説明

着色結晶化ガラス物品の製造方法

【課題】ガラス小体を融着一体化させてなる着色結晶化物品であって、着色部分が均一に分散しており、かつ、着色部分と非着色部分の境界が明瞭である、意匠性に優れた着色結晶化ガラス物品を製造するための方法を提供する。
【解決手段】軟化点より高い温度で熱処理すると軟化変形しながら結晶を析出する性質を有する結晶性ガラス小体と、ガラス組成として着色成分を含有する着色結晶化ガラス小体と、を混合してガラス小体混合物を作製する工程、ガラス小体混合物を結晶性ガラス小体の軟化点以上の温度で熱処理をすることによって、結晶性ガラス小体から結晶を析出させるとともに、各ガラス小体を互いに融着一体化させる工程、を含むことを特徴とする着色結晶化ガラス物品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外装材や内装材として用いられる着色結晶化ガラス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の外装材や内装材として結晶化ガラス物品が広く用いられている。当該結晶化ガラス物品には、優れた耐候性や機械的強度のほかに、美しい外観が要求される。これらの諸条件を満足する結晶化ガラス物品として、着色した多数の結晶性ガラス小体を集積した後、熱処理することにより、結晶性ガラス小体から結晶を析出させるとともに、各結晶性ガラス小体を融着一体化させてなる着色結晶化ガラス物品が提案されている(特許文献1および2参照)。
【0003】
ところで、近年、建築物の多様化に伴い、建築物の外装や内装についても種々の外観が求められるようになってきている。そこで、原料である結晶性ガラス小体の表面に無機顔料を付着させた後に、これを集積して熱処理し、結晶性ガラス小体から結晶を析出させるとともに、各結晶性ガラス小体を融着一体化させる方法が提案されている(特許文献3および4参照)。この方法によれば、着色部分が散在した斑模様や網目模様を呈する結晶化ガラス物品を得ることができる。また、無機顔料の種類を適宜選択することによって、結晶化ガラス物品に対して多彩な着色を付与することが可能となる。
【0004】
そのほかにも、無色の結晶性ガラス小体と着色した結晶性ガラス小体の混合物を集積し、熱処理することにより、各結晶性ガラス小体から結晶を析出させるとともに、融着一体化させることにより、部分的に着色部分を現出させた斑模様を呈する着色結晶化ガラス物品を得る方法も提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−146439号公報
【特許文献2】特開平6−56471号公報
【特許文献3】特開平8−104530号公報
【特許文献4】特開平8−175830号公報
【特許文献5】特開2009−18986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3および4に記載の方法では、特に結晶性ガラス小体が大きい場合には、無機顔料の分散状態が低下し、結晶性ガラス小体の軟化流動が阻害される部分と軟化流動が過剰で発泡する部分の両方が発生しやすくなる。その結果、得られた着色結晶化ガラス物品は意匠性や機械的強度に劣る傾向がある。
【0007】
また、特許文献5に記載の方法では、無色結晶性ガラス小体と着色結晶性ガラス小体が、いずれも比較的大きく軟化流動するため、得られた着色結晶化ガラス物品は、着色部分と非着色部分の境界がぼやけてしまい、意匠性に劣る傾向がある。
【0008】
以上に鑑み、本発明は、ガラス小体を融着一体化させてなる着色結晶化物品であって、着色部分が均一に分散しており、かつ、着色部分と非着色部分の境界が明瞭である、意匠性に優れた着色結晶化ガラス物品を製造するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、軟化点より高い温度で熱処理すると軟化変形しながら結晶を析出する性質を有する結晶性ガラス小体と、ガラス組成として着色成分を含有する着色結晶化ガラス小体と、を混合してガラス小体混合物を作製する工程、ガラス小体混合物を結晶性ガラス小体の軟化点以上の温度で熱処理をすることによって、結晶性ガラス小体から結晶を析出させるとともに、各ガラス小体を互いに融着一体化させる工程、を含むことを特徴とする着色結晶化ガラス物品の製造方法に関する。
