説明

着色層を有する繊維構造体及びその製造方法

【課題】バインダーポリマーと顔料を含む着色剤組成物により着色された着色層を有する繊維構造体であって、風合いが保持され、しかも優れた堅牢度を有する繊維構造体;その製造に使用するコーティング組成物;及びこれを使用した繊維構造体の製造方法を提供すること。
【解決手段】バインダーポリマーと顔料を含む着色剤組成物により着色された着色層を有する繊維構造体において、該着色層の表面に、コーティングポリマーと強化剤を含むコーティング組成物により形成されたコーティング層を有する繊維構造体;コーティングポリマーと強化剤を含むコーティング組成物;バインダーポリマーと顔料を含む着色剤組成物により着色された着色層を有する繊維構造体の表面に、上記コーティング組成物を塗布することを特徴とする繊維構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダーポリマーと顔料を含む着色剤組成物により着色された着色層を有する繊維構造体、この繊維構造体の製造に使用するのに好適なコーティング組成物、このコーティング組成物を使用した繊維構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、バインダー樹脂と顔料を含む着色剤組成物により着色された布帛は、染料染色によって得られる布帛よりも堅牢度に劣り、風合いが硬くなることが知られている。両者の性質は概ね相反し、一方の性能を向上させると他方の性能が劣化する傾向にある。
これらの課題を解決するために、特定のバインダー樹脂で着色処理を施した布帛に対して、特定のポリシロキサンからなる組成物で処理する方法(特許文献1)や架橋剤を含む組成物で処理する方法(特許文献2)が提案されている。また、バインダーポリマーと顔料を含む着色剤組成物により着色された着色層を有する繊維構造体(特許文献3)も提案されている。
しかしながら、これらの方法であってもいまだその効果は十分とはいえない。
【0003】
インクジェット方式により顔料着色を行う方法も提案されている。インクジェット方式では、インクをノズルから吐出させなければならないが、良好で安定な吐出性を発現させるためには、インクの粘度を一定値以下に設定しなければならず、またノズルの詰まりを避けるためにはインクに配合できる添加剤が制限される。堅牢度を高める役割を果たすバインダー成分は、インクの粘度を高め、ノズルを詰まらせやすい性質を有する。このため、添加可能なバインダー成分の種類が限定され、その添加量にも制限を受け、結果的にインクジェット方式で着色した繊維構造体は、他の方法で着色したものに比較して堅牢度に劣るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−18485
【特許文献2】特開平5−230778
【特許文献3】特開2006−299018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、バインダーポリマーと顔料を含む着色剤組成物により着色された着色層を有する繊維構造体であって、風合いが保持され、しかも優れた堅牢度を有する繊維構造体を提供することである。
本発明の他の目的は上記繊維構造体の製造に使用するのに好適なコーティング組成物を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、上記コーティング組成物を使用した繊維構造体の製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、インクジェット方式による着色における従来の問題点を解消した、インクジェット方式により顔料着色を行う方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示す、繊維構造体、コーティング組成物及び繊維構造体の製造方法を提供するものである。
1.バインダーポリマーと顔料を含む着色剤組成物により着色された着色層を有する繊維構造体において、該着色層の表面に、コーティングポリマーと強化剤を含むコーティング組成物により形成されたコーティング層を有することを特徴とする繊維構造体。
2.コーティングポリマーが、着色層を構成するバインダーポリマーと同種のポリマーを含むことを特徴とする上記1記載の繊維構造体。
3.着色剤組成物及びコーティング組成物の少なくとも一方が、伸度200%以上であるポリウレタン水分散体を含むことを特徴とする上記1又は2記載の繊維構造体。
4.コーティング組成物が、改質剤を含むことを特徴とする上記1〜3のいずれか1項記載の繊維構造体。
