説明

着色防水用ポリマーセメント組成物

【課題】 各種建築物の防水仕上げに適用可能な、乾燥後の塗膜にタック(べたつき感)がなく、耐水性、着色性、速乾性、−10℃の温度条件における下地ひび割れ追従性に優れた着色防水用ポリマーセメント組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、樹脂エマルジョンとを含む着色防水用ポリマーセメント組成物であって、水硬性成分100質量部に対して、樹脂エマルジョンの固形分が215〜380質量部であり、樹脂エマルジョンは、ガラス転移温度が−40〜−5℃であることを特徴とする着色防水用ポリマーセメント組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性成分と樹脂エマルジョンとを含み、乾燥後の塗膜にタック(べたつき感)がなく、耐水性、着色性、速乾性、−10℃の温度条件における下地ひび割れ追従性に優れる着色防水用ポリマーセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の屋上、地下、ベランダ、開放廊下や外壁などに防水性を付与する場合、樹脂エマルジョンなどにセメントを配合したポリマーセメントが施工され、さらに、意匠性や耐久性を付与するため、防水層の表面に樹脂エマルジョンに顔料などを配合した着色塗料が施工される。
【0003】
ポリマーセメント系複合材としては、特許文献1に、無水セッコウ/アルミナセメントの重量比が0.1〜5の無水セッコウとアルミナセメントからなる急硬材、ホワイトセメント、及び急硬材とホワイトセメントの合計100重量部に対して、ポリマー混和材5〜200重量部を主成分とし、施工時の可使時間、硬化性及び強度発現性に優れ、色むらや白華が無く、基材が急硬白色セメントであるため顔料を配合するようなカラーモルタル、特にポリマーセメントモルタルに適した、ポリマーセメント系複合材が開示されている。
【0004】
また、特許文献2に、アクリル酸エステル系樹脂の平均粒径Dxと、アルミナセメントの平均粒径Dyとが、関係式:Dx≦0.1×Dyを満たす、アクリル酸エステル系樹脂のエマルション及びアルミナセメントからなる、白華現象を防止することが可能なポリマーセメント系複合材が開示されている。
【0005】
特許文献3には、セメント、細骨材、樹脂成分、および顔料成分からなり、前記樹脂成分として、アクリル樹脂エマルジョンを弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物全量に対して固形分で20〜40重量%となるよう含有し、また、前記顔料成分として粉末状無機顔料および/または液体無機顔料を含有することを特長とする弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物が開示されている。
【0006】
特許文献4には、セメント、細骨材及び水分散性合成樹脂を主として含む布基礎用ポリマーセメントモルタル組成物であって、前記布基礎用ポリマーセメントモルタル組成物全量に対して前記水分散性合成樹脂が10〜60重量%含有されてなる布基礎用ポリマーセメントモルタル組成物、及び前記布基礎用ポリマーセメントモルタル組成物を塗り付け乾燥後に主としてシリコーン変性アクリル樹脂及びアクリル樹脂を含む塗料を塗工する布基礎表面仕上げ工法について開示されている。
【0007】
【特許文献1】特許第2672027号公報
【特許文献2】特開2007−230805公報
【特許文献3】特開2008−37717公報
【特許文献4】特開2004−225375公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
セメントとエマルジョンとを配合したポリマーセメントは、建造物などの防水材、仕上げ材、下地調整材として用いられている。
コンクリート構造物の屋上、地下、ベランダ、開放廊下や外壁などにポリマーセメントを用いた防水層を設ける場合には、施工性、接着性、不透水性、耐水性及び下地ひび割れ追従性などに優れた特性が要求され、特に防水性能の面からコンクリートのひび割れに追従できる下地ひび割れ追従性は重要な特性であると考えられる。
また、防水層を形成する工事では、突然の天候の変化による降雨などの影響をできるだけ受け難いことが望まれ、簡便で且つ速やかな施工が可能な施工方法や、その施工方法に適した使用材料への要求が高まっている。
