説明

着色マルチフィラメント高テナシティポリオレフィンヤーンの製造方法

着色マルチフィラメント超高分子量ポリオレフィンヤーンの製造方法であって、少なくとも1つの実質的に不撚のマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィンヤーンを供給する工程;実質的に不撚のマルチフィラメントヤーンを、熱可塑性樹脂キャリヤー中に混合した着色剤を含むコーティング組成物で被覆する工程、ここで該コーティング組成物が、マルチフィラメントヤーンのフィラメントに接着する;及び、マルチフィラメントヤーンのフィラメントを融合させることなくマルチフィラメントヤーンを延伸しながらマルチフィラメントヤーンを加熱する工程;を含む前記製造方法。得られるヤーンは、改善された耐変色性を有する着色マルチフィラメントヤーンである。熱可塑性樹脂は、マルチフィラメントヤーンのフィラメントより低い融点を有する。複数の実質的に不撚のマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィンヤーンを一緒に処理することが好ましい。着色マルチフィラメントヤーンから製造された物品を調製し、そして加熱工程に付して、物品上に熱可塑性樹脂の着色表面コーティングをもたらすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高テナシティポリオレフィン繊維から製造されるマルチフィラメントヤーンの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
長時間持続する色(long-lasting color)で着色された高テナシティ繊維から製造されるヤーンを提供することは非常に困難である。これらのヤーンは、高テナシティポリオレフィン繊維(例えば高テナシティポリエチレン繊維)から製造することができる。これらの繊維は、ハネウェル・インターナショナル社からスペクトラ(SPECTRA)(登録商標)伸び切り鎖ポリエチレン繊維として市販されており、他のメーカーからも市販されている。
【0003】
一般には、このような高テナシティ繊維は、適切な溶媒で膨潤させたポリエチレンゲルを含有する溶液を、超高分子量ポリエチレンのフィラメントに紡糸することによって製造される。溶媒を除去し、得られたヤーンを、1つ以上の工程において伸長もしくは延伸する。このようなフィラメントは一般に、「ゲル紡糸」ポリオレフィンとして知られており、商業的に最も販売されているのはゲル紡糸ポリエチ レンである。溶液紡糸ポリオレフィン繊維も、溶融押出繊維として知られている。
【0004】
マルチフィラメント高テナシティヤーンは通常、着色剤を塗布する前に表面処理工程を必要とする。例えば、これらのヤーンは、プラズマスプレーによる処理又はコロナ処理を施すことができ、そしてそのすぐ後に着色コーティングを施すことができる。しかしながらこうした着色コーティングは、激しくこすると剥がれやすい。
【0005】
ゲル紡糸ポリエチレン繊維からのモノフィラメント様釣り糸の製造が、例えば米国特許第6,148,597号明細書と国際公開第2006/040191A1号に開示されている。これらの特許の開示によれば、モノフィラメント様釣り糸を得るために、フィラメントが一緒に溶融されるようにマルチフィラメントヤーンが処理される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,148,597号明細書
【特許文献2】国際公開第2006/040191号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
改良された耐変色性を有するマルチフィラメント高テナシティヤーンを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、着色マルチフィラメント超高分子量ポリオレフィンヤーンを製造する方法が提供され、該製造方法は、少なくとも1つの実質的に不撚のマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィンヤーンを供給する工程;実質的に不撚のマルチフィラメントヤーンを、熱可塑性樹脂キャリヤー中に混合した着色剤を含むコーティング組成物で被覆する工程、ここで該熱可塑性樹脂は、マルチフィラメントヤーンのフィラメントより低い融点を有し、該コーティング組成物が、マルチフィラメントヤーンのフィラメントに接着する;及び、マルチフィラメントヤーンのフィラメントを融合させることなくマルチフィラメントヤーンを延伸しながらマルチフィラメントヤーンを加熱する工程;を含み、これにより改良された耐変色性を有する着色マルチフィラメントヤーンが製造される。
