説明

着色ゲル粒子、多彩模様塗料組成物、建造物の塗装方法、及び建造物

【課題】塗装に耐えうる十分な強度を有し、多彩模様塗料中及び水中で長期間安定であって、それ単独からなる分散液としても長期間保存可能な着色ゲル粒子を提供すること。
【解決手段】着色剤が混合され、一種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂と、一種以上の水溶性モノマーとが、それぞれ有する架橋性有機基の間で架橋されたゲルを含む内殻と、多糖類にホウ酸イオンが結合したゲルを含む外殻と、を有する着色ゲル粒子。本発明の着色ゲル粒子は、塗料中や水中でも安定であり、着色ゲル粒子単独の分散液としても長期間保存することができるとともに、多彩模様塗料組成物に添加されてスプレー塗装されても塗装時のせん断力により破壊されることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装に耐えうる十分な強度を有する着色ゲル粒子、この着色ゲル粒子を用いた多彩模様塗料組成物に関する。更に、本発明は、多彩模様塗料組成物を用いた建造物の塗装方法、及びこの方法により塗装される建造物に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の内壁及び外壁には、多彩模様の塗膜(「多彩模様塗膜」)による意匠が施される場合が多い。ここで、多彩模様塗膜とは、例えば、御影石等の砂岩模様のように、多彩・多色の不均一な色模様を有する塗膜をいう。この種の多彩模様塗膜を形成するための多彩模様塗料組成物は、通常、媒体中に数種類の色の着色粒子を分散させた構成を有するものであり、塗装時に着色粒子が破壊され、塗膜中に拡散することにより、多彩多色の不均一な色模様を実現している。このような塗料を用いると、一回の塗装で二色以上の多彩な模様の多彩模様塗膜を得ることができる。多彩模様塗料においては、着色粒子の種類や配合割合を調整して塗装することにより、種々の意匠を有する多彩模様塗膜を形成することができる。
【0003】
着色粒子を含むこのような多彩模様塗料としては、油性媒体の中に油性の着色粒子を分散させた油中油型(o/o型)、油性媒体の中に水性の着色粒子を分散させた油中水型(w/o型)、水性媒体の中に油性の着色粒子を分散させた水中油型(o/w型)、水性媒体の中に水性の着色粒子を分散させた水中水型(w/w型)の4種類に区分される。これらの中でも、塗料中の有機溶剤濃度が少ないか、有機溶剤を含有しない環境対応型の多彩模様塗料として、水中水型が好ましいものとされている。
【0004】
多彩模様塗料において多彩模様を形成する着色粒子の例としては、ゲル状の着色ゲル粒子が知られている。着色ゲル粒子の着色には、染料及び顔料を使用することができるが、耐久性の面では顔料を用いることが好ましいものとされる。一般には、染料や顔料を含む溶液をゲル化することにより、着色ゲル粒子を得ることができる。
【0005】
多彩模様塗料としては、特許文献1に、ゲル形成物質によるゲル化によって形成され、70℃以上に加熱しても溶融しない熱不可逆ゲル粒子を含有することを特徴とする水性塗料組成物が開示されている。特許文献1に記載の水性塗料組成物に用いられる熱不可逆ゲルは、粒子全体が均一にゲル化された着色ゲル粒子であり、これを含む水性塗料組成物において、水性塗料組成物の貯蔵安定性、及び水性塗料組成物から形成される塗膜の耐水性及び耐候性を向上させることができるものとされている。
【0006】
また、特許文献2には、無機系及び/又は有機系顔料により着色された、二色以上のキトサン膜の破砕物を、塗料中に1質量%以上40質量%以下含有するキトサン含有水性多彩模様塗料組成物が開示されている。特許文献2に記載のキトサン含有水性多彩模様塗料組成物に用いられるキトサン膜の破砕物は天然高分子を用いた安全性の高い素材であるため、これを用いた水性多彩模様塗料組成物の低VOC(Volatile Organic Compounds)化及び脱溶剤化に寄与し、環境への負荷の低減、産業廃棄物排出の抑制に有用なものであるとされている。
【0007】
更に、特許文献3には、異なった色に着色された2種以上の液状着色粒子を、肉眼でかろうじて識別できる程度の粒子径として含有せしめることによって、意匠性に優れた塗膜外観の得られる着色塗料組成物が開示されている。特許文献3に記載の液状着色粒子は、塗料バインダーを含有する溶液又は分散液中に、無機顔料若しくは有機顔料又は染料等の着色剤を均一に分散又は溶解せしめてなる液状物が、塗料組成物中に、粒子径10〜500μmの大きさの粒子状の形態で安定に分散されている状態の粒子であり、当該粒子を安定状態で分散せしめておく方法の一つとして、着色粒子をカプセル化粒子として分散させる方法が開示されており、当該カプセル化の方法の一つとして、親水性コロイド形成物質と、当該親水性コロイド形成物質を不溶化することのできる不溶化剤とを作用させる方法が開示されている。本発明によれば、意匠性に富んだ新規な塗膜外観を得ることができる塗料組成物を提供することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−165954号公報
【特許文献2】特開2003−306646号公報
【特許文献3】特開平01−016879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1から3に記載の着色ゲル粒子は、その強度が十分なものではなく、多彩模様塗料で被塗物を塗装するに際して着色ゲル粒子が破壊されることがあった。着色ゲル粒子が破壊された場合、着色ゲル粒子の粒径が減少し、或いは着色ゲル粒子を着色する染料等が溶け出して、塗膜中の着色ゲル粒子の密度が不十分となり、また、着色ゲル粒子由来の顔料、染料が塗料中に拡散、混合してしまい、鮮明な多彩模様が得られないという問題が存在していた。
【0010】
また、特許文献1及び2に記載の着色ゲル粒子は、多彩模様塗料中又は水中で、長期間安定なものではなく、長期間の保存によりその特性が変化するおそれがあったため、塗装直前に着色ゲル粒子を塗料に混合する必要があった。また、着色ゲル粒子を単独で含む分散液を長期間保存することもできなかったため、塗料と着色ゲル粒子とを塗装直前に混合すること自体も困難であった。
【0011】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、塗装に耐えうる十分な強度を有し、多彩模様塗料中及び水中で長期間安定であって、それ単独からなる分散液としても長期間保存可能な着色ゲル粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を行った。その結果、一種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂と、一種以上の水溶性モノマーとを架橋してなるゲルを含む内殻と、多糖類を用いて形成されるゲルを含む外殻と、を有する着色ゲル粒子が、塗装に耐えうる十分な強度を有することを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0013】
