説明

着色ガラス

【課題】酸化性着色ガラスにおいて、カラーフィーダで着色可能で、所望の黄色系の色を安定して得られるようにする。
【解決手段】エルビウムとプラセオジムをそれぞれEr換算及びPr11換算で合計0.25〜32重量%含有し、かつ前記Er/Pr11の重量比が0.15〜1.7である、レドックスナンバー値がプラスで主波長λdが570〜590nmである酸化性着色ガラスとする。フリットにより着色する場合、フリットの比重は3〜3.4とし、エルビウムとプラセオジムをそれぞれEr換算及びPr11換算で合計26〜32重量%含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動成形機或いは人工生産で生産する、びんや食器等のガラス容器類、あるいは灰皿や写真立て等のガラス製家庭用品類などに好適な黄色〜薄茶系の着色ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
ビールびんで代表される濃い茶色のガラスの色は、アンバーとも云われ古くより知られた色である。この着色は鉄とイオウの化合物によるものであり、この化合物を作るためには、カーボンやシリコン等の強力な還元剤と、還元性雰囲気での溶融が必要である。食器や灰皿等で使用される、黄色〜薄茶系(主波長λdが570〜590nm)の色は別名ゴールドアンバーとも云われ、ガラス中の鉄濃度をアンバーガラスの10分の1から3分の1にすることで得られる。従って、タンク炉やネコツボなどの溶融炉そのものでこれらのアンバー系ガラスを溶融することは、一般的な手段であるが、必要製品量が中規模のときには不適切である。しかるに、カラーフィーダによって、酸化性ガラスであるフリント生地にアンバー系着色をすることは、ガラスを強還元にすることにより、酸化還元反応、および溶存ガスの溶解度変化により、無数の泡が発生するので採用できない。
【0003】
この対策として、酸化性ガラスでの黄色〜茶色系の発色が各種考案されている。下記特許文献1(特開平6−56459)ではAgOを含むフリットを用いてカラーフィーダ着色するもので、Agのコロイドを作るためにSnO等の多原子価元素を使用してAgの酸素を奪うが、Agコロイドはその大きさによって黄〜橙色の変化をするので、色の安定性がない。特許文献1に書かれていることをラボ的に再現テストをしても発色しないことや、実用化された商品が見当たらないことからも、その再現性の困難さが窺える。
【0004】
下記特許文献2(特公昭57−20253)は、FeとCeOを組み合わせて鮮やかな黄色を出すカラーフォーダー用フリットを開発しているが、フリット中の鉄濃度が10〜32%と高く、この鉄の価数変化に伴い色が変化し酸素ガスを放出すること、またCeOも高温度で分解して酸素ガスを放出するから、泡の発生と色の不安定により実用化はされていない。
【0005】
他に、従来から知られている方法として、<1>CdS、<2>CeOとTiO、<3>クロム、<4>ウランによる黄色着色、また<5>マンガン、<6>バナジウムによるアンバー系着色がある。
<1>はその発色のためには還元性条件下での溶融が必要であり、前述の通り泡の発生を引き起こすので、酸化性ガラスであるフリントガラスでのカラーフィーダ着色はできないし、また有害物であるカドミ化合物の使用は、少なくともガラス容器には使用できない。また、チタン、クロム、マンガン、バナジウム、ウランはいずれも酸化還元の状態変化で発色が変化し、またその変化によっては酸素ガスを放出し、泡の原因になる。また、クロム、ウランは人体への有害性があるので容器への使用は避けたい元素でもある。更には、CeOとTiOによるゴールドアンバー発色には、それぞれ最終ガラス中に1〜5%の濃度が必要となるので、ネコツボのような少量生産には採用できるが、カラーフィーダ用のフリットには使用不可能である(仮に濃度50%のフリットができても、フリット添加率は10%になる。現実のフリット添加率は、空気の巻き込み泡の発生と、溶解能力の関係から食器で2%程度、びんで4%程度が限度である。)。
【0006】
下記特許文献3には、酸化エルビウム、酸化プラセオジムから選ばれた少なくとも1成分を含むペレット、及びこのペレットをカラーフィーダで生地ガラスに投入する着色ガラスの製造方法が開示されている。しかし、後述するように、酸化プラセオジムを水ガラスで固めたペレットでは泡が多発し、実用的ではない。
【0007】
下記特許文献4には、希土類元素を含み、軟化変形温度が生地ガラスと比較して50℃以上低く、生地ガラスガラスとの比重差が0.4以下のフリット、及びこのフリットをカラーフィーダで生地ガラスに投入する着色ガラスの製造方法が開示されている。生地ガラスとの比重差が0.4以下であるので、フリットの比重は2.9以下程度となる。酸化エルビウムと酸化プラセオジムを用いた場合、この程度の比重では含有量が合計20重量%以下程度となり、十分な着色効果を期待できない。
【0008】
次に、下記特許文献5(特開2005−29450)には、還元性のアンバーガラスにプラセオジム、ネオジウム又はエルビウムから選択される2種以上を組み合わせて配合する技術が開示されているが、これは、アンバー色を変化させずに特定波長の光の吸収を多くすることを目的とするものである。