5.改質剤が、シリコーン系水分散体である上記4記載の繊維構造体。
6.コーティング組成物が、強化助剤を含むことを特徴とする上記1〜5のいずれか1項記載の繊維構造体。
7.バインダーポリマーと顔料を含む着色剤組成物により着色された着色層を有する繊維構造体の表面のコーティングに用いられるコーティング組成物であって、コーティングポリマーと強化剤を含むことを特徴とするコーティング組成物。
8.コーティングポリマーが、着色層を構成するバインダーポリマーと同種のポリマーを含むことを特徴とする上記7記載のコーティング組成物。
9.コーティング組成物が、伸度200%以上であるポリウレタン水分散体を含むことを特徴とする上記7又は8記載のコーティング組成物。
10.コーティング組成物が、改質剤を含むことを特徴とする上記7〜9のいずれか1項記載のコーティング組成物。
11.改質剤が、シリコーン系水分散体である上記10記載のコーティング組成物。
12.コーティング組成物が、強化助剤を含むことを特徴とする上記7〜11のいずれか1項記載のコーティング組成物。
13.バインダーポリマーと顔料を含む着色剤組成物により着色された着色層を有する繊維構造体の表面に、上記7〜12のいずれか1項記載のコーティング組成物を塗布することを特徴とする繊維構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコーティング組成物で処理を施した、着色層を有する繊維構造体は、風合いが損なわれることがなく、摩擦堅牢度に優れている。
また、他の着色法と比較して摩擦堅牢度が低くなる傾向にあるインクジェット着色法により着色を行った場合にも、風合いが損なわれることがなく、摩擦堅牢度に優れた繊維構造体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
本発明において、「繊維構造体」とは、天然繊維、合成繊維、半合成繊維、あるいはこれらの混合物からなる、糸、布帛、織物、編物、不織布、紙、板、皮革、その他のシート状製品、及びこれらから製造された製品を意味するものとする。
【0009】
本発明に使用する着色剤組成物において、バインダーポリマーは、顔料を布帛に固着する目的で使用される。このようなバインダーポリマーとしては、一般に入手できるポリマー、例えば、アクリルポリマー、アクリルスチレンコポリマー、アクリルウレタンコポリマー、アクリルスチレンコポリマー、アクリルマレイン酸コポリマー、アクリルブタジエンコポリマー、アクリル酢酸ビニルコポリマー、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリウレタン、ポリオレフィン、SBR、NBR等が挙げられる。
【0010】
本発明に用いるバインダーポリマーは、水及び水性溶媒中で、好ましくは平均粒子径200nm以下、さらに好ましくは100nm以下の粒子として分散することができるものがより好ましい。平均粒子径が200nmを超えるバインダーポリマーが存在すると、バインダーポリマーで形成される被覆層が厚肉化し、繊維構造体の風合いが低下し、また顔料粒子のバインダー力が低下して摩擦堅牢度が低下する傾向がある。また平均粒子径が10nm未満のバインダー粒子が存在すると、粒子同士の凝集により組成物自体が不安定になる傾向がある。従って、本発明に用いるバインダー粒子の平均粒子径は、好ましくは200〜10nmであり、さらに好ましくは100〜20nmである。特に、バインダーポリマー粒子の平均粒子径を100nm〜10nmに調整すると、バインダーポリマーで形成される被覆層のマイクロコート化が可能となり、繊維構造体の風合いを維持することができ、顔料粒子のバインダー力も向上し好ましい。
【0011】
本発明に用いるバインダーポリマーは、ガラス転移温度が好ましくは10℃以下、さらに好ましくは5℃以下のものが望ましい。バインダーポリマーのガラス転移温度が10℃を超えると、室温(20℃±10℃)の作業環境下で繊維構造体に本発明の着色法を行った場合、バインダーポリマーの被膜化が不十分で、被覆層に空隙部が多数構成され、この空隙部はその後、加熱しても残存し、バインダーポリマー被覆層の強度が低下する傾向がある。バインダーポリマーのガラス転移温度が10℃以下であれば、室温で均一な被膜化が可能で、強度低下が抑制できる。
本発明に用いるバインダーポリマーは、エマルション、ディスパージョン等の形態で使用することができる。
本発明の着色剤組成物中のバインダーポリマー粒子の含有量は、組成物全体に対して好ましくは0.5〜20質量%、さらに好ましくは1〜10質量%である。0.5質量%未満ではバインダー能力が不足し、摩擦堅牢度が低下する傾向があり、20質量%を超えると繊維自身の風合いが損なわれる傾向がある。