【0009】
本発明によればさらに、上記製造方法によって製造された着色超高分子量ポリオレフィンマルチフィラメントヤーンが提供される。
本発明によればさらに、着色マルチフィラメント超高分子量ポリオレフィンヤーンを製造する方法が提供され、該製造方法は、複数の実質的に不撚のマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィンヤーンを供給する工程;実質的に不撚のマルチフィラメントヤーンを、熱可塑性樹脂キャリヤー中に混合した着色剤を含むコーティング組成物で被覆する工程、ここで該熱可塑性樹脂は、マルチフィラメントヤーンのフィラメントより低い融点を有し、該コーティング組成物が、マルチフィラメントヤーンのフィラメントに接着する;及び、マルチフィラメントヤーンのフィラメントを融合させることなくマルチフィラメントヤーンを延伸しながらマルチフィラメントヤーンを加熱する工程;を含み、これにより改良された耐変色性を有する着色マルチフィラメントヤーンが製造される。
【0010】
本発明によればさらに、着色物品を製造する方法が提供され、該製造方法は、少なくとも1つの実質的に不撚のマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィンヤーンを供給する工程;実質的に不撚のマルチフィラメントヤーンを、熱可塑性樹脂キャリヤー中に混合した着色剤を含むコーティング組成物で被覆する工程、ここで該熱可塑性樹脂は、マルチフィラメントヤーンのフィラメントより低い融点を有し、該コーティング組成物が、マルチフィラメントヤーンのフィラメントに接着する;マルチフィラメントヤーンのフィラメントを融合させることなくマルチフィラメントヤーンを延伸しながらマルチフィラメントヤーンを加熱し、これにより改良された耐変色性を有する着色マルチフィラメントヤーンを形成させる工程;該着色マルチフィラメントヤーンから物品を製造する工程;及び該物品を加熱する工程、これによって該物品上に着色表面コーティングが形成されるように、熱可塑性樹脂が少なくとも軟化される;を含む。
【0011】
上記製造方法において使用されるフィーダーヤーン(feeder yarn)は、テナシティが比較的低く、ヘビーデニール(heavy denier)のヤーンであることが好ましい。さらに、マルチフィラメントヤーンは、加熱や延伸がなされるときには実質的に不撚であるのが好ましい。ポリオレフィンヤーンは、高テナシティポリエチレンヤーンを含むのが好ましい。
【0012】
したがって本発明は、超高分子量ポリオレフィンからの改善された耐変色性を有する着色モノフィラメントヤーンを提供する。このことは、モノフィラメントヤーンへのコストのかかる前処理工程(例えばコロナ処理)を必要とすることなく達成される。こうして得られるモノフィラメントヤーンは、種々の用途(例えばロープ)、及び他の高需要用途〔例えば、ストームカーテン(storm curtains)や強化ホース等〕において使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において使用されるマルチフィラメントヤーンは高テナシティポリオレフィンフィラメントである。本明細書で使用している“高テナシティ”の繊維もしくはフィラメントとは、約7g/d以上のテナシティを有する繊維もしくはフィラメントを意味する。これらの繊維は、ASTM D2256に従った測定において、約150g/d以上の初期引張モジュラスと約8J/d以上の破断エネルギーを有するのが好ましい。本明細書で使用している「初期引張モジュラス」、「引張モジュラス」、及び「モジュラス」とは、ASTM D2256に従った測定における、ヤーンに対する弾性率を意味する。
【0014】
本発明の目的のために、フィラメントは、長さ寸法が幅と厚さの横断寸法よりはるかに大きい細長い物体である。したがって、フィラメントという用語は、繊維、リボン、ストリップ、ステープル、及び他の形態の、細断もしくは切断した不連続繊維又は連続繊維を含む。「繊維」又は「フィラメント」という用語は、上記材料又はこれらの組み合わせ物の複数のいずれかを含む。ヤーンは、多くの繊維もしくはフィラメントで構成される連続ストランドである。好ましいのは連続マルチフィラメントヤーンである。
【0015】
高テナシティ繊維は、約10g/d以上のテナシティを有するのが好ましく、約15g/d以上のテナシティを有するのがさらに好ましく、約20g/d以上のテナシティを有するのがさらに好ましく、そして約25g/d以上のテナシティを有するのが最も好ましい。
【0016】
