説明

着色インキ組成物およびそれを用いた視認性向上シート

【課題】光を透過可能な複数のプリズム部の間に並列して設けられた楔形の溝に着色インキ組成物を充填し、硬化させて光吸収部とした視認性向上シートにおいて、インキ組成物の保存安定性が高く、黒色濃度にも優れる黒色インキ組成物を用いて視認性向上シートを作製すること。
【解決手段】プリズム部を構成する材料よりも屈折率の小さい透明な電離放射線硬化型樹脂組成物と、長軸方向の平均繊維長が5〜50μmであって、アスペクト比が10以上の着色繊維状フィラーと、を含み、前記電離放射線硬化型樹脂組成物に対し、前記着色繊維状フィラーを重量基準において1〜30%含む着色インキ組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色インキ組成物に関し、より詳細には、表示装置の前面に設置し、表示装置の性能、とりわけ、表示装置に外光があたった時のコントラスト低下や、ぎらつき、像の映り込み等による性能の低下を防止する機能や、表示装置の有効光を好適に拡散させて視野角を広くする機能等、を有する視認性向上シートを作製する際に用いられる着色インキ組成物、およびその着色インキ組成物を用いた視認性向上シートに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置では、通常、観察者がどのような位置から見ても良好な画像が得られるように、視野角が広いことが好まれる。一方、例えば通勤電車の中で仕事をする場合やATM等の公共の場に設置された液晶表示装置では、周りの人から画面を覗かれては困ることがあり、このような場合には液晶表示装置の観察者のみに見え、他人からは見えないようにプライバシーを保護するための覗き見防止機能が求められている。また、カーナビゲーションシステム等の車載型の液晶表示装置においては、夜間などに液晶表示装置の画面が窓ガラスに映り込み、視界を遮る現象がおこるため、映り込み防止機能が求められており、光線出光角度の制御が望まれている。
【0003】
このような要求に対して、例えば、特開2006−119365号公報(特許文献1)には、光透過層と遮光層とを交互に並べた構造であるルーバータイプの視認性向上シートが提案されており、遮光層として、光透過層を構成する材料にカーボンブラックやカーボンファイバー等の充填材を混合したものを用いることが開示されている。
【0004】
一方、上記のようなルーバー型の視認性向上シートは、斜め方向の映像光を単純にカットするものであるため、表示装置の種類によっては、観測者に到達させるべき映像光の拡散光源を減少させてしまうことにもなるため、表示画面の輝度が低下する場合があった。
【0005】
上記の問題を解消するため、外光を遮光してコントラストを向上させ、かつ二重像の発生も減少させることができる視認性向上シートを液晶表示装置の光源と液晶パネルの間に設置することが提案されている。このような視認性向上シートとして種々の構造のものが提案されており、例えば、断面形状が台形のレンズ部を所定の間隔で配列するとともに、隣り合うレンズ部間の楔形部には、レンズ部よりも屈折率の低い材料とカーボン顔料等とを充填した構造を有するものが提案されている(例えば、特開2006−85050号公報等:特許文献2)。
【0006】
そして、楔形部を構成する材料として、電離放射線硬化性樹脂等のレンズ材料にカーボン顔料等の微粒子を混合した組成物を用い、この組成物を楔形部に充填し、電離放射線を照射して硬化させて楔形部を形成することが行われており、この微粒子として、平均粒径が1μmよりも小さすぎると十分な光吸収効果が得られず、また、微粒子が大きすぎると、楔形部に微粒子が充填されなかったり、楔形部ごとの充填率にばらつきが生じ、光学的な斑が生じてしまうことも知られている(例えば、特開2006−184609号公報:特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−119365号公報
【特許文献2】特開2006−85050号公報
【特許文献3】特開2006−184609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、楔形の溝に、カーボン顔料等の微粒子を混合したインキ組成物を充填して光吸収部を形成する場合、ある程度大きい粒子径を有する顔料微粒子を用いる必要がある。しかしながら、平均粒径が1μm以上のカーボン顔料微粒子を用いると、電離放射線硬化性樹脂等に添加してインキ組成物とした場合に、カーボン顔料微粒子がインキ組成物中で沈降してしまい、インキ組成物の保存安定性が不十分な場合があった。また、平均粒径が1μm以上のカーボンブラック粒子を用いると、カーボンブラック粒子を楔形の溝へ充填した際の充填率にも限界があるため、光吸収部の黒色濃度が不十分とされる場合があった。
