説明

着色二酸化チタン粉末の製造方法

【課題】優れた光触媒活性を有し、光触媒としてのみならず、触媒活性を有する有彩色の顔料などとして好適に使用することができる着色二酸化チタン粉末を提供すること。
【解決手段】二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させた後、得られたフッ素化された二酸化チタン粒子と過酸化物水溶液とを混合し、得られた混合物に含まれている固形分を乾燥させることを特徴とする着色二酸化チタン粉末の製造方法、および二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させた後、得られたフッ素化された二酸化チタン粒子を150〜800℃の温度で加熱することを特徴とする着色二酸化チタン粉末の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色二酸化チタン粉末の製造方法に関する。さらに詳しくは、光触媒活性を有する着色顔料、可視光応答型グレッチェル型湿式太陽電池材料、光電変換用薄膜、光触媒薄膜などに有用な着色二酸化チタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に二酸化チタンは、紫外線に対し優れた触媒活性を有することから、紫外線遮蔽材料、光触媒などとして化粧料、光電変換用薄膜、光触媒薄膜などに用いられている(例えば、特許文献1の段落の[0002]参照)。しかし、二酸化チタンを顔料として使用する場合、そのほとんどのものが白色を有するものであるため、その用途に制約がある。
【0003】
着色された二酸化チタンの製造方法として、硫酸法によって二酸化チタンを調製し、得られた含水二酸化チタンを硫酸チタン溶液から沈殿させた後、か焼することにより、着色二酸化チタンを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2の段落の[0010]参照)。しかし、この方法によって得られた着色二酸化チタンは、その色彩が明らかにされておらず、さらにその触媒活性も明らかにされていない。
【0004】
したがって、近年、優れた光触媒活性を有し、光触媒としてのみならず、触媒活性を有する有彩色の顔料などとして好適に使用することができる着色二酸化チタン粉末の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−43159号公報
【特許文献2】特開平8−59241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、優れた光触媒活性を有し、光触媒としてのみならず、触媒活性を有する有彩色の顔料などとして好適に使用することができる着色二酸化チタン粉末を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(1)二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させた後、得られたフッ素化された二酸化チタン粒子と過酸化物水溶液とを混合し、得られた混合物に含まれている固形分を乾燥させることを特徴とする着色二酸化チタン粉末の製造方法、
(2)二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる際のフッ素ガスの圧力が0.5〜200kPaである前記(1)に記載の着色二酸化チタン粉末の製造方法、
(3)二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる際のフッ素ガスの温度が0〜400℃である前記(1)または(2)に記載の着色二酸化チタン粉末の製造方法、
(4)二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させた後、得られたフッ素化された二酸化チタン粒子を150〜800℃の温度で加熱することを特徴とする着色二酸化チタン粉末の製造方法、
(5)二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる際のフッ素ガスの圧力が0.5〜200kPaである前記(4)に記載の着色二酸化チタン粉末の製造方法、
(6)二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる際のフッ素ガスの温度が0〜400℃である前記(4)または(5)に記載の着色二酸化チタン粉末の製造方法、および
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法によって得られた着色二酸化チタン粉末