本発明のマルチフィラメントヤーンにおいて使用される繊維は、伸び切り鎖(超高分子量又は高モジュラスとしても知られている)ポリオレフィン繊維(特に、高テナシティポリエチレン繊維、高テナシティポリプロピレン繊維、及びこれらのブレンド)を含む。繊維は、ゲル紡糸することもできるし、溶液紡糸することもできるし、あるいは押し出すこともできる。
【0017】
本発明において有用な繊維の断面は、広範囲にわたって変動し得る。繊維の断面は、円形であっても、扁平であっても、あるいは長円形であってもよい。繊維の断面はさらに、繊維の直線軸もしくは縦軸から突き出た1つ以上の規則的又は不規則なローブを有する、規則的もしくは不規則なマルチローブ断面であってもよい。繊維は、実質的に円形、扁平、もしくは長円形の断面であるのが好ましく、実質的に円形の断面であるのが最も好ましい。
【0018】
米国特許第4,457,985号明細書は一般に、このような高分子量のポリエチレン繊維とポリプロピレン繊維を説明しており、該特許の開示内容を、参照により、本明細書と矛盾しない程度に本明細書に含める。ポリエチレンの場合、適切な繊維は、約150,000以上(好ましくは約100万以上、さらに好ましくは約200万〜約500万)の重量平均分子量を有する繊維である。このような高分子量ポリエチレン繊維は、溶液紡糸することもできるし(米国特許第4,137,394号明細書と米国特許第4,356,138号明細書を参照)、あるいはゲル構造物を形成するよう溶液からフィラメント紡糸することもできるし(米国特許第4,413,110号明細書、独国特許第3,004,699号明細書、及び英国特許第2051667号明細書を参照)、あるいは圧延プロセスや延伸プロセスによって製造することもできる(米国特許第5,702,657号明細書を参照)。本明細書で使用している「ポリエチレン」としては、主として線状ポリエチレン材料であって、主鎖炭素原子100当たり約5の変性構造単位を超えない少量の分岐用コモノマーを含有し得るもので、かつ、1種以上のポリマー添加剤(例えばアルケン−I−ポリマー、特に、低密度ポリエチレン、低密度ポリプロピレン、低密度ポリブチレン、モノオレフィンを主要なモノマーとして含有するコポリマー、酸化ポリオレフィン、グラフトポリオレフィンコポリマー、及びポリオキシメチレン)又は低分子量添加剤(例えば、酸化防止剤、滑剤、紫外線遮断剤、及び一般的に組み込まれる添加剤)を、約50重量%以下の量で、混合状態で含有し得るものが挙げられる。
【0019】
好ましいものとしては、高テナシティポリエチレンマルチフィラメントヤーンであり、これらは、例えば米国ニュージャージー州モリスタウンのハネウェル・インターナショナル社からスペクトラ繊維及びスペクトラヤーンの商標で市販されている。
【0020】
形成方法、延伸比と延伸温度、及び他の条件に応じて、これらの前駆体繊維に種々の特性を付与することができる。ポリエチレン繊維のテナシティは約7g/d以上であり、好ましくは約15g/d以上であり、さらに好ましくは約20g/d以上であり、さらに好ましくは約25g/d以上であり、最も好ましくは約30g/d以上である。同様に、繊維の初期引張モジュラス(インストロン引張試験機により測定)は、好ましくは約300g/d以上であり、さらに好ましくは約500g/d以上であり、さらに好ましくは約1,000g/d以上であり、最も好ましくは約1,200g/d以上である。初期引張モジュラスとテナシティの最高値は、一般には、溶液成長プロセス又はゲル紡糸プロセスを使用することによってのみ得ることができる。フィラメントの多くは、それらが形成されたポリマーの融点より高い融点を有する。したがって、例えば、分子量が約150,000、約100万、及び約200万の高分子量ポリエチレンは一般に、バルクにて138℃の融点を有する。これらの材料で造られた高度に配向したポリエチレンフィラメントは、約7℃〜約13℃ほど高い融点を有する。したがって融点がわずかに上昇するということは、バルクポリマーと比較して、フィラメントの結晶性が完全であること、及び結晶配向がより高度であることを表わしている。
【0021】
使用するポリエチレンは、炭素原子1000個当たり約1個より少ないメチル基を有するポリエチレンであることが好ましく、炭素原子1000個当たり約0.5個より少ないメチル基を有するポリエチレンであるのがさらに好ましく、そして他の構成成分は約1重量%未満であるのが好ましい。
【0022】
