説明

着色マイクロカプセル水性顔料分散液の製造方法

【課題】分散安定性に優れ,かつインクジェット噴射特性,被記録媒体への画像固着性に優れた水性ジェットインクを作製するための着色マイクロカプセル水性分散液の製造方法を提供する。
【解決手段】酸価を有する皮膜形成性樹脂に顔料を分散して固形着色コンパウンドを得る混練工程と、水、前記皮膜形成性樹脂を溶解する有機溶剤、塩基、前記固形着色コンパウンドを混合し、前記皮膜形成性樹脂の一部が溶解している顔料懸濁液を得る懸濁工程と、前記顔料懸濁液中に溶解している皮膜形成性樹脂成分を顔料表面に沈着させる再沈殿工程を有することを特徴とする着色マイクロカプセル水性分散液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,着色マイクロカプセル分散型水性ジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用インクは大別すると油性インクと水性インクがあるが,油性インクは臭気・毒性の点で問題があり,水性インクが主流となりつつある。
【0003】
しかしながら,従来の水性インクの多くは着色剤として水溶性染料を用いているため耐水性や耐光性が悪いという欠点を有していた。また,染料が分子レベルで溶解しているため,オフィスで一般に使用されているコピー用紙などのいわゆる普通紙に印刷すると髭状のフェザリングと呼ばれるブリードを生じて著しい印刷品質の低下を招いていた。
【0004】
上記欠点を改良するためにいわゆる水性の顔料インクが過去に様々に提案されており,例えばバインダー兼分散剤として水溶性樹脂を用いてカ−ボンブラックや有機顔料を分散させた樹脂溶解型のインクやポリマーラテックスあるいはマイクロカプセルとして着色剤を内包する樹脂分散型のインクが各種提案されている。
【0005】
ジェットプリンター用水性顔料インクとしては,なるべく微粒子径に分散された着色剤粒子が求められており,具体的な樹脂溶解型の水性インクの例として,特許第2512861号公報では,(a)顔料とポリマー分散剤とを2−ロールミリング装置に充填し;(b)摩砕して顔料とポリマー分散剤との分散体を得;そして(c)この顔料分散体を水性キャリア媒体中に分散させる工程からなる,改良された特性を有する水性の顔料入りインクジェット用インクの調整方法が(特許文献1参照),また特開平3−153775号公報では,a)顔料とカルボキシル基含有ポリアクリル系樹脂とを含有する固体顔料調合物b)水で希釈可能な有機溶媒c)湿潤剤d)水を含有するインクジェット印刷用水性インク組成物が(特許文献2参照)提案されている。
【0006】
しかしながら,これらの技術は顔料の微粒子化には有効なものの,溶解している分散剤樹脂の影響で,インクの水分蒸発に伴いノズル付近のインク粘度上昇による異常噴射や,最悪ノズル目詰まりを生じ易く,印刷物の耐水性が著しく劣っていた。
【0007】
樹脂分散型の水性インクは,インクの水分蒸発に伴う粘度上昇は比較的少なく,また耐水性に優れるという利点がある。具体的には,特開昭58−45272号公報では染料を含有したウレタンポリマーラテックスを含むインク組成物(特許文献3参照)や,特開昭62−95366号公報では水不溶性有機溶媒中にポリマーと油性染料を溶解し,さらに表面活性剤を含む水溶液と混合して乳化させた後に溶媒を蒸発してポリマー粒子中に内包された染料を含むインクが提案され(特許文献4参照),また特開昭62−254833号公報ではカプセル化時の有機溶媒と水との間の界面張力を10ダイン以下にすることによる着色料水性懸濁液の製造法が提案され(特許文献5参照),特開平1−170672号公報では同様にマクロカプセル化した色素を含有する記録液等が提案されている(特許文献6参照)が,それらで得られた着色樹脂分散物の分散安定性は必ずしも十分ではなく,またカプセル化時に使用する界面活性剤の影響で泡立ちが大きく,インクジェットの噴射特性が必ずしも十分ではなかった。
【0008】
また特開平3−240586号公報では分散媒中に分散している粒子表面が,分散媒に膨潤する樹脂により被覆されていることを特徴とする画像形成材料が提案されている(特許文献7参照)が,室温付近でゾル−ゲルの相転移が起きやすく,また粒子の分散安定性も必ずしも良くなく噴射異常を起こしやすかった。
【0009】
さらに、特開平5−247370号公報では顔料及び樹脂を含む画像記録用着色組成物において,顔料が,分散媒に対して実質的に不溶性であり且つ極性基を有する硬化重合体の薄膜で被覆された顔料であることを特徴とする画像記録用着色組成物が提案されている(特許文献8参照)が,本発明では顔料自体に自己分散性および記録紙に対する固着能力が不足しているために,分散剤及び固着剤としての樹脂が必須となり,そのため硬化重合体で被覆されていない顔料と比較して分散安定性は優れているものの,インクジェットとしての噴射安定性が不足し,耐水性が劣るという欠点は改善されなかった。
【特許文献1】特許第2512861号公報