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた光触媒活性を有し、光触媒としてのみならず、触媒活性を有する有彩色の顔料などとして好適に使用することができる着色二酸化チタン粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1〜4で得られた各着色二酸化チタン粉末および比較例1の従来の二酸化チタン粉末の粉末X線回折を示す図である。
【図2】実施例1〜4で得られた各着色二酸化チタン粉末および比較例1の従来の二酸化チタン粉末のX線光電子分光分析(XPS)によるF1sスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の着色二酸化チタン粉末の製造方法は、二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させた後、得られたフッ素化された二酸化チタン粒子と過酸化物水溶液とを混合し、得られた混合物に含まれている固形分を乾燥させることを特徴とする(以下、第1発明という)。また、本発明の着色二酸化チタン粉末の製造方法の他の態様は、二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させた後、得られたフッ素化された二酸化チタン粒子を150〜800℃の温度で加熱することを特徴とする(以下、第2発明という)。
【0011】
第1発明および第2発明のいずれにおいても、まず、二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させることにより、フッ素化された二酸化チタン粒子を調製する。
【0012】
本発明において原料として、二酸化チタン粒子が用いられる。二酸化チタン粒子を構成する二酸化チタンとしては、一般に、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、ブルッカイト型二酸化チタン、アモルファス型二酸化チタンなどが知られている。これらのなかでは、光触媒活性の観点から、アナターゼ型の二酸化チタンが好ましい。
【0013】
二酸化チタン粒子は、乾燥させた二酸化チタン粒子であってもよく、二酸化チタンゲル、二酸化チタンゾルなどであってもよい。なお、二酸化チタンゲル、二酸化チタンゾルなどの二酸化チタンの分散体を用いる場合には、フッ素化効率を高める観点から、二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる前に、当該二酸化チタンの分散体に含まれている溶媒をあらかじめ除去しておくことが好ましい。
【0014】
二酸化チタンは、商業的に容易に入手することができる。その一例として、例えば、石原産業(株)製、品番:ST−21などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0015】
二酸化チタン粒子の粒子径は、特に限定されないが、二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させることにより、二酸化チタン粒子を効率よくフッ素化させる観点から、通常、10nm〜100μm程度であることが好ましい。
【0016】
二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させることによって二酸化チタン粒子のフッ素化させる際には、フッ素ガスが大気中に放出されることを防止する観点から、密閉式のバッチ式反応装置などの反応装置を用いることが好ましい。
【0017】
二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる際には、まず、反応装置内に二酸化チタン粒子を入れる。反応装置内に入れられる二酸化チタン粒子の量は、特に限定されず、使用される反応装置の規模などに応じて適宜調整すればよい。反応装置内に二酸化チタン粒子を入れた後、反応装置内に空気などの不純物ガスが存在していることから、その内部雰囲気を減圧することにより、当該不純物ガスを反応装置内から排除しておくことが好ましい。
【0018】