同様に、約200,000以上(好ましくは約100万以上、さらに好ましくは約200万以上)の重量平均分子量を有する、高度に配向した高分子量ポリプロピレン繊維も使用することができる。このような伸び切り鎖ポリプロピレンは、上記の種々の文献に記載の方法によって(特に、米国特許第4,413,110号明細書に記載の方法によって)、適度に配向したフィラメントに造り上げることができる。ポリプロピレンは、ポリエチレンよりはるかに結晶性が低い物質であって、ペンダントメチル基を含有するので、ポリプロピレンを使用して達成できるテナシティ値は、一般的には、ポリエチレンにおける対応する値よりかなり低い。したがって、好適なテナシティは、約8g/d以上であるのが好ましく、約11g/d以上であるのがさらに好ましい。ポリプロピレンに対する初期引張モジュラスは、約160g/d以上であるのが好ましく、約200g/d以上であるのがさらに好ましい。ポリプロピレンの融点は一般に、配向プロセスによって数度ほど上昇し、したがってポリプロピレンフィラメントは、168℃以上の主要融点を有するのが好ましく、170℃以上の主要融点を有するのがさらに好ましい。上記パラメーターの特に好ましい範囲は、最終物品に改善された性能を有利にもたらすことができる。約200,000以上の重量平均分子量を有しており、かつ上記パラメーター(モジュラスとテナシティ)が好ましい範囲となっているような繊維を使用することで、最終物品に改善された性能を有利にもたらすことができる。
【0023】
伸び切り鎖ポリエチレン繊維の場合においては、ゲル紡糸ポリエチレン繊維の製造と延伸が、米国特許第4,413,110号;第4,430,383号;第4,436,689号;第4,536,536号;第4,545,950号;第4,551,296号;第4,612,148号;第4,617,233号;第4,663,101号;第5,032,338号;第5,246,657号;第5,286,435号;第5,342,567号;第5,578,374号;第5,736,244号;第5,741,451号;第5,958,582号;第5,972,498号;第6,448,359号;第6,969,553号;及び第7,344,668号(これら特許の開示内容を、参照により、本明細書と矛盾しない程度に本明細書に含める)を含む種々の文献中に記載されている。
【0024】
本発明のマルチフィラメントヤーンは、高テナシティポリオレフィン繊維を含むか、実質的に高テナシティポリオレフィン繊維からなるか、あるいは高テナシティポリオレフィン繊維からなり、ポリオレフィン繊維は高テナシティポリエチレン繊維であるのが好ましい。マルチフィラメントヤーンは、任意の適切な方法(例えば溶融押出など)によって製造することができる。マルチフィラメントヤーンは、ヤーンの長さに沿って実質的に一軸方向に整列させることができる。“実質的に一軸方向”とは、ヤーンの全部又は殆ど全部(例えば約95%以上、さらに好ましくは約99%以上)が単一の方向に延びている、ということを意味している。マルチフィラメント・フィーダーヤーンは実質的に不撚である。「実質的に不撚」とは、ヤーンの長さに沿って、ヤーンの撚り数がゼロであるか又は殆どゼロである〔例えば、1インチ当たり約0.1巻き(1メートル当たり4巻き)以下、好ましくは1インチ当たり0.05巻き(1メートル当たり2巻き)以下〕、ということを意味している。
【0025】
本発明で使用する高テナシティ繊維のヤーンは、任意の適切なデニールを有してよい(例えば、約100〜約10,000デニール、さらに好ましくは約1000〜約8,000デニール、さらに好ましくは約650〜約6000デニール、最も好ましくは約1200〜約4800デニール)。
【0026】
本発明において使用されるマルチフィラメント・フィーダーヤーンを形成するフィラメントの数は、所望の特性に応じて広い範囲を変動し得る。例えば、ヤーンにおけるフィラメントの数は約10〜約3000の範囲であってよく、さらに好ましくは約30〜約1500の範囲であり、最も好ましくは約60〜約1200の範囲である。必要ではないけれども、各マルチフィラメント前駆体ヤーンにおけるフィラメントの数は、実質的に同じであることが好ましい。
【0027】
本発明によれば、マルチフィラメントヤーンを着色剤で被覆する。任意の適切なコーティング方法を使用することができる。本発明の方法において有用なコーティング装置としては、ルーブロール(lube rolls)、キスロール、ディップバス、及びスプレーコーター等があるが、これらに限定されない。これとは別に、押出コーターも使用することができる。着色剤は、キャリヤー中に供給され、水や有機溶媒(例えば、メチルエチルケトン、アセトン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサン、エチルアセトン、及びこれらの組み合わせ物)等の任意の適切な溶媒を使用した溶液、分散液、又はエマルジョンの形態であってよい。着色剤は、連続的コーティングとして施すのが好ましいが、必要に応じて不連続コーティングも使用することができる。
【0028】