【特許文献1】特開平6−56459号公報
【特許文献2】特公昭57−20253号公報
【特許文献3】特開平3−37134号公報
【特許文献4】特開平4−154644号公報
【特許文献5】特開2005−29450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、ガラスの着色に用いられる金属元素のほとんどは、酸化還元の影響により価数が変化する所謂、遷移元素であり、価数の変化により発色も変化することと、酸素ガスを放出する、或いはガラス中の溶存ガス濃度の変化によって、泡の発生もともなうので、実用化には適さない。
別の方法として、コロイド発色を利用する方法もあるが、この場合には強い還元性状態が必要なので、炉のガラス全体を還元状態にする溶解法、即ちタンク窯全体、あるいはネコツボ単位で溶解する方法に限定されるので、自ずと生産量が大量か少量かの極端になってしまう。フレキシブルに生産量が調整できるカラーフィーダ生産では、酸化性と還元性の混合による泡の発生の問題から、実現できないことは先に述べた通りである。
【0010】
本発明は、ガラスや雰囲気の酸化還元状態が変化しても価数の変化しない元素、または価数が変化しても色の変わらない元素を用いて目的の色を出すことにより、カラーフィーダで問題なく着色することが可能で、黄色系の所望の色が安定的に得られる着色ガラスを開発することを課題とするものである。
【0011】
(請求項1)
本発明は、エルビウムとプラセオジムをそれぞれEr換算及びPr11換算で合計0.25〜32重量%含有し、かつ前記Er/Pr11の重量比が0.15〜1.7である、レドックスナンバー値がプラスで主波長λdが570〜590nmであることを特徴とする酸化性着色ガラスである。
【0012】
(請求項2)
また本発明は、カラーフィーダによりフリントガラス素地にエルビウム及びプラセオジムを含むフリットを投入して製造する着色ガラスであって、最終的なガラス中にエルビウムとプラセオジムをそれぞれEr換算及びPr11換算で合計0.25〜2.0重量%含有し、かつ前記Er/Pr11の重量比が0.15〜1.7である、レドックスナンバー値がプラスで主波長λdが570〜590nmであることを特徴とする酸化性着色ガラスである。
【0013】
(請求項3)
また本発明は、請求項2の酸化性着色ガラスにおいて、前記フリットが、比重3〜3.4でエルビウムとプラセオジムをそれぞれEr換算及びPr11換算で合計26〜32重量%含有するものである酸化性着色ガラスである。
【0014】
(請求項4)
また本発明は、更にNiOを添加した請求項1、2又は3の酸化性着色ガラスである。
【0015】
目的とする黄色〜茶色系の色を出す方法として、コロイド着色による方法と有色イオンによる方法とがある。このうちコロイド着色に拠る方法は、強還元性が必要なことによる泡の問題があるので、タンク溶融かネコツボ溶融に限定されてしまう。あるいはコロイド粒子サイズの変化が色の変化を伴うので実用化は困難であることは前述のとおりである。
次に有色イオンによる直接的な発色について検討した。まず黄色系であるが、クロムやウランのような有害性元素は採用できない。そこでセリウムとチタンの組み合わせが考えられるが、前述の通り、高濃度と酸素放出の問題からこれも実用できない。次に、茶系のイオン発色であるが、マンガンやバナジウムは価数変化が起きるので、安定した発色を再現できない。
【0016】
そこで、光の三原色の混色の観点から、緑系の色と赤系の色と混合して、黄色系の色を出すことを検討した。緑系の色を出すイオンとしては、クロム、鉄、プラセオジムが考えられる。このうち、クロムは有害元素であることから除外した。鉄は酸化状態が持続できれば黄色系の発色を示すが、還元雰囲気や還元性物質が共存すると、容易に還元されて青味を持ち、かつ酸素ガスを放出してしまう。従って、最も有力な元素はプラセオジムとなる。このプラセオジムは一般に、Pr11と表記され、PrからPrの間の価数の酸化物があり、その価数は温度により変化することが知られている。しかしながら、価数が変化しても発色は他の多原子価元素の如くには変化しない。また、1250℃以上の高温で溶融して、同じ様な温度で再溶融しても(カラーフィーダを想定)酸素ガスの放出はほとんど無い、ことが確認された。
具体的には、まずプラセオジム酸化物を熱分析測定(TG−DTA)を行い、280℃〜300℃付近で大きな重量減少と吸熱反応、即ち大きな分解反応が起き、同様に1000℃〜1010℃付近と1210〜1230℃付近で小さな分解反応が起きていることを確認した。このことは、概ね酸化物原料を水ガラスで固めただけのペレットでは泡が多発するので、実用化できないことを意味する。従って、前記特許文献3(特開平3−37134)に示されるペレット特許は実用には供しない。
次に、表3に示す組成のガラスを1250〜1300℃で溶融、水砕して製作したフリットを熱分析測定したところ、前述の3段階の分解は全て無くなっていることを見いだした。
従って、1250℃以上の温度で溶融してガラス化しておけば、フリットとしてカラーフィーダ投入しても発泡は大きく抑制されることになる。この結果から、プラセオジムをまず選定した。