次に、反応装置内にフッ素ガスを導入することにより、二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させて二酸化チタン粒子のフッ素化を行なう。二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる際のフッ素ガスの圧力は、効率よく二酸化チタン粒子をフッ素化させる観点から、好ましくは0.5kPa以上であり、フッ素化された二酸化チタン粒子を効率よく製造する観点および安全性の観点から、好ましくは200kPa以下、より好ましくは100kPa以下、さらに好ましくは50kPa以下、特に好ましくは15kPa以下である。また、二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる際のフッ素ガスの温度は、効率よく二酸化チタン粒子をフッ素化させる観点から、好ましくは0℃以上であり、過度のフッ素化反応の進行を抑制するとともに反応プロセスにおける安全性を確保する観点から、好ましくは400℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。
【0019】
二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる際に要する時間は、二酸化チタン粒子の粒子径およびその量、二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる際のフッ素ガスの圧力および温度などによって異なるので一概には決定することができない。二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる際に要する時間は、二酸化チタン粒子とフッ素ガスとを十分に接触させるとともに生産効率を高めるのに適した時間であり、通常、0.5〜5時間程度である。
【0020】
二酸化チタン粒子とフッ素ガスとを接触させることによって二酸化チタン粒子をフッ素化させた後には、安全性の観点から、不活性ガスを反応装置内に導入し、反応装置内の内部雰囲気を当該不活性ガスで置換することが好ましい。不活性ガスの代表例としては、例えば、アルゴンガスなどの希ガスなどが挙げられる。
【0021】
以上のようにして得られたフッ素化された二酸化チタン粒子は、反応装置から取り出すことにより、第1発明または第2発明における次工程で用いられる。
【0022】
まず、第1発明の次工程について説明する。
第1発明の次工程では、フッ素化された二酸化チタン粒子と過酸化物水溶液とを混合し、得られた混合物に含まれている固形分を乾燥させる。このように、第1発明の次工程では、フッ素化された二酸化チタン粒子と過酸化物水溶液とを混合することにより、フッ素化された二酸化チタン粒子と過酸化物水溶液とを接触させる点に、1つの大きな特徴がある。
【0023】
過酸化物水溶液に用いられる過酸化物としては、例えば、過酸化水素、過酸化リチウム、過酸化カリウム、過酸化ナトリウム、過酸化カルシウム、過酸化バリウム、ペルオキソ二硫酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。過酸化物のなかでは、入手が容易であることおよび安全性の面から、過酸化水素が好ましい。また、本発明においては、本発明の目的が阻害されない範囲内で、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニムなどの過硫酸塩;過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウムなどの過塩素酸類などを過酸化物と併用することができる。
【0024】
過酸化物水溶液には、溶媒として水が用いられるが、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えば、エタノール、メタノールなどの水性有機溶媒や界面活性剤などが含まれていてもよい。
【0025】
過酸化物水溶液における過酸化物の濃度は、特に限定されないが、フッ素化された二酸化チタン粒子の溶解性を高める観点から、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、取り扱い時における安全性の面から、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。
【0026】
過酸化物水溶液と混合されるフッ素化された二酸化チタン粒子の量は、特に限定されないが、過酸化物水溶液100mLあたり、光触媒活性を高める観点から、好ましくは10mg以上、より好ましくは50mg以上であり、フッ素化された二酸化チタン粒子の溶解性の観点から、好ましくは10g以下、より好ましくは5g以下である。
【0027】
フッ素化された二酸化チタン粒子と過酸化物水溶液とを混合する際のフッ素化された二酸化チタン粒子および過酸化物水溶液の温度には特に限定がなく、当該温度は、通常、常温であるが、必要により、本発明の目的が阻害されない範囲内で加熱してもよく、あるいは冷却してもよい。