1つの好ましい実施態様においては、着色剤入りコーティング組成物を含有する浴中にヤーンを浸漬する。任意の方法によるコーティングの後、過剰のコーティング組成物を、1つ以上の適切な手段(例えば、絞り出し、吹き飛ばし、切り落とし、風乾、あるいは加熱装置中での乾燥)のいずれかによって除去することができる。
【0029】
着色剤としては、任意の適切な着色剤を使用することができる。例えば、染料や顔料を使用することができ、水溶液であっても有機溶液であってもよい。このような着色剤の例としては、銅フタロシアニン等が挙げられるが、これらに限定されない。所望の色はいずれも、染料もしくは顔料とコーティング樹脂とを適切に選択することにより作り出すことができる。
【0030】
着色剤組成物は、着色剤と熱可塑性樹脂キャリヤー材料を含む。熱可塑性樹脂は、マルチフィラメントヤーンの繊維の融点より低い融点を有する。熱可塑性樹脂はさらに、マルチフィラメントヤーンのフィラメントに対して良好な接着性又は親和性を有するように選択される。熱可塑性樹脂はさらに、延伸可能な材料である。コーティング組成物は、紫外線安定剤等の従来の添加剤を含んでよい。
【0031】
このような熱可塑性樹脂の例としては、ポリオレフィン樹脂(例えば、低密度ポリエチレンや線状低密度ポリエチレン)、ポリオレフィンコポリマー(例えば、エチレン−アクリル酸コポリマー、エチレン−アクリル酸エチルコポリマー、及びエチレン−酢酸ビニルコポリマー等のエチレンコポリマー)、及びこれら物質の1種以上のブレンドなどが挙げられるが、これらに限定されない。他の熱可塑性樹脂の例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、クロロスルホン化ポリエチリン、ポリクロロプレン、フタル酸ジオクチルもしくは他の可塑剤を使用する可塑化ポリ塩化ビニル、ブタジエン−アクリロニトリルエラストマー、ポリ(イソブチレン−co−イソプレン)、スチレン−イソプレン−スチレンのトリブロックコポリマー、ポリアクリレート、フルオロエラストマー、シリコーンエラストマー、熱可塑性エラストマー、ポリ(イソプレン)のブロックコポリマー、共役ジエン(例えば、ブタジエンやイソプレン)とビニル芳香族モノマー(例えば、スチレン、ビニルトルエン、及びt−ブチルスチレン)とのブロックコポリマー、及びスチレン−イソプレン−スチレンのトリブロックコポリマー等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
ヤーン上の着色コーティングの量は、広い範囲を変動し得る。例えば、コーティングは、乾燥後のヤーンの総重量の約1〜約40重量%を構成してよく、約2〜約25重量%を構成するのがさらに好ましく、約5〜約15重量%を構成するのが最も好ましい。当然ながら、コーティング材料中の着色剤の重量は、着色コーティングの重量よりかなり少なくてよい。一般には、着色コーティング中の着色剤の量は、約0.5〜約20重量%の範囲であってよく、約2〜約15重量%の範囲であるのがさらに好ましく、約4〜約10重量%の範囲であるのが最も好ましい。
【0033】
着色被覆されたマルチフィラメントヤーンは、さらなる処理を施す前に乾燥することが好ましい。着色被覆されたマルチフィラメントヤーンは、適切な装置(オーブンなど)中で加熱することもできるし、あるいは風乾してコーティング溶媒を除去するか、さもなければ着色コーティングを乾燥することもできる。次いで着色被覆されたマルチフィラメントヤーンを、さらなる処理に付すこともできるし、あるいは連続的に処理することもできる。
【0034】
次いで着色被覆されたマルチフィラメントヤーンを、高温下での延伸工程に付す。延伸工程は、単一の延伸工程であっても、あるいは複数の延伸工程であってもよい。ヤーンは、高温のエアオーブン中で延伸するのが好ましいが、他のタイプのオーブンも使用することができる。このような高温エアオーブンは当業界に公知であり、このようなオーブンの例が米国特許第7,370,395号明細書(該特許の開示内容を、参照より、本発明と矛盾しない程度に本明細書に含める)に記載されている。
【0035】
被覆されたマルチフィラメントヤーンは、ヤーンを撚らずに延伸工程に送るのが好ましい。すなわち、延伸工程に入るヤーンは、実質的に不撚のままであることが好ましい。
延伸オーブンの温度は、マルチフィラメントヤーンの最終用途特性に応じて変動し得る。いずれにしても、温度は、マルチフィラメントヤーンの隣接フィラメントの融合を回避するように選択される。
【0036】
延伸温度と延伸比は、所望する最終用途の特性に応じて選ばれる。例えば、1つの実施態様では、本発明の方法を使用して、ヤーンのヤーンテナシティが同等であるか又はほんのわずか増大した(しかしながら所望の耐変色性を示す)着色マルチフィラメントヤーンを製造することができる。他の実施態様では、本発明の方法を使用して、ヤーンテナシティが大幅に増大した耐変色性のマルチフィラメントヤーンを製造することができる。
