説明

着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物の作成方法及び着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。

【課題】口紅、アイシャドー、ファウンデーションなどとして用いられる着色用皮膚外用組成物あるいはサンオイルなどとして用いられる日焼け止め用皮膚外用組成物は、低刺激性のみならず、塗布後の発色性、塗布後の紫外線透過抑制性、皮膚との密着性などの機能性が求められる。これらの製品においては光吸収剤、光反射材ないし色素材料などと溶媒との溶媒和調整剤は必要不可欠な成分である。これらの組成物に適用することが可能な新規の溶媒和調整剤の提供。
【解決手段】人体で共生して繁殖する2種類以上の細菌を培養して粘性物質を採取し、該2種類以上の細菌を死活させて死骸または死骸の変性体を取得し、該粘性物質以外の細菌由来成分を取得し、該粘性物質を溶媒和調整剤として適用して光吸収材・光反射材ないし色素材料および該細菌由来成分を内部に分散させることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物の作成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は口紅、アイシャドー、ファウンデーションなどとして用いられる着色用皮膚外用組成物または日焼け止めクリームなどとして用いられる日焼け止め用皮膚外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口紅、アイシャドー、ファウンデーションなどとして用いられる着色用皮膚外用組成物あるいはサンオイルなどとして用いられる日焼け止め用皮膚外用組成物は、その利用が習慣化した場合に、唇、瞼あるいは上腕など同一の特定の皮膚に繰返し適用される製品である。そのため、長期間継続的にこれらの特定の皮膚と製品とが接することとなり、通常の化粧品よりも低刺激であることが求められる製品である。特に日焼け止め用皮膚外用組成物は、乳児や幼児など低年齢層の消費者や皮膚バリア機能の低い皮膚疾患を持つ患者なども皮膚を保護することを目的として利用する製品であり、着色用皮膚外用組成物よりも低刺激であることが求められる製品である。近年、これらの製品に含まれて利用時に経皮から吸収される化学物質からの刺激への関心が高まっている。具体的に、低分子の安定剤や界面活性剤などの溶質の溶媒和調整剤が皮膚や唇などを介して吸収され、それらの化学物質によってアレルギーやガンなどが引き起こされるという副作用が問題視されている。着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物で一般に利用されているラウリル硫酸ナトリウムやプロピレングリコールにおいても副作用の報告がされている。一方で、これらの製品は、低刺激性のみならず、塗布後の発色性、塗布後の紫外線透過抑制性、皮膚との密着性などの機能性も求められる製品であり、これらの製品においては光吸収剤、光反射材ないし色素材料などと溶媒との溶媒和調整剤は必要不可欠な成分である。そのため、着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物に適用可能であって、低刺激の新規な溶媒和調整剤への需要が高まっている。また、皮膚組織や細胞単体の分析技術の進展は、より直接的に生体に作用する薬効成分の開発を促進しており、これらの新しい薬効成分を含有させた、新規な機能性を有する着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物が求められている。そのため、これらの新しい薬効成分を着色用皮膚外用組成物や日焼け止め用皮膚外用組成物に適用することが可能な新規の溶媒和調整剤の開発が求められている。
【0003】
【特許文献1】特許公表2004−513654
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、健全な皮膚上には粘性物質が存在している。例えば、皮膚で繁殖する細菌が構成するバイオフィルムなどでは高分子電解質などの粘性物質が存在する。これらのバイオフィルムに含まれる粘性物質は、安定剤や界面活性剤として機能する上に、経皮吸収による副作用が発生し難いという特徴を備えている。しかしながら人体から直接これらの粘性物質を大量に採取することは困難である。
【0005】
近年、細胞や細菌の培養技術の発達が著しい。例えば、細胞や細菌をシート状に培養する技術が発達している。シート状にすることで複数種類の細胞や細胞を層状に重ねて培養可能となり、生体での組織構造に類似した状態を培地上に再現可能となり、単体の細胞を培養した場合よりも培養条件が向上するという技術である。バイオフィルムを形成する細菌の培養に対してこれらの技術を適用した場合、皮膚上のバイオフィルムに近い環境が培地上に再現されることになり、培養条件が向上し、多量の粘性物質を生成することが可能となる。具体的に、健全な皮膚上のバイオフィルムから複数種の細菌を採取し、これらの培養技術を適用して培地にバイオフィルムを作成する。すると、培地に作成されたバイオフィルム内で複数種の細菌は相互作用を行いながら粘液を分泌することとなる。さらに培地に作成されたバイオフィルムを取り出し、細菌ごと攪拌粉砕する。細菌ごと攪拌粉砕することで皮膚上のバイオフィルムに対して好ましい成分や粘性物質を大量に得ることが可能となる。さらに、これらの成分や粘性物質を着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物に適用することで、低刺激で、皮膚との密着性に優れた着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物が実現する。
【0006】