【0028】
なお、フッ素化された二酸化チタン粒子と過酸化物水溶液とを混合することによって得られる混合物は、フッ素化された二酸化チタン粒子と過酸化物水溶液との接触をより良好に保つために、例えば、撹拌子などを用いて十分に撹拌することが好ましい。
【0029】
以上のようにして得られたフッ素化された二酸化チタン粒子と過酸化物水溶液との混合物から、当該混合物に含まれている固形分を回収する。前記混合物に含まれている固形分は、例えば、吸引濾過装置などの濾過装置を用いることにより、濾液と分離することによって回収することができる。回収された固形分および濾液は、いずれも、通常、やや黄味を帯びた色彩に着色されている。
【0030】
次に、回収された固形分を乾燥させることによって着色二酸化チタン粉末を得ることができる。固形分を乾燥させる方法としては、固形分を加熱によって乾燥させる加熱乾燥法、固形分の周囲の雰囲気を減圧することによって固形分を乾燥させる減圧乾燥法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記固形分を加熱乾燥法によって乾燥させる場合、固形分の加熱温度は、乾燥効率を高める観点から、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上であり、着色二酸化チタン粉末の電子状態に大きな変化を与えないようにする観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。
【0031】
以上のようにして固形分を乾燥させることにより、着色二酸化チタン粉末を得ることができる。得られた着色二酸化チタン粉末は、通常、青色に着色されていることから、光触媒活性を有する青色顔料などとして好適に用いることができる。
【0032】
なお、前記で得られた着色二酸化チタン粉末の粒子径は、原料として用いられた二酸化チタン粒子の粒子径にもよるが、通常、原料として用いられた二酸化チタン粒子とほぼ同程度である。したがって、着色二酸化チタン粉末の粒子径は、通常、10nm〜100μm程度である。
【0033】
次に、第2発明の次工程について説明する。
第2発明の次工程では、前記で得られたフッ素化された二酸化チタン粒子を150〜800℃の温度で加熱する。
【0034】
フッ素化された二酸化チタン粒子の加熱温度は、フッ素化された二酸化チタン粒子を十分に着色させる観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上であり、フッ素化された二酸化チタン粉末を加熱することによって粒子の大きさが極端に変化することを回避する観点から、好ましくは800℃以下、より好ましくは700℃以下、さらに好ましくは600℃以下である。
【0035】
フッ素化された二酸化チタン粒子の加熱するときの雰囲気は、特に限定されず、例えば、大気、不活性ガスなどが挙げられるが、経済性の面から大気であることが好ましい。
【0036】
また、フッ素化された二酸化チタン粒子を加熱するのに要する時間は、特に限定されず、通常、得られる着色二酸化チタン粉末が十分に着色するのに要する時間が選ばれる。
【0037】
なお、フッ素化された二酸化チタン粒子を加熱する際には、例えば、電気炉などの加熱装置を用いることができる。
【0038】
以上のようにしてフッ素化された二酸化チタン粒子を加熱することにより、着色二酸化チタン粉末を得ることができる。得られた着色二酸化チタン粉末は、通常、橙色に着色されていることから、光触媒活性を有する橙色顔料などとして好適に用いることができる。
【0039】
なお、前記で得られた着色二酸化チタン粉末の粒子径は、原料として用いられた二酸化チタン粒子の粒子径にもよるが、通常、原料として用いられた二酸化チタン粒子とほぼ同程度である。したがって、着色二酸化チタン粉末の粒子径は、通常、10nm〜100μm程度である。
【0040】
以上のようにして得られた本発明の着色二酸化チタン粉末は、所望の色に着色されており、しかも優れた光触媒活性を有することから、例えば、光触媒活性を有する着色顔料、可視光応答型グレッチェル型湿式太陽電池材料、光電変換用薄膜、光触媒薄膜などの種々の用途に幅広く使用することが期待されるものである。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0042】
製造例1〜3