【特許文献2】特開平3―153775号公報
【特許文献3】特開昭58−045272号公報
【特許文献4】特開昭62−095366号公報
【特許文献5】特開昭62−254833号公報
【特許文献6】特開平1−170672号公報
【特許文献7】特開平3−240586号公報
【特許文献8】特開平5−247370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は,微粒子径で分散安定性に優れ,かつインクジェット噴射特性と,被記録媒体へのカプセル粒子の固着とに優れた着色マイクロカプセル分散型水性ジェットインクを提供するための、着色マクロカプセル水性分散液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は,上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果,要するに、インク中に、顔料を被覆していない、フリーで溶解した皮膜形成性樹脂成分を吐出安定性に影響を及ぼさず、かつ、被記録媒体へのカプセル粒子の固着に寄与する量的範囲にすることで、上記した課題を解決するに至った。
【0012】
即ち本発明は,顔料を皮膜形成性樹脂で被覆した着色マイクロカプセルを水性媒体中に含むインクにおいて,皮膜形成性樹脂のうちインク中に溶解する樹脂成分が,0.01〜2質量%である着色マイクロカプセル分散型水性ジェットインクを提供するための以下の着色マイクロカプセル水性分散液の製造方法を提供するものである。すなわち、本発明は、(1)酸価を有する皮膜形成性樹脂に顔料を分散して固形着色コンパウンドを得る混練工程と、
(2)少なくとも水、前記皮膜形成性樹脂を溶解する有機溶剤、塩基、前記固形着色コンパウンドを混合し、分散によって少なくとも前記皮膜形成性樹脂の一部が溶解している顔料懸濁液を得る懸濁工程と、
(3)前記顔料懸濁液中に溶解している皮膜形成性樹脂成分を顔料表面に沈着させる再沈殿工程を有することを特徴とする着色マイクロカプセル水性分散液の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法で製造された着色マイクロカプセル水性分散液から作製される着色マイクロカプセル分散型水性ジェットインクは,皮膜形成性樹脂のうちインク中に溶解する樹脂成分を,0.01〜2質量%としたので、経時分散安定性に優れ、かつ噴射特性、被記録媒体への画像固着性にも優れるという格別顕著な技術的効果を奏する。
【0014】
従って、インクジェット記録において例えば印刷品質・耐水性・耐光性に優れた樹脂分散型水性インクの特長を殺すことなく,分散安定性に優れ,かつノズル目詰まりもなく,安定したインクジェット噴射特性を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明においては単位系としてSI単位系を採用し、重量は質量として記載する。本発明の着色マイクロカプセル分散液の製造方法によって作製される着色マイクロカプセル分散液を主成分とするインクは、本発明で製造したのものに限らず、例えば、顔料を分散媒に溶解しない皮膜形成性樹脂で被覆した着色マイクロカプセル、皮膜形成性樹脂で被覆されていない分散媒に溶解しないフリーの顔料粒子、顔料を被覆していない分散媒に溶解しないフリーの皮膜形成性樹脂分散粒子、分散媒に溶解した皮膜形成性樹脂、及び分散媒、更に必要に応じて用いられる乾燥防止剤、浸透剤等とから構成され得る。
【0016】
本発明においては、上記インク構成において、分散媒たる水性媒体に、溶解した皮膜形成性樹脂を最適範囲内に存在させるインクを作製しうる点に特徴がある。
【0017】
しかしながら、皮膜形成樹脂のうちインク中に溶解する樹脂成分が0.01質量%未満では,インクが記録紙に印刷された時に,得られるインク層中のマイクロカプセル粒子の記録紙に対する固着能力やマイクロカプセル粒子同士の結合力が不足していて,その結果,印刷物の摩擦等の耐久性が劣るという欠点が生じ易い。
【0018】
逆に、皮膜形成樹脂のうちインク中に溶解する樹脂成分が2質量%を越えると,インクが記録紙に印刷された時に,得られるインク層中のマイクロカプセル粒子の記録紙に対する固着能力やマイクロカプセル粒子同士の結合力は増大するが,溶解した皮膜形成性樹脂が記録紙上で不溶化するまでの時間,即ち印刷直後の耐水性が発現するまでの時間が長くなるという欠点に加えて,皮膜形成樹脂は高分子分散剤等の水溶性樹脂と比較してノズル端面での水分蒸発に伴う目詰まりがより生じ易く,インクジェット噴射安定性がより悪くなるという欠点が生じ易い。
【0019】
皮膜形成樹脂のうちインク中に溶解する樹脂成分が、例えば0.01〜2質量%,より好ましくは0.1〜1質量%にすることにより,インクが記録紙に印刷された時に,得られるインク層中のマイクロカプセル粒子の記録紙に対する固着能力やマイクロカプセル粒子同士の結合力が増し,印刷物の摩擦等の耐久性が向上するとともに,ノズル端面での水分蒸発に伴う目詰まりもなくなり,インクジェット噴射安定性が大幅に向上する。