【0012】
本発明の着色剤組成物において顔料は、主として色材として使用されるが、他の効果(抗菌性、UVカット)を有するものもある。従来公知の無機顔料、有機顔料が使用可能である。例えば、水及び水性溶媒に分散し、有彩色を有する全ての無機系及び有機系顔料が挙げられる。また、樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料等も使用できる。
無機系顔料としては、例えば、金属粉、金属含有化合物粉等が、また、有機系顔料としては、例えば、アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、染料レーキ顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料等が挙げられる。
【0013】
より具体的には、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、チタンブラック、鉄黒、黒鉛、銅クロムブラック、コバルトブラック、べんがら、酸化クロム、コバルトブルー、酸化鉄黄、ビリジアン、カドミウムエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、群青、バライト粉、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、真鍮粉等の無機系顔料、アニリンブラック、ペリレンブラック、シアニンブラック、樹脂エマルションを黒染料で着色した疑似顔料、C.I.ピグメントブルー1、同ブルー15、同ブルー17、同ブルー27、同レッド5、同レッド22、同レッド38、同レッド48、同レッド49、同レッド53、同レッド57、同レッド81、同レッド104、同レッド146、同レッド245、同イエロー1、同イエロー3、同イエロー4、同イエロー12、同イエロー13、同イエロー14、同イエロー17、同イエロー34、同イエロー55、同イエロー74、同イエロー83、同イエロー95、同イエロー166、同イエロー167、同オレンジ5、同オレンジ13、同オレンジ16、同バイオレット1、同バイオレット3、同バイオレット19、同バイオレット23、同バイオレット50、同グリーン7等の有機系が挙げられる。本発明においては、上記顔料を単独で、または2種類以上を混合して使用することができる。
【0014】
本発明の着色剤組成物中の顔料粒子の平均粒子径は、好ましくは200nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。平均粒子径が200nmを超える顔料粒子が存在すると、繊維構造体表面の凹凸が大きくなり、摩擦抵抗が増し、摩擦堅牢度が低下する傾向がある。また平均粒子径が10nm未満の顔料粒子が存在すると、発色濃度、耐光性等が低下する傾向がある。従って、本発明に用いる顔料粒子の平均粒子径は、好ましくは200〜10nmであり、さらに好ましくは100〜20nmである。
顔料の平均粒子径を200nm以下に調整する手段としては、上記顔料に、水及び水性溶媒、必要に応じて湿潤剤、濡れ剤、分散安定剤等を添加し、一般に用いられる剪断力付与型分散機を用いて混合する方法が挙げられる。例えば、撹拌型のデゾルバー、ホモミキサー、ヘンシェルミキサー、メデア型のボールミル、サンドミル、アトライター、ペイントシェーカー、メデアレス型の3本ロール、5本ロール、ジェットミル、ウォタージェットミル、超音波分散機等を用いて所定の時間処理することで、目的の平均粒子径の顔料粒子を得ることができる。
又、分散機で顔料を粉砕分散した後、必要に応じて粗大粒子、微細粒子を除去することにより、所望の平均粒子径を有する顔料粒子をより確実に得ることができる。目的外粒子の除去方法としては、静止沈降法、遠心沈降法、フィルター除去法等が挙げられる。
【0015】
本発明に用いる顔料粒子は微細であり、外的要因、着色加工時等に再凝集して、目的の性能を低下させてしまう恐れがある。この再凝集を防止するため、顔料粒子の表面を親水性処理しておくことが好ましい。