【0010】
本発明の着色結晶化ガラス物品の製造方法では、原料として、ガラス組成として着色成分を含有する着色結晶化ガラス小体を使用することを特徴としている。当該着色結晶化ガラス小体は、最終製品である着色結晶化ガラス物品において、着色部分を現出させる役割を果たす。結晶化ガラス小体は、結晶性ガラス小体と異なり、熱処理時の軟化流動が小さいため、得られる着色結晶化ガラス物品において、着色部分と非着色部分の境界が明瞭となり、意匠性に優れるという効果を奏する。
【0011】
なお、無機顔料粉末を用いて着色部分を現出させる従来の方法では、製造工程にて無機顔料粉末とガラス小体を均一に混合することが困難なことから、着色部分が均一分散した着色結晶化ガラス物品を得ることは困難であった。一方、本発明の方法では、ガラス組成として着色成分を含有する着色結晶化ガラス小体を使用することにより着色部分を現出させるため、結晶性ガラス小体と着色結晶化ガラス小体の粒度を適宜調整する(例えば両者の粒度を略同一にする)ことにより、両者を均一に分散させやすくなる。それにより、着色部分が均一に分散した着色結晶化ガラス物品を容易に作製することが可能となる。
【0012】
なお、本発明でいうガラス小体とは、ガラスの水砕物、粉体、粒体、小球、小破片、棒状物等を意味する。
【0013】
第二に、本発明の着色結晶化ガラス物品の製造方法は、着色成分が遷移金属酸化物であることが好ましい。
【0014】
第三に、本発明は、前記いずれかの方法により製造されてなることを特徴とする着色結晶化ガラス物品に関する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の着色結晶化ガラス物品の製造方法を、各工程ごとに詳細に説明する。
【0016】
結晶性ガラス小体としては、結晶化後に外装材や内装材として要求される諸特性(機械的強度、耐候性等)を満足するものであればどのような組成系のものでも使用できる。例えば、主結晶としてβ−ウォラストナイト(β−CaO・SiO)、ディオプサイト(CaO・MgO・2SiO)等の結晶を析出する結晶性ガラス小体が挙げられる。
【0017】
結晶性ガラス小体の組成の具体例としては、質量%で、SiO 45〜75%、Al 1〜25%、CaO 2〜25%、ZnO 0〜18%、BaO 0〜20%、MgO 0〜20%、SrO 0〜1.5%、NaO 1〜25%、K2O 0〜7%、LiO 0〜5%、B 0〜1.5%、CeO 0〜0.5%、SO 0〜0.5、As 0〜1%、Sb 0〜1%を含有し、主結晶としてβ−ウォラストナイトまたはディオプサイトを析出する性質を有するものが挙げられる。なお、さらに後述する着色成分を0〜3%、0.01〜3%、特に0.02〜1%含有していても構わない。
【0018】
結晶性ガラス小体は、建材として十分な機械的強度を得るため、軟化点以上での熱処理により結晶化度が5質量%以上となることが好ましい。
【0019】
着色結晶化ガラス小体は、ガラス組成として着色成分を含有してなるものである。着色成分としては、Co、CoO、NiO、MnO、Fe、Cr、V等の遷移金属酸化物等が挙げられる。
【0020】
以下に、着色結晶化ガラス小体の製造方法の具体例について説明する。
【0021】
着色結晶化ガラス小体は、例えば、まず組成中に着色成分を含有するバルク状の結晶性ガラスを溶融法等により作製し、当該バルク状結晶性ガラスを熱処理により結晶化させて得られた着色結晶化ガラスを、ロールクラッシャー等の粉砕装置を用いて粉砕した後、必要に応じて篩等を用いて分級することにより作製することができる。また、バルク状の着色結晶性ガラスを粉砕して着色結晶性ガラス小体を得た後、当該着色結晶性ガラス小体を熱処理により結晶化させても構わない。この際、着色結晶化ガラス(または着色結晶性ガラス)の組成中における着色成分の含有量は、質量%で、0.01〜3%、特に0.02〜1%であることが好ましい。着色成分の含有量が少なすぎると、着色が不十分となり、所望の外観を有する着色結晶化ガラス物品が得られにくくなる。一方、着色成分の含有量が多すぎると、その他の成分の含有量が相対的に低減して、各物性に影響を与える恐れがある。
