形する際、フィルム両面をロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、特にガラス転移温度以上の温度に加熱したロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、表面性のより優れたフィルムを得ることも可能である。また、目的に応じて、フィルムの積層成形や、二軸延伸によるフィルムの改質も可能である。
【0064】
また、本発明のメタクリル系樹脂組成物(Y)およびメタクリル系樹脂混合物(Z)には、必要に応じて、メタクリル酸エステル系重合体(X)、メタクリル系樹脂組成物(Y)およびメタクリル系樹脂組成物(C)以外のメタクリル系樹脂、ポリグルタルイミド、無水グルタル酸ポリマー、ラクトン環化メタクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂等を配合することも可能である。ブレンドの方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0065】
本発明のメタクリル系樹脂組成物(Y)およびメタクリル系樹脂混合物(Z)には、着色を補正するために無機系顔料または有機系染料を、熱や光に対する安定性を更に向上させるために抗酸化剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤などを、あるいは、抗菌、脱臭剤、滑剤等を、単独または2種以上組み合わせて添加してもよい。
【0066】
本発明のメタクリル系樹脂組成物(Y)およびメタクリル系樹脂混合物(Z)から得られるフィルムの厚みは、10〜300μmが好ましく、10〜200μmがより好ましい。フィルムの厚みが10μm未満では、フィルムの加工性が低下する傾向があり、300μmを超えると、得られるフィルムの透明性が低下する傾向がある。
【0067】
本発明のメタクリル系樹脂組成物(Y)およびメタクリル系樹脂混合物(Z)より得られたフィルムは、必要に応じて、公知の方法によりフィルム表面の光沢を低減させることができる。例えば、メタクリル系樹脂組成物(Y)およびメタクリル系樹脂混合物(Z)に無機充填剤または架橋性高分子粒子を混練する方法等で実施することが可能である。また、得られるフィルムをエンボス加工により、フィルム表面の光沢を低減させることも可能である。
【0068】
本発明のメタクリル系樹脂組成物またはメタクリル系樹脂混合物より得られたフィルムは、金属、プラスチックなどに積層して用いることができる。フィルムの積層方法としては、積層成形や、鋼板などの金属板に接着剤を塗布した後、金属板にフィルムを載せて乾燥させ貼り合わせるウエットラミネ−ト、ドライラミネ−ト、エキストル−ジョンラミネ−ト、ホットメルトラミネ−トなどがあげられる。
【0069】
プラスチック部品にフィルムを積層する方法としては、フィルムを金型内に配置しておき、射出成形にて樹脂を充填するインサート成形またはラミネートインジェクションプレス成形、フィルムを予備成形した後に金型内に配置し、射出成形にて樹脂を充填するインモールド成形などがあげられる。
【0070】
本発明のメタクリル系樹脂組成物またはメタクリル系樹脂混合物から得られるフィルム積層品は、道路標識,トラックテープなどの再帰性反射材用途、自動車内装材,自動車外装材などの塗装代替用途、窓枠,浴室設備,壁紙,床材などの建材用部材、日用雑貨品、家具や電気機器のハウジング、ファクシミリなどのOA機器のハウジング、電気または電子装置の部品などに使用することができる。また、成形品としては、照明用レンズ、自動車ヘッドライト、光学レンズ、光ファイバ、光ディスク、液晶用導光板、液晶用フィルム、滅菌処理の必要な医療用品、電子レンジ調理容器、家電製品のハウジング、玩具またはレクリエーション品目などに使用することができる。
【実施例】
【0071】
次に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
なお、以下の実施例および比較例で測定した物性の各測定方法は、次のとおりである。
【0073】
(重合転化率の評価)
得られたメタクリル酸エステル系重合体(X)スラリー、メタクリル系樹脂組成物(Y)またはメタクリル系樹脂組成物(C)ラテックスを、熱風乾燥機内にて120℃で1時間乾燥して固形成分量を求め、100×固形成分量/仕込み単量体(%)により重合転化率(%)を算出した。
【0074】
(透明性の評価)
得られたフィルムの透明性は、JIS K 7361−1に準じて、温度23℃±2℃および湿度50%±5%の条件にてヘイズを測定した。
【0075】
(耐折曲げ割れ性の評価)
得られたフィルムを1回180度折り曲げて、折り曲げ部の変化を、n=5にて目視で評価した。
○:全てに割れが認められない。
△:割れが認められたり、認められなかったりする。
×:全てに割れが認められる。
【0076】
(着色剤のブリード性の評価)
フィルム作成時のプレス板への付着状況を観察し、以下の基準により評価をした。
○:プレス板上への着色剤の付着が、フィルム接触面積の10%以下で認められる。
△:プレス板上への着色剤の付着が、フィルム接触面積の10%超50%未満で認められる。
×:プレス板上への着色剤の付着が、フィルム接触面積の50%以上で認められる。
【0077】
(蛍光持続性の評価)
得られたフィルムを用い、下記の条件に基づいて促進耐候性試験を行い、1,000時間曝露後のフィルムの蛍光持続性を目視確認より判断した。
○:蛍光性を有する。
×:蛍光性を有しない。
促進耐候性試験方法
試験方法 : JIS A 1415
試験装置種類: WS型 サンシャインカーボンアーク燈を用いるもの