このような親水性処理としては、例えば、顔料粒子を界面活性剤や水溶性ポリマーを含む分散剤で処理して、粒子表面に水酸基、カルボキシル基、アミノ基等の親水基を付与することにより安定性を向上させる方法が挙げられる。界面活性剤としては、アルキルカルボン酸エステル、アルキル硫酸エステル、アルキルリン酸エステル等のアニオン系界面活性剤、脂肪族アンモニウム塩等のカチオン系活性剤、アルキルエーテル、脂肪酸エステルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン系界面活性剤が挙げられる。また水溶性ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、アクリル類(例えば、低分子のポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等)、ポリマレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸等とスチレンのコポリマー、ポリアミド、ロジン変性マレイン酸等の高分子系分散剤が挙げられる。
【0016】
さらに、水酸化ナトリウム等によるアルカリ処理、クロム酸等の酸化剤による処理、低温プラズマ処理等のトポケミカル的な手法を用いて、顔料表面を親水性処理することができる。
親水性処理により付与できる親水基の中でも、水酸基、カルボキシル基は、繊維構造体へ着色時にバインダーポリマー及び架橋剤との架橋反応が期待でき、堅牢度向上効果が期待できる点で特に好ましい。
本発明の着色剤組成物中の顔料粒子の含有量は、組成物全体に対して好ましくは0.1〜15質量%、さらに好ましくは0.5〜10質量%である。0.1質量%未満では良好な発色が得られない傾向があり、15質量%を超えると摩擦堅牢度が低下する傾向がある。
【0017】
本発明は、バインダーポリマーと顔料を含む着色剤組成物により着色された着色層を有する繊維構造体の該着色層の表面に、コーティングポリマーと強化剤を含むコーティング層を設けたことを特徴とする繊維構造体である。
本発明において、コーティング層の形成に用いるコーティングポリマーは、着色された繊維構造体の堅牢度の向上を目的とするものである。従って、コーティングポリマーは基本的には着色剤組成物に使用されるバインダーポリマーとして先に例示したポリマーを使用することができる。バインダーポリマーとコーティングポリマーは、同じでも異なっていても良い。しかし、バインダーポリマーとコーティングポリマーが同じ又は類似している場合(以下「同種」という)には、両ポリマーの界面における親和性が良好であり、堅牢度を効率的に向上することができるため、バインダーポリマーとコーティングポリマーは同種であることが好ましい。
【0018】
ここで「同種」とは、両ポリマーの界面における親和性が良好であるポリマー同士を意味する。従って、両ポリマーの化学構造等が、同じ又は類似している場合はもちろん、相互に異なる場合も含まれる。例えば、繰り返し結合単位が同一であるポリマー同士(例えば、ポリウレタン同士、ポリエステル同士)などの例が挙げられる。コポリマーの場合は、そのコポリマーを構成するモノマー成分のうち、組成中に占める割合が最も多いモノマー成分が同一であるようなコポリマー同士が挙げられる。また、バインダーポリマーやコーティングポリマーが複数種のポリマーの混合物である場合は、最も配合量の多いポリマーが同一であるようなポリマー同士が挙げられる。
【0019】
本発明においては、着色剤組成物及びコーティング組成物の少なくとも一方が、伸度200%以上のポリウレタン水分散体を含むことが好ましい。ポリウレタン水分散体を含む着色剤組成物及び/又はコーティング組成物を使用すると、得られた繊維構造体は堅牢度と風合いのバランスが優れており、特に伸度が200%以上であれば風合いが良好である。着色剤組成物及びコーティング組成物の両方が、伸度200%以上のポリウレタン水分散体を含む場合には、堅牢度と風合いのバランスが特に優れている。
ポリウレタンの溶液タイプも使用できるが、水分散体を使用した場合の方が得られた繊維構造体の堅牢度がより優れている。水分散体の具体例としては、エマルション、マイクロエマルション、コロイダルディスパーション、ハイドロゾル等の形態が挙げられる。
また「伸度」とは、JISK7127で規定されている方法により測定される値であり、水分散体を乾燥させ膜を形成した後、その膜が伸びた割合を表すものである。
本発明のコーティング組成物中のコーティングポリマーの含有量は、組成物全体に対して好ましくは0.5〜40質量%、さらに好ましくは1.0〜20質量%である。0.5質量%未満ではバインダー能力が不足し、摩擦堅牢度が低下する傾向があり、40質量%を超えると繊維自身の風合いが損なわれる傾向がある。
【0020】
