説明

睡眠支援システム

【課題】乗員が目覚めた後の寝ぼけた状態を防止する睡眠支援システムを提供する。
【解決手段】運転者以外の乗員の心電図、脈拍、眼電位、脳波、呼吸又は体動のうち少なくとも1つの生体情報を生体情報取得部で取得し(S100〜S110)、取得した睡眠深さが所定の値より深くなったか否かを制御部で判定し、睡眠深さが所定の値より深いと判定された場合には、乗員に睡眠深さを浅くするための刺激を与えるために刺激部を作動させ、乗員に対して振動、光、音、温度、酸素濃度、空調の風量のうち少なくとも1つを与え、睡眠深さが所定の値より浅いと判定された場合には、刺激部を作動させない(S115〜S155)睡眠支援システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に乗車している運転者以外の乗員が睡眠から覚めたときの快適性を得るための睡眠支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の運転者以外の乗員の睡眠をコントロールする技術があった。この技術では、人の眼電位を検出し、検出した眼電位信号の低周波成分に基づいてNON−REM睡眠状態を判定するとともに、眼電位信号の高周波成分に基づいてREM睡眠状態を判定する。そして、NON−REM睡眠の判定結果に基づいて睡眠を促す刺激を発生させたり、REM睡眠状態の判定結果に基づいて覚醒を促す刺激を発生させたりして、乗員の睡眠をコントロールしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記特許文献1に記載の方式は、乗員を深く眠らせることを目的としているため、乗員が深く眠り過ぎる場合がある。そのような場合、目覚めた後の意識がはっきりしない、いわゆる「寝ぼけた状態」になってしまうというおそれがあった。
本発明は、こうした問題に鑑みなされたもので、乗員が目覚めた後の寝ぼけた状態を防止する睡眠支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
かかる問題を解決するためになされた請求項1に記載の睡眠支援システム(1:この欄においては、発明に対する理解を容易にするため、必要に応じて「発明を実施するための最良の形態」欄において用いた符号を付すが、この符号によって請求の範囲を限定することを意味するものではない。)は、生体情報取得手段(10)、睡眠深さ検出手段(20)、刺激手段(30)及び制御手段(20)を備えている。
【0005】
生体情報取得手段(10)は、乗員の生体情報を取得し、睡眠深さ検出手段(20)は、生体情報取得手段(10)で取得した乗員の睡眠深さを検出する。また、刺激手段(30)は、乗員に対し、睡眠を妨げるための刺激を与え、制御手段(20)は、睡眠深さ検出手段(20)で検出した乗員の睡眠深さが所定の値より深くなったか否かを判定し、睡眠深さが所定の値より深いと判定した場合には、乗員に睡眠深さを浅くするための刺激を与えるために刺激手段(30)を作動させ、睡眠深さが所定の値より浅いと判定した場合には、刺激手段(30)を作動させない。
【0006】
このような睡眠支援システム(1)では、乗員の睡眠深さが所定の値より深くなった場合、刺激手段(30)により乗員に刺激が加えられる。つまり、睡眠深さを示す所定の値を適切に設定することにより、乗員の睡眠深さが深くなりすぎないようにすることができる。したがって、本睡眠支援システム(1)によれば、乗員の睡眠が深くなりすぎることがなくなるので、乗員が目覚めた後に意識がはっきりしない、いわゆる「寝ぼけた状態」になるのを防止することができる。
【0007】
ここで「睡眠深さを浅くするための刺激」とは、例えば、振動、光、音、温度、車室内の酸素濃度の変化、空調の風量の変化などのように睡眠を妨げる刺激のことをいう。
ところで、生態情報取得手段で取得する生態情報としては、請求項2に記載のように、乗員の心電図、脈拍、眼電位、脳波、呼吸、顔表情、目の開閉状態又は体動のうち少なくとも1つを取得するようにするとよい。
【0008】
このようにすると、従来の技術や装置を用いて生体情報を取得することができるので、容易に睡眠支援システム(1)を構築することができる。
また、刺激手段(30)によって乗員に対して与える睡眠を妨げるための刺激としては、請求項2に記載のように、振動、光、音、温度、酸素濃度、空調の風量のうち少なくとも1つを与えるようにするとよい。
【0009】
例えば、「振動」は、座席や背もたれ部分を振動させたり、座席の前後の位置や背もたれの角度を変化させたりして与え、「光」は、室内に設置した光源により乗員に当たる光の照度を変化させたり、外光による照度をシェードの上げ下げや、サンルーフの開閉によって変化させたりして与える
また、「音」は、オーディオ機器をオン/オフしたり、音量を変化させたり、出力する曲を変えたり、あるいは、オーディオ機器以外に警告装置による警報音を出力したりすることによって与える。