【0009】
本発明者らは、今般、光吸収部を形成するための電離放射線硬化性樹脂に添加する着色剤として、カーボンブラック顔料に加えて一定量の炭素繊維を混合したものを用いることにより、インキ組成物の保存安定性が向上するとともに、光吸収部の黒色濃度にも優れる黒色インキ組成物を実現できる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0010】
したがって、本発明の目的は、インキ組成物の保存安定性が向上するとともに、光吸収部の黒色濃度にも優れる黒色インキ組成物を提供することである。
【0011】
また、本発明の別の目的は、上記黒色インキ組成物を用いて光吸収部を形成した視認性向上シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による視認性向上シート用着色インキ組成物は、光を透過可能な複数のプリズム部の間に並列して設けられた楔形の溝に着色インキ組成物を充填し、硬化させて光吸収部とした視認性向上シート、に用いられる着色インキ組成物であって、
前記プリズム部を構成する材料よりも屈折率の小さい透明な電離放射線硬化型樹脂組成物と、長軸方向の平均繊維長が5〜50μmであって、アスペクト比が10以上の着色繊維状フィラーと、を含んでなり、
前記電離放射線硬化型樹脂組成物に対し、前記着色繊維状フィラーを重量基準において1〜30%含むものである。
【0013】
また、本発明の態様として、 平均粒子径が1〜5μmのカーボンブラックをさらに含んでなることが好ましい。
【0014】
また、本発明の態様として、平均粒子径が1〜5μmの着色微粒子をさらに含んでなることが好ましい。
【0015】
また、本発明の態様として、前記電離放射線硬化型樹脂組成物に対し、前記カーボンブラックおよび/または前記着色微粒子を重量基準において10〜50%含むことが好ましい。
【0016】
また、本発明の態様として、着色繊維状フィラーと、前記カーボンブラックおよび/または前記着色微粒子とを、1:10〜1:1の割合で含むことが好ましい。
【0017】
また、本発明の態様として、前記着色繊維状フィラーが炭素繊維であることが好ましい。
【0018】
また、本発明の態様として、着色微粒子が黒色であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の態様として、前記電離放射線硬化性樹脂組成物が、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジェン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、及び多価アルコールから選択される多官能化合物の(メタ)アルリレート等のオリゴマーまたはプレポリマーからなることが好ましい。
【0020】
また、本発明の別の態様として、上記着色インキ組成物を用いて作製された視認性向上シートも提供される。
【0021】
さらに、本発明の別の態様として、上記の視認性向上シートを備えた表示装置も提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明においては、光を透過可能な複数のプリズム部の間に並列して設けられた楔形の溝に着色インキ組成物を充填し、硬化させて光吸収部とした視認性向上シートにおいて、楔形の溝に充填される着色インキ組成物として、プリズム部を構成する材料よりも屈折率の小さい透明な電離放射線硬化型樹脂組成物と、長軸方向の平均繊維長が5〜50μmで、アスペクト比が10以上の着色繊維状フィラーとを含有し、前記電離放射線硬化型樹脂組成物に対し、前記着色繊維状フィラーを重量基準において1〜30%含む着色インキ組成物を用いることにより、インキ組成物の保存安定性が高く、かつ黒色濃度の高い光吸収部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第一の実施形態における視認性向上シートの一方向の断面を示す図。
【図2】視認性向上シートの一方向の断面の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
