説明

着色抗菌繊維

【課題】耐光堅ろう性の緑色の色彩を帯び、且つ抗菌性を有する繊維およびその製造方法を提供する。
【解決手段】孔雀石から不純物を除去して粉砕した微粒子を繊維に固着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔雀石の微粒子が固着されており、耐光堅ろう性の緑色の色彩を帯びて抗菌性を有することを特徴とする繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーテン等のインテリア製品では、色と機能が製品の価値を決定する重要な要素である。緑色は暖色系と寒色系の中間に位置し、年間を通して使いやすい無難な色である。緑色から感じる重量感は白、黄に次いで軽く感じられるとともに、後退色であるため部屋を広く感じさせる心理的効果がある。こうした理由から緑色はカーテンには特に好まれる色であり、明るい緑色はターキスブルー系染料を配合して染色されていた。
【0003】
また、カーテン等のインテリア製品に要望される機能としては、抗菌性が特に要望される。繊維製品に抗菌性を付与する従来技術としては、酸化チタン等の光触媒や銀、銅、鉛、亜鉛又は錫の金属塩若しくは金属酸化物を利用して加工する方法がある。光触媒は、光が存在しない状況では効果がないため、夜間では他の抗菌剤と併用する必要がある。金属塩に関する先行技術としては、N−長鎖アシルアミノ酸塩(特許文献1)、乳酸オリゴマーの金属塩(特許文献2)を利用した加工技術がある。金属酸化物に関しては、亜鉛イオンあるいは銅イオンの酸化物である第1成分、およびアルカリ土類金属酸化物あるいはアルミナである第2成分を有する固溶体を利用した加工技術がある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−81880
【特許文献2】特開2010−150239
【特許文献3】特開2009−155732
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カーテン等のインテリア製品に好まれる明るい緑色は、一般にターキスブルー系染料を配合して染色される。しかし、ターキスブルー系染料は染料の種類によっては紫外線による変退色を起こしやすく、耐光堅ろう性に課題を残している。一般にインテリア製品の品質として要求される4級以上の耐光堅ろう性が達成できないため、素材や染料の種類を制限しなければならないという課題があった。
【0006】
繊維製品の抗菌加工は、酸化チタン等の光触媒や銀、銅、鉛、亜鉛又は錫の金属塩又は金属酸化物を利用して行われるが、これらの抗菌加工は一般にパッド−ドライ−キュア工程で処理するため、染色とは別工程で行う必要があった。そのため燃料費と手間が余分に掛かり、製造コストが高くなるという課題があった。
【0007】
本発明の目的は、高い耐光堅ろう性を有する緑色で着色されており、且つ機能性として抗菌性が付与されている繊維およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題に鑑み研究を重ねた結果、本発明者は、高い耐光堅ろう性を示す緑色に繊維を着色し、同時に抗菌性を付与する機能性材料として、天然鉱石である孔雀石を利用することを発案した。孔雀石は炭酸水酸化銅を主成分とし、淡緑の条痕色を示す鉱石である。孔雀石の微粒子を着色材と抗菌剤の二役で繊維に固着処理し、耐光堅ろう性と抗菌性の効果について検討した。その結果、高い耐光堅ろう性を有する緑色で着色され且つ抗菌性が付与された繊維およびその製造方法を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0010】
(1)孔雀石の微粒子が固着されており、耐光堅ろう性の緑色の色彩を帯びて抗菌性を有することを特徴とする繊維。
【0011】
(2)孔雀石の微粒子を固着させた耐光堅ろう性の緑色の色彩を帯びる抗菌性繊維が、少なくとも一部に使用されていることを特徴とするカーテン。
【0012】