試験機 : スガ試験機製サンシャインウェザーメーター
WEL−SUN−DCH−B型
試験条件 : ブラックパネル温度;63℃
雨あり(60分中12分スプレー)
照射照度;30W/m2
【0078】
また、製造例、実施例および比較例中の「部」は重量部、「%」は重量%を表す。また、略号はそれぞれ下記の物質を表す。
BA:アクリル酸ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
反応性ベンゾピラン:メタクリル酸メチル置換ベンゾピラン
【0079】
【化7】

【0080】
LP:ラウロイルパーオキサイド
CHP:クメンハイドロパーオキサイド
tDM:ターシャリドデシルメルカプタン
AlMA:メタクリル酸アリル
【0081】
(製造例)反応性着色剤(メタクリル酸メチル置換ベンゾピラン)の製造
1)3,4−ジアミノ安息香酸エチル1' の合成(step1)
【0082】
【化8】

【0083】
3,4−ジアミノ安息香酸1(8.0g,52.6mmol)を エタノール(150ml)中に懸濁させ、硫酸(15.5g)を加えた。そして、攪拌しながら混合物を80℃にて6時間加熱還流した。エタノールを除去後、残渣を水に溶解させ、炭酸ナトリウムで塩基性にした。生成した沈殿をろ過し、水とアセトン/ヘキサン(1/3)で洗浄すると、 安息香酸エチル1’が得られた(8.05g,収率85%)。
【0084】
2)3,4−ジアミノベンジルアルコール2の合成(step2)
【0085】
【化9】

【0086】
窒素雰囲気下、安息香酸エチル1’(1.80g,10.0mmol)の無水テトラヒドロフラン(20ml)溶液中に水素化ホウ素リチウム(0.29g,13.0mmol)を室温で攪拌しながら加えた。混合物を約6時間加熱還流した。放冷後、氷水を徐々に加えて過剰の水素化剤を分解させた。生じた沈殿をろ過後、ろ液を酢酸エチルで数回抽出して、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去後、残渣をカラムクロマトグラフィー(AcOEt/MeOH=5/1)で精製すると、ベンジルアルコール2(0.54g,収率39%)が未反応原料1’(0.85g,回収率47%)と共に得られた。
【0087】
3)4−(t−ブチルジフェニルシリルオキシメチル)−1,2−ベンゼンジアミン3の合成(step3)
【0088】
【化10】

【0089】
窒素雰囲気下、無水塩化メチレン(12ml)中のベンジルアルコール2(0.33g,2.4mmol)の懸濁液に、トリエチルアミン(0.36g,3.6mmol)、N,N−ジメチルアミノピリジン(30mg,0.24mmol)、そして、t−ブチルジフェニルクロロシラン(0.79g,2.9mmol)を攪拌しながら室温で加えた。混合物をこの温度で3時間攪拌した。反応後は飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて洗浄し、有機層を分離してさらに飽和食塩水で洗浄した。その後硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去後、残渣をカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/AcOEt=1/1)で精製すると、ベンゼンジアミン3が得られた(0.75g,収率83%)。
【0090】
4)2−シアノメチル−5−(t−ブチルジフェニルシリルオキシメチル)ベンズイミダゾール4の合成(step4)
【0091】
【化11】

【0092】
メタノール(22ml)中のベンゼンジアミン3(33.3g,8.86mmol)の溶液にメチルシアノアセチミダート塩酸塩(2.42g,17.82mmol)を室温で加えた。混合物を室温で2時間攪拌した。反応後は飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、生じた沈殿をろ過し、ろ液を酢酸エチルで数回抽出した。有機層を分離してさらに飽和食塩水で洗浄した。その後硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去後、残渣をカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/AcOEt=1/1)で精製すると、ベンズイミダゾール4が得られた(3.21g,収率85%)。
【0093】
5)t−ブチルジフェニルシリルオキシメチル置換イミノクマリン5の合成(step5)
【0094】
【化12】