【0037】
オーブンの温度は一般に、約90℃〜約160℃の範囲であってよい。耐変色性の増大が要求される(しかしながら、ヤーンテナシティの増大は必ずしも要求されない)場合、オーブンの温度は、より低い融点の熱可塑性樹脂の軟化もしくは融解だけを引き起こすレベルにまで相対的により低くてよい。このような場合では、オーブンの温度は、約90℃〜約120℃の範囲であってよく、さらに好ましくは約100℃〜約120℃の範囲であってよく、最も好ましくは約105℃〜約110℃の範囲であってよい。
【0038】
耐変色性とテナシティの両方の増大が要求される場合、オーブンの温度は、比較的より高くてよい。例えば、オーブンの温度は、約135℃〜約160℃の範囲であってよく、さらに好ましくは約145℃〜約157℃の範囲であってよく、最も好ましくは約150℃〜約155℃の範囲であってよい。この場合も、マルチフィラメントが融合するのは好ましくなく、従って温度、延伸比、及び滞留時間は、ヤーンのマルチフィラメント特性を保持するように選択される。
【0039】
延伸は、1つ以上の延伸ローラーによって達成することが望ましく、該ローラーはオーブンの外側にあってもよく、あるいはこれとは別に、オーブンの内側もしくは1つ以上のオーブン同士の間にあってもよい。
【0040】
前述したように、加熱工程中に、マルチフィラメントヤーンを所望の程度にまで延伸(又は伸張)する。所望の延伸比のいずれを使用してもよい。延伸比は一般に、約1.1〜約10の範囲であってよい。耐変色性だけが要求される場合は、より低めの延伸比(例えば、約1.1〜約1.8、さらに好ましくは約1.2〜約1.6、最も好ましくは約1.3〜約1.5)を使用することができる。耐変色性とテナシティの増大の両方が要求される場合は、より高めの延伸比(例えば、約2〜約10、さらに好ましくは約3〜約8、最も好ましくは約4〜約6)を使用することができる。延伸工程の間中、線張力(line tension)を加えるのが望ましい。
【0041】
ヤーンを、所望の時間にわたって加熱・延伸する。この時間は、例えば、約0.3分〜約5分の範囲であってよく、さらに好ましくは約0.5分〜約3分の範囲であり、最も好ましくは約0.8分〜約2分の範囲である。加熱装置(例えばオーブン)中の実際の滞留時間は、幾つかのファクター〔例えば、オーブンの温度、オーブンの長さ、及びオーブンの種類(例えば、熱風循環オーブン、熱浴、及び赤外線加熱オーブン)等〕に依存する。
【0042】
加熱と延伸の条件は、隣接するフィラメントが、部分的もしくは全体的に一緒に融合しないように選択される。この選択は、得られるヤーンがそのマルチフィラメント特性を確実に保持するようにするためである。得られるマルチフィラメントヤーンは、フィーダーヤーンと同等のデニール及びテナシティを有するか、あるいは使用する条件に応じて、フィーダーヤーンより低いデニール、及びフィーダーヤーンより高いテナシティを有することもある。
【0043】
高温での延伸工程時に、着色コーティングがポリオレフィン繊維中に浸透し、したがってそれらが一体になった部分となる。すなわち、より低い融点の熱可塑性樹脂キャリヤーは、より高い融点のポリオレフィンヤーン中に浸透することができ、それによって所望の色特性をもたらすことができる。加熱・延伸プロセスは、コーティング樹脂と繊維の両方を軟化させ、これによってより低い分子量のコーティング樹脂が繊維バルク中に移行するのが可能になる、と考えられている。
【0044】
得られるマルチフィラメントヤーンは、任意の適切なデニールを有してよい。例えば、マルチフィラメントヤーンは、約50〜約10,000のデニールを有してよく、さらに好ましくは約200〜約5,000のデニールであり、最も好ましくは約500〜約3,000のデニールである。得られるマルチフィラメントヤーンのテナシティは、例えば約25g/d〜約80g/dの範囲であってよい。
【0045】
驚くべきことに、マルチフィラメントヤーンを、着色剤と熱可塑性樹脂キャリヤーとを含む着色剤組成物で処理し、次いで高温での延伸に付すと、得られるマルチフィラメントヤーンの耐変色性が向上する、ということが見出された。このことは、激しくこすった後でも、色がヤーン中に保持される、ということを意味している。前述したように、コーティング操作及び加熱/延伸操作の間中、ヤーンは、実質的に不撚のままであるのが望ましい。
【0046】