先ず、本発明による着色インキ組成物を説明する。本発明による着色インキ組成物は、光を透過可能な複数のプリズム部の間に並列して設けられた楔形の溝に着色インキ組成物を充填し、硬化させて光吸収部とした視認性向上シート、に用いられるものであって、前記プリズム部を構成する材料よりも屈折率の小さい透明な電離放射線硬化型樹脂組成物と、長軸方向の平均繊維長が5〜50μmで、アスペクト比が10以上の着色繊維状フィラーと、を必須成分として含む。
【0025】
後記するような視認性向上シートのプリズム部を構成する材料よりも屈折率の小さい透明な電離放射線硬化型樹脂組成物としては、従来公知の視認性向上シートや視野角向上シート等に用いられる電離放射線硬化型樹脂組成物を用いることができる。例えば、アクリレート系の官能基を有するものを好適に使用することができ、具体的には、比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジェン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アルリレート等のオリゴマー又はプレポリマーを挙げることができる。なお、視認性向上シートのプリズム部を構成する材料にもよるが、これらの樹脂のなかならプリズム部を構成する材料よりも屈折率の小さい樹脂を選択すればよい。
【0026】
また、上記樹脂組成物中には、反応性希釈剤を添加してもよく、このような反応性希釈剤としては、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドン等の単官能モノマー並びに多官能モノマーを使用してもよく、具体的は、リメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
電離放射線硬化型樹脂組成物を紫外線硬化型樹脂組成物とするには、組成物中に光重合開始剤としてアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、テトラメチルチュウラムモノサルファイド、チオキサントン類や、光増感剤としてn−ブチルアミン、トリエチルアミン、ポリ−n−ブチルホソフィン等を混合して用いることができる。特に本発明では、オリゴマーとしてウレタンアクリレート、モノマーとしてジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等を混合するのが好ましい。
【0028】
電離放射線硬化型樹脂組成物の硬化方法としては、前記電離放射線硬化型樹脂組成物の硬化方法は通常の硬化方法、即ち、電子線又は紫外線の照射によって硬化することができる。
【0029】
例えば、電子線硬化の場合には、コックロフトワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速機から放出される50〜1000keV、好ましくは100〜300keVのエネルギーを有する電子線等が使用され、紫外線硬化の場合には超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線等が利用できる。
【0030】
本発明においては、上記した電離放射線硬化型樹脂組成物に、長軸方向の平均繊維長が5〜50μmであり、アスペクト比が10以上の着色繊維状フィラーを混合したインキ組成物を用いる。このような外形を有する着色繊維状フィラーを用いることにより、インキ組成物のチキソトロピー性が向上するため、インキの保存安定性が向上する。着色繊維状フィラーとしては、有機物でも無機物でもよいが、好ましくは炭素繊維を用いる。炭素繊維を電離放射線硬化型樹脂組成物に添加することにより、インキの保存安定性と楔形溝の黒色性とを両立することができる。着色繊維状フィラーの平均繊維長は、10〜30μmがより好ましく、15〜20μmが特に好ましい。本明細書において、平均繊維長とは、実際の繊維状フィラーの長さの数平均を意味するものである。また、アスペクト比(繊維径に対する繊維長)は、10〜50が好ましく、10〜30がより好ましい。このような着色繊維状フィラーとしては、昭和電工株式会社から市販されているVGCFやVGCF−H等を好適に使用することができる。なお、着色繊維状フィラーの繊維長および繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)等によって観察した画像により測定することができる。
【0031】
着色繊維状フィラーは、電離放射線硬化型樹脂組成物に対し重量基準において1〜30%含有されている。含有量が1%よりも少ないと、インキ組成物のチキソトロピー性が向上せず、インキ組成物の保存安定性が不十分となる。また、30%を超えるとインキ組成物の粘度が上昇して充填適正が悪化し、また、着色繊維状フィラーがインキ組成物中で沈降し易くなる。