【0095】
アセトニトリル(5ml)中のベンズイミダゾール4(0.50g,1.18mmol)の溶液にピペリジン(10mg、0.12mmol)、酢酸(7mg,0.12mmol)、そして4−ジエチルアミノサリチルアルデヒド(0.22g,1.24mmol)を室温で加えた。その後、混合物を70℃にて7時間加熱環流した。放冷後、水を加え、生成した沈殿をろ過し、水とアセトニトリルで洗浄すると、イミノクマリン5が得られた (0.49g,収率69%)。
【0096】
6)t−ブチルジフェニルシリルオキシメチル置換ベンゾピラン7の合成(step6)
【0097】
【化13】

【0098】
エタノール(4ml)中のイミノクマリン5(0.67g,1.1mmol)の溶液にマロノニトリル(0.08g,1.2mmol)を加えた。混合物を攪拌しながら80℃にて7時間加熱還流した。溶媒を留去後、残渣をカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/AcOEt=30/1)で精製すると、ベンゾピラン7が得られた(0.37g,収率51%)。
【0099】
7)ヒドロキシメチル置換ベンゾピラン8の合成(step7)
【0100】
【化14】

【0101】
ベンゾピラン7(70mg,0.10mmol)に室温で0.5M塩酸のメタノール溶液(2ml)を加えた。混合物をこの温度で6時間攪拌した。反応後は飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて塩化メチレンで抽出した。その後硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去後、残渣をカラムクロマトグラフィー(AcOEt/MeOH=5/1)で精製すると、ベンゾピラン8が得られた(15mg,収率36%)。
【0102】
8)メタクリル酸メチル置換ベンゾピラン6 の合成(step8)
【0103】
【化15】

【0104】
窒素雰囲気下、無水塩化メチレン(1ml)中のベンゾピラン8(15mg,0.036mmol)の溶液に、トリエチルアミン(10mg,0.09mmol)、N,N−ジメチルアミノピリジン(1mg,0.007mmol)を加え、メタクリル酸塩化物(10mg,0.065mmol)を攪拌しながら10℃以下で加えた。混合物を室温で3時間攪拌した。反応後は飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて洗浄した。その後硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去後、残渣をカラムクロマトグラフィー(AcOEt/MeOH=5/1)で精製すると、ベンゾピラン6が得られた(7mg,収率40%)。
【0105】
(製造例1)メタクリル酸エステル系重合体の製造
攪拌機付き1L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 100部
α−オレフィンスルホン酸ナトリウム 0.05部
第三リン酸カルシウム 0.5部
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、表1中(1)に示した単量体混合物(BA10%、MMA90%からなる単量体混合物100部に対しtDM0.2部、LP0.2部および反応性着色剤2部からなる単量体混合物)を一括で添加し、内温を80℃にし、2.5時間重合を継続し、メタクリル酸エステル系重合体を得た。重合転化率は98.5%であった。得られたスラリーを脱水、水洗、乾燥して樹脂ピーズ(1)を得た。
【0106】
【表1】

【0107】
(製造例2〜4)
単量体組成を表1のように変更した以外は、製造例1と同様に重合を行い、脱水、水洗、乾燥して樹脂ビーズ(2)を得た。ただし、製造例(3)および(4)では重合中にスラリーが凝集した為、樹脂ビーズが得られず、以後の評価を行わなかった。
【0108】
(製造例5)メタクリル系樹脂組成物の製造
攪拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 200部
ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム 0.25部
ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.15部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.001部
硫酸第一鉄 0.00025部
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を60℃にし、表2中(1)に示した単量体混合物(B)<すなわち、BA90%およびMMA10%からなる単量体混合物100部に対しAlMA1部およびCHP0.2部からなる単量体混合物30部、および反応性着色剤0.6部>を10部/時間の割合で連続的に添加し、添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)を得た。重合転化率は99.0%であった。
【0109】
その後、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム0.05部を仕込んだ後、内温を60℃にし、表2中(1)に示した単量体混合物(A)[すなわち、BA10%およびMMA90%からなる単量体混合物100部に対しtDM0.5部およびCHP0.5部からなる単量体混合物70部、および反応性着色剤1.4部]を10部/時間の割合で連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、メタクリル系樹脂組成物を得た。重合転化率は98.0%であった。得られたラテックスを塩化カルシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥して樹脂粉末(5)を得た。
【0110】
【表2】