(3)孔雀石の微粒子および樹脂バインダーを含有する溶液中に、空気を送り込むことにより前記微粒子を溶液中で浮遊させ、この溶液中に繊維を通過させた後に乾燥および熱処理を行うことを特徴とする(1)に記載の繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い耐光堅ろう性を有する緑色で着色されており、且つ機能性として抗菌性が付与されている繊維およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明に利用する孔雀石の原石は泥などの不純物を含んでおり、不純物が多い場合は精製して用いる。孔雀石は比重が3.7−3.9と大きく、粗粉砕した後に水を添加して攪拌すると比較的速やかに沈殿するため、比重が比較的小さく浮遊する不純物はデカンテーションによって取り除くことができる。繊維に固着させる孔雀石微粒子は、粒径が0.1ミクロン乃至5ミクロンであることが好ましい。原石の粉砕方法は、粉砕できる方法であれば特に制限なく利用できる。例えばボールミル、ジェットミル等の粉砕機による方法が好ましく用いられる。
【0016】
本発明で利用する繊維とは、繊維によって構成される構造物であれば、その形状が糸、織物又は編み物である布帛、不織布又は縫製された製品の何れであっても構わない。また、繊維素材としては、特に制限されることなく使用できる。具体的には、綿、麻等のセルロース繊維、絹、ウール、カシミヤ等のタンパク繊維、レーヨン、キュプラ等の再生セルロース繊維、酢酸セルロース(アセテート等)、プロミックス等の半合成繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリウレタン繊維、ポリオキシメチレン(ポリアセタール)繊維、ポリ乳酸繊維等の合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維、およびそれらの混用素材が挙げられる。それらの中で、カーテンなどのインテリア製品にはポリエステル等の合成繊維がより好ましく用いられる。
【0017】
孔雀石の微粒子を繊維に固着する方法は、微粒子を繊維に強固に付着できる方法であれば特に制限なく利用できる。幅広い繊維素材に対して実施できる一般的方法としては、アクリル系、ウレタン系およびシリコン系等の樹脂バインダーを利用して、孔雀石微粒子を繊維に接着する方法が好ましく用いられる。樹脂バインダーを利用する方法では、孔雀石微粒子と樹脂バインダーを含む溶液を塗布する方法、又は先に水浴中で孔雀石微粒子を繊維に吸着させて後に樹脂バインダーで接着させる顔料染色の方法を利用できる。
【0018】
孔雀石微粒子と樹脂バインダーを含む溶液の塗布は、塗布できる方法であれば特に制限なく利用できる。布帛の場合は、仕上げ加工機を利用して一般的なパッド−ドライ−キュア法で好ましく実施できる。孔雀石は比重が3.7−3.9と大きいため、処理溶液中に浮遊させるために処理溶液を攪拌することが必要となる。処理溶液の攪拌の方法には特に制限はなく、機械的にプロペラを回転させるタイプの攪拌機や空気を送り込む方法が利用できる。特に空気を送り込む方法は、従来の仕上げ加工機からの改造が容易であり、コストも小さくすることができるので特に好ましく利用できる。パッド処理に用いる処理溶液としては、孔雀石微粒子を0.1%乃至3%含有し、樹脂バインダーを0.5%乃至10%含有する溶液が好ましく用いられる。さらに、より好ましい処理溶液としては、孔雀石微粒子を0.5%乃至1.5%含有し、樹脂バインダーを0.5%乃至3%含有する溶液が用いられる。パッド処理のピックアップ率は、30%乃至200%で実施可能であり、さらには60%乃至120%がより好ましい。ドライ即ち乾燥の工程は、80℃乃至130℃の温度で、1分乃至3分の処理時間により実施可能である。キュアの工程は、使用する樹脂バインダーの種類によって適当な処理条件を選択できるが、一般には130℃乃至170℃の温度で、1分乃至3分の処理時間で実施可能である。
【0019】
顔料染色の方法では、繊維と孔雀石微粒子に反対の電荷を与えて水浴中で孔雀石微粒子を繊維に吸着させて、後に樹脂バインダーで接着する。正の電荷を与えるカチオン化では、ポリジアルキルアミノエチルアクリレート(メタクリレート)四級塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリエチレンイミンおよびポリビニルピリジン四級塩またこれらの共重合物、ジシアンジアミドとホルマリンの縮合物、アルキレンジアミンとエピクロルヒドリンとの縮合物等の水溶性カチオン高分子が利用できる。負の電荷を与えるアニオン化では、カルボキシル基を持つ水溶性高分子又はその塩等の水溶性アニオン高分子が利用できる。