【0020】
本発明において水性媒体とは、水のみか、水を主成分として必要に応じて有機溶剤を含む媒体を言う。本発明においては、インクの分散媒たる水性媒体として、皮膜形成性樹脂を極力溶解しない様、化学組成及び構成成分の質量割合等を選択するのが好ましい。
【0021】
本発明において、顔料を被覆するのに用いる皮膜形成性樹脂は,皮膜を形成する樹脂であればよく,天然樹脂や合成樹脂に限定されず様々な皮膜形成性樹脂が用いることができ,例えばスチレン系樹脂,アクリル系樹脂,ポリエステル系樹脂,ポリウレタン系樹脂が挙げられる。
【0022】
しかしながら,着色マイクロカプセルを水性媒体中に安定して分散させるには,皮膜形成性樹脂は親水性の高い性質を有している必要があり,そのためしばしば多量の皮膜形成性樹脂がインク中に溶解することになる。この場合,溶解している樹脂はマイクロカプセルを被覆している樹脂層への絡みつきに伴う粒子間架橋により,長期の保管によりマイクロカプセルの凝集を促進することがある。またインクジェット記録を行った場合には,ノズル端面での水分蒸発に伴うインクの粘度上昇やノズル周辺へのインク濃縮物の付着によって噴射異常を起こしやすくなる。
【0023】
一方,皮膜形成性樹脂の親水性が低い場合には顔料を皮膜形成性樹脂で被覆した着色マイクロカプセルの水性媒体中での分散安定性はより低くなる。
【0024】
そこで、皮膜形成性樹脂の水性媒体への溶解を最小限に押さえ,かつ当該水性媒体中での安定した分散を可能とすることが、しばしば必要となる。
【0025】
着色マイクロカプセルを水性媒体中に安定に分散させるには、例えば界面活性剤や分散剤等を用いて、もともと親水性が無いかそれが乏しい皮膜形成性樹脂を用いるという方法もあり得るが、着色画像がより優れた耐水性を発現する点や吐出安定性が良好な点からすれば、界面活性剤や分散剤等を含まない様に調製するのが好ましい。
【0026】
この界面活性剤や分散剤等を含まない様に調製する方法としては、例えば、中和により水性媒体に分散し得る樹脂を中和剤により中和して得た皮膜形成性樹脂を用いる様にするのが良い。中和により水性媒体に分散し得る樹脂を中和剤により中和して得た皮膜形成性樹脂としては、典型的には、塩基による中和により水性媒体に分散し得る樹脂を塩基で中和してなる皮膜形成性樹脂が挙げられる。本発明では、界面活性剤や分散剤等などの助けを借りずとも、それ自体のみで、水性媒体に安定に分散できるこの樹脂を、自己水分散性樹脂と呼ぶ場合がある。
【0027】
本発明の製造方法では、例えば酸価を有する樹脂を用いて,それを塩基で中和した自己水分散性樹脂を皮膜形成性樹脂として用いるのが好ましい。酸価を有する樹脂としては、例えば酸価50〜180のものが用いられる。尚、酸価とは、樹脂1gを中和するに必要な水酸化カリウム(KOH)のミリグラム(mg)数を言い、mg・KOH/gで表す(以下、単位は略記する。)。この様な樹脂は、例えば前記特定酸価の樹脂の酸価の全て又は一部を中和することにより得ることが出来るが、この際は、インクのpHが7.5〜9.0となる様にすることが好ましい。
【0028】
酸価が50未満の場合はマイクロカプセル粒子の表面親水性が乏しく,分散安定性が不充分となり易く,酸価が180を越える場合には樹脂の親水性が著しく高まり,樹脂による顔料の被覆が膨潤等により不十分となり易く、マイクロカプセル粒子同士の凝集やノズル目詰まりを生じやすくなるために不適当である。
【0029】
一方、最終的なインクのpHが7.5より低い場合には,着色マイクロカプセル粒子の分散安定性は低下し易く,pHが9.0以上の場合は着色マイクロカプセル粒子の顔料の被覆が膨潤等により不十分となり易く,マイクロカプセル粒子同士の凝集やノズル目詰まりを生じやすくなるために不適当である。
【0030】
最適には、皮膜形成性樹脂成分を0.01〜2質量%溶解しているインクとするに当たって、酸価が50〜180の樹脂を用いて,それを塩基で中和した皮膜形成性樹脂を用いるとともに、インクのpHが7.5〜9.0となる様にしたものが、本発明の製造方法により製造した着色マイクロカプセル水性分散液を主成分とするジェットインクにおいて著しい効果を示す。
【0031】
皮膜形成性樹脂の分子量範囲は、特に制限はないが,重量平均分子量で、1000以上10万以下の分子量範囲が好ましい。皮膜形成性樹脂の分子量が、1万未満であると十分な皮膜形成がなされない場合が多く,マイクロカプセル粒子同士の凝集等によりノズル目詰まりを生じやすくなるために不適当である。特に皮膜形成性樹脂で顔料を十分に被覆するには、樹脂の分子量が1万以上10万以下が好ましい。
【0032】
本発明の製造方法において用いる,好ましい皮膜形成性樹脂は,スチレン系樹脂または(メタ)アクリル系樹脂であり、例えばスチレン,置換スチレン,(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーと,(メタ)アクリル酸との共重合体を塩基で少なくとも一部中和した自己水分散性樹脂が挙げられる。