本発明は、各種建築物の防水仕上げに適用可能な、乾燥後の塗膜にタック(べたつき感)がなく、耐水性、着色性、速乾性、−10℃の温度条件における下地ひび割れ追従性に優れた着色防水用ポリマーセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題に対して鋭意研究に取組み、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、樹脂エマルジョンとを配合した着色防水用ポリマーセメント組成物を用いることによって、優れた速乾性と着色性と、さらに良好な施工作業性とを有し、前記の着色防水用ポリマーセメント組成物を塗布して乾燥させた着色防水用ポリマーセメント組成物塗膜が、タック(べたつき感)を有さず、且つ、−10℃の温度条件において良好な下地ひび割れ追従性を有し、優れた耐水性を有することを見出して本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明の第一は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、樹脂エマルジョンとを含む着色防水用ポリマーセメント組成物であって、水硬性成分100質量部に対して、樹脂エマルジョンの固形分が215〜380質量部であり、樹脂エマルジョンは、ガラス転移温度が−40〜−5℃であることを特徴とする着色防水用ポリマーセメント組成物である。
本発明の第二は、本発明の着色防水用ポリマーセメント組成物を塗布して硬化させて得られる、着色防水用ポリマーセメント組成物塗膜を表層に有する構造体である。
【0011】
以下に本発明の着色防水用ポリマーセメント組成物の好ましい様態を示し、本発明ではこれらを複数組合せることができる。
1)着色防水用ポリマーセメント組成物を塗布して乾燥させた着色防水用ポリマーセメント組成物塗膜はタックを有さず、且つ、着色防水用ポリマーセメント組成物を1kg/m塗布して乾燥させた着色防水用ポリマーセメント組成物塗膜は、−10℃の温度条件において0.95mm〜5.0mmの下地ひび割れ追従性を有すること。
2)樹脂エマルジョンは、アクリル共重合体エマルジョンを含むこと。
3)アルミナセメントは、白色アルミナセメントであること。
4)ポルトランドセメントは、白色ポルトランドセメントであること。
5)着色防水用ポリマーセメント組成物は、珪砂、顔料及び凝結遅延剤を含むこと。
6)着色防水用ポリマーセメント組成物は、さらに凝結促進剤を含むこと。
【発明の効果】
【0012】
本発明の着色防水用ポリマーセメント組成物は、乾燥後の塗膜にタック(べたつき感)がなく、耐水性、着色性、速乾性、−10℃の温度条件における下地ひび割れ追従性に優れ、仕上げ材と防水材を兼ね備えたポリマーセメント組成物である。
本発明の着色防水用ポリマーセメント組成物を用いることにより、美観、防水性および耐久性を兼ね備えた防水塗膜を、少ない工程数で迅速に形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、樹脂エマルジョンとを含む着色防水用ポリマーセメント組成物であって、水硬性成分100質量部に対して、樹脂エマルジョンの固形分が215〜380質量部であることを特徴とする着色防水用ポリマーセメント組成物である。
【0014】
本発明の着色防水用ポリマーセメント組成物の好ましい態様を以下に示す。
【0015】
本発明の着色防水用ポリマーセメント組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、樹脂エマルジョンとを含むものである。
【0016】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができるが、着色性の面から白色アルミナセメントが好ましい。
アルミナセメントは、本発明に支障のない粒径を有するものを使用すればよく、市販されているものを使用でき、例えば粒子径が1μm〜90μm程度のものを主成分として用いることが好ましい。
【0017】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメントなどを用いるができるが、着色性の面から白色ポルトランドセメントが好ましい。
ポルトランドセメントは、本発明に支障のない粒径を有するものを使用すればよく、市販されているものを使用でき、例えば粒子径が1μm〜45μm程度のものを主成分として用いることが好ましい。
【0018】