【0022】
着色結晶化ガラス小体の組成は、最終製品である着色結晶化ガラス物品の機械的強度や生産効率を考慮して、着色成分含有量の相違を除き、結晶性ガラス小体と同等であることが好ましいが、この限りではない。例えば、粘性、結晶化度、熱膨張係数が同等であれば、結晶性ガラス小体と組成が大きく異なっていても使用可能である。
【0023】
結晶性ガラス小体および着色結晶化ガラス小体の粒度は5mm以下、特に4mm以下であることが好ましい。各ガラス小体の粒度が大きすぎると、熱処理による融着が不十分になり、機械的強度に劣る傾向がある。なお、各ガラス小体の分散性を向上させる観点から、両者の粒度はなるべく同等であることが好ましい。
【0024】
結晶性ガラス小体と、着色結晶化ガラス小体を混合する方法としては、これらを適当量秤量し、しばらく乾式混合した後、水または水溶性有機バインダーを添加し、湿式混合する方法が好ましい。これにより、各ガラス小体を均一に混合することが可能となる。
【0025】
水または水溶性有機バインダーの添加量は、結晶性ガラス小体および着色結晶化ガラス小体の合量100重量部に対して0.1〜5重量部程度であることが好ましい。水または水溶性有機バインダーの添加量が少なすぎると、各ガラス小体を均一に混合することが困難になる傾向がある。一方、水または水溶性有機バインダーの添加量が多すぎると、各ガラス小体に含まれる微粉が凝集しやすくなり、得られる着色結晶化ガラス物品に色むらが生じやすくなる。
【0026】
結晶性ガラス小体と着色結晶化ガラス小体の配合比は、目的とする着色結晶化ガラス物品の模様に応じて適宜調整すればよい。例えば、結晶性ガラス小体と着色結晶化ガラス小体の配合比は、質量比で、95:5〜30:70、90:10〜40:60、特に80:20〜50:50であることが好ましい。結晶性ガラス小体の含有量が多すぎると、所望の意匠性を有する着色結晶化ガラス物品が得られにくくなる。一方、結晶性ガラス小体の含有量が少なすぎると、各ガラス小体の融着が不十分となり、得られる着色結晶化ガラス物品の機械的強度に劣る傾向がある。
【0027】
次に、得られたガラス小体混合物を耐火物製の型枠内に集積し、熱処理を行う。これにより、まず結晶性ガラス小体が軟化変形して着色結晶化ガラス小体に融着し、また結晶性ガラス小体どうしも融着する。続いて、着色結晶化ガラス小体もわずかながら軟化変形し、着色結晶化ガラス小体どうしも融着一体化する。同時に、結晶性ガラス小体の表面から内部に向って針状の結晶が析出する。また、着色結晶化ガラス小体は結晶相を維持しながら平滑になる。このようにして、着色部分と非着色部分が均一に混在し、かつ、着色部分と非着色部分の境界が明瞭である、意匠性に優れた着色結晶化ガラス物品を得ることができる。
【0028】
なお、焼成温度は、結晶性ガラス小体の軟化点以上、特に粘度が104.5〜105.5ポイズ(104.5〜105.5dPa・s)を示す温度域であることが好ましい。具体的には、ガラス組成にもよるが、焼成温度は1000℃以上、特に1100℃以上であることが好ましい。焼成温度が低すぎると、着色結晶化ガラス物品の表面平滑性が低下して、機能性および意匠性に劣る傾向がある。一方、焼成炉への負担や燃料コストを考慮すると、焼成温度は1200℃以下であることが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の着色結晶化ガラス物品の製造方法を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
(1)結晶性ガラス小体の作製