【0033】
(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタアクリル酸の総称であり、本発明では、いずれか一方が必須であればよいが、より好適な皮膜形成性樹脂は、アクリル酸およびメタアクリル酸の両方に由来する構造を有しているものである。
【0034】
本発明において製造された着色マイクロカプセル水性分散液から形成されるジェットインクにおいて、例えば皮膜形成性樹脂としての自己水分散性樹脂の水性媒体中への溶解をより少なくするには、全てのカルボキシル基を有する単量体成分のうちの、アクリル酸の比率をより少なく,メタアクリル酸の比率をより増せばよい。
【0035】
即ち、最適な皮膜形成性樹脂としての自己水分散性樹脂は、スチレン,置換スチレン,(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーを主成分とし,アクリル酸とメタアクリル酸との共重合体であって、メタアクリルがアクリル酸より多く共重合された、塩基で少なくとも一部中和した自己水分散性樹脂である。
【0036】
最終的なインクのpHを塩基性にするには,中和により水性媒体に分散し得る樹脂に対して中和,即ち塩基を加えればよい。塩基としては,例えば水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物,アンモニア,トリエチルアミン,モルホリン等の塩基性物質の他,トリエタノールアミン,ジエタノールアミン,N−メチルジエタノールアミン等のアルコールアミンが使用可能である。塩基としては、皮膜形成性樹脂が分解しない程度の高温で容易に揮発性する、揮発性塩基を採用するのが好ましい。
【0037】
しかしながら、より高酸価の樹脂をより強い塩基を用いて中和を行うと,インク中での皮膜形成性樹脂の溶解度がより高まることから,塩基の強さや使用量(中和率)を調節することが好ましい。インクジェット記録においては,ノズルの目詰まりや保存時の分散安定性,印刷物の耐水性に悪影響が極めて少ないため,弱塩基であるアルコールアミン,特にトリエタノールアミンは最適な塩基である。
【0038】
本発明の製造方法においては、皮膜形成性樹脂の酸基に対する中和率が100モル%相当量以下、好ましくは、60モル%相当量以下とする。特に好ましいのは、アルコールアミンを塩基として用いて、皮膜形成性樹脂の酸基に対する中和率が60モル%相当量以下となる様にするのが好ましい。
【0039】
本発明の着色マイクロカプセル分散型水性分散液および該分散液より作製されるジェットインクに用いられる顔料は,特に限定されるものではなく,公知慣用のものがいずれも使用できるが,例えばカーボンブラック,チタンブラック,チタンホワイト,硫化亜鉛,ベンガラ等の無機顔料や,フタロシアニン顔料,モノアゾ系,ジスアゾ系等のアゾ顔料,フタロシアニン顔料,キナクリドン顔料等の有機顔料等が用いられる。カラー画像を得る場合には、インクとしては、有彩色顔料を用いるのが好ましい。
【0040】
かかる顔料の使用量は,本発明における効果を達成すれば特に規定されないが,最終的に得られるインク中で,通常0.5〜20質量%となるような量となる様に調製するが好ましい。
【0041】
最終的にインクには、必要に応じて、皮膜形成性樹脂を溶解しない様な、或いは溶解し難い有機溶剤を含ませることが出来る。インクに用いられる有機溶剤は,一例として乾燥防止剤や浸透剤として用いられる。
【0042】
乾燥防止剤は,インクジェットの噴射ノズル口でのインクの乾燥を防止する効果を与えるものであり,通常水の沸点以上の沸点を有するものが使用される。このような乾燥防止剤としては,従来知られている公知慣用のものがいずれも使用できるが,例えばエチレングリコール,プロピレングリコール,ジエチレングリコール,ジプロピレングリコール,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,グリセリン等の多価アルコール類等がある。
【0043】
特にグリセリンは、マイクロカプセル粒子表面の皮膜形成樹脂に強い水素結合により結びついてマイクロカプセル粒子の分散安定性をより高めると同時に,仮にインク中に皮膜形成樹脂が少量溶解していたとしてもそれに対しても強い水素結合で結びつくことによって,ノズル端面での乾燥を防止するという点でより好ましい。
【0044】
浸透剤は記録媒体へのインクの侵透や記録媒体上でのドット径の調整を行うものであり,浸透剤としては,例えばエタノール,イソプロピルアルコール等の低級アルコール,エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等がある。
【0045】
上記有機溶剤は、皮膜形成性樹脂の種類や濃度、或いは水性媒体中での当該有機溶剤濃度等の組合せによっては,顔料に被覆している樹脂を2質量%以上溶解し噴射特性を悪くする場合があることから,有機溶剤の種類に応じてインク中での含有量を2質量%以下,さらに好ましくは1質量%以下になるように,前記インクのpH範囲を考慮した上で添加量を抑制する必要がある。