石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の各石膏がその種類を問わず、1種又は2種以上の混合物として使用できる。
石膏は、ポリマーセメント組成物と水とを混練して得られるスラリーが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
石膏は、本発明に支障のない粒径を有するものを使用すればよく、市販されているものを使用でき、例えば粒子径が1μm〜100μm程度のものを主成分として用いることが好ましい。
【0019】
水硬性成分(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計=100質量%)は、
好ましくはアルミナセメント5〜90質量%、ポルトランドセメント5〜90質量%及び石膏5〜50質量%からなる組成、
さらに好ましくはアルミナセメント10〜80質量%、ポルトランドセメント10〜85質量%及び石膏6〜45質量%からなる組成、
より好ましくはアルミナセメント15〜70質量%、ポルトランドセメント15〜70質量%及び石膏8〜35質量%、
特に好ましくはアルミナセメント35〜50質量%、ポルトランドセメント30〜55質量%及び石膏10〜25質量%からなる組成
を用いることにより、良好な速硬性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少ない硬化体を得られやすいために好ましい。
【0020】
樹脂エマルジョンとしては、公知の樹脂エマルジョンを用いることができる。
樹脂エマルジョンとしては、合成樹脂エマルジョンを用いることができ、合成樹脂エマルジョンとしては、ポリ酢酸ビニルエマルジョン、エチレンと酢酸ビニルの共重合体エマルジョン、エチレン、酢酸ビニルと(メタ)クリル酸誘導体の共重合体エマルジョン、エチレンと(メタ)クリル酸誘導体との共重合体エマルジョン、ポリ(メタ)クリル酸誘導体のエマルジョン、スチレンと(メタ)クリル酸誘導体との共重合体エマルジョン、ポリクロロプレンラテックス、酢酸ビニルと塩化ビニルの共重合体エマルジョン、スチレンとブタジエンの共重合体エマルジョン、アクリロニトリとブタジエンの共重合体エマルジョン、酢酸ビニルと(メタ)クリル酸誘導体のエマルジョンなどのエチレン、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)クリル酸誘導体などを少なくとも1種含む合成樹脂のエマルジョンを用いることができる。(メタ)クリル酸誘導体は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸、これらのエステルなどの酸誘導体を意味し、少なくともこれらの成分を1種以上含むものである。
【0021】
樹脂エマルジョンに含まれるポリマー成分のガラス転移温度は、特に限定されるものではなく、どのようなものでも用いることができるが、好ましくは−40℃〜−5℃、さらに好ましくは−35℃〜−10℃、特に好ましくは−25℃〜−15℃の範囲の樹脂エマルジョンを好適に用いることができる。
【0022】
ポリマーセメント組成物において、水硬性成分と樹脂エマルジョンの固形分との含有量は、目的に応じて適宜選択できるが、樹脂エマルジョンの固形分は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは215〜380質量部、さらに好ましくは220〜350質量部、特に好ましくは225〜320質量部の範囲であることにより、乾燥後の塗膜にタック(べたつき感)がなく、速乾性、−10℃の温度条件における下地ひび割れ追従性に優れるポリマーセメント組成物の塗膜が、安定して得られることから好ましい。
【0023】
本発明の着色防水用ポリマーセメント組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、樹脂エマルジョンとを含み、さらに細骨材、凝結調整剤(凝結促進剤、凝結遅延剤)および顔料を含むことが好ましい。
【0024】
細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類などを適宜選択して用いることができる。
【0025】
細骨材としては、粒径1mm以下の骨材、好ましくは粒径0.032〜0.6mmの骨材、さらに好ましくは粒径0.054〜0.425mmの骨材、特に好ましくは0.054〜0.3mmの骨材を主成分としている。