また、水溶性高分子を配合した市販の前処理剤として、株式会社田中直染料店製の「PG処理剤」を好ましく利用することもできる。反対の電荷を与えた繊維と孔雀石微粒子を水浴中で吸着させる条件は、孔雀石微粒子の使用量を繊維重量に対して0.5%乃至3%として、浴比1:30乃至1:200、処理時間5分乃至30分、処理温度は室温から40℃までの範囲とすることが好ましい。孔雀石微粒子を繊維に吸着させた後に行う樹脂バインダーによる接着は、アクリル系、ウレタン系、シリコン系等の樹脂バインダーを利用して、一般に行われるパッド−ドライ−キュア法若しくは浴中処理により実施できる。パッド−ドライ−キュア法では、樹脂バインダーを0.5%乃至3%含有する溶液でパッド処理を行い、ピックアップ率60%乃至120%、ドライは80℃乃至130℃で1分乃至3分の処理を行い、キュア工程は使用する樹脂バインダーの種類によって適当な処理条件を選択できるが、一般には130℃乃至170℃で1分乃至3分の処理が実施可能である。
【0020】
繊維が微粒子を吸着する能力を有している場合は、樹脂バインダーを使用しないで孔雀石微粒子を繊維に固着することができる。例えば表面にセリシンが残っている絹の場合は、セリシンの接着効果によって水浴中で孔雀石微粒子を吸着して固着させることができる。綿はねじれた形状で物理的吸着を生じやすい性質を有しているため、温水中で浸染と同様の工程により繊維間に物理的に吸着させることで固着させることができる。
【0021】
以下に、発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例における耐光試験は次のとおりである。
(1)試験方法:紫外線カーボンアーク灯光法(JIS L 0842)
試験片 :約67mmの正方形
露光法 :第3露光法
【0023】
試験操作:
試験片およびブルースケールを、試料ホルダに窓の部分以外の所は前後から押さえ金で密着させて、照射された部分と照射されなかった部分との境目がはっきり現れるように取り付けて露光を行った。
【0024】
評価法 :
露光終了後の試験片およびブルースケールを2時間以上暗所に放置した後、灰色下敷き上に並べ、試験片とブルースケールとの変退色を視感によって比較判定した。紫外線カーボンアーク灯光堅ろう度の等級は、試験片がブルースケールと同程度か又は少ない変退色を示した場合に、そのブルースケールの等級以上とした。
【0025】
実施例における抗菌性試験は次のとおりである。
(1)試験方法:菌液吸収法(JIS L 1902)
菌の種類:黄色ブドウ球菌(菌株:JCM No.2151)
大腸菌(菌株:IAM 12082)
試験片 :重量0.4g、各サンプル3検体
生菌数測定法:混釈平板培養法
【0026】
試験操作:
未処理のカーテン生地3検体に試験菌液0.2mlをつけ、洗い出し液20mlと共に撹拌して、生菌数を測定した。また、減菌済の未処理のカーテン生地3検体と孔雀石微粒子を固着させたカーテン生地各3検体に、試験菌液0.2mlをつけ、37℃、18時間の条件で培養して、洗い出し液20mlと共に撹拌した後に生菌数を測定した。
【0027】
各活性値の算出は以下の計算式に従った。
静菌活性値 S=Mb−Mc
殺菌活性値 L=Ma−Mc
Ma:未処理カーテン生地の試験菌接種直後の生菌数の常用対数の平均値
Mb:未処理カーテン生地の18時間培養後の生菌数の常用対数の平均値
Mc:孔雀石微粒子を固着させたカーテン生地の18時間培養後の生菌数の常用対数の平均値
【実施例1】
【0028】
(パッド−ドライ−キュア法によるカーテン生地への孔雀石微粒子の固着)
カーテン生地は、50デニール、75デニール(ウーリー加工単糸)および75デニール(ブライト糸)のポリエステル糸を用いて、カール・マイヤー社製ラッシェル機で28ゲージ、150センチメートル幅の経編みで制作した。孔雀石の粉砕は、高速スタンプミル(日陶科学株式会社製)で粗粉砕した後、気流式微粉砕装置エアータグミル(ミクロパウテック株式会社製)で平均粒径約1ミクロンに微粉砕した。樹脂バインダーは、水分散型シリコン系バインダー「ネオステッカーSI」(日華化学株式会社製)を用いた。処理液の組成は、孔雀石微粒子0.8重量部、ネオステッカーSI1.6重量部、水97.6重量部とした。処理溶液中の底部で空気を泡状に噴出させて、孔雀石微粒子を処理溶液中で浮遊させた状態に保持し、カーテン生地のパッド処理を行った。パッド処理に続く絞り工程において、マングルの圧力は2キログラム毎平方センチメートルでピックアップ率100%とした。その後の予備乾燥工程は120℃で2分、キュア工程は160℃で1分として処理することにより孔雀石微粒子の固着を行った。