【0046】
これら有機溶剤の添加量は,インク中、乾燥防止剤の場合は1〜80質量%,浸透剤の場合は0.1〜10質量%とするのが好適である。
【0047】
本発明の製造方法で作製された着色マイクロカプセル水性分散液から作製されるジェットインクにおいては、皮膜形成性樹脂のインク中に溶解している成分を測定する方法は,当該樹脂以外の固形成分が少ない場合には,例えば超遠心分離機にてマイクロカプセル粒子を沈降させ,上澄み液を十分に乾燥して直接不揮発分として測定することが出来る。また当該樹脂以外の固形分や高沸点有機溶剤が多量にインク中に存在する場合には,遠心沈降物を十分に乾燥し,その後熱分析装置にて、熱分解温度の差異に基づいて、樹脂と顔料の比率を測定し,インクに仕込んだ当該樹脂と顔料の比率から換算して,インク中に溶解している樹脂成分量を求めることが出来る。後者の方法は、水性媒体中の分散物が、着色マイクロカプセルのみからなり、皮膜形成性樹脂で被覆されていないフリーの顔料粒子や、顔料を含まない皮膜形成性樹脂のみの粒子を含まない場合には、特に高精度で測定出来る。インク中に、乾燥防止剤、浸透剤等の添加剤などを含んでいる場合には、顔料と皮膜形成性樹脂が分解しない様な温度で、前者添加剤を乾燥除去してから測定を行うことで、より測定精度は増すことが出来る。
【0048】
本発明の着色マイクロカプセル分散型水性分散液の製造方法によって、水性分散液を得てさらに、該水性分散液からジェットインクを得る具体的な方法は,酸価を有する皮膜形成樹脂を用いて顔料を被覆する場合には以下の方法が好ましい。この方法によれば、水性媒体中に分散した樹脂と顔料に由来する成分が、着色マイクロカプセルのみからなり、皮膜形成性樹脂で被覆されていないフリーの顔料粒子や、顔料を含まない皮膜形成性樹脂のみの粒子や、溶解した皮膜形成性樹脂をいずれも全く含まないか、含んでいても極めて極少量であるインクを容易に得ることが出来る。
【0049】
本発明の方法は、例えば次の(1)〜(5)をこの順に行うことが出来る。
(1)酸価を有する皮膜形成性樹脂に,顔料を分散して固形着色コンパウンドを得る。(混練工程)
【0050】
この工程は,例えば従来知られているロールやニーダーやビーズミル等の混練装置を用いて,溶液や加熱溶融された状態で,顔料を,当該樹脂に均一に溶解または分散させ,最終的に固体混練物(固形着色コンパウンド)として取り出すことにより行うことが出来る。
【0051】
特に当該樹脂への顔料の微分散が必要な場合には,顔料を分散する手段として,従来知られている分散方法のうち,相対的に高せん断力のかかる状態が形成される分散手段,具体的には2本ロールを用いて高せん断力下で分散を行うことが好ましい。
【0052】
(2)少なくとも,水,当該樹脂を溶解する有機溶剤,塩基,前記固形着色コンパウンドを混合し,分散によって少なくとも当該樹脂の一部が溶解している顔料懸濁液を得る。(懸濁工程)
【0053】
当該樹脂を溶解する有機溶剤は当該樹脂に対して良溶媒として機能するものであり,有機溶剤としては,当該樹脂に対して適宜選択することが出来,例えばアセトン,ジメチルケトン,メチルエチルケトン等のケトン系溶剤,メタノール,エタノール,イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤,クロロホルム,塩化メチレン等の塩素系溶剤,ベンゼン,トルエン等の芳香族系溶剤,酢酸エチルエステル等のエステル系溶剤,エチレングリコールモノメチルエーテル,エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤,アミド類等樹脂を溶解させるものであれば使用可能である。
【0054】
本工程に用いられる分散媒は,主体は皮膜形成性樹脂に対しては貧溶媒として機能する水であり,インクジェット記録用水性インクとして用いるため,イオン交換水以上の純度を有することが好ましい。
【0055】
本工程では,水及び有機溶剤の混合液が均一であることが好ましく,均一でない場合は,必要に応じて、界面活性剤を用いるか,あるいは機械的にO/W型に乳化させるか,助溶剤を併用して均一化させて用いることが好ましい。前記の通りの理由により、界面活性剤は用いたとしても、最小限に止める。
【0056】
分散媒を形成する,必要に応じて用いられる当該樹脂を溶解する有機溶剤は,それのみを用いる様にしてもよいが,それと水と塩基のみで,分散安定性に優れた顔料懸濁液を得難い場合には,それに,当該樹脂に対して親水性有機溶剤を,助溶剤として一部併用してより良い乳化安定性を持たせる様にしてもよい。尚,当該樹脂を溶解する有機溶剤及び助溶剤は,いずれも1種又は2種以上を併用してもよい。
【0057】