本発明のコーティング組成物に使用される強化剤は、コーティングポリマーとの相互作用により繊維構造体の堅牢度を向上させるものであり、コーティングポリマーと架橋する性質を有する化合物であれば特に制限されない。利用できる架橋反応としては、メチロール基と水酸基の脱水縮合反応、グリシジル基と水酸基とのエポキシ開環重合反応、イソシアネート基と、水酸基、カルボキシル基とのウレタン反応、オキサゾリン基とカルボキシル基とのアミドエステル反応、カルボジイミド基と水酸基及びカルボキシル基とのカルバモイルアミド反応及びイソウレア反応、シラノール基と水酸基の縮合脱水反応、金属アルコキシド基と水酸基による脱水縮合反応、多官能メチロール基と水酸基のメラミン縮合反応、ダイアセトンアクリルアミドとヒドラジドと水酸基による還元脱水反応等が用いられる。これらの水性架橋剤を着色剤組成物中に配合し、加熱すると、顔料及びコーティングポリマーの水酸基、カルボキシル基が架橋して3次元ネットワーク構造が形成され、堅牢度が向上する。具体的には、イソシアネート系化合物、エチレンイミン系化合物、メラミン系化合物、グリオキザール系化合物、エポキシ系化合物、カルボジイミド等が挙げられる。これらの中でも、シェルフライフ、安全性の観点からカルボジイミドが好ましい。
本発明のコーティング組成物中の強化剤の有効成分含有量は、組成物全体に対して好ましくは0.1〜20質量%、さらに好ましくは0.3〜10質量%である。0.1質量%未満では布、バインダーポリマー、コーティングポリマー間の相互の結合を強化する能力が不足して摩擦堅牢度が低下する傾向があり、20質量%を超えると風合いが損なわれる傾向がある。
【0021】
本発明のコーティング組成物は、得られた繊維構造体の摩擦係数を軽減する改質剤を含有することが好ましい。改質剤の具体例としては、シリコーン系水分散体が挙げられる。好ましいシリコーン系水分散体としては、ポリジメチルシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、第4級アンモニウム塩変性シリコーン、フェノール変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーンなどの各種変性シリコーンが挙げられる。
これらのなかでも黄変を起こさないで、バインダーとの架橋効果が期待できるという点からエポキシ変性シリコーン系水分散体が好ましい。
また、上記以外の改質剤としてフッ素系水分散体も挙げられる。例えばPTFEの水分散体は、繊維構造体表面の滑りを向上させ、乾摩擦堅牢度を高くする。
本発明のコーティング組成物中の改質剤の有効成分含有量は、組成物全体に対して好ましくは0.3〜30質量%、さらに好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは1.0〜10質量%である。0.1質量%未満では摩擦係数を軽減する効果が弱く、摩擦堅牢度の向上効果に乏しい傾向があり、30質量%を超えると他の原材料の配合の自由度が阻害される傾向がある。
【0022】
本発明のコーティング組成物は、また、強化剤の架橋効率を向上させる強化助剤を含有することが好ましい。使用可能な強化助剤は強化剤との組み合わせにもよるが、その分子骨格中に水酸基、カルボキシル基、エステル基のいずれかを有するものが好ましい。そのような化合物であれば、水溶液、水分散体のいずれも使用することができる。具体例としてはアクリル系ポリマー水分散体、ポリエステル水分散体が挙げられる。
ポリエステル水分散体に使用するポリエステルとしては、結晶性、非結晶性のものがある。これらのなかでも、ガラス転移点以下でもタック性が生じないという点から結晶性のものが好ましい。
本発明のコーティング組成物中の強化助剤の有効成分含有量は、組成物全体に対して好ましくは0.3〜30質量%、さらに好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは0.5〜20質量%である。0.3質量%未満では架橋効率の向上効果が不足する傾向があり、30質量%を超えると他の原材料の配合の自由度が低下し、さらに風合いも低下する傾向がある。
【0023】
本発明において、バインダーポリマーと顔料を含む着色剤組成物により着色された着色層を有する繊維構造体は、例えば、特開2006−299018記載の方法により製造できる。
繊維構造体を着色する際の特に好ましい着色法は、インクジェット着色法、捺染着色法及び浸染着色法である。
本発明の着色剤組成物を用いて繊維構造体をインクジェット着色法で着色する場合は、バインダー量、水溶性溶剤(例えばエチレングリコール、グリセリン)によって、粘度を、好ましくは2.5〜15mPa・s程度の範囲で適宜調整する必要がある。これにより、綿、ポリエステル、ナイロン等の布帛の着色を行うことができる。
本発明の着色剤組成物を用いて繊維構造体を捺染法で着色する場合は、使用するシルクスクリーン版のメッシュ数、目開き数、透過容積数によって、粘度を、好ましくは500〜200000mPa・s程度の範囲で適宜調整する必要がある。これにより、高鮮明度、高品位、高精度の絵文字、タタキ柄、ボカシ柄等の着色を行うことができる。