【0017】
次に、赤系の発色イオンとしては、セレン、金、銅、エルビウムが知られている。セレンは揮発性が大きいことと、元素の状態により無色〜ピンクに変化するので、色を安定させることは難しい。金と銅は一旦イオンの形でガラスに入れてから、SnOやSbO等の還元剤の存在下で熱処理をすることによりコロイドとなるので、工程が増えることと、コロイドサイズの安定的再現性の問題がある。従って、エルビウムが最も簡単に赤系の色が得られる元素である。以上のことから、プラセオジムとエルビウムを組み合わることで所望の黄色〜薄茶色系の色を安定して出せることとなる。
【0018】
エルビウム及びプラセオジムの量はEr換算又はPr11換算で0.25〜32重量%が適当である。0.25重量%以下では着色の効果が無く、32重量%以上ではガラスが失透しやすくなる。Er/Pr11の重量比を0.17〜1.5とすることで、黄色〜茶色系の色を安定して得ることができる。また、ErとPr11を合計26〜32重量%含み、且つEr/Pr11の重量比が上記の範囲にあるフリットは、溶融したときの流動性がきわめて良好で(粘性が低い)あることが発見された。したがって、カラーフィーダ投入されて溶融すると、直ちに生地ガラス中に拡散し、融けたフリットの沈み込みによる泡の発生などの問題も生じない。
【0019】
本発明におけるレドックスナンバーとは、W.SimpsonとD.D.Meyerが1978年にGlass Technol.誌、1979年にGlasstechn. Ber.誌に「ガラス技術者によるレドックスナンバーの概念とその効用」の表題で提案した考え方で、このレドックスナンバーと総鉄量に対する2価鉄の割合(=ガラスの酸化還元を表す指標)とが良く合致することを、1980年にHarold P WilliamがGlasstechn. Ber.誌の「イオウを含む清澄剤によるガラスの清澄に及ぼすバッチの酸化状態の影響」の論文で報告している。
具体的には、硝酸ソーダは+0.32,無水ボウ硝酸+0.67、カーボンは−6.70というように、酸化力或いは還元力の強さに応じた係数を酸化性原料ではプラス値で、還元性原料ではマイナス値で定め、これを珪砂2000に対する各原料の割合にかけたものの総和で示す。無色透明のソーダ石灰ガラスでは+5〜+17,アンバーガラスでは−9〜−17程度の値となる。
本発明においては、レドックスナンバーが+0以上の酸化性ガラスを対称にしている。
【0020】
カラーフィーダによりフリントガラス素地にフリットを投入する場合、フリットのEr及びPr11の量が合計36重量%以下であるので、最終的なガラス中のエルビウムの量(Er換算)及びプラセオジムの量(Pr11換算)は合計2.0重量%以下となる。
【0021】
NiOを添加することで、透過率が下がると共に刺激純度が上がり、ダーク調のくすんだ色調とすることができる。NiOの添加量は、例えば0.001〜0.01重量%程度とすることができる。
【0022】
本発明における着色ガラスは、ソーダ石灰ガラスに限らず、クリスタルガラス、ホウ珪酸系ガラスでもよい。
【発明の効果】
【0023】
プラセオジムとエルビウムを併用することにより、黄色系の色が安定的に得られた。
この場合、溶融条件が酸化〜還元に変化しても色の変化はないので、カラーフィーダでの着色にも問題なく使用できる。
プレセオジウムの価数変化による酸素ガスの放出対策としては、1250℃以上の温度でフリットを製造し、同程度の温度でフリットを生地ガラスに添加して溶融・撹拌することで解決できる。
タンク炉やネコツボでの溶融では、バッチの分解時に他の原料と同じようにガスが発生するだけなので問題とはならない。
このプラセオジムとエルビウムの併用に更に、NiOを追加すれば、再現性良くかつ容易に、色調をくすんだ色にアレンジすることが可能である。
【0024】
本発明におけるフリットは、比重が3〜3.4g/cmであるが、溶融した場合の流動性がきわめて良好であるので、カラーフィーダに投入され、撹拌されると生地ガラス中に速やかに拡散し、泡の発生などの問題もない。また、エルビウムとプラセオジムをそれぞれEr換算及びPr11換算で合計26〜32重量%含有するので、カラーフィーダでの投入量を比較的少なくすることができ、生地ガラスの温度低下、泡の発生などの問題を最小限に回避できる。
【実施例1】
【0025】
表1に示すベースガラス(フリントガラス)にPr11、Er3、NiOを種々の割合で添加し、#1〜#11の実施例の着色ガラスを作製した。その色調測定結果を表2に示す。表2から分かるように、Er/Pr11比が0.8〜1.2程度の範囲では目視的には、その差はほとんど分からない程度の変化である。即ち調合のバラツキに拘わらず安定した色味が得られる。Er/Pr11比が2.0の#8ではλdが599nmとなり、赤味が強くなるので目的とする色調からは外れてしまう。また、微量のNiOを加えることにより、透過率を下げ、刺激純度を上げることにより、目視的にも容易に商品の差別化ができるダーク調を付与することも可能となる。なお、#1〜#11のレドックスナンバーは+11.4である。
【表1】