培養されたバイオフィルム由来の粘性物質や成分を含む着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物は、皮膚上のバイオフィルムに対しても親和性が高いという特徴を持つ。そのため、既に形成された皮膚上のバイオフィルムへ密着性が高い。また、自らが内包する薬剤を皮膚上のバイオフィルムへ浸透させるのに有利である。一般に膨潤した高分子電解質への薬液の投与は容易ではない。高分子電解質が構成する3次元の網目構造が薬液の拡散を抑制するためである。例えば、薬液の成分と皮膚上のバイオフィルム内の高分子電解質とが反応する場合には、皮膚上のバイオフィルム深部への薬液の浸透が阻害されることがある。具体的に、薬液成分と高分子電解質との極性が異なる場合は、両者の接触界面付近の高分子電解質が収縮し、高分子電解質の網目構造が密集した皮膜状の境界層が発生する。この皮膜状の境界層が粘液深部への薬液の浸透を阻害することがある。しかしながら、培養されたバイオフィルから得られた粘性物質は、皮膚上のバイオフィルムの粘性物質と極性が同一のため、上述のような不用意な反応を起こさず、皮膚上のバイオフィルムへの高い浸透性を有する安定剤や界面活性剤となり得る。高い密着性や薬剤浸透性を用いて光吸収剤、光反射材ないし色素材料を従来の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物よりも強固に皮膚に配置することが可能となる。
【0007】
現状では皮膚上に生成したバイオフィルム内に消毒液や抗生物質を投与することは困難であり、皮膚上に直接生成したバイオフィルムの悪性細菌の殺菌や滅菌は不能であることも多い。培養したバイオフィルムから粘性物質を採取し、さらに抗生物質や消毒液などの薬液を添加することで、皮膚上に生成したバイオフィルムにこれらの薬効成分を投与することが容易になる。すなわち、バイオフィルム由来の成分と薬効成分とを含む着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物を用いると、バイオフィルムがこれらの成分を自ら取り込むことが容易であるため、効果的にバイオフィルムへの薬効成分の投入が図られ、効果的に悪性細菌などの殺菌や滅菌を図ることができる。そのため、これらの薬効成分を含有する着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物を作成することで従来にない機能性着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物を得ることが可能となる。
【0008】
さらにバイオフィルムと親和性の高い着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物は、バイオフィルムの再生促進効果を有する。単なる再生効果に留まらず、着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物の組成を調整することにより、皮膚上のバイオフィルムの組成改善が可能となる。具体的に、培地にバイオフィルムを培養する際に、細菌種やその組成を予め皮膚に望ましい構成とする。それらの培養したバイオフィルムから得られる物質を着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物に適用することで、好ましいバイオフィルムの再生が促進されることとなる。
【0009】
十分な量の粘性物質を得るために、また高い浸透性を得るために、培地にバイオフィルムを生成する際に人体で共生する3種類以上の細菌を培養することが有効であり、その分泌物や排泄物あるいは細菌の死骸も着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物に利用することが有効である。なぜなら、人体で実際に共生するバイオフィルムは、3種類以上の細菌間の相互作用によって安定化されているためである。具体的に、皮膚上のバイオフィルムの多くは3種類以上の細胞間の分泌物や排泄物を通じた連鎖や食物連鎖を通じた相互作用によって安定化されている。そのため、これらの相互作用の生成物も着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物に内包させることが皮膚上のバイオフィルムに対する親和性を高める点から望ましいこととなる。ここで、免疫機能が落ちた患者がバイオフィルムに由来する日和見感染を引き起こすことが知られているが、これはバイオフィルム内の粘性物質が免疫機構に作用するのではなく、バイオフィルム内に生息する細菌が免疫機構に作用することが多い。そのため、バイオフィルム内の細菌を失活させてからバイオフィルム内の粘性物質を利用する場合は日和見感染の発生は抑えられる。
【0010】
本発明の目的は、人体で繁殖する細菌のバイオフィルムを培養し、培養した組織から粘性物質を採取し、これらの粘性物質を界面活性剤や安定剤等として用いた皮膚に適する着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物などを得ることである。また、培養した組織に含まれる粘性物質以外の細菌由来物質を含む着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物などを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は下記を用いて課題を解決するものである。
(1)
人体で共生して繁殖する2種類以上の細菌を培養して粘性物質を採取し、該2種類以上の細菌を死活させて死骸または死骸の変性体を取得し、該粘性物質以外の細菌由来成分を取得し、該粘性物質を溶媒和調整剤として適用して光吸収材・光反射材ないし色素材料および該細菌由来成分を内部に分散させることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物の作成方法。
(2)
