説明

着色紙、着色ペーパーモールドおよびこれらの製造方法

【課題】食品、医薬品、飲料等の包装用に使用する着色紙、食品等の輸送時に緩衝材として使用する着色ペーパーモールド、およびそれらの製造法を提供すること。
【解決手段】従来、食品の包装材や緩衝材の着色料として工業用染料の塩基性染料等が主として使用されている。これらの染料で着色した包装紙や着色ペーパーモールドは、雨水等の水により染料成分の色流れや色落ちが原因で接触していた食品が汚染するなどの問題が起こっていた。本発明によれば、色素成分である鉄クロロフィリン塩で染着し、さらに水に不溶化し定着化する技術により問題解決が可能となり、また安全性や環境の面においても改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙原料を用いた着色紙、着色ペーパーモールドおよびその製造方法に関する。
更に詳しくは、食品、医薬品、飲料等に直接接触する商品の包装紙、商品の緩衝材として保護・固定化するためのペーパーモールド等の着色に、食品添加物として使用されている安全性の高い色素である鉄クロロフィリンナトリウムを使用して着色し、更に定着化処理することにより耐水性を高め、色流れや色移りしない着色紙、着色ペーパーモールドおよびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙類やパルプ等の着色には合成染料(有機染料、有機顔料)や天然色素(植物色素、動物色素等)が多く用いられている。しかし、使用されている染料または色素は水溶性のものが多く、これらの染料等を用いた紙類やパルプ等の着色は充分ではない。たとえばリンゴ等の農産物の包装やペーパーモールドに工業用染料の塩基性染料等が使用され、それで着色した包装紙やペーパーモールドは、雨水の水により染料の色流れや色移りがあり、接触しているリンゴ等に色移りして汚染を発生させるなど、染料または色素によるパルプ等の紙類への着色定着化技術はまだ充分ではない。
【0003】
このように染料または色素を用いた食品包装等の用途では、着色紙が食品に付着し健康面での問題が懸念されるなどの理由から、食品に着色した面が直接接触することがないように包装材料等を介して用いられている。また、輸送中や移動中の取扱い等で、傷みやすい農産物(たとえば果実類等)や衝撃等により割れたり潰れたりし易い食品(たとえば卵類等)の緩衝材として保護や固定化のために用いられているペーパーモールド等にも上記染料または色素が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
天然色素の特徴を生かし、クマザサ等の植物の生葉(緑葉)等から抽出したクロロフィル中のマグネシウム(クロロフィル分子の中心に位置するマグネシウム)を銅または鉄で置換した銅クロロフィリンNaまたは鉄クロロフィリンNaおよびこれらの色素を含んだパルプや紙糸に関する製造方法(特許文献1参照)等が開示されている。
また、トイレットペーパー、タオル用紙、紙オムツ等に銅クロロフィリンまたは鉄クロロフィリンの塩を含有させ、消臭効果、抗菌作用等の薬理効果を有する機能性衛生用紙(特許文献2参照)に関する技術や銅クロロフィリンNa塩をpH1〜2の弱酸で処理(酸処理による定着化)し、水に対して不溶性の銅クロロフィリンを紙の繊維に吸着させた脱臭フィルタ用紙(特許文献3参照)に関する技術も公開されている。
また、緑色系染料の銅クロロフィリンNaおよび/または鉄クロロフィリンNaをインクジェット記録用インク(特許文献4参照)に関する技術も公開されており、特に鉄クロロフィリンNaは暗色味を有し、地色の濃い印字体に好適である。
【特許文献1】特開2002−37789号公報
【特許文献2】特開平5−168570号公報
【特許文献3】特開昭62−215100号公報
【特許文献4】特開昭59−230071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、食品、医薬品、飲料等の包装用に使用する着色紙、食品等の輸送時に緩衝材として使用する着色ペーパーモールドにおいて存在する上記課題を解決し、耐水性の高められた紙等の基材からの色流れや色移りを防止した着色紙および着色ペーパーモールドを提供することを目的としている。さらにこれらの着色紙、着色ペーパーモールドの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は、以下に記載する内容である。