【表2】

【実施例2】
【0026】
表3の組成のフリットを作製し、表1のベースガラスに1.5%〜5.5%添加し、撹拌後1300℃で2時間溶融し、#12〜16の実施例の着色ガラスを作製した。その色調を表4に示すなお、#12〜#16のレドックスナンバーは+11.4である。このフリットの密度は3.24g/cmであった。フリットの発泡の程度はブランク(フリットを入れないで溶かしたガラス)との差は見られなかった。

【表3】


【表4】

【0027】
本発明におけるフリットの好適な組成を表5に示すが、この限りではない。また、これらのフリットの密度は3.0〜3.35g/cm程度であり、生地ガラスに比べ0.5g/cm以上大きい。このことにより、生地ガラスとの混合を早めることが可能となる。

【表5】

【実施例3】
【0028】
鉛クリスタルガラスにErおよびPr11をそれぞれ0.3重量%加えたガラスの色調を表6に示す。ソーダ石灰ガラスに同量加えたものと、ほとんど同じ色調であることが分かり、即ちクリスタルガラスにも修正無しで適用できる技術であることが分かる。
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エルビウムとプラセオジムをそれぞれEr換算及びPr11換算で合計0.25〜32重量%含有し、かつ前記Er/Pr11の重量比が0.15〜1.7である、レドックスナンバー値がプラスで主波長λdが570〜590nmであることを特徴とする酸化性着色ガラス。
【請求項2】
カラーフィーダによりフリントガラス素地にエルビウム及びプラセオジムを含むフリットを投入して製造する着色ガラスであって、最終的なガラス中にエルビウムとプラセオジムをそれぞれEr換算及びPr11換算で合計0.25〜2.0重量%含有し、かつ前記Er/Pr11の重量比が0.15〜1.7である、レドックスナンバー値がプラスで主波長λdが570〜590nmであることを特徴とする酸化性着色ガラス。
【請求項3】
請求項2の酸化性着色ガラスにおいて、前記フリットが、比重3〜3.4でエルビウムとプラセオジムをそれぞれEr換算及びPr11換算で合計26〜32重量%含有するものである酸化性着色ガラス。
【請求項4】
更にNiOを添加した請求項1、2又は3の酸化性着色ガラス。

【公開番号】特開2007−320784(P2007−320784A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150284(P2006−150284)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000001823)東洋佐々木ガラス株式会社 (6)
【出願人】(000222222)東洋ガラス株式会社 (102)
【Fターム(参考)】