【0029】
(耐光試験結果)
実施例1の孔雀石微粒子を固着させたカーテン生地の耐光試験結果は、5級のブルースケールが標準退色するまで露光した時に、試験片の変退色がブルースケールより少なかったことから5等級以上と評価した。
【0030】
(抗菌性試験結果)
実施例1の孔雀石微粒子を固着させたカーテン生地及び未処理のカーテン生地について、抗菌性を評価した結果を表1に示す。静菌活性値:S=log[B]−log[C]、および殺菌活性値:L=log[A]−log[C]の値から、実施例1の孔雀石微粒子を固着させたカーテン生地上では、未処理のカーテン生地上よりも黄色ブドウ球菌および大腸菌の生育が著しく阻害されることが確認された。
【0031】
【表1】

【実施例2】
【0032】
(顔料染色法によるカーテンへの孔雀石微粒子の固着)
50デニール、75デニール(ウーリー加工単糸)および75デニール(ブライト糸)のポリエステル糸を用いて、カール・マイヤー社製ラッシェル機で28ゲージ、150センチメートル幅の経編みで制作し、この生地をカーテンに縫製した。このカーテンへの顔料染色法による孔雀石微粒子の固着は、繊維の前処理剤として株式会社田中直染料店製の「PG処理剤」を利用して行った。5グラム/リットルのPG処理剤水溶液中、浴比を1:40として60℃で20分の処理を行った後、十分な水洗により過剰に付着した処理剤を除去した。孔雀石微粒子の吸着処理は、株式会社田中直染料店製の顔料用分散剤を5グラム/リットルの濃度で含む水溶液に、カーテン重量の1.2%に相当する微粒子を分散させ、浴比を1:40として室温で20分間吸着させた。樹脂バインダーによる固着処理は、水分散型シリコン系バインダー「ネオステッカーSI」(日華化学株式会社製)を用いて行った。処理液の組成は、ネオステッカーSI2.4重量部、水97.6重量部とした。孔雀石微粒子を吸着させたカーテンを室温で処理液中に10分間浸漬し、遠心脱水機でピックアップ率100%に相当する脱水を行い、予備乾燥は120℃で2分、キュアは160℃で1分の処理を行った。
【0033】
(耐光試験結果)
実施例2の孔雀石微粒子を固着させたカーテン生地の耐光試験結果は、5級のブルースケールが標準退色するまで露光した時に、試験片の変退色がブルースケールより少なかったことから5等級以上と評価した。
【0034】
(抗菌性試験結果)
実施例2の孔雀石微粒子を固着させたカーテン生地及び未処理のカーテン生地について、抗菌性を評価した結果を表2に示す。静菌活性値:S=log[B]−log[C]、および殺菌活性値:L=log[A]−log[C]の値から、実施例2の孔雀石微粒子を固着させたカーテン生地上では、未処理のカーテン生地上よりも黄色ブドウ球菌および大腸菌の生育が著しく阻害されることが確認された。
【0035】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、高い耐光堅ろう性を有する緑色の色彩を帯び、且つ抗菌性を有するカーテン等のインテリア製品を中心とした幅広い繊維製品に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔雀石の微粒子が固着されており、耐光堅ろう性の緑色の色彩を帯びて抗菌性を有することを特徴とする繊維。
【請求項2】
孔雀石の微粒子を固着させた耐光堅ろう性の緑色の色彩を帯びる抗菌性繊維が、少なくとも一部に使用されていることを特徴とするカーテン。
【請求項3】
孔雀石の微粒子および樹脂バインダーを含有する溶液中に、空気を送り込むことにより前記微粒子を溶液中で浮遊させ、当該溶液中に繊維を通過させた後に乾燥および熱処理を行うことを特徴とする、請求項1記載の繊維の製造方法。

【公開番号】特開2012−97396(P2012−97396A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259471(P2010−259471)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(593071823)株式会社黒沢レ−ス (13)
【出願人】(591032703)群馬県 (144)
【Fターム(参考)】