二酸化チタン粉末〔平均一次粒子径が約20nmのアナターゼ型二酸化チタン粉末、石原産業(株)製、品番:ST−21〕10gを密閉式のバッチ式反応装置に投入し、当該反応装置に含まれている不純物ガスを除去するために、室温下で反応装置の内圧が1Pa以下となるまで減圧した。次に、反応装置内にフッ素ガス(純度:99.7%)を導入し、反応装置内のフッ素ガスの圧力を1.33kPa(製造例1)、6.66kPa(製造例2)または50.5kPa(製造例3)に調整した後、室温で1時間静置することにより、二酸化チタン粉末をフッ素化させ、フッ素化された二酸化チタン粉末を得た。その間に反応装置内では著しい発熱などの挙動が確認されなかった。
【0043】
次に、反応装置の内部を減圧することにより、その内部からフッ素ガスを除去し、アルゴンガスを大気圧となるまで導入した後、フッ素化された二酸化チタン粉末を反応装置から取り出した。
【0044】
製造例4
二酸化チタン粉末〔平均一次粒子径が約20nmのアナターゼ型二酸化チタン粉末、石原産業(株)製、品番:ST−21〕10gを密閉式のバッチ式反応装置に投入し、当該反応装置に含まれている不純物ガスを除去するために、室温下で反応装置の内圧が1Pa以下となるまで減圧した。次に、反応装置の内部雰囲気を200℃に加熱し、反応装置内にフッ素ガス(純度:99.7%)を導入し、反応装置内のフッ素ガスの圧力を101.3kPaに調整した後、200℃で1時間静置することにより、二酸化チタン粉末をフッ素化させ、フッ素化された二酸化チタン粉末を得た。その間に反応装置内では著しい発熱などの挙動が確認されなかった。
【0045】
次に、反応装置の内部を減圧することにより、その内部からフッ素ガスを除去し、アルゴンガスを大気圧となるまで導入した後、フッ素化された二酸化チタン粉末を反応装置から取り出した。
【0046】
実施例1〜4
製造例1〜4で得られたフッ素化された二酸化チタン粉末をそれぞれ別々に0.01gの量で秤量し、各フッ素化された二酸化チタン粉末をそれぞれ別々に、過酸化水素の濃度が15重量%の過酸化水素水10mLに添加し、室温下で撹拌子を用いて1日間撹拌した後、得られた混合物から吸引濾過装置で黄色透明に着色された濾液を分離することにより、固形分を回収し、回収された固形分を乾燥炉内に入れ、70℃に加熱することにより、着色二酸化チタン粉末を得た。各実施例で得られた着色二酸化チタン粉末は、いずれも、青色に着色されていた。
【0047】
なお、実施例1〜4では、着色二酸化チタン粉末の原料として、それぞれ順に、製造例1〜4で得られたフッ素化された二酸化チタン粉末を用いた。
【0048】
次に、各実施例で得られた着色二酸化チタン粉末の結晶構造をX線回折法によって調べたところ、いずれの着色二酸化チタン粉末も単相のアナターゼ型の二酸化チタン粉末であることが確認された。
【0049】
実施例5〜8
製造例1〜4でそれぞれ得られたフッ素化された二酸化チタン粉末を別々に200℃の大気中で1時間加熱することにより、着色二酸化チタン粉末を得た。得られた着色二酸化チタン粉末は、いずれも橙色に着色されていた。
【0050】
なお、実施例5〜8では、着色二酸化チタン粉末の原料として、それぞれ順に、製造例1〜4で得られたフッ素化された二酸化チタン粉末を用いた。
【0051】
次に、各実施例で得られた着色二酸化チタン粉末の結晶構造をX線回折法により調べたところ、いずれも単相のアナターゼ型の二酸化チタン粉末であることが確認された。
【0052】
比較例1
従来の二酸化チタン粉末として、アナターゼ型二酸化チタン粉末〔平均一次粒子径:約20nm、石原産業(株)製、品番:ST−21〕10gをそのままの状態で用いた。この二酸化チタン粉末は、白色を有していた。
【0053】
実験例1
実施例1で得られた着色二酸化チタン粉末、実施例5で得られた着色二酸化チタン粉末および製造例1で得られたフッ素化された二酸化チタン粉末に白色光(波長:380〜800nm)を照射し、パナソニック(株)製、デジタルカメラ(品番:DMC−FX30)を用いて撮影した画像を画像加工ソフト(アドビ社製、商品名:PhotoshopCS 3)を用いて画像解析を行ない、色のRGB(赤、緑、青)を算出した。
【0054】
その結果、実施例1で得られた着色二酸化チタン粉末の色のRGBは、R:178、G:190、B:178であり、全体的に青みを帯びていることが確認された。実施例5で得られた着色二酸化チタン粉末の色のRGBは、R:200、G:157、B:88であり、橙色に着色されていることが確認された。また、製造例1で得られたフッ素化された二酸化チタン粉末の色のRGBは、R:185、G:179、B:121であり、全体的に黄味を帯びていることが確認された。
【0055】
また、実施例2〜4で得られた着色二酸化チタン粉末の色は、実施例1で得られた着色二酸化チタン粉末の色と同様であった。このことから、実施例1〜4で得られた着色二酸化チタン粉末は、いずれも、青色顔料として用いることができることが確認された。