【0007】
本発明の第1態様は、紙原料を鉄クロロフィリンNaを含有する色素組成液で着色し、紙原料表面または紙原料中に存在する鉄クロロフィリンNaを、カルシウムイオンを含有する色素定着剤で紙原料に定着させたことを特徴とする着色紙である。
【0008】
本発明の第2態様は、紙原料を鉄クロロフィリンNaを含有する色素組成液で着色し、紙原料表面または紙原料中に存在する鉄クロロフィリンNaを、カルシウムイオンを含有する色素定着剤で紙原料に定着させたことを特徴とする着色ペーパーモールドである。
【0009】
本発明の第3態様は、紙原料を鉄クロロフィリンNaを含有する色素組成液で着色し、紙原料表面または紙原料中に存在する鉄クロロフィリンNaを、カルシウムイオンを含有する色素定着剤で紙原料に定着させたことを特徴とする着色紙の製造方法である。
【0010】
本発明の第4態様は、紙原料を鉄クロロフィリンNaを含有する色素組成液で着色し、紙原料表面または紙原料中に存在する鉄クロロフィリンNaを、カルシウムイオンを含有する色素定着剤で紙原料に定着させたことを特徴とする着色ペーパーモールドの製造方法である。
【0011】
本発明の着色紙と着色ペーパーモールドおよびそれらの製造方法は、色素成分として食品添加物に指定されている鉄クロロフィリンNaに特定し、色素および水媒体を含む色素組成液のpH値は6以上に調整している。特に、色素組成液のpH値が4以下の酸性になると、末端カルボン酸塩がフリー化し水に不溶化したクロロフィリンに変化する。
【0012】
色素組成液のpH値6以上に調整すると黄緑色を呈し、この色素組成液は対象とする抄紙工程で生産した原紙を浸漬またはスプレー塗工後、着色紙を色素定着剤の塩化カルシウム水溶液等(約3〜5%)に浸漬し、取り出して乾燥することによりカルシウム塩にイオン交換した着色紙が得られる。この着色紙は、水で色流れや色移りすることはなく耐水性に優れている。
【発明の効果】
【0013】
従来、食品の包装材や緩衝材の着色料として工業用染料の塩基性染料等が主として使用されており、これらの染料で着色した包装紙や着色ペーパーモールドは、雨水等の水により染料成分の色流れや色移りが原因で接触していた食品が汚染するなどの問題が起こっていた。本発明によれば、色素成分である鉄クロロフィリンNaで着色し、さらに水に不溶化し定着化する技術により問題解決が可能となり、また安全性や環境の面においても改善することができる。
【0014】
また、鉄クロロフィリンNaは、日光に対して堅牢な化学構造を有するため耐光性にも優れている。この特性を生かし、末端カルボン酸カルシウム塩にイオン交換することで、紙類等のセルロースに対して安定した色素定着化能を有している。この特性は、着色ペーパーモールドの用途に関しても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】「実施例1(試験体1)〜比較例2(試験体3)について[色移り試験]を実施し、ろ紙への色素の移行状態を撮影した。」
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の色素組成液に用いる鉄クロロフィリンNaは、食品添加物リスト(指定添加物)に記載されており、鉄クロロフィリンが有するカルボキシル基の末端にNa塩を形成している色素である。
【0017】
前記色素の鉄クロロフィリンNaは、色素組成液中に0.1〜10質量%含有することが好ましい。より好ましい色素の含有量は、0.2〜5質量%である。色素の配合量を0.1質量%未満にすると、その配合効果(調色効果)を十分発揮することが困難になる虞がある。一方、10質量%を超えて配合してもそれ以上の配合効果は望めない。
【0018】
本発明の色素組成液の界面活性剤は必須成分ではないが、使用する場合は食品添加物または医薬品として使用され安全上問題ないものであれば良く、特に限定はしない。具体的な例として、ステアリルアルコール、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0019】
前記界面活性剤の量は、色素組成液中に0.01〜15質量%含まれることが好ましい。界面活性剤の配合量を0.01質量%未満にすると、その配合効果(分散効果)を十分発揮することが困難になる虞がある。一方、15質量%を超えて配合してもそれ以上の配合効果は望めない。好ましくは、0.05〜10質量%である。