当該樹脂が,例えばスチレン,置換スチレン,(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーと,(メタ)アクリル酸との共重合体の場合には,メチルエチルケトン等のケトン系溶剤を主として,助溶剤としてイソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤から選ばれる少なくとも1種類以上の組み合わせが良い。
【0058】
かかる水と有機溶剤の比率は,本発明の製造方法より作製される着色マイクロカプセル水性分散液より形成されるジェットインクにおける効果を達成すれば特に規定されないが,水/有機溶剤の重量比が10/1〜1/1となるような量が好ましい。
【0059】
この工程により,固形着色コンパウンドの表面に存在する,酸価を有する皮膜形成性樹脂は,徐々に,塩基により,その酸価の少なくとも一部又は全部が中和され,当該コンパウンドの固体形状から,混合物は懸濁状態となる。
【0060】
懸濁液を得るための攪拌方法としては,公知慣用の手法がいずれも採用でき,例えば従来の1軸のプロペラ型の攪拌翼の他に,目的に応じた形状の攪拌翼や攪拌容器を用いて、通常は、容易に懸濁可能である。
【0061】
懸濁液を得るに当たって,大きなせん断力が働かない単なる混合攪拌では微粒子化しない場合や,顔料が比較的凝集しやすい場合には,それに加えて更に高せん断力を与えて微粒子の安定化を行っても良い。この場合の分散機としては,例えば高圧ホモジナイザーや、商品名マイクロフルイダイザーやナノマイザーで知られるビーズレス分散装置等を用いるのが,顔料の再凝集が少なく好ましい。
【0062】
(3)顔料懸濁液中に溶解している皮膜形成性樹脂成分を,顔料表面に沈着させてマイクロカプセルを得る。(再沈殿工程)
【0063】
本工程は,前記懸濁工程で得られた顔料懸濁液中の顔料表面に,当該懸濁液中に存在する溶解樹脂成分及び分散樹脂成分を沈着させる工程である。本工程の「再沈殿」とは,顔料,或いは当該溶解樹脂や分散樹脂が顔料表面に吸着した半カプセル状態の粒子を懸濁液の液媒体から,分離沈降させることを意味するものではない。従って,この工程で得られるものは,固形成分と液体成分とが明らか分離した単なる混合物ではなく,当該溶解樹脂や分散樹脂が顔料表面に被覆したマイクロカプセルが懸濁液の液媒体に安定的に分散した着色樹脂粒子(着色マイクロカプセル)水性分散液である。
【0064】
この懸濁工程の顔料懸濁液中のマイクロカプセル表面へ樹脂の沈着は,例えば,少なくとも一部、当該皮膜形成性樹脂が溶解及び/又は分散している顔料懸濁液に,当該樹脂に対して貧溶媒として機能する水または水性媒体を加えて行うか,及び/又は,顔料懸濁液から有機溶剤を除去して行うことによって容易に行うことが出来る。
【0065】
しかしながら,顔料懸濁液に,当該樹脂に対して貧溶媒として機能する水または水性媒体をさらに加えて行う方法が,凝集物も少なく好ましい。再沈殿は懸濁液を緩く攪拌しながら水または水性媒体を滴下することによって,凝集物の発生を防止しながら顔料表面に樹脂を確実に沈着(再沈殿)させることが可能となる。
【0066】
また得られた分散液の乾燥を防止するために,乾燥防止剤を水性媒体中に前もって存在させておくか,再沈殿後に添加することが好ましい。
【0067】
この様にして、上記(1)混練工程(2)懸濁工程(3)再沈殿工程によって,所望の粒子径の着色樹脂粒子が得られるが,通常その平均粒子径範囲は,0.01〜1μmである。
【0068】
(4)再沈殿工程で得られたマイクロカプセル分散液からの低沸点有機溶剤の除去及び/または濃縮(脱溶剤工程)
【0069】
再沈殿工程で得られた着色樹脂粒子水分散液はそのまま用いることもできるが,共存している有機溶剤の影響で着色樹脂粒子が膨潤状態にある場合が多いため,保存安定性をより向上させるためや,或いはより火災や公害に対する安全性を高めるために,更に脱溶剤を行うことが好ましい。
【0070】
この様にして除去された有機溶剤は,例えば連続生産を目的とする場合には,焼却することなく,閉鎖系にてリサイクルして再利用することも出来る。
【0071】
この(1)〜(4)の工程を経て得た、着色樹脂粒子(着色マイクロカプセル)水性分散液は、それの調製に用いた樹脂と顔料に由来する全成分が、専ら着色マイクロカプセルのみからなる水性分散液となり、フリーの顔料粒子、皮膜形成性樹脂のみの粒子及び溶解した皮膜形成性樹脂の三者を実質的に含まないものである。しかしながら、溶解した皮膜形成性樹脂成分をゼロとするのは極めて困難なため、通常その含有率は分散液構成全成分中0.01質量%以上となるのが一般的である。
【0072】
こうして得られた分散液は、通常、顔料が皮膜形成性樹脂で被覆された着色マイクロカプセルと、分散媒のみから実質的になる。分散液中の着色マイクロカプセルの含有率は、それと分散媒の合計に対して、通常、10〜40質量%とする。勿論、これまでの工程で各種添加剤を含めた場合には、分散液中にはそれも含まれる。
【0073】
(5)インク工程
前記工程によって得られる,水以外の液媒体を全く含まないか、或いはほとんど含まない、サブミクロンオーダーの着色樹脂粒子水分散液は,そのままでも基本的にインクジェット記録用水性インクとして用いることが出来るが,更に,分散安定性,噴射特性を考慮してインクの調整を行うことが好ましい。