(1) 着色剤が混合され、一種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂と、一種以上の水溶性モノマーとが、それぞれ有する架橋性有機基の間で架橋されたゲルを含む内殻と、多糖類にホウ酸イオンが結合したゲルを含む外殻と、を有する着色ゲル粒子。
【0014】
ここで、「多糖類」とは、二以上の単糖がグリコシド結合によって結合した多糖、及びその水酸基が有する水素原子が、スルホン酸基、アセチル基、アミノ基、ヒドロキシプロピル基、及びカルボキシル基等からなる群から選ばれる少なくとも一種の基によって置換された多糖の誘導体を指すものであるが、本発明においては、特に、単糖がグリコシド結合により結合した多糖で分子量が50,000以上のもの、及びその多糖が有する水酸基が、スルホン酸基、アセチル基、及びカルボキシル基等からなる群から選ばれる少なくとも一種の基によって置換された多糖の誘導体を指すものである。
【0015】
(2) 一種以上の前記水溶性樹脂及び/又は前記水分散性樹脂が、カルボキシル基を有する水分散性樹脂を含み、一種以上の水溶性モノマーが、エポキシ基を有する水溶性モノマーを含む(1)に記載の着色ゲル粒子。
【0016】
(3) 前記多糖類と、前記着色剤と、エポキシ基を有する前記水溶性モノマーと、カルボキシル基を有する前記水分散性樹脂と、を混合する混合工程と、前記混合工程において得られる混合物を、ホウ酸塩水溶液中に分散させる分散工程と、前記分散工程において得られた分散液を、加熱する加熱工程と、を有する製造方法により製造される(2)に記載の着色ゲル粒子。
【0017】
(4) エポキシ基を有する前記水溶性モノマーのエポキシ当量が100以上600以下であり、カルボキシル基を有する前記水分散性樹脂の酸価が5以上300以下であり、前記混合工程において、エポキシ基を有する前記水溶性モノマー100質量部に対し、カルボキシル基を有する前記水分散性樹脂を50質量部以上1,500質量部以下混合する(3)に記載の着色ゲル粒子。
【0018】
なお、(4)に記載の発明において、エポキシ基を有する水溶性モノマーのエポキシ当量は、100以上300以下であることが好ましく、カルボキシル基を有する水分散性樹脂の酸価は、5以上100以下であることが好ましい。
【0019】
(5) 前記加熱工程における加熱温度が、30℃以上80℃以下である(3)又は(4)に記載の着色ゲル粒子。
【0020】
(6) 着色剤が混合され、二種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂が、それぞれ有する架橋性有機基の間で架橋されたゲルを含む内殻と、多糖類にホウ酸イオンが結合したゲルを含む外殻と、を有する着色ゲル粒子。
【0021】
(7) 二種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂が、エポキシ基を有する水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂、並びにカルボキシル基を有する水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂を含む(6)に記載の着色ゲル粒子。
【0022】
(8) 前記多糖類が、デンプン、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、グルコマンナン、及びアルギン酸、並びにそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種である(1)から(7)のいずれかに記載の着色ゲル粒子。
【0023】
(9) 塗膜中における最長径が0.2mm以上10mm以下であり、最短径が0.1mm以上5mm以下である偏平状の形状を有する(1)から(7)のいずれかに記載の着色ゲル粒子。
【0024】
(10) (1)から(9)のいずれかに記載の着色ゲル粒子を含む多彩模様塗料組成物。
【0025】
(11) 建造物の外壁に、(10)に記載の多彩模様塗料組成物をスプレー法により塗装する建造物の塗装方法。
【0026】
(12) (11)に記載の多彩模様塗料組成物の塗装方法により塗装された外壁を有する建造物。
【発明の効果】
【0027】
本発明の着色ゲル粒子は、上述した構成を有するので、その強度が十分なものとなる。このため、本発明の着色ゲル粒子は、塗料中や水中でも安定であり、着色ゲル粒子単独の分散液としても長期間保存することができるとともに、多彩模様塗料組成物に添加されてスプレー塗装されても塗装時のせん断力により破壊されることがない。このため、本発明の着色ゲル粒子を用いた多彩模様塗料組成物により形成される塗膜が、鮮明な多彩模様を有するものとなる。
【0028】
また、本発明は、上記着色ゲル粒子を用いた多彩模様塗料組成物、これを用いた建造物の塗装方法、及びこの塗装方法により塗装されてなる外壁を有する建造物に関する。本発明においては、着色ゲル粒子が上述した構成を有するので、これを用いた多彩模様塗料組成物は塗料安定性に優れるものとなり、結果として得られる多彩模様塗膜の多彩模様も鮮明なものとなる。また、この多彩模様塗膜を有する建造物の外壁は、耐候性及び耐水性に優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0030】
<着色ゲル粒子>
本発明の着色ゲル粒子は、着色剤が混合され、一種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂と、一種以上の水溶性モノマーとが、それぞれ有する架橋性有機基の間で架橋されたゲルを含む内殻と、多糖類にホウ酸イオンが結合したゲルを含む外殻と、を有するものである。
【0031】
[内殻]
(水溶性樹脂及び水分散性樹脂、並びに水溶性モノマー)
内殻を形成する際に用いられる一種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂、並びに一種以上の水溶性モノマーは、水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂と、水溶性モノマーとがそれぞれ有する架橋性有機基の間で架橋反応が生起可能で、これによりゲルを形成するものであり、塗膜を形成した後においても耐候性や耐水性に優れるものであれば特に限定されるものではなく、どのようなものであっても利用することができる。水溶性樹脂及び水分散性樹脂としては、例えば、アクリル系、ウレタン系、アクリル・ウレタン系、アクリル・シリコーン系、シリコーン系、フッ素系、エポキシ系、エステル系、及びビニル系の樹脂等の水溶性樹脂又は水分散性樹脂であってゲル化させることが可能なものを挙げることができる。水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂が二種以上用いられる場合、これらの水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂は、互いに同系の樹脂を用いてもよいし、互いに異なる系統の樹脂を用いてもよい。