【0020】
本発明においては、pHを調整するために必要によりpH調整剤を使用する。pH調整剤としては、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0021】
本発明においては、必要により保存剤を添加することができる。保存剤としては、安息香酸、安息香酸ナトリウム、エタノール、クエン酸、サリチル酸、サリチル酸ナトリウム、D−ソルビトール、ソルビン酸、パラオキシ安息香酸メチル等が挙げられる。
【0022】
これらの保存剤の使用量は色素組成液全量に対して、0.1〜5質量%の範囲が好ましい。使用量が0.1質量%未満では保存効果がなく、5質量%を超えて配合してもそれ以上の効果はない。
【0023】
本発明における色素組成液は、通常の製剤化の方法で製造することができる。例えば、鉄クロロフィリンNaおよび必要に応じて界面活性剤を水に溶解して混合し、他の副剤の保存剤等を添加し、pH調整剤でpH6以上に調製し色素組成液を製造する。
【0024】
また本発明における色素定着剤とは、カルシウムイオンを含む水に溶解可能な化合物塩であれば特に限定しない。具体的なカルシウム塩としては、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、乳酸カルシウム、シュウ酸カルシウム等が挙げられる。本発明の色素定着剤としては、着色紙等からの色流れや色移り防止に顕著に効果がある塩化カルシウムが特に好ましい。
【0025】
本発明の着色紙および着色ペーパーモールドは、次のようにして製造することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「%」はすべて「質量%」を示す。
【実施例1】
【0027】
鉄クロロフィリンナトリウム(タマ生化学製)1gを99gのイオン交換水に溶解し、1
質量%の色素水溶液を調製した。この色素水溶液をろ紙質量に対し、30倍質量にあたる
1.5gを量り採った。量り採った色素水溶液に0.05gのろ紙(ADVANTEC製)を
浸し、5分間放置した。着色したろ紙を取り出し、水分を除去するためキムワイプ(日本
製紙クレシア製)上で30秒間載せて脱水する。別に、塩化カルシウム3gを97gのイ
オン交換水に溶解し、3質量%の塩化カルシウム水溶液を調製しこれをろ紙質量の30倍
にあたる1.5gを量り採り、先の着色したろ紙を浸し、3分間放置した。浸したろ紙を
キムワイプ上で30秒間載せて脱水し、乾燥した。これを試験体1とし、以下の[滲み試
験]、[色移り試験]および[耐光性試験]を行った。
【実施例2】
【0028】
[滲み試験]
試験体1の上に、試験体から1cmの高さからパスツールピペットを用いイオン交換水を0.025g滴下した。そのまま10分間放置した後、試験体1に滴下した液滴の広がりからの滲み具合について測定した。
【実施例3】
【0029】
[色移り試験]
新しいろ紙の上に試験体1を載せ、パスツールピペットを用いイオン交換水を0.15gを試験体1に滴下した。10分間放置し、新しいろ紙を上から被せ一定の圧力を加え、被せた新しいろ紙にどの程度色素が移行しているか、下記の色差計にて測定した。なお、一定の圧力とは、0.12MPaである。
【実施例4】
【0030】
[耐光性試験]
試験体1を紫外線ロングライフフェードメーター(スガ試験機社製商品名;FAL−5H)により紫外線40時間照射した。つづいて、紫外線を照射した検体体と紫外線未照射の試験体を下記の色差計で測定し、試験体1の試験前後の色差(ΔE)を求めた。
【0031】
[色差測定法]
色差測定は、日本電色工業(株)製分光式色差計SE−2000を使用し、色移りした試験片とブランクである試験前の新しいろ紙との色差(ΔE)である。
【0032】
なお、色差ΔEが小さいほど色移りが少なく良好であることを示す。
【0033】
[比較例1]
鉄クロロフィリンナトリウム(タマ生化学製)1gを99gのイオン交換水に溶解し、1
質量%の色素水溶液を調製した。この色素水溶液をろ紙質量に対し、30倍質量にあたる
1.5gを量り採った。量り採った色素水溶液に0.05gのろ紙(ADVANTEC製)を浸し、5分間放置した。着色したろ紙を取り出し、キムワイプ上で30秒間載せて脱水し、乾燥した。