細骨材の粒径は、JIS Z 8801で規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定する。
【0026】
凝結調整剤は、水硬性成分の特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結促進剤及び凝結遅延剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、ポリマーセメント組成物の可使時間を調整することができるため好ましい。
【0027】
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることができ、例えば、凝結促進の性質を有するリチウム塩を好適に用いることができる。
凝結促進剤の配合量は、水硬性成分100質量部に対して0.002〜1.5質量部、さらに0.005〜1質量部、特に0.01〜0.5質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0028】
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸などの、無機リチウム塩や有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることができる。特に炭酸リチウムは、効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0029】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることができる。凝結遅延剤の一例として、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム類(L−酒石酸ナトリウム、DL−酒石酸ナトリウム、酒石酸水素ナトリウムなど)、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなどの有機酸など、無機ナトリウム塩や有機ナトリウム塩などのナトリウム塩、オキシカルボン酸類などを、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることができる。
【0030】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。
オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。
オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを挙げることができる。
特に重炭酸ナトリウムやL−酒石酸ナトリウムは、凝結遅延効果、入手容易性、価格の面から好ましく、さらに、これらを併用して用いることがより好ましい。
【0031】
凝結遅延剤は、1種または2種類以上を用いる場合、それぞれの凝結遅延剤の添加量が水硬性成分100質量部に対して、0.01〜5質量部、さらに0.05〜4質量部、特に0.1〜3質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0032】
顔料としては、白色顔料、有彩色顔料及び黒色顔料などを用いることができ、これらは二種類以上を併用して使用することができる。顔料を用いることにより、ポリマーセメント組成物に着色でき、美観に優れた着色ポリマーセメント組成物塗膜を形成できる。
【0033】
白色顔料としては、二酸化チタン(酸化チタン)、鉛白、酸化亜鉛などを挙げることができ、これらは二種類以上を併用して使用することができる。
【0034】
有彩色顔料は、公知のものが制限なく使用でき、例えば金属の酸化物、水酸化物、硫化物、クロム酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩などの無機顔料;アゾ系、ジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、フタロシアニン系、ニトロ系、ニトロソ系、アントラキノン系、キナクリドンレッド系、ベンジジン系、縮合多環系等の有機顔料などを挙げることができる。また、着色繊維や光沢を有する金属粒子などであってもよい。有彩色顔料の色相については特に制限がなく、黄、青、赤、緑などのいずれのものでも使用することができる。これらの顔料は二種類以上を併用することができる。
【0035】