【0056】
また、実施例6〜8で得られた着色二酸化チタン粉末の色は、実施例5で得られた着色二酸化チタン粉末の色と同様であった。このことから、実施例5〜8で得られた着色二酸化チタン粉末は、いずれも、橙色顔料として用いることができることが確認された。
【0057】
実験例2
実施例1〜4で得られた各着色二酸化チタン粉末および比較例1の従来の二酸化チタン粉末の粉末X線回折を調べた。なお、粉末X線回折は、粉末X線回折測定装置〔(株)島津製作所製、商品名:粉末X線回折測定装置XD−6100)を用いて測定した。なお、粉末X線回折の測定条件は、電圧:40kV、電流:20mA、走査モード:Continuous、走査範囲:5〜80°、走査速度:2.0°/min、雰囲気:大気とした。その測定結果を図1に示す。
【0058】
図1において、A〜Eは、それぞれ順に、実施例1〜4で得られた各着色二酸化チタン粉末および比較例1の従来の二酸化チタン粉末のX線回折を示す。
【0059】
図1に示された結果から、実施例3で得られた着色二酸化チタン粉末では〔図1中のC〕、二酸化チタンの結晶の存在を示すピークが比較例1の未処理の二酸化チタン〔図1中のE〕の結晶の存在を示すピークよりも低いことから、その結晶構造が崩れていると考えられる。また、実施例4で得られた着色二酸化チタン粉末では〔図1中のD〕、23.4°の回折角でTiO−F2の結晶を示すピークが検出されたことから、TiO−F2の結晶構造を有するものであると考えられる。
【0060】
実験例3
実施例1〜4で得られた各着色二酸化チタン粉末および比較例1の従来の二酸化チタン粉末のX線光電子分光分析(XPS)を行なった。その際、X線光電子分光分析装置〔日本電子(株)製、品番:XPS−9010〕を用い、X線:Mg−Kα線、電圧:10kV、電流:2.5mAの条件でX線光電子分光分析を行なった。なお、帯電補正は、炭素の1s電子の結合エネルギーを基準に行なった。X線光電子分光分析(XPS)によるF1sスペクトルを図2に示す。
【0061】
図2において、A〜Eは、それぞれ順に、実施例1〜4で得られた各着色二酸化チタン粉末および比較例1の従来の二酸化チタン粉末のX線光電子分光分析(XPS)のデータを示す。
【0062】
図2に示された結果から、実施例1〜3および比較例1では〔図2中のA〜CおよびE〕、フッ素原子の結合を示すピークがほとんど検出されないのに対し、実施例4で得られた着色二酸化チタン粉末では〔図2中のD〕、フッ素原子の結合を示すピークが極端に大きく検出されたことと、そのピーク位置がA〜Cでは685eV付近であるのに対し、Dについては688eVであることから、Dは、A〜Cとは異なる結合状態のフッ素原子を含むことがわかる。図1に示されるX回折図の結果を考慮すれば、このDに含まれている結合状態は、TiO−F2の結晶構造を有することに基づくものであると考えられる。
【0063】
次に、実施例1〜4で得られた各着色二酸化チタン粉末および比較例1の従来の二酸化チタン粉末〔以下、両者をまとめて総称するとき、(着色)二酸化チタン粉末という〕に400Vで5秒間Ar+イオンエッチングを施した後、前記と同様にしてX線光電子分光分析を行なったところ、実施例4で得られた着色二酸化チタン粉末では、エッチング前に実施例1〜3で得られていたものと同様の結合状態のフッ素原子を示すピークが検出された。このことから、実施例4においてはTiO−F2の結晶構造が少なくとも着色二酸化チタン粉末の表層部分に存在しているものと考えられる。
【0064】
実験例4
各実施例で得られた着色二酸化チタン粉末および比較例1の従来の二酸化チタン粉末1gを試験管内に入れられた水20g、エタノール20gまたはアセトン20gに添加し、室温にて十分に撹拌し、そのままの状態で24時間放置した後、得られた分散体の物性を以下の方法に基づいて測定した。その結果を表1に示す。
【0065】
(1)平均粒子径
分散体を調製する前に、走査型電子顕微鏡〔(株)日立ハイテクノロジーズ製、品番:S−3400N〕で写真撮影された(着色)二酸化チタン粉末50個の粒子径を測定し、その粒子径の平均値を算出することによって求めた。
【0066】
(2)ゼータ電位
得られた分散体を10分間超音波処理した後、ゼータ電位測定システム〔大塚電子(株)製、品番:ELSZ−2〕を用いてゼータ電位および粒子の電気移動度を求めた。なお、ゼータ電位は、分散性の指標とすることができる。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示された結果から、実施例1では、着色二酸化チタン粉末の表面改質の程度が最も大きいことから、ゼータ電位の絶対値が最も大きくなり、その結果、水、エタノールおよびアセトンの各溶媒に対する分散性が改善されていると考えられる。