【0032】
本発明においては、平均粒子径が1〜5μmのカーボンブラックをさらに含んでいてもよい。所定平均粒子径のカーボンブラックが含まれていることにより、より一層、インキ組成物の保存安定性と、光吸収部を形成した際の黒色濃度とを両立することができる。なお、平均粒子径は、例えば、粒子径分布測定装置(LA−920、株式会社堀場製作所製)により測定することができる。
【0033】
カーボンブラックの平均粒子径は、楔形の溝にインキ組成物を充填する際のプロセス適正や充填率に影響を与える。充填率は高い方が好ましいが、そのためには充填すべき溝の深さや幅に対し、カーボンブラックの平均粒子径が十分に小さいことが必要である。カーボンブラックが充填される溝の幅の寸法と深さの寸法のいずれか狭い方の間隔Lに対して、カーボンブラックの平均粒子径はL/2以下であることが好ましく、L/3以下であることがより好ましい。例えば、楔形溝の深さが十分にあり、溝の開口部幅が10μmであれば、カーボンブラックの平均粒子径は、5μm以下であることが好ましく、3.3μm以下であることがより好ましい。カーボンブラックの平均粒子径がL/2よりも大きいと、カーボンブラックが溝の幅方向に実質的にほとんど並ばないことになり、充填率が低下する。また、溝の寸法の半分よりも大きい平均粒子径を有するカーボンブラックを効率よく溝の奥まで充填することはプロセス的にも困難である。
【0034】
一方、カーボンブラックの平均粒子径を小さくすると、楔形の溝の形状に追従するため充填率が向上するが、単位体積あたりのカーボンブラックの数および比表面積が増加するため、黒色インキ組成物の流動性が低下し、掻き取り性が低下するため、楔形の光吸収部を形成するのが困難になる。しかしながら、本発明においては、上記のように長軸方向の平均繊維長が5〜50μmで、アスペクト比が10以上の着色繊維状フィラーを含むため、インキ組成物のチキソトロピー性が高く、よって、カーボンブラック等の微粒子のみを含む従来の黒色インキ組成物と比較して、より平均粒子径の小さいカーボンブラックを使用することができる。その結果、楔形溝の着色剤の充填率が向上するため、より色むらの少ない黒色濃度の高い光吸収部を有する視認性向上シートを製造することが可能となる。
【0035】
本発明においては、上記したカーボンブラックに加えて、平均粒子径が1〜5μmの着色微粒子を添加してもよい。着色微粒子としては、顔料や染料等で着色した樹脂ビーズやガラスビーズ等を好適に使用することができる。このような着色微粒子は、映像光の特性に合わせて特定の波長を選択的に吸収するものであってよいが、好ましくは黒色の樹脂ビーズが用いられる。樹脂ビーズとしては、メラミンビーズ、アクリルビーズ、アクリル−スチレンビーズ、ポリカーボネートビーズ、ポリエチレンビーズ、ポリスチレンビーズ、塩ビビーズ等を好適に使用することができる。また、カーボンブラックを含有したアクリル架橋微粒子やカーボンブラックを含有したウレタン架橋微粒子等を用いてもよい。また、シリコン系ビーズも好適に使用できる。また、これら着色微粒子は、インキ組成物中での分散性を向上させるために、樹脂ビーズを表面処理したものを用いてもよい。さらに、樹脂ビーズは、上記した電離放射線硬化型樹脂組成物との屈折率差が0.1程度のものを用いることが好ましい。
【0036】
透明な樹脂ビーズにカーボンブラックを含有させた着色微粒子を用いる場合、カーボンブラックとして、平均粒子径が10〜500nm程度のものを用いることが好ましい。また、樹脂ビーズへのカーボンブラックの練り込み量は、樹脂ビーズ1重量部に対してカーボンブラックを0.1〜0.7重量部程度であり、好ましくは0.15〜0.5重量部、より好ましくは0.2〜0.35重量部である。カーボンブラックの練り込み量が0.7重量部よりも多と樹脂ビーズが割れやすくなる場合があり、一方、0.1重量部よりも少ないと、所望の黒色性を有する着色微粒子を得られない場合がある。
【0037】
電離放射線硬化型樹脂組成物への着色微粒子の分散性を向上させるために、着色微粒子を表面処理しておくこともできる。表面処理としては、従来公知のシリカコーティングによる親水処理や、プラズマ等による表面改質が挙げられる。
【0038】