【0032】
また、一種以上の水溶性モノマーとしては、架橋性基を有する水溶性の低分子化合物を挙げることができる。これらの有機化合物としては、後述する架橋性基を有する分子量200以上1,000以下の化合物を挙げることができる。上記分子量は、400以上800以下であることが好ましい。なお、本発明においては、内殻を形成する際の材料として、水溶性モノマーを用いることにより、架橋反応が容易となるとともに、生成するゲルの強度の調整を容易なものとすることができる。
【0033】
(架橋性基)
これらの水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂、並びに水溶性モノマーが有する架橋性基としては、水存在下で架橋反応を進行可能な架橋性基であれば特に限定されるものではなく、例えば、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基、ヒドラジノ基、アミノ基、及びアルコキシシリル基等を挙げることができる。これらの中でも、エポキシ基と、カルボキシル基又はアミノ基との組み合わせが好ましい。
【0034】
(エポキシ基を有する水溶性モノマー及びカルボキシル基を有する水分散性樹脂)
内殻を形成する際に用いられる一種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂と、一種以上の水溶性モノマーとの組み合わせとしては、エポキシ基を有する水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂と、カルボキシル基を有する水溶性モノマーとの組み合わせ、又はエポキシ基を有する水溶性モノマーと、カルボキシル基を有する水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂との組み合わせを挙げることができるが、エポキシ基を有する水溶性モノマーと、カルボキシル基を有する水分散性樹脂との組み合わせが好ましい。斯かる組み合わせを採用した場合、加熱によりエポキシ基へのカルボキシル基の求核反応が起こり、水溶性モノマーが水分散性樹脂の間を強固に架橋するため、強度に優れるゲルを形成することができる。
【0035】
(エポキシ当量及び酸価)
エポキシ基を有する水溶性モノマーと、カルボキシル基を有する水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂とを組み合わせて用いる場合、エポキシ基を有する水溶性モノマーのエポキシ当量は100以上600以下であることが好ましく、100以上300以下であることが更に好ましい。また、カルボキシル基を有する水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂の酸価は5以上300以下であることが好ましく、5以上100以下であることが更に好ましい。上記樹脂のエポキシ価及び酸価が上記範囲内のものであることにより、エポキシ基を有する水溶性モノマーとカルボキシル基を有する水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂との間で、適度な密度の架橋構造を形成することができ、形成されるゲルの強度を好適なものとすることができる。
【0036】
(配合)
上記エポキシ当量を有する水溶性モノマー、及び上記酸価を有する水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂を混合するにあたっては、エポキシ基を有する水溶性モノマー100質量部に対し、カルボキシル基を有する水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂を50質量部以上1,500質量部以下混合することが好ましく、100質量部以上1,000質量部以下混合することが更に好ましい。エポキシ基を有する水溶性モノマーと、カルボキシル基を有する水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂とを、上記配合で混合することにより、両配合物が十分に混合され、エポキシ基とカルボキシル基との間で、互いに過不足なく架橋反応を進行させることができる。
【0037】
なお、エポキシ基を有する水溶性モノマーの具体例としては、例えば、「デナコール−614B」(ソルビトールポリグリシジルエーテル、エポキシ当量173、商品名、ナガセケムテックス社製)、「デナコール−EX−313」(グリセロールポリグリシジルエーテル、エポキシ当量141、商品名、ナガセケムテックス社製)、「デナコール−EX−512」(ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、エポキシ当量168、商品名、ナガセケムテックス社製)、及び「デナコール−EX−830」(ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシ当量268、商品名、ナガセケムテックス社製)を挙げることができる。また、カルボキシル基を有する水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂としては、「サイビノールEK−68B」(アクリルエマルジョン、酸価80、商品名、サイデン化学社製)、「ジョンクリル−538J」(アクリルエマルジョン、酸価61、商品名、BASF社製)、及び「ジョンクリル−537J」(アクリルエマルジョン、酸価40、商品名、BASF社製)を挙げることができる。これらの水溶性モノマー、並びに水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
(着色剤)
内殻に含まれるゲルは、着色剤が混合されたものである。着色剤としては、特に限定されず、染料及び着色顔料のいずれも用いることができる。
【0039】
着色顔料としては、酸化チタン等の白色顔料;カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、鉄黒、及びアニリンブラック等の黒色顔料;黄色酸化鉄、チタンイエロー、モノアゾイエロー、縮合アゾイエロー、アゾメチンイエロー、ビスマスバナデート、ベンズイミダゾロン、イソインドリノン、イソインドリン、キノフタロン、ベンジジンイエロー、及びパーマネントイエロー等の黄色顔料;パーマネントオレンジ等の橙色顔料;赤色酸化鉄、ナフトールAS系アゾレッド、アンサンスロン、アンスラキノニルレッド、ペリレンマルーン、キナクリドン系赤顔料、ジケトピロロピロール、ウォッチングレッド、及びパーマネントレッド等の赤色顔料;コバルト紫、キナクリドンバイオレット、及びジオキサジンバイオレット等の紫色顔料;コバルトブルー、フタロシアニンブルー、及びスレンブルー等の青色顔料;並びにフロシアニングリーン等の緑色顔料等を挙げることができる。
【0040】