これを試験体2とし、実施例1と同様の方法で[滲み試験]、[色移り試験]および[耐光性試験]を行った。
【0034】
[比較例2]
鉄クロロフィリンナトリウム(タマ生化学製)1gを99gのイオン交換水に溶解し、1
質量%の色素水溶液を調製した。この色素水溶液をろ紙質量に対し、30倍質量にあたる
1.5gを量り採った。量り採った色素水溶液に0.05gのろ紙(ADVANTEC製)を
浸し、5分間放置した。着色したろ紙を取り出し、キムワイプで30秒間載せて脱水した。
別に、下記の方法で調製したpH3クエン酸緩衝液をろ紙質量の30倍にあたる1.5g
量り採り、先の着色したろ紙を浸し、3分間放置した。浸したろ紙をキムワイプ上に30
秒間載せて脱水し、乾燥した。
これを試験体3とし、実施例1と同様の方法で[滲み試験]、[色移り試験]および[耐光性試験]を行った。
【0035】
[pH3クエン酸緩衝液調製方法]
1液:クエン酸21gにイオン交換水を加えて溶解し、1000mlとする。
2液:リン酸二ナトリウム71.6gにイオン交換水を加えて溶解し、1000mlとする。
この1液(159容量)と2液(41容量)とを均一に混合し、クエン酸緩衝液(pH3)を調製する。
【0036】
[滲み試験]、[色移り試験]および[耐光性試験]の結果を表1に示す。また、色移り試験結果の写真[図1]を提示する。
【0037】
【表1】

【0038】
[表1]の試験結果より、実施例1のCaイオンによる定着化処理は、比較例1(定着化処理なし)および比較例2(酸処理による定着化)と比較して[色移り試験]および[耐光性試験]で優れた結果が得られている。特に[耐光性試験]では、酸処理による定着化技術[比較例2]と比較し、かなり良好な結果である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、食品添加物で安全性が高い色素の鉄クロロフィリンナトリウムを使用して紙類やペーパーモールド等を着色し定着化処理する技術は、従来の問題点である耐水性および耐光性を改善することで、紙等の基材からの色流れや色移りを防止し、問題点を解決することができた。
本発明の鉄クロロフィリンとCaイオンによる色素を不溶化し紙類等の基材に定着化する技術は、特別な設備を使用する必要がなく、設備投資を軽減できるので、他の分野にも利用できるものと考える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙原料を鉄クロロフィリンNaを含有する色素組成液で着色し、紙原料表面または紙原料中に存在する鉄クロロフィリンNaを、カルシウムイオンを含有する色素定着剤で紙原料に定着させたことを特徴とする着色紙。
【請求項2】
前記色素組成液が鉄クロロフィリンNaを0.1〜10質量%含有し、pH6以上に調整されていることを特徴とする請求項1記載の着色紙。
【請求項3】
紙原料を鉄クロロフィリンNaを含有する色素組成液で着色し、紙原料表面または紙原料中に存在する鉄クロロフィリンNaを、カルシウムイオンを含有する色素定着剤で紙原料に定着させたことを特徴とする着色ペーパーモールド。
【請求項4】
前記色素組成液が鉄クロロフィリンNaを0.1〜10質量%含有し、pH6以上に調整されていることを特徴とする請求項3記載の着色ペーパーモールド。
【請求項5】
紙原料を鉄クロロフィリンNaを含有する色素組成液で着色し、紙原料表面または紙原料中に存在する鉄クロロフィリンNaを、カルシウムイオンを含有する色素定着剤で紙原料に定着させたことを特徴とする着色紙の製造方法。
【請求項6】
紙原料を鉄クロロフィリンNaを含有する色素組成液で着色し、紙原料表面または紙原料中に存在する鉄クロロフィリンNaを、カルシウムイオンを含有する色素定着剤で紙原料に定着させたことを特徴とする着色ペーパーモールドの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−248655(P2010−248655A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98964(P2009−98964)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000005315)保土谷化学工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】