本発明で用いることのできる有彩色顔料の具体例としては、弁柄、群青、コバルトブルー、チタンイエロー、紺青、硫化亜鉛、バリウム黄、コバルト青、コバルト緑などの無機顔料;キナクリドンレッド、ポリアゾイエロー、アンスラキノンレッド、アンスラキノンイエロー、ポリアゾレッド、アゾレーキイエロー、ベリレン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、イソインドリノンイエロー、ウォッチングレッド、パーマネントレッド、パラレッド、トルイジンマルーン、ベンジジンイエロー、ファーストスカイブルー、ブリリアントカーミン6B等の有機顔料、着色繊維、光沢を有する金属粒子などが挙げられ、これらの顔料は二種類以上を併用して使用することができる。
【0036】
黒色顔料としては、カーボンブラック、鉄黒などをあげることができる。黒色顔料は二種類以上を併用して使用することができる。
【0037】
白色顔料、有彩色顔料及び黒色顔料などを併用して用いることにより、無彩色で環境調和性が高い着色ポリマーセメント組成物塗膜を形成でき、景観への配慮が強く求められる施工場所などに好適に用いることができる。
【0038】
本発明のポリマーセメント組成物は、本発明の特性を損なわない範囲で添加剤を含むことができる。
添加剤としては、一般的に用いられる消泡剤、増粘剤、減水剤又は流動化剤などを挙げることができる。
【0039】
消泡剤は、シリコーン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることができる。消泡剤を用いることにより、着色ポリマーセメント組成物塗膜に含まれる気泡量を所定量以下に制御することが容易になる。
【0040】
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.02〜0.5質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、消泡効果が適正であるために好ましい。
【0041】
増粘剤は、着色ポリマーセメント組成物の粘性を調整する効果を有し、特に着色ポリマーセメント組成物に良好なコテ塗り作業性を付与する効果を有している。
【0042】
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含み、ヒドロキシエチルメチルセルロースを除く他のセルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などを単独または併用して用いることができる。
増粘剤は、ポリエーテル系、ウレタン系、アクリル系などの水溶性ポリマー系、セルロース系、蛋白質系、などの増粘剤を用いることができ、特に水溶性ポリウレタン系などの水溶性ポリマー系の増粘剤を好ましく用いることができる。
【0043】
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部中に、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1質量部、より好ましくは0.01〜0.8質量部、特に0.03〜0.6質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が前記の範囲より多くなると、流動性の低下を招く恐れがあり、また前記の範囲より少ない場合には過度な流動性のためにダレが生じ易くなることから、前記の好適な範囲で用いることが好ましい。
【0044】
増粘剤及び消泡剤を併用して用いることにより、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制およびポリマーセメント組成物の塗膜表面の改善に好ましい効果を与え、ポリマーセメント組成物の塗膜の特性を向上させるために好ましい。
【0045】
ポリマーセメント組成物を構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、樹脂エマルジョン、珪砂などの細骨材、顔料及び凝結調整剤を含むものである。
【0046】
本発明のポリマーセメント組成物は、攪拌容器に樹脂エマルジョンを所定量計量し、攪拌機でエマルジョンを攪拌しながら所定量の水硬性成分、細骨材、顔料、凝結調整剤、必要に応じて配合する消泡剤、増粘剤などを添加し、数分間攪拌・混合して調製することができる。