【0024】
本発明の着色剤組成物を所望の粘度にするためには、種々の増粘剤を使用することができる。このような増粘剤としては、例えば、合成高分子、セルロース及び多糖類、ターペンエマルションからなる群から選ばれる少なくとも一種(各単独又はこれらの2種以上の混合物)が挙げられる。
合成高分子としては、例えば、ポリアクリル酸類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリルアマイド等が挙げられる。セルロースとしては、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。多糖類としては、例えば、キサンタンガム、グアーガム、カゼイン、アラビアガム、ゼラチン、カラギーナン、アルギン酸、トラガカントガム、ローカストビーンガム、ペクチン等が挙げられる。
ターペンエマルションとしては、ミネラルターペンと水を非イオン系界面活性剤で乳化させたムース調のエマルション等が挙げられる。
【0025】
本発明の着色剤組成物を用いて浸染法により繊維構造体に着色する場合は、本発明の着色剤組成物の粘度は好ましくは、20〜1000mPa・s、さらに好ましくは30〜500mPa・sである。本発明の着色剤組成物の粘度をこの範囲に調整することにより、浸染法で良好な着色された繊維構造体を得ることができる。
【0026】
本発明の着色剤組成物を用いて浸染法により繊維構造体に着色する場合は、着色剤組成物の付着量によって繊維構造体の風合いや発色性が異なる。従って、ピックアップ率(繊維構造体(100質量部)に付着した着色剤組成物の乾燥前の質量比)は好ましくは50〜91質量部、さらに好ましくは60〜80質量部である。ピックアップ率が質量部未満では、着色剤組成物の付着量が少なく、着色性が不足した色相になり、ピックアップ率が91質量部を超えると、着色剤組成物の付着量が多過ぎて、繊維構造体中の被覆層が肉厚になり風合いが低下する傾向がある。本発明の着色剤組成物のピックアップ率を上記範囲に調整することにより、発色、風合い、堅牢度に優れた着色繊維構造体を得ることができる。
【0027】
本発明の着色剤組成物は、溶媒として水(水道水、蒸留水、精製水、イオン交換水、純水、海洋深層水等)を用いる。しかし、水に加え、さらに水以外の溶媒として、保水性の付与、顔料及びバインダーポリマーの安定性向上等の点から、水に相溶性のある極性基を有する水性溶媒を使用することが好ましい。このような水性溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、ピロリドン等が挙げられる。これらの水性溶媒の他、流動パラフィン、鉱物油、工業用ガソリンの様な非水性溶媒であっても、乳化剤等で水と分散混合できる溶媒で有れば使用可能である。これらは単独で又は2種以上混合して用いることができる。
本発明の着色剤組成物中の水の含有量は、好ましくは10〜90質量%、さらに好ましくは30〜80質量%である。
【0028】
本発明の着色剤組成物において、バインダーポリマーを単独で使用した場合には、皮膜強度、堅牢度が不足することがある。この場合は、顔料やバインダーポリマー中の水酸基、カルボキシル基等と架橋反応する架橋剤を添加し、堅牢度を向上させることができる。
この架橋剤としては、本発明のコーティング組成物に使用する強化剤として例示したものが使用できる。
利用できる架橋反応としては、メチロール基と水酸基の脱水縮合反応、グリシジル基と水酸基とのエポキシ開環重合反応、イソシアネート基と、水酸基、カルボキシル基とのウレタン反応、オキサゾリン基とカルボキシル基とのアミドエステル反応、カルボジイミド基と水酸基及びカルボキシル基とのカルバモイルアミド反応及びイソウレア反応、シラノール基と水酸基の縮合脱水反応、金属アルコキシド基と水酸基による脱水縮合反応、多官能メチロール基と水酸基のメラミン縮合反応、ダイアセトンアクリルアミドとヒドラジドと水酸基による還元脱水反応等が用いられる。これらの水性架橋剤を着色剤組成物中に配合し、加熱すると、顔料及びバインダーポリマーの水酸基、カルボキシル基が架橋して3次元ネットワーク構造が形成され、堅牢度が向上する。
本発明の着色剤組成物中の架橋剤の含有量は、好ましくは0.1〜20質量%、さらに好ましくは0.3〜10質量%、より好ましくは1〜5質量%である。
【0029】
本発明の着色剤組成物は、上記以外の成分として、本発明の効果を損なわない範囲で、従来の着色剤組成物に汎用されている、防腐剤、防黴剤、金属塩封鎖剤、pH調整剤、潤滑剤、湿潤剤等の添加物(任意成分)を含有することができる。