上記した着色微粒子も、カーボンブラックと同様に、その平均粒子径が楔形溝にインキ組成物を充填する際のプロセス適正や充填率に影響を与える。着色微粒子の充填率は高い方が好ましいが、そのためには充填すべき溝の深さや幅に対し、着色微粒子の平均粒子径が十分に小さいことが必要である。着色微粒子が充填される溝の幅の寸法と深さの寸法のいずれか狭い方の間隔Lに対して、着色微粒子の平均粒子径はL/2以下であることが好ましく、L/3以下であることがより好ましい。例えば、楔形溝の深さが十分にあり、溝の開口部幅が10μmであれば、着色微粒子の平均粒子径は、5μm以下であることが好ましく、3.3μm以下であることがより好ましい。着色微粒子の平均粒子径がL/2よりも大きいと、着色微粒子が溝の幅方向に実質的に1つしか並ばないことになり、充填率が低下する。また、溝の寸法の半分よりも大きい平均粒子径を有する着色微粒子を効率よく溝の奥まで充填することはプロセス的にも困難である。
【0039】
一方、着色微粒子の平均粒子径を小さくすると、楔形の溝の形状に追従するため充填率が向上するが、単位体積あたりの着色微粒子の数および比表面積が増加するため、黒色インキ組成物の流動性が低下し、掻き取り性が低下するため、楔形の光吸収部を形成するのが困難になる。しかしながら、本発明においては、上記のように長軸方向の平均繊維長が5〜50μmで、アスペクト比が10以上の着色繊維状フィラーを含むため、インキ組成物のチキソトロピー性が高く、よって、着色微粒子のみを含む従来の黒色インキ組成物と比較して、より平均粒子径の小さい着色微粒子を使用することができる。その結果、楔形の溝への着色剤(着色微粒子)の充填率が向上するため、より色むらの少ない黒色濃度の高い光吸収部を有する視認性向上シートを製造することが可能となる。
【0040】
上記したカーボンブラックおよび/または着色微粒子は、電離放射線硬化型樹脂組成物に対し重量基準において10〜50%含まれることが好ましい。10%未満であると、楔形の形状を有する光吸収部の光遮光性が不十分となる場合があり、一方、50%を超えると、樹脂ビーズどうしが接触して割れや欠けの問題が発生し易くなる。
【0041】
また、本発明においては、前記着色繊維状フィラーと、前記カーボンブラックおよび/または前記着色微粒子とを、1:10〜1:1の割合で含むことが好ましい。着色繊維状フィラーの添加量が上記範囲よりも少ないと、インキのチキソトロピー性が向上しないため、樹脂ビーズ等が沈降し、インキ組成物の保存安定性が不十分となる。一方、着色繊維状フィラーの添加量が上記範囲よりも多くなると、インキ組成物の粘度が上昇して充填適性が悪化し、また、着色繊維状フィラーがインキ組成物中で沈降し易くなる。
【0042】
上記した各成分を含む着色インキ組成物は、電離放射線硬化型樹脂組成物に、所定量の着色繊維状フィラー、カーボンブラック、着色微粒子を混合し、所望により重合開始剤等を添加することにより調製される。インキ組成物の調製においては、後記するように、インキ粘度が1500〜5000mPa・sとなるように各成分の配合量および各成分の種類を適宜選択することができる。なお、インキ組成物の粘度はB型粘度計等を用いて25℃の環境下で測定した値を意味するものとする。
【0043】
次に、上記した着色インキ組成物を用いて製造された視認性向上シートについて、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第一の実施形態における視認性向上シートの一方向の断面を示す図である。図1に示すように、本発明による視認性向上シート1は、基材層2と光学機能シート層3を少なくとも備えている。光学機能シート層3は、図1に示すように、層厚方向断面において略台形のプリズム部4と、そのプリズム部4の間に並列して配置された楔形の溝からなる光吸収部5とを備えている。
【0044】
プリズム部4は、一方のシート面側が上底、他方のシート面側が下底となるように配置された略台形断面を有する要素である。また、プリズム部は、光透過性樹脂で構成されている。このような樹脂としては、種々の透明熱可塑性樹脂等を用いることができるが、後記するように、本発明においては、上記した電離放射線硬化性樹脂が好適に使用できる。
【0045】
光吸収部5は、プリズム部の間に形成された楔形の溝5に、上記した着色性インキ組成物を充填して硬化することにより形成される、略三角形断面を有する要素である。三角形断面の底辺に相当する面がプリズム部の上底側のシート面に面するように並列に配置されている。これにより光吸収部5(楔形の溝)の底辺およびプリズム部の上底により、光学機能シート層3の一方の面が構成されている。略三角形断面における斜辺は、光学機能シート層3のシート面の法線方向に対して、0〜10度の範囲の角度を有していることが好ましい。なお、斜辺の角度が0度に近い場合は、実質的に三角形断面ではなく台形断面または矩形断面となる。