【0069】
また、二酸化チタンをフッ素ガスと過剰に接触させたり、あるいは熱処理を施した場合には、着色二酸化チタンの粒子径が大きくなる傾向があるが、溶媒としてエタノールを用いた場合には、他の溶媒と比べて、そのような傾向が顕著ではなかった。
【0070】
水を用いたときのゼータ電位の絶対値が20mV以上であれば、実用に耐えることができる分散安定性を有することが経験的に知られているが、この基準を各実施例および比較例1に当てはめてみると、実施例1および実施例5で得られた着色二酸化チタン粉末が最も好ましいものであることがわかる。
【0071】
実験例5
実施例1〜8で得られた各着色二酸化チタン粉末1gを分散媒として水に添加し、室温にて十分に撹拌することによって水分散体を得た。得られた水分散体をシリカガラスプレート(縦:30mm、横:20mm、厚さ:2mm)上に塗布し、大気中にて室温下で乾燥させることにより、シリカガラスプレートの表面上に薄膜を形成させた。形成された薄膜の厚さは、いずれも約0.1μmであった。
【0072】
次に、シリカガラスプレートの当該薄膜が形成されている面に、赤色インク〔(株)パイロットコーポレーション製、商品名:パイロットインキレッド〕をスポイドで直径が約15mmの円が描かれるように薄膜上に滴下し、試験用サンプルを調製した。
【0073】
また、対照として、比較例1の二酸化チタン粉末1gを分散媒として水に添加し、室温にて十分に撹拌することによって水分散体を得た。得られた水分散体を前記と同様にしてシリカガラスプレート(縦:30mm、横:20mm、厚さ:2mm)上に塗布し、大気中にて室温下で乾燥させることにより、シリカガラスプレートの表面上に薄膜を形成させた。形成された薄膜の厚さは、約0.1μmであった。
【0074】
次に、各薄膜上に赤色インク〔(株)パイロットコーポレーション製、商品名:パイロットインキレッド〕をスポイドで直径が約15mmの円が描かれるように薄膜上に滴下した後、可視光線(波長:380〜800nm)または紫外線(UV−C)(波長:250〜260nm)を100時間照射した後、その赤色に着色されている薄膜を観察した。
【0075】
各実施例で得られた着色二酸化チタン粉末を用いて形成された薄膜は、可視光線および紫外線のいずれを照射した場合であっても、赤色インクが消色し、薄膜を介してシリカガラスプレートが透けて見えるのに対し、比較例1の二酸化チタン粉末を用いて形成された薄膜では、赤色インクが完全には消色していないことが確認された。このことから、各実施例で得られた着色二酸化チタン粉末を用いて形成された薄膜は、可視光線および紫外線のいずれを照射した場合であっても優れた光触媒活性を呈することがわかる。
【0076】
実験例6
実施例1で得られた着色二酸化チタン粉末および比較例1の二酸化チタン粉末を用いて湿式太陽電池を構成し、その特性を評価した。
【0077】
まず、実施例1で得られた着色二酸化チタン粉末および比較例1の二酸化チタン粉末をそれぞれ2gずつ秤量し、これらにpHを3に調節した硝酸水溶液を1mLずつ合計3mL添加しながら、乳鉢で混合し、二酸化チタンペーストを得た。得られた二酸化チタンペーストは、いずれも粉末の状態で有していた色彩を保持していた。
【0078】
次に、このペーストに、水1mLに界面活性剤としてTritonX(ポリオキシエチレン−p−イソオクチルフェノール)1滴を加えたものを添加し、ペーストを安定化させた。得られたペーストを密封容器内に入れて12時間以上室温中で静置した後、導電性透明電極(FTO)の導電面に塗工した。フッ素樹脂シートを用いて縦15mm、横15mm、深さ40μm程度の塗工部分を導電性透明電極(FTO)上で作製し、そこにペーストをバーコーターで充填した。塗工後、室温、40℃、60℃および150℃の各温度でそれぞれ6時間ずつ乾燥させ、最終的には400℃で焼き付けを行なった。
【0079】
導電性透明電極(FTO)にグラファイトを塗布した対極を作製し、この対極と二酸化チタン電極との間に、厚さが100μm程度のスペーサーを介して電解液としてヨウ素10gとヨウ化カリウム20gを水80gに溶解したヨウ素ヨウ化カリウム溶液を挟み込むことにより、湿式太陽電池セルを作製した。
【0080】
前記で得られた湿式太陽電池に紫外線(UV−C)(波長:250〜260nm)および白色蛍光灯による光線を照射し、その際の太陽電池による電圧を測定した。
【0081】