【0111】
(製造例6〜8)
単量体組成を表2のように変更した以外は、製造例11と同様に重合を行い、凝固、水洗、乾燥して樹脂粉末(6),(7)を得た。但し、製造例(8)では重合中にラテックスが凝集した為、樹脂粉体が得られず、以後の評価を行わなかった。
【0112】
(製造例9)
反応性着色剤を構造式(2)で示されるクマリン系蛍光染料Kayaset Yellow SF−G(日本化薬社製)に変更した以外は、製造例1と同様に重合を行い、脱水、水洗、乾燥して樹脂ビーズ(9)を得た。
【0113】
【化16】

【0114】
(実施例1〜6、比較例1〜4)
製造例で得られた樹脂粉末を表3に示した割合で1分間ハンドブレンドし、プレス機(神藤金属工業所製 シントーF型)を用いて190℃、50kg/cm2加圧に設定して、厚み100μmのフィルムを得た。
【0115】
比較例(2)は、得られた樹脂粉末(7)100重量部に対し、構造式(2)で示されるクマリン系蛍光染料Kayaset Yellow SF−G(日本化薬社製)を2部ブレンドし、プレスによりフィルムを得た。
【0116】
比較例(3)は、得られた樹脂粉末(7)100重量部に対し、構造式(3)で示されるベンゾピラン系蛍光染料Kayaset Red SF−B(日本化薬社製)を2部ブレンドし、プレスによりフィルムを得た。
【0117】
【化17】

【0118】
得られたフィルムを用いた種々の特性を評価し、その結果を表3に示した。
【0119】
【表3】

【0120】
メタクリル酸エステル系重合体(X)、メタクリル系樹脂組成物(Y)の単量体組成比または混合量が、本発明の範囲を外れると、透明性、耐折曲げ割れ性および着色性に優れたフィルムを得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、およびアクリル酸アルキルエステル0〜50重量%を含む単量体混合物を重合することにより得られるメタクリル酸エステル系重合体(X)であって、
該メタクリル酸エステル系重合体(X)100重量部に対して、一般式(1)で表される反応性ベンゾピラン系化合物0.01〜50重量部を共重合してなることを特徴とする、メタクリル酸エステル系重合体。
【化1】

(式中、R1、R2は互いに独立な炭素数1以上12以下のアルキル基を、R3は水素またはメチル基を、nは1以上8以下の整数を、示す。)
【請求項2】
メタクリル酸エステル系重合体(Y−A)を、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)の存在下において重合することにより得られるメタクリル系樹脂組成物(Y)であって、
メタクリル酸エステル系重合体(Y−A)が、メタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、およびアクリル酸アルキルエステル0〜50重量%を含む単量体混合物を重合することにより得られ、
アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(Y−B)が、アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%およびメタクリル酸アルキルエステル50〜0重量%を含む単量体混合物(b)および、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体を共重合することにより得られ、
かつ、
該メタクリル系樹脂組成物(Y)100重量部に対して、一般式(1)で表される反応性ベンゾピラン系化合物0.01〜30重量部を共重合してなることを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物。
【化2】

(式中、R1、R2は互いに独立な炭素数1以上12以下のアルキル基を、R3は水素またはメチル基を、nは1以上8以下の整数を、示す。)
【請求項3】
メタクリル酸エステル系重合体(C−A)をアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(C−B)の存在下において重合することにより得られるメタクリル系樹脂組成物(C)100重量部および、請求項1記載のメタクリル酸エステル系重合体(X)および/または請求項2記載のメタクリル系樹脂組成物(Y)0.1〜200重量部からなるメタクリル系樹脂混合物(Z)であって、
メタクリル酸エステル系重合体(C−A)が、メタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、およびアクリル酸アルキルエステル0〜50重量%を含む単量体混合物を重合することにより得られ、
アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(C−B)が、アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%およびメタクリル酸アルキルエステル50〜0重量%を含む単量体混合物(b)および、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体を共重合することにより得られることを特徴とする、着色されたメタクリル系樹脂混合物。
【請求項4】
請求項2に記載のメタクリル系樹脂組成物(Y)を成形してなることを特徴とする、フィルム。
【請求項5】
請求項3に記載のメタクリル系樹脂混合物(Z)を成形してなることを特徴とする、フィルム。
【請求項6】
請求項4または5記載のフィルムを積層してなることを特徴とする、積層品。

【公開番号】特開2006−348211(P2006−348211A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177574(P2005−177574)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】