【0010】
さらに、「温度」は、車室内の空調の温度を変化させることによって与え、「酸素濃度」は、酸素供給装置により車室内の空気の酸素濃度を変化させることによって与え、「空調の風量」は、空調の空気の吹き出し量を変化させることによって与える。
【0011】
このようにすると、種々の刺激を単独又はそれらを組み合わせることにより乗員に対して適切な刺激を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
[第1実施形態]
図1は、本発明が適用された睡眠支援システム1の概略の構成を示すブロック図である。睡眠支援システム1は、図1に示すように、生体情報取得部10、刺激部30及び制御部20を備えている。
【0013】
生体情報取得部10は、運転者以外の乗員の生体情報を取得するものであり、図1に示すように、生体情報として、乗員の心電図を取得する心電図取得装置11、乗員の脈拍を取得する脈拍取得装置12、乗員の眼電位を取得する眼電位取得装置13、乗員の脳波を取得する脳波計14、乗員の呼吸を取得する呼吸取得装置15、乗員の顔表情や目の開閉状態を取得する車室内カメラ16及び体動取得装置17を備えており、それらの装置により生体情報のうち少なくとも1つを取得する。
【0014】
生体情報取得部10のうち体動取得装置17は、乗員の体動を取得するものであり、乗員の腕に取り付けた加速度センサで腕の動きを検出したり、座席内部に配置した圧力センサにより、着座している乗員の体の動きを検出したりする。
【0015】
刺激部30は、乗員に対し、睡眠を妨げるための刺激を与えるものであり、図1に示すように、乗員に対して振動を与えるシート振動装置31及びシート移動装置32、乗員に対して光を照射する照明装置33及び外光を遮るためのサンシェード装置34、音響を制御するオーディオ装置35、車室内の温度や風量を制御する室内空調装置36や座席ごとの温度を制御するシート空調装置37、車室内の酸素濃度を制御する酸素供給装置38からなる。
【0016】
シート振動装置31は、座席の背もたれ部分に埋め込まれた図示しないモータや振動子から構成され、制御部20からの指令により、モータにより振動子を作動させて背もたれを振動させ、乗員の眠りを妨げる刺激を与える。
【0017】
シート移動装置32は、図示しないモータやボールスクリュなどから構成される座席位置を前後に移動させる機構及び図示しないモータやギアから構成され、座席の背もたれ部分の角度を変化させるリクライニング機構とを備えている。
【0018】
また、シート移動装置32は、制御部20からの制御信号を受け、シート位置を前後に移動させたり、リクライニング角度を変化させたりして乗員の眠りを妨げる刺激を与える。
【0019】
照明装置33は、車室内を照射するように取り付けられた図示しない光源や調光器を備え、制御部20からの制御信号を受け、光源をオン/オフさせたり、照度を変化させたりして乗員の眠りを妨げる光刺激を与える。
【0020】
サンシェード装置34は、車室内に入射する外光を変化させて、室内の照度を調整する装置であり、サイドウィンドウの内側に設置したウィンドシールドを上下させたり、サンルーフの開度を変化させたり、ウィンドウの色の濃さを制御することによって外光の照度を変化させ、乗員の眠りを妨げる光刺激を与える。
【0021】
オーディオ装置35は、ラジオ放送や音楽を車室内に流す装置であり、制御部20からの制御信号を受け、音量を変化させたり、音楽の曲目を変えたり、選択されている放送局を変えたりして、乗員の眠りを妨げる音響刺激を与える。
【0022】
室内空調装置36は、設定された温度や湿度の空気を車室内に吹き出して、車室内の温度や湿度を制御する装置であり、制御部20からの制御信号を受け車室内の温度、湿度及び吹き出し空気量を変化させることにより、乗員の眠りを妨げる温度刺激を与える。
【0023】
シート空調装置37は、設定された温度や湿度の空気をシートの座面や背面から乗員に向けて吹き出し、乗員個々の好みにあった快適性を得るための装置であり、制御部20からの制御信号を受け、吹き出す空気の温度、湿度及び吹き出し量を変化させることにより、乗員の眠りを妨げる温度刺激を与える。
【0024】
酸素供給装置38は、車室内に供給する酸素の量を変化させることにより、車室内の酸素濃度を変化させる装置であり、制御部20からの制御信号を受け、車室内への酸素供給量を変化させることにより、乗員の眠りを妨げる刺激を与える。
【0025】
制御部20は、図示しないCPU、ROM、RAM及びI/Oなどを備え、生体情報取得部10で取得した乗員の睡眠深さを検出する。そして、後述する刺激処理により、検出した乗員の睡眠深さが所定の値より深くなったか否かを判定し、睡眠深さが所定の値より深いと判定した場合には、乗員に睡眠深さを浅くするための刺激を与えるために刺激部30を作動させ、睡眠深さが所定の値より浅いと判定した場合には、刺激部30を作動させない。