人体で共生して繁殖する2種類以上の細菌を培養して生成されたバイオフィルムから粘性物質を採取し、該2種類以上の細菌を死活させて死骸または死骸の変性体を取得し、該粘性物質以外の細菌由来成分を取得し、該粘性物質を溶媒和調整剤として適用して光吸収材・光反射材ないし色素材料および該細菌由来成分を内部に分散させることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物の作成方法。
(3)
(1)または(2)に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物の作成方法であって、培養する細菌が3種以上であることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物の作成方法。
(4)
(1)ないし(3)に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物の作成方法であって、細菌由来成分がリン酸脂質、セラミドないし細菌排泄物であることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物の作成方法。
(5)
人体で共生して繁殖する2種類以上の細菌を培養して採取された粘性物質を含み、該2種類以上の細菌の死骸または死骸の変性体を含み、細菌を培養して取得された粘性物質以外の細菌由来成分を含み、光吸収材・光反射材ないし色素材料を含み、該採取された粘性物質が含有物と溶媒との溶媒和調整剤であることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
(6)
人体で共生して繁殖する2種類以上の細菌を培養して生成されたバイオフィルムから取得された粘性物質を含み、該2種類以上の細菌の死骸または死骸の変性体を含み、該バイオフィルムから取得された粘性物質以外の細菌由来成分を含み、光吸収材・光反射材ないし色素材料を含み、該採取された粘性物質が含有物と溶媒との溶媒和調整剤であることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
(7)
人体で共生して繁殖する2種類以上の細菌を培養して生成されたバイオフィルムから採取された粘性物質を含み、該2種類以上の細菌の死骸または死骸の変性体を含み、粘液を生成する細菌の他細菌に対する割合が該バイオフィルムに比較して高く濃縮され、該バイオフィルムから取得された粘性物質以外の細菌由来成分を含み、光吸収材・光反射材ないし色素材料を含み、該採取された粘性物質が含有物と溶媒との溶媒和調整剤であることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
(8)
(5)ないし(7)に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、培養する細菌が3種以上であることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
(9)
(5)ないし(8)に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、細菌由来成分がリン酸脂質、セラミドないし細菌排泄物であることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
(10)
(5)ないし(9)に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、細菌の培養時に培地上または培地内に配置された光吸収材・光反射材ないし色素材料を含むことを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
(11)
(5)ないし(10)に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、細菌由来の粘性物質が付着した光吸収材・光反射材ないし色素材料を含むことを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
(12)
(5)ないし(11)に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、細菌由来の粘性物質が付着した光吸収材・光反射材ないし色素材料を含み、該粘性物質が架橋反応、重合反応ないしその他の化学反応によって改質された改質殻を有することを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
(13)
(5)ないし(12)に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、細菌由来の粘性物質が付着した光吸収材・光反射材ないし色素材料を含み、該粘性物質が多価イオン、アミノ酸、食用品由来成分ないし生物由来物質によって改質された改質殻を有することを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
(14)
(5)ないし(13)に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、多糖類と培養細菌に分解された該多糖類の分解生成物とを含むことを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
(15)
(5)ないし(14)に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、油脂と培養細菌に分解された該油脂の分解生成物とを含むことを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
(16)
(5)ないし(15)に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、タンパク質と培養細菌に分解された該タンパク質の分解生成物とを含むことを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