防腐剤や防黴剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、ペンタクロロフェノールナトリウム、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2,3,5,6−テトラクロロ−4(メチルスルフォニル)ピリジン、安息香酸ナトリウム等、安息香酸やソルビタン酸やデヒドロ酢酸のアルカリ金属塩、ベンズイミダゾール系化合物等が挙げられる。
金属塩封鎖剤としては、ベンゾトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、トリルトリアゾール、サポニン類等が挙げられる。
pH調整剤としては、尿素、アンモニア水、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、トリポリリン酸ナトリウム等のリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物等が挙げられる。
潤滑剤、湿潤剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリアルキレングリコール誘導体、脂肪酸アルカリ金属塩、シリコンオイルエマルション、ジメチレンポリシロキサンのポリエチレングリコール付加物等のポリエーテル変性シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン粉末、フッ素系界面活性剤、フッ素変性オイル、アセチレングリコール等が挙げられる。
【0030】
こうして製造された着色層を有する繊維構造体の該着色層の表面に、本発明のコーティング組成物を塗布することにより本発明の繊維構造体を得ることができる。
塗布方法は特に限定されないが、捺染、噴霧、浸染等の方法が適用できる。特に、噴霧塗布、ナイフコート、グラビア機、スクリーンプリント等が挙げられる。コーティング組成物を塗布後、80〜170℃で1〜10分程度乾燥することにより本発明の繊維構造体を得ることができる。
コーティング組成物の付着量によって繊維構造体の風合い及び堅牢度が異なる。従って、ピックアップ率(着色層を塗布する前の繊維構造体(100質量部)に付着したコーティング組成物の乾燥前の質量比)は、好ましくは5〜100質量部、さらに好ましくは10〜80質量部、より好ましくは20〜70質量部である。ピックアップ率が5質量部未満では、コーティング組成物の付着量が少なく、堅牢度の向上が十分ではなく、ピックアップ率が100質量部を超えると、コーティング組成物の付着量が多過ぎて、風合いが低下する傾向がある。本発明のコーティング組成物のピックアップ率を上記範囲に調整することにより、風合いと堅牢度のバランスに優れた着色繊維構造体を得ることができる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を、実施例及び比較例により、更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例等に限定されるものではない。
1.着色繊維構造体の製造
ポリエステル、綿、ナイロンの各素材からなる布地について、表1記載の着色用組成物を用いて、インクジェットプリンター(ICHINOSE 2020 東伸工業)により着色を行った。
【0032】
【表1】

【0033】
2.コーティング組成物処理
着色した布地について、表2のコーティング組成物を用いて捺染、噴霧(インクジェット方式)、浸染の各方法にてコーティング処理を行った。
【0034】
【表2】

【0035】
3.評価試験方法
コーティング組成物処理を施した布地について、130℃の条件で十分に乾燥させた後、下記方法・基準にしたがって評価を行った。
1)堅牢度試験
スガ試験機 ER−2型摩擦試験機にて JIS L 0849によって摩擦堅牢度の試験を行い、JIS L 0805規定のグレースケールに従って評価を行った。
2)風合い
コーティング組成物処理による風合いの変化を下記基準に従い触感にて評価した。
○:コーティング前の風合いと同じ。若しくは殆ど変化がない。
△:コーティング前と比較して、ややかたい感じがする。
×:コーティング前と比較して、かたい感じがする。
3)黄変
コーティング組成物処理した布地を130℃の条件下で10分間保管した後の色の変化(黄変)を観察した。
結果を表3〜表5に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