水硬性成分、細骨材、顔料、凝結調整剤、必要に応じて配合する消泡剤、増粘剤などは、単独で添加しても良いし、予め他の数種と混合したものを添加しても良く、添加順序は特に選ばない。また、攪拌機は、一般的な固液攪拌機など撹拌機能を有するものを問題なく用いることができる。
【0047】
本発明のポリマーセメント組成物は、樹脂エマルジョン、水硬性成分、細骨材、顔料及び凝結調整剤と、必要に応じて配合する消泡剤、増粘剤などを攪拌・混合して調製するが、その際に材料分離及び塗膜物性低下の面から水の添加を行わないことが好ましい。
【0048】
また、本発明のポリマーセメント組成物は、樹脂エマルジョン、水硬性成分、細骨材、顔料及び凝結調整剤と、必要に応じて配合する消泡剤、増粘剤などを攪拌・混合して調製するが、流動化剤あるいは減水剤を用いた場合、微量の添加によってポリマーセメント組成物の流動性が大きくなり、ダレ性の制御を難しくすることから本発明では流動化剤あるいは減水剤を使用しないことが好ましい。
【0049】
本発明では、水硬性成分、樹脂エマルジョン、珪砂などの細骨材、顔料及び凝結調整剤などを攪拌・混合して調製したポリマーセメント組成物のスラリーは、B型粘度計(東機産業社製)及びローターNo.4を用い、6rpmに設定して測定した粘度が、好ましくは30000〜80000mPa・sの範囲、さらに好ましくは40000〜70000mPa・sの範囲、特に好ましくは45000〜65000mPa・sの範囲であることが好ましく、12rpmに設定して測定した粘度が、好ましくは15000〜45000mPa・sの範囲、さらに好ましくは20000〜40000mPa・sの範囲、特に好ましくは25000〜36000mPa・sの範囲であることが、良好なコテ塗り作業性を有し、塗布した塗膜が良好な保形性を有することから好ましい。
TI値は、上記で得られる6rpmの粘度の値を、12rpmの粘度の値で除して算出して得られる値とする。
また、ポリマーセメント組成物のスラリーのTI値(6rpmの粘度の値/12rpmの粘度の値)は、好ましくは1.50〜2.00の範囲、さらに好ましくは1.60〜1.90の範囲、特に好ましくは1.65〜1.80の範囲であることが、安定したコテ塗り作業性が得られることから好ましい。
【0050】
本発明のポリマーセメント組成物は、ローラー、コテ、刷毛及びスプレーなどを用いる一般的方法で被施工物表面に塗布して使用され、塗布した塗膜が乾燥することによってポリマーセメント組成物の塗膜を形成できる。塗布膜の乾燥後に更に同じ操作を繰り返し、複数層の塗布膜を形成させることが好ましい。また、建築物の屋上や構造物の壁などの施工で、ポリマーセメント組成物の塗膜間に、不織布や織布などのメッシュを挟んだ構造とする場合には、乾燥後のポリマーセメント組成物の塗膜の上にメッシュを置き、メッシュの上からさらにポリマーセメント組成物を塗布してメッシュを固定する工程を加える工法が採用でき、優れた防水性能と強靭な塗膜層が得られることから好ましいい。
【0051】
本発明のポリマーセメント組成物は、ローラー、コテ、刷毛及びスプレーなどを用いる被施工物表面に塗布してから乾燥した塗膜が得られるまでの乾燥時間が、好ましくは1〜5時間の範囲、さらに好ましくは1.5〜4時間の範囲、特に好ましくは2〜3.5時間の範囲であることが、良好な作業時間を確保しつつ、塗布施工後は速やかに乾燥して次工程に移れることから好適である。
【0052】
また、本発明のポリマーセメント組成物を、ローラー、コテ、刷毛及びスプレーなどを用いて被施工物表面に1kg/m塗布・乾燥して形成したポリマーセメント組成物塗膜は、−10℃の温度条件において、好ましくは0.95〜5mmの範囲、さらに好ましくは0.98〜3mmの範囲、特に好ましくは1〜2mmの範囲の下地ひび割れ追従性を有することが、長期に渡って供用される建築物や構造物に高耐久な防水性を付与できることから好ましい。なお、下地ひび割れ追従性は、試験体Aを所定の温度条件で、精密万能材料試験機を用い、引張速度5mm/分の条件で伸びの測定を行い、目視観察で試験体Aに亀裂などの欠陥が生じる時の伸びを測定し、その伸びを下地ひび割れ追従性とする。
【0053】
本発明のポリマーセメント組成物を用いて形成したポリマーセメント組成物塗膜は、タック(べたつき感)を有しておらず、ポリマーセメント組成物塗膜の上にさらにトップコートなどの仕上げ材を施工する必要がない。したがって、本発明のポリマーセメント組成物を用いることにより、少ない工程数で迅速に、美観、防水性および耐久性を兼ね備えたポリマーセメント組成物塗膜を形成することができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0055】