その結果、比較例1の二酸化チタン粉末を用いた場合には、紫外線および白色蛍光灯による光線を照射したときに、それぞれ238mVおよび140mVの電圧が生じた。これに対し、実施例1で得られた着色二酸化チタン粉末を用いた場合には、紫外線および白色蛍光灯による光線を照射したときに、それぞれ310mVおよび275mVの電圧が生じた。
【0082】
また、紫外線の照射時に生じた電圧に対する白色蛍光灯による光線の照射時に生じた電圧の比率は、実施例1で得られた着色二酸化チタン粉末を用いた場合および比較例1の二酸化チタン粉末を用いた場合、それぞれ89%および59%であった。このことから比較例1の二酸化チタン粉末と対比して、実施例1で得られた着色二酸化チタン粉末のほうが紫外線だけでなく、可視光線に対しても高効率に電圧を生じることがわかる。
【0083】
次に、1MΩの抵抗を太陽電池セルと直列に接続し、白色蛍光灯による光線の照射したときの電流値を測定した。その結果、その電流値は、実施例1で得られた着色二酸化チタン粉末を用いた場合には222nAであり、比較例1の二酸化チタン粉末を用いた場合には81nAであった。
【0084】
このことから、比較例1の二酸化チタン粉末と対比して、実施例1で得られた着色二酸化チタン粉末のほうが、可視光線の照射時に高効率で電流が生じていることがわかる。これは、白色のアナターゼ型二酸化チタンでは、そのバンドギャップが可視光線のエネルギー領域にないため、通常では可視光線を吸収することができないのに対し、実施例1で得られた着色二酸化チタン粉末は、着色されていることにより、可視光線を吸収し、これを電力に変換するので、可視光線を効率よく電気に変換することに基づくものと考えられる。
【0085】
したがって、本発明の着色二酸化チタン粉末は、可視光線に対しても効率よく電気に変換する能力を有するので、可視光応答型グレッチェル型湿式太陽電池材料、光電変換用薄膜などに使用することができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の着色二酸化チタン粉末は、従来の白色でなく、有彩色を有するとともに、優れた光触媒活性を有することから、光触媒活性を有する着色顔料、可視光応答型グレッチェル型湿式太陽電池材料、光電変換用薄膜、光触媒薄膜などの用途に使用されることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させた後、得られたフッ素化された二酸化チタン粒子と過酸化物水溶液とを混合し、得られた混合物に含まれている固形分を乾燥させることを特徴とする着色二酸化チタン粉末の製造方法。
【請求項2】
二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる際のフッ素ガスの圧力が0.5〜200kPaである請求項1に記載の着色二酸化チタン粉末の製造方法。
【請求項3】
二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる際のフッ素ガスの温度が0〜400℃である請求項1または2に記載の着色二酸化チタン粉末の製造方法。
【請求項4】
二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させた後、得られたフッ素化された二酸化チタン粒子を150〜800℃の温度で加熱することを特徴とする着色二酸化チタン粉末の製造方法。
【請求項5】
二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる際のフッ素ガスの圧力が0.5〜200kPaである請求項4に記載の着色二酸化チタン粉末の製造方法。
【請求項6】
二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる際のフッ素ガスの温度が0〜400℃である請求項4または5に記載の着色二酸化チタン粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法によって得られた着色二酸化チタン粉末。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−207628(P2011−207628A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73914(P2010−73914)
【出願日】平成22年3月27日(2010.3.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)文部科学省、平成21年度地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】