本発明の着色マルチフィラメントヤーンは、種々の用途に使用することができる。このような用途の例としては、ロープ、釣り糸、網状ロープや網状糸、カイトライン(kite line)、織布、及び編み手袋等があるが、これらに限定されない。特定の場合においては、熱可塑性樹脂コーティングのより低い融点という特性を利用するために、本発明の着色マルチフィラメントヤーンから製造された物品をさらに処理することが望ましいことがある。例えば、本発明のマルチフィラメントヤーンから織布を製造することができ、その後で、織布をカレンダリング工程に付すことができる。カレンダリング工程では、織布に熱と圧力が加えられ、この結果、熱可塑性樹脂は、少なくとも軟化するか、あるいは融解して、織布上にフィルム状の構造物を形成する。このフィルム状構造物はさらに、着色マルチフィラメントヤーンを製造する際に使用された着色剤を含有し、したがって表面上に着色熱可塑性樹脂の層を有する着色被覆された布帛が得られる。
【0047】
同様に、本発明の着色マルチフィラメントヤーンからロープを製造するときに、ロープを別の加熱工程に付すこともできる。この後者の工程の結果、熱可塑性樹脂の軟化もしくは融解が起こり、したがってロープ構造物を覆う形で着色保護ジャケットが形成される。同様に、本発明のマルチフィラメントヤーンから製造された釣り糸は(編んであろうとなかろうと、あるいは撚ってあろうとなかろうと)、マルチフィラメントヤーンを部分的に一緒に融合させることのできる外側着色ジャケットを有する糸を形成するように加熱することができる。
【0048】
着色マルチフィラメントヤーンから製造される物品に施される任意の加熱工程において使用される条件は、最終物品の種類と最終物品に要求される特性に依存する。一般に、耐変色性だけが要求される場合には、上記した範囲の温度を、こうした後続する加熱工程において使用することができる。
【0049】
本発明のより完全な理解をもたらすために、以下に実施例を挙げて説明するが、これらの実施例によって本発明が限定されることはない。本発明の原理を実証すべく説明されている特定の手法、条件、材料、割合、及び報告データは代表的なものであって、本発明の範囲を限定していると解釈してはならない。
【実施例】
【0050】
実施例1
マルチフィラメント伸び切り鎖ポリエチレンヤーンからマルチフィラメント着色被覆ヤーンを製造した。各ヤーンは、スペクトラ900繊維(ハネウェル・インターナショナル社から入手可能)から製造した。被覆されていないフィーダーヤーンのデニールは1200であり、各ヤーンは120のフィラメントを含んでいた。フィーダーヤーンのテナシティは30g/dであり、極限伸びは3.9%であり、モジュラスは850g/dであった。緑色色素顔料(銅フタロシアニンをベースとする、ポリエチレン熱可塑性樹脂中に分散)の水溶液を含有するコーティング浴中に、撚り数が実質的にゼロのマルチフィラメントヤーンを供給した。コーティング溶液の固形分は約40重量%であった。ヤーン上へのコーティングの含浸量は、マルチフィラメントヤーンの総重量を基準として約15%であった。ヤーンは、熱風オーブン中で乾燥した。このコーティングプロセスの後、各被覆ヤーンのデニールは1369であり、各ヤーン中に120のフィラメントを含んでいた。このヤーンの極限伸びは4.38%であり、テナシティは27.6g/dであり、モジュラスは775g/dであった。
【0051】
着色被覆ヤーンを、前記米国特許第7,370,395号明細書に開示の加熱装置(水平に整列していて隣接している熱風循環オーブンを合計6個使用する)中に供給した。第1のセットのロールがオーブンの内側に隣接し、第2のセットのロールがオーブンの外側に隣接した。ヤーンは、オーブン中では支えられておらず、ほぼ直線状にオーブンを通って移動される。第1セットと第2のセットのロールの速度は、オーブン中において3.0の延伸比をもたらすように選定し、このときフィードロールの速度は10m/分であり、延伸ロールの速度は30m/分であった。ヤーンに対し、1700gの張力を保持した。オーブンの温度は150℃であった。マルチフィラメントヤーンを延伸したが、オーブン中では融合しなかった。得られたマルチフィラメントヤーンを、テイクオフロールに巻き上げた。
【0052】
被覆・延伸されたマルチフィラメントヤーンのデニールは488、極限伸びは3.2%、テナシティは37.2g/d、及びモジュラスは1411g/dであった。
マルチフィラメントヤーンの耐変色性は、六角形の断面を有する金属棒に当てて摩耗させることによって試験した〔ヘックスバー(Hex Bar)耐摩耗性試験〕。ヤーンは、100gの張力下での2,500サイクル後でも、その初期の緑色を保持することが見出された。
【0053】
実施例2