染料としては、モノアゾ染料、ポリアゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、スチルベンゾアゾ染料、及びチアゾールアゾ染料等のアゾ染料;アントラキノン誘導体及びアントロン誘導体等のアントラキノ染料;インディゴ誘導体及びチオインディゴ誘導体等のインディゴイド染料;フロシアニン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、及びアクリジン染料等のカルボニウム染料;アジン染料、オキサジン染料、及びチアジン染料等のキノンイミン染料;ポリメチン(又はシアニン)染料及びアジメチン染料等のメチン染料;キノリン染料;ニトロ染料;ニトロン染料;ベンゾキノン及びナフチキノン染料;ナフタルイミド染料;並びにペリノン染料等を挙げることができる。
【0041】
これらの着色顔料及び染料は、必要に応じて単独で、又は二種以上を併用して用いることができる。なお、本発明の着色ゲル粒子においては、耐久性の観点から、着色剤として着色顔料を用いることが好ましい。
【0042】
なお、本実施形態においては、内殻を形成する際に用いられる材料として、一種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂と、一種以上の水溶性モノマーとを用いるものとしたが、内殻を形成するために用いられる材料として、二種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂を用いてもよい。この場合、二種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂としては、特に限定されるものではないが、エポキシ基を有する水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂と、カルボキシル基を有する水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂との組み合わせを採用することが好ましい。また、内殻には、外殻を構成する多糖類以外の多糖類が含まれていてもよい。
【0043】
[外殻]
本発明の着色ゲル粒子が有する外殻は、多糖類にホウ酸イオンが結合したゲルを含む。ここで、本発明の着色ゲル粒子の外殻に用いられる多糖類にホウ酸が結合した場合、ゾル−ゲル転移を起こすことによりゲルを形成する。後述するとおり、本発明においては、特に多糖類を含む溶液を、ホウ酸塩水溶液中に分散させることにより、多糖類にホウ酸イオンが結合したゲルを含む外殻を有する着色ゲル粒子を形成させることができる。
【0044】
(多糖類)
多糖類としては、ホウ酸イオンに結合してゲル化するものであれば特に限定されるものではなく、任意の多糖類を用いることができるが、デンプン、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、グルコマンナン、及びアルギン酸、並びにそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。なお、ここで、多糖の「誘導体」とは、多糖の有する水酸基が、スルホン酸基、アセチル基、アミノ基、ヒドロキシプロピル基、及びカルボキシル基等からなる群から選ばれる少なくとも一種の基によって置換された化合物を指す。これらの多糖類は、質量平均分子量が10,000以上3,000,000以下であることが好ましく、100,000以上1,000,000以下であることが更に好ましい。質量平均分子量が上記範囲内にあることにより、多糖類にホウ酸イオンが結合することにより形成されるゲルの強度を好適なものとすることができる。
【0045】
(ホウ酸イオン)
ホウ酸イオンの供給源としては特に限定されるものではなく、ナトリウム塩(ホウ砂)及びカリウム塩等、水溶液中でホウ酸イオンを生成する任意のホウ酸塩を適宜利用することができる。ここで、上記多糖類にホウ酸イオンを結合させる際に用いるホウ酸塩水溶液の濃度としては、0.5mM以上であることが好ましく、3mM以上であることが更に好ましい。ホウ酸塩水溶液の濃度が上記範囲内にあることにより、多糖類に結合するホウ酸イオンの量が好適なものとなり、外殻に含まれるゲルの強度を好適なものとすることができる。
【0046】
[着色ゲル粒子に含まれる溶媒]
本発明の着色ゲル粒子は、水性のゲルを含むものであるため、着色ゲル粒子に含まれる溶媒としては、水のみを用いることが好ましいが、各成分の化学反応を阻害しない範囲内で、必要に応じて微量の有機溶剤を含有させてもよい。このような有機溶剤としては、例えば、ブチルセロソルブ及びメチルセロソルブ等のエーテルアルコール類、並びにエチレングリコール及びプロピレングリコール等のグリコール類を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
[その他の添加剤]
本発明の着色ゲル粒子は、その他、必要に応じて、つや消し剤、粘性調整剤、分散剤、消泡剤、防腐剤、及び防黴剤等を適宜配合することができる。ここで、つや消し剤としては、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、クレー、及び珪藻土の体質顔料;樹脂ビーズ;及びシリカを挙げることができる。また、粘性調整剤としては、アルカリ膨潤型粘性調整剤、無機系粘性調整剤、及びウレタン会合型粘性調整剤を挙げることができる。
【0048】
本発明の着色ゲル粒子は、多彩模様塗料組成物に含有させない状態においても長期間安定なものである。このため、多彩模様塗料組成物を調製するに先立って、着色ゲル粒子を調製し、これを水に分散させて保存することも可能となる。
【0049】
[着色ゲル粒子の形状及び寸法]
着色ゲル粒子の形状は、塗料中においては略球形であるが、着色ゲル粒子の置かれた状態によって変形しうるものであり、塗膜中においては偏平状の形状を有することとなる。塗料中における略球形の状態にある場合、その粒径は0.1mm以上5mm以下であることが好ましい。また、塗膜中で着色ゲル粒子の寸法が偏平状となることにより、着色ゲル粒子を含む多彩模様塗料組成物を用いて塗膜を形成した場合に、平滑性に優れた塗膜を形成することが可能となる。塗膜中において着色ゲル粒子が偏平状の形状をとる場合、最長径が0.2mm以上10mm以下であり、最短径が0.1mm以上5mm以下であることが好ましい。エアスプレーでの塗装の場合は、最長径が0.2mm以上5mm以下であり、最短径が0.1mm以上2mm以下であることが好ましい。着色ゲル粒子の寸法が上記範囲内のものであることにより、着色ゲル粒子を有する多彩模様塗料組成物により形成される塗膜が、鮮明な多彩模様と自然な風合いを有するものとなる。なお、着色ゲル粒子自体の寸法、及び塗膜中の着色ゲル粒子の寸法は、肉眼で、又はマイクロスコープを用いて測定することができる。
【0050】
[着色ゲル粒子の製造方法]