(評価および測定方法)
1)乾燥時間の評価方法
23℃±2℃の温度条件で5mm厚スレート板(50×150mm)に、予めプライマー(各実施例及び比較例と同じ樹脂エマルジョンを用い、樹脂エマルジョンに水を添加し3倍に希釈した液)を0.2kg/mの量で塗布した。このスレート板のプライマー塗布面に、水硬性成分と各種樹脂エマルジョンとを混合・攪拌して調製したポリマーセメント組成物を1kg/mの量でコテにて塗布した。塗布後、塗布した表面を指で触ってポリマーセメント組成物が指に付かなくなったり、塗り重ねができる状態までを乾燥時間とした。
【0056】
2)下地ひび割れ追従性の評価方法(−10℃ゼロスパンの評価方法)
中央に切り込みを入れた5mm厚スレート板(50×150mm)に、予めプライマー(各実施例及び比較例と同じ樹脂エマルジョンを用い、樹脂エマルジョンに水を添加し3倍に希釈した液)を0.2kg/mの量で塗布した。このスレート板のプライマー塗布面に、水硬性成分と各種樹脂エマルジョンとを混合・攪拌して調製したポリマーセメント組成物を1kg/mの量でコテにて塗布した。塗布後、23±2℃の温度条件で14日間養生し、試験体Aを得る。
下地ひび割れ追従性試験による伸びの測定は、試験体Aを測定温度−10℃の条件で、精密万能材料試験機((株)インテスコ製、210XLS)を用い、引張速度5mm/分の条件で行う。目視観察で試験体Aに亀裂などの欠陥が生じる時の伸びを測定し、その伸びを下地ひび割れ追従性とする。
【0057】
3)タック(べたつき感)の評価方法
23℃±2℃の温度条件で5mm厚スレート板(50×150mm)に、予めプライマー(各実施例及び比較例と同じ樹脂エマルジョンを用い、樹脂エマルジョンに水を添加し3倍に希釈した液)を0.2kg/mの量で塗布した。このスレート板のプライマー塗布面に、水硬性成分と各種樹脂エマルジョンとを混合・攪拌して調製したポリマーセメント組成物を1kg/mの量でコテにて塗布した。塗布後、23±2℃の温度条件で1日間養生したポリマーセメント組成物塗膜の表面の粘着性(タック)を指触にて評価した。
〇:タックなし、△:タックが少し感じられる、×:タックが強く感じられる
【0058】
4)耐水性の評価方法
23℃±2℃の温度条件で5mm厚スレート板(50×150mm)に、予めプライマー(各実施例及び比較例と同じ樹脂エマルジョンを用い、樹脂エマルジョンに水を添加し3倍に希釈した液)を0.2kg/mの量で塗布した。このスレート板のプライマー塗布面に、水硬性成分と各種樹脂エマルジョンとを混合・攪拌して調製したポリマーセメント組成物を1kg/mの量でコテにて塗布した。塗布後、23±2℃の温度条件で1日間養生したポリマーセメント組成物塗膜の表面に5gの水を滴下し、水が乾燥した後を目視にて状態を観察した。
【0059】
4)スラリー粘度の測定方法
温度20℃、湿度65%の環境下で、まず、2Lのポリ容器に表1に示すポリマーセメント組成物であるエマルション、アルミナセメント、ポルトランドセメント、石膏、珪砂及び増粘剤を、表1に示す配合割合(合計1250g)で加え、0.15KW攪拌機を使用し1300rpmの条件下で3分間混合して均質なスラリー得る。その直後にB型粘度計(東機産業社製)及びローターNo.4を用いて、スラリー約250gを200mLのカップにすばやく充填し、充填直後に、6rpmに設定しローター回転1分後の粘度を測定し、さらに12rpmに設定を変更してローター回転1分後の粘度を測定する。
TI値は、上記で得られる6rpmの粘度の値を、12rpmの粘度の値で除して算出して得られる値とする。
TI値=(6rpmの粘度の値)/(12rpmの粘度の値)
【0060】
[実施例1〜3および比較例1〜6]
原料は以下のものを使用した。
【0061】
(樹脂エマルジョン)
1)アクリル系A
・proof1299ap(Tg=−21℃、固形分55%、BASFポゾリス社製)
2)アクリル系B
・アクアシャッター原液(AC)(Tg=−43℃、固形分54%、宇部興産社製)
3)エチレン−酢酸ビニル系
・アクアシャッター原液(Tg=−3℃、固形分53%、宇部興産社製)
【0062】
(ポリマーセメント組成物の原料)
1)水硬性成分
・アルミナセメント(ターナルホワイト、ケルネオス社製)
・ポルトランドセメント(白色セメント、太平洋セメント社製)
・石膏(II型無水石膏、セントラル硝子社製、ブレーン比表面積3460cm/g)