【0046】
光吸収部5は、上記したような着色インキ組成物により形成されるため、プリズム部4の屈折率と同じかまたは小さい屈折率を有する。プリズム部4と光吸収部5との屈折率が上記のような関係となることにより、所定条件でプリズム部に入射した光源からの映像光を光吸収部5とプリズム部4との境界面で適切に反射させ、観測者に明るい映像を提供することができる。また、観測者側からの外光の一部を吸収するため、コントラストも向上する。
【0047】
光吸収部5は、上記した着色インキ組成物を充填することにより形成される。すなわち、電離放射線硬化性樹脂組成物6中に所定長さの繊維状フィラー7(並びにカーボンブラック8および/または着色微粒子9)が分散した状態で硬化したものである。これにより、光吸収部5とプリズム部4との境界面で反射せずに、光吸収部5の内側に入射した迷光が、光吸収部5中の繊維状フィラー7(並びにカーボンブラック8および/または着色微粒子9)によって吸収される。また、所定角度で入射した観測者側からの外光を適切に吸収することができるため、コントラストを向上させることもできる。
【0048】
上記した実施形態では、光吸収部5の断面形状が、直線上の二つの斜辺を有する略三角形または略台形である形態について説明したが、本発明においてはかかる形態に限定されるものではなく、光吸収部が上記の光学的機能を有するものであれば、どのような形状を有していてもよい。
【0049】
基材層2は、上記したプリズム部4や光吸収部5を形成するためのベースとなる層である。基材層としては、透明樹脂フィルム、透明樹脂板、透明樹脂シートや透明ガラスを用いることができる。透明樹脂フィルムとしては、トリアセテートセルロース(TAC)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系フィルム、ジアセチルセルロースフィルム、アセテートブチレートセルロースフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリアクリル系樹脂フィルム、ポリウレタン系樹脂フィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、(メタ)アクリルロニトリルフィルム等を好適に使用できるが、これらの中でも、ポリエステル系フィルムが好ましく用いられる。ポリエステル系フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートの他、ポリブチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0050】
本発明による視認性向上シートは、上記のように光学機能層3を一層のみ備える形態としてもよいが、二層以上を重ね合わせて積層させてもよい。光学機能層3を二層重ね合わせる場合には、粘着剤等を介して各光学機能性を積層したり、基材層の両面に光学機能層を形成することができる。
【0051】
また、光学機能層を二層重ね合わせる場合には、それぞれの光学機能層で異なった構造となるようにしてもよい。例えば、一層目の光学機能層と二層目の光学機能層とで、光吸収部の幅やピッチ、深さ(楔形部の深さ)、形状を変えたり、光吸収部の厚み方向の向きを変えたり、映像光に対する光吸収部のバイアス角度(水平方向に対する光吸収部の傾斜角度)を変えたりすることができる。また、光吸収部を形成する材料(樹脂の種類や着色繊維状フィラー等の濃度)を変えることもできる。例えば、二層目は効率良く外光をカットし、コントラストの向上を重視した設計とし、二層目は反射を利用した正面輝度向上効果を重視した設計とするような、各層で作用効果を変えることが好ましい。
【0052】
次に、上記した視認性向上シートの製造方法について説明する。先ず、基材層2上にプリズム部4を形成する。このプリズム部4の形成は、使用する樹脂の種類によって異なる。例えば、プリズム部を透明な熱可塑性樹脂を用いて形成する場合には、加熱した金型を熱可塑性樹脂に押圧する熱プレス法や、金型内に熱可塑性樹脂を注入して固化させるキャスティング法、射出成型法等によって、所望の形状のプリズム部を形成することができる。また、電離放射線硬化性樹脂、特に紫外線硬化性樹脂を用いる場合には、当該樹脂を成形型内に注入して紫外線を照射して硬化させる、いわゆるUV法によって、所望の形状のプリズム部を形成することができる。これらの方法の中でも、本発明においては、量産性に優れるUV法が好適に使用できる。UV法によれば、ロール状の成形型を用いて、配列したプリズム単位を連続的に製造することができる。