本発明の着色ゲル粒子の製造方法としては、特に限定されるものではなく、一種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂と、一種以上の水溶性モノマーとが、それぞれ有する架橋性有機基の間で架橋されたゲルを含む内殻と、多糖類にホウ酸イオンが結合したゲルを含む外殻とを有する着色ゲル粒子を製造可能な方法であれば、いかなる方法をも用いることができる。このような製造方法としては、例えば、多糖類と、着色剤と、一種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂と、一種以上の水溶性モノマーと、を混合する混合工程と、混合工程において得られる混合物を、ホウ酸塩水溶液中に分散させる分散工程と、分散工程において得られた分散液を加熱する加熱工程と、を有する製造方法を挙げることができる。
【0051】
また、本発明の着色ゲル粒子において、一種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂、並びに一種以上の水溶性モノマーが、エポキシ基を有する水溶性モノマー及びカルボキシル基を有する水分散性樹脂である場合、上記製造方法は、多糖類と、着色剤と、エポキシ基を有する水溶性モノマーと、カルボキシル基を有する水分散性樹脂と、を混合する混合工程と、混合工程において得られる混合物を、ホウ酸塩水溶液中に分散させる分散工程と、分散工程において得られた分散液を、加熱する加熱工程と、を有するものである。
【0052】
(混合工程)
混合工程においては、多糖類と、着色剤と、二種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂とを混合する。これらの各成分を混合する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法により混合すればよい。具体的には、ディスパー、2軸ミキサー、バタフライミキサー、及びプラネタリーミキサー等の混合装置を用いて混合する方法を挙げることができる。また、着色剤として着色顔料を用いる場合には、着色顔料以外の成分を添加して混合した混合物に着色顔料を加え、ディスパーで混合することが好ましい。
【0053】
各成分の添加量としては、水溶性樹脂及び水分散性樹脂の総和100質量部に対し、多糖類が0.1質量部以上5質量部以下、着色剤が1質量部以上20質量部以下となるようにすることが好ましい。各成分の添加量が上記範囲内にあることにより、多糖類にホウ酸が結合したゲルを外殻に含む形で、塗装に耐えうる十分な強度を有し、多彩模様塗料中及び水中で長期間安定であって、それ単独からなる分散液としても長期間保存可能な適度な外殻の硬さを有する着色ゲル粒子を形成することができるとともに、着色ゲル粒子の発色の度合いに過不足が生じることがない。
【0054】
なお、上述したとおり、一種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂、並びに一種以上の水溶性モノマーとして、エポキシ基を有する水溶性モノマー及びカルボキシル基を有する水分散性樹脂を用いる場合、エポキシ基を有する水溶性モノマー100質量部に対し、カルボキシル基を有する水分散性樹脂を50質量部以上1,500質量部以下混合することが好ましく、100質量部以上1,000質量部以下混合することが更に好ましい。
【0055】
また、混合工程においては、少なくとも、一種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂と、一種以上の水溶性モノマーとを混合した段階において、所定の条件で架橋反応をある程度進行させ、ある程度の強度を有するゲルを形成することが好ましい。このように分散工程の前に架橋反応をある程度進行させることにより、分散工程において所望の形状及び寸法を有する着色ゲル粒子を好適に分散させることができる。なお、一種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂、並びに一種以上の水溶性モノマーが、エポキシ基を有する水溶性モノマー及びカルボキシル基を有する水分散性樹脂の場合には、上記所定の条件としては、50℃以上80℃以下で、1時間以上24時間以下加熱処理する条件を挙げることができる。また、混合工程における加熱処理の加熱条件は、後述する加熱工程における加熱条件も考慮しつつ、適宜変更することが好ましい。
【0056】
(分散工程)
分散工程においては、混合工程において得られる混合物をホウ酸塩水溶液中に分散させる。ホウ酸塩水溶液に混合工程において得られた混合物をホウ酸塩水溶液に分散させるには、例えば、ディスパー、2軸ミキサー、バタフライミキサー、及びプラネタリーミキサー等の分散装置を用いればよい。分散を行う際の条件としては、目的とする着色ゲル粒子の形状及び寸法に応じて適宜設定することが好ましいが、例えば、100rpm以上5,000rpm以下で、5分以上1時間以下分散させる方法を挙げることができる。
【0057】
(加熱工程)
加熱工程においては、分散工程において得られた分散液を加熱する。これにより、エポキシ基とカルボキシル基との間の架橋反応に代表される、一種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂と、一種以上の水溶性モノマーとが、それぞれ有する架橋性有機基の間での架橋反応が進行し、所定の強度を有する着色ゲル粒子を得ることができる。本発明においては、この加熱工程を行うことにより、着色ゲル粒子の内殻で架橋反応が十分に進行することができ、着色ゲル粒子の強度の向上に寄与するものである。
【0058】
加熱工程における加熱温度は、利用する架橋反応の種類に応じて適宜設定することが好ましいが、例えば、エポキシ基とカルボキシル基との間の架橋反応を利用する場合には、30℃以上80℃以下であることが好ましく、50℃以上70℃以下であることが更に好ましい。また、加熱時間としては、加熱温度に応じて適宜変更されるものであるが、1時間以上24時間以下であることが好ましく、5時間以上15時間以下であることが更に好ましい。特に、加熱温度が50℃以上60℃未満の場合、加熱時間は12時間以上15時間以下であることが好ましく、加熱温度が60℃以上70℃以下の場合、加熱時間は5時間以上10時間以下であることが好ましい。
【0059】
なお、上記混合工程における加熱処理と、加熱工程とは、適宜組み合わせて行ってもよい。この場合、混合工程における加熱処理と、加熱工程とは、50℃以上70℃以下で行われることが好ましく、両者の合計加熱時間が、合計で2時間以上15時間以下となることが好ましい。本発明の着色ゲル粒子の製造方法においては、加熱工程のみを行うことが好ましい。
【0060】
混合工程における加熱処理、及び加熱工程の加熱条件を、上記のとおりに設定することにより、着色ゲル粒子の強度が十分なものとなって、塗料中や水中でも安定となる。
【0061】
以上のような製造方法によれば、本発明の着色ゲル粒子を好適に製造することができるが、本発明の着色ゲル粒子は、このような製造方法により製造されるものに限定されるものではない。即ち、上記の製造方法とは異なる製造方法により製造され、一種以上の水溶性樹脂及び/若しくは水分散性樹脂、並びに一種以上の水溶性樹脂が(又は二種以上の水溶性樹脂及び/若しくは水分散性樹脂が)それぞれ有する架橋性有機基の間で架橋されたゲルを含む内殻と、多糖類にホウ酸イオンが結合したゲルを含む外殻とを有する着色ゲル粒子についても、当然に本発明の範囲内に属するものである。