(17)
(5)ないし(16)に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、水またはその他の溶媒を含むことを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
(18)
(5)ないし(17)に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、乾燥状態、半乾燥状態、固体状、半固体状ないしゲル状であることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
(19)
(5)ないし(18)に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、緑膿菌ないし緑膿菌に由来する成分を含むことを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
(20)
(5)ないし(19)に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、抗生物質または消毒液を含むことを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
(21)
(5)ないし(20)に記載の日焼け止め用皮膚外用組成物であって、紫外線透過防止材料または紫外線反射材料を含むことを特徴とする日焼け止め用皮膚外用組成物。
(22)
(5)ないし(21)に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、粘性物質に対して架橋処理または重合処理がなされていることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
(23)
(5)ないし(22)に記載の着色用皮膚外用組成物であって、口紅、アイシャドー、ファウンデーションであることを特徴とする着色用皮膚外用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果は、人体で繁殖する細菌のバイオフィルムを培養し、培養した組織から粘性物質を採取し、これらの粘性物質を界面活性剤や安定剤等として用いた皮膚に適する着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物などが提供されることである。また、培養した組織に含まれる粘性物質以外の細菌由来物質を含む着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物などが提供されることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施形態を示す。細胞培養用の温度応答性培養皿を用いて複数の細菌をシート状に培養する。温度応答性培養皿とは、例えば温度応答性高分子であるポリN−イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)を市販の培養皿に電子線を用いて表面グラフトしたものである。このような培養皿では培養温度(37℃)では疎水性の表面となるため、細胞が接着するのに対し、低温(32℃以下)では高度に親水化するため細胞が培養皿表面からその構造と機能を損なうことなく自発的に脱着する。そのため、細胞を密な状態に培養した場合は細胞と細胞外マトリクス(ECM)からなるシート状の細胞を脱着、回収することができる。これらの温度応答性培養皿などを用いて、皮膚状に形成されたバイオフィルム由来の細菌や皮膚常駐細菌を培養する。まず、健全な皮膚に存在する3種類以上の細菌を採取する。緑膿菌などの粘性物質を生成する細菌が好ましい。次に採取した細菌を培養してバイオフィルムを生成する。さらに、生成したバイオフィルムを攪拌・粉砕して水溶液中に分散して、細菌の分泌する粘液や細菌由来成分を得る。この際、熱を印加してあるいは紫外線や電子線を照射して細菌自体は失活させることが望ましい。得られた粘性物質は安定剤や界面活性剤として利用する可能である。細菌の死骸も利用することが望ましい。これらの死骸や粘性物質は、バイオフィルムの栄養源になるため、好ましいバイオフィルムの再生に貢献するためである。さらに、色素・光反射材あるいは光吸収剤や香料を混合して着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物を作成する。例えば赤色色素を混合して口紅、黒色色素を混合してアイシャドー、肌色色素を混合してファンデーションを構成する。さらには白色微粒子を混合して日焼け止め用皮膚外用組成物を構成する。色素は酸化チタン、クチナシなど既存の製品に含まれる成分など特に限定されないが、経皮吸収の少ない分子量が大きい材料が望ましい。
【0014】
皮膚に対して好ましい作用を及ぼす細菌を培養したバイオフィルムから、多糖類、油脂あるいはたんぱく質などバイオフィルム内の細菌が養分とした物質やその分解生成物、あるいはバイオフィルム内の細菌由来のセラミドやリン酸脂質を取得して適用してもよい。これらの物質が皮膚上に配置されることにより、好ましいバイオフィルムが皮膚上での再現を促進されることになる。さらに、好ましいバイオフィルムの再生を促進するために、繊維質や粒子などの細菌再生の核になる材料を添加することが望ましい。例えば好ましいバイオフィルムを培地に培養する際に繊維状や粒子状の光吸収剤、光反射材ないし色素材料を培地内に混ぜ込んでおき、粘性物質やその他の細菌由来成分を十分に付着させておくことがより望ましい。これらの光吸収剤、光反射材ないし色素材料が紫外線反射機能を有する材料や紫外線透過防止機能を有する材料であることが特に望ましい。光吸収剤、光反射材ないし色素材料は、皮膚から吸収されることを避けるために、分子量を500以上にし、またサイズを1μm以上にすることが好ましい。より好ましくはサイズを100μm以上にすることが望ましい。サイズの測定は動的光散乱法などが適している。あるいは、シート状あるいはフィルム状に生成したバイオフィルム上に光吸収剤、光反射材ないし色素材料を分散させ、後から粘性物質を回収しても良い。一度シート状やフィルム状に粘性物質を生成させることにより、単にビーカー内に分散した微粒子に細菌を付着させ、粘性物質を生成させた場合とは量や質が異なる細菌由来成分が取得可能となる。