【0053】
次に、光吸収部5を形成するための着色インキ組成物の調製を行う。インキ組成物の調製は、上記したように、インキ粘度が1500〜5000mPa・sとなるように各成分の配合量および各成分の種類を適宜選択することができる。このインキ組成物を、基材層2上に形成した複数のプリズム部4の間に配置される楔形の溝5に充填する。インキ組成物の充填方法としては、ディスペンサーによる滴下、ダイヘッドによる塗布、あるいはフィニッシャーロールによりインキ組成物を楔形の溝に充填することができる。これらの中でも、インキ組成物の流動性が悪くインキ跡が目立つような場合には、ダイヘッドによる塗布が適している。
【0054】
インキ組成物を楔形の溝、すなわち複数のプリズム部の間の窪みに充填した後、余剰のインキ組成物を掻き取って、楔形の溝にインキ組成物が充満するようにする。インキの掻き取り性を向上させるためには、ドクターブレードやワイピングロールによる連続拭き取り装置などにより行う。インキ粘度が1500mPa・s未満の場合、インキの掻き取り性は良好であるものの、楔形の溝にインキ組成物が充満させることが困難となり、一方、インキ粘度が5000mPa・sを超える場合には、インキの流動性が悪くインキの掻き取り性が低下したりインキ跡が目立ち、所望の光吸収部を形成することが困難となる場合がある。
【0055】
楔形の溝にインキ組成物を充填した後、インキ組成物を硬化させることにより、光吸収部を形成する。硬化方法としては、電離放射線硬化型樹脂組成物の硬化方法で通常用いられる硬化方法、即ち、電子線又は紫外線の照射によって硬化することができる。例えば、電子線硬化の場合には、コックロフトワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速機から放出される50〜1000keV、好ましくは100〜300keVのエネルギーを有する電子線等が使用され、紫外線硬化の場合には超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線等が利用できる。
【0056】
上記のようにして、基材層2上にプリズム部4と光吸収部5とを形成することにより、図1に示すような視認性向上シート1を製造することができる。本発明による視認性向上シートは、従来の視認性向上シートや視野角拡大部材に採用されている他の機能層を含んでいてもよい。具体的には、反射防止層、粘着層、電磁波遮蔽層、波長フィルタ層、防眩層、ハードコート層などを適宜組み合わせてもよい。これらの各機能層の積層順や積層数は、使用する視認性向上シートの用途に応じて適宜決定することができる。
【実施例】
【0057】
実施例1
<着色インキ組成物の調製>
電離放射線硬化性樹脂として、ウレタンアクリレート33.6重量部、エポキシアクリレート14.4重量部、トリプロピレングリコールジアクリレート28重量部、およびメトキシトリエチレングリコールアクリレート4重量部と、光重合開始剤としてイルガキュアー184を4重量部とを混合し、さらに、炭素繊維(VGCF−H、昭和電工株式会社製)を1.6重量部と、カーボンブラック(平均粒子径2μm)を16重量部と、を混合し、インキ組成物を調製した。得られたインキ組成物の粘度は、B型粘度計を用いて25℃の環境下において測定したところ、3000mPa・sであった。
【0058】
<視認性向上シートの作製>
厚みが100μmのPET基材(A4300、東洋紡製)上に、硬化後の屈折率が1.55のウレタン系紫外線硬化性樹脂を用いて、成形金型で連続賦型加工を行い、複数のプリズム部と、そのプリズム部間に並列して設けられた楔形の溝を形成した。次いで、上記で得られたインキ組成物を、楔形の溝に充填し、金属製のドクターブレードで余剰のインキ組成物を掻き取った後、紫外線を照射してインキ組成物を硬化させることにより、光吸収部を形成した。得られた視認性向上シートは、光吸収部(楔形の溝)の開口幅が12μmであり、楔形の溝の先端部分の幅が3μmであり、深さが105mmであった。
【0059】
実施例2
実施例1のインク組成物の調製において用いたカーボンブラックに代えて、平均粒子径が4μmの着色微粒子(ガンツパール、ガンツ化成工業株式会社製)を16重量部添加した以外は、実施例1と同様にしてインク組成物を調製した。得られたインキ組成物の粘度は、B型粘度計を用いて25℃の環境下において測定したところ、3200mPa・sであった。次いで、得られたインキ組成物を用いて、実施例1と同様にして視認性向上シートを作製した。