【0074】
インクの調整は,例えば、前記乾燥防止剤や浸透性有機溶剤の添加,濃度調整・粘度調整の他,pH調整剤,分散・消泡・紙への浸透のための界面活性剤,防腐剤,キレート剤,可塑剤,酸化防止剤,紫外線吸収剤等を必要に応じて添加剤することができる。但し、各種添加剤は、着色マイクロカプセルの表面に存在する皮膜形成性樹脂を溶解しないものを選択して専らその様な性質のもののみを用いるか、同樹脂を溶解しうるものであっても実質溶解しない様な濃度にその使用量を極力最小限に止める等の工夫が必要である。界面活性剤は、最終的な調整のみならず、本発明のインク調製に採用されるうる工程の全てにおいて、全く用いない様にするのが、インクから得られる画像の耐水性等の観点からも好ましい。
【0075】
また、被記録媒体がガラス・金属・フィルムの様な不浸透性以外のもの(浸透性被記録媒体)の場合には,噴射安定性に影響を及ぼさない程度に、皮膜形成性樹脂とは異なる、他の水溶性樹脂も添加することもできる。
【0076】
また,粗大粒子によるノズル目詰まり等を回避するために,通常は、(4)の脱溶剤工程後に遠心分離やフィルターろ過により粗大粒子を除去するか,(5)のインク工程でインク調整後に所望の粒径のフィルターで濾過する。
【0077】
本発明の製造方法により作製された着色マイクロカプセル分散型水性分散液より作製されるジェットインクは、例えばピエゾ方式やオンデマンド方式等の公知慣用のインクジェット記録方式のプリンターに採用することが出来る。また、同インクは、公知慣用の被記録材料、例えば紙、樹脂コート紙、インクジェット記録用専用紙、ガラス、金属、フィルム、陶磁器等に画像を形成する際に使用することが出来る。
【0078】
本発明の着色マイクロカプセル分散型水性ジェットインクは,透明性,発色性,分散安定性に優れており,インクジェット記録以外に,他のインク一般,塗料,カラーフィルターへの応用が可能である。
【0079】
本発明の製造方法より作製された着色マクロカプセル水性分散液から作製されるジェットインクはまた以下のような実施形態を含む。
1.顔料を皮膜形成性樹脂で被覆した着色マイクロカプセルを水性媒体中に含むインクにおいて,皮膜形成性樹脂のうちインク中に溶解する樹脂成分が,0.01〜2質量%である着色マイクロカプセル分散型水性ジェットインク。
【0080】
2.皮膜形成性樹脂の酸価が50〜180で,かつインクのpHが7.5〜9.0である前記1の着色マイクロカプセル分散型水性ジェットインク。
【0081】
3.皮膜形成性樹脂の分子量が1万以上である前記1および2の着色マイクロカプセル分散型水性ジェットインク。
【0082】
4.水性媒体中にグリセリンを含む前記1〜3の着色マイクロカプセル分散型水性ジェットインク。
【0083】
5.酸価が50〜180の皮膜形成樹脂の少なくとも一部が塩基で中和されてなる自己水分散性樹脂である前記1〜4の着色マイクロカプセル分散型水性ジェットインク。
【0084】
6.塩基が,アルコールアミンである前記5の着色マイクロカプセル分散型水性ジェットインク。
【0085】
7.アルコールアミンがトリエタノールアミンである前記6の着色マイクロカプセル分散型水性ジェットインク。
【0086】
8.皮膜形成性樹脂の酸基の60モル%相当量以下の中和率で中和する請求項5〜7記載の着色マイクロカプセル分散型水性ジェットインク。
【0087】
本発明の製造方法の好適な実施の形態を,インクジェット記録用インクに適用した場合を例にして説明すると,以下の通りである。
(1)カルボキシル基に基づく酸価50〜180を有する、重量平均分子量1〜10万の皮膜形成性スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体樹脂に,顔料を二本ロールを用いて分散して,固形着色コンパウンドを得る。
【0088】
(2)水,前記樹脂を溶解する低沸点の有機溶剤にメチルエチルケトンを主として,前記水とメチルエチルケトンに対して助溶剤として機能する低沸点の水溶性有機溶剤としてイソプロピルアルコールを併用して,塩基として前記皮膜形成性樹脂の酸基の60モル%相当量以下の中和率となる,前記皮膜形成性樹脂を自己水分散性とするに足る量のアルコールアミン,乾燥防止剤としてグリセリンを各々含む,水を主液媒体とする溶液を調製し,それに,前記(1)の固形着色コンパウンドのチップを混合し,攪拌によって顔料懸濁液を得る。より好適には懸濁液を,高せん断力を与えることが出来,より充分な懸濁状態が得られる分散機であるナノマイザー(商標)を用いて,再凝集が無い様に,さらに微粒子化を行う。
【0089】
(3)顔料懸濁液を攪拌しながら,グリセリンを含む水溶液を滴下し,顔料と皮膜形成性樹脂に由来する成分が、実質的に平均粒子径0.01以上1μm未満の着色樹脂粒子(着色マイクロカプセル)のみからなる水性分散液を得る。
(4)得られた着色樹脂粒子水性分散液から,メチルエチルケトンとイソプロピルアルコールを留去し,インクベースとする。