フィーダーヤーンがスペクトラ900(650デニールのヤーン)であること以外は、実施例1の手順を繰り返した。フィーダーヤーンは60フィラメントを有し、テナシティは30.5g/dであり、極限伸びは3.6%であり、モジュラスは920g/dであった。コーティングプロセス後、各被覆ヤーンのデニールは795であり、60フィラメントを有した。このヤーンの極限伸びは4.3%であり、テナシティは27.1g/dであり、モジュラスは772g/dであった。
【0054】
加熱・延伸後のマルチフィラメントヤーンは60フィラメントを有し、デニールは249であり、極限伸びは2.7%であり、テナシティは35.2g/dであり、モジュラスは1422g/dであった。ヤーンに対して850gの張力を保持した。
【0055】
マルチフィラメントヤーンを、ヘックスバー耐摩耗性試験において研磨することにより耐変色性に関して試験した。マルチフィラメントヤーンは、50gの張力下における2,500回の研磨サイクル後でも、その初期の色を保持することが見出された。
【0056】
実施例1と2からわかるように、本発明の方法は、優れた耐変色性を有する着色マルチフィラメントヤーンを提供する。マルチフィラメントヤーンはさらに、フィーダーヤーンと比較して改善されたテナシティを有する。
【0057】
本発明をかなり詳細に説明してきたが、こうした細部に厳密に順守する必要はなく、当業者にとってはさらなる変形や改良形が考えられることは言うまでもない。これらの変形や改良形もすべて、添付の特許請求の範囲に規定されている本発明の範囲内に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色マルチフィラメント超高分子量ポリオレフィンヤーンの製造方法であって、
少なくとも1つの実質的に不撚のマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィンヤーンを供給する工程;
実質的に不撚のマルチフィラメントヤーンを、熱可塑性樹脂キャリヤー中に混合した着色剤を含むコーティング組成物で被覆する工程、ここで該熱可塑性樹脂は、該マルチフィラメントヤーンのフィラメントより低い融点を有し、該コーティング組成物が、マルチフィラメントヤーンのフィラメントに接着する;及び、
マルチフィラメントヤーンのフィラメントを融合させることなく該ヤーンを延伸しながら、該マルチフィラメントヤーンを加熱する工程;
を含み、これにより改良された耐変色性を有する着色マルチフィラメントヤーンが製造される、上記製造方法。
【請求項2】
前記マルチフィラメントヤーンが高テナシティポリエチレンフィラメントを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記マルチフィラメントヤーンが、前記加熱・延伸工程の前において実質的に不撚である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記マルチフィラメントヤーンが、前記製造方法の工程全体にわたって実質的に不撚である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記供給工程が、複数の前記実質的に不撚のマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィンヤーンを供給することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記被覆ヤーンを約1.1〜約1.8の延伸比になるように延伸する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項8】
前記被覆ヤーンを約2〜約10の延伸比になるように延伸する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記着色マルチフィラメントヤーンをさらに物品に加工し、該物品を加熱して、これにより前記熱可塑性樹脂を少なくとも軟化させて、該物品上に着色表面コーティングを形成する工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記物品がロープを含む、請求項9に記載の製造方法。

【公表番号】特表2011−525946(P2011−525946A)
【公表日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516469(P2011−516469)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/047875
【国際公開番号】WO2009/158273
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】