表中、コーティングポリマーの欄において、「同」は着色液のバインダーポリマーと同じであること、「異」は着色液のバインダーポリマーと異なること、「なし」はコーティングポリマーを含まないことを意味し、PETはポリエステルを意味する。
【0040】
実施例、比較例の結果から明らかなように、本発明のコーティング組成物で処理を施した布は、風合いが損なわれることがなく、摩擦堅牢度に優れていることがわかる。
実施例1〜6においては、布の素材に左右されることなく本発明による効果が得られた。
バインダーポリマー(ウレタン)とは伸度が異なるバインダーポリマー(ウレタン)をコーティングポリマーとして使用した実施例7ではやや摩擦堅牢度の低下が観察された。
バインダーポリマー(ウレタン)とは種類が異なるスチレンアクリルエマルションをコーティングポリマーとして使用した実施例8ではやや風合いの低下が観察された。
【0041】
改質剤としてのシリコーン系水分散体を添加していない実施例9や強化助剤であるポリエステル水分散体を添加していない実施例10では、実施例1等に比較してやや堅牢度が劣っていた。改質剤としてアミノ変性シリコーンエマルションを用いた実施例11では、同物質由来と思われる黄変が発生した。
実施例12、13は捺染以外の方法によってコーティングを行った場合の結果であるが、コーティング方法によらず堅牢度に優れ、一定の風合いを保っていることが分かる。浸染によってやや風合いの低下が観察されたのは、コーティング層が厚くなったためと推察される。
コーティング層がない比較例1、コーティング層に強化剤が含まれていない比較例2では、風合いは良好であるが、堅牢度が劣っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーポリマーと顔料を含む着色剤組成物により着色された着色層を有する繊維構造体において、該着色層の表面に、コーティングポリマーと強化剤を含むコーティング組成物により形成されたコーティング層を有することを特徴とする繊維構造体。
【請求項2】
コーティングポリマーが、着色層を構成するバインダーポリマーと同種のポリマーを含むことを特徴とする請求項1記載の繊維構造体。
【請求項3】
着色剤組成物及びコーティング組成物の少なくとも一方が、伸度200%以上であるポリウレタン水分散体を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の繊維構造体。
【請求項4】
コーティング組成物が、改質剤を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の繊維構造体。
【請求項5】
改質剤が、シリコーン系水分散体である請求項4記載の繊維構造体。
【請求項6】
コーティング組成物が、強化助剤を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の繊維構造体。
【請求項7】
バインダーポリマーと顔料を含む着色剤組成物により着色された着色層を有する繊維構造体の表面のコーティングに用いられるコーティング組成物であって、コーティングポリマーと強化剤を含むことを特徴とするコーティング組成物。
【請求項8】
コーティングポリマーが、着色層を構成するバインダーポリマーと同種のポリマーを含むことを特徴とする請求項7記載のコーティング組成物。
【請求項9】
コーティング組成物が、伸度200%以上であるポリウレタン水分散体を含むことを特徴とする請求項7又は8記載のコーティング組成物。
【請求項10】
コーティング組成物が、改質剤を含むことを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項記載のコーティング組成物。
【請求項11】
改質剤が、シリコーン系水分散体である請求項10記載のコーティング組成物。
【請求項12】
コーティング組成物が、強化助剤を含むことを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項記載のコーティング組成物。
【請求項13】
バインダーポリマーと顔料を含む着色剤組成物により着色された着色層を有する繊維構造体の表面に、請求項7〜12のいずれか1項記載のコーティング組成物を塗布することを特徴とする繊維構造体の製造方法。

【公開番号】特開2011−16307(P2011−16307A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162966(P2009−162966)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】