2)細骨材
・珪砂:7号珪砂。
3)顔料
・白色顔料(タイペークCR−97、石原テクノ社製)
・黒色顔料(バイフェロックス318、ランクセス社製)
4)凝結遅延剤:
・重炭酸Na:重炭酸ナトリウム(東ソー社製)。
・酒石酸Na:L−酒石酸ニナトリウム(扶桑化学工業社製)。
【0063】
(ポリマーセメント組成物の調製)
水硬性成分、細骨材、顔料、凝結調整剤と各種樹脂エマルジョンとを表1に示す配合割合で3分間混合してポリマーセメント組成物を調製した。
【0064】
得られたポリマーセメント組成物について、スラリー特性、乾燥時間、−10℃のゼロスパン、タック(べたつき感)及び耐水性を評価した。結果を表1に示した。
【0065】
【表1】


【0066】
比較例1及び比較例2は、乾燥時間、タック(べたつき感)、耐水性については良好であったが、水硬性成分の量に対して樹脂エマルジョンの量が過少であるため、−10℃ゼロスパンが1.0mm未満となり、防水材の下地ひび割れ追従性としては不充分であった。また、比較例5の場合は、乾燥時間及びタック(べたつき感)については良好であったが、耐水性は不良であり、得られた塗膜の−10℃ゼロスパンは0.9mm以下と小さく、防水材の下地ひび割れ追従性としては不充分であった。
比較例3は、タック(べたつき感)があるため、塗膜上を歩くと塗膜が靴に粘着して塗膜が破損する危険性があり、さらに、ほこり等が付着して汚れやすくなり、美観を損ねることになる。
比較例4については、タック(べたつき感)が強く、また、耐水性が不良であった。
【0067】
実施例1〜3は、乾燥時間が早いため、2回塗りを行う場合において施工時間が短縮でき、顔料を用いて着色することにより、その塗膜が着色仕上げ層となり、塗料等を塗布する塗装工程を省くことができる。また、タック(べたつき感)がないため、乾燥後に塗膜上を歩くことが可能となり、ほこり等による汚れも生じず、長期に渡って美観を保つことが可能となる。さらに、耐水性が良好で、−10℃ゼロスパンを1.0mm以上確保できるため、防水材としての性能を充分に満足することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、樹脂エマルジョンとを含む着色防水用ポリマーセメント組成物であって、水硬性成分100質量部に対して、樹脂エマルジョンの固形分が215〜380質量部であり、
樹脂エマルジョンは、ガラス転移温度が−40〜−5℃であることを特徴とする着色防水用ポリマーセメント組成物。
【請求項2】
着色防水用ポリマーセメント組成物を塗布して乾燥させた着色防水用ポリマーセメント組成物塗膜はタックを有さず、
且つ、着色防水用ポリマーセメント組成物を1kg/m塗布して乾燥させた着色防水用ポリマーセメント組成物塗膜は、−10℃の温度条件において0.95mm〜5.0mmの下地ひび割れ追従性を有することを
特徴とする請求項1に記載の着色防水用ポリマーセメント組成物。
【請求項3】
樹脂エマルジョンは、アクリル共重合体エマルジョンを含むことを
特徴とする請求項1または2に記載の着色防水用ポリマーセメント組成物。
【請求項4】
アルミナセメントは、白色アルミナセメントであることを
特徴とする請求項1〜3に記載の着色防水用ポリマーセメント組成物。
【請求項5】
ポルトランドセメントは、白色ポルトランドセメントであることを
特徴とする請求項1〜4に記載の着色防水用ポリマーセメント組成物。
【請求項6】
着色防水用ポリマーセメント組成物は、珪砂、顔料及び凝結遅延剤を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の着色防水用ポリマーセメント組成物。
【請求項7】
着色防水用ポリマーセメント組成物は、さらに凝結促進剤を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の着色防水用ポリマーセメント組成物。
【請求項8】
構造物の表面に、請求項1〜7のいずれか1項に記載の着色防水用ポリマーセメント組成物を塗布して硬化させて得られる、着色防水用ポリマーセメント組成物塗膜を表層に有する構造体。

【公開番号】特開2009−234881(P2009−234881A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85733(P2008−85733)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】