質量%で、SiO 61% Al 6.4% CaO 16% ZnO 6% BaO 4.5% B 0.3% NaO 3.3% KO 1.9% LiO 0.5% Sb 0.1%のガラス組成になるように調合した原料粉末を、1500℃で12時間溶融した。次いで、溶融ガラスを水中に投入して水砕した後、耐火物製のロールクラッシャーにて水砕物を粉砕し、さらに粉砕物を分級して粒度0.5〜4mmの結晶性ガラス小体を得た。
【0031】
(2)着色結晶化ガラス小体の作製
質量%で、SiO 60.96% Al 6.4% CaO 16% ZnO 6% BaO 4.5% B 0.3% NaO 3.3% KO 1.9% LiO 0.5% Sb 0.1%、Co 0.01%、NiO 0.03%のガラス組成になるように調合した原料粉末を、上記と同様の条件で溶融を行った後、板状に成形し、着色結晶性ガラス板を得た。着色結晶性ガラス板を1100℃で60分間熱処理することにより結晶化させた後、ロールクラッシャーにて粉砕したのち分級して、粒度0.5〜4mmの着色結晶化ガラス小体を得た。
【0032】
(3)着色結晶化ガラス物品の作製
結晶性ガラス小体および着色結晶化ガラス小体を重量比で60:40となるように秤量し、ミキサーにて乾式混合した後、2重量部の5%ポリビニルアルコール水溶液を添加して、さらに攪拌混合した。得られた混合物をムライト製の型枠内に集積して、昇温過程を経て1100℃で1時間保持後、室温まで徐冷することにより、着色結晶化ガラス物品を得た。得られた着色結晶化ガラス物品は、白色の非着色部分と淡灰色の着色部分が均一に分散した模様を呈していた。また、着色部分と非着色部分の境界が明瞭であった。
【0033】
(比較例1)
実施例1の着色結晶化ガラス小体の作製工程において、着色結晶性ガラス板に熱処理を施さずに粉砕および分級を行うことにより、着色結晶性ガラス小体を得た。得られた着色結晶性ガラス小体と実施例1で得られた結晶性ガラス小体を用いて、実施例1と同様の方法により着色結晶化ガラス物品を得た。
【0034】
このようにして得られた結晶化ガラス物品は、白色の非着色部分と着色部分が均一に分散しているが、着色部分と非着色部分との境界がぼやけており、意匠性に乏しかった。
【0035】
(比較例2)
実施例1で作製した結晶性ガラスを、粒度0.5〜2mmとなるように粉砕および分級して得られた結晶性ガラス小体100質量部に対し、Fe−Cr−Ni−Mnスピネル無機顔料1質量部を混合した。当該混合物を用いて、実施例1と同様の条件で焼成し、着色結晶化ガラス物品を得た。
【0036】
このようにして得られた結晶化ガラス物品は、無機顔料が部分的に凝集しているため、着色部分が不均一であり、意匠性に乏しかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化点より高い温度で熱処理すると軟化変形しながら結晶を析出する性質を有する結晶性ガラス小体と、ガラス組成として着色成分を含有する着色結晶化ガラス小体と、を混合してガラス小体混合物を作製する工程、
ガラス小体混合物を結晶性ガラス小体の軟化点以上の温度で熱処理をすることによって、結晶性ガラス小体から結晶を析出させるとともに、各ガラス小体を互いに融着一体化させる工程、
を含むことを特徴とする着色結晶化ガラス物品の製造方法。
【請求項2】
着色成分が遷移金属酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の着色結晶化ガラス物品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法により製造されてなることを特徴とする着色結晶化ガラス物品。

【公開番号】特開2013−107800(P2013−107800A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254504(P2011−254504)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】