【0062】
本発明の着色ゲル粒子は、上述した構成を有するので、その強度が十分なものとなる。このため、本発明の着色ゲル粒子は、塗料中や水中でも安定であり、着色ゲル粒子単独の分散液としても長期間保存することができるとともに、多彩模様塗料組成物に添加されてスプレー塗装されても塗装時のせん断力により破壊されることがない。このため、本発明の着色ゲル粒子を用いた多彩模様塗料組成物により形成される塗膜が、鮮明な多彩模様を有するものとなる。
【0063】
<多彩模様塗料組成物>
本発明の多彩模様塗料組成物は、本発明の着色ゲル粒子を含むものである。即ち、多彩模様塗料組成物は、少なくとも、皮膜形成性樹脂と、着色ゲル粒子と、溶媒とを含む。なお、利用できる皮膜形成性樹脂及び溶媒の種類は、多彩模様塗料組成物が、水中水型の組成物であるか、油中水型の組成物であるかによって異なる。本発明の多彩模様塗料組成物は、水中水型であっても、油中水型であってもよく、特に限定されないが、環境への負荷を低減するという観点から水中水型が好ましいため、以下においては水中水型の多彩模様塗料組成物を例にとってその構成を説明する。
【0064】
[皮膜形成性樹脂]
本発明の水中水型の多彩模様塗料組成物に含まれる皮膜形成性樹脂としては、従来水中水型の多彩模様塗料組成物に慣用されている皮膜形成性樹脂を用いることができ、特に限定されるものではないが、一般には水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂であることが好ましい。具体的には、アクリル系、ウレタン系、アクリル・シリコーン系、フッ素系、エポキシ系、エステル系、及びビニル系統の樹脂を挙げることができる。これらの水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
多彩模様塗料組成物における皮膜形成性樹脂の含有量は、多彩模様塗料組成物の全量に対して、10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、20質量%以上80質量%以下であることが更に好ましい。皮膜形成性樹脂の含有量を上記範囲内のものとすることにより、被塗物を十分に被覆する塗膜を形成することができる。
【0066】
本発明の多彩模様塗料組成物に含まれる着色ゲル粒子の含有量は、多彩模様塗料組成物の全量に対して、10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、20質量%以上80質量%以下であることが更に好ましい。着色ゲル粒子の含有量を上記範囲内のものとすることにより、多彩多色な模様を有する塗膜を得ることができる。
【0067】
[溶媒]
本発明の水中水型の多彩模様塗料組成物に含まれる溶媒としては、水のみを用いることが好ましい。本発明の着色ゲル粒子は、上述した構成よりなるので、溶媒として水のみを使用した多彩模様塗料組成物中においても、長期間安定に存在することができる。溶媒である水には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、必要に応じて微量の有機溶剤を添加してもよい。このような有機溶剤としては、例えば、ブチルセロソルブ及びメチルセロソルブ等のエーテルアルコール類、並びにエチレングリコール及びプロピレングリコール等のグリコール類を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
[着色剤]
本発明の水中水型の多彩模様塗料組成物においては、必要に応じて着色剤を含有させることができる。着色剤としては、着色ゲル粒子の製造に用いた着色剤と同様の着色剤を用いることができ、着色顔料を用いることが好ましい。
【0069】
[その他の添加剤]
本発明の水中水型の多彩模様塗料組成物においては、その他、必要に応じて、つや消し剤、粘性調整剤、分散剤、消泡剤、防腐剤、及び防黴剤等を適宜配合することができる。ここで、つや消し剤としては、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、クレー、及び珪藻土の体質顔料;樹脂ビーズ;及びシリカを挙げることができる。また、粘性調整剤としては、アルカリ膨潤型粘性調整剤、無機系粘性調整剤、及びウレタン会合型粘性調整剤を挙げることができる。
【0070】
本発明の多彩模様塗料組成物は、上述した着色ゲル粒子を有するので、その塗料安定性が優れたものとなり、多彩模様塗膜に形成した場合においても、鮮明な多彩模様を有する塗膜を得ることができる。
【0071】
<建造物の塗装方法>
本発明の建造物の塗装方法は、建造物の外壁に、本発明の多彩模様塗料組成物をスプレー法により塗装する方法である。即ち、本発明の多彩模様塗料組成物は、実際の建造物に組み込まれ、建造物の一部をなす外壁等に対して、スプレー法により塗装されるものである。
【0072】
建造物の外壁を構成する素材としては、従来、建材として用いられているものであれば特に限定されないが、具体的には、磁器、タイル、コンクリート、モルタル、サイディングボード、押出成形板、石膏ボード、及びプラスティックボード等を挙げることができる。
【0073】
本発明の建造物の塗装方法においては、多彩模様塗膜の乾燥膜厚が20μm以上500μm以下となるように塗装を施すことが好ましい。多彩模様塗膜の乾燥膜厚をこの範囲内のものとすることにより、被塗物を効率的に且つ十分に被覆することができ、耐候性に優れた塗装物を得ることができる。
【0074】
<建造物>
また、本発明は、多彩模様塗料組成物の塗装方法により塗装された外壁を有する建造物に関する。本発明においては、上述した構成を有する着色ゲル粒子を用いて多彩模様塗料組成物を調製し、この多彩模様塗装物を用いて建造物の外壁を塗装するので、鮮明な多彩模様を有する多彩模様塗膜が形成された外壁を有する建造物が得られる。また、この多彩模様塗膜が形成された建造物の外壁は、耐候性及び耐水性に優れたものとなる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明について、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0076】
<実施例1>
エポキシ基を有する水溶性モノマーとして、「デナコールEX−614B」(ソルビトールポリグリシジルエーテル、エポキシ当量173、商品名、ナガセケムテックス社製)3質量部に、カルボキシル基を有する水分散性樹脂として、「サイビノールEK−68B」(アクリルエマルション、酸価80、商品名、サイデン化学社製)を30質量部、着色剤として、「TAROX LLX−LO」(黄色酸化鉄、商品名、チタン工業社製)を10質量部、多糖類として、「メイプロHPG 8111」(ヒドロキシプロピル化グアーガム、商品名、Danisco Zaandam BV社製)を0.5質量部添加して、「TKホモディスパー」(ディスパー、商品名、PRIMIX社製)を用いて1500rpmで20分間混合した。この混合物を、3mMホウ酸アンモニウム水溶液に添加し、「TKホモディスパー」(ディスパー、商品名、PRIMIX社製)を用い、1,500rpmで15分間分散させた。この分散液を50℃で15時間加熱し(加熱工程)、着色ゲル粒子の分散液を得た。得られた着色ゲル粒子の分散液100gを下記の組成の塗料組成物0.5kgに添加して均一になるように撹拌して多彩模様塗料組成物を得た。