(5)インクベースに,インク調整用薬剤を加え,濃度・物性を調整した後,ろ過を行い、当該着色マイクロカプセルが顔料換算で0.5〜20質量%、pH7.5〜11のインクジェット記録用水性インクとする。
【実施例】
【0090】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚,以下の実施例中における「部」は『質量部』を表わす。
【0091】
(実施例1)
キナクリドン顔料8部とスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸樹脂(スチレン/アクリル酸/メタアクリル酸=77/10/13;分子量5万・酸価160)8部の二本ロール混練物16部を,水46部,グリセリン4部,トリエタノールアミン1.7部,メチルエチルケトン18部,イソプロピルアルコール8部の混合溶液に入れ,室温で3時間攪拌し,更に分散機ナノマイザー(ナノマイザー社製)を用いて圧力98MPaで分散処理を行い、顔料懸濁液を得た。
【0092】
得られた懸濁液93.7部に,攪拌しながら,グリセリン6部と水69部の混合液を毎分5mlの速度で滴下し,マゼンタ色着色樹脂粒子水分散液を得た。得られたカプセル液をロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンとイソプロピルアルコール及び水の一部を留去し,最終のマゼンタ色着色樹脂粒子水分散液を得た。
【0093】
この水分散物92部に乾燥防止剤であるグリセリン3部,浸透剤であるプロピレングリコールプロピルエーテル5部を加え,インク中の着色マイクロカプセルの顔料換算で、濃度が2.7質量%になるように調整・攪拌した後,1μmフィルターを用いてろ過を行い,インクジェット記録用水性インクとした。
【0094】
得られた水性インク中のマイクロカプセルは0.15μmの平均粒子径を有しておりそのpHは8.4であった。水性インクを超遠心分離機を用いて加速度9.8km/s2・3時間の遠心条件でマイクロカプセル粒子を沈降させ,得られた沈降物を105℃のオーブンで140時間乾燥させて、皮膜形成性樹脂と顔料のみとした後,熱分析装置で樹脂と顔料の比を求め、インク中に溶解している皮膜形成性樹脂分のみを求めたところ、0.4質量%であった。
【0095】
このインクは,室温で1年間の保管後も凝集物もなく安定な分散を示し,ピエゾ式インクジェットプリンターを用いた印字は安定しており,得られた印刷物は滲みもなく鮮やかなマゼンタ色(印刷濃度1.3)を示し,しかも印刷直後の記録紙を精製水に24時間浸漬した後の印刷濃度は1.3で印刷前と全く変化がなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)酸価を有する皮膜形成性樹脂に顔料を分散して固形着色コンパウンドを得る混練工程と、
(2)少なくとも水、前記皮膜形成性樹脂を溶解する有機溶剤、塩基、前記固形着色コンパウンドを混合し、分散によって少なくとも前記皮膜形成性樹脂の一部が溶解している顔料懸濁液を得る懸濁工程と、
(3)前記顔料懸濁液中に溶解している皮膜形成性樹脂成分を顔料表面に沈着させる再沈殿工程を有することを特徴とする着色マイクロカプセル水性分散液の製造方法。
【請求項2】
前記再沈殿工程は、前記顔料懸濁液に前記被膜形成性樹脂に対して貧溶媒として機能する水または水性媒体を加えて行うものである請求項1に記載の着色マイクロカプセル水性分散液の製造方法。
【請求項3】
前記再沈殿工程は、前記顔料懸濁液から前記有機溶剤を除去して行うものである請求項1に記載の着色マイクロカプセル水性分散液の製造方法。
【請求項4】
前記皮膜形成性樹脂は50〜180の酸価を有する樹脂を塩基で中和した自己水分散性樹脂である請求項1〜3に記載の着色マイクロカプセル水性分散液の製造方法。
【請求項5】
前記皮膜形成性樹脂の酸価に対する中和率が60%以下である請求項4に記載の着色マイクロカプセル水性分散液の製造方法。
【請求項6】
前記皮膜形成性樹脂はスチレン系樹脂であって、アクリル酸とメタアクリル酸をともに共重合体のモノマー成分として含む請求項1〜3に記載の着色マイクロカプセル水性分散液。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の製造方法により製造された着色マイクロカプセル水性分散液。


【公開番号】特開2007−23291(P2007−23291A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230757(P2006−230757)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【分割の表示】特願平9−103145の分割
【原出願日】平成9年4月21日(1997.4.21)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】