【0026】
(刺激処理)
次に図2に基づき、制御部20における刺激処理について説明する。図2は刺激処理の内容を示すフローチャートである。
【0027】
刺激処理は、制御部20の電源オンで処理が開始され、電源オフで処理が終了される。刺激処理では、まず、図2に示すように、S100において生体情報取得部10が選択される。つまり、生体情報取得部10の装置11〜17が予め定められた優先順位に従って順次選択される。本実施形態では、優先順位が最も高い心電図取得装置11から優先順位が最も低い体動取得装置17までが符号の番号順に順次選択される。
【0028】
続くS105では、S100において選択された生体情報取得部10の装置から生体情報が取得される。例えば、S100において心電図取得装置11が選択されていれば、生体情報として乗員の心電図が取得される。
【0029】
続くS110では、睡眠深さが検出される。睡眠深さの検出は、S105において取得された生体情報に応じた周知の方法で行われる。例えば、生体情報として心電図が取得されていれば、特開2002−291710号公報に示された方法により睡眠深さが検出される。
【0030】
続くS115では、S110において検出された睡眠深さが所定の閾値以上であるか否かが判定される。そして、睡眠深さが閾値以上の場合(S115:Yes)、処理がS120へ移行され、睡眠深さが閾値より小さい場合(S115:No)、処理がS100へ戻され、生体情報取得部10のうち異なる装置が選択されて本処理が続行される。
【0031】
S120では、刺激部30の装置32〜38のうちいずれかが予め定められた優先順位及び条件に従って選択される。
具体的には、振動刺激を与えるシート振動装置31又はシート移動装置32の優先順位が最も高く、その次が光刺激を与える照明装置33又はサンシェード装置34であり、次がオーディオ装置35であり、温度刺激を与える室内空調装置36又はシート空調装置37であり、酸素濃度刺激を与える酸素供給装置38の優先順位が最も低く設定されている。
【0032】
また、シート振動装置31とシート移動装置32とではシート振動装置31の方が優先順位が高く設定され、照明装置33とサンシェード装置34とは、夜間の場合には照明装置33が選択され、昼間の場合にはサンシェード装置34が選択される。さらに、室内空調装置36とシート空調装置37とでは室内空調装置36の方が優先順位が高く設定されている。
【0033】
続くS125では、S120において選択された刺激部30の装置が起動しているか否かが判定される。そして、装置が起動されていない場合(S125:No)、処理がS130へ移行され、装置が起動されている場合(S125:Yes)、処理がS135へ移行される。
【0034】
S130では、S120において選択された装置が起動され、S135では、S120において選択された装置の刺激強度が高められる。
続くS140では、S105と同様に、S100において選択された生体情報取得部10の装置から生体情報が取得され、続くS145において、S110と同様に、周知の方法で睡眠深さが検出される。
【0035】
続くS150では、S145において検出された睡眠深さが所定の閾値(S115における閾値と同じ閾値)より小さいか否かが判定される。そして、睡眠深さが閾値より小さいと判定された場合(S150:Yes)、処理がS155へ移行され、睡眠深さが閾値以上であると判定された場合(S150:No)、処理がS140へ戻される。
【0036】
S155では、S120において選択された刺激部30の装置が停止された後、処理がS100へ戻され、本刺激処理が繰り返される。
(睡眠支援システム1の特徴)
以上のような睡眠支援システム1では、乗員の睡眠深さが所定の値より深くなった場合、刺激部30により乗員に刺激が加えられる。つまり、睡眠深さを示す所定の閾値を適切に設定することにより、乗員の睡眠深さが深くなりすぎないようにすることができる。したがって、乗員の睡眠が深くなりすぎることがなくなるので、乗員が目覚めた後に意識がはっきりしない、いわゆる「寝ぼけた状態」になるのを防止することができる。
【0037】
また、睡眠支援システム1では、生体情報として、心電図、脈拍、眼電位、脳波、呼吸、体動を取得しているが、いずれも従来の技術や装置を用いて取得することができるので、容易にシステムを構築することができる。
【0038】
さらに、刺激部30によって乗員に対して与える睡眠を妨げるための刺激として、振動、光、音、温度、酸素濃度、空調の風量のうち少なくとも1つを与えている。このようにすると、種々の刺激を単独又はそれらを組み合わせることにより乗員に対して適切な刺激を与えることができる。また、いずれも従来の技術や装置を用いて与えることができるので、容易にシステムを構築することができる。
[第2実施形態]