【0077】
塗料組成物の組成(各組成の数値は質量部を示す)
アクリルエマルション(皮膜形成性樹脂) 300
溶媒(水) 190
添加剤(艶消し剤、粘性調整剤、防腐剤、防藻剤、防黴剤) 10
【0078】
<実施例2>
加熱工程において、70℃で5時間加熱した点以外は、実施例1と同様の方法により着色ゲル粒子の分散液を調製した。この着色ゲル粒子の分散液を用いて、実施例1と同様の方法により、多彩模様塗料組成物を調製した。
【0079】
<実施例3>
加熱工程において、50℃で10時間加熱した点以外は、実施例1と同様の方法により着色ゲル粒子の分散液を調製した。この着色ゲル粒子の分散液を用いて、実施例1と同様の方法により、多彩模様塗料組成物を調製した。
【0080】
<実施例4>
加熱工程において、50℃で5時間加熱した点以外は、実施例1と同様の方法により着色ゲル粒子の分散液を調製した。この着色ゲル粒子の分散液を用いて、実施例1と同様の方法により、多彩模様塗料組成物を調製した。
【0081】
<実施例5>
エポキシ基を有する水溶性モノマーとして、「デナコールEX−614B」(ソルビトールポリグリシジルエーテル、エポキシ当量173、商品名、ナガセケムテックス社製)3質量部に、カルボキシル基を有する水分散性樹脂として、「サイビノールEK−68B」(アクリルエマルション、酸価80、商品名、サイデン化学社製)を30質量部、着色剤として、「TAROX LLX−LO」(黄色酸化鉄、商品名、チタン工業社製)を10質量部、多糖類として、「メイプロHPG 8111」(ヒドロキシプロピル化グアーガム、商品名、Danisco Zaandam BV社製)を0.5質量部添加して、「TKホモディスパー」(ディスパー、商品名、PRIMIX社製)を用いて1,500rpmで20分間混合し、50℃で15時間加熱した(混合工程における加熱処理)。この混合物を、3mMホウ酸アンモニウム水溶液に添加し、「TKホモディスパー」(ディスパー、商品名、PRIMIX社製)を用い、1,500rpmで、実施例1で得られた粒子と同等の大きさになるまで分散させて、着色ゲル粒子の分散液を得た。得られた着色ゲル粒子の分散液100gを用いて、実施例1と同様の方法より、多彩模様塗料組成物を調製した。
【0082】
<実施例6>
混合工程における加熱処理において、70℃で5時間加熱した点以外は、実施例5と同様の方法により着色ゲル粒子の分散液を調製した。この着色ゲル粒子の分散液を用いて、実施例5と同様の方法により、多彩模様塗料組成物を調製した。
【0083】
<実施例7>
混合工程における加熱処理において、50℃で10時間加熱した点以外は、実施例5と同様の方法により着色ゲル粒子の分散液を調製した。この着色ゲル粒子の分散液を用いて、実施例5と同様の方法により、多彩模様塗料組成物を調製した。
【0084】
<実施例8>
混合工程における加熱処理において、50℃で5時間加熱した点以外は、実施例5と同様の方法により着色ゲル粒子の分散液を調製した。この着色ゲル粒子の分散液を用いて、実施例5と同様の方法により、多彩模様塗料組成物を調製した。
【0085】
<実施例9>
エポキシ基を有する水溶性モノマーとして、「デナコールEX−614B」(ソルビトールポリグリシジルエーテル、エポキシ当量173、商品名、ナガセケムテックス社製)3質量部に、カルボキシル基を有する水分散性樹脂として、「サイビノールEK−68B」(アクリルエマルション、酸価80、商品名、サイデン化学社製)を30質量部、着色剤として、「TAROX LLX−LO」(黄色酸化鉄、商品名、チタン工業社製)を10質量部、多糖類として、「メイプロHPG 8111」(ヒドロキシプロピル化グアーガム、商品名、Danisco Zaandam BV社製)を0.5質量部添加して、「TKホモディスパー」(ディスパー、商品名、PRIMIX社製)を用いて1500rpmで20分間混合し、50℃で5時間加熱した(混合工程における加熱処理)。この混合物を、3mMホウ酸アンモニウム水溶液に添加し、「TKホモディスパー」(ディスパー、商品名、PRIMIX社製)を用い、1,500rpmで、実施例1で得られた粒子と同等の大きさになるまで分散させた。この分散液を70℃で5時間加熱し(加熱工程)、着色ゲル粒子の分散液を得た。得られた着色ゲル粒子の分散液100gを用いて、実施例1と同様の方法より、多彩模様塗料組成物を調製した。
【0086】
<実施例10>
エポキシ基を有する水溶性樹脂、カルボキシル基を有する水分散性樹脂、着色剤、及び多糖類の混合物を、3mMホウ酸アンモニウム水溶液に添加した後の「TKホモディスパー」による混合条件を800rpmで15分間とした点以外は、実施例1と同様の方法により着色ゲル粒子の分散液を調製した。この着色ゲル粒子の分散液を用いて、実施例1と同様の方法により、多彩模様塗料組成物を調製した。
【0087】
<比較例1>
カルボキシル基を有する水分散性樹脂として、「サイビノールEK−68B」(アクリルエマルション、酸価80、商品名、サイデン化学社製)を30質量部、着色剤として、「TAROX LLX−LO」(黄色酸化鉄、商品名、チタン工業社製)を10質量部、多糖類として、「メイプロHPG 8111」(ヒドロキシプロピル化グアーガム、商品名、Danisco Zaandam BV社製)を0.5質量部添加して、「TKホモディスパー」(ディスパー、商品名、PRIMIX社製)を用いて1500rpmで20分間混合した。この混合物を、3mMホウ酸アンモニウム水溶液に添加し、「TKホモディスパー」(ディスパー、商品名、PRIMIX社製)を用い、1,500rpmで15分間分散させて、着色ゲル粒子の分散液を得た。この着色ゲル粒子の分散液を用いて、実施例1と同様の方法により、多彩模様塗料組成物を調製した。
【0088】
<比較例2>
エポキシ基を有する水溶性樹脂「デナコールEX−614B」(ソルビトールポリグリシジルエーテル、エポキシ当量173、商品名、ナガセケムテックス社製)3質量部に、カルボキシル基を有する水分散性樹脂として、「サイビノールEK−68B」(アクリルエマルション、酸価80、商品名、サイデン化学社製)を30質量部、着色剤として、「TAROX LLX−LO」(黄色酸化鉄、商品名、チタン工業社製)を10質量部添加し、「TKホモディスパー」(ディスパー、商品名、PRIMIX社製)を用いて1500rpmで20分間混合し、50℃で15時間加熱した(混合工程における加熱処理)。これを、3mMホウ酸アンモニウム水溶液に添加し、「TKホモディスパー」(ディスパー、商品名、PRIMIX社製)を用い、1,500rpmで15分間分散させて、着色ゲル粒子の分散液を得た。この着色ゲル粒子の分散液を用いて、実施例1と同様の方法により、多彩模様塗料組成物を調製した。
【0089】
<評価>
[分散性]