【実施例】
【0015】
着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物の形態は、乾燥状態、半乾燥状態、固体状態、半固体状態、ゲル状態ないし溶液状態などがある。乾燥状態、半乾燥状態、固体状態、半固体状態ないしゲル状態が安定性の面から好ましい。また溶液状態が塗布容易性の面から好ましい。
【0016】
取得された粘性物質を適宜加工しても良い。例えば粘性物質が架橋反応、重合反応ないしその他の化学反応などによって分子量や粘性物質マトリックスの密度を調整して良い。特に、粘性物質のマトリックスの密度を調節して、周辺部に改質殻を構成することが望ましい。殻を有することで粘性物質の色素・光反射材料あるいは光吸収材からの剥離が低減する。具体的な、架橋剤にはカルシウムイオンや鉄イオンなど多価イオンを利用することが望ましい。食用品由来成分ないし生物由来物質の低分子多価物質なども望ましい。また、その他の架橋剤にはN,N′−メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)やエチレングリコールジメタクリレート(EDMA)などのジビニル化合物、開始剤にはアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)や過酸化ベンゾイル(BPO)、過硫酸塩などがあげられる。重合反応はイオン重合などが望ましい。
【0017】
本発明は抗生物質や消毒液を添加して構成しても良い。着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物の塗布時には悪性細菌などを取りこむ恐れもある。抗生物質や消毒液を含むことでこれらの悪性細菌に対して抗力を有することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】 着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物
【符号の説明】
【0019】
1−1 粘性物質
1−2 光吸収剤、光反射材ないし色素材料
1−3 失活した粘液細胞
1−4 水溶液を保持する容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体で共生して繁殖する2種類以上の細菌を培養して粘性物質を採取し、該2種類以上の細菌を死活させて死骸または死骸の変性体を取得し、該粘性物質以外の細菌由来成分を取得し、該粘性物質を溶媒和調整剤として適用して光吸収材・光反射材ないし色素材料および該細菌由来成分を内部に分散させることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物の作成方法。
【請求項2】
人体で共生して繁殖する2種類以上の細菌を培養して生成されたバイオフィルムから粘性物質を採取し、該2種類以上の細菌を死活させて死骸または死骸の変性体を取得し、該粘性物質以外の細菌由来成分を取得し、該粘性物質を溶媒和調整剤として適用して光吸収材・光反射材ないし色素材料および該細菌由来成分を内部に分散させることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物の作成方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物の作成方法であって、培養する細菌が3種以上であることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物の作成方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物の作成方法であって、細菌由来成分がリン酸脂質、セラミドないし細菌排泄物であることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物の作成方法。
【請求項5】
人体で共生して繁殖する2種類以上の細菌を培養して採取された粘性物質を含み、該2種類以上の細菌の死骸または死骸の変性体を含み、細菌を培養して取得された粘性物質以外の細菌由来成分を含み、光吸収材・光反射材ないし色素材料を含み、該採取された粘性物質が含有物と溶媒との溶媒和調整剤であることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項6】
人体で共生して繁殖する2種類以上の細菌を培養して生成されたバイオフィルムから取得された粘性物質を含み、該2種類以上の細菌の死骸または死骸の変性体を含み、該バイオフィルムから取得された粘性物質以外の細菌由来成分を含み、光吸収材・光反射材ないし色素材料を含み、該採取された粘性物質が含有物と溶媒との溶媒和調整剤であることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項7】
人体で共生して繁殖する2種類以上の細菌を培養して生成されたバイオフィルムから採取された粘性物質を含み、該2種類以上の細菌の死骸または死骸の変性体を含み、粘液を生成する細菌の他細菌に対する割合が該バイオフィルムに比較して高く濃縮され、該バイオフィルムから取得された粘性物質以外の細菌由来成分を含み、光吸収材・光反射材ないし色素材料を含み、該採取された粘性物質が含有物と溶媒との溶媒和調整剤であることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項8】