【0060】
実施例3〜7及び比較例1〜4
インキ組成物において、電離放射線硬化性樹脂、炭素繊維、カーボンブラックおよび着色微粒子の配合量を下記の表1に従って変えた以外は、実施例1と同様にして視認性向上シートを製造した。
【0061】
<コントラスト評価>
得られた視認性向上シートについて、下記のような評価方法により、コントラストの評価を行った。先ず、視認性向上シートをディスプレイ画面に貼り付け、明室および暗室での白画面の輝度および黒画面の輝度を測定し、得られた各輝度から白画面輝度/黒画面輝度の値を算出した。次いで、視認性向上シートを貼り付けない状態でのディスプレイの明室および暗室での白画面の輝度および黒画面の輝度を測定し、得られた各輝度から白画面輝度/黒画面輝度の値を算出した。そして、視認性向上シートを貼り付けた状態での白画面輝度/黒画面輝度の値を、視認性向上シートを貼り付けない状態での白画面輝度/黒画面輝度の値で割った値を算出した。なお、明室とは室内において蛍光灯を点灯させ、使用するディスプレイ画面の明るさが600ルクスのときに170cd/mとなるようにした環境を意味し、暗室とは、蛍光灯を消灯した状態でディスプレイ画面からの光以外の光源がない環境を意味する。得られた評価結果は、下記の表1に示される通りであった。
【0062】
【表1】

【符号の説明】
【0063】
1 視認性向上シート
2 基材層
3 光学機能層
4 プリズム部
5 光吸収部(楔形の溝)
6 電離放射線硬化性樹脂組成物
7 繊維状フィラー
8 カーボンブラック
9 着色微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過可能な複数のプリズム部の間に並列して設けられた楔形の溝に着色インキ組成物を充填し、硬化させて光吸収部とした視認性向上シート、に用いられる着色インキ組成物であって、
前記プリズム部を構成する材料よりも屈折率の小さい透明な電離放射線硬化型樹脂組成物と、長軸方向の平均繊維長が5〜50μmであって、アスペクト比が10以上の着色繊維状フィラーと、を含んでなり、
前記電離放射線硬化型樹脂組成物に対し、前記着色繊維状フィラーを重量基準において1〜30%含むことを特徴とする、着色インキ組成物。
【請求項2】
平均粒子径が1〜5μmのカーボンブラックをさらに含んでなる、請求項1に記載の着色インキ組成物。
【請求項3】
平均粒子径が1〜5μmの着色微粒子をさらに含んでなる、請求項1または2に記載の着色インキ組成物。
【請求項4】
前記電離放射線硬化型樹脂組成物に対し、前記カーボンブラックおよび/または前記着色微粒子を重量基準において10〜50%含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の着色インキ組成物。
【請求項5】
前記着色繊維状フィラーと、前記カーボンブラックおよび/または前記着色微粒子とを、1:10〜1:1の割合で含む、請求項4に記載の着色インキ組成物。
【請求項6】
前記着色繊維状フィラーが炭素繊維である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の着色インク組成物。
【請求項7】
着色微粒子が黒色である、請求項3に記載の着色インク組成物。
【請求項8】
前記電離放射線硬化性樹脂組成物が、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジェン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、及び多価アルコールから選択される多官能化合物の(メタ)アルリレート等のオリゴマーまたはプレポリマーからなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の着色インキ組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の着色インキ組成物を用いて製造された視認性向上シート。
【請求項10】
請求項9に記載の視認性向上シートを備えた表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−158828(P2011−158828A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22263(P2010−22263)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】