実施例1から10、並びに比較例1及び2により得られた多彩模様塗料組成物において、塗料中での分散状態を目視にて評価し、均一に分散したものを○、均一に分散したものの分散に長時間を要したものを△、着色ゲル粒子の状態で均一に分散しなかったものを×とした。
【0090】
[貯蔵安定性]
実施例1から10、並びに比較例1及び2により得られた着色ゲル粒子の分散液を、50℃にて7日間貯蔵した後、実施例1と同様にして多彩模様塗料組成物を調製し、塗料組成物中での分散状態を目視にて評価した。均一に分散し、且つ塗料に濁りを生じなかったものを◎、均一に分散しているが、ごくわずかに濁りを生じたものを○、均一に分散しているが、やや濁りが目立つものを△、分散状態が均一ではなく、濁りが目立つものを×とした。
【0091】
[水中での安定性]
実施例1から10、並びに比較例1及び2により得られた着色ゲル粒子の分散液1gを、イオン交換水0.1kgに添加し、「TKホモディスパー」(ディスパー、商品名、PRIMIX社製)を用いて1500rpmで10分間撹拌して分散させた後、20℃にて3日間保管して、保管後の着色ゲル粒子の状態を目視にて評価した。着色ゲル粒子の膨潤・溶解が見られなかったものを◎、溶解していないものの、やや膨潤していたものを○、膨潤したものの、溶解していないものを△、溶解していたものを×とした。
【0092】
[塗料中での安定性]
実施例1から10、並びに比較例1及び2により得られた多彩模様塗料組成物を、50℃にて7日間保管した。多彩模様塗料中の着色ゲル粒子に膨潤・溶解が見られなかったものを◎、溶解していないものの、やや膨潤していたものを○、膨潤したものの、溶解してないものを△、溶解していたものを×とした。
【0093】
[着色ゲル粒子の粒子径]
実施例1から10、並びに比較例1及び2により得られた多彩模様塗料組成物を、20ミルドクターブレードを用いて塗装し、乾燥後の塗膜を観察し、着色ゲル粒子の最長径及び最短径を求めた。なお、表中の数値は、乾燥状態での粒径である。
【0094】
[意匠安定性(着色ゲル粒子の強度評価)]
実施例1から10、並びに比較例1及び2により得られた多彩模様塗料組成物を、エアスプレー(塗装条件;霧化圧0.2MPa/cm以上0.5MPa/cm以下)にて塗装し、意匠の安定性を評価した。見本板(20ミルドクターブレードで塗装、乾燥したもの)の塗膜中の着色ゲル粒子と、大きさが同等の着色ゲル粒子を有するものを◎、見本板の塗膜中の着色ゲル粒子と、大きさがほぼ同等の着色ゲル粒子を有するが、やや小さい着色ゲル粒子が目立つものを○、見本板の塗膜中の着色ゲル粒子よりも、やや小さい着色ゲル粒子を有するものを△、見本板の塗膜中の着色ゲル粒子よりも、明らかに小さい着色ゲル粒子を有するものを×とした。
【0095】
以上の結果を表1及び表2に示した。
【表1】

【表2】

【0096】
表1及び表2に示すように、実施例1から10の着色ゲル粒子及び多彩模様塗料組成物は、いずれの評価項目についても不合格(×)となる評価がなく、比較例1及び2の着色ゲル粒子及び多彩模様塗料組成物と比べても、全体的によい評価が得られている。以上より、本発明の着色ゲル粒子及び多彩模様塗料組成物は、塗料中や水中での安定性に優れ、着色ゲル粒子を単独で含む分散液として長期間保存可能であるとともに、塗装によっても着色ゲル粒子が破壊されることがない十分な強度を有していることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤が混合され、一種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂と、一種以上の水溶性モノマーとが、それぞれ有する架橋性有機基の間で架橋されたゲルを含む内殻と、
多糖類にホウ酸イオンが結合したゲルを含む外殻と、を有する着色ゲル粒子。
【請求項2】
一種以上の前記水溶性樹脂及び/又は前記水分散性樹脂が、カルボキシル基を有する水分散性樹脂を含み、一種以上の水溶性モノマーが、エポキシ基を有する水溶性モノマーを含む請求項1に記載の着色ゲル粒子。
【請求項3】
前記多糖類と、前記着色剤と、エポキシ基を有する前記水溶性モノマーと、カルボキシル基を有する前記水分散性樹脂と、を混合する混合工程と、
前記混合工程において得られる混合物を、ホウ酸塩水溶液中に分散させる分散工程と、
前記分散工程において得られた分散液を、加熱する加熱工程と、を有する製造方法により製造される請求項2に記載の着色ゲル粒子。
【請求項4】
エポキシ基を有する前記水溶性モノマーのエポキシ当量が100以上600以下であり、
カルボキシル基を有する前記水分散性樹脂の酸価が5以上300以下であり、
前記混合工程において、
エポキシ基を有する前記水溶性モノマー100質量部に対し、
カルボキシル基を有する前記水分散性樹脂を50質量部以上1,500質量部以下混合する請求項3に記載の着色ゲル粒子。
【請求項5】
前記加熱工程における加熱温度が、30℃以上80℃以下である請求項3又は4に記載の着色ゲル粒子。
【請求項6】
着色剤が混合され、二種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂が、それぞれ有する架橋性有機基の間で架橋されたゲルを含む内殻と、
多糖類にホウ酸イオンが結合したゲルを含む外殻と、を有する着色ゲル粒子。
【請求項7】
二種以上の水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂が、エポキシ基を有する水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂、並びにカルボキシル基を有する水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂を含む請求項6に記載の着色ゲル粒子。
【請求項8】
前記多糖類が、デンプン、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、グルコマンナン、及びアルギン酸、並びにそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1から7のいずれかに記載の着色ゲル粒子。
【請求項9】
塗膜中における最長径が0.2mm以上10mm以下であり、最短径が0.1mm以上5mm以下である偏平状の形状を有する請求項1から7のいずれかに記載の着色ゲル粒子。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の着色ゲル粒子を含む多彩模様塗料組成物。
【請求項11】
建造物の外壁に、請求項10に記載の多彩模様塗料組成物をスプレー法により塗装する建造物の塗装方法。
【請求項12】
請求項11に記載の多彩模様塗料組成物の塗装方法により塗装された外壁を有する建造物。

【公開番号】特開2011−52052(P2011−52052A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199777(P2009−199777)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】