次に第2実施形態について図3に基づいて説明する。図3は、第2実施形態における刺激処理の内容を示すフローチャートである。
【0039】
第2実施形態の睡眠支援システム1における刺激処理は、第1実施形態の睡眠支援システム1における刺激処理の処理内容の一部を変更したものであるため、同一の処理には同一のステップ番号を付してその説明を省略する。
【0040】
第2実施形態の刺激処理では、第1実施形態の刺激処理と同様にS100〜S125が実行され、その後S130又はS135が実行される。そして、S130又はS135が実効された後、所定時間が経過したか否かが判定される。
【0041】
そして、所定時間が経過していないと判定された場合(S200:No)、所定時間が経過するまでS200が繰り返されて、待機状態となる。一方、所定時間が経過したと判定された場合(S200:Yes)、処理がS155へ移行され、S120において選択された刺激部30の装置が停止された後、処理がS100へ戻され、本刺激処理が繰り返される。
【0042】
このように、第1実施形態では、刺激部30の装置が起動された後、再度生体情報を取得し、睡眠深さが閾値より小さいか否かが判定されて刺激部30の装置が停止されるか否かが決定されたが、第2実施形態における刺激処理では刺激部30の装置が起動された後、所定時間が経過したら刺激部30の装置が停止される。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
【0043】
例えば、上記実施形態では、生体情報取得部10として優先順位が最も高い心電図取得装置11から優先順位が最も低い体動取得装置17までを符号の番号順に順次選択したが、選択される装置の優先順位は別のものであってもよい。同様に刺激部30において選択される装置の優先順位も上記実施形態と異なっていてもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、人の腕や体の動きを体動取得装置17を用いて取得していたが、車室内カメラ16により取得した画像を画像処理することにより乗員の腕や体の動き(体動)を取得するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】睡眠支援システム1の概略の構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態における刺激処理の内容を示すフローチャートである。
【図3】第2実施形態における刺激処理の内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0046】
1…睡眠支援システム、10…生体情報取得部、11…心電図取得装置、12…脈拍取得装置、13…眼電位取得装置、14…脳波計、15…呼吸取得装置、16…車室内カメラ、17…体動取得装置、20…制御部、30…刺激部、31…シート振動装置、32…シート移動装置、33…照明装置、34…サンシェード装置、35…オーディオ装置、36…室内空調装置、37…シート空調装置、38…酸素供給装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者以外の乗員の生体情報を取得する生体情報取得手段と、
前記生体情報取得手段で取得した前記乗員の睡眠深さを検出する睡眠深さ検出手段と、
前記乗員に対し、睡眠を妨げるための刺激を与える刺激手段と、
前記睡眠深さ検出手段で検出した前記乗員の睡眠深さが所定の値より深くなったか否かを判定し、睡眠深さが前記所定の値より深いと判定した場合には、前記乗員に睡眠深さを浅くするための刺激を与えるために前記刺激手段を作動させ、睡眠深さが前記所定の値より浅いと判定した場合には、前記刺激手段を作動させない制御手段と、
を備えたことを特徴とする睡眠支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の睡眠支援システムにおいて、
前記生体情報取得手段は、
生体情報として、前記乗員の心電図、脈拍、眼電位、脳波、呼吸、顔表情、目の開閉状態又は体動のうち少なくとも1つを取得することを特徴とする睡眠支援システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の睡眠支援システムにおいて、
前記刺激手段は、
前記乗員に対して振動、光、音、温度、酸素濃度、空調の風量のうち少なくとも1つを与えることを特徴とする睡眠支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−35860(P2010−35860A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203101(P2008−203101)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)