請求項5ないし請求項7に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、培養する細菌が3種以上であることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項9】
請求項5ないし請求項8に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、細菌由来成分がリン酸脂質、セラミドないし細菌排泄物であることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項10】
請求項5ないし請求項9に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、細菌の培養時に培地上または培地内に配置された光吸収材・光反射材ないし色素材料を含むことを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項11】
請求項5ないし請求項10に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、細菌由来の粘性物質が付着した光吸収材・光反射材ないし色素材料を含むことを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項12】
請求項5ないし請求項11に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、細菌由来の粘性物質が付着した光吸収材・光反射材ないし色素材料を含み、該粘性物質が架橋反応、重合反応ないしその他の化学反応によって改質された改質殻を有することを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項13】
請求項5ないし請求項12に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、細菌由来の粘性物質が付着した光吸収材・光反射材ないし色素材料を含み、該粘性物質が多価イオン、アミノ酸、食用品由来成分ないし生物由来物質によって改質された改質殻を有することを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項14】
請求項5ないし請求項13に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、多糖類と培養細菌に分解された該多糖類の分解生成物とを含むことを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項15】
請求項5ないし請求項14に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、油脂と培養細菌に分解された該油脂の分解生成物とを含むことを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項16】
請求項5ないし請求項15に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、タンパク質と培養細菌に分解された該タンパク質の分解生成物とを含むことを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項17】
請求項5ないし請求項16に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、水またはその他の溶媒を含むことを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項18】
請求項5ないし請求項17に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、乾燥状態、半乾燥状態、固体状、半固体状ないしゲル状であることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項19】
請求項5ないし請求項18に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、緑膿菌ないし緑膿菌に由来する成分を含むことを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項20】
請求項5ないし請求項19に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、抗生物質または消毒液を含むことを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項21】
請求項5ないし請求項20に記載の日焼け止め用皮膚外用組成物であって、紫外線透過防止材料または紫外線反射材料を含むことを特徴とする日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項22】
請求項5ないし請求項21に記載の着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物であって、粘性物質に対して架橋処理または重合処理がなされていることを特徴とする着色用皮膚外用組成物または日焼け止め用皮膚外用組成物。
【請求項23】
請求項5ないし請求項22に記載の着色用皮膚外用組成物であって、口紅、アイシャドー、ファウンデーションであることを特徴とする着色用皮膚外用組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−308478(P2008−308478A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183728(P2007−183728)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(597